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08 グローバル金融危機後のレバレッジ比率によるリスク管理
\n Title Author(s) Citation グローバル金融危機後のレバレッジ比率によるリスク管理 菅野, 正泰 ; Kanno, Masayasu 国際経営論集, 39: 61-76 Date 2010-03-31 Type Departmental Bulletin Paper Rights publisher KANAGAWA University Repository 研 究論文 グローバ ル金 融 危 機 後 の レバ レッジ比率 によるリスク管理 菅 野 正 春 要旨 今次金融危機 を教 訓 にマ クロス トレスを考慮 した金融規制 ・監督手法 として, レバ レッジ 比率による リスク管理が注 目されてい る。 レバ レッジ比率は, リスクベースの枠組み を補 完す る簡易 な指標 であ り,保有資産 の多 くが絶 えず時価評価 され るよ うなバ ランスシー ト を保有す る金融機 関では,資産価値 の変化 は資本価値 の変化 に反映 され,両者 の変化 は レ バ レッジ比率の変化 として現れ る。 しか しなが ら,現状では当該指標 の利用可能性 に関 し て十分 な定量的検証が実施 されてお らず,業態別 に最適 な利用方法 の検討 が必要である。 本論文では,米国金融機 関 ( 商業銀行,投資銀行 ,保 険会社 ,お よびその他金融機 関) に 対す る分析 と併せ て,本邦金融機 関 ( 銀行 , 保険会社,お よび証券会社) に対す る業態別 の実証分析 を行い,当該指標 の利用可能性 を考察す る。 キ ー ワー ド :金融危機, リスク管理, レバ レッジ比率 , 順序 ロジ ッ トモデル J EL Cl a s s i nc a t i on:GOl ,G21,G22,G24,G32 1. は じめに 主流であったキャ ッシュ型 とは異な り,取 引 自 体 は原債権 のABSあ るい はRMBSを参 照す るに 今次金融危機 は,1 997年 7月か らのアジア通 貨危機 ,1 998 年 8月か らのロシア財政危機 ・- ツ 過 ぎないオフバ ランスのク レジ ッ ト・デ フォル CDS) 取 引で ある。 菅野 [ 2009] ト ・ス ワ ップ ( ジフアン ドLTCMの破綻 な ど過去幾度 かの金融 に よる と,BBB格 のサ ブプ ライ ムRMBSの発行 経済危機 を上回る甚大な影響 を金融資本市場や 額 に対す るメザ ニ ンABS -CDOの割合 は , 2006 世界経済に及 ぼ し,"グローバル金融危機"と呼 年 には1 93 %と約 2倍 に達 した とされ る。 2007年夏頃にはサブプライム ロー ン問題 が顕 称 されてい る。 今次金融危機 が発生 した要因 として各種挙げ 現化 し,当初 , 米 国内の住宅 ロー ンや一部 の市 られてい るが,重要な要因 として, リスクを複 場 内の問題 に とどまっていたが,サブプライム 雑 に加 工す る証券化技術 の進展が挙げ られ る。 ロー ン関連商品の流動性 が欠如 し,価格 が下落 この技術 によって,サブプライム ロー ンを担保 した。 この結果 ,2008年 に入 り,全米第 5位 の とした住 宅 ロー ン担保証券 ( RMBS) が開発 さ 投資銀行ベアー ・スター ンズの経営危機 ,同 9 れ,更 にそれ を再証券化 したABS -CDOが開発 月の政府支援機関ファニー ・メイおよびフレディ ・ され,世界 中の金融機 関や投資ファン ドは, こ マ ックの実質的破綻,そ して同 9月 15日に リー れ ら証券化商品を購入 した。 マン ・ブラザーズが破綻 した。この リーマンショッ 2005年 以降,取 引量 が増大 したABS -CDOは ク ともいわれ る,機能不全 に陥った金融資本市 シンセテ ィツク ( 合成)型 といわれ,それ まで 場 において,原債権 が不透 明な証券化商品の リ グローバル金融危機後のレバ レッジ比率によるリスク管理 61 ス クが連鎖的 に他 の金融商品にも顕現化 し,信 補完 的指標 として レバ レッジ比率 を導入す る と 用収縮 が助長 され た。 してい る。 Rに代 現在 , 今次金融危機 の反省 に立 ち,va レバ レッジ比率の定義 は複数存在 し,規制上 表 され る平常時の リス ク指標 を補完す る新 たな の定義 は今後協議 の上決定 され るが,本論文 で リスク指標 ・手法 の開発 が リスク管理上の懸案 は レバ レッジ比率 をバ ランスシー ト上 の総資産 課題 となってお り,い くつか検討 され てい る。 額 を純資産額 で除 して計算 され る指標 と定義す 例 えば,今次金融危機 では金融資本市場 とマ ク る。 この指標 は,決算 のタイ ミングで しか入手 ロ経済が相互 に影響 を及 ぼ した ことを踏 まえ, できない とい う制約 はあるものの,一般 に監査 各国の中央銀行 ・監督 当局は,マクロス トレス ・ を経た数値 を基 に計算 され るため信頼性 は高い。 イベ ン トに対す る統合 リスクの管理手法 として, 近年,わが国の金融機 関 も四半期決算情報 を開 金融モデル とマ クロ経済モデル を組 み合 わせ , 示す るよ うになったが,不 良債権処理 な ど様 々 マ クロ経済変数 を金融モデル に取 り込むマ クロ な要因で,総資産額 な どの四半期決算 の数値 が ス トレス ・テス トの開発 を行 ってい る 1。 本決算 のそれ と大 き く帝離 してい る場合 がある また,Ka s hya p,A.K. 他 が2008年 カ ンザ ス連 点は否 めない。 しか しなが ら,監督 当局 がオ フ 銀 主催 シンポジ ウムで提 唱 した資本保 険が挙 げ サイ ト ・モ ニ タ リングに よ り情報収集 しやす い られ る。資本保 険 とは,今次金融危機 の よ うに 指標 であ り,かつ,監督 当局以外の第 3者で も, 金融 システム全体を震推 させ るマクロス トレス ・ リス ク管理上容易 に入手す るこ とが可能 な指標 イベ ン トが生 じた ときに,被保 険者 で ある金融 である 。 機 関の 自己資本 の増強が予 め約束 され た保 険契 さて,今次金融危機 の顕著 な特徴 として,景 約 で あるが,実現す るには多 くの課題 が指摘 さ 気循環増幅効果 ( プ ロシク リカ リテ ィ) の影響 れてい る。 が挙 げ られてい る。景気 が後退す る と,金融機 ここで,本論文 の主題 であ るレバ レッジ比率 関の融資先 が倒産 して貸 出金 の一部 が回収 で き について検討す る。金融安定化 フォー ラム ( 覗 な くな る信用 リス クが増加 し,会計制度 上は, 在 の金融安定理事会) は,2009年 4月 にG20ロ こ うした潜在 的な損失 に対 して貸倒 引当金 を積 ン ドン ・サ ミッ トの開催 に合 わせ て発 出 した勧 み増す必要性 が生 じて くる。 自己資本 比率規制 告( Fi na nc i a lSt a bi l i t y For um [ 2009 ] ) で, 「 銀行 上 は,信用 リス クが増加す る と,与信先企業 の システ ムにお ける レバ レッジの積 み上が りの抑 信用格付が悪化す るため, 自己資本比率 の分母 制 を促 し,バーゼル Ⅱの枠組み において資本 の を構成す る信用 リス ク ・アセ ッ トの増加 に繋 が 下限 とな る, リスクベー スでない簡易 な指標 に り,同比率の低下を招 くことになる。その結果, よ り, リスクベースの所要 自己資本 を補完すべ 企業- の資金供給 を減少 させ るイ ンセ ンテ ィブ きであ る」 とバーゼル銀行監督委員会 に提言 し が働 き,設備投資や在庫投資 を中心に景気 が一 た。 この代表的な指標 が レバ レッジ比率である。 層後退す るこ とにな る。 この よ うな効果 を景気 一方,バーゼル銀行監督委員会 は,2009年 1 2月 循環増幅効果 といい, レバ レッジ比率 は この効 1 7E l ,大手銀行 を対象 に した包括的な規制改革 果 の代理変数 で ある。 莱 ( Ba s e l Commi t t ee on Ba nki ng S upe r vi s i o n 実際,保有資産 の多 くが絶 えず時価評価 され ( BCBS )[ 2009 ] ) を発表 し,バ ーゼル Ⅱ第 1の柱 るよ うなバ ランスシー トを保有す るタイプの金 ( 規制 資本 ) で の取扱 い- の移行 を視 野 に入れ 融機 関では) 資産価値 の変化 は株 主資本価値 の て,第 2の柱 の リスクベースの枠組 み に対す る 変化 に反 映 され,両者 の変化 は レバ レッジ比率 ー参考 までに,An t o n e l l a ,F.[ 2 0 0 8 ] は,2 0 0 8 年末時点の欧州主要 当局 ( 中央銀行 ,監督 当局) に よる信用 リスクのマ クロス トレス手法 をサーベイ している。 6 2 国際経 営論集 No. 3 9 2 01 0 1 0 0 9 5 1 0 5 資産価 値 A 図 1 資産価値 とレバ レッジ比率 の関係 指標 の利用可能性 に関 してほ とん ど定量的検証 Le v A/ ( AI L )と表す こ とがで き,Lを固定 して見 e vはAの単調 減 少 関数 とな る (図 1参 る と,L が実施 され てお らず ,特 に本邦では,今次金融 r i a n,T.a nd S hi n,H.S.[ 2007 ]に よれ 照) Ad の変化 として現れ る。 しか しなが ら,従来 この 0 危機 で破綻 に至 った事例 はない ものの,いかな ば,米 国家計 に関 して四半期毎 に レバ レッジ比 る金融業態 に適用可能 であるか とい う点が明 ら 率 の成長 率 ( 以 下, レバ レッジ成長 率) かに されてい ない に対す る総資産成長 率 A Aの点 を散布 す る と, 。 本論文では,米国金融機 関 ( 銀行 , 保険会社 , ALe v ALe vと AAには強い負 の依存 関係 が見 られ る と 投資銀行 ,お よびその他金融機 関) と本邦金融 報告 してお り, この実証結果 は理論通 りとなっ 機関 ( 銀行 ,保険会社 ,お よび証券会社) につ てい る。 いて実証分析 し, レバ レッジ比率 の利用可能性 一方,金融機 関に 目を向けると,バ ランスシー について明 らかにす る。本論文の構成 は次 の通 トか ら計算 され るレバ レッジ比率 ( バ ランスシー りで ある。 2節 では, レバ レッジの構造 を概説 ト ・レバ レッジ) は,オ フバ ランス取 引のエ ク し, レバ レッジ比率の変化 とバ ランスシー トの スポージャーが考慮 されていない。 したがって, サイズの変化 , レバ レッジ比率 と格付機 関が金 信 用 デ リバ テ ィブや ABS-CDOな ど複雑 な仕組 融機 関に付与 してい る信用格付 との依存 関係 に 信用商品か ら生 じる リスクを捕捉できないため, ついて実証分析す る。 3節 では,実証分析 か ら リス ク指標 と して使 用す るには制約 が あ る 2。 得 られ た結果 を基 に,わが国金融機 関に対す る また,会計基準 におけるネ ッテ ィングルール は, レバ レッジ比率の活用方法 についてま とめる。 バ ランスシー ト ・レバ レッジに影響 を与 えるが, I FRS )に基づ くバ ランスシー 国際財務報告基準 ( 2. レバ レッジ構造の分析 US-GAAP) ト ・レバ レッジは,米 国会計基準 ( に基づ くそれ よ りも典型的には高い数値 となる。 レバ レッジ比率 とバ ランスシー トのサイ ズに 更 に,バ ランスシー ト ・レバ レッジは,資産 と つ いて考察す る. 総資産 の市場価値 をA,負債 負債 の満期 の ミスマ ッチに よる資金繰 りリス ク e vは, の市場価値 をLとお くと, レバ レッジ比率L を反映す ることがで きない問題 点 も指摘 されて 2 この点に関 して,通常のバ ランスシー ト ・レバ レッジを改善 した もの として ,Va R対株 主資本比率や 中核的 自己資 本 で資産価値 を除 して計算 され るレバ レッジな どの リスク調整後 レバ レッジ指標 が考 え られ るが, これ ら指標 は レ バ レッジ比率本来の簡易な指標 とい う点か らは帝離す るものである0 グ ローバル 金融危機 後 の レバ レ ッジ比 率 に よる リス ク管理 63 約 のある リスク指標であるものの,金融規制 ・ が2 0 0 8年 5月 3 0日に, また メ リル ・リンチが 2 0 0 8 年 9月 1 5日に,何れ も経営危機 によ り買収 され, リーマ ン ・ブラザーズが2 0 0 8 年 9月 1 5日 監督上 は簡易 な リスク指標 として導入 され る予 に倒 産 し,残 るゴール ドマ ン ・サ ックス とモル 定である。 ただ し,金融機 関は業態 によってバ ガ ン ・ス タン レーが 2 0 0 8年 9月 21日に, FRB い る。 このよ うにバ ランスシー ト ・レバ レッジは制 ランスシー トの構成が大 き く異なるため,業態 ( 米連 邦準備 制度理事会) の支援 と管理 を受 け 別 にバ ランスシー ト・レバ レッジの構成や変動 やすい銀行持株会社 に移行 し,商業銀行 に業態 特性 を検証す る意義 は大 きい。特 に,本邦金融 替えする承認 をFRBから受けたことが挙げられる。 機 関に関す る分析事例 は,著者 の知 る限 り見 当 図 2お よび表 2を見 ると,商業銀行 について た らないので,今次金融危機後の リスク指標 と は,両者 の間に明確 な依存 関係 はみ られず しての利用可能性 を検討す る必要がある。 際に単回帰直線 を引 くと,Ⅹ軸 にほぼ一致す る。 , 莱 保険会社 については,Ad r i a n,T.a n dS h i n,H. S. 2. 1 レバ レッジ成長率 と資産価格成長率の 依存関係 [ 2 0 0 7 ] が指摘す るよ うに,米 国家計 と同様 , レ バ レッジ成長率 と資産価値成長率の間には若干 の負 の関係 が見 られ る。投資銀行 については, 以下では,米国お よび本邦の金融機 関につい 他 の業種 とは状況が全 く異 な り, レバ レッジ成 て,業態別 に レバ レッジ構造 を分析す る。 ここ 長率 と資産価値成長率 との間には一定の正の関 で,金融機 関を,銀行 ( いわゆる預金等受入金 係 が見 られ,事実, レバ レッジ成長率 を資産価 融機 関を指すが,米国の貯蓄金融機 関を除 く。 値成長 率 に単回帰す る と,決 定係数 が0 , 5 2 7, 商業銀行 を含む。),保険会社 ,証券会社 ( 投資 傾 きが正 ( 0. 6 2 0) の回帰直線 が得 られ る。 こ 銀行 を含む。),お よびその他金融機 関 ( 預金 の のため,総資産が増加す るとレバ レッジ比率 も 受入 を行 わず投融資のみ を行 うノンバ ンク,栄 増加す るため,投資銀行 の レバ レッジ比率は景 国の貯蓄金融機 関 ・政府 支援機 関を含 む。) に 気循環増幅的な ( プロシクリカルな)性質を持っ 分類す る。 てい る といえる。その他金融機 関の場合,大部 分 の観測値 はy軸 上 に並ぶ こ とか らもわか るよ 2. 1. 1 米国金融機関 うに,貸付資産 の積み増 しに新たな資本の調達 まず,今次金融危機 の発信地である米国金融 を行 うことで,資産 が増加 して もレバ レッジ比 機 関について分析す る。表 1の2 0 0 8 年 Ql ( 第 率を一定に保持す る財務構造 を とってい ると考 1四半期)終了時点の総資産額で上位 2 5 金融機 え られ る。 関 ( 銀行,保険会社,投資銀行,その他金融機 ここで,業種 によ り異 なる依存 関係 が観察 さ 関) について ,2 0 0 6 年 Q4 ( 第 4四半期) か ら れ る背景 を考察す る ( その他金融機 関について 2 0 0 9 年 Q2 ( 第 2四半期)までの財務指標デー は割愛す る。)0 タを用いて, 4半期 間の レバ レッジ比率の成長 まず,商業銀行 の場合,金融安定化 フォー ラ 率 (レバ レッジ成長率) と資産価値成長率 を計 ム とグローバル金融 システ ム委員会の合 同ワー 算 し, (レバ レッジ成長 率,資産価値成長 率) キンググルー プが2 0 0 9 年4 月 に作成 した レポー の点を業種別 に散布 した図が図 2,回帰分析 の ト( Co mmi t t e eo nt he Gl o ba lFi na nc i a lS y s t e m 在 していた 5大投資銀行)については ,2 0 0 8 年 ( CGFS )[ 2 0 0 9 ] ) に よれ ば ,2 0 0 8年 3月 時点 で時 価評価 され る資産 ・負債 の割合 は,資産 :3 0. 4 %,負債 :8 . 0% と報告 され てい る よって, 第 3四半期) までの財務指標デー タを使 Q3 ( 資産価値変化 と負債価値変化 の間には依存関係 用 した。その理 由 として,ベ アー ・スター ンズ がほとん どないため,資産価値成長率 とレバ レッ 結果 が表 2である。 ただ し,投資銀行 ( 2 0 0 8 年 Ql終了時点で存 6 4 国際経営論集 No . 3 92 0 1 0 。 表 1 米国総資産上位 25金融機関の リス ト ( 総 資産順位 は2008年 Ql 末 時 点 の もの,単位 :百億 米 ドル) 総資産 順位 1 会社名 シティグループ 業種 2 総資産額 0 0 8年Q1 銀行 2, 200 1, 737 2 バ ンク .オブ .アメ リカ 銀行 3 J Pモルガン .チェース 銀行 1, 643 4 ゴール ドマン .サ ックス 投 資銀 行 1, 1 89 備考 ロー\人 \ て紗要諦姦藤o )i ,/人L ,,y, }拝 側 帯 汁 か Uゝ 9噂 漣 P tt 5 モルガン .スタンレー 投 資銀 行 1, 091 6 AⅠ G 保険 1, 051 2008年 9月 に米政府 の管理 下で経 営再建 が決 定 した○ 7 メ リル リンチ 投 資銀 行 1, 042 2008年 9月 1 5日にバ ンク .オブ .アメ リカによ り買収 されたo 8 ファニー .メイ その他金融機 関 ( 政府支援機 関) 843 2008年 9月に米 政府 の管理 下に置かれたo 9 ワコピア 銀行 809 2008年 1 0月 3日にウェルズ .ファー ゴの株 式 取得 による経 営支援 が決 定 した○ 1 0 フレデイ .マ ック その他 金 融機 関 ( 政府 支援機 関) 803 2008年 9月 に米政府 の管理 下に置 かれたO ll リーマン .ブラザーズ 投 資銀 行 786 2008年 9月 1 5日に連 邦倒 産 法第 11 章 の適 用 申請 により倒 産 した○ 1 2 GEキャピタル その他 金 融機 関 ( ノンバ ンク) 684 1 3 ウェルズ .ファー ゴ 銀行 595 1 4 メッ トライフ 保険 557 15 プルデンシャル .ファイナ ンシャル 保険 478 1 6 ベアー .スター ンズ 投 資銀 行 399 1 7 ハー トフォー ド 保険 344 1 8 サンフランシスコ連 邦住 宅貸付銀 行 その他 金 融機 関 ( 政府 支援機 関) 1 9 ワシン トン .ミューチュアル その他 金 融機 関 ( 貯 蓄金 融機 関) 320 20 バークシャー .ハサ ウェイ 保険 281 332 21 GMAC その他 金 融機 関 ( ノンバ ンク) 243 22 U s バ ンコープ 銀行 242 23 バンク .オブ .ニュー ヨーク .メロン 銀 行 205 24 1 99 カン トリーワイ ド.ファイナンシャル その他 金 融機 関 ( 貯 蓄金 融機 関) 2 0 0 8 年3 月頃経営危機に陥 り,同5 月3 0日にJ Pモルガン .チェースにより買収 されたo 20 0 8年9月25日に業務停止で経営破綻 し,J Pモルガン .チェースにより買収 された○ 2 0 0 7 年に住宅ローン部門で損失が拡大 し, 2 00 8年 中に業務縮′ 卜 人員削減を実施 したo 2008年 7月 ,バ ンク .オブ .アメ リカによ り買収 されたo 6 5 ( 出典)菅野[ 201 0] 商 業銀行 保 険会社 R2線型 ( L ) = 0 0 0 2 R2線型 ( L ) = 0 3 2 8 資 産 価値 成 長率 資 産 価 値 成 長率 0 レバ レッジ成長率 投資銀行 2 レバ レッジ成 長率 その他 金融 機 関 RZ線型 ( L ) = 0 5 2 7 R2線型 ( L ) = 0 . 0 3 7 資 産 価 値 成 長率 資 産 価 値 成 長率 -2 20 0 レバ レッジ成長率 40 レバ レッジ成 長率 図 2 米総資産上位 2 5金融機 関の総資産成長率 とレバ レッジ成長率 との関係 ( データ範囲 :2006年 Q4-2009年 Q2) 表 2 業種別 の単回帰分析 の結果 単回帰式 ( 括弧 内は t値) 決定係数 R2 デー タ数 商業銀行 As s e tGr o wt h-0 ( 0 . 0 . 3 6 5 7 6 )× Le v e r a geGr owt h+0 ( . 2 0 . 4 5 9 1 1 ) 0. 002 67 保険会社 As s e tGr o wt h ー ( 0 4 ー . 8 2 3 0 9 ) 1× Le v e r a geGr owt h+0 ( 0 . . 0 3 3 0 2 2 ) 0. 328 50 投資銀行 As s e tGr o wt h-0 ( . 5 6 . 7 2 8 0 0 )× Le v e r a geGr owt h+0 ( . 1 0 . 5 1 3 8 8 ) 0. 527 32 6 6 国際経営論集 ニ No. 39 2 01 0 ジ成長率 の依存 関係 もほ とん どない ことが裏付 倍 超 の CDOポ ジ シ ョン ( CDSの売 りポ ジ シ ョ け られ てい る。 G ン) を保 有 していた。 しか しなが ら, このAI 次 に,投資銀行 の場合,バ ランスシー トの構 のケー スは特殊 な例 であ り,一般 に , 保 険会社 成 が商業銀行やその他金融機 関 とは異 な り,質 の資産サイ ドは,有価証券 ,貸付金,不動産 な 産 ・負債 ともに主 に短期 の取引で構成 されてい どで構成 され てい る。一方,負債 サイ ドについ る。資産サイ ドは,時価評価対象 の トレーデ ィ AI G,バー クシャー ・ハサ ウェ ては,損害保険 ( ング勘定の資産, リバース レポ取 引 ( 売 り戻 し イ 3の 2社) と生命保険 ( プルデ ンシャル ・フィ 条件付売買取 引)で構成 され てお り,後者 は短 ナ ンシャル ,ハー トフォー ド, メ ッ トライ フの 期取引ゆえに簿価 と時価 との帝離 が小 さいのが 3社)では,保険契約期 間の差異はあるものの, 特徴 的である。一方,負債サイ ドは,時価ベー 一般 に,保険負債 は時価評価 されない。 したがっ スの短期 ポジシ ョン,短期取 引である レポ取 引 て,資産時価 が上昇 して も,それ に連動 して負 ( 買い戻 し条件付売買取引),長期負債 な どで主 債価値 が上昇す るわけではないので,負 の依存 に構成 され てい る。投資銀行 のバ ランスシー ト 関係 が見 られ る。 上,長期負債 の比重 は小 さく,2008年 9月 に破 また,今次金融危機 にお ける レバ レッジ比率 綻 した リーマ ン ・ブ ラザーズの場合 ,破綻直前 の推移 を個別企業別 に作成 した ものが図 3であ の2007年 Q2-2008年 Q2間の長期負債 の負債 る。 なお,図 3 :その他金融機 関で, レバ レッ 7%∼21% であった。す 全体 に 占める比率 は約 1 ジ比率がマイナス となってい る部分 は,資本不 なわち,バ ランスシー トの資産サイ ド,負債 サ 足 に陥 ってい るこ とを示す。 図 3を見 ると,経 イ ドとも実質的に時価評価 され るため, レバ レッ 06Q4: 営危機 に陥 ったベ アー ・ス ター ンズ ( ジ成長率 と資産価値成長率 との間には正 の依存 29- 07Q4: 34), メ リル ・リンチ ( 06Q4:22 関係 が見 られ る。 -07Q4: 32),AI G ( 06Q4: 29- 08Ql: 34),倒 Gは損 次 に,保 険会社 につ いて検討す る。AI 産 した リーマ ン ・ブ ラザー ズ ( 06Q4: 26- 08Q 害保 険 を中核 とす る会社 であるが ,2008年秋 の l: 32),米政府 の管理 下 に置 かれ た ファニー ・ 経営危機 時には,キャ ピタル マーケ ッ ト ・デ リ 06Q4: 20-08Q 3: 97) や フ レデ ィ ・マ ッ メイ ( バテ ィブ子会社 AI GFPが執行 した取 引に よ り, 06Q4: 29→08Q l: 50) な どの金 融機 関で ク ( 500億 ドル の 6 自己資本 700億 ドル に対 して ,4, は,危機 直前 の水準か ら大 き く上昇 してお り, 商 業銀 行 ● , 三聾 バ 芸 レ1 19 3 g 5 葺き i l主狸 _ __ ■ ■ ■ l l l - 寺 ll _ 去 ー -軍I 三 でさー . ● ● こ _ L ー 追 芸 l i -蒜 ≡芸 歪 I - 蝿 J _ _ _ _ ー 一芸 ≡ ■ 、 06Q4 07Ql 07Q2 07Q3 07Q4 08Q1 08Q2 08Q3 08Q4 09Q1 09Q2 シティグループ ---- JPモノ レガン.チェース 一一一一一ウェルズ .ファーゴ -USバンコープp -.-.バンク.オブ .アメリカ -7 -- ワコピア - 3 - . 16 17 17 19 19 17 15 16 14 13 12 12 12 12 12 13 13 13 15 13 12 13 ll ll ll ll 12 12 13 13 13 13 ll 10 ll ll ll ll ll ll ll 10 10 ll ll ll ll ll 12 ll ll ll 10 10 9 10 ll ll ll ll 10 ll 15 世界最大の投資持株会社。傘下の保険部門は事業の中核 をな し,世界最大の再保険会社 である。保険部 門は,再保 険の他,損害保険,特殊保険な どの保険業務 を営む。 グローバル金融危機後のレバ レッジ比率によるリスク管理 67 保 険会社 ヽ i Lここi = 1 1二二二二=ここ= バ ジ ツ レl2 3 10 ∼ご燃 + lS . M T + - 。 亡 . 一一 1 - _ _ - -. - - - -一一 ニ3 もT" a - -に ご 2 恥 海 相 ● -■ ■ I ∼ - - 5 【 1 0 06Q4 07Q1 07Q2 07Q3 07Q4 08Q1 08Q2 08Q3 08Q4 09Q1 09Q2 - 7Oルデ ンシャル.ファイナンシャル ・ , . I -. . .ハ ー トフォー ド -一一一一 メ ッ トライ フ - --A lG 20 19 20 21 21 21 22 25 33 33 25 17 18 19 19 19 19 20 25 31 35 22 16 16 16 16 16 17 17 19 21 21 19 10 10 10 10 ll 13 13 1 4 16 18 14 投 資銀行 バ ジ ツ レ 2 3 10 5 - ベ アー .ス ター ンズ 日 .... . - も 一 \ 塩 帝 l b . ● ‥' ' ヒ「 =訊 . . . 守 06Q4 07Q1 07Q2 07Q. 3 07Q4 08Q1 08Q2 08Q3 08Q4 09Q1 09Q2 29 30 32 31 34 34 --. . . .モ ル ガ ン .ス タ ン レー 32 31 30 34 33 33 30 --一一- リー マ ン .ブ ラザー ズ 26 28 29 30 31 32 24 - - -ーメ リル リンチ 22 24 26 23 32 29 28 28 13 13 13 23 33 14 15 その他金融機 関 ∫ 二軍 -=コ己 コ 二 三 一二三 丁半 †三出 ご† 壬ユ∵二 ∵二 \ / 也\ _ _ J √、 . ∵ V / 一 _ _一 一 ヽ レ′ ′ 一 、 . バ ジ ツ レ. ー 1 ー ー 1 6 40 0 ∵ ∵+ I + T 十 06Q4 07Q1 07Q2 07Q3 07Q4 08Q1 08Q2 08Q3 08Q4 09Q1 09Q2 - 29 28 32 31 30 50 68 58 28 - ---FHLBサ ン フ ラン シス コ 23 22 24 24 24 23 23 31 33 28 27 ---一一 フ ァニー .メイ 20 20 22 21 20 22 22 97 60 48 85 - --GMAC 20 18 18 20 17 16 18 23 9 8 7 - .-.カント リ ーワイド フィ ナンシャル 14 14 15 14 14 15 17 - -- ワシント ン. ミ ュ ーチュアル 13 13 13 1 4 13 15 13 - . -GEキ ャ ピタル 10 10 10 10 ll 12 10 ll 9 8 8 フ レデ イ .マ ック 図 3 米国金融機 関の レバ レッジ比率 の推移 68 国際経営論集 No. 39 2010 155 110 銀行 保 険会社 R2線型 ( L) =0. 002 R2線型 ( し) =0. 1 23 資 産 価値 成 長率 資 産 価値 成 長率 10 : ∼ 0 3 D 4 0 5 0 1 O レ/ル ッジ成長率 2 0 レバ レッジ成長率 証券会社 R之線型 ( L) =0455 資 産 価 値 成 長率 0 1 J ) 2」 】 30 レバ レッジ成長率 図 4 本邦金融機 関の資産価値成長率 とレバ レッジ成長率 との関係 ( データ範囲 :2002年3月末 ∼2009年 3月末) 金融規制 ・監督上, レバ レッジ比率が金融機 関 タについては,株式会社イーオーエルが提供す の健全性 に係 る早期警戒機能の役割 を果 た して る財務デー タベース ( 有価証券報告書のデー タ いた ことを窺い知 ることがで きる。 ベース) を活用 し,2002年 3月末 ∼ 2009年 3月 末までの年次デー タを利用 した。 したがって, 2. l. 2 本邦金融機関 資産価格成長率お よび レバ レッジ成長率は 1年 本邦金融機 関 ( 銀行,保険会社,お よび証券 間に対す る数値 である。 なお,社数 のカ ウン ト 会社) について,上場企業 を対象 に単回帰分析 は証券 コー ドを基準 とした。 また, レバ レッジ 3行 ( 主要行 を行 う。対象金融機 関は,銀行 11 成長率 を計算す る際に使用す る 「 純資産の部」 等,地方銀行 ,お よび第 2地方銀行),保 険会 の数値 につ い ては, 自己資本 が貸借 対 照表 に 社 29社 ( 損害保 険20社,生命保険 8社 ,再保 険 「 資本 の部 」 として表示 され ていた2006年 3月 1 社),および証券会社72 社である。財務指標デー 未以前の年次について も,純資産 の項 目に揃 え グローバル金融危機後のレバ レッジ比率によるリスク管理 69 蓑 3 業種別の単回帰分析の結果 決定係数 R2 デー タ数 単回帰式 ( 括弧内は g値) 行 As s e tGr owt h-0 ( . 1 0 . 1 9 1 3 3 )× Le v e r a geGr o wt h+0 ( 4 . 0 . 9 0 1 2 5 ) 0. 0 02 651 保 険会社 As s e tGr o wt h-0 ( 4 . 1 . 2 5 4 4 3 )× Le v e r a geGr o wt h+0 ( . 1 0 . 3 4 1 5 7 ) 0. 1 23 1 3 0 銀 表 4 国内保険会社 の資産構成割合 ( 2007年 3月現在) 貸付金 邦貨建 債 券 国内 株式 外貨建 債 券 外国 株式 不動産 短期 資金 その他 生命保険会社 2 0 . 6 0% 45. 00 % 1 7. 70 % 9 . 5 0% 2 . 80% 2 . 3 0% 2. 20% 0 . 00% 損害保 険会社 1 5 , 90% 6 4. 00 % 0. 1 0 % 5 . 40% 1 . 1 0% 0 . 0 0% 1 2 . 50% 1 . 00% ( 出典)金融庁HP た。 図 4に業種別の散布 図,表 3に単回帰分析 の ウエイ トが高い こと ( 生命保 険会社 :75%, の結果 を示す。 損害保険会社 :7 0. 6%) がわか るが,時価評価 銀行 の場合 ,図 4お よび表 3を見 ると, レバ され る資産割合 は会計上の保有 目的割合 に依存 レッジ成長率による資産価値成長率の説明力 は す る4。 一方 ,負債 サイ ドを見 る と,1 5 社の う ほ とん どない ことがわか る。 これを裏付 けるも ち1 2 社 を占めてい る損害保険会社 の場合,負債 の として, CGFS [ 20 09 ] によれば,200 8年 3月 は 1年以内の損害保険契約 で構成 されてい る。 時点で時価評価 される資産 ・負債 の割合 は,餐 現状,損害保険負債 は時価評価 されていない も 産 :2 4. 9% ,負債 :2. 2% と報告 されてお り, 何 のの,責任準備金 の算定 を通 じて時価 との罪離 れの数値 も米 国の商業銀行の数値 より大分小 さ は大 き くはない と考 え られ る。以上の よ うな状 いものとなっている。 このため,資産価値変化 と 況 を反映 して, レバ レッジ成長率 と総資産価値 負債価値変化 との間には殆 ど依存 関係がなく, 成長率 との間に, 弱 い正の依存 関係 が見 られた 資産価値成 長率 とレバ レッジ成長 率 との依存 関 l もの と考 え られ る。 係 も小 さい とい う点は分析結果 と符合 している。 また,証券会社の場合, レバ レッジ成長率 と また,保 険会社の場合 ,2007 年 3月時点の本 資産価値成長率 との間に正の依存関係 が見 られ 邦の生命保 険会社 と損害保険会社 の各資産構成 る。 これは,米国投資銀行 と同様 に,バ ランス の平均的な割合 は表 4の通 りである。何れ も有 シー トの構成が資産 ・負債 ともに主に短期 の取 価証券 ( 邦貨建債券,国内株式,外貨建債券, 引で構成 されてい るためである。 したがって, 外国株式) と貸付金が大宗 を占めてお り, この レバ レッジ比率の水準お よび成長率 をモニタ リ 他 ,損害保 険会社 の短期資金 1 2. 5% ,生命保 険 ング して,上限を課す ことに よって, リスクの 3% が特徴 的であ る 会社 の不動産 2. 潜在的な増 嵩を早期 に警戒 し,機動的 に制御す 。 したが っ て,生命保険会社,損害保険会社 とも有価証券 4 ることが可能である。 時価評価 の対象 となる有価証券 は,売買 日的有価証券 とその他有価証券 である。 この他 の区分 として,満期保有 目 的有価証券 ( 償却原価 で評価),責任準備金対応債券 ( 償却原価 で評価),お よび子会社 ・関連会社株式 ( 原価 で評 価)がある。 7 0 国際経営論集 No . 3 92 01 0 2009年 3 月末の R&Ⅰ 信用格付 図 5 銀行の信用格付別度数分布 ( 2009年 3月末時点) 2. 2 レバ レッジ比率 と信用格付の依存関係 末 ∼2009年 3月末の年度末毎 に財務指標デー タ と格付デー タの双方 が揃 う先 を抽 出 した。 その 信用 リスクは今次金融危機 のよ うなマ クロス 結果,例 えば,2009年 3月末時点で両方 のデー トレス時 に顕現化す る主要 な リス ク5である。 タが揃 う先は,銀行 41 社,保険会社 8社,証券 金融機 関の信用 リスクを推計す る指標 として, 会社 8社 である。参考までに,2009年 3月末時 スタンダー ド・アン ド ・プアーズ,ムーデ ィー の格付 が付 与 され てい る銀行 の度数分 点 のR&Ⅰ ズ, あるいは投資格付情報セ ンター ( R&Ⅰ )な 布 を図 5に示す ( 保 険会社,証券会社 について どの格付機 関が付与す る信用格付 がある。信用 は社数僅少 のため省 略) 。 図 5を見 る と,A+格 格付 の変更 とレバ レッジ比率の推移 にはタイ ム が最頻値 となっているが, この傾 向は,全期 間 ラグがあるものの,一般 に信用格付 とレバ レッ 通 して見て も大 き く変わ らない。 ジ比率は負 の依存関係 があ り, レバ レッジ比率 順序回帰モデル によ り, 順序性 のある信用格 が低 いほ ど信用格付が高い と言われている。実 付 を被説明変数 とし,連続的な値 をとるレバ レッ 務上,銀行 の融資審査や信用 リスク管理で使用 ジ比率 を説 明変数 ( 共変量) として分析す る。 され る信用スコア リングモデルでは, レバ レッ まず , R&Ⅰ の定義 に従 い,信用格付 の順序性 を ジ比率は信用ス コアを表す共変量の 1つ を構成 表 5の よ うに定義す る。 す る場合が多いが,本節 では, レバ レッジ比率 この とき, 被 説 明変数 ( 信 用格 付 ) yが値 のみ による信用 リスクの説 明力について分析す j( j-0 , 1 , . . . , 1 9)を とることを,説 明変数ベ ク トル る。 そ こで,本邦金融機 関 ( 銀行,保険会社, , ‥リ X , ∫ )を用 い て , 連 続 的 な潜 在 変 数 x- (xl,x2 お よび証券会社) を対象 として,信用格付が順 -B・ Ⅹ+E( Bは係 数ベ ク ト ( 信用 ス コア) 暮Y' 序尺度であることか ら,順序回帰モデル による ル , Eは誤 差項) が, 区間 ( k , , k , . 1 ] の値 を とる Y : こ とと同値 である と仮定す ると,次の対応 関係 分析 を行 う。 財 務指標 デー タ と して,2. 1 節 で使用 した も を得 る。 の と同一のデー タを活用 し,格付デー タに関 し Y-j⇔ k ノ<Y' -B・ x+E≦ kJH⇔k , -B・ x<E≦ k,十1- ては,本邦企業の信用格付データが最 も多 く揃 B・ x( j-0 , i , . . . , 1 9; k。ニー∞, k 2 0 -…) う格付機 関R&Ⅰ のデー タを利用 し, 2002年 3月 ここで,信用 ス コアの誤差項 Eの分布 関数 をF 5 この他,市場 リスク,資金繰 りリスクな どが挙げ られ る。 グ ローバル金融危機 後 の レバ レッジ比率 に よる リス ク管理 71 表 5 信用格付 の順序性 R&Ⅰ格付 格付 区分 1 格付 区分 2 R&Ⅰ格付 格付 区分 1 AA+ 1 BB ll AA 2 BB- 1 2 AA- 3 B+ 1 3 AAA A+ 4 5 BB+ B- 1 4 5 A- 6 CCC+ 1 6 BBB+ 8 7 BBB- 9 0 0 1 2 0 1 CCC 1 8 7 C 1 9 格付 区分 2 2 表 6 順序 ロジ ッ ト分析 の結果 銀行 Mc Fa dde nの疑似決 定係数 係数 ( B) しきい値 0. 073 標 準誤 差 Wa l ° 有意確 率 [ 格付 区分 2 =0 ] 0. 003 0. 3 80 0. 000 0. 994 [ 格付 区分 2=1 ] 3. 930 0. 467 70. 764 0. 000* * * Mc Fa dde nの疑似決定係数 標 準誤差 Wa l ° 有意確 率 [ 格付 区分 2=0 ] 0. 773 0. 357 4. 686 0. 03 0* * [ 格付 区分 2=1 ] 2. 3 35 0. 429 29ー 627 0. 000 * * * 標 準誤差 Wa l ° 有意確 率 0. 71 9 5. 095 0. 024** 係数 ( B) しきい値 0. 1 31 Mc Fa dde nの疑似決定係 数 係数 ( B) しきい値 [ 格付 区分 2=1 ] -1 . 623 *:1 0% 有 意 ,* *:5% 有 意 ,* * *:1% 有 意 7 2 国際経営論集 No. 3 9 2 01 0 0. 1 45 表 7 説明変数の定義 区分 説 明変数の候補 計算式 Log1 0 ( 1 /( 1 -業務純益) ) 業務純益 <0の場合 規 模 安全性 収益性 コア業務純益 業務純益 Log1 0 1 +コア業務純益) 業務純益 ≧0の場合 l O ( 業務純益) 業務純益 ≧0の場合 Log. o ( 1 /( 1 -コア業務純益) ) 業務純益 <0の場合 自己資本 Log1 0 ( 1 +純資産) 純資産 ≧0の場合 Log1 0 ( 1 /( 1 -純資産) ) 純資産 <0の場合 Log1 0 ( 1 /( 1 -総資産/自己資本) )総資産/自己資本 <0の場合 Log1 0 ( 1 +総資産/自己資本) 総資産/自己資本 ≧0の場合 自己資本/総資産 レバレッジ比率 自己資本比率 自己資本貸倒 引当金比率 貸倒 引当金/自己資本 総資産経費率 総資産 当期利益率 総資産コア業務純益比率 営業経費/ 総資産 当期純利益/ 総資産 コア業務純益/総資産 とす る と,信用格付 Yが jを とる確 率 pは次式 会社 の場合0. 1 45,保 険会社 の場合0. 1 31とな り, で表 され る。 相応 の相 関を示す数値 となった。 P( Y j)-F( k , . i -Bx )-F( k , -Bx ) 以上 よ り,本邦金融機 関の場合,証券会社 に なお,本論文では リンク関数 として ロジ ッ ト ついては,信用格付 とレバ レッジ比率は一定の 関数を選択 したため,分布関数 Fにロジスティッ 負 の依存関係 があると考 え られ るが,銀行 と保 ク分布 を仮定 して分析 を行い,共変量は レバ レッ 険会社 については,負 の依存関係 を支持す る結 ジ比率のみである。 また,AAA格 ∼C格 の2 0区 果 は得 られなかった。 分で分類す ると,保険会社 と証券会社 において, デー タ数 が僅少 な区分がい くつか生 じることか ら, A AA∼AA-, A+∼A-, BBB+∼Cの 3区分 2. 3 銀行の信用 リスクに影響 を与える変数の 選択 に集約 して分析 した。分析結果は表 6の通 りで 2 . 2 節 の分析結果 よ り,本 邦金融機 関の信 用 ある。 信用格付 の説 明変数 として レバ レッジ比率 を リスクを推計す る際, と りわけ銀行 の信用 リス 考 える場合,係数の符号が負 になると予想 され クを レバ レッジ比率のみで説 明す ることは困難 るが,表 6を見 ると,実際には,証券会社 のみ であることが明 らか となった。 そ こで,本節 で が全 ての係数 の符号が負 にな り,銀行お よび保 は,重回帰モデル によ り本邦銀行 の信用 リスク 険会社 については,全ての係数が正 になった。 を説 明す る変数 の選択 を行い,説 明変数 の 1つ また,順序回帰モデル の説明力 を表す代表的な として レバ レッジ比率が有用であるかについて 指標 であるMcFa dde nの疑似決定係数 6は,証券 検証す る。 離散選択 ( 順序回帰)モデルがデー タの変動 を どの程度 良 く説 明す るかを表す指標 である。離散選択モデル は最尤 推定法 を用 いて推定 され るので,対数尤度 関数 がモデル適合度 の指標 にな るO疑似決定係数 は,[ 0, 1 ] 区間の値 を と り,大 きい値 ほ ど適合度 が高い。従 って疑似決定係数の大小 を通 じて,同 じデー タ,同 じ選択集合 を持つ複数のモ デルの適合度 を比較す るこ ともできる。 しか し,疑似決定係数 は数値 がかな り低 めに出るため,最小二乗法の決定 係数 とは直接比較で きない点に留意す る必要 がある。 なお , 順序 回帰モデル では,疑似決 定係数 が0. 2で も十分 に 高い適合度 を表す。 グ ローバル 金 融危機 後 の レバ レッジ比 率 に よる リス ク管 理 7 3 表 8 重回帰分析 ( ステ ップワイズ法)による変数選択 第 1段 階 :説明変数 4個 区分 説 明変数 符向き 号の 係数 標 準化さ れていない係数 ( B) 標 準偏差 ( 定数) 規模 自己資本 安全性 レバレッジ比率 自己資本比率 標 準化係数 ベータ r値 有意確率 VⅠ F 0. 01 4 2. 947 0. 005 0. 996 - -1. 070 0. 1 53 -0. 335-7. 000 0_ 000* * * 1 . 001 + - 8ー 21 7 25, 258 1 . 71 8 ll. 57 0. 740 4. 781 0. 000* * *1 0. 459 0. 338 2. 1 83 0. 030* *1 0. 473 第 2段 階 :説明変数 3個 区分 説 明変数 符号の 向き 係数 標 準化さ れていない係数 ( B) 標 準偏差 ( 定数) 規模 自己資本 安全性 レバレッジ比率 標 準化係数 ベータ r値 有意確 率 VⅠ F 5. 995 1. 092 5. 489 0_ 000 * * * - -1. 057 0. 1 5 4 -0. 331-6. 877 0. 000 * * * 1. 000 + 4. 653 0. 540 0. 41 9 8. 620 0. 000 * * * 1. 01 8 辛:1 0%有意,* *:5%有意,* * *:1%有意 重 回帰分析 の, 目的変数 として,R&Ⅰ の信 用 号の向きが逆 であることか ら, この指標 を除外 格付 をス コア化 した数値 を使用 し,また,説 明 し,更 に残 った 3個 の財務指標 を説 明変数 とし 変数 として,表 7の規模指標 ,安全性指標 ,収 第2 て重 回帰分析 を行 った ところ,表 8下表 ( 益性指標 の 3つの指標 区分 に分類 され る各 3個 段 階) の通 り符号の逆転 は解 消 され た。 の代表 的 な指標 (レバ レッジ比率 を含 む。) 計 また,一般 にVI F( 分散拡 大係数 ) が1 0を超 9個 か ら,ステ ップ ワイズ法 によ り変数選択 を える と多重共線性 が疑 われ るが,表 8下表 の 3 行 う。 なお, レバ レッジ比率の特性 を考慮 し, 個 の説 明変数 のVI Fは何れ も 1程度 であるので, 同比率 を安全性指標 に分類す る。 財務 指標 デー タ と して,2. 1 節 お よび2. 2節 で 使用 した もの と同 じ財務デー タベースを活用 し, 多重線形性 の可能性 は低 い とい える。 この他 , 選択 され た 3個 の財務指標 の標 準化偏残差 の散 布 図 :図 6を見 る と,外れ値 は少 ない。 2002年 3月末∼2009年 3月末 までの年次デー タ なお,順序 ロジ ッ トモデル に選択 した 3個 の を利 用 した。 信用格付デー タ として,R&Ⅰ の格 変数 を投入 して分析 す る と ( 表 9参照),係 数 付デー タを利 用 し,R&Ⅰ の信用格付 が付 与 され の符号 の向きは全 て正 しく出力 され た。 また, てい る銀行 お よび年度 のみ を対象 として,表 5 変数 の説 明力 を表 す Mc Fadde nの疑似 決 定係 数 の格付 区分 1に従 うもの とす る。 なお,財務指 は0. 11 2とな り,2. 2節 の0. 073よ り大 き く向上 し 標データと格付データの両方 とも揃 っているデー タ件数 は延べ285 件 で ある。 最初 に,表 7の財務指標 9個 を説 明変数 とし, 最終的 に選択 され た 3つ の財務指標 は,規模 指標 ,安全性指標 ,お よび収益性指標 の各 区分 ステ ップ ワイ ズ法 に よ り' 重回帰分析 を行 った と か ら 1つずつ選択 され,バ ランスの とれ た組み ころ,表 8上表 ( 第 1段階) の 4個 の財務指標 合 わせ となった。 しか も, この中には レバ レッ が抽 出 され た。 しか し, 「自己資本 比率 」 の符 ジ比率が選択 されてお り, レバ レッジ比率が銀 7 4 国際経営論集 No. 3 9 2 01 0 o Q0. 〇 〇 o 0 o ?0 0. 0 格 付 スコア 〇 〇 C , V や Z I 自己資本 B 息 レバ レッジ成長 率 ∫l 一. ヰ I J 書 O rI 0 0 0 00 J. +, D D I 0 O 1 総資産 当期 利益率 0 0 3 【 1 0 5 図 6 標準化偏残差の散布図 表 9 順序 ロジ ッ ト分析 による確認結果 McFadde nの疑似決 定係 数 係数 ( B) しきい値 位置 0. 11 2 標 準誤差 Wa l ° 有意確 率 [ 格付 区分 1= 2] -9. 942 1. 356 53. 74 0. 000* * * ] [ 格付 区分 1= 3 -8. 277 1. 31 6 39. 567 0. 000* * * [ 格付 区分 1=4] -6. 1 64 1. 278 23. 269 0. 000* * * ] [ 格付 区分 1= 5 -5. 203 1. 265 1 6. 91 3 0. 000* * * [ 格付 区分 1= 6] -3. 86 1. 252 9. 51 4 0. 002* * * [ 格付 区分 1= 7] -2. 875 1. 251 5. 286 0. 021 * * [ 格付 区分 1=8] -1. 491 1. 280 1. 358 0. 244 0. 154 0. 01 9 67. 468 0. 000* * * 自己資本 -1. 574 0. 234 45. 201 0. 000* * * 総資産 当期利 益 率 -76. 52 17. 524 1 9. 066 0. 000 * * * レバ レッジ比率 *:10% 有 意 ,**:5%有 意 ,***:1 %有 意 グローバル金融危機後の レバ レッジ比率による リスク管理 75 行 の信用 リスクを表す重要な指標 であるとい う 参考文献 結果が得 られた。 よって,他 の財務指標 との組 み合 わせ で, レバ レッジ比率単独 の場合 よ りも 説明力 を向上 させ ることが可能であると考 え ら れ る。 スク管理』 ( 金融財政事情研究会) 3.おわ りに 本研究の分析結果 よ り,本邦金融機 関の レバ レッジ比率 による金融規制 ・監督 に関 して,吹 の通 り纏 めることができる。 ・銀行 に関 しては, レバ レッジ成長率 と資産価 格成長率 との間に明確 な依存関係 は見 られ な い。 また , 信用 リスクを レバ レッジ比率のみ で説 明す ることは難 しいが,他 の財務指標 と の組み合わせ で, レバ レッジ比率単独 の場合 よ りも説明力を向上 させ ることが可能である。 ・保険会社 に関 しては, レバ レッジ成長率 と資 産価値成長率 との間に若干 の正の依存関係 が 見 られ る。 また,信用 リスクを レバ レッジ比 率のみで説 明す ることは銀行同様 に難 しい。 ・証券会社 に関 しては, レバ レッジ成長率 と資 産価値成長率 との間に正の依存 関係 が見 られ る。 また,信用格付 とレバ レッジ比率には, 相応 の負 の依存関係 がある。す なわち,資産 サイ ド,負債サイ ドとも実質的に時価評価 さ れ るバ ランスシー トの構成 のため, レバ レッ ジ比率の水準お よび成長率 をモニタ リング し て,上限を課す ことは, リスクの潜在的な増 嵩を早期 に警戒 し,機動的に制御す る上で一 定の有効性があると考 え られ る 。 この他,資産 と負債 の満期 のズ レによって生 じる資金繰 りリスクについては , レバ レッジ比 率では捕捉できないため,当該 リスクを調整 し た レバ レッジ指標 の開発 が今後の課題 である。 7 6 国際経営論集 [ 1 ] 菅野[ 2009 ] ,『 信用 リスク評価の実務』 (中央経 済社) ] , 『入 門 金融 リスク資本 と統合 リ [ 2 ] 菅野 [ 201 0 No. 3 9 2 01 0 [ 3 ] 格付投資情報セ ンター HP:ht t p: // www. r -i . c o. j p/j pn/ = ] 金融庁 HP:ht t p: // www. f s a. g o. j p/ [ 4 unne r me i e r[ 2008] , [ 5 ] Ad r i a n,T.a nd M. 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