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課題別指針 水産 - JICAナレッジサイト
課題別指針 水産 2010年6月 独立行政法人国際協力機構 課題別指針「水産」目次 はじめに 要約 水産課題体系図 第1章 水産分野の概要 1-1 水産業の推移 1-2 開発途上国における水産業の位置付け 1-3 国際的援助動向 1-4 我が国の援助動向 1-4-1 漁業開発 1-4-2 資源管理 1-4-3 流通 1-4-4 水産加工 1-4-5 養殖 1-4-6 環境保全 1-4-7 水産行政 1-4-8 漁村開発 1 1 1 2 3 3 3 3 3 4 4 4 5 第2章 水産協力の考え方と目標 2-1 水産の特性 2-2 水産協力の目的 2-3 水産協力に対する効果的アプローチ 2-3-1 開発戦略目標1 活力ある漁村の振興 2-3-2 開発戦略目標2 安定した食料供給(水産資源の有効利用) 2-3-3 開発戦略目標3 水産資源の保全管理 2-3-4 開発戦略目標達成に必要な共通課題 6 6 6 9 9 14 20 24 第3章 JICAの協力方針 3-1 全体方針 3-2 地域別協力方針 3-2-1 アジア地域 3-2-2 大洋州地域 3-2-3 中近東地域 3-2-4 中南米地域 3-2-5 アフリカ地域 28 28 29 29 30 30 31 32 付録1 主要な協力事例 付録2 基本チェック項目 引用・参考文献・Web サイト はじめに この JICA 課題別指針「水産」は、水産分野に関する主な概況や援助動向、ア プローチや手法を整理した上で、JICA 事業による協力の方向性や留意点を示す ために JICA が作成したものです。これにより、JICA が関係者間で水産分野に 関する基本的な情報・知識の共有を図るとともに、JICA 事業計画の企画・立案 及び案件の審査や実施の際の参考にすることとしています。 また、この課題別指針を、JICA ナレッジサイト等を通じて外部に公開するこ とにより、広く一般の方々にもこれら JICA の水産分野の協力に関する基本的な 考え方を知っていただきたいと考えています。 本指針の特徴は、今後、水産分野の協力の重点を従来の海面漁業を中心とす る「漁業開発」型から貧困削減を目的とする「漁村開発」型にシフトすること を明記したことです。これにともない支援対象は漁業従事者である「漁民」か ら漁村に住む貧困度合いの高い「漁村民」全体に拡大することになります。も うひとつの特徴は、世界的な水産資源の減少傾向を踏まえ、資源管理型漁業の 導入を協力の基本としたことです。 なお、協力にあたっての方針は地域毎に異なる面があることから、アジア、 大洋州、中近東、中南米及びアフリカの5地域毎の協力方針のポイントを記述 しています。 2010年6月 課 題 別 指 針 「水 産 」要 約 第 1 章 水産分野の概要 1-1 水 産 業 の 推 移 魚 介 類 は 、世 界 の 多 く の 国 に お い て 人 々 の 重 要 な 食 料 で あ り 、FAO の 報 告 書 に よ れ ば 、2006 年 に お け る 全 世 界 の 漁 業 総 生 産 量 は 144 百 万 ト ン と な り 、 そ の 内 110 百 万 ト ン が 食 料 と し て 利 用 さ れ 、摂 取 し て い る 動 物 性 タ ン パ ク の の う ち 少 な く と も 15%を 魚 介 類 か ら 得 て い る 人 間 が 、全 世 界 で 29 億 人 以 上 い る。 総 生 産 量 に お い て 、 1950 年 の 約 20 百 万 ト ン と 2006 年 を 比 較 す る と 7 倍 の 伸 び と な っ て い る が 、こ の 間 、国 連 海 洋 法 の 制 定 に 伴 う 200 海 里 排 他 的 経 済水域の導入や養殖の隆盛等、水産業をめぐる環境は大きく変化した。 す な わ ち 、海 に お け る 資 源 の 利 用 が 持 続 的 利 用 可 能 量 の ほ ぼ 満 限 に ま で 達 す る か 、 過 剰 に 漁 獲 さ れ る 中 で 、 各 国 は 海 洋 法 で 規 定 さ れ て い る 自 国 の 200 海 里 水 域 内 の 水 産 資 源 管 理 に 取 り 組 む と 共 に 、公 海 に お い て も 地 域 漁 業 管 理 機関 1 を通じて、マグロ等の高度回遊性魚類の資源管理を強化している状況 に あ る 。現 在 は 漁 獲 に よ る 生 産 量 は 停 滞 し 、養 殖 に よ る 生 産 比 率 が 約 3 分 の 1 に増加している。 1-2 開 発 途 上 国 に お け る 水 産 業 の 位 置 付 け 少 な い コ ス ト で 、技 術 的 に も 比 較 的 容 易 に 開 始 で き る 沿 岸 漁 業 は 、土 地 や 安定した収入源を持たない人々にとって生き残りや生活を安定させるため の重要な手段となっている。しかし、無秩序な新規参入者の増加によって、 過 剰 な 漁 獲 競 争 や 資 源 へ の 過 剰 な 圧 力 を 招 き 、沿 岸 資 源 の 状 態 が 急 速 に 悪 化 し て い る 国 が 多 い 。ま た 、沿 岸 資 源 の 減 少 に よ り 、漁 業 活 動 が よ り 遠 方 の 海 域 に シ フ ト す る 傾 向 に あ る が 、沿 岸 漁 民 が 所 有 す る 漁 船 は 小 型 で 十 分 な 装 備 を 持 た ず 、航 海 技 術 も 未 熟 で あ る こ と か ら 、海 難 事 故 が 多 発 し て い る の が 実 状である。 ま た 、世 界 の 水 産 物 市 場 に と っ て 、開 発 途 上 国 に よ る 水 産 物 の 持 続 的 な 生 産 の 重 要 性 は 益 々 高 ま っ て い る が 、FAO の 公 式 発 表 に よ れ ば 、2005 年 に 開 発 途 上 国 か ら 輸 出 さ れ た 水 産 物 は 、全 世 界 の 水 産 物 輸 出 に お い て 、金 額 で 49%、 重 量 で 59%を 占 め て い る 。 このように、開発途上国における水産業は、食料供給、就業機会の創出、 現 金 収 入 と い っ た 観 点 か ら 重 要 な 産 業 で あ る が 、資 源 管 理 の 不 備 や 環 境 の 悪 化 に よ る 資 源 の 減 少 や 枯 渇 と い う 問 題 を 併 せ 持 つ 分 野 で あ る 。特 に 、沿 岸 水 1 IOTC:インド洋まぐろ類委員会、ICCAT:大西洋まぐろ類保存国際委員会等がある。 1/11 域 に お い て は 、そ の 底 辺 に 漁 村 に お け る 慢 性 的 な 貧 困 問 題 が あ り 、従 来 か ら の 漁 業 開 発 ア プ ロ ー チ で は な く 、支 援 の 対 象 を 漁 業 に 従 事 す る「 漁 民 」か ら 漁 村 に 住 む「 漁 村 民 」全 体 に 広 げ 、生 計 向 上 を 目 指 し た 漁 村 開 発 の 視 点 が 必 要 で あ る 。そ の た め に は 、資 源 の 保 存 や 管 理 を 図 り 、資 源 の 持 続 的 利 用 に 基 づく漁村開発を進めることが喫急の課題となっている。 1-3 国 際 的 援 助 動 向 1970 年 代 後 半 ま で は 、 日 本 を 含 む 漁 業 先 進 国 は 、 領 海 12 海 里 ( 約 22km) 以 遠 の 公 海 自 由 の 原 則 の 下 、沿 岸 か ら 沖 合 、遠 洋 へ と 競 っ て 漁 業 活 動 を 拡 大 さ せ て い っ た 。こ の 時 代 の 水 産 協 力 は 、生 産 量 の 増 大 を 目 的 と し た 資 源 開 発 型 が 主 流 で あ り 、新 し い 漁 業 技 術 や 養 殖 技 術 の 導 入 、技 術 訓 練 の 実 施 、水 産 関連施設及び船舶の供与等を中心としたものであった。 領 海 を め ぐ る 各 国 の 主 張 や 対 立 は 古 く か ら 続 い て い た が 、1960 年 代 の ア ジ ア や ア フ リ カ 等 に お け る 各 国 の 独 立 を 契 機 と し て 、世 界 的 な 資 源 の 利 用 に か か る 権 益 の 調 整 が 必 要 と な り 、 1982 年 に 第 三 次 国 連 海 洋 法 会 議 が 開 催 さ れ 、 「 海 洋 法 に 関 す る 国 際 連 合 条 約 」が 採 択 さ れ た 。こ の 条 約 で は 、各 国 の 沿 岸 200 海 里( 約 370Km)以 内 の 海 域 を 排 他 的 経 済 水 域( Exclusive Economic Zone: EEZ)と し 、各 国 の EEZ 内 の 魚 介 類 等 生 物 資 源 を 含 む 天 然 資 源 に 関 す る 権 利 、 管 轄 権 及 び 遵 守 す べ き ル ー ル 等 を 規 定 し た 。ま た 同 条 約 で は 、開 発 途 上 国 の ニーズを踏まえた水産資源の持続的利用と魚介類の生息の場としての海洋 環 境 に 関 す る 調 査 、監 視 、教 育 等 の 支 援 の 必 要 性 も 規 定 さ れ 、は じ め て 資 源 管理に関する国際協調の重要性が指摘された。 続 い て 、1992 年 に ブ ラ ジ ル で 開 催 さ れ た 国 連 環 境 開 発 会 議( 地 球 サ ミ ッ ト ) では、資源の持続可能な開発、生物多様性の保護がテーマとして議論され、 世 界 的 な 環 境 配 慮 の 必 要 性 を 国 際 社 会 に 強 く ア ピ ー ル す る 機 会 と な っ た 。水 産 分 野 に お い て も 、資 源 と 環 境 に 配 慮 し た 取 り 組 み が 求 め ら れ る よ う に な り 、 そ の 結 果 、海 洋 生 物 資 源 の 持 続 的 利 用 と 漁 業 の 発 展 の た め の 包 括 的 な 規 範 を 示 し た 「 責 任 あ る 漁 業 の た め の 行 動 規 範 」 が 1995 年 に FAO で 採 択 さ れ た 。 さ ら に 同 じ く 1995 年 に FAO で 採 択 さ れ た 「 食 料 安 全 保 障 の た め の 漁 業 の 持 続 的 貢 献 に 関 す る 京 都 宣 言 及 び 行 動 計 画 」に よ り 、水 産 分 野 は 世 界 の 貧 困 緩 和に貢献しうる重要なセクターとして認知されるようになった。 こ の よ う な 世 界 的 な 潮 流 の 中 で 、水 産 分 野 に お け る 援 助 も 生 産 量 の 増 大 を 主 眼 と し た 協 力 か ら 、資 源 や 環 境 に 配 慮 し つ つ 水 産 業 を 持 続 的 に 営 ん で ゆ く た め の 体 制 構 築 や 人 材 育 成 等 、ソ フ ト 面 を 重 視 す る ア プ ロ ー チ に 移 行 し て い っ た 。ま た 、援 助 対 象 も 行 政 中 心 か ら 、住 民 参 加 型 へ と 移 行 し 、ボ ト ム ア ッ プ 型 ア プ ロ ー チ に よ る 案 件 が 増 え る 傾 向 に あ り 、こ こ 数 年 は 産 業 と し て の 水 産開発から沿岸漁村民の生計向上を目指す漁村開発へのシフトが進んでい る。 2/11 1-4 我 が 国 の 援 助 動 向 水 産 に お け る こ れ ま で の JICA の 協 力 は 、 漁 業 開 発 、 資 源 管 理 、 流 通 、 水 産 加 工 、養 殖 、環 境 保 全 、水 産 行 政 、漁 村 開 発 等 、多 岐 に 亘 る 。各 々 の 協 力 の歴史と特徴は以下のとおりである。 1-4-1 漁 業 開 発 1970 年 代 初 期 よ り 、漁 獲 対 象 魚 種 の 拡 大 や 漁 獲 効 率 の 向 上 を 目 的 と し た 技 術 指 導 や 漁 具・漁 船 の 供 与 が 始 ま っ た 。1980 年 代 後 半 に は 利 用 可 能 な 資 源 の 利 用 が 満 限 に 近 づ き 、世 界 的 に「 持 続 的 漁 業 」が 導 入 さ れ た こ と か ら 、資 源 開 発 型 か ら 資 源 維 持 管 理 型 の 漁 場 環 境 、資 源 管 理 、水 産 加 工 や 流 通 シ ス テ ム の改善等の協力へと変化している。 1-4-2 資 源 管 理 資 源 の 調 査 は 漁 業 開 発 と の 関 連 が 深 く 、1970~ 80 年 代 は 、新 漁 場 や 新 魚 種 開 発 を 目 的 と し た 水 産 資 源 調 査( 開 発 調 査 )や 漁 業 資 源 調 査 船 の 供 与( 無 償 資 金 協 力 )が 主 要 な 協 力 で あ っ た 。し か し な が ら 近 年 は 、限 り あ る 資 源 を 持 続 的 か つ 有 効 に 利 用 す る た め に 様 々 な 規 制 を 行 う 必 要 が あ る こ と か ら 、資 源 動 態 調 査 技 術 、最 大 持 続 生 産 量 の 推 定 な ど の 資 源 評 価 手 法 及 び 漁 業 の 管 理 方 策 に 関 す る 協 力 が 増 加 し て い る 、ま た 、資 源 の 管 理 に 関 連 し て 、資 源 培 養 技 術(種苗放流)及び生態環境保全等の協力も増加している。 1-4-3 流 通 1980 年 代 か ら 漁 港 を は じ め と す る 水 産 流 通 基 盤 の 整 備 が 実 施 さ れ て き た 。 1990 年 代 後 半 か ら は 漁 港 整 備 と と も に 、付 随 す る 市 場 、加 工 に 関 わ る 機 能 の 整 備・強 化 の 支 援 が 増 加 し た 。ま た 、漁 業 開 発 や 養 殖 分 野 の 協 力 に お い て も 、 生 産 面 の み な ら ず 、市 場 と 流 通 に 関 す る 現 状 把 握 が 必 要 不 可 欠 と な っ て い る 。 1-4-4 水 産 加 工 以 前 ま で は 加 工 品 開 発 、食 品 衛 生 、品 質 管 理 に 関 す る 試 験 研 究 機 関 に 対 す る 協 力 が 多 く 、流 通 や 漁 業 開 発 、養 殖 に 関 わ る 協 力 の 中 で 、消 費 拡 大 や 付 加 価 値 向 上 の 手 段 と し て 組 み 込 ま れ る こ と が 多 か っ た 。そ の 一 方 、漁 村 で の 女 性 支 援 の 一 環 と し て 、地 域 の 特 性 に 合 っ た 干 物 、燻 製 品 等 の 技 術 指 導 も 実 施 しており、今後は貧困削減策として期待される分野のひとつである。 1-4-5 養 殖 養 殖 に 関 す る 協 力 は 漁 業 開 発 に 次 い で そ の 歴 史 は 古 い 。1970 年 代 末 か ら サ ケ・マ ス 資 源 の 培 養 、海 産 魚 の 養 殖 技 術 支 援 が 行 わ れ て き た 。1980 年 代 後 半 か ら 90 年 代 前 半 ま で は 、 世 界 的 な エ ビ の 生 産 ブ ー ム と 重 な り 、 エ ビ の 汽 水 3/11 養 殖 支 援 が 東 南 ア ジ ア を 中 心 に 展 開 さ れ た 。そ の 後 、協 力 対 象 地 域 が さ ら に 拡 大 さ れ 、比 較 的 大 規 模 な 養 殖 形 態 で 実 施 さ れ た が 、2000 年 に 入 り 、エ ビ の 国際価格が下落し、エビ養殖への協力ニーズは激減した。 一 方 、 1990 年 代 後 半 か ら 養 殖 は 、 貧 困 削 減 の 観 点 か ら も 養 殖 分 野 が 注 目 さ れ 、農 村 開 発 や 地 域 振 興 の 一 環 と し て 、出 費 が 少 な く 農 民 で も 参 加 可 能 な 、 コイやティラピアを中心とした粗放的内水面養殖への支援が実施されるよ う に な っ た 。ま た 海 面 で も 、内 水 面 養 殖 と 同 様 、漁 民 を 対 象 と し た 貝 類 や ミ ルクフィッシュの養殖支援を行っている。 し か し な が ら 、こ れ ま で の 養 殖 分 野 の 協 力 は 、試 験 研 究 レ ベ ル で の 技 術 開 発 を プ ロ ジ ェ ク ト 目 標 と し た た め 、漁 民 へ の 技 術 普 及 は 先 方 政 府 の 自 助 努 力 に委ねられ、期待どおりの普及成果が得られなかったケースも散見された。 ま た 、熱 帯 海 域 で の 新 規 養 殖 技 術 の 確 立 に は 不 確 定 要 素 が 多 く 、当 初 予 定 期 間内での目標達成が困難となるケースもあり、慎重な対応が必要である。 1-4-6 環 境 保 全 こ の 分 野 の 協 力 は 比 較 的 新 し い が 、漁 業 資 源 の 保 全・管 理 と 密 接 な 関 わ り を も つ こ と か ら 1990 年 代 半 ば か ら 魚 介 類 生 息 の 場 と し て の 水 域 環 境 実 態 調 査 技 術 や モ ニ タ リ ン グ 、 水 域 環 境 保 全 ( 水 質 保 全 )、 サ ン ゴ 礁 保 全 、 マ ン グ ロ ー ブ 林 保 全 、海 洋 保 護 区 設 定 等 の 支 援 を 行 っ て い る 。近 年 は 資 源 管 理 に 必 要 な 資 源 環 境 調 査 技 術 の 他 、人 工 魚 礁 の 設 置 等 の 環 境 改 善 策 が 同 時 に 実 施 さ れることも多い。 1-4-7 水 産 行 政 こ れ ま で 主 と し て 開 発 調 査 や ア ド バ イ ザ ー 型 専 門 家 派 遣 を 通 し て 、水 産 行 政 へ の 直 接 的 支 援 や 水 産 学 系 大 学 、水 産 専 門 校 等 へ の 人 材 育 成 に 関 わ る 協 力 を 行 い 、途 上 国 に お け る 水 産 セ ク タ ー 全 体 の 底 上 げ に 貢 献 し て き た 。対 象 国 は 、歴 史 的 に 海 面 漁 業 が 重 要 な セ ク タ ー で あ る ア ジ ア 、大 洋 州 及 び 西 ア フ リ カの国が多い。 1-4-8 漁 村 開 発 上 記 の と お り 、こ れ ま で の 水 産 分 野 の 協 力 は 途 上 国 の 水 産 業 の 振 興 に 力 点 がおかれてきたが、貧困の削減や人間の安全保障の視点から、そこに住む 人 々( 漁 村 民 )の 生 活 の 向 上 を 考 え 、漁 民 だ け で は 対 応 が 困 難 な 資 源 の 枯 渇 や 水 産 物 価 格 の 下 落 な ど の 問 題 に 取 り 組 ま な け れ ば な ら な い 。そ の た め に は 、 資 源 の 保 全 管 理 や 養 殖 、簡 易 な 水 産 加 工 、流 通 へ の 支 援 や 、そ れ と 同 時 に 農 業 等 の 他 分 野 や 識 字 教 育 、保 健 医 療 等 の 社 会 開 発 に 対 す る 支 援 も 行 い 、総 合 的な漁村開発に転換していく必要がある。 4/11 第 2 章 水産協力の考え方と目標 2-1 水 産 の 特 性 水 産 の 特 性 の 第 1 は 、自 律 的 に 資 源 を 回 復 す る 再 生 産 能 力 を 有 す る こ と で あ る 。水 産 資 源 を 持 続 的 に 利 用 す る た め に は 、生 育 環 境 変 化 に よ る 魚 介 類 の 資 源 量 の 変 化 を 予 測 し 、漁 獲 量( 間 引 き 量 )を 資 源 の 再 生 産 能 力 を 超 え な い 水 準 に 抑 え る こ と と 生 息 環 境 の 保 全 が 必 要 で あ る 。す で に 資 源 が 減 少 し て い る 場 合 に は 、一 時 的 な 漁 獲 量 の 制 限 と と も に 、資 源 回 復 を 加 速 す る た め の 種 苗の放流や生息環境の修復・改善などの対策が必要である。 第 2 の 特 性 は 、天 然 の 水 産 資 源 は 移 動 性 が あ り 、個 々 の 所 有 権 が 主 張 さ れ ない無主物としての性質が強い点である。 第 3 の 特 性 は 、日 々 の 漁 獲 量 の 変 動 や 中・長 期 的 な 資 源 動 向 の 把 握 や 予 察 が困難で、不確実性が高いことである。 第 4 の 特 性 は 、水 産 物 は 常 温 で 食 品 と し て 劣 化 し や す い こ と で あ る 。こ の た め 、保 蔵・流 通 基 盤 の 整 備 や 、加 工 及 び 品 質・衛 生 管 理 技 術 の 向 上 が 必 要 である。 2-2 水 産 協 力 の 目 的 水 産 協 力 の 目 的 は 、① 国 民 へ の 食 料 の 安 定 供 給 と い う 食 料 安 全 保 障 の 確 保 ②良質の栄養分 2 の供給による栄養不良の解消 ③貧困層への生計手段の提 供 に よ る 貧 困 削 減 の 3 つ に 集 約 で き る 。し か し な が ら 、地 域 が 限 定 さ れ た 漁 村 開 発 に せ よ 、全 国 を 対 象 と し た 水 産 物 の 安 定 供 給 に せ よ 、持 続 可 能 な 資 源 の 確 保 が そ の 前 提 と な る 。人 々 が 利 用 す る 水 産 資 源 と そ の 生 息 環 境 が 健 全 で なければ、持続性は保てない。 多くの途上国においては主要な食料の確保は主として農産物が占める割 合 が 多 い た め 、水 産 協 力 の 大 き な 目 的 は 、① ② と い う よ り も む し ろ ③ 水 産 を 含 め た 幅 広 い 漁 村 開 発 を 通 し た 貧 困 削 減 と 位 置 付 け る こ と が で き る 。こ れ ら を 踏 ま え 、「 水 産 協 力 」 の 3 つ の 開 発 戦 略 目 標 を 次 の と お り 設 定 す る 。 2 3 ◆ 開発戦略目標 1 活力ある漁村 3 の振興 ◆ 開発戦略目標 2 安定した食料供給(水産資源の有効利用) ◆ 開発戦略目標 3 水産資源の保全管理 魚 に は タ ン パ ク 質 、必 須 脂 肪 酸 、ビ タ ミ ン 、ミ ネ ラ ル な ど バ ラ ン ス の と れ た 栄 養 素 が 含 ま れ る 。 本指針における「漁村」は、海岸部の漁村だけを意味するのではなく、内水面での漁業や養殖 を兼業する農村も含まれる。 5/11 こ れ ら の 3 つ の 開 発 戦 略 目 標 を 、地 域( 場 )と し て の 漁 村 開 発 の 軸 と セ ク タ ー( 産 業 )と し て の 水 産 開 発 の 軸 と で 捉 え る と 、目 標 1 は 貧 困 削 減 の 手 段 と し て の 水 産 の 側 面 が 強 い 。目 標 2 は 食 料 と し て の 水 産 物 の 確 保 の 側 面 が 強 く 、こ れ ら 2 つ の 目 標 は 国 の 発 展 度 合 い に よ り 、そ の 優 先 度 が 判 断 さ れ る も の で あ る 。目 標 3 は 、漁 村 振 興 と 水 産 開 発 の 両 軸 に ま た が る も の で あ り 、乱 獲 が 著 し い 途 上 国 で は 、資 源 の 保 全 管 理 に 特 化 し た 取 り 組 み が 急 務 で あ る が 、 制 度 面 の 整 備 の み な ら ず 、他 の 目 標 と 同 時 並 行 で 取 り 組 む こ と に よ り 、現 場 における資源の保全管理が定着することとなる。 開発戦略目標 1 活力ある漁村の振興 漁 村 の 貧 困 問 題 の 解 決 に は 、持 続 的 漁 業 の 正 し い 理 解 や 適 正 な 技 術 の 選 択 を 通 し た 、家 計 収 入 を 安 定 化 す る た め の 地 道 な 支 援 及 び 農 業 等 の 他 産 業 や 教 育 、保 健 医 療 等 の 社 会 開 発 を 含 め た 包 括 的 な 取 り 組 み が 必 要 で あ る 。こ の た め 、漁 村 振 興 に あ た っ て は 、従 来 の 漁 業 開 発 型 協 力 の 支 援 対 象 で あ っ た 漁 業 に 従 事 す る 漁 民 だ け で は な く 、漁 村 の 全 住 民 を 対 象 と す る よ う に 協 力 の 範 囲 を 拡 大 す る 必 要 が あ る 。ま た 、持 続 的 漁 業 の 前 提 と な る 漁 獲 の 抑 制 に は 、そ のレベルの漁獲量でも生計を維持できるだけの家計収入の確保が必要とな る た め 、漁 民 だ け で な く 、そ の 他 の 住 民 を 含 め た 幅 広 い 視 点 か ら の 検 討 が 重 要となってくる。 開発戦略目標 2 安定した食料供給(水産資源の有効利用) 急 激 な 人 口 増 加 に 伴 い 、多 く の 途 上 国 で は 食 料 の 不 足 と い う 重 大 な 問 題 に 直 面 し て お り 、水 産 資 源 を は じ め と す る 天 然 資 源 の 収 奪 に 一 層 の 圧 力 が 加 わ っ て い る 。 一 方 、 2007 年 の FAOの 推 定 に よ れ ば 、 水 産 資 源 の 約 20%に は ま だ 利用の余地があるとされており、地域によっては更なる利用が可能である。 また、漁獲後の投棄 4 や鮮度落ち、腐敗などによる漁獲後の減耗のため、実 際に漁獲されたもののうち食料として利用される割合は 3 分の 2 程度でしか な い 。こ の よ う に 食 料 生 産 の 増 大 に は 生 産 量 の 拡 大 だ け で な く 、利 用 方 法 の 改善も重要な課題である。 開発戦略目標 3 水産資源の保全管理 FAOの 推 定 に よ れ ば 、水 産 資 源 の 28%が 限 界 以 上 の 漁 獲 状 態( 乱 獲 )に あ り 、 急速に資源が減少 5 していると警告している。しかし、水産資源は鉱物資源 と は 異 な り 、一 定 限 度 内 の 漁 獲 で あ れ ば 、自 律 的 に 回 復 す る 再 生 産 可 能 な 資 4 5 例 え ば 、 エ ビ を 漁 獲 対 象 と し た ト ロ ー ル 網 漁 業 で は 、 曵 網 に よ る エ ビ の 漁 獲 比 率 は 1~ 2 割 程 度 と さ れ 、エ ビ 以 外 の 漁 獲 物 は 価 格 が 低 く 、漁 船 の 冷 凍 容 量 が 限 ら れ て い る な ど の 理 由 で 、そ の 場 で 投 棄 さ れ る 場 合 が 多 い (混 獲 投 棄 )。 平 均 的 な 漁 獲 圧 力 は 1960 年 代 か ら 1990 年 代 の 間 に 約 3 倍 に 増 大 し た と さ れ て い る( 世 銀 な ど )。 典 型 的 な 例 と し て タ イ 湾 に お け る 1 時 間 当 た り の 漁 獲 量 は 1961 年 の 250kg か ら 1999 年 に は 18kg に減少したとされている。 6/11 源 で あ る 。こ の よ う な 特 性 を 活 か し 、途 上 国 に お い て も 資 源 利 用 度 を 適 正 な レ ベ ル に 抑 え 、資 源 量 を 維 持 し 、漁 業 を 通 し て 生 活 の 安 定 を 図 る こ と が 重 要 で あ る 。し か し な が ら 、先 進 国 に お い て も 水 産 資 源 管 理 は 、試 行 錯 誤 の 中 で 10 年 単 位 の 年 月 と 相 応 の 予 算・人 員 を か け て 積 み 上 げ て こ ざ る を 得 な か っ た 経 緯 が あ り 、途 上 国 に お い て は 、ま ず は 行 政 と 漁 民 の 意 識 の 向 上 に は じ ま る 、 地 域 に 即 し た 息 の 長 い 取 り 組 み が 必 要 で あ る 。ま た 、水 産 資 源 の 保 全 に は 漁 業 面 か ら の 取 り 組 み だ け で は な く 、海 洋 環 境 の 保 全 、上 流 に あ る 森 林 や 河 川 の 管 理 等 、陸 域 と 水 域 の 生 態 系 を 念 頭 に 入 れ た 広 域 か つ 長 期 的 な 取 り 組 み が 必 要 で あ る 。さ ら に 、回 遊 性 の 魚 類 や 希 少 種 に つ い て は 、各 国 で の 取 り 組 み だけではなく、国境を越えた広域的な取り組みが必要となってくる。 2-3 開 発 戦 略 目 標 達 成 に 必 要 な 共 通 課 題 ( 1) キ ャ パ シ テ ィ ・ デ ィ ベ ロ ッ プ メ ン ト 上 記 3 目 標 を 達 成 す る た め に は 、漁 業 開 発 、水 産 加 工 、養 殖 や 資 源・環 境 調 査 の よ う な 技 術 面 の 強 化 と 同 時 に 、法 律 や 規 制 の 整 備 に よ る 行 政 面 の 強 化 やコミュニティーレベルでの活動や個人の意識の変革も必要である。社会、 組織及び個人が個別にあるいは共同してその役割を果たすことができるよ う な 問 題 解 決 能 力 の 向 上 と 、そ れ ら を 担 う 人 材 の 育 成 が 重 要 と な る( キ ャ パ シ テ ィ ・ デ ィ ベ ロ ッ プ メ ン ト )。 ( 2) 援 助 協 調 へ の 取 り 組 み サ ブ サ ハ ラ ア フ リ カ 地 域 を は じ め 多 く の 途 上 国 で は 、主 要 セ ク タ ー に お い て 包 括 的 な 課 題 に 対 応 す る た め の 援 助 協 調 が 多 く み ら れ 、水 産 分 野 に お い て も 資 源 管 理 等 、広 域 的 な 協 調 の 必 要 性 が 高 ま っ て い る 。援 助 協 調 に あ た っ て は 、当 該 国 に お け る わ が 国 の 協 力 の 位 置 づ け を 確 認 し つ つ 、積 極 的 に 調 整 機 能 を 果 た す こ と や 、情 報 発 信 を 行 う こ と が 重 要 で あ る 。新 規 案 件 に つ い て は 案件形成段階から他ドナーや関係機関と意見交換を行っていく必要がある。 ( 3) プ ロ グ ラ ム 化 の 推 進 個々のプロジェクトによる協力成果をさらに高次かつ面的広がりのある 協 力 と し て い く た め に 、技 術 協 力 、無 償 資 金 協 力 及 び 有 償 資 金 協 力 を 効 果 的 に組み合わせた援助ツールの活用や他ドナーとの連携を通じたプログラム 化を推進していく。 特 に 漁 村 開 発 プ ロ ジ ェ ク ト を 中 心 に 、無 償 資 金 協 力( 水 産 無 償 、草 の 根 無 償 、コ ミ ュ ニ テ ィ 開 発 支 援 無 償 等 )や 技 術 協 力 の 連 携 を こ れ ま で 以 上 に 推 進 し 、協 力 の イ ン パ ク ト の 拡 大 と 協 力 の 持 続 性 の 確 保 に 努 力 す る 。ま た 、水 産 関係の基礎インフラ整備等、広範囲な取り組みを支援する協力については、 有償資金協力を有効に活用したプログラムの形成を推進していく。 7/11 ( 4) ジ ェ ン ダ ー 配 慮 水 産 業 の 中 で も 漁 船 に よ る 操 業 は 、重 労 働 で あ る 上 、生 命 の 危 険 を 脅 か す こ と も あ り 、主 と し て 青 壮 年 男 性 の 仕 事 と な っ て い る 。こ の た め 、漁 村 部 に お い て 、一 般 的 に 女 性 や 高 齢 者 は 水 産 業 の 主 な 担 い 手 と し て は み な さ れ て い な い こ と が 多 い 。し か し な が ら 女 性 た ち は 沿 岸 部 に お け る 貝 類 等 の 採 集 業 を は じ め 、漁 網 の 修 理 や 漁 獲 物 の 加 工・販 売 を 受 け 持 つ な ど 、漁 村 部 に と っ て は重要な水産業の担い手となっている。 漁 村 開 発・水 産 開 発 に あ た っ て は 、ジ ェ ン ダ ー に 配 慮 し 、水 産 業 の 担 い 手 と し て の 女 性 の 立 場 は も と よ り 、生 活 改 善 等 の 場 に よ り 多 く の 女 性 が 参 加 で きる機会を提供し、エンパワーメントを図っていくことが重要である。 8/11 第 3 章 JICA の 協 力 方 針 3-1 全 体 方 針 国 の 発 展 度 合 い が 比 較 的 低 位 の L D C( 後 発 開 発 途 上 国 )に 分 類 さ れ る 国 に 対 し て は 、開 発 戦 略 目 標 1「 活 力 あ る 漁 村 の 振 興 」を 通 じ た 貧 困 削 減 を 最 優 先 と す る 。他 方 、国 の 発 展 度 合 い が 高 く な る に し た が い 、開 発 戦 略 目 標 1 「 活 力 あ る 漁 村 の 振 興 」と と も に 、国 全 体 の 食 料 と し て の 水 産 物 の 確 保 の 側 面 を 重 視 し た 開 発 戦 略 目 標 2「 水 産 資 源 の 有 効 利 用 」の 重 要 性 が 増 す と 考 え られる。 前 者 の 協 力 で は 、地 域 を 限 定 し た プ ロ グ ラ ム 協 力 の 一 環 と し て 開 始 さ れ る プ ロ ジ ェ ク ト が 想 定 さ れ る が 、プ ロ グ ラ ム が 形 成 さ れ な い 場 合 に お い て も 個別プロジェクトの中で総合的、セクター横断的な取り組みが必要となる。 ま た 、後 者 の 協 力 で は 、水 産 セ ク タ ー が 当 該 国 の 開 発 政 策 上 、重 要 な 位 置 を 占 め て い る こ と が 協 力 実 施 の 一 つ の 判 断 基 準 と な る 。特 に 、無 償 資 金 協 力( 水 産 無 償 )及 び 有 償 資 金 協 力 の 実 施 に 際 し て は 、国 家 レ ベ ル で の 食 料 安 全 保 障 あ る い は 産 業 活 性 化 等 の プ ロ グ ラ ム の 中 で 明 確 に 位 置 付 け ら れ て い る か 、ま た地方レベルにおける地域振興プログラムとの整合性についても確認する 必要がある。 な お 、水 産 セ ク タ ー の 将 来 的 な 自 立 発 展 性 や 持 続 性 に つ な が る 協 力 が 必 要 で あ る が 、収 益 性 が 国 際 価 格 に 大 き く 左 右 さ れ る 魚 介 類( エ ビ 等 )の 養 殖 や 熱 帯 海 域 で の 新 規 技 術 開 発 を 目 指 す 魚 介 類( カ キ 等 )の 養 殖 は 、プ ロ ジ ェ ク ト の 外 部 条 件 が 大 き く 、そ れ が 自 立 発 展 性 や 持 続 性 に 影 響 を 及 ぼ す こ と か ら プログラムやプロジェクトの形成にあたっては慎重を要する。 開 発 戦 略 目 標 3「 水 産 資 源 の 保 全 管 理 」 で は 、 国 単 位 で 資 源 保 全 や 沿 岸 の 産 卵 域 の 保 護 等 を 積 極 的 に 行 っ て い く こ と が 重 要 で あ る 。移 動 回 遊 性 魚 類 に つ い て は 、国 毎 の 取 り 組 み に 加 え 、海 域 を ひ と つ の 単 位 と す る 広 域 プ ロ グ ラ ムとして位置づけることが望ましいが、各国間の利害関係があることから、 国際機関との役割分担を明確にしておく必要がある。また、開発戦略目標 1 「 活 力 あ る 漁 村 の 振 興 」 あ る い は 開 発 戦 略 目 標 2「 安 定 し た 食 料 供 給 ( 水 産 資 源 の 有 効 利 用 )」 を 掲 げ た プ ロ ジ ェ ク ト に お い て は 、 目 標 達 成 の 必 要 条 件 と し て「 水 産 資 源 の 保 全 管 理 」を 協 力 の コ ン ポ ー ネ ン ト に 加 え る こ と と する。 一 方 、こ れ ま で の 協 力 に よ り 、カ ウ ン タ ー パ ー ト 機 関 の 能 力 が 向 上 し 、域 内 で 高 い 評 価 を 得 て 周 辺 国 に 対 す る 協 力 が 可 能 と な っ た 中 進 国 で は 、同 機 関 を 拠 点 と し た 第 三 国 研 修 や 第 三 国 専 門 家 派 遣 等 の 南 南 協 力 を 推 進 し 、南 南 協 力受入国における技術協力プロジェクトを補完することとする。 3-2 地 域 別 協 力 方 針 9/11 3-2-1 ア ジ ア 地 域 東 南 ア ジ ア の 多 く の 国 で は 年 間 百 万 ト ン 以 上 の 漁 獲 が あ り 、水 産 業 が 一 定 の レ ベ ル に 発 達 し て い る た め 、協 力 の 重 点 分 野 は 辺 境 、島 嶼 域 等 、都 市 部 と の 格 差 が 大 き い 漁 村 地 域 で の 貧 困 削 減 を 中 心 と す る 。特 に ラ オ ス 、カ ン ボ ジ ア等においては、低コストの粗放的内水面養殖を推進する。 南 西 ア ジ ア で は 漁 民 の 多 く が 零 細 漁 民 で 、最 貧 困 層 に 位 置 づ け ら れ て お り 、 今後とも漁村開発型の協力を実施していく。 3-2-2 大 洋 州 地 域 多 く の 国 が 小 島 嶼 開 発 途 上 国 ( Small Island Development States: SIDS) に 分 類 さ れ 、経 済 活 動 の 幅 が 限 定 さ れ て お り 、水 産 資 源 の 有 効 活 用 が 国 家 開 発 の 重 要 な 選 択 肢 と な っ て い る 。カ ツ オ・マ グ ロ 漁 業 や 海 面 養 殖 は 民 間 ベ ー ス の 事 業 と な っ て い る た め 、協 力 は 漁 村 開 発 型 の 資 源 管 理 に 配 慮 し た 持 続 的 沿 岸 漁 業 を 中 心 と す る 。協 力 の 効 率 性 の 観 点 か ら テ ー マ に よ っ て は 地 域 国 際 機関とも連携した広域協力の形成を図ることとする。 3-2-3 中 東 地 域 アラビア半島およびペルシャ湾岸では沿岸小規模漁業が発達しているが、 資 源 量 が 減 少 し て い る 魚 種 も あ り 、水 産 資 源 の 保 全 管 理 が 重 要 な 課 題 と な っ て い る 。ま た 、地 中 海 に 面 し た 国 で は 水 産 業 が 発 達 し て お り 、こ れ ま で 我 が 国 も 多 く の 水 産 分 野 の 協 力 を 実 施 し て き た 。今 後 は 必 要 に 応 じ 、水 産 業 振 興 を 目 的 と し た 協 力 を テ ー マ を 絞 り 込 ん で 実 施 す る と と も に 、北 ア フ リ カ に お いてはサブサハラアフリカを対象に第三国研修を中心とする南南協力を拡 大していくこととする。 3-2-4 中 南 米 地 域 協 力 の 実 施 に あ た っ て は 中 米・カ リ ブ 地 域 を 優 先 す る こ と と す る 。南 米 地 域 に お い て は 、経 済 レ ベ ル の 高 い 国( ア ル ゼ ン テ ィ ン 、チ リ 等 )へ の 協 力 を 控 え 、ペ ル ー 、エ ク ア ド ル 、コ ロ ン ビ ア 等 の 貧 困 度 合 い の 高 い 地 域 の 漁 村 開 発 を 重 点 と す る 。中 米・カ リ ブ 地 域 で は 住 民 参 加 型 の 資 源 管 理 を 組 み 合 わ せ た 持 続 可 能 な 沿 岸 漁 業 、小 規 模 養 殖 を 中 心 と し た 協 力 を 実 施 す る 。将 来 的 に は 、水 産 無 償 を 取 り 込 ん だ 漁 村 開 発 を 目 指 す こ と も 大 き な 課 題 で あ る 。カ リ ブ 海 地 域 で は 協 力 の 効 率 的 観 点 か ら 域 内 14 カ 国 1 地 域 で 構 成 す る カ リ ブ 共 同 体 ( CARICOM) を 通 し た 資 源 管 理 を 中 心 と し た 協 力 を 推 進 す る 。 3-2-5 ア フ リ カ 地 域 セネガルからアンゴラにかけての大西洋沿岸域では小規模沿岸漁業が発 達 し て お り 、水 産 業 は 同 地 域 の 重 要 な セ ク タ ー と し て 、食 料 供 給 、雇 用・所 得 の 確 保 の 面 で 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る 。ア フ リ カ で は 水 産 物 は 畜 産 物 よ り 10/11 安 価 で あ る こ と か ら 、動 物 性 タ ン パ ク 資 源 と し て 今 後 と も そ の 需 要 の 増 加 が 予 想 さ れ る 。し か し な が ら 沿 岸 域 で は 乱 獲 状 態 に あ り 、資 源 が 枯 渇 し か け て い る の が 現 状 で あ る 。よ っ て 資 源 管 理 に 配 慮 し た 持 続 的 沿 岸 漁 業 を 中 心 と し た 漁 村 開 発 の 推 進 が 協 力 の 中 心 と な る 。ま た 、資 源 の 有 効 活 用 の 観 点 か ら 零 細 漁 民 を 対 象 と し た 干 物 、燻 製 等 の 水 産 加 工 の 協 力 も 実 施 す る 。ま た 、ア フ リ カ 全 土 に お い て テ ィ ラ ピ ア 等 の 内 水 面 養 殖 の 需 要 が 高 い た め 、農 業 等 の 他 分野と組み合わせた農漁村開発を積極的に推進していく。 以上 11/11 水産課題体系図 以下に、本指針で述べる開発戦略目標を、「開発戦略目標」→「中間目標」 →「中間目標のサブ目標」と細分化した水産課題体系図を示す。 開発戦略目標 中間目標 1-1 1.活力ある漁村 1-2 漁業収入の増大 1-1-1 漁獲量の増大 1-1-2 漁獲物価格の適正化・価値の向上 1-1-3 漁業経費の削減 1-2-1 水産養殖による収入の増大 1-2-2 水産加工による収入の増大 1-2-3 漁業以外の収入の増大 1-3-1 漁村インフラの整備と環境保全 1-3-2 漁民の組織化 1-3-3 保健・教育水準の向上 2-1-1 適切な漁業技術の開発 2-1-2 適切な漁業技術の普及 2-1-3 無駄となる漁獲物の軽減 2-2-1 粗放的養殖の振興 2-2-2 集約的養殖の振興 水産食品の安全 2-3-1 食品品質保証・管理体制の強化 対策と品質管理 2-3-2 食の安全性に関する教育・普及活動 収入源の多角化 の振興 1-3 2-1 2-2 2.安定した食料 の供給 2-3 2-4 3-1 3.水産資源の 保全管理 3-2 中間目標のサブ目標 漁村の生活改善 漁業生産量の増大 水産養殖の振興 水産加工・流通の改 2-4-1 漁獲物処理・鮮度保持技術の向上 善と漁業基盤整備 2-4-2 水産加工技術の向上 2-4-3 漁港・魚市場等流通施設の整備 2-4-4 魚食の普及 3-1-1 資源調査体制の確立 3-1-2 評価方法の確立 3-1-3 漁獲統計収集体制の確立 3-2-1 漁獲許容量の設定 3-2-2 管理規則の策定 3-2-3 施行体制の構築 3-2-4 資源管理に対する意識の向上 水産資源評価 漁業管理 開発戦略目標 中間目標 3-3 3-3-1 環境モニタリング体制の確立 3-3-2 環境法の整備 3.水産資源の 3-3-3 環境保全に対する 意識の向上 保全管理 3-3-4 水域環境の改善・修復・造成 資源増殖の取り組 3-4-1 栽培漁業技術の確立 み 3-4-2 種苗生産・放流 3-4 漁場環境保全 中間目標のサブ目標 課 題 別 指 針 「水 産 」 第1章 水産分野の概要 1-1 水 産 業 の 推 移 魚 介 類 は 、 世 界 の 多 く の 国 に お い て 人 々 の 重 要 な 食 料 で あ り 、 FAO の 報 告 書 に よ れ ば 、 2006 年 に お け る 全 世 界 の 漁 業 総 生 産 量 は 144 百 万 ト ン に 達 し 、 そ の 内 110 百 万 ト ン が 食 料 と し て 利 用 さ れ 、摂 取 し て い る 動 物 性 タ ン パ ク の う ち 少 な く と も 15%を 魚 介 類 か ら 得 て い る 人 間 が 、全 世 界 で 29 億 人 以 上 い る 。 総 生 産 量 に お い て 、1950 年 の 約 20 百 万 ト ン と 2006 年 を 比 較 す る と 7 倍 の 伸 び と な っ て い る が 、こ の 間 、国 連 海 洋 法 の 制 定 に 伴 う 200 海 里 排 他 的 経 済 水 域 の 導 入 や 養 殖 の 隆 盛 等 、水 産 業 を め ぐ る 環 境 は 大 き く 変 化 し た 。す な わ ち 、海 に お け る 資 源 の 利 用 が 、持 続 的 利 用 可 能 量 の ほ ぼ 満 限 に ま で 達 す る か 過 剰 に 漁 獲 さ れ る 中 で 、各 国 は 海 洋 法 で 規 制 さ れ て い る 自 国 の 200 海 里 水 域 内の水産資源管理に取り組むと共に、公海においても地域漁業管理機関 1 を 通じて、マグロ等の高度回遊性魚種の資源管理を強化している状況にある。 現 在 は 漁 獲 に よ る 生 産 量 は 停 滞 し 、養 殖 に よ る 生 産 が 増 加 し て お り( 全 世 界 の 生 産 量 の う ち 3 分 の 1 が 養 殖 に よ っ て 賄 わ れ て い る )、 特 に 近 年 で は 、 中 国におけるダイズ搾りかすの飼料化にともなうコイ類の内水面養殖が急速 に伸びている。 1-2 開 発 途 上 国 に お け る 水 産 業 の 位 置 付 け 少 な い コ ス ト で 、技 術 的 に も 比 較 的 容 易 に 開 始 で き る 沿 岸 漁 業 は 、土 地 や 安定した収入源を持たない人々にとって生き残りや生活を安定させるため の 重 要 な 手 段 と な っ て い る 。し か し 、無 秩 序 な 新 規 参 入 者 の 増 加 は 、過 剰 な 漁 獲 競 争 や 資 源 へ の 過 剰 な 圧 力 を 招 き 、沿 岸 資 源 の 状 態 が 急 速 に 悪 化 し て い る 国 が 多 い 。ま た 、沿 岸 資 源 の 減 少 に よ り 、漁 業 活 動 が よ り 遠 方 の 海 域 に シ フ ト す る 傾 向 に あ る が 、沿 岸 漁 民 が 所 有 す る 漁 船 は 小 型 で 十 分 な 装 備 を 持 た ず 、航 海 技 術 も 未 熟 で あ る こ と か ら 、海 難 事 故 が 多 発 し て い る の が 実 状 で あ る。 ま た 、世 界 の 水 産 物 市 場 に と っ て 、開 発 途 上 国 に よ る 水 産 物 の 持 続 的 な 生 産 の 重 要 性 は 益 々 高 ま っ て い る が 、FAO の 公 式 発 表 に よ れ ば 、2005 年 に 開 発 途 上 国 か ら 輸 出 さ れ た 水 産 物 は 、全 世 界 の 水 産 物 輸 出 に お い て 、金 額 で 49%、 重 量 で 59%を 占 め て い る 。 す し 等 の 日 本 食 の 世 界 的 な 普 及 に と も な い 、 先 進 国 、中 進 国 に お け る 水 産 物 消 費 は 今 後 と も 拡 大 し て い く こ と が 予 想 さ れ て い るため、水産物は外貨獲得の重要な産品として位置づけられている。 1I O T C : イ ン ド 洋 ま ぐ ろ 類 委 員 会 、 I C C A T : 大 西 洋 ま ぐ ろ 類 保 存 国 際 委 員 会 等 が あ る 。 -1- このように、開発途上国における水産業は、食料供給、就業機会の創出、 現 金 収 入 、外 貨 獲 得 と い っ た 観 点 か ら 重 要 な 産 業 で あ る が 、資 源 管 理 の 不 備 や 環 境 の 悪 化 に よ る 資 源 の 減 少 や 枯 渇 と い う 問 題 を 併 せ 持 つ 分 野 で あ る 。特 に 、沿 岸 水 域 に お い て は 、そ の 底 辺 に 漁 村 に お け る 慢 性 的 な 貧 困 問 題 が あ る た め 、従 来 か ら の 漁 業 開 発 ア プ ロ ー チ で は な く 、支 援 の 対 象 を 漁 業 に 従 事 す る「 漁 民 」か ら 漁 村 に 住 む「 漁 村 民 」全 体 に 広 げ 、生 計 向 上 を 目 指 し た 漁 村 開 発 の 視 点 が 必 要 で あ る 。そ の た め に は 、資 源 の 保 存 や 管 理 を 図 り 、資 源 の 持続的利用に基づく漁村開発を進めることが喫急の課題となっている。 1-3 国 際 的 援 助 動 向 1970 年 代 後 半 ま で は 、 日 本 を 含 む 漁 業 先 進 国 は 、 領 海 12 海 里 ( 約 22km) 以 遠 の 公 海 自 由 の 原 則 の 下 、沿 岸 か ら 沖 合 、遠 洋 へ と 競 っ て 漁 業 活 動 を 拡 大 さ せ て い っ た 。こ の 時 代 の 水 産 援 助 は 、生 産 量 の 増 大 を 目 的 と し た 資 源 開 発 型 が 主 流 と な り 、新 し い 漁 業 技 術 や 養 殖 技 術 の 導 入 、技 術 訓 練 の 実 施 、水 産 関連施設及び船舶の供与等を中心としたものであった。 領 海 を め ぐ る 各 国 の 主 張 や 対 立 は 古 く か ら 続 い て い た が 、 1960 年 代 の ア ジ ア や ア フ リ カ 等 に お け る 各 国 の 独 立 を 契 機 と し て 、世 界 的 な 資 源 の 利 用 に か か る 権 益 の 調 整 が 必 要 と な り 、1982 年 に 第 三 次 国 連 海 洋 法 会 議 が 開 催 さ れ 、 「 海 洋 法 に 関 す る 国 際 連 合 条 約 」が 採 択 さ れ た 。こ の 条 約 で は 、各 国 の 沿 岸 200 海 里( 約 370Km)以 内 の 海 域 を 排 他 的 経 済 水 域( Exclusive Economic Zone: EEZ)と し 、各 国 の EEZ 内 の 魚 介 類 等 生 物 資 源 を 含 む 天 然 資 源 に 関 す る 権 利 、 管 轄 権 及 び 遵 守 す べ き ル ー ル 等 を 規 定 し た 。ま た 同 条 約 で は 、開 発 途 上 国 の ニーズを踏まえた水産資源の持続的利用と魚介類の生息の場としての海洋 環 境 に 関 す る 調 査 、監 視 、教 育 等 の 支 援 の 必 要 性 も 規 定 さ れ 、は じ め て 資 源 管理に関する国際協調の重要性が指摘された。 続 い て 、 1992 年 に ブ ラ ジ ル で 開 催 さ れ た 国 連 環 境 開 発 会 議 ( 地 球 サ ミ ッ ト )で は 、資 源 の 持 続 可 能 な 開 発 、生 物 多 様 性 の 保 護 が テ ー マ と し て 議 論 さ れ 、世 界 的 な 環 境 配 慮 の 必 要 性 を 国 際 社 会 に 強 く ア ピ ー ル す る 機 会 と な っ た 。 水 産 分 野 に お い て も 、資 源 と 環 境 に 配 慮 し た 取 り 組 み が 求 め ら れ る よ う に な り 、そ の 結 果 、海 洋 生 物 資 源 の 持 続 的 利 用 と 漁 業 の 発 展 の た め の 包 括 的 な 規 範 を 示 し た 「 責 任 あ る 漁 業 の た め の 行 動 規 範 」 が 1995 年 に FAO で 採 択 さ れ た 。 さ ら に 同 じ く 1995 年 に FAO で 採 択 さ れ た 「 食 料 安 全 保 障 の た め の 漁 業 の 持 続 的 貢 献 に 関 す る 京 都 宣 言 及 び 行 動 計 画 」に よ り 、水 産 分 野 は 世 界 の 貧 困緩和に貢献しうる重要なセクターとして認知されるようになった。 こ の よ う な 世 界 的 な 潮 流 の 中 で 、水 産 分 野 に お け る 援 助 も 生 産 量 の 増 大 を 主 眼 と し た 協 力 か ら 、資 源 や 環 境 に 配 慮 し つ つ 、水 産 業 を 持 続 的 に 営 ん で ゆ く た め の 体 制 構 築 や 人 材 育 成 等 、ソ フ ト 面 を 重 視 す る ア プ ロ ー チ に 移 行 し て い っ た 。現 在 、世 界 人 口 の 約 半 数 は 沿 岸 か ら 100Km 以 内 に 居 住 し 、今 後 も さ ら に 増 加 す る と 予 測 さ れ て い る と こ ろ で あ り 、沿 岸 地 域 へ の 人 口 集 中 は 更 な -2- る水産資源への負荷を招くと懸念されることから環境と開発のあり方が一 層重要性を増すと考えられる。 ま た 、援 助 対 象 も 行 政 中 心 か ら 、住 民 参 加 型 へ と 移 行 し 、ボ ト ム ア ッ プ 型 ア プ ロ ー チ に よ る 案 件 が 増 え る 傾 向 に あ り 、こ こ 数 年 は 産 業 と し て の 水 産 開 発から沿岸漁村民の生計向上を目指す漁村開発へのシフトが進んでいる。 1-4 我 が 国 の 援 助 動 向 水 産 に お け る こ れ ま で の JICA の 協 力 は 、 漁 業 開 発 、 資 源 管 理 、 流 通 、 水 産 加 工 、養 殖 、環 境 保 全 、水 産 行 政 、漁 村 開 発 等 、多 岐 に わ た る 。各 々 の 協 力の歴史と特徴は以下のとおりである。 1-4-1 漁 業 開 発 1970 年 代 初 期 よ り 、漁 獲 対 象 魚 種 の 拡 大 や 漁 獲 効 率 の 向 上 を 目 的 と し た 技 術 指 導 や 漁 具・漁 船 の 供 与 が 始 ま っ た 。1980 年 代 後 半 に は 利 用 可 能 な 資 源 の 利 用 が 満 限 に 近 づ き 、世 界 的 に「 持 続 的 漁 業 」が 導 入 さ れ た こ と か ら 、資 源 開 発 型 か ら 資 源 維 持 管 理 型 の 漁 場 環 境 、資 源 管 理 、水 産 加 工 や 流 通 シ ス テ ム の改善等の協力へと変化している。 1-4-2 資 源 管 理 資 源 の 調 査 は 漁 業 開 発 と の 関 連 が 深 く 、1970~ 80 年 代 は 、新 漁 場 や 新 魚 種 開 発 を 目 的 と し た 水 産 資 源 調 査( 開 発 調 査 )や 漁 業 資 源 調 査 船 の 供 与( 無 償 資 金 協 力 )が 主 要 な 協 力 で あ っ た 。し か し な が ら 近 年 は 、限 り あ る 資 源 を 持 続 的 か つ 有 効 に 利 用 す る た め に 様 々 な 規 制 を 行 う 必 要 が あ る こ と か ら 、資 源 動態調査技術や最大持続生産量の推定などの資源評価手法及び漁業の管理 方 策 に 関 す る 協 力 が 増 加 し て い る 。ま た 、資 源 の 管 理 に 関 連 し て 資 源 培 養 技 術(種苗放流)及び生態環境保全等の協力も増加している。 1-4-3 流 通 1980 年 代 か ら 漁 港 を は じ め と す る 水 産 流 通 基 盤 の 整 備 が 実 施 さ れ て き た 。 1990 年 代 後 半 か ら は 漁 港 整 備 と 共 に 、付 随 す る 市 場 、加 工 に 関 わ る 機 能 の 整 備・強化の支援が増加した。また、漁業開発や養殖分野の協力においても、 生 産 面 の み な ら ず 、市 場 と 流 通 に 関 す る 現 状 把 握 が 必 要 不 可 欠 と な っ て い る 。 1-4-4 水 産 加 工 以 前 ま で は 加 工 品 開 発 や 食 品 衛 生 、品 質 管 理 に 関 す る 試 験 研 究 機 関 に 対 す る 協 力 が 多 く 、流 通 や 漁 業 開 発 、養 殖 に 関 わ る 協 力 の 中 で 、消 費 拡 大 や 付 加 価 値 向 上 の 手 段 と し て 組 み 込 ま れ る こ と が 多 か っ た 。そ の 一 方 、漁 村 で の 女 性 支 援 の 一 環 と し て 地 域 の 特 性 に 合 っ た 干 物 、燻 製 品 等 の 技 術 指 導 も 実 施 し ており、今後は貧困削減策として期待される分野の一つである。 -3- 1-4-5 養 殖 養 殖 に 関 す る 協 力 は 漁 業 開 発 に 次 い で そ の 歴 史 は 古 い 。1970 年 代 末 か ら サ ケ・マ ス 資 源 の 培 養 、海 産 魚 の 養 殖 技 術 支 援 が 行 わ れ て き た 。1980 年 代 後 半 か ら 90 年 代 前 半 ま で は 、 世 界 的 な エ ビ の 生 産 ブ ー ム と 重 な り 、 エ ビ の 汽 水 養 殖 支 援 が 東 南 ア ジ ア を 中 心 に 展 開 さ れ た 。そ の 後 、協 力 対 象 地 域 が さ ら に 拡 大 さ れ 、比 較 的 大 規 模 な 養 殖 形 態 で 実 施 さ れ た が 、2000 年 に 入 っ て エ ビ の 国際価格が下落したため、エビ養殖に対する協力ニーズは激減した。 一 方 、1990 年 代 後 半 か ら は 、貧 困 削 減 の 観 点 か ら も 養 殖 分 野 が 注 目 さ れ 、 農 村 開 発 や 地 域 振 興 の 一 環 と し て 、出 費 が 少 な く 農 民 で も 参 入 可 能 な 、コ イ やティラピアを中心とした粗放的内水面養殖への支援が実施されるように な っ た 。ま た 海 面 で も 、内 水 面 養 殖 と 同 様 、漁 民 を 対 象 と し た 貝 類 や ミ ル ク フィッシュの養殖支援を行っている。 し か し な が ら 、こ れ ま で の 養 殖 分 野 の 協 力 は 、試 験 研 究 レ ベ ル で の 技 術 開 発 を プ ロ ジ ェ ク ト 目 標 と し た た め 、漁 民 へ の 技 術 普 及 は 先 方 政 府 の 自 助 努 力 に委ねられ、期待どおりの普及成果が得られなかったケースも散見された。 ま た 、熱 帯 海 域 で の 新 規 養 殖 技 術 の 確 立 に は 不 確 定 要 素 が 多 く 、当 初 の 予 定 期間内での目標達成が困難となるケースもあるので慎重な対応が必要であ る。 1-4-6 環 境 保 全 こ の 分 野 の 協 力 は 比 較 的 新 し い が 、漁 業 資 源 の 保 全・管 理 と 密 接 な 関 わ り を 持 つ こ と か ら 1990 年 代 半 ば か ら 魚 介 類 生 息 の 場 と し て の 水 域 環 境 実 態 調 査 技 術 や モ ニ タ リ ン グ 、 水 域 環 境 保 全 ( 水 質 保 全 )、 サ ン ゴ 礁 保 全 、 マ ン グ ロ ー ブ 林 保 全 、海 洋 保 護 区 設 定 等 の 支 援 を 行 っ て い る 。環 境 保 全 で 特 に 重 要 と な る の は 、魚 介 類 の 産 卵 場 所 で あ り 、幼 魚 の 生 育 場 所 で も あ る 沿 岸 域 の 保 全 で あ る 。水 質 汚 染 等 に よ る 藻 場 や サ ン ゴ 礁 の 消 失 、マ ン グ ロ ー ブ 林 の 伐 採 に よ り 、資 源 の 再 生 産 能 力 が 激 減 し て い る の が 現 状 で あ る 。こ の た め 、安 定 し た 漁 業 活 動 の た め に は 、水 産 資 源 管 理 と 沿 岸 域 の 環 境 保 全 を 同 時 並 行 で 取 り組んでいく必要がある。近年は資源管理に必要な資源環境調査技術の他、 人工魚礁の設置等の環境改善策が同時に実施されることも多い。 1-4-7 水 産 行 政 こ れ ま で 主 と し て 開 発 調 査 や ア ド バ イ ザ ー 型 専 門 家 派 遣 を 通 し て 、水 産 行 政 へ の 直 接 的 支 援 や 水 産 学 系 大 学 、水 産 専 門 校 等 へ の 人 材 育 成 に 関 わ る 協 力 を 行 い 、途 上 国 に お け る 水 産 セ ク タ ー 全 体 の 底 上 げ に 貢 献 し て き た 。対 象 国 は 、歴 史 的 に 海 面 漁 業 が 重 要 な セ ク タ ー で あ る ア ジ ア 、大 洋 州 及 び 西 ア フ リ カの国が多い。 -4- 1-4-8 漁 村 開 発 上 記 の と お り 、こ れ ま で の 水 産 分 野 の 協 力 は 途 上 国 の 水 産 業 の 振 興 に 力 点 がおかれてきたが、貧困の削減や人間の安全保障の視点から、そこに住む 人 々( 漁 村 民 )の 生 活 の 向 上 を 考 え 、漁 民 だ け で は 対 応 が 困 難 な 資 源 の 枯 渇 や 水 産 物 価 格 の 下 落 な ど の 問 題 に 取 り 組 ま な け れ ば な ら な い 。そ の た め に は 、 資 源 の 保 全 管 理 や 養 殖 、簡 易 な 水 産 加 工 、流 通 へ の 支 援 や 、そ れ と 同 時 に 農 業 等 の 他 分 野 や 識 字 教 育 、保 健 医 療 等 の 社 会 開 発 に 対 す る 支 援 も 行 い 、総 合 的な漁村開発型の協力に転換していく必要がある。 JICAの水産協力の動向 -5- 第2章 水産協力の考え方と目標 2-1 水 産 の 特 性 水 産 の 特 性 の 第 1 は 、自 律 的 に 資 源 を 回 復 す る 再 生 産 能 力 を 有 す る こ と で あ る 。水 産 資 源 は 人 為 的 な 投 入 が な く と も 自 然 環 境 の 中 で 食 物 連 鎖 を 通 じ て 成 長・繁 殖 す る 特 性 を 有 し 、一 定 量 を 漁 獲 し て も 資 源 水 準 を 低 下 さ せ る こ と の な い 再 生 可 能 な 資 源 で あ る 。ま た 、産 卵 数 が 多 い こ と や 成 長 が 早 い こ と か ら 資 源 の 弾 力 性 も 高 い 。他 方 、水 温 や 流 動 等 の 環 境 変 動 や 環 境 破 壊 に よ る 生 息 環 境 の 悪 化 や 乱 獲 に よ り 資 源 が 減 少・枯 渇 す る と い っ た 側 面 も 有 し て い る 。 従 っ て 、水 産 資 源 を 持 続 的 に 利 用 す る た め に は 、環 境 変 動 に よ る 資 源 量 の 減 少 を 考 慮 し 、漁 獲 量 を 資 源 の 再 生 産 能 力 を 超 え な い 水 準 に 抑 え る と 共 に 生 息 環 境 の 保 全 に 努 め る 必 要 が あ る 。既 に 資 源 が 減 少 し て い る 場 合 に は 、一 時 的 な 漁 獲 量 の 制 限 と 共 に 、資 源 回 復 を 加 速 す る た め の 種 苗 の 放 流 や 生 息 環 境 の 修復などの対策が必要である。 第 2 の 特 性 は 、水 産 資 源 に は 移 動 回 遊 性 が あ り 、個 々 の 所 有 権 が 主 張 さ れ な い 無 主 物 と し て の 性 質 が 強 い 点 で あ る 。こ の こ と が 獲 れ る 時 に 獲 れ る だ け 獲るという経済性優先の操業を招く原因にもなっている。 第 3 の 特 性 は 、日 々 の 漁 獲 量 の 変 動 や 中・長 期 的 な 資 源 動 向 の 把 握 が 困 難 で 、不 確 実 性 が 高 い こ と で あ る 。こ の 点 が 天 候 等 に 左 右 さ れ る 側 面 は あ る も のの、年間を通して収穫の予想が可能な農業と大きく異なる特性である。 第 4 の 特 性 は 、水 産 物 は 常 温 で 食 品 と し て 劣 化 し や す い こ と で あ る 。特 に 冷蔵施設がない場合、熱帯域でのハーベストロスは顕著である。このため、 流通基盤の整備や、加工及び品質・衛生管理技術の向上が必要となる。 2-2 水 産 協 力 の 目 的 水 産 協 力 の 目 的 は 、① 国 民 へ の 食 料 の 安 定 供 給 と い う 食 料 安 全 保 障 の 確 保 ②良質の栄養分 2 の供給による栄養不良の解消 ③貧困層への生計手段の提 供 に よ る 貧 困 削 減 の 3 つ に 集 約 で き る 。し か し な が ら 、地 域 が 限 定 さ れ た 漁 村 開 発 に せ よ 、全 国 を 対 象 と し た 水 産 物 の 安 定 供 給 に せ よ 、持 続 可 能 な 資 源 の 確 保 が そ の 前 提 と な る 。人 々 が 利 用 す る 水 産 資 源 と そ の 生 息 環 境 が 健 全 で なければ、持続性は保てない。 多くの途上国においては主要な食料の確保は主として農産物が占める割 合 が 多 い た め 、水 産 協 力 の 大 き な 目 的 は 、① ② と い う よ り は む し ろ ③ に 水 産 を 含 め た 幅 広 い 漁 村 開 発 を 通 し た 貧 困 削 減 と 位 置 付 け る こ と が で き る 。こ れ ら を 踏 ま え 、「 水 産 協 力 」 の 3 つ の 開 発 戦 略 目 標 を 次 の と お り 設 定 す る 。 2 魚にはタンパク質、必須脂肪酸、ビタミン、ミネラルなどバランスのとれた栄養素が含まれる。 -6- 開発戦略目標1 活力ある漁村の振興 開発戦略目標2 安定した食料供給(水産資源の有効利用) 開発戦略目標3 水産資源の保全管理 ※ 本指針における「漁村」は、海岸部の漁村だけを意味するのではなく、 内水面での漁業や養殖を兼業する農村も含まれる。 貧困削減の手段としての水産 開発戦略目標 1 キャパシティ・ディベロップ 活力ある漁村の振興 漁村開発 開発戦略目標 3 水産資源の保全管理 食料としての水産物の確保 開発戦略目標 2 安定した食料供給 (水産資源の有効利用) 漁業開発 こ れ ら の 3 つ の 開 発 戦 略 目 標 を 、地 域( 場 )と し て の 漁 村 開 発 の 軸 と セ ク タ ー( 産 業 )と し て の 水 産 開 発 の 軸 と で 捉 え る と 、目 標 1 は 貧 困 削 減 の 手 段 と し て の 水 産 の 側 面 が 強 い 。目 標 2 は 食 料 と し て の 水 産 物 の 確 保 の 側 面 が 強 く 、こ れ ら 2 つ の 目 標 は 国 の 発 展 度 合 い に よ り 、そ の 優 先 度 が 判 断 さ れ る も の で あ る 。目 標 3 は 、漁 村 振 興 と 水 産 開 発 の 両 軸 に ま た が る も の で あ り 、乱 獲 が 著 し い 途 上 国 で は 、資 源 の 保 全 管 理 に 特 化 し た 取 り 組 み が 急 務 で あ る が 、 制 度 面 の 整 備 の み な ら ず 、他 の 目 標 と 同 時 並 行 で 取 り 組 む こ と に よ り 、現 場 における資源の保全管理が定着することとなる。 -7- 開発戦略目標1 活力ある漁村の振興 漁 村 の 貧 困 問 題 の 解 決 に は 、持 続 的 漁 業 の 正 し い 理 解 や 適 切 な 技 術 の 選 択 を 通 し た 、家 計 収 入 を 安 定 化 す る た め の 地 道 な 支 援 及 び 農 業 等 の 他 産 業 や 教 育 、保 健 医 療 等 の 社 会 開 発 を 含 め た 包 括 的 な 取 り 組 み が 必 要 で あ る 。こ の た め 、漁 村 振 興 に あ た っ て は 、従 来 の 漁 業 開 発 型 協 力 の 支 援 対 象 で あ っ た 漁 民 だ け で な く 、漁 村 に 住 む 全 住 民( 漁 村 民 )を 対 象 と す る よ う に 協 力 の 範 囲 を 拡 大 す る 必 要 が あ る 。ま た 、持 続 的 漁 業 の 前 提 と な る 漁 獲 の 抑 制 に は 、そ の レベルの漁獲量でも生計を維持できるだけの家計収入の確保が必要となる た め 、漁 民 だ け で な く 、そ の 他 の 住 民 を 含 め た 幅 広 い 視 点 か ら の 検 討 が 重 要 となってくる。 開発戦略目標2 安定した食料供給(水産資源の有効利用) 急 激 な 人 口 増 加 に 伴 い 、多 く の 途 上 国 で は 食 料 の 不 足 と い う 重 大 な 問 題 に 直 面 し て お り 、水 産 資 源 を は じ め と す る 天 然 資 源 の 収 奪 に 一 層 の 圧 力 が 加 わ っ て い る 。 一 方 、 2007 年 の FAOの 推 定 に よ れ ば 、 水 産 資 源 の 約 20%に は ま だ 利用の余地があるとされており、地域によっては更なる利用が可能である。 また、漁獲後の投棄 3 や鮮度落ち、腐敗などによる漁獲後の減耗のため、実 際に漁獲されたもののうち食料として利用される割合は 3 分の 2 程度でしか な い 。こ の よ う に 食 料 生 産 の 増 大 に は 生 産 量 の 拡 大 だ け で な く 、利 用 方 法 の 改善も重要な課題である。 開発戦略目標3 水産資源の保全管理 FAOの 推 定 に よ れ ば 、 水 産 資 源 の 28%が 限 界 以 上 の 過 剰 漁 獲 状 態 に あ り 、 急 速 に 資 源 が 減 少 し て い る と 警 告 し て い る 。し か し 、水 産 資 源 は 鉱 物 資 源 と は 異 な り 、一 定 限 度 内 の 漁 獲 で あ れ ば 、自 律 的 に 回 復 す る 再 生 産 可 能 な 資 源 で あ る 。こ の よ う な 特 性 を 活 か し 、途 上 国 に お い て も 資 源 利 用 度 を 適 正 な レ ベ ル に 抑 え 、持 続 的 な 資 源 量 を 維 持 し 、漁 業 を 通 し て 生 活 の 安 定 を 図 る こ と が 重 要 で あ る 。し か し な が ら 、先 進 国 に お い て も 水 産 資 源 管 理 は 、試 行 錯 誤 の 中 で 10 年 単 位 の 年 月 と 相 応 の 予 算 ・ 人 員 を か け て 積 み 上 げ て こ ざ る を 得 な か っ た 経 緯 が あ り 、途 上 国 に お い て は 、ま ず は 行 政 と 漁 民 の 意 識 の 向 上 に 始 ま る 地 域 に 即 し た 息 の 長 い 取 り 組 み が 必 要 で あ る 。ま た 、国 連 海 洋 法 条 約 4 では、沿岸国の排他的経済水域における生物資源に関して保存措置及び管 理 措 置 を 確 保 す る こ と が 明 記 さ れ て お り 、こ れ ら の 措 置 に つ い て 科 学 的 根 拠 に 基 づ き 計 画・実 施 す る 能 力 を 高 め る た め の 協 力 は 重 要 で あ る 。他 方 、水 産 資 源 の 保 全 に は 漁 業 面 か ら の 取 り 組 み だ け で は な く 、海 洋 環 境 の 保 全 、上 流 に あ る 森 林 や 河 川 の 管 理 等 、陸 域 と 水 域 の 生 態 系 を 念 頭 に 入 れ た 長 期 的 な 取 3 4 例 え ば 、 エ ビ を 漁 獲 対 象 と し た ト ロ ー ル 網 漁 業 で は 、 曵 網 に よ る エ ビ の 漁 獲 比 率 は 1~ 2 割 程 度 と さ れ 、エ ビ 以 外 の 漁 獲 物 は 価 格 が 低 く 、漁 船 の 冷 凍 容 量 が 限 ら れ て い る な ど の 理 由 で 、そ の 場 で 投 棄 さ れ る 場 合 が 多 い (混 獲 投 棄 )。 1994 年 11 月 に 発 効 。 条 約 締 約 国 は 2009 年 6 月 現 在 、 158 国 と な っ て い る 。 -8- り組みとともに、国境を越えた広域的な取り組みも必要となってくる。 2-3 水 産 協 力 に 対 す る 効 果 的 ア プ ロ ー チ 2-3-1 開 発 戦 略 目 標 1 活 力 あ る 漁 村 の 振 興 漁村振興の方策として基本となるのは、経済状況の改善と漁村を取り巻く 生 活 状 況 の 改 善 で あ る 。収 入 の 増 加 と 安 定 化 の た め の 方 策 と し て は 、漁 獲 量 の拡大が挙げられるが、未利用・低利用資源の活用や漁獲物の公正な取引、 漁 業 経 費 の 削 減 等 に よ り 、水 産 資 源 に 過 剰 な 負 荷 を か け な く と も こ れ ま で 以 上の食料や現金収入を得ることも可能である。また、魚を獲るだけでなく、 水 産 養 殖 、水 産 加 工 、海 洋 観 光 の よ う な 周 辺 事 業 を 組 み 合 わ せ た り 、農 業 等 の 他 産 業 を 取 り 組 み に 加 え る こ と が で き れ ば 、雇 用 機 会 や 収 入 が 増 え 、よ り 安 定 し た 生 計 を 営 む こ と が 可 能 と な る 。漁 村 振 興 の も う 一 つ の 方 策 で あ る 生 活 状 況 の 改 善 策 と し て は 、漁 民 が 人 間 と し て 基 本 的 生 活 を 送 る こ と の で き る 仕 組 み の 構 築 と 漁 村 の 保 健 医 療・教 育 サ ー ビ ス 、水・電 気・通 信・道 路 等 の 生活基盤の整備が重要となる。 漁 村 の 振 興 に あ た っ て は 、水 産 開 発 プ ロ ジ ェ ク ト が 主 に 漁 業 に 従 事 し て い た 漁 民 を 対 象 者 と し て 限 定 し て い た 従 来 の 考 え 方 か ら 、漁 村 に 住 む 漁 民 以 外 の 住 民 を 含 ん だ 「 漁 村 民 ( 沿 岸 域 住 民 )」 に 対 象 を 拡 大 す る と い う 協 力 へ の 転換が必須となる。 中 間 目 標 1-1 漁 業 収 入 の 拡 大 漁 業 収 入 を 増 大 さ せ る 手 段 と し て は 、漁 獲 量 の 拡 大 は も と よ り 、漁 獲 物 の 適 正 価 格 に よ る 公 正 な 取 引 、付 加 価 値 の 向 上 、漁 業 経 費 の 削 減 が 考 え ら れ る 。 (1) 漁 獲 量 の 拡 大 漁 獲 対 象 と な っ て い な い 、あ る い は 低 利 用 の 資 源 が 存 在 す る 場 合 は 、新 魚 種 を 対 象 と し た 操 業 、新 た な 漁 具・漁 法( 例 え ば 、定 置 網 や 立 延 縄 等 )の 導 入 に よ り 、漁 獲 量 を 増 加 さ せ る こ と が 可 能 で あ る が 、以 下 の 点 に 留 意 す る 必 要がある。 ● 漁獲物市場の確認(地場消費、輸出先基準等) ● 新たな漁具・漁法が広く普及する可能性の確認(技術レベル、導入 経費等) ● 中長期的な漁獲量変動の確認 -9- (2) 漁 獲 物 の 適 正 価 格 に よ る 取 引 漁 獲 物 販 売 が 相 対 取 引 で 行 わ れ る 場 合 、価 格 決 定 は 仲 買 人 に 有 利 に な る こ と が 多 い 。こ の た め 、一 定 量 以 上 の 魚 介 類 を 安 定 的 に 集 荷 す る 市 場 を 成 立 さ せ る 、産 地 直 送 販 売 を 行 う 、小 売 価 格 情 報 を 提 供 し て 漁 民 の 意 識 改 革 を 行 う 等の対策が有効となる。 (3) 付 加 価 値 の 向 上 漁 獲 後 の 魚 介 類 を 衛 生 的 か つ 消 費 者 の ニ ー ズ に 応 じ 、適 正 に 取 り 扱 う こ と により、より高値の販売が可能となる。鮮度の低下した魚介類についても、 ふ さ わ し い 加 工 法 や 料 理 方 法 を 提 案 す る こ と に よ り 、市 場 価 値 を 高 め る こ と が 可 能 と な る 。さ ら に 、水 産 食 品 が 有 す る 栄 養 面 の 特 長 を 宣 伝 す る こ と も 潜 在的な需要を掘り起こす方策として中長期的に重要である。 (4) 漁 業 経 費 の 削 減 漁 具 の 購 入 、漁 船 の 建 造 費 用 や 燃 料 代 、そ の た め の 借 入 金 の 利 払 い が 漁 業 の 収 支 を 圧 迫 し て い る 場 合 、以 下 の よ う な 方 法 に よ り 経 費 が 削 減 で き る 可 能 性がある。 ● 漁民の組織化と漁業資材の共同購入、燃料の一括・直接取引、マイ クロ・クレジット等の低利融資の活用 ● 購入価格、燃料費、維持費等を考慮した適正規模の漁船の選択 ● 資材費や操業経費が少ない漁具・漁法の改良 ● 個々の漁家レベルでの経営改善 JICA の 取 り 組 み の 現 状 魚 価 の 適 正 化 に 有 効 な 公 開 取 引 の た め の 市 場 施 設 の 整 備 と 運 営 、漁 具 や 燃 料 の 共 同 購 入 、漁 業 者 の 出 資 や 貯 金 を 原 資 に し た 低 利 融 資 を 目 的 と し た 漁 民 の 組 織 化( 漁 業 協 同 組 合 の 設 立 を 含 む )に 関 す る 協 力 が 多 い 。青 年 海 外 協 力 隊 に よ る 指 導 レ ベ ル か ら 、技 術 協 力 プ ロ ジ ェ ク ト 、開 発 調 査 に よ る パ イ ロ ッ トプロジェクトにおいて長年取り組んでいる。 中 間 目 標 1-2 収 入 源 の 多 角 化 漁 業 関 連 の 収 入 源 と し て は 、水 産 養 殖 、水 産 加 工 、海 洋 観 光 等 が 考 え ら れ る 。ま た 、水 産 以 外 の 農 業・畜 産 と い っ た 分 野 や 、コ ミ ュ ニ テ ィ 内 で 着 手 可 能 な 分 野 に お け る 収 入 源 に 関 し て も 、現 地 の 事 情 に 即 し た 検 討 を 行 う 必 要 が ある。 -10- (1) 水 産 養 殖 養 殖 業 は 収 入 源 の 多 角 化 に 大 き く 寄 与 す る 。特 に 、内 水 面 の 粗 放 的 養 殖 が 可 能 な 地 域 で は 、初 期 投 資 、運 営 資 金 を 低 く 抑 え る こ と が で き る た め 、農 民 が 容 易 に 養 殖 業 に 参 加 す る こ と が 可 能 で あ り 、農 畜 産 を 組 み 合 わ せ た 複 合 的 養殖は漁村部の効率的な栄養循環を形成する。 貝 類 や 海 藻 類 を 対 象 と し た 海 面 の 粗 放 的 養 殖 を 行 う 場 合 に も 、天 然 餌 料 が 主 体 と な る た め 比 較 的 経 費 が 少 な く て 済 み 、日 常 的 な 労 力 も か か ら な い の で 漁民が副業として容易に始めることが可能である。 集 約 的 養 殖 の 振 興 は 、加 工 や 流 通 な ど の 関 連 分 野 で の 雇 用 拡 大 や 外 貨 獲 得 な ど に よ り 、間 接 的 に 貧 困 削 減 に 寄 与 す る も の と 考 え ら れ る が 、内 水 面 や 海 面 を 問 わ ず 企 業 経 営 的 な 側 面 が 強 く 、貧 困 層 の 漁 民 に 直 接 利 益 を も た ら す こ とが少ないため、その扱いについては慎重を要する。 (2) 水 産 加 工 魚 介 類 に は 、 国 ・地 域 に よ る 嗜 好 性 が あ り 、 腐 敗 し や す い と い う 弱 点 が あ る が 、現 地 の 条 件 に 合 わ せ た 加 工 方 法 を 確 立 で き れ ば 、零 細 漁 民 の 収 入 を 増 加させることが可能である。 そのためには、以下の点に留意する必要がある。 ● ● ● ● 水産加工に従事する女性の参加 加工品の販路 漁業協同組合等の共同出資による様々な簡易加工の検討 共同販売店の開設・経営などの模索 (3) 海 洋 観 光 ( レ ジ ャ ー ) 遊 漁 、マ リ ン ス ポ ー ツ 、イ ル カ や ク ジ ラ 等 の 海 生 哺 乳 類 の 観 察 等 、海 洋 及 び 内 水 面 の 観 光 資 源 は 豊 富 で あ り 、水 産 資 源 と 関 係 す る マ リ ン レ ジ ャ ー や 漁 業 体 験 等 を 導 入 す る こ と に よ り 宿 泊 施 設 や 食 堂 、土 産 物 等 で の 雇 用 も 創 出 さ れ る 可 能 性 が あ る 。な お 、海 面 利 用 や 魚 介 類 の 採 捕 を め ぐ っ て の 漁 民 間 の 軋 轢や観光業による地域社会への影響に留意する必要がある。 JICA の 取 り 組 み の 現 状 漁村開発の重要なコンポーネントとして小規模養殖の試験研究や簡易な 水 産 加 工 技 術 の 開 発・普 及 を 専 門 家 や 協 力 隊 が 実 施 し て い る 。内 水 面 養 殖 に お い て は 、貧 困 層 を 最 終 受 益 者 と し 、粗 放 的 養 殖 技 術 を ベ ー ス と し た 種 苗 生 産から普及までをカバーした技術協力プロジェクトを実施している。 -11- 中 間 目 標 1-3 漁 村 の 生 活 改 善 の 推 進 活 力 あ る 漁 村 の 振 興 と は 、幅 広 い 分 野 に お け る 漁 村 の 近 代 化 を 推 進 す る こ と で あ る が 、従 来 、漁 村 の 近 代 化 や そ の プ ロ セ ス は 中 央 政 府 や 近 隣 都 市 と の 関 係 を 通 し た 外 か ら の 近 代 化 が 大 勢 を 占 め て い た 。こ の よ う な 一 方 通 行 的 な 外 部 か ら の 近 代 化 に お い て は 、地 域 住 民 、漁 民 の ニ ー ズ や 開 発 受 容 能 力 が 十 分 に 配 慮 さ れ て き た と は 言 え な い 。開 発 途 上 国 も 地 方 分 権 化 の 時 代 を 迎 え て い る た め 、地 域 の ニ ー ズ を 束 ね て 、支 援 の 受 け 皿 を 形 成 し 、末 端 行 政 に つ な げていくことも重要な協力のポイントとなってくる。 ま た 、生 活 改 善 を 推 進 す る に あ た り 、そ の 対 象 は 個 々 の 住 民 や 漁 民 、地 域 の 共 同 体 に 属 す る グ ル ー プ で あ っ た り す る が 、種 々 の 生 活 向 上 や 改 善 へ 向 け た 積 極 的 な 態 度 、意 欲 が 事 業 の 実 施 と 持 続 性 に 重 大 な 影 響 を 与 え る 。同 時 に 、 その後に続くより大きな事業や開発のプロセスに対する参加の度合いにも 大きく影響することから、小さな生活環境の改善等を プロジェクト初期の事業活動に組み入れる等の工夫が重要となってくる。 (1) 漁 村 に お け る 生 活 基 盤 整 備 と 環 境 保 全 農 地 を 保 有 す る 農 民 と 比 べ て 漁 民 は 財 産 や 権 利 が 少 な く 、そ の 国 の 最 貧 困 グ ル ー プ に 属 す る 場 合 が 多 い 。ま た 、内 戦 等 に よ り 内 陸 部 の 農 耕 地 帯 か ら 追 わ れ 、最 終 的 に 海 岸 部 で の 貝 類 の 採 集 等 に 頼 ら ざ る を 得 な い 最 低 限 の 生 活 を 強 い ら れ て い る 事 例 も あ る 。医 療 や 教 育 の よ う な 人 間 の 安 全 保 障 に 関 わ る 社 会 的 権 利 が 脅 か さ れ て い る 貧 困 漁 民 に 対 し て は 、こ れ ら 公 的 サ ー ビ ス の 提 供 が 最 優 先 で あ り 、水 道 、電 気 、電 話 、都 市 へ の 道 路 等 の 生 活 基 盤 が 十 分 に 整 備 さ れ て な い 漁 村 で は 、水 産 の 振 興 と 共 に 社 会 開 発 の 視 点 に よ る 生 活 基 盤 整 備が重要である。 活 力 あ る 漁 村 の 振 興 を 図 る た め に は 、経 済 面 の 安 定 、生 活 基 盤 の 整 備 に 加 え 、生 活 圏 を 取 り 巻 く 自 然 環 境 の 保 全 が 重 要 と な る 。途 上 国 の 漁 村 部 に お い て は 生 活 排 水 の 垂 れ 流 し や ゴ ミ の 投 棄 に よ り 劣 悪 な 生 活 環 境 に あ り 、前 浜 に お け る 水 質 汚 染 等 の 自 然 環 境 の 悪 化 が 見 ら れ る こ と が 多 い 。ま た 、薪 炭 用 の マ ン グ ロ ー ブ や 周 辺 樹 木 の 過 剰 伐 採 も 頻 発 し て お り 、強 風 、高 波 等 の 自 然 災 害 の 被 害 が 出 や す い 状 況 に あ る 。こ う し た 状 況 に 地 元 住 民 も 問 題 意 識 は 持 っ て い る も の の 、具 体 的 な 解 決 策 を 見 い だ せ な い 場 合 や 資 金・機 材 の 入 手 が 困 難 な た め 具 体 的 な ア ク シ ョ ン に 結 び つ か な い 場 合 が 多 い 。対 策 に あ た っ て は 、 各 漁 村 の 立 地 条 件 を 踏 ま え た 保 全 ア プ ロ ー チ を 検 討 す る 必 要 が あ る 。都 市 隣 接 型 の 漁 村 と 遠 隔 地 に あ る 漁 村 の 違 い 、ま た 島 嶼 国 の 漁 村 と 大 陸 内 の 漁 村 等 、 そ れ ぞ れ の 立 地 条 件 に 合 わ せ た ア プ ロ ー チ が 必 要 と な っ て く る 。ま た 、マ ン グローブ林の保全等は住民に伐採規制等の負担を担わせることもあるため、 改 良 か ま ど の 導 入 等 、実 施 が 容 易 で 成 果 が 実 感 で き る 取 り 組 み と 併 せ て 実 施 -12- する等の工夫が必要である。 JICA の 取 り 組 み の 現 状 こ れ ま で は こ の 分 野 の 取 り 組 み は 少 な か っ た が 、水 産 開 発 を 目 的 と し た 協 力 は 漁 村 を 中 心 に 行 わ れ る ケ ー ス が 多 い た め 、漁 村 の 貧 困 状 況 を 分 析 し 、他 の貧困削減協力との連携やセクター横断的なプロジェクトとなるよう一層 努力する。 (2) 漁 民 の 組 織 化 「 中 間 目 標 1-1 漁 業 収 入 の 拡 大 」に お け る 経 済 的 利 益 追 求 を 目 的 と し た 漁 民 の 組 織 化 は 、参 加 型 開 発 と し て こ れ ま で の 協 力 の 中 心 的 な 取 り 組 み で あ っ た が 、途 上 国 の 地 方 分 権 化 の 進 行 に 伴 い 、経 済 的 活 動 の み な ら ず 、生 活 改 善 事 業 に お い て も 組 織 化 が 重 要 な 支 援 の 受 け 皿 の 母 体 と な っ て き た 。こ の 場 合 、 対 象 を 漁 民 だ け で は な く 、漁 村 に 住 む 住 民 全 員( 漁 村 民 )を 対 象 と し た 参 加 型 プ ロ セ ス を 通 し た 組 織 化 が 重 要 と な っ て く る 。こ の た め 、漁 業 活 動 に お け る 組 織 化 と 、生 活 改 善 に お け る 組 織 化 の 支 援 母 体 や 資 金 リ ソ ー ス も 異 な っ て い た り す る こ と が 想 定 さ れ る た め 、協 力 に あ た っ て は こ れ ら 組 織 を 統 合 し て いくことが重要である。 JICA の 取 り 組 み の 現 状 「 中 間 目 標 1-1 漁 業 収 入 の 拡 大 」で 述 べ た 漁 民 の 組 織 化( 漁 業 協 同 組 合 の 設立と運営)の他に、人材育成を目的とした本邦研修を実施している。 (3) 保 健 ・ 教 育 水 準 の 向 上 途 上 国 の 漁 村 で は 経 済 的 、地 理 的 な 理 由 か ら 、病 院 を 中 心 と し た 医 療 サ ー ビ ス を 十 分 に 受 け 取 る こ と が で き な い 状 況 に あ る 。健 康 を 損 な う と 収 入 機 会 を失うだけでなく、看病のため家族の雇用にも大きく影響する。そのため、 適 正 価 格 で の 公 共 医 療 サ ー ビ ス の 提 供 拡 充 と 予 防 の た め の プ ラ イ マ リ ー・ヘ ルスケアが重要である。 ま た 、初 等 教 育 の 拡 充 も 極 め て 重 要 な 課 題 で あ る 。読 み 書 き や 計 算 能 力 を 身につけさせることにより、漁業指導書や資機材の説明書の理解が進む等、 有 用 な 情 報 へ の ア ク セ ス が 可 能 に な っ て 生 産 性 の 向 上 に つ な が る 。漁 村 部 に お い て は 、都 市 部 に 比 較 す る と 初 等 教 育 サ ー ビ ス の 機 会 と 質 の 改 善 の 余 地 が 大 き い た め 、ま ず は 教 育 の 場 と し て の 校 舎 の 建 設・確 保 が 重 要 で あ る 。校 舎 の 新 設 等 の 対 応 が 困 難 な 場 合 は 、漁 村 内 の 既 存 の 施 設( 教 会 、寺 、集 会 所 等 ) を 利 用 す る こ と も 可 能 で あ る 。ま た 、初 等 教 育 の み な ら ず 、成 人 を 対 象 と し た 識 字 教 育 や 保 健 衛 生 、栄 養 、環 境 等 の 生 活 改 善 や 技 能 習 得 を 組 み 合 わ せ た インフォーマル教育の拡充も必要である。 -13- JICA の 取 り 組 み の 現 状 現 在 、本 目 標 に 直 接 取 り 組 ん で い る 協 力 は な い が 、今 後 、積 極 的 に 取 り 組 ん で い く テ ー マ の 一 つ で あ る 。漁 村 の 貧 困 状 況 を 分 析 し 、他 の 貧 困 削 減 協 力 との連携やセクター横断的なプロジェクトとなるよう一層努力する。 2-3-2 開 発 戦 略 目 標 2 安 定 し た 食 料 供 給 ( 水 産 資 源 の 有 効 利 用 ) 安 定 し た 食 糧 供 給( 水 産 資 源 の 有 効 利 用 )の 方 策 の 中 で こ れ ま で 中 心 と な っ て い た の は 、漁 業 生 産 の 拡 大 で あ る 。し か し な が ら 近 年 、世 界 全 体 の 漁 獲 量 は 資 源 利 用 許 容 量 の ほ ぼ 満 限 に 達 し つ つ あ る と 推 定 さ れ て い る 。こ の た め 、 開 発 可 能 な 資 源 の 地 域 に よ る 偏 在 や 未 利 用 資 源 に 注 目 し 、適 正 な 漁 獲 方 法 と 用 途( 利 用・加 工 、消 費 方 法 )を 開 発 し 、普 及 す る こ と が 今 後 の 重 要 な ア プ ローチとなる。 一 方 、漁 獲 後 に 投 棄 さ れ た り 、肥 料 や 配 合 飼 料 の 原 料 と し て し か 使 用 さ れ て い な い 魚 介 類 も 多 く 、流 通 や 加 工 技 術 を 発 達 さ せ 、漁 港 や 市 場 等 の 基 盤 を 整備すれば、今以上の水産物が食料として利用できる。 ま た 、途 上 国 で は 漁 獲 か ら 加 工 、流 通 に 至 る 過 程 で 、適 切 な 管 理 が 行 わ れ ず 、食 品 と し て の 価 値 を 低 下 さ せ て し ま う 事 例 が 多 い 。品 質 が 向 上 し 、安 全 性 が 保 障 さ れ れ ば 、水 産 食 品 に 対 す る 需 要 が 増 大 し 、結 果 と し て 消 費 も 拡 大 する。 他 方 、天 然 の 水 産 資 源 は 有 限 で あ り 、食 料 供 給 増 に は 限 界 が あ る 。こ れ に 対 処 す る 一 つ の 方 向 と し て 、人 工 的 に 資 源 を 増 や す 水 産 増 養 殖 が あ る 。先 進 国 で は 既 に 大 き な 割 合 を 占 め て お り 、途 上 国 に お い て も 技 術・資 金・消 費 形 態 等 の 条 件 を 満 た す こ と が で き れ ば 、水 産 増 養 殖 に よ る 食 料 生 産 の 増 大 が 可 能 と な る 。こ の 場 合 、集 約 的 増 養 殖 は 企 業 経 営 的 側 面 が 強 く 、貧 困 漁 民 へ の 裨 益 効 果 が 少 な い た め 、粗 放 的 に 行 え る 養 殖 技 術 を 導 入 す る 等 、協 力 の 対 象 者に見合った協力を行う必要がある。 中 間 目 標 2-1 漁 業 生 産 量 の 増 大 (1) 適 切 な 漁 業 技 術 の 開 発 漁 業 生 産 の 拡 大 を 目 指 し た 第 1 の 取 り 組 み は 、こ れ ま で 利 用 さ れ て い な い 魚 種 で ( 地 元 で は 食 べ な い が 他 地 域 で は 消 費 さ れ る 水 産 物 等 )、 新 た な 漁 具 や 漁 法 も 導 入 し 、漁 獲 試 験 を 行 い 、有 望 な 資 源 を 探 査 し 、現 地 の 在 来 技 術 や 資 金 で 実 施 可 能 な 操 業 方 法 を 開 発 す る こ と で あ る 。調 査・試 験 に あ た っ て は 、 下記の点に留意する必要がある。 (2) 適 正 な 漁 業 技 術 の 普 及 上 記 に よ り 開 発 さ れ た 漁 具・漁 法 の 普 及 方 法 と し て は 、漁 村 へ 出 向 い て の -14- 普及方式と無償資金協力等で建設された漁業訓練センターでの訓練方式が あ る が 、い ず れ に お い て も 現 場 に 即 し た 技 術 や 設 備 を 工 夫 す る 柔 軟 性 が 必 要 で あ る 。ま た 、新 た な 漁 具・漁 法 の 導 入 に あ た り 、試 行 段 階 で は 資 機 材 供 与 も 可 能 で あ る が 、本 格 的 普 及 に あ た っ て は 、必 要 と な る 資 金 源 を 事 前 に 考 慮 し て お く 必 要 が あ る 。不 漁 や 漁 具 の 逸 失 、海 難 等 の リ ス ク を 抱 え る 漁 業 で は 、 借 り 入 れ を 前 提 と し た 普 及 は 慎 重 に 行 う べ き で あ る が 、採 算 性 と 借 り 手 の 返 済 能 力 を 見 極 め 、漁 民 が 余 裕 を 持 っ て リ ス ク を 負 え る 範 囲 内 で マ イ ク ロ ク レ ジットの活用等を提案することも重要である。 (3) ハ ー ベ ス ト ロ ス の 低 減 新 資 源 の 開 発 と 共 に 、漁 業 資 源 利 用 の 中 で 生 じ る 無 駄 の 低 減 も 重 要 で あ る 。 漁 業 の 中 で は 、 混 獲 物 投 棄 ( 対 象 外 の 漁 獲 物 の 投 棄 )、 ゴ ー ス ト フ ィ ッ シ ン グ 5 などのように水揚げには表れてこないハーベストロスが想像以上に大き く 、こ れ ら を 低 減 し 利 用 可 能 な 資 源 へ と 転 換 す る こ と も 今 後 重 要 な 課 題 に な ると考えられる。 JICA の 取 り 組 み の 現 状 沿 岸 漁 業 で は 、定 置 網 、イ カ 釣 り 、ア ナ ゴ 漁 業 等 の 試 験 導 入 が あ る 。専 門 家 派 遣 と 機 材 供 与 ( FRP 漁 船 、 船 外 機 、 漁 具 、 魚 群 探 知 機 、 GPS な ど の 航 海 機 器 )の 組 み 合 わ せ が 基 本 で 、個 別 専 門 家 に よ る 小 規 模 な も の と 、漁 業 訓 練 普及プロジェクトの一部として実施している。 普 及 に つ い て は 、訓 練 プ ロ ジ ェ ク ト の 一 部 と し て 、訓 練 施 設 の 教 員( カ ウ ン タ ー パ ー ト )が 漁 村 に 赴 き 、新 技 術 の 紹 介 等 を 行 う 場 合 が あ る 。青 年 海 外 協力隊の活動としても小規模ながら幅広く行われている。 中 間 目 標 2-2 水 産 養 殖 の 振 興 途 上 国 に お け る 水 産 養 殖 の 目 的 は 、地 域 住 民 に と っ て の 動 物 性 タ ン パ ク 質 の 確 保 と 養 殖 業 に よ る 収 入 の 増 大 で あ る 。前 者 と し て は 低 コ ス ト で 伝 統 的 な 技 術 に よ る 粗 放 的 養 殖 が 多 く 、貧 困 削 減・農 漁 村 開 発 に 有 効 で あ る 。収 入 増 大 の 観 点 か ら は 産 業 振 興 を 目 的 と し た 集 約 的 養 殖 が 有 効 で あ る が 、後 述 の と おり留意すべき点が多い。 (1) 粗 放 的 養 殖 簡易な技術と小額な資金で漁民が比較的容易に行うことのできる内水面 で の 粗 放 的 養 殖 と し て 、コ イ 、テ ィ ラ ピ ア 、ナ マ ズ 類 な ど の 養 殖 が 挙 げ ら れ 5 紛失・廃棄により、水中に置き去りにされた漁具(漁網、カゴ、釣針等)に魚介類が捕らえら れるもので、資源への影響が懸念されている。 -15- る。 こ の 養 殖 は 、溜 池 は も と よ り 、水 田 、灌 漑 水 路 で も 可 能 で あ り 、天 然 餌 料 の 利 用 も 考 え ら れ る た め 、比 較 的 少 な い 初 期 投 資 で 開 始 で き 、運 営 資 金 も 低 く 抑 え る こ と が で き る 。ま た 、簡 易 な 養 殖 技 術 が 地 域 的 に 確 立 さ れ て い る 場 合が多いので、比較的取り組みやすい。 特 に 漁 村 部 で の 副 業 に 適 し て お り 、水 田 跡 地 等 で の 養 殖 や 畜 産 と の 複 合 的 養 殖 な ど も 行 わ れ て い る 。一 般 的 に 内 水 面 養 殖 は 以 下 の 段 階 を 踏 ん で 行 わ れ る。 1) 養 殖 魚 種 の 選 定 養 殖 魚 種 の 選 定 に あ た っ て は 、生 物 多 様 性 や 生 態 系 保 全 の 観 点 か ら 、養 殖 魚が天然水域に流出した時の他の生物に及ぼす影響を考慮することが重要 で あ り 、在 来 種 の 中 か ら 養 殖 適 種 を 選 定 す る こ と を 基 本 方 針 と し 、生 産 量 の 増大だけに着目した安易な外来種の導入は避けるべきである。 2) 水 域 の 確 保 水 量 が 豊 富 で 汚 染 さ れ て い な い 水 域 の 確 保 が 重 要 で 、条 件 に よ っ て は 新 た に池を造成する必要がある。 3) 養 殖 用 種 苗 の 入 手 稚 魚 の 天 然 採 捕 、水 産 試 験 場 等 公 的 種 苗 セ ン タ ー に よ る 配 布 、民 間 か ら の 購 入 及 び 自 ら 親 魚 を 飼 育 し て 産 卵 さ せ る 等 の 方 法 が あ る 。ま た 、成 長 が 早 く 、 病 気 に 強 い 優 良 な 稚 魚 を 確 保 す る た め に は 、遺 伝 的 に 優 良 な 系 統 の 親 魚 の 育 成が重要である。 4) 餌 料 の 入 手 コ ス ト が か か ら な い こ と を 前 提 と し て い る た め 、配 合 飼 料 な ど の 高 価 な 餌 は 使 え な い 。よ っ て 、家 畜 の 排 泄 物 や 堆 肥 に よ る 施 肥 を 行 っ て 、池 中 に ワ ム シ や ミ ジ ン コ 類 な ど の 餌 料 生 物 を 繁 殖 さ せ る 、ま た は 農 畜 産 廃 棄 物 に 虫 を 涌 か し て 餌 と し て 与 え る 、米 糠 や メ イ ズ 粕 、コ コ ナ ッ ツ オ イ ル の 絞 り 粕 等 、安 価で手に入る地域の農業副産物を餌として利用するなどの方法を用いて魚 を育成する。 5) そ の 他 池 水 の 酸 素 欠 乏 や 魚 病 の 発 生 を 防 ぐ た め に 、適 切 な 密 度 で 飼 育 す る こ と が 重 要 で あ る 。ま た 、鳥 、イ タ チ 、肉 食 魚 な ど の 外 敵 や 盗 難 対 策 も 重 要 で あ る 。 海 面 で の 粗 放 的 養 殖 で は 、零 細 漁 民 が 比 較 的 容 易 に 始 め ら れ る 貝 類 や 海 藻 -16- 類が養殖対象種として選定されることが多い 6 。これら養殖は魚類養殖と比 べ て 餌 料 や 施 設 の 経 費 が 少 な く て 済 み 、日 常 的 な 労 力 も 少 な い た め 、現 金 収 入を目的とした副業としても有効である。 稚 貝 や 海 藻 の 種 苗 確 保 に は 、親 貝 に よ る 人 工 的 な 産 卵 と 天 然 稚 貝・海 藻 胞 子 を ネ ッ ト や 板 な ど の 基 盤 に 着 定 さ せ る 方 法 が あ る 。貝 類 の 養 殖 で は 、稚 貝 の 段 階 を 過 ぎ れ ば 給 餌 は 必 要 な い が 、毒 性 を 有 す る プ ラ ン ク ト ン を 貝 類 が 捕 食 し た 場 合 、貝 毒 が 発 生 す る 点 に 注 意 が 必 要 で あ る 。ま た 、甲 殻 類 等 他 の 生 物 に よ る 食 害 や 盗 難 、ま た 、海 面 利 用 の 方 法 等 に つ い て 留 意 す る 必 要 が あ る 。 (2) 集 約 的 養 殖 集 約 的 養 殖 で は 、マ ー ケ ッ ト の 需 要 に 適 合 し た 魚 種 が 選 定 さ れ 、対 象 魚 種 を 高 密 度 に 飼 育 し 、一 定 品 質 で 安 定 的 か つ 大 量 に 生 産 し 、適 切 な 流 通 経 路 に 乗 せ る こ と に よ り 、① 市 場 の 開 拓 、② 養 殖 関 連 産 業 の 育 成 及 び 雇 用 拡 大 、③ 動 物 性 タ ン パ ク 質 の 安 定 的 供 給 等 に 寄 与 す る が 、以 下 の 点 に 留 意 す る 必 要 が ある。 ● ● ● ● 貧困漁民への裨益効果 魚価変動によるリスク 残存餌料や排泄物、非可食部分の廃棄などによる水域汚染や環境負荷 魚病などによる被害リスク 集約的養殖は情報の収集能力も含めて比較的高い技術や大規模な設備投 資 と 運 営 コ ス ト が 必 要 と な る た め 、人 材 や 財 政 基 盤 が あ る 程 度 整 っ た 国・地 域 で の 実 施 が 望 ま し い 。現 地 に お け る 養 殖 の 知 識 や 経 験 が 少 な く 、試 験 や 研 究 の 協 力 か ら 始 め る 場 合 、養 殖 技 術 の 確 立 に 不 確 定 要 素 が 多 く 、協 力 期 間 内 で の 目 標 達 成 が 困 難 と な る ケ ー ス も あ り 、案 件 形 成 に お い て 慎 重 な 対 応 が 必 要である。 集 約 的 養 殖 で は 大 量 か つ 安 定 的 に 種 苗 を 確 保 す る 必 要 が あ り 、ま た 生 産 効 率 の 観 点 か ら 、成 長 が 早 く 病 害 に 強 い 種 苗 を 生 産 す る 必 要 が あ る た め 、優 良 な 遺 伝 形 質 を 持 っ た 親 魚 の 確 保 と 育 成 が 重 要 で あ る 。ま た 現 地 に あ る 材 料 で 、 いかに廉価な餌料 7 を安定的に生産するかが重要な課題となると共に、健全 な 種 苗 の 育 成 、病 害 防 除 の た め の 診 断 、治 療 、防 疫 の 知 識 や 技 術 が 必 要 と な る。 な お 、近 年 、先 進 的 な 地 域 に お い て 、比 較 的 価 格 の 高 い 魚 種 を 生 産 対 象 と し た 企 業 レ ベ ル で の 集 約 的 養 殖( エ ビ 養 殖 、チ リ な ど の サ ケ・マ ス 養 殖 、東 6 7 この他にも、東南アジアや大洋州地域ではミルクフィッシュの粗放的養殖を伝統的に行ってい る 地 域 も あ り 、技 術 的 に も 簡 易 で あ る た め 、漁 村 振 興 に 寄 与 す る 注 目 す べ き 養 殖 方 法 と な っ て い る。 小魚を餌料用フィッシュミールの原料とした場合、大量の小魚が必要となる。サケの養殖には 体重の 3 倍の餌料を要する。 -17- 南 ア ジ ア 地 域 に お け る ハ タ 類 の 養 殖 等 )が 盛 ん に な っ て き た が 、貧 困 層 へ の 裨益が限定的であるため、協力の対象とはしない。 JICA の 取 り 組 み の 現 状 目 的 、対 象 魚 種 、技 術 水 準 、ニ ー ズ を 踏 ま え 、本 邦 研 修 や 協 力 隊 の よ う な 小 規 模 の も の か ら 、無 償 資 金 協 力 に よ る 施 設 建 設 と 連 携 し た 技 術 協 力 プ ロ ジ ェクトまで、様々な取り組みを行っている。 目 的 :養殖産業振興、農漁村開発、生計向上 対 象 魚 種 :エビ類、カキ、ホタテ、カレイ類、ハタ類、サケ・マス類 コイ、ティラピア類 対 象 技 術 : 親 魚 育 成 、種 苗 生 産 、中 間 育 成 、餌 料 生 物 培 養 、配 合 飼 料 開 発 、 病害防除(魚病対策)等 ニ ー ズ :試験研究、技術開発、技術普及 中 間 目 標 2-3 水 産 食 品 の 安 全 対 策 と 品 質 管 理 途 上 国 で は 、魚 介 類 に よ る 食 中 毒 で 人 命 が 失 わ れ た り 、食 品 と し て の 安 全 性 へ の 不 信 か ら 消 費 が 低 迷 す る こ と が 少 な く な い 。ま た 、品 質 基 準 を 満 た せ な い た め 、国 際 市 場 へ 輸 出 が で き ず 、収 入 増 大 の 機 会 を 失 っ て い る 国 も 多 い 。 食 品 と し て の 水 産 物 の 安 全 性 や 品 質 に 影 響 を 及 ぼ す 原 因 は 、微 生 物 、毒 性 物 質 ( フ グ 毒 ・ 貝 毒 な ど )、 寄 生 虫 等 で あ り 、 育 成 (増 養 殖 )・ 保 存 ・ 加 工 ・ 流通の各段階において適切な管理を行うことが求められる。 微 生 物 管 理 に お い て は 、水 産 物 と 汚 染 源 の 接 触 を 避 け 、適 正 な 条 件 下 で 保 存し、適切な加工工程をとることが基本である。 フ グ 等 の 特 定 水 産 物 の 毒 性 物 質 管 理 は 、毒 物 生 成 時 期 の 把 握 と 危 険 部 位 の 除 去 に よ り 管 理 が 可 能 と な り 、寄 生 虫 も 同 様 に 典 型 的 宿 主 を 把 握 し 、凍 結 処 理や適切な除去方法による管理が有効である。 ま た 、食 中 毒 発 生 に 関 す る 統 計 体 制 の 整 備 、赤 潮 発 生 状 況 の 把 握 、漁 民 を は じ め 消 費 者 へ の 食 の 安 全 性 に 関 す る 教 育 や 普 及 活 動 が 重 要 で あ る 。国 内 向 けの品質管理は、当該国における水産物の消費形態や生活習慣等に応じて、 輸 出 対 象 品 に つ い て は 、相 手 国 の 輸 入 検 疫 基 準 に 応 じ て 実 施 す る 必 要 が あ る 。 JICA の 取 り 組 み の 現 状 食品検査機関や水産加工施設の検査技術の向上及び有害微生物管理技術 の 指 導 を 目 的 と し た 専 門 家 派 遣 、技 術 協 力 プ ロ ジ ェ ク ト 、研 修 事 業 が 中 心 で あ り 、食 品 検 査 だ け の 場 合 と 食 品 加 工 プ ロ ジ ェ ク ト を ひ と つ の コ ン ポ ー ネ ン ト と し て 組 み 込 む 場 合 が あ る が 、今 後 は 生 産 か ら 販 売 に 至 る バ リ ュ ー チ ェ ー -18- ン全体を品質管理の範囲として捉える視点が重要となる。 中 間 目 標 2-4 水 産 加 工 ・流 通 の 改 善 と 漁 業 基 盤 整 備 (1) 漁 獲 物 処 理 ・ 鮮 度 保 持 技 術 の 向 上 一 般 に 水 産 物 は 自 己 消 化 酵 素 の 働 き に よ り 、畜 産 物 に 比 べ て 変 質・腐 敗 し や す い 。ま た 魚 介 類 に 付 着 す る 微 生 物 の 中 に は 、比 較 的 低 温 で も 増 殖 可 能 な ものが多い。従って、いかに短時間に低温輸送するかがカギとなる。 (2) 水 産 加 工 技 術 の 向 上 生 鮮 物 の 流 通 は 地 理 的 範 囲 が 限 定 さ れ る た め 、水 産 物 の 更 な る 利 用 拡 大 に は 水 産 加 工 が 重 要 と な る 。ま た 、未 利 用 水 産 資 源 を 食 品 と し て 有 効 に 利 用 す る上でも水産加工は効果的であり、塩漬けや干物、燻製等の簡易加工から、 缶 詰 や レ ト ル ト 等 の 調 理 加 工 、冷 凍 す り 身 を 含 め た 冷 凍 加 工 等 が 選 択 肢 と な るが、コストや技術力、販路等を踏まえた慎重な検討が不可欠である。 な お 、水 産 加 工 の 活 用 に 際 し て は 、品 質 管 理 方 法 を 定 め る と 共 に 、マ ー ケ ティング、魚食普及を併せて実施することが重要である。 (3) 漁 港 ・ 魚 市 場 等 流 通 施 設 の 整 備 流 通 に は 、 漁 港 、 水 揚 げ 施 設 、 市 場 、 冷 凍 ・冷 蔵 庫 等 の イ ン フ ラ が 必 要 で あ る 。漁 港 整 備 に よ っ て 多 く の 漁 船 が 漁 港 に 水 揚 げ を す れ ば 、適 正 な 取 引 に よ っ て 魚 価 が 形 成 さ れ る と 共 に 、効 率 的 な 流 通 が 可 能 と な る 。ま た 、氷 や 魚 箱の供給により、漁獲直後から小売店までの品質管理の向上が可能となる。 な お 、漁 港 の 建 設 に お い て は 、自 然 条 件 の 十 分 な 把 握 、社 会 条 件 の 確 認 と 共 に、市場の運営管理にあたる人材育成も重要なテーマとなる。 (4) 魚 食 普 及 魚 介 類 に は タ ン パ ク 質 、必 須 脂 肪 酸 、ビ タ ミ ン 、ミ ネ ラ ル 等 の 栄 養 素 が バ ラ ン ス よ く 含 ま れ て お り 、途 上 国 で は 一 般 的 に 畜 産 物 よ り も 低 価 格 で あ る た め 、栄 養 改 善 の 観 点 か ら 魚 食 普 及 は 重 要 で あ る 。し か し な が ら 、途 上 国 で は 食 に 関 し て 保 守 的 な 層 が 多 く 、魚 介 類 を 食 べ る 習 慣 の な い 地 域 で の 魚 料 理 法 の 紹 介 や 新 た な 加 工 食 品 の 浸 透 に は 、嗜 好 調 査 、マ ス メ デ ィ ア を 利 用 し た 広 報 、学 校 給 食 と の 連 携 等 、普 及 戦 略 の 策 定 が 必 要 で あ る 。ま た 、魚 介 類 の 加 工にあたっては原料の鮮度と製品の品質の関係を十分に理解させる必要が ある。 JICA の 取 り 組 み の 現 状 加 工 分 野 で は 、新 技 術 の 導 入 と 訓 練 普 及 の 向 上 を 目 的 と し た 専 門 家 派 遣 や -19- 研 修 事 業 が 中 心 で あ り 、加 工 分 野 だ け の 場 合 と 漁 業 訓 練 普 及 分 野 の ひ と つ の コ ン ポ ー ネ ン ト と す る 場 合 が あ る 。い ず れ の 場 合 に お い て も 、水 産 加 工 に 携 わるのは女性が一般的であるため、加工技術の習得に特化するのではなく、 生活改善に向けた取り組みを組み入れる等、工夫が必要である。 流 通 分 野 で は 、無 償 資 金 協 力 に よ り 、こ れ ま で 多 く の 漁 港 や 市 場 を 建 設 し て い る 。ま た 、有 償 資 金 協 力 で も イ ン ド ネ シ ア 、フ ィ リ ピ ン で 漁 港 等 を 建 設 している。 2-3-3 開 発 戦 略 目 標 3 水 産 資 源 の 保 全 管 理 水産資源の保全管理の方策として基本となるのは水産資源の評価である。 現 在 の 漁 獲 量 が 持 続 可 能 な レ ベ ル よ り 多 い か 少 な い か を 調 査 し 、適 正 な 漁 獲 量を推定することである。漁獲量が過大な場合は、漁業活動を規制する制 度・規則を策定し、適正漁獲量以下に漁獲能力を抑える必要がある。一方、 減 少 し た 資 源 量 を 回 復 さ せ る 手 段 と し て は 、水 産 生 物 の 再 生 産 の 場 と な る 産 卵・生 息 環 境 の 保 全 と 種 苗 の 生 産・放 流 が 有 効 で あ る が 、資 源 量 が 一 定 レ ベ ル 以 下 に な っ た 場 合 は 再 生 に 長 時 間 を 要 し た り 、時 に は 困 難 に な る こ と も あ るので注意が必要である。 中 間 目 標 3-1 水 産 資 源 評 価 (1) 資 源 調 査 体 制 の 確 立 最 大 か つ 持 続 可 能 な 漁 獲 量 ( Maximum Sustainable Yield: MSY 最 大 持 続 漁 獲 量 )は 、当 該 生 物 資 源 の 増 加 量 が 最 大 と な り 、最 も 効 率 的 な 漁 業 生 産 を 行 う こ と が で き る ポ イ ン ト で あ る 。簡 便 法 も 含 め て 多 く の 方 法 に よ っ て 推 定 可 能 な 値 で あ る が 、基 本 的 に は 過 去 の 漁 獲 量 、対 象 魚 の 資 源 量 と そ の 変 動 及 び 生 物 学 的 特 性 ( 成 長 、 産 卵 、 回 遊 等 )、 さ ら に は 生 息 環 境 ( 海 洋 ・ 湖 沼 ・ 河 川 )の 総 合 的 な 分 析 に よ り 算 出 さ れ る 。精 度 を 高 め る た め に は 漁 業 統 計( 漁 業 種 別・漁 場 別・年 齢 別 の 漁 獲 量 、操 業 日 数・隻 数 )の 整 備 と 信 頼 性 の 向 上 、 多 種 多 量 の デ ー タ の 継 続 的 な 収 集( 漁 獲 調 査 、計 量 魚 群 探 知 機 調 査 、浮 遊 生 物 調 査 、生 息 環 境 調 査 等 )及 び 解 析 方 法 の 指 導 が 必 要 で あ る 。協 力 に あ た っ ては、途上国の限られた人材や予算による不十分な調査研究体制を考慮し、 現実的な目標と調査分析方法の設定が重要となる。 (2) 評 価 方 法 の 確 立 具 体 的 な 手 法 と し て は 、① 大 学 や 試 験 研 究 機 関 を カ ウ ン タ ー パ ー ト と し て 、 調 査 船 に よ り 環 境 や 漁 獲 デ ー タ の 収 集 と 解 析 を 共 同 で 行 う 方 法 と 、② 環 境 デ ータと漁業統計の精度と分析方法の指導を目的とした人材育成と体制整備 を行う方法がある。 -20- 前 者 の 方 法 で は 、協 力 期 間 内 に あ る 程 度 の 精 度 の MSY を 算 出 で き る が 、調 査 船 を 使 用 す る た め 多 額 の 費 用 を 必 要 と す る 。ま た 、実 効 性 の あ る 資 源 評 価 の た め に は 協 力 期 間 終 了 後 も 調 査 を 継 続 す る こ と が 重 要 で あ る の で 、調 査 船 を保有し、運用と維持管理を行う能力のある国で実施すべきである。 後 者 は 、漁 民 や 市 場 関 係 者 が 漁 獲 量 等 の 必 要 情 報 を 正 確 に 記 録 す る シ ス テ ムを構築し、運用させると共に、水産試験場等の調査員の能力(標本調査、 年 齢 査 定 等 の 生 物 学 的 研 究 な ど )を 向 上 さ せ る こ と を 目 的 と し た も の で あ る 。 前 者 と 比 べ て デ ー タ が 限 ら れ る た め 、 MSY の 推 定 に は 工 夫 が 必 要 と な る 。 ま た 、漁 民 や 市 場 関 係 者 に よ る 正 確 な 情 報 の 提 供 や 、調 査 員 に よ る 正 確 な 統 計 調査の重要性をいかに認識させるかが課題となる。 な お 、水 産 資 源 が 少 種 多 量 で 、主 要 魚 介 類 の 生 産 過 程 が 分 か っ て い る 温 帯 や 寒 帯 水 域 で の MSY の 適 用 は 比 較 的 容 易 で あ る が 、多 く の 開 発 途 上 国 が 存 在 す る 熱 帯 域 の 特 に 沿 岸 域 で は 、多 種 少 量 の 水 産 資 源 に よ り 複 雑 な 生 態 系 と な っ て い る た め 、 正 確 な MSY の 推 定 は 困 難 な こ と が 多 い 。 こ の よ う な 場 合 は 、 浜 辺 や 市 場 で の 漁 獲 物 標 本 の 計 測 、目 視 、聞 き 取 り 等 に よ り 、漁 獲 量 や 資 源 量 の 変 動 を マ ク ロ な 視 点 で 把 握 し 、資 源 状 態 を 推 定 せ ざ る を 得 な い た め 、MSY の推定にあたっては関係者への説明に十分留意する必要がある。 (3) 漁 業 統 計 収 集 体 制 の 確 立 水 産 資 源 調 査 に あ た っ て は 前 述 の と お り 、漁 獲 量 や 生 息 環 境 に 関 す る デ ー タ が 必 要 と な る が 、こ れ は 資 源 量 が 減 少 し た 段 階 で デ ー タ 収 集 を 開 始 す る の で は な く 、水 産 行 政 の 一 環 と し て 漁 業 統 計 を 取 り ま と め 、関 係 者 が 利 用 で き る 形 で 公 表 す る こ と が 重 要 で あ る 。こ れ に よ り 中 長 期 的 な 漁 獲 変 動 が 把 握 で き 、漁 業 管 理 に あ た っ て 適 切 な 対 策 が 可 能 と な る 。漁 民 、水 揚 げ 場 、市 場 関 係 者 を う ま く 活 用 し 、低 コ ス ト で 必 要 最 小 限 の デ ー タ が 継 続 的 に 収 集・蓄 積 できるシステム整備の必要性を指導することが急務となっている。 JICA の 取 り 組 み の 現 状 調査船による海上調査技術の指導が開発調査の一環として実施されてい る 。ま た 、大 学 や 研 究 機 関 の 分 析 能 力 向 上 を 目 的 と し た プ ロ ジ ェ ク ト も 実 施 さ れ て い る 。漁 業 統 計 体 制 整 備 分 野 に お い て は 個 別 専 門 家 や 青 年 海 外 協 力 隊 の派遣実績がある。 中 間 目 標 3-2 漁 業 管 理 (1) 漁 獲 許 容 量 の 設 定 漁業管理においては、水産資源評価により算出された最大持続漁獲量 ( MSY) に 基 づ き 、 漁 獲 許 容 量 や 漁 獲 努 力 許 容 量 な ど の 資 源 管 理 の た め の 基 -21- 準 値 の 設 定 が ま ず 必 要 と な る 。た だ し 、漁 獲 許 容 量 は 、MSY な ど の 生 物 学 的 許 容 量 の 他 に 、社 会 経 済 状 況 を 考 慮 し つ つ 設 定 さ れ る 場 合 も あ る 。ま た 、漁 獲 許 容 量 の 算 出 や 決 定 が 困 難 な 場 合 に は 、日 本 の 沿 岸 漁 業 で 用 い ら れ て い る よ う な 単 位 漁 獲 努 力 量 当 た り の 漁 獲 量 ( Catch Per Unit Effort: CPUE) を モ ニ タ ー し な が ら 、操 業 日 数 や 漁 具 の 大 き さ な ど の 漁 獲 努 力 量 や 投 入 技 術 レ ベルを調整する手法の指導も現実的なアプローチである。 (2) 管 理 規 制 の 策 定 実 際 の 漁 獲 量 や 漁 獲 努 力 量 を 許 容 量 以 下 に 抑 制 す る た め に 、制 度 や 規 則 を 策 定 し 、規 制 す る 必 要 が あ る 。代 表 的 な 規 制 に は 、水 域 全 体 も し く は 漁 業 者 個 々 の 漁 獲 量 上 限 を 設 定 す る 方 法 と 漁 業 種 、操 業 日 数 と 漁 具 性 能 の よ う な 操 業 や 技 術 を 制 限 す る 方 法 が あ る 。禁 漁 期 、禁 漁 区 、魚 体 長 制 限 等 は 両 者 に 併 用 さ れ る 。漁 獲 対 象 種 が 少 な く 、水 揚 げ 場 所 が 限 ら れ て い る 場 合 は 、漁 獲 量 規 制 が 比 較 的 容 易 で 、実 効 性 や 効 率 性 も 高 い 方 法 で あ る 。多 種 少 量 の 魚 介 類 が 多 く の 場 所 で 水 揚 げ さ れ る 場 合 は 、対 象 資 源 及 び 漁 業 の 性 質 を 考 慮 し た 漁 獲 努 力 量 の 制 限 が 中 心 と な る 。ま た 、回 遊 性 の 魚 類 や 希 少 種 に つ い て は 、各 国 だ け の 取 り 組 み だ け で は な く 、国 境 を 越 え た 広 域 的 な 取 り 組 み が 必 要 と な ってくる。 (3) 施 行 体 制 の 構 築 策 定 さ れ た 制 度 や 規 則 を 機 能 さ せ る た め に 、そ れ に 適 合 し た 体 制 や 組 織 を 構 築 す る 必 要 が あ る 。費 用 対 効 果 を 高 め る た め に は 、行 政 の 命 令 に よ る ト ッ プ ダ ウ ン 方 式 、 漁 業 者 が 主 体 的 に 行 う 参 加 型 方 式 (Community-based Management)と 相 互 監 視 に よ る ボ ト ム ア ッ プ 方 式 の 3 つ の 方 式 を 現 地 事 情 に 応 じ て 融 合 さ せ る 必 要 が あ る 。水 揚 げ 場 で の 漁 獲 量 調 査 、禁 漁 期 や 禁 漁 区 の 設 定 、違 法 漁 業 の 監 視 や 魚 体 長 の 検 査 は 行 政 の 役 割 と な る が 、広 大 な 海 面 で の 漁 業 活 動 の 規 制 は そ の 監 視 に 大 き な 努 力 が 必 要 と な り 、経 済 面 で も 負 担 が 大 き く な る た め 、行 政 に よ る 広 域 資 源 管 理 計 画 に 基 づ い て 漁 業 者 が 自 主 管 理 できるシステムの構築を目指すべきである。 (4) 資 源 管 理 に 対 す る 意 識 の 向 上 上 記 の よ う な 漁 獲 許 容 量 の 設 定 、管 理 規 則 の 策 定 、施 行 体 制 の 構 築 の た め に は 、漁 業 の 実 態 と 漁 民 生 活 の 実 情 を 把 握 す る 社 会 経 済 調 査 を 行 い 、利 害 調 整 を 含 め 、実 効 性 の あ る 管 理 規 則 を 策 定・運 用 す る 行 政 能 力 の 向 上 が 求 め ら れ る 。併 せ て 、漁 業 者 の み な ら ず そ の 家 族 や 地 域 住 民 に 資 源 管 理 の 大 切 さ を 理 解 さ せ 、管 理 規 則 を 自 主 的 に 遵 守 し て い こ う と い う 行 動 を 起 こ さ せ る 啓 蒙 活 動 も 重 要 で あ る 。こ の よ う に 実 効 性 の あ る 漁 業 管 理 の 実 施 の た め に は 、行 政 側 の 体 制 整 備 の み な ら ず 、漁 民 や 地 域 住 民 の 意 識 向 上 に 始 ま る 、地 域 に 即 した息の長い取り組みが必要となる。 -22- JICA の 取 り 組 み の 現 状 漁 獲 許 容 量 の 設 定 と 管 理 規 則 の 策 定 ま で は 、水 産 資 源 評 価 の 開 発 調 査 プ ロ ジ ェ ク ト に 含 ま れ る こ と が 多 い 。啓 蒙 活 動 は 漁 業 訓 練 プ ロ ジ ェ ク ト の 一 部 と し て 実 施 さ れ た 事 例 が あ る 。日 本 の 漁 民 組 織 に よ る 漁 業 管 理 の 事 例 は 本 邦 研 修の中で紹介されている。 中 間 目 標 3-3 漁 場 環 境 保 全 水 産 生 物 の 産 卵・成 育 の 場 と し て の 水 域 環 境 の 実 態 を 調 査 し 、保 全・改 善 す る こ と は 、魚 介 類 や 藻 類 の 再 生 産 を 促 進 し 、資 源 の 維 持・増 大 を 図 る 上 で 非 常 に 重 要 で あ る 。し か し な が ら 、産 卵 や 稚 魚 成 育 の 場 で あ り 外 敵 か ら の 逃 避 場 所 で も あ る 藻 場 、マ ン グ ロ ー ブ 域 、サ ン ゴ 礁 、水 質 浄 化 機 能 も 優 れ て い る 干 潟 や 湿 地 な ど は 、臨 海 開 発 だ け で は な く 過 度 な 水 産 業 自 体 の 活 動 に よ っ て も 破 壊 さ れ つ つ あ る 。ま た 、栄 養 塩 や 化 学 物 質 の 流 入 な ど に よ る 環 境 汚 染 だ け で な く 、網 生 簀 養 殖 に 起 因 す る 水 質 汚 染 の 問 題 も 存 在 す る 。さ ら に 、最 近 で は 外 来 種 に よ る 生 態 系 の 破 壊 な ど 、生 物 多 様 性 に 関 す る 問 題 も 水 産 生 物 に深刻な影響を及ぼしている。 一 方 、上 流 域 の 大 規 模 な 森 林 伐 採 な ど に よ る 泥 水 の 流 入 、沿 岸 域 の 基 礎 生 産 力 の 低 下 や 貧 栄 養 化 、異 常 気 象 や 海 況 変 動 、エ ル・ニ ー ニ ョ 現 象 な ど の 地 球 規 模 の 環 境 変 動 に よ っ て 、生 息 魚 種 や 資 源 量 、分 布 域 が 変 動 す る 。こ の よ う に 魚 介 類 は 生 息 環 境 に よ り 様 々 な 影 響 を 受 け る 。こ の た め 漁 業 活 動 や 養 殖 を 行 う た め に は 、水 域 環 境 を 観 測・調 査 し 、必 要 に 応 じ て 環 境 保 全 活 動 を 行 う必要がある。具体的には、以下の手法がある。 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 水域環境の正確な観測及びデータ解析 環境変動と魚介類生息状況変動の関係解明及びモニタリング体制確立 水域環境に悪影響を及ぼす活動の規制(法整備) 沿岸域の使用区域分け(ゾーニング) 水域環境の修復及び改善 行政、漁民及び地域住民による啓蒙普及活動 協 力 に あ た っ て は 、水 域 環 境 モ ニ タ リ ン グ 、環 境 教 育 活 動 、環 境 へ の 影 響 の 少 な い 養 殖 方 法 の 導 入 、 人 工 干 潟 の 活 用 、 人 工 魚 礁 ・藻 場 造 成 な ど の 沿 岸 環 境 整 備 に 関 す る 活 動 や 、中 長 期 的 に は 下 流 域 の 生 産 性 向 上 に 必 要 な 上 流 域 の 森 林 管 理 や 河 川 管 理 等 、地 域 全 体 の 生 態 系 を 念 頭 に 、陸 域 と 一 体 化 し た 総 合的な環境整備が効果的な協力として考えられる。 -23- JICA の 取 り 組 み の 現 状 水産資源管理計画の一環としての水域環境調査や水産試験研究機関の水 産 資 源 環 境 部 門 の 強 化 、大 学 の 当 該 分 野 研 究 能 力 の 向 上 、養 殖 場 等 の 水 質 検 査技術、漁場環境モニタリング体制の構築等の協力実績がある。 中 間 目 標 3-4 資 源 増 殖 の 取 り 組 み 自然環境下での水生生物の生育は初期の生活環境に大きく左右されるが、 現在の自然環境が必ずしも生物にとって好ましい環境であるとは限らない た め 、水 産 資 源 を 増 大 さ せ る た め の 方 法 と し て 、採 卵 ・ふ 化 ・飼 育 し て 種 苗 を 生 産 し 、天 然 環 境 に 放 流 す る と い う 手 法 が あ る 。具 体 的 に は 以 下 の 手 法 が と られる。 ① 種苗生産と天然種苗採捕 ② 稚魚の飼育(中間育成) ③ 稚魚の放流(種苗放流) 種 苗 放 流 を 効 率 的 に 水 産 資 源 増 殖 に つ な げ る た め に 、沿 岸 環 境 保 全 や 沿 岸 資 源 管 理 の 活 動 と 組 み 合 わ せ る こ と が 有 効 で あ る 。ま た 種 苗 放 流 事 業 は 地 域 住民の水産資源・環境保全に対する意識啓発にも大きく寄与する。 し か し な が ら 、一 般 的 に 放 流 事 業 の 経 済 性 の 検 証 や 標 識 放 流 の 実 施 後 の 資 源増殖モニタリングによる種苗放流魚の再捕率や成長率の検証が困難なた め 、途 上 国 に お い て は 受 益 者 に よ る 経 費 負 担 の 仕 組 み 作 り の 理 解 が 進 ま な い こ と が 多 い 。こ の た め 種 苗 放 流 は あ く ま で 補 助 的 手 段 と し て 活 用 す る 必 要 が あ る 。ま た 、安 易 な 外 来 種 の 放 流 は 厳 禁 す る こ と は い う ま で も な い が 、在 来 種においても生物多様性の保全には十分留意する必要がある。 JICA の 取 り 組 み の 現 状 シ ャ コ ガ イ 、タ カ セ ガ イ 、ヤ コ ウ ガ イ 、カ レ イ 、ノ コ ギ リ ガ ザ ミ 等 の 魚 介 類で人工種苗の放流を実施した例がある。 2-3-4 開 発 戦 略 目 標 達 成 に 必 要 な 共 通 課 題 プログラム化の推進 個々のプロジェクトによる協力成果をさらに高次かつ面的な広がりのあ る 協 力 と し て い く た め に 、技 術 協 力 、無 償 資 金 協 力 及 び 有 償 資 金 協 力 を 効 果 -24- 的に組み合わせた援助ツールの活用や他ドナーとの連携を通したプログラ ム化を推進していく。 特 に 漁 村 開 発 プ ロ ジ ェ ク ト を 中 心 に 、無 償 資 金 協 力( 水 産 無 償 、草 の 根 無 償 、コ ミ ュ ニ テ ィ 開 発 支 援 無 償 等 )や 技 術 協 力 の 連 携 を こ れ ま で 以 上 に 推 進 し、協力のインパクトの拡大と協力の持続性の確保に努力する。 大 洋 州 、カ リ ブ 地 域 及 び 中 西 部 ア フ リ カ 地 域 等 に は こ れ ま で 多 く の 水 産 無 償 が 供 与 さ れ て き た 。そ の 後 、水 産 無 償 で 建 設 さ れ た 施 設 の 維 持 管 理 を は じ め 、各 種 フ ォ ロ ー ア ッ プ の た め 、個 別 専 門 家 や 協 力 隊 員 が 必 要 に 応 じ 派 遣 さ れ て き た が 、今 後 、無 償 資 金 協 力 及 び 有 償 資 金 協 力 に よ り 水 産 関 連 施 設 の み な ら ず 、漁 村 生 活 イ ン フ ラ 等 の 整 備 も 可 能 と な れ ば 、プ ロ グ ラ ム 化 が 一 層 推 進 さ れ る だ け で な く 、限 ら れ た 援 助 資 源 を 有 効 に 活 用 し た 貧 困 削 減 が 可 能 と なる。 ま た 、中 進 国 等 に お い て は 、自 国 政 府 の 事 業 と し て 漁 村 振 興 を 目 的 と し た 漁 業 関 係 の 基 礎 イ ン フ ラ 整 備 を 進 め て い る 場 合 も あ り 、こ の よ う な 広 範 囲 な 取 り 組 み を 支 援 す る 協 力 に つ い て は 、有 償 資 金 協 力 を 有 効 に 活 用 し た プ ロ グ ラムの形成を推進していく。 (1) 水 産 行 政 水 産 資 源 の 持 続 的 利 用 は 、適 切 な 水 産 行 政 が あ っ て は じ め て 実 現 す る も の で あ り 、中 で も 行 政 官 の 能 力 向 上 と 組 織 機 能 の 強 化 及 び 関 連 法 規 の 整 備 が 重 要である。 1) 行 政 官 の 能 力 向 上 行 政 官 の 責 務 は 水 産 政 策 の 立 案 と 施 行 で あ る が 、途 上 国 で は 水 産 行 政 に 携 わる人材の絶対数が不足していることが多く、人員の不足を補うためには、 一 人 ひ と り の 行 政 官 が 幅 広 い 課 題 に 対 応 で き る 能 力 の 開 発 が 必 要 で あ る 。ま た 、軽 視 さ れ が ち な 現 場 主 義 、実 践 主 義 を 重 視 し た 行 政 官 の 意 識 改 革 を 醸 成 することも重要である。 2) 組 織 の 機 能 強 化 個 々 の 行 政 官 の 能 力 を 発 現 さ せ 、同 時 に 漁 民 の 声 を 吸 い 上 げ 、そ れ を 政 策 に 反 映 さ せ る た め の 仕 組 み が 中 央 、地 方 の 行 政 組 織 で あ る 。人 員 不 足 を 前 提 と し て 機 能 す る 組 織 構 造 が 必 要 と さ れ る が 、途 上 国 も 地 方 分 権 化 の 時 代 を 迎 え 、漁 村 に 近 い 地 方 行 政 機 関 の 整 備・強 化 が 急 務 と な っ て い る 。ま た 、地 方 分 権 と 同 時 に 効 率 的 な 行 政 機 関 の あ り 方 が 議 論 さ れ て お り 、こ の 一 環 と し て 普 及 部 門 の 縮 小 や 民 営 化 が 実 施 さ れ る 国 も あ り 、普 及 活 動 を 行 う に あ た り 留 意する必要がある。 3) 関 連 法 規 の 整 備 水産開発計画や水産資源管理規則のような関連法規の法制化は水産行政 -25- の 基 本 と な る 。実 効 性 の あ る 法 規 の 策 定 に は 、行 政 の 明 確 な 方 針 と リ ー ダ ー シップ、十分な情報収集能力、慎重な利害調整能力、さらには国民(住民) の 主 体 的 な 取 り 組 み を 啓 発・促 進 す る た め の 漁 民 の 組 織 化 や 漁 業 金 融 の 整 備 、 漁業共済制度の導入等の取り組みが重要となる。 な お 、既 存 の 関 連 法 規 が 既 に 整 備 さ れ て い る 途 上 国 も 多 い が 、実 効 性 の あ る 漁 業 関 連 法 規 等 に す る た め に は 、常 に 実 態 に 即 す る よ う 再 点 検 を 行 う 必 要 がある。 (2) 水 産 教 育 ・ 訓 練 ・ 啓 発 活 動 水 産 分 野 に お け る 教 育・訓 練 体 制 を 充 実 さ せ る こ と は 、よ り 実 際 に 即 し た 技 術 と 知 識 を 備 え た 人 材 を 育 成 し 、水 産 の 振 興 と 自 立 発 展 の 根 幹 を 築 く も の で あ る 。ま た 、水 産 業 に 対 す る 理 解 と 重 要 性 を 認 識 さ せ る た め 、教 育・訓 練 の 対 象 者 を 水 産 業 従 事 者( 漁 業 、加 工 業 、流 通 業 、養 殖 業 )と 海 に 関 わ る 業 務 従 事 者( 行 政 官 、研 究 者 、普 及 員 )だ け で な く 、資 源 管 理 、環 境 保 全 等 の テーマによっては広く地域住民も含めることが重要である。 水産教育は、その目的に応じて以下のレベルに分類される。 ① 大 学 院 レ ベ ル: 水 産 分 野 の 様 々 な 課 題 の 解 決 に 必 要 な 調 査 や 研 究 を 行 う 人材の育成 ② 大 学 レ ベ ル: 水 産 分 野 の 幅 広 い 知 見 と 技 術 を 有 す る 人 材 ( 行 政 官 ・ 教 員)の育成 ③ 高 校 レ ベ ル: 水 産 業 界 に お い て 即 戦 力 と な る 技 術 を 有 す る 人 材 の 育 成 また、水産分野における訓練・啓蒙活動は以下のレベルに分類される ① 職 業 訓 練: 就 業 支 援 と し て 水 産 業 に 関 す る 実 践 的 な 知 識 と 技 術 の 習 得 ② 改 良 普 及 活 動: 既 存 の 技 術 レ ベ ル の 向 上 や 新 し い 技 術 の 紹 介 ③ 啓 蒙 普 及 活 動: 漁 業 管 理 、 環 境 保 全 な ど に 関 す る 知 識 の 普 及 水 産 教 育・訓 練 に 対 す る 協 力 と し て は 、施 設 と 機 材 の 整 備 、教 員( 指 導 員 ) や 普 及 員 の 能 力 向 上 、教 育 カ リ キ ュ ラ ム・教 材 作 成 、教 育 の 展 開 方 法 や 訓 練 の実施運営体制の整備とその指導が基本となる。啓蒙活動に関る協力では、 ポ ス タ ー 、パ ン フ レ ッ ト の 配 布 や マ ス コ ミ の 利 用 、教 育 機 関 、公 共 施 設 な ど での各種啓蒙イベントやセミナー等の実施が中心となる。 援助協調への取り組み サ ブ サ ハ ラ ア フ リ カ 地 域 を は じ め 多 く の 途 上 国 で は 、保 健 衛 生 や 教 育 等 の -26- 主要セクターにおいて包括的な課題に対応するための援助協調が多く見ら れ 、水 産 分 野 に お い て も 資 源 管 理 分 野 等 、広 域 的 な 協 調 の 必 要 性 が 高 ま っ て い る 。援 助 協 調 に あ た っ て は 、当 該 国 に お け る 我 が 国 の 協 力 の 位 置 付 け を 確 認 し つ つ 、積 極 的 に 調 整 機 能 を 果 た す こ と や 、情 報 発 信 を 行 う こ と が 重 要 で あ る 。新 規 案 件 に つ い て は 、案 件 形 成 段 階 か ら 他 ド ナ ー や 関 係 機 関 と 意 見 交 換を行っていく必要がある。 水 産 分 野 に お け る 援 助 協 調 で は 、当 該 分 野 で 長 年 幅 広 い 活 動 を 行 っ て い る FAO が 重 要 な 機 関 と な る が 、近 年 、世 銀 も 水 産 分 野 を 重 要 視 す る よ う に な り 、 海 洋 漁 業 に お け る 行 政 管 理 能 力 の 強 化 を 目 指 し た PROFISH と い う プ ロ グ ラ ム を 2005 年 か ら 実 施 し て お り 、 ア フ リ カ 地 域 に お い て は 本 プ ロ グ ラ ム が 2005 年 に NEPAD 事 務 局 に お い て 世 銀 の 対 ア フ リ カ 水 産 協 力 の 柱 と し て 承 認 された。 具 体 的 な 連 携 に つ い て は 、FAO と の 連 携 を 軸 に 、他 国 際 機 関 、ド ナ ー と の 連 携 を 図 っ て い く こ と と す る 。 連 携 分 野 と し て は 、 日 本 の 技 術 的 支 援 と FAO 等 の 国 際 機 関 の 政 策 支 援 が 保 管 関 係 と な り う る 、「 水 産 資 源 の 保 全 管 理 」 を 中心とする。 プログラム化の推進 個々のプロジェクトによる協力成果をさらに高次かつ面的広がりのある 協 力 と し て い く た め に 、我 が 国 が 有 す る 様 々 な 援 助 ツ ー ル の 活 用 や 他 ド ナ ー との連携を通したプログラム化を推進していく。 特 に 漁 村 開 発 プ ロ ジ ェ ク ト を 中 心 に 、無 償 資 金 協 力( 水 産 無 償 、草 の 根 無 償 、コ ミ ュ ニ テ ィ 開 発 支 援 無 償 等 )や ボ ラ ン テ ィ ア 事 業 と の 連 携 を こ れ ま で 以上に推進し、協力のインパクトの拡大と協力の持続性の確保に努力する。 大 洋 州 、カ リ ブ 地 域 及 び 中 西 部 ア フ リ カ に は こ れ ま で 多 く の 水 産 無 償 が 供 与 さ れ て き た 。そ の 後 、水 産 無 償 で 建 設 さ れ た 施 設 の 維 持 管 理 を は じ め 、各 種 フ ォ ロ ー ア ッ プ の た め 、個 別 専 門 家 や 協 力 隊 員 が 必 要 に 応 じ 派 遣 さ れ て き た が 、今 後 、水 産 無 償 に よ り 水 産 関 連 施 設 の み な ら ず 、漁 村 生 活 イ ン フ ラ 等 の 整 備 も 可 能 と な れ ば 、プ ロ グ ラ ム 化 が 推 進 さ れ る だ け で な く 、限 ら れ た 援 助資源を有効活用した貧困削減が可能となる。 な お 、無 償 資 金 協 力 卒 業 国 に お い て は 、漁 村 振 興 は 当 該 国 政 府 の 事 業 と し て 実 施 さ れ る こ と が 多 い た め 、支 援 は 水 産 資 源 の 保 全 管 理 を 中 心 と し た も の に 移 行 し て い く こ と と な る 。こ の た め 、全 国 レ ベ ル 等 、広 範 囲 に お い て 資 源 保 全 型 漁 業 の 導 入 を 目 指 し た プ ロ グ ラ ム が 形 成 さ れ る 場 合 は 、有 償 資 金 協 力 との連携を視野に入れることとする。 -27- ジェンダー配慮 水 産 業 の 中 で も 漁 船 に よ る 操 業 は 、重 労 働 で あ る 上 、生 命 の 危 険 を 脅 か す こ と も あ り 、主 と し て 青 壮 年 男 性 の 仕 事 と な っ て い る 。こ の た め 、漁 村 部 に お い て 、一 般 的 に 女 性 や 高 齢 者 は 水 産 業 の 主 な 担 い 手 と し て は み な さ れ て い な い こ と が 多 い 。し か し な が ら 女 性 た ち は 沿 岸 部 に お け る 貝 類 等 の 採 集 業 を は じ め 、漁 網 の 修 理 や 漁 獲 物 の 加 工・販 売 を 受 け 持 つ な ど 、漁 村 部 に と っ て は重要な水産業の担い手となっている。 漁 村 開 発・水 産 開 発 に あ た っ て は 、ジ ェ ン ダ ー に 配 慮 し 、水 産 業 の 担 い 手 と し て の 女 性 の 立 場 は も と よ り 、生 活 改 善 等 の 場 に よ り 多 く の 女 性 が 参 加 で き る 機 会 を 提 供 し 、エ ン パ ワ ー メ ン ト を 図 っ て い く こ と が 重 要 で あ る 。こ の た め 、事 前 評 価 調 査 に あ た っ て は 、従 来 の 5 項 目 評 価 に 加 え 、簡 易 な ジ ェ ン ダ ー 評 価 項 目 を 導 入 し 、事 業 全 体 に ジ ェ ン ダ ー 配 慮 が な さ れ る よ う 留 意 す る 必 要 が あ る 。事 前 評 価 段 階 で の ジ ェ ン ダ ー 評 価 に よ り 、簡 単 な 指 標 が 設 定 で き れ ば 、そ の 後 の 中 間 モ ニ タ リ ン グ 、終 了 時 評 価 及 び 事 後 評 価 に お い て も 追 跡評価が可能となる。 第 3 章 JICA の 協 力 方 針 3-1 全 体 方 針 国の発展度合いが比較的低位のLDC(後発開発途上国)に分類される 国に対しては、開発戦略目標1「活力ある漁村の振興」を通じた貧困削減 を最優先とする。他方、国の発展度合いが高くなるにしたがい、開発戦略 目標1「活力ある漁村の振興」とともに、国全体の食料としての水産物の 確保の側面を重視した開発戦略目標2「水産資源の有効利用」の重要性が 増すと考えられる。 前 者 の 協 力 で は 、地 域 を 限 定 し た プ ロ グ ラ ム 協 力 の 一 環 と し て 開 始 さ れ る プロジェクトが想定されるが、プログラムが形成されない場合においても 個 別 プ ロ ジ ェ ク ト の 中 で 総 合 的 、セ ク タ ー 横 断 的 な 取 り 組 み が 必 要 と な る 。 特に、無償資金協力(水産無償)及び有償資金協力の実施に際しては、 国家レベルでの食料安全保障あるいは産業活性化等のプログラムの中で明 確に位置付けられているか、また地方レベルにおける地域振興プログラム との整合性についても確認する必要がある。 な お 、水 産 セ ク タ ー の 将 来 的 な 自 立 発 展 性 や 持 続 性 に つ な が る 協 力 が 必 要 で あ る 中 、収 益 性 が 国 際 価 格 に 大 き く 左 右 さ れ る 魚 種( エ ビ 等 )の 養 殖 や 熱 帯 海 域 で の 新 規 技 術 開 発 を 目 指 す 魚 種( カ キ 等 )の 養 殖 は 、プ ロ ジ ェ ク ト の 外 部 条 件 が 大 き く 、そ れ が 自 立 発 展 性 や 持 続 性 に 影 響 を 及 ぼ す こ と か ら プ ロ グラムやプロジェクトの形成にあたっては慎重を要する。 -28- 開 発 戦 略 目 標 3「 水 産 資 源 の 保 全 管 理 」 で は 、 国 単 位 で 資 源 保 全 や 沿 岸 の 産 卵 域 の 保 護 等 を 積 極 的 に 行 っ て い く こ と が 重 要 で あ る 。移 動 回 遊 性 魚 類 に つ い て は 、国 毎 の 取 り 組 み に 加 え 、海 域 を 一 つ の 単 位 と す る 広 域 プ ロ グ ラ ム と し て 位 置 付 け る こ と が 望 ま し い が 、各 国 間 の 利 害 関 係 が あ る こ と か ら 、国 際 機 関 と の 役 割 分 担 を 明 確 に し て お く 必 要 が あ る 。 ま た 、「 水 産 資 源 の 保 全 管 理 」 は 、 開 発 戦 略 目 標 1「 活 力 あ る 漁 村 の 振 興 」 及 び 開 発 戦 略 目 標 2「 安 定 し た 食 料 供 給 ( 水 産 資 源 の 有 効 利 用 )」 の 目 標 達 成 の 必 要 条 件 と し て 、 協 力のコンポーネントに加えられるべき重要な課題である。 一 方 、こ れ ま で の 協 力 に よ り 、カ ウ ン タ ー パ ー ト 機 関 の 能 力 が 向 上 し 、域 内 で 高 い 評 価 を 得 て 周 辺 国 に 対 す る 協 力 が 可 能 と な っ た 中 進 国 で は 、同 機 関 を 拠 点 と し た 第 三 国 研 修 や 第 三 国 専 門 家 派 遣 等 の 南 南 協 力 を 推 進 し 、南 南 協 力受入国における技術協力プロジェクトを補完することとする。 地域別の協力方針は次のとおりである。 3-2 地 域 別 協 力 方 針 3-2-1 ア ジ ア 地 域 (1) 東 南 ア ジ ア 地 域 東 南 ア ジ ア 地 域 で は 、河 川 、森 林 共 に 一 定 レ ベ ル で 保 全 さ れ て お り 、ま た 熱 帯 雨 林 、熱 帯 モ ン ス ー ン に 属 し て い る た め 、栄 養 塩 の 河 川 及 び 沿 岸 水 域 へ の供給が多く、内水面・沿岸海面部共に生物生産のレベルが高い。 漁 業 に お い て は 伝 統 的 な 零 細 漁 業 が 発 達 し て お り 、水 産 物 は 生 鮮 で 利 用 さ れ る だ け で は な く 、塩 干 品 や 魚 醤 等 の 醗 酵 調 味 料 へ の 加 工 な ど の 利 用 形 態 も 多 様 化 し て お り 、日 本 の 沿 岸 漁 業 と の 類 似 性 も 有 し て い る 。さ ら に 、多 く の 国 で は 年 間 百 万 ト ン 以 上 の 漁 獲 が あ り 、水 産 業 が 一 定 の レ ベ ル に 発 達 し て い る。 協 力 の 重 点 分 野 は 、辺 境 、島 嶼 域 等 、都 市 部 と の 格 差 が 大 き い 地 域 で の 粗 放 的 内 水 面 養 殖 を 中 心 と し た 「『 漁 村 開 発 』 を 通 し た 貧 困 削 減 」 と す る 。 特 に ラ オ ス 、カ ン ボ ジ ア 等 低 所 得 国 に お い て 、低 コ ス ト の 粗 放 的 内 水 面 養 殖 を 核とした総合的な漁村振興を推進する。 (2) 南 西 ア ジ ア 地 域 南 西 ア ジ ア 地 域 で は 、多 く の 国 に お い て 、コ イ 類 を 主 対 象 と し た 内 水 面 漁 業 及 び 沿 岸 域 で 行 う エ ビ 養 殖 が 盛 ん で あ る 。内 水 面 の 漁 獲 物 は 国 内 あ る い は ア ジ ア 域 内 で 消 費 さ れ 、エ ビ 類 の 多 く は 国 際 商 品 と し て 広 く 海 外 に 輸 出 さ れ て い る 。こ の 地 域 で は 漁 民 の 多 く が 零 細 漁 民 で あ り 、最 貧 困 層 に 位 置 付 け ら れている。また、スマトラ沖地震による津波被害を受けた地域も多い。 協 力 の 重 点 分 野 は 、資 源 管 理 に 配 慮 し た 持 続 的 沿 岸 漁 業 、粗 放 的 淡 水 養 殖 -29- を 中 心 と し た 「『 漁 村 開 発 』 を 通 し た 貧 困 削 減 」 と す る 。 な お 、こ の 地 域 は 、宗 教 、人 種 等 社 会 的 状 況 が 多 様 で あ り 、こ れ ら の 違 い に よ る 漁 業 関 連 活 動 へ の 関 わ り 方 が 異 な る こ と か ら 、協 力 に お い て は 、社 会 的状況への配慮が不可欠である。 3-2-2 大 洋 州 地 域 ミ ク ロ ネ シ ア 、パ ラ オ 、バ ヌ ア ツ 、フ ィ ジ ー 等 は 隆 起 火 山 島 で 山 岳 部 に 森 林 地 帯 も 発 達 し て い る こ と か ら 、他 の 島 嶼 国 に 比 べ て 沿 岸 部 の 基 礎 生 産 は 高 い 。さ ら に 、回 り を 寒 流 に 囲 ま れ て い る バ ヌ ア ツ は 太 平 洋 の 小 島 嶼 国 の 中 で は 豊 か な 沿 岸 資 源 を 有 し て い る 。他 方 、サ ン ゴ 礁 に 由 来 す る 小 島 嶼 国 は 森 林 や 河 川 も な く 、自 家 消 費 用 に 根 付 き の 魚 を サ ン ゴ 礁 域 で 漁 獲 す る 他 は 、一 般 に カ ツ オ 、マ グ ロ 等 の 回 遊 性 浮 魚 資 源 や 、貝 類 及 び な ま こ 等 、底 性 生 物 資 源 の利用が中心となる。 多 く の 国 が 小 島 嶼 開 発 途 上 国 ( Small Island Development States: SIDS) に 分 類 さ れ 、経 済 活 動 の 幅 が 限 定 さ れ て お り 、広 大 な 排 他 的 経 済 水 域 と そ こ に存在する水産資源の有効活用が国家開発における重要な数少ない選択肢 の一つとなっている。 海 外 市 場 を 対 象 と し た カ ツ オ・マ グ ロ 漁 業 が 国 家 開 発 の 重 要 な 選 択 肢 で あ る 国 が 多 い が 、こ の 分 野 に 対 し て は 日 本 の 水 産 業 界 が 中 心 と な っ て 技 術 支 援 を実施していることから、協力の対象とはしない。 協 力 の 重 点 分 野 は 、資 源 管 理 に 配 慮 し た 持 続 的 沿 岸 漁 業 、水 産 資 源 を 活 用 し た 観 光 振 興 を 含 ん だ 「『 漁 村 開 発 』 を 通 し た 貧 困 削 減 」 と す る 。 小 島 嶼 国 は 予 算・人 材 等 が 限 ら れ 、ロ ー カ ル コ ス ト 負 担 も 見 込 め な い 場 合 が 多 く 、協 力 の 効 率 性 の 観 点 か ら 、テ ー マ に よ っ て は 地 域 国 際 機 関 と も 連 携 した広域協力の形成を図ることとする。 3-2-3 中 近 東 地 域 (1) ア ラ ビ ア 半 島 及 び ペ ル シ ャ 湾 岸 地 域 ア ラ ビ ア 半 島 及 び ペ ル シ ャ 湾 岸 地 域 は 、乾 燥 地 帯 が 多 く 栄 養 塩 の 供 給 が 少 な い た め 、沿 岸 部 で は エ ビ や サ メ 等 の 一 部 魚 類 を 除 い て 商 業 的 に 重 要 な 水 産 資 源 は 少 な い 。た だ し 、油 田 地 帯 の 周 辺 で は 無 機 栄 養 塩 類 の 供 給 が あ り 、エ ビ 漁 場 が 発 達 す る 場 合 が 多 い 。こ の 地 域 で は 、近 年 は 食 生 活 の 欧 米 化 に 伴 い 、 エ ビ に 加 え て 、マ グ ロ 缶 詰 の 消 費 量 が 急 速 に 増 大 し 、サ ウ ジ ア ラ ビ ア な ど の 産油国はマグロ缶詰を大量に輸入している。 こ の 地 域 は 、所 得 の 高 い 国 が 多 く 、水 産 分 野 で も 漁 船 の 動 力 化 や 漁 港・市 場 施 設 の 整 備 が 進 ん で お り 、沿 岸 小 規 模 漁 業 が 発 達 し て い る 。一 方 で 、資 源 量 が 減 少 し て い る 魚 種 も あ り 、水 産 資 源 の 保 全 管 理 が 重 要 な 課 題 と な っ て い る。 -30- (2) 黒 海 及 び 地 中 海 沿 岸 地 域 黒 海 及 び 地 中 海 沿 岸 地 域 は 、従 来 生 物 生 産 の 高 い 地 域 で あ っ た が 、工 業 地 帯 の 発 達 に よ る 環 境 汚 染 、あ る い は 急 速 な マ グ ロ 蓄 養 事 業 の 拡 大 に よ る 自 家 汚 染・富 栄 養 化 に よ っ て 、水 産 資 源 が 大 き な ダ メ ー ジ を 受 け て い る 例 が 見 ら れる。 こ の 地 域 に つ い て 、特 に 最 近 の 注 目 す べ き 事 例 は チ ュ ニ ジ ア の ガ ベ ス 湾 で あ る 。こ こ は 、広 大 な ア マ モ 場 が 発 達 し 、従 来 か ら 地 中 海 に お け る 魚 類 等 の 重 要 な 産 卵 場・育 成 場 の 役 割 を 果 た し て き た が 、近 年 、こ の ア マ モ 場 が 著 し く消失し始めており、この影響が地中海全体に及ぶことも懸念されている。 (3) 北 ア フ リ カ 地 域 中 東 地 域 、特 に 北 ア フ リ カ 諸 国 で は 、こ れ ま で 我 が 国 も 多 く の 水 産 分 野 の 協 力 を 実 施 し て き た が 、今 後 の 協 力 の 重 点 分 野 は 、我 が 国 が 技 術 的 な 優 位 性 を 有 す る「 水 産 資 源 の 保 全 管 理 」 ( 水 産 資 源 評 価 、漁 業 管 理 、漁 場 環 境 保 全 ) や、 「水産資源の有効利用」 ( 水 産 食 品 の 品 質 管 理 、水 産 加 工・流 通 の 改 善 等 ) に 関 す る 協 力 を 、テ ー マ を 絞 り 込 ん で 実 施 す る と 共 に 、北 ア フ リ カ に お い て はサブサハラアフリカを対象に第三国研修を中心とする南南協力を拡大し ていくこととする。 3-2-4 中 南 米 地 域 協 力 に あ た っ て は 中 米・カ リ ブ 地 域 を 優 先 す る こ と と す る 。南 米 地 域 に お いては、経済レベルの高い国(アルゼンティン、チリ等)への協力を控え、 ペ ル ー 、エ ク ア ド ル 、コ ロ ン ビ ア 等 の 貧 困 度 合 い の 高 い 地 域 の 漁 村 開 発 を 重 視する。 (1) 中 米 ・ カ リ ブ 地 域 メキシコ湾やカリブ海に面する地域は海洋基礎生産も一定レベルにあり、 沿 岸 定 着 性 魚 介 類 や エ ビ 等 の 甲 殻 類 の 生 産 が 比 較 的 高 い が 、浮 魚 類 に つ い て は小型・大型共に回遊性資源が主体であり季節的操業にならざるを得ない。 ま た 、カ リ ブ 海 に 分 布 す る 小 島 嶼 国 の 周 辺 で は 概 ね 栄 養 塩 類 の 供 給 が 限 ら れ て い る こ と か ら 、沿 岸 部 で は 回 遊 性 の 小 型 浮 魚 類 の 利 用 が 主 体 と な る 。他 方 、 地 理 的・社 会 的 要 因 と し て 北 米 の 水 産 物 大 消 費 地 を 近 隣 に 有 し 、外 貨 獲 得 の た め の 輸 出 先 と し て 有 効 に 利 用 で き る こ と か ら 、ト ビ ウ オ な ど の 小 型 魚 の フ ィ レ 加 工 も 可 能 と な っ て い る 。中 米 の 太 平 洋 側 の 外 洋 域 は 岩 礁 地 帯 、内 湾 や 閉 鎖 性 水 域 は シ ル ト 質 の 泥 浜 と な っ て お り 、砂 浜 の 発 達 が 見 ら れ な い 。内 湾 や 閉 鎖 性 水 域 で は マ ン グ ロ ー ブ が 発 達 す る が 、コ ス タ リ カ 、グ ァ テ マ ラ 、エ ル サ ル バ ド ル な ど 、上 流 域 で の 過 剰 な 森 林 伐 採 や 内 乱 に よ る 森 林 破 壊 が 進 ん だ 場 合 に は 、雨 季 の 濁 流 に よ っ て 沿 岸 部 で の 生 物 生 産 が 著 し く 阻 害 さ れ る 場 -31- 合もある。 協 力 の 重 点 分 野 は 、住 民 参 加 型 の 資 源 管 理 を 組 み 合 わ せ た 持 続 可 能 な 沿 岸 漁 業 、食 料 供 給 の た め の 内 水 面 養 殖 、水 産 資 源 の 活 用 に よ る 観 光 振 興 等 、 「『 漁 村開発』を通した貧困削減」とする。 ま た 、当 地 域 に つ い て は 、特 に カ リ ブ 海 の 小 島 諸 国 に 対 し 、こ れ ま で 水 産 無 償 資 金 協 力 が 数 多 く 実 施 さ れ て お り 、今 後 は 、水 産 無 償 を 取 り 込 ん だ 漁 村 開発を目指すこととする。 なお、カリブ海諸国は、いずれも海洋資源への依存度が高いこともあり、 水 産 資 源 の 有 効 利 用 を 地 域 一 体 と な っ て 図 っ て い く こ と を 目 的 に 、カ リ ブ 漁 業 機 構 ( Caribbean Regional Fisheries Mechanism: CRFM) と い う 地 域 国 際 機 関( 加 盟 国 14 ヵ 国 1 地 域 )を カ リ ブ 共 同 体( CARICOM)の 下 に 設 立 し て い るため、効率的観点から同機関を通じた協力を推進する。 (2) 南 米 地 域 南 米 大 陸 で は 、太 平 洋 沿 岸 は 大 規 模 な 湧 昇 流 に よ る 栄 養 塩 の 供 給 と 基 礎 生 産 の 季 節 的 増 大 が あ る も の の 、大 陸 棚 が 発 達 し て な い た め 底 魚 資 源 が 限 ら れ る な ど 魚 種 層 は 薄 い 。 大 西 洋 側 は 200 海 里 を 超 え る 大 陸 棚 が 発 達 し 、 ま た 、 各 地 に 大 規 模 河 川 の 流 入 が あ る こ と か ら 、沿 岸 及 び 沖 合 性 魚 類 の 魚 種 層 に 恵 ま れ て い る 。南 米 沿 岸 の 全 域 に わ た っ て 零 細 漁 村 や 漁 民 が 存 在 す る が 、海 岸 線 の 半 分 以 上 が 、チ リ 、ブ ラ ジ ル 、ア ル ゼ ン チ ン と い っ た 経 済 レ ベ ル の 高 い 国 で 占 め ら れ て い る 。水 産 物 利 用 に つ い て は 、原 住 民 や イ ン デ ィ オ 系 住 民 が 食 用 に 利 用 す る も の の 、ヨ ー ロ ッ パ 系 移 民 は 畜 肉 利 用 の 割 合 が 高 く 、輸 出 品 としての漁業以外は近年まで発達しなかった経緯がある。 協 力 の 重 点 分 野 は 、ア ジ ア 地 域 等 と 比 較 し て も 貧 困 度 合 い が 高 い 地 域 を 対 象 に 、 資 源 管 理 に 配 慮 し た 持 続 的 沿 岸 漁 業 を 中 心 と し た 「『 漁 村 開 発 』 を 通 した貧困削減」とする。 3-2-5 ア フ リ カ 地 域 ア フ リ カ 地 域 に お け る 協 力 の 重 点 分 野 は 、資 源 管 理 に 配 慮 し た 持 続 的 沿 岸 漁 業 、 零 細 漁 民 を 対 象 と し た 干 物 、 燻 製 等 の 水 産 加 工 を 中 心 と し た 「『 漁 村 開 発 』 を 通 し た 貧 困 削 減 」 及 び 「 水 産 資 源 の 有 効 利 用 」( 水 産 食 品 の 品 質 管 理、水産加工・流通の改善等)とする。 アフリカ全土においてティラピア等の内水面養殖の需要が高いことから、 「『 漁 村 開 発 』 を 通 し た 貧 困 削 減 」 に 取 り 組 む に あ た っ て は 、 こ れ ら 内 水 面 養 殖 を 含 め 、農 業 等 の 他 分 野 の 生 計 向 上 手 段 と 保 健 医 療 、教 育 等 の 社 会 開 発 を組み合わせた総合的な協力を積極的に推進していく。 な お 、紅 海 か ら 大 西 洋 に 面 す る エ リ ト リ ア 及 び ソ マ リ ア は 、政 情 不 安 等 の 影 響 も あ り 、零 細 漁 業 の 発 展 の 可 能 性 が あ る に も か か わ ら ず 、実 施 の 緒 に つ い て い な い 状 況 に あ る た め 、JICA の 協 力 が 本 格 的 に 開 始 さ れ た 時 点 で 、復 興 -32- 支援の枠組みの中で、 「『 漁 村 開 発 』を 通 し た 貧 困 削 減 」を 主 体 と し た 協 力 を 重点分野とする。 (1) 西 部 ア フ リ カ 地 域 セ ネ ガ ル か ら ア ン ゴ ラ に か け て の 大 西 洋 沿 岸 域 で は 、上 流 域 の 森 林 が 保 全 さ れ て い る 他 、海 流 に よ る 表 層 へ の 栄 養 塩 類 の 供 給 に も 恵 ま れ て お り 、基 礎 生 産 が 高 い 。同 地 域 で は 小 規 模 沿 岸 漁 業 が 発 達 し て お り 、水 産 業 は 重 要 な セ ク タ ー と し て 、食 料 供 給 及 び 雇 用 や 所 得 の 確 保 の 面 で 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る 。ア フ リ カ で は 水 産 物 は 畜 産 物 よ り 安 価 で あ る こ と か ら 、動 物 性 タ ン パ ク 資 源 と し て 今 後 と も そ の 需 要 増 加 が 予 想 さ れ る が 、同 地 域 沿 岸 域 で は 乱 獲 状 態にあり、資源が枯渇しかけているのが現状である。 (2) 東 南 部 ア フ リ カ 地 域 モ ザ ン ビ ー ク 、ケ ニ ア 及 び タ ン ザ ニ ア の イ ン ド 洋 沿 岸 で も カ ヌ ー 漁 業 が 行 わ れ て い る が 、大 西 洋 側 に 比 べ る と 大 規 模 河 川 の 流 入 が 少 な く 、沿 岸 部 の 水 産 資 源 量 も 豊 富 と は 言 え ず 、ま た 漁 船 や 漁 港 施 設 も 未 だ 充 分 に 整 備 さ れ て い ない。 (3) 中 部 ア フ リ カ 地 域 中 部 ア フ リ カ と そ の 沿 岸 は 森 林 の 乱 伐 等 の 影 響 も あ り 、陸 域・海 域 共 に 基 礎 生 産 が 低 い 傾 向 に あ る 。一 方 で 、中 部 ア フ リ カ で は 内 水 面 漁 業 に 依 存 し て いる国も多く、他のアフリカ地域を含め、タンザニア、ウガンダ、コンゴ、 ナ イ ジ ェ リ ア 、 ケ ニ ア 、 マ リ 、 チ ャ ド が 世 界 の 淡 水 魚 漁 獲 上 位 20 カ 国 に ラ ン ク さ れ て い る 。こ れ ら の 内 水 面 漁 業 は 、ビ ク ト リ ア 湖 の ナ イ ル パ ー チ 漁 業 に 代 表 さ れ る 商 業( 輸 出 )目 的 の カ ヌ ー 漁 業 と 自 給 も 含 む 地 場 消 費 を 目 的 と した漁業に区分される。 各地域の重点分野 アジア 大洋州 中東 活力ある漁村の振興 安定した食料供給 水産資源の保全管理 ◎ ● ◎ ● ○ ◎ 中南米 アフリカ ◎ ○ ● ◎ ○ ◎ ◎:重点分野(優先度:高) ○:重点分野(優先度:中) ●:他の重点分野を主とした協力の中に取り込む 以上 -33- 付録 1. 主要な協力事例 中間目標のサブ目標に対応する主要な協力案件の事例について説明を加え、下表にまと めた。 開発戦略目標別水産関連案件リスト(代表事例) 国 名 案 件 名 期 間 形 態 中間 特 目標 徴 1. 活力ある漁村の振興 セイシェル 沿岸漁業振興計画 2000 無償資金 1-1, 同国では漁業生産手段の近代化の遅れから、沿岸資源の保護やポ 年度 協力 1-3, ストハーベストロスの問題ならびに漁船建造技術の未熟およびリーフ 2-1, 水路標識灯の未整備により海難事故に対する漁業者の不安があり、 2-4, これらの問題改善を行った。 供与施設機材 :製氷・貯氷庫、小型漁船、漁具、航路標識、 無線機等 ガンビア 水産センター運営管 理 2004.1 個別案件 ~ 1-1, 水産業の振興と地域経済の向上を目的に建設された水産センターで 2-4, は、漁獲物の保存、冷蔵、輸送などに関する操業を行っている。専門 2004.11 家は無償資金協力の補完として、その後のセンター施設運営の再点 検を行い、水産局への効果的な助言も含め、センター職員の再教育、 フォローアップに関する指導を行った。 チュニジア 漁業訓練計画 1998.8 ~ 技術協力 1-1, 1978 年から 82 年までの我が国の協力によるマハディア国立漁業訓 プロジェクト 1-3, 練センターでは、漁業教員の訓練が実施され、同国の水産教育水準 2-1, 向上に寄与した。しかし、終了後 15 年が経過し技術の陳腐化、機材 2001.7 の老朽化が目立ってきた。このため新技術を導入した訓練およびそ れらに必要な資機材の更新を実施し、センター教員の指導能力の向 上とともにカリキュラムの改善を行い効果的な教育、訓練を行うことを 目的にプロジェクトを実施した。 マラウイ 在来種増養殖技術 開発計画 1999.4 ~ 技術協力 1-2, 同国水産業は国民の動物蛋白摂取量の70%を供給するなど重要な プロジェクト 2-2, 役割を担っているが、近年漁獲量が減少している。また、マラウイ湖 2004.3 固有種保護のため外来種の導入が全面禁止となっている。そこで、 貧困削減と蛋白食料供給を目的にマラウイ在来魚種のうち新養殖魚 種の種苗生産技術および既存養殖魚の適正養殖技術の確立を行 い、その技術を小規模農家へ普及させることを目的にプロジェクトを 実施した。 セネガル 改良燻製釜の全国 普及 2003.11 個別案件 ~ 1-2, カヤール水産センターの水産加工施設の中に導入された改良サーデ 2-4, ィン燻製釜を全国に普及する目的に、地域の水産物加工の実情を調 2004.5 査した上で、改良型普及釜をC/Pおよび受益者である女性とともに 製作し、作成した釜の図面・仕様・利用法・維持管理法をマニュアルと してまとめた。さらに対象漁村に駐在する水産局職員と加工に従事す る女性達に燻製釜の利用法・維持管理法の技術移転を行った。 ガボン 漁民センター整備計画 2000 無償資金 1-1, 当国ポール・シャンテにおいて、零細漁業の振興を目的に施設整備を 年度 協力 1-3, 行った。 2-4, 供与施設機材 :船揚げ場、製氷・貯氷庫、荷捌施設、保蔵施設、 1-1, 当国の漁獲量は国内需要の50%に過ぎず、魚類の輸入は増加傾向 1-3, にある。そのため、食料安全保障上、水産業振興は重要な施策の一 漁民組織化施設等 ホンジュラス 北部漁民の組織運 営強化 2000.4 ~ 2001.4 個別案件 つとして、動物蛋白質の水産物からの摂取、雇用促進などに裨益し 同国経済に果たす役割は大きい。専門家は漁民の地位向上および 貧困削減のため、組織運営強化の指導を行った。 国 名 中間 案 件 名 期 間 形 態 特 パプアニュー ウェワク市場及び桟 2008 年 無償資金 1-2 ギニア 橋建設計画 度 協力 1-3 る拠点となっているが、その地理的条件、施設・設備の老朽化により 2-3 十分な機能を果たせない状況にあった。 目標 徴 ウェワク市場は農漁村民が小売人として生産物を販売して収入を得 このような背景のもと、農漁村民の生計向上に資する小売機能と海 路交通インフラ機能の再構築を目的とし、既存の市場に隣接する新 市場、および新しい桟橋を建設する本プロジェクトを実施した。 本件により、市場内の衛生状態の改善、氷の使用、および桟橋を利 用するボートの増加がみられ、農漁村民の収入機会が向上した。 供与施設機材 :市場棟、管理棟、桟橋、製氷機、貯氷庫等 セネガル 水産物加工技術普 2007.1 技術協力 1-2 同国では総漁獲量の約1割が燻製・塩干にされているが、従来の加 及プロジェクト ~ プロジェク 2-3 工(燻製煮沸後に燻製・塩干に加工される)では、熱効率の悪さ、作業 2009.1 ト 2-4 に不向きな形状が課題とされ、さらにそれら加工品の付加価値向上 や流通の改善も求められている。これらの課題に対し、地域の環境に 適合した改良型燻製釜を試行導入し、主な使用者である女性加工組 合に対して維持管理手法の技術移転を行った。更に魚油及び魚の残 渣を利用した固形燃料の商品化を通して収入向上を図ると共に、水 産加工品の生産及び販売戦略を女性加工組合が策定できるように支 援を行った。 2. 安定した食糧供給 ミクロネシア 漁業訓練計画 2000.8 ~ 技術協力 1-1, 広大な海域に散在する小さな島々からなるミ国は、天然資源に乏し プロジェクト 1-3, く、また島嶼国という地理的な条件からも産業の育成が困難な状況に 2-1, ある。よって水産業は同国にとって現実的な発展可能性を有した数少 2003.7 ない産業分野の一つである。同国政府は、水産業育成の重要性を早 くから認識しており、漁業公社を設立するなど商業漁業の振興に力を 注いできた。しかし、自立的な漁船の運用(乗組員の自国民化)は進 んでいない状況にある。このため、漁業訓練機関のレベルの底上げ および国民の水産業への雇用促進を目的にプロジェクトを実施した。 ペルー 漁具・漁法 (延縄) 1998 ~ 現地国内 1-1, ペルーは、零細漁民の収入の安定化および貧困層の栄養改善等を 研修 2-1, 目的として、魚粉生産中心の漁業から食用魚種の拡大および漁獲量 2-4, の拡大を開発政策の優先事項として位置づけており、水産分野に係 2002 る雇用創出、生産能力・システムの強化、小規模沿岸漁業振興を目 的に零細漁民の訓練として国内研修を実施した。 マダガスカル インドネシア マジュンガ水産流通施 2000 無償資金 1-1, 当国国民に不足している動物性蛋白質を確保するため、未利用魚を 設整備計画 年度 協力 2-1, 安定的に都市部に供給するための施設・機材を供与した。 2-4, 供与施設機材 :冷蔵施設、管理施設、冷凍車、製氷・貯氷庫等 技術協力 1-2, インドネシア国の淡水養殖業は国民への貴重な蛋白供給源および雇 プロジェクト 2-2, 用の場として重要な役割を果たしている。しかし、その供給量は国の 3-4, 目標の6割に留まっており、伝統的な方式がほとんどである。このた 淡水養殖振興計画 2000.8 ~ 2005.8 め伝統的零細漁業者や兼業農民にも対応可能な低資本で簡易な淡 水養殖技術の開発・教育普及および種苗の安定供給体制の確立に より、国民への蛋白源の安定供給と零細漁民の生活向上を図る目的 でプロジェクトを実施した。 ベトナム ニャチャン海洋養殖研 2002 無償資金 2-2, 持続的な養殖漁業の発展および新たな養殖対象種である魚類養殖 究・開発センター計画 年度 協力 3-4, の確立を図り、沿岸零細漁業者の養殖漁業への転換と所得向上を目 的にセンターを建設した。 供与施設機材 :桟橋、浮き桟橋、養殖研究施設、養殖池、研究機 器、機材等 オマーン 水産物品質管理センタ 2000 無償資金 1-2, 水産物の欧州への輸出および国内消費に必要な品質管理体制およ ー建設計画 年度 協力 2-3, び教育普及体制を確保するため、海洋科学センターの統率下に国際 2-4, 的な品質衛生基準に応じた品質管理能力、検査機材を備えた水産品 質管理センターを建設した。 供与施設機材 :品質管理施設、検査・分析機材、教育・訓練機材等 国 名 フィリピン 案 件 名 毒性赤潮現象のモ ニタリング強化 中間 期 間 形 態 1999.6 技術協力 2-3, 1987 年以来、各地で毒性赤潮(麻痺性貝毒)の発生が報告されてお プロジェクト 3-3, り、貝類の汚染を通して人命および経済への深刻な被害が生じてい ~ 特 目標 2002.6 徴 た。そこで毒性赤潮モニタリングの質の向上を図るため、モニタリング 機材を整備し、現在行っているモニタリング方法の改善、地方スタッフ へのトレーニング内容の向上やテキストの改訂を行った。 セネガル カヤール水産センター 2000 無償資金 1-1, 魚類流通と生産環境の改善を通して、漁民、加工女性の所得と漁村 建設計画 年度 協力 1-3, の生活水準を向上させる目的でセンターを建設した。 2-4, 供与施設機材 :漁獲物水揚げ場、漁民倉庫、塩干物加工場、 技術協力 1-2, 過去に我が国は水産加工品の改良、新製品の開発、加工技術者の プロジェクト 2-3, 養成を目的にプロジェクトを実施した。しかし、プロジェクト終了後、15 2-4, 年以上が過ぎ、機材の更新、新技術の導入が必要になった。そこで、 管理事務所等 ペルー 水産加工センター (A/C) 2001.7 ~ 2003.3 同センターの能力向上を図ることを目的にアフターケアを実施した。 タンザニア ダルエスサラーム魚市場 建設計画 1999 ~ 無償資金 1-1, 航路拡張計画に伴い移転が必要とされているバンダビーチ魚市場の 協力 2-1, 市場機能・衛生環境および水揚げ事情の改善を目的として、海岸を 2-4, 整備し、新たな魚市場を建設した。 2000 年度 供与施設機材 :浮桟橋、水揚岸壁、護岸、進入道路、駐車場、 市場、加工場等、卸売施設、小売市場、外溝施設等 フィジー 水産乾製品製造技 術 2005.2 個別案件 ~ 1-2, 当国の水産加工の現状と課題を把握し、南太平洋大学(USP)の水産 2-4, 加工関連実習指導者等に対して水産乾製品製造技術の講習会を行 2007.6 うとともに、当該技術の国内的な定着と普及を図る上で具体的な方 策、その中で USP に求められる役割および USP とフィジー水産局の 連携のあり方等について助言を行った。 カンボジア 海洋養殖開発センタ 2009.7 無償資金 1-2 当国において、水産業は国家経済および国民への動物性タンパク質 ー建設プロジェクト ~ 協力 1-3 供給源として重要な役割をになっている。しかしながら、海面養殖分 2-2 野では養殖技術の欠如と人工種苗業者の不在のため、天然種苗及 3-4 び輸入種苗を用いらざるを得ないなど、国の開発重点分野とされてい 2012.2 ながら十分な振興が図られていないのが現状である。かかる状況を 踏まえ、南部のシハヌークビル市に、海洋養殖技術普及のための研 修・教育、養殖用稚魚の生産・供給等を目的とした施設を整備し、海 洋養殖の発展に貢献することを目的としプロジェクトを実施している。 ラオス 養殖改善・普及計画 2005.5 技術協力 2-2 同国では、多くの農家が営農とともに主に自家消費を目的とした粗放 プロジェクトフェーズ ~ プロジェク 2-3 養殖を行っている。近年、天然水産資源の減少により水産物の供給 Ⅱ 2010.4 ト 2-4 量は内水面の養殖生産に依存せざるを得ない状況にありながら、小 規模養殖農家への種苗配布において養殖技術不足、適正種苗の供 給量不足、普及活動の不足等の課題を抱えており、生産性が低い状 況にある。これら課題の解決に向け、フェーズⅠでは、中央養殖開発 センターを整備し、養殖技術の開発および人材の育成を実施し、養殖 普及に着手する基盤を築いた。本プロジェクトは、全国規模の養殖技 術普及の地方展開を行い、小規模養殖農家の生活向上に資すること を目的とし実施している。 ガボン 零細漁業・内水面養 2007.4 殖総合開発計画調 査 開発調査 1-1 水産資源の持続的な利用を通じて、漁民(養殖従事者を含む)の生計 ~ 1-3 及び生活が改善されるための具体的な方策(海面養殖、内水面養 2009.3 2-2 殖、若手漁民の育成、漁獲物の流通・販路の開拓など)を明らかに 2-3 し、カウンターパート及び漁民等水産業関係者の能力向上を図った。 2-4 インドネシア ジャカルタ漁港 リハ ビリ事業 2004~ 有償資金 2-1 ジャカルタ漁港は、インドネシア最大の漁港であり、水産業の一大拠 協力 2-4 点として機能しているが、ジャカルタ都市部の過度な地下水の汲み上 げ等による地盤沈下の影響を受けて施設が沈下しており、同漁港の 機能維持及び関連施設の有効利用のため施設沈下への対応が必要 となっている。本事業は、ジャカルタ漁港第 1 期事業で建設された主 要施設である東西両岸壁(1,349m)のリハビリ工事等の実施を通じ て、既存施設の機能回復、持続性の確保を図るものである。 国 名 案 件 名 期 間 形 態 中間 特 目標 徴 エルサルバド 貝類増養殖開発計 2007.4 技術協力 1-2 当国東部地域沿岸部の漁村では、赤貝や在来種カキを中心とした貝 ル 画プロジェクト ~ プロジェク 2-2 類採集とエビトロール漁業が零細漁民の生活を支えてきた。しかし、 2009.3 ト 近年貝類採集従事者の増大により資源の減少・矮小化や、分布密度 の低下により漁場が年々遠隔化しており、収入の減少と労働時間の 増加が問題となっている。これに対し、漁民に普及可能な貝増養殖技 術(赤貝、イワガキ等)を確立するとともに、持続的な資源利用にむけ た漁民の意識啓発や、収入の多角化を目的とした方策の提言など、 包括的なアプローチによる漁民の生計向上モデルを提案した。 3. 水産資源の保全管理 マレーシア 水産資源・環境研究 計画 1998.5 ~ 技術協力 3-1, マレーシアプトラ大学は、水産資源および海洋環境研究分野に於け プロジェクト 3-3, る重要な研究機関であるが、マラッカ海峡における包括的な基礎調 2003.5 査・研究が期待されており、当大学の同分野の調査・研究能力強化を 目的にプロジェクトを実施した。 チュニジア 漁業調査船建造計 1998 無償資金 3-1, 漁業管理による資源の保全と有効利用による持続的な漁業の振興に 画 年度 協力 3-2, は、資源状況、新漁場に関するデータが必要である。国立海洋科学 技術研究所の老朽化した調査船の代船として新漁業調査船を導入 し、調査能力の整備・強化を図った。 セネガル 漁業資源評価・管理 計画調査 2003.6 開発調査 ~ 2006.9 1-1, セネガル国排他的経済水域の主要海洋漁業資源の評価を行うととも 1-3, に、零細漁業者を主な対象とした実行可能な漁業資源管理の方策を 3-1, 提示し、セネガル国漁業の持続的発展に資する目的で調査を行っ 3-2, た。 3-4, ガーナ 水産資源調査 2002.7 開発調査 ~ 3-1, 主要底魚魚類の資源調査を実施し、適正な底魚資源評価、漁業資源 3-2, 管理指針策定を行うこととあわせて、水産局職員の調査能力の向上 2003.2 トリニダード・ 持続的海洋水産資 トバゴ 源利用促進計画 2001.9 ~ を目的とした。 技術協力 1-1, 当国周辺には好漁場が形成されているが、零細漁民の所得水準は プロジェクト 1-2, 低く、また、混獲魚の投棄等による資源枯渇が懸念されている。これ 1-3, らの問題を解決するための指導的人材の育成ならびにカリブ漁業開 2-1, 発漁業訓練所を拠点に周辺諸国への広域技術協力を実施し、同国な 2-4, らびに周辺諸国の水産資源持続利用のための普及および訓練活動 3-1, を実施している。 2006.9 3-2, モーリシャス 漁業管理訓練施設 改善計画 2002 無償資金 1-1, 外海への漁場転換および資源管理体制の強化を図るための漁業関 協力 1-3, 係者への研修を実施するため以下の施設機材を整備した。 2003 2-1, 供与施設機材 :漁業訓練・普及センター(1620 ㎡)、訓練機材、 年度 3-1, ~ ミニバス、4WD 車等 3-2, モーリシャス 沿岸資源・環境保全 1995.1 技術協力 1-2, 当国で唯一水産・環境部門の学術的研究を実施しているアルビオン 計画 ~ プロジェクト 2-2, 水産研究所の沿岸資源と環境の保全に係る機能向上を目的に種苗 3-3, 生産技術の向上、適切な放流技術の開発、沿岸生態研究およびモニ 3-4, タリング技術手法の向上を目的に実施した。 1-2, 資源の共同管理を進めるための管理共同体の組織化、稚魚保護を 2-2, 啓発する方策、禁漁区、禁漁期設定の有効性を条件別に解説し、こ 3-3, れらの経済的・持続的効果を教授するとともに、種苗放流による資源 3-4, 造成方法と小資本型養殖方法として、稚貝放流(安価な天然稚貝の 2002.11 フィリピン 沿岸域における資源 管理と資源培養 2002.8 ~ 2002.11 個別案件 移植育成を含む)や海藻養殖等の無給餌・簡易施設型養殖技術を指 導した。 国 名 エルサルバド 案 件 名 零細漁業開発調査 ル 期 間 形 態 2000.8 開発調査 ~ 2001.9 フィリピン 中間 特 目標 徴 1-1, 内戦時の避難民が多く、総じて貧困である零細漁民の貧困対策と持 2-1, 続的な沿岸漁業振興を図ることを目的にマスタープラン調査を実施す 3-3, る。 水産養殖高等技術 2001 無償資金 1-2, より生産性の高い、安全で持続可能な水産養殖業を確立するため、 研究設備設置計画 年度 協力 2-2, 魚病対策、水質管理等の研究開発を実施できる応用研究室を東南ア 3-3, ジア漁業開発センター養殖部局に設立するために、必要な機材整備 3-4, および施設の改修を行った。 供与施設機材 :養殖関連施設、研究用機材約 90 種類 コスタ・リカ ニコヤ湾持続的漁業 管理プロジェクト 2002.10 ~ 技術協力 1-2, コ国水産業の主体は、零細漁業者による沿岸・沖合漁業である。年 プロジェクト 2-3, 間漁獲量のほとんどが太平洋沿岸の水揚げで占められ、カリブ海沿 3-1, 岸の水揚げ量は僅かに過ぎない。太平洋沿岸中央部に位置するニコ 3-2, ヤ湾は同国有数の漁場であり、1960 年代には全国総漁獲量の半分 2007.9 以上を占めていたが、今日では他産業からの流入による零細漁業者 の増加、漁獲圧力の増加による乱獲によって漁獲量が減少したた め、ニコヤ湾における水産資源の枯渇が懸念されることとなった。か かる状況下、ニコヤ湾の海洋生物資源の持続的な利用を行うため に、海域の環境を維持しつつ、環境と調和した漁業生産技術と効果 的な水域の利用方法を確立することを目的にプロジェクトを開始した。 チュニジア 沿岸水産資源の持 2005.6 技術協力 1-1 続的利用計画プロジ ~ プロジェク 1-2 ロールの導入による過剰漁獲と藻場(アマモ場)の破壊が進んだた ェクト 2010.6 ト 3-2 め、底魚資源が著しく減少しており、藻場の再生と沿岸漁業資源の回 3-3 復が急務とされている。 同国沿岸地域では漁業が住民の生活を支えてきたが、近年、大型ト 本プロジェクトでは、沿岸零細漁民の参加と協力の下、漁業資源を 育む場である藻場の再生、種苗の人工生産と放流による底魚資源の 回復、漁業規制時における漁民の代替収入源の創出等を通じて水産 資源の持続的利用、ひいては沿岸漁民の生活を維持・安定に資する ことを目的として実施している。 フィリピン 漁業資源管理事業 1998~ 有償資金 1-2 本事業は、「漁業セクタープログラム」対象地域を含む全国 18 の湾 協力 1-3 において、沿岸資源管理・漁民の生計向上を、全国・地方自治体レベ 3-1 ルでの体制強化と併せて支援をすることによって漁獲量減少を抑止 3-2 し、国民の重要な蛋白源を確保しつつ、漁民の貧困撲滅及び沿岸域 3-3 の環境保全対策の推進を図らんとするものである。具体的には、植 林、人工漁礁の設置、沿岸監視船の調達、漁業統計データ整備、漁 業権付与制度の整備等を行うことによって、漁業資源管理を促進し、 漁民の組織化や組合を通じた生計手段の多様化により漁民の生計 向上を図る。また、中央政府から地域住民まで啓蒙・訓練を実施し、 更に遠洋漁業・養殖業の将来計画(マスター・プラン)の策定を実施す る。 付録2. 基本チェック項目 以下は、水産業・漁村の現状や課題を理解するために必要な基本的な指標であり、本指 針で提示した漁村開発・水産開発の課題体系図をもとに、漁村開発・水産開発に対する協 力を実施する際に参考となるチェック項目や指標の主なものを例示した。 ここで掲示したチェック項目/指標はあくまでも水産業・漁村の概況を把握するための 主な項目であり、実際の協力を開始する際には対象国や地域に応じた詳細な調査が必要と なる。 No チェック項目/指標 単 位 計算方法 備 考 I. 水産業一般の指標 国土またはある地域における、河川や湖沼等の内水(淡水) 1 内水面積 Inland water area 全女性就労者のうち、水産業に就いている人の割合。水 水産雇用割合(女性) 2 Ratio of female employees for 面積の合計 k㎡ % fishery 女性漁業就業者/全女性 就労者 産業以外の就労機会の評価に使用できる。また水産労働 者の中で女性の占める割合は、作業内容とともに水産業 構造を知る上で重要である。また、女性の経済活動参加 水産雇用割合(男性) 3 Ratio of male employees for % fishery GDP に対する水産業総生産 4 の割合 男性漁業就業者/全女性 就労者 度合いを知るためには、女性の労働人口に占める就労者 数割合も有効な指標。男性についても同様。 当該国水産業生産の GDP 比率で、当該国における産業と % 水産業総生産/GDP しての水産業の位置づけを図る指標。 Ratio of fisheries value added 該当国の食料供給の過不足は、開発援助の方針決定の 5 水産物貿易量(輸出入) Trade of fishery raw materials % 水産物貿易量/総貿易量 参考となる。また、加工品の割合や種類による差異は、消 (輸出入) 費者の傾向および国内産業の動向を反映していることに も留意。 国民の食料消費傾向を示す指標の 1 つ。宗教や民族によ 1 人当たり年間水産物消費量 6 Annual main marine and fresh water product consumption り異なるが一般傾向として、食品の消費傾向と年収あるい は可処分所得には、所得が増えると主食(穀物など)の消 kg 費量が減り、肉やチーズなどの畜産酪農製品の消費量が per capita 増える一定の関係がある。 水産業労働に雇用される労働者の賃金。一般に季節雇用 7 水産業賃金 Wage in fishery activities US ドル 需給バランスで変化 (繁盛期)時の賃金。季節の水産業労働力の過不足やそ の変化を知ることができる。 漁業労働者を出身世帯から把握する場合の用語で、沿岸 8 漁業就業者 Fishery worker 人 市町村に所在する個人経営体世帯および漁業従事者世 帯の世帯員のうち満15歳以上で、過去1年間に自営漁業 および雇われの海上作業に30日以上従事した人をいう。 チェック項目/指標 単 位 計算方法 備 考 減船などによって雇われ乗組員が職場を失った場合、こ れを漁業離職者として特定する。漁業離職者は、再就職 9 漁業離職者数 Dismissed fisherman 先としても漁業を希望する者が多いことなど、一般産業に 人 おける失業者とは異なった性格が強く、独自の対策が必 要とされている。 漁業を営むための漁労作業の単位。具体的には(1)1隻 の漁船で漁労作業を行う場合は漁船1隻を1漁労体とす る。(2)複船操業の場合は漁船群を1漁労体とする。(3) 10 定置網漁業の場合は大型定置網については定置漁業権 漁労体 1 件ごとに1漁労体とし、小型定置網については地元にお Fishing unit いて呼称されている1か統をもって1漁労体とする。(4)母 船式さけ・ます漁業においては独航船、それ以外の母船 式漁業にあっては母船1隻をそれぞれ1漁労体としてい る。 漁業経営体の所得に対して漁業所得が占める割合。漁業 依存度は 1970 年代までは漁業以外の所得が高まってき 11 漁業依存度 漁業所得/漁家所得 たことから年々低下する傾向にあったが、1980 年代から Dependency on fisheries ×100 漁業以外の所得が停滞しているため横ばいとなっている。 また漁業依存度を階層別に見ると、上層階層ほど依存度 が高くなっている。 2. 活力ある漁村の振興 12 小型漁船の生産費を粗収入との関連で見た時の、粗収入 小型漁船の粗収入1ドル当た 1ドル当たりの操業費。 り操業費用 地域の組織・制度を調査する際に参考とされる指標であ 漁村労働人口に占める水産 業従事者の割合 13 Population of fishery worker % as a % of total fishing village 水産業従事者数/漁村労 働人口 る。地域経済の水産業への依存度や活性度をつかむこと に使用する。 labor force 漁家が女性筆頭世帯である場合には、水産業生産基盤 女性筆頭漁家の割合 14 Ratio of female headed % households in fishery sector 女性筆頭水産業世帯数/ 水産業世帯数 等の社会基盤へのアクセスや労働条件において、男性に 比べて不利な場合が多く貧困の度合いが強いことから、 現状把握が必要である。 住民の内、各種公共サービス(水、電気等)に対するアク セスが、金銭的あるいは物理的に可能な人間の割合。公 電気に対するアクセス 15 (都市/漁村) Access to power, % of total % アクセスできる人口/ 共サービスの質、および道路、交通サービス等社会基盤 総人口 の質を知るための指標として有効である。電気の場合、料 金の支払い能力、差別や権利問題もからんでくるので注 population 意が必要。 安全な水へのアクセス率(都 16 市部、漁村部) Access to Safe water as a % of 安全な水へのアクセスがで % 人口あるいは世帯 total population 衛生施設へのアクセス率 17 Access to Sanitation facility as a % of total population きる人口あるいは世帯/全 % 都市部、漁村部の双方で安全な水の確保や衛生施設の 数の不足、施設への距離があることにより、貧困層はこれ らへアクセスできないことが多く、健康状況が悪化すること になる。また、開発途上国では水の運搬は女性が担って 衛生施設へのアクセスがで いる場合が一般的なため、給水施設へのアクセス欠如は きる人口あるいは世帯/全 女性の過剰な労働を引き起こす場合が多い。電気に比べ 人口あるいは世帯 るとより不可欠なサービスといえる。 3. 水産資源有効利用 水産物の浜値あるいは漁業組合での価格、卸売り価格、 主要水産食品生産者価格 18 Fishery Gate Price of Major および小売価格は、需給関係だけでなく、当該国の流通 US ドル 特性や消費傾向によって大きく異なる場合があるので注 fishery-Product 意を要する。 主要水産食品卸売り価格 19 Wholesale Price of Major US ドル fishery-Product 水産業生産の年成長率は水産業の状態、経年変化、およ 水産業総生産成長率 20 Average annual growth of % 水産業総生産の年成長率 21 22 23 24 び資源変動などを端的に捉えられる指標であり重要であ る。 fisheries product 水産物生産指数 1989-90 基準年次と比較し 水産物生産指数、食用水産物生産指数、および養殖生産 Crop production index た各年の全水産物生産量 指数は水産業の状態、経年変化、および資源変動の影響 (1989-91 = 100) の相対水準 などを端的に捉えられる指標であり重要である。FAO で 食用水産物生産指数 1989-90 基準年次と比較し Food production index た各年の食用水産物生産 (1989-91 = 100) 量の相対水準 養殖生産指数 1989-90 基準年次と比較し Aquaculture production index た各年の養殖生産量の相 (1989-91 = 100) 対水準 漁獲生産指数 1989-90 基準年次と比較し Fishing production index た各年の漁獲生産量の相 (1989-91 = 100) 対水準 は、1989-1991 年の 2 年間平均を基準にしている。 主要養殖種の ha 当たりの生産量(t)。養殖生産性は単位 25 養殖単位生産量 Aquaculture production t/ha 養殖生産量/収穫面積 産量は生産性向上に重要な指標の 1 つである。 一定の水面積あるいは容積における最大の養殖生産量。 養殖極限量 26 生産量、収穫面積、土地利用率に依存するので、単位生 Maximum productivity in aquaculture 漁港の岸壁の長さがどの程度整備されているのかを判断 岸壁充足率 27 するための指標で、当該漁港を利用する漁船にとって必 Ratio of actual wharf length 要な岸壁延長に対する実際の岸壁延長の割合をいう。漁 to the required total length of 港整備計画の進展によって、この割合は漸次上昇してき a fishing port 28 ている。 動物性タンパク質摂取量のうち、水産物より由来した割 動物タンパク中の水産物の 合。 割合 水産物の流通の動向、価格水準、需要などを明らかにす 水産物流通統計年報 29 るための統計で、産地水産物流通および消費地水産物流 Annual statistics of fishery 通、水産加工統計、冷蔵水産物流通の調査結果からなっ products marketing 4. ている。 水産資源の保全管理 養殖活動の指標の 1 つ。近年では有機養殖の普及により 養殖池単位面積当り施肥 30 量 Fertilizer consumption to kg/ha 肥料消費量/養殖池面積 日本国内では減少している場合もある。 aquacultural ground 種苗放流によって資源培養が達成されたかどうかの効果 を測る手法。母川回帰という特性を持つサケ・マス類や、 31 放流効果 Stocking efficiency 放流地点から移動しないホタテガイなどは効果が明確で 顕著であるが、他の種については放流したものが成長して どのくらい漁獲されたか、あるいは落ち込んだ漁獲量がど のくらい回復したかで測る。 引用・参考文献・Web サイト 1.引用・参考文献 (1) 外務省編:政府開発援助(ODA)白書 2008 年度版,国立印刷局,2010. 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