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第4 被解雇者人選の合理性の欠如 265

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第4 被解雇者人選の合理性の欠如 265
第4
1
被解雇者人選の合理性の欠如
仮に労働者の解雇が真にやむを得ない場合でも、被解雇者の人選は客観
的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用して行われることが必要で
ある。
本件で被告は、後述の人選基準を設定しこれを適用して人選したと主張
している。しかし、機長職の被解雇者については、この基準の適用による
のではない。
そもそも本件人選基準が病気欠勤・休職等による基準また年齢の高い順
番による基準を設けていることは、いずれも合理性が認められない。以上、
被解雇者選定に合理性が認められず、本件解雇は無効である。
被告が主張する人選基準
被告は、2010年9月27日、労働組合に被解雇者の人選基準案を示し
(甲25人員調整に関する施策について)、同年11月15日、これを一部
修正した人選基準案を改めて労働組合に示した(甲36人員調整に関する施
策について-被告第1準備書面別紙3と同じ内容)。そして被告は、被告第
1準備書面別紙3の人選基準をもって、被解雇者を選定し本件整理解雇を行
ったと主張している(被告第1準備書面23頁等)。
その基準とは以下のとおりである(以下「本件人選基準」という)。
①運航乗務員訓練生
・運航乗務員訓練生で、地上職変に同意しない者
②病気欠勤・休職等による基準
イ)2010年8月31日時点の休職者。(産前、育児、介護、組合専従
によるものを除く)
ロ)2010年度(2010年8月31日まで。以下同じ。)において
a)病気欠勤日数が合計41日以上である者。
b)乗務離脱期間が61日以上である者。
c)休職期間(産前、育児、介護、組合専従によるものを除く。以下同
じ。)が2ヶ月以上である者。
d)病気欠勤日数、乗務離脱期間および休職期間の合計が61日以上であ
る者。
ハ)2008年~2010年度の過去2年5ヶ月間において
a)病気欠勤日数が合計81日以上である者。
b)乗務離脱期間が121日以上である者。
c)休職期間が4ヶ月以上である者。
d)病気欠勤日数、乗務離脱期間および休職期間の合計が121日以上
である者。
e)病気欠勤日数が2008年度13日以上、かつ2009年度13日
以上、かつ2010年度6日以上である者。
f)乗務離脱期間が、2008年度19日以上、かつ2009年度19
日以上、かつ2010年度9日以上である者。
ただし、a)~d)においては2010年度において病気欠勤日数・
乗務離脱期間・休職期間がいずれも0日であったものは除く。
ニ)乗務制限の内容を問わず、2008~2010年度の過去2年5ヶ月
間において通算1年以上の乗務制限期間があった者。ただし、2010
年度において乗務制限期間が0であった者は除く。
なお、上記(イないしニ)病気欠勤・休職等による基準に該当する者
について、2010年9月27日現在で乗務復帰している者(内容を問
わず乗務制限のある者を除く)で、2006年10月1日以降2008
年3月31日までに、連続して1ヶ月を超える病気欠勤期間、休職期間、
乗務離脱期間および乗務制限期間(各期間の合算を含む)がなかった者
は、対象外とする。
③人事考課による基準
人事考課の結果が、2007~2009年度の過去3年間において毎年
2以下であった者。
④年齢に着目した基準
上記①ないし③によってもなお目標人数に達しない場合は、各職種、職
位ごとに、年齢の高い者から順に、目標人数に達するまでを対象とする。
(育児・介護・組合専従による休職者を含む)
2 本件人選基準を無視して敢行された機長の解雇の不合理性
(1)本件人選基準による人選であれば機長は解雇の余地がなかった
ア 被告の人選基準に関する主張の帰結
被告は、「平成22年9月末日までに人員削減目標を最終決定し」、こ
の「削減目標数」から「希望退職措置により退職した人員」を「除いた人
数について、本件解雇を行うこととし」
(被告第1準備書面15~16頁)、
解雇する人選は本件人選基準で行った(同23頁以下)と主張する。
ところで本件人選基準の「職種・職位ごと」の「職種」とは、「運航乗
務員・客室乗務員・整備技術職・地上職事務系」(同24~25頁)をい
い、「職位」とは運航乗務員であれば、「機長・副操縦士」をいう(同1
2~13頁)。したがって、「削減目標数」は職種・職位ごとに設定され、
希望退職措置により退職する人員でそれぞれの「削減目標数」を達成して
しまえば、その職種・職位にある者を解雇することはないはずである。
本件で機長職にある者が18名解雇されている。希望退職では機長の応
募者は機長の削減目標に達しなかったのか。いや、目標は達成したのであ
る。それにもかかわらずの解雇であった。機長の希望退職への応募状況を
次に整理する。
イ
被告が説明した機長の削減目標人数と希望退職への応募状況
被告は2010年9月2日の希望退職説明会において目標人数を「機長
約130名、副操縦士約230名、合計約370名」と説明した。また、
同月29日、機長組合との事務折衝で希望退職2次募集の目標人数を「機
長 約100名、副操縦士 約220名、合計 約320名」と説明した
(後述のとおり第1次希望退職に機長39名が応募していることを踏まえ
ると-ただしこの時機長組合への説明では機長の応募者は37名とあった
-、機長の削減目標数は、「約100名」+39名で約139名と説明し
たことになる)。
以上の事実は被告も認めている(被告第4準備書面3~4頁)。
機長の希望退職応募者数は、被告第4準備書面4頁によれば、第1次希
望退職に39名、第2次希望退職に101名(累計140名)、その後解
雇通知がなされた12月9日までの間で11名(累計151名)、解雇通
知後から12月27日までの間で3名、以上累計で154名となる。
上記「機長約130名」の目標は優に達成している。なお被告は、本件
訴訟になってから、「機長約130名」は、「平成22年9月末に削減目
標人数を最終確定させる前の値であ」って、「同年9月末時点に削減目標
人数を最終確定させた際」の人数は「154人」であったという(被告第
4準備書面4頁注1)。このような数字は本件で初めて原告らは見聞した。
証人小田はこの「154人」の数字を本件訴訟前において「対外的に」「説
明していない」と証言しているので(同調書6頁)、原告らが知らないの
は当然である。しかし仮に機長の目標数が「154人」であっても、過不
足なく目標は達成している。
以上、本件人選基準によると、機長は削減目標数を希望退職で達成して
いるので、解雇する必要がなかったはずである。
(2)機長・副操縦士ごとの削減目標人数は確定していなかったとの被告の主
張とそれへの反論
ア 被告の主張・立証
被告は、機長は削減目標数を希望退職で達成しているにもかかわらず機
長を解雇した理由について、以下のとおり本訴で反論・反証を試みている。
即ち、被告は「平成22年9月末に、運航乗務員の削減目標人数を37
1人分と最終確定した」が(被告第4準備書面2頁)、「希望退職者の募
集を継続している過程においては、全体の削減目標の中での職位ごとの内
訳を最終確定させることは不可能であり、何らかの内訳を示すとしても、
それはその時点において上記の算定過程を試行した場合に仮置きされる想
定値という意味合いを持つに過ぎない」と主張した(同3頁)。
立証においても、目標人数における機長・副操縦士の「内訳については、
10月以降に予定されていた希望退職措置の応募状況によって変動するこ
とが考えられた」(乙27証人小田陳述書6頁)、この「内訳は、前記『ウ』
のプロセス(代理人注:乙27の6頁の記述)で算定した場合に仮置きさ
れる想定値以上の意味はもたない」(乙27 7頁)とした。
つまり、「平成22年9月末」に「最終確定」したのは「運航乗務員の
削減目標人数を371人分」で、「職位ごとの内訳」例えば機長約130
名(9月2日)や約100名(9月29日)という人数、は「最終確定」
ではなく、「仮置きされる想定値」に過ぎない、というのである。
また証人小田によれば、年齢基準で被解雇者を人選するについて、「対
象者となる58名については、まず機長から人選」したが、「全機種で運
航維持が可能となる最大限の人数は8名」であったので機長を8名人選し、
「残りの50名については、副操縦士から人選」したという(乙27 1
3頁)。
そして証人小田は、このように「まず機長から人選」し、「残り」を「副
操縦士から人選」することは「職位ごとということなので特に人選基準通
りだというふうに、私は思」うと証言した(同調書24頁)。
イ 職位ごとの削減目標人数は確定していない(想定値に過ぎない)との説
明がなかったこと
(ア)職位ごとの削減目標人数は留保なしに示された数字であったこと
機長・副操縦士ごとに示された削減目標人数が、「想定値」に過ぎない、
あるいは希望退職への応募状況によって変動する人数である、などとは、
本件訴訟前に被告から説明を受けたことはなかった(清田本人調書31~
32頁)。
被告代理人は清田に対する反対尋問において、職位ごとの目標人数とし
て示された数字が「想定値」と聞いたことはないとの清田の供述に対して、
「確定数であるという説明」も「会社から聞いていない」だろう、と尋問
している(同調書32頁)。
清田は聞いていないと答えたが、そもそも削減目標人数として示された
数字が、「未確定」、「暫定的」、「変動しうる数字」、などの留保が付
けられない場合、それは確定数と理解するのが当然である。しかも被告か
らは、削減目標人数は「必達」であると盛んに喧伝されていたのである。
それにもかかわらず、機長の削減目標数が、変動しうる数字として被告か
ら示されるなど、誰も思いもしない。「確定」とも「未確定」とも説明が
付されていない目標人数は、留保のない人数、即ち確定した数字として示
されたものと理解するのが正しい。
(イ)運航企画部・中島部長の団交での発言について(清田に対する反対尋問)
被告代理人は清田に対する反対尋問において、甲176 機長組合ニュ
ースにある運航企画部・中島部長の発言を引きつつ、職位ごとの削減目標
数は「その時点での想定値に過ぎないという説明は、去年(2010年)
9月2日以降、団体交渉、事務折衝の中で会社が説明してきたこと」では
ないか、と尋問している(同調書30頁)。
ここで引用される中島の発言は、2010年11月24日の機長組合と
の団交での発言で、「その希望退職の削減人数の募集の中で、職位ごとに
概数という形で削減目標をお伝えしてきたが、この数と、最終的な整理解
雇に発展した場合のそれぞれ職位ごとの数というのは意味合いが異なり、
その最終的な部分というのはいろいろ組合とお話しをする中で、どういっ
た形で決めていくのが良いのかということを最終的に決定した上でそれぞ
れ職位ごとに定めていく。考え方としてはそういうことだ。職位ごととい
う意味は、乗員(代理人注:運航乗務員のこと)全体の削減の必達数があ
る中で、整理解雇という段階においてその内訳を議論する中で決めていく
性質のものだ。」という発言である(甲176 2頁)。
被告代理人は、この発言が、削減目標数は「その時点での想定値に過ぎ
ないという説明」であるとの前提で、このような説明が「去年(2010
年)9月2日以降、団体交渉、事務折衝の中で会社が説明してきた」ので
はないか、というのである。
清田は、「(その時点での想定値に過ぎないとは)訴訟が起こって準備
書面で初めて見た、後から出てきたご主張です」と答えた(同調書31頁)。
清田によれば、同年10月22日までの第2次希望退職での応募者をも
って機長の目標数が達成されたが、その後、被告が整理解雇方針を組合に
通告した11月16日の団体交渉以降、被告の目標数の説明が、機長・副
操縦士別に説明されたりされなかったりするようになり、「内訳人数のご
まかし…隠蔽工作」との印象を持つようになったのである(同調書43~
44頁)。11月24日のこの中島の発言は、その「内訳人数のごまかし
…隠蔽工作」の一環なのである。
さらにこの中島の発言について次のことを指摘しておく。
中島は、希望退職の時点の「職位ごと(の)…削減目標」と整理解雇の
時点の「それぞれ職位ごとの数」とは「意味合いが異な」るという。どう
違うかといえば、「いろいろ組合とお話しをする中で、(代理人注:機長
と副操縦士の解雇人数等を)どういった形で決めていくのが良いのかとい
うことを最終的に決定した上でそれぞれ職位ごとに定めていく」というの
である。つまり機長と副操縦士それぞれどう解雇するかは、「組合とお話
し」して決めるというのである。そのような「組合との話し合いというも
のは一切行われておりません」と清田は明言している(同調書30~31
頁)。
機長・副操縦士の解雇について「組合とお話し」で決めるという中島の
説明は、明らかに本件での被告の人選方法に関する主張とは異なる。機長・
副操縦士ごとの目標数に関する被告の主張は、11月24日の中島の説明
からも変遷しており、その不合理性はいっそう明らかとなった。
さらにこの11月24日の団交では、ブランクスケジュールをアサイン
されていた組合員が「機長、副操縦士等、職責別に必要数を積み上げた人
数から出された機長約130名の削減目標に対し、希望退職の応募が約1
40名以上あり、既に目標をオーバーしている。このうえ約20名の機長
にH/BLANKをアサインし続ける理由は全く無い」と発言している(甲
176 機長組合ニュースの末尾)。しかしその団交の席にいた中島は、
この組合員の発言に対して、「機長約130名の削減目標」とは、「未確
定」、「暫定的」、「変動しうる数字」などであって、当該組合員の「確
定数」との理解が間違いである、と正すことはなかった。このことは同じ
団交の席でのやりとりであるだけに、重要である。
ウ 被告主張の要員の「バランス」に関する考え方との矛盾
被告の主張・立証によれば、運航乗務員の削減目標数371名は201
0年9月末に最終確定したが、その機長・副操縦士の内訳が未確定である、
ということになる(被告第4準備書面3頁など)。これは非常におかしな
主張である。運航乗務員の削減目標数は、機長と副操縦士の削減目標人数
の合計数として導かれるからである。
被告の説明によれば、削減目標の算出は、「平成22年度下期の運航を
維持することができるよう、各月・各機種・各職位のすべてで必要稼働数
を満たす有効配置稼働数まで削減するものとして算定している」という(被
告第4準備書面2頁、乙27証人小田陳述書4頁など)。この必要稼働数
と有効配置稼働数との差を「バランス」と呼び、「バランス」がマイナス
になるなどしたとき、「バランスが成立しない」つまり「運航が維持でき
ない」ということになる(小田証人調書2~4頁)。バランスは、月ごと・
機種ごと・職位ごとに算定される(被告第1準備書面12~13頁、乙2
7小田陳述書3~4頁)。つまりバランスは職位ごとに算定され、機長・
副操縦士を併せた(上位概念としての)「運航乗務員のバランス」概念は
存在しないのである(清田本人調書44~45頁)。
そのことは証人小田の尋問(同調書12~13頁)で非常によく分かる。
原告ら代理人が、小田陳述書(乙27)別紙2のバランス一覧表の「合
計」欄を示して、「運航乗務員のトータルで見たバランスを書いているの
ですね」「運航乗務員全体のここでいうバランスが書かれているわけです
ね」と、機長・副操縦士を併せた運航乗務員のバランスが記載されている
のではないか、との質問を繰り返している。これに対して証人小田は、「合
計」欄の数字は、各数字を「便宜的」に「足しあげた数字」と繰り返し答
えている。つまり機長・副操縦士を併せた運航乗務員としてのバランスの
概念がないことを証人小田は明確に述べているのである。そのまとめが「足
しあげたバランスが適正という見方はあまりしておりません」との証言で
ある(同調書13頁)。
つまり被告が主張する「各月・各機種・各職位のすべてで必要稼働数を
満たす有効配置稼働数まで削減する」よう目標人数を設定するなら、機長・
副操縦士の職位ごとに算定する他なく、両者併せた運航乗務員としての目
標は設定しようがないのである。
エ 「まず機長から人選」し、「残り」を「副操縦士から人選」することは
「職位ごと」の人選であるとの小田証言の無理
(ア)人選基準に沿っていないこと
本件人選基準にいう、「各職種、職位ごとに、年齢の高い者から順に、
目標人数に達するまで」における「職位ごとに」の意味が、被告が行った
という「まず機長から人選」し、「残り」を「副操縦士から人選」するこ
と、と一致するとは全く無理な説明である(乙27小田陳述書13頁、同
調書24頁)。
この証人小田の説明は、機長・副操縦士を併せた「運航乗務員の削減目
標数」概念を前提とするが、それが誤りであることは前述した。
加えて小田の証言を前提にすると、まず副操縦士から人選し、残りを機
長から人選してもよいことになるが、どちらから人選するかによって選別
される者に違いが生じる。そうであれば、どちらから人選するのか、ある
いはどちらからと決める基準について、そのいずれかをあらかじめ決めて
おかなければ公正な人選はできない。それをしていない本件では基準とし
ての合理性が認められない。
さらに、この説明は、「各職種、職位ごとに、年齢の高い者から順に」
とは、まず運航乗務員から人選し、ついで客室乗務員から人選する、ある
いはその逆の人選順序が想定される。その解釈が非常識であるかは多言を
要しない。機長・副操縦士を併せた削減目標数を概念することは同様に非
常識なのである。
以上、小田の証言(即ち被告の主張)は全く成り立たない無理な説明で
ある。
(イ)機長と副操縦士とを比較する不合理
このように「まず機長から人選」し、「残り」を「副操縦士から人選」
する理由について、証人小田は機長と副操縦士を比較して、①人件費の多
寡、②生活費の多寡、③再就職可能性において、機長を優先して解雇する
優位性を述べる(乙27証人小田陳述書13頁、同調書24頁)。
しかし被告が本件人選基準の合理性として主張するところは、後に詳し
く検討批判するところであるが、「主に貢献度の観点から決定し」たとい
い(被告第1準備書面24~25頁)、それを「比較・相対」(同26頁)
して人選するというのであった。こうして貢献度の大小を、傷病基準では
過去に傷病によって欠勤等した日数で貢献度を比較し、年齢基準では定年
まで勤務できる年数を比較したのであった。職位(機長)と職位(副操縦
士)とで、①人件費の多寡、②生活費の多寡、③再就職可能性を比較する
など、被告第1準備書面別紙3の人選基準からはとうてい読み取れない。
「職種・職位ごと」の意味が、職位と職位との比較の意味をもつなら、職種
(運航乗務員)と職種(客室乗務員)との比較の意味も持つことになるが、
それが非常識であることは明白である。
この証人小田の説明が「職位ごと」の意味するところ、との趣旨である
なら、本件人選基準はもはや意味をなさない。被告の論理の破綻である。
(3)本件人選基準を無視してでも敢行した機長の解雇の狙い
ア 希望退職募集から整理解雇へ至る経過
以上述べてきたように、本件人選基準の「④年齢に着目した基準/上記
①ないし③によってもなお目標人数に達しない場合は、各職種、職位ごと
に、年齢の高い者から順に、目標人数に達するまでを対象とする。」を文
字どおり理解すれば、運航乗務員という「職種」において機長・副操縦士
という「職位」ごとに「目標人数」が設定されて、希望退職者で充足され
ない「目標人数」の不足数に対し、「上記①ないし③」(傷病基準など)
によって被解雇者を人選し、さらに「目標人数」の不足数を年齢から順に
被解雇者を人選する、と読める。
しかし現実の希望退職から本件解雇に至る、とりわけ機長らの解雇の経
過はこの理解と違っていた。改めて被告の立証から経過を整理してみる。
証人小田によれば、まず2010年6月、本件人選基準のベースとなる
人選基準(人事考課、傷病基準、年齢基準)が部内で設定され、それに基づ
き機長307名、副操縦士272名がリストアップされた(乙27証人小
田陳述書5頁)。このリストアップは単なる数値ではなく、被告において
削減目標とされる機長307名、副操縦士272名が、個々に特定された
ことを意味する。この人選基準も、リストアップ結果も労働組合などに公
表はされなかった。
ついで同年9月末時点で、人選基準が傷病基準と年齢基準とに手直しさ
れ、第一次希望退職応募者を踏まえて、それに基づき機長154名、副操
縦士217名が、「計算し直し」てリストアップされた(同6頁)。この
数値も削減目標とされる機長154名、副操縦士217名が個々に特定さ
れたのである(証人小田調書16~17頁)。この人選基準は労働組合な
どに発表されたが、職位ごとの人数もリストアップ結果も労働組合などに
公表はされなかった。
その後の経過を見ると、リストアップされた者たちが9月25日に10
月分スケジュールとしていわゆるブランクスケジュールを示され、個々面
接において希望退職に応じた場合の経済条件を示され、希望退職への応募
を強要されたものである。
その後機長職にある者の希望退職応募者が154名に達した。被告の本
訴での主張でも機長の目標人数に達した。一部にはブランクスケジュール
対象者つまり被告の削減目標としてリストアップされなかった者が含まれ
ていた。しかし、人選基準及び希望退職の本来の趣旨からすれば、機長は
目標人数に達したから解雇はなかったはずである。しかし被告は、ブラン
クスケジュール対象者で希望退職に応じなかった機長18名を解雇したの
である。
つまり、2010年9月末日、削減対象者としてリストアップされた1
54名の機長は、他の希望退職応募者の人数に関係なく、希望退職と解雇
との択一選択を迫られていたということなのである。
機長組合は2010年9月当時、希望退職応募状況を見ると、希望退職
の対象者は全運航乗務員であるにもかかわらず、その認識が職場に十分浸
透しておらずブランクスケジュール対象者以外からの応募が進んでいない
と思われた。同組合は、その原因が特定の運航乗務員をブランクスケジュ
ールとして退職勧奨を実施している一方で、それ以外の運航乗務員には退
職条件などについての具体的かつ詳細な情報を提供していないためである
と分析した。そこで被告に対し、機長全員に退職条件(退職金・年金受給
額)を示すべきと申し入れていた。しかし被告は最後までこれを行わなか
った(甲175機長組合ニュース5頁)。
この点に関して団交でのやりとりは以下のとおりであった。
(組合)機長組合は希望退職については、その対象である全乗員で考
える問題と認識しており、H/BLANKのスケジュール対象者だけ
でなく全員に退職条件(退職金・年金受給額)を示すべきと申し入れ
ていたが、どうなったのか?
(OPZ)申し訳ない。本部長名の文書を出した上で、個人個人に
配布するのではなく、情報を希望する人に来ていただいてお示
ししようと考えている。
(組合)なぜ全員に一律配布しないのか?
(OPZ)文書自体が個人情報だ。取り扱いに注意しないといけな
いということも考慮した。
(組合)その部分は工夫できることだ。もっと積極的に対応してほし
い。整理解雇を避けるべく希望退職に全力を尽くすという一方で、
あたかも対象者への集中攻撃に見える。改善をしていただきたい。
別件訴訟となっている客室乗務員の希望退職は、希望退職者をコントー
ルするため、応募者資格に「年齢制限」を設けた。運航乗務員については、
「年齢制限」という露骨な手段は使わなかったものの、運航乗務員におい
ても希望退職者をコントールする仕掛けは作っていたということである。
これによって、できるだけブランクスケジュール対象者以外から希望退職
応募者が出ないよう仕組んでいたのである。
かくて機長の希望退職応募者は目標人数に達したが、被告は、当初から
削減予定であった18名の機長を、人選基準の趣旨をねじ曲げてでも解雇
することとしたのである。
この機長たちは、企業内労働組合あるいは産別労働組合の役職経験者で
あって、被告において大いに邪魔な者たちであったと推測される。これら
の者たちを「平時」に解雇すれば明白な不当労働行為とされるところ、更
生会社という事情を最大限に活用して解雇したものと推測される(甲17
2清田陳述書12~14頁、同調書3頁、甲182原告ら組合活動歴一覧)。
本件人選基準を機械的に当てはめた結果被解雇者が決定された、という
のではない。被告は、本件人選基準を当てはめた結果を眺めながら(それ
は乙27証人小田陳述書6頁)、この者たちは希望退職に応募しなければ
解雇する、との決意をもって臨み、解雇を敢行したのである。この人選が
著しく不合理であることは明白である。
3 病気欠勤・休職等による基準の不合理
(1)運航乗務員の健康状態を適確に把握すべき被告の義務違反となる不合理
本件整理解雇において「病気欠勤・休職等による基準」で被解雇者を人
選したことは、運航乗務員及び産業医に対する心理的プレッシャーとなり
得て、被告が運航乗務員の健康状態を適確に把握すべき、航空法上の義務
に違反する結果を招く不合理がある。
ア 航空身体検査証明制度・航空身体検査基準と運航乗務員の心身状態に対
する自己申告(甲172清田陳述書14頁以下、同調書4頁以下、甲16
4鎌倉陳述書5頁以下)
身体検査基準を柱とする航空身体検査証明制度は運航乗務員の心身に起
因する事故等の未然防止を目的として航空法に定められている。運航乗務
員は定期的に航空身体検査を受検し適合の判定を得なければならず、日々
の乗務に際しても常に基準に適合する身体状態でなければならない(航空
法31条、32条、70条、71条)。この身体検査基準(同法31条3
項)の詳細は、同法施行規則61条の2、同規則別表第4を受けた国交省
航空局長作成「航空身体検査マニュアル」(甲184の1)が規定してい
る。
航空身体検査およびその基準は、健康保持増進が目的の労働安全衛生法
上の健康診断とは趣旨が全く異なり、身体検査基準は、運航の不安全要因
となり得る運航乗務員の心身状態を徹底的に排除する趣旨で設けられ運用
されているのである。
そのため、航空身体検査基準を満たさない、つまり運航乗務員が乗務で
きない心身状態とは、一般の労働者の傷病により就労できない心身状態と
は相当な違いがある。その違いを整理した表が甲184の2である。また
具体的な例は清田本人尋問で詳しく述べたので参照されたい(同調書5~
7頁)。
運航乗務員が身体検査を受検する場合には、心身状態についての自己申
告が義務付けられており、日々の乗務に際しても心身状態が基準に適合し
ていることの自己申告が求められている(航空法70条、71条、甲30
8オペレーション・マニュアル)。
イ 航空局長通達による航空運送事業者が「乗員の健康状態を常時把握する」
義務
被告をはじめとする航空運送事業者は、航空機の運航に従事する運航乗
務員において、航空身体検査基準に適合し運航に支障のない心身状態、健
康状態にあるかどうか、「常時把握」し、「健康上疑義のある乗員」があ
るときには、「安全側に立って遅滞なく乗務停止等の措置」をとらねばな
らない(甲139羽田沖事故に関する「資料」42~44頁「通達」-以
下「本件通達」という)。
航空運送事業者はこの義務を全うするため、「乗員が安心して健康相談
を行い又はカウンセリングを受けられる」体制をつくり、運航乗務員およ
びその家族に必要な教育を行い「協力」が得られるよう「配慮」すること
が求められている(同)。
航空運送事業者に対してこのような「通達」を出すきっかけとなったの
は、1982年2月に発生した日本航空機羽田沖事故(乗客・乗務員17
4名のうち、乗客24名が死亡、乗客・乗務員149名が重軽傷を負う大
事故)であった。その事故原因は「機長の精神的変調による異常操作」と
されたことから、この事故がきっかけで、運航乗務員の日常的な健康管理
体制を強化すべきことが強調されるに至ったのである(甲139「資料」、
甲172清田陳述書15頁以下、同調書8頁以下)。
ウ 運航乗務員の自己申告に対するプレッシャー
本件人選基準によって、「病気欠勤あるいは休職等が解雇の基準にされ
た」ことは「(運航乗務員の心身状態に対する)自己申告についても(そ
の結果病気欠勤あるいは休職等となれば)解雇に結びつくんではないかと
いうことで(今後の運用として)ためらわれるという状況が起こ」ること
が懸念されるのである。
実際に本件人選基準が職場内に発表され、また本件解雇が実行された後、
「安心して乗務できないあるいは病気欠勤することが怖い、あるいは病気
欠勤することには相当な覚悟が要る」「自己申告しづらくなった」という
ような多数の運航乗務員の声がある(甲172清田陳述書18~19頁、
同調書9~10頁)。
このように運航乗務員において「自己申告」が「躊躇なくできる環境が
侵される、損なわれる」とすれば、それは被告が「事業者として、会社と
して乗員の健康状態を的確に把握」する義務と相容れず、「(乗員の健康
状態を常時把握するための)適当な措置を講ずることと課せられた責務(甲
139 43頁2項(1)⑤参照)を果たしていないことにな」る、つまり被
告の本件通達上の義務違反行為となる(清田本人調書9~10頁、また甲
164鎌倉陳述書11~12頁、甲65日乗連から国交大臣へ宛てた要請
書も同旨)。
エ
産業医へのプレッシャー
こうした心理的影響は運航乗務員にとどまらず、産業医にも及んでいる。
産業医は、運航乗務員の健康管理において身体検査基準を満たさないと
して乗務離脱させる、あるいは乗務制限を指示するなどの判断を行う。こ
うした産業医が「その自分の判断によって、(本件人選基準の病気欠勤・
休職等によって)解雇に結びついたということを非常に気に病んでおられ
るという面があり」「(今後)産業医の判断にためらいが出るんではない
かという危惧が職場に出て」いる。「実際、産業医との面談の場で、会社
がこういう状況だからね、あんまり書くとちょっとあれだから」と、乗務
に支障が出る方向の意見を出しにくいという産業医の心情を聞かされた運
航乗務員もいる(清田本人調書10~11頁)。
先の羽田沖事故以来、身体検査および健康問題について改善を図るため
に運航乗務員健康管理懇談会(PE懇談会)が設けられた。これは労使協
議体で年2回開催され、会社側から運航本部長や乗員健康管理部長らが、
組合側からは機長組合、先任航空機関士組合、乗員組合の三役らが参加す
る(甲172清田陳述書19頁)。2011年2月15日に実施されたP
E懇談会の席上、組合から運航本部に対し「産業医が乗務制限をつけるこ
とは職責として当然だが、その乗員が全員退職または首を切られたことに
は産業医もつらい思いをされていて、乗務制限の付加に逡巡してしまうと
いう話しも聞こえてくる」ことを指摘していた(甲185乗員速報)。こ
のような産業医の声は、機長組合の執行委員会でも報告されている(甲1
72清田陳述書20頁)。
なお、被告は本件人選基準を設定するについて、産業医に意見を求める
ことを怠っていたことは証人羽生の証言にあるとおりである(羽生証人調
書24頁)。
先の羽田沖事故の教訓は、「乗員、医師及び航空運送事業者の三位一体
となった自発的な協力関係」が必要であることを再確認させた(甲139
40頁航空審議会答申書)。安全運航の観点から、乗務に適した心身状
況にない運航乗務員を乗務から除外するについて、「乗員、医師」に忌憚
のない判断や行動ができることを保障するのが、航空運送事業者に求めら
れる本件通達上の義務である。休業や乗務制限を被解雇者の人選基準とす
ることは、この義務に真っ向から違反するもので、明らかに不合理である。
オ 運航本部の認識
(ア)運航本部運航企画部中島部長の発言
原告らのうち機長職にあった飯田・近藤・鎌倉・小嵜の4名が、201
0年11月29日、人員削減策実施の中心的役割を担った部署運航本部運
航企画部の部長と面談した際、同部長は、次のとおり原告らに語った。
(原告ら)「乗員は厳しい身体検査基準で見られていて、制限乗務に
なったり、あるいは乗務離脱させられたりというのは自分ではコント
ロールできない。そういうことを皆が分かっているから、この問題に
ついては対象でない乗員も反発している。この基準がおかしいという
ことは分かりますか。」
(運航企画部長)「乗員の特殊な勤務が人選基準に馴染まないとい
うのは良く分かる。今回、はっきり言って禍根を残した。運航本部
としてもこれを唯々諾々と呑んだわけではない。色々あって、これ
は全社的な中で同じ基準を出さざるを得ないということに立ち至っ
たという部分がある。」(甲164鎌倉陳述書13頁、甲172清
田陳述書20頁、清田本人調書12頁)
この運航企画部長の発言は、運航本部自体もこの人選基準については、
運航乗務員の勤務実態に照らして不合理であることがわかっておりなが
ら、全社的な判断に抵抗しきれなかったのだという事情をはっきりと示し
ている。
(イ)進運航本部長の発言
前述の2011年2月15日に実施された運航乗務員健康管理懇談会の
席上、執行役員である進運航本部長(2010年12月に就任)は、次のと
おり組合側に語った。
(労働組合)「(整理解雇などの人員調整策を経て)乗員は、今後自
分が(病気などで)乗務中断したらどうなるのかという不安で一杯で
ある。本部長はそれを理解しているか」
(運航本部長)「理解している」
(労働組合)「(健康状況について)自己申告しにくい、(体調をお
して)無理して飛ぶ、という環境ができているのではないか、という
のが職場全体の捉え方である。本部長の認識はいかがか」
(運航本部長)「そう認識している」
この進運航本部長の受け答えは、運航本部自体が、「大規模な人員削減
が行われたことや整理解雇で病気欠勤等が人選基準とされたことは、身体
検査や健康管理の観点で、職場に安全上好ましくない状況をもたらした」
と認識していることを明らかにしている。
以上のとおり、病気欠勤・休職・乗務離脱・乗務制限を人選基準とする
ことが安全阻害となるとの原告らの主張は、職制も含めた運航乗務員であ
れば等しく認識することがらなのである(甲185乗員速報、甲172清
田陳述書19~20頁)。
(ウ)被告代理人の清田に対する反対尋問について
上記進運航本部長の発言について、被告代理人は清田尋問において、甲
185を示して、本件人選基準の「傷病基準」と「組合が指摘している無
理して飛ばざるを得ない環境」とは「直接リンクしない、関係ない」と会
社は認識しており、進運航本部長はその認識を伝えているのではないか、
と反対尋問した。清田は「それは違う」と答えているが、甲334のJ4
ニュースは、この時のPE懇談会のやりとりを詳しく報じており、これに
よれば被告代理人の尋問が誤りであることが明確となる。
確かに運航本部長は、運航乗務員が「無理して飛ばざるを得ない環境」
「自己申告をしづらくなっている」環境は、「身体検査基準に関連する人
選基準は関係ないという整理だ」と言っている(甲334 J4ニュース
1頁)。しかし「人選基準は関係ないという整理」をした理由について、
「整理解雇は二度とないと言っているので」と説明している。つまり今後
はもう二度と整理解雇はない以上それを心配する必要はないので、運航乗
務員が「無理して飛ばざるを得ない環境」「自己申告をしづらくなってい
る」環境は、今後あるかもしれない整理解雇の不安とは無関係であると言
っているに過ぎない。「整理解雇は二度とない」とは誰も保障することは
できない。あり得ない事態を前提とする「人選基準は関係ないという整理」
が、全く実を伴わない「整理」であることは明白である。
その後の以下の記述に注目すべきである。
(組合)賃金問題より重い、雇用に関して、もう整理解雇をしない
ということを信じられるか、根拠も含めて本部から何らかのものが
発信できるか?
(進本務長)難しい。今月10回程度職場と話を持つ。不安・信
頼感を何とかしたいと思っている。
とあって、結局本部長も運航乗務員の今後の整理解雇への不安を払拭す
ることは「難しい」と認めざるを得なかったのである。
カ 被告の義務と運航乗務員の義務の違い
この論点に関する被告の反証は、前述の本件通達にもとづき被告に課さ
れた運航乗務員の健康状態を常時把握する義務と、運航乗務員の健康状態
に対する自己申告の義務との区別をあいまいにさせようとする作戦であ
る。
(ア)証人羽生の証言から(同調書23~24頁)
証人羽生は、原告ら代理人の反対尋問で、本件人選基準が運航乗務員の
自己申告を躊躇させる懸念はないのか、運航本部はどう認識していたのか
尋問され、運航本部の認識は、運航乗務員において「きちんと申告すると
いうことだったと思います」と答えた。続けて
(問)きちんと申告するから問題ない(ということか)?
(答)はい。
(問)乗務員の自覚に任せたということですか?
(答)そこは乗員の責任でもあります。
と答えた。
(イ)清田に対する被告代理人の反対尋問から(同調書35~36頁)
清田に対する被告代理人の反対尋問も、
「体調不良で運航ができない恐れがある…場合には自己申告して乗務を外
れる、これは運航乗務員としてのいわば職責としてそれは当然のこと」で
はないか、
「自己申告せずに乗務したら、航空法や社内規定に違反する」のではない
か、
「会社は自己申告をして乗務を外れることを認めていない」わけではない
ね、
「(会社は自己申告した運航乗務員に)休むなと言っている」わけではな
いね、と繰り返した。
(ウ)本件通達違反の証言・尋問であること
原告らの主張は、本件通達にもとづき被告に課された運航乗務員の健康
状態を常時把握する義務と、運航乗務員の健康状態に対する自己申告の義
務とがあること、被告にはその義務に基づき運航乗務員が躊躇なく健康状
態について自己申告できる環境を整え、健康状態の把握に遺漏がないよう
務めなければならないこと、したがってかような環境を損なう事態を被告
が招来させれば、それは被告のその義務違反であって、本件人選基準はか
かる事態を招来させるものとして不合理である、というにある。
証人羽生の証言も、被告代理人の尋問も、運航乗務員の義務と被告の義
務と両者の区別を曖昧にし、しかも運航乗務員に責任を転嫁しようとする
違法な証言であり尋問である。
被告は、運航乗務員が航空身体検査基準に適合し運航に支障のない心身
状態、健康状態にあるかどうか「常時把握」し、「健康上疑義のある乗員」
があるときには、「安全側に立って遅滞なく乗務停止等の措置」をとる義
務がある(甲139羽田沖事故に関する「資料」42~44頁)。「健康
上疑義のある乗員」が乗務すれば、当該運航乗務員に義務違反が生じると
同時に、被告も運航乗務員の健康状態の「把握」に遺漏があった、あるい
は「遅滞なく乗務停止等の措置」をとらなかった、という義務違反となる
のである。運航乗務員の自己申告は、運航乗務員の義務でもあるが、被告
の健康状態常時把握義務を履行する重要な手段としての意味がある。裁判
所におかれては、両者の区別に留意されたい。
キ 結論
以上のとおり、「病気欠勤・休職等による基準」で被解雇者を人選する
ことは、被告が運航乗務員の健康状態を適確に把握すべき、航空法上の義
務に違反する結果を招く不合理がある。
(2)無理な乗務を強いる不合理
病気欠勤・休職等が解雇の理由とされれば、運航乗務員において、今後
体調が悪いときでも、あるいは病気・けがからの復調が不十分なときにで
も、無理にでも乗務をしようとする傾向を生む恐れがある。その結果、当
該運航乗務員が乗務中に体調不良となれば、直ちに運航の安全への脅威と
なる。
被告がこのような傾向を生み出すとすれば、航空会社として利用者・国
民・乗務員に対し果たすべき責任と矛盾するものである。
仮に運航の安全を阻害する事態にならなくとも、体調不良を押して乗務
することは、運航乗務員の健康に悪影響を及ぼすことは間違いない。
以上、病気欠勤等を解雇の基準とすることは著しく不合理である。
(3)業務の犠牲あるいは業務に対する献身性を人選事由とする不合理
ア 運航乗務員の苛酷な業務
運航乗務員の傷病は過酷な運航業務に由来する。病気欠勤・休職を基準
として解雇することは、業務の犠牲あるいは業務に対する献身性を解雇の
基準とする不合理がある。
運航乗務員が従事する運航業務の苛酷さは、甲163原告長澤陳述書に
詳しく述べられている。
まず就労場所である機内の環境は、低気圧・低酸素・低湿度・騒音、そ
して狭い機内という地上とは全く異なる過酷な環境である。ついで時差を
ともなったり早朝・深夜時間帯あるいは徹夜での勤務となる。こうした著
しく変則的な勤務シフトのもと、(国際線の場合10時間以上にも及ぶ)
長時間・過密な労働である。
加えて、「多数の乗客・乗員の生命・身体の安全に責任を負っているこ
とによる精神的緊張と重圧の大きさは比類なく」(甲163 11頁)、
しかも「いったん運航が始まれば、機体を安全に地上に降ろすまで、すべ
ては運航乗務員」の業務に依存するのである。こうした精神的緊張と重圧
は、
「血圧や脈拍を上昇させ、脳や心臓機能への負担」となるのである(同)。
前述の甲138を見ると、「乗務中断者の疾患別特徴」として「循環器」
「筋骨格」「脳神経」「精神系」があがっているのもうなずける事象であ
る。
厚労省の過労死認定基準(2001年12月12日付)において、基準
の運用において判断すべき「加重負荷」の「要因」と挙げるものは、「a
労働時間 b不規則な勤務 c拘束時間の長い勤務 d出張の多い業務
e交替制勤務・深夜勤務 f作業環境(温度環境・騒音・時差)g精神的
緊張を伴う業務」である。運航乗務員の業務はこれが全部備わっている。
それほどに苛酷な業務なのである。
イ 常時一定数存在する乗務中断者
PE懇談会では労使が「乗務中断者」のデータを整理し、意見交換をし
ている。乗務中断者とは、航空身体検査基準を満たさず運航業務ができな
い(運航業務以外の地上業務が可能な者も含む)運航乗務員の全てをいう。
本件で被告が「乗務離脱」(被告第1準備書面25頁)と定義する者、病
気欠勤者及び休職者を含めている。
こうした航空身体検査基準を満たさず運航業務には就けないという経験
は、運航乗務員であれば容易にあり得ることである。PE懇談会で被告が
労働組合に示したデータによれば、風邪などを除き1週間以上の期間乗務
中断した者は、年間延べ人数で約6名に1名という(甲164鎌倉陳述書
8頁)。
また組合の調査等によると、被告における運航乗務員で一時的な者をの
ぞく乗務中断者は2009年4月から2010年3月までの1年間、常時
110名~130名が存在していた。その乗務中断率はおおむね4%台で
推移した(甲64乗員組合作成資料)。
以上は被告において特異な現象ではなく、他の航空会社でも全く同様に
見られる現象である。日乗連の調査によれば、2009年夏の各航空会社
の労組のデータによると、「乗務中断率は約4%」とされている(甲13
8)。このように、乗務中断は運航乗務員にとって避けがたい事象である。
ウ 小括
以上のように、運航乗務員の休職・欠勤の原因が「私傷病」であっても、
こうした過酷な乗務に長年献身的に従事してきたことと無縁とは言い切れ
ない。傷病による休職・欠勤等を人選基準とすることは、こうした勤務の
実態を無視し、業務の犠牲あるいは業務に対する献身性を解雇の基準とす
る点で合理性をみいだすことはできない(甲172清田陳述書33~35
頁)。
(4)対象期間か否かという偶然の事由による解雇である不合理
-(甲172清田陳述書36頁以下)
前述のように、運航乗務員において傷病により運航業務ができない者は、
常時4%程度存在する。長い期間でみれば、運航乗務員の誰もが事故や疾
病による中長期的な乗務中断から全く無縁ではあり得ないのである。本件
では年齢基準が解雇理由とされている原告清田も、腰痛や十二指腸潰瘍で
数十日間の乗務離脱を経験している(甲172清田陳述書35頁)。そう
した事故や疾病によって欠勤・休職等に至った者が、その時期がたまたま
解雇基準の対象期間(2008年度~2010年度)に該当したため解雇
されるのは、対象期間外に病気欠勤・休職等に至った者との比較で不公平
であり著しく合理性に欠けるものである。
(5)有給休暇対応の場合との不公平
-(甲172清田陳述書36~38頁)
病気・けがで欠勤する場合でも、有給休暇を取得して対応した場合には
本件解雇基準には当たらない。しかし有給休暇で対応せず「欠勤」(就業
規則14条)となった場合には本件解雇基準に当たる。両者の違いは著し
く大きい。このような結果を招来する選定基準は不公平きわまりなく、不
合理である。なお被告において、病気欠勤を後日有給休暇に振り替える扱
いもされていた。この場合、病気欠勤者との不公平性はより大きく、解雇
基準としていっそう合理性を欠いたものとなる。
またこの基準は、病気欠勤を有給休暇で対応しなかったことを解雇とい
う不利益扱いの事由とするに等しいものである。そのため運航乗務員にお
いて、今後病気欠勤に備え有給休暇を自由に利用することをためらわせる
恐れがある。この選定基準は有給休暇制度の趣旨を没却する解雇基準であ
って、合理性をみいだすことはできない。
(6)日数・基準日の設定が機械的で合理性がないこと
ア 日数・基準日の設定が機械的であること
傷病基準は、
「2010年8月31日時点の休職者」、
「2010年度(2010年8月31日まで)」の一定日数の病気欠勤な
ど、
「2008年~2010年度の過去2年5ヶ月間」の一定日数の病気欠勤
など、
また「2010年9月27日現在で乗務復帰している者」の一部を除外す
るなどで、日数・基準日を設定している。
しかし被告は本件人選基準を設定するについて、産業医に意見を求めて
はいない(羽生証人調書24頁)。その日数、基準日を設定する科学的根
拠、医学的根拠、など合理的な理由があるかと言えば、それはないのであ
る。
日数の設定については、被告は「有給休暇の最大日数」をベースに設定
したといい、また対象期間を「2008年度からとしたのは、2008年
4月1日より、傷病による休職の要件が変更となったため」、「乗務制限
期間は…一定の線引きとして1年」という(被告第2準備書面27~28
頁)。
2010年度が「8月31日」までとしたのも、「全従業員の勤務状況
などを把握するためには一定程度期間がかかるところ、平成22年9月2
7日に、本件人選基準案を発表した際に、取得できた勤務状況等のデータ
が平成22年8月31日時点までのものであったため」であり、解雇から
除外(救済)する者を「2010年9月27日現在(の復職)」としたの
は「本件人選基準の発表日と同日に設定したものに過ぎない」(被告第2
準備書面28~29頁)、と単に被告の都合で決めたもので、科学的根拠、
医学的根拠などの理由がないことは被告も自認するとおりである。解雇日
である12月末日までの復職者を除外しない合理的理由はない。
現に原告小嵜太は、乗務制限の解除日が9月30日であったため、わず
か3日の違いで解雇されている(甲172清田陳述書25頁)。
イ 被告の立証(証人羽生)について
証人羽生は、2008年4月基準日について、「基準を作らなきゃいけ
なかったということなんで、その2008年4月に一つ、病気欠勤や休職
の考え方といいますか規定を変えたという事実とかに着目して、その20
08年4月というものに線引きしたということ」といい(同調書29頁)、
また別件客室乗務員の訴訟で証人羽生は、除外する基準日(9月27日)
について、「それはどこかで線を引かなければならなかったということで、
その基準日を、(人選基準案を)提示した9月27日を基準とした」、そ
れは将来の貢献度を計る上で必然性があるのか、と問われ「まあどこかで
決めるという意味では、その基準を提示した日がいいのではないか、合理
的ではないかという判断に基づいて、という話しだと思います」と答えた
(甲336の1同尋問調書26頁)。
羽生のこれらの証言は、本件人選基準の日数や基準日の設定に、航空機
の運航管理上の何らかの科学的なあるいは技術的な合理性のないことを自
白する証言で、前述の準備書面による主張と同趣旨である。
以上、本件人選基準は、解雇された者と解雇を免れた者と、ボーダーラ
インにある者同士で甚だしい結論の違いを導く合理性のないこと、即ちこ
れにより被解雇者を人選する合理性のないことは明かである。
(7)「全社員共通」の人選基準の不合理
ア 「全社員共通」とする理由がないこと
本件人選基準は、被告から発表された時点では、「運航乗務職・客室乗
務職・整備技術職・地上職事務系」の4職種を前提とし、かつこれらの就
業規則が全社員共通のものであることから、「整理解雇の人選基準も原則
として全社員共通のものとし」たというのが被告の主張である(第1準備
書面24~25頁)。
就業規則の一部が全社員共通であっても、職務の内容、職務環境は全く
違う。「勤務」のありようについては、職種別の就業規則が設けられてい
る。特に運航乗務員には航空身体検査という、運航業務への就労の可否を
決定する、他職種にはない特殊な条件、しかもそれは同じ傷病でも他職種
よりも職場復帰に期間を要することになる条件であるから、それを配慮す
ることが絶対的に必要である。それにもかかわらず、一部の「就業規則が
全社員共通」部分があるとの一事で、運航乗務員の特殊性を全く配慮せず、
病気欠勤・休職等の期間が設定されていることはそれだけでも不合理であ
る。
イ 他職と異なる配慮が必要な理由
前述したように、運航業務は他職種と異なる苛酷さがあり、傷病はその
業務に由来するところが少なくない。また「航空医学的な適性と良好な健
康状態は必ずしも同義ではな(い)」(甲184の1 航空身体検査マニ
ュアル1頁 Ⅱ.1.1-4)ので、傷病が軽度である場合、または快方
に向かいつつある場合で、運航業務以外の業務に就労できる状態、日常生
活に支障がない状態でも、航空身体検査基準を満たさず運航業務に就けな
いことはしばしばある。そのため、運航乗務員の本意に反し病気欠勤・休
業等となったり、あるいはそれが長引いたりするのである。
ウ 日数の設定が運航乗務員にとって苛酷なこと
人選基準で、どれほどの日数の休職・欠勤を人選基準とするか、どれほ
どの期間の乗務離脱を人選基準とするかについて、被告が示した「201
0年度の病気欠勤日数が41日以上」「乗務離脱が61日」「2008年
から2010年の過去2年5ヶ月間において通算1年以上の乗務制限期
間」も、運航乗務員にあっては容易に該当してしまう。
被告は、2010年度では「5ヶ月間で40日病気欠勤(約2ヶ月に相
当する)となっても整理解雇の対象とならない」本件は、「厳しい基準」
ではないと主張する(被告第1準備書面27~28頁)。しかし誤りであ
る。これらの基準は「全社員に共通」である(被告第1準備書面24頁)。
地上職員には妥当する余地があるかどうかはともかく、運航乗務員には全
く当たらない。
運航乗務員の乗務中断者において、その原因の第1は循環器系の疾患で
あり、第2は筋骨格系の疾患である。そして、循環器系疾患の中で最も多
いものは不整脈であり、筋骨格系で多いものは腰痛である(甲138日乗
連健康調査報告)。
薬または手術で不整脈を治療する場合、2ヶ月で乗務復帰できるケース
は全くないと言ってよい。その多くは乗務復帰までに半年間以上を要する
のである。また腰痛の場合でも、2ヶ月以上乗務復帰できないケースは少
なくない。高血圧症は体調にさしたる異常がなくても最短で40日から5
0日間乗務ができない。運航乗務員に多い中心性網膜炎、突発性難聴など、
長期間乗務ができなくなる。運航乗務員でなければもっと早い時期に職場
復帰が可能かもしれないが、航空身体検査基準との関係で、運航乗務員は
そうはいかないのである(こうした事情は甲172清田陳述書23~24
頁が詳しく述べている)。
エ 運航の責任者も同様の見解を持っていること
既に引用しているが、飯田・近藤・鎌倉・小嵜の4名が、2010年1
1月29日、運航企画部長と面談した際、同部長が「乗員の特殊な勤務が
人選基準に馴染まないというのは良く分かる。今回、はっきり言って禍根
を残した。運航本部としてもこれを唯々諾々と呑んだわけではない。色々
あって、これは全社的な中で同じ基準を出さざるを得ないということに立
ち至ったという部分がある。」(甲164鎌倉陳述書13頁、甲172清
田陳述書20頁、同調書12頁)と述べたのは、正に、「全社員共通」の
人選基準が運航乗務員の「特殊な勤務」になじまない、との認識を運航の
責任者も共有していたことを意味する。このことは重要である。
(8)他職種と比べて不利益な人選基準である不合理-乗務離脱と乗務制限と
を人選事由とする矛盾
「全社員共通」の人選基準といいながら、運航乗務員の傷病に関する解
雇基準には、他の職種にはない「乗務離脱」と「乗務制限」が加えられて
いる。運航乗務員の特殊性を、運航乗務員に不利な方向で例外扱いした人
選基準である。
ア 「乗務離脱」を人選基準とする不公平
「乗務離脱」とは、被告第1準備書面25頁が定義している。即ち「傷
病により乗務できない(運航業務には就けない)状態にあるものの、地上
業務(シミュレーター業を含む)には就くことが可能」で被告が地上業務
を命ずる場合、これを「病気欠勤を伴わない乗務離脱」と呼ぶ。「航空医
学的な適性と良好な健康状態は必ずしも同義ではな(い)」(甲184の
1 航空身体検査マニュアル1頁 Ⅱ.1.1-4)から生じる事態であ
る。被告の定義によれば「乗務離脱」者は、地上業務に従事しているので
ある。これを病気欠勤・休業とならんで人選事由とすることは、地上職に
ある者との比較で著しく不公平で不合理である。
イ 「乗務制限」を人選基準とする不公平
乗務制限は、「一定の条件の下で乗務が可能な状態」をいう。これには
身体検査で一度は「不適合」とされ、上級の身体検査機関である航空局長
の諮問機関の「航空身体検査審査会」で「適合」との判断をされるときに
「条件」を付され場合と、航空運送事業者が当該運航乗務員の健康状態(傷
病の回復過程にあったり、傷病による後遺症など)を見て、独自の判断で
乗務の条件を付する場合とがある(甲164鎌倉陳述書9頁)。
乗務制限を受けた者も乗務をしているのである。例えば原告鎌倉は乗務
制限の基準に該当するとして解雇された。しかし彼は乗務制限があるまま、
他の運航乗務員と遜色なく乗務して来たばかりか、査察運航乗務員にも任
用されていた。査察運航乗務員は「当局に代わって機長などの技量審査を
担当する機長」である(甲172清田陳述書33頁)。このように乗務制
限は、なんら運航業務の支障となっていないのである。
乗務制限を病気欠勤・休業とならんで人選事由とする合理的根拠は、い
かなる意味でもありはしないし、また地上職にある者との比較でも著しく
不公平で不合理である。
4 年齢の高い者から解雇する不合理
(1)ベテラン運航乗務員の解雇が運航の安全を損なう不合理
ベテラン運航乗務員は、豊富な知識と経験を蓄積した者たちで、被告に
おいて運航の安全性を支える要(かなめ)としての役割を果たしてきた。
その者たちを一掃する本件人選基準は、運航の安全確保の観点で大きな脅
威となる不合理がある。
ア 経験・知識の蓄積と安全運航への影響
(ア)ベテラン運航乗務員の消失/全日空との比較
被告は「年齢の高い者から順に」解雇するとして、ベテラン運航乗務員
をいっせいに排除した。
ブランクスケジュールを背景とする退職強要とそれに続く本件整理解雇
の結果、日本航空では55歳以上の機長、48歳以上の副操縦士が一人も
いなくなった。整理解雇後の被告における機長の年齢構成と、全日空の機
長の年齢構成とを比較すれば、55歳以上の機長がほぼいなくなった有様
はその異常さが際立つ(甲132)。
(イ)運航乗務員の資格と年齢の関係
国際民間航空条約第6付属書(甲335の1、同の2)は、航空機の機
長(The pilot-in-command-PIC)の役割を次のように規定している。
即ち航空機の運航の責任者であって航空機搭乗員を指揮監督し、航空機の
危機に際しては乗客に対する命令権を行使するなど、航空機の行動を最終
的に決定できる権限と責任を持つ者である(4.5.1~4.5.5等)。
「国際民間航空条約の規定並びに同条約の附属書として採択された標準、
方式及び手続に準拠して」(航空法1条)航空法・同法施行規則は機長の
要件、権限、責任などを規定している(法73条~77条、規則163条
~166条の5)。また副操縦士は、「機長に事故があるときは、機長に
代わってその職務を行うべきもの」(航空法73条)である。
運航乗務員が乗務に就くためには、第一に技能証明書を保持し、かつ専
門的で高度な知識と運航乗務員としての業務遂行能力に関して定期的な技
能審査に合格し、定年となるその日までこの資格を維持し続ける必要があ
る(航空法22条以下、同法施行規則42条以下)。技能審査における審
査基準は航空法令等で定められ、機長と副操縦士の違いはあるものの年齢
による差違はない。更には、年二回(副操縦士においては年一回)義務付
けられている航空身体検査において、航空身体検査マニュアルに定める項
目で不適合状態と判断され、不合格になれば必然的に運航乗務員としての
地位を喪失する(航空法31条以下、同法施行規則61条以下)。この航
空身体検査証明にかかわる基準もまた、年齢による差異はない。
(ウ)ベテラン運航乗務員の経験・知識の蓄積と安全の確保
エアラインの機長は、およそ10年にも及ぶ副操縦士としての乗務経験
を経た後にようやく機長昇格訓練を受け、それに合格して就任する。ベテ
ランの機長は、幾度となく悪天候や様々なトラブルを乗り越え、安全運航
を最前線で支えてきた百戦錬磨の強者である。その体験は多岐に渡り、台
風・暴風雨の時の進入、雪・霧や結氷滑走路での離着陸、飛行機の故障へ
の対処、管制機能のトラブル等による予期せぬ飛行計画の変更、乗客の健
康状態の急変による臨機応変の対応等々、多くの困難な運航を乗り越えて
きた貴重な体験なのである。こうしたベテラン機長が蓄積してきた経験・
知識がいかに運航の安全確保に寄与しているかは、甲172清田陳述書4
1~45頁、同調書13~15頁に詳しいので参照されたい。
また年齢の高い副操縦士においては、その多くが10年余の航空機関士
としての乗務経験を有した後に副操縦士となっており(EPと呼ぶ)、ま
た、自衛隊での厳しい飛行経験を積んできたパイロットである。その多岐
に渡る乗務経験は、操縦室の中で安全運航の遂行の要として、様々な局面
で生かされるのである。機長に対して、ルート変更や積載する燃料、関係
者らとの意見調整などに有益なアドバイスを提供した具体例は、同様に甲
172清田陳述書45~48頁に詳しいので参照されたい。清田は同陳述
書48頁で、「EPは新人機長よりはるかに多い経験と知識を元に、(機
長に対し)物が言えることに存在感があるのではないでしょうか」と述べ
ている。
(エ)被告のマニュアルにみる乗務経験の重要性(甲133の1~同の3)
乗務経験の積み重ねが、ぎりぎりの事態や場面で決定的な力となること
は、乗務に就く者の共通認識である。
被告の訓練マニュアル(甲133の1)でも、「自分の経験や判断に頼
る以外に手がないといった状況に直面する場合がある」と、飛行中にチェ
ックリストで対応できる範囲を超えるような異常事態に遭遇する可能性が
あり得ることを認めた上で、こうした異常事態に遭遇した場合に取るべき
適切な行動についてのガイドラインを定めている。このガイドラインによ
れば「最も安全な方法と判断される方法を状況に応じて決定する」として、
最後に頼るべきは「それまでに積み上げられてきた経験や知識である」と
規定している(甲172清田陳述書49~50頁)。
(オ)「ハドソン川の奇跡」にみる乗務経験の重要性(甲134)
経験を積んだパイロットの適切な判断が、絶望的と思われる窮地から乗
客・乗務員を救い生還させたという事例がある。わが国でも「ハドソン川
の奇跡」と大きく報道された事例である。この時の機長は57歳、飛行時
間19,633時間を有するベテランであり、副操縦士も49歳で15,
643時間のベテランのパイロットであった。まさに被告が年齢を基準と
して切り捨てた世代である。(甲134、甲172清田陳述書50頁、同
調書15頁)。
(カ)被告の反論への再反論
被告は、ベテラン運航乗務員が、豊富な乗務経験・知識を保有する安全
運航を支える重要な人的資源であることは争っていない(例えば清田尋問
での被告代理人の尋問では、「会社は年齢が高い運航乗務員の勤務の質が
…若い人より劣るという説明をしたこと」がないことを前提とする反対尋
問をしている-清田本人調書39~40頁)。
被告反論の骨子は、
①運航乗務員のライセンスの取得には年齢は関係ないから、ベテラン運航
乗務員が退職しても、年齢に関係なく法令上のライセンスを取得した者が
乗務するのであるから、本件整理解雇によって運航の安全に支障を招く、
との原告らの主張は理由がないとする反論(被告第1準備書面29頁)。
②「2011年1月1日時点の在籍者で、機長経験年数が15年以上の者
は128名」いるから、「ベテラン運航乗務員が全て退職してしまったと
いう事実はない」とする反論(被告第3準備書面14頁)である。
しかし、①については、ライセンスの取得は年齢に関係ないこと、した
がって年齢が高い運航乗務員の勤務の質が若い運航乗務員より劣ることは
ないこと、以上はそのとおりである。反面で、年齢の高い運航乗務員は、
ライセンスに加えて、豊富な知識と経験を保有する点で、若い運航乗務員
と比較し勝る資質である(甲172清田陳述書42~44頁、同調書13
~15頁)。
②については、「機長経験年数が15年以上の者は128名」であるこ
とをもって、十分と見るかどうかである。
2010年3月から開始した特別早期退職制度(以下「特早退」という)
から始まり続く希望退職に至るまで、一連の人員削減策によって膨大な数
のベテラン機長あるいは「機長経験年数15年以上の者」が退職している。
機長で特早退に応じた者が306名、希望退職に応じた者が154名いた。
こうして不本意ながら退職した460名の機長のうち、そのほとんどが機
長経験年数15年以上の者であった。被告は経験豊かな機長ばかりを退職
させてきたのである。そして本件解雇は、その経験豊かな機長で残った1
8名を一掃する、仕上げとなったのである(甲172清田陳述書39~4
0頁、同調書48~49頁、清田は機長の退職者数を別の数字をあげて陳
述しているが、ここでは乙27証人小田陳述書9頁、被告第4準備書面4
頁にもとづく人数を挙げた。いずれも稼働数であるという)。
豊富な乗務経験・知識を備えるベテラン運航乗務員が、約590名(1
28名+460名)が約130名ほどとなっては、ベテラン運航乗務員は
全く不足しているというべきなのである。
イ 貴重な経験・知識の承継の断絶
(ア)豊富な乗務経験・知識は安全運航を支える重要な資源
ベテランの運航乗務員は自身が運航業務に従事するのみならず、若い運
航乗務員に向けて蓄積した豊富な乗務経験・知識を伝承する重要な役割を
担っている。本件整理解雇はそうした経験・知識の伝承について大きなダ
メージを加えたのである。
(イ)「各種レポート」の学習で足りるのか
証人小田は、「キャプテンレポート、あるいはセーフティレポートとい
った各種レポートにより、イレギュラー運航、事故等が発生した場合の報
告」があって、「これら各種レポートについては…専門部署で分析・評価
をしたうえで、訓練・審査に反映させる」から、「年齢に関係なく運航乗
務員全員が運航に関する経験を共有して」(乙27証人小田陳述書8頁)
いるとして、反論を試みている。
しかし、清田によれば、乗務経験・知識の伝承は、「もっぱら実際の日
常運航を通じてベテラン機長から後輩のパイロットたちへ行われる」、「日
常の乗務は、副操縦士にとって操縦技術の鍛錬の場である」ことを強調し
ている(甲172清田陳述書51~52頁)。
また清田によれば、証人小田がいう「各種レポート」は「事例が起こっ
たときにレポートされて集計され」るのであって、「その事例がインシデ
ントやトラブルに発展する前にベテランの体験やノウハウで未然に防いだ
り、無事にフライトを終えた例というのは集計されていない」ので、それ
らの知識・経験はレポートからは習得できないというのである(清田本人
調書17頁)。
実際、証人小田の陳述によっても、「イレギュラー運航、事故等が発生
した場合の報告」がレポートされるとある(乙27小田陳述書8頁)。「イ
レギュラー運航、事故等」を未然に防いだ事例はレポートされないのであ
る。正に清田が指摘したとおりである。
そもそも証人小田がいう「各種レポート」を読んで学ぶこと(いわゆる
座学)と、実際の業務を通じて学ぶこと(いわゆる On the Job Training
-OJT)とは、トレーニングの両輪である。それはあらゆる業種・職業
でも共通である。証人小田の指摘が OJT の重要性に目をつむり、運航乗務
員の知識・経験は座学で足りるという立場であるならば、それは乗客・乗
務員の生命を預かる航空会社の立場としては重大な誤りであろう。
「安全アドバイザリーグループ」の提言で「ベテランの社員が体に染み
つかせた技量やノウハウが、その社員の退職とともに消えてしまうのは、
組織としてたいへんな損失である。そのような無形の財産ともいうべきベ
テランの技量やノウハウを次の世代に継承していくには、職場における人
間同士の日常的な生身の接触が重要である。」(甲69 12頁)と「職
場における人間同士の日常的な生身の接触」つまりOJTの重要性を指摘
するのも、清田と同じ立場である。
証人小田の指摘は誤りである。
ウ 本件解雇前後に生じている運航の安全を脅かす重大な事態
(ア)国土交通省「航空の安全にかかわる情報」(乙32)から
国土交通省の「航空の安全にかかわる情報(平成22年度分)」(乙3
2)は、2010年4月から2011年3月までのわが国の「航空運送事
業者における航空輸送の安全」情報をとりまとめている(同表紙裏)。航
空運送事業者は、航空法111条の4に基づき、「航空輸送の安全」にか
かわる特定の事案について、国に報告する義務がある。それは航空法・同
施行規則などに規定される①航空事故(死傷あるいは機材の重大な損傷に
至った事故等)、②重大インシデント(事故が発生する恐れがあると認め
られる等の事態)、③安全のトラブル(①②以外の航空機の正常な運航に
安全上の支障を及ぼす事態)である(同11・13頁)。
乙32によると、平成22年度に発生した「①航空事故」は2011年
2月11日 JALI で発生した1件であり、「②重大インシデント」は JALI
の1件を含む4件であり、「③安全上のトラブル」は862件であった(同
8~10・14頁)。①②③の合計(以下「安全上のトラブル等」という)
867件のうち JALI が194件を占めている(同17頁)。
JALI における安全上のトラブル等の発生推移は以下のとおりである。
4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月
10
15
11
10
15
21
21
10
21
29
19
3月
12
本件解雇は2010年12月31日付けであるが、被解雇者を含む削減
が予定されたベテラン運航乗務員たちは、同年10月からブランクスケジ
ュールをアサインされ、乗務から排除された。本件人選基準が運航の安全
を損なう事態は、既にその時点から顕在化していたことが、このデータか
らわかるであろう。
即ち、2010年9月から1月にかけてトラブルの件数が異常に増加し
ている。4月~7月の月平均は11.5件であるが、8月~11月の月平
均は16.75件、12月~3月の月平均は20.25件である。希望退
職とそれに続いて本件解雇が敢行され本訴の提起へと進む中で、150%、
200%と「安全上のトラブル等」が増加している。
しかも「便数も減っている中」(証人小川第2回調書27頁)での増加
だけに、より異常である。これは「この期間、何が行われていたかという
と、人員整理の問題が顕在化していて、それに対して会社が整理解雇とい
う姿勢を一歩も緩めなかったがために、人心の不安が起こって、このよう
な事象が起きているということの表れ」である(証人小川第2回調書27
頁)。
被告は「本件解雇において設定した年齢基準」は「安全運航の阻害要因
となるものではない」、「現に、本件解雇を行った後、JALI の運航に特段
の支障が生じて」いない、と主張する(被告第1準備書面29頁)。そし
てまた、安全上のトラブル等の「原因は事象毎に異なる…単一の理由によ
って発生するといった短絡的なものではない」、「運航乗務員の年齢と原
告らが主張する運航の安全性に関する事実関係との間に直接の因果関係が
あるわけではな」い(被告第3準備書面13~14頁)と反論している。
しかし、この時期にトラブルが異常な増加傾向を示したことはデータ上
の事実であり、この時期にこれまでと異なる特異な事象として存在したの
は本件人選基準による運航乗務員の乗務外し・解雇であった。両者の間に
何らの因果関係がないとは言い切れない。反面、何故この時期にトラブル
が異常な増加傾向を示したのか、被告は何ら主張していない。それどころ
か「運航に特段の支障が生じて」いないとトラブルの異常な増加傾向それ
自体を否認するのであるから、その運航安全軽視の姿勢は許し難いものが
ある。
なお、後に詳しく述べるがIFALPA会長も、このトラブルの異常な
増加傾向に鑑みて、「私は、現在日本航空で発生している様々な安全上の
事象は、…強制解雇という手法により社員の生活を破壊するという強引な
経営の姿勢が、経営陣に対する職場の信頼と敬意を損ない、職場環境が悪
化した結果ではないか」と「危惧」を表明している(甲336の1、同の
2IFALPA会長陳述書、同訳文2~3頁)。被告の本件事態は各国の
注目を集める事態なのである。
(イ)「日本航空に対する安全監査」結果について(乙32)
航空局は、被告において「長い経験を有する運航乗務員及び整備従事者
等の減少や業務の合理化が…トラブルの増加につながっていないか等に着
目し」て、「日本航空に対する安全監査」を実施した。その結果、「安全
上のトラブルの発生状況に増加傾向は認められませんでした」と報告して
いる(乙32 43頁)。被告は、清田本人尋問(同調書37~38頁)・
小川証人尋問(同調書第2回14~15頁)でこれを援用するのであるが、
以下述べるように誤りである。
第1に、安全監査の時期が、「平成23年2月23日~3月31日」で
ある。最も「安全上のトラブル」が多発していたのは、前記のとおり12
月21件、1月29件とあった時期である。その後2月19件、3月12
件と減少している時期に安全監査が行われている。その期間だけとらえて
「安全上のトラブルの発生状況に増加傾向は認められませんでした」では
意味が乏しい。
第2に、「安全上のトラブル」等は前述のように明確な定義が航空法・
同施行規則上あって、国へ報告義務の課されている事故・事態である。そ
れに該当しない、しかし、「安全上のトラブル」等へつながりかねない事
態のデータは収集されておらず、その点でなお運航の安全に支障がないと
は言い切れない。
第3に、2010年10月から被解雇者を含む削減が予定されたベテラ
ン運航乗務員たちは、同年10月からブランクスケジュールをアサインさ
れ、乗務から排除されている。そうした事実が運航の安全にどのように影
響を与えたかは、清田が言うように「安全運航、安全問題というのは長い
スパンで注目して、注視していくということがなければならない」のであ
る(清田本人調書17~18頁)。こんな短い期間の調査で、安全上問題
はないと即断することは極めて危険である。
第4に、同報告書の「安全監査結果」には、「大型機の急速な退役等に
伴う各職員の業務内容の変化に起因すると考えられるトラブルも発生して
いることから、運航の安全性を一層向上させるためには、積極的な安全施策
の必要性が認められました」との記載もある(43頁)。ここで「大型機
の急速な退役等」とは、今般の被告におけるリストラ策の重要な柱であっ
て、それに「伴う各職員の業務内容の変化」とは、運航乗務員に移行訓練
が必要となった事態をいい、それは正に運航乗務員の人員削減が行き過ぎ
たものとなったため、急速な移行訓練が必要となっているのである。その
ために安全上の施策が必要であると国交省が考えているという趣旨である
(小川調書第2回14頁、また清田本人調書17~18頁)。
(ウ)「イレギュラーの連鎖を断ち切ろう!」(甲147の1)の異例さ
前述の、2010年9月以降のトラブルの異常な増加傾向は、運航の現
場では相当に深刻な事態と受け止められた。
被告の2011年は、異常な新年の幕開けとなった。運航乗務員を統括
する運航本部の責任者である運航本部長から発せられた1月6日付新年の
メッセージには、「倒産以降繰り返し実施した雇用調整施策によって、運
航本部に所属する皆さんは心身ともに疲弊し、またお互いへの信頼感も揺
らいでしまったと感じています」といい、社内の「信頼関係をなんとか再
構築」しなければならないことを訴える内容であった(甲147の3)。
これは前述したトラブルが9月から異常に増加している事態を受けたもの
であることは十分推測できる。
次いで、2月10日付けで発せられた運航本部長からのメッセージは、
「揺るぎない安全運航のために」というものであった(甲147の2)。
ここでは「不具合事象の発生は後を絶ちません。1月には777の脱出ス
ライド不具合事例で航空局より厳重注意を受け、社会のみなさまに注視さ
れている」ことを忘れるな、とあった。
ところが2月11日、わが国の航空運送事業者における2010年度唯
一の人身事故が、被告において発生したのである(乙32「航空の安全に
かかわる情報」8頁参照)。
ここに運航の現場の緊張・危機感は最高潮に達した。2011年2月1
8日、被告運航乗員部長は、「イレギュラーの連鎖を断ち切ろう!」と題
する異例な通達(甲147の1)を職場に発したのである。
同通達は「昨年から発生が続いた各種のイレギュラーを食い止めるべく
対応を進めていた矢先に、お客様と客室乗務員が負傷する航空事故が今般
発生したことを受け」たものであった(同)。同通達は、前年9月から9
月2件・11月2件・1月3件・2月3件の重要なイレギュラー事例を挙
げている(その事例の意味するところは、甲148原告長澤陳述書2~3
頁に詳しい)。そしてこれを「イレギュラーの連鎖」ととらえ、その根絶
を訴えたのであった。
(エ)許し難い被告の反論・反証
被告は、以上の運航乗員部長や運航本部長の危機意識をよそに、「運航
に特段の支障が生じておらず」と述べた(被告第1準備書面29頁)。そ
して原告らが前述の運航乗員部長通達(甲147の1)、運航本部長メッ
セージ(甲147の2)、同新年挨拶(甲147の3)を挙げて、被告の
反論を批判したところ(原告ら準備書面(3)40~41頁)、「本件解
雇以前においてもイレギュラー事例が連鎖的に発生することはあった」
(被
告第3準備書面13頁)と、まるで甲147の1ないし同の3で示されて
いる、運航の現場責任者達の危機意識は「これまでもあった」ことで特筆
する必要がないかのようにうそぶいた。そしてこれまでもあったという証
拠として乙38~乙43の書証を提出している。証拠説明書(7)によれ
ば、これら書証の立証趣旨は「本件解雇以前から、運航の安全に関する注
意を行ってきた事実」とされている。
原告らの主張・立証は、「運航の安全に関する注意」があったことでは
ない。運航の安全が脅かされていること、そして運航の現場ではそのこと
に危機意識を強くもっていること、その原因に本件解雇(及びそれに至る
人員削減施策)があると認識していることを主張し、また立証しているの
である。
このように運航の現場において、安全に対する危機感が示されているに
もかかわらず、訴訟においてこれに反して「運航に特段の支障が生じて」
いない、との主張を行うことは公共交通機関として許されないものであり、
このような対応を追認することは安全阻害を助長することになりかねず、
あってはならないことである(甲172清田陳述書54~56頁、同調書
11~12、17~18、47頁)。
(2)解雇による被害が大きな副操縦士
被告は年齢の高い順に解雇することは、「解雇時点において多額の金員
を取得できる…年金を早期に受給する(ので)…生活が困窮することは少
なく、経済的にも再出発が可能となる」と主張する(第1準備書面29~
30頁)。しかし誤りである。特に副操縦士の解雇による被害は大きい。
その中でも年齢の高い副操縦士の中にいる①EPあるいは②自衛隊からの
「割愛」者の被害は甚大である。
ア EP(甲172清田陳述書46頁、同調書18~19頁)
EPとは、航空機関士であった者が中途でパイロット(操縦士)に職種
変更した者をいう。
彼らは、航空機関士が乗務せずパイロットだけで乗務する2名編成機へ
の機材交代と、そのためのパイロットの要員不足という事態を受けて、被
告と労働組合との協議による施策として、航空機関士からパイロットに職
種変更したのであった。もちろん航空機関士として残る選択肢もあった中
での選択であった。彼らは15年程度の航空機関士経験の後に副操縦士に
なったため、もとよりパイロットであった副操縦士よりも年齢が高い。機
長への昇格する年齢も高めとなる。彼らは機長への昇格訓練を待ちそして
昇格訓練投入直前に、年齢の高い副操縦士として解雇されたのである。
イ 自衛隊からの「割愛」による者(甲172清田陳述書48~49頁、同
調書18~19頁)
「割愛」制度は、民間航空会社でパイロットが不足していた時期に、航
空会社の求めに応じて、自衛隊からの移籍を円滑に行うことを目的とした
制度で、自衛隊での飛行経験を生かし、民間航空会社で活躍するため、本
人の希望と航空会社の必要性から多くの運航乗務員を自衛隊から採用して
きたのである。特に、旧JASにおいては、航空大学校に次いで自衛隊は
最も重要な人材源となっていた。JALでも自衛隊からのパイロットを頻
繁に採用してきた。
当時の「割愛」パイロットの入社時の年齢は37歳から38歳であった。
EPと同様に彼らは機長への昇格訓練を待ち昇格訓練投入直前に年齢の高
い副操縦士として解雇されたのである。
ウ 被害の大きさ
EPも割愛者も、彼らが年齢の高い副操縦士として存在したのは、被告
の「施策」の結果である。被告が当該施策をとらなければ、年齢の高い副
操縦士として存在することはなく、解雇されることもなかった。また「い
よいよ機長昇格訓練が始まろうとする直前」「いよいよ機長に昇格という
直前」(清田本人調書18~19頁)に解雇されている。もっと早く訓練
に入り機長に昇格していれば、やはり解雇されることはなかった。訓練に
いつ投入するかは、被告の人員計画によるのであって、解雇された者たち
の責任ではない。
彼らの解雇は犠牲の大きな解雇であることは明白である。かつ彼らの解
雇は、被告が、被告自身の施策に責任をとらないもので、使用者としての
信義にもとる不合理な解雇である。
(3)国際標準からも逸脱する本件解雇基準
ILO111 号条約・111 号勧告(1958 年)、162 号勧告(1980 年)を初め、
現在世界各国では、「年齢」に基づく不利益な取扱いが法律で禁止されてお
り、1967 年制定のアメリカの雇用における年齢差別禁止法(Age Discrimin
ation in Employment Act、ADEA)をはじめとして、カナダ及びオーストラ
リアの各州の年齢差別禁止法、ニュージーランドの 1993 年人権法で、年齢
に基づく差別待遇が禁止されているほか、欧州理事会で 2000 年 11 月 27 日
に採択された「雇用及び職業における均等待遇の一般的枠組みを設定する指
令」(2000/78/EC、以下「EU指令」という。)を受けて、全てのEU加盟
27 か国が既に年齢に基づく差別を禁止する立法を行っている(「年齢差別
禁止の法理」櫻庭涼子著 59 頁~70 頁 2008 年信山社)。
1965 年に立法されたアメリカの ADEA は、1964 年の公民権法差別禁止規
定の影響を受けて人種・性別などと同じ包括的禁止のアプローチで立法さ
れており、一切の年齢に基づく差別的取扱いを原則禁止しており、随意雇
用原則をとるアメリカにおいても、他の合理的な理由なく人員削減目標に
達するまで年齢の高い者から解雇するとの整理解雇基準は、ADEA により禁
止される。
EU加盟各国では、2000 年に採択されたEU指令及び同年のEU基本権
憲章の差別禁止条項 21 条改正において、あらゆる差別を一括して取り扱う
水平的手法により人種・性別・国籍などの差別事由に年齢を含めて差別を
禁止しており、これを受け、EU指令以前から年齢差別禁止法を制定して
いた国を含め、全ての加盟国で 2006 年までに年齢差別禁止法が制定されて
いる(1998 年アイルランド雇用差別禁止法、2000 年フィンランド憲法改正、
2001 年フランス差別に関する法・労働法典改正、2003 年ベルギー年齢差別
禁止法、2003 年オランダ年齢差別法、2003 年イタリア政令発布、2006 年イ
ギリス雇用均等(年齢)規則、2006 年ドイツ一般均等待遇法など(甲13
6「欧米諸国における年齢差別禁止と日本への示唆」)。
他に合理的な理由なく、年齢の高い者から削減目標に達するまで解雇す
るとの整理解雇基準は、いずれの国においても禁止されている。
さらに、アメリカで現在まで ADEA の適用範囲が「40 歳以上」であること
や、ドイツやフランスのように年齢差別禁止法の制定以前から高年齢者の
解雇を規制する立法をしていた国で、年齢差別禁止法制定後も引き続き高
年齢者に対する解雇規制は維持されている(EU、ドイツ、フランスの状
況につき、前記櫻庭 64 頁~69 頁、222 頁~228 頁)。
整理解雇の人選基準として、他の合理的な理由なく年齢を直接の基準と
することは、①全ての国で採用されている包括的差別禁止の観点から許さ
れないことに加え、②中高年齢者の雇用保障という政策的な観点を取り入
れている国々においては、二重の意味で禁止されるものであり、明らかに
世界標準から逸脱した整理解雇基準であって不合理であることは明らかで
ある。
(4)ヴァリグ航空事件判決の立場からも合理性が認められない本件人選基準
東京地裁平成13年12月19日判決ヴァリグ日本支社事件 労働判例
817号は、「幹部職員53歳以上の者」を第1次的に解雇する、という
年齢による解雇の人選基準について、「定年年齢まで…賃金に対する被用
者の期待も軽視できない」「再就職が事実上非常に困難な年齢」「担当す
る…業務が、高齢になるほど業績の低下する業務(とは認められない)」
等の理由で当該基準は「必ずしも合理的とはいえない」としている。また
同判決は、53歳未満の労働者との待遇を比較し、後者は解雇の翌年もベ
ースアップしつつ前者は昇給を停止するなどしていることなどの待遇格差
は合理的理由が認められない、としてこの人選は「全体として著しく不合
理」であると断じたのである。
本件において年齢基準で解雇された原告らは、やはり定年年齢まで賃金
に対する期待は強く、再就職は相当に困難であること、運航乗務員の業務
は年齢によって業績が低下することは全くない業務であること、55歳以
上は定昇もなくなること、解雇されなかった者たちは2010年度末には
総額100億円となる一時金を支給されるなどの処遇の著しい格差がある
こと、等の事情がある。本件はヴァリグ日本支社事件判決に照らせば、年
齢基準は「必ずしも合理的とはいえない」し、この人選は「全体として著
しく不合理」である、との結論が導かれることは明かである。
5
本件解雇基準に対するパイロットの国際組織からの批判
本件整理解雇については、パイロットの国際組織から厳しい批判が寄せら
れている。
(1)IFALPA(国際定期航空操縦士協会連合会)の批判
ア 政府への要請書簡(甲135)
世界100カ国以上、10万人を超える運航乗務員を組織しているIF
ALPA(国際定期航空操縦士協会連合会)は、2010年11月12日、
被告の人選基準について問題点を指摘し安全性への危惧を表明して、日本
政府による日本航空再生への仲裁を求めた書簡を国土交通大臣と厚生労働
大臣宛に送った(甲135)。
その書簡の中でIFALPAは被告の本件人選基準について、
「国際的に認められた基準に合致していないばかりか、(中略)航空の
安全に明らかに密接なかかわりをもつものであるということです。具体的
に言えば、この選定基準には年齢を基準にパイロットを選別する事が含ま
れており、これは明らかに差別です。さらに、日本航空は、社内規則に準
じて適切に取得した病気欠勤であるにもかかわらず、その病気欠勤記録を
基にパイロットを選別しています。この事は、乗員が体調の不具合を率直
に申告できない事態を招く事となり、明らかに航空安全と密接なかかわり
をもつものです」
と指摘している。
さらに、日本政府に対してこの書簡を送ったことを報じた同年11月1
6日のプレス・リリース(甲187日乗連ニュース)の中でIFALPA
は、
「管財人が提起した基準では、55歳以上の機長と45歳以上(代理人
注:昨年11月16日時点)の副操縦士が整理解雇の対象とされている。
これは明らかに年齢差別であり、倫理的にも法的にも不備があるだけでな
く、再建後の成長をまさに担うであろう最も経験豊かなパイロット達を永
遠に失うことになり、JALの経営感覚の貧困さを示すものである」
と述べて、被告の整理解雇人選基準を痛烈に批判している。
イ IFALPA会長陳述書(甲336の1、同の2)
残念ながら、この書簡に反し政府は仲裁に動くことはなかったし、被告
は整理解雇を断行し、本件訴訟に至った。この事態を受けて、IFALP
A会長である Captain Don Wykoff 氏が御庁へ陳述書を提出した(甲336
の1、同の2)。その基調は甲135と基本的に同じであるが、解雇され
た者の中にIFALPAの日本協会である日本乗員組合連絡会議の役職者
等が複数いたことに次のように抗議している。
「強制的に解雇された者の中には、IFALPAの主要な加盟組織であ
る日本乗員組合連絡会議の議長を含む6名の役員が、航空の産別団体であ
る航空労組連絡会の議長を含む5名の役員が、航空安全推進連絡会議の議
長を含む2名の役員が解雇されました。さらに、日乗連の加盟組織である日
本航空機長組合および乗員組合の委員長経験者を含む多くの役員も解雇さ
れました。」(訳文2頁)
「私達の見解では、組合活動家の解雇は労働組合への不当な介入であり、
労使の合意もないまま解雇を強行したという日本航空経営の行為は、…I
LO第87.98号の国際条約に明らかに違反するもの」である(訳文2
頁)。
また本件解雇に前後して、被告では不安全事象が連続的に発生した事態
について、次のように警告を発している。
「私は、現在日本航空で発生している様々な安全上の事象は、SMM(I
CAOが定める安全管理マニュアル)が述べるように、強制解雇という手
法により社員の生活を破壊するという強引な経営の姿勢が、経営陣に対す
る職場の信頼と敬意を損ない、職場環境が悪化した結果ではないかと危惧
しています。」(同訳文2~3頁)
(2)OCCC委員長の陳述書
-(甲337の1、同の2)
世界各国の航空会社は、現在、いくつかのアライアンスを組織しているが、
日本航空が加盟するアライアンスは、ワンワールドと呼ばれる。アメリカン
航空・英国航空・フィンランド航空・カンタス航空など12カ国の代表的航
空会社が加盟するアライアンスである。そのワンワールドに加盟する航空会
社のパイロットたちで組織するOCCC(Oneworld Cockpit Crew Coalit
ion)の委員長である Captain Panu Maki が御庁へ陳述書を提出した(甲3
37の1、同の2)。
この陳述書も、年齢順に解雇することは「年齢による差別」であること、
傷病履歴による解雇は「乗員が体調不良にもかかわらず職を守るために乗務
に就くという圧力を受けるのではないかと危惧します」、そして「この解雇
が個人の働く権利を犯し、また、個人の尊厳を傷つけるものだと確信するか
らです」、と断じている(同訳文1頁)。
(3)アメリカン航空乗員組合委員長陳述書
-(甲338の1、同の2)
アメリカン航空乗員組合委員長もその陳述書で、本件人選基準について、
運航の安全の支障となることを指摘している。
即ち、「旅客機の操縦室で何か不具合が発生した時、乗客はいかなる状況
にも対処できる操縦席のベテランパイロットを求めます。数千時間の飛行経
験を持つベテランパイロットは、日本航空のみならず日本の航空業界や旅行
者にとっても大切な財産です。」また、「病気欠勤に基づく解雇は、航空会
社がパイロットに病気が重い時であっても飛ぶことを強い、そのことによっ
て更に飛行の安全を危うくすることになるであろうと私達は危惧していま
す。」と言うのである。
(4)各国運航乗務員労組からの意見書
-(甲339)
世界各国運航乗務員労組から日乗連に宛てに、本件整理解雇が違法・不当
である、との意見書が次のとおり多数寄せられている。
① アルパ インターナショナル会長/この組合は、アメリカ30社とカ
ナダ9社の合計39社の航空会社に所属する53,000名を越える運航乗
務員を組織する世界最大の労働組合。
② ウルグアイ・パイロット協会会長、事務局長
③ イスラエル・パイロット協会会長
④ フィンランド・パイロット協会会長
⑤ スターアライアンス・パイロット協会執行委員長/スターアライアン
スは、ワンワールド(甲337の1、同の2)と並ぶ世界の航空同盟の一つ
で、全日空をはじめとする世界25社の航空会社に所属する26,000名
の運航乗務員を組織するものである。
(5)全日空乗員組合元組合長陳述書
-(甲340)
全日空乗員組合元組合長奥平は陳述書で、傷病あるいは年齢といった本件
人選基準による解雇への危惧を述べている。即ち、
「運航乗務員は、日々の運航に真剣に取り組み、その経験の積み重ねによっ
て力量が日々向上していくものであり、定年を迎えるその日まで研鑽が求め
られる職業です。」(2頁)
「このような職種である運航乗務員を、経済性のために、年齢の高い者、つ
まり経験豊富なベテランから解雇するということは、それ自体が安全を蔑ろ
にする行為であり、安全が存立基盤である航空会社にとっては正に『自殺行
為』である」(2頁)
「ほとんどの運航乗務員が、入社から定年までの間に、必ずと言っていいほ
ど、中長期の病気欠勤を取ることになります」(3頁)
「今般、本件解雇において、運航乗務員であれば誰もが経験するような病気
欠勤歴などが解雇の基準となったことが、全日空など同業他社の運航乗務員
に、『自社において人員の削減が必要となった時に、同様の基準による解雇
が発生するのでは』との危惧を植え付けてしまいました。それが、『病気欠
勤歴を残したくない』という心理状況を招き、体調について自己申告の判断
を狂わす圧力要因となってしまった」(3頁)
同じ国内の有力航空会社のベテランパイロットの発言として重視される
べきであろう。
以上のとおり、ベテラン運航乗務員と病気欠勤歴などをもつ運航乗務員と
を整理解雇するという被告の人選基準は、世界の航空業界において全く賛同
を得る余地のない不合理な基準であることは明白である。
6 被告が主張する人選基準の「合理性」批判
(1)被告の主張
被告は本件人選基準の合理性について、どう主張しているか。
「本件における人選基準は、主に貢献度の観点から決定し、被害度につ
いても加味したものである。また人選基準の決定に当たっては、労働組合
との交渉も踏まえて変更も行った。また人選基準自体も客観的な明らかな
指標によるものである。」(被告第1準備書面24頁)、
さらに年齢基準については、「高年齢者のほうが賃金水準が高(く)…
高年齢者から順に解雇を行った方が、より将来の人件費の削減につながる」
「職場において、全体の年齢順という考え方以外に大方の納得を得られる
ような合理的な基準は見あたらない」(同28~30頁)、などと主張し
ている。
なおここで注意すべきは、証人小田が、前述したように機長と副操縦士
を比較して、機長を優先して解雇する優位性を述べたようなことがらは(乙
27証人小田陳述書13頁、同調書24頁)、ここでは全く述べられてい
ないことである。そのことをさておいても、これらの主張は本件人選基準
の合理性を裏付けるものではない。以下、「貢献度」・「被害度」・「労
働組合との交渉」・「客観的な明らかな指標」・「人件費の削減」・「職
場の納得」の順で逐一反論・批判していく。
(2)「貢献度」の主張について
ア 「貢献度」概念の矛盾
(ア)「貢献度」に関する被告の主張
被告がいう「貢献度」とは、
「過去及び将来の JALI の業務に対する貢献度に着目して設定することとし
た。特に将来については、10年、20年先の貢献度の重要性も見据えつ
つ、特に JALI を再建していく過程にある至近の2~3年間に、どれだけの
貢献が期待できるかという点を重視することとした。」
「将来の貢献度を評価するにあたっては、これを定量的に把握することは
困難であるが、過去の貢献度によって将来の貢献度を判断できると考えら
れることから、過去の貢献度を評価することとし」た。
そしてその「具体的指標」として、「病気欠勤日数」、「乗務離脱日数」
「休職期間」「乗務制限」等の「客観的なデータを考慮することとした」
という(以上は被告第1準備書面25頁)。
また年齢基準においても、
「JALI においては60歳を定年としているところ年齢の高い者ほど定年に
よる退職時期が近くなり、その分将来勤務できる期間が短いこととなる。」
「高年齢層が順次定年退職してしまうことによって、運航乗務員の不足が
早晩生じ…新たに運航乗務員を採用した上で長期間かつ高い費用をかけて
改めて若年者層の訓練を行(うのは)…経営再建中の JALI にとって無視す
ることのできない負担となる。そのため若年者のほうがより将来における
貢献度が高い」と判断したというのである(被告第1準備書面28頁)
(イ)「貢献度」とは将来乗務できる期間の長短のことである
労働者の雇用主に対する「貢献」のあり方は様々あり得る。運航乗務員
の航空会社に対する「貢献」のあり方も様々ある。しかし被告がここでい
う運航乗務員の「貢献」とは、運航業務に従事することに限定するのであ
る。そして健康面でまた年齢の上で、将来勤務(乗務)できる期間の長短
を比べ、短い者を「貢献度」が低いとして解雇したと理解できる。
即ち、傷病基準の指標は、過去において傷病で「欠勤」「乗務離脱」「休
職」した日数・期間である。過去において傷病によって乗務できなかった
日数・期間を根拠に、将来も傷病によって乗務できない可能性の大きさを
測り、それをもって「貢献度」と称するのである。また年齢基準において
も「定年」までの「将来勤務できる期間」の長短が「貢献度」となるよう
である。
(ウ)「乗務離脱」を指標とする矛盾(甲172清田陳述書頁31)
乗務離脱の意義については前述した。航空身体検査基準は一般的な健康
概念と違うので、傷病により航空身体検査基準を満たさないため運航業務
に就けなくても、地上業務に就くことが可能なことは多い。その場合、被
告が地上業務をアサインすることがある。被告はこれを「病気欠勤を伴わ
ない乗務離脱」とする。傷病により航空身体検査基準を満たさないため「同
じく乗務できない状態(アンダーラインは代理人)にありながら地上業務
を命じられた場合(代理人注:乗務離脱者のこと)と、命じられなかった
場合の(代理人注:病気欠勤者のこと)公平を図る観点から」、乗務離脱
も病気欠勤と同様に、「貢献度」としては「ゼロ」と扱うというのである
(被告第1準備書面25頁)。
貢献度を将来の運航業務ができる期間、としてとらえるなら、この結論
はあり得るかもしれない。しかし、休業することなく地上業務であれ就労
していた期間を病気欠勤していたとしてカウントすることは余りに理不尽
で、社会的な常識に反する。
「整理解雇の人選基準も原則として全社員に共通」であった(被告第1
準備書面24頁)。地上職(解雇された者はいないが)なら地上業務に就
いていれば、当然病気欠勤とならないのに、運航乗務員は病気欠勤となる
ことは不公平でもある。
ここで運航業務だけを取り出して運航乗務員の「貢献度」とするのが、
それが運航乗務員でなければ担当できないからであるとするなら、運航業
務以外にも運航乗務員でなければできない業務がある。その代表例がシミ
ュレーター(模擬飛行装置)業務である(被告第1準備書面25頁)。
運航乗務員は、航空法などの要求によって、実際の運航便における審査
に加えて、このシミュレーターによる訓練や審査を年4回ほど受けなけれ
ばならない。シミュレーターで訓練や審査を受ける者の援助のため、機長
役としてあるいは副操縦士役として、シミュレーター勤務に就くことがあ
る。教官職や査察職などの乗務員は、教官業務・審査業務として頻繁にシ
ミュレーター勤務に就くことになる。このように就労していながら、これ
を病気欠勤と同じ扱いをすることには、いかなる合理性もない(甲164
鎌倉陳述書9頁)。
その他被告において、実際に運航乗務員が担当している地上勤務は多岐
にわたる。
①訓練・審査や実運航に関する各種規程、マニュアル類および各種情報な
どの企画・作成や維持管理、
②航空機の取扱い、飛行性能、各種手順、操縦操作方法や運航方式などに
ついての訓練生などへの教育、
③飛行場、出発および到着方式、航空路や空域などについての新人運航乗
務員などへの教育、
④運航乗務員関係の各セクションの組織運営や庶務的業務
等々である(甲164鎌倉陳述書9頁)。
「公平」をいうなら、病気欠勤であっても以上のシミュレーターなどの
地上業務が可能であった期間は、地上業務がアサインされてもされなくて
も病気欠勤日数にカウントしない扱いをすれば公平なのである。運航業務
に就かせないのは、運航の安全という政策上の理由に過ぎないから、この
ように扱かうことが他職の人選基準との比較で公平ですらあるだろう。
繰り返すが被告は「整理解雇の人選基準も原則として全社員に共通のも
のとし」たというのである。運航乗務員だけに政策的に生じる「乗務離脱」
は貢献度をみる指標から本来的に除外されるべきだったのである。201
0年9月30日の団交で、機長組合がこの点を管財人代理らに質している
が、明確な回答が得られずに終わっている(甲174機長組合ニュース2
~3頁)。
(エ)「乗務制限」を指標とする矛盾(甲172清田陳述書32頁)
本件人選基準では「乗務制限」も指標とされている。即ち、「②ニ)乗
務制限の内容を問わず、2008~2010年度の過去2年5ヶ月間にお
いて通算1年以上の乗務制限期間があった者。ただし、2010年度にお
いて乗務制限期間が0であった者は除く」とある。
被告は第1準備書面25頁で、「乗務制限については、日常運航への貢
献度はある」と自認している。乗務制限とは、例えば月間の総乗務時間が
制限されたり、乗務の時間帯が制限されたり、時差のある乗務が制限さた
りすること等である。制限の範囲内で運航業務に従事しているのであるか
ら、これを「貢献度」がないとは絶対に言えない(甲164鎌倉陳述書9
頁)。被告の乗員計画でも、乗務制限のある運航乗務員は「1マンニング」
としてカウントされているのである。
乗務制限は、航空身体検査制度の趣旨を配慮して、航空身体検査証明審
査会または産業医の判断をもとに、被告が政策的に運航乗務員だけに課す
る措置であるから、貢献度をみる指標からは本来的に除外されるべきだっ
たのである。しかも乗務制限は、乗務しているのであるから、「乗務離脱」
で地上業務に就労している者以上に、これを貢献度なしとするのは、被告
自らが設定した「貢献度」概念の否定ですらある、度し難い矛盾なのであ
る。
この矛盾を被告はどう説明しているか。
「最終的には乗務制限の全くない運航乗務員も年齢によって対象となる
状態が明らかであったなかで、それとの比較において、貢献度は低いと判
断せざるを得ないことから」と説明している(被告第1準備書面25~2
6頁)。この説明は、「貢献度」とは乗務できるかどうかであるが、年齢
基準で解雇される者は乗務できる(つまり貢献度がある者)にも関わらず
解雇するのであるから、「貢献度」のある乗務制限のある者も解雇する、
というのである。これは「貢献度」が認められる者も認められない者も一
緒くたに解雇する、というに等しい。どう説明しても、「貢献度」概念の
否定である。こんな「貢献度」から導かれる人選基準が合理性を認められ
るはずがない。
この矛盾も2010年9月30日の団交で、機長組合が管財人代理らに
質しているが、明確な回答が得られずに終わっている(甲174機長組合
ニュース3頁)。
(オ)年齢基準と「貢献度」
年齢基準の「貢献度」の矛盾は、「乗務制限」の項で論述したとおりで
ある。年齢基準の解雇は、「乗務制限の全くない」(被告第1準備書面2
5~26頁)つまり何ら問題なく運航業務に従事している者(であること
を被告は認めつつ)を解雇することである。即ち、被告自らが設定した「貢
献度」概念の否定である。
さらに、先にも引用した、傷病基準の貢献度に関する被告の主張では「特
に JALI を再建していく過程にある至近の2~3年間に、どれだけの貢献が
期待できるかという点を重視することとした」とあった。これを年齢基準
に当てはめ、「至近の2~3年間」に定年年齢60歳に達する者をみると、
機長が7名、副操縦士総数が3名である。しかし実際に解雇された者はこ
の10名ではない。その余の年齢基準で解雇された者たちは、解雇理由の
説明が不能となる。
この矛盾を補う趣旨か、被告は、「若年層から人員削減を行えば」残っ
た年齢の高い者らが定年退職し近い将来運航乗務員の不足が生じる、そう
すると新たに運航乗務員の養成に高い費用がかかる、これは「経営再建中
の JALI にとって無視することのできない負担である」、と主張する(被告
第1準備書面28~29頁)。
しかし、第1に、原告らは「若年層から人員削減を行え」とは主張して
いない。被告の主張は紛らわしい主張である。
第2に、前述のとおり「至近の2~3年間」で定年退職する者は10名
に過ぎない。10名のパイロットの養成費用が「無視することのできない
負担」とはとうてい考えられない。
第3に、早期退職あるいは希望退職に応じた運航乗務員を再雇用すれば、
復帰訓練だけで乗務させることができるので、費用もかからず短期間に運
航乗務員の要員不足をカバーできる。乗員組合はそうした協定の締結を被
告に申し入れたが(甲34乗員速報「再雇用に関する協定(案)を提示」)、
被告の同意が得られず、締結に至っていない。
また被告は2010年6月に約300名のパイロット訓練生を地上職と
して職種変更させている。そのうち事業用ライセンス以上の資格を有して
いる訓練生約120名に関しては、運航乗務員の必要性が生じた際には、
再訓練を行うことを労使で協定を締結している(甲341の1~同の3労
使協定)。この協定にしたがって人員不足を補えば、運航乗務員の再雇用
に準じて、費用も時間もセーブして要員不足に十分に対応できる。
第4に、被告は、「無視することのできない負担」としての養成費用を
具体的なデータを主張でも立証でも全く示しておらず、したがってこの被
告の主張は破綻した主張である。
(カ)結論
「主に貢献度の観点から決定し」というように、「貢献度」なる概念は、
本件人選基準の合理性に関する被告の主張の中核となっていた。しかしこ
の主張は為にする主張であって、以上のとおり「貢献度」なる概念は、被
告の主張でも一貫性がなく、個々の主張ごとに矛盾する主張であって、論
旨は破綻している。「貢献度」によって本件人選基準の合理性が認められ
る余地はない。
イ 傷病による欠勤や休職等と「貢献度」の評価・測定
(ア)傷病による欠勤や休職等を「貢献度」がないとすることの誤り
(航空身体検査の特性から)
既に繰り返し述べたことであるが、航空身体検査基準は一般的な健康概
念と違うので、傷病により航空身体検査基準を満たさないため運航業務に
就けなくても、地上業務に就くことが可能なことは多い。運航業務に就か
せないのは、運航の安全確保という政策的な理由である。それにもかかわ
らず「貢献度」が低い、あるいはない、とする評価は全く失当である。世
界の航空業界で何ら支持されない結論である(甲336の1、同の2 I
FALPA会長陳述書訳文2頁、甲337の1、同の2 OCCC委員長
陳述書訳文1頁)。
前述したが、地上業務に就いている「乗務離脱」も貢献度がないとする
主張、運航業務に就いている「乗務制限」ですら貢献度がない、と主張に
至っては論理的な破綻である。
(業務の犠牲であることから)
傷病基準の項で述べたとおり、運航乗務員は、地上とは全く異なる過酷
な環境で、著しく変則的な勤務シフトのもと、長時間・過密な労働に従事
する。乗客・乗務員の生命を預かるストレスも大きい。運航乗務員の傷病
はこうした過酷な乗務に由来する。傷病による欠勤・休職を「貢献度」に
欠けると評価し解雇の理由とすることは、業務の犠牲あるいは業務に対す
る献身性を解雇の基準とする不合理がある(甲172清田陳述書33頁)。
(イ)過去の傷病履歴で将来の「貢献度」を測定することの誤り
過去の対象期間において病気欠勤・休職・乗務制限等であると将来も病
気欠勤・休職・乗務制限等となる蓋然性が高いという経験則も論理則も存
在しない。
さらに長い期間をみれば事故や疾病によって病気欠勤・休職に至った者
が、その時期がたまたま解雇基準の対象期間(2008年度~2010年
度)に該当したから将来の貢献度が低いとされることは、対象期間外に病
気欠勤・休職に至った者との比較で、偶然の事由で解雇されることを意味
し不公平・不公正である(甲172清田陳述書36頁)。
なお、清田に対する被告代理人の反対尋問で、「過去の貢献度で将来の
貢献度を計ることは不合理」との陳述書の記載に関して、病気欠勤の日数
によって定期昇給や賞与による減算があったり、休職者には定期昇給を行
わない、昇格の運用でもこれらによって昇格の遅れが生じることを指摘し
ている(清田本人調書33~34頁)。
しかしこの被告代理人の尋問は全く失当な指摘である。原告らは、病気
欠勤や休職に対する人事考課上の全ての不利益扱いが不当であると主張し
ているのではない。「過去の貢献度によって将来の貢献度を判断できる」
とする被告の主張(判断)(被告第1準備書面25頁)は何らの根拠がな
い推論である、と主張しているのである。
また、病気欠勤や休職に対する人事考課上の不利益扱いにしても、昇給
昇格上の不利益扱いと本件のような解雇とでは、著しく不利益の程度が異
なり比較の対象にすらならない。
ウ 被告の立証の破綻
貢献度に関する被告の立証は、証人羽生の陳述書(乙28)と証人尋問
に尽きる。陳述書では準備書面の域を出ない陳述となっている。証人尋問
でも主尋問ではさしたる証言はない(同調書1頁)。原告ら代理人による
反対尋問でも、結局合理性を立証できなかった。
羽生証人は、病気欠勤・休職基準について過去の病気欠勤・休職等から
将来も病気欠勤・休職等があるという「根拠を示していただきたい」と問
われ、
「過去の病歴と将来の貢献度ということですけれども、何らかの基準をも
って、相対的基準を決めなければならなかったという現実の中で、過去の
病気、欠勤等を基準にすることが合理的であると…思ってました」(同調
書25頁)、と答えた。
羽生証人は、年齢基準について、運航乗務員の貢献度は、年齢を異にし
ても「同じ1年間、同じ勤務日数で乗務したとすれば(貢献度は)同じ」
と答えた(同27頁)。
しかしそれなら、「至近の2~3年について」定年まで乗務できる運航
乗務員が「若手」の運航乗務員より貢献度が低いと判断した理由は何か、
と問われ、
「それは貢献度についての相対基準を作らなければならなかったという現
実の中で、どういう基準を作ったかということなので、相対的には低いと
考えたということ」としか回答できなかった(同28頁)。
結局証人羽生は、「貢献度」とは、「何らかの(相対的な)基準を作ら
なければいけなかった」ということで作った基準にすぎない、と証言する
に終わったのである(同28頁)。要は、貢献度としての傷病基準も年齢
基準も、「相対基準を作らなければならなかったという現実の中で」(同
28頁)、無理にでも「何らかの基準を作らなければいけなかった」結果
としての人選基準であって、何がしかの合理的理由を説明できる基準でな
いことを、羽生は認めざるを得なかったのである。
以上の全く不十分な「貢献度」の立証は全く失敗に終わっている。本件
人選基準の合理性は何ら裏付けることはできなかったのである。
(3)「被害度」の主張について
被告は年齢の高い順に解雇することは、「解雇時点において多額の金員
を取得できる…年金を早期に受給する(ので)…生活が困窮することは少
なく、経済的にも再出発が可能となる」と主張する(第1準備書面29~
30頁)。
しかしこれは各労働者ごとに事情を異にする。特に副操縦士には被害が
大きいことは前述したところである。
年齢の高い者たちは、解雇するまでもなく、より近い時期に定年という
ダメージの少ない理由で退職する者たちで、定年までの残存期間における
賃金への期待が軽視できない者たちである。年齢が高くなるほどに再就職
のチャンスは狭くなる。副操縦士にはいっそうその傾向が強い。しかも年
齢の高い者は、子どもの教育費・結婚資金、また両親の介護、住宅ローン等、
生活費がかさむライフステージにある。
このように年齢の高い者から解雇するとは、ある面で解雇による犠牲の大
きな者から解雇するというに等しい不合理がある(甲172清田陳述書60
頁、同調書18~19頁)。
(4)「労働組合との交渉」の主張について
被告は、「人選基準の決定に当たっては、労働組合との交渉も踏まえて
変更も行った」と主張する(第1準備書面24頁・26頁)。
被告が一度説明した人選基準案(甲25)を、途中で変更したこと(甲
36)は認める。その経緯について、原告らは知るよしがない。証人羽生
は、「機長組合から」「過去に病気をしても、現在は治っている、そして
何の制限もない社員については、そのほかの一般の社員と将来の貢献度は
同じではないかという指摘を受け」、この「指摘を踏まえて」変更したと
証言した(同調書2~3頁)。
被告の主張・立証が、本件人選基準について機長組合と協議をしつつ設
定した(つまり同組合が納得していた、あるいは同組合と合意ができた)
との趣旨であれば、全く事実と異なる。機長組合が本件人選基準について
被告と協議した、という趣旨でも間違いである(清田本人調書26~27
頁)。
機長組合は、会社が人選基準案を変更した後の2010年11月24日
の団体交渉において「人選基準はもとより整理解雇そのものについても合
意することはあり得ないことを執行委員会として確認している」(甲17
6機長組合ニュース4頁)と被告に明言している。本件人選基準ないし本
件整理解雇について機長組合が同意した事実のないことは、証人羽生も認
めている(同調書31頁)。なお乗員組合は人選基準について被告との協
議に全く立ち入ってすらいないことは証人羽生も認めている(同調書29
~30頁)。
「労働組合との交渉も踏まえて変更」といっても、何ら人選基準の合理
性の裏付けとなっていない。
(5)「客観的な明らかな指標」の主張について
被告は、傷病基準において、「病気欠勤日数」「乗務離脱日数」「休職
期間」「乗務制限」等は「客観的なデータ」であり(被告第1準備書面2
5頁)、「いずれも基準として客観的にその該当性を判断できる」(同2
6頁)、年齢基準において「使用者の恣意が介在する余地がなく公平性が
担保される基準である」(同28頁)等と主張する。
人選基準に求められるのは、客観的で合理的であることである。
確かに、日数、日にち、年齢などは客観的に認定可能であり、該当性も
客観的にできる要素ではある。しかし日数、日にち、年齢の設定について、
合理的な理由がなければ、単にそれは「客観的な基準」であるだけである。
それだけの基準では、人選の結果の合理性はないのである。
(6)「人件費の削減」の主張について
被告は「高年齢者のほうが賃金水準が高(く)…高年齢者から順に解雇
を行った方が、より将来の人件費の削減につながる」と年齢基準の合理性
を主張する(被告第1準備書面28頁)。
しかし被告は、パイロットの養成費用と同様に、どのように「将来の人
件費の削減につながる」のか、具体的なデータを主張でも立証でも全く示
しておらず、したがってこの被告の主張も破綻した主張である。
(7)「職場の納得」の主張について
被告は、「職場において、全体の年齢順という考え方以外に大方の納得
を得られるような合理的な基準は見あたらない」と主張する(被告第1準
備書面28頁)。
ここで重要なことは、被告が、日本航空の「職場」では、運航乗務員を
解雇することについて、「大方の納得を得られるような合理的な基準は見
あたらない」と自白していることである。このことはとりわけ強く指摘し
ておきたい。
その上で、年齢の高い者から解雇することについて、被告の職場で「大
方の納得を得」ているかどうかであるが、それは大きな誤りである。
前述したように、機長組合も乗員組合も、本件解雇、本件人選基準につ
いて、同意していないし、賛意を表明することもない。年齢順に解雇する
ことについて、「大方の納得を得ら」れた事実は全くあり得ない。被告も、
「大方の納得を得ら」れたとの証拠は何ら提出できていない。破綻した主
張である。
以上検討したように、機長の被解雇者の人選は、被告が主張する人選基
準を無視して敢行されている。人選基準である病気欠勤・休業などの基準
も年齢順に人選する基準も、いずれも合理性がない。本件被解雇者の人選
結果にいささかの合理性も認められない。本件解雇は無効である。
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