...

自動車用チップオンチップスマート MOSFET 技術

by user

on
Category: Documents
14

views

Report

Comments

Transcript

自動車用チップオンチップスマート MOSFET 技術
富士時報
Vol.76 No.10 2003
自動車用チップオンチップスマート MOSFET 技術
竹内 茂行(たけうち しげゆき)
小山 正晃(こやま まさあき)
大栗 克実(おおぐり かつみ)
まえがき
ニーズに対応した低発生損失の表面実装タイプに移行し,
現在に至っている。このような中で,自動車の環境保護,
富士電機は自動車分野向けの半導体デバイスとしてス
安全性および性能の向上に伴い,車載用電子部品の自動車
マート MOSFET を 1991 年から供給してきている。これ
に占める割合は年々増加する傾向にある。しかしながら,
までの市場要求は,油圧ソレノイドバルブ制御のように比
ECU に搭載する機能の増加は ECU の小型化を阻害するた
較的電流の小さい用途であり,製品ラインアップは電流定
め,ECU 制御基板に搭載する半導体には限られたエリア
格 1 ∼ 6 A 程度のスマート MOSFET であった。また,自
内で目標性能を達成させる必要があり,トレードオフの関
動車搭載システムの電子化が進むに従い,8 ∼ 40 A 定格
係にある「搭載機能および性能」と「小型化」の改善が急
程度のパワー MOSFET や負荷短絡機能,過熱保護機能が
務である。
搭載されたスマート MOSFET が採用されてきている。さ
スマート MOSFET は,上記ニーズに応えるべく微細加
らなる電子制御ユニット(ECU)の小型・低損失化を目
工化により出力段パワー MOSFET のオン抵抗改善と制御
指し,昨今は大電流で使用可能な低オン抵抗(10 mΩ以
回路の小型化を進めてきているが,特に小型パッケージで
下)を特徴とした製品の開発が望まれている。この低オン
大電流あるいは低オン抵抗のニーズに対しワンチップ構成
抵抗を達成するために,富士電機ではチップオンチップ構
では限界がある。
造を用いたスマート MOSFET の開発に取り組んでいる。
この限界を打破するために富士電機では,チップオン
チップ構造を選択した。図2はチップオンチップ構造によ
本稿ではその内容を紹介する。
る効果を模式的に表した図であり,限られたパッケージサ
背 景
図2 搭載チップサイズと出力段オン抵抗
富士電機における車載用スマート MOSFET 用パッケー
ジの変遷を 図1 に示す。1990 年初頭,リード端子タイプ
出力段R ・ は同一
A
on
の製品を市場に送り出し,プリント基板上へ自立実装し使
ワンチップタイプ
機能追加により相関ラインは
右へシフトする(低オン抵抗
化できない)
。
機能を減らしてもチップオン
チップレベルの低オン抵抗は
達成できない。
用された。その後,プリント基板の実装効率を高める市場
1995年
2000年
2005年
搭載チップサイズ
図1 富士電機のスマート MOSFET パッケージの変遷
パッケージ小型化
特
集
1
リード部品
SMD化
パッケージ
最大搭載チップサイズ
チップオンチップタイプ
上下破線エリア内であれば
機能追加可能
低オン抵抗,多機能搭載の
設計で効果を発揮
オンチップ
搭載可能ライン
パワーSOP/QFP化
チップオンチップ化
低 R on・小型化 超小型化
出力段オン抵抗
626(40)
竹内 茂行
小山 正晃
スマートパワーデバイスの開発・
ディスクリートパッケージの設
半導体の封止樹脂およびパッケー
設計に従事。現在,富士電機デバ
計・開発に従事。現在,富士電機
ジ技術の開発に従事。現在,富士
大栗 克実
イステクノロジー
(株)
自動車電装
デバイステクノロジー
(株)
デバイ
電機デバイステクノロジー
(株)
デ
品開発部。
ス開発部。腐食防食協会会員。
バイス開発部。
富士時報
自動車用チップオンチップスマート MOSFET 技術
Vol.76 No.10 2003
イズの場合,搭載機能が増加するほど,換言すれば制御回
路部分のサイズが増加するほどチップオンチップ構造の効
3.2 接着フィルム材の検証
果が増加することが分かる。さらにチップオンチップ構造
熱膨張率,弾性率,ガラス転移温度の異なる 3 種類の接
では制御回路を載せた IC チップとパワー MOSFET チッ
着フィルム材の候補とし比較評価を行った。各供試材の特
プが分離されているため,豊富な組合せの選択が可能とな
性を表2に示す。
次 に IC チ ッ プ裏 面の フ ィ ル ム材 が パ ワ ー MOSFET
る。
以下では,高信頼性なチップオンチップ構造を実現する
チップ表面にどのように影響するか,応力シミュレーショ
ンを実施した。解析モデルを図3および表3に示す。フィ
ために開発した新技術について紹介する。
ルム材Cはフィルム材 A と類似した特性を持つので,シ
チップマウント技術
ミュレーションでは,A と B で比較した。ヒートサイク
ル試験において最もストレスの大きい冷却時のチップ表面
の応力プロファイルを図4および図5に示す。
3.1 チップマウント方法の選定
従来,富士電機における半導体チップのマウント方法は,
モデル条件であるチップとモールド樹脂との界面接着・
パワー半導体には放熱性のよいはんだを用いたマウント方
非接着の影響は,若干変動はあるが全体では認められない。
式,IC のような自己発熱しない半導体にはエポキシ樹脂
フィルム材 A の場合(モデル 1,3)
,チップ表面では比
をベースに導電性銀(Ag)フィラを含有した Ag ペース
較的フラットな応力分布を示すが,フィルム材 B の場合
トによるマウント方式であった。今回のパワー MOSFET
(モデル 2,4),チップ外周から 0.4 mm 程度内側で応力
と IC チップの接着には Ag ペーストのような有機材料を
ピークが見られた。
用いたマウント技術が必要である。しかしながら,チップ
オンチップでペースト材を使用した場合,下記の懸念点が
表2 フィルム材特性比較表
予想される。
(1) キュア時に発生するガス付着による耐湿性の低下
フィルム材
(2 ) 接着剤の位置ずれや染み出しによるワイヤ接合性の低
下
A
B
C
特 徴
標準
低弾性
高T
g
(3) ペースト供給時のベースチップへのダメージ
線 膨 張 率
1
2
1
(4 ) プロセス管理などの作業負荷の増大
弾 性 率
1
0.3
1.5
ガラス転移温度( Tg )
1
1
1.5
タックドパッケージの開発が進められ,ペースト材に代わ
吸 水 率
1
0.67
0.67
るフィルム材の接着剤が使われ始めている。詳細は割愛す
アウトガス量
1
0.1
4
銅 板 反 り 量
1
0.4
4
高密度実装化の方法として複数のチップを積載したス
るが,ペースト材とフィルム材の特性・作業性比較調査を
行った結果を表1に示す。
™フィルム材Aの特性を1とした場合の相対比較表
フィルム材の材料コストが高いが生産量が増えた場合,
作業コスト,管理コストなどを考慮するとコスト面でも遜
色(そんしょく)なく,また耐湿性,作業性の観点から
図3 シミュレーションモデル図
フィルム材が有利であると考え,フィルム材を選択するこ
ととした。
モールド
拡大
IC
チップ
項 目
フィルム材
ペースト材
作 業 性
高
低
材 料 保 管
室温
冷凍
材料常温戻し
不要
必要
使用中の調整
不要
必要
後硬化時間
短
長
粘 度 変 化
なし
あり
耐リフロー性
JEDECレベル1
JEDECレベル1
(アクリル系)
吸 水 率
小
大
アウトガス
少
多
材料コスト
1
1/2
はんだ
MOSチップ
Cuフレーム
表1 フィルム材とペースト材との比較表
接着材
表3 シミュレーションモデル表
フィルム材
チップ表面接着
初期設定
α1
モデル1
A
界面接着
1
1
1
モデル2
B
界面接着
2
1.2
0.3
モデル3
A
界面非接着
1
1
1
モデル4
B
界面非接着
2
1.2
0.3
モデル5
B’
界面接着
1
1
0.3
α2
弾性率
™フィルム材Aの特性を1とした場合の相対比較表
™界面非接着とは,樹脂ーチップ間にはく離が発生した場合を想定した
シミュレーション
627(41)
特
集
1
富士時報
自動車用チップオンチップスマート MOSFET 技術
Vol.76 No.10 2003
図4 モデル 1 ∼ 4 水平方向応力分布図
図6 モデル 5 水平方向応力分布図(線膨張変更品)
10サイクル目冷却時:チップ表面の水平方向応力分布図
10サイクル目冷却時:チップ表面の水平方向応力分布図
50
モデル3
100
水平方向応力(N/mm2)
水平方向応力(N/mm2)
200
モデル2
0
モデル4
−100
モデル2,4
モデル1
−200
−300
モデル1,3
0
−50
−100
−150
モデル2
−200
モデル5
−250
−300
モデル1
−350
−400
−400
0
1
2
3
0
4
1
水平方向位置(mm)
3
4
図7 モデル 5 板厚方向応力分布図(線膨張変更品)
10サイクル目冷却時:チップ表面の板厚方向応力分布図
10サイクル目冷却時:チップ表面の板厚方向応力分布図
150
150
モデル3
50
モデル2
100
モデル1
板厚応力(N/mm2)
100
モデル2,4
0
モデル4
モデル1,3
−50
モデル2
−100
50
0
モデル5
モデル1
−50
−100
−150
−200
−150
−200
2
水平方向位置(mm)
図5 モデル 1 ∼ 4 板厚方向応力分布図
板厚応力(N/mm2)
特
集
1
−250
0
1
2
3
0
4
水平方向位置(mm)
1
2
3
4
水平方向位置(mm)
図4に水平方向の応力分布図を示す。チップ表層に多大
なスライド方向の圧縮応力が発生しており,パッケージ応
ワイヤボンディング技術
力の主成分と考えられる。図5にチップ板厚方向の引張応
力を示す。このスライド方向と引張応力の合力で発生する
今回,チップオンチップの選択理由として,大電流化
モーメント力により,チップコーナー部へは多大なストレ
(低オン抵抗化)およびパッケージの小型化による高密度
スの発生が予想される。組立品での確認評価を実施したが,
実装可能な製品を提供できることを目標としている。この
フィルム材 B の IC コーナー部に,はく離が発生し,今回
目標を達成するためには,出力側端子へのアルミワイヤ結
のシミュレーションが正しいことを裏づける結果となった。
線は太線化・多数掛け化が必要である。一方,制御用 IC
今回の応力分布の違いがフィルム材 B の弾性率の影響
からの結線は,搭載チップサイズなどの制約上,細線化が
か,線膨張係数の違いによるものかを検証した結果を図6
必要である。また,IC チップとパワー MOSFET チップ
および 図 7 に示す。モデル 5 はフィルム材 B の弾性率を
を直接接続することも必要である。さらにパッケージの小
変えずに,線膨張係数をフィルム材 A の値に変更したも
型化に伴い,アルミワイヤ結線のループ高さ,形状のコン
のである。応力ピークはなくなり,モデル 1 の応力分布に
トロールも重要な課題となっている。
近い結果となった。したがって,チップ外周内側の応力
富士電機はこれら課題に対し,各結線ごとのアルミワイ
ピークは線膨張係数が高いための影響であるという結論が
ヤ長を一定に保つことを可能にし,安定した結線状態の維
導かれた。
持を実現化した。
ガラス転移温度の高いフィルム材 C に関しては, 表 2
図8に今回検討に用いたアルミワイヤボンディングを例
に示す銅板の反り量が大きく,ワイヤボンディング不良や
として示す。図8のパッケージでは太線のアルミワイヤ 4
チップはがれの問題が懸念される結果となった。以上の結
本掛けにより,パッケージ抵抗 0.4 mΩ以下(常温)を達
果から,線膨張係数の低いフィルム材 A を選定した。
成した。
628(42)
富士時報
自動車用チップオンチップスマート MOSFET 技術
Vol.76 No.10 2003
図8 ワイヤボンディング例
とした太線のアルミワイヤの多数掛けを実施している。こ
れにより水分浸入経路の増加による耐湿性の低下が懸念さ
れる。
部材選定およびパッケージ構造により,この問題を解決
し , 目 標 耐 湿 性 を 達 成 し た ( 85 ℃ /85 % 温 湿 度 試 験 ,
1,000 時間以上)
。
5.3 チップ−チップ間絶縁性
チップ−チップ間の絶縁性については,フィルム材によ
る接着を選択したことにより,目標となる絶縁性を確保す
ることができた。以下が具体的な実施内容である。
(1) チップ間距離の均一確保
(2 ) フィルム材の材質
以上により,チップオンチップ構造体としての信頼性目
標を達成した。
あとがき
信頼性確保
富士電機では,以上の内容を取り込んだ製品の開発に着
5.1 温度ストレス耐量
チップオンチップ構造の選択により,モールドパッケー
ジ内部材の段差部が増加し,これに伴う応力集中の発生に
手しており,2004 年には発表の予定である。従来製品群
に今回の製品群を新たに追加し,市場ニーズに対応してい
く所存である。
よる温度ストレス耐量の低下が懸念されたが,新規部材と
なるフィルム材の検証の実施および部材間の接着性のよい
材料の選定,低応力樹脂の選定,チップやはんだなどの材
料サイズのシミュレーションによる条件出しにより,目標
とする温度ストレス耐量(−55 ∼+150 ℃,1,000 サイクル
以上)を達成した。
参考文献
(1) 古 畑 昌 一 ほ か . 自 動 車 用 ハ イ サ イ ド IPS. 富 士 時 報 .
vol.65, no.3, 1992, p.176- 180.
(2 ) 木内伸ほか.インテリジェントパワー MOSFET.富士時
報.vol.70, no.4, 1997, p.222- 226.
(3) 木内伸ほか.SOP- 8 パッケージハイサイド IPS.富士時
5.2 耐湿性
報.vol72, no.3, 1999, p.168- 171.
今回,電気的特性面の目標として,低オン抵抗化を目的
629(43)
特
集
1
Fly UP