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57 (2010年10月) - 名古屋大学太陽地球環境研究所

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57 (2010年10月) - 名古屋大学太陽地球環境研究所
October 2010
57
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中山 智喜 ( 大気圏環境部門 )
はじめに
られて生じる土壌粒子、燃焼中に生成するスス
粒子などが含まれます。そして後者には、海洋
から放出された硫化ジメチルや化石燃料燃焼や
火山から放出された二酸化硫黄が大気中で酸化
されて生成する硫酸エアロゾルや硫酸塩エアロ
ゾルなどが含まれます。また、有機エアロゾル
には、粒子として大気に放出される一次有機エ
アロゾルと、大気中に放出された気体の有機化
合物が酸化されて低蒸気圧の物質に変化し粒子
化する二次有機エアロゾルがあります。
エアロゾルの放射収支に対する影響は、個々
の粒子の光学特性 ( 放射特性 ) によって大きく異
なります。例えば、硫酸塩エアロゾルは可視・
紫外領域で光をほとんど吸収せず、太陽光を散
乱することにより大気を
冷却します。一方、黒色
のスス粒子は光を効率よ
く吸収し大気を加熱しま
す。
近年、二酸化炭素など
の温室効果気体の増加に
よる地球の温暖化が問題
となっていますが、エア
ロゾルによる地球大気の
冷却や加熱も温室効果気
体に比べて無視できない
重要な要素の一つと考え
られています。そこで、
エアロゾルの放射影響を
評価するために、大気エ
地球大気には、様々な種類の固体や液体の微
粒子 ( エアロゾル ) が存在しています。これらは
視程の悪化や健康影響をもたらす大気汚染を引
き起こしたり、太陽光を散乱もしくは吸収する
ことにより放射収支を変化させ気候変動に影響
を与えたりするなど、大気環境に重大な影響を
及ぼします。
大気エアロゾルには、発生源から粒子が直接
放出される一次粒子と、気体として放出された
ものが大気中で反応し蒸気圧の低い物質に変化
することで粒子化する二次粒子があります ( 図
1)。前者には、海水面上で泡が破裂することなど
により生成する海塩粒子や風で土壌が舞い上げ
図 1:エアロゾルの気候変動への影響の概念図
1
(99.97%以上 ) を持つミラーで構成した光学キャ
ビティ内にレーザー光を導入します。キャビティ
内に入ったレーザー光は一往復毎にわずかずつ漏
れ出しながら、キャビティ内を数千から数万回往
復します。このとき、漏れ出した光は時間と共に
指数関数的に減衰しますが、キャビティ内にエア
ロゾルが存在すると、エアロゾルによる吸収や散
乱により漏れ出した光の減衰の時定数が短くなり
ます。そのため、エアロゾルの有無で減衰の時定
数を計測することで消散係数を得ることができま
す。レーザー光がキャビティ間を数千から数万回
往復するため、数-数十 km に及ぶ実効光路長を
得ることができ、高感度な計測が可能となります。
また、測定セルを 2 本用意することで、2 つの
波長で消散係数を同時に測定して波長依存性を導
出したり、低湿度と高湿度の条件下で消散係数を
同時に測定して湿度依存性を導出したりすること
も行っています。
アロゾルの光学特性 ( 消散・散乱・吸収 ) の
詳 細 な 理 解 が 重 要 と な り ま す が、 大 気 中 に
は多種多様なエアロゾルが様々な混合状態
で 存 在 し て お り、 そ の 理 解 は 不 十 分 な の が
現状です。
大気圏環境部門では、エアロゾル光学特性
の計測装置を開発し、実大気計測や室内実験
に応用しています。
新しいエアロゾル光学特性計測装置の開発
従来、エアロゾルの光学特性の計測には、ラ
ンプ光をエアロゾルに照射し散乱光を検出する
ことで散乱係数を得るネフェロメータや、エア
ロゾルの堆積に伴うフィルターの光透過率の変
化から吸収係数を得る粒子吸収率測定器 (PSAP)
などの装置が用いられています。しかし、ネフ
ェロメータは検出できない散乱角度が存在する
こと、PSAP はフィルター上でのエアロゾルの
変質や多重散乱の影響を受けることなどの問題
点が指摘されています。
近年、エアロゾルの消散 ( 散乱と吸収の和 ) を
高感度に測定できる手法として、キャビティリ
ングダウン分光 (CRDS) 法が注目されています。
CRDS 法はエアロゾルの消散係数を高感度に直接
計測することができ、キャリブレーションや複
雑な補正が必要でないことから、誤差要因が少
ないのが特長です。我々は CRDS 法を用いたエ
アロゾル消散係数の計測装置を開発しています。
開発した装置の概略図と概観を図 2 と写真に示
しました。CRDS では、2 枚の非常に高い反射率
実大気中のエアロゾル光学特性やその湿度依存
性の計測
エアロゾルの光学特性は、粒子の大きさや形
状、化学組成、混合状態に依存します。エアロ
ゾルの大気環境への寄与を評価するためには、
室内実験により特定のエアロゾルの光学特性を
決定することに加えて、実大気観測により様々
なエアロゾルが全体として大気放射へ与える影
響について調べることが重要となります。
我々は、開発した装置と市販の装置を組み合
わせた観測により、エアロゾルの光学特性と化
写真: 開発したエアロゾル消散係数計測装置の概観。
図 2:開発した CRDS 法を用いたエアロゾル消散係数計測
装置の概略図。
2
学成分の関係について調べています。例えば、
夏季の東京都心における観測において、硫酸塩
成分の割合が大きい時に光吸収の割合が小さく
なり、有機成分や元素状炭素の割合が大きい時
に光吸収の割合が大きくなる傾向があることな
どが分かってきています。
エアロゾル粒子が水蒸気を取り込み吸湿成長
すると、粒径や化学組成が変化するため、エア
ロゾルの光学特性は相対湿度に大きく依存しま
す。そのため、エアロゾルの大気放射への影響
を見積もるためには、光学特性の相対湿度依存
性の情報も不可欠です。そこで、我々は消散係
数の湿度依存性の研究も進めています。消散係
数の湿度依存性と、エアロゾルの粒径や化学成
分の変化を同時に観測し、消散係数の湿度依存
性を決定付けている要因について詳しく調べて
います。
激に光吸収が大きくなることから、紫外領域に
おける放射収支や、紫外光により駆動される光
化学反応への寄与が指摘されています。
有機エアロゾルの放射収支への影響を評価す
るために、どのような有機エアロゾルがどの程
度の光吸収性を持つかを知る必要があります。
大気中に直接放出される一次有機エアロゾルの
光吸収特性についてはいくつかの研究成果が報
告され始めていますが、気相の有機物が大気中
で酸化され粒子化する二次有機エアロゾルにつ
いては、エアロゾル生成および光吸収測定の実
験的な困難さからほとんど研究例がないのが現
状です。
我々は、国立環境研究所の光化学スモッグチ
ャンバー内で、大気中の化学反応を再現して二
次有機エアロゾルを生成し、その光学特性につ
いて調べています。(a) 代表的な森林起源の二
次有機エアロゾル ( 植物から放出される有機物
であるアルファピネンとオゾンの反応により生
成 ) および、(b) 代表的な都市起源の二次有機
エアロゾル ( 溶剤などから放出されるトルエン
が窒素酸化物の存在下で光酸化され生成 ) につ
いて、得られた消散および散乱効率 ( 消散およ
び散乱係数を全粒子の総断面積で割ることによ
り導出 ) を図 3 に示しました。
その結果、アルファピネンから生成したエア
ロゾルは、消散と散乱が一致したことから光吸
収を持たないことが判明し、一方、トルエンか
ら生成したエアロゾルは、特に紫外領域の 355
nm で消散が散乱より有意に大きく、光吸収を
有することが判明しました。今後、エアロゾル
の生成条件を変化させるなど、より詳細な研究
を進める予定です。
室内実験による二次有機エアロゾルの光学特性
の決定
主要な大気エアロゾルの一つである有機エア
ロゾルは、光吸収性をほとんど持たないと考え
られていましたが、近年、森林火災などから放
出された有機エアロゾルの一部が光吸収性を有
することが報告されています。これらの光吸収
性を持つ有機エアロゾルは、特に短波長側で急
最後に
大気エアロゾルは、その組成や形状・混合状
態が非常に複雑であるため、その光学特性には
未解明な部分が多く残されています。近年、本
稿で紹介した CRDS 法による消散係数計測や、
光吸収により生じた熱を音波として検出する光
音響分光法による吸収係数計測など、計測技術
の進展により、エアロゾル光学特性をより正確
に計測できるようになってきています。今後、
これらの新しい計測技術を用いた室内実験や観
測研究を進め、大気エアロゾルが気候変動に与
える影響評価の高精度化に貢献することを目指
しています。
図 3: (A) アルファピネンとオゾンとの反応、(B) 窒素酸化物
存在下でのトルエンの光酸化反応、により生成した二次有機エ
アロゾルの波長 532 および 355 nm における消散および散乱効
率の粒径依存性。実線および破線は実測値を最も良く再現する
屈折率を用いたときの Mie 散乱理論の計算結果。
3
STE 研へ期待するもの
小野 高幸 ( 運営協議員 )
東北大学大学院理学研究科
u.ac.jp/~scostep/ のほか、
STE 研の外部評価委員会報
STE 研究所は「太陽地球環境の構造とダイナミ
ックな変動過程の研究」を目的とした全国共同利
用研究所として、地球電磁気・地球惑星圏学会の
要望を受け、1990 年 6 月に設立された。太陽地球
環境の研究は、ICSU の委員会 (URSI, IUGG, I AGA,
IAMAS, COSPAR, IAU, SCAR, IUPAP, SCAR 等 ) と
並び、太陽地球系物理学 (STP) のプログラムを組
織し実施することを目的とする太陽地球系物理
学・科学委員会 (SCOSTEP) の進める科学研究プ
ロジェクトとして推進されている。現在進められ
ているプロジェクトである CAWSES (Climate And
Weather of the Sun-Earth System)-II は、1976 年 か ら
1979 年にかけて実施された IMS ( 国際磁気圏研究
計画 ) に始まり、1982 年から 1985 年の MAP ( 中
層大気国際協同観測 ) を経て、1990 年から 1997
年に至る STEP ( 太陽地球系エネルギー国際協同研
究 ) の成果を発展させる研究プロジェクトとして、
2004 年から 2008 年まで実施された CAWSES と名
付けられたプロジェクトを引き継ぐものである。
2009 年よりサイクル 24 の太陽活動極大を迎える
2013 年までの間、進められることになっており、
CAWSES-II Towards Solar Maximum と呼ばれている。
このような背景のもと、STE 研はプロジェクト推
進の世話機関としての役割を担ってきた。この経
緯については日本学術会議 SCOSTEP/STPP 専門委
員会によるホームページ http://www.stelab.nagoya-
告書 h t t p : / / w w w. s t e l a b . n a g o y a - u . a c . j p / s t e www1/doc/hyouka_j.html に記されているとおりである。
STP 研究の流れを振り返ると、IMS の牽引役を
果たした観測プロジェクトには、きょっこう衛星
とじきけん衛星による衛星観測並びに南極ロケッ
ト観測があった。MAP では、MU レーダが登場
したほか、おおぞら衛星並びに南極ロケット観測
等を思い起こすことができる。STEP の推進役と
しては、あけぼの衛星と GEOTAIL 衛星の果たし
た役割は大きい。STEP の推進のため、国内には
多くの地上観測設備が配備されて、我が国の STP
研究の水準は世界が認めるところとなったといえ
よう。STE 研が誇るべき、世界でもユニークな観
測装置である IPS 観測装置や 210 度地磁気観測ネ
ットワークも、STEP を契機に飛躍的な進化を遂
げ、今や次世代の太陽圏研究を担おうとしている。
さて今、CAWSES の時代にあって、何を基盤と
して STP 研究を進めるべきであろうか。そして
STE 研はどのような役割を担うべきであろうか。
太陽地球系物理学研究には理論・シミュレーシ
ョン研究と連携した、地上・ネットワーク観測に
よる遠隔観測と、飛翔体を用いたその場観測が同
時に進められることが不可欠であるが、これらの
研究をリーダーシップを持って連携・推進する役
割を担うグループの中心に STE 研が位置するこ
とが求められていることは明白である。しかし、
飛翔体を用いたその場観測について、これまで
STE 研では、飛翔体観測の主体となる立場はあえ
て避けてきたようだ。これは南極観測の主体を担
っている極地研究所や、宇宙観測を担っている宇
宙科学研究所とは異なり、大学の中の附置研究所
として歩んできた歴史によるものと考えられる。
STP 研究が、太陽圏の成り立ちや変動現象へとそ
の研究分野を拡大しようとしている現在、STE 研
が、たとえ大きなロケットや、打ち上げ施設や、
テレメトリ通信施設を持たずとも、その場観測に
おいて我が国のみならず、世界のリーダーとして
の役割を果たす道は確固として存在していると思
われる。まずは身近な計画から着実に実績を積み、
実力を付けて進まれることを期待したい。
図:STE 研究所の貢献が強く期待されている飛翔体ミッ
ション ERG 衛星を軸とする ERG プロジェクトの構成図。
4
Ionospheric studies at STEL
Ivan Kutiev, Visiting Professor
(from Geophysical Institute of the Bulgarian Academy of Sciences, Bulgaria)
I had an honor to be invited for the second time as
a visiting professor at STEL. My previous stay at
Toyokawa in winter of 2005-2006 was exciting and
fruitful, and hope the present 4-months visit in Nagoya
was also successful. As a research plan, my work is
a continuation of studies on low-latitude ionosphere,
which together with my host in STEL Dr. Yuichi Otsuka,
Dr. Akinori Saito from Kyoto University, and prof.
Shigeto Watanabe from Hokkaido University initiated
almost a decade ago. During this period we have
published several articles in the Journal of Geophysical
Research, Advances in Space Research, and the Earth
Planets and Space, presenting results at international
forums and accounting numerous citations. Research
is based on GPS-derived TEC (total electron content)
collected from the national GPS receiver network
GEONET (GPS Earth Observation Network). The
dense network of receivers allows conducting precise
analyses of latitudinal and temporal variation of TEC
over Japan area. Specific algorithms for data processing
and statistical analysis have been developed, as well as
visualization techniques for revealing various properties
of the low-latitude ionospheric plasma. One of the most
intriguing features of TEC behavior is the localized
enhancement of plasma density during geomagnetic
storms, reaching 100% increase over the quiet level.
We have analyzed this phenomenon and identified it as
an enhanced density of northern crest of the equatorial
anomaly caused by intensification of the upward E x B
plasma drift. Such TEC enhancements are frequently
observed at recovery phase of the storms, when
geomagnetic activity is low. Some TEC enhancements
were seen to appear outside storm periods, when indices
(Dst, Kp and AE) show very low geomagnetic activity.
The peculiar appearance of TEC enhancements at
quiet geomagnetic condition is the key subject of my
present study. It is well-known that large E x B drifts at
equator appear near the evening terminator, where the
daytime E region dynamo is replaced by the nighttime
F region dynamo. The net effect is the strong upward
ion drift at equator, which feeds the anomaly density
crests by the down-flowing plasma along magnetic field
lines. Very often TEC enhancements, not connected
with geomagnetic forcing, appear during the day.
The modeling has revealed that the major role for
this daytime enhancement is played by semidiurnal
atmospheric tides, which amplify the eastward electric
field at low latitudes. A number of recent publications
revealed the important role of atmospheric tides,
planetary waves and even stratospheric warming in
forming the ionospheric plasma behavior. To keep pace
with recent achievements, we analyzed the spectral
characteristics of TEC variations separately in two
latitude bands: 25º-31º and 31º-45º. To assure long time
series, we enlarged the database, adding 5 recent years
of TEC data; now the database comprises years 20002009. Taking advantage of the previously developed
data processing software, we approximated data at
each hour with a single regression line along latitude
and calculated the total TEC within each latitude band.
Then we calculated amplitude and phases of the twoday oscillations and its 5 harmonics, as well as the
wavelet spectra of oscillations in the range 2-30 days.
The same spectra have been obtained for geomagnetic
indices Dst and Kp, in order to separate the effects of the
SOBA-making experience at Shirakawa-go.
5
forcing from lower lying atmosphere from that caused
by geomagnetic activity. Analysis reveals a complex
picture of oscillations disturbed and modified by
geomagnetic storm effects. The next step is to compare
these oscillations with information on the global scale
planetary waves deduced from SABER (Sounding of the
Atmosphere using Broadband Emission Radiometry) on
the TIMED satellite and stratosphere warming events.
It is clear that the analysis will continue beyond the visit
period, before the results are prepared for publication.
My wife Maria accompanies me during the stay, sharing
my office and work, helping with data processing and
visualization. Our social life was strongly limited by the
hot weather. Nagoya is a beautiful city, with large streets
and fancy buildings and we are sorry that we did not have
chance for sightseeing. We are thankful and greatly obliged
to my colleagues in Division 2-1 of STEL for their everyday
support and hospitality. We especially like to express our
thanks for the exciting trip to Shirakawa-go village, where
we touched the authentic Japanese culture and habits.
さいえんすトラヴェラー
南アフリカ SuperDARN 2010 会議に出席して
西谷 望 ( ジオスペース研究センター )
であるが治安が最も問題視されているヨハネ
スブルクは通らず、直接最寄りのケープタウ
ン空港へ着く経路を選択しました。空港でも
どこへも寄らず、現地スタッフが用意してく
れたバスに乗り込んでそのままハーマナス市
まで直行です。
会議のハーマナス市はホエールウォッチン
グを中心とした観光に力を入れている海辺の
町で、治安も南アフリカでは良い方だとのこ
とです。実際、会議中に夜間を含めて町を歩
きましたが、少なくとも街灯のある明るいと
ころでは危険を感じることはほとんどありま
せんでした ( なおこれはハーマナスに限った話
であり、他の町については何ともいえないと
いうことを書き添えておきます )。
前 回 (1997 年 ) の 南 ア フ リ カ 滞 在 時 に も
SuperDARN 会議に出席しましたが、当時はま
だこの分野に足を踏み入れて間もない一研究
者として参加したのに対し、今回は executive
council のメンバー (SuperDARN 北海道-陸別 HF
レーダーの PI) として参加しているので、それ
だけ責任が重くなっており、前回と比べて隔
世の感があります。
会議自身は例年と同様、最初に各レーダー
の現状報告、それから技術的な発表及び議論
があり、それに続いて研究発表が行われまし
た。新しいレーダーの紹介 ( 今回は 3 グループ )
もあり、北海道 - 陸別 HF レーダーとほぼ同じ
緯度における新レーダーの報告もあり、事前
に我々のレーダー運用で培ったノウハウを提
供したこともあり、興味深く聞いていました。
成田空港からドバイ経由、約 28 時間の長
旅を経てケープタウン空港に降り立つと、そ
こでは SuperDARN 2010 のプラカードを持っ
たスタッフの人たちが暖かく出迎えてくれま
した。SuperDARN という大型短波レーダー
ネットワークに関連した研究者が年一度集う
SuperDARN 会議が、今年は 5 月 31 日から 6 月
4 日にかけて南アフリカのハーマナス市で開催
され、出席しました。個人的には今回で 3 度
目になる南アフリカ訪問ですが、近年治安の
悪化が話題になっており、とくに今年は会議
直後に FIFA World Cup ( サッカー世界選手権大
会 ) が行われるだけあって日本国内でも盛んに
報道されていたので、少なからず不安を感じ
ていました。
事前にいやというほど治安に関する情報を
入手していたので、通常南アフリカの玄関口
会議場前で現地スタッフと撮ったスナップ(筆者は右端)。
6
私自身は北海道 - 陸別 HF レーダーに関する
3 件の研究発表を行いましたが、中緯度にお
けるレーダーの運用に対する注目が増えてい
るのを感じました。また我々のレーダーのデ
ータを使用した他のグループの研究発表もあ
り、そのデータの重要性を改めて認識すると
同時に、データが公開になっている以上競争
に打ち勝って成果を上げて行く必要性も思い
知らされました。また会議自身ではデータの
解釈に関して今までより一層詳しい議論がな
され、新しい現象の発見から物理パラメータ
の量的な議論に視点が移ってきていると感じ
ました。
会議中に行われた PI meeting では様々な議
論が行われましたが、その中で将来のデータ
プロダクト公開体制をどうしていくかの議論
がありました。また会議において我々日本の
研究グループのデータベース公開活動に関す
る紹介も行いました。データの正確さを保ち
つつ、広い分野の研究者にわかりやすい形で
プロダクトを公開するのは困難が伴いますが、
他のグループと情報や意見を交換するのは意
義があります。
会議の 3 日目午後には唯一の息抜きであ
る Excursion としてホエールウォッチングツ
アーに連れて行かれました。観光船で近海
を周遊していると鯨が結構頻繁に見られま
したが、遠くではほとんど点としてしか写
らず、また近くに来ても鯨が水面に顔を出
すのもほとんど一瞬でタイミングよくシャ
ッターを切るのは至難の業でした。とはい
うものの、他の参加者と一緒に鯨の出没に
一喜一憂することで親睦を深めるのも悪く
ないです。
会議中は南アフリカから 様々な人種の
学生の発表がありました。これは前回 (1997
年 ) では考えられなかったことです。1990
年代にアパルトヘイトが廃止されてから、
少なくとも学術分野ではようやく人種差別
解消が浸透しつつあるのを肌で感じること
ができました。次回来るときにはどうなっ
ているか楽しみだなと思いつつ、会議が終
わるとそそくさとバスに乗り、ケープタウ
ン空港から南アフリカを後にしました。
現在、私はジュネーブ ( スイス ) にある欧州
原子核研究機構 (CERN) の LHC という世界最
大の加速器を用いて実験を行っている。CERN
は STE 研とはなじみの薄い研究所であるが、
理論、実験共に素粒子物理界をリードする研
究所である。その CERN へ、昨年初めて出張
した。
まず空港で通貨を両替したのだか、ここで
失態をおかした。数万円を全てユーロに換
金してしまったのだ。スイスの通
貨はユーロではなくスイスフラ
ンである。二重の手数料を払
ってフランへ換金した。やれ
やれと思いジュネーブ空港か
らバスに乗ると当然アナウンスは
全てフランス語。若干行き先が不安にな
り隣の若者に訊ねてみる。スイス人はバイリ
ンガルと思い込んでいたが、英語を話せる人
はほんの一握りだった。さらに “セルン” とい
う日本人の発音はまず通じない。掌にペンで
“CERN” と書いたら「ウィウィ」と肩を叩か
れた。基本的にラテンの血を引く彼らは陽気
かつ親切である。
この研究所はさすが裕福な地に建立された
だけあり、住居と食事にはやたらと力が入っ
ている。所内のホステルは下手な市内ホテル
に負けない設備を有し、部屋は当然オートロ
ック。部屋に鍵を置き忘れた場合は何故か所
内の消防署へ連絡する。やはり陽気な兄貴が
深夜だろうが消防車で駆けつけてくれるので
ある。レストランは 3 つあるが、ホステルと
隣接するレストラン 1 はなんと 1 年中午前 7
時から午後 11 時まで営業している。7 時 15 分
にクロワッサンとカフェオレという朝食を
とり、8 時から仕事開始というのが
日々のスタイルである。一方で
夕食の味に関しては何も言う
まい。研究所の食事にうまい
マズいの議論は野暮というもの
である。
CERN はジュネーブ近郊に位置するが、
市街地から少し離れるとすぐに田園風景とな
り、小高い山の麓に畑やのどかな牧草地が望
め、豊な自然の中にある。
「赤や黄色の ...」と
いう日本とは違い、黄色一色というジュネ
ーブの「黄葉」もまた美しい。10 月からの
CERN 出張でも、色づき始めた楓を眺めながら
生牡蠣とワインで舌鼓を打ちたいものである。
三塚 岳
( 太陽圏環境部門:GCOE 研究員 )
7
新入スタッフあいさつ
宙ガンマ線 (108 - 1012 電子ボルト ) 観測のための
フェルミ衛星の開発 ・ 打ち上げ ・ 運用に従事し、 現
在に至っています。 私の出身研究室の創始者であ
る丹生先生が宇宙線分野出身であることを考えると、
ある意味原点に戻ったともいえます。 現在はフェル
ミ衛星のデータ解析を通して、 宇宙線加速 ・ 伝播 ・
相互作用の研究に取り組んでいます。 また 19 年の
研究者生活の内 14 年間をアメリカで過ごしたことで、
説得力のある議論を通して競争できる能力を養うこ
とができました。 我々の分野では、 100 人以上の研
究者が参加する国際的な共同実験が多くありますの
で、 そういった環境の中でも活躍できる若手を育て
ていきたいと思います。 半導体検出器や集積回路の
開発経験を生かして、 宇宙線にまつわる謎の解明に
貢献していきたいと考えています。
田島 宏康
太陽圏環境部門
教授
2010 年 9 月 1 日に太陽圏環境部門に着任しまし
た。 1991 年に理学研究科を修了して以来 19 年ぶ
りに名古屋大学に戻ってきたことになります。 名古
屋を出たあと 10 年間はコーネル大学と KEK ( 高エ
ネルギー加速器研究機構 ) における小林 ・ 益川理
論の検証を主目的とした B ファクトリー実験に携わ
り、 2001 年に決定的な結果を得ることに貢献しまし
た。 その後は、 未解明の課題が多い宇宙線物理
に研究分野を移し、 スタンフォード大学において宇
が、 地球規模の大気の循環に大きく寄与していま
す。 現在は極域での大気重力波やリップルと呼ば
れるさらに小さな波構造 ( 大気の不安定の現れ )
の振る舞いに興味があり、 これらがオーロラ活動
によって下部熱圏でどのように応答するのかを調
べています。 この研究を進めるため、 着任早々
ですが、 2010 年 8 月 20 日からドイツのライプニ
ッ ツ 大 気 物 理 研 究 所 (IAP: Leibniz Institut für
Atmosphärenphysik) に 1 年間の予定で研究滞在
しています。 東山での生活も慣れないうちにドイツ
に来てしまいましたが、 こちらでの研究生活を実
りあるものにするためにも専門性を深めるだけでな
く、 多くの研究者と積極的に絡んでいろいろなこと
に取り組むようにし、 帰国後の研究に生かしたい
と考えています。
鈴木 臣
電磁気圏環境部門
( 高等研究院 )
特任助教
2010 年 8 月 1 日に着任いたしました。 大学院
時代も当研究所で過ごしましたが、 当時の研究
室は豊川にあったため東山キャンパスでの生活
は大変新鮮です。 学生時代から超高層大気の
波動現象 ( 特に小スケールの大気重力波 ) の光
学イメージング観測を行ってきました。 大気重力
波は地表付近の気象擾乱によって発生し高高度
( 高度 100 km 以上 ) にまで達します。 研究対
象の波のスケールは数十 km 程度と小さいです
川口 雄大
いたので、 科学雑誌等で先生方の研究成果 ・ 写真
等を見て、 当時は知らなかったことや触れられなか
った最新の神秘に触れられると思うとワクワクしていま
す。 ただ、 物理 ・ 数学は敬遠していたので、 もう少
し勉強しておけば、 最新情報も理解出来たかもと思
わずにはいられません。 先生方をサポートするには、
力不足かもしれませんが、 精一杯頑張っていきたいと
思いますので、 よろしくお願いいたします。
研究所総務課第一庶務掛
主任
4 月 1 日付けで研究所総務課第三庶務掛より当掛
に異動になりました。 高校時代に天文部に所属して
8
異 動
【GCOE 研究アシスタント】
2010.7.31 退職
礒野 靖子 ( 大気圏環境部門 )
【教員】
2010.9.1 採用 教授 田島 宏康 ( 太陽圏環境部門 )
【技術補佐員】
2010.9.9 退職 中野 淳子 ( ジオスペース研究センター )
【特任助教】
2010.8.1 採用 鈴木 臣 ( 電磁気圏環境部門 ※正式所属は高等研究院 )
【外国人研究員】
2010.9.1 - 2010.11.30 客員教授 Jackson, Bernard Vernon
( カリフォルニア州立大学サン・ディェゴ校研究員 )
【研究員】
2010.8.1 採用 礒野 靖子 ( 大気圏環境部門 )
【日本学術振興会外国人特別研究員 ( 欧米短期 )】
2010.10.12 - 2011.5.11 Savani, Neel Prakash ( インペリアル・カレッジ・ロンドン博士研究員 )
【日本学術振興会外国人招へい研究者 ( 短期 )】
2010.11.15 - 2010.12.20 Welsch, Brian Thomas
( カリフォルニア州立大学バークレー校助手 )
STEL ニュースダイジェスト
の研究を発展させることを目的として、連携・協力
協定の準備が進められ、このたび締結に至ったもの
です。当日の締結式には、当研究所から、松見所長、
荻野副所長、藤井理事 ( 前所長 ) が参加し、極地研
からの出席者である藤井所長、佐藤副所長、白石副
所長、山内副所長が一同に会して、協定書の調印・
交換、両所長による挨拶、写真撮影などが行われま
した。これを新たな契機として、今後も両研究所の
研究協力関係が継続・発展していくものと期待され
ます。
国立極地研究所と連携・協力協定を締結
9 月 14 日 ( 火 ) に国立極地研究所において、当研
究所と国立極地研究所との協定締結式が行われまし
た。両研究所は、これまで長年にわたり研究協力関
係を培ってきましたが、改めて、緊密で組織的な連
携関係を構築し、極域科学および太陽地球環境分野
高知高専で公開講座
8 月 21 日 ( 土 )、当研究所と高知工業高等専門学
校の主催で、同高専視聴覚室において公開講座「宇
宙」が開催されました。当研究所の梅田隆行助教の
ほか、大月祥子博士 ( 宇宙航空研究開発機構 )、佐藤
由香博士 ( 東北大学理学研究科 ) と田所裕康博士 ( 国
立極地研究所 ) により、高校・高専生を対象とした
3 つの講座が開かれました。また前日 20 日の高知新
聞の朝刊に宣伝記事が掲載され、熱心な市民の方も
訪れました。
理系大学生のための「太陽研究最前線体験ツアー」2010
当研究所では、太陽研究の魅力を大学生のみなさ
んに体験していただくため、
理系大学生のための「太
陽研究最前線体験ツアー」2010 を本年 8 月 17 日か
ら 4 日間、関連する研究機関 ( 国立天文台、宇宙航
空研究機構宇宙科学研究所、京都大学大学院理学研
上 : 調印を終えた両所長。 下 : 締結式の出席者。
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を 8 月 7 日 ( 土 )、8 日 ( 日 ) に行いました。これは
隣接する東京大学木曽観測所と共同で開催するもの
で、毎年 8 月の恒例行事となっています。山間部に
設置されているため、毎年天候が気になるところで
すが、今年は両日とも好天に恵まれました。絶好の
見学日和とあってか、訪れた見学者は 80 名を越え
るほどの盛況ぶり。太陽風観測用の巨大アンテナ見
学、研究成果のパネル説明のほか、8 月 7 日には徳
丸宗利教授が「太陽と地球をつなぐ宇宙の “ 風 ”」
と題して講演を行い、好評を得ました。
熱心に講義に耳を傾ける全国から集まった 16 名の大学生。
究科附属天文台、東京大学大学院理学系研究科 ) と
協力して実施しました。日本を代表する太陽研究施
設を巡るこのツアーは、昨年に引き続き 2 回目とな
ります。今回も全国から多数の参加希望が寄せら
れ、当初の定員を超える 16 名が参加して、熱気の
こもった研修となりました。ツアーの詳細について
は http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/sun_tour/をご参照くだ
さい。
SSH 高校生が研究体験
8 月 2 - 6 日の 5 日間、夏休みを利用して愛知
県の高校生 3 名が当研究所を訪れ、研究の一端を
体験しました。これは、文部科学省によりスーパ
ーサイエンスハイスクール (SSH) に指定された高
校の生徒が、大学の最新の研究に触れ、興味や知
識を深めるというもの。愛知県立岡崎高等学校、
同豊田西高等学校、同瑞陵高校の生徒各 1 名が当
研究所の電磁気圏環境部門と大気圏環境部門にお
いて、大学院生と一緒に様々な観測や実験を行い
ました。
青空の下、太陽風アンテナを公開 木曽観測施設 ( 長野県木曽郡上松町 ) の特別公開
受賞
ベストポスター賞・・・・8 月 4 日、中山智喜助教 ( 大気圏環境部門 ) が、第 27 回エアロゾ
ル科学技術研究討論会で、優れたポスター発表を行った若手研究者に送られるベストポ
スター賞を受賞しました。発表は、「エアロゾルの光学特性の湿度依存性と吸湿特性の
関係」( 鏡谷聡美、西田千春、持田陸宏、松見豊の各氏との連名 ) です。 電気科学技術奨励賞・・・加藤泰男課長 ( 全学技術センター/教育・研究技術支援室/計測
・ 制御技術系/太陽地球環境研究所電磁気環境部門 ) が電気科学技術奨励賞 ( 旧オーム
技術賞 ) を受賞しました。これは、
電気科学技術に貢献した功労者に与えられる賞で、
「ジ
オスペース環境を計測する地上観測機器群の開発・運用」が受賞の対象となりました。
11 月 24 日に授賞式が行われる予定です。
http://www.stelab.nagoya-u.ac.jp/kouenkai.html
編集:名古屋大学太陽地球環境研究所 出版編集委員会 〒 464-8601 愛知県名古屋市千種区不老町 F3-3(250) TEL 052-747-6306 FAX 052-747-6313
STEL Newsletter バックナンバー掲載アドレス:http://www.stelab.nagoya-u.ac.jp/ste-www1/doc/news_book_j.html
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