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遮音工法ハンドブック(2x4協会発行)

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遮音工法ハンドブック(2x4協会発行)
2×4
枠組壁工法床遮音工法
ハンドブック
表紙及び裏表紙写真提供 : Peter Powles / Canada Wood
2×4
目 次
1.はじめに ・・・ 2
2.枠組壁工法の遮音について ・・・ 4
2-1 遮音の現状について 2-2 床構造・天井の標準的な工法
3.音の基礎知識 ・・・ 8
4.音の測定と評価方法について ・・・ 12
4-1 床衝撃音の測定方法と評価値
4-2 床衝撃音遮断性能に関する基準
5.床衝撃音対策の基礎知識 ・・・ 18
5-1 軽量床衝撃音の低減手法
5-2 重量床衝撃音の低減手法
6.床衝撃音対策工法について ・・・ 22
7.音に対する人の感覚と床衝撃音の物理評価 ・・・ 30
8.遮音性を考慮したプランニング ・・・ 34
8-1 上階から伝わる生活音
8-2 居室の配置と空気伝搬音の特性
8-3 上階からの生活音を低減させるには
㺃㺃㺃 1 㺃㺃㺃
2×4
1. はじめに
日本ツーバイフォー建築協会では、平成20年度から2年間、「実需型高性能床遮音工法研究開発委員会及び
作業部会」を設置し、ツーバイフォー工法住宅の遮音性能を向上するための工法検討を行ってきました。
本委員会および作業部会は日本のビルダー及び試験研究機関とカナダの研究機関で構成されたもので、それ
ぞれの機関で役割分担をし、ツーバイフォー工法住宅の遮音性能の現状調査から主観評価を用いた評価、ツー
バイフォー工法住宅に適した具体的な遮音工法の提案を示した総合的な研究を実施しました。
本ハンドブックでは、この研究成果を広く普及することを目的に、遮音に関する基礎的な情報を加えわかり
やすく解説したものです。
協会会員のみならず、ツーバイフォー工法住宅を建設するすべての方々にご使用いただき、より居住性の高
いツーバイフォー工法住宅の建設、普及に活用していただければと思います。
■委員会構成 ( 組織名称及び構成委員は平成 20 年度と同様 )
○高性能床遮音工法研究開発委員会
委員長 鈴木 大隆 北海道立北方建築総合研究所
委 員 Trevor Nightingale National Research Council Canada
平光 厚雄 独立行政法人建築研究所
廣田 誠一 北海道立北方建築総合研究所
佐藤 洋 独立行政法人産業技術総合研究所
田中 学 財団法人日本建築総合試験所
Shawn Lawlor カナダ林産業審議会
池田 富士郎 社団法人日本ツーバイフォー建築協会
河合 誠 社団法人日本ツーバイフォー建築協会
清野 明 社団法人日本ツーバイフォー建築協会
事務局 芳野 裕次 社団法人日本ツーバイフォー建築協会
辻村 行雄 社団法人日本ツーバイフォー建築協会
○高性能床遮音工法研究開発作業部会
主 査 廣田 誠一 北海道立北方建築総合研究所
委 員 平光 厚雄 独立行政法人建築研究所
佐藤 洋 独立行政法人産業技術総合研究所
田中 学 財団法人日本建築総合試験所
麓 英彦 カナダ林産業審議会
清野 明 社団法人日本ツーバイフォー建築協会
泉 潤一 三井ホーム株式会社
小渕 克己 株式会社東急ホームズ
中越 隆道 大東建託株式会社
中村 孝 西武建設株式会社
廣川 敦士 株式会社東栄住宅
村上 剛志 三菱地所ホーム株式会社
事務局 芳野 裕次 社団法人日本ツーバイフォー建築協会
辻村 行雄 社団法人日本ツーバイフォー建築協会
㺃㺃㺃 2 㺃㺃㺃
執筆は当協会内に小委員会を設置して行った。
枠組壁工法床遮音工法ハンドブック作成編集小委員会
2×4
■執筆体制
主 査 廣田 誠一 地方独立行政法人北海道立総合研究機構北方建築総合研究所
委 員 佐藤 洋 独立行政法人産業技術総合研究所
清野 明 社団法人日本ツーバイフォー建築協会
田中 学 財団法人日本建築総合試験所
Trevor Nightingale National Research Council Canada
平光 厚雄 独立行政法人建築研究所
麓 英彦 カナダ林産業審議会
事務局 辻村 行雄 社団法人日本ツーバイフォー建築協会
■協力機関
カナダ林産業審議会
カナダウッド
Forestry Innovation Investment
日本乾式遮音二重床工業会
社団法人石膏ボード工業会
枠組壁工法住宅は、コンクリートと比較して軟らかく軽量な木材を床に使用しているため、床のクッ
ション性が高く、身体にはやさしい反面、振動しやすく音が伝わりやすい傾向があります。コンクリー
トなどの硬く重いもので床を構成することにより振動をおさえることはできますが、前述の木材を使
用した床の良さが失われてしまいます。
本ハンドブックでは、従来の枠組壁工法住宅の構成を大きく変えない範囲で、床衝撃音遮断性能の
向上技術を検討したもので、騒音が聞こえなくなるものではないことをご理解ください。
居室における音の伝わり方は、居室プラン、内装ドア、上階の床表面仕上げ材等により影響される
ものです。開放型の居室プランで「生活の気配を楽しむ」ことも家族が若く、子供が低年齢の際には
大切なことと思います。
いずれにしても、ビルダーの方々は、施主の方へ音に関して十分な事前説明を行ったうえで、施工
されるようにお願いいたします。
なお、本ハンドブックは、枠組壁工法住宅の遮音性能を保証するものではありません。
㨯㨯㨯 3 㨯㨯㨯
2×4
2. 枠組壁工法の遮音について
枠組壁工法は 1974 年にわが国に導入され、近年では年間約 10 万戸の住宅が建設されている。この間、入居
者の要求居住性能の高性能化、住まい方の多様化、高断熱・高気密化などを背景に、遮音に対する居住者の満足
度が比較的低い状況にあるといわれている。
そこで、(社)日本ツーバイフォー建築協会では 2008 年に会員企業約 500 社に対し、床を中心に騒音に関す
るアンケート調査を実施したところ 121 社から回答を得た。回答企業の営業地域は全国で、そのうち 65% は
関東・中部・近畿の大都市圏周辺であった。本章ではアンケート調査結果概要から枠組壁工法住宅の遮音の現状
を述べる。
表 2-1 アンケート調査項目の概要
問1
回答会社の属性、営業地域、施工棟数など
問 2∼3
床、壁、天井、サッシ、内装ドアの仕様
問4
遮音性能調査の実施状況
問 5∼8
施主の遮音性能への関心度と満足度
問9
遮音対策のオプション仕様
2-1 遮音の現状について
共同・戸建住宅の竣工後、入居後に施主から不満を言われる頻度を尋ねた。結果の概要は図 2-1 に示すとお
りである。
不満を言われ
たことはない
共
同
住
宅
戸
建
住
宅
たまに不満 時々不満を言 不満なこと ほぼ常に不満
を言われる われる
が多い
を言われる
46%
界床の歩行音
31%
54%
界壁の遮音性
2階床の歩行音
0%
36%
23%
住戸内の隣室
の遮音性
15%
8%
24%
40%
60%
図 2-1 建物竣工後、入居後の施主の満足度
㺃㺃㺃 4 㺃㺃㺃
3%
17% 1% 2%
57%
68%
20%
8%
80%
7%
1%
100%
2×4
界床や 2 階床の歩行音に対しての施主の満足度は、共同住宅では「不満を言われたことはない」が 46% と多
かった、対して「不満なことが多い」も 8% と他の項目と比べて多く、不満の頻度は「多い」と「ない」の両
極端に分かれている傾向がみられた。一方で、戸建住宅では「不満を言われたことはない」は 23% と少なく、
「時々」や「たまに」を含めて不満を言われる頻度が最も高いことがわかる。
界壁や間仕切壁については、共同住宅は「不満を言われたことはない」が 54%、戸建住宅では 68% であり、
床に比べて不満度は低かった。
また、計画時に設計者が床遮音に対し説明を求められるかとの質問をしたところ、共同住宅については界床
や界壁への計画時の質問は多いが、入居後はあまり不満をいわれることが少ない傾向がみられた。一方で、戸
建住宅については逆に計画時に質問を受けることは少ないが、入居後は不満を漏らす人が多い傾向にあること
がわかった。共同住宅では界壁や界床に何らかの遮音対策を講じるのに対し、戸建住宅では遮音対策が標準で
は行われていないことが影響していると考えられる。
なお、同時に調査を行った外部騒音への遮音性に関しては「不満をいわれたことはない」が共同住宅では
77%、戸建住宅では 79% であり、外部騒音に対する入居後の不満度は低いと考えられる。
次に、アンケートではひろく音に対する不満を自由記述で確認した。全部で 81 件の記述があり、記述の多い
ものを以下に示す。
1)2 階床の歩行音が気になる
2)2 階の音が聞こえる(子供の飛び跳ね、椅子の引きずり他)
3)音が響く
4)2 階の排水音が気になる
今回のアンケート調査からは床衝撃音に対し、入居者
の不満が大きいことが読み取れ、特に歩行音について指
摘されることが多いようである。枠組壁工法建築物に限
らず、近年の住宅は高断熱・高気密住宅で、床の仕上げ
が木質フローリングであることから、建物内部で音が反
響しやすいこと、換気のためにドア下にアンダーカット
があるなど、単に床の遮音性能を向上させるだけではな
く、複合的な要因も考慮されなければならない状況となっ
ている。
さらに、近年の傾向としてオープンリビングの計画が
多く、この場合に、遮音についての入居者への事前説明
がないため、アンケートでは「戸建住宅で工事着手前に
は質問が少ないが入居後に不満が増加する」ことの一因
といえるだろう。
写真 2-1 開放的な室内の事例
㺃㺃㺃 5 㺃㺃㺃
2×4
2-2 床構造・天井の標準的な工法
2 階床構造及び 1 階天井の標準的な工法に関する調査結果の概要は図 2-2 に示すとおりである。
2 階床根太の種類は 210 材が 89% の使用で、そのほかでは I 型ジョイストが 10% であった。床根太の間隔は
455 ㎜が 68% であった。床仕上げ材は木質フローリングが 93%、カーペットは 6% であった。
床合板は 15 ㎜が 83% を占めていた。この他、床根太と仕上げ材の間に挿入している部材の有無を聞いたと
ころ、34% で何らかの材料を入れているとの回答で、せっこうボードや遮音マットが多かった。
天井の構造形式は直張天井が 27%、独立天井が 67% であった。独立天井の下地は天井根太形式が 29%、防
振吊木が 21%、吊木が 17% であった。天井懐の吸音材の種類については、ロックウール(RW)とグラスウー
ル(GW)が同程度の割合で使用されていた。吸音材の厚さは 55 ㎜以下が 33%、75 ∼ 100 ㎜が 12% であった。
212 材 , 1%
根太の種類
I 型ジョイスト , 10%
210 材 , 89%
>455mm, 2%
<455mm, 5%
根太の間隔
不明 , 25%
455mm, 68%
セルローズ, 1%
天井内吸音材
RW, 29%
なし・不明 , 46%
GW, 22%
101mm ∼ , 2%
∼ 75mm, 4%
吸音材厚さ
ブローイング , 2%
55mm, 33%
∼ 100mm
12%
不明 , 49%
無垢 FL, 3%
床仕上げ材
遮音 FL, 1%
木質 FL, 90%
遮音 FL, 1%
カーペット , 6%
3 重 , 4%
天井の構造
独立天 , 29%
直張天 , 27%
0%
20%
40%
防振吊 , 21%
60%
吊天 , 17%
80%
Resilient Channel, 2%
100%
図 2-2 床構造・天井の標準的な工法
また、自由記述でオプションとして行う床遮音対策工法を聞いたところ、床根太上へのせっこうボードの追加、
天井懐への吸音材の挿入、天井の独立化、天井へのせっこうボードの増し貼りといった比較的容易に行える工
法が多かった。
他に、サッシの構成については、1 重サッシが大半で、枠はPVC及びPVCとアルミの複合が約半数を占
めていた。居室の内装ドアは 95% 以上がアンダーカットやガラリなどの換気経路を確保するものであった。
アンケート調査結果から枠組壁工法で一般的・標準的に採用されている 2 階床工法は、住宅金融支援機構が
監修している「枠組壁工法住宅工事共通仕様書」(図 2-3)に記載されている独立天井仕様がひろく普及してい
ると推察される。一方で、床根太と天井が振動的に切り離されない「直張天井」(図 2-4)が 27% と、事前の予
想以上に使用されている現状も明らかになった。( 社 ) 日本ツーバイフォー建築協会では 1984 年に「直張天井」
は「独立天井」に対し床衝撃音遮断性能が劣ることを示し、その後テキストの作成と講習会の実施を行ってき
たところであるが、充分に周知されていないことは残念であり、入居後の満足度が低い要因のひとつになって
いると考えられる。
㨯㨯㨯 6 㨯㨯㨯
吊り木
野縁
野縁
ロックウール厚さ 50mm(かさ比重 0.024 以上)
又はグラスウール厚さ 50mm(かさ比重 0.024 以上)
2×4
吊り木受け
吊り木受け
吊り木
せっこうボード厚さ 9mm 以上 + せっこうボード厚さ 9mm 以上
せっこうボード厚さ 12mm 以上
(A) 断熱材で天井を区画する場合
(B) せっこうボード2枚張りの場合
吊り木受け
吊り木
野縁
ロックウール厚さ 50mm(かさ比重 0.024 以上)
又はグラスウール厚さ 50mm(かさ比重 0.024 以上)
せっこうボード厚さ 12mm 以上
(C) 強化せっこうボード1枚張りの場合
(1)界床以外の床仕様例(吊り木と野縁を用いた吊り天井とする場合)
天井根太
天井根太
ロックウール厚さ 50mm(かさ比重 0.024 以上)
又はグラスウール厚さ 50mm(かさ比重 0.024 以上)
せっこうボード厚さ 9mm 以上 + せっこうボード厚さ 9mm 以上
せっこうボード厚さ 12mm 以上
(A) 断熱材で天井を区画する場合
(B) せっこうボード2枚張りの場合
天井根太
ロックウール厚さ 50mm(かさ比重 0.024 以上)
又はグラスウール厚さ 50mm(かさ比重 0.024 以上)
強化せっこうボード厚さ 12mm 以上
(C) 強化せっこうボード1枚張りの場合
(2)界床以外の床仕様例(天井根太を用いた吊り天井とする場合)
図 2-3 独立天井の例(枠組壁工法住宅工事仕様書 独立行政法人住宅金融支援機構監修)
図 2-4 直張天井の例(枠組壁工法住宅工事仕様書 独立行政法人住宅金融支援機構監修)
㺃㺃㺃 7 㺃㺃㺃
2×4
3. 音の基礎知識
音とは、空気、固体、水などがふるえて、耳に伝わる波動現象の一種である。騒音とは、好ましくない音の
ことをいい、特に住宅では騒音を小さくすることが要求されることが多い。また、波動は、反射、屈折、回折、
透過、干渉などの特性をもち、これらを十分に把握することが必要である。
室内で聞こえる騒音には騒音源の場所が建物の外部からか内部からかによって大きく二つに分かれる。建物
外部からの騒音としては、自動車、鉄道、地下鉄、飛行機などの交通騒音や工場、建設騒音などがある。建物
内部からの騒音としては、床衝撃音、隣戸の界壁から聞こえる音、ポンプ室や給排水騒音、換気扇などの住宅
設備の騒音が挙げられる。本章では、これらの騒音対策を理解するための一助となるよう、音の基礎知識につ
いて概説する。
○音速
音の伝わる速度である空気中の音速は式 3-1 で表される。温度 t が高くなるほど音速は上昇することがわかる。
温度が 15℃のときに音速はおよそ 340m/s となる。
c = 331.5 + 0.6 t ・・・式 3-1
ここで、 c:音速(m/s)
t:温度(℃)
○周波数、波長
音波は進行方向と振動方向が同一である縦波(疎密波)である。音の高さ(周波数)と波長の関係は式 3-2
で表される。人の可聴域は 20 ∼ 20,000Hz といわれている。音速 c が一定とすると、波長は 20Hz のときは
17m、1,000Hz のときは 0.34m、20,000Hz のときは 0.017m となり、周波数が低いほど波長が長く、周波数が
高いほど波長が短くなることがわかる。図 3-1 に波長と音速の概念図を、図 3-2 に周波数による聞こえ方につ
いて示す。
f =
c
L
・・・式 3-2
ここで、 f:周波数(Hz)
λ:波長(m)
波長 : λ
進行方向
(音速: c)
音波
図 3-1 波長と音速の概念図
㺃㺃㺃 8 㺃㺃㺃
上階歩行音
(ドン・ドン)
グランドピアノの音域(
27.5 ∼ 4186Hz )
人間が聴こえる範囲(可聴範囲:約
16
32
63
125
250
モスキート
音(蚊)
500
1k
20 ∼ 20000Hz )
2k
4k
8k
2×4
ピアノの中央「ラ」音
(A= 440Hz )
人間の声
電子音
(携帯電話、家電)
(男声・女声)
16k
32k
周波数 [Hz]
建築音響測定の範囲
(1kHz=1,000Hz)
図 3-2 周波数による聞こえ方
○音響パワー、音響パワーレベル
ある面を単位時間に透過する音響エネルギーを音響パワー、音響パワーをレベル表示したものを音響
パワーレベルレベルといい、式 3-3 により表される。
PWL = 10 log10
W
W0
・・・式 3-3
ここで、 PWL:音響パワーレベル(dB)
W0:基準の音響パワー(10-12 Watt)
W:音響パワー(Watt)
○音圧、音圧レベル
音波によって生じる媒質の圧力変動を音圧といい、音圧をレベル表示したものを音圧レベルという。
SPL = 10 log10
p2
p
= 20 log10
2
p0
p0
・・・式 3-4
ここで、 SPL:音圧レベル(dB)
p:音圧(Pa)
p0:基準の音圧(20μPa)
20,000 ,000
ガード下
電車の中
騒がしい事務所
2,000 ,000
200 ,000
20,000
静かな事務所
2,000
深夜の郊外
200
20
音圧 音圧レベル
(μPa)
(dB)
140
130
120
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
耳がいたくなる
車の警笛(2m)
大声の会話
電話のベル
ささやき声
図 3-3 音圧と音圧レベルの関係と音の聞こえ方
㺃㺃㺃 9 㺃㺃㺃
2×4
○拡散
あらゆる点において、音のエネルギーが一様に分布し、あらゆる方向に伝搬している状況を拡散という。通
常の部屋では、室形状や吸音の影響で拡散音場とならずに、測定点によって音の強さや大きさが異なっている。
○音の合成
2 つ以上の騒音源があった場合、2 つの音圧レベルの合成は、エネルギー合成によって行う。式 3-5 に計算例
を示す。例えば、60dB と 60dB の 2 つ騒音源があった時は、約 63dB となる。ただし、ごく近い周波数の音が
合成されると「うねり」などの現象が発生し、式通りにはならない。
2
S1
I
p
L1 = 10 log10 1 = 10 log10 1 2
I0
p0
L1
2
I
p
L2 = 10 log10 2 = 10 log10 2 2
I0
p0
L12
⎛ L1
⎛I
I ⎞
L1+ 2 = 10 log10 ⎜⎜ 1 + 2 ⎟⎟ = 10 log10 ⎜⎜1010 + 10 10
⎝ I0 I0 ⎠
⎝
L2
⎞
⎟
⎟
⎠
・・・式 3-5
S2
図 3-4 2 つの音の合成
○A 特性音圧レベル
人の聴感は、低音域での感度が低くなっている。音圧レベルを人間の聴感に合わせた周波数補正したもの
を A 特性音圧レベルという。A 特性フィルタを通した音圧レベルで、騒音レベルともいわれる。交通騒音の
ような一般的な騒音は A 特性音圧レベルで測定されることが多い。
10
Response [dB]
0
-10
-20
-30
-40
-50
-60
10
100
1000
10000
100000
Frequency [Hz]
図 3-5 A 特性フィルタ
○残響時間
Stop
ルギーが 10 万分の 1 まで減衰する時間を残響時間という。実
際の測定では、音圧レベルが 60dB 減衰する時間を測定するこ
とが多い。コンサートホールの残響時間は約 2 秒が最適である
といわれているが、一般の住居の部屋では 1 秒以下となってい
音圧レベル [dB]
室内に定常状態で発生している音が停止してから、音響エネ
60dB
残響時間
ることが多い。
時 間 [sec]
図 3-6 残響時間のイメージ
㺃㺃㺃 10 㺃㺃㺃
2×4
○吸音
音のエネルギーが天井、壁、床などで吸収される現象を吸音という。吸音力が大きくなると、残響時間が短くなる。
室内を吸音することにより、けん騒感が少なくなり、静かになることがある。グラスウールなどの吸音材の他、カー
ペット、カーテン、ベッドなどの家具によっても吸音することができる。
拡散音場において、パワーレベル PWL の騒音源がある場合、室内音圧レベルは式 3-6 で表される。この式にお
いて、吸音力 A を大きくすると室内音圧レベルが下がることがわかる。
SPL = PWL + 10 log10
4
A
・・・式 3-6
ここで、 A:室の吸音力(m2)
○空気伝搬音、固体伝搬音
空気を伝搬する音波のことを空気伝搬音という。例えば、隣戸からの TV の音や、建物外部からの交通騒音など
が挙げられる。空気伝搬音の対策の基本は、遮音性能の高い部材(壁、サッシ、ドアなど)を使用する、隙間を
なくすことである。
固体中を振動が伝わり、壁面などから放射される音のことを固体伝搬音という。例えば、床衝撃音、地下鉄振
動などが挙げられる。固体伝搬音の対策の基本は、建物躯体の重量や剛性を増加させる、振動伝搬経路を確認す
ることが挙げられる。
対象とする室内が静かな空間である場合は、空気伝搬音、固体伝搬音ともに回り込み音(「迂回音、フランキング」
ともいわれる)が問題となることある。回り込み音は、対策の基本となる空気音遮断性能の界壁や床衝撃音の床
面(天井面)など以外から音が回り込んで放射される音のこといい、予測や制御をすることが困難となることが
多い。
㺃㺃㺃 11 㺃㺃㺃
2×4
4. 音の測定と評価方法について
4-1 床衝撃音の測定方法と評価値
音源室
(上階)
床衝撃音の測定では、上階の床面に衝撃を加え、床断面を通じて下階の
居室に伝わる音の大きさを騒音計などで測定する。測定の概要を図4-1に
標準衝撃源による加振
示す。そして、音の大きさにより床の床衝撃音遮断性能の高低を評価する。
床の床衝撃音遮断性能を評価する時には通常、衝撃に伴い床面・床構造で
発生する振動音(固体音)を評価の対象とし、衝撃時に上階の床面で発生
受音室
(下階)
する衝突音が迂回して下階に伝わる音は対象に含めない。
ここでは、床衝撃音の測定方法と評価方法について、概説する。
床衝撃音の発生
マイクロホン
(1)床衝撃音測定の基礎知識
騒音計
床衝撃音の測定に用いる基本的な用語を解説する。
図 4-1 床衝撃音測定の概要
○床衝撃音
床面に物がぶつかった時など衝撃に伴い下階へ伝わる音。床の遮音性能の評価では、以下の軽量床衝
撃音と重量床衝撃音に分けて、それぞれ測定と評価が行われる。
表 4-1 床衝撃音の音の性質と生活音の例
測定項目
音の性質の概要
生活音での例
軽量床衝撃音
軽くて硬い物の落下により生じ
る音
スプーンの落下、スリッパ歩行時のパ
タパタ音
重量床衝撃音
重くて柔らかい物の落下により
生じる音
子どもの跳びはね・飛び降り
素足歩行時のドンドン音
○回り込み音(迂回音)
床断面を伝わる床衝撃音以外の、上階で発生して階段室などから下階へ伝わる音。
○騒音計
床衝撃音など騒音の大きさを計測するための機器。対象音の周波数(音の高低,単位:Hz)ごとに、音の
大きさ(音圧レベル,単位:dB)を数値で表示する。
○空間分布
受音室に伝わった音は、音が放射される場所(天井・壁)や音
の反射の繰り返しなどにより、受音室内での音の測定位置により
1
3
音の大小が異なる。これを音の空間分布と呼ぶ。床衝撃音の測定
では、受音室の平均的な音圧レベルを求めるため、平面的に均
等に配置され高さを変えた受音点に騒音計を配置する。騒音計の
配置例を図4-2に示す。
2
4
5
受音点高さ
① 1,500mm
② 1,200mm
③ 600mm
④ 1,800mm
⑤ 900mm
図 4-2 受音室の騒音計配置例
㨯㨯㨯 12 㨯㨯㨯
2×4
○周波数特性
床衝撃音の測定では、各周波数帯域の音圧レベルを騒音計で計測する。この場合、各帯域の音圧レベル
を求めるため、周波数フィルター(A特性)は用いず、測定対象周波数範囲のなかで平坦な周波数特性(Z
特性またはC特性)を用いる。
一方、床衝撃音の「音の大きさの感覚」を1つの数字で表す場合には、周波数特性Aのフィルターを用
いることがある。詳しくは3章「A特性音圧レベル」を参照のこと。
○オクターブ帯域
床衝撃音の測定では、ある程度の周波数の幅(範囲)ごとの音圧レベルを分析する。この幅として良く
用いられるのが、1オクターブ(octave)である。音楽の「ド」と「高いド」の関係になり、音の周波数で
は2倍の関係になる。床衝撃音では表4-2に示す音の高さを測定の対象としている。
表 4-2 床衝撃音において測定対象となる周波数範囲
オクターブ帯域中心周波数(Hz)
31.5
軽量床衝撃音
重量床衝撃音
▲
63
125
250
500
1k
2k
4k
▲
●
●
●
●
●
▲
●
●
●
●
← 低い音 → 中音域 ← 高い音 →
音の高さ
[凡例] ●:測定対象範囲(必須) ▲:任意の測定範囲
○実験室測定と現場測定
建築物或いは建築部材に関する床衝撃音の測定には、実験室で行われる実験室測定と、実際の建物で行わ
れる現場測定とがある。
一般に、実験室測定の場合には、床構造や床仕上げ材など特定の部位だけを取り出した試験体を測定対象
とし、大きさや受音空間の条件などが標準化された状態で評価される。一方、現場測定の場合には、床断面
が評価対象であっても、壁や窓などからの放射や透過、また受音室空間の吸音条件など、その他の様々な要
因の複合的な影響を受ける。このため、同じ床断面であっても、建物毎のこれら条件の違いにより測定結果
にばらつきが生じる
(2)床衝撃音の標準衝撃源
床衝撃音の測定には、JIS に 規程される標準衝撃源を用いる。これは、様々な生活音を個別に評価するので
はなく、標準化した代表的な衝撃源で、床の遮音性能を同じ方法で評価するためである。
標準衝撃源には、標準軽量衝撃源(タッピングマシン)、標準重量衝撃源(タイヤ衝撃源/バングマシン、
ボール衝撃源)がある。各衝撃源の外観を写真4-1に示す。
写真4-1 床衝撃音の測定に用いる標準衝撃源
(左より)タイヤ衝撃源(バングマシン)、
ボール衝撃源、タッピングマシン
㨯㨯㨯 13 㨯㨯㨯
2×4
(3) 床衝撃音レベルの測定方法
上階の床面上で標準衝撃源を作動させ、下階の受音室における床衝撃音の大きさを騒音計で計測する。
軽量床衝撃音レベルの測定では、時間的に平均化した等価音圧レベルを計測する。重量床衝撃音レベルの測
定では、衝撃時に発生する床衝撃音の音圧レベルの瞬時最大値を計測する。受音室での床衝撃音レベルの計
測の様子を写真4-2に示す。音源室の加振点は通常5点(または3点)設置しそれぞれの加振点(S1∼S5)ご
とに標準衝撃源を作動させて測定を行う。この時に下階に設置した受音点5点(P1∼P5)での音圧レベルの
エネルギー平均を周波数帯域ごとに次式により求める。この値は「加振点( k 点)を加振した時の室内平均音
圧レベル:Lk‫」ޓ‬と呼ぶ。
Lk = 10 log 10
1 m Lj 10
∑10
m j =1
・・・式 4-1
ここに、
Lj :j 番目の受音点における音圧レベルの測定値(dB)
m :受音点の数(通常は5点)
さらに、上式で求まった加振点毎の室内平均音圧レベルを加
振点5点について算術平均すると、測定室としての床衝撃音レ
写真 4-2 床衝撃音レベルの計測の様子
ベル L が周波数帯域毎に求められる。
L=
1 n
∑ Lj n j =1
・・・式 4-2
ここに、n:加振点の数(通常は5点)
110
(4)Lr 等級(L 値)
103
100
各周波数帯域ごとに計測された床衝撃音レベルをもとに、建
物床構造の床衝撃音の遮断性能を評価する方法としてLr 等級(L
90
値)がある。すなわち、図4-3に示す、JIS A 1419-2に規定された
ある等級曲線(Lr
○○等級線)の数値をすべて上回る時、その
遮断性能はLr ○○等級となる。
なお、Lr 等級を判断する際には、JIS の規定により評価曲線を
80
床衝撃音レベル (dB)
評価基準曲線を用い、すべての周波数帯域の床衝撃音レベルが、
98
70
用いて同様(ただし 2dB 緩和は適用しない)評価された結果を
「Lr 数」と呼ぶ。
93
88
88
83
83
78
78
73
73
68
60
68
63
63
58
58
53
50
53
48
2dB まで上回ることが許容されている(2dB 緩和)。
また、Lr 等級線を 1dB ステップで平行移動させた評価曲線を
93
43
40
86
81
80
76
75
71
70
66
65
61
60
56
55
51
50
46
45
41
40
36
30
35
30
77
76
Lr-80
72
71
Lr-75
67
66
Lr-70
62
61
Lr-65
57
56
Lr-60
52
51
Lr-55
47
46
Lr-50
42
41
Lr-45
37
36
Lr-40
32
31
Lr-35
27
26
Lr-30
20
63
125
250
500
1k
2k
4k
オクターブバンド中心周波数(Hz)
(5)A特性床衝撃音レベル:LA
騒音計の周波数重み特性Aを通して測定される床衝撃音レベ
ル。単位はdB(デシベル)
㨯㨯㨯 14 㨯㨯㨯
図 4-3 Lr 等級線
2×4
4-2 床衝撃音遮断性能に関する基準
床衝撃音遮断性能に関する基準は、共同住宅を対象としたものがほとんどであり、本章で紹介する基準類
についても共同住宅を対象としたものである。
(1)日本建築学会遮音性能基準※
日本建築学会の遮音性能基準は、日本建築学会編:建築物の遮音性能基準と設計指針[第二版](技報堂
出版、1997年発行)に示されている。室間音圧レベル差、床衝撃音レベル、室内騒音について、建物、室用
途別に適用等級が規定されている。適用等級の意味づけは、表4-3のようになっている。また、Dr値やLr値
、騒音レベル等の表示尺度と生活実感との対応例も示されている。なお、日本建築学会では現在新たな音環
境規準の策定を行っている。現状の日本建築学会遮音基準とは適用等級などが変わることが予想される。
表 4-3 適用等級の意味
適用等級
遮音性能の水準
性能水準の説明
特
級
遮音性能上とくにすぐれている
特別に高い性能が要求された場合の性能水準
1
級
遮音性能上すぐれている
建築学会が推奨する性能水準
2
級
遮音性能上標準的である
一般的な性能水準
3
級
遮音性能上やや劣る
やむ得ない場合に許容される性能水準
(2) 日本住宅性能評価基準(平成18年国土交通省告示第1129号)
住宅の品質確保の促進等に関する法律における住宅性能表示制度では、日本住宅性能表示基準により表示
すべき事項と表示方法が定められている。音環境については、重量床衝撃音対策、軽量床衝撃音対策、透過
損失等級(界壁)、透過損失等級(外壁開口部)の4種類が表示すべき事項として定められている。
重量床衝撃音対策は、「重量床衝撃音対策等級」(居室に係る上下階との界床の重量床衝撃音を遮断する
ため必要な対策の程度)、または「相当スラブ厚(重量床衝撃音)」(居室に係る上下階との界床の重量床
衝撃音の遮断の程度をコンクリート単板スラブの厚さに換算した場合のその厚さ)のいずれかで評価する。
重量床衝撃音対策の等級の概要について表4-4に、相当スラブ厚(重量床衝撃音)の概要について表4-5に示
す。また枠組壁工法における、相当スラブ厚(重量床衝撃音)が11cm以上となる断面例を図4-4に示す。
軽量床衝撃音対策は、「軽量床衝撃音対策等級」(居室に係る上下階との界床の軽量床衝撃音を遮断す
るため必要な対策の程度)、または「軽量床衝撃音レベル低減量(床仕上げ構造)」(居室に係る上下階と
の界床の仕上げ構造に関する軽量床衝撃音の低減の程度)のいずれかで評価する。軽量床衝撃音対策の等級
の概要について表4-6に、軽量床衝撃音レベル低減量(床仕上げ構造)の概略について表4-7に示す。
表 4-4 重量床衝撃音対策等級の概要
等級5
特に優れた重量床衝撃音の遮断性能(特定の条件下でおおむね日本工業規格のLi,r,H - 50 等級相
当以上)を確保するため必要な対策が講じられている
等級4
優れた重量床衝撃音の遮断性能(特定の条件下でおおむね日本工業規格のLi,r,H - 55 等級相当以上
)を確保するため必要な対策が講じられている
等級3
基本的な重量床衝撃音の遮断性能(特定の条件下でおおむね日本工業規格のLi,r,H - 60 等級相当以
上)を確保するため必要な対策が講じられている
等級2
やや低い重量床衝撃音の遮断性能(特定の条件下でおおむね日本工業規格のLi,r,H - 65 等級相当
以上)を確保するため必要な対策が講じられている
等級1
その他
㺃㺃㺃 15 㺃㺃㺃
2×4
表4-5 相当スラブ厚(重量床衝撃音)の概要
相当スラブ厚(重量床衝撃音)
床仕上げ材*
重量材*
床下張材*
床仕上げ材*
重量材*
床下張材*
吊木
床根太
210又は212
a 27cm以上
b 20cm以上
c 15cm以上
d 11cm以上
e その他
吊木受け
208程度
床根太
210又は212
天井根太
天井材*
ロックウール又はグラスウール*
野縁30mm×40mm程度
天井材*
ロックウール又はグラスウール*
図 4-4 相当スラブ厚(重量床衝撃音)が 11cm 以上と評価される枠組壁工法の断面例(* 部材の寸法は告示参照)
表4-6 軽量床衝撃音対策等級の概要
等級5
特に優れた軽量床衝撃音の遮断性能(特定の条件下でおおむね日本工業規格のLi,r,L-45 等級相
当以上)を確保するため必要な対策が講じられている
等級4
優れた軽量床衝撃音の遮断性能(特定の条件下でおおむね日本工業規格のLi,r,L-50 等級相当以
上)を確保するため必要な対策が講じられている
等級3
基本的な軽量床衝撃音の遮断性能(特定の条件下でおおむね日本工業規格のLi,r,L-55 等級相当
以上)を確保するため必要な対策が講じられている
等級2
やや低い軽量床衝撃音の遮断性能(特定の条件下でおおむね日本工業規格のLi,r,L-60 等級相当
以上)を確保するため必要な対策が講じられている
等級1
その他
表4-7 軽量床衝撃音レベル低減量(床仕上げ構造)の概要
軽量床衝撃音レベル低減量(床仕上げ構造)
① 30dB以上
② 25dB以上
③ 20dB以上
④ 15dB以上
⑤ その他
(3)建築物総合環境性能評価システム(CASBEE)
建築物総環境評価システム(CASBEE:Comprehensive Assessment System for Building Environmental
Efficiency)は、建築物を環境性能で評価し格付けする手法として、財団法人建築環境・省エネルギー機構によ
り提案された。本評価システムで音環境に関係する部分としては、建築物の環境品質・性能の室内環境での評
価と環境負荷の低減性における敷地外環境の評価の 2 箇所である。室内環境の評価に関しては、室内騒音の評
価、外壁開口部の遮音性能評価、界壁の遮音性能、界床の軽量床衝撃音遮断性能、界床の重量床衝撃音遮断性
能、室内の吸音処理の程度が規定されている。
㺃㺃㺃 16 㺃㺃㺃
2×4
表4-8 CASBEEの軽量床衝撃音遮断性能の評価
表4-9 CASBEEの重量床衝撃音遮断性能の評価
用 途
集合住宅
用 途
レベル1
Lr - 55 以下
レベル1
レベル2
Lr - 55
レベル2
レベル3
Lr - 50
レベル3
レベル4
Lr - 45
レベル4
レベル5
Lr - 40 以上
レベル5
集合住宅
Lr - 60 以下
Lr - 60
Lr - 55
Lr - 50
Lr - 45 以上
各種基準と遮音等級L値との関係を対応付けて表し、表4-10(重量床衝撃音)、表4-11(軽量床衝撃音)に参考
として示す。
表4-10 各種基準と遮音等級との関係(重量床衝撃音)
遮音等級(JIS A 1419-2)
重量床衝撃
音に関する
生活実感
(建築学会)
LH-35
LH-40
LH-45
LH-50
人の走り回り、
飛び跳ねなど
・ほとんど聞
えない
・かすかに聞
えるが、遠
くから聞え
る感じ
・聞えるが、
意識するこ
とはあまり
ない
・小さく聞え
る
生活実感、プ
ライバシーの
確保
・上階の気配
を感じるこ
とがある
・上階の音が
かすかにす
る程度
・上階の生活
が多少意識
される状態
・上階の生活
状態が意識
される
・気配は感じ
るが気には
ならない
・大きな動き
はわかる
日本建築学会 適用等級
−集合集宅 居室−
LH-60
LH-65
LH-70
・よく聞える
・発生音がか
なりうるさ
い
うるさい
・上階の生活
行為がある
程度わかる
・上階住戸の
生活行為が
わかる
・上階住戸の
生活行為が
よくわかる
・歩行などが
わかる
・スリッパ歩
行音が聞え
る
・スリッパ歩
行音がよく
聞こえる
・たいていの
落下音はは
っきり聞こ
える
・素足でも聞
える
1級
2級
3級
3級※
等級4
等級3
等級2
レベル3
レベル2
特級
日本住宅性能表示基準
重量床衝撃音対策等級
LH-55
・聞える
等級5
CASBEE
−集合集宅−
レベル4
レベル5
等級1
レベル1
フラット35証券化技術基準、公庫融資基礎基準
公庫融資基準金利共通基準
住宅金融公庫
公庫融資高規格住宅
※ 木造、軽量鉄骨造またはこれに類する構造の集合住宅に適用する。
表4-11 各種基準と遮音等級との関係(軽量床衝撃音)
遮音等級(JIS A 1419-2)
重量床衝撃
音に関する
生活実感
(建築学会)
LL-35
LL-40
LL-45
LL-50
LL-55
LL-60
LL-65
LL-70
椅子の移動音、 ・通常ではま
物の落下音など ず聞こえな
い
・ほとんど聞
えない
・小さく聞え
る
・聞える
・発生音が気
になる
・発生音がか
なり気にな
る
・うるさい
・かなりうる
さい
・上階の気配
を感じるこ
とがある
・上階の音が
かすかにす
る程度
・上階の生活
が多少意識
される状態
・上階の生活
状態が意識
される
・上階の生活
行為がある
程度わかる
・上階住戸の
生活行為が
わかる
・上階住戸の
生活行為が
よくわかる
・たいていの
落下音はは
っきり聞こ
える
・スプーンを
落とすとか
すかに聞え
る
・椅子を引き
ずる音は聞
こえる
・椅子を引き
ずる音はう
るさく感じ
る
・スリッパ歩
行音がよく
聞こえる
生活実感、プ
ライバシーの
確保
・スリッパ歩
行音が聞え
る
日本建築学会 適用等級
−集合集宅 居室−
日本住宅性能表示基準
軽量床衝撃音対策等級
CASBEE
−集合集宅−
住宅金融公庫
特級
1級
等級5
レベル5
レベル4
2級
3級
等級4
等級3
レベル3
レベル2
公庫融資高規格住宅
㨯㨯㨯 17 㨯㨯㨯
等級2
等級1
レベル1
2×4
5.
床衝撃音対策の基礎知識
5-1 軽量床衝撃音の低減手法
軽量床衝撃音は、軽くて堅いものが床を衝撃したときに、直下の部屋で聞こえる音のことをいう。具体的には、
スプーンやフォークなどの落下、椅子の引きずり、スリッパの歩行、おもちゃによる遊びなどにより発生する音な
どが挙げられる。
軽量床衝撃音対策は、床構造の面密度や剛性の増加、床構造の防振、床仕上げ材の表面を柔らかくすることが基
本となるが、床仕上げ材の表面を柔らかくすることで比較的容易に対策が可能である。具体的には、床仕上げ構造
が木質フローリングの場合は、じゅうたんやカーペットなどの表面が柔らかい床仕上げ材に変更する、裏面にウレ
タンや不織布などの緩衝材を有するいわゆる「防音タイプ」の直張木質フローリング床を使用することなどが考え
られる。
枠組壁工法の建物での軽量床衝撃音対策としては、上部面材(上階の床材)の重量、剛性を増加させることが基
本となる。面材を複合化し、アスファルト系の遮音シートやALC パネルやモルタルなどを挿入し面密度を向上さ
せることが行われている。床衝撃音が放射される天井の対策としては、天井ボードを床根太に取り付けるいわゆる
「直張天井」よりも天井受け(天井根太)を新たに取り付け床根太から離して設置するいわゆる「独立天井」の方
が有効であるといわれている。いずれの天井構造においても天井ボードを増し張りにより複層化することは床衝撃
音対策に有効である。
また、防振ゴムを有する乾式遮音二重床構造(図5-1)でも軽量床衝撃音対策には有効である。ただし、乾式遮
音二重床構造の端部(室の周囲)を図5-2のように木材のみで構成される、いわゆる「在来際根太」の場合はその
効果がほとんど表れないこともあるので注意が必要である。乾式遮音二重床構造の端部にも防振ゴムを有する、い
わゆる「防振際根太」を採用する。
以上、軽量床衝撃音の具体的対策をまとめたものを図5-3に示す。
」合フローリング
アスファルトシート
パーティクルボード
幅木
在来際根太
スラブ
支持脚
防振ゴム
防振際根太
スラブ
防振ゴム
【在来際根太】
【防振際根太】
図5-2 乾式遮音二重床構造の端部収まり例
図5-1 乾式遮音二重床構造のイメージ
(在来際根太、防振際根太)
㺃㺃㺃 18 㺃㺃㺃
2×4
・上部面材の面密度、剛性を増す
→ALCパネル、モルタルの挿入など
・床仕上げ材を変更する
→カーペット、乾式二重床構造の採用など
・床根太の剛性を増す
→根太のせいを大きくするなど
・吸音する
→吸音材の挿入など
・天井を独立させる
→独立天井の採用など
・天井の面密度を増す
→天井ボードの増し張りなど
図5-3 軽量床衝撃音の具体的対策
5-2 重量床衝撃音の低減手法
重量床衝撃音は、重くて柔らかいものが床を衝撃したときに、直下で聞こえる音のことをいう。
具体的には、飛び跳ね、走り回り、歩行などにより発生する音が挙げられる。飛び跳ねや走り回りなどは、その
ような行為をしないように生活をするような住まい方(対策)をすればよいが、歩行音のような、通常生活で想
定される行動による発生する音については、建物側で対策が必要となる。
重量床衝撃音の対策は、床構造の面密度や剛性の増加が基本となる。軽量床衝撃音対策で有効である床仕上げ
材の表面を柔らかくしても、重量床衝撃音にはほとんど効果がない。また、建物完成後の対策が困難であるため、
計画時から考慮する必要がある。
枠組壁工法の建物での重量床衝撃音対策としては軽量床衝撃音の場合と同様に、上部面材(上階の床材)の重
量、剛性を増加させることが基本となる。面材を複合化し、アスファルト系の遮音シートやALC パネルやモルタ
ルなどを挿入し面密度を向上させることが行われている。床衝撃音遮断性能の変化は、床断面の駆動点インピー
ダンスの変化によって推定することができる。駆動点インピーダンスは、床の振動しにくさを表し、次式で計算
することができる。
Zb 㸻 8 B㺃m
・・・式 5-1
ここで、Zb㸸駆動点インピーダンス(kg/s)
B 㸸床断面の曲げ剛性(kg/m2)
m 㸸床構造の面密度(kg/m2)
また、曲げ剛性 B は、次式で計算することができる。
B㸻∑(E㺃I )
・・・式 5-2
E:部材のヤング率(N/m2)
I :部材の断面二次モーメント(m4)
床断面の断面二次モーメント変化による性能変化(計算値)を図5-4に、根太間隔や下地合板の厚さを変化させ
たときの、駆動点インピーダンス変化を図5-5、5-6に示す。
床衝撃音が放射される天井の対策としては、天井ボードを床根太に取り付けるいわゆる「直張天井」(図5-7(1)
)よりも天井受け(天井根太)を新たに取り付け床根太から離して設置するいわゆる「独立天井」(図5-7(2))の
方が有効であるといわれている。ただし、実験室での測定結果では必ずしもその傾向が出ていない場合もある。い
ずれの天井構造においても天井ボードを増し張りにより複層化することは床衝撃音対策に有効である。また、乾式
㺃㺃㺃 19㺃㺃㺃
2×4
遮音二重床構造でも重量床衝撃音対策には有効である。ただし、製品による性能差があるため、性能を予測する
ためにはさらなる研究が必要であると考えられる。
以上、重量床衝撃音の具体的対策をまとめたものを図5-8に示す。
合板など
2x4
ビス止めのみ
I = 231cm4
-12dB
-16dB
合板など
-19dB
合板など
合板など
2x10
合板など
2x10
I = 4,109cm4
接着
2x10
接着
ビス止めのみ
I = 8,793cm4
接着
I = 16,627cm4
図5-4 断面二次モーメント変化による性能変化(計算値)
110
2×12
Lr-60
2×10
105
Lr-65
2×8
100
Lr-70
95
Lr-75
90
85
駆動点インピーダンスレベル [dB]
駆動点インピーダンスレベル [dB]
110
2×6
80
100
Lr-70
95
Lr-75
90
85
80
0
100
200
300
400
500
10
根太間隔 [mm]
20
30
40
50
60
下地合板厚さ [mm]
図 5-5 根太間隔の変化による駆動点
インピーダンスの変化(計算値)
105
図 5-6 合板厚さの変化による駆動点
インピーダンスの変化(計算値)
木質フローリング(t=12)
合板(t=15)
木質フローリング(t=12)
合板(t=15)
床根太(38x235@455)
床根太(38x235@455)
天井根太(38x140@455)
天井ボード(t=12.5)
天井ボード(t=12.5)
(1)直張天井
(2)独立天井
図5-7 直張天井と独立天井の断面例
㺃㺃㺃 20 㺃㺃㺃
2×4
・上部面材の面密度、剛性を増す
→ALCパネル、モルタルの挿入など
・床仕上げ材を変更する
→乾式二重床構造の採用など
・床根太の剛性を増す
→根太のせいを大きくするなど
・天井を独立させる
→独立天井の採用など
・天井の面密度を増す
→天井ボードの増し張りなど
図5-8 重量床衝撃音の具体的対策
㺃㺃㺃 21㺃㺃㺃
2×4
6. 床衝撃音対策工法について
床衝撃音遮断性能を向上させるためには、前章で示したように面密度の増加や剛性の向上が有効である。しかし
現実的にはそれらを高めることには限界がある。例えば、計算では床構造の面密度を2倍にすると床衝撃音レベル
は3dB 小さくなる。更に3dB 小さくするには面密度を更に2倍、つまり元の4倍にする必要がある。剛性につい
ても同様である。現実的な施工性とコストを考慮すると、これら二つの要素の向上だけでは限界があるのは明らか
であり、床上に緩衝層を設けること、天井面からの放射を抑えるために天井懐への吸音材の挿入や振動絶縁、せっ
こうボードの増し張りなどを併用する必要がある。
本章では、これらのことを考慮し、面密度や剛性を向上させた現実的な工法と床上での緩衝工法を紹介する。
また、後半では、カナダ国立研究機構が日本及び韓国と共同で実施した研究の成果の一部を紹介する。
6-1 床衝撃音対策工法
遮音対策は重量床衝撃音と軽量床衝撃音の両方の性能をバランスよく向上させなければならない。
軽量床衝撃音については、5章に示したように表面仕上げ材を柔軟なものとすることで改善する。しかし、日本
の木造住宅では、床仕上げ材を木質フローリングとすることが圧倒的に多いため、せっかく重量床衝撃音の対策を
行っても軽量床衝撃音の対策が行われなければ問題の生じる可能性がある。この場合は、防音フローリングを用い
るか、後述する乾式遮音二重床工法をとするか、木質フローリングをやめてじゅうたんとすることが有効である。
次項から示す表中の値は、ベースとなる直張天井工法及び省令準耐火構造に適合する工法からの当該工法の L 数
及び LA の差を示している。絶対値ではなく相対値で示す理由は、試験が複数の試験施設で実施されていること、
受音室の容積や吸音力の値が実住宅と異なることなどのためである。あくまで参考であるが、これまでの実住宅に
おける測定結果では、直張天井工法の場合はおよそ LH-80、省令準耐火構造適合工法の場合はおよそ LH-70 である
ことを示しておく。
(1)直張天井工法と省令準耐火構造適合工法
図 6-1 に直張天井工法を図 6-2 に省令準耐火構造適合工法を示す。
直張天井工法は床衝撃音遮断性能が低く、天井懐内に吸音材を入れたり、天井のせっこうボードを増し張りして
も効果が小さいため、入居者の了承があるとき以外は採用しないようにしたい。最低レベルとして、図 6-2 に示す
省令準耐火構造適合工法を採用したい。
床:合板 15mm(さね付)
+ フローリング 12mm
床:合板 15mm(さね付)
+ フローリング 12mm
床根太:2×10 材 @455
床根太:2×10 材
@455
GW※24K-50mm 等
天井根太:2×6 材 @455
天井:せっこうボード 12.5mm
床根太へ直張り
天井:せっこうボード 12.5mm
図 6-1 直張天井工法(TYPE-00)
図 6-2 省令準耐火構造適合工法(TYPE-11)
※GW : グラスウール
㺃㺃㺃 22 㺃㺃㺃
2×4
(2)独立天井工法と吸音材の挿入
独立天井工法は直張天井工法に比べて中高音域の床衝撃音遮断性能が高くなる。また、天井懐内への吸音材の挿
入やせっこうボードの増し張りの効果が直張天井工法に比べて大きくなる。
吸音材を天井懐へ挿入した時の床衝撃音に対する効果は、密度を高めるよりも厚さを厚くする方が高い傾向を示
す。
なお、図中の L 数は、JIS A 1418 に定める遮音性能等級による単一評価指標を表し、LA は床衝撃音の A 特性レベ
ルを表す。後述するが、L 数よりも LA の方が人のうるささとの相関が高いことが研究により示されている。
7<3(⊂❧ኳ஭ᕤἲ
○表の見方
この表は、各工法の直張天井工法及び省令準耐火構
造適合工法との床衝撃音遮断性能の差を示している。
床:合板 15mm(さね付)
+ フローリング 12mm
床根太:2×10 材 @455
タ イ ヤ :標準重量衝撃源のタイヤ衝撃源を使用し
た場合
ボ ー ル 1 m :標準重量衝撃源のボール衝撃源(1mの
高さから落下)を使用した場合
ボール 10cm:ボール衝撃源を 10cm の高さから落下さ
せた場合。JIS には規定されていないが、
大人の歩行に近い衝撃力であるため参考
値として掲載した。
タ ッ ピ ン グ :標準軽量衝撃源を使用した場合
直張天井工法との差
重量床衝撃音
ボール
10cm
天井根太:2×6 材 @455
天井:せっこうボード 12.5mm
省令準耐火構造適合仕様との差
軽 量
床衝撃音
重量床衝撃音
ボール
10cm
タッピング
直張天井工法との差
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
タッピング
タイヤ
ボール
1m
L 数差
+3
+1
+2
+7
-2
-1
-2
-7
LA 差
+3
+4
+5
+7
-1
-3
-4
-6
L数差:L等級を5dB 単位ではなく 1dB 単位で表したもの
L A 差 :A特性床衝撃音レベルの差
7<3(⊂❧ኳ஭ᕤἲ ྾㡢ᮦ PP
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
タッピング
L 数差
+3
+1
LA 差
+3
+4
ボール
10cm
タッピング
L 数差
+5
+3
LA 差
+5
+7
ボール
10cm
タッピング
+7
-2
-1
-7
+7
-1
-3
-6
ボール
10cm
天井根太:2×6 材 @455
天井:せっこうボード 12.5mm
天井:せっこうボード 12.5mm
ボール
1m
ボール
1m
GW16K-200mm
天井根太:2×6 材 @455
タイヤ
タイヤ
床根太:2×10 材 @455
GW16K-100mm
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
床:合板 15mm(さね付)
+ フローリング 12mm
床根太:2×10 材 @455
軽 量
床衝撃音
重量床衝撃音
7<3(⊂❧ኳ஭ᕤἲ ྾㡢ᮦ PP
床:合板 15mm(さね付)
+ フローリング 12mm
直張天井工法との差
省令準耐火構造適合仕様との差
省令準耐火構造適合仕様との差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
タッピング
+14
0
+1
0
+13
+1
0
+1
ボール
10cm
直張天井工法との差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
タッピング
L 数差
+8
+5
LA 差
+5
+9
㺃㺃㺃 23㺃㺃㺃
ボール
10cm
省令準耐火構造適合仕様との差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
タッピング
+15
+3
+3
+1
+15
+1
+2
+2
ボール
10cm
2×4
(3)Resilient channel
Resilient channel はボードを止めつけるための金属製の下地材で、板状のばねが振動伝達を低減する効果を示す。
カナダではかなり普及しているが、日本ではあまり普及していない。
直張天井工法に用いた場合は、天井のせっこうボードが1枚の場合は重量床衝撃音に対する効果は得られないが、
増し張りすることで効果が表れてくる。軽量床衝撃音に対しては、せっこうボードが一枚でも効果が得られ、更に
天井懐に吸音材を入れることで独立天井工法と同様の効果が得られる(NRC の試験結果から)。
独立天井工法に Resilient channel を用いた場合は、直張天井工法に用いた場合と同様の効果が得られる。
TYPE-20 直張天井工法 +Resilient channel+PB×1
12
床:合板 15mm(さね付)
+ フローリング 12mm
床根太:2×10 材 @455
17
35
7
図 6-3 Resilient channel の断面例
材質:スチール製(厚さ 0.5mm)
Resilient channel @455
天井:せっこうボード 12.5mm
直張天井工法との差
省令準耐火構造適合仕様との差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
ボール
10cm
タッピング
タイヤ
ボール
1m
タッピング
L 数差
0
0
+2
+2
-5
-2
-12
LA 差
+1
+2
+2
+2
-3
-5
-11
ボール
10cm
写真 6-1 Resilient channel の例
TYPE-21 直張天井工法 +Resilient channel+PB×2
TYPE-22 直張天井工法 +Resilient channel+PB×3
床:合板 15mm(さね付)
+ フローリング 12mm
床:合板 15mm(さね付)
+ フローリング 12mm
床根太:2×10 材 @455
床根太:2×10 材 @455
Resilient channel @455
Resilient channel @455
天井:せっこうボード 12.5mm×3
天井:せっこうボード 12.5mm×2
直張天井工法との差
直張天井工法との差
省令準耐火構造適合仕様との差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
ボール
10cm
タッピング
タイヤ
ボール
1m
タッピング
L 数差
+3
+4
+5
+4
-2
+2
-10
LA 差
+5
+6
+5
+4
+1
-1
-9
ボール
10cm
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
ボール
10cm
タッピング
L 数差
+6
+5
+6
LA 差
+7
+6
+6
㺃㺃㺃 24 㺃㺃㺃
省令準耐火構造適合仕様との差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
タッピング
+5
+1
+3
-9
+5
+3
-1
-8
ボール
10cm
2×4
(4)質量付加
床上に質量を付加する工法は床を振動しにくくするため、特に重量床衝撃音に対しての効果が得られる。剛性を
高める工法よりも施工が簡単で効果を得やすい。しかし、単に質量のみを付加すると低い周波数で揺れが収束しに
くくなるため、面材どうしを接着して一体化したり、根太をダブルにするなどにより剛性を高める工夫が必要であ
る。
TYPE-42 は床面の高さを変えずに質量を付加する工法である。
いずれの工法も、天井懐に吸音材を入れることで更に重量床衝撃音の L 数が 2dB 程度、軽量床衝撃音の L 数が
6dB 程度向上する。
TYPE-40 質量付加工法(ALC50mm)
TYPE-41 質量付加工法(硬質木片セメント板 50mm)
床:合板 15mm(さね付)+ALC50mm
+ 合板 12mm+ フローリング 12mm
床:合板 15mm(さね付)
+ 硬質木片セメント板 50mm
+ 合板 12mm+ フローリング 12mm
床根太:2×10 材 @455
天井根太:2×6 材 @455
床根太:2×10 材 @455
天井:せっこうボード 12.5mm
天井根太:2×6 材 @455
天井:せっこうボード 12.5mm
直張天井工法との差
L 数差
LA 差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
タッピング
+10
+6
+12 +10
ボール
10cm
省令準耐火構造適合仕様との差
直張天井工法との差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
タッピング
+12
+5
+4
+2
L 数差
+12
+8
+3
+1
LA 差
ボール
10cm
TYPE-42 質量付加工法(硬質木片セメント板 50mm)
床:合板 15mm(さね付)
+ フローリング 12mm
硬質木片セメント板 25mm×2
床根太:2×10 材 ×2 @455
天井根太:2×6 材 @455
天井:せっこうボード 12.5mm
直張天井工法との差
L 数差
LA 差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
タッピング
+11
+6
+12 +12
ボール
10cm
省令準耐火構造適合仕様との差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
タッピング
+14
+6
+4
0
+16
+8
+5
+3
ボール
10cm
㺃㺃㺃 25 㺃㺃㺃
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
タッピング
+13
+9
+14
+14 +12
ボール
10cm
省令準耐火構造適合仕様との差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
タッピング
+8
+7
0
+13 +10
+5
0
ボール
10cm
2×4
(5)乾式遮音二重床
乾式遮音二重床は、RC 造マンションで普及している工法で、床上に空間ができるため、配管・配線ができると
ともに、木質フローリングを使用しても、軽量床衝撃音の遮断性能を確保できるメリットがある。
重量床衝撃音の遮断に対しても効果があり、特にタイヤ衝撃源よりも衝撃力の小さいボール衝撃源の場合に効果
が高くなる傾向を持っている。
一般的な構成は、上から木質フローリング、パーティクルボード 20mm、脚(プラスチックもしくは鋼製で高さ
のバリエーションが豊富)、ゴムである。パーティクルボードの寸法は 600mm×1820mm を用いる仕様が多い。
床衝撃音遮断性能を確保するために納まりの注意点がいくつかある。
①パーティクルボード及びフローリングの
壁との取り合い部分は隙間を開ける、②幅木とフローリングの隙間は開けた方(2mm 程度)が性能が高い、
③壁際
の根太は防振根太と防振しない木製根太があるが、防振根太の方が性能が高い。
より遮断性能を高めるためには、パーティクルボードの上に遮音マットや合板を加えることが効果的である。ま
た、天井懐内に吸音材を入れることで更に性能向上が期待できる。
床上に質量を付加する工法や天井面や壁面へ Resilient channel を使用することなどを併用することで、これまで
難しかった高遮音な性能を比較的安価に確保することが期待できる。
写真 6-2 乾式遮音二重床の施工状況
写真 6-3 防振際根太の施工状況
7<3(஝ᘧ㐽㡢஧㔜ᗋᕤἲ 㐽㡢࣐ࢵࢺ PP
7<3(஝ᘧ㐽㡢஧㔜ᗋᕤἲ
乾式遮音二重床
+ 遮音マット 4mm
乾式遮音二重床
床:合板 15mm(さね付)
床:合板 15mm(さね付)
床根太:2×10 材 @455
床根太:2×10 材 @455
天井根太:2×6 材 @455
天井根太:2×6 材 @455
天井:せっこうボード 12.5mm
天井:せっこうボード 12.5mm
直張天井工法との差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
タッピング
L 数差
+6
+10
+24
LA 差
+5
+11
ボール
10cm
省令準耐火構造適合仕様との差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
ボール
10cm
タッピング
+1
+8
+8
+10
+1
+4
+4
直張天井工法との差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
タッピング
L 数差
+7
+12
+25
LA 差
+8
+14
㺃㺃㺃 26㺃㺃㺃
ボール
10cm
省令準耐火構造適合仕様との差
重量床衝撃音
軽 量
床衝撃音
タイヤ
ボール
1m
ボール
10cm
タッピング
+2
+10 +11
+11
+4
+7
+6
(6)NRC での研究
2×4
カナダの NRC(National Research Council Canada) では、日本の枠組壁工法住宅の上下階間の、特に重量床衝撃音
に対する遮音性能を向上するための研究を3年間に渡り実施した。この研究は日本だけではなく韓国も参加し3か
国で情報交換を行いながら実施された。
NRC には RC 造の上下室間に床及び天井を取り付けて測定を行う試験室(M59:図 6-4 参照)の他に、側路伝搬
音を含めた測定を行うため壁床天井を備えた2階建の試験室(TH7:図 6-5 参照)の二つがある。
これらの二つの試験室を用いて試験を行い結果をまとめた。本項では、その概要を紹介する。
1)床及び天井の構成と重量床衝撃音(タイヤ衝撃源)の L 数
本研究で実施した工法検討の建設パラメータは次のとおりである。
・フロアトッピング(合板 16mm とせっこうボード 21mm+15mm、合板 16mm の積層を床上に付加)
・独立天井(2×6 材による天井根太)
・天井のせっこうボード(せっこうボード 13mm、13mm+13mm、15mm+21mm)
・根太(2×10 材シングルとダブル)
・床合板(16mm、16mm+16mm)
なお、これらの仕様は全て天井懐内にグラスウールが 100mm 挿入されている。
表 6-1 に測定結果(緑色部分)と測定結果から予測した値(青色部分)を示す。これらの結果は、170m3 で周壁
がコンクリートでできた M59 試験室で測定した結果を 40m3 で壁床天井が枠組壁工法でできた TH7 試験室の室状
態 ( 容積及び吸音力 ) に調整した値である。赤枠部分は TH7 試験室での測定結果である。
※この値は LH の性能を保証するものではない。
2)側路伝搬の影響について
重量床衝撃音に対する下室側面からの放射音である側路伝搬音の影響を把握するため、図 6-5 に示す TH7 試験室
で実験を行った。
側路伝搬音の把握方法は、上下各4室のうちの上階1室を音源室とし、直下室の内側壁面をシールドすることに
より、天井からの直接音を把握し、斜め下室の測定をすることにより斜め上室から伝搬してきた天井及び壁からの
放射音を把握。更に斜め下室の内側壁面をシールドすることにより天井からの放射音のみを把握し、これを差し引
くことにより壁面からのみの放射音を把握する方法とした。
この壁面からの放射音は、床及び天井の床衝撃音遮断性能が向上するほど大きくなる。言い換えれば、床及び天
井からの直接伝搬音が小さくなることにより壁面からの側路伝搬音の影響が相対的に大きくなる。下室壁の仕様が
2x6 スタッドに直接 13mm のせっこうボードを取り付けた構成の場合、LH-67 よりも性能が高くなるとその影響が
顕在化する。
側路伝搬音は根太方向の壁下部への伝達が比較的大きく、これを抑制するためには床上へのトッピング(表 6-1
に示す「付加層」)が効果的である。
また、LH-67 以上の性能を得るためには、下室の壁面にせっこうボードを追加するか、Resilient channel を使用
するか、あるいは両方を使用するなどが必要である。
㺃㺃㺃 27 㺃㺃㺃
2×4
Concrete
test
frame
Test specimen
Frame Motion
Test specimen
Inflatable
neoprene
seals
Rails to support
movable test frame
mesh floor
for in-situ
modifications
NS section
EW section
Room volume: 35 to 45m3
H=2,400 mm
H=2,700 mm
図 6-4 試験室 M59 の断面図
Facility surfaces
Specimen surfaces
写真 6-4 試験室 TH7 の室内
図 6-5 試験室 TH7 の構成
㺃㺃㺃 28㺃㺃㺃
2×4
天井せっこ
うボード
厚さ[mm]
表 6-1 NRC における測定結果(40m3 の家具の無い部屋の状態に調整。この L 数は性能を保障するものではない)
※1
※2
せっこうボード直張
せっこうボードを
Resilient channelを用
いて施工
せっこうボード直張
せっこうボードを
Resilient channelを
用いて施工
せっこうボードを
Resilient channelを
用いて施工
床根太(2×10)+ブロッ
キング材(@455)+貫材
(1×4)
天井根太(2×6)
床根太(2×10)
床上合板厚さ[mm]
床上に付加層※1なし 床上に付加層※1あり 床上に付加層※1なし 床上に付加層※1あり
16
13
13+13
根太 2-2×10 Scabbed Joists
根太2×10 Single Joist
79※2
NRC-14
78※2
NRC-15
16+16
16
16+16
16
79
74
72
77
NRC-14dSL
NRC-14dT2
NRC-14dT1
NRC-14dSJ
78
73
NRC-15dSL
NRC-15dT2
70※2
NRC-15AT
16+16
76
NRC-15dSJ
15+21
13
13+13
81※2
NRC-16
81
76
74
79
NRC-16dSL
NRC-16dT2
NRC-16dT1
NRC-16dSJ
13+13
78
73※2
NRC-07A
78※2
NRC-21
75※2
NRC-18
78
73
72
NRC-21dSL
NRC-21dT2
NRC-21dT1
75
70
69
NRC-18dSL
NRC-18dT2
NRC-18dT1
75※2
NRC-24
15+21
13
13+13
16+16
NRC-16dCL
15+21
13
16
80※2
NRC-22
79
74
73
NRC-22dSL
NRC-22dT2
NRC-22dT1
73※2
67※2
NRC-05
76※2
NRC-23
NRC-05T
71
71
NRC-24dT2
NRC-23dT2
69
66
TH7-C2
TH7-C2T
77
NRC-22dCL
70
15+21
NRC-07dCJ
67※2
64
NRC-06
NRC-06dT2
13
13+13
15+21
75※2
NRC-01A
73※2
NRC-01
70※2
NRC01AdT2
68※2
73※2
NRC-01T
NRC-02A
73※2
NRC-02
68
NRC02AdT2
68※2
NRC-02T
付加層:合板16mm+せっこうボード15mm+21mm+合板16mm
NRCでの実測値。他の数字は推測値
各マス内下部に記載の仕様名称はNRCの研究報告書(参考文献7参照)に掲載されているので参照のこと。
㺃㺃㺃 29 㺃㺃㺃
2×4
7. 音に対する人の感覚と床衝撃音の物理評価
(1)音に対する人の感覚:音の大きさ とうるささ
音を聞いたときに、人間が感ずる感覚的な量をラウドネス(音の大きさ)と呼ぶ。ある音の音の大きさが、音
圧レベルが[dB]の1kHz純音と同じである場合、その音のラウドネスレベルが[phon(フォン)]であると表現する。
音圧レベルと密接に関係しており、音の周波数スペクトルが変わらない限り音圧レベルが高いほどラウドネスは
大きくなる。また、音圧レベルが一定の場合には、ラウドネスは音の周波数スペクトル影響を受ける。そこで音
圧レベルや周波数スペクトルからラウドネスを推定する国際基準(ISO532)があり、広く用いられている。
「うるささ」は、音の特性のみならず、音を聞く人の感情や状態によっても変化する。騒音に対する総合的
な心理不快感を表す量である。そのため、ある音に対する個々人の「うるささ」をよい精度で求めるのは困難
であるため、実験時の教示により統制する必要がある。
(2)人が感じる音の大きさ
前述したように、音の大きさ、人間の感覚を基準とした測定が必要となり、人間の聴覚における特性を反映
した聴感補正を施した音圧レベル(騒音レベル)が騒音の評価に用いられる。騒音レベルに用いられる聴感補正特
性は、A周波数重み付け特性である。
騒音レベルは、単純な割に、ラウドネスとある程度相関のある量が求まる。しかし、音の大きさを評価(推
定)するには、騒音レベルよりもラウドネスを推定する国際標準(ISO532)を用いた方が正確である。
人間のラウドネス知覚は、ある時間範囲の音に基づいて行われる。騒音計にもそのようなヒトの感覚と合う
ような指示値とするための積分機能がある。この機能を時間重み付け(時定数)と呼ぶ。時間重み付け特性
fast(F)および時間重み付け特性slow(S)の2つがよく用いられ、それぞれ125 ms、1sという時定数を持つ。時間
重み付け特性Fは聴覚の時間応答を近似しており、時間重み付け特性Sは単位時間あたりのエネルギーを直接表
示できるようにしたものである。したがって、長時間の騒音の大きさではなく時々刻々変化する音の評価の場
合、人間の感覚と適合ずる特性Fを用いることが多い。
(3)人の感覚に基づいた物理的な床衝撃音評価
これまで住宅の重量床衝撃音は通常標準重量衝撃源を用いてL数により評価されてきた。しかし、これまでL
数と感覚的な床衝撃音に対する評価が一致しないことがしばしば指摘されてきた。また、L 数による設計は低
い周波数の領域の衝撃音レベルを低減させなければならずコストがかかる。しかし、感覚的な音の低減につな
がるかどうかが明らかでない限りコストをかけるのは困難ではないか。
そこで、前述したように音の大きさの感覚によりよく適合するラウドネス推定値(ISO532)による評価値と
主観評価との対応を確認した。図7-1は「気になる程度」とラウドネス推定値の関係を示したものである。また
ラウドネス推定値は最大値に相当する5パーセンタイル値を対数変換した数値を用いて表示している。この数値
をこれ以降単に推定値と呼ぶ。図7-1より推定値の対数値が「気になる程度」と直線的な関係にあることがわか
る。図7-2に推定値と気にならない割合および気になる割合を示す。気にならない割合は全反応中の「まったく
気にならない」および「あまり気にならない」を合わせた反応の割合のパーセント値、気になる割合は「だい
ぶ気になる」及び「非常に気になる」を合わせた反応の割合のパーセント値である。
このようにラウドネスの推定値による物理的な床衝撃音の評価は人の感覚と適合していることがわかる。
㨯㨯㨯 30 㨯㨯㨯
R = 0.98
4
非常に気になる
3
だいぶ気になる
2
多少気になる
1
2×4
気になる程度の心理尺度構成値
5
あまり気にならない
0
全く気にならない
-1
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
ラウドネス推定値の 5 パーセンタイル値の対数値
図 7-1「気になる程度」とラウドネス推定値の関係
気にならない割合、
だいぶ&非常に気になる割合 %
100
90
80
70
60
50
40
30
20
○ 気にならない
10
△ だいぶ&非常に気になる
0
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
1.8
推定値
図 7-2 推定値と気にならない割合および気になる割合
(4)実用的な床衝撃音評価:A 特性最大音圧レベル
心理実験値には誤差が含まれ、データにばらつきが生じる。しかし(3)に示したとおり、ラウドネスの推定
値が床衝撃音に対する「気になる程度」によく適合することから、実用的に計測可能な物理指標の選択を行う際
には適合度が非常によい推定値を用いることとする。
表 7-1 に推定値と物理指標である LH 値、A特性最大値、オクターブバンド(63Hz から1kHz)における最大
値の算術平均値の統計的な関係を示す。なお、床衝撃音の評価の際は時間重み付け特性 fast(F) を用いる。それぞ
れの物理指標は推定値と高い相関が認められるが、平均誤差および 95 パーセンタイル値は LH 値が最も大きい。
平均誤差とは推定値をそれぞれの物理指標で予測しようとしたときに平均的に見込まれる誤差のことであり、95
パーセンタイル値は予測値の 95% が分布する幅の広さであり、誤差の大きさを示す。表 7-1 から LH 値は他の 2
との値と比較して 2 倍程度の誤差があることがわかり、最大 5dB の予測誤差が生じることがわかる。他の 2 つの
物理指標は平均的には ±1.5dB 以内の誤差で最大でも ±2.3dB 程度の誤差に収まる。
表 7-2 は表 7-1 と同様の検討を10 棟の住宅におけるボール、バングマシン、飛び跳ね音の実測値を用いて求め
たものである。実測結果でもA特性最大値が実験の刺激を用いて求めた誤差と同様である。結論として、床衝撃
音におけるラウドネス推定値はA特性最大値により良く近似でき、L 数の半分程度の誤差しかない。
以降はA特性最大値について記述する。
なお、推定値 ( Lest ) とA特性最大値 ( LiA,Fmax ) の関係は表 7-1 および表 7-2 の検討を行った全データをプロット
すると図 7-3 に示すように直線的 ( LiA,Fmax = 31, Lest + 26 , R=0.98) である。
㺃㺃㺃 31㺃㺃㺃
2×4
表 7-1 実験家屋において測定された感覚計測に用いたデータによる推
定値と LH 値、A 特性最大値、オクターブバンド(63 Hz から
1 kHz)における最大値の算術平均値との統計的な関係
LH 値
A 特性最大値
0.96
0.99
推定値との相関係数
算術平均値
0.99
平均誤差
2.5
1.4
1.2
95パーセンタイル値
5.0
2.3
2.2
表 7-2 実棟実測に用いたデータによる推定値と LH 値、A 特性最大値、
オクターブバンド(63 Hz から 1 kHz)における最大値の算術
平均値との統計的な関係
LH 値
0.93
推定値との相関係数
A特性最大値
0.98
算術平均値
0.95
平均誤差
2.9
1.4
2.3
95パーセンタイル値
5.1
2.8
4.8
90
A特性最大値 [ dB ]
80
70
60
50
40
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
1.8
2.0
推定値
図 7-3 ラウドネス推定値とA特性最大値の関係
(実験家屋および実棟実測のデータを含む)
(5)
A特性最大音圧レベルと人間の床衝撃音に対する感覚の対応
表 7-3 は気になる程度の心理的な境界を A 特性最大値に変換したものである。これより床衝撃音が気になりはじ
めるのは 42 dB 程度、だいぶ気になり始めるのは 52 dB 程度であることがわかる。ここで注意しなければならない
のはこれらの値は標準衝撃源を用いたときの評価値ではなく、実際に床に物を落下させたときに表示された音の大
きさが観測されると人がこのように感じる、という点である。たとえば、子供が飛び跳ねた音を現場で観測して50
dB を上回るようであればだいぶ気になる程度である、と解釈すればよい。
表 7-3 「気になる程度」の心理的な境界と対応する A 特性最大値
心理的カテゴリー
境界値 (dB)
全く気にならない
− あまり気にならない
31
あまり気にならない
− 多少気になる
41
多少気になる
− だいぶ気になる
52
だいぶ気になる
− 非常に気になる
64
㺃㺃㺃 32 㺃㺃㺃
2×4
図 7-4 に A 特性最大値と気にならない/気になる割合の関係を示す。図 7-3 を用いると例えば、9 割の人が気
にならない設計値として 45 dB という数値目標を立てることが出来る。先にも述べたように標準衝撃源に対する
だいぶ&非常に気になる割合 %
気にならない割合、
感覚反応ではなく、実際にリビングで感じる音を評価対象とする数値である。
気にならない
だいぶ&非常に気になる
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
40
45
50
55
60
65
70
75
80
A特性最大値
図 7-4 A 特性最大値と気にならない/気になる割合の関係
(6)評価および設計のためのデータの使い方
これまで述べたように A 特性最大値で ±2.5dB 程度の精度で「気になる程度」と対応が非常によいラウドネス
推定値が予測できることがわかった。したがって、設計および評価の際にA特性最大値を用いることは有効であ
る。ここでは主に図 7-4 を用いて設計および評価を行う方法を提案する。
まず、ターゲットとなる衝撃源を決める。次にその衝撃源に相当する衝撃力に近い標準衝撃源の落下高さを選
択する。落下高さにより衝撃力は変化するが、標準落下高さ 1 m における値から所望の落下高さからの値は換算
できる。
評価の際は標準落下高さでのA特性最大レベルを用いてターゲットとなる高さの値に換算し、図 7-4 の横軸に
あてはめると、ターゲットとなる音がどの程度の割合の人がその音を聞いて気になるかについて%値で評価する
ことが出来る。
設計の際は気になる割合、あるいは気にならない割合をあらかじめ設定し、それに相当するA特性最大値を求
める。そして、その値を標準高さによる値に変換し、その仕様にあう床構造を選択すればよい。
㺃㺃㺃 33㺃㺃㺃
2×4
8. 遮音性を考慮したプランニング
8-1 上階から伝わる生活音
枠組壁工法による木造住宅の音環境については、上階から伝わる生活音に対する居住者の満足度が比較的低
いことがアンケート調査から示唆された。その多くは、上階の床に物の落下などの衝撃が加わった時に床構造
から下階天井へ振動として伝わる床衝撃音に関するものと思われるが、階段室などを経由した空気伝搬音に対
する指摘も含まれている可能性がある。
現在、多くの住宅では、シックハウス対策の有効換気量の確保のため、内装扉の下部に約1㎝の隙間(アンダー
カット)が設けられているが、この隙間の設置によって扉の空気音遮断性能は密閉とした条件より低下してい
る傾向である。
さらに間取りについても、階段室と居室の間に扉のない開放型の平面プランや、1階リビング上部に吹抜け
が設けられるなど、様々なプランが採用されており、居室間の空気音遮断性能の確保は難しい状況である。
このように、上階から下階に伝わる音は必ずしも床衝撃音とは限らず、他の経路を迂回する空気伝搬音も含
まれることは、室の平面プランを計画する際、或いは入居者からの指摘事項へ対処する際に充分に認識してお
くことが必要である。
なお、上階から階段室などを経由して迂回伝搬する音としては、話し声、テレビ・AV機器の音、アラーム音
などのほか、床に物が落下した際などに床衝撃音(振動を伴う固体伝搬音)の発生とともに上階の床表面での発
生音を音源とするものも含まれる可能性がある(図 8-2 参照)。例えば、積み木やブロックなど硬質のおもちゃ
を落とした時の発生音、スリッパ歩行時の音(パタパタ)、などである。
これらの上階発生音の大きさは、上階の床表面の材質の柔らかさに影響され、例えばカーペット仕上げの場合
には発生音はかなり低減される。
物の落下など
【2階居室】
床衝撃音
回
込
み
音
上階発生音
階
段
室
・
吹
抜
け
な
ど
【1階居室】
床衝撃音
図 8-1 上階から下階に伝わる音
(床衝撃音・迂回音)の経路
図 8-2 上階での物の落下時に発生する音
(床衝撃音と上階発生音)の概要
8-2 居室の配置と空気伝搬音の特性
上階から下階へ伝わる空気伝搬音の大きさの程度は、居室の配置、特に、階段室周りの内装扉の配置と1階
リビング上部の吹抜け及び内装窓の有無により、大きく影響される。
幾つかの戸建建物を対象とした、上下居室間音圧レベル差の実測例を図 8-3、8-4 に示す。
㺃㺃㺃 34 㺃㺃㺃
2F居室
階段室
1F居室
吹抜
2F居室
② 下階開放型
③ 上部吹抜型
60
60
50
50
50
30
音圧レベル差 (dB)
60
音圧レベル差 (dB)
音圧レベル差 (dB)
図 8-3 間取りの類型(垂直断面の模式図)
40
2F居室
1F居室
1F居室
① 階段室独立型
2×4
階段室
40
30
40
30
20
20
20
10
125 250 500 1k 2k 4k
中心周波数(Hz)
10
125 250 500 1k 2k 4k
中心周波数(Hz)
10
125 250 500 1k 2k 4k
中心周波数(Hz)
① 階段室独立型
② 下階開放型
③ 上部吹抜型
図 8-4 上下室間音圧レベル差の測定結果
図 8-4 では戸建て住宅での上下室間音圧レベル差を、図 8-3 に示す間取りの3類型(①階段室独立型、
②下階開
放型、③上部吹抜け型)ごとにまとめ、示している。
同図に示したように、①階段室独立型の場合には遮音等級は Dr-45 ∼ Dr-35 等級の範囲となり、平均的には
Dr-40 等級程度の室間音圧レベル差が確保されていた。一方、②下階開放型の場合には、特に高周波数音域での
遮音性能が低下し、遮音等級は Dr-35 等級以下に低下した。更に、③上部吹抜け型になると、より低い遮音性能
であることが分かる。
特に、これら間取りの類型による遮音性の違いは高周波数音域(1kHz ∼ 4kHz 帯域)において顕著であるこ
とからも、扉などでの隙間からの漏音の影響であると考えられる。具体的には、内装扉でのアンダーカット部
分からの漏音、および気密性の低い内装窓の四周からの漏音、があげられる。
実生活上での生活音が、上記の間取りの類型ごとに上階から下階へどの程度伝わるのかを具体的に検討した
例を図 8-5 に示す。検討対象としたのは表 8-1 に示す3種類の音源である。
表 8-1 音源の種類
説 明
音源の例
①スリッパ歩行音「パタパタ…」
大人がスリッパを履き、フローリング上を歩く時の発生音
②目覚時計 ( ベル )「ジリリリ…」
機械式ベル型の目覚時計の音
③携帯電話の着信音「ピピピピピ…」
音量最大に設定した時の電子音(2 ∼ 4kHz 帯域が卓越)
㺃㺃㺃 35㺃㺃㺃
2×4
70
70
60
60
60
50
40
30
20
125
250
500
音圧レベル (dB)
70
音圧レベル (dB)
音圧レベル (dB)
50
40
30
1k
2k
4k
20
125
中心周波数(Hz)
50
40
30
20
250
500
1k
2k
4k
125
250
中心周波数(Hz)
①階段室独立型
500
1k
2k
中心周波数(Hz)
②下階開放型
4k
③上部吹抜型
図 8-5 下階へ伝わる生活音(空気伝搬音)の予測検討例
[ 凡例:▲:スリッパ歩行音、
○:目覚時計(ベル)
、 ●:携帯電話着信音 ]
これらの予測検討結果をみると、①階段室独立型では、目覚時計(ベル)と携帯電話着信音は高音域(2k ∼ 4kHz
帯域)で 30dB 前後とやや聞こえるものの、スリッパ歩行音については N-30 等級を下回りほとんど聞こえないもの
と予想される。
②下階開放型では、スリッパ歩行音は N-30 等級を下回り小さいと予測されるが、目覚時計(ベル)と携帯電話着
信音については 2k ∼ 4kHz 帯域で 35 ∼ 45dB 程度となり、暗騒音が低い場合にははっきり聞こえる大きさである。
また③上部吹抜型の場合には、目覚時計(ベル)と携帯電話着信音が特に 2k ∼ 4kHz 帯域で大きいほか、スリッパ
歩行音も N-35 等級と聞こえる程度に伝搬すると予想される。
8-3 上階からの生活音を低減させるには
前節で示したように、居室のプランが開放型であるほど、当然のように遮音性能は低下する傾向にある。遮音性
能の確保という点においては居室プランを独立型にした方が得策であるが、独立型・開放型のプランにはそれぞれ
表 8-2 に示すような長所・短所が挙げられる。
表 8-2 独立型・開放型の居室プランの特徴のまとめ
独立型の居室プラン
遮音性能
(空気音)
開放型の居室プラン
遮音性能は比較的高い
遮音性能は比較的低い
迂回音の影響
比較的小さい
比較的大きく注意が必要
プライバシー
高いプライバシーが期待できる
高いプライバシーは期待できない
生活の気配
家族の生活の気配は感じにくい
家族で互いに感じられる
生活の気配を家族同士が感じながらの生活を楽しむ、ということであれば、上階からの生活音を低減させること
はむしろマイナスの対策となる。しかしながら、開放型の居室プランの場合には、上階からの音が良く聞こえると
いうことについては、発注者 ( 入居者)の理解が充分でない場合も考えられるので、特に設計段階において音の伝
わり方についての情報を示し説明しておくことが、入居後の不満の解消につながると考えられている。
また、家族が若くこどもが低年齢の時には、こうした開放型の居室プランで「生活の気配を楽しむ」ことができ
ても、家族の成長とともに、個人のプライバシーへの要求も高まり、居室間の遮音性能を高める必要性が出てくる
ことも考えられる。そうしたことも見据え、改修などでの対応のし易さも考慮しておくことが望まれる。
㺃㺃㺃 36 㺃㺃㺃
(1)床構造と天井の遮音性能
2×4
最後に、上階からの生活音を低減させるための方策を、以下に示す。
上階からの生活音の内、振動として固体伝搬する音の対策としては、本書中に多数紹介されている床衝
撃音対策を実施することが重要となる。ただし、床仕上げ材∼床構造∼天井による床衝撃音の対策を高め
れば高めるほど、迂回音によって伝わる上階からの音は相対的に大きくなり、床衝撃音対策だけでは限界
が生じることとなる。各住宅の入居者から「上階からの生活音」に対して不満が示された場合には、それ
が「床衝撃音」に分類されるのか、迂回音による「空気伝搬音」に分類されるのかを冷静に分析する必要
がある。
まずは、音源の種類と発生場所を確認することである。また、どちらの対策が有効かを考えるための簡
単な方法としては、内装扉・内装窓の隙間を臨時に塞いで遮音性能を高めた状態をつくり、その状態で対
象の音の伝わりが減少するか否かを確かめる方法がある。
(2)上階での音の発生の低減
まず発生源となる音自体を小さくすることができれば対策としては最も効果的である。話し声やテレビ・
オーディオの音は意識的に小さくする努力が必要であるが、床からの発生音については床仕上げ材を軟
質の材料(カーペットやマットなど)に換えることで相当に低減でき、特にスリッパ歩行音や積木など
玩具の落下音に対しては効果的である。
(3)住戸内の内装窓(吹抜面)の遮音性能
リビング上部の吹抜けに面した上階居室には内装窓が取り付けられることが多い。これらの内装窓は
外装窓とは異なり気密性能が低いことから隙間からの漏音が大きく遮音性能はあまり高くない。この内
装窓の部分の気密性を改善することで、遮音性能の改善も期待できる。
(4)伝搬経路の途中での音の低減(吸音)
階段室などを経由する音の場合、上階居室から下階居までの経路を吸音性にすることで、音の減衰効
果が期待できる。例えば、上階の居室から階段までの廊下部分をカーペット仕上げにしたり、階段室の
側壁や床・天井面に吸音材を配置したり、
といった対策が考えられる。特に、
隙間からの漏音は高い周波数
(1
∼ 4kHz 帯域)で顕著であるため、カーペットやカーテン、ロックウール吸音板などの薄い材料でも、か
なりの減衰効果が期待される。
(5)2階の排水音の低減
アンケート調査の結果(第2章)では、上階での排水音への指摘が多い様子が伺えた。下階の居室(特
に深夜に暗騒音が低くなる寝室など)の近くには出来るだけ排水経路を設けないほか、必要に応じて排
水管に防音・防振措置を講じることや排水管スペースのせっこうボードは厚くすることなど、計画上の
配慮が望ましい。
㨯㨯㨯 37㨯㨯㨯
枠組壁工法床遮音工法ハンドブック
社団法人日本ツーバイフォー建築協会
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