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第2部 知財コンサルティングの留意点

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第2部 知財コンサルティングの留意点
第2部 知財戦略コンサルティングの留意点 101
1.知財戦略コンサルティングのプロセス
特許庁が 2007 年3月に発行した「中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル200
6」において、知財コンサルティングは以下のように定義されています。
知財コンサルティングと知財経営実務
知財コンサルティングとは、外部のコンサルタントが知財経営の実務を企業側のニーズに
応じて支援し、必要に応じてその一部を代行することをいう。
▼ 知財経営実務を代行する「知財コンサルティング」
知財コンサルティング
知財経営実務の支援・代行
知財経営実務
製品開発
技術開発・生産
基礎技術開発
①特許調査
②特許マップ分析
③権利化手法選択
④権利化
アプリケーション開発
①特許調査
②特許マップ分析
③権利化手法選択
④権利化
ー
市
場
ニ
ズ
分
析
/
製
品
企
画
特許戦略
(応用技術開発・製品化)
マーケット・イン
(量産・販売)
体制整備
①人材育成
②契約書雛形作成
③発明報奨制度
④営業秘密管理体制
整備
⑤特許出願処理
ルーティン構築
⑥情報管理システム
構築
⑦データベース構築
-等
①権利侵害品対策
②ライセンス
③IRへの活用 -等
企業側のビジネスニーズや問題意識に応じて、製品開発に際して必要となる特許調査を通
じた市場・競合分析等のサポート(戦略立案支援)や、人材の育成・営業秘密管理体制の整
備の支援(体制整備支援)などを実施するのが、その役割となる。
戦略立案を含む、知財経営の実務を行うためには、一定の人的リソースと知財経営のノウ
ハウが必要となる。知財コンサルティングは、そのような人材やノウハウを持たない企業の
ために、知財経営の実務をサポートし、ノウハウを提供する支援である。
102
特許庁「中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006」第3章より
※同書は下記サイトより PDF ファイルのダウンロードが可能です
http://www.jpo.go.jp/index/insatsubutsu.html
ここで触れられているように、知財経営の実務をサポートし、ノウハウを提供すること
が知財コンサルティングの主な役割となります。しかしながら、サポートを求める企業が
知財経営に関する知識を有しているとは限りませんし、企業が必要と考える支援と、その
企業に本当に必要な支援が異なる可能性もあります。また、支援者が企業の経営課題を十
分に把握・理解せずに指導やノウハウの提供を行っても、それは企業にとって意味を成さ
ないばかりか、むしろ誤った方向に導いてしまうことにもなりかねません。
こうしたミスマッチを回避するため、上記の「中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニ
ュアル2006」では、知財コンサルティングの標準的なプロセスを提示しています。
▼ 知財コンサルティングのプロセス
S t ep.1 「現状分析」
1.自社の状況を把握
「事業ヒアリング」「知的財産権の棚卸」etc
「分析・マッピング」
2.他社の状況を調査
「先行技術調査」etc
Step.2 「事業・技術開発戦略の再検討」
マッピングの有効性
-IT・素材・メカトロ
etc の業種では
有効性が高い
-医薬・バイオでは
少数の基本特許
の有無が事業の
成否を左右する
ため、マッピング
には工夫が必要
「研究開発の方向性」 「事業展開の方針」
Step.3 「知的財産戦略の策定」
「事業方針に合致した知財マネジメント戦略の検討」
S t ep.4 「知財マネジメントのためのシステム整備」
「システム編」
-各種規定の整備
-マニュアルの作成
「計画策定編」
-予算・人材配置
-研究開発計画
「人的資源編」
-研修の実施
・・・etc
103
企業規模と
知財コンサルティング
-組織の規模・成
長段階により求
められる制度・
システムが異な
る点に留意
-一般に研究開発
・知財管理に関
わる社員の数が
多い企業ほど
システム整備の
必要性が高まる
傾向にある
知財コンサルティングのプロセス① 現状分析
知財コンサルティングの第一歩は、ヒアリングやこれに伴う保有知的財産の棚卸し、特許
調査・分析等により、企業が置かれている事業環境との関係で知財による競争力強化の可能
性を把握し、企業側の支援ニーズに整合するコンサルティング計画を立案することである。
ヒアリング調査の対象としては支援対象企業の経営者やチーフエンジニア、中堅以上の規
模の企業では経営企画担当者や知財担当者等が想定される。以下では、ヒアリングの対象別
に収集すべき情報や調査の際の留意点についてまとめておこう。
A.経営者
知財コンサルティングは、技術開発戦略や事業戦略、そして経営戦略と整合性のとれたも
のでなければ効果を発揮し得ない。そのため、知財コンサルティングにおいても、経営者の
経営に対する考え方、事業に対する考え方、研究開発に対する考え方等を把握し、これと整
合した知財コンサルティングを立案することが非常に重要となる。また、経営者が自社の競
争力の核心を為していると考えている知的資産の内容を把握しておくことも重要となる。
経営者に対するヒアリングがもたらす副次的効果として、経営者自身の「知財経営」に対
する意識の向上がある。ヒアリングの際に、知財経営のコンセプトや体制のあり方等につい
て考え方や情報を伝えることで、経営者の知財経営に対する理解を深めるきっかけとするこ
とができる。経営者が知財経営への理解を深め、自らそれに取り組むという姿勢を社内にア
ピールしてもらうことができれば、その後のコンサルティングを円滑に進めることが可能と
なるであろう。
B.知財担当者
中小企業において知財担当が設けられている場合は、当該担当者にヒアリングを行う。知
財担当者へのヒアリングでは、支援対象企業の知財マネジメント体制や業務プロセス等、実
務レベルに関する情報の収集を行う。
なお、ヒアリングを行う際には知財担当者が全社的な(経営者の考えている)「経営戦略」
「研究開発戦略」等と整合性のある知財管理のあり方を考えているか、という点
「事業戦略」
を把握することが望まれる。
C.研究開発担当者
知財コンサルティングでは、研究開発担当者の知的財産権に対する意識を調査し、その(知
財に関わる)サポートのニーズを明らかにすることが求められる。また、知財担当者と研究
開発担当者の知財管理に対する考え方・意識に乖離はないか、ヒアリングを通じて把握して
おくことが重要となる。
104
以上のようなヒアリングにより、(a) 支援対象企業の経営・事業の方針、(b) 対象企業の「競
争力の核心」となっている知的財産に対する認識、(c) 対象企業の主要事業が置かれている状
況・段階、(d) 対象企業の支援ニーズ詳細、(e) 経営者と知財担当・知財担当と研究開発担当・
経営者と研究開発担当等の各レイヤーにおける知財マネジメントに対する意識の乖離、等を
把握することが可能となる。
ヒアリングに付随して、企業が保有している特許等の知的財産権の棚卸し(数・内容の精
査)と特許調査・マップの作成を行うことにより、支援の対象である企業がどのような特許
やノウハウを有し、これらが個々の製品の競争力にどのように結びついているのかを客観的
に確認することができる。これにより、(a) 取得している特許等が個々の事業にどの程度の貢
献をしているか、(b) 個々の事業の競争力を維持するために必要十分な特許出願(及びノウハ
ウ管理)を行っているか、(c) 競合他社と比較した場合に自社の知的財産権はどのような事業
分野に強みがあると考え得るか、といったことを把握することが可能となる。
このような一連の調査・分析により、企業側のビジネス上の目標を把握した上で、最適な
特許戦略、管理体制のあり方を検討する準備が整うのである。
知財コンサルティングのプロセス② 事業・技術開発戦略の再検討
企業側の支援ニーズが事業・技術開発戦略の再検討にまで踏み込んだものである場合は、
上記プロセス①における調査結果をベースに、支援対象企業の戦略再構築をサポートするこ
ととなる。
進行中の研究開発プロジェクトに関して、特許調査の結果、他社が類似した特許を大量に
出願していることが明らかになった場合は、開発に成功した場合においても、高い利益率の
確保が困難であると予想されること、他社からの特許による攻撃の可能性もあること等を考
慮して、撤退の可能性を含め、事業の方向性を再検討しなければならない。また、主力事業
の特許ポートフォリオが弱いという分析結果が得られた場合は、周辺特許の取得等により、
その強化を図ることが求められよう。
コンサルティング側が特許マップを提供することによって、支援対象企業の経営陣は自社
の置かれている客観情勢を踏まえた上で、事業・研究開発の方向性に関する再検討作業を進
めることができるようになるのである。
知財コンサルティングのプロセス③ 知的財産戦略の策定
事業や研究開発の方向性が定まった企業に対しては、具体的な知財の保護・活用に係る戦
略・方針の決定をサポートすることが必要となる。今後、開発の見込まれる技術資産の権利
化の方向性(特許出願・ノウハウ化)や、将来を見据えた知財管理体制のあり方、資金調達
への知的財産権の活用方法等、企業側の支援ニーズや置かれた状況により、取り上げるべき
検討テーマは様々である。
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知財コンサルティングのプロセス④ システム整備
プロセス③において社内の知財管理体制の整備が検討課題に上がった企業(体制整備の支
援ニーズがある企業)に対しては、方針の策定をサポートするのみならず、より具体的・実
践的な支援を行う必要が生じてくるケースもある。人材育成を重視する企業に対しては研修
の実施が、法務体制の脆弱な企業には契約書の雛形作成等の支援が求められよう。
なお、知財コンサルティングではヒアリングや特許調査、人材育成のための研修等、様々
な支援実務を同時並行で実施しなければならないケースが多い。このため、支援の最終的な
目的、及びプロジェクトの進捗状況を常に確認できる状況にしておく必要がある。
特許庁「中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006」第3章より
ここで重要な点は、ステップ1の現状分析に基づきステップ2以降が実施されることと
なりますが、企業の経営課題は自らの活動や、あるいは経済情勢や競合他社の動向などの
外部環境によって、日々変化しうるということです。従って、常に最新の状況を把握し、
経営課題や事業戦略に立ち返りつつコンサルティングを進める必要があります。
また、企業活動は千差万別ですし、業種や規模だけでなく、経営者の考え方やスタッフ
の資質もそれぞれ異なります。第1部では知財活動が定着して成果を上げている中小企業
10 社を紹介しましたが、それぞれのアプローチは全く異なるものです。一つの企業に成功
をもたらした考え方や取り組み内容が、他の企業にも通用するとは限りません。
上で述べられている標準的な知財コンサルティングのプロセスは、コンサルティングを
進める上での標準的なパターンを整理したものですが、各ステップにおいては支援対象と
なる企業の活動や考え方に応じて柔軟な対応が求められることになります。次項において
は、知財コンサルティングのプロセスに従い、各段階で留意しておくべき項目、支援にあ
たり意識すべきことや、コンサルタントのとるべき姿勢などを、第1部の各社の活動から
得られるヒントも交えて提示します。
106
2.知財戦略コンサルティングの各ステップにおける留意点 知財コンサルティングのプロセスに従い、各段階で留意しておくべき項目、支援にあた
り意識すべきことや、コンサルタントのとるべき姿勢などを、第1部の各社の活動から得
られるヒントも交えて提示します。実際に各社の取材にあたったワーキンググループ(WG)
委員が、各社のインタビューから感じたこと、また日頃知財コンサルティングを行うにあ
たり意識していることを示します。
注)
各項目の記述者名を末尾の(
)内に示します。名前の後に参照先企業名を表
示している場合は、該当する企業へのインタビュー記事と併せて読むことで、よ
り理解が深まるであろう項目であることを示します。第1部をご参照ください。
とくに企業名の表示がない場合は、当該項目の記述者が通常留意している項目
であることを示します。
107
現状分析 - ヒアリング結果の整理・分析 (1)現状分析
①現状・課題を把握するためのヒアリング
知財コンサルティングの第一歩は、ヒアリングやこれに伴う保有知的財産の棚卸し、
特許調査・分析等により、企業が置かれている事業環境との関係で知財による競争力
強化の可能性を把握し、企業側の支援ニーズに整合するコンサルティング計画を立案
することです。ここでは、現状・課題を把握するためにまず行うヒアリングに際して
留意すべきポイントを示します。
1)ヒアリングをはじめるにあたって
■一般的なビジネスの話から始めること
「今日は知財のインタビューに来ました」
「貴社において特許出願は年間何件です
か」ではなく、経営環境、最近の業績、経営戦略の話から始める。そのような会話
の中で、対象会社の競争力の源泉(市場の中で戦っていける根拠)を特定していく
ことが第一のステップです。その結果、競争力の源泉が存在しないか、技術や知財
と無関係であることがわかった場合、知財コンサルティングを行っても意味がない
からからです。(鮫島)
■競争力の源泉が知財と関係がある、と判明した時点で技術開発及び知財の話にシフト
していく
マーケティング→技術開発→知財という基本セオリーを意識して順々に聞いてい
くことが望ましいです。私の感覚では、60 分のヒアリングを行うとしたら、知財の
話に入るのは後半(30 分以降)です。知財戦略は知財単独では成立しません。経営
環境、経営戦略の中で息づくものですから、バックグラウンドを十分に知らなけれ
ば、対象会社にとって知財がどのような意味づけを持つものであるかが判断できま
せん。この意味づけを間違えたコンサルティングはお互いにとってストレスにしか
なりません。
(鮫島)
■先ずは和やかな雰囲気をつくる
知財について話すことは企業にとっては裸を見せるようなものです。とかく先方
の知財各論に入りがちな会話で、敢えて一二歩引いた話から始めることが経営者と
の垣根を低くし、結果として得られる情報の量と質に比例することが多々あります。
(塚越)
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現状分析 - ヒアリング結果の整理・分析 ■事前に調べたり、耳に入ったりしている情報から質問する
例えば、「A・Bという二種の主力製品があるのに、対応特許はAにしか見あたら
ず、Bには対応特許が発見できない」という事前調査をしてあったとすれば、『製品
Bについて特許出願しなかったのは、どうしてですか?』という質問です。仮説を
立て、その仮説が正しいかどうかを聞く場合もあります。例えば、『製品Bについて
特許出願しなかったのは、ノウハウとして製造方法を秘匿するためですか?』と質
問するのです。質問の形を取った情報発信は、押し付け感を和らげられる、などの
メリットがあります。(的場)
■創業理念(または会社の設立趣旨)を、どこかのタイミングでヒアリングする
これを聞いてから他の質問をする、という方が論理的に思えますが、いきなり「創
業理念は何ですか」と聞かれても答えにくいですし、答えてもらったとしても抽象
的なので理解しにくいと言えます。
(的場)
2)事業内容、投資内容を把握する
■中期計画、事業計画について質問する
会社の方向性に沿わない戦略立案は、聞き入れてもらう余地がないからです。
ただ、中期計画や事業計画をそもそも、持っていない会社も多くあります。その
場合には中期計画、事業計画を考えてもらうきっかけにしたり、一緒に考えたりす
ることです。そうした作業を通じて、経営課題を把握することができる場合があり
ます。(「明確な経営課題」を認識できている経営者は少ないです。課題が明確にな
っているならば、対策を既に打てているのですから)
(的場)
■客観的視点で事業モデルを正確に把握する
的確なコンサルティングには事業内容の正確な把握が不可欠です。対象分野につ
いて豊富な知識を有する経営者・クライアントとの対話を通じて得られる情報を、
外部専門家の視点で整理し、事業のキーファクターが何であるのか、現在、どのよ
うなビジネスを構築しているのか、捉えていくことが必要です。事業内容を個別要
素に分解し、いつ、どこで、誰に、何を、どのように提供するのか、実際の事業を
モデル化する際には、より客観的視点を持つコンサルタントの強みが発揮されます。
事業モデルの把握と同時に、誰から、どんな名目で、いくらもらうのか、収益モデ
ルを理解することもまた重要です。
(籔田)
■製品分布・着手分野から事業ドメインをどう定義しているかを確認する
保有している知財を通して得られる製品、自社が取り扱っている商品について確
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現状分析 - ヒアリング結果の整理・分析 認します。既に取り扱っている現商品だけでなく、新製品や開発中案件など将来の
取扱商品や、過去に取り扱いがあったものの現在は行っていない旧商品についても
あわせて確認します。技術の応用範囲、事業の展開方向について把握する際に、
「ど
のような分野に注力しますか?どのような分野で技術の強みが発揮されますか?」
といった質問だけでなく「進出しない分野は?顧客の開発依頼を断るケースは?」
など自社で実施しない事業分野についての質問を加えることで事業範囲の輪郭がよ
り鮮明になります。限りある経営資源を有効に利用するためには、予め自社が行う
事業の範囲を定義し、経営者・社員間で確認しておくことが重要です。受託開発型
の企業では開発依頼に振り回されないためにも特に注意が必要です。
(籔田→鍋屋バ
イテック)
■「どのような発明がありますか?」ではなく、「どんな事業に投資をしていますか?」
からヒアリングする
さらに言えば、社長がどのような課題に悩み、どのような取り組みを進めている
のか、経営課題そのものからヒアリングします。その中で、どのような事業(開発
テーマ)に資金投下をし、どのようなリスク・不安を感じているかを把握すること
から、知財活動でそれを解決できないかを考えます。このようなアプローチによっ
て、経営課題に沿った知財課題を設定することができます。(土生→田川産業)
■今後の研究開発・製品開発の計画を、時間軸や投資計画(研究開発や設備投資に資金
を投下する金額等)をヒアリングしておき、後の分析や戦略立案に活かす
なぜならば、知財活動も投資の一部であるから、投資計画と整合した戦略立案が
必要になるということです。例えば、研究開発に 3 千万円投資するのに知財活動に 5
千万円を投資していてはバランスを失しますし、年商が数百万円の事業に数百万円
を知財活動に投下しても回収は見込めないことになります。(土生→シード)
■「どのような技術や製品ですか?」ではなく、「誰に売る製品なのか、その製品を製造
するのにどんな投資をしたか?」からヒアリングする
特許や知財のことを答えなければならない、というプレッシャーを取り除いてあ
げることが重要です。(的場→ニッコー)
■サービス提供の流れと、経験・知識の情報の流れについて、全体像を把握するように
務める
サービス提供の流れと、それに付随する経験・知識の情報の流れについて、ヒア
リングしていくことが大切です。(佐原→しのはらプレスサービス)
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現状分析 - ヒアリング結果の整理・分析 ■特許の対象となる製品そのものに関する質問だけでなく、その製品を誰と協力してど
のように販売していくか、といったビジネスモデルの全体像まで含めてヒアリングす
る
事業戦略において守らなければならない対象は、発明や特許製品そのものには限
らない、収益を生み出すビジネスモデルのコアとなる部分です。ビジネスモデルの
全体像、そのビジネスモデルが収益を生む仕組みを理解することによって、経営課
題として保護が必要になる要素を特定し、経営課題を解決するための知財課題を設
定することができます。
(土生→エルム)
3)経営課題と知財との関係を明確化する
■「脱下請け」が経営課題の企業であれば、自社の強みを客観的に把握できているかを
確認するため、強みが何なのか、それを開発した製品との関係で把握するために何か
を行っているかをヒアリングする
自社の強みが客観的に把握できていない、自社の強みを活かした製品を開発して
提案していくことは難しいことです。また、その強みが「人材」「巧みの技術」のよ
うな抽象的なレベルではなく、技術的な要素として特定できていないと、その強み
を具体的な製品に落とし込んでいくことには繋がりません。こうした点が意識でき
ていない企業に対しては、特許取得までのプロセスが一つの手段となり得ることを
検討してみるとよいでしょう。(土生→ナベル)
■市場・顧客情報→企画→設計→試作→量産の商品開発プロセスにおける知財の位置づ
けや知財活動に対する予算組みを確認する
行き当りばったりで特許等を出願する製造業では、企画会議の討議や稟議資料な
どに知財項目が無い場合が多いです。
商品開発プロセスで「いつ」
、「どのように」
知財の抽出と出願の検討が成されるのかチェックします。
(塚越→オプナス)
■経営情報から経営課題を読み取り、知財で解決できる知財課題を抽出する
コンサルタントが経営改善に着手するためには経営者が事業をどのような方向に
進めようとしているのか、どんな会社にしようとしているのか、経営目標を適切に
把握しなくてはいけません。将来の経営目標と現在の事業状態とのギャップをどう
埋めていくのか、それらの具体的な項目である経営課題を、経営者とのヒアリング
を通して掴みます。「経営課題は何ですか」といった直接的な質問では、医者が患者
に「あなたの病気は何ですか」と質問しているのと同じです。文書や口頭など、会
社の内外で得られる様々な経営情報から経営課題を読み取り、その中から知財に関
係するもの、知財で解決できるもの、知財課題を抽出していきます。
(籔田)
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現状分析 - ヒアリング結果の整理・分析 4)経営者が知財および制度をどの程度理解しているかを確認する
■社長が特許やノウハウ管理の実質的な目的や効果を理解できているかを確認する
社長に限らず実際の経験がないと、
「特許=独占権」と単純な図式で考えてしまっ
ていることが多いです。そもそも、その業界における特許やノウハウ管理の実質的
な目的や効果を正しく認識できていないと、知財活動により解決可能な課題を適切
に設定することができなくなってしまうので、この段階で社長の認識を明らかにし
ておくことは重要です。
(土生)
■特許に何を期待しているか、期待が現実を離れて過大になっていないかを確認し、必
要であれば特許の現実的な効果を説明し、意識合わせをしておく
特許制度を有効に利用している企業は、その業態における特許の現実的な効果(特
許をとればそれだけで事業がうまくいくという単純なものではなく、開発力や提案
力などが前提で、うまく工夫して特許をとれば効果が出ると言うことが多い)をよ
く理解していることが多く、その部分に誤解(特に過大な期待)があれば、早い段
階でトップと意識合わせをしておくことが必要です。(土生)
■経営者が知的財産(知的資産)をどう解釈しているか確認する(その1)
経営者が事業経営の中で知財をどう扱う傾向にあるか見えてきますし、その後の
ヒアリングの流れを作るヒントにもなります。
また、訴訟経験がある経営者には
思い込みとのギャップを対話を通じて自己分析してもらうことが経営者の意識改革
につながります。(塚越)
■経営者が知的財産(知的資産)をどう解釈しているか確認する(その2)
経営者の知財に関する理解は様々です。知財を特許などの知的財産権に限定して
捉えている場合、生産方法に関するノウハウや顧客の要望を収集する仕組みなど広
い範囲で定義している場合など知財の解釈は人によって異なります。ヒアリングの
初期段階で経営者がどのように知財をとらえているのか、いかに知財を定義してい
るのか確認すること、言葉の定義をあわせることで相互理解を促進することができ
ます。更に、知的財産(知的資産)を会社の中にあるヒト、モノ、カネなど様々な
経営資源の中にどう位置付けているのかについても確認しておきましょう。
(籔田→
鍋屋バイテック)
■特許制度に対する期待度を把握するための質問をする。
特許制度に過度な期待を抱いていたり、逆に矮小化していないかを確認します。
112
現状分析 - ヒアリング結果の整理・分析 特許やノウハウ管理の実質的な目的や効果を理解できているか、ということを抜
きに提案をしても、実行不能、継続不能な提案です。(的場→ニッコー)
■「社員の経験・知識の有効活用状況」をヒアリングすることを忘れないようにする
事業や知財に関する知識や経験、あるいは意思決定の権限がどの程度社長に集約
されているのか、それとも社員との共有が図られているかは、戦略や体制を提案す
る上で重要な要素です。
(佐原→しのはらプレスサービス)
5)その他
■現在の社長の立場、企業の歴史の中での位置付けについても踏み込んでみる。
二代目社長だと、カリスマであった創業社長からさらに歩を進めなければという
意識の中で、特定の人に依存しない組織作りを課題としていることが少なくないと
思われます。そのような意識があれば、「客観化」を目的とする知財活動が推進しや
すいと考えられます。但し、この種の質問は社長との会話がある程度進み、打ち解
けてから踏み込まないと、唐突に訊ねるのは失礼となることも多く、十分な注意が
必要です。(土生→ナベル)
■将来を睨んだ投資を促す
開発型の企業で特許による保護が重要と思われる企業の経営者が「特許に割く予
算があれば設備投資や人材の採用に使いたい」と主張した場合には、
「設備投資や人
材の採用は誰にでもできるが、その特許は貴社にしかとれないのでは?」と問いか
けてみることを検討してみるとよいでしょう。
(土生→シード)
■事業の沿革についても聞いてみる
知財戦略に向けたヒアリングは、現在保有している特許や技術の状況、今後の開
発可能性の探求など、現在と将来に関する内容に集中しがちです。その会社の将来
像をコンサルタントとして経営者と共に考えていく時に、それまでどのような事業
を行ってきたのか、製品の変遷や印象的な出来事など過去に起こった事柄について
情報を共有していることは、適切なアドバイス・経営者が納得するコメントを生み
だす助けとなります。事業沿革からその会社が、売上拡大志向か、利益追求志向か、
保守的か、革新的かなど個々の判断に必要な基礎情報を得ることができます。(籔田
→昭和)
■事業承継は知財の見直しができるよい機会である
現経営者に事業沿革について質問する際に、二代目、三代目経営者のような場合
113
現状分析 - ヒアリング結果の整理・分析 には、事業承継プロセスについて注目してヒアリングすることも重要です。創業社
長の強い事業意欲とは異なる客観的視点で事業見つめているケースが多々あります。
事業が継続している会社で会社の中にあるもの、保有資産を見つめなおす機会はそ
う多くありません。事業承継は会社を見つめなおす絶好の機会、事業承継の際に何
をしたかを確認しましょう。会社資産のレビューをすること、知財の棚卸をするこ
とにより、事業と知財の関係をより正確に把握することができます。
(籔田→昭和)
■出願前の先行特許調査をどの程度行ったかは、必ずヒアリングする
先行特許調査が場当たり的であれば、パテントマップ作成の必要性を感じ取るこ
とができます。一方「調査していない」というような、場当たり的というレベルに
も達しない場合には、それを批判するのではなく、『なぜ調査しなかったのか、しな
かった事情(資金、人材)、背景など』
をきちんと探ります。そうした事情を掴ま
ずに、「調査すべし」というコンサルティングをしても、実行不能、継続不能な提案
に止まってしまうからです。(的場)
②特許調査・パテントマップ
ヒアリングに付随して、企業が保有している特許等の知的財産権の棚卸し(数・内容
の精査)と特許調査・マップの作成を行い、支援の対象である企業がどのような特許
やノウハウを有しているかを確認します。
■具体的な事業との関係での調査およびパテントマップ作成に関する提案と、長期的な
社内体制としての調査およびパテントマップ作成に関する提案とは、明確に区別する
取り急ぎやらなければならないのは前者ですが、後者をにらみつつ前者を実行す
ることにすれば、社内体制の確立を早められます。
私見ですが、調査やパテントマップ作成は、社内の技術者やマネージャにも協力
してもらうと良い、と考えます。
調査結果そのものよりも、調査過程やパテントマップ作成過程にて得られる知識
や情報が知財教育となり、且つ開発のヒントとして活かせることが多いからです。
(的場)
114
現状分析 - ヒアリング結果の整理・分析 ③ヒアリング結果の整理・分析
現状・課題を把握するためのヒアリングや特許調査・パテントマップの作成を通じて、
支援の対象である企業がどのような特許やノウハウを有し、これらが個々の製品の競
争力にどのように結びついているのかを客観的に確認することができます。事業と知
財の関係を明確化し、知財活動の導入で解決可能な経営課題を明らかにすることがこ
こでの作業の目的となります。このプロセスにおける留意点は以下のとおりです。
1)事業と知財の関係を明確化する
■投資している事業と特許やノウハウ管理の関係を明確にする
大きな投資をしている分野で、知財活動によって投資回収にプラスの効果が期待
できるかを検討し、知財活動のアウトラインを設定します(特許が有効であれば出
願体制の強化、ノウハウの要素が大きければ技術情報の管理体制の整備、人材の問
題ならナレッジマネジメントによるインセンティブ制度の整備 etc.)。そもそも大き
な投資をしていない、リスクを負っていないということであれば、将来に向けた投
資は必要ないのか、といった経営戦略から検討します。(土生→田川産業)
■その業界における特許やノウハウ管理の実質的な目的や効果を確認する
教科書的な知識だけでなく、特許を出願・取得することで具体的にどのような効
果が生じるか、その業界、その企業の業界内におけるポジションなどを考慮しなが
ら、個別具体的に検討します。(土生)
■特許の対象となる製品を含めたビジネスモデルの全体像を整理して、特許調査を進め
るポイントを特定する
事業における競争力を特に大きく左右する特許は、ビジネスモデルの中でも競争
力のコアとなる要素に位置付けられる発明に関するものです。技術的な先進性以上
に事業上の影響度や重要性を意識して、特許調査を進める部分を絞り込むべきです。
(土生)
2)知財活動の導入で改善できる経営課題を明らかにする
■支援テーマを設定する
経営課題から知財課題を抽出し、知財戦略を支援するに当たり経営プロセスの中
で知財をどのように取り扱うべきか(例、経営改善の糧としての知財)を確定しま
す。
支援テーマを設定することで支援プロセスの内容を明確でシンプルな方向に
115
現状分析 - ヒアリング結果の整理・分析 仕向けることができます。(塚越)
■支援必要項目を、戦略策定、発明管理、権利強化、情報管理などに整理する
支援項目は対象者が異なる、或いは異なる対象者が各々の意思決定レベルで関わ
ることに留意します。例えば、「戦略策定」は知財基本方針の設定と共に経営陣レベ
ルが主体になりますが、
「発明管理」では経営陣が事業戦略や予算との相関関係、
「開
発部門」では開発プロセスとマイルストーンの管理、「知財部門」では発明と知財の
抽出と権利化・保護プロセスの管理と、内容も時系列も異なる場合が多いです。
(塚
越→オプナス)
■事業の流れの中での改善点を検討する
ヒアリングによって得たサービス提供の流れと、経験・知識の情報の流れを整理・
分析し、そこに非効率な部分や、改善すべき点が無いか分析していきます。(佐原→
しのはらプレスサービス)
■改善活動として、知的財産活動を導入していく
知的財産活動は、とらえ方一つで、内容が異なってきます。明確な答えもありま
せん。従って、その会社にとって固有の知的財産活動を構築していきます。その際、
「経験情報・技術情報等を共有化する」ことも知財活動の範疇であることを忘れな
いようにします。(佐原→しのはらプレスサービス)
■投資額が大きく、且つその額が回収されていない事業はどれか?
該当する事業を重点的に、特許やノウハウ管理の関係を明確にします。(ベンチャ
ー企業では全ての事業がこれに該当してしまう場合が多いですが)(的場)
■基本理論を踏まえ、知財的な結果が実現できているかを考える
マーケティング→技術開発→知財という理論との関係で、どの部分に問題がある
のか、というのが基本的な分析手法となります。
知財戦略の習熟度は、この基本理論の実践度と、それによって得られた結果との
バランスによって評価されます。
基本理論が実践されているにもかかわらず、シェアや利益率の向上が果たされて
いない場合は、何かが欠落しています。それはヒアリングが不十分であるか、基本
理論が形式的に実践されているに過ぎない(例:特許出願はされているが、特許実
務が未熟なためにいい権利が取得されていないなど)ことを意味します。
他方、基本理論が実践されていないにもかかわらずシェア・利益率の向上が果た
されている場合、知財戦略は対象会社にとってさほど必須ではない可能性がありま
116
現状分析 - ヒアリング結果の整理・分析 す。(鮫島)
■上記を踏まえて各論的な分析に入る
各論的な分析とは、対象会社の事業形態によって、特許による独占を実現すべき
場合(制約・バイオ関連)、特許ポートフォリオによってクロスライセンスを狙って
いくべき場合(電子部品など IT 関連)、ノウハウ保護によって技術的な参入障壁を
高めていく場合などに細分化されます。それぞれ、技術管理のあり方が変わってく
るものと思われますが、対象会社のマネジメントがこれに整合しているかどうかを
分析する必要があります。(鮫島)
■創業理念や長期計画との関係で、事業を見直す
出願そのものが直接的な効果をもたらさなくても、事業にプラスとなるのであれ
ば、出願するように提案します。代表的には、事業を共同で進める会社がある場合
に単独出願しておくことで主導権を握るとか、出願していることで同業他社への牽
制効果が見込める場合、などです。
(的場)
■外部の視点からその会社の「強み」を見つけ出す
ヒアリングを通して得られる製品情報、技術情報からその会社が取り扱っている
製品の全体像を描き出し、複数の製品に共通する技術・ノウハウを抽出し、事業の
強みとなる部分を見つけ出します。事業を継続している経営者、同じ技術に触れ続
けている技術者・研究者が気づいていない、意識していない強みを外部からの視点
で見つけ出していくことは重要なプロセスです。競合他社が保有する製品や代替可
能な技術との比較で、強みがどの程度であるか、より具体的に捉えていく必要があ
ります。(籔田→鍋屋バイテック)
■単一技術、単一市場の事業のリスクを指摘する
会社が取り扱う複数製品を生みだす源泉が、単一の技術・ノウハウに集中してい
る場合、会社の売上が特定の企業や単一市場に集中している場合は、事業のリスク
を認識しておく必要があります。単一の得意先に依存しすぎた下請け企業が倒産す
るように、過度に単一市場、単一技術に依存してはいけません。技術が応用可能な
分野を広い視野で見据え、様々な可能性を追及し、小さな複数市場の集積で売上を
構成した方がより安定した経営が可能と言えます。複数企業を横断しているコンサ
ルタントは、実際に事業を行っている経営者よりも多くのケースに触れることがで
きるため、経営者が気付いていない市場や、知財の応用可能性について多くの選択
肢を提供することができます。(籔田→鍋屋バイテック)
117
現状分析 - ヒアリング結果の整理・分析 3)その他
■知財獲得は新たな人材獲得に寄与する
中小企業にとって優秀な人材の獲得は常に頭の痛い問題です。事業が軌道に乗っ
ている企業にとって、新たな人材の獲得が事業発展の転機になったケースが多々あ
ります。就労環境が整った大企業に対抗して、中小企業に優れた技術者を惹きつけ
るには、待遇や地位だけでない別の魅力付けが必要です。他社にはない視点、ユニ
ークな研究内容は技術者の興味をひきます。それを先進的な特許の獲得、ノウハウ
の知財化など、具体化・視覚化することは、優れた人材獲得に寄与することになり
ます。昭和のケースでは、強い知財の獲得によって特徴づけられた企業は、大企業
との取引が増え、公共のリストに社名が載ることで知名度が上がることで、優秀な
社員の獲得ができるようになりました。人材によって生み出される発明・考案が、
知的財産という形で人目にさらされることにより新たな人材を獲得するきっかけが
できると言えます。(籔田→昭和)
118
事業・技術開発戦略の再検討
(2)事業・技術開発戦略の分析(再検討)
対象企業の事業・技術開発戦略と知財の関係を明らかにすることで、企業の目指す
方向と乖離しない知財戦略の策定を行うことができます。また、企業側の支援ニーズ
が事業・技術開発戦略の再検討にまで踏み込んだものである場合は、前項の現状分析
の結果をベースに、支援対象企業の戦略再構築をサポートすることとなります。ここ
での留意点をいくつか示します。
■既存事業の知財状況を顕在化する
開発テーマを短期、中期、長期に分け出願特許を予算や件数で統計化することで
事業と知財を客観的に結びつけ、経営陣に有効な自己分析ツールを提供します。
(塚
越)
■発明の抽出時期とその内容を明確にする
商品開発プロセスの後半で知財の抽出が成される場合、発明の上位概念が忘れら
れていることが多いです。知財ポートフォリオの棚卸の際に過去の出願資料で確
認・検証します。(塚越)
■具体的な業務と直結させた形で、知的財産活動を行っていく。
業務から乖離した活動は出来る限り避けるようにします。つまり、「知財活動の為
の活動」は避けるように心がけます。(佐原→しのはらプレスサービス)
■特許調査やパテントマップを使いつつ、同業他社との力関係の分析や、SWOT分析
などを実行する。
これらの分析には正解はないので、作成途中で先方の担当者らと議論すると良い
でしょう。議論することで、担当者の考え方を理解するのに役立ち、担当者にとっ
ても自社を客観的に見つめる機会となるからです。(的場)
119
知的財産戦略の策定
(3)知的財産戦略の策定
事業や研究開発の方向性が定まった企業に対しては、具体的な知財の保護・活用に
係る戦略・方針の決定をサポートすることが必要となります。今後、開発の見込まれ
る技術資産の権利化の方向性(特許出願・ノウハウ化)や、将来を見据えた知財管理
体制のあり方、資金調達への知的財産権の活用方法等、企業側の支援ニーズや置かれ
た状況により、取り上げるべき検討テーマは様々である。
重要なことは、経営資源を重点的に投入する分野を明確にすること、また市場や競
合関係を踏まえた戦略であることなどです。ここでの留意点をいくつか示します。
1)重点分野を決める
■投資している事業を重点的にカバーできる戦略を立案する
経営課題に対する成果を上げるために必須のポイントです。(土生→田川産業)
■経営課題の解決を重視し、また戦略の提案の仕方を工夫する
経営課題に対する成果を上げる戦略であることが必須です。
予算との関係で最低2種類を作成したうえで選択してもらったり(「この案でどう
でしょう!」と提案すると、「一箇所の違和感で全ての印象を悪くする」というおそ
れがありますが、二案出して選択してもらうと、そういう危険性を回避できます)、
いいとこ取りの第三案を作成したりすると、進めやすくなります。(的場)
■出願分野にメリハリをつけられるように、開発投資や設備投資の計画から重点分野を
確認し、重点分野中心の特許出願・権利化の戦略を立案する。
経営資源に限りのある中小企業は、メリハリを付けた知財活動を行うことが必要
です。知財活動も投資の一部であり、その企業がどの分野・どの事業に重点投資を
しているかを把握して戦略立案することが重要です。(土生→シード)
2)市場や競合関係を前提に考える
■市場の競合状況から知財の活用方法を変化させる
市場が成熟し、企業数が減少しているなど競合環境が穏やかな市場では他社の参
入障壁を目的とした特許取得はあまり意味がありません。一方、今までにない特殊
な商品・サービスで購入者・利用者が少なく、比較製品・代替サービスが少ない状
況では、過度に市場を囲い込みすぎると、顧客の理解を得られずに市場の成長を阻
120
知的財産戦略の策定
害するケースがあります。知財戦略には市場の競合状況から知財の活用方法をどの
ように変化させていくのか、他社との駆け引きを、知財を使ってどのように進めて
いくのかが含まれている必要があります。自社の権利を守ることだけでなく、市場
をいかに育てていくのかという視点も必要です。(籔田)
■「特許をどう出してどうとるか」だけでなく、特許以外の手段も含めて、競争力のコ
アとなる要素がどのように保護し得るかを考える。
特許の対象にはなりそうもないものであっても、物理的な仕組みや契約上の縛り
などによって保護できる場合があります。「特許の対象になるかどうか」ではなく、
「この技術をどう守れるか」という視点で考えることが必要です。(土生→エルム)
■特定の分野・製品で「トップになる」ことを目指す経営戦略を考え、知財戦略もそれ
に即したもの(特定分野への集中特化 etc.)を考える
ニッチ分野であれ、「トップ」の位置に立てば情報にセンシティブになり、社内の
意識を高めることが期待できます。
(土生→ナベル)
■最終的にはサービスの質・内容・レベルの向上につながるようにする
サービス改善につながらない限り、収益に至りません。(佐原→しのはらプレスサ
ービス)
3)その他
■海外展開に際しては、コア特許の取得→有力な販売パートナーとの提携、といった戦
略も検討してみる
中小企業が単独で海外での事業展開を進めることは難しいことが多く、例えば、
模倣品対策においても、必要十分な権利を抑えるとともに権利行使まで自社だけで
行うことは現実的でないことが多くなります。コア特許を活かして現地の有力なパ
ートナーと提携し、現地での細かい対策はパートナーに委ねるというのも、特許を
活かした海外展開の一形態です。(土生→エルム)
■社内の経験・知識等の情報が、効率的に流れていくような社内体制を立案する
社内の経験や知識は、多くの場合、再利用し難い状態で整理・保管されています。
従って、再利用することを念頭に社内情報を整理しておき、情報が円滑に流れるよ
うにしていくことが大切です。(佐原→しのはらプレスサービス)
121
知的財産戦略の策定
■ノウハウが流出する原因とその防止方法を、会社全体を俯瞰して考える
ノウハウの知財化の目的の一つは、技術を個人に依存するのではなく事業を継続
する会社に残すこと、製造方法が他社に流出することを防止することにあります。
技術を明文化・権利化して保護することも有効ですが、技術を使って製品をつくる
「人」に注目して技術を保全するという考え方もあります。技術・ノウハウが流出
する最大の要因は「人」
、技術者・研究者の離職と言えます。経営者しか知らない秘
伝のタレ、レシピ・配合を限られた人だけに伝えるといった手法もありますが、自
社オリジナルの製造装置でノウハウを守るという方法もあります。特定製品を生産
するのに最適な製造装置の組み合わせや配置、作業手順や機械の特性に応じた細か
な設定など、ノウハウを集約した機械づくり・ラインづくりに注目することはノウ
ハウを社外に流出する事を防止するのに役立ちます。(籔田→鍋屋バイテック)
122
システム整備 - 実行体制構築 (4)システム整備
①実行体制構築
知財戦略の策定にあたり、社内の知財管理体制の整備が検討課題に上がった企業(体
制整備の支援ニーズがある企業)に対しては、方針の策定をサポートするのみならず、
より具体的・実践的な支援を行う必要が生じてくるケースもあります。体制整備の基
本的な考え方を整理し、外部資源の有効活用も考慮しつつ社内体制の整備を提案・支
援していきます。ここでの留意点は以下のとおりです。
1)体制整備の戦略、基本的考え方の整理
■新たに生まれた発明が特許出願できるというだけの仕組みではなく、ビジネスモデル
全体を俯瞰した上で選別して効果的な特許出願を進める仕組みを構築することを考え
る
発明者から個別に提案を受けたり、ヒアリングをしたりして漏れなく出願すると
いうだけではなく、各々の発明の位置付けを把握して出願の要否をジャッジできる
出願フローを構築します。(土生)
■個別の事件に対する対処策の判断を、法律的側面からの判断だけに委ねないような体
制、経営の意思が反映される体制を構築する
警告や提訴など、法律上は当然の権利行使であったとしても、事業戦略としては
必ずしも適切でないこともありえます。事業において得られるもの、失われるもの
も考慮して経営者がジャッジできる意思決定のプロセスを構築すべきです。
(土生→
ナベル)
■メリハリを付けた知財活動のためには、出願前の発明、出願中の特許、成立した特許
をランク付けしておき、重点対応や権利放棄等の判断を行いやすくしておくべきであ
る
企業にとっての重要性についてランク付けなどによる評価ができていないと、
「権
利を捨てる」
「応用特許等を複数出願する」といった具体的対応の判断を速やかに行
うことができません。(土生→シード)
■外国での出願・権利取得については、基本的なポリシーを固めておく
例えば、比較的特許権が尊重されやすい先進諸国は特許、特許権の実効性に不安
123
システム整備 - 実行体制構築 がある新興国などでは外部から見えやすい意匠というように、一貫した方針で取り
組めるように基本指針を定めておくとよいでしょう。(土生→シード)
■支援テーマと支援項目に準じて身の丈に合った体制構築を立案する
知財活動が必要以上に単独行動になり、経営負荷が大きくならないよう留意しま
す。例えば、ISO に準じた企画会議に併設して発明検討会を開催するとか、既存稟
議資料に知財項目を追加するなど、経営や商品開発の既存プロセスになるべく準ず
る知財活動を組み込むことで、三日坊主になるリスクを軽減します。
(塚越→オプナ
ス)
2)外部資源の活用
■社内でできる部分と社外に依頼する部分を明確にする
知財が有効に機能している会社ほど、知財が日常の業務活動と切り離されずに通
常業務の一環として行われています。その際に社内でできる簡便な内容と社外に依
頼すべき専門性の高い内容ときちんと仕訳することが肝要です。特許に関する作業
は、全て弁理士の先生に一任というのではいけません。手続きが簡便な申請や、過
去に参照できる内容のある繰り返し手続きなどはできることは可能な限り社内で行
い、不安な部分のみ専門家の助けを借りるといった姿勢で臨みたいところです。事
前に知財戦略で知財構築のプロセスを明文化し、社内作業・社外作業の基準を設け
ておくことで、個人の曖昧な判断を排除した確実な方法をとることができます。
(籔
田→鍋屋バイテック)
■自社が行っている分野に専門性のある専門家、会話のできるコンサルタントとの出会
いが重要
社外の専門家から支援を受ける際に、自社の技術分野に精通した支援者・きちん
と会話ができるコンサルタントとの出会いが重要です。かかった病気によって通う
病院は変えるべきです。専門性の異なる支援者から誤ったアドバイスを受けた場合、
軌道を修正するには大変な時間と労力がかかります。中小企業の相談内容は多岐に
わたるため、全ての内容を一人のコンサルタントに委ねるのではなく、テーマや内
容によってコンサルタントを使い分けるという視点も必要です。外部専門家が自社
にもたらしてくれるものをよく見据えた上で、社内・社外の機能をうまく組み合わ
せていくことです。(籔田→昭和)
■社外に自社の事業・製品技術を説明できる力を身につける
適切なアドバイスを受けるためには、その分野に精通した専門家・きちんと会話
124
システム整備 - 実行体制構築 の通じるコンサルタントとの出会いが不可欠ですが、同時に、支援を受ける中小企
業側にも商品・技術の特性から事業の目的や背景、財務内容・会計情報など、情報
を開示できる力をつけていくことが重要です。全体の一部を強調しすぎて伝えたり、
背景を話さずに事象を紹介するなど、情報の開示が適切でないと良い成果は生まれ
ません。(籔田→昭和)
■役割分担、タイムスケジュールなどを明らかにする
内部でやれること、外部にふっても大丈夫なことを区別しておくと良いです。(的
場)
■中小企業にとっては、その分野に強い専門家、問題点を抽出してくれる優秀なコンサ
ルタントとの出会いが重要
支援を受ける中小企業側にも商品・技術の特性から事業の目的や背景、財務内容・
会計情報など、情報を開示できる力をつけていかなくてはなりません。情報の開示
が適切でないと良い成果は生まれません。
外部機関との連携がうまい企業ほど、事業の成長が速いです。社内に抱えなくて
はならない機能と、外部に依頼する機能をうまく切り分けることです。
(籔田→昭和)
■出願代理人との関係を確認し、戦略の推進に適さないと判断すれば、より適切な代理
人を探す
特許に関する活動は、出願から権利取得までのプロセスが適切に進まないと、効
果を期待することができません。経営者が代理人を信頼し、代理人も経営者の特許
に対する考え方を理解していることは、実効性のある知財活動を進めるために重要
なポイントです。(土生→ナベル)
■大企業等との共同出願の適否を整理する
大企業との共同出願の可能性がある企業である場合には、大企業との共同出願が
有効なケース(利害関係が一致して、権利侵害への対応等での共闘が期待できる etc.)、
注意が必要なケースを、予めケース分けして整理しておくとよいでしょう。(土生→
田川産業)
3)社内体制の整備
■知財担当者は、現場がわかっている人、何でも(他部署の仕事でも)できる人である
ことが望ましい
忙しい開発現場では、知財担当者のアプローチの仕方によっては、知財活動を面倒
125
システム整備 - 実行体制構築 なだけのものと捉えられてしまいかねません。知財に関する知識や経験が豊富かどう
かということだけでなく、他部門と協調して仕事を進められる人を知財担当者に置く
ことが望ましいと考えられます。(土生→シード)
■知財活動にかかる予算の上限設定を検討する
バランスの良い知財活動を進めるためには、どの程度まで予算を割けるかを明確
にしておくことです。(土生→シード)
■知財管理や権利強化プロセスを継続的に実施できるようにする
会議の運営やプロセス管理をサポートするチェックリストを用意し、支援に OJT
方式を導入すると効果的です。支援内容にもよりますが、経験則上、三回以下です
と体得されないリスクが高くなります。また、新たに導入されたプロセスでも完璧
なものはありません。改善点を適宜レビューし支援先にあった方法論を確立するこ
とが肝要です。(塚越→オプナス)
■情報共有するためのIT投資が必要となる
情報を共有するためには、少なくとも情報システムをメンテナンスする必要がで
てきます。従って、予算を確保し、システム専門家とも相談して、情報を再利用し
やすい環境を構築することが大切です。(佐原→しのはらプレスサービス)
■情報共有システムは、極めて使い勝手のよいものにする必要がある
年齢層を問わず、全社員が使える情報共有システムでなければなりません。シス
テムを使用しない従業員が一人でもいる限り、システムが中途半端となってしまい
ます。従って、使い勝手を重視したシステム構築を行う必要があります。(佐原→し
のはらプレスサービス)
■システムのメンテナンスチームが必要になる
情報の共有化を図るには、システムを常に改善・メンテナンスしていく必要があ
ります。そのようなメンテナンス人材を社内に確保しておくことで、素早い対応が
可能になります。(佐原→しのはらプレスサービス)
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システム整備 - 社内教育・啓蒙 ②社内教育・啓蒙
社内体制の整備と併せ、全ての社員が知財活動の重要性を理解し、また必要な知識
を獲得し、意識を高めていくことが重要となります。このための社内教育・啓蒙にあ
たっての留意点を示します。
■経営陣のコミットメントを明確にする
経営プロセスや管理体制にメスを入れる場合、経営陣が率先して実践し社内に示
すことが成功確率を上げられます。その際は従業者との意思疎通も必要不可欠です
ので、経営者に知財に関する基本方針を設定し社内で共有してもらうようにします。
(塚越→オプナス)
■知財活動の重要性を全従業員に対して伝えることから始める
従業員間で知財活動に対する温度差が生じることは仕方ありませんが、少なくと
も全員がプラス側に思考しければ上手くいきません。
(佐原→しのはらプレスサービ
ス)
■発明者は当然のこととして、できるだけ全員参加型になるように社内教育や啓蒙を進
めていく
特許に取組む目的を自社の強みの客観化に置くならば、出願や権利化の過程を特
定の担当者に任せてしまっては意味がありません。自社の強みの客観化は、開発の
当事者である発明者は勿論のこと、できるだけ多くの社員を参加させたほうがより
「客観的」になることが期待できます。(土生→ナベル)
■新たなに開発に向けた空気づくりを意識する。
豊かな発想、新しい着眼点、優れたアイデアは定型的作業から生まれるものでは
ありません。会社が強い知財を常に生み出していくためには、技術者・研究者をは
じめ社員全員の開発に向けた意欲づくりが最も重要です。会社の発展を目的とした
目標管理の方法についても、新製品リリース数、開発・出願件数など定量的なノル
マに偏るのではなく、会社としての方向性を示した上で個人の適性に応じた行動目
標、自発的な行動基準を設けていくことがより有効だと考えられます。若年層を中
心に「仕事だけどなく自分の生活を大切にする」など、就労者のワークライフバラ
ンスに対する意識が変化する中、従来型の管理手法に囚われるのではなく、自社に
マッチした仕組みづくりを心掛けたいところです。(籔田→鍋屋バイテック)
127
システム整備 - 社内教育・啓蒙 ■押し付けにならないような教育・啓発を考える
知財の基礎知識が必要な社員は、技術系とは限りません。提案型の営業をしてい
る企業においては、営業マンの教育を優先すべき場合もあります。
教育や啓発は、押し付けにならないようにするのがポイントです。また、「キーマ
ン」を育てる、という視点で計画実行すると効果が高いです。(的場→ニッコー)
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執筆者一覧 「平成20年度地域における知財戦略支援人材の育成事業」
マニュアル作成ワーキンググループ
役
職
氏
座 長
土生
哲也
土生特許事務所
委 員
佐原
雅史
株式会社ブライナ代表取締役
委 員
塚越
雅信
インクタンク・ジャパン株式会社代表取締役
委 員
的場
成夫
的場特許事務所
委 員
籔田
安之
株式会社API代表取締役
オブザーバー
鮫島
正洋
弁護士・弁理士 本事業を統括する全体委員会委員長
編
名
集
所
属
弁理士
弁理士
弁理士
中小企業診断士・一級建築士
三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社
知的財産コンサルティング室
連絡先
特許庁
総務部 普及支援課
中小企業等企画支援班 (電話)03-3581-1101(内 2145) 平成21年3月発行 本冊子は、特許庁が三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社に委託した「平成 20 年度地域における
知財戦略支援人材の育成事業」の一環として作成したものです。作成にあたっては、同社に委員会・ワーキン
ググループを設置して検討を行いました。
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