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1 9 0 今も開催されている日本建築家協会のセミナーです が - TH-1
10 葉学先生から,例えば床も補修した跡がわかってもよし 今も開催されている日本建築家協会のセミナーです とする方針,ということを聞いていました。建物は引き が,1985年当時の受講対象は,会員の子弟に限られてい 渡しを午前中に済ませたばかりで,そのすべてを晒して ました。資格がないのに,どうしても建築家からナマの います。常駐に近い形で携わった所員の桜井春美さんと お話を聞きたいと思い,事務局に相談してみました。す 市川知義さんに説明してもらいながら,生意気にも「改 ると,当時実行委員の内井昭蔵先生が「ウチの所員とい 修工事というのは難しい」と感じる所ばかりが目につい うことで」と言ってくださったのです。晴れて一年間研 てしまうのでした。 「美容整形が思わしくない」と。 修生となることができて,修了証書には「内井昭蔵建築 設計事務所」の所属と書かれているありがたい顛末です。 鬱々とした気分でいたのですが,今井先生が研修の講 夏には,内井先生自らの案内で,第3回吉田五十八賞 師として話されたなかに,何か糸口になる言葉が残って 受賞の東京YMCA野辺山高原センターと,身延山久遠寺 宝蔵への研修旅行。住宅計画の授業もあるこのセミナー いないだろうかと,当時のノートを開いてみました。 嬉しいことに「良い建築は断片でもよいから残してほ は,充実したものでした。その年の講師は,今井兼次, しい」と先生の一言が書かれていたのでした。主に早稲 伊藤ていじ,藤井正一郎,芦原義信,遠藤楽,浜口ミホ, 田大学の旧図書館に対する想い,6本の柱と左官職の仕 石井幹子,清家清,漆原美代子などの各先生。 「外遊中」 事や,横山大観に心を打たれたブルーノ・タウトのこと で休講になった村野藤吾先生もいて,今となっては夢の などを話されたときに,確かにそう言われたのです。 ような布陣だったのです。 あらためて大多喜町役場改修工事の現場を見直すと, 講堂のスチールサッシは,美しく細い寸法のまま再使用 その中のお一人,今井兼次先生はセミナー終了後に, されて,歴史を感じる微妙な色に彩色されています。ペ 協会宛に葉書をくださいました。非力な私なのに川添登 ントハウスの外壁タイルも,モニュメントのような煙突 先生に力添えをいただいたお礼,自分の人生日記のよう も,講堂の天井もそのまま綺麗になりました。 な話で終始してしまったことのお詫び,若い受講生の心 耐震補強や経年変化の補修をメインに,さまざまな与 情に心打たれたことや,池原研究室の福原・入江さんに えられた条件をクリアしながら行った工事。その中で, も感謝している,という大御所にして真摯な内容なので 「建物の断片」以上のものを残した大多喜町と,このプ した。受講生からの便りを喜ばれるという事務局の通達 ロポーザルにかかわった人びとに対して,感動です。 で,私も投函したのですが,そのときに触れた建築家の 「建築はこの建設にかかわった衆人の作物であると考 魂はなんと得難いものであったかと,その出会いに感謝 えたい」という今井先生の言葉が響いてくるようです。 の気持ちが湧いてきます。 1960年に日本建築学会賞を受賞した今井先生設計の大 多喜町役場は,昨年から今年にかけて,千葉学先生の設 計で改修が行われました。増築工事については本誌2011 年12月号のコラムで書かせていただきましたが,そのと きが旧棟のオリジナルを観られる最後とも思って出かけ たのでした。改修工事の見学は,例えば整形をした老女 優の顔を見るような気持ちでした。おそらく,劇的には 若いころの美しさを取り戻せていないのです。 「今井作品の改修という重責を感じている」という千 1 9 0 施工者に幸あれ 建築交友録●