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腫瘍固有抗原ペプチドとT細胞認識

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腫瘍固有抗原ペプチドとT細胞認識
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日皮会誌:107巻13号(平成9年12月臨時増刊号)
p.1567∼1570
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腫瘍固有抗原ペプチドとT細胞認識
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中山容一
現在までに明らかにされているT細胞認識腫瘍抗原
認められるこのような移植(拒絶)抗原を固有抗原
ペプチドのうち,固有抗原のカテゴリーに属する抗原
(individually distinct antigenあるいはunique
について述べる。重要なことは,腫瘍固有抗原蛋白が
antigen)と呼ぶ。その後,固有抗原は,マウスメチル
腫瘍の悪性化の原因となっていることである。悪性形
コラントン腫瘍の他に種々の動物種の種々の組織型の
質の維持に必須の変異癌遺伝子に由来する変化は,選
腫瘍にも見出されるようになった。このような腫瘍固
択によって保持される。このような変化が腫瘍固有抗
有抗原が,どのような分子に由来するのか,その本態
原を生ずることになる。このことは,
の解明は腫瘍免疫学の古くて重要な問題である。実験
CTL認識抗原ペ
プチドを標的にした癌治療を行う場合,悪性形質に関
腫瘍において,腫瘍細胞を用いてその腫瘍に対して移
与した抗原ペプチドを用いた場合のみ癌を治療するこ
植抵抗性を誘導する場合,強くてそして長時間持続す
とが可能であることを示唆している。
る免疫を誘導できるのは腫瘍固有抗原である。共通抗
はじめに
原あるいは交叉反応抗原では,ウイルス誘発腫瘍にお
悪性黒色腫患者末梢血には,自己腫瘍細胞を認識破壊
けるウイルス抗原は別であるが,強い免疫応答を誘導
する細胞傷害性T細胞(CTL)が誘導される。1990年
できない。たとえば,マウスP815腫瘍に対しin
前後から,悪性黒色腫にCTLが認識する癌抗原ペプチ
で抗腫瘍性を誘導できるのは,CTL認識抗原として見
ドが次々と見出されてきている1一呪Boonらのグルー
出された共通抗原のPIAではなく,固有抗原である。こ
vivo
BAGE,
のような固有抗原について,ここ1∼2年,その分子の
GACE-1そしてチロシナーゼのCTL認識ペプチドを同
本態を明らかにする研究がやっと現われはじめた。イヒ
定した。さらに,
学誘発癌の移植実験により固有抗原の存在が示唆され
プは,
MZ-2腫瘍に,
MAGE-1,
MAGE-3,
SK-29腫瘍に,チロシナーゼ,
A/MART-1,そして,最近,
Melan
CDK-4に由来するペプ
チドを同定した。また,他の研究グルデプも,悪性黒
てから実に半世紀になろうとしている。
1.T細胞認繊贋瘍固有抗原(表l)
色腫にCTL認識抗原ペプチドを同定している。さらに,
1)ヒト腫瘍固有抗原
これらのCTL認識癌抗原ペプチドを”癌ワクチン”と
i) MUM-1
して用いた治療例も散見されるようになってきた。本
遺伝子由来ペプチド
稿では,これまでに明らかにされたCTLの認識する腫
Coulieら4)は,
瘍抗原ペプチドのうち,共通抗原にっいては他にゆず
A細胞株をLB33患者の転移部位から樹立した。
り,最近注目されている腫瘍固有抗原について述べる。
年に,患者末梢血からLB33-MEL.Aに対して反応す
(Melanoma
ubiquitous
mutated
1)
1988年に,悪性黒色腫LB33-MEL.
1990
腫瘍特異的移植拒絶抗原の存在が明らかになったの
る多数のCTLクローンを得た。さらに,
は,今から40年も前のことである。近文系マウスにメ
Aの抗原消失変異株をいくつか得て,
LB33-MEL.
チルコラントレンで誘発した線維肉腫に自然退縮を認
5つの抗原を同定した。このうちの一つLB33-B抗原
めたり,また,外科的に腫瘤を切除し,あるいは結紫
について解析を行い,これが,機能は不明であるが,
して血流を阻止し壊死に陥らせると,そのマウス個体
肝,腸,筋肉,心臓などの組織に広く発現する新しい
は同じ近文系マウスの別の個体で維持していた同じ腫
遺伝子MUM-1に由来するものであることを明らかに
瘍を植え付けてもこれに抵抗性を示す。この抗原の特
した。MUM-1遺伝子mRNAに不完全なスプライシン
徴は著しい多様性で,異なるマウス個体間は勿論,同
グがあり,第2イントロンの初めの部分が翻訳されてい
じマウス個体の別の部位に同じ方法で誘発した腫瘍間
る。しかも,そのイントロン部にG−Tの点突然変異
でも,その抗原性が異なる。このため,化学誘発癌に
があり,アミノ酸残基をSからIに変えている。その結
LB33-MEL.Aに
果, EEKLIVLFがCTL認識ペプチドとなっている。こ
岡山大学医学部寄生虫学教室
のような変化は,他の腫瘍には認められず,
LB33-B
1568
中山容一
血)β−カテニン
表1,CTL認識腫瘍固有抗原
Robbinsら6)は,自己腫瘍反応性のA24拘束性のTIL
由来
丑伝子/夷白
抗原ペプチド
MUC分子 文猷
tF・性輿絹 鴎1
EEKL】VVLF
NLAB44
4)
● CDK4
AOJPHSGHFV
HLA-A2.1
S)
゛ 戸‘カテニン
SYLDSGCHF
HLA・A24
6)
マウス暑癩(3LL)コネキシン37
FBWTAQP
マウス白血痢 akt
マウス大暑傷 S70
IPGLPLSL
SPSYVYHQF
株によって認識されるβ−カテニン由来のペプチドを
cDNAライブラリーのスクリーニングにより同定した。
SYLDSGIHFのFが点突然変異によって生じている。β
−カテニン遺伝子はカドヘリンによる細胞接着に関与し,
I !If I
4
S
カドヘリンについては腫瘍細胞の転移における役割が
BS
5S
注目されている。また,β・カテニンは大腸ポリープ
Z
S
マウスUV肉腫 148ヘリケース SNFVFACI
(APC)腫瘍抑制遺伝子の産物と結合することが明らか
にされている。これらのことから,β−カテニンの突然
゛変異アミノ峻
変異は,悪性黒色腫の発生および転移に重要な働きを
している可能性がある。
抗原ペプチドは,固有抗原のカテゴリーに属する。
2)マウス腫瘍固有抗原
ii) CDK4突然変異
i)
SK-29(AV)は,悪性黒色腫の患者である。患者の
Mandelboimら7帽よ,
自己腫瘍反応性CTLクローンの中のあるものは,悪性
Lewis肺癌(3LL)から酸抽出したペプチドをRMA-
黒色腫に広く反応し,チロシナーゼおよびMelan-A/
S細胞に結合させ,B6マウスを免疫し,
MART-1のような分化抗原を認識することが明らかに
を誘導した。酸抽出物をHPLCにより分画精製し,活
された。3番目の抗原SK-29-Cに反応するHLA-A2
性分画をエドマン分解してアミノ酸配列を決定し,抗
拘束性のCTLは,自己腫瘍のみを傷害し,自己Bリン
原ペプチドMUTを同定した。
パ芽球あるいは他の患者(同種)由来のHLA-A2陽性
白コネキシン37の52-59番目のアミノ酸からなるペプ
悪性黒色腫細胞を傷害しない。WOlfelら5)は,
チドであり,連続3塩基の置換によるアミノ酸の変異が
COS細
胞を用いて,トランスフェクションを行い,
SK-29-
Lewis肺癌抗原
C57BL/6
(B6)マ`ウス由来
in
MUTはギャップ結合蛋
見られた。抗原ペプチドMUTはRMA-SのK5の発現
C CTLにTNF産生を誘導するcDNAを見出した。こ
を増強したが,変異のないペプチドにはこの作用は認
のうちの一つ,C11.1は,
められない。
CDK4の塩基配列と同じで
あったが,C−Tの変化により,24番目のアルギニン
MCA102,
(R)がシステイン(C)に変わっていた。この変化は,
体細胞突然変異であった。
viぴ。でCTL
B6の他の肺癌CMT64を傷害するが,
105,
EL4,
B16,正常線維芽細胞は傷害
しないという。
雨マウス白血病拒絶抗原
R24Cの変化をもたらしたC
→T変換は,ピリミジンダイマー部位に生じており,
われわれ8)は,マウス放射線白血病BALB/cRL♂1
を用いて,CTL認識拒絶抗原ペプチドを同定した。
これは,悪性黒色腫の原因であるUV照射によっておこ
る典型的な変異である。同じ変化は,他の28例の悪性
BALBRL♂1のin
黒色腫からl例見出されている。CTL標的ペプチドは,
していて,RL♂1細胞にはCTLが認識する拒絶抗原が
ACDPHSGHFVでR24Cの変異がペプチド23-32のHLA
存在することを以前に明らかにした9-I≒この拒絶抗原
-A2.1分子への結合を増強しているか,正常23-32ペ
プチドはプロセスされない可能性が考えられる。
-R24CはサイクリンDl,
結合できるが,
P16'
を解析するために,まずRL♂1を拒絶したマウスの牌
CDK4
細胞からCTL株を樹立した。CTLはすべてCD8陽性
T細胞であり,Lj拘束性に,RL♂1細胞を特異的に認
P27およびp21とは安定に
-とは結合できない。
識し傷害した。これらの特異的CTLを用いて抗原ペプ
CDK4-R24C
チドを検討した(図1)。
のキナーゼ活性はpiglNK4aおよびp151∼bによる抑制に抵
抗性である。つまり,24番目のアルギニンは,
およびpi
事実は,
pi6
5' 'との結合に直接関与している。これらの
CDK4・R24Cの発現が,
SK-29
VIVOの拒絶にはCD8゛CTLが関与
(AV)腫瘍
'
RL♂1を酸(トリフルオロ酢
酸,TFA)で処理し,酸抽出物の分子量5000以下の
画分を逆相高速液体クロマトグラフィーで分画し,8個
のアミノ酸からなるペプチド(pRLla)と,
の悪性形質発現の原因となっていることを示唆してい
含む10個のアミノ酸からなるペプチド(pRLlb)を同
る。このような癌遺伝子蛋白抗原は,その持続的な発
定した(図2)。ホモロジー検索の結果,抗原ペプチド
現が,腫瘍の悪性形質を維持しているので,腫瘍拒絶
は,
をおこすのに最も適当な標的と考えられる。
来胸腺腫に見られる造腫瘍性ウイルスAKT8の癌遺伝
Bellacosa'"らによって報告されたAKRマウス由
pRLlaを
1569
腫瘍固有抗原
ツホブプ
尚①
図1. BALB/c
RL♂1細胞からのCTL認識抗原ペプチ
正常c-akt遺伝子
図3. RL♂1細胞におけるc-akt遺伝子の変化
ドの抽出・精製と感作標的細胞の傷害
方と反応し,BALB/c胸腺細胞由来可溶化物の56KDa
0 0
6 4
分子と反応した。デンシトメトリーによる解析で59KDa
分子の量は56KDa分子の量の約10倍であることがわ
︵∼︶如抑乖鑓珊
かった。 RL♂1における異常c-AKT蛋白発現充進は,
白血病発生の原因と考えられ,現在,
NIH
3T3細胞の
c-RLaktトランスフェクタントの造腫瘍性について検討中
である。 AKT蛋白は,
]11・
NH2末端側にプレクスドリン相
同領域(AKTホモロジー領域)を有し,COOH側には,
Ser/Thr蛋白キナーゼ部分を有している。最近,
0
1
o^io^ioSo°io'^i
o'2
細胞内シグナル伝達に果たす役割が注目されている。
ペプチド濃度(nM)
合成ペプチド
AKT
蛋白はPI-3キナーゼの標的分子であることが見出され,
川)マウス大腸病
標的細胞
BALB/CマウスにN−ニトロソーN−メチルウレタン
●
pRLla
一
P815
▲
pRLlb
一・一−−
L細胞Ldトランスフェクタント
で誘発した大腸癌CT26に,GM-CSF遺伝子を導し分
L細胞Ddトランスフェクタント
泌型にした腫瘍でBALB/cマウスを免疫すると強いCTL
図2.合成ペプチドpRLla(IPGLPLSL)およびpRLlb
(SHPGLPLSL)による標的細胞の感作
を誘導する。このCTLは親株CT26をも同様に傷害し,
CD8゛でじ拘束性である。 ドミナントな抗原を認識する。
Huanら湊は,
子産物V−AKTに相同性が認められた。さらに,
CTL
CT26細胞からTFAを用いてペプチド
を抽出し,逆相HPLCで分画し,タンデム質量分析器
認識RL♂1拒絶抗原ペプチドpRLlは,原がん遺伝子
による解析で,
c-aktの5’側非翻訳領域に由来することが明らかにな
識ペプチドは,内在性マウス指向性MuLVであるemv
った。そこでpRLlペプチド発現の機構を遺伝子レベル
-j由来の凹y遺伝子産物gp70の一部てあった。
で解析した。この結果,マウス白血病ウイルス(MuLV)
伝子はBALB/cマウスの正常組織では発現しない。
long
遺伝子活性化が発癌の要因になっているか否かはわか
terminal
repeat
(LTR)の配列が,
c-akt遺
伝子の第1エクソン内に挿入されていることが明らかに
CTL認識抗原ペプチドを同定した。認
env遺
らない。また,このenv遺伝子産物が他の腫瘍にも発
なった1≒cRLaktでは,LTRの下流に,由来不明の6
現しているのかどうかについても不明である。
塩基の挿入があり,この中にATG開始コドンが形成さ
iv)紫外線誘発腫瘍抗原
れ, c-aktの読み枠に融合していた(図3)。ウェスタ
C57BL/6
ンブロット法による解析で,ウサギ抗AKTペプチド抗
H-2K'拘束性の強い抗原Aを発現する。この抗原は,
体はRL♂1細胞可溶化物の59KDaと56KDa分子の両
CD8゛CTLの強い反応を誘導する。A抗原陽性8101腫
(B6)マウス由来のUV誘発腫瘍8101は
ej]y
1570
中山容一
文畦
瘍はマウスで拒絶されるが,A抗原陰性8101腫瘍は生
着する。8101腫瘍細胞からK゛分子を精製し,酸によっ
1) Van
Pel, A. et
てペプチドを回収し,逆相HPLCによって感作活性を
250,
1995.
与えるペプチドを得,マイクロキャピラリーHPLCと
2)
酸配列を決定した1‰ペプチドSNFVFAGIは,
DEAD
ボックスp68蛋白RNAヘリケースに由来し,一個所の
アミノ酸残基の置換かあった。
Rosenberg.
Bloom症候群および,
Werner症候群では,高発癌性であることが知られてい
るが,これらの症候群の高発癌性がDNAヘリケースに
関係していることが最近明らかにされている。
おわりに
3)
5)
識腫瘍抗原ペプチドのうち,固有抗原のカテゴリーに
属する抗原について述べた。重要なことは,腫瘍固有
抗原蛋白が腫瘍の悪性化の原因となっていることであ
P. F. &
P.
G. et
WOlfel,
T
et
Robbins,
1192,
7)
8)
Uenaka,
A.
161 : 345-355,
10)
じ原因が,悪性化に無関係な他の遺伝子にも影響を与
649-654,
える可能性がある。しかも,癌ではDNA修復酵素の産
11)
生以上がしばしば見出されるから,点突然変異が多数
1985.
存在する可能性がある。しかし,悪性形質の維持に必
12)
須の変異癌遺伝子に由来する変化は,選択によって保
1991.
持される。このような変化が腫瘍固有抗原を生ずるこ
13)
Udono,
H.
Bellacosa
Wada,
14)
SaびSA,
悪性形質に直接関与しない抗原ペプチドを用いた場合
15)
は,CTLによる破壊に抵抗性の癌細胞クローンを選択
706,
遺伝性の家族性悪性黒色腫の原因となっている例が報
告された。この場合は,固有抗原に属する変化が,新
たに見いだされた癌の原因に関係している。このよう
に,腫瘍固有抗原を明らかにすることで,悪性化に最
も重要な変化を知ることができる可能性がある。
Huang,
Dubey,
et
al.
E.
&
:/. Exp.
Med。180 : 1599
Uenaka,
A.:J.EχD.
Med。
1985.
et a1.:Jpn.
J. Cancer
Res.,80:
A.
et
a1.
56:141-151,
:Science,254
: 274-277,
H. et al. :Cancer
Res。55
プチドを用いた場合のみ癌を治療することが可能で,
CDK4の変異について,
369:67-71,
A. et a1.:Immunol昭y,
1995.
見されるかも知れない。最近,
al.:Nature,
1989.
Keyaki,
とになる。このことは,CTL認識抗原ペプチドを標的
り役に立たないかもしれない。しかし,個々の患者に
269 : 1281-1284,
1994.
にした癌治療を行う場合,悪性形質に関与した抗原ペ
おける遺伝子の変化を迅速に検出する方法が,将来発
:Science,
0. et
形質発現を引き起こす遺伝子の変化をもたらすが,同
も,特定の患者のみしか対象にできず,治療にはあま
a1.
1995.
1994.
一方,放射線,化学物質その他の発癌の原因は,悪性
原は,たとえそれが悪性形質に関与するものであって
1996.
1996.
Mandelboim,
9) Nakayama,
たとえば,それを結合するMHCクラス1分子の消失が
Opitt.
P. F. et al. :I. Exp. Med。183:1185-
段階の遺伝子の変異に基くことが明らかになっている。
おこれば,癌細胞は破壊をまぬがれる。一方,固有抗
Y.:Curr.
a1,:Proc. Natl。Acad. Sci.
92 : 7976-7980,
-1607,
しかし,悪性形質発現に関与する抗原ペプチドでも,
:Adv. Cancer
Res.,
Kawakami,
8 : 628-636,
Coulie,
る。正常細胞から悪性への形質変化は,現在では,多
するだけで,治療には直接結び付かない可能性がある。
al.
1995.
6)
本稿では,現在までに明らかにされているT細胞認
Robbins,
USA,
et
I?ey。145:229
1996.
Immunol.,
4)
:Immunol.
S. A.
70:145-177,
タンデム質量分析器を組み合わせてペプチドのアミノ
献
A.
Y.
C.
et
al,:Proc,Natl. Acad.
93 : 9730-9735,
P.
1997.
et
: 4780-4783,
1996.
a1.:J,Exp. Med., 185:695-
日皮会誌:107巻13号(平成9年12月臨時増刊号)
P.1571∼1577
招請講演n
Fcレセプターとアレルギー
高井俊行
はじめに
ムが存在する場合があり,そのうちのいくつかは膜タ
ヒトの即時型アレルギーを誘発する因子がlgEであ
ンパクではなく可溶性分子(IgG結合因子とも呼ばれる)
るという石坂らの発見1)は,アレルギーを分子レベルで
として細胞外に放出される(表1)。いくつかのFc/Rと
解明する契機になった。これによりマスト細胞などの
構造的にも機能的にも会合しているβ鎖や7鎖,ある
表面上に存在するlgEのFCRの解析が進み,
いはFcyRHa,
1989年,
cの細胞内領域には,後述のように活性
lgEの高親和性レセプターであるFceRIの構造解明2)に
化シグナルの伝達に寄与するimmunoreceptor
至った(図1)。一方,
-based
IgE以外のlgとアレルギーとの
tyrosine
activation motif (ITAM)と呼ばれるアミノ
関係に目を向けてみると,たとえばlgGが炎症を誘発
酸配列があり,
することはlgE発見よりも前から知られていたが,こ
制する機能をもつinhibition
FcyRDbには逆に活性化シグナルを抑
の炎症の誘発機構をlgGレセプターであるFcvRに帰着
FceRにはCタイプレクチンファミリーに属する低親
させるべきか,補体の活性化に求めるべきかについて
和性レセプターFceRHおよびlgスーパーファミリーの
motifであるITIMがある。
明確な理解は得られていなかった。また他のlgに対す
高親和性レセプターFceRIがある。FceRIの通常のサ
るFCRにはどのようなレパートリーがあり(図1,表1),
ブヽニl−ニット構造はaβDと考えられている。
炎症誘発やアレルギ一発症にどのような役割を担って
いるのかについてのわれわれの理解も,
FceRn
(CD23)ノックアウトの解析内容については他稿17)を参
Fc£RIの場合
照されたい。
に比べるとはるかに乏しい。こうした状況を克服すべ
lgAレセプターであるFcaRがヒトの単球系の細胞な
く最近FCRについて多数のノックアウトマウスの作成
どにおいて見い出されている18)が,マウスのFcaRは
がおこなわれ,私たちに非常に多くのことを教えてく
まだ分子レベルで同定されていない。ポリメリックIg
れた3)-10)。第一に, FceRIがlgEを介する即時型アレ
レセプター(poly-!gR)は二量体lgAなどと結合し,
ルギーを誘発する鍵となる重要な分子であることが分
粘膜外への多量体lgの輸送をおこなう分子であり,
かったが3) 4)より重要なことは少なくともマウスのレ
FcffRと区別される。
ベルではlgEが無くとも全身性アナフィラキシーが誘
わりは今後の興味深い研究課題のひとつであろう。特
発されることが確認された1‰第二に,
に経口寛容の誘導によるアレルギーの制御という観点
IgGを介する過
lgAとFcaRのアレルギーとの関
敏症の誘発経路においてFc/Rが補体よりも上流に位置
から解明が待ち望まれる。
しており,炎症を誘発する重要な役割を担っているこ
新しいタイプのFCRをコードすると考えられるcDNA
とが明らかになった4)
がウシ・マクロファージのcDNAライブラリーから単
11) i4)。第三に,過敏症の発症を
抑制する経路としてFcyRIlbとlgG免疫複合体との結
離されており,
合が生理的に重要であることか解明されたことであ
と名付けられた9. ITAMおよびITIMは持っていない。
る5)15)o
この分子はヒトFcaRやナチュラルキラー(NK)細胞
1. FcRの構造
上のキラー細胞抑制性レセプター(KIR)
各FCRノックアウトマウスの解析結果を解説する前
同性が顕著に高いことが興味深い。アレルギ一発症と
に, FcR分子群の構造を眺めて見ることにする。まず
の関係は不明である。
FcvRはタイプI,
2. FcR欠損マウスにおける過敏症反応の消失
n.Ⅲの3種に分類されており,ヒト
ではFcyRIの遺伝子数は3(A∼C),FcアRIIが3(A
∼C),そしてFcyRⅢが2
(A,
B)である16)
mRNAのスプライシングの違いで複数のアイソフォー
IgG2に親和性を示すことからFc72R
などとの相
1) IgEを介する即時型およびlgGを介する細胞傷害
/図1)。
型過敏症の消失
図1に示したようにITAMをもつFcRv鎖はもとも
とFceRIに会合するホモダイ7一分子として単離・同
岡山大学工学部生物機能工学科
定されたが,現在ではノックアウトマウスの知見も含
1572
高井俊行
表1.ヒトおよびマウスのFCRとその関連分子の遺伝子と転写産物
FcyRIA Iq21
FctRIB Iq21
FcfRIC Ia21
聊RI
マウスFcvRI
3(45.2)
FcyRIa
sFcrRlbt^
sFcyRIc
FcyRI
1(92)
FcfRIIal, sF<:yRIIa2
FcyRIIbl, IIb2,Ilb3
FcrRIIc
FcyRIIbl, Ilbr, IIb2,3RyRIIb3
FcrKn>2
B, Mono,
ヒトFcvRII CD32
マウス町RII
Ly-17
ヒト叫RIII
CD16
M●
FcrRIlA Iq23
FcyRlIB Iq23
FcvRIIC Iq23
F^RII
B,MC,M*
MVj
Nciit, L£
Mono,Neut
M4, Mono, Neut,NK
]︷`同一一一
1 111 1
FcyRIlU
FcyRIUb, sFcyRIIIb
FcyRIII
Mf Neut,NK
FceRIa
FceRIA
FcRy
MC, Baso,LC, Mono
MC, Baso,Mono
Mf Mono, Neut,MC, Baw, NK, T
CD3?.ri
T.NK
活性化B
FcERn
8(0.4)
ヒトFcaR CD89
FcoR
19ql3.2-13.4
Fccdl息I,a2,a3
Mono, Mf Mesang
poly-IgR
poiy-iiR
Iq31-q41 ?
poIy-IgR
腺組織上皮,肝臓,小腸,肺
FcRn
ヒトp58 KIR CD1S8
マウスgp49
FCR・
nS8KK
19ql3.3 7(20.0)
19pter-qter
FcRo
pS8iaRs
胎盤,新生児小腸
NK。T
MC,NK
?7?
マウスFceRIl
FczRIIa, sFceRII
PceRIIb'
FczRII, sFc・mi
gp49A
gp49B
戸1
マウスp91
gp49A
gp49Bl, B2
P9I
B, DC, Mono, Ptale,LC, NK, Eotino, KM
B,DC
Mono, Plate,L£, NK, Eoshio, M4
M*,MC
htb>://www.gei陥a宕眼?2‘“l‘゜“’
セプター. .
ファージ;Mona,単球;Neul,好中球;L£,ラングルハンス細胞;MC,マスト綱胞,;Baao,好塩基球;DC樹状細胞:
g,メサンギウム細胞.
'−の相違によりlとbはN端の6/7アミノ酸残基が異なる.
めた多様な解析の結果,
Plate,血小板lEosino,好
細胞傷害活性(ADCC)の寄与の方が大きいものと推
FceRIのみならずFcyRIとFc
yRⅢにも会合し,これらのFCRの細胞表面上への発現
測された11)(図2)。
に必須であることが示されている。このFc町鎖を欠損
2)アルザス反応とFc/R
したマウス個体が筆者らによって作られ,このマウス
免疫複合体性の過敏症反応は,抗原抗体複合体の形成
では少なくともFcyRI
, FC7RⅢ,
により補体経路が活性化し,好中球の誘引を惹起する
FceRIの3種のFcR
の発現および機能が失われていた‰これに伴い,
IgE
ことによって起こる炎症であると考えられていた。例
を介する受身皮膚アナフィラキシー(PCA)が誘導さ
としてアルザス(またはアルツス)反応があるが,実
れなくなり,
験的によく行われる逆受身アルザス反応では,皮内に
DombrowiczらのFceRI
での同様の結果とも相まって,
a欠損マウス3)
IgEを介するI型過敏症
特異的lgG抗体などを注射したのち抗原を静脈注射す
においてlgEとFcERIとの結合がその発症に直結して
るというPCA反応に似た方法がとられる。
いることが示された。また,
マウスでは抗原特異的lgGの注射による逆受身アルザ
FcRv欠損マウスに抗赤血
FcRt欠損
球lgG抗体や抗血小板lgG抗体を注射して細胞傷害型
ス反応が誘導されないことが分かった1‰また逆に,補
過敏症反応の例である実験的自己免疫性溶血性貧血や
体C3およびC4ノックアウトマウスにおいては,
血小板減少症の誘導を試みても,発症の程度が野生型
によるアルザス反応は影響を受けないことも示され13)
マウスに比べて微弱であることかわかり,これらの実
lgG免疫複合体による炎症誘発経路において,補体より
験モデルにおいては補体経路活性化による細胞傷害の
もFcvRが上流に位置し,発症の引き金を引いているこ
寄与は少なく,むしろFcアRを介する貪食や抗体依存性
とが強く示唆された。このlgGによるアルザス反応に
IgG
1573
FCレセプター
FcvRIa FCYRIb2 FcyRlla FcyRllc FcvRllb FcvRllla FcvRlllb
s。a 19様ドメイン (bl・b2・b3)
駱嶮
午無卜歿レ
麟
ITAM ITIM poly-lgR
ル
I。
FceRI c・タイプレクFceRII
(a,b) FcaR FcRn
チッドメイッ E
本
%ル
絹
回
尹半
FceRII
FceRI
FcRn
FcvRI FcyRII FcyRIII
(b1,b1"b2) し(z レ l u l。
言
本
Nm
a
%午V確
p 。一、 鸚
--
一
図1.
FcRの構造
構造およびlgに対する特異性が明らかになっているヒト(A)およびマウス(B)の膜結合型FCR等の構造を示した。可溶性FCRおよ
びアイソフォームごとの細胞内領域の長さの違いは示していない。リガンド結合を担うa鎖はFcERnを除いて全てlgスーパーファミリー
のI型膜貫通型,あるいはグリコシル・ホスファチジルイノシトール(GPI)結合型の膜タンパクである。胎盤や新生児の腸管において
母親由来のlgGの輸送を行うMHCクラス1分子構造を持つFcRnはβペググ゜ブリンと会合し,二量体としてlgGと結合することが
示唆されている。
おいて,マスト細胞欠損W/W`'マウスを用いたマスト
い。抗原とlgMの複合体による補体の活性化は炎症の
細胞の移入・再構成実験により,組織中のマスト細胞
開始因子のひとつと考えられるため,補体欠損マウス
がまさに逆受身アルザス反応のエフェクター細胞であ
でlgMを用いた炎症を惹起してみるなどの今後の解析
ることも示されている14)。さらにはHazenbosら6)によ
が待たれる。
るFcyRⅢ欠損マウスでlgGによる逆受身アルザス反応
3. FcyRll欠損マウスにおける免疫応答の尤進
が誘導できないことが確認されている。これらの結果
lgEをノックアウトしたマウスにおいても抗原刺激によ
をまとめると,
り全身性アナフィラキシーが誘導されるという報告1o)から
IgGによるアルザス反応の初発段階では
主にマスト細胞上のFcyRⅢがその引き金を引くという
明らかなように,即時型過敏症の発症原因として,
ストーリーが妥当と考えられ,
とFceRI以外に,少なくともマウスにおいてはlgGと
IgG免疫複合体とFc/
RⅢが炎症の開始因子としてはたらいていることが裏付
FcyRなどとの相互作用も重要であることが再確認され
けられた(図3)。しかしながら問題点として上述の細
ている。ではlgGを介する過敏症は一体どのような機
胞傷害型過敏症を含め,これら一連の実験ではlgMの
構で制御されているのであろうか。図1に示すように,
炎症開始における役割には全くアプローチされていな
FcyRn
bはITIMを有するという点においてユニークな
IgE
高井俊行
1574
。
lgG→弓姥Sぐ
I
Y血管周囲での抗原・抗体複合体の形成
自己成分に応答性のT,Bクローン除去の不全,
寛容維持の破綻
謡
囃
s。
補倖第一経路の活性化,
補体による溶解
多’
J卜れ│
-
好中球,マクロファー
シによる, FcRを介し
た捕捉,貪食と消化
\
性による直接破壊
`゜.゜a.
‘べ
1r國,
図2.細胞傷害型過敏症とFcR
細胞表面物質に対する免疫反応は,自己免疫疾患以外に,薬
物などの低分子量化合物が細胞表面に吸着・結合した場合でも誘
導され,組織破壊につながる。
FcRy欠損マウスではlgGを介す
る実験的自己免疫性溶血性貧血や血小板減少症の誘導の程度が
好中球の侵洞,免疫複
合体による活性化
低いことから,補体経路による溶解よりもFcyRIやFcyRⅢを有
する細胞による貪食あるいはADCCによる直接破壊がこれらの
ン憐帚蜀惹起物質
実験モデルの場合重要な役割を担っていることが提唱されてい
る。
賃nl。ふ/ 旨aiクター
FCRであり,以前からその免疫抑制的機能が研究され
てきた。例えば抗BCR抗体のFcを介したFcyRn
bと
の架橋によりBCRを介する活性化シグナルが抑制され,
B細胞の増殖が抑制されることはよく知られている。こ
の細胞内メカニズムとしては,B細胞株に変異を導入し
たFcyRn
b cDNAをトランスフェクトする実験系に
図3.アルザス反応とFcR
アルザス反応は従来,抗原・抗体複合体形成ののち補体経路が
活性化され,好中球の浸潤と活性化を惹起する経路であると理
解されていたが,補体活性化よりもマスト細胞などの表面上の
FcyRⅢを介する細胞活性化の方がlgGを介するアルザス反応の
中心的経路であることが示された。
おいて示されたことであるがITIMが必要十分であり,
この配列中のチロシン残基のリン酸化によりSH2ドメ
異的lgG抗体が存在しているような場合,
IgG免疫複
インを待ったタンパクが会合することが重要であると
合体を介して,抗原を捕捉したBCRとlgGのFc部分
考えられている。新たに会合する分子としてチロシン
と結合したFcyRHとの間に架橋が起こり,結果的にB
ホスファターゼSHP-1,そしてイノシトールポリリン
細胞の活性化が抑えられ,抗体産生に至らないという
酸5−ホスファターゼSHIP21'などが報告されている(図
ネガティブ・フィードバック機構が実際に生体内では
4A)。
たらいていることが示されたのである(図4A)。
実際にFc/Rn
Jックアウトマウス5)の牌臓B細胞は,
intactな抗BCR
lgG抗体によって十分に増殖応答を
それではFcアRIIが炎症を抑制するシステムのひとつ
として機能しているのであろうか。このことを支持す
示すことが確かめられた。次にトリニトロフェニル(TNP)
る実験事実として,
化タンパクやヒツジ赤血球(SRBC)などを免疫するこ
PCAの誘導を試みたところ,明らかに野生型マウスよ
Fc/Rn欠損マウスにlgGを介する
とにより,血液中の特異的抗体のレベルが調べられ,
りも強い応答が起こったことがあげられる5)(図5B)。
ノックアウトマウスの抗SRBC抗体価,抗TNP抗体価
つまり通常はFc7Rnがマスト細胞などのエフェクター
が野生型マウスに比べて高く推移することが明らかに
細胞表面上に存在しているために,Fc7RⅢを介する脱
なった(図5A)。免疫後の牌臓細胞中の抗体産生細胞
穎粒反応が低く抑えられているものの,
数の計測により,この現象が特異抗体の親和性の上昇
アウトマウスではこの抑制が解除されるためにFc/RⅢ
というよりもむしろ抗体産生細胞の数の上昇による量
経由の活性化が増強されることになると考えられる(図
的増加によるものと考えられた。つまりB細胞がある
4B)。また,
抗原に対する抗体産生を行う場において既に体内に特
/Ⅲに結合する際,抗原決定基が残存していれば細胞表
FcyRn
IgG免疫複合体がマスト細胞上のFcyRn
yック
1575
FCレセプター
A
−
●
ぺ
xyヅ77タ ̄””
ぶ:;コ:
に
ム
t
\汀
(垂云涵憂巫玉石伍)
脱
マス
胞の活性化
図4.
FcRの架橋と細胞内シグナリング
B細胞(A)とマスト細胞(B)を例として,細胞表面上でのFCRどうしの架橋がどのような細胞内シグナリングのクロストークを引
き起こすと考えられるかを示した。
BCRに架橋刺激を加えると,lg-aやlg-β鎖やy鎖のITAMを介してチロシンキナーゼLyn,
Syk,
Btkが活性化され,脱穎粒などの活性化応答が起こるが,免疫複合体を介してFcyRnとの架橋が起こるとリン酸化されたITIMへのSHIP
の動員などを経て活性化の抑制が起こる(A)。マスト細胞(B)やマクロファージでも免疫複合体により同様の機構でクロストークが行
われると考えられ,このときの活性化シグナルを導入するレセプターはFceRIやFcyRI,
FcyRⅢであろう。
面上に感作されているlgEを介してFceRIとの架橋も
ングを受けると考えられる。一方,免疫応答が既に進
起こる。するとFcyRnはFceRIを介する活性化シグ
行中であり抗体が存在する場では,より低濃度の抗原
ナルをも抑制するという図式も描ける(図4B)。このこ
でも効率良く抗原提示が行われることを示唆する報告
とは培養マスト細胞で,
がある2‰MHC
FceRIとFcyRH/Ⅲを架橋し
yRI,
4.免疫応答,アレルギーとFcR
現しているような細胞では,このような抗原提示能の
炎症・アレルギーの発症機構は,かつてはその最終局
上昇がみられる可能性があるが,実際に生体内でAPC
面であるエフェクター細胞のはたらきのみが注目され
の抗原提示の効率上昇に積極的に寄与しているのかど
ていた傾向があるが,抗原提示という免疫応答の初発
うかは今後の研究課題である。
, FC£RnおよびFcaRなどのFCRを発
これまで述べてきたように,
段階からヘルパーT細胞(Th)の分化も含めたトータ
ルの免疫制御機構の一側面と捉える必要がある。
FceRI
class H を発現しており,さらにFc
て脱穎粒を誘導する実験系において確かめられているl‰
FCRは
FcRは単にエフェクター
細胞の活性化のみに関与しているのではなく,液性免
抗原提示細胞(APC)であるラングルハンス細胞/樹状
疫と細胞性免疫の接点において両経路による免疫応答
細胞,B細胞,単球/マクロファージにも広く発現・分
のバランスを巧妙に調節している分子群であると理解
布している(表1)。 FCRが抗原提示に関与する場合,
できる。抗原提示を経て免疫応答がスタートしたのち,
免疫複合体がAPC上のFCRによって効率良く捕捉され,
FCRはタイプIのTh(Th1)による細胞性免疫とTh2
そのままB細胞のBCRによる認識と取り込みに利用さ
による液性免疫を抗体を介してリンクさせ,バランス
れるか,APC内に貪食あるいは飲作用で取り込まれ,
を制御している。 Thの分化の著しい不均衡により炎症・
抗原が部分分解されたのちMHC
アレルギーや自己免疫疾患が誘導されるということを
class n分子上に提
示されることで特異的Thを活性化するという流れが想
考えると,
定される(図6)。免疫応答がまだ始まっていない段階
が誘発または増悪され,また慢性化される可能性を秘
では体内に侵入してきた抗原はラングルハンス細胞や
めている。
樹状細胞の非特異的な飲作用で取り込まれ,プロセシ
FcRの調節機能の破綻によりこれらの疾患
1576
高井俊行
A
:t
1
﹂31!1
g
24 ………………………○…………………………
J3;!1 VDd
UO匯ωよぢcE∼①ω
1
……………………(::0G…………●
………………………G………………………
21
……………○………………-………
…こ)……………………………………
゛P≪0.05
control
十/十
図5.
Fc/Rn欠損マウスにおける抗体産生およびPCA感受性の増大
A,
SRBCを矢印で示すスケジュールで免疫し,血中抗体価を測定したところ,野生型マウスより高い応答を示した(文献5:Iより改変)。
B, FcyRE欠損マウス皮内に抗TNP
IgGl抗体を4μg
(2"倍希釈)∼0.125mg
/-
(2'倍希釈) /siteで注射後,抗原となるTNP−オブア
ルブミンをエバンスブルーとともに静脈内に投与したところ,野生型マウスに比べ,顕著にPCAが充進していた‰
マクロファージや好中球などの
細胞
│し2゛IFN;
?EIR2
cR、
卜。参,。エフェクター細胞の
活性制御不良
フェクター細胞の活性制御
哨9
抗原抗体複合体
。( YigGなどの産生
゛画
⑤述とΣ芦“
ぶ,
●I・・・・ ……… 液性免疫優位・応答
図6.
j
惣ドニ)
ノ
黒
FcRによる免疫応答の制御
細胞性免疫および液性免疫はそれぞれ独立に機能するのではなく,
した抗体はその後のB細胞のフィードバック制御に関与するとともに,
FcRによって相互に調節されている。液性免疫によりB細胞が産生
FcRを介してエフェクター細胞の活性制御を行う。抗原提示の段
階へもFCRが促進的に関与していることが示唆されている。これらの局面においてFCRによる調節異常があればアレルギーや自己免疫
疾患の発症,慢性化か起こる可能性がある。
FCレセプター
1577
おわりに
1995
以上述べたようにlgEの関与するアレルギーだけで
20)
なく,
1995
IgG免疫複合体とFcyRによる,炎症・アレルギー
Wagtmann,
を正と負の両方向に巧妙に調節する機構の存在が明ら
21)
Ono,
かになった。今後は接触過敏症などの遅延型アレルギー
22)
Fridman,
の発症とFCRとの関係,他のアイソタイプのlgに対す
49-76,
るFCRの分子レベルでの同定とその機能解明,
IgAと
FCaRによるアレルギー制御機構の解明,そしてマウス
などの動物実験で示されたFcyRによる免疫調節機構が
ヒトにおいてIgE/FceRIのシステムとどのよう,なバ
ランスで機能しており,
FcyRが効果的な治療のターゲ
ットと成り得るのか,という多くの興味深い問題に対
して遠くない未来に答えが出されることを期待したい。
文 献
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招請講演Ⅲ
遺伝子治療の現況と展望
高久史麿
1)遺伝子治療とは
Comittee
遺伝子治療とは治療の目的で我々の細胞の中に外から
(HGT)に関する小委員会がっくられ,この小委員会で
遺伝子を導入する治療法である。遺伝子を細胞に導入
“遺伝子治療に関するガイドライン”が作成された。更
(RAC)の中にHuman
Gene
Therapy
する際,目的とする細胞を体外に取り出して試験管内
に各施設のIRBを通過した遺伝子治療に関する個々の
で細胞内に遺伝子を導入するin
プロトコールをRACが審査し,それを承認する体制が
vitroの方法と,気管
支鏡などを用いて目的とする細胞に直接遺伝子を導入
っくられた。この様な体制の下で既に1989年にはNCI
するm VIVOの方法とがあるが,技術的な問題もあり,
のRosenberg等が悪性黒色腫の患者の腫瘍浸潤リンパ
前者のj‘n vitroの方法がもっぱら用いられている。
球の中にin
細胞内への遺伝子(DNA)の導入の方法として,現
そのリンパ球を患者の末梢血液中に戻したところ,遺
在最も広く用いられているのは,ウイルスの中に目的と
伝子を導入されたリンパ球が長期間生存し得たことを
するDNAを組み込み,細胞へのウイルス感染の形で
報告している‰更に1990年にはRosenberg等が悪性
yjむ・・培養系でマーカー遺伝子を導入し,
DNAを細胞の中に組み込む方法で,ウイルスもレトロ
黒色種の患者の腫瘍から腫瘍浸潤リンパ球を取り出し,
ウイルス,アデノウイルス,或いはアデノ関聯ウイル
in vitroの培養系でその中にTNFのcDNAを導入して
スなどが遺伝子の運搬者(ベクター)として用いられ
患者に戻す治療,又NIHのBlease,
ている。又最近ではリボソームの中にDNAを組み込ん
例のアデノシンデアミネース(ADA)欠損症の患者の
でそのリボソームを細胞に取り込ませる方法も用いら
末梢血リンパ球の中にin
れている。
を導入して患者に戻す治療を行っている。この中のADA
今まで世界中で遺伝子治療の対象となってきたのはも
欠損症の患者に関しては,
っぱら致死性の先天性疾患,癌,エイズなど重篤な疾
がScience誌上に詳しく報告され,その有効性が広く
Anderson等は2
vitroの培養系でADAのcDNA
1995年その2例の長期経過
患であった。しかしながらアメリカでは既に7年の遺伝
認められる様になった‰
子治療の実績があり,その間特に問題となる副作用が
表1に示す如く,世界では1996年6月の段階で既に
起きていないため,最近では慢性関節リウマチや閉塞
1500人を越す患者が遺伝子治療研究の対象となってい
性血管障害など一般的な病気も遺伝子治療の対象とな
る。その中で最も多いのはアメリカで,その80%を超
っている。
える1229入が遺伝子治療を受けている。その内訳は表
2)遺伝子治療の現状
2に示す如く,癌が848例と最も多く,次いでAIDS,
ヒトの細胞の中に外から遺伝子を導入する遺伝子治療
cystic
を最初に行ったのはアメリカのUCLAのM.
る遺伝子治療の最近の傾向として注目されるのは,慢
J Cline
fibrosis等の順となっている。アメリカにおけ
である。彼は1980年にイタリアとイスラエルでβ−タ
性関節リウマチや閉塞性末梢血管障害,更に骨髄移植
ラセミアの患者の骨髄細胞をin
後再発例に対するリンパ球移植後のGVHD等,従来の
vitroで培養し,その
間に骨髄細胞中にβ−グロビンのcDNAを燐酸カルシウ
ガイドラインの範囲の中になかった疾患が遺伝子治療
ム法で導入,その骨髄細胞を患者に戻すことを行った。
の対象として含まれていることである。その中でも血
その後Cline等のこの遺伝子治療が彼の所属するUCLA
管障害に対する治療が特に注目され,表3に示した如
の学内審査委員会(Institutional
Review
Board (IRB))
く,色々な試みがなされている‰
では許可されなかった治療法であったことなどが問題
以上の事実は遺伝子治療の対象となる疾患が従来の重
となり,このためClineは失脚したが,この研究を契機
篤な先天性疾患,癌,
にしてその後NIHのRecombinant
広がってきたことを示したものといえよう。しかしな
DNA
Advisory
AIDSから,より一般的な疾患に
がら癌が遺伝子治療の主要な対象疾患となることが従
自治医科大学学長
来と変わりないことは表2に示した通りである。その癌
1579
遺伝子治療
表3 血管病変に対する遺伝子治療
表1 Gene Therapy as of June 1996
Protocol N0.:221
疾 患 対象遺伝子 ベクター
Patient No.:1537
■ USA:1229
■UK:61
H Nederlands : 55
■ Germany:47
■ France : 44
■ Canada : 22
I Switzerland : 19
■ Egypt : 15
VEGF ハイドロゲル
PTCA後再狭窄 十プラスミド
c-myc アンチセンス
■ Italy : 14
U Spain : 9
■ Australia : 9
■Sweden: 5
閉塞性動脈硬化症 ミ゛ 言只言
■China
: 4
Acバイパス フこむ。 アンチセンス
■ Finland
■ Japan
: 3
家族性高脂血症 LDLレセプタ ̄ レトロウイルj
(eχ
: 1
vivo)
(文献(3)より引用)
表2 Diseases
and Indications
表4 癌に対する遺伝子治療プロコトール
(アメリカ)
■ Cancer : 848 patients
■A正)S:372
1.Antisense
■ Cystic Fibrosis : 152
2.Chemoprotection
H Leukemia/Myeloma
: 89
4
5
3.Immunotherapy/in
vitro transduction
34
■ Arterial Disease : 16
4.Immunotherapy/in
vivo transdution
21
■ADA deficiency : 12
5.Pro-drug/HSV-TK
and ganciclovir
20
6.Tumor
suppressor gene
6
2
7. Single- chain antibody
に対する遺伝子治療としては,表4に示す如く,様々な
8.Oncogeae down-regulation
治療,研究が行なわれているが,その中で腫瘍細胞へ
のサイトカイン遺伝子やHLA-B7遺伝子の導入によっ
て腫瘍細胞に対するcytotoxic
T-lymphocyte
2
Total
94
(文献ぐ4)より引用)
(CTL)
を誘導し,そのCTLに腫瘍細胞を破壊させようとする
試み,腫瘍細胞中に自殺遺伝子を導入することによっ
ルは全て普通の薬剤と同じようにFDAで検討され,新
て特定の薬剤に対する腫瘍細胞の感受性を高める治療
しい治療法のみがRACで審査されることとなった≒
法,あるいはp53等の癌抑制遺伝子やアンチセンスヌ
従ってRACは当初の役割を果たし終えたと事になり,
クレオチドを直接腫瘍細胞中に導入する試みなどが注
それだけアメリカでは遺伝子治療が一般化したと言え
目される‰
よう。
遺伝子治療の実施に必要なベクターを生産する企業が
ヨーロッパ諸国においても表1に示す如く,既にイタ
アメリカでは既に30社以上存在して,新しいベクター
リー,オランダ,フランス,スエーデン,英国,ドイ
の開発を活発に行っている。更にベクターの大量生産
ツ,スペイン,フィンランド等の国でADA欠損症や癌
や安全性のチェックを行うための会社もできており,
などに対する遺伝子治療が行われている。特に従来遺
アメリカでは遺伝子治療を支援する体制か整備されて
伝子工学の医学的応用に消極的であるとされていたド
いる。しかし反面遺伝子治療に対して膨大な研究費を
イツが積極的に遺伝子治療に取り組んでいる事が注目
投じてきた割に成果が上がっていないのではないかと
される。最近イタリアのグループからADA欠損症に対
いう反省があり5),遺伝子治療の有効性を検討する委員
する遺伝子治療の成績が報告されている‰又ベクター
会がNIHの中にOrkin.Motulskyを中心として作られ,
生産のための会社もヨーロッパで既に作られている。
1995年12月にその報告書が発表された‰その報告書
3)我が国の遺伝子治療
では遺伝子治療は将来の画期的な治療法として大いに
厚生省の遺伝子治療に関する専門家委員会からの答申
期待されるが,現在行われている遺伝子治療は技術的
に基づき厚生省の遺伝子治療のガイドラインがっくら
に極めて不完全で今後遺伝子治療に関する基礎的研究
れたのが1993年4月である9)。更に1994年2月には遺
にもっと力を注ぐべきであるとしている。尚,更に最
伝子治療のプロトコールを審査する委員会「遺伝子治
近になってRACが廃止され,遺伝子治療のプロトコー
療研究中央評価会議」がつくられた。尚,大学病院な
1580
高久史麿
ど文部省の施設で行われる遺伝子治療の指針となる文
在強く期待されているのは事実で,その適応の範囲も
部省の遺伝子治療のガイドラインが学術審議会ライフ
上述の如く次第に慢性疾患にまで広がってきている。又
サイエンス部会によってつくられ,又厚生省の中央評
動物実験のレベルでは遺伝子治療の有用性を示す報告
価会議に相当する中央の審査委員会(遺伝子治療臨床
が数多くなされているのも事実である。
研究専門委員会)がつくられた。厚生省,文部省に遺
各種疾患の発症に体質的な要因が関与する事は周知の
伝子治療のプロトコールが各施設の委員会を経て提出
事実であるが,最近の分子生物学の進歩の結果,その
された場合,そのプロトコールを予め検討するための
要因が遺伝子のレベルで明らかになってきている。遺
作業部会が各プロトコール毎につくられ,その作業部
伝子治療はそのような体質的な要因に対する治療とし
会の指示に従って修正,追加されたプロトコールを両
て臨床医学の各分野で今後益々重要視される様になる
者の中央の委員会にかけることが行われている。尚こ
と考えられる。従って我が国でも今後到来が予想され
のプロトコールの作業部会は文部省,厚生省共通の部
る遺伝子治療の時代に備えて十分な体制を整えておく
会とすることとなった。
必要がある事を改めて強調したい。
この審査方式によって1995年2月に許可となった北
文 献
海道大学のADA欠損症に対する遺伝子治療は同年8月
1) Rosenberg,
から開始され,この特別講演の段階で既に11回の治療
et al.:Gene transfer into humans
SA., Aebersold,
P., Cornetta,
が終了,経過は順調とのことである。その後1997年の
Immunotherapy
8月にこの患者の遺伝子治療が成功し,経過が良好なの
melanoma
of patients
で治療を中止し,経過を観察するとの発表が北海道大
lymphocytes
学から出された。
transduction. New
又熊本大学医学部から出されたAIDSに対する遺伝子
1990.
治療のプロトコールが文部省,厚生省の審査を通り,
2) Blaese,
ベクターの準備が整えば実施される予定である。更に
et a1. : T-lymphocyte-directed
岡山大学,東京大学医科学研究所から出された各々食
for ADA
modified
retroviral gene
Eng. J. Med.
SCID
advanced
− infiltrating
by
R. M., Culver,
−
with
, using tumor
323 : 570-578,
K. W., Miler, A. D.,
gene
therapy
: Initial trial results
Science
道癌,胃癌に対する遺伝子治療のプロトコール声遺伝
4 years.
子治療研究審査の作業部会で検討中であるし,脳腫瘍
3)森下竜一,檜垣実男,萩原俊男:血管病変に対す
270 : 475-480,
に対する遺伝子治療も計画されていると聞いている。こ
る遺伝子治療。小滞敬也編 遺伝子治療:43,羊土
の様に我が国でも遅ればせながら遺伝子治療が始まっ
社, 1996.
たが,問題なのはベクターの開発である。北海道大学
4) Requalatory
で行われているADA欠損症の治療,並びに熊本大学,
Gene
TheraD,8:625,1997
岡山大学,東京大学医科学研究所から申請が出されて
5) Marshall,
いる遺伝子治療はいずれも外国の企業から提供される
Sciei]ce269 : 1050-1055,
ペクターを使って行われるものである。我が国独自の
6) Orkin SH.,
ペクターを開発するための新しい会社(DNAvec)が
recommendations
1994年12月に発足したのでその発展を期待したい。
the NIH
investment
lssmes
K.
after
1995.
: j)j?£?'A
j?印Qだs.Human
E. Gene
therapy's
growing
pains.
1995.
Motulsky AG.:Report and
for the panel
in research
to assess
on
gene
4)遺伝子治療の将来
therapy.
December
遺伝子治療は従来の治療方法で治癒し得ない重篤な疾
7) Marshall,
E : Varmus
患に対する新しい治療法として多くの人達が期待して
RAC.
いる治療法である。しかし現在,明らかな有用性が示
8) Bordignon.C.,
されたのは先天性のADA欠損症に対する遺伝子治療だ
et a1.:Gene therapy
けであり,嚢胞性線維症や家族性高コレステロール血
lymphocytes and bone
症に対する遺伝子治療の有用性については余り明らか
immunodeficient
な効果が認められていない10. II)。そのため遺伝子治療の
-475,
有効性を見直そうとする機運があることは事実である。
9)遺伝子治療研究に関するガイドラインについて。厚
しかし遺伝子治療か癌やAIDS等の難治性疾患の治療に
生科学会議1993年4月。
飛躍的な進展をもたらす可能性のある治療法として現
10) Knowles
Science
7, 1995.
proposes
272 : 945,
Notarangelo,
in
to scrap
the
1996.
L. D., Nobili, N.
peripheral
marrow
blood
for
ADA
patients.Science270:470
1995.
M.R.,
Hohnekker
K. W., Zhon,
A。
遺伝子治療
et al.:A
controlled study
vector-mediated
epithelium
of patients
JV.
Eng./. Med.
11) Grossman,
gene
of
with
cystic fibrosis.
333 : 823-831,
M., Rader,
M., et a1.:Apilot
adenoviral
transfer in the nasal
1995
D. J., MuUer,
study
of ex
D. W.
vivo
gene
therapy for homozygous familiar
hypercholesterolemia.
-1154, 1995
Nature
Med.
1 : 1148
1581
日皮会誌:107巻13号(平成9年12月臨時増刊号)
P.1582∼1586
招請講演IV
らい予防法廃止への道
大谷藤郎
1907(明治40)年法律第11号癩予防に関する件の制定
めの監房を設置する」こととなった。裁判を行なわな
政府は1900(明治33)年,わが国最初の本格的のら
いで患者を処罰するという患者の人権を無視したもの
い患者一斉調査を実施した。この調査によれば,当時
であった。
のらい患者数は,
「浮浪者救済から懲罰に代わった」といわれた。
る率は,
30,359人で,人口10,000人に対す
6.43であった。またらい血統戸数19万9千75
戸,らい血統家族人口99万9千300人とも発表された。
1931(昭和6)年らい予防法改正
政府は1931
{昭和6)年それまでの浮浪らい患者の
医師でない警察官による調査で,実数はこの二倍と推
みの収容からすべてのらい患者を収容するために法律
定された。
の大改正を行なった。法律の名称も癩予防法と命名さ
一方帝国議会においても1902
(明治35)年以降らい
れた。この改正により,
患者取締りの意見か議論された。政府においては「患者
①らい患者でらいを伝染させるおそれのある者をす
が相当数に上り,社寺仏閣,公園,温泉場等を徘徊し
べて国立又は都道府県立らい療養所に入所させ,
て疫毒伝播のおそれがあり,その伝染を防止するため
その費用は国又は地方の負担とすること,
には法律を制定する必要がある」との見解に達して,遂
②行政官庁は,らい患者が業態上らいを伝染させる
に1907(明治40)年第23回帝国議会の協賛を経て法律
おそれのある職業に従事することを禁止すること,
第11号(昭和6年の大改正に際して癩予防法という名称
③古着,古蒲団等らい菌に汚染し,又は汚染した疑
が附されたが,当初は法律の名称はなかった)を公布し,
のあるものの売買,授与を制限し,又はそれらの
これを施行することとなった。癩は文明国として不名
物件の消毒,廃棄をなすこと,
誉であり恥辱であるとする国家の体面,さらには治安
④必要のある場合は市町村長にらい患者及びその同
的見地が優先したものであった。この法律内容は,
伴者を一時救護させることを定めたほか,医師又
①府県連合立のらい療養所を設置して,浮浪らい患
は公務員等の秘密漏洩罪も定めたのであった。
者を収容すること,
こうして癩予防法は,政府によれば,「初めて名実と
②らい菌に汚染した家について消毒その他の予防方
もに充実した体系」を整えるに至った。
法を行うこと,
年癩予防に関する件制定時の「らい予防は名目で実態
1907 (明治40)
③医師はらい患者を診断したとき,転帰の場合及び
は浮浪らい患者の救護収容」という救済的な趣旨から
死体を検案したときはこれを届け出るべきこと,
すべてのらい患者を根こそぎ地域社会から排除すると
④指定医師をして患者又は容疑者の検診を行なわせ
いう思想的質的に一大転換したものだ。ただでさえ黒
ることができるとした。
い血統として一般国民から忌避され嫌悪されていたら
1916(大正5)年療養所長に懲戒検束権
い患者と家族は,このことにより決定的に,「無用の存
法律第11号によるこれらの公立らい療養所は,治療
在であり,しかも社会に害をなす危険人間」として地
といっても名ばかりで,患者は取り締まられる一方で
域社会に住むことを許されなくなった。一般人が,患
あったことから,無秩序と混乱が所内を支配していた。
者らしき者を見つければ警察に密告するまでになった。
それを防ぐためには「療養所内の秩序の維持と犯罪ら
かくして日本社会におけるらい患者差別は決定的なも
い患者の懲戒を目的とする法律がどうしても必要であ
のになった。
る」という見地にたって1916
(大正5)年法律の一部
戦時体制下の国立らい療養所綱の完成と無らい県連動
を改正して,「療養所長に入所患者に対する懲戒検束権
らい療養所は,
を与えるとともに,各療養所に悪質患者を収容するた
生省に移管され,第二次大戦終戦直後のわが国のらい
1941
(昭和16)年7月1日すべて厚
療養所は,国立10ヵ所,私立3ヵ所,病床数は,国立
国際医療福祉大学学長
10,000床,私立290床にまで達していた。
らい予防法廃止
1931
1583
(昭和6)年癩予防法の制定,翌年の5・15事
病が伝染病である」ことを証明するために四苦八苦し
件にみるいわゆる非常時から日中戦争,大東亜戦争の
ていた。それくらい,ハンセン病が多発していた当時
戦時体制にはいると患者収容はますますエスカレートし,
のヨーロッパでも,疫学パターンは典型的な伝染病流
無癩運動,あるいは無癩県運動の旗じるしを高く掲げ
行のそれではなかった。しかもMange論文によれば,
て農山村に患者狩りを強行するにいたった。無癩県運
師のダニエルセンはハンセン病が伝染病でないことを
動の基本理念を光田健輔氏は雑誌「愛生」において
証明するために,
「我等療養所に課せられた新体制とは何であるか,祖
の信奉者に接種実験したという。結果はすべて陰性に
1844年と1858年に自分自身と自分
国浄化,同病相愛の大使命である。此二大目標に向っ
終わ・つていたのだ!
て,今ようやく成果をあげつつある」と述べていた。
師のダニエルセンは死ぬまで,弟子ハンセンの伝染病
大東亜癩絶滅に関する意見書
説を認めなかった。
光田健輔氏は「今や大東亜共栄圏に於ける3百万の癩
非医師による観察
を救助し,以て共栄圏内に不幸の疾病を予防すること
若い頃から患者を世話されてきた日蓮宗僧侶綱脇龍妙
は共栄圏十億官民に課せられたる重大の任務である。更
上人も,それほど伝染するとは考えていなかった。
生園(現韓国)が大御陵威の下にすくすくと成長した
同じように医師ではないか,神山復生病院長のドル
る道程は又以て南支に「ビルマ」に「ボルネオ」「スマ
ワール・ド・レゼー神父も,
トラ」「セレベス」印度等に採用せらるべきである」。(昭
い予防法実施私見」を発表して,らいの伝染力は微弱
和17年8月「愛生」)との考えで,この構想は翌1943
であるから,苛酷な隔離取締りは不適当であると主張
(昭和18)年7月に14療養所長連名で発表された「大
1907
(明治40)年に「ら
していた。
東亜癩絶滅に関する意見書」(「レプラ」)においても述
にもかかわらず,科学・医学の正統と目された日本の
べられているところで,日本の療養所隔離モデルをさ
らい医学会の大勢は,昭和の時代にはいると行き過ぎ
らに発展させてアジア諸国にも広めようという考えで
た絶対隔離,不治への思い込み,子孫を断つ断種手術
あった。国立らい療養所網の完成,無癩県運動,大東
の強制へと進み,政府がまた学会の考えをそのまま受
亜癩絶滅という加速し拡大していった絶対隔離一連の
けて癩予防法の名において集団隔離を推進することを
発想の流れをみていくと,当初のヨーロッバ近代医学
国策とまでするにいたって,誰もがそれをハンセン病
の新知識に学ぶという予防医学的発想から,戦時下の
予防の唯一の方法と信じて疑わなくなった。
異常なファナチズムに傾斜し,医学を越えた国家主義
しかし当時この学会の誤った大勢と政府国策の流れに
の排除システム構築という独自の構想を形成していっ
対して,ただ一人科学と人道の名において反対を叫び,
たもの怨ど観取されよう。
絶対隔離,断種等の施策の不可を断乎主張する人がい
絶対隔離の思想とベルリンにおける第一回国際らい学会議
た。京都大学皮膚科特別研究室主任の小笠原登助教授
戦前における絶対隔離の強力な指導者であった光田健
である。
輔氏(2)は自らの主張を実に精力的に多くの論文・エ
昭和16年第15回日本癩学会において袋叩きにあった小笠
ッセイに残されており,これらの論文によって氏自身
原登
の思想を知ることができる。
昭和18年学生であった私は小笠原登助教授のお手伝
光田論文に象徴されているように,日本における光田
いをしていた。そしてこれがその後の私のハンセン病
健輔氏やらい医学会の隔離中心主義は,らい菌の発見
への関わりの始まりであり,「らい予防法」廃止に立ち
にみられる西洋医学の導入が発端であるが,その代表
向かわせることになった。先生はその頃しばしば次の
例は土肥慶蔵氏が参加したといわれる第1回国際らい学
ように大阪での第15回学会について語られていた。
会議の影響である。この会議は1897
(略)(2)
(明治30)年ベル
リンで開催された。この会議には,それより20年以上
右は京都大学医学部「芝蘭会雑誌」22号昭和17年1
前の1873
月号に掲載された小笠原登自身の言葉であるが,朝日,
(明治6)年にらい菌を発見して,その後も
精力的にらい対策に取り組んでいたノルウェイのハン
毎日の2紙でもつぎのように報じた。
センが隔離政策の重要性を強調した。しかしハンセン
“小笠原説”へ鋭鋒 日本癩学会の大論争終わる(以
以外の他の学者たちの半数は,経済的財政的問題も考
下略)(1)
えてのことと思うが,必ずしも隔離一辺倒でもなかっ
この新聞記事にみる限り,「小笠原説は学術的根拠な
た。ハンセンはらい菌を発見していながら,「ハンセン
し」として学会員あげて葬り去ったことになっている。
1584
大谷藤郎
学会誌「レプラ」の第15回日本癩学会学術演説抄録で
良識ある医学者主流が一人の学者に対してどうしてこ
は,次のように伝えている。
うもイジメにも似た行動となっていったのだろうか。多
「64,野島泰治 癩の誤解を解く
勢の声が高まってくると,このようになってしまうの
L本年7月大朝に出た「癩は伝染病に非らず」「体質病
であろうか。
なりとの新説京大より出づ」の社会面の大見出しで出た
50年たった今日になってみれば,「小笠原登学説こそ
記事の如きは新聞が大阪朝日の如き大新聞で出所が京
総合的にみて正しかった,強制隔離は間違いであった」
大であり当の小笠原博士が其の講師であること,時恰
となり,「小笠原説を冷静に検討しようという学者が総
も全県あらゆる困難を忍んで実施した癩予防週間直後
会の場で一人もでなかったのはどういうわけか」とな
であった事等で其の実害は測り知れないものがあった。
るが,そうなるには研究が飛躍的に進歩する今日まで,
戦時下かヽる国策に反逆した無責任な記事が許されて
長い道程を必要としたということなのであろうか。
よいもの乎,若しあの記事が意識的にでもなされたも
これらの論争は,当時の医学者たちがとったビヘービ
のであれば其の罰万死に値すと極言してはばからない。
アも含めて,その検討は医学的にも社会的にも今日の
幸ひ京大総長医学部長を訪ねて想像の通り全く小笠原
我々に多大の教訓を残しているのではないか。社会が
博士の御意志でない事を確かめた。是非此の学会に於
全体主義的な熱病にとりつかれ興奮状態に陥ってくる
いてハッキリ小笠原博士に新聞記事題目の御訂正を望
とき,科学者は真に冷静客観的な科学者としてあり続
んでやまぬ。
け得るのかどうか。スティグマ,偏見は作用していな
1.猶ほ次いで大毎に此の学会で癩が遺伝乎,伝染か
かったのかどうか。
の大論争のあるが如き記事が出て演者も引き合ひに出
現在のハンセン病の感染と発病に関する共通の考えは
されてゐる事は残念だ。今更ら百年前の愚論を昭和の
平成7年らい予防法見直し検討会医学検討小委員会報告
今日に繰りかへす必要もない。只こんな事が記事にな
における次のものが代表的である。
る事自体が癩学会の恥でありそれだけ世の中に如何に
らい菌の毒力は極めて弱く,殆どの人に対して病原性
癩に関し誤解が多いかの証差である。(以下略)
を持たないため,人の体内にらい菌が侵入し,感染が
村田正大(座長)
成立しても,発病することは極めて稀である。しかし,
小笠原君に向ひ。新聞には癩は伝染病にあらずと題し
この菌に対して稀に異常な免疫反応を示す人があり,
てありましたが,あれはきみの云はれた言葉ではある
ハンセン病として発病する。このように,ハンセン病で
まいと思ひます。お伺ひしたいのは「癩は伝染病に非
は,菌の感染と発病との間に大きなずれがあることから,
ず」と主張されますか。「癩は伝染病だ」と云ふ通説を
この両者は厳密に区別して考えることが重要である。
否認せられますか。この点をハッキリこの席上で云っ
絶対隔離主義をもたらした日本独自の本質的動機
て頂きたい。
「癩予防法」とそれに続く終生隔離の強行というイら
小笠原 村田先生の御質問に対する御答え
い患者に対する一連の苛酷な治安警察的国策の遂行」
(1)癩は伝染性疾患かノ △
癩は細菌性疾患であることを認める。しかし私は伝染
は,らい医学者と政府によって進められたものだが,
その根拠は「予防医学」という純粋にヨ7ロッパから
性疾恵と云ふ意を二様に使ひわけて居る。一は広義の
教わった医学的理由からだけでは説明できない。
伝染病他は狭義の伝染病である。広義の伝染病とは単
底流にある排除の思想は明らかに当時の日本の時代背
に細菌性の疾患であると云ふ意でこの中には一般化膿
景の進行と直結しており,日増しに激しさを加えてい
菌性疾患,急性肺炎の如きものより「コレラ」,「ベス
たファッショ的時代精神の体現そのものであった。日
ト」の如きものを含む。狭義の伝染病とは病原体が輸
本型ファッシズムに向かって明治・大正から昭和の時
入せられた時頗る高率に発育する疾患に名づける。癩
代ヘー直線に進んでいった危険な当時の時代精神,つ
はその感染力頗る微弱なことは争はれぬ事実である。癩
まり日本民族の優位を願うあまり国家目的にそわない
は細菌性疾患ではあるが狭義伝染病に属せしむべきも
不肖の者は抹殺するという時代の要求に答えようとし
のではない。故に癩は広義の伝染病ではあるが大衆を
たものと考えないわけにはいかない。
して狭義の伝染病であるかの如き誤解を起こさぬよう
日本のらい医学者と政府は,ヨーロッパ医学に学んだ
に努めなければならぬ。(以下略)
といいながらヨーロッパ医学の人道主義の面を学ばず,
日中戦争から大東亜戦争へ挙国一致,国策の遂行とい
西欧列強入りを目指して突き進んでいた日本の国家主
う戦争の軍靴の音がー際高くなっていた時代とはいえ,
義,国粋主義の影響をもろに受け,さらには積極的に
らい予防法廃止
1585
それを推進し,協力していったと考えないわけにはい
対したが原案通り可決されてしまった。国会のエクス
力`なしゝ。
キユースとしては参議院で9項目の付帯決議が行なわれ
新しい時代はやってきたが
たのみであった。
1945
それにしても,化学療法の効果が分かってき=たこの時
(昭和20)年第二次大戦は終わり,焼土と化し
た国土にアメリカ軍を主とする連合軍が進駐してきた。
点において,法律案は全患協の主張のように諸制限を
1946
緩和し,保護法のような性格に改めるべきであった。し
(昭和21)年には新憲法が公布されて,基本的人
権の確立がうたわれた。
かも全患協は孤立していたのでなく,作家の阿部知二
戦前・戦後における強烈な国家の戦争目的の前には,
氏や平林たい子氏などの文化人の支援が一応あり,ま
「価値なき人間」として,また「大和民族の血を汚して
た国立医療機関の全国労働組合である全医労は,その
いる者」として,療養所という檻に閉じこめられて,
当時「自書らい」を編集配付しているが,その内容は
「癩予防法」の下に囚人のように取り扱われて選挙権も
今日からみてもハンセン病患者の解放につながる科学
なく,一般社会から遮断されてきたハンセン病の患者
的に実に正確な認識と主張であった。このような正し
さん方にとっても,新しい時代,すべての人間の権利
い内容の主張がどうして法律案に反映しなかったのか,
を認め,人間尊重を目指す時代がやって来たことは当
一般世論に受け入れられることがなかったのか,その
然のこととして伝わった。
ときの行政審議,政治決定プロセスに影響を与えなか
またすでに戦争中の1943
(昭和18)年には,アメリ
ったのか,残念というだけではなく全く理解に苦しむ
カで画時代的な治療薬としてプロミンが開発されてい
ところである。
て,らいは不治でも極悪でもないということも戦後に
それにしても医学者の意見はどうだったのか。
なってしだいに伝わってきた。
その前々年の1951
このような情勢の中で,国立療養所では患者自らの運
文化勲章を受賞した光田健輔長島愛生園長など三園長
動体としての自治会が,活発になり,処遇改善や職員
が参議院厚生委員会で「患者の意志に反しても療養所
(昭和26)年「救癩の父」として
の不正追求の諸要求を掲げて,対立的な摩擦もあちら
に収容できるように法政化すべし」と時代逆行を証言
こちらで生じてきた。
していた。
これらの運動の行きつくところとして,全国の民主的
また,政府案を作成した官僚の認識はどのようなもの
な患者組織,今日の全国ハンセン氏病患者協議会(略
であったか。国会デモから厚生省に座りこんだ患者代
称全患協)が1951
表は三日三晩政府側と交渉を続けたか,その一問一答
(昭和26)年に遂に結成され,人間
性の回復を目指し,一致団結しで人間としてめ解放を
が残っているが,政府側の不勉強は明らかである。
求める運動が始まった。
例えば,
こうして全患協は,国会や内閣,厚生省に対して癩予
全 患 職員に感染したものがない。成人が伝染した数
防法による巌しい諸制限を緩和するよう陳情請願を行
を聞かない。培養が出来ないのだから,消毒と
い,運動はようやく活発になっていった。
言うこともはっきり根拠がないと思う。そう言
実際に全国の支部長が直接顔を合わせて会議を持てる
うものに対して罰則まで設けて取り締る必要は
ようになったのは1952
ない。実例を示せ。
(昭和27)年5月24日から28
日にかけて多摩全生園に7支部が参加して行われた第1
政府側 国会に於ても我々も職員が感染したと言ったこ
回支部長会議が最初であったという。
とはない。感染したものはないと理解している。
これらの運動を受けて厚生省ではようやく重い腰をあ
伝染病は公衆衛生の立場から予防措置がとられ
げて昭和26年癩予防法を改正することになったが,全
るが,その方法が問題となる。一度かかったら
患協ではその新しい政府案の内容が旧癩予防法にくら
癒らない。発病か緩慢であるということを療養
べて殆ど改善されていないことを知って,驚き怒り,
を長期にわたり要すると言うことを勘案して,
そのままの政府案で国会に提出されるのに反対して激
今の措置がとられているわけだ。将来百発百中
しい講義活動にはいった。しかし政府は6月末にそのま
癒る特効薬でも出来れば予防法も変わって来る
ま提出した。
と思う。しかし今は新薬が出来ていてもこれで
1953
完全には癒らないのだから,伝染微弱といって
(昭和28)年8月6日,1ヵ月にわたる流血に
近いような激しい反対運動にもかかわらず,自由,改
もそれでほっとく訳には行かぬ。
進,緑風の各党が賛成,両社,労農,共産の各党は反
全 患 具体的な名前は挙げられなくてもいいから実例
1586
大谷藤郎
を示して欲しい。
法が公布された。
政府側 それは秘密漏洩の意味からもしない方がいいと
第二次大戦後の総括
思う。
第二次大戦後のプロミン普及と1946年の基本的人権
昭和28年らい予防法改正は結果として,戦前の間違
を主張する新憲法の公布という二つの事実の到来は日
った癩予防法をそのまま引き継いで人権侵害を続けた
本のハンセン病対策をしてコペルニクス的転回をさせ
が,それは誰の責任か,医学専門家,政府,政治家,
るべき性格のものであった。
マスコミのどの人も,死に物狂いで主張する全患協試
しかるに政府は従来の隔離思想そのままを踏襲する新
案を頭から軽視し,全患協はじめ数少ない支援者の必
法を1953年に成立させ,その後も海外の諸外国で開放
死の正しい主張にもすべて聞く耳を持てなかったのだ。
治療が主張され実施されていったのにかかわらずこれ
理解しようとしなかったのだ。が,これは死刑の冤罪
らの動きを無視し続けた。そしてようやく1996年廃止
裁判をみるようで人間社会として見過ごすことのでき
の手続きをとった。
ないまことに恐ろしいことであった!
けられたその理由と考えられるものは何なのか。
らい国際会議の決議
マルタ騎士修道会主催の下に,
89年間にもわたる苛酷な拘束が続
(1)政府も医学者も一般国民も明治以来のハンセン
1956
(昭和3)年4月
病患者を蔑視する固定観念にとりつかれていて
16日より同18日まで,ローマにおいて,51力国より
人権を考慮しなかったこと
の250名の代表者を包含して開催された「ライ患者の
(2)日本らい学会主流の指導者が「強烈な伝染と不
救済と社会復帰のための国際会議」は,らいが低い伝
治である」ことを撤回しなかったこと
染病であり,且つ医療により左右され得る疾病である
(3)行政当局が積極的にらい医学会と討論を深めて
ことを主張している。
世界の医学の進歩を吸収しようとしなかったこ
本疾病に罹った患者達は,いかなる他の特殊な法規も
と
つくることなく,例えば結核の如き,他の伝染病に罹
(4)在園者自身が1970年以降は運動の比重を転換し
った者と同様に取り扱われる。従ってすべての差別待
たこと,これは長引いていた強制収容生活によ
遇的な諸法律は撤廃されるべきである。
る諦めと高齢化による社会復帰への自信の喪失
まことに目の覚めるように明快なこの解放宣言は,
によるもので,その責任は,収容者をして「ら
その3年前に成立した日本の新法(現行らい予防法〉と
い予防法は絶対不滅」と諦めさせるにいたった
比べると,黒に対する白といってよいくらい理念の明
国家社会にある。
暗を異にしており,これに3大の日本人専門家か参加し
歴史の追求を続けるべき
たが,日本のハンセン病対策になんの影響も及ぼさな
わが国のらい予防法は,隔離など強制的手段が世界一
かった。
厳しく行き過ぎたう,えに法廃止が遅れたために長年月
1958
(昭和33)年国際らい学会議(東京)
1958
(昭和33)年に東京で開催された第7回国際ら
にわたり人権の侵害を招いた。
その原因については,以上四つの直接的な理由の外
い学会議の社会問題分科会でも次のような技術決議が
に,難しい問題で自分に関係ないことはできるだけ解
行われていた。政府がいまだに強制的な隔離政策を採
決を先送りさせて頬かむりをするわが国社会の上にも
用しているところで,その政策を破棄するように勧奨
下にも無責任体質がある。
する。
第二次大戦中の「ナチス犯罪」や精神障害者の安楽死
病気に対する誤った理解に基づいて,特別ならいの法
に対する第二次大戦後のドイツ政府とドイツ国民の責
律が強制されているところでは,政府にこの法律を廃
任のとり方は徹底しており,私たちはそれに学ばねば
止させ,登録を行っているような疾患に対して適用さ
ならぬ。ハンセン病だけでなく,水俣病や薬害エイズ
れている公衆衛生の一般手段を使用するようにうなが
のような同じような被害の続出を防ぐためにも民主主
す必要がある。ローマ会議同様にこれがどうして日本
義の確立のためにも,歴史をただしてその責任の所在
の患者さんや日本国民に伝えられなかったのだろう。
を明らかにする努力が不可欠である。
同じこの東京会議に出席した琉球軍政府A・マーシャ
また医学教育の中でその責任論をとりあげ,後世への
ル大佐は沖縄に帰任後,沖縄の開放治療に踏み切った。
警めとする必要がある。
さらに,
資料(1)大谷藤郎「現代のスティグマ」(勁草書房)
1961
(昭和36)年に退院や外来治療を盛りこ
んだローマ会議の趣旨にあう琉球政府ハンセン氏予防
(2)大谷藤郎Fらい予防法廃止の歴史」(勁草書房)
日皮会誌:107巻13号(平成9年12月臨時増刊号)
P.1587∼1592
招請講演V
ヘルペスウイルスの研究の進展
新居志郎
ウイルス学関連諸領域におけると同様に,うルペスウ
図1は6種のヒトヘ,ルペスウイルスのゲノム構造を模
イルスの分野においても近年幾多の進展がみられてい
式的に描いたものである。これらのなかで.
るか,その内特に皮膚科領域に関連する話題について
HSV-2,CMVの3種のウイルスは長短二つの領域(L
HSV-1,
述べてみたい。
鎖とS鎖)から成り,両領域の末端にはそれぞれ逆向き
I,ヒトヘルペスウイルスの種類
の繰り返し配列(反復配列)があるという類似点があ
最近10年余の間に新しいヘルペスウイルスの発見が
る。L鎖とS鎖からこれら反復配列を除いた部分にユニー
相次いでなされ,ヒトのヘルペスウイルスは8種類を数
ク領域がある。これらのウイルスが2対の逆向き反復配
えるに至っている。ヘルペスヴイルス科に属するもの
列を有するのと異なり,同様にL鎖とS鎖から成るvzv
は,生物学的性状によってさらに3種の亜科に分類され
では1対のみである。他方,
ている。この分類にしたがってヒトヘルベスウイルス
配列をもっている。図中には示してないが,
の相互の位置付けと各ウイルスのおこすおもな疾患に
HHV6と基本的に類似した構造をもっている。またEBV
ついてまとめたものが表1である。
では,ゲノム末端の反復配列のほかに,ゲノム内に4個
単純ヘルペスウイルス(HSV)を含むα亜科の各ヘ
の反復配列があり,これらの間に5個のユニーク配列が
ルペスウイルスは,増殖が早く細胞破壊性で,多量の
介在している。このように,ヒトヘルペスウイルスの
ウイルスを産生する。神経節に潜伏感染するものが多
ゲノムは,ウイルス間にサイズの多少の不揃いがあ。る
い・β亜科の各ヘルペスウイルスは増殖が遅く限定し
ほか,基本構造に上述のような多様性がある。
た宿主域をもつ。感染細胞はしばしば巨大化する。7
HSV-1を例にとると,表2のように読み取り枠(open
亜科の各ウイルスはいずれもリンパ芽球様細胞でよく
reading
増殖する。なかには上皮様細胞や線維芽様細胞で融解
る重複部分を考慮すると少なくとも84種のポリペプチ
感染をおこすウイルスもある。これまでEpウイルス
ドを発現しうることが知られている‰ゲノム内の各遺
(EBV)のみがy亜科に属していたが,最近発見された
カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(HHV8)がここに属
HHV6は両端に順向反復
HHV7は
frame ; ORF)の総数は89,反復領域にあ
伝子の局在部位,転写の方向,転写産物の大きさ,生
成蛋白約50種の機能が明らかにされている1・‰このほ
することになった。
か感染細胞内には,目下蛋白の特定が不明確なゲノム
1986年と1990年にそれぞれ分離発見されたHHV6
領域からの転写物,例えば潜伏感染付随RNA
(latency
とHHV7は共にCD4゛T細胞でよく増殖し,両ゲノム
-associated
は相互に,またヒトサイトメガロウイルスとも相同部
開始点の転写RNAなどが存在する‰
transcript ;LAT)や,ウイルスDNA
分を有し,これら3種のウイルスはβ亜科に属している。
ウイルス粒子の構造もまたウイルス分類上の今一つの
Ⅱ。ヘルペスウイルスのゲノムと粒子の構造
大きい柱である。ヘルペスウイルスのビリオン(成熟
去今の分子生物学の急速な発展と軌を一にして,諸種
ウイルス粒子)は,外部からエンベロープ,テグメン
ヘルペスウイルスのゲノム内の各種遺伝子が同定され,
ト,カプシド,コアの4主要構造より成っている。ゲノ
またこれらの機能に関する幾多の知見が集積した。こ
ムは最中央のコアの部分に位置する‰カプシドにっい
の成果は,ヘルペスウイルス研究の進展のなかでも特
てはどのヘルペスウイルスもおよそlOOnmの径をもち,
筆すべきことであろう。
ビリオン全体の大きさは個々のウイルス種により異な
ヘルペスウイルスのゲノムは2本鎖DNAよりなる。
るが150∼250nmの範囲にある。
ヒトヘルペスウイルス群のゲノムの大きさは,およそ
ビリオンの大きさは,主としてテグメント構造の大き
125∼230kbpの範囲にわたる。
さに依存する。近年発見のHHV6とHHV7のビリオン
が明瞭なテグメントをもつという特徴のあることが明
岡山大学名誉教授・川崎医療短期大学
らかにされた。他方発育途上の核内粒子にっいては,
新居志郎
1588
HSV-1
HSV-2
Ul ilR
vzv
i
TR
iRlT
EBV I
TR
Us
■IR2 U3 IR3 U4 IR4 U5 TR
TRl Ul IRliIRs
Us TRs
HCMV 1
DRl U m DRn
HHV-6
150160
0 50 100
0
50
100
150
200
240
(×106タリレトン)
(×103塩基対)
(注, HHV7とHHV8は割愛)
図1.ヒトヘルペスウイルスのゲノム構造模式図
低電子密度コアの微細形態によって各ヘルペスウイル
ことに成功している4≒この実験成果は,カプシドの形
ス種間に微妙な差異を指摘することか可能であり,各
態形成の条件を明らかにすることに成功したもので,
種のヘルペスウイルスは上述の共通した基本構造を保
今後の展開にもまた興味がもたれる所である。
有しながらも,同時に個々のウイルス種を特徴づける
Ⅳ。ウイルス粒子の増殖と放出
末梢的な相違点を保有している‰
ヘルペスウイルスによる感染の初期反応として,宿主
Ⅲ。ウイルス増殖の分子機構
細胞へのウイルスの吸着後直ちにエンベロープと細胞
ヘルペスウイルス感染後のウイルス遺伝子の発現に関
膜との融合によってヌクレオカプシドが細胞質に侵入
連して,
する。粒子は細胞質内を移動し,核膜孔近くに達して
HSV-1ゲノムのORFはa , 貼7の3群に
分けられており,各群相互の発現は互いに規則正しく
DNAを放出する。ウイルスDNAの合成並びに粒子の
制御(カスケード様式)されている。すなわちα遺伝
形態形成は核内で起こる。
子群の発現が最初に起こり,生じたα蛋白はβ遺伝子
以後の粒子放出過程については異論があるが,我々の
の発現を誘導し,次いでβ蛋白の機能によってウイル
見解は次の通りである。成熟核内粒子は一旦内側核膜
スDNAの合成が始まり,α蛋白と生成ウイルスDNA
部でエンベロープを獲得して核膜腔に出るが,直ちに
が7遺伝子の発現を誘導する。このようにα蛋白は後
外側核膜と融合してこれを脱ぎ捨て,細胞質に入る。こ
続発現遺伝子(βおよび7遺伝子)の発現誘導並びに
の部でテグメントを獲得し,細胞質内空胞膜部で最終
調節にあずかると共に,宿主反応を抑制する機能を有
のエンベロープを被って成熟粒子となる3几HHV6感
し,β蛋白はウイルスDNA合成と核酸代謝の調節に主
染細胞の電顕観察を基に提出した我々のこの仮説は,
として関与し,7蛋白は主としてウイルス粒子の構成
その後他の諸種ヘルペスウイルスで同様の結論が得ら
蛋白となる≒。
れようとしている。
近年の遺伝子操作技術の進歩に伴って,ウイルス粒子
V. HSV-1とHSV-2
形態形成の機構解明の上にも顕著な進展がみられてい
HSVが血清反応によって2種以上に区別されること
る。ウイルスカプシドの構成蛋白に関連する6種の遺伝
はかなり以前からいわれていたが,新鮮分離ウイルス
子を個々別々に組み込ませた組換えバキュロウイルス
が1型と2型の2種の亜型に分けられることが明らかに
を作成し,これを宿主細胞に重複感染させることによ
されたのは1960年代のことである‰
って低電子密度コアを含有するカプシドを産生させる
国内の性器感染症の現状について,東大川名 尚教授
(以下l型と2型と略称)
1589
ヘルペスウイルスの研究の進展
表1.ヒトのヘルペスウイルスとその疾患
ウイルス種名
分類上の命名
通称名
亜科
名
おもな疾患
human
herpesvirusl
単純ヘルベスウイルス1型
herpes simplex virus 1
(HSV−1)
α
急性ヘルペス性歯肉口内炎,
口唇ヘルペス,上気道感染症,
角膜炎,脳炎,髄膜脳炎,
ヘルペス性擦疵,接種性ヘルペス,
ヘルペス性湿疹,性器ヘルペス,
新生児全身感染症
human
herpesvirus 2
単純ヘルベスウイルス2型
herpes simpleχ virus 2
(HSV−2)
α
性器ヘルペス,ヘルペス性擦疵,
接種性ヘルペス,ヘルペス性湿疹,
新生児全身感染症,亜急性髄膜炎
human
herpesvirus 3
水痘一帯状庖疹ウイルス
varicella-zoster virus
(VZV)
α
水痘,この合併症として肺炎,脳炎
その他の中枢神経症状
帯状庖疹,この合併症として神経痛,
Ramsay
Hunt症候群,
汎発性帯状庖疹など
human
herpesvirus 4
EBウイルス
Epstein- Barr
(EBV)
7
伝染性単核症,まれに伴性劣性遺伝
リンパ球増多症候群,
Burkittリンパ腫,上咽頭癌
human
herpesvirus5
(ヒト)サイトメガロウイルス
(human)
cytomegalovirus
(HCMV)
β
先天性巨細胞封人体症,
単核症,輸血後症候群,肝炎,肺炎
human
herpesvirus 6
virus
ヒトヘルペスウイルス6…t..
(HHV6) B β
不明
突発性発疹,懐死性リンパ肺炎
human
herpesvirus 7
ヒトヘルベスウイルス7
(HHV7)
β
突発性発疹
human
herpesvirus 8
ヒトヘルベスウイルス8
(HHV8,KSHV)
7
カポジ肉腫(?)
の成績によれIf",女性性器から分離されたウイルス332
ワシントン大学のCorey博士は10)
株中,l型149株(45%),
る性器ヘルペス感染症の症状の軽重に関連して,痛み,
2型183株(55%)であり,
男性性器からの分離14株中,1型1株(7%),
2型13
2型ウイルスによ
ウイルス排出,痴皮形成,治癒の4項目について,持続
株(93%)であった。この成績は性器での病巣形成に
もしくは所要日数を調べ,以下の3群,①過去にヘルペ
ついて,1型ウイルスもまた積極的な関与のあることを
ス感染歴がなく,初めて2型ウイルスの性器感染を受け
示している。
た者,②過去に1型ウイルスの感染歴があり,2型ウイ
しかしながら,生殖器ならびにその周辺部における再
ルスの性器感染を受けた者,③2型ウイルスによる性器
活性化ウイルスについての検討では,分離ウイルスの
ヘルペス再発患者,について比較検討した。その結果
殆どは2型である。口唇ヘルペスからのウイルス分離成
4項目のいずれについても①>②>③の順に重症であっ
績も含めて,
た。1型による既感染者では,以後の2型による性感染
HSVの潜伏感染については1型と三叉神
経節,2型と仙骨部神経節との間には密接な相互関係の
症が軽症に済むことは,1型と2型ウイルス間に交叉免
あることが明らかにされており,生物学的にも大変興
疫性のあることを示している。
味深い所である‰しかしこの相互関係の機構を解明す
上記の成績に関連して懸念されることは,最近の我が
ることは至難のことと思われる。
国では成人に達してもなお半数近くが初感染を経験し
1590
新居志郎
く検出されるのは約2kbのもので,次いで1.5kbのも
表2. HSVの遺伝子とゲノム内存在領域
これよりやや大きいRNAとして転写され,その後切断
遺伝子
(ORF*)
ゲノムの領域
のがあり,これら安定型のLATは最初8.3kbあるいは
数
されて小型サイズのものとなる。 :。
LATがコードされているDNA鎖と反対側のDNA鎖
L領域
にはα遺伝子の一つであるICPOが存在し,安定型LAT
a4 a'b'
aO,
ri345,
UL1∼56,
Ul
ORF-P,
ICPOの発現を調節しているものと考えた。
27.5,
49.5
遺伝子はICPO遺伝子のy末端約30%と重複してお
り,したがってStevensはLATがanti-sense機構で
8.5, 9.5, 10.5。
12.5, 20.5, 2a5,
4a5,
8
0
65
先の項(Ⅲ。ウイルス増殖の分子機構)で述べたよう
に, HSVの増殖はα遺伝子群の発現に始まるカスケー
ド様式で進行するが,ICPOはα遺伝子の一つであり,
S領域
α4
Us
US1∼12,
2 14
a'c', ca
1.5, &5
伏感染状態に入り易くし,またこの状態の維持に役立
つことが推定された。
89 84
総数
単独コピーの総数
*読み取り枠
したがってLAT発見の初期にはICPOの発現抑制は潜
Roizman (1996)"
次いでLATの機能的役割の解明のために,LATの発
現が不能な種々の変異株を用いた実験か行われた。変
異株としては,潜伏感染細胞内でもっとも多量に検出
される2kbのLAT領域や,さらにそのpromoter領域
を欠失したものなど種々が利用された。これらの実験
ていない状況となっており1U2)_
2型ヘルペス感染症が
結果は,LATは潜伏感染の成立についても,維持にお
重症化し,また性感染症としてのヘルペスの拡がりを
いても大して重要な働きをしていないらしいことを示
促進する条件が生じていることである。
した。
なお病原性状とは別に,2型ウイルスは感染細胞核内
さらに,潜伏状態から活性化するに当ってのLATの
に微細管状構造を出現せしめるというきわめて興味深
機能的役割についても検討されたが,相互に相反する
い生物学的特徴点を有している‰
成績が出されて結論は得られていない。せいぜい活性
VI.潜伏感染の機構−HSVについて
約70年前にGoodpasture
13)
(1929)は口唇ヘルペス
化の遅延が起こる程度に過ぎないのかもしれない。こ
れに関連して,主要LAT遺伝子の近縁にcAMP反応領
発症後の病理組織学的観察所見から,ウイルスの軸索
域があり,種々の刺激に応じて細胞内のcAMPが量的
内輸送,神経細胞での潜伏感染,神経の何らかの障害
に増加し,次いでLAT
promoterに作用が及びLAT
によって再発の起こることを推測していたが,それは
の機能を通じて活性化を制御する可能性も考えられて
まさしく炳眼であった。
いる。
HSVの潜伏感染機構解明の第一の画期的展開は
結論として,
StevensとCook
感があり,第三の画期的展開に期待を寄せたい。
(1971)によってもたらされた。マ
HSV潜伏感染機構は未だ解明に程遠い
ウス足随へのウイルス接種後,日を追って腰仙骨部の
Ⅶ。潜伏感染の機構 一潜伏の場としての宿主細胞−
脊髄後根部の神経節を採取し,これを磨砕するこ・とな
HSVとVZVは共に神経節を潜伏感染の場とするが,
く,細胞を生かして培養することによって,4箇月を経
細胞レベルではHSVはノイロンを,VZVはサテライト
たマウスの材料からも感染性ウイルスの回収に成功し
細胞を宿主とすることがin
た。つまりウイルスがin
示されている。 VZVについては確定的とは断じ難いが,
vitro培養によって潜伏状態
を脱して活性化し,増殖を開始することが示された。
第二の画期的展開は,
in
situ
hybridization法に
situ
hybridization法で
帯状庖疹の病巣の巾の拡がりの範囲が大きいこともサ
テライト細胞説を有力視する傍証として考えられてい
よって,潜伏感染中もHSVゲノムの一部転写が進行し
る。つまりウイルスが活性化したサテライト細胞から
ていることを発見したもので,この転写物はlatency-
隣接並びに近縁のかなりの神経細胞に感染が波及し,
associated
末梢性に伝播される結果このような病巣形成に至ると
transcript(s),あるいは略称してLAT
(s)と呼ばれている。 LATについて量的にもっとも多
説明される。
ヘルペスウイルスの研究の進展
1591
バースト(burst)形成と穎粒球・マクロファージのコ
表3. HHV6Bによる初感染時の合併症
ロニー形成に及ぼすHHV6の影響を検討したところ,
ウイルス接種群では顕著に両者の抑制されることが示
熱性痙撃,脳炎,髄膜脳炎,
された1‰対照的に,
肝炎,血小板減少症
は認められなかった。
HHV7接種群ではこのような活性
HHV6の生物学的並びに病因論的役割のなかで特に
注目された仮説には,
Gallo博士が提唱したエイズ発症
その他HCMVでは穎粒球・マクロファージ細胞が川,
のcofactorとしてのHHV6の関与があり,関連して多
HHV6Bではマクロファージが15),EBVではB細胞が
数の分子生物学的並びに免疫細胞学的実験報告があ
それぞれ潜伏感染の宿主細胞となっている。
る1゛)。しかしながら生体レベルの検討成績については
Ⅷ,最近発見されたヒトヘルペスウイルス
種々議論のある所で明確な結論は得られていない。
(HHV6,HHV7,HHV8)
2)HHV7
過去10年余の間にヒトヘルペスウイルスについて新た
Frenkelら(1990)は,健康人の末梢リンパ球から
に3種が発見され総数8種を数えることになった。これ
CD4T細胞を抽出し,T細胞を活性化する条件で培養す
らの発見がなされるに至った背景について述べておき
ることによって新しいヘルペスウイルス;
たい。
離発見することに成功した2‰本ウイルスはHHV6同
やや先行してヒトの重要なレトロウイルスであるHTLV
様にTリンパ球に親和性を有するが,リセプターは相
HHV7を分
-IやHIVの発見が相次いでなされていたこともあり,
互に微妙に異なることが示されている。
ウイルス研究者の関心は自ずと血液に関連するウイル
突発性発疹の病因となるが,好発年齢はHHV6よりや
HHV7もまた
スとその疾患に向けて高まりつつあった。同時に,こ
や遅れて1∼2歳頃である。
れらレトロウイルスがリンパ球に親和性のあることか
HHV7の伝播様式を知る我々の試みとして,3世代に
ら,血液由来細胞の長期培養法の技術が遂次整備され,
わたる数家系の構成員のウイルス分離を行い,次いで
レトロウイルスのみならずこれら細胞を宿主とするウ
これらウイルスについてゲノムの制限酵素切断パター
イルス研究の準備状態が確立されていたのである。
ンを比較検討したところ,同一パターンが親子は勿論,
1)HHV6
3世代にわたって認められる場合もあり,HHV7が密な
Salahuddin
(1986)らによって,
AIDS患者を含む
接触を通じて水平伝播することが示された2‰
リンパ増殖性疾患患者のリンパ球の細胞培養が試みら
3) HHV8
れ,これら培養中に細胞変性効果を伴って増殖するウ
herpesvirus
イルス性因子が分離され,新ウイルスの発見となったl‰
エイズ関連カポジ肉腫(KS)は,男性,特にホモに
その後本ウイルスが突発性発疹の病原因子であること
多いが,国内のエイズ患者でも20∼30%に合併すると
が山西ら(1988)によって明らかにされた1≒また突
いわれている。Changら(1994)によって,同患者KS
発性発疹を伴う初感染時の合併症として表3に示すもの
の組織からリスザルヘルペスウイルスやEBVのゲノム
が挙げられている。
と相同部分をもったDNA断片が分離され,本ウイルス
HHV6は,その後のゲノムの解析や単クローン抗体
を用いた検討によってA,
B
はsubtype
’s sarcoma
− associated
; KSHV)
の発見となった2‰その後電顕観察によるウイルス粒子
2種の変異株(variant)
に区別しうることが明らかとなり,さらにvariant
( Kaposi
の検出もなされた。
B
BIとBバこ分けられるといわれている。
HHV8がエイズ関連KSの病巣組織から高率に検出さ
れる事実とは別に,本ウイルスの病原性については何
興味深いことに,突発性発疹の病原因子として分離さ
等明らかにされていない。またKSの発症機構について,
れるものは殆どすべてvariant
HIV感染によって誘導されるサイトカインの作用なの
Bで,
variant
Aのも
たらす疾患については未だ確立されたものはなく,今
か, HHV8の腫瘍原性に基づくものなのか,あるいは
後の検討に委ねられている。ただし成人の免疫不全宿
両者の相互作用か必要であるのか,またHHV8は単な
主からはvariant
るpassengerに過ぎないのではないのか,などについ
Aがより高頻度に分離されるという
事実がある。
骨髄移植時の拒絶反応に関連して,我々は臍帯血から
単核球を分離後Tリンパ球を除去し,造血前駆細胞の
ては今後の課題である。
1592
新居志郎
Ⅶ。おわりに
17)
高齢化社会の到来とエイズ患者や臓器移植受容者の増
-1067.
加に伴い,これら免疫機能の低下もしくは免疫不全宿
18)
主における諸種ヘルペス感染症が増加傾向にある。他
-412.
方社会的環境の変化と共に,一部のヘルベスウイルス
19)
感染症では初感染年齢層の上昇がみられている。
Retrovirusesand Herpesviruses, edsKung
近年特に進展著しいヒトヘルペスウイルスの研究課題
づ,
Wood
は,3種新ウイルスの発見とこれらの病原的並びにウイ
pp
90-104.
ルス学的性状に関するものであり,不明の諸問題につ
20)
いて現在も積極的な研究が展開されつつある。
-122.
文 献
21)
1)
Roizman
93,
2)
B
(1996)Proc
11307-
Roizman
B,
AE
BN
et
Philadelphia),
Nii
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4)
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3rd
(1992)
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Electron
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10,
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-1052.
5)
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DR
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68,
2442
-2457.
6)
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Prophylaxis
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eds Lopez C et al
Exp
Nahmias
AT,
Virol 10,
HerDesvirus
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Infections,
(Plenum Press,
York),Adv
7)
jmmμnobiology
Med
New
Biol 278,
Dowdle
WR
19-28.
(1968)Prog
8)川名 尚(1996)医学のあゆみ177,
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Nahmias
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AJ
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Evans
AS
3rd
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pp
L
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ed
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日皮会誌:107巻13号(平成9年12月臨時増刊号)
P.1593∼1596
招請講演VI
単純ヘルペスウイルス感染症の免疫療法
藤沢幸夫
1。はじめに
単純ヘルペスウイルス(HSV)は,粘膜組織での初
Expression
感染の後に神経節に潜伏感染し,免疫抑制状態の際や
plasmid
of t-gD-IL-2
紫外線,ストレスなどの刺激を受けた際に,その神経
成心k、
節が支配する皮膚や粘膜表面で再発感染を起こし,痛
みや庫みを伴う病巣を誘発させる。HSVの持続感染者
総数は米国では2500万人と推定されており,再発感染
は主に性器粘膜や口唇粘膜あるいは角膜上皮に現れて
痛みや楳みを呈する。アシクロビルは急性のHSV感染
に対して著効を示すが,再発感染に対しては長期間の
連続服用が必要であり,また根本的に治癒することは
難しい。最近,HSV治療ワクチンが米国で臨床試験中
であり,今後の展開が注目されている。著者らは,新
しいコンセプトで作製した融合蛋白質がアジュバント
の添加なしで強力な免疫原性を発揮し,
染および再発感染の予防効果のみならず,
125 301 394 120 15
四¬皿
HSVの急性感
HSV急性感
HSV・19D
染に対する治療効果を発揮することを見いだしたので,
その結果について報告する。
IL-2
図1.
2.融合蛋白質(gD-IL-2)の作製
HSV抗原とアジュバント作用を有するIL-2とを常に
メーショナルなエピトープをよく保存し,また対照のリコ
共存させることを考え,細胞性免疫のエピトープを含
ンビナントIL−2と同程度の活性を保持していた。
む糖蛋白質D(gD)とIL-2とからなる融合蛋白質(gD-
4・ 9D-IL-2の免疫原性
IL-2)を以下のように作製した。すなわ乱 HSV-1深
(1)gD-IL-2は,BALB/c,C57BL/6などのマウ
山株由来gD遺伝子の膜貫通コード領域の直前にある制
スにおいて,アジュバントを添加せずとも優れた抗体
限酵素Hinflの下流に,成熟型IL-2コード領域を結
産生能を示した(表い。
合させ,融合蛋白質gD-IL−2の遺伝子を構築した。
SV40初期プロモーターの支配下でgD-IL-2遺伝子を
発現させるプラスミド(図1)を構築し,マウスミエローマ
細胞株Sp
2/0-Ag
表1.
Efficient p「oduction
of antl-HSV antibody §nmice
immunized
14に導入した。 gD-IL-2を発現した
with t-gD-IL・2
Anti-HSV
マウスミエローマ細胞株の培養上清から,疎水性カラム
クロマトグラフィー,イオン交換カラムクロマトグラフィー
およびゲルろ過によってgD-IL-2を精製単離した。
3.gD-IL-2の物性
gD-IL-2精製標品は分子量約55Kの糖蛋白質であり,
N結合型のbiantenary複合糖鎖(complex型)を含有
武田薬品工業㈱分子薬理研究室
1内 5μ9
(BALB/c
LB/cmlC8)
mice)
<7 ND
Control
Control
MD
MD
Mixture
Mixture oft・oOandrtし
oft・oOandrtL-2
t・9D・│し2
t-gD adsoibed
on alum
(CS7BU6mice)
Control
t-gD
Mixture
t-gD
MD
ND
<15 9±4
23±29 35±38
1.018土1,833
ND
400±292
341±267
46.183土38,443
ND
692±442
481±451
DDDOD
NNNNN
していた。gD-IL-2は,HSV-1由来gDのコンフオー
antb《
Primaiy
(dose/mouse)
Primaiy(dose/mouse)
Antigen
of l-gD and rlL-2
-IL-2
adsoit)6d on aluin
1594
藤沢幸夫
(2)gD-IL-2で免疫したマウスの眸細胞は,非感染
したがって,
の標的細胞および感染した標的細胞のいずれに対して
gD特異的なヘルパーT細胞を誘導し,その作用はCFA
gD-IL-2はアジュバントを添加せずとも,
も明らかなキラー活性を示した。また,HSV-1感染標
添加で得られる効果に匹敵するものであった。
的細胞に対するキラー活性は非感染標的細胞に対して
5・ 9D-IL-2によるHSV-1感染防御効果
よりも明らかに強いものであった(表2)。感作された
(1)抗原をBALB/cマウスに皮下投与し,5週後に
細胞傷害性Tリンパ球(CTL)がキラー活性を示した
2×104pfu(10LD。)のHSV−1を腹腔内に接種して
標的細胞は,MHCクラスnを発現しているマクロファー
3週間後の生残数を調べた。
ジ様細胞株P388で,MHCクラスIを発現しているマ
CFA投与群と同様に,gD/アラム投与群よりも約3倍
gD-IL-2投与群は.
ウス線維芽細胞様細胞株には作用しなかった。また,
強い抗体産生が誘導され,ウイルス接種後に死亡する
HSV感染によってCD4陽性のCTLがマウスとヒトで
個体は見られなかった。
確認され,その標的抗原はgDであることが知られてい
を増やして高い抗体価を誘導しても,感染防御効果は
る。以上のことから,gD-IL-2によって誘導されたgD
特異的CTLは,MHCクラスII拘束性であり,
改善されなかった。
CD4陽
gD/
gD/アラム投与群では,抗原量
gD/CFA投与群においては比較的
低い抗体価でも優れた感染防御効果を示した。これら
の結果から,感染防御においては体液性免疫以外に細
性のキラーT細胞であると想定される。
胞性免疫の役割も非常に重要であることが示唆された。
(2)gD-IL-2を初回と3週目の2回,BALB/cマウ
表2.
Induction of killercells in spleen cells immunized
with
Invl。
t-gD-IL-2 atterIn vltm stimulation wtth HSV・1
スに鼻腔内投与し,5週目に血中抗体を測定し,翌日2.
4×10汀CID。のHSV-1を腹腔内に接種して3週間後
の生残数を調べた。その結果,gD-IL-2投与群におい
て優れ%抗体産生が誘導され,明らかな感染防御能も
認められた。 C3H/HeマウスにgD-IL−2を2回,経
鼻投与した場合,5週後の血中にlgG抗体が著しく産生
されるとともに,鼻孔内に分泌型抗gD-IgA抗体が産
生され,有意に優れた感染防御能も確認された。
6. HSV-1急性感染に対するgD-IL-2の治療効果
(1)ハートレー系モルモットに5.8×105pfuのHSV
-2を腔内接種し,最初の病巣が現れた4日目と11日目
(3)gD−IL−2で免疫したマウスに,gDおよびgD/
の2回,
アラムで刺激すると,gD/完全フロイントアジュバント
で病巣の変化を観察した。その結果,急性感染による
(CFA)で免疫した場合と同等の遅延型過敏症(DTH)
による明らかな腫脹が見られた。この場合,
gD-IL-2
12.5μgのgD-IL−2を皮下投与し,96日ま
病巣はgD-IL-2の1回の投与で抑制される傾向がみら
れ,2回目投与以降にはその出現が有意に抑制された(図3)。
で刺激すると,さらに強い反応が観察された(図2)。
Effect oft≒9D・lし2 on recurrent herpetic lesions after onset
DTH
response
Induced
by t-gD-IL-2
HSV-2 of
primary lesions (experiment
4↓ 4●:トgD-IL-2
Primed Stjmu↓^ted
with with
1)
(12.5iig/amim・×2,sc)
None None
None t-gD/alum
uorssi
t-gD(CFA t-gD
t-gO£FA t・^D/alum
u≪3w
t-gD-lし2 t-gD
(pBAJ3;U!/08p-^J8Cl)8
ajoos
None t-gD
t-gD-IL-2 t-gO/alum
トaD-IL-2 l-gD・IL・2
t-gD-lし2 IL-2
t-gD・IL・2 IL-2/alum
20
0 10
A
●:P<0.005,
・san士SEM
McP<0. 0 0 1
(n.^ )
図2.
footpad
swellJng
V8 control (Student
(mg)
t test)
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
Four-day
intervals
20
after onset
of therapy
*Pく0.06. ≪ ・戸<
0.02 vs control(Same)
students (test(two-tailed)
・ mean士SEM(「F6」
図3.
1595
HSV感染症の免疫療法
病巣出現日数は,非免疫の対照群で56日,アシクロビ
は認められなかった。したがって,
ル投与群(lOOmg/kg/day,
原性は,・。本融合蛋白質の体内動態の変化によるもので
あったのに対し,
5日間連投)で43日で
gD-IL-2の高免疫
はないことが示唆された。
gD-IL-2投与群では20日と有意に
低下した。 gD-IL-2の治療効果は,抗体価の上昇によ
(2)
るものとは考え難く,細胞性免疫の活性化によると推
とを混合して投与した場合に,抗アルブミン抗体はほ
定された。
gD-IL-2と第3の抗原(ヒト血清アルブミン)
とんど誘導されなかったことから,
(2)上記モルモット評価系を用いて,
gD-IL-2
5μg)とアシクロビル(50mg/kg/day,
(12.
5日間連投)
gD-IL-2が強力な
アジュバント活性を有しているとはいえない。
(3)gD-IL-2を投与すると,高い抗gD抗体価は誘
の併用効果をウイルス接種後44日目まで調べた。併用
導されたが,抗ヒトIL-2抗体はほとんど産生されなか
群では,gD-IL-2単独投与群よりも急性の感染病巣が
った。この結果は,細胞表面上に抗ヒトIL-2抗体分子
強く抑制されたが,併用群とgD-IL-2投与群の間には
を有するB細胞の存在比率が抗gD抗体分子を有するB
有意な差は見られなかった。また,併用群での病巣出
細胞よりも大幅に低いことによると推測された。 した
現日数は非免疫の対照群と比べて明らかに減少する傾
がって,
向が認められたが,その差は有意ではなかった(図4)。
胞によってgD-IL-2が取り込まれ,その一方でIL-2
さらに,最大病変スコアで比較すると,
gD-IL-2単独
投与群と併用群では非免疫の対照群よりも有意に低下
gD-IL-2を投与した場合,gD特異的なB細
領域がIL-2レセプターを介してNK細胞を剌激して,
IFN-ア,GM-CSF,TNF-a, βなどのサイトカイン
したが,両群との間に有意な差は認められなかった。こ
を産生すると推定される。特に,
のように,相乗効果が小さかったのはアシクロビルの
ラスn MHCの発現を高め,またTh1細胞を優先的に誘
用量が少なすぎたためであると推定される。
導することが知られている。しかし,このような通常
7. HSV-2再発に対するgD-IL-2の予防効果
の経路だけではgD-IL-2の高免疫原性は説明しきれな
UV照射で誘導されるモルモット再発性器ヘルペス病
いと考えられる。
変は,UV照射前にgD-IL-2
(12.5μg)を2回,皮
IFN-yはB細胞のク
(4)以上の背景から,著者らはもう一つのIL-2レセ
下投与すると,半数の個体で再発病巣は観察されず,
プター発現細胞である樹状細胞に着目して,
平均病変スコアは有意に低下し(図5),また病巣出現
の機序をアジュバント作用とは別の次元で以下のよう
日数や最大病変スコアも有意に抑制された。
に推察した。樹状細胞は,B細胞やマクロファージなど
8, gD-IL-2の作用機構
とは異なり抗原を積極的に取り込む機構が欠けている
(1) gD-IL-2を皮下投与した場合の血中半減期は約
が, IL-2レセプターを介してgD-IL-2を効率的に取
90分で,IL-2の約30分より3倍延長されたにすぎな
り込むと想定される。取り込まれたgD-IL-2は,細胞
かった。この程度の半減期の延長によってgD-IL-2が
内でプロセシングを受け,gDエピトープはMHCクラ
高免疫原性を発揮したとは考え難い。また,
スnによって提示され,またB7による共刺激シグナル
gD-IL-2
とgDを皮下投与した場合,両者の血中半減期には大差
によって休止T細胞が活性化されると考えられる。その
絲悶:;霖絲
啜 ̄L。}ゴ∃F9ヨ。2》
‥‥
Effect of prophylaxis
with t・9D4L・2 0n UV・lnd・−“
「≪cuiTent HSV・2 infection (cxpBrinwnt
U03S
uo≪8i umw
aXKnuosau呵・w
(│BAJ≫VJ│/≪P≫J≫<1)
Days
Fo4jr-<Jay
Intervals
after onset
of 廿lerapy
・ P<0.05,拳拳p<aoi.
・・・ p≪'0.001 vs. contr・(Salne)
StudenTills齢(two一<a>≪A
man±sa≫(iF7)
図4,
gD-IL-2
≫p<aO5,参考P<
一一
after
UVradatton
0.005 vs㎝UraKSalne)
mean士SEM(n=6)
図5.
3)
1596
藤沢幸夫
A model of T cell activation by
t・9D・│し2 binding to its receptor on APC
イトカインと抗原からなる融合抗原は,種々の感染症
の治療や予防に応用できる可能性がある。
最後に,本研究を遂行するに当たり,種々のご助言を
賜り,さらにウイルス株や抗体を分与していただいた
新居志郎先生に深謝いたします。また,
HSV-2の分与
を賜った高橋理明先生,ならびに多大のご鞭捷をいた
だきました垣沼淳司先生に御礼申し上げます。
gDtpwWc
T ・│
Help to「
antibody
produdion
CTL
DTH
図6.
結果,優れた抗体産生とともに,ウイルス感染防御に
重要なgD特異的Th1が特異的に誘導ざれ,CTLやDTH
などの細胞性免疫が誘導されたと推察した(図6)。
9.さいごに
以上の結果を要約すると以下のようになる。
(D遺伝子組換え法によってマウスミェローマ細胞で
作製したgD-IL-2は,人為的な蛋白質であるにもかか
わらず,ウイルス由来の抗原性とIL-2の生物活性を保
持していた。(2)
gD-Iレ2を単独でマウスに皮下投与
すると,gDに対する顕著な抗体産生,CTLの活性化,
DTHの惹起か観察され,さらにgDをCFAとともに投
与した場合に匹敵する感染防御能が観察された。(3)
HSV-2によるモルモット性器ヘルペス感染症モデルに
おいて,最初の病巣出現後にgD-IL-2を皮下投与する
と,アシクロビル投与と同等以上の病巣抑制の治療効
果がみられ,またUV照射によるモルモットの性器ヘル
ペス再発モデルにおいて,
を示した。(4)
gD-IL-2は再発の予防効果
gD-IL-2は経鼻投与によって血中に抗
gD-IgG抗体を誘導するとともに,鼻孔内に分泌型抗
gD-IgA抗体を誘導した。(5)
gD-IL-2は樹状細胞の
IL-2レセプターを介して取り込まれ,さらにIL-2刺
激によって抗原提示能も活性化され,gD特異的なT細
胞の増殖・分化が促され,抗体産生,CTL,DTHなど
を効率的に誘導すると想定された。(6)
IL-2などのサ
日皮会誌:107巻13号(平成9年12月臨時増刊号)
p.1597∼1600
招請講演Ⅶ
癈滓伝達機序
遠山正価
I)癈庫伝達一次知覚(感覚)ニューロンの概略I-3)
経終末からのSP,
痛覚伝達を担うニューロンと同様小型神経細胞が癈庫
れている。一方トルエンなどによる侵害刺激は表皮で
CGRPの遊離を促進することが示さ
を伝達するが痛覚を伝えるニューロンとは殆ど重なら
のSP,CGRP免疫活性の著しい増加が見られる。また
ない。また癈棒を伝達するニューロンは内臓感覚を伝
細胞体レベルではSP,CGRPの免疫活性の低下が見ら
達するニューロンとは異なる。小型ニューロンの突起
れる反面,
は無髄か一部薄い髄鞘を被る。皮膚の真皮では多数の
る。この事実は強い侵害刺激では細胞体でのSP,
無髄線維がシュワン細胞の細胞質に取り囲まれて存在
の産生か高まる(mRNAsの増加とともに,末梢へのSP,
する。表皮に向かう線維これらの線維束から離れ,次
CGIRP輸送の増加も生ずる。末梢へのSP,
第にシュワン細胞の被いを失いつつ上皮内に侵入する
送の高まりと終末からの遊離が著しいため,産生の高
(図1A)。上皮内では自由終末状を呈して終末するが(図
2),角化層には到らない。この神経線維は真皮内では
まったSP,
SP, CGRP各前駆体mRNAの増加が見られ
CGRP
CGRPの輸
CGRFは次々に終末に運ばれ,結果細胞体
でのSP,CGRP様免疫活性が低下するものと思われる。
マイスナー小体を通過するがマイスナー小体の構成成
このように癈庫刺激と炎症刺激では知覚神経でのSP,
分とは明瞭な接着構造をつくらない。また神経線維は
CGRPの動態に差が生ずる。
上皮内ではメルケル小体(図IB,
C)やケラチノサイト
と近接して存在するがどのような細胞成分とも明瞭な
接着構造を構成しない。小型ニューロンはP物質(SP)
やカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を含有する。
n)癈庫刺激の伝達機序
癈庫刺激としてヒスタミンを用いた。
1)上皮の変化4湊
表皮の穎粒層,有棟層には脳特異的セリンプロテアー
ゼとして塩坂らにより単離されたニューロフシン(NP)
が発現している。ヒスタミン刺激を皮膚に与えると一
図1.A:CGRP線維(矢印の真皮より表皮(Ep)への侵入を
示す。
過性にNPmRNAの著しい増加が穎粒層,有棟層に認
B,C:表皮内CGRP線椎はメルケル小体(M),ケラチノ
められる。蛋白レベルでは細胞膜に存在していると思
サイト(K)と接して存在するが,特別の接着構造は示さ
われ,庫み刺激により上皮細胞間の接着などに変化が
ない。
生じたものと思われる。
2)神経終末での変化6-8)
ヒスタミン刺激は知覚神経節神経細胞のSP,
免疫活性を減少させる([図3A,
ながら,皮膚での終末技でのSP,
CGRP様
B ;図3E,
F]しかし
CGRP免疫活性には
差がない。一方ヒスタミン刺激は知覚神経節細胞のSP,
CGRPの前駆体mRNA量には変化を与えない(図3C,
D;図3G,
H)。これらの事実はヒスタミン刺激は知覚
神経節ニューロンから末梢技へのSP,
CGRPの軸索輸
送を促進することを示す。またヒスタミンは,知覚神
大阪大学医学部第二解剖学講座
図2.上皮内のSP線維。自由終末様構造を示す。
1598
遠山正弼
図5.
A, C:ヒスタミン添加により細胞内Ca゛イオン濃度を上
昇させた細胞が矢印で示されている。
B,D:A,CをそれぞれSP, CGRP杭血清による免疫染色
に共した写真。A,BおよびC,Dで矢印で示された細胞は
同一細胞である。
図3.
A, B, E, F:ヒスタミン刺激後の三叉神経節ニューロンに
おけるSP(A,B),CGRP(E,F)様免疫活性の変化。
E;コントロール側。
A,
B, f;刺激側。著しいSP,
CGRP様
免疫活性の低下が刺激側で見られる。
C,
D,
おけるSP
c,
ミン刺激により細胞外より細胞内にH1受容体を介して
Ca2゛の流人を引き起こした細胞はSP,
CGRPを含有す
ることを示す。
G, F:ヒスタミン刺激後の三叉神経節ニューロンに
(C,
D),
G;コントロール側。
CGRP
(G, F)各前駆体mRNA変化。
D,
H ;刺激側。ヒスタミン刺激
の各mRNA発現に対する影響は見られない。
3)脊髄での変化9)
生理食塩水を皮膚に塗布すると少数のFos陽性細胞
がやや塗布側優位に脊髄後角,主としてI,n層に発現
する(図6A,B)ヒスタミン塗布(200mg/m1)は脊
三叉神経節からの培養細胞の培地にヒスタミンを加え
髄後角に出現するFos陽性細胞の数および陽性細胞の
ると細胞内にCa2+イオン濃度が上昇する細胞が約10-
反応強度を同側優位に急増させる(図6C,D)。
20%程度見つかる(図4A)。この流入は培地にEGTA
のヒスタミンの塗布はさらに此の傾向を増強する(図
を加え細胞外Ca2゛イオン濃度を低下させると消失する
6E,F)。 したがってヒスタミン刺激による脊髄後角で
([図4B]。従ってヒスタミン刺激による培養知覚ニュー
のFos陽性細胞の発現は用量依存性である。次にヒス
ロンヘのCa2゛イオンの流入は細胞外より細胞内にCa2゛
タミン刺激により生ずるFos陽性細胞の発現に対する
イオンが流入することにより生じたものであることが
モルヒネの効果を検討した。生理食塩水を腹腔に注入
わかる。次に培地にH1受容体の阻害剤であるPyrilamine
後ヒスタミン(500mg/m1)を塗布すると先に述べた
を加えると細胞外より細胞内へのCa2+イオンの流人が
ように同側優位にFos陽性細胞が脊髄後角に出現する
抑えられる(図4C)。またH2受容体の阻害剤ではこの
(図7A,
lg/ml
B)。モルヒネを腹腔内に投与後のヒスタミン
ような抑制は起こらない。これらの結果は,ヒスタミ
塗布を加えると脊髄後角に発現するFos陽性組胞の数
ン刺激による細胞外より細胞内へのCa"イオンの流入
は両側性に著しく減少する(a7C,
D)。これらの事実
はH1受容体を介する機序であることをしめす。末梢枝
は,脊髄では痛覚伝達機序と類似の癈庫伝達機序が存
へのHI受容体を介するCa2+の流人は癈庫情報として脊
在することを示唆している。すなわち,癈庫刺激によ
髄に運ばれる。図5A,
り一次知覚線維からSPが後角内に遊離される。このSP
Cの矢印はヒスタミン刺激によ
り細胞内Ca2゛イオン濃度が上昇した細胞を示す。図5B,
は後角ニューロン内のCa2゛イオン濃度を上昇させる。こ
Dは図5A,
の反応によりc-fos遺伝子発現,次いでFosが後角ニ
Cと同じ標本をそれぞれSP,
染色に共した写真である。図5A,Bと図5C,
CGRPの免疫
Dの矢印
で示された細胞は同一細胞である。すなわち,ヒスタ
ューロン内に発現する。このFos発現はモルヒネによ
って抑制される。
1599
癈楳伝達機序
A
Histamine
lO'M
︵Sj
0
3
1
0 0
3
ロoコ∼
︵Σ一I) oorjSJiua
us
ja
no
iD
ajOQ
3 1 ep 0 ↓
0.1
0
Time
C
(mia)
Wash
out (10
mia
2
1
Time (min)
)
↓
0
︵la︶
3
1 0 nor]9-nQ33o
ni
on
3piB^
0.1
2
1
0
↓Histamine lO'M
Pyrilamine lO'M
↓
Histamine lO・4M
↓
●、/へ、。一→
トー¬-¬0
1
0 1 2
Time(mini
図4.A:培養三叉神経節細胞へのヒスタミン刺激は10-20%の細胞で細胞内Ca"濃度の上昇をもたらす。
B:EGTAによる細胞外Ca9イオンの培地からの除去はAの反応を抑制する。
C:H1受容体の阻害剤であるPyrilamineの培地への添加は細胞外Ca"イオンの細胞内流入を阻害する。
図6.生理食塩水(A,
B), 200mg/ml(C,
D)とlg/ml(E,
F)
図7.生理食塩水(A,
B)とモルヒネ(C,
D)をそれぞれ腹腔
のヒスタミンを皮膚に塗布後脊髄後角に発現するFos陽性
内に投与後,ヒスタミンを皮膚に塗布し,
細胞。 B, D, F:塗布側。 A,C,E:非塗布側。塗布側優
発現の比較。A,C:非塗布側。
位に,また用量依存性にFos陽性細胞が発現している。
前処置はFos陽性細胞の発現を抑制する。
Fos陽性細胞の
B,D:塗布側。モルヒネ
1600
遠山正価
文 献
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