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minami156 2014

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minami156 2014
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書.
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1.
はじめに
塩は人体に必要不可欠であり、古代から、さまざまな製塩方法が開発されてきた。しかし、塩は椿解し、
地中に残らないため、製塩活動を立証するには、間接的な証拠を積み重ねる必要がある。市川らは、エル
サルパド、ル共和国ヌエパ・エスベランサ遺跡発掘調査出土資料(先古典期後期から古典期前期頃:
ADIOO-400) を基に、メソアメリカ太平洋沿岸部における先スペイン期製塩活動に関する分析を行い、①
大量の粗製土器片、炭化物、焼士塊を含むマウンド状遺構の存在、②無文で粗雑、かっ被熱変色を受け
小片化した粗製土器の存在、③粗製土器の内外面に付着した白色物質が炭酸カルシワムを主成分とする
物質であること、などから、土器製塩が営まれていた可能性を指摘している(市 )11 2014; 市川ほか, 2
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a2011, 2014) 。本稿においては、製塩の痕跡を残していると考えられる粗製土器に付着した白色
物質についてさらに理解を深めるため、さらに粗製士器が埋没していた士壌を分析した結果について述べ
る。
2.
研究対象地域
エルサルパドル共和国は中央アメリカの西部にあり、西側をグアテマラ、北と東側をホンジュラスと国境を
接している(図1l。エルサルパドルの中部から南部には、第四紀火山岩類が東西に広く分布して成層火山
体を形成しているロこれらの火山の裾野においては,主として安山岩質や玄武岩質溶岩からなる現世溶岩
− 156 −
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書, XXVI.2
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流が分布し、軽石や火山灰で覆われた肥沃
な土壌の中央台地が広がっている。
ヌエパ・エスペランサ地点は海岸平野であり、
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第四紀沖積層の砂磯層からなる。ヌエパ・エ
スペランサ遺跡は、エルサルバドル東部レン
パ川下流域に位置し、イロパンゴ、火山灰(噴
火年代 :AD 400 年頃)に覆われた状態にあ
る。現地表面の標高は約 4m である。 2007 、
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2011 、 2014 年に発掘調査が行われ、大量の
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図 1
ヌエパ・エスベランサ遺跡の位置
(市川・八木 2014 図 1 を一部改変)
どが出土している(Ichikawa, 2011) 。ヌエパ・
エスペランサから南に約 15 km のヒキリスコ湾周辺には、 1990 年代まで、使われていた塩田跡が残っている
(市川・八木 2014) 。
3.
粗製土器片の特徴
Ichikawa (2012) は、ヌエパ・エスペランサ遺跡から出土した遺物(図 2 の第 16~20 属ならびに 1 ・ 2 号土
坑から出土した遺物)の分析を行い、粗製土器が大量に出土し(全出土土器の約 90% が粗製土器)、かっ
全て破片であること、炉体残がいと思われる焼土片や炭化物を含む土器層が広範囲に形成されていること
を報告している。このことから、粗製土器は、使用頻度が高く、壊れるまで使用されたと推測され、さらに、
粗製土器資料全体の約 90% が外面より内面の調整が入念であること、内面に薄い膜状あるいは層状の剥
離が目立つことから(特に底部に顕著)、土器に漏水予防を施し、塩分濃度の高い蹴水を煮沸していた可
能性を指摘している。
さらに器面には白色物質が付着しており、以下のような特徴が見られる。
1) 粗製土器にのみ、内外面に炭化層+白色物質が付着している。
2) 付着している部位は、口縁部よりやや下、または胴部から底部にかけてである。
3) 薄い膜状に付着している場合とブロック状に付着している場合の 2 種類がある。
4) いずれも水洗をしても土器表面から事離することはなく、極めて固い。
器面に付着している白色物質は、製塩遺跡と考えられている遺跡から出土した土器片にも付着しており
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図 2
ヌエパ・エスベランサ遺跡 1 号試掘坑の西側および南側断面図
市川ほか (2011) の図 2 ・ 4 に追記
− 157 −
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4. 粗製土器付着白色物質の化学分析
分析に供した粗製土器付着白色物質を
図 3 に示す。化学分析結果の詳細につい
ては別稿(市川ほか,投稿中)に譲り、ここ
では以下、簡潔に述べる。
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内外面ともにカルサイト (Cal: CaC0 3 ) の明瞭なピークが検出された(図 4) 。このことから、白色物質には
CaC0 3 が多く含まれていることが明らかになった。
また、白色物質を 10% 酢酸でリーチングして得られた酸可溶成分を原子吸光分析した結果、 Ca 含有量
が 18-20%で、あった。酸可溶成分の Ca は CaC0 3 に由来すると考えられるので、白色物質中の Ca の 70-
80% が CaC0 3 であり、 20-30% が他の形態で含まれていることがわかる。白色物質には Si0 2 が 23-25% 、
Alz0 3 が 5-6%含まれていること、石英 (Qz) 、カリ長石 (Kf) 、斜長石 (pl)のピークも認められることから、
CaC0 3 として存在する Ca 以外の Ca は海砂もしくは土器の胎土に由来している可能性がある。
さらに、土器内面付着の白色物質をリン酸と反応させて発生した CO 2 の ð
の白色物質は
13CvPDBは-14 .4%。、外面付着
16.7%。で、あった。この ð 13 C 値は、海水中に含まれる海洋性植物プランクトン (-28%0~
18%0) の値よりも若干高く、海洋性植物プランクトンが海水中の溶存無機炭素( ~O%o) を固定した結果生じ
た混合値である可能性が考えられる。太平洋沿岸、ユカタン半島北部、カリブ海沿岸といった海に近接す
る地域においては、海水を原料としており (e.g. Andrews , 1983;McKi11op , 2002;Murata, 2011) 、沿岸に位
置しているヌエパ・エスペランサにおいても、塩の原料として、海水を用いた可能性が高いと考えられる。
サカプーラス村の民族学的調査によれば、良質な塩を採るために煎熱中にトウモロコシをすり潰し、ペー
スト状にした塊を入れると報告されている (Reina andMonaghan, 1981) 。トウモロコシは C 4 植物で、あり、その
13 C 値は 15%0~-11%0を示すので、土器付着白色物質がトウモロコシ起源の物質を含む可能性も考え
られる。実際に、木村・渡遺 (2010) はイロパンゴ火山周辺の土壌有機物中の õ 13 C 値が-15%o~-14%。で
あることから当時 C 4 植物が栽培されていた可能性を指摘しており、南ほか (2013) も、ヌエパ・エスベランサ
遺跡 1 号試掘坑の第 16 層(図 2) 下から出土した骨の õ 13 C 値が-18%。であることから、 C 4 植物への高い寄
与率 (83-90% の寄与率)を指摘している。つまり、当時の人々が C 4 植物を栽培し,多く食していたと推定さ
れ、トウモロコシが日常的に存在する状況において、塩の煎熱中にトウモロコシを加えた可能性も有り得
る。
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市川ほか(投稿中)の図 10 を一部改変
5,土壌の化学分析
土壌の採取地点を図 2 に示した。 POZO-1 U、 POZO-1 L は、西側の第 17 層、 19 層から、 POZO-2 U、
POZO-2L は、南側の第 23 層の上部と下部から、それぞれ採取した。土壌の色は、上層 (U) 試料は茶色、
下層 (L) 試料は暗褐色であり、明らかに L 試料のほうが黒かったロ化学分析の結呆、 U 試料は L 試料に比
べて、 CaO、 P 2 0 S 、 MnO の含有量が高く、 CaO は約 7 倍、 P 2 0 S は 7ー 10 倍であった。さらに、粉末 X 線回析
の結果、 U 試料は石英 (Qz) 、カリ長石 (K{) 、斜長石 (pJ)とともにカルサイト (Cai) の明瞭なピークが検出さ
れたのに対し、 L 試料はカルサイトのピークがほとんど検出されなかった(図 5) 。つまり、粗製土器が多く出
土する層の土壌には CaCO,が多く含まれており、製塩による痕跡を残していると考えることができる。
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名古屋大学加速器質量分析計業績報告書,
XXVI , 2015.03
土壌と粗製土器付着白色物質の関係を探るために、上層の土壌、ならびに土器の内面と外面に付着し
た付着白色物質の元素組成を、下層の土壌の化学組成 (POZO-1 L と POZO-2 L の平均値)で規格化して
示した(図 6) 。この図から、上層土壌は、下層土壌に比べて Mn、 Mg 、 Ca、 P の含有量が高く、特に Ca、 P
の含有量が 10 倍程度であることがわかる。さらに、粗製土器付着白色物質も上層土壌と同様、下層土壌に
比べて Mn 、 Mg 、 Ca、 P の含有量が高いが、特に Mn 、 P の含有量が高いのが特徴的である。白色物質が
海洋性植物プランクトンあるいはトウモロコシ起源の物質を含んで、いた場合、いずれも P 含有量の高い理
由は説明がつくが、 Mn 含有量が高い理由はトウモロコシ起源では難しい。海藻は Mn 含有量が高いことか
ら、白色物質は海水を煎熱する過程で付着した海水、海洋性植物プランクトン、海砂等の混合物であると
考えられる。今後、白色物質の脂質分析等を通じて、起源を明らかにしていきたい。
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図6
下層土壌の化学組成で規格化した上層土壌ならびに粗製土器の内外面に付着した白色物質の化学組成
U: 上層土壌、 L: 下層土壌、 Inner: 土器内面付着白色物質、 Outer: 土器外面付着白色物質
謝辞
蛍光 X 線分析、 X 線回折分析においては、名古屋大学年代測定総合研究センターの鈴木和博名誉教
授、加藤丈典准教授、城森由佳博士にお世話になった。研究の一部は、日本学術振興会特別研究員奨
励費「系己元後 5 世紀イロパンゴ火山噴火前後の太平洋沿岸部の生業と社会の研究 J (課題番号 25 ・ 824) お
よび、パレオ・ラボ、若手研究者を支援する研究助成(課題名「マヤ南東地域の広域編年確立のための年代
学的研究 J) の成果を含むものである。
引用文献
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市川彰 (2014) エルサルバドル共和国レンパ川下流域 2014 年調査速報.古代アメリカ, 17 , 89・ 100.
市川|彰・八木宏明 (2014) エルサルパド、ル共和国太平洋沿岸部集落における 20 世紀の製塩活動員
塚, 69, 25-29.
市川|彰・松崎大嗣・八木宏明 (20 11)エルサルパドル共和国ヌエパ・エスベランサ遺跡 2011 年調査速報.
古代アメリカ, 14, 83・88.
市川彰・南雅代・八木宏明メソアメリカ南東部太平洋沿岸における先スペイン期製塩活動エルサル
パドル共和国ヌエパ・エスベランサ遺跡を中心に
日本考古学(投稿中)
木村異人・渡遁健史 ο010) 過去に栽培された作物種の土壌有機物炭素同位体による推定,古代アメリ
カの考古資料を用いた学術的発展研究(平成 21 年度総長裁量経費報告書) ,名古屋大学大学院文
学研究科 pp.3 1 ・36.
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南雅代・市川彰・坂田健・森田航・伊藤伸幸 ο013) エル・サルパドル共和国から出土した先スベイ
ン期埋葬人骨の同位体分析ー人の移動と食性復元に向けてー.考古学と自然科学, 64, 1
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日本語要旨
塩は人体に必要不可欠であり、古代から、さまざまな製塩方法が開発されてきた。しかし、塩は溶解し、
地中に残らないため、製塩活動を立証するには、間接的な証拠を積み重ねる必要があるロ市川ほか(投稿
中)は、エルサルパドル共和国ヌエパ・エスベランサ遺跡発掘調査出土粗製土器(先古典期後期から古典
期前期頃: ADl00-400) の考古学的見地ならびに化学分析から、土器製塩が営まれていた可能性を指摘
した。本稿においては、粗製土器に付着した白色物質に加え、粗製土器が埋没していた土壌を分析し、製
塩の痕跡を探った。蛍光 X 線による元素組成分析の結呆、白色物質の Ca 含有量は 24-25%と非常に多
く、粉末 X 線回祈の結果、カルサイト (CaCO,)の明瞭なピークが検出されたロこのことから、白色物質には
CaCO,が多く含まれていることが明らかになった。白色物質の ð 13C がー 17%。一一 14%。であることから、白色
物質は、海水を煎熱する過程で付着した海水、海洋性植物プランクトンの混合物であることが示唆された。
さらに、遺跡土壌の化学分析の結果、粗製土器が多く出土する層の土壌には Ca が多く含まれており、Mn、
P の含有量も高いことから、土壌には製塩によると恩われる痕跡が残存していた。以上の結果から、先スベ
イン期のメソアメリカ太平洋沿岸部において、海水を原料とした土器製塩が行われていたことが示されたロ
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