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クリーンルーム工場建設における 環境配慮への取組み
SPECIAL REPORTS クリーンルーム工場建設における 環境配慮への取組み Environmental Approach to Construction of Clean Room Plants 加藤 俊彰 柳澤 俊彦 添田 勝之 ■ KATO Toshiaki ■ YANAGISAWA Toshihiko ■ SOEDA Katsuyuki 地球環境に配慮する事業活動が社会的に求められている。東芝では工場建設時に,社内組織である建設部において 環境への影響を総合的に検討し,省エネルギー(以下,省エネと略記)などの施策を設計に盛り込む形で環境に配慮して いる。特に半導体・液晶製造のためのクリーンルーム工場は,多くのエネルギーを消費することから省エネ対策を強化し ており,空調循環風量や冷凍機効率の改善などを行うとともに,気流シミュレーションを活用した省エネ手法を開発した。 気流シミュレーションは,気流の改善によって,効率的にクリーン化を実現するために有効な手法であり,クリーン ルームのエア供給系の動力削減や局所クリーン化に活用している。 Social expectations are increasing for the earth’s environment to be taken into consideration in business activities. Toshiba’s Construction Department considers the influence on the environment from a comprehensive perspective at the time of factory construction and incorporates energy-saving and other measures into the design for environmental preservation. From the standpoint of high energy consumption, particularly clean room factories for the manufacturing of semiconductors and liquid crystals are implementing measures to achieve energy saving. This paper introduces improvements made to the air-conditioning circulation system, freezer efficiency, etc. at the Oita Factory. Air flow simulation, which is an effective method for improving cleaning schemes, is being used effectively for saving energy by reducing the power required for the air supply in the clean room. 1 まえがき 当社では,工場などの自社施設は社内の建設部で計画, 設計,監理を行い,更に完成後のメンテナンス,補修まで 近年,地球環境の破壊や資源枯渇の問題が様々な場で討 行っている。それによって,当社の環境に対する姿勢が,計 議され,それに対する一般の人々の関心も高まりつつある。 画・設計段階から工場運転時に至るまで,一貫した主導的 すべての事業活動において環境に対する配慮を求められ 立場で管理されている (図1)。 ており,企業としても真剣に対応していくことが企業活動の 基本となっている。また建築行政においても,建築物環境計 画書を確認申請前に提出するなどの対策が始められ,環境 に配慮した建設行為を行うことが重要になっている。 地球環境を守り育てていくことは,現存する人間の基本的 責務であるとの立場に立って,東芝は,製品を“つくる”段階 建設部のミッション 1. 全社の建設計画立案に際し,専門技術者として適切なコンサルテーション と工事概算見積りを行い,建設投資計画の最適化に貢献する。 2. 実施にあたっては,5省1高(省イニシャルコスト,省ランニングコスト, 省工期,省メンテナンス,省スペース,高品質)を実現するための的確な 設計・監理を行い,建設投資の効率化に貢献する。 3. 全社の建設計画に関し,建家建設計画の設計・監理業務を実施することに より,また事業所への指導・監督を行うことにより,全社同一レベルでの 遵法活動に寄与する。 東芝全社組織略図 から資源の有効活用や地球温暖化防止などの活動を展開 取締役会 監査役 社長 監査役室 し,地球環境負荷の低減に努めている。更に,製品をつくる “場”である事業場(工場)の建設時にも,当社の環境保全基 コーポレート プロジェクト部門 コーポレート スタフ部門 本方針に従い環境対策を推進している。 生産技術センター 当社の年間設備投資額の10 %程度(金額にして250∼300 億 円)は,工場などの建設工事に対する投資である。建設行為 は 環 境 に 対 する 直 接 的 影 響 が 特 に 大きい た め ,厳し い チェックが必要になる。更に,省エネルギーに着目すると, シェアード サービス部門 建設部 (デジタルプロダクツ事業グループ) モバイル コミュニケーション社 デジタルメディア ネットワーク社 (電子デバイス事業グループ) セミコンダクター社 ディスプレイ・ 部品材料統括 (社会インフラ事業グループ) 電力・社会システム社 社会ネットワーク インフラ社 ネットワークサービス &コンテンツ事業統括 建築物の寿命中に使われるエネルギーは新築時が 25 %,運 用時が 75 %と言われている。運用時のエネルギーは設計時 に決定されるといっても過言ではなく,計画・設計段階での 省エネ対策が必須となっている。 26 図1.建設部のミッションと組織図−建設部はシェアードサービス部 門の生産技術センターの中に位置づけされている。 Mission and organization chart of Construction Department 東芝レビュー Vol.5 9No.1(2004) ここでは,計画・設計段階における環境配慮への取組み おり,幅広く環境への配慮がなされている。そして,2 回目の とともに,エネルギーを多く消費するクリーンルーム工場を デザインレビューでは環境保全提案シートを使い,施策を具 例に,設計時の省エネ手法と運用時の省エネへの取組みに 体化している。このように,一つひとつの工事において,組 ついて述べる。 織として積極的に環境保全に取り組んでいる。 2 工場建設計画・設計時における環境配慮 3 クリーンルームにおける省エネ手法 建築設計の中で,計画完了時と設計完了時に 2 回のデザ 当社の全事業所でのエネルギー消費分布では,クリーン インレビューを行い,その中で ISO14001(国際標準化機構 ルームを所有する半導体・液晶関連だけで約 80 %を占め 規格 14001)に基づいて環境への影響度を把握し,環境保全 る。これらの工場の消費エネルギーの内訳は,空調・動力・ 施策を提案して設計に折り込んでいる。 照明などで 55 %,製造装置で 45 %となる。 最初のデザインレビューでは,環境配慮チェックシートを 近年,半導体工場ではウェーハのφ200 mm からφ300 mm 用いて全般的な環境影響要素を把握する。具体的には,次 への大型化が進み,液晶工場でもガラス基板の大型化指向 の四つの大分類について,詳細に 100 項目以上をチェックし は顕著である。ウェーハとガラス基板が大型になると,製造 影響の度合いを把握する。 装置の設置面積,定格動力量,クリーンルーム面積,エネル 騒音,振動,排水,排気などの周辺環境への配慮 建家断熱,高効率機器の採用,最適運転といった 省エネ・省資源施策 ギー消費量と連鎖反応的に大きくなる。 省エネの狙い目として,大別すると次の三つが挙げられる。併 せて,クリーンルームの模式図とその省エネ項目を図3に示す。 保守性を向上させ建物を長寿命化 空気・水搬送システム クリーンルームの空気循環 廃棄物の削減や環境への影響の大きな材料の制限と いった資源の適正な使用と処理 系は,大型循環ファンとダクトによる方式から,近年は天 井面に小型高効率循環ファンの FFU(Fan Filter Unit) 図2は,環境配慮チェックシートの一部を示したものであ を用いたダクトレス方式が主流である。また,半導体プ る。また,項目の中には設計に関することだけではなく,工 ロセスでは局所クリーン化の手法が検証され,クリーン 事が始まってから工事監理者として取り組む事項も含まれて ルーム全体の清浄度はクラス 1,000 ∼ 10,000 へ緩和され た。これらにより,当社の大分工場では空調循環動力を 36 %削減した(図4)。そのほか,外気処理空調機やス 工事名称 記入年月日 大分類 クラバなどの大型ファンは,負荷に応じた可変風量制御 中分類 小分類 周辺環境へ 隣接居住区域への □騒音防止 の配慮 環境悪化防止 建 外壁・屋根・床の 断熱 軽 築 減 負 荷 の 照明負荷軽減 省 エ ネ ル ギ ー ・ 省 資 源 を実施している。 □振動防止 □敷地内緑化 他 □躯体断熱 □温輻射防止 □防熱ガラス 他 □高効率照明 器具 □昼光利用調光 □照明機器排気 他 除熱 設 省エネを考慮した □室内外温湿度 □クリーンルーム □インバータ 他 換気回数 設計条件 設計条件 軽 備 減 負 荷 □除湿・再熱の □ゾーニング □残業運転対策 他 の 無駄の回避 回避 (系統分割) の 有 効 利 用 効率的熱交換 エ ネ システム ル ギ 排熱回収熱源 ー システム ・ 資 源 低環境負荷材料 最 適 運 転 長寿命 □全熱・顕熱 交換機使用 □省エネ型機器 □高効率機器 の採用 の採用 他 □コージェネ □燃料電池 □冷凍機排熱 回収 他 □使い捨て材料 □リサイクル困難 □人体に無害な 他 材料への配慮 材料への転換 の最小化 □起動時外気 遮断 □ CO2 制御による 他 外気取入量削減 外気取入制御 □蓄外気運転 自動制御・中央 監視装置の充実 □スケジュール □熱源最適運転 □冷却塔制御 設定運転 制御 設備材料の合理的 □耐久性・耐震 耐久性 性・耐火性 □保守性 □交換容易な 構造 冷水量削減や,負荷に応じたポンプの台数・可変水量 制御を実施している。 機器類本体 ターボ冷凍機は特性上,冷水の出口 温 度 を 上 げ れ ば 仕 事 量 が 減り,省 エ ネに 結 び 付く。 例えば,出口温度が 7 ℃の場合に比べ,13 ℃に上げると 効率が約 18 %向上する (図5)。クリーンルーム負荷を 外気除湿用に 7 ℃,顕熱除熱用に 13 ℃に区分すると, 約 70 %を 13 ℃冷水で賄うことができ,高い省エネ効果が 期待できる (図6)。更に,13 ℃冷水なら,冬期(12 月∼ 他 3 月)は冷凍機を止めて冷却塔による製造も可能であり, 他 当社大分工場ではこれにより100 万 kWh を削減した。 廃棄物の削減 □仮設資材の 減少 □廃棄物の減容 □梱包材の減少 他 ・焼却処分化 ノンフロン化 □代替フロン 冷媒 □ノンフロン 冷媒 適正な使用 と処理 水搬送系は,空調冷水の大温度差(10 ℃)送水による □フロン回収を 他 考慮したシステム FFU の電動機は,誘導モータからモータ効率が高い DC ブラシレスタイプへと移行した。これにより当社大分 工場では,空調循環動力を 14 %削減した(図 4)。 図2.環境配慮チェックシートの例−設計だけでなく工事における 監理事項も含まれており,幅広く環境への配慮がなされている。 Checklist for proper attention to environment 製造装置本体 空調や動力のエネルギー量は,装 置本体の使用動力量に密接な関係がある。現段階では, 装置本体のエネルギーが低減されないかぎり大幅な省 クリーンルーム工場建設における環境配慮への取組み 27 • 可変風量 • 冬期13 ℃冷水製造 スクラバ • 高効率FFUの採用 • 可変風量 冷却塔 FFU • 可変風量 • 空調ダクトレス 外気処理空調機 クリーンルーム 製造 装置 外気 • 局所クリーン化 • 可変水量 • 大温度差送水 製造用冷却水ポンプ • 可変水量 D • 13 ℃冷水設定で高効率運転 • 冷却水の排熱利用 D 補機室 C 冷凍機 C 冷水ポンプ 図3.クリーンルーム模式図−空気・水搬送システムや機器類の効率化により省エネを図っている。 Diagram of clean room 局所クリーン化とダクトレス方式により 空調循環動力を36 %削減 空調循環動力(Wh/m2) 100 55 % 13 ℃ 外気負荷顕熱 60 95 61 20 13 ℃ 機器・建屋・動力など顕熱 30 % DCブラシレスモータ採用により 空調循環動力を14 %削減 80 40 7℃ 外気負荷除湿 15 % 47 0 大型循環ファン 従来FFU 高効率FFU (ダクト方式) ダクトレス方式 誘導モータ ダクトレス方式 DCブラシレスモータ 図6.クリーンルームの冷水負荷区分−冷水負荷区分は 13 ℃機器な どの顕熱,13 ℃外気顕熱,7 ℃外気除湿の三つに区分できる。 Ratio of cooling load 図4.クリーンルーム単位面積当たりの空気循環動力−局所クリーン 化,ダクトレス及び高効率 FFU により,約 50 %の動力削減を実現している。 ンルーム内に置かれた状態での空気の流れを解析し, Air circulation power per clean room unit area 効率化を図ることも重要になってくる。 4 気流シミュレーションによるクリーン化 冷水温度アップによりCOPが18 %向上 8 成績係数 COP クリーンルームは,温度がコントロールされたクリーンエア 6 を常時循環させる必要があり,エネルギーを多く使用するの 4 7.58 6.22 で省エネ要求が高い。その一方で,クリーンルーム内は, 様々な仕様(形状,給排気バランスなど)の装置が様々な位 2 置に設置されたり,多様なレイアウト変更がなされたりで,む 0 7 ℃冷水 の場合 13 ℃冷水 の場合 だな気流が生じ,動力の浪費につながる。このむだな気流 を低減するため,気流シミュレーションを活用し,省エネに 有効な気流改善を行っている。 図5.13 ℃冷水化による冷凍機効率の向上− 13 ℃冷水の使用で, 7 ℃冷水より約 18 %高効率の運転が可能である。 Chiller efficiency (7 ℃ vs. 13 ℃) 気流シミュレーションでは,連続流体のナビエストークス 方程式(質量保存式) を数値解析で解き,クリーンエアの流れ を可視化している。また,クリーンルーム内でクリーンエア, 28 エネ効果は難しい。それには製造プロセスのエンジニ 汚染エア及び空間全般の気流について流速を実測し,この アと協調し,実際の使用エネルギーの調査・評価方法 結果を組み込むことで,シミュレーション精度を高めている。 を確立することが急務である。また,製造装置がクリー 以下に解析事例を述べる。 東芝レビュー Vol.5 9No.1(2004) 4.1 クリーンルームの省エネ 整流板 ここでは,気流シミュレーションを使った省エネ対策の事 例を述べる。図7は,一般的なクリーンルームに装置を配置 した状態を示している。灰色の部分に装置が配置され,矢 作業者ダストは下に 作業者ダスト侵入 装置内エアパージ 印の方向と長さが,気流の方向と速度を表している。 (a)は 改善前, (b)は改善後で,それぞれの図で下側が上面から見 たクリーンエアの流れ,上側が A−A′断面での流れを示す。 改善箇所 A-A′ 断面 効率の悪い流れ (排気口へ直行) A 作業者 カセット (a)改善前 (b)改善後 図8.気流シミュレーションによる局所クリーン化−気流シミュレー ションにより,装置内を局所的にクリーン化している。 A-A′ 断面 Local cleaning in manufacturing apparatus using gas flow simulation A′ 上面図 (a)改善前 A 流速向上 A′ 上面図 (b)改善後 るのを阻止し,同時に分岐導入したクリーンエアにより装置 内パージを行う。 これによって,装置内のウェーハダストは 12 個から 3 個に なり,大幅に低減できた。このように,省エネ,ダスト改善に 図7.気流シミュレーションによる省エネ改善−気流シミュレーション を使った流れの改善で省エネを実現した。 気流シミュレーションは広く活用されている。 Saving energy of air supply by improvement of gas flow using gas flow simulation 5 あとがき (a)の断面図では,左端の上部でクリーンエアが天井から 当社では工場建設計画時に環境配慮に対応した設計を そのまま側壁下部の排気口へ抜けてしまっている。このため, 行 って い る。そ の 中 で,もっとも環 境 へ の 影 響 が 大きい クリーンエアは有効活用されていない。対策として, (b)の クリーンルームについて取り組み,クリーンルームを動かす 断面図のように左端の上部の流路を遮る案をシミュレーション 空調動力や冷水などの大幅な省エネを達成した。また,クリー で検討した。この結果,断面図でクリーンルーム全体への ンルーム内の装置レイアウトにおいても,気流の適正化を行 流れが発生しており,上面図の 2 か所で流れが速くなってい い省エネに寄与した。 る。したがって,クリーンルームに供給するクリーンエアの流速 を下げても,従来と同じ流れを維持できることから,省エネ 今後は,クリーンルーム建設の構想段階から装置メーカー とも協調し,クリーンルームの省エネ化を更に図っていく。 に有効であることがわかった。 この流れ改善対策を施すとともに,クリーンルーム内の温 度制御方式の改善を加えることで,全体で 20 %の省エネを 達成した。 4.2 クリーンルームの局所クリーン化 次に,気流シミュレーションによりクリーンルーム内の局所 加藤 俊彰 KATO Toshiaki 生産技術センター 建設部参事。 建築設計業務に従事。日本建築学会会員。 Construction Dept. クリーン化を実現した事例を述べる。図8は,半導体クリーン ルーム内での作業者からの発生ダストの影響を低減した 柳澤 俊彦 YANAGISAWA Toshihiko 例である。 (a)は改善前, (b)は改善後で,装置の前に作業者 生産技術センター 建設部参事。 建築設備設計業務に従事。 Construction Dept. が立っているのを横から見た図である。 (a) では,上からの流れ により,ワークを装置にセットする際,作業者からのダストが 装置内に侵入している。 対策として,気流シミュレーションを使って整流板を取り 付ける方法を検討した。 (b)のように整流板を設けることで, 流れを真下に向けて作業者からのダストが装置内へ進入す クリーンルーム工場建設における環境配慮への取組み 添田 勝之 SOEDA Katsuyuki 生産技術センター プロセス研究センター。 半導体・液晶プロセスの流体シミュレーション技術の開発業務 に従事。応用物理学会会員。 Process Research Center 29