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飲食店内の BGM の効果
日心第71回大会 (2007) 飲食店内の BGM の効果 —実験室内における検討結果— ○堀中康行1注・中村敏枝1・岩宮眞一郎2 ( 大阪大学大学院人間科学研究科・2九州大学大学院芸術工学研究院) Key words: BGM イメージ誘導効果 聴覚的マスキング効果 1 目 的 飲食店で流される BGM には、BGM によって店内に落ち着き や高級感を醸し出すイメージ誘導効果、店内の雑音を BGM で マスクすることによって、快適な環境を保つ聴覚的マスキン グ効果、緊張を和らげたり飽きが生じないようにする感情誘 導効果があると考えられている(谷口、2000)。これらの効果 を定量的に追究するために、学生食堂を用いたフィールド実 験(堀中ら、2005)を実施したが、BGM を呈示することで店 内が騒々しく感じられるなど、むしろ飲食店にとってネガテ ィブな影響が生じる結果となった。原因として、店内の環境 要因の影響が示唆された。よって、実験室内で刺激要因を統 制した上で、BGM の効果について系統的に検討することが重 要であると考えられた。本研究では、3 つの効果のうち、BGM によるイメージ誘導効果と聴覚的マスキング効果について、 実験室内での実験結果から検討することを目的とした。 方 法 刺激:異なる視聴覚刺激の組み合わせによる実験が行われ た(表 1)。これらの組み合わせでの実験を実験 1、実験 2 と 区別して表記する。 実験条件:実験 1、2 でそれぞれ、BGM を呈示する条件(BGM 有条件)と呈示しない条件(BGM 無条件)を設けた。実験参 加者(n=85)はこれら 4 条件のうち 1 つの実験のみに参加した。 手続き:実験参加者に対し個別に、防音室内で BGM と映像、 及び店内音を呈示した。呈示終了後、質問紙に回答してもら った。 質問紙:BGM 印象(視聴覚刺激呈示中の BGM に関する 12 尺 度)、店内音印象(視聴覚刺激呈示中の BGM 以外の音に関する 12 尺度)、店内印象(視聴覚刺激呈示中の店内全体の印象に 関する 11 尺度)について、9 件法で評定してもらった。 聴覚的マスキング効果 図 2、3 は、店内音印象の平均評定値について、8 尺度を抜 粋して実験条件別に示している。BGM 有条件の店内音印象の 平均評定値は、やや「楽しい」「落ち着けない」「騒々しい」 「ごちゃごちゃした」印象を示すものの、全体的に見て中位評 定値 5 付近の印象を示す傾向が見られる。実験 2 の店内音は、 実験 1 よりも強い印象(グラフの左右どちらかに寄っている) を BGM 無条件で有しているが、BGM を呈示することによって 印象が弱められた(中位評定値方向に変化する)結果、実験 2 で印象がより大きく変化していると考えられる。この傾向 は、BGM によって店内音がマスクされることによる影響と推 測される。この結果から、店内音の有する好ましくない印象 を弱めるという聴覚的マスキング効果が示されたといえる。 しかし、一方では BGM によって店内音の好ましい印象も弱め られていると考えられるので、BGM を呈示する際には、店内 音が好ましくない印象を有していればいるほど、聴覚的マス キング効果が得られると考えられる。 実験 1 実験 2 映像刺激 店内音刺激 イージーリスニン 実際の飲食店で収録した 左記の映像刺激に収録 グ(オリジナル曲) 映像 されていた店内音 クラシック(ブラン テレビドラマから引用し 市販の効果音集から デンブルク協奏曲) た静止画の連続呈示 寂しい 11 貧弱な 10 暖かみのない 9 明るい* 楽しい* BGM印象 (n=41) 豊かな BGM無 (n=21) 暖かみのある 1 2 3 4 5 6 7 8 9 図 1:実験 1 の店内印象(*は有意差あり(p<0.05)) 暗い 12 明るい 寂しい 11 楽しい 貧弱な 10 安心感のない 9 暖かみのない 8 落ち着けない 7 落ち着ける ごちゃごちゃした 6 整然とした 騒々しい 5 静かな 豊かな BGM有(n=41) BGM無(n=21) 1 2 3 4 5 6 7 8 安心感のある 暖かみのある 9 図 2:実験 1 の店内音印象 暗い 12 選定(居酒屋の店内音) 結果と考察 BGM 印象、店内印象、店内音印象の各尺度について、全評 定者(図中に n で示す)の平均評定値を算出した。結果の一 部を図 1~3 に示して考察する。 イメージ誘導効果 図 1 では、実験 1 において BGM 呈示によって店内印象が大 きく変化した上位 4 尺度を抜粋している。BGM 有条件におけ る店内印象は、BGM 無条件における店内印象よりも「明るい」 「楽しい」印象へと有意に変化していることがわかる(それぞ れ p=.0138、p=.0246)。図 1 に示すように、BGM 有条件におけ る店内印象の評定値は BGM 印象の評定値に接近する方向に変 化している。この傾向は、実験 2 でも同様に見られたことか ら、BGM が店内印象に影響を与えるイメージ誘導効果が示さ れたといえる。 12 BGM有 (n=41) 表 1:実験別の視聴覚刺激の組み合わせ BGM 刺激 暗い 明るい 寂しい 11 BGM有(n=15) 楽しい 貧弱な 10 BGM無(n=8) 豊かな 安心感のない 9 安心感のある 暖かみのない 8 暖かみのある 落ち着けない 7 落ち着ける ごちゃごちゃした 6 整然とした 騒々しい 5 静かな 1 2 3 4 5 6 7 8 9 図 3:実験 2 の店内音印象 引用文献 谷口高士(2000)「音は心の中で音楽になる・音楽心理学への招待」北大路書房 堀中康行、中村 敏枝、河瀬 諭、片平 建史、安田 晶子、川上 愛(2005) 「飲食店内における BGM の影響に関する心理学的研究」ヒューマンインターフ ェイスシンポジウム、pp551-554 (HORINAKA Yasuyuki, NAKAMURA Toshie, IWAMIYA Shinichiro) 注 2007 年 4 月から九州大学大学院芸術工学府所属