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LTEのさらなる発展 ―LTE Release9
LTE のさらなる発展 ― LTE Release 9 ― LTE 標準化 無線アクセスネットワーク LTE のさらなる発展 ― LTE Release 9 ― 現在ドコモでは,次世代移動通信システムの規格である いわむら 無線アクセス開発部 LTE の商用化に向け,3GPP で策定された LTE Release 8 仕 様に準拠したシステムの開発・試験に取り組んでいる. み き お 岩村 幹生 ウメシュ アニール 3GPP では,LTE のさらなる機能の高度化を図るため,フ ウリ A. ハプサリ ェムト基地局の無線制御や無線ネットワーク自己最適化な どの Release 8 の拡張機能,位置情報サービスや同報配信 サービスなどの新規機能を Release 9 仕様として策定し, 2010 年春にリリースを予定している.ドコモは,要求条件 の取決めや技術提案を多数行うとともに,仕様文書の作成 でラポータやエディタを務めるなど,Release 9 の標準化 活動に積極的に貢献しており,商用システムの高機能化や 経済化に有益な機能の国際標準化を推進している. 1. まえがき 48 貢献している. LTE Release 8 では,OFDMA モも,多様なサービスを LTE とい う共通の基盤で提供し,ネットワ 次世代移動通信システムの無線 (Orthogonal Frequency Division ークの効率化を実現するために, アクセス方式として,LTE が国際 Multiple Access)に基づく下りアクセ Release 9 仕様の標準化推進に積極 標準仕様策定団体である3GPPにて ス方式と,SC(Single Carrier)-FDMA 的に寄与している.LTE Release 8 規格策定されている.その Release に基づく上りアクセス方式,レイ と Release 9 の関係を図 1 に示す. 8 版の仕様は,2009 年 3 月に完成し ヤ2再送制御,発着信制御やハンド LTE Release 9は,Release 8で提供 た[1].ドコモは,無線ネットワー オーバ制御など,移動通信システ される基本機能のさまざまな拡張 クの高効率化,高機能化,経済化 ムの核となる制御方式が規定され, のほか,位置情報サービスや同報 を実現するために,2004 年の基本 従来の W-CDMA 方式と比べて周波 型配信サービスを実現するための コンセプト提案時から,積極的に 数利用効率が 3 ∼ 4 倍と大幅に向上 基盤機能などが提供されている. LTE の標準化に寄与している.ま している. 本稿では,LTE Release 9 仕様に て導入された主要機能について解 た,3GPPにおけるLTE標準化推進 LTE Release 8 仕様に基づく商用 のラポータ(仕切り役)を担い,そ システム開発が世界各国で進む中, の核となるいくつかの重要な仕様 3GPP では,LTE のさらなる性能向 のエディタも務めている.さらに, 上や機能拡張に向けた仕様の改版 2. CSG 機能の拡張 要求条件の取決めや,それを実現 が進められている.そして,LTE 2.1 背景 する技術の提案,仕様文書の作成 Release 9 の仕様が,2010 年春には LTE Release 8 では,特定ユーザ など,LTE の標準化推進に大きく 標準化完了する予定である.ドコ にのみセルへのアクセス権を許 説する. NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol. 18 No. 1 「Hybrid 型」と呼ばれるモードが提 供されている.Hybrid 型のセルで Release 9 Release 8 は,CSG ID とともに,1 bit のフラ レイヤ1/2基本性能 無線制御基本機能 その他制御補充機能 グにて,CSG に属さないユーザに セキュリティ機能 IMS緊急呼機能 も開放されたセルであることが報 IMS音声通信機能 音声符号化レート制御 知される.Release 9のUEは,これ 規制制御機能 SSAC機能 らのセルを,CSG に属する場合は ETWS機能 PWS機能 CSG セル,属さない場合は通常の CSG基本機能 CSG拡張機能 マクロセルと同様に扱う.よって, 簡易SON機能 SON拡張機能 CSGに属さないUEであっても,こ … LCS機能 れらのセルを利用することができ 新規機能 MBMS機能 る.CSG に属する場合は, Fingerprint 情報に基づく CSG セルサーチ 機能,待受セルとして CSG セルが 図 1 Release 8 と Release 9 の関係 優先される制御や Hybrid セルで通 信を行う際の QoS 優先制御などが 容 する CSG(Closed Subscriber また,Release 8では,UEはアク 適用される.なお,Release 8 のUE Group)と呼ばれる機能が提供され セス権のあるCSGセルについては, は Hybrid 型のセルをすべて通常の ている.例えば,家庭に設置する 周辺にみえるセルの物理セル ID マクロセルとみなすためセルを利用 *1 *2 することはできるが,CSG セルと フェムト基地局 (HeNB : Home (PCI:Physical Cell ID) ,GPS情 eNodeB)において,家族にのみア 報など任意の情報であるFingerprint クセス権を許容する,といった用 情報を保持し,これに基づき CSG 途が想定される. セルのサーチを行い,在圏する方 例えばオフィス,学校や公共施設 式となっている. における無線システムにおいて, 本機能によれば,移動端末(UE) 報知するCSG IDが,そのリストに このような Hybrid 型のセルは, CSG に属する従業員や生徒には特 は,アクセス権のあるCSG IDのリ ストを保持しており,CSG セルが して認識することができない. 2.2 Hybrid 型アクセス Release 8 における CSG 機能は, 別なサービスや QoS を特別な料金 で提供し,CSG に属さない来客や 含まれるか否かに基づき,アクセ CSG に属する特定ユーザのみがア 部外者には通常と同様なサービス ス権の有無を判定する.アクセス クセス権を有するものであった. を提供する,といった用途が想定 権のないCSGセルは,当該UEにと しかし,このような「Closed型」の されている. って在圏や接続先の候補とならな セルは,干渉問題を生じるため, いが,Release 8 では,このような 電波の隔離が十分に行える閉空 CSG を意識した制御は,非通信時 間など,利用範囲が限定されて (RRC_IDLE)にのみ可能であった [2]. * 1 フェムト基地局:半径数十メートル程度の 極めて小さいエリア(フェムトセル)をカ バーする超小型基地局. NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol. 18 No. 1 しまう. これに対して,Release 9 では, 2.3 通信中ハンドオーバ 前述のとおり,Release 8 では, アクセス権を意識した制御は,非 通信時(RRC_IDLE)にのみ可能で * 2 物理セル ID(PCI):物理的なセル識別 子.LTE では 504 通りの PCI が繰り返し 利用される. 49 LTE のさらなる発展 ― LTE Release 9 ― あった.すなわち,アクセス権を の HeNB が多数設置された場合 測定に必要な制御情報を設定する 意識した通信時のハンドオーバ制 に,この課題は顕著な問題となる. (図 2 ③) .そして,UE が測定報告 御はサポートされていない.一方, こ の 課 題を,解消できる機能が によりハンドオーバ先候補の CSG Release 9 では,これが可能となっ Release 9にて提供されている. セルのPCIを報告すると(図2 ④) , Release 9 にて実現される,CSG ハンドオーバ元 eNB は当該 PCI が また,Release 8では,同一PCIを セルへの通信中ハンドオーバの手 HeNB のものであるか否かを識別 用いた CSG セルがマクロセルの周 順を図2に示す.まず,UEは,Fin- し,UE に対して CSG セルの SI 辺に複数存在した場合に,UE から gerprint 情報に基づき,アクセス権 (System Information)の報告を要求 の測定報告に含まれる周辺の CSG のあるハンドオーバ先候補の CSG する(図2⑤) .UEは,ハンドオー セルのPCIだけでは,ハンドオーバ セルの近傍に入ったことを検知し バ先の CSG セルの報知情報を受信 ている. *3 元となる基地局(eNB)側でハンド た場合,Proximity Indication と呼 し(図 2 ⑥) ,受信した SI に含まれ オーバ先となる CSG セルを一意に ばれるメッセージ[3]を送信する るCGI(Cell Global Identity) ,TAI 特定できない課題(PCI confusion) (図2①②) .これに対して,ハンド (Tracking Area Identity) および があった.特に今後,家庭用など オーバ元である eNB は CSG セルの CSGに属するか否かを表すmember *4 *5 status を eNB に報告する(図 2 ⑦) . ハンドオーバ元 eNB (マクロセル) UE ハンドオーバ先 HeNB (CSGセル) MME eNB は,UE から報告された CGI, TAI により,ハンドオーバ先の HeNB を一意に特定することがで ①Fingerprint判定 ● き,UE コンテキストの転送が可能 となる(図 2 ⑧) .eNB は,ハンド ②Proximity Indication ● オーバ指示を UE へ送信し(図 2 ③測定制御 ● ⑨),UE から完了報告を受けてハ ④測定報告(PCI) ● ンドオーバ後処理を行う(図 2 ⑩ ⑪).また,member status に基づ ⑤SI情報要求 ● き,UEが当該CSGに属するか否か ⑥報知情報SI(CGI,TAI,CSG ID) ● ●測定報告 ⑦ (CGI,TAI,member status) の確認をコアネットワーク(CN) に対して要求することができ,CN ではこれらの情報を基に 2.2 節で示 ⑧UEコンテキスト転送 ● ⑨ハンドオーバ指示 ● したCSG制御を行う. 3. 自己最適化機能拡張 ⑩ハンドオーバ完了 ● ⑪ハンドオーバ後処理 ● ドコモでは,無線ネットワーク の品質向上のため,無線パラメー 図2 CSG セルへのハンドオーバ手順 タの設計や最適化などを日々行っ ている.常に最適な状態で無線 * 3 Proximity Indication : UE がアクセス権 のある CSG セルの近傍に入ったことを eNBに通知するためのメッセージ. 50 * 4 CGI :全世界でセルを一意に識別できる 識別子で,各セルから報知される. * 5 TAI : LTE で位置登録を行うエリア単位. 1 つ以上のセルで構成され,各セルから 属するTAI が報知される. NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol. 18 No. 1 ネットワークを効率的に運用する なお,LTE 内の eNB 間のバラン ために,自動で最適化を行うネッ シングだけでなく,無線アクセス 事象をネットワーク側にて分析し, トワーク自己最適化機能(SON: 方式の異なる3GPPシステム間のバ eNB 間で情報交換することで,ハ ランシングもサポートされている. ンドオーバ制御にかかわるパラ *6 Self Organizing Networks) [4]が有 メータの調整を行うことができる. 益となる.Release 9 では,特に ネットワーク初期導入時に有益な 接続する可能性もある.これらの 3.2 モビリティ最適化 本機能は,ハンドオーバが失敗 3.3 ランダムアクセス最適化 した場合に,この事象をネット 本機能は,ランダムアクセスチ ワークにて検出してパラメータを ャネル(RACH : Random Access 調整し,モビリティに伴う無線コ Channel) のパラメータ最適化を 本機能は,eNB 間の負荷状況に ネクション切断のリスクを最小化 目的に規格化された機能である. 応じてハンドオーバやセル選択の することを目的に規格化された機 パラメータを最適化することで, 能である. 機能を中心に,いくつかの自己最 適化機能が標準化されている. 3.1 ロードバランシング *8 RACH の負荷が高い場合,UE 間 の RACH 衝突確率が増大するため, LTE では,ネットワーク制御に ランダムアクセスが成功するまで よるハンドオーバが失敗した場合, に必要な RACH 送信回数が増大し, を交換する手順ならびにハンド UE がセル選択を行い,選択された 接続遅延が増大する.一方,RACH オーバ関連のパラメータを交換す セルに対して再接続手順が試行さ は専用の上り無線リソースを確保 る手順が規格化されている.ただ れる.このとき,再接続要求メッ する必要があるため,必要以上に し,これらの情報を使って,各 セージにて,接続元セルのPCIなど RACH本数を設定すると,上り無線 eNB でパラメータをどのように調 が報告される.この情報に基づき, リソースが無駄になる.これらの 整するかは実装依存である.eNB 再接続先の eNB と接続元の eNB と 課題を解決するため,負荷状況に 間では,次の負荷情報が交換可能 の間でネットワークインタフェー 応じた RACH 本数の最適化が重要 負荷分散を図るための機能である. eNB 間で調整に必要な負荷情報 となっている. *7 ス を介して切断事象の情報をや となる. ・LTE における時間周波数リ りとりすることで,ハンドオーバ Release 9では,RACHの最適化を ソ ースの割当て単位である のしきい値やタイミングを調整す 補助するために,UE から,最後に PRB(Physical Resource Block) る. 行ったランダムアクセス手順に関 例えば,ハンドオーバの実施が して,ランダムアクセス成功までに ・アクセスネットワークノード 早すぎた場合,ハンドオーバ失敗 要した RACH 送信回数と RACH 衝 をコアネットワークにつなぐ 後,UE がハンドオーバ元のセルに 突検出の有無の情報を,eNB へ報 伝送リンクであるバックホー て再接続することが想定される. 告する手順がサポートされている. ルの負荷 一方,ハンドオーバが遅れた場合, の使用数 ・eNBハードウェアの負荷 ハンドオーバ失敗後,UE がハンド ・セルの相対的な容量を示す指 オーバ先のセルにて再接続する 標であるセル容量クラス * 6 ネットワーク自己最適化機能(SON): eNB 設置時の自動設定やパラメータの自 動最適化などを含む,無線ネットワーク 自己最適化機能の通称. NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol. 18 No. 1 4. 位置情報サービス (LCS)機能 ことが想定される.また,ハンド LTE Release 9 では,LCS(Loca- オーバ失敗後,UEが他のセルで再 tion Service)機能が導入され,次の * 7 ネットワークインタフェース: LTE で は,eNB間のX2インタフェース,eNBと MME の間の S1 インタフェースがある. ここでは eNB 間のインタフェースをい う. * 8 ランダムアクセスチャネル(RACH): 上り方向の共通チャネル.各ユーザが独 立に信号をランダムに送信することによ り,1 つのチャネルを複数ユーザで共通 に使用する.LTE では 6 bit のプリアンブ ルのみが送信される. 51 LTE のさらなる発展 ― LTE Release 9 ― (MME : Mobility Management つの機能として,MBMS(Multime- Entity)には透過である(図3) .一 dia Broadcast Multicast Service)が ①A-GNSS(Assisted-Global 方,LPPa は,eNB と E-SMLC 間で ある.MBMS とは,同報型配信を Navigation Satellite System) 終端されるプロトコルで,MMEに 実現するベアラサービスであり, は透過である. ある情報で興味のあるエリア内の 3種類の測位方法がサポートされて いる. UEが測位したGPS測位情報 に対して,ネットワークで取 得した GPS 衛星情報を利用し Release 9のLCS機能は,GERAN 全UEに対して,共通のベアラにて *9 (GSM EDGE Radio Access Network) 一斉にその情報を配信する伝送方 て補正を行う測位方法.最終 やUTRA(Universal Mobile Telecom- 式である.UTRA では,すでに 的な測位結果は,ネットワー munications System Terrestrial Radio Release 6 において MBMS を提供す * 10 ク側の測位サーバで演算した Access) で提供される従来のLCS るための仕組みが標準規定されて ものとUE側で演算したものの 機能に比べて,測位サーバがコア いる. 2種類がある. ネットワークに配置される.この LTE Release 9 では,複雑な制御 ため,例えば OMA SUPL(Secure を伴わない MBMS の基本的な機能 User Plane Location)のような3GPP のみが規定されているが,主な特 複数の eNB から受信したパ 以外の標準規格の測位プロトコル 長として,MBSFN(MBMS Single イロット信号の時間差から距 を LPP 上で伝送可能であるという Frequency Network)送信方式のサ 離を算出し,双曲線の交点か 特長がある. ポートが挙げられる.これは, ②OTDOA(Observed Time Difference of Arrival) ら測位を行う方法. ③E-CID(Enhanced-Cell ID) 報知されるセルIDに加えて, 送受信タイミング差から算出 MBSFN を構成する複数の eNB が, 5. 同時配信サービス (MBMS)機能 同一信号を一斉同期送信すること で,UEが各eNBから送信された信 号をRF(Radio Frequency)合成で LTE Release 9で導入されたもう1 する片道伝搬遅延や信号の到 来角度(AoA:Angle of Arrival) E-SMLC から測位を行う方法. コアネットワーク Release 9 の LCS 機能は,制御プ LPPa MME レーンのプロトコルとして実現さ LPP れており,専用プロトコルである LPP(LTE Positioning Protocol)[5] と LPPa(LPP annex)[6]が規定さ 無線アクセス ネットワーク eNB れている. LPP は,UE と測位サーバ UE ( E - SMLC : Enhanced Serving Mobile Location Centre)間で終端さ 図 3 LTE における LCS の専用プロトコル れるプロトコルで,eNB と交換局 *9 GERAN : GSM 無線伝送方式をもつ 3GPPの無線アクセスネットワーク. * 10 UTRA :第 3 世代の移動体通信方式の規 格.W-CDMA 方式に基づき,ドコモの FOMAサービスで用いられている. 52 NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol. 18 No. 1 きる方式である.MBSFN送信を適 する無線リソースを指定してコン 線アクセス方式に切り替える必要 用することで,エリア内の 95 %の テンツを同期させる役割を有する. があった.そのため,CS fallback UE にパケット誤り率 1 %でデータ MBMS 用には,論理チャネルであ [8][9]あるいは UE による自律的な 配信を行う条件で,3bit/s/Hz 以上 る MTCH(Multicast Traffic Chan- セル選択に頼る必要があった. の周波数利用効率を実現できるこ nel),MCCH(Multicast Control LTE Release 9 では,在圏中の とが,3GPP での検討で結論付けら Channel)およびトランスポート ネッ ト ワ ー ク に て 有 効 な U S I M れている[7]. チャネルである MCH(Multicast (Universal Subscriber Identity Mod- Channel)が定義されている(図5) . ule) をもたない UE による IMS LTE における MBMS 基盤の論理 アーキテクチャを図 4 に示す. MBMS GW は,BMSC(Broadcast * 11 Multicast Service Center) から配 信される MBMS データを対象 eNB 6. その他の機能 6.1 IMS 緊急呼 LTE Release 8では,IMS(IP Mul*12 *14 * 15 緊急呼をサポートするために,緊 急アタッチ手順 * 16 (Emergency A t t a c h ) と セ キュリティ処理 * 17 (NULL algorithm)が導入されてい に IP マルチキャストにて伝送する timedia Subsystem) 緊急呼に非対 る.また,IMS緊急呼の優先制御が 機能を有する.MCE(Multi-Cell 応のため,緊急呼を行う際には, 可能となっている. Multicast Coordination Entity)は, 回線交換(CS : Circuit Switched) MBSFNを構成するeNB間で,送信 ドメイン * 13 をサポートする他の無 6.2 サービスに応じたアクセ ス制御(SSAC)機能 UTRAの場合,接続されるコアネ BMSC ットワークのドメインには CS とパ ケット交換(PS:Packet Switched) SGmb/SGimb があり,ドメインごとの独立な規 制制御を実現すべく,DSAC MBMS GW MME (Domain Specific Access Control)と 呼ばれる機能が Release 7 よりサポ M3 ートされている.DSACを用いるこ とで,CS ドメインを用いる音声呼 M1 MCE IPマルチキャスト * 18 と,PS ドメイン を用いるデータ 呼との間で独立な規制を適用する M2 ことが可能であった. eNB M1:User-Planeインタフェース M2:E-UTRAN内制御プレーンインタフェース M3:E-UTRAN-EPC間制御プレーンインタフェース SGmb/SGimb:コアネットワークにおけるBMSC-MBMS GW間 制御プレーン/ユーザプレーンインタフェース 図 4 LTE における MBMS 基盤の論理アーキテクチャ これを用いることにより,例え ば災害時には,一般音声呼の規制 率を高く設定し,優先呼の疎通を 確保しつつ,データ呼はベストエ フォートで許容することで,メー ルや伝言板による連絡手段を提供 * 11 BMSC : MBMS にて伝送するコンテン ツが格納され,MBMS 伝送の制御を司 るネットワークノード. * 12 IMS : 3GPP で標準化された,固定電話 ネットワークや移動通信ネットワークな どの通信サービスを,IP 技術やインター NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol. 18 No. 1 ネット電話で使われるプロトコルである SIP で統合し,マルチメディアサービス を実現させる通信方式. * 13 回 線 交 換 ( C S ) ド メ イ ン :回線交換 (Circuit Switch)に基づくサービスを提供 するネットワークドメイン. * 14 CS fallback:LTE在圏中に音声などの回 線交換サービスの発着信があった場合 に,CS ドメインのある無線アクセス方式 に切り替える手順. * 15 USIM : UMTS の UE に挿入して用いられ る,顧客識別カード上のアプリケーション. 53 LTE のさらなる発展 ― LTE Release 9 ― MBMS用チャネル PCCH BCCH CCCH DCCH DTCH MCCH MTCH 下り論理チャネル PCH BCH DL-SCH BCCH(Broadcast Control Channel): 報知制御チャネル CCCH(Common Control Channel): 共通制御チャネル DCCH(Dedicated Control Channel): 個別制御チャネル DTCH(Dedicated Traffic Channel): 個別トラフィックチャネル PCCH(Paging Control Channel): ページング制御チャネル MCCH : マルチキャスト制御チャネル MTCH : マルチキャストトラフィックチャネル MCH 下りトランスポートチャネル BCH(Broadcast Channel): 報知チャネル DL-SCH(Downlink Shared Channel): 下り共通チャネル PCH(Paging Channel): ページングチャネル MCH : マルチキャストチャネル 図 5 LTE における MBMS チャネルのマッピング する,といった対応が可能となる. は,E T W S ( E a r t h q u a k e a n d く,ETWS における Secondary 一方,LTE では,PS ドメインし Tsunami Warning System)と Notification か存在しないため,DSACは提供さ CMAS(Commercial Mobile Alert する.これは,CMAS では れていない.しかしながら,災害 System)が含まれ,それぞれ日本 ETWS のような遅延要求がな 時の優先呼や連絡手段の確保は重 とアメリカでの携帯電話による緊 いことに由来する. 要であるため,PS ドメイン内であ 急速報に関する要求条件を満たす っても,サービスに応じた規制制 ために,規定されている.なお, 時に 64 種までの異なる緊急速 御を可能とする方式が必要となる. ETWS については Release 8 よりサ 報を提供できる.ETWSでは同 こ の た め Release 9 で は , SSAC ポートされており,その詳細は[10] 時に複数の緊急速報を提供す を参照されたい. る要求がなかったため,同一 (Service Specific Access Control)と 相当のみが存在 ②CMAS では,同じエリアで同 呼ばれる機能が導入され,IMS 音 Release 9 では,加えて CMAS が 声・テレビ電話呼の独立な規制制 サポートされ,その配信方式は 急速報は 1 つである.ただし, 御が可能となっている. ETWSのそれと類似している.一方 CMAS 対応の UE が同時に受信 で,CMAS と ETWS では要求条件 できる CMAS メッセージ数は, が異なることから,次の違いが UEの実装に依存する. 6.3 公衆警報システム (PWS) PWS(Public Warning System) は,災害時などの緊急速報を伝 送するための基盤である.PWS に * 16 緊急アタッチ手順: USIM をもたない UE が LTE 在圏中に緊急呼発信した場合に, ネットワークに接続するための手順. * 17 セキュリティ処理:通信の秘匿や改ざん 防止を行うための処理.USIM をもたな い UE は通常の秘匿や改ざん防止の処理 54 * 20 エリアで同時に提供される緊 ある. ①CMAS では,ETWS における Primary Notification *19 6.4 音声符号化レート制御 相当がな LTE Release 9 では,音声符号化 が適用できないため,NULL algorithm を 適用する. * 18 PS ドメイン:パケット交換(Packet Switch)に基づくサービスを提供するネ ットワークドメイン. * 19 Primary Notification:地震,津波などの 災害種別を通知する,緊急速報の 1 次情 報.4秒以内の伝送が求められる. * 20 Secondary Notification:災害時の避難情 報などを通知する,緊急速報の2 次情報. NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol. 18 No. 1 Universal Terrestrial Radio Access レート制御(Vocoder Rate Adaptation) 用いて多様なサービスを提供でき Network (E-UTRAN); Self-configur- がサポートされている. るようになった.3GPP では,すで ing and self-optimizing network 具体的には,IMS VoIP にて適用 にRelease 10に向けた議論も開始さ (SON) use cases and solutions,” している音声コーデックがマルチ れており,IMT-Advanced の ITU-R レートに対応している場合に,eNB 勧告に向けたさまざまな機能拡張 において音声データの IP パケット が検討されている.例えば,複数 ヘッダの ECN(Explicit Congestion のキャリアを同時に用いて通信を Notification)フィールド[11]を書き 行う Carrier Aggregation と呼ばれ 換えることにより,無線の品質・ る機能や,より高度な MIMO 伝送 混雑度に応じて通信中に音声符号 方式,レイヤ3レベルでの再生中継 化レートを適応的に制御できる方 を行うRelay方式などが検討されて 式である. いる. 今後も LTE 方式のさらなる高性 るいは無線の容量がひっ迫した場 能化や高機能化に向けた標準化活 合に,eNB が ECN フィールドを所 動を推進していく. 文 献 [1] 中村, ほか:“3GPP LTE/SAE 標準 仕様完成における活動と貢献,”本 7. あとがき LTE Release 9 で導入された主要 誌, Vol.17, No.2, pp.36-45, Jul. 2009. [2] 3GPP TS36.300 V9.2.0 :“Evolved Universal Terrestrial Radio Access 機能について説明した.LTE (E-UTRA) and Evolved Universal Release 8 では,移動通信システム Terrestrial Radio Access Network の根幹となる制御方式が規定され (E-UTRAN); Overall description; Stage 2,”2009. ており,基本的な通信機能が提供 [3] 3GPP TS36.331 V9.1.0 :“Evolved されている.Release 9 では,さら Universal Terrestrial Radio Access なる高機能化を実現するために, (E-UTRA)Radio Resource Control CSG,SON,LCS,MBMS といっ (E-UTRA);LTE Positioning Protocol (LPP),”2009. [6] 3GPP TS36.455 V9.0.0 :“Evolved Universal Terrestrial Radio Access (E-UTRA); LTE Positioning Protocol A (LPPa),”2009. [7] 3GPP TS25.912 V9.0.0 :“Feasibility trial Radio Access (UTRA) and Universal Terrestrial Radio Access Network (UTRAN),”2009. [8] 3GPP TS23.272 V9.2.0 :“Circuit Switched (CS) fallback in Evolved 定値に書き換えることで,エンド 発する方式となっている. Universal Terrestrial Radio Access study for evolved Universal Terres- 無線リンクの通信品質が劣化あ 間の音声符号化レートの減少を誘 2009. [5] 3GPP TS36.355 V9.1.0 :“Evolved Packet System (EPS); Stage 2,” 2009. [9] 田中, ほか:“LTE と 3G 回線サービ スの連携を実現する CS Fallback 機 能,”本誌, Vol.17, No.3, pp.15 -20, Oct. 2009. [10]田中, ほか:“次世代移動通信ネッ トワークにおける緊急情報の同報 配 信 高 度 化 ,” 本 誌 , Vol.17, No.3, pp.21-26, Oct. 2009. [11]IETF RFC3168 :“The Addition of Explicit Congestion Notification (ECN) to IP,”2001. (RRC);Protocol specification,”2009. [4] 3GPP TS36.902 V9.0.0 :“Evolved た機能が規定・拡張され,LTE を NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol. 18 No. 1 55