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論文要旨・審査の要旨
学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 論 文 題 目 小松 主査 倉林 亨 副査 荒木 孝二、二階堂 Differential diagnosis 恵 徹 of vertical root fractures by evaluating reconstructed three-dimensional bone defects (論文内容の要旨) 歯根破折(以下 VRF)は,臨床症状およびエックス線画像が根尖性歯周炎と類似していること が多く,鑑別診断が困難である.VRF の確定診断は,破折線の確認が不可欠であるが,口内法エ ックス線写真や歯科用コーンビーム CT (以下 CBCT)画像上における破折線の検出は,解剖学的 構造物の重なり・破折線の幅・位置によって,困難であることが多い.別の観点から,VRF およ び非破折(以下 Non-VRF)による X 線透過像の形態に着目した研究がある.我々の以前の研究 で,上顎前小臼歯における口内法エックス写真の病変形態評価では,VRF は Non-VRF より病変 形態が複雑であることがわかった.次に,我々の研究では,CBCT は口内法エックス写真より, VRF と Non-VRF の鑑別に有用であるということが判明した.通常,術者は CBCT において, 各断面(近遠心断面,頬舌断面,水平断面)での画像を評価しており,すなわち,これは 2 次元 的な評価をしているといえる.本研究では,VRF および Non-VRF のそれぞれの症例の CBCT 画像を近遠心,頬舌,水平断面画像から評価して 3 次元モデルを構築し,その骨欠損の形態と体 積を比較した.この 3 次元モデルの体積を V とし,根尖部の位置の水平断面で V を 2 分割し,歯 冠側の体積を v とした.全症例において v/V の値を算出した.v/V 値において,VRF 群では Non-VRF 群に対し有意に高い値を示したことから,VRF の診断に有用である可能性が示唆され た.Non-VRF 群は根尖部を中心に病変が拡がり,VRF 群は破折線に沿って病変が拡がるため, 歯冠側に進展する傾向がある.よって,v/V 値について,VRF 群では 1 に近づき,Non-VRF 群 では 0 に近づく結果となったと考えられる.また,観察者間・内一致率において,ともに Kappa 値 0.80 を示し,高い再現性が認められた.以上より,CBCT 画像において,VRF と Non-VRF の病変部骨欠損部は異なる形態をしていることから,3 次元構築画像はその鑑別に有用であるこ とが示唆された. 【緒言】 根管治療歯の垂直性歯根破折は臨床上,重大な問題になる.VRF は,臨床症状およびエックス 線画像が根尖性歯周炎と類似していることが多く,鑑別診断が困難である.VRF の確定診断は, 破折線を確認することである.しかし口内法エックス線写真上で VRF を検出することは難しい. なぜならば,歯槽骨吸収の状態や破折線の幅や位置,X 線管・患歯・フィルムの位置によって, - 1 - 破折線の写り方は異なり,さらに,解剖学的構造物の重なりがある場合や X 線管と破折線が平行 ではない場合などは,破折線の検出は難しい.口内法エックス写真で破折線が認識できるのは 35. 7%との報告がある.すなわち,最終的に VRF の確定診断は,外科的・非外科的どちらかの方法 で,直接,破折線を観察することで行われる.外科的に診断を行う場合,術前に VRF の予想が できる方法を見つけることで,患者への侵襲・費用・労力を避けることができる.CBCT は,外 科的歯内療法を含め,さまざまな歯内療法領域で,その有用性が認められている.CBCT のスラ イス断面が破折線に垂直な場合,CBCT の水平断面は歯根破折の診断に使用できることがある. しかしながら,現在のところ,歯根破折診断における CBCT の価値を認める研究は限りがあり, CBCT 画像上の破折線の観察はメタルやガッタパーチャ,シーラーなどによるアーチファクトの 発生により,検出が困難な場合がある.そこで,別の観点から,VRF および Non-VRF による X 線透過像の形態に着目した研究がある.我々の以前の研究で,ロジスティック回帰方程式を用い た上顎前小臼歯における口内法エックス写真の病変形態評価では,VRF は Non-VRF より病変形 態が複雑であることがわかった.次に,我々の研究では,CBCT は口内法エックス写真より,VRF と Non-VRF の鑑別に有用であるということがわかった.普段,術者は CBCT において,各断面 (近遠心断面,頬舌断面,水平断面)での画像を評価しており,すなわち,これは 2 次元的な評 価をしているといえる.本研究では,骨欠損の体積を比較するため,VRF および Non-VRF のそ れぞれの症例の CBCT 画像を近遠心,頬舌,水平断面画像から評価し,3 次元モデルを構築した. 本研究の目的は,CBCT 画像を用いて,VRF と Non-VRF の骨欠損部を 3 次元構築し,その形態 と体積を評価することによって,VRF の診断精度を評価することである. 【材料および方法】 本研究は本学歯学部の倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号 244 号および 846 号). 東京医科歯科大学歯学部附属病院むし歯外来を 2006~2013 年に受診し,同外来にて CBCT (Finecube®,吉田製作所)撮像を行った患者を調査対象とした.被験歯は、上顎前歯・小臼歯 の根管治療歯 32 本で,以下の条件を含む症例は除外した. ①根尖孔が 2 つ以上ある歯 ②病変部が患歯に限局していない歯 ③限局性の深い歯周ポケットがある歯 ④口内法エックス写真上で明らかに VRF と判断できる歯 患者同意の上,根尖周囲外科手術を行い,歯科用実体顕微鏡にて破折線の有無を確認し,破折線 が確認された場合には,VRF と診断し,破折線が認められなった場合には,Non-VRF と診断し た. VRF は 16 症例,Non-VRF は 16 症例で,全 32 症例であった.撮影には Finecube®装置(吉 田製作所)を用いた.管電圧 90kV,管電流 4.0mA で固定し,標準および高精細のどちらかの撮 影モードで撮影した.症例によって,どちらの撮影モードを使用するかは撮影者の判断に委ねら れた.ボクセルサイズは,標準撮影モードでは 0.157×0.157×0.146mm,高精細撮影モードでは 0.108×0.108×0.10mm であり,毎回撮影ごとに自動的にキャリブレーションされた. 術前の CBCT 画像を近遠心・頬舌・水平断面画像の 3 方向から評価し,3 次元解析ソフト(Amira5.4.4, Visage Imaging, オーストリア)を用いて,それぞれの方向で最小スライス厚(100~144μm)の 2 次 - 2 - 元断面画像から骨欠損部を描出した.2 名の歯科医師 KK(臨床経験 5 年)および YA(臨床経験 4 年)が病変部の描出を行った.水平断面画像における描出では,各症例において,上記ソフト Magic Wand ツールを用い,一定の範囲内で画素値を設定して,骨欠損部の描出を行った.この とき,歯根や歯根膜腔の拡大は含めなかった.近遠心および頬舌断面画像における修正では,水 平断面画像で得られた像をもとに,近遠心および頬舌断面画像において,骨欠損部を逸脱して描 出している部分を修正した.上記のように描出した病変部から Amira5.4.4 を用いて,3 次元構築 モデル(以下 TDM)を作製し,解析を行った.TDM の体積を V とし,根尖部の位置の水平断面 で V を 2 分割し,歯冠側の体積を v とした.全症例において v/V の値を算出した.VRF 群と Non-VRF 群間で,v/V の値について有意水準 5%にて Mann-Whitney U-test 検定を行った.ROC (受信者動作特性)曲線を用いて,VRF 群と Non-VRF 群を分類するためのカットオフ値および 曲線下面積を求めた.カットオフ値は感度と特異度の合計が最大となる値とした.感度,特異度, 正答度,陽性的中率,陰性的中率を算出した.κ 統計量により,観察者間一致率(KK1 および YA)および観察者内一致率(KK1 および KK2)を算出した.以下の統計解析は KK1 の評価に 基づき行われた. 【結果】 VRF 群および Non-VRF 群で v/V の値の中央値は,0.89 および 0.42 で,Mann-Whitney U-test 検定により,両群間に有意差を認めた.曲線下面積は 0.91 と計算され,カットオフ値は,感度お よび特異度が最大となる 0.53 とした.このカットオフ値に対し,v/V>0.53 の場合,「破折」と判 定した.16 歯中 16 歯が破折と診断され,16 歯中 12 歯が非破折と正確に予測された.感度,特 異度,正答度,陽性的中率,陰性的中率は,それぞれ 1.00,0.75,0.88,0.80,1.0 と算出され た.観察者間一致率および観察者内一致率はともに 0.80 であり,相当の一致を認めた. 【考察】 以前の我々の研究では,根管治療歯で上顎前歯小臼歯の口内法エックス線写真の根尖部透過像 の形態評価することにより,“複雑度”と“Radial SD”の 2 指標を算出した.この 2 指標により VRF 群の透過像は Non-VRF 群より複雑であることがわかった.また,得られた値を用いて,対象歯 が破折している確率モデルを示すため,ロジスティック回帰モデル式を構築した.このロジステ ィック回帰分析により選択された因子の ROC 曲線を用いて,VRF 曲線と Non-VRF 曲線を最適 分類するためのカットオフ値および曲線下面積を求めた.感度,特異度,正答度はそれぞれ 0.68, 0.80,0.75 で曲線下面積は 0.75 であった.ROC 曲線下面積は 1.0 に近づくほど,疾患の識別能 力が高く優れた検査法となり,検査法の精度を表す. しかしながら,口内法エックス線写真は 2 次元画像であり,しばしば,解剖学的構造物が重な ることも見受けられる.例えば,病変が皮質骨内に限局している症例では,口内法エックス線写 真で病変が不明瞭な時もある.CBCT は異なる 3 方向からの断面画像で構築しているため,この ような欠点を改善するかもしれない.すなわち,解剖学的構造物の重なりの影響を受けにくい断 面画像で病変形態を把握できるため,口内法エックス線写真より VRF の診断に有用な可能性が ある. - 3 - 次の我々の研究で,根管治療歯で上顎前小臼歯において歯軸と歯列に平行な CBCT 断面像を用 いて評価したところ,VRF 群の病変形態は Non-VRF 群より複雑であった.先に記述した研究と 同様にして,ロジスティック回帰分析により選択された因子の ROC 曲線を示し,カットオフ値 および ROC 曲線下面積を求めた.感度,特異度,正答度はそれぞれ 0.87,0.89,0.88 で曲線下 面積は 0.93 となり,これらは,明らかに口内法エックス線写真より高い値となった.ゆえに, CBCT は口内法エックス写真より正確に VRF と Non-VRF の鑑別をすることができるといえる. 本研究の予備実験では,患歯 32 歯において,口内法エックス線写真上では,患歯の根尖孔の 位置を正確に認識することができなかったが,CBCT の水平断面画像では,明確だった.また, 口内法エックス線写真では,VRF 群 16 歯のうち 2 歯が病変を検出することができなかったが, CBCT 画像では検出できた. 本研究では,VRF 群および Non-VRF 群において,近遠心・頬舌側・水平断面の 3 方向から CBCT 画像を構築し,3 次元モデルを作成した.これにより,術者が病変部を正確に把握するこ とが可能となるとともに,患者に提示した場合,視覚的にとらえることができるため、現状に対 して理解を得やすくなるだろう.Non-VRF 群は根尖部を中心に病変が拡がり,VRF 群は破折線 に沿って病変が拡がるため,歯冠側に進展する傾向がある.よって,v/V 値について,VRF 群で は 1 に近づき,Non-VRF 群では 0 に近づく結果となったと考えられる.本研究では,VRF 群と Non-VRF 群間において,v/V 値に統計学的有意差を認めたことから,VRF の診断に有用である 可能性が示唆された.0.53 のカットオフ値では,感度 1,すなわち VRF 症例の 100%を正確に診 断することができた.本研究において,観察者間一致率および観察者内一致率は相当の一致を認 めた.しかしながら,メタルアーチファクト,ガッタパーチャ,シーラーなどの影響により,数 症例においては病変の描出に相違を認めた.また,3 症例(VRF の 2 症例,Non-VRF の 1 症例) では,診断が一致しなかった.これは,KK1,KK2,YA で根尖孔を含める水平断面のとり方が 異なったためと考えられる. VRF の診断において,口内法エックス線写真のみでは不十分な場合は,CBCT は病変部の形態 や位置を把握し,診断や治療法の決定にしばしば有用である.本研究は,CBCT を用いた客観的 な VRF 診断方法の導入となるだろう.ただし,CBCT 撮影について,我々は常に ALARA の原 則を考慮しなければいけない. 【結論】 CBCT 画像において,歯根破折と非歯根破折の病変部骨欠損は異なる形態をしていることから, 3 次元構築画像はその鑑別に有用であることが示唆された. - 4 - 論文審査の要旨および担当者 報 告 番 号 論文審査担当者 甲 第 4774 号 小松 主 査 倉林 亨 副 査 荒木 孝二、二階堂 恵 徹 (論文審査の要旨) 歯根破折(以下 VRF)の確定診断には,破折線の確認が不可欠であるが,口内法エックス線写 真や歯科用コーンビーム CT (以下 CBCT)画像上における破折線の検出は,解剖学的構造物の重 なりや、破折線の幅・位置によっては困難であることが多い.一方、同診断のためには、破折線 の存在だけでなく、二次元的な X 線透過像の形態が有用であるとする研究も報告されている.本 研究は、CBCT から得られる三次元再構築画像に着目し、これを VRF の診断に利用することを 目的として行われたものであり、その着眼点と独創性は高く評価される. 本研究において小松は,根尖周囲外科手術によって確認された VRF 症例 16 例と Non-VRF 症 例 16 例を対象として,各症例の CBCT 画像から骨欠損部位の 3 次元モデルを再構築し,その形 態と体積をもとに比較を行った.すなわち骨欠損の 3 次元モデルを根尖部の位置において歯冠側 と歯根側に分割し,歯冠側の体積を v,全体の体積を V として,全症例の v/V の値を算出し,VRF 群と Non-VRF 群とで比較を行った. 以上の研究方法は明解であり,統計学的手法についても 適切な手法が用いられている. 本研究において,VRF 群における v/V は,Non-VRF 群と比較して有意に高い値を示したこと から,この診断法が両者の鑑別診断のために有用であることが示唆された.また ROC 解析を行 った結果,曲線下面積は 0.91 であり,v/V の最適なカットオフ値は 0.53 であることが明らかと なった.すなわち v/V>0.53 を VRF と診断した場合の感度,特異度,正答度,陽性的中率,陰 性的中率は,それぞれ 1.0,0.75,0.88,0.80,1.0 であり,精度の高い鑑別診断法であることが 示された.更に観察者間および観察者内一致度に関しては,いずれもカッパ係数 0.80 であったこ とから,再現性についても優れていると考えられた. 以上の結果について小松は,VRF 群と Non-VRF 群とでは病変部骨欠損が異なる形態を呈する こと,すなわち Non-VRF 群では根尖部を中心に病変が拡がるが,VRF 群では破折線に沿って病 変が拡がることを反映した結果であると考察しているが,これは妥当な考察であると評価される. 病変の拡がりを 3 次元的に評価することは,正確な診断を提供するだけでなく,視覚的にもわか りやすいことから,患者のインフォームドコンセントのためにも有用性が高いと考えられた. 以上のように本研究は病変による骨欠損の 3 次元的な形態が VRF の診断のために有用である ことを明らかにした初めての研究であり,歯内療法学、画像診断学をはじめ,今後の歯科医学の発 展に寄与するところがきわめて大きいと考えられる.よって,本論文は博士(歯学)の学位を請 求するに十分価値あるものと認められた. 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