...

GM破産法の適用申請懸念と米政府の金融支援策について~自動車

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

GM破産法の適用申請懸念と米政府の金融支援策について~自動車
総合研究所
〒103-0028 東京都中央区八重洲 1-3-7
TEL.03-5202-7671 FAX.03-3278-7048
URL http://www.scbri.jp
e-mail : [email protected]
総研ニュース&トピックス
(2009.5.22)
SHINKIN CENTRAL BANK
GM破産法の適用申請懸念と米政府の金融支援策について
~自動車部品メーカーに対するセーフティー・ネットとは~
高橋 宏彰
ゼネラル・モーターズ(GM)の経営再建計画の提出期限が6月1日に迫った。GMは米政府に対し 154 億
ドル(約1兆5千億円)の債務がある。同再建計画が承認されない場合、米政府は期限が 11 年 12 月の融資
契約を途中で打ち切り、貸出金を回収できる権利を持っている。再建計画策定にあたってはデット・エク
イティ・スワップ等による債務の大幅削減策を盛り込む必要があり、GMは複数の債権者から債務を株式
に交換する了承を得る必要がある。GMは 09 年2月に最初の再建計画を提出しているが、米政府から拒
絶されている。今回の再建計画が承認されない場合、更にGMの破綻法適用申請の可能性は高まる。
本稿では、債務超過に陥っているGMの貸借対照表、GMが破綻した場合、資金繰りで影響を被る可能
性がある自動車部品メーカーに対する米政府の資金繰り支援策を考察した。
ポイント
09 年3月期のGMの債務超過額は 905 億ドル(約9兆円)に上り、長短債務の合計額 544 億ドルを上回って
いる。買掛金等の企業間信用を除く長短債務を株式に交換しても、債務超過額を穴埋め出来ない。
再建計画策定にあたっては、債務削減に加え、退職者向け医療費負担の削減、日本メーカー並みの賃金引
下げを具体化する必要がある。経営再建を実現させるためには、債権者との交渉に加え労働組合等との交
渉も、重要なポイントである。
仮にGMが破産法の適用申請を行った場合、GMのすべての債権、債務は支払いが凍結される。凍結期間
中に期日を向かえる自動車部品メーカーのGMに対する売掛金は、回収不能となりの資金繰りに影響を及
ぼす。この懸念を払拭するため、米政府は自動車部品メーカーに対しセーフティー・ネットを提供した。
め債権者と債務を株式に交換するデット・エク
1.GMの貸借対照表
5月7日、GMは 09 年1~3月期決算を発表
イティ・スワップ契約を結ぶ交渉を続けている。
した。純損失は 59 億ドル(約 5,900 億円)となり
しかし、GMの確定債務は、長短合計で 544 億
前四半期の 32 億ドルから赤字幅を拡大させた。
ドル(約 5,440 億円)であり、同スワップにより、
GMは 07 年7~9月期から、赤字決算を続けて
仮にすべての確定債務が資本に充当されたとし
いる。サブプライム関連への投資で損失を被り、
ても、債務超過は解消出来ない。そのため、G
初めてヘッジファンドが閉鎖に追い込まれたの
M経営者の債務削減交渉は、年金、健康保険等
は 07 年8月であった。奇しくもGMの経営は、
の偶発債務に利害関係を有する労働組合等にも
同問題と歩調を合わせて悪化を続けている。長
及んでいる。債務削減交渉が難航している背景
引く経営不振の結果、債務超過額は 905 億ドル
には、GMで働く労働者の年金等が減少するこ
(約9兆円)まで膨らんだ。
とに対し、組合が強く反対していることが考え
GMの経営者は、債務超過額を穴埋めするた
られる。
GMの貸借対照表
流動資産
現金、および手元流動資産
売掛金
在庫
その他、流動資産等
固定資産
非連結会社株式
土地、建物等
営業権、のれん代
繰延税金資産等
総資産
2009/3/31 2008/3/31
36,776
62,672 流動負債
11,580
23,644 買掛金
7,567
10,471 短期債務
11,606
17,321 未払費用
6,023
11,236 固定負債
45,514
83,036 長期債務
2,447
7,322 年金、福利厚生等債務
37,625
43,294 その他
242
1,093 負債計
5,200
31,327 資本金(累積損失を差引き後)
82,290
145,708 負債+資本
(単位)百万ドル
2009/3/31 2008/3/31
80,798
73,155
18,253
29,817
25,556
8,532
36,989
34,806
92,012
111,929
28,846
34,757
46,979
58,618
16,187
18,554
172,810
185,084
-90,520
-39,376
82,290
145,708
(出所)GM決算資料
GMの負債の中には部品等の仕入れに伴い発
ある。
生した買掛金等の企業間信用もある。仮にGM
(2) ファクタリング
が連邦破産法 11 条を申請すると、GMの負債す
べてに対し債権者からの取り立て行為が禁止さ
もうひとつは、ファクタリング(売掛債権の買
れる。そのため、自動車部品納入見合いの買掛
取り)である。プログラム名の「クイック・ペイ」
金(自動車部品メーカーにとっては売掛金)も、
が示す通り、売掛債権は事務手続きが完了次第、
一時的に回収不能に陥る。
即時現金化される。通常のファクタリング業務
09 年3月、最初の再建計画を承認しなかった
では、サービサー(売掛債権回収業者)は買い取
米財務省は、GMの信用悪化懸念から発生する
った売掛債権を債務者から回収する。しかし当
自動車部品メーカーの資金繰り不安を解消する
プログラムでは、シティ・バンクが売掛債権を
た め 、 金 融 支 援 プ ロ グ ラ ム (Auto Supplier
SPV(Special Purpose Vehicle)に売却した以降
1
Support Program) を発表した。同プログラムは、
に、GMから回収を行う仕組みにはなっていな
GMに部品を納入しているメーカーに対し、売
い。予算枠内で米財務省は、GMの買掛債権を
掛金の支払い保証、現金化を支援している。自
引き受け、自動車部品メーカーの資金繰りを支
動車産業は、完成車メーカーに部品を納める1
援する。なお同制度を利用する場合、自動車部
次納入業者に対し、2次、3次の納入業者が連
品メーカーはシティ・バンクに対し回収金額の
なり、重層的な債権、債務関係を有している。
3%に当たる手数料を支払う必要がある。
そのため上流で自動車部品メーカーが資金繰り
に支障をきたすと、下流ではより広範囲な資金
自動車部品メーカーに対するファクタリングの仕組み
繰り悪化が発生する。米政府はGMの信用悪化
部品納入
懸念に伴う連鎖倒産を、回避したい考えだ。
GM
自動車部品メーカー
買掛金
掛金売却
替り金支払
2.自動車メーカーに対する資金繰り支援策
サービサー
(シティ・バンク)
掛金売却
(1) 支払い保証
米政府の自動車部品メーカーに対する資金繰
替り金受取
SPV
米財務省
資金提供
り支援策は、2種類ある。そのいずれも米財務
(出所)シティ・バンク
省から委託を受けて、シティ・バンクが実際の
事務手続きを行っている 2 。支援策のひとつは支
3.破産法申請のインパクト
払い保証(プログラム名「クレジット・プロテク
手数料が必要とはいえ、米政府が提供する支
ション」)である。GMが破産法を申請して自動
援策により、自動車部品メーカーはGMに対す
車部品メーカーが売掛金の回収が出来なくなっ
る売掛債権回収に目処が立った。しかし問題点
た場合、米財務省が売掛金の支払いを肩代わり
もある。09 年3月期のGMの買掛金は、182 億
する。この制度を活用すれば自動車部品メーカ
ドル(約1兆 8,200 億円)である。一方、米政府
ーは、経営再建計画の提出期限である6月1日
がGMに対する売掛金を買い取るために設定し
以降に現金化される売掛債権であっても、回収
た資金枠は 35 億ドル(約 3,500 億円)である。ま
不能を免れる。なお、自動車部品メーカーが支
た、この支援策は、米国内で事業を行う自動車
払い保証を受ける場合、シティ・バンクに対し
部品メーカーに対して適用されるが、GMの海
回収金額の2%に当たる手数料を支払う必要が
外事業で発生した買掛金は対象外となっている。
GMの買掛金 182 億ドルすべてが、米国で事業
自動車部品メーカー向け資金繰り支援プログラム(予算計:35億ドル)
プログラム名
支援内容
手数料
1 クレジット・プロテクション
支払い保証
請求書金額の2%
2 クイック・ペイ
ファクタリング
同3%
換金時点
当初決済日
ファクタリング時
債権回収代理人 資金供給者
シティ・バンク
米財務省
(出所)シティ・バンク
1
http://www.treas.gov/press/releases/docs/supplier_suppor
t_program_3_18.pdf
2
http://www.citibank.com/transactionservices/home/sa/2008
/calc/auto/
を行う自動車部品メーカーに対するものではな
い。しかし、35 億ドルの資金枠で自動車部品メ
ーカーに対する充分な流動性供給が可能かどう
かに疑問が残る。
09 年4月9日、TARP 3 資金枠で設定された自動
車部品メーカー向け金融支援策は、GMの 35 億
ドルに加え、クライスラーに対しても 15 億ドル
設定されている。4月 30 日、債権者との交渉が
まとまらなかったクライスラーは、連邦破産法
11 条を申請し、その時点ですべての債権、債務
が凍結された。しかしその後、クライスラーは
イタリアの自動車大手フィアットとの資本提携
で合意に達し、1~2か月で再建協議を終了す
る見通しと発表した。報道を見る限り、クライ
スラーの破綻申請により、資金繰りに窮した自
動車部品メーカーは無さそうだ。GMもクライ
スラー同様、債権者との債務削減交渉が合意に
達する可能性は極めて低くなっている。仮にG
Mが連邦破産法 11 条を申請し、その後、資本提
携先が見つからないと、債権、債務の凍結は長
期化するであろう。仮に充分なセーフティー・
ネットが準備不足のまま、GMが連邦破産法 11
条を申請したならば、自動車部品メーカーの資
金繰りに波乱が起きる可能性は否定できない。
以
上
3
TARP: Troubled Asset Relief Program、08 年 9 月に成立した
米国の公的資金による不良債権買取りプログラム。
本レポートは、情報提供のみを目的とした上記時点における当研究所の意見です。施策実施等に関する最終決定は、ご自身の判断でな
さるようにお願いします。また、当研究所が信頼できると考える情報源から得た各種データ等に基づいて、この資料は作成されており
ますが、その情報の正確性および完全性について当研究所が保証するものではありません。
Fly UP