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アジアにおける幸福と満足の文化

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アジアにおける幸福と満足の文化
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5―
アジアにおける幸福と満足の文化
―― アジア・バロメーター調査のデータ解析 ――*
真
鍋
一
史**
どめる。
!.はじめに
①アジア全域(とくに都市部)をカバーする定
点定期質問紙調査である。
この論文の問題関心は方法論的なものであり、
そのた め に 利 用 す る の は、
「ア ジ ア・バ ロ メ ー
②2003年から10年間調査を継続する時系列調査
(time series survey)である。
ター(AsiaBarometer)」と呼ばれる国際比較調査
③調査内容は、人びとの日常生活の諸側面に焦
のデータである。この調査は、東京大学(現在は
点を合わせる general social survey という性
中央大学)の猪口孝教授が主宰者となって2003年
格と、自由、人権、規制、民主主義などの価
に開始された定点定期質問紙調査(questionnaire
値や規範、さらに政治行動をも捉えようとす
survey)であり、2004年に第2回調査が実施され
る political
た。ここでは、この調査の質問諸項目から、人び
culture
survey とい性格を併せ
もっている。
との幸福感と満足感を捉えるために作成された諸
もう1つはデータ解析の視座であり、ここでの
項目を取り出し、方法論的な問題関心から、いく
データ解析の目的、ねらい、方向である。近年、
つかのデータ解析を試みる。
質問紙法による多数の国ぐにを対象とする大規模
そこで、まず、つぎの2点について述べておか
な国際比較調査が行なわれるようになってきた。
なければならない。1つは「アジア・バロメー
その双璧として「世界価値観調査(World Values
ター調査」の特徴についてであり、とくにその目
Survey:WVS)」と「国 際 社 会 調 査 プ ロ グ ラ ム
的(aim)、射 程(scope)、効 果(strength)に 焦
(International Social Survey Programme:ISSP)」
点を合わせたその概要である。その詳細について
があげられる。そして国際比較調査のデータの蓄
は、Takashi Inoguchi et al eds., Values and Life
積とその利用環境の整備――米国ミシガン大学の
Styles in Urban Asia: A Cross-Cultural Analysis and
ICPSR(Inter-University Consortium for Political
Sourcebook Based on the AsiaBarometer Survey of
and Social Research)やドイツ・ケルン大学の
2003(The University of Tokyo / Mexico City:
ZA
(Zentralaechiv für Empirische Soziolforschung)
SIGLO XXI Editors, 2005), Kazufumi Manabe,
に代表される「データ・アーカイヴ」の設立と発
Data
展――にともなって、そのような調査データの2
Analysis
of
the
AsiaBarometer
Survey:
Methodological Discussions and Exploratory Data
次的分析(secondary
analysis)の試みを国際的
Analysis(IOC Discussion Papers No.42, University
なレベルにおいて組織化していこうとする方向が
of Tokyo,2005)などを参照されたい。 ここでは、
生まれてきた。その1つの事例が、1999年5月25
アジア・バロメーター調査が以下の3つの特徴を
日から28日にかけてドイツ・ケルン大学で開催さ
もつ国際比較調査であるという点を指摘するにと
れた International Conference on Large Scale
*
キーワード:アジア・バロメーター調査、幸福、満足
この論文は2
1世紀 COE プログラム「『人類の幸福に資する社会調査』の研究」(関西学院大学大学院社会学研究科)
を構成する指定研究の1つである「国際比較の方法論的研究」の一環としてなされたアジア・バロメーター調査
データの2次的分析にもとづくものである。
**
関西学院大学社会学部教授
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社 会 学 部 紀 要 第1
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Analysis である。この国際会議では、ISSP
いる。それは、一方において、たとえば『朝日新
の1985年から1995年までのさまざまなテーマをめ
聞』が2005年4月から6月にかけて「幸せ大国を
ぐる調査データのさまざまな2次的分析とデータ
めざして――未来を選ぶ――」と題する特集記事
Data
利用の試みが報告された――因みに、筆者は「ナ
を 組 み、さ ら に8月1
6月(13版)の 紙 面 で は
ショナル・アイデンティティの構造」と題する二
「キーワー ド で 考 え る 戦 後60年」の 第1回 目 に
次 的 分 析 の 試 み に つ い て 発 表 し た(Kazufumi
「幸福」を取りあげたということとともに、他方
Manabe, Facet Theory and Studies of Japanese
においては、鋭い観察にもとづいて、時代と社会
Society: From a Comparative Perspective, Bonn:
を表現するさまざまな独自の造語――たとえば
Bier’sche Verlangsanstalt, 2001)――が、それら
「豊かな社会」
「テクノストラクチュアの支配」
は以下のようなタイプに分類することができる。
「不確実性の時代」など――を生み出してきたガ
①社会科学の領域における理論的仮説の検証
ル ブ レ イ ス(John
② 探 索 的 な デ ー タ 解 析(exploratory
Culture of Contentment, Boston: Houghton Mifflin
data
Kenneth
Galbraith)が The
Company 1992を著し、新たに「満足の文化」と
analysis)
③統計学的なモデルの構築
いうキー・コンセプトを提案し、自己満足の感情
④データ解析法の開発
の広がりを現代社会の大きな潮流として描き出し
⑤データ・ベースに関する方法論の展開
たということからもうかがえる。
⑥測定の等価性(equivalence)の探究
⑦ non-response や missing
data の取り扱いと
いった技法上の問題の検討。
しかし、それにもかかわらず、幸福(そして満
足)というテーマについては、社会科学領域にお
いて、まとまった研究の蓄積といえるものがない。
さて、国際比較調査データの分析と利用につい
この点について、ここではつぎの2人の研究者
ては、以上のようなさまざまな試みがなされてき
の証言をあげておきたい。1人はオランダ・ロッ
ている。筆者がここで計画しているデータ解析の
テルダム、エラスムス大学の Ruut Veenhoven 教
方向は、基本的には上述の①の理論的仮説の検証
授であり、もう1人は政策研究大学院大学の青木
の試みと同じ線上にある。しかし、同時に、④の
保教授である。
データ解析法の開発、⑥測定の等価性の探究、と
も関わってくる。この点について、さらに明確に
していくために、つぎに「アジアにおける幸福と
満足の文化」というテーマに込められた筆者の問
題関心について記しておきたい。
・Ruut Veenhoven(2004)
「幸福についての哲学的研究は、多くのアイ
デ ィ ア を 生 み 出 し て き た が、操 作 的 知 識
(operational knowledge)は創り出していない。
事実、それは『答え』を凌駕する『問い』を生み
!.データ解析の背後にある問題関心
出す結果となった。理論的な争点というものは論
理的推論(the logic of reasoning)だけで解決が
今回のデータ解析の背後にある問題関心は、じ
つ く も の で は な く、経 験 的 検 証(empirical
つは「アジアにおける幸福と満足の文化」という
validation)も不可能である。社会科学の登場を
テーマに端的に表現されている。それは、1つは
待って、はじめてそのブレイク・スルーが可能と
「幸福と満足」という問題関心であり、もう1つ
なる。経験的研究の領域における新しい方法が、
は「アジア」という問題関心である。以下におい
幸福をめぐる諸理論のテストと、幸福をもたらす
て、それぞれの問題関心のあり様について述べて
諸条件の帰納的な確定に道を開くのである。こう
いきたい。
して、多くの研究がなされるようになってきた。
こ数十年間に、3
000にもおよぶ経験的研究がこの
1.幸福と満足という問題関心
テーマを取りあげてきた。それは、はじめは主に
幸福と満足というテーマは、現代社会において
健康や加齢に関する研究の副次的テーマとしてで
は、きわめてアクチュアルなテーマとなってきて
あったが、現在ではそれ自体が中心的なテーマ
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になってきた。しかし、このような研究の流れ
データは Marx の理論に適合しているからであ
は、いまだ幸福に関 す る 健 全 な 知 識 の 体 系(a
る。しかし、Max
sound body of knowledge on happiness)にまで
いわなければならない。文化的な伝統も明らかに
Weber の理論もまた正しいと
結 晶 化 し て い な い。幸 福 に つ い て の 概 念 化
持続しつづけているからである。
」(“Presentation
(conceptualization)と 測 定(measurement)と
at the International Symposium on the Uses of
いった第一段階の疑問は現在ではかなりのところ
Cross-National Comparative Surveys,” Kazufumi
まで解決されてきたが、幸福の決定要因と幸福の
Manabe ed., Final Report [ English Version ],
もたらす結果といったその諸過程と諸条件の理解
Kwansei Gakuin University.)
は、いまだ不完全で、暫定的なものといわなけれ
ばならない。
」(World
Database
of
Happiness,
Netherlands: Erasmus University Rotterdam)
(2)A. Sen(1992)
「生活というものは、
〈あること〉と〈するこ
と〉からなる1つの機能のセットを構成している
と考えることができる。それが適切に機能するた
・青木保(2003)
「幸福というテーマは論じがたいものです。だ
めには、健康状態がよい、あるいは栄養が十分で
れもが幸福というのは何であるかはよくわかって
あるというような基本的なことから、さらに幸福
おりません。哲学においても、近代哲学、とくに
である、自尊心を感じている、コミュニティの生
20世紀の哲学は幸福を無視し、イデオロギーも幸
活に参加しているといったもっと複雑なものまで
福を約束しながら、その内容の何たるかについて
がかかわってくる。したがって、生活の質は単に
は具体的に詰めようとはせず、逆に『抑圧』の政
GNP や所得といった経済指標に還元できるもの
治に向かったし、あらゆる社会理論も科学理論も
で は な い。」(Inequality
『現代思想』も、じつは本当に幸福を論じていな
Oxford University Press.)
Reexamined,
Oxford:
い。近代理論、社会科学的理論も幸福ということ
を中心的に論じていません。幸福論というのはみ
(3)F. M. Andrews and J. P. Robinson(1991)
んな二番煎じの議論のように受け取られて現在に
「幸福を測る尺度(measure)が焦点を合わせ
至っていますが、やはり幸福をちゃんと論じな
るのは感情、とくにプラスの感情という側面であ
かったということは、大きな20世紀の欠陥だろう
り、認知という側面ではない。それとは対照的
と思 い ま す。」(『ア ジ ア 新 世 紀
に、満足を測る尺度が焦点を合わせるのは認知と
第4巻
幸 福』
東京:岩波書店)
いう側面である。主観的なウェルビーイングに関
する調査では、年齢の高い人たちは年齢の低い人
以上の証言からするならば、幸福(そして満
たちとくらべて、幸福のレベルは低く、満足のレ
足)に関する「科学的な」知識の体系と呼べるよ
ベルは高いという知見が得られている。(e.g., A.
うなものは存在しないということになる。しか
Campbell, P. E. Converse, & W. L. Rodgers, The
し、それがまとまった体系的な理論と呼べるかど
Quality of American Life: Perception, Evaluation
うかは別として、少なくとも以下のような個別的
and Satisfactions, New York: Russel Sage Foundation,
な諸理論・諸命題があることは否定できない。
1976.)以上のような〈認知的―感情的〉という
概念枠組みに当てはめてみた場合、この知見は、
(1)R. Inglehart(2003)
生活全般についての認知的な評価は、年齢が高く
「幸福のレベルは経済成長によって決定される。
なるにともなって高くなるが、
(プラスの)感情
経済成長と幸福/ウェルビーイングとの間には一
的な評価はむしろ低くなるということを示唆して
般に強い相関関係がある。興味深い点は、われわ
いる。おそらく人は歳をとるとともに感情的なレ
れは経済決定論者の考え方を強く支持していると
ベルは低くなるものの、達成、そして/あるいは
いうことである。Karl Marx がわれわれのデータ
目標への適応といった認知的なレベルは高くなる
を見るなら、きっと満足するであろう。なぜなら、
のであろう。
」(“Measures
of
Subjective
Well-
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Being” in J. P. Robinson et al. eds., Measures of
きざりにしたところがあります。」(前掲書)
Personality and Social Psychological Attitudes, San
Diego: Academic Press.)
こうして、幸福(そして満足も含めて)という
ことについて、少なくとも以上のような個別的な
(4)I. McDowell and C. Newell(1987)
諸理論・諸命題は存在するので、つぎにこれらは
「経 験 的 な 研 究 に お い て は、生 活 の 質(life
アジア・バロメーター調査のデータを用いて検証
quality)に つ い て の 客 観 的 指 標(objective
することができるであろうかという問題関心が出
indicators)と主観的指標(subjective indicators)
てくる。
との関係は決して強いものではなく、この両者の
不一致は、物質的諸条件のレベルが高まるにつれ
2.アジアという問題に関心
て知覚される要求・欲求(perceived need)のレ
「幸福と満足」という問題関心は2つの側面を
ベルも高まるという場合に起こる、ということが
持っていた。1つはそれが現代社会におけるきわ
示されてきた。この命題は、つぎのような興味深
めてアクチュアルな問題の1つとなっているとい
い政治的問題(political issue)につながるもので
うことであり、もう1つはそれにもかかわらず、
ある。それは、社会保障の制度(social program)
このようなテーマをめぐる理論の集積は必ずしも
を立案する場合、<事実>という指標にもとづく
十分でないということであった。この2つの側面
べきか、それとも<人びとの主観的な反応>とい
からの問題関心のあり様は、ここでの「アジア」
う指標にもとづくべきかという政治的問題であ
という問題関心についてもそのまま当てはまる。
る。」
(Measuring Health, Oxford: Oxford University
つまり、一方で、現在アジアは広く世界から注目
Press.)
されるようになってきた。経済の領域において
も、文化の領域においても、
「停滞するアジア」
(5)青木保(2003)
のイメージはすでに過去のものとなりつつある。
「幸福には2つのタイプの幸福があると思いま
現実社会のなかで、アジアの存在感は大きくなり
す。1つは『小さな幸福』、もう1つは『大きな
つつある。ところが他方で、社会科学の領域にお
幸福』です。『小さな幸福』というのは、われわ
ける学術情報という視座からするならば、
「アジ
れはだれもが日常生活で味わう幸福であって、
アは偉大な空白」(猪口孝編著『アジア学術共同
朝、非常に気持ちよく目覚めた時、美味しいごは
体構想と構築』東 京:NTT 出 版、2005)を 成 し
んを食べた時、親しい友人と話した時に感じるよ
ている。ここでは、この後者の側面について、も
うな幸福というものです。これは歴史や社会の変
う少し議論を深めていきたい。それは、
「アジア
化のなかで一貫して絶えず経験されている幸福で
は空白」という場合の、その具体的な内容という
す。われわれはほとんどこのために生きていると
ことである。
いってもいいと思います。もう1つ、『大きな幸
近年、質問紙法による多数の国ぐにを対象とす
福』というのがあります。『大きな幸福』という
る大規模な国際比較調査が行なわれるようになっ
のは社会主義だとか、原理主義的な宗教とか、あ
てきたということについては、すでに述べた。
るいは政治的な画一的全体主義的な独裁制による
Eurobarometer や
European Values Studies を嚆
『理想の追及』というものですね。日本人が第二
矢とする国際比較調査は、WVA や ISSP を生み出
次世界大戦後身近な例としてやってきた経済発展
し、さらに Latino Barometer や Afrobarometer へ
はどうでしょうか。発展の先に幸せがある、つま
と拡大していった。このようななかにあって、ア
り発展のために、あるいは開発のために、現在を
ジアにおいては相変らず地域全体の社会データが
よく働けば幸せな生活が来るというような約束ご
極度に貧弱であるばかりでなく、このような国際
とで生きていたわけです。これも『大きな幸福』
比較調査への取り組みも組織化されてこなかっ
の追求の面があり、企業のために国のためにとは
た。この意味で、アジア・バロメータ ー・プ ロ
いいましたが、個人や家庭の『小さな幸福』はお
ジェクトは、まさに「アジアの空白」を埋めるブ
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レーク・スルーであるといっても過言ではない。
るにすぎない。そこで西欧以外の国ぐににおける
「アジアという概念は歴史的には西欧からの視線
比較研究が重要となるのである。(R. W. Mack,
によっ て 生 成 し て き た」
(青 木 保、姜 尚 中 ほ か
“Theoretical and Substantive Biases in Sociological
「刊行にあたって」『アジア新世紀第1巻空間』東
Research” in M. Sherif and C. W. Sherif eds.,
京:岩波書店、2002年)とされているが、アジア
Interdisciplinary Relationships in the Social Sciences,
・バロメーター調査は、アジアに焦点を合わせた
Chicago: Aldine,1969.)
学術情報の発信を可能にするという点において、
(3)交差国家的調査の1つの方法論的利点は、
アジアという概念をアジアの側から構成していく
1つの国家を扱っているときには無視される可能
契機を準備するものといえるのである。
性のある多くの問題に直面しなければならないと
では、アジアからの学術情報の発信にはどのよ
いうことである。交差国家研究によって概念(変
うな意味があるのであろうか。それはこのような
数)の再検討と明確化がうながされるとともに、
学術情報が「社会的要請」と「学問的要請」のい
等価性の問題も慎重に吟味されることになる。
ずれにもこたえるものであるという点にある。ま
(G. A. Almond and S. Verba, The Civic Culture:
ず、前者は、調査活動とその成果としての調査
Political Attitudes and Democracy in Five Nations,
データが現実社会で役に立つという側面で、この
Princeton: Princeton University Press,1963.)
場合でいえば、Eurobarometer 調査がヨーロッパ
の国ぐにの相互の国際理解と、いわばヨーロッパ
これらの指摘を、今回のアジア・バロメーター
のアイデンティティともいうべきものを外に向っ
調査に当てはめて解釈するならば、それはつぎの
て押し出していく役割を果たしてきたのと同じよ
2点にまとめられるであろう。
うな意味で、アジア・バロメーター調査にも大き
①社会科学は社会現象の一般命題の定式化をめ
ざすものであるにもかかわらず、これまで、その
な期待が寄せられるということである。
つぎに、後者は、元来、
「学問研究」という名
ための観察や調査は欧米社会を中心になされるこ
で市民権を得ることになった、やむにやまれぬ内
とが多かった。アジア・バロメーター調査を契機
発的な動機づけに支えられた人間の知的活動とそ
として、アジアに焦点を移すことで、これまでと
の成果の累積に対して、調査データがいかに貢献
は異る一般命題が生まれてくる可能性がある。
するかといった側面であるが、この点については
②国際比較調査は、社会科学上の主要な概念の
もう少し説明が必要であろう。じつは、そのポイ
交差国家的あるいは通文化的な再検討と、そのよ
ントは国際比較調査の方法論的な利点というとこ
うな再検討にもとづいて概念の明確化を促進する
ろにある。
可能性をもっているが、とくにアジア・バロメー
さて、国際比較調査の方法論的な利点について
ターの場合は「欧米社会」から「アジア社会」へ
は、さまざまな議論がなされてきている。ここで
と視座を移すことが、その大きなポイントとな
は、今回の問題関心に直接かかわるものだけを以
る。
下にあげておきたい。
さて、以上のような問題関心の展開の結果、つ
(1)社会科学があらゆる人間行動に適用され
ぎのようなデータ解析の方向が確定されてくる。
る一般命題の定式化を行なうものであるかぎり、
それは、いうまでもなく、
「幸福と満足」をめぐ
基本的には社会科学はすべて比較にもとづかなけ
る諸理論・諸命題について、アジア・バロメー
れ ば な ら な い。
(S. M.
ター調査のデータを用いた検証作業を行なうこと
Lipset,
Revolution
and
Counterrevolution, New York: Basic Book,1968.)
(2)社会科学は人間行動の一般命題の定式化
を目指しているにもかかわらず、これまでの原理
や定理や法則の大部分は西欧の都市化された産業
社会でなされた観察や測定にもとづく一般化であ
をとおして、「幸福と満足」の概念の再検討と明
確化を試みるというものである。
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れぞれの国をこの空間上にプロットしている。前
!.ア ジ ア・バ ロ メ ー タ ー 調 査 に よ る
「幸福と満足をめぐる諸理論」の検証
者 の 側 面 に つ い て は、そ れ ぞ れ の 国 の 額 が、
World Bank の World Development Report, 1993,
New York: Oxford University press, 1933にもとづ
ここでは、以上にあげた5つの「幸福と満足を
いたものであるということを記しておけば十分で
めぐる諸理論・諸命題」の検証を試みる。しか
あろう。しかし、後者の側面の subjective
し、1番目の Inglehart の命 題 と2番 目 の Sen の
being
命題は、いわば対立命題ともいうべきものなの
作的な手続きの説明が必要となる。この点につい
で、それらは「幸福感の決定要因」として1つに
て、Inglehart は、つぎのように説明している。
まとめることができる。したがって、以下では4
つのタイプのデータ解析を行なう。
well-
index については、その index の作成の操
「subjective well-being index は、それぞれの国
民の①自分を「非常に幸福」
「幸福」としている
者から「幸福とはいえない」
「不幸」としている
1.幸福感の決定要因の検証:相関図による分析
(第2回調査データ)
者を差し引いた割合、および②「1」を生活全般
に強い不満を持つとし、「10」を生活全般に非常
すでに述べたように、Inglehart の 命 題 は「経
に満足しているとする10段階尺度において7∼10
済成長が人びとの幸福感を決定する。両者には強
に印をつけた者から1∼4に印をつけた者を差し
い相関関係が見られる」というものであり、それ
引いた割合の平均値を表わしている。」(前掲プレ
に対して Sen の命題は「生活の質――健康状態
ゼンテーション・ペーパー)
や幸福感も含めて――は GNP や所得といった経
この相関図は、World Values Survey の第2回
済的指標には還元しつくせない」というものであ
デ ー タ を 用 い て 作 成 さ れ た も の で あ る が、
る。これら2つの命題は、Rudolf Carnap の用語
Inglehart がここで確認した傾向は、さらに第3
法でいえば、いわば「経験法則(empirical law)」
回(1
995∼98年)、第4回 (1
999∼2002年)の
(R. Carnap, Philosophical Foundations of Physics,
London: Basic Books)ともいうべきものである。
たとえば、Inglehart は World
デ ー タ で も 同 じ よ う に 確 認 さ れ た。そ れ は、
GNP/capita
($)と幸福感(と満足感)の関係には
Survey の
「右上がりの弦月型のパターン」が見られるとい
データと世界銀行による国民総生産のデータを用
うことで、このことから Inglehart は経済成長が
いて、この命題を証拠立てている。その具体的な
人びとの幸福感(と満足感)の決定要因であると
手続きと結果は、1993年、スペイン・マドリード
いう結論を導く。しかし、同時に Inglehart は注
の Complutense
意深く、小さいながらも、それとは別の傾向にも
Values
University の創立7
00周年記念事
業の一環としてなされた Changing
and
注目している。それは、たとえばポルトガル、韓
Political Values と題する国際会議におけるプレゼ
国、東ドイツ、日本のような以上の2変数の関係
ンテーション・ペーパー、“Modernization
and
の基本的なパターンに当てはまらない、いわゆる
Postmodernization: The Changing Relationship
「逸脱事例」ともいうべき国ぐにが存在するとい
between Economic Development, Cultural Change
うことで、この点について Inglehart は、そこに
Social
Change”のなかで提示された。
「文化的要因」の介在の可能性を示唆している。
Economic Development と Subjective Well-being
しかし、Inglehart のデータからすれば、
「文化的
との関係を示したつぎの相関図(散布図)は、
要因」を持ち出さなければならないのは、どこま
Inglehart の分析結果を凝縮したものといえる。
でも「逸脱事例」の説明のためであり、大勢から
and
Political
この相関図では、横軸に国民1人当たりの国民
総生産の額($)を置き、縦軸に subjective well-
すれば、
「幸福(と満足)の決定要因は経済成長
である」という結論になる。
being index を置き、両者を組み合わせた空間を
では、アジア・バロメーター調査のデータを用
設定し、World Values Survey の対象国である40
いて、アジアの国ぐにに目を向けるならば、どの
か国のそれぞれを、この空間上の1点として、そ
ような命題が導かれてくることになるであろう
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図1
Economic Development と Subjective Well-being との関係
―― World Values Survey ――
か。まず、ここでも命題をめぐる実証的な分析の
婚、家庭、収入、近隣、友人、健康など――に分
ための具体的な手続きについて記しておかなけれ
けられて、個別的な項目で尋ねられている。
ばならない。アジアン・バロメーター調査の対象
②後でも述べることになるが、両調査で共通に
国の GNP/capita
($)とそれらの国の人びとの幸福
用いられている、いわゆる subjective
感との関係を相関図によって検討するという基本
items――幸福感と 満 足 感 に 関 す る 質 問 諸 項 目
的なアイディアは、World Values Survey の場合
――に つ い て、「因 子 分 析」を 行 な う な ら ば、
と同じであるが、若干異なる点もある。それは、
World Values Survey の場合は試みに選ばれた7
以下の2点である。
well-being
か国について、中国を除くすべての国において
(1)Inglehart が「幸 福 感」と「
(生 活)満 足
「幸福感」と「(生活)満足感」がともに第1因子
感」を総合して subjective well-being index を構
に出てくる――中国でほかの国ぐにと異なる結果
成したのに対して、筆者は「幸福感」の項目だけ
が 出 て き た こ と に つ い て は、こ の 質 問 の key
を利用した。それはつぎのような理由からである。
concept が米国で「happy」、日本で「幸せ」とさ
① World Values Survey では「生活満足感」に
れ て い る の に 対 し て、中 国 で は「高 興(楽 し
ついて尋ねる一般的な項目が準備されていたのに
い)」と訳されており、その意味内容がかなり異
対して、AB では、このような一般的項目はなく、
なるものとなっていることによるものと思われる
それが生活の諸領域――たとえば住居、仕事、結
(真鍋一史『国際比較調査の方法と解析』東京:
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慶應義塾大学出版会、2003年)――のに対して、
に−2点を与え、国ごとの平均値を算出するとい
AsiaBarometer Survey では「幸福感」が第1因子
う方法である。
に出てくる国とそうでない国があり、またある国
(2)いずれの分析においても、経済成長の指
では生活満足感のある項目が「幸福感」と同じ因
標(index)と し て GNP/capita
($)を 用 い て い る
子を構成し、ほかの国では生活満足感の別の項目
が、Inglehart が世界銀行のデータを使っている
が「幸福感」と同じ因子を構成するというよう
のに対して、筆者は国連(United Nations)のホー
に、国ごとの違いが大きい。
ムページ http://unstats.un.org/unsd/demographic/
さて、以上の理由から、筆者は「幸福感」の質問
products/socind/inc-eco.htm 掲載のデータを用い
項目のみを利用するが、その質問文(wording)
た。これは単に情報の入手可能性という便宜的な
と選択肢(alternatives)はつぎのとおりである。
理由からである。
All things considered, would you say that you
さて、以上のような手続きによって、アジア・
バロメーター調査のデータを用いた図2の相関図
are happy these days?
1.Very happy
が作成された。では、この図からはどのような結
2.Pretty happy
果が読み取れるであろうか。図1からは、大勢と
3.Neither happy nor unhappy
しては、2変数間に、右上がりの上弦の弦月カー
4.Not too happy
ブが読み取れた。ところが、図2の結果は、それ
5.Very unhappy
とはまったく異なる。確かに少なくとも、カンボ
そこで、
「幸福感」の index は、つぎのような
ジアからミャンマー、タイ、そしてマレーシアと
方法で構成した。それは、Very
happy に2点、
いう国ぐにについては、GNP/capita
($)の額が大
Pretty happy に1点、Neither happy nor unhappy
きくなるにつれて、
「幸福感」の index の値も大
に0点、Not too happy に−1点、Very unhappy
きくなるという傾向が見られる。ところが、韓
図2
Economic Development と Happiness との関係
―― Asia Barometer Survey ――
March 2
0
0
6
―6
3―
表1 「幸福感」と「満足感」との関係
―― Pearson’s Correlation Coefficients ――
Q5
Q5
Q5
Q5
Q5
Q5
Q5
Q5
Q5
Q5
Q5
Q5
Q5
Q5
Q5
Q6
Degree of satisfaction a. Housing
Degree ot satisfaction b. Friendship
Degree of satisfaction c. Marriage (if Married)
Degree of satisfaction d. Standard of Living
Degree ot satisfaction e. Household Income
Degree of satisfaction f. Health
Degree of satisfaction g. Education
Degree of satisfaction h. Job
Degree ot satisfaction i. Neighbors
Degree of satisfaction j. Public Safety
Degree of satisfaction k. The Condition of the Environment
Degree of satisfaction l. Social Welfare System
Degree of satisfaction m. The Democratic System
Degree of satisfaction n. Famlly Life
Degree of satisfaction o. Leisure
Standard of Living Compared to Others
Japan
0.
3
3
0
0.
3
6
2
0.
5
5
5
0.
4
4
6
0.
3
9
3
0.
3
5
1
0.
3
4
2
0.
3
4
1
0.
2
8
3
0.
2
1
6
0.
2
3
1
0.
1
9
1
0.
1
9
9
0.
5
3
0
0.
3
5
6
0.
3
8
1
SouthKorea
0.
3
1
0
0.
2
7
9
0.
4
4
2
0.
3
9
0
0.
3
6
0
0.
2
9
8
0.
2
5
8
0.
2
4
3
0.
2
0
2
0.
0
9
7
0.
1
8
2
0.
1
2
2
0.
1
3
1
0.
3
2
2
0.
2
4
8
0.
3
0
1
国、シンガポール、日本はすべて「逸脱事例」と
China
0.
3
2
5
0.
2
0
2
0.
3
7
6
0.
4
0
9
0.
3
9
7
0.
2
4
0
0.
2
3
5
0.
2
9
0
0.
1
3
6
0.
1
4
4
0.
1
7
5
0.
2
0
0
0.
1
5
5
0.
4
0
9
0.
2
6
3
0.
3
0
0
Malaysia
0.
3
1
4
0.
2
8
8
0.
1
9
6
0.
2
2
1
0.
2
4
6
0.
1
6
5
0.
1
8
1
0.
2
1
0
0.
1
9
9
0.
1
4
7
0.
2
6
8
0.
1
9
6
0.
1
6
4
0.
1
9
9
0.
1
4
7
0.
1
5
0
Thailand
0.
2
7
9
0.
1
7
7
0.
1
4
3
0.
3
3
7
0.
2
8
5
0.
2
2
3
0.
1
3
3
0.
1
8
7
0.
1
6
1
0.
1
1
9
0.
1
8
0
0.
0
8
4
0.
0
7
8
0.
2
5
3
0.
1
6
9
0.
2
8
4
Vietnam
0.
2
0
4
0.
1
9
6
0.
4
1
0
0.
2
1
0
0.
2
0
3
0.
1
1
2
0.
1
8
8
0.
1
5
5
0.
1
2
2
0.
0
8
4
0.
0
4
4
0.
0
4
4
―
0.
3
3
1
0.
1
8
5
0.
1
9
3
Myanmar
0.
3
0
5
0.
1
1
5
0.
1
2
9
0.
2
3
9
0.
2
4
8
0.
0
6
3
0.
1
2
8
0.
2
2
7
0.
1
0
0
0.
2
2
3
0.
1
0
0
―
―
0.
2
0
1
0.
2
1
7
0.
2
4
4
India
0.
3
4
1
0.
1
7
0
0.
1
6
6
0.
3
2
5
0.
3
7
0
0.
2
6
5
0.
2
0
8
0.
3
0
4
0.
1
1
7
0.
1
6
4
0.
2
0
8
0.
2
4
5
0.
2
5
3
0.
2
0
5
0.
1
6
7
0.
2
6
9
Sri Lanka
0.
3
5
3
0.
2
3
1
0.
1
8
8
0.
3
1
2
0.
3
5
0
0.
2
3
1
0.
1
9
5
0.
3
3
8
0.
0
9
9
0.
1
3
0
0.
1
7
8
0.
0
7
0
0.
1
1
1
0.
1
8
8
0.
1
3
7
0.
3
7
0
Uzbekistan
0.
2
9
0
0.
1
9
2
0.
2
8
6
0.
4
1
5
0.
4
2
1
0.
2
4
4
0.
1
5
7
0.
2
8
5
0.
1
4
6
0.
0
7
1
0.
1
0
7
0.
2
4
9
0.
1
7
4
0.
3
5
2
0.
2
2
4
0.
4
3
8
めに、ここではつぎの2つのデータ解析を試みる。
いうことになる。それは、これらの国ぐにはすべ
て、GNP/capita
($)の点ではマレーシアをはるか
( 1 )「幸福感」と「生活諸領域における 満 足
に凌いでいるにもかかわらず、「幸福感」の点で
感」と の 関 係 の 分 析:相 関 係 数(Pearson’s
はマレーシアのそれよりもかなり低いレベルにと
Correlation Coefficient)」による分析(第1回調
どまっているからである。こうして、このような
査データ)
「逸 事 例 脱」に つ い て 説 明 す る た め に は、
各国における幸福感との生活諸領域における満
Inglehart と同様、「文化的要因」という媒介変数
足感との関係については、表1に示したとおりで
を導入せざるをえなくなる。そして、この図2で
ある。
重要なポイントは、Inglehart の場合と違って、
この結果からするならば、
「幸福感」と「満足
「逸脱事例」が「逸脱事例」であることをすでに
感」との関係はそれほど単純なものではないとい
越えているというところにある。こうして、アジ
わなければならない。それは、つぎの2点から指
ア・バロメーター調査データの場合には、Sen の
摘できるであろう。
「幸福感も含めて Quality of Life といったものは、
①アジア・バロメーター調査では、
「幸福感」
GNP や所得などの経済的指標には還元しつくせ
についての質問は1項目であるが、生活諸領域に
ない」という指摘がより妥当性が高いといわなけ
おける「満足感」についての質問は16項目が利用
ればならないのである。
可能である。そこで、各国ごとに、これら16項目
と幸福感との相関係数の大きさを検討していくな
2.
「幸福感=感情的要素」対「満足感=認知的
要素」という概念枠組みの検証
らば、それが0.
3以上の「相関は高い」とされる
値――「一般に0.
6を越えると、“大変高い相関で
Andrews と Robinson は、「幸 福 感 は よ り 感 情
ある”という。0.
3を越えると、“かなり高い相関
的な要素を含み、満足感はより認知的な要素を含
である”という。それ以下の時に“低い相関であ
む」とする概念化にもとづいて、
「年齢が高くな
る”という。」(飽戸弘『社会調査ハンドブック』
るにつれて満足感は高くなるが、幸福感は低くな
日本経済新聞社、1987年)――を示している箇所
る」という Campbell,
が相対的に「多い国(日本)
」と「少ない国(タ
Converse と Rodgers の知
見に独自の解釈を加えた。
この特定領域的
(substantive)な理論の検証のた
イ、マ レ ー シ ア、ミ ャ ン マ ー、ベ ト ナ ム)」と
「中間の国(韓国、中国、インド、スリランカ、
―6
4―
社 会 学 部 紀 要 第1
0
0号
ウズベキスタン)
」の3つのタイプに分かれるこ
とがわかる。
③つぎに、生活諸領域別では、一貫した傾向が
指摘できるのは、「世帯収入」「健康」「生活水準」
②国ごとに「幸福感」との相関が高い生活領域
の3項目に対する満足感で、これらについては相
に違いがあることがわかる。たとえば、1つの端
関係数の符号はすべてマイナス――つまり「年齢
的な例は、
「結婚・家庭」と「生活水準・世帯収
が高くなるにつれて満足感は低くなる/年齢が低
入」である。つまり日本では、
「幸福感」と相関
くなるにつれて満足感は高くなる」――いう傾向
が最も高い項目は「結婚・家庭」であるが、両者
が見られる。これら3項目以外については、国ご
の相関はタイ,マレーシア、ミャンマー、イン
とにその傾向が異なる。
ド、スリランカ(そしてあえていえば、ウズベキ
④最後に、「幸福感」「満足感」といった主観的
スタン)では低い。そして後者の国ぐにでは、
な意識の項目に、さらに客観的な「昨年度の税込
「幸福感」と相関が相対的に高い項目は「住居」
み世帯収入の額」を加えて分析を試みた。その結
あ る い は/お よ び「生 活 水 準」「世 帯 収 入」と
果、その項目と「年齢」とがプラスの相関――そ
なっている。
の値は小さいものであるにしても――を示したの
さ て、上 述 の ① と ② の 知 見 か ら は、す ぐ に
は、わずかに日本、フィリピン、インドネシアの
cognitive-affective conceptual framework の有効
3か国だけであった。つまり、この3か国におい
性について答えることはできない。むしろ、ここ
ては、
「年齢が高くなるにつれて、実際の収入は高
では一般命題の成立に先立って、各国ごとのバリ
くなるが、それにもかかわらず、それに対する満
エーションに関するよりインテンシヴな記述と分
足感は低くなる」という傾向が見られたのである。
析を積み重ねていくことの必要性を提案しておか
さて、以上の諸知見から、
「満足感=認知的」
なければならない。それによって、アジアの多様
という概念化は必ずしも有効とはいえず、むしろ
性がさらに浮き彫りになってくると考えるからに
そこには「認知を踏まえた感情」あるいは「感情
ほかならない。
によって方向づけられた認知」とでもいうべき
「心の襞」を読み取ることができるように思われ
( 2 )年齢と「幸福感・満足感」との関係の分析:
るのである。このような「心の襞」の側面の発見
「相関係数(Pearson’s Correlation Coefficient)」
は、やはりアジア・バロメーター調査の貢献の1
による分析(第2回調査データ)
つといわなければならない。
こ こ で は、各 国 ご と に「年 齢(低→高))」と
「幸福感・満足感(低→高))」との相関係数を算
出して表2に示した。
表2から、少なくともつぎのような結果を読み
取ることができるであろう。
①ほとんどすべてのケースについて、相関係数
3.幸 福 感・満 足 感 の 客 観 的 指 標(objective
indicators)と 主 観 的 指 標(subjective
indicators)との関係の検証:中央値回帰分析
(Median Regression Analysis)による分析
(第2回調査データ)
の数値がきわめて小さいものにとどまっている。
McDowell と Newell は、「生活の質(quality of
それは、統計的な有意差が認められたケースにつ
life)を捉える客観的指標と主観的指標の関係は
いてさえそうであった。
必ずしも強いものとはいえない」として、どちら
②そのような小さな相関係数であるにもかかわ
の側面に基礎をおいて社会計画を進めるかという
らず、そこにあえて傾向といえるようなものを読
ことが、興味深い政治的な争点(political issue)
み取ろうとするならば、まず国別では、
「プラス
になりうることを示唆した。
の相関 の ケ ー ス が 多 い 国(イ ン ド ネ シ ア)
」と
この命題を検証するために、ここでは客観的指
「マイナスの相関のケースが多い国(日本、韓国、
標として「昨年度の税込み世帯収入の額」を、そ
ベ ト ナ ム、シ ン ガ ポ ー ル、カ ン ボ ジ ア、ラ オ
して主観的指標として「世帯収入に対する満足
ス)」と「両者の中間の国(フィリピン、タイ、
感」を取りあげる。そして、両者の関係を、それ
ミャンマー)」という3つのタイプが区別できる。
ぞれのレベルごとにより詳細に捉えるために、中
0.
0
5
5
V2
2 Q5―b Friendships
−0.
0
2
0
V2
8 Q5―h Job
0.
0
6
0
0.
0
2
6
0.
1
0
5**
0.
0
7
6*
0.
0
3
3
0.
0
0
8
0.
0
2
2
0.
0
8
0*
−0.
0
2
9
−0.
0
5
2
−0.
0
5
0
−0.
0
8
3
−0.
0
6
5
0.
0
2
6
−0.
0
1
6
−0.
0
1
1
0.
0
2
7
0.
0
3
3
0.
0
3
3
0.
0
5
1
−0.
0
2
3
0.
0
7
6*
0.
0
6
3
−0.
0
4
9
−0.
0
1
3
−0.
0
1
7
−0.
0
0
1
−0.
0
5
4
0.
0
3
6
0.
0
4
5
−0.
0
1
3
−0.
0
7
1
−0.
0
0
5
−0.
0
4
8
−0.
0
7
8* −0.
0
0
7
−0.
0
6
3
−0.
0
3
5
−0.
1
1
0**
−0.
0
3
3
0.
0
5
7
Vietnam
0.
0
1
5
0.
0
2
8
F8 What was the total gross annual income
1
0
5**
−0.
0
9
0*
0.
0
0
8*
0.
0
2
6 −0.
1
1
6** −0.
of your household last year?
Note: * p<0.
0
5
** p<0.
0
1
0.
0
6
8
0.
0
3
2
0.
0
2
4
0.
0
0
8
0.
1
7
8**
−0.
0
5
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−0.
0
2
9
−0.
0
4
1
―
0.
0
2
8
0.
0
1
4
0.
0
5
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0.
0
3
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−0.
0
5
5
−0.
0
2
1
−0.
0
2
0
−0.
0
4
3
―
―
0.
0
7
9*
0.
0
6
8
0.
1
1
6**
0.
0
2
2
0.
0
3
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1
1
5
−0.
0
4
7
0.
0
2
7
0.
0
0
3
0.
0
0
0
−0.
0
1
0
0.
0
0
0
0.
1
7
8** −0.
0
6
3
−0.
0
9
9** −0.
0
5
5
−0.
0
1
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0
0
2
0.
0
4
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−0.
0
4
1
0.
0
0
6
Laos
0.
0
9
8**
0.
0
4
6
―
0.
0
0
7
−0.
0
1
8
0.
0
3
2
−0.
0
4
8
−0.
0
9
3**
−0.
0
9
5** −0.
0
3
4
0
1
8
−0.
0
9
9** −0.
−0.
1
1
5** −0.
0
5
2
0.
0
1
6
−0.
0
5
7
0.
0
5
7
0.
0
1
5
0.
1
0
4** −0.
0
1
0
−0.
0
0
7
−0.
0
5
5
−0.
1
2
3** −0.
1
5
4**
−0.
0
9
4** −0.
0
6
0
−0.
0
4
8
−0.
0
2
7
−0.
0
6
2
−0.
0
2
3
−0
0
8
6*
Myanmar Cambodia
−0.
1
3
3** −0.
1
0
3** −0.
0
5
4
−0.
0
8
3* −0.
0
4
9
−0.
0
7
6* −0.
0
2
0
0.
0
7
1*
0.
0
4
0
−0.
1
3
9** −0.
0
3
1
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0
3
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0
0
5
0.
1
2
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0.
1
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0
0
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1
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0.
2
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0.
2
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0.
0
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0
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2* −0.
0
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0
5
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1
9
2** −0.
0
7
0* −0.
0
2
1
−0.
0
9
0* −0.
0
2
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0.
0
3
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0.
0
5
8
−0.
0
2
9
South Korea
−0.
0
7
5* −0.
0
2
5
−0.
0
0
9
−0.
0
0
7
Japan
0
1
9
−0.
1
4
3** −0.
0.
0
1
9
0.
0
5
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0.
0
1
1
0.
0
1
8
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0
2
6
0
7
8
−0.
1
5
2** −0.
0
6
1
−0.
1
1
2** −0.
−0.
0
4
1
0.
0
3
8
0.
0
3
1
0.
0
4
4
0.
0
1
3
0.
0
0
8
−0.
0
8
4* −0.
0
3
7* −0.
0
9
8** −0.
0
4
0
0.
0
1
8
V3
5 Q5―o Leisure
your
0.
0
9
2**
V3
4 Q5―n Family life
describe
0.
0
9
8**
V3
3 Q5―m The democratlc system
you
0.
0
3
5
V3
2 Q5―l Social welfare system
V3
6 Q6How would
standard of living?
0.
0
2
2
−0.
0
4
5
V3
1 Q5―k The condition of the anvironment
V3
0 Q5―j Public safety
0.
1
1
9**
−0.
0
8
4* −0.
0
3
6
V2
7 Q5―g Education
V2
9 Q5―i Neighbors
−0.
0
2
7
V2
6 Q5―f Health
−0.
0
0
5
−0.
0
3
3
V2
5 Q5―e Household income
0.
0
0
4
0.
0
6
1
0.
0
9
5*
0.
0
1
1
0.
0
5
0
0.
0
6
6
Indonesia Philippines Singapore Thailand
V2
4 Q5―d Standard of living
−0.
0
7
7
0.
0
3
3
V21 Q5Please tell me how satisfied or dissatisfied you
are with the following aspects of your life A. Housing
V2
3 Q5―c Marriage【if married】
0.
0
0
0
Malaysia
V2
0 Q4All things considered. would you say
that you are happy these days?
表2 年齢と「幸福感と満足感」との関係
―― Pearson’s Correlation Coefficients ――
March 2
0
0
6
―6
5―
―6
6―
社 会 学 部 紀 要 第1
0
0号
央値回帰分析を用いる。この分析法は、2変数間
and Studies of Japanese Society: From a Comparative
の関係が monotone であるか、それとも polytone
Perspective, Bonn: Bier’sche Verlangsanstalt, 2001
であるかを簡便に捉えるために Louis Guttman に
――を参照されたい。
よって開発されたものである。ところが Guttman
さて、分析の結果は、図3に示したとおりであ
は、この手法については、どこにも公表していな
る。これらの図で、横軸には客観的指標(低→
い。筆者は、1976年イスラエル応用社会調査研究
高)が、そして縦軸には主観的指標(低→高)が
所(The Israel Institute for Applied Social Research)
置かれている。したがって、それぞれの図で右上
において、その手法を Facet Analysis の一部とし
がりの線が描かれているならば、2変数間にはプ
て、Guttman から直接に学ぶことができた。その
ラスの関係が見られるということになる。ここで
後、筆 者 は、こ の 手 法 に Median
Regression
興味深いのは、だいたいにおいて、右上がりの関
Analysis という名称を付すと と も に、そ の コ ン
係のパターンが見られるものの、より詳細に見て
ピュータ・プログラムを専門家に委嘱して作成し
いくならば、そこにもいくつかの異なるパターン
た。この手法の詳細については拙著――真鍋一史
のあることがわかる。ただ、ここでの分析の目標
『社会・世論調査のデータ解析』慶應義塾大学出
からするならば、つぎの2つのパターンを区別し
版会、1993年、Kazufumi Manabe, Facet Theory
ておくだけで十分であろう。それは①2変数間に
図3 「昨年度の税込み世帯収入の額」と「世帯収入に対する満足感」との関係
―― Median Regression Analysis ――
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0
0
6
―6
7―
monotone の 関 係 が見 ら れ る 国(マ レ ー シ ア、
さて、アジア・バロメーター調査のデータを用
ミャンマー)と、②2変数間に部分的に polytone
いて、以上のような操作化の試みに取り組もうと
の関係 が 見 ら れ る 国(そ れ ら 以 外 の す べ て の
するならば、第1段階は質問諸項目の分類という
国)、の区別であり、①にくらべて、②に分類さ
作業である。いうまでもなく、この分析で取りあ
れる国が圧倒的に多いということである。そし
げるのは「幸福感と満足感」の諸項目である。す
て、その polytone の関係――具体的にいえば2
でにたびたび述べたように、
「幸福感」について
変数間の関係を示す回帰線が右上がりの直線とは
は一般的な質問の仕方がなされているのに対し
ならず、地震計の針が揺れるように、上下に揺れ
て、「満足感」については生活の諸領域に分けて
動いているというパターン――が①年収の低い層
質問が作成されている。そこで、これら諸領域を
と高い層の2つの部分において見られる国(日
「小さな幸福」に対応するものと、
「大きな幸福」
本、シンガポール、タイ、カンボジア、ラオス)
に対応するものに仮説的に分類してみる。その場
と、②年収の高い層の部分だけで見られる国(韓
合に採用するのが社会学の領域で古くから利用さ
国、ベトナム、インドネシア)に分けられる点も
れ て き た「自 己 か ら の 距 離(distance
興味深い。これらの点については、さらにそれぞ
self)」というアイディアである。質問諸項目のう
れの国の社会経済状況などと併せてより深く分析
ち、ほかの諸項目にくらべて、Public Safety, The
されなければならない。
Condition of the Environment, Social Welfare
from
いずれにしても、以上の分析から、McDowell
System, The Democratic System というのは、相
と Newell の命題――「生活の質を捉える客観的
対的に「自己からの距離」が大きな項目であると
指標と主観的指標の関係は必ずしも強いものでは
いえよう。そこで、これらの諸項目をひとまず仮
ない」――はひとまずは検証されたものといえよ
説的に「大きな幸福」に対応する諸変数――「大
う。しかし、ここでも国ごとの事情が大きくかか
きな幸福」という概念化に対応する操作的変数―
わってくることが示唆されたので、さらにこの点
―とするとともに、それら以外の諸項目を「小さ
を考慮に入れた理論化の方向の模索が今後に残さ
な幸福」に対応する諸変数としておきたい。
れたきわめて重要な課題の1つといわなければな
らないのである。
つぎに、では、以上のような仮説的な分類の結
果を検証するためには、どのような「データ解
析」の技法が適切であるかが問われなければなら
4.「小さな幸福」対「大きな幸福」とういう概
ない。ここで は「因 子 分 析(Factor
Analysis)」
念 枠 組 み の 検 証:因 子 分 析(Factor
の方法を採用する。こうして、各国ごとに「因子
Analysis)による分析(第2回調査データ)
分析」を行ない、それらの結果をひとまとめにし
青木保による「小さな幸福」と「大きな幸福」
という概念的区別が、アジア・バロメーター調査
て示したのが図4である。
この結果から、多くの国で、
「大きな幸福」に
のデータを用いて、操作的区別にもなりうるかど
対応する諸変数であると考えた Public
うかを検討するというのが、ここでの課題であ
Environment, Social Welfare, Democracy の4項
る。それは、換言するならば、青木保が行なった
目が、まとめて1つの独立した因子として出てく
「小さな幸福」と「大きな幸福」という概念化を、
ることがわかった。ただ、タイ、ベトナム、ミャ
さらに操作化する試みということもできよう。
Safety,
ンマーでは、それらが独立した因子としてではな
E. Babbie は、概念化と操作化について、つぎ
く、それ以外のほかの変数――たとえば Friends,
のように説明している。
「概念化というのは抽象
Neighbors, Leisure――とともに1つの因子を構成
的な概念を精緻化し、明確化することであり、操
するという結果になっている。こうして、ここで
作化とはこうした概念を実世界で経験的に観察す
も青木保の概念枠組みは、アジア・バロメーター
るために特定の調査方法(操作)を展開すること
調査を用いて、ほぼ検証されたといえるのである
である」(The Practice of Social Research, 9th ed.,
が、同時に、やはり国ごとの事情を踏まえたより
Belmont: Wadsworth/Thomson Learning,2001)。
深い分析が今後の課題として残されるということ
―6
8―
社 会 学 部 紀 要 第1
0
0号
1
2
3
4
Japan
Happy
Housing
Marriage
Family
Friendship
Neighbors
Health
Education
Job
Leisure
Public safety
Environment
Social welfare
Democracy
Standard of living(S)
Household income
Standard of living(o)
Singapore
Happy
Standard of living(S)
Household income
Standard of living(o)
Health
Education
Job
Leisure
Housing
Marriage
Family
Friendship
Neighbors
Public safety
Environment
Social welfare
Democracy
South Korea
Happy
Housing
Standard of living(S)
Household income
Standard of living(o)
Education
Job
Leisure
Marriage
Family
Friendship
Neighbors
Health
Public safety
Environment
Social welfare
Democracy
Malaysia
Standard of living(S)
Household income
Health
Education
Job
Public safety
Environment
Social welfare
Democracy
Marriage
Family
Friendship
Neighbors
Leisure
Happy
Housing
Standard of living(S)
Thailand
Happy
Housing
Standard of living(S)
Household income
Standard of living(o)
Job
Friendship
Neighbors
Public safety
Environment
Social welfare
Democracy
Marriage
Family
Leisure
Health
Education
Philippines
Happy
Housing
Standard of living(S)
Household income
Standard of living(o)
Education
Job
Public safety
Environment
Social welfare
Democracy
Marriage
Family
Friendship
Neighbors
Leisure
Health
Indonesia
Happy
Housing
Standard of living(S)
Household income
Standard of living(o)
Education
Job
Public safety
Environment
Social welfare
Democracy
Marriage
Family
Friendship
Neighbors
Health
Laos
Standard of living(S)
Household income
Education
Job
Health
Family
Leisure
Public safety
Environment
Social welfare
Marriage
Friendship
Neighbors
Vietnam
Standard of living(S)
Household income
Standard of living(o)
Health
Education
Job
Public safety
Environment
Social welfare
Leisure
Happy
Marriage
Family
Neighbors
Housing
Friendship
Cambodia
Public safety
Environment
Social welfare
Democracy
Education
Job
Family
Leisure
Happy
Housing
Standard of living(S)
Household income
Standard of living(o)
Marriage
Friendship
Neighbors
Myanmar
Happy
Housing
Standard of living(S)
Household income
Standard of living(o)
Friendship
Neighbors
Public safety
Environment
Marriage
Family
Leisure
Health
Education
Job
図4 「幸福感と満足感」の諸項目の「因子分析」
5
Happy
Housing
Standard of living(o)
March 2
0
0
6
も否定できないのである。
―6
9―
分のあることがわかってきた。その具体的な内容
について繰り返して述べる必要はないであろう。
!.おわりに
ここで重要なポイントは、命題がそのままの形で
当てはまらなかった部分については、すでに指摘
この小論では、
「幸福感と満足感」に関する諸
してきたように、それぞれの国の「社会・経済的
理論を、アジア・バロメーター調査のデータを用
要因」と「文化的要因」が深くかかわっているで
いて検証する試みについて報告してきた。このよ
あろうということである。では、それらのかかわ
うなデータ解析の背後には、そのための特別の問
り合いのメカニズムは、いかにして検証されるで
題関心があった。
あろうか。
それは、一方で欧米社会を中心になされてきた
つぎに後者の問題関心は、じつはこの前者の側
観察や調査にもとづく先行研究の諸命題が、アジ
面と複雑にからまり合っている。幸福と満足の
ア社会に焦点を合わせたアジア・バロメーター調
「意味」の文化差については、すでにさまざまな
査においても確認できるであろうかという関心で
仮説が展開されてきている。今回のデータ解析か
あり、他方でこれまでの欧米中心の調査データ
らも、そのような諸仮説と関連するいくつかの重
と、今回のアジア・バロメーターの調査データと
要な示唆がえられた。では、それら諸仮説は、い
の比較 を と お し て、
「幸 福 と 満 足」と い う 概 念
かにして検証されるであろうか。
が、国を越えて「等価(equivalent)」なものとい
えるであろうかという関心であった。
さて、まず前者の問題関心については、以上の
データ解析の試みをとおして、先行研究の諸命題
がそれぞれ当てはまる部分と、当てはまらない部
以上の2つの research
question に、国際比較
の視座に立つ survey data の解析をとおして、い
かに取り組んでいくかが、今後の最大の課題であ
るといえよう。
―7
0―
社 会 学 部 紀 要 第1
0
0号
The Culture of Happiness and Satisfaction in Asia:
Data analysis of the AsiaBarometer surveys
ABSTRACT
The AsiaBarometer is a questionnaire survey conducted at regular intervals that covers
the Asia region. It was first conducted in 2003, and secondly in 2004.
The first section of this paper deals with the methodological advantages of the
AsiaBarometer survey as a large scale cross-national comparative survey.
1. Research projects that have gained global attention include Euro Barometer, European
Values Studies, International Social Survey Programme, World Values Survey, and so on.
These surveys mainly focus on the countries of Europe and North America. This makes the
AsiaBarometer, which focuses on the countries of Asia, all the more important.
2. A cross-national survey encourages the reinvestigation and clarification of concepts
(variables). The AsiaBarometer survey enables us to reexamine and clarify important social
concepts such as “happiness” and “satisfaction”.
The second section presents exploratory data analyses of the AsiaBarometer survey.
Examples of the analyses are as follows:
1. Testing the determining factors for Happiness/Satisfaction.
2. Testing the conceptual framework of “Happiness Is Affective” while “Satisfaction Is
Cognitive.”
3. Testing the relationship between the objective and subjective indicators of Happiness/
Satisfaction.
4. Testing the conceptual framework of “Small Happiness” versus “Great Happiness.”
These analyses show that some theories/propositions from previous studies are
applicable in Asia, whereas others are not. The important point to be taken from the
analyses is that the “socioeconomic factors” and “cultural factors” in each country may
account for those cases in which theories/propositions were not supported by the Asian
data.
Key Words : AsiaBarometer, happiness, satisfaction
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