Comments
Description
Transcript
ま え が き
ま え が き iii ま え が き 本書「都市のリスクとマネジメント」は,リスク工学に関する基礎的な知識 を学んだ読者が,さらに現実の都市域のリスク問題について多面的な知識を得 るために,主として具体の現場のリスクの評価とリスク軽減のためのマネジメ ントの考え方について解説すべく,筑波大学のリスク工学専攻で都市リスク研 社 究に携わる 5 名の教員が企画・執筆したものである。 阪神淡路大震災や東日本大震災による甚大な被害を見るまでもなく,また, 自然災害に限らず平常時においても,われわれは「都市に住まう」ことによっ ロ ナ て,さまざまな望ましくない影響,すなわち都市リスクが人間の生命や経済活 動に及んでいる。これは都市が,自然環境,社会基盤,土地利用・建築環境, 社会活動といったさまざまな構造の変化速度が異なる多層なサブシステムから なる全体システムにおいて,多層システムの不整合さによって物理的あるいは 社会的な脆弱性を顕在化させていることに起因する。われわれは,このような コ 多層システムの脆弱性を的確に捉えて,都市のリスクを適切にマネージしてい くことが求められている。 都市域のリスク問題はさまざまである。本書は,都市域において平常時なら びに災害時に発生するリスク問題を,さまざまな具体的事例によって解説,分 析した結果を紹介するとともに,リスクを低減させる処方箋(マネジメント) を可能な限り提示し,読者が都市リスクに関する現実問題の知識や広い視野を 得るための工夫を行っているところに特徴がある。また,前述したように,本 書は,筑波大学でリスク工学専攻を担当する複数の教員によって執筆されたも のである。それぞれの内容は,執筆者によって考え方が必ずしも一致しない部 分もあるであろうが,都市リスク問題に深く関与したさまざまな分野で活躍さ れている教員のそれぞれの分野での考え方が表出されており,都市のリスク問 iv ま え が き 題を多様な視点で捉えるという立場に立てば,意義深いものがあるといえまい か。 本書の構成は,まず,1 章で都市リスクマネジメントに関する基本的な考え 方について解説した後,平常時の都市リスクマネジメント事例として,2 章の 各項で,主として地球環境問題に由来する交通施策「モビリティ・マネジメン ト」について紹介した後,高齢化の急速な進展を背景とした救急医療リスクの 改善という観点から地域医療施設配置計画の分析・提言事例,防犯の立場から 放火抑止に向けたハード・ソフトを含めた市街地管理方策提言,の 3 点につい て紹介,議論を行っている。3 章では,災害時の都市リスクマネジメント事例 社 として,数多くの事象を紹介している。まず,市街地火災が想定される大規模 地震時を対象として,地震出火低減のための火気管理方策,市街地の火災被害 低減のための効果的・効率的な市街地整備方策,戦略的な消防力運用方策,に ロ ナ ついて分析した結果を紹介している。次いで,東日本大震災時の津波による甚 大な人的・物的被害を踏まえた津波避難のマネジメント方策,JCO 臨界事故 時の住民の避難・屋内退避をめぐる緊急時対応の実態,火山噴火に伴う降灰に よる都市活動への影響を予測と除灰を対象としたリスクマネジメントの例を示 す。 コ 本書が,具体的事例を通じて都市リスク問題と,その先にある都市リスクマ ネジメントに対する読者の理解を助け,安心・安全な都市・地域をどのように 作り上げていけばよいのかを考えるための一資料として活用していただければ 幸いである。 2013 年 10 月 糸井川 栄一 目 次 v 目 次 1 . 都市リスクマネジメント 1 . 1 都市リスクとは何か ………………………………………………………… 1 社 1 . 1 . 1 あ る 日 常 ……………………………………………………… 1 1 . 1 . 2 都 市 の リ ス ク ……………………………………………………… 2 1 . 1 . 3 都市リスクの定義 …………………………………………………… 3 ロ ナ 1 . 1 . 4 増え続ける都市リスク ……………………………………………… 4 1 . 2 都市リスクのマネジメント ………………………………………………… 7 1 . 2 . 1 災害管理の考え方 …………………………………………………… 7 1 . 2 . 2 都市のリスクマネジメント ………………………………………… 9 コ 2 . 平常時の都市リスクマネジメント 2 . 1 環境リスクとモビリティ・マネジメント ………………………………… 11 2 . 1 . 1 自動車と環境リスク ………………………………………………… 11 2 . 1 . 2 自動車利用と社会的ジレンマ ……………………………………… 13 2 . 1 . 3 社会的ジレンマの解決策 …………………………………………… 16 2 . 1 . 4 モビリティ・マネジメントの定義と代表的手法 ………………… 19 2 . 1 . 5 モビリティ・マネジメントの事例 ………………………………… 22 2 . 2 救急搬送の時間短縮と救急車両・病院の配置モデル …………………… 28 2 . 2 . 1 わが国の救急搬送の現状 …………………………………………… 28 2 . 2 . 2 救急搬送時間短縮の必要性とその方策 …………………………… 30 vi 目 次 2 . 2 . 3 救急システムの類型化と搬送時間のモデル化 …………………… 32 2 . 2 . 4 救急車両および救急病院の配置最適化問題 ……………………… 36 2 . 2 . 5 仮想都市における最適配置案の搬送距離短縮効果 ……………… 41 2 . 2 . 6 搬送時間短縮に向けて ……………………………………………… 47 2 . 3 防犯マネジメント─放火犯罪を例に─ ……………………………… 48 2 . 3 . 1 放火犯罪の特質と近年の傾向 ……………………………………… 48 2 . 3 . 2 「放火防止まちづくり」の概念 ……………………………………… 50 2 . 3 . 3 M 地域における放火発生状況 ……………………………………… 51 2 . 3 . 4 物的環境と放火発生密度の関連性 ………………………………… 56 社 2 . 3 . 5 住民活動と放火発生傾向の関連分析 ……………………………… 60 2 . 3 . 6 放火犯罪への対策と課題 …………………………………………… 70 ロ ナ 3 . 災害時の都市リスクマネジメント 3 . 1 火気管理による地震出火の低減に向けて ………………………………… 74 3 . 1 . 1 大規模地震時の火災被害低減における出火対策の重要性 ……… 74 3 . 1 . 2 地震時の出火危険性 ………………………………………………… 75 コ 3 . 1 . 3 地震時出火の可能性の試算 ………………………………………… 79 3 . 1 . 4 地震時出火対策とその効果 ………………………………………… 83 3 . 1 . 5 市街地火災対策に向けて …………………………………………… 87 3 . 2 延焼遮断帯の整備プログラム ……………………………………………… 88 3 . 2 . 1 大規模地震時の市街地火災リスク ………………………………… 88 3 . 2 . 2 延焼遮断帯整備と市街地火災リスク ……………………………… 90 3 . 2 . 3 延焼遮断帯整備の基本形と整備効果 ……………………………… 91 3 . 2 . 4 動的計画法による延焼遮断帯整備 ………………………………… 93 3 . 2 . 5 市街地火災局限化に向けて ……………………………………… 102 3 . 3 地震火災時の戦略的な消防力運用 ……………………………………… 103 3 . 3 . 1 地震火災時の戦略的な消防力運用の必要性 …………………… 103 目 次 vii 3 . 3 . 2 シミュレーションモデルの構築 ………………………………… 104 3 . 3 . 3 シミュレーション実験 …………………………………………… 110 3 . 3 . 4 実験結果と分析 …………………………………………………… 111 3 . 3 . 5 戦略的な消防力運用の鍵と課題 ………………………………… 119 3 . 4 地震津波からの避難のマネジメント …………………………………… 121 3 . 4 . 1 東日本大震災における津波被害と茨城県の浸水想定 ………… 121 3 . 4 . 2 津波避難時のリスク評価のためのアンケート調査 …………… 123 3 . 4 . 3 津波からの避難時の危険性 ……………………………………… 124 3 . 4 . 4 地区別の津波避難時の危険性の評価 …………………………… 128 社 3 . 4 . 5 避難行動の改善による減災効果 ………………………………… 133 3 . 4 . 6 避難行動改善のための対策の検討 ……………………………… 135 3 . 4 . 7 安心・安全な津波避難に向けて ………………………………… 139 ロ ナ 3 . 5 原子力災害時の避難 ……………………………………………………… 139 3 . 5 . 1 JCO 臨界事故の概要 ……………………………………………… 140 3 . 5 . 2 住民への情報提供など …………………………………………… 140 3 . 5 . 3 350 m 圏地区住民の対応 …………………………………………… 144 3 . 5 . 4 10 km 圏地域住民の対応 …………………………………………… 151 コ 3 . 5 . 5 原子力災害対応の教訓 …………………………………………… 155 3 . 6 火山灰災害の社会的影響とマネジメント ……………………………… 158 3 . 6 . 1 火山の噴火と降灰被害 …………………………………………… 158 3 . 6 . 2 雲仙普賢岳噴火による降灰被害と対応 ………………………… 159 3 . 6 . 3 セントヘレンズ火山噴火による降灰被害と対応 ……………… 165 3 . 6 . 4 富士山噴火を想定したリスクマネジメント …………………… 175 3 . 6 . 5 降 灰 に 備 え て …………………………………………………… 182 引用・参考文献 ……………………………………………………………… 184 索 引 ……………………………………………………………… 192 1 都市リスクマネジメント 1 . 1 . 1 あ る 日 常 社 1 . 1 都市リスクとは何か めている。 ロ ナ 2013 年 3 月某日,世の中にはどのような都市リスクがあるのかと新聞を眺 東日本大震災の復興の記事がある。将来発生するかもしれない津波のリスク を避けるために,各地では復興計画が策定され,その実現に向けて歩き出して いる。しかし,そう簡単ではない。仙台平野低地部の海岸線に沿って防潮堤を 建てたとしても,洪水のリスクは高まるかもしれない。三陸沿岸部では,集落 コ を高台に移転するための適切な土地がないため,内陸部の傾斜地を開発せざる を得ない場合もある。仮に移転できたとしても,山崩れなど新たなリスクと向 き合っていかなくてはならない。 福島第一原発の冷却装置用の電源系統に不具合が生じた,との記事もある。 ウェブサイトや電子メールによる「なりすまし」についての記事もある。いず れの記事も,複雑な現代社会におけるシステムに関するものである。 ほかに目を移すと,ざっと眺めただけで,テロ,イラク戦争,仮設住宅など での老人の孤独死,少年による路上での傷害,日本刀による斬付け殺人未遂, スキー場の圧雪車との接触事故,野菜に含まれる放射性物質のリスクなどが目 に入る。つい先日は,南海トラフにおける地震が発生すると,その被害額は 220 兆 3 000 億円という記事もあった。 2 1 . 都市リスクマネジメント 新聞から目を離し,家の外を眺めてみる。公園では子供たちが遊んでおり, 公園前の道路を自動車が走っている。子供たちが交通事故に遭わないか心配で ある。また近年,近所では空き巣の被害も多発しているらしく,先日は注意を 促すビラが配られていた。T 大学の学生アパートを狙った犯罪も増えているら しい。われわれの周りにはさまざまなリスクが潜んでいる。 1 . 1 . 2 都 市 の リ ス ク 20 世紀以降,世界各地で近代化が進み,都市部で暮らす人々が増えてきた。 また,都市の近代化は生活の利便性をもたらすと同時に,社会のシステムをよ どのようなリスクがあるのだろうか。 社 り複雑にし,それに伴い脆弱性も増している。21 世紀を迎えた現代において, 身の回りにさまざまなリスクが潜んでいることは前述したとおりであるが, ロ ナ ここに挙げた都市におけるリスクを分類してみたい。分類の方法にもいくつか の切り口があるはずだが,ここでは影響を受ける空間の規模により以下の三つ に分類してみよう。 ( 1 ) 人的なリスク 犯罪や交通事故など,個人あるいはその周辺が他者から影響を受けるリスク コ である。一般的に「都市リスク」といえば, 「都市というある程度の大きさの 規模を持つ空間領域に対するリスク」を指すため,狭義にはこの「個人的なリ スク」を「都市リスク」に分類するのは無理がある。しかし,「都市リスク」 を「個人あるいは集団に対して,都市域で頻繁に発生するリスク」と広義に解 釈するのであれば,これも都市リスクである。本書では犯罪のリスクも含まれ ているため,ここに挙げておく。 ( 2 ) 限定された地域に影響を及ぼすリスク 自然災害あるいは産業災害など,突発的なハザードにより限定された地域に 影響を及ぼすリスクである。地震災害,洪水,都市大火など,従来からある都 市災害などに関するリスクを指す。 1 . 1 都市リスクとは何か 3 (3) 地球全体に影響を及ぼすリスク 世界的に経済活動が活発になり,20 世紀末以降,地球の温暖化が問題視さ れるようになってきた。地球温暖化は,異常気象や海面上昇など世界各地にさ まざまな影響を及ぼしており,それに伴いこれまでにない環境の変化を都市に 与えている。また, ( 2 )のリスクが突発的であり,ある程度限定された地域 で発生するのに対して,このリスクは影響を受ける範囲が限定しづらく,ある 地域で発生したリスク要因が遠く離れた地域に影響を与えることもある。従来 の自然災害を突発災害と呼ぶのに対して,こうした地球の気候変動により引き 1 . 1 . 3 都市リスクの定義 社 起こされる災害を「ゆっくり起きる災害1)†」などと呼ぶこともある。 一般的にリスクは「ある事象における損失の確率,または損失の期待値」と ロ ナ 定義付けられる。数あるリスクの中で,都市リスクはつぎのように定義付けら れることがある。 都市リスク(urban risk) =ハザード(hazard) ×脆弱性(vulnerability)×露出度(exposed value) (1 . 1) コ これは,都市のリスクが,ハザードという外的な要因の発生する確率と,脆 弱性という都市の物的環境,もしくは人的活動のハザードに対する弱さと,露 出度というリスクにさらされている対象の大きさ,もしくは時間の積で表され ていることを示している。 ① ハザード 加害要因としての個々の自然現象,あるいはそれらの総 体。地震,台風,火山の噴火,豪雨など,危険を引き起こし,都市に被害 をもたらす潜在的な外的要因である。 ② 脆弱性 都市における有形無形の要素の脆弱さを示す指標。災害の受 けやすさ。建築物一棟一棟の壊れやすさ,出火危険性,町としての延焼危 † 肩付き数字は,巻末の引用・参考文献番号を表す。 4 1 . 都市リスクマネジメント 険性,道路閉塞による緊急時対応活動の脆弱性,地盤の種類による液状化 のしやすさなど,都市の脆弱性を示す指標はいろいろと考えられる。 ③ 露出度 ハザードにさらされる露出の程度。影響を受ける対象の数, 対象規模の大きさ,または影響を受け続ける時間的長さを示す指標。人口 や人口密度は露出度を示す代表的な指標となる。 ここで示す考え方は,おもに都市災害など都市という一定規模の領域におけ るリスクを考える際に有効となる。自然災害を対象とした都市のリスク管理を 考える際,ハザードは地震や火山噴火,あるいは台風など,自然現象を指すた め,制御できるものではない。また露出度については,例えば原発事故の場合 社 に放射線にさらされないよう露出の度合いを抑えることはできるが,自然災害 を対象とした場合に都市人口を減らすことは難しい。ハザードと露出度を制御 するのは難しいのである。しかしながら,もう一つの要素である脆弱性を制御 ロ ナ することは可能である。したがって,都市リスクを下げるためには,脆弱性に 関する要素をさまざまな角度から制御することになる。具体的には,地震リス クを下げるために建物の耐震化を進めていくとか,あるいは延焼火災のリスク を下げるために延焼遮断帯のネットワークを強め,都市構造の脆弱性を下げる などが挙げられる。労働的コスト,経済的コスト,そして時間的コストを考慮 コ し,都市の脆弱性を制御することが重要である。 1 . 1 . 4 増え続ける都市リスク 都市リスクが,ハザードと脆弱性と露出度により表せるならば,都市リスク は時代とともにどのように変化しているのであろうか。例えば,ハザードは地 震活動や火山活動を指しており,それは地球の活動の一部である。したがっ て,基本的にハザードは時代とともに変わるものではない(むしろ,地球の時 間サイクルによるところが大きい) 。一方,脆弱性は,耐震化など個々の建物 の弱さのみならず,都市のシステムとしての弱さを示す指標でもある。システ ムが複雑になればなるほど,システム全体を破綻させる要素は増加するため, 都市化とともに都市の脆弱性も増していくのである。そして,露出度の指標で 1 . 1 都市リスクとは何か 5 ある人口も世界各地で増加している。すなわち,都市リスクは年々増加してい ることになる。 図 1 . 1 は世界における都市人口と農村人口の推移である。データのある 1950 年時点では農村人口は都市人口のおよそ倍であり,1980 年代までどちら も同程度の傾きで増加しているが,その後,都市人口の傾きが農村人口のもの よりも大きくなり,2010 年についに都市人口が農村人口よりも高くなってい る。都市人口はさらに増え続け,農村人口は 2020 年ごろに安定し,緩やかな 減少に転じている。2050 年には世界人口は 90 億人と 1950 年時点の 4 倍弱に 7 000 000 5 000 000 4 000 000 都市人口 農村人口 3 000 000 ロ ナ 人口(×103) 6 000 000 社 達し,都市人口が農村人口の倍になると推測されている。 2 000 000 1 000 000 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 - コ 図 1 . 1 世界における都市人口と農村人口の推移(国連世界 都市化予測 2011 年版 2)に基づき作成) 140 000 人口(×103) 120 000 100 000 都市人口 農村人口 80 000 60 000 40 000 20 000 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 - 図 1 . 2 日本における都市人口と農村人口の推移(国連世 界都市化予測 2011 年版 2)に基づき作成) 6 1 . 都市リスクマネジメント 140 000 都市人口 農村人口 人口(×103) 120 000 100 000 80 000 60 000 40 000 20 000 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 - 社 図 1 . 3 バングラデシュにおける都市人口と農村人口の推移 (国連世界都市化予測 2011 年版 2)に基づき作成) 日本(図 1 . 2 参照)と急速に発展しているバングラデシュ(図 1 . 3 参照)の 傾向も見てみよう。日本は,すでに 1950 年時点で都市人口が農村人口を上 ロ ナ 回っており,その差がさらに広がっているのがわかる。2000 年から 2005 年に かけて急激な都市人口の増加と農村人口の減少が見られるが,これは 1995 年 地方分権一括法に端を発する(合併特例法の改正)平成の大合併により小規模 な市町村がより大きな市へと統合されたためである。都市人口の増加傾向は 2025 年ごろまで続き,その後少子化とともにそれぞれ減少している。一方, バングラデシュでは 1950 年時点では圧倒的に農村人口が多い。その後,どち コ らも同様に増加傾向にあるが,農村人口は 2025 年ごろまで増え続け,やがて 減少し,都市人口は依然として増加している。世界的に見ると(図 1 . 1 参照), 2010 年に都市人口が農村人口を上回るが,バングラデシュの都市人口が農村 人口を上回るのは,さらに遅く 2050 年ごろである。 これは何を意味するのであろうか。まず露出度の視点から考えると,世界人 口および都市人口は今後もさらに増え続ける。日本の人口は今後減少していく 傾向にあるが,海外の都市部での露出度はさらに高まっていく。 脆弱性の観点からはどう読み取れるであろうか。基本的に人口の増加ととも に都市部の開発がバランス良く行われなくてはならない。しかしながら,急激 な都市人口の増加に対して,適切な都市開発が追いつかない場所もある。それ 1 . 2 都市リスクのマネジメント 7 は脆弱性の増加を意味する。バングラデシュはその典型である(図 1 . 4 参照)。 露出度と脆弱性の増加により,都市リスクは増加する。そのような都市は世 界中に増え続けており,今後ますます都市リスクを管理する意味は深まってい 社 く。 ロ ナ 図 1 . 4 露出度と脆弱性の高まるダッカの街 1 . 2 都市リスクのマネジメント 1 . 2 . 1 災害管理の考え方 コ 現代日本において都市に脅威を与えている代表的なものが災害である。自然 災害にせよ産業災害にせよ,ハザードが引き起こすさまざまな災害事象に対応 するために以下のような考え方がある。 図 1 . 5 は災害対応の循環体系という考え方を示しており,その流れはつぎの ようになる3)。 ① まず平常時には,つぎなる災害による被害を技術的・財政的に可能な範 囲で抑止するための活動を行う(mitigation) 。これは外力を受けても,被 害が出ないようにする取組みである。 ② それと並行して,災害の外力が都市の抑止力を超えて発生した場合に備 え,被害をなるべく軽減するための準備を行う(preparedness)。つまり 索 引 【う】 雲仙普賢岳 159 【え】 救急システム 30 新燃岳 救急搬送 28 心理的方略 救命率 30 協力行動 16 27 106 延焼遮断帯 88 延焼速度式 106 延焼防止対策 屋内退避 【か】 降 灰 139 27 28 17 158 災害対応の循環体系 セントヘレンズ 165 増殖型 91 【た,ち,つ】 逐次最適化 89 99 7 津波浸水想定 122 7 津波避難 123 最短経路問題 94 最適性の原理 94 27 88 大規模地震時 【さ】 災害管理 140 おばかな車利用 構造的方略 75 おばかな(ridiculous) キャンペーン 現場到着時間 ロ ナ 【お】 原子力災害 3 整備プログラム 社 キャンペーン 延焼危険度 17 【せ,そ】 脆弱性 【け,こ】 エモーショナル 158 【と】 動的計画法 【し】 東北地方太平洋沖地震 94 121 75 ドクターカー 30 74 地震出火 74 ドクターヘリ 31 火災被害 89 社会的ジレンマ 13 都市防火区画 火砕流 コ 市街地火災対策 火気管理 火山災害 159 住民広報 158 出火確率 出火件数期待値 142 76 火山灰 158, 167 活火山 158 出火対策 74, 75 53 上下水道 174 可搬ポンプ隊 107 消防活動 103 環境配慮行動 12 消防隊 106 環境リスク 11 消防団 109 監視性 50 情報伝達 140 カーネル密度推定法 消防力 【き】 105 89 都市リスク 1, 3 土石流 159 ドッキング型 30 トラベルスマート 24 トラベルフィードバック プログラム ドリンカーの救命曲線 21 30 【は】 74 配置最適化 30 配置モデル 28 消防力運用 103 機会犯罪 49 署隊運用 103 ハザード 救急サービス 28 除 灰 178 パース都市圏交通戦略 3 24 索 引 193 分割型 【ひ】 被害想定 【へ,ほ】 74 東日本大震災 1 非協力行動 16 91 【ゆ】 ゆっくり起きる災害 米国地質調査所 170 宝永大噴火 175 3 【ら】 非常ポンプ隊 107 放火発生マップ 53 ライフライン 174 避 難 121 放火犯罪 48 ランデブー型 30 避難距離 128 放火防止活動 64 避難所要時間 129 放火防止まちづくり 51 避難速度 129 防災都市づくり推進計画 74, 89 リスクマネジメント 領域性 50 防災無線 143 臨 界 140 報 道 144 臨界事故 139 28 【ふ】 福島第一原発 1 輻 輳 103 富士山 175 防犯環境設計 50 防犯まちづくり 社 病院収容時間 【り】 50 【も】 【れ,ろ】 連鎖構造 165 連邦緊急事態管理庁 169 75 フリーライダー 18 木造密集市街地 74 露出度 プレホスピタルケア 31 モーダルシフト 24 ロードスイーパー ロ ナ 不燃化・難燃化対策 噴 火 158 CPTED 50 damage assessment disaster DP 7 risk identification 19 risk management mitigation 8 MM 8 prediction and early warning コ 94 St. Helens TDM 20 TFP 21 event tree 76 principle of optimality 94 urban risk p-メディアン問題 41 USGS communication 9 L1 津波 122 L2 津波 122 9 165 7 preparedness information and 9 8 94 169 4 178 モビリティ・マネジメント11 dynamic programming FEMA 9 recovery 8 response 8 risk analysis and assessment 9 9 risk communication 0-1 計画問題 3 170 41, 109 ── 編著者略歴 ── 1978 年 東京工業大学工学部建築学科卒業 1980 年 東京工業大学大学院総合理工学研究科修士課程修了(社会開発工学専攻) 1980 年 建設省建築研究所研究員 1990 年 工学博士(東京工業大学) 1996 年 建設省建築研究所室長 2001 年 筑波大学教授 2004 年 筑波大学大学院教授 社 現在に至る ロ ナ 都市のリスクとマネジメント Urban Risk Management Ⓒ Eiichi Itoigawa 2013 2013 年 12 月 27 日 初版第 1 刷発行 編 著 者 発 行 者 コ 検印省略 印 刷 所 糸 井 川 栄 一 株式会社 コ ロ ナ 社 代 表 者 牛 来 真 也 萩原印刷株式会社 112 0011 東京都文京区千石 4 46 10 発行所 株式会社 コ ロ ナ 社 CORONA PUBLISHING CO., LTD. Tokyo Japan 振替 00140 8 14844・電話(03)3941 3131(代) ISBN 978 4 339 07929 6 Printed in Japan (横尾) (製本:愛千製本所) 本書のコピー,スキャン,デジタル化等の 無断複製・転載は著作権法上での例外を除 き禁じられております。購入者以外の第三 者による本書の電子データ化及び電子書籍 化は,いかなる場合も認めておりません。 落丁・乱丁本はお取替えいたします ★