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幼児期における心の理論発達と集団遊びの関連

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幼児期における心の理論発達と集団遊びの関連
提出日
平成 26 年 1 月 20 日
幼児期における心の理論発達と集団遊びの関連
The Relationship between the Development of Theory of Mind and Group Play in
Young Children.
児童学研究科
児童学専攻
心理学コース
1000-120612
主指導教員
金子亜美
相良順子
先生
問題と
問題と目的
Premack & Woodruff(1978)は,心の理論を「心的状態を他者に帰属させる能力であ
る」とし,一つの推論システムであると考えられている。心の理論が発達しているかをみ
るには,移動課題や信念変化課題の誤信念課題が用いられる。移動課題は「マクシという
男の子が〈緑〉の戸棚に入れたチョコレートを,マクシが見ていない間にお母さんが〈青〉
の戸棚に移してしまう。その時,マクシはチョコレートがどこにあると思っているか」を
幼児に尋ねる課題で,信念変化課題はスマーティー課題は最初の状況(スマーティーとい
うお菓子の箱を見ること)により幼児は信念(箱の中身はスマーティー)を形成するが、
現実の状況(箱の中身は鉛筆)を示されることで自分の信念を変化させるという課題であ
る。
以来,心の理論についての研究が積み重ねられていく中で,誤信念課題の通過,不通過
による,心の理論の発達の個人差が注目されており,要因について検討されてきた。これ
までに,幼児自身の要因と環境要因が挙げられている。幼児自身の要因では,言語能力や
ワーキングメモリーの差が関連していることが報告されており,環境要因では,きょうだ
いなどの他者との接触経験の差や母親の関わり方の違いが指摘されている。
また,近年では,心の理論発達の個人差が実際の生活の中の行動とどのように関連して
いるのかという,幼児の行動への影響が検討されてきた。そして,心の理論発達と社会的
スキルには関連があることや(森野,2005)
,心の理論が発達している者は発達していな
い者よりも「提案」と,
「援助」行動が有意に多かったことが報告されている(加藤,2000)
。
また,加藤(2000)は心の理論が発達していない者は,発達している者よりも一人遊びで
「テレビ・ゲーム」をする時間が有意に長かったとしている。
1
そこで本研究では,幼児自身の要因である,「テレビ・ゲーム」などの幼児の遊びの好
みと,
環境要因である他者との接触経験の差が心の理論発達の個人差を生じさせると考え,
幼児の行動への影響を集団遊び場面から検討することを目的とした。
遊びの観察場面として,心の理論発達には男女差がないことが示されていることから
(小川・高橋,2012)
,保育の現場で日常的に男女共に行っていると思われる積木遊びを
行った。そして,誤信念課題を通過している群と通過していない群の積木遊びの観察から,
通過している者と通過していない者で,
幼児同士のやりとりが異なるかについて検討した。
また,心の理論発達と,社会的スキルの関連についても検討した。
方法
1.研究参加者 年少児 25 名(男児 11 名,女児 14 名,平均年齢 3 歳 9 か月,レンジ:3
歳 4 か月-4 歳 5 か月)
,年中児 31 名(男児 12 名,女児 19 名,平均年齢 4 歳 9 か月,レ
ンジ:4 歳 3 か月-5 歳 5 か月)年長児 20 名(男児 8 名,女児 11 名,平均年齢 5 歳 7 か
月,レンジ:5 歳 3 か月-6 歳 2 か月)
,研究参加者の担任保育者 11 名であった。
2.手続き
手続き
本研究は 3 つのセッション(セッション 1:誤信念課題の通過についての検討,セッシ
ョン 2:心の理論発達と遊びの好み,遊び相手,仲間との相互作用についての検討,セッ
ション 3:移動課題の不通過群と通過群の積木遊びの観察でみられた幼児同士のやりとり
と心の理論発達の関連についての検討)で構成された。
(1)セッション 1:誤信念課題の
誤信念課題の通過についての
通過についての検討
についての検討
1)移動課題:マクシの課題と同型の課題。
2)信念変化課題:スマーティ課題と同型の課題。
3)絵画語い発達検査:言語能力の測定として,絵画語い発達検査(上野・撫尾・飯長,
1999)を使用した。
(2)セッション 2:心の理論発達と
理論発達と遊びの好
びの好み,遊び相手,
相手,仲間との
仲間との相互作用
との相互作用について
相互作用について
の検討
調査対象者 研究参加者のクラス担任 11 名。
質問内容
1)フェース項目:組,年齢,名前。
2)研究参加者の遊びの好みに関する質問:加藤(2000)の「遊びカテゴリ」の「運動・
2
音楽」,
「創造・想像」,
「テレビ・ゲーム」の 3 項目に「その他」を加えた 4 項目について,
それぞれの遊びをどれくらいしているかを 4 段階評定で回答を求めた。
3)仲間との相互作用に関する質問:森野(2005)の研究で使用されている教師評定尺
度を使用した。この尺度は仲間との相互作用を社会的スキルと人気の 7 項目で構成され,
それぞれの項目にどれくらいあてはまるかを 4 段階評定で回答を求めた。
4)遊び相手に関する質問:研究参加者が誰と遊んでいることが多いかについて,保育
者,友達,一人の 3 択で回答を求めた。
(3)セッション 3:移動課題の
移動課題の不通過群と
不通過群と通過群の
通過群の積木遊び
積木遊びの観察でみられた
観察でみられた幼児同士
でみられた幼児同士
のやりとりと心
のやりとりと心の理論発達の
理論発達の関連についての
関連についての検討
についての検討
研究参加者 セッション 3 の研究参加者はセッション 1 において誤信念課題のうちの移
動課題のみ行った者であった。研究参加者のうち,移動課題得点が 0 点の者を移動課題の
不通過群,最高点の 2 点の者を通過群とし,参加者同士のやりとりがみられるよう,通過
群,不通過群の中でも言語能力の高い者を中心にグループを組んでもらった。不通過者を
アルファベットの小文字,通過者を大文字で表記して,各グループについて詳細を示す。
年少の不通過群は男児 3 名(a、b,c),女児 4 名(a,b,c,d)で,観察は週に 1 回,3
週行った。年少の通過群は 3 名で行う予定だったが,1 名が参加を拒否したため,男児 2
名(A,B)で,観察は週に 1 回,2 週行った。年中の不通過群は 2 名のみであったため,
通過群の女児 1 名に加わってもらい,女児 3 名(A,b,c)で,観察は週に 1 回,2 週行
った。年中の通過群は男児 3 名(A,B,C),女児 3 名(A,B,C)で,観察は週に 1 回,
3 週行った。
観察の際は別室に積木(カプラ)を用意し, 1 グループずつ別室に連れてきた。そして,
観察の前に『これから,3 人で 1 つのタワーを作ってもらいたいと思います。まず,私(観
察者)がお手本を見せるので,よく見ていて下さい。
〈カプラを 2 本ずつ縦,横,交互に
重ねる〉このやり方で,ここにある積木を全部使って,3 人で 1 つのタワーを作って下さ
い。私が「よーい,スタート」と言ってから,
「おしまいです」と言うまでの間に作って下
さい。準備はいいですか。では,よーい,スタート。
』と教示し,10 分間観察した。その
際,2 台のビデオカメラで遊びの様子を撮影し,研究参加者が観察者を意識しないよう,
観察者は廊下に移動した。
結果
3
セッション 1 では,移動課題,信念変化課題とも加齢とともに成績が向上する傾向があ
ることが示された。セッション 2 では,学年ごとの分析の結果,月齢や言語能力が同程度
である場合,年少では移動課題得点が高い者ほど人気があり,年中では,移動課題得点が
高くても人気が低く,年長では信念変化課題得点が高い者ほど社会的スキルも高いという
結果が得られた。
遊びの好みと遊び相手については,年少では運動・音楽遊びをしている者ほど友達と遊
んでいることが多く,社会的スキルも高く,人気も高かった。また,一人で遊んでいる者
ほど人気が低いことも示された。年中では運動・音楽遊びをしている者ほど人気が高いと
いう結果が得られた。年長では,運動・音楽遊びをしている者ほど友達と遊んでいること
が多く,創造・想像遊びをしている者ほど信念変化課題得点が高いこと,一人で遊んでい
る者ほど人気が低いことが示された。
セッション 3 では,積木遊びの観察から 11 の発話・行動カテゴリーに分類した。移動
課題の不通過群と通過群の発話・行動カテゴリーの頻度を比較した結果,移動課題を通過
している者ほど「同調・同意を促す発話」
(例,これすごいよな)と「ルールを意識した発
話」(例,みんなで 1 つのタワーだよ)の頻度が多い傾向が示された。月齢,言語能力と
発話・行動カテゴリーの相関をみたところ,月齢と「指示」
(例,早くやりなさい)との間
に関連がみられたが,その他の項目には有意な相関はみられなかった。この結果から,
「同
調・同意を促す発話」と「ルールを意識した発話」は月齢や言語能力とは関連がなく,心
の理論発達のみに関連するものであることが示された。
考察
幼児自身の要因である,遊びの好みでは,年長において創造・想像遊び(例,ままごと)
が心の理論発達を促すことが明らかになった。一方,環境要因である他者との接触経験の
差では,年少と年長で一人遊びをしている者は人気が低くなるという結果が得られ,年少
で人気は心の理論発達との関連がみられていることから,他者との接触経験の差は心の理
論発達に直接関連はなく,人気の高さに関連することが示された。
セッション 3 で「同調・同意を促す発話」と「ルールを意識した発話」と心の理論発達
との関連がみられたことは,先行研究の加藤(2000)の心の理論が発達している者ほど「提
案」
,「援助」行動が多くみられるという結果と異なるものであった。このような結果が得
られた要因としては,加藤(2000)の遊びの観察が家庭で見られる遊び場面の観察であっ
4
たのに対し,本研究は観察者が提示したルールに基づく遊び場面であり,その違いが関連
していると考えられた。
「提案」については,本研究では「3 人で 1 つのタワーを作る」と
いう明確な目的があったことから,研究参加者同士での話し合いが必要であったと考えら
れた。
「援助・発話」と「援助・行動」についても,タワーの作り方を理解していない者に
作り方を聞かれて教えたり,作り方の見本を見せるなど,援助を促される機会が多かった
可能性がある。そのため,移動課題の不通過群にも「提案」や「援助・発話」
,「援助・行
動」がみられ,通過群との有意な差がみられなかったのではないかと考えられた。
本研究で心の理論発達と関連がみられた「ルールを意識した発話」を多く発している者
は,社会的スキルや人気も高い者であった。このことから,観察者が提示した目的を理解
することに心の理論発達が関連し,目的を達成するために遂行しようとする課題への積極
性が社会的スキルの高さや人気に関連しているのではないかと考えられた。「同調・同意
を促す発話」についても,他者を意識していることが前提にある。そして,他者に同調し
てもらえる,同意が得られるという状況であることを予測して発言していると考えられる
ため,心の理論発達と関連がみられたのではないかと考えられた。
「同調・同意を促す発話」や「ルールを意識した発話」が多くみられるなどの結果は,
あくまでも共同でタワーを作るという遊びの中でのことである。しかし,本研究で用いた
ような明確な目的やルールがある共同遊びの中で,心の理論発達の個人差がみられる可能
性が示唆された。
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