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動物性集合胚の取扱いに関する作業部会における意見等

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動物性集合胚の取扱いに関する作業部会における意見等
資料1
動物性集合胚の取扱いに関する作業部会における意見等について
1.動物胚の取扱い技術
○動物胚の取扱い技術の現状
現状
〈第 1 回〉
胚盤胞補完法によりマウス・ラットでキメラ動物が作成された実績があり、異種間で
のキメラ動物の作成はある程度成功している。
ヒツジ・ヤギのキメラ動物も作成されている。
ブタ、ウサギなどでは、品種間のキメラ動物も作成されている。
〈第2回〉
1997 年、アメリカでアカゲザルの胚をばらばらにした割球を他の未受精卵と融合して
個体を産生した報告がある。
2001 年、アメリカ、中国で GFP を発現するアカゲザルが作成された。
2007 年、アメリカでアカゲザルの体細胞クローンから ES 細胞は樹立された。
霊長類は、体細胞核移植によって胚盤胞までは発生できるが、個体発生(体細胞クロ
ーンの作出)までは至っていない。
2008 年、アメリカでハンチントン舞踏病の原因遺伝子を導入したサルが産まれたとい
う報告がある。
2009 年、アメリカでミトコンドリア病の研究のため、アカゲザルの未受精卵について
核を置換して受精胚をつくり、個体を産生することに成功。
2009 年、日本で GFP を発現するマーモセットの個体が産まれた。
2012 年、アメリカで胚盤胞になる前のアカゲザルの初期胚を用いた同種キメラ胚から
キメラ個体を得た報告がある。
コメント
〈第 1 回〉
異種キメラの作成には、妊娠期間が近い種を用いるなどの工夫が必要で、発生サイク
ルが似たもの同士でないと成功しない可能性がある。
○動物胚の性質(妊娠期間を含む)
現状
〈第 1 回〉
マウスの妊娠期間は 20 日、ラットの妊娠期間は 23 日。
ウサギの妊娠期間は約 30 日と短く多産。
ブタの妊娠期間は約 114 日。
1
ブタ胚を in vitro で扱える期間は7日間程度が限界。
マーモセットの妊娠期間は 145 日、1 回の出産で2~3匹出産。
ヒト(約 270 日)と牛(約 280 日)の妊娠期間は比較的近い。
2.動物性集合胚を用いたヒト多能性幹細胞の多能性の検証
○ヒト ES(iPS)細胞の多能性の検証の現状
現状
〈第1回〉
げっ歯類以外の種からは、ナイーブ型の ES 細胞や iPS 細胞は樹立されておらず、現在
ある ES 細胞等はプライム型(少し分化が進んだ状態。)のみである。
ヒト ES 細胞をニワトリ胚やマウス胚に移植した研究では、マイクロキメラ(胚の一部
にヒト ES 細胞がある状態)を形成することに成功している。
最近(2010 年、2013 年)では、ヒト ES 細胞をナイーブ型に変換する報告がある。2013
年の報告では、ナイーブ型に変換したヒト ES 細胞をマウス胚に移植し、キメラ形成能
を観察している。
マウス胚へのサル ES 細胞を導入した報告がある。
○動物性集合胚を用いる必要性
コメント
〈第1回〉
in vitro で動物性集合胚を発生させたとしても、導入したヒト細胞が臓器形成に寄与
するか分からないため、胎内に着床させ、発生した胎仔の体の中でヒト細胞の分化を
観察する意味がある。
ヒトの幹細胞を導入したマウス胚をマウス胎内に着床させた場合、8.5 日胚で生殖細胞
系列の細胞が見え始めることが予想されることなど、段階的にヒト幹細胞の分化の様
子を観察することができる。
○他の方法との比較
3.動物性集合胚を用いた疾患モデル動物の作成
○動物性集合胚を用いる必要性
コメント
〈第1回〉
ヒト臓器を持つ動物は、薬物動態を調べるための薬理モデルとしての展開が考えられ
る。
サルを用いることで精神神経疾患モデルとしての有用性も考えられる。
〈第2回〉
2
疾患モデル研究を行うにしても、まずはヒト疾患を再現するような遺伝子改変動物を
用いた解析を行うのが重要であり、動物性集合胚を用いたヒト疾患モデルの作成は次
の議論ではないか。
4.動物性集合胚を用いたヒト臓器作成
コメント
〈第 1 回、第2回〉
ヒトの臓器の大きさという観点では、ブタを用いるのが有用ではないか。
〈第2回〉
動物性集合胚を用いることにより組織の立体構造を構築させるということは、アプロ
ーチの仕方として有用ではないか。
動物性集合胚を用いれば、ヒト化した臓器を多くつくることができ、よりヒトに近い
モデルを作成することが可能ではないか。
腸管のような大きな器官を個体への細胞移入によって元の器官と置き換えることは困
難ではないか。
5.ヒト細胞の分化制御技術
○ヒト組織・臓器・細胞の作成
コメント
〈第 1 回〉
現時点では、実際に臓器まで作成できる能力を持つヒト ES 細胞や iPS 細胞は樹立され
ているかどうか分からない。
げっ歯類以外からは、ナイーブ型の ES 細胞や iPS 細胞は樹立されておらず、現在ある
ES 細胞等はプライム型(少し分化が進んだ状態。
)のみである。
(再掲)
ヒト臓器の作成まで考慮するとなると、現状ではハードルが高い。
○ヒト ES(iPS)細胞の分化制御技術の現状
現状
〈第1回〉
マウス体内でラット由来の膵臓を作成する目的でキメラを作成した論文(Cell 2010)
においても、ラットの細胞はマウスの全身に寄与しており、膵臓の細胞のみに分化さ
せることは成功していない。
〈第2回〉
マーモセットの ES 細胞や iPS 細胞は、免疫不全マウスの個体の中で三胚葉のいずれに
も分化するが、マーモセットの胚盤胞へ導入しても同種キメラ個体を形成しない。
コメント
3
〈第1回〉
現在、高い分化能を持つ ES(iPS)細胞の作成を目指して研究を行っている段階であり、
分化を制御する方向で研究を行っている研究者はまだいないのではないか。
ヒト ES(iPS)細胞の分化を制御することは現状では不可能ではないか。
○特定の細胞(生殖細胞、脳神経細胞等)への分化を制御する技術
現状
〈第1回、第2回〉
プライム型の幹細胞である EpiSC(エピブラスト幹細胞)に E-カドヘリンを過剰発現
させて胚盤胞に移植して同種キメラマウスを作成した場合、EpiSC は全身に寄与したも
のの生殖細胞には分化しなかったという報告がある。
コメント
〈第1回〉
高い分化能を持つ細胞は、同時に生殖細胞等にも分化しやすく、制御も困難になるこ
とを意味する。
上記の他、総合科学技術会議生命倫理専門調査会における意見等を整理・作成したものを添付
(添付資料)。
6.動物性集合胚研究に用いる動物
○研究に有用と考えられる動物種
現状
〈第1回〉
ウサギはヒトと同じくプライム型の幹細胞しかできてないが、繁殖や飼育の面で、マ
ウスやラットに次いで利用しやすい。
コメント
〈第1回、第2回〉
ヒトの臓器の大きさという観点では、ブタを用いるのが有用ではないか。
(再掲)
○霊長類を研究利用することの科学的有用性
現状
〈第2回〉
マーモセットは危険な人獣共通感染症の報告がない。
サルを用いれば、異種移植片への免疫応答についてどのようなことが起きるかより事
前に明らかにできる。
マーモセットは、①ヒトに近縁であり生物学的に似ていること、②他のサルと比較し
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て、繁殖効率がよく、小型で飼育が容易であり、実験動物用としての取扱いが確立し
ていることが用いる利点。
コメント
〈第2回〉
マウスと霊長類では、系統学的な差があるため、マウスの実験では有効でもヒトでは
同じようにいかない場合もあり、創薬研究や新規治療法の開発では、よりヒトに近い
サルを用いて安全性や有効性を検討する必要がある。
サルの体内にヒトの臓器と同等の大きさの臓器を作成することは難しいので、移植可
能な臓器を作成する目的で霊長類の胚にヒトの細胞を入れることは科学的意義がない
のではないか。
サルの細胞をブタの胚に導入することや、サル同士でキメラ個体を作成するという実
験は重要。
ヒト神経幹細胞を疾患サルの中脳や脊髄に移植し、治療効果をみる研究がすでに行わ
れている。本研究のように、ヒトらしさを司っている大脳皮質への移植を行わなけれ
ば、脳の中でヒト-サルキメラになることはそれほど心配しなくてよいのではないか。
7.動物性集合胚を用いないヒト臓器作成
○ヒト臓器作成に関する研究状況
現状
〈第1回〉
免疫不全マウスの胎仔にヒトの細胞を導入することで、臓器をヒト由来細胞に置き換
える研究は行われている。
〈第2回〉
免疫不全マウスにヒトの造血幹細胞を移植することで、マウスの体内にヒトが持つ免
疫系を構築することができる。
ヒト肝細胞をマウス体内の肝臓に移植・置換することで、ヒト細胞からなる肝臓を持
つマウスが作成されており、ヒト型の薬物代謝や感染症のモデル動物として使用され
ている。
コメント
〈第1回〉
体外での分化誘導で立体網膜組織を作成することに成功している研究機関があるが、
それが個体の中で機能するかどうかは分からない。
〈第2回〉
ヒトの生体の肝臓は約 1.5kg であるのに対し、マウスの肝臓は1~2g ほどであるため、
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免疫不全マウスの中に生成したヒト細胞由来肝臓を、臨床応用に用いることは困難で
ある。
8.その他
○感染症など安全上の課題
○動物性集合胚由来細胞の人への臨床応用上の技術的課題
コメント
〈第1回〉
ヒト細胞からなる臓器を動物の体内で作成し、患者へ移植することは、現在の技術水
準ではまだ課題が多いため、細かな検討を行う段階ではないのではないか。
○動物胎内でのヒト臓器作成以外に有用性が考えられる動物性集合胚の利用について
コメント
〈第1回〉
動物性集合胚を利用することで、ヒトの肝細胞など、培養条件下(in vitro)では増
殖しにくい細胞を大量に採取できる可能性がある。
※〈第 1 回〉:平成 25 年 12 月 12 日開催、
〈第2回〉:平成 26 年 1 月 21 日開催
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添付資料
総合科学技術会議生命倫理専門調査会における意見等
野瀬俊明特任教授(慶應義塾大学先導研究センター)
(第 75 回生命倫理専門調査会 2013 年 9 月 20 日)
○ 日本におけるヒト iPS 細胞由来の生殖細胞の進捗状況は、1 年ほど前から顕著な進展はないと考
える。
○ ヒトの人工配偶子について最も先駆的な仕事をしているグループは、米国のスタンフォード大
のグループ。ヒトの iPS/ES 細胞にある遺伝子を人為的に導入し、移植措置無しに、精子細胞
(精子の一歩前の形をした細胞)に分化させた(Panula et al. Human. Mol. Genetics, 2011)
。
その他、シェフィールド大(英国、2009 年)
、ピッツバーグ大(米国、2012 年)の報告がある。
○ マウスの ES 細胞は、胚盤胞キメラ、キメラ個体を作る能力を持つが、霊長類の ES 細胞/iPS
細胞では胚盤胞キメラの形成能が証明された例はない。一方、生殖系列への分化能の点では、
霊長類の方がマウスより高い傾向にある。
○ 生殖細胞の作成研究では、生体内への移植操作の過程が必要である。しかしながら、ヒト生殖
細胞の動物への生体移植には倫理的課題の検討がいるかもしれない。
○ マウスの ES 細胞/iPS 細胞から生殖細胞を作成し、卵をつくって、マウスの産仔を作った報告
があるが、必ずしも正常なものばかりではなかった。生体由来の生殖細胞では 8 割~9 割成功し
たが、人工的なものは 6 割~7 割しか発生しなかった。ここにどのような異常があったかは今後
の検討課題と言える。
小川毅彦教授(横浜市立大学医学群分子生命医科学系列)
(第 76 回生命倫理専門調査会 2013 年 10 月 18 日)
○ 男性不妊症の診断・治療法の開発(精子形成障害の治療、精子産生機能低下の改善)には、体
外でのヒト精子形成実験系が必要と考えられる。そのためには体外での培養法を検討する必要
があるが、細胞培養より器官培養が有利と考える。
○ マウスから取り出した精巣の組織片を、FBS(牛胎仔血清)で培養することではうまくいかない
が、KSR(Knockout Serum Replacement)又は AlbuMAX を使用し培養(器官培養)すると、in vitro
で、その組織のなかで精子形成まで誘導できる。それを顕微授精し正常な産児が得られる。ま
た、これらは成長して自然交配で次世代も作られており、その結果から生殖能力も正常である
と確認できている。
(Ogawa, 2011)
○ ヒト等のマウス以外の動物の組織で、同様の精子形成はできていない。
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○ 幼若なマウスの未熟な精巣を使用した当該培養はうまくいくが、大人になった、成長したマウ
スの精巣組織の当該培養は一応できるが、非常に効率は悪い。
○ マウスでは、2003 年に分離した精子幹細胞の増殖法が開発されたが、ヒトではまだ開発できて
いないと思われる。
小倉淳郎室長(理化学研究所バイオリソースセンター)
(第 77 回生命倫理専門調査会 2013 年 11 月 27 日)
○ 体外で配偶子を作出する技術はマウスで最も進んでいるが、雌雄生殖細胞ともいまだに減数分
裂を完全に体外で進める技術は確立していない。
○ マウスでは同所あるいは異所的体内環境を利用することで始原生殖細胞から完全な配偶子の作
成に成功している。ヒトは異所の環境を使う場合、同種あるいは近縁の体細胞(支持細胞)が
必要になると予想される。
斎藤通紀教授(京都大学大学院医学研究科)
(第 77 回生命倫理専門調査会 2013 年 11 月 27 日)
○ マウスの ES・iPS 細胞からエピブラスト様細胞を作り、それから PGC 様細胞(始原生殖細胞様
細胞)を作る。これをマウスの精巣に移植すると精子になる。これを使い顕微授精によって健
常な産仔が生まれる。
○ 雌のマウスの ES 細胞から PGC 様細胞を作る。これと卵巣の体細胞から凝集塊をつくり、培養し
再構成卵巣を作って卵巣に移植すると卵母細胞になって、試験管内成熟、体外受精で健常な産
仔になる。
○ 日本国内や海外で開発されたさまざまな技術を組み合わせれば、少なくともマウスにおいては
体細胞から機能を持った卵子や精子ができるということも不可能ではないと予想される。
○ ヒトの場合は多能性幹細胞から PGC 様細胞を誘導する際の道筋が乏しい(ヒトでは生体内での
過程を研究できないこと、ヒトでは移植により機能評価することができないこと)
。このため、
マウス、ラット以外の、よりヒトに近い動物種(霊長類等)での研究が必要と考えている。
○ 多能性幹細胞(ES・iPS 細胞)から生殖細胞を作成する研究は、潜在的に大量の生殖細胞作成を
可能とし、生殖細胞の基礎研究を大きく促進する。これは他の生命科学領域に様々な波及効果
を及ぼしうる。
第 79 回生命倫理専門調査会(平成 26 年1月 31 日)資料4(生命倫理専門調査会における主な議論)等
を基に、文部科学省において整理して、作成したもの。
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