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浅羽通明☆辻説法 ヤバい日本を語る第二回
浅羽通明辻説法★ヤバい現在を語れっ! 第二回
軍事思想史から観た「風立ちぬ」
(宮崎駿監督)の近代
設問ひとつ
最後の夢のシーンで、
カプローニ伯爵は堀越二郎へ、
「国を滅ぼしてしまったんだからな…」
という。
このセリフは、よく考えるとおかしくないか?
陸海軍だけの時代には考えられなかった、銃後中枢への直接攻撃作戦
☞ 航空機の出現で可能となった!
開戦と同時に爆撃機大編隊で敵国首都を強襲し、爆弾の雨を降らせて殲滅、戦意を喪失させ
終結を図る
後進国ヘタリアならでは?の新兵器への期待
cf.毛沢東の核ミサイル一点豪華主義
最初に空爆を行ったのは、1911 対トルコ戦争でのイタリアのリビア攻撃
ツェッペリン飛行船の時代を経て、一次大戦中には空爆は定着
その後の航空戦史とドゥーエ理論
1.プロの「おたく」たちならではの慧眼が捉えた「風立ちぬ」
⇔ 戦争協力への葛藤が描かれない etc.
⇔ たまたま激動の昭和に生まれ合わせた、飛行機を何より愛する一人の日本人を描こうとした。当
時の日本人はそれぞれの持ち場で精いっぱい戦った(産経抄 20130815)ほか、
町山智浩「映画 風立ちぬ 評価 「あのシーン,人物,声優の意味」 」
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=S8LBzoSx43
岡田斗司夫「
【レポート】
『風立ちぬ』は宮崎駿の作家性が強い「残酷で恐ろしくて美しい映画」
」
http://blog.freeex.jp/archives/51395088.html
他人の声など目にはいらず好きなものしか目にはいらない「おたく」を描いた映画
すぐ妄想へ入ってしまう主人公は、宮崎監督自身であり声優庵野秀明自身である
だから宮崎駿は自作を見てはじめて泣いた(?)
― 町山智浩
ピラミッドのある世界をない世界よりもよしとするロマンティズムの非人間性
生活感の女性お絹ではなく、菜穂子と結婚し、美しく死なせた彼女に「あなた、生きて」といわせ
る男のワガママな夢
2.戦略爆撃の思想を生み出したイタリア軍人ドゥーエ
冒頭の少年堀越二郎の夢
鳥形飛行機の自在な飛翔を妨げるものは?
☞ 爆弾を無数につりさげたツェッペリン飛行船だった
カプローニ伯爵は、堀越少年の夢で何という?
1913
1917
1921
1930
戦略爆撃を重視しなかった枢軸国
戦略爆撃を実行した空の帝国アメリカ
ゲルニカ、重慶への空爆
V1V2 ロケットなど
空の要塞 B17 空の超要塞 B29
ドレスデン、東京、広島、長崎 etc.
3.「風立ちぬ」から読みとる「戦闘機 vs 爆撃機」の二項対立
堀越二郎の夢
vs カプローニ伯爵の夢 = 美しい飛行機 vs 壮麗な飛行機(ローマ帝国)
堀越二郎(天才)の仕事 vs 本庄季郎(常識人)の仕事= 零式戦闘機 vs 一式陸攻(爆撃機)
堀越の爆撃機嫌い
カプローニの「爆撃機」への複雑な表情 「愕然と見送る」と絵コンテに…
ユンカース工場でのセリフ「翼に展望室がある。爆撃機にするのは惜しいよ」
そして G-38 よりむしろ小型機 F13 を観察しようとする堀越
YS-11 へ
本庄の9試陸攻、96 陸攻のチャイナ空爆シーンと撃墜シーン
戦闘機同士の空中戦がノーブルだった一次大戦 vs 戦略爆撃は物量と大衆の時代とそぐう
ex.リヒトホーヘン男爵(レッド・バロン)
、ダンヌンチオ、
松本零士の戦争ロマンティズム 「成層圏気流」 『ザ・コックピット4』収録
戦略爆撃(核兵器)の時代を到来させまいと自爆してゆく騎士的戦闘機乗りの物語
孤高の英雄を活かす貴族的戦いのロマンが、空爆の時代を拒否する構図
cf.ロジェ・カイヨワ『戦争論』へ
☞ 通俗的に指摘される宮崎駿の矛盾:戦争「おたく」兵器「おたく」でかつ反戦平和主義者
これを解く鍵がここにはないか?
「敵の街を焼きにゆく」
カプロニ社の三百型機生産工場監督、ジュリオ・ドゥーエ少佐
戦略思想史の残る著『制空』
ドゥーエ、少将で退役。制空に理解を示すムッソリーニに共鳴していたといわれる
ドゥーエ没す
☞ 「紅の豚」
、マンガ段階では、堀越二郎もブタだった。
ポルコ・ロッソは戦闘機乗り、個人主義アナキスト vs 最大の敵はイタリア空軍爆撃機
4.軽井沢と結核とロマンティックラヴ ー 戦闘機の短い近代
戦略爆撃の思想とは何か?
堀辰雄の「風立ちぬ」=真の婚約の物語と真の新婚の物語
cf.『堀辰雄』ちくま日本文学全集解説(池内紀)
メリカのドゥーエというべきビリー・ミッチェルの悲運なども興味深い。ゲーリー・クーパー主演
「軍法会議」という映画まで作られているのはびっくり。
生活としての結婚が排除された世界 ロマンティックラヴの完成
➜ 「非日常」 近代
⇔ 女中のお絹、妹佳代、本庄季郎の結婚(絶対矛盾の自己同一)
、
➜ 「生活」 前近代
戦略爆撃と核の平和、消費する時のみ自由な大衆の時代の恋愛に似たもの ➜ 「日常」 脱近代
『軍事思想史入門 近代西洋と中国』
浅野祐吉
原書房
☞ 軍事思想は日本ではきわめてマイナーな知であり、一般向け書自体が少ない。たまにあっても、
専門用語とデータの洪水が日本語になってない文章交えて全編埋めているごとき代物がほとんどだ。
その中で、この一冊はまだ読める。ドゥーエについても1頁だが要を得た記述がある。序文「文化
史としての軍事思想」を三浦朱門が書いているのも奇観だ。
職人が技術の前線を担えた時代…
計算尺
硫黄マッチ
蒸気機関車と一銭蒸気
煙草 ⇒ 仕組みが身体的にわかる技術
そうした時代が生んだアニメ監督の最後の人、宮崎駿
近代的ロマンティックラヴが、婚約と新婚の先まで継続する条件
⇒ 「生活」を支えてくれる使用人の存在
⇒ 妻が自分専用の恒産を所有する(持参金)
伊藤整「近代日本における「愛」の虚偽」
(
『近代日本人の発想の諸形式』 岩波文庫)
☞ この条件がない日本では、ロマンティックラヴは死に縁どられるほかない
5.国を滅ぼした美的兵器への夢
重慶爆撃、真珠湾攻撃、マレー沖海戦という先駆的事例を創った日本軍が、なぜ戦略爆撃を展開で
きなかったのか?
☞ 大都市中央集権型でない前近代的アジア国家、中華民国が相手だった。
☞ 近代国家アメリカの首都ワシントン、ニューヨークはあまりにも遠かった。ドゥーエ理論は無理
超巨大爆撃機「富嶽」の幻…9・11へ
松本零士「富嶽のいたところ」
(
『ザ・コクピット』
)
「あの半分も戻って来まい」 (カプローニ伯爵が自分の爆撃機について)
「一機も戻って来ませんでした」
(堀越二郎が自分の零式戦闘機について)
➽ 堀越二郎のゼロ戦は、大量生産におよそ不向きだった
⇔本庄季郎のは大量生産向き
読書ガイド
『ドゥーエ』 戦略論大系⑥
戦略研究会編集
瀬井勝公編著
芙蓉書房出版
☞ あの『失敗の本質』の杉之尾宜生、村井友秀らも参加した戦後日本的には画期的なシリーズ。第
一期は、
①孫子 ②クラウゼヴィッツ ③モルトケ ④リデル・ハート ⑤マハン ⑥ドゥーエ ⑦
毛沢東である。現在、石原莞爾などの巻を含む二期まで刊行されている。二期最終巻はマキャベリ
であった。巻によってはまるで日本語として読めない翻訳もあるので注意。
『空の帝国アメリカの 20 世紀 興亡の世界史』 生井英孝
講談社
☞ 戦略爆撃の思想を実践して20世紀の覇者となったのがアメリカ帝国だった。思えば、ライト兄
弟もリンドバーグもアメリカ人である。ドゥーエの思想的影響についても章が設けられている。ア
『戦略論の名著』
野中郁次郎編著
中公新書
☞ ようやくこういうの出ました。
「戦略論大系」編著者らによるダイジェスト新書版。孫子、マキ
ャベリ、クラウゼヴィッツ、マハン、毛沢東、石原莞爾、リデル・ハート etc.ただしドゥーエには
触れられないのが残念。その代り、ノックス&マーレー『軍事革命と RMA の戦後史』とかドールマ
ンの『アストロポリティーク』とか、サイバー、宇宙、テロなど最新の理論紹介が貴重。
『ザ・コクピット』1~6
松本零士
小学館文庫
☞ 二次大戦中のドイツ軍や日本軍を舞台として、騎士道や武士道を描こうとする零士架空戦記は、
公共的な反戦ではなく私的趣味的な好戦こそが、国家や資本のための戦争を突き破ってゆくという
奇妙な逆説を描き興味深い。ドイツではエルンスト・ユンガー、日本では保田與重郎が、熱すぎる
手前勝手な戦争賛美者として、ナチスや軍部に厭われた史実がある。
『近代日本人の発想の諸形式』
伊藤整
岩波文庫
☞ やたらタイトルが固いし、内容も難解だが、なかなか身もふたもないことを指摘していて辛辣。
マルクス主義者ではなかったが、小林多喜二の後輩だった伊藤は、経済的下部構造から、作家や文
学についていう真摯とか誠実とかの欺瞞を撃つ。岩波文庫緑には『文学の認識』
『文学の方法』があ
るが、講談社文芸文庫『文学入門』が多少、読みやすい。
『半藤一利と宮崎駿の腰ぬけ愛国談義』
文春ジブリ文庫
☞ 対談ゆえの散漫さはあるものの、何とも豊饒なネタの宝庫。宮崎駿の兵器についての薀蓄の深さ
が、歴史や戦争や人生についての彼の思想と骨がらみとなっているのが読みとれる。二人が、堀辰
雄や漱石を語る部分もおもしろい。監督は大好きな「草枕」は自分のアニメ技術では映像化無理と
語る。宮崎版漱石ならば「夢十夜」が観たい。
「千千尋」
「紅の豚」のあのブタを大群で…。
『スタジオジブリ絵コンテ全集 19 風立ちぬ』
徳間書店
☞ 「風立ちぬ」分析の必須一次資料。デテール一つ一つにつけられた監督のコメントには唸らされ
るばかり。ただ 622 頁の「セリフの主な変更・追加リスト」で完成作品と絵コンテとの相違点を羅
列した表で、シーン 1423 の「カストルプ」とあるのは明らかに「カプローニ」だろう。ラストの
草原にカストルプなんかいない。何でこんな根本的ミスをした? 何故だ? 何故だ?
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