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かすみ荘 - 門田光雅

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かすみ荘 - 門田光雅
Yadokari Tokyo report vol.01
かすみ荘
会場 : 千代田区霞ヶ関 3-6-15 グローリアビル 6F,9F
会期 : 2012 年 10 月 19 日 ( 金 ) 〜 23 日 (火)
【 参 加 作 家 】 荻野僚介 数見亮平 門田光雅 小島章義 土田祐介 平丸陽子 前野智彦 町野三佐紀 村上綾 村上郁 安田豊 渡辺望
首相官邸、議員会館、内閣府庁舎、すこし先には皇居。
各主要官庁の建ち並ぶ霞ヶ関は、一般人の居住できるような区画ではない。
この聖域と呼ばれる霞ヶ関の3丁目にあるオフィスビルで、実在しない仮の住処「かすみ荘」という5日間限りの展覧会を開催する。
日本中に立ち込める混迷の姿が、今まさに霞ヶ関に象徴されているように、先の見えない不安の中にいる私たちである。
様々な価値観や常識とされたものが大きく変動し、晴れ間の見えない霞を住処とするような今日。
吸い込む空気にすら不穏を感じるこの異常な日常は、虚構と現実の関係も曖昧にしてしまう。
しかし、このようなあらゆるものが不明瞭な状況の中でこそ逆にはっきりと見えるものもある。
かつて戦後の古いアパートに若き漫画家たちが集まった時代、葛藤の中で数多くの傑作が生まれた。
才能が集い切磋琢磨する中で新しい時代を切り開いていった。
SFのような事態が進行し再び霞がかかる現代の中で、12名の作家たちが官邸前のオフィスビルの空室を新しい集いの場に変える。
■参加作家の展示内容 ・ 略歴
荻野 僚介 /Ryosuke Ogino
小島 章義 /Akiyoshi Kojima
1970 年 埼玉県生まれ。 1993 年 明治大学政治経済学部政治学科卒業、 1998 年 B ゼミ
スクーリングシステム修了。 主な個展 /2012 年 「腕が当たったから窓を開けた」 SPROUT
curation (東京)、 2011 年 「春の絵画展」 TRAUMARIS|SPACE( 東京 )、 2000 年
「project N 02」 東京オペラシティアートギャラリー ( 東京 )。 主なグループ展 /2012 年
「40×40」 アキバタマビ 21 (東京)、 2011 年 「所沢ビエンナーレ美術展 「引込線」 2011」
所沢市生涯学習推進センター (埼玉)、 「New Vision Saitama 4 静観するイメージ」 埼玉
県立近代美術館 ( 埼玉 )、 2001 年 「VOCA 展 2001 新しい平面の作家たち」 上野の森
美術館 ( 東京 ) など。 www.oginoryosuke.com
1979 年 愛知県生まれ。 2004 年 東京造形大学卒業、2005 年 東京造形大学研究生修了。
主な個展 /2011 年 「little island」 GALLERY TERRA TOKYO (東京)、2005 年 「ファジー
★ネーブル」 小野画廊 (東京)。 グループ展 /2012 年 「draw + ing 展」 GALLERY
TERRA TOKYO (東京)、2011 年 Winter Collection GALLERY TERRA TOKYO (東京)、
2008 年 「nine 展」 ケンジタキギャラリー(東京)、2007 年「森の展覧会」文房堂 Gallery(東
京)、 「news 展」 ケンジタキギャラリー (東京) など。
門田 光雅 /Mitsumasa Kadota
土田 祐介 /Yusuke Tuchida
1980 年 静岡県生まれ。 2002 年 東京造形大学美術学科絵画専攻卒業、 2003 年 東京
造形大学美術学科絵画専攻研究生修了、 2008 年 第 23 回ホルベイン ・ スカラシップ奨学
生。 個展 /2012 年 「BLIND」 NICHE GALLERY、 (東京) 2010 年 「GRAY ZONE」
Sweet Emotion (東京) 、 2005 年 「TRICKSTER」 セゾン現代美術館東京事務所 SMMA FACTORY (東京)。 主なグループ展 /2011 年 「voca2011 新しい平面の作家たち」
上野の森美術館 (東京)、2007 年 「第 26 回損保ジャパン美術財団 選抜奨励展」 損保ジャ
パン東郷青児美術館 (東京)、 「ART TODAY 2007 門田光雅 ・ 渡辺依理」 /セゾン現
代美術館 (長野) など。 www.mitsumasakadota.com
1981 年 兵庫県生まれ。 2005 年 多摩美術大学美術学部情報デザイン学科卒業。 主な個
展 /2012 年 「Walk This Way vol.04 土田祐介」 SweetEmotion (東京)、 2009 年 「土田
祐介 展」 ANOTHER FUNCTION」 (東京)、2008 年 「新進気鋭の写真家 12 名によるリレー
個展 『display』」 ビジュアルアーツギャラリー東京 (東京)。 主なグループ展 /2012 年 「UCHIWA SENSU EXHIBITION」 FEI ART MUSEUM & f.e.i art gallery (神奈川)
2011 年 「conditioned air | 調律された写真」 アキバタマビ 21 (東京)、 2010 年
「EXPECTED ARTISTS 2010 <8+2>」 Shonandai MY Gallery (東京)、 2009 年 「キヤノン
写真新世紀 東京展 2009」 東京都写真美術館 (東京 ) など。 www.tsuchidayusuke.com
数見 亮平 /Ryouhei Kazumi
平丸 陽子/ Youko Hiramaru
1984 年 東京都生まれ。 2011 年 東京造形大学大学院造形研究科絵画研究領域卒業。
主な個展 /2012 年 「It’ s Like A Phamtom !」 art space JIKKA (東京)、 2009 年
「Blitzkrieg Bop」 node (東京)。 主なグループ展 /2012 年 「きのう、 あったことについて」
AI KOWADA GALLERY (東京)、 2010 年 「第 35 回全国大学版画展」 町田市立国際
版画美術館 (東京)、 「9songs」 GALLERY LARA TOKYO (東京)、 「 消えない眼差し
その先の風景」 相模原市民ギャラリー (神奈川)、 2009 年 「Beautiful Future」
GALLERY LARA TOKYO、 「Tokyo Wonder Seeds 2009」 トーキョーワンダーサイト渋谷
(東京) など。
1979 年 埼玉県生まれ。 2002 年 東京造形大学美術学科絵画科卒業、 2003 年 東京造形
大学研究科修了。 主な個展 /2011 年 「おわり の はじまり」 ナヤノギャラリー (埼玉)
2007 年 「平丸陽子 個展」 遊工房アートスペース (東京)。 主なグループ展 /2012 年 彩りの画家たち アートプレイス K (埼玉)、 2008 年 「大阪アートカレイドスコープ」 大阪
府立現代美術センター (大阪)、 2007 年 「大阪アートカレイドスコープ」 大阪府立現代
美術センター (大阪)、 2005 年 「ワンダーシード」 東京ワンダーサイト (東京)、 「東京
ワンダーウォール」 東京都現代美術館(東京)、2004 年 「0 号展」 東京ワンダーサイト(東
京) など。 www.hiramaru-yoko.com
前野 智彦 /Tomohiko Maeno
村上 郁 /Kaoru Murakami
1977 年 広島生まれ。 2004 年 多摩美術大学大学院美術研究科 絵画専攻修了。 主な個
展 /2012 年 Galerie Verger (東京) ++、2011 年 相模原市民ギャラリー Art spot (神奈川)、
2010 年 Gallery Q ( 東京 )、 2008 年 Gallery TSUBAKI 2 (東京)。 主なグループ展 /
2012 年 「風景観」 アート・ラボはしもと (神奈川)、 2011 年 「所沢ビエンナーレ美術展 「引
込線」 2011」 所沢市生涯学習推進センター (埼玉)、 2010 年 「更新に憑くー可塑的な
無人島ー」 3331アートチヨダ アキバタマビ (東京)、 2007 年 「ワンダーウォールの作家
たち展」 東京都現代美術館 (東京) など。
東京生まれ。 2008 年 Central Saint Martins Collage of Art and Design 卒業、 2004 年 多
摩美術大学美術学部絵画学科版画専攻卒業。 主な個展 /2012 年 「かんたんな旅」 遊工
房アートスペース (東京)、 2010 年 「最期の絵はがきがポストに向かう」 LOOP HOLE (東
京)、 2009 年 「共依存的、 見えない都市」 ギャラリー Q (東京)。 主なグループ展 /
2011 年 「皮膚と地図Ⅱ」 新宿眼科画廊 (東京)、 2010 年 「TAMA VIVANTⅡ」 多摩美
術大学ほか (東京)、 2008 年 「Other Asias – InFormation」 Nolias Gallery (ロンドン)
2008 年 「群馬青年ビエンナーレ」 群馬県立美術館 (群馬) など。
www.kaorumurakami.info
町野 三佐紀 /Misaki Machino
安田 豊 /Yutaka Yasuda
1977 年 富山県生まれ。 2002 年 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業、 2009
年 東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程 (油画) 修了。 主な個展 /2012 年 「さ
ざめき/夜陰」 gallery COEXIST-TOKYO (東京)、2010 年 「柔らかい鏡」 switch point (東
京)、 2006 年 「流れる 揺れる 震える」 gallery OPEN DOOR (東京)。 主なグループ展 /
2011 年 「常総市まちなか展覧会 2011」 (茨城県常総市)、 2010 年 「消えない眼差しーそ
の先の風景ー」 相模原市民ギャラリー (神奈川)、 「mirrors in motion ~視覚の現在~」
企画ギャラリー 明るい部屋 (東京)、 2003 年 「-element-2003 vol.1」 exhibit LIVE (東
京) など。
1979 年 福島県生まれ。 2002 年 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業、 2007
年 東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻修了。 主な個展 /2008 年 「ス
カートの中は紙吹雪」 KIDO Press,Inc. (東京)、 2005 年 「Excrete」 studio ZOU /遊工
房アートスペース (東京)。 主なグループ展 /2012 年 「うつす展」 愛知県美術館ギャラリー
(愛知)、 2011 年 「OUT」 Gallery HALCA (東京)、 2010 年 「消えない眼差し その先の
風景」 相模原市民ギャラリー ( 神奈川 )、 「阿波紙と版表現展 2010-気鋭の 18 名による版
表現展」 文房堂ギャラリー (東京)、 2006 年 「AFP-artfeti painting-」 gallery アートフェチ
(愛知)、2004 年 「版の記憶/現在/未来」 東京芸術大学大学美術館陳列館 (東京) など。
村上 綾 /Aya Murakami
渡辺 望 /Nozomi Watanabe
1979 年 パリ生まれ。 2004 年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。 2004-05
年 ロンドンに滞在、 制作。 主な個展 /2012 年 「fragments of landscape」 HARMAS
GALLERY (東京)、 「Momentary Landscapes」 GALLERY M (愛知)、 2009 年 「Vast
Lightness, Route to My Mountains」 LOOP HOLE (東京)。 主なグループ展 /2012 年
「Unknown Life 〈Unknown シリーズ No.3〉̶Body 身体」 アユミギャラリー (東京)、 2011
年 「ART in TIME & STYLE MIDTOWN Vol.10 Landscape」 TIME & STYLE MIDTOWN
(東京)、 2010 年 「時の遊園地」 名古屋ボストン美術館 (愛知)、 2009 年 「Work Space
as “Local Behavior”」 VACANT (東京) など。 www.ayamurakami.net
1984 年 神奈川県生まれ。 2009 年 多摩美術大学大学院 博士前期課程 絵画専攻油画研
究領域修了。 主な個展 /2010 年 「trill」 Nroom artspace (東京)、 2009 年 「Breath of
light」 ANOTHER FUNCTION (東京)、 2009 年 「虹の在り処」 FUTABA gallery (東京)、
2008 年 「瞬の間」 FUTABA gallery (東京)。 主なグループ展 /2011 年 「所沢ビエンナー
レ美術展 「引込線」 2011」 所沢市生涯学習推進センター (埼玉)、2010 年 「ワンダーシー
ド 2010」 トーキョーワンダーサイト渋谷 (東京) など。 受賞歴 /2010 年 ワンダーシード。
www.watanabenozomi.com
■トーク ・ イベント 「日本の空室」 (抜粋)
パネリスト : K: 門田光雅/ O : O-JUN / Y : 山田武男
■空室/ニッチ/展示会場
K : 「ヤドカリトーキョー」 は、 不動産とアートのコラボレーションによる展示活動というプロジェクトです。 不動産業界、 アー
ト業界、 両者にとって異色な試みになります。 本日は 「日本の空室」 というテーマで、 ビルの 「空室」 をアート作品を置
くという展示のあり方について考えたいと思います。 このプロジェクトでの展示の多くは、 作家たちが中心となって、 「空室」
のもっている場所性からヒントを得て、 企画の内容や方向性を考えてきました。 また、 美術館やギャラリーといった既存の
展示場所ではない空間で展示をするというプレッシャーは、 それぞれの参加者の作家性を問い直すきっかけになり、 作品
の強度を生み出していると思います。 このような展示の試みについて、 どのように思われますか?
O : ビルの 「空室」 にアート作品が入るというのは、 ユニークで面白い試みだと思います。 アーティスト ・ ラン ・ スペースと
いうと、 オルタナティブ ・ スペース、 例えば、 社会的に許されない場所でこそこそと 「悪いこと」 をするという印象があるか
もしれません。 ドイツやイギリスなどでは、 美術館やギャラリーに置かれた美術作品に対して、 また別の美術作品のあり方
について考えるという姿勢があり、 公共空間をある意味で 「不法占拠」 するようなかたちで作品を発表してきたという政治
的な側面があります。 しかし、 現在の日本では、 政治的に対立するというよりも、 その対立をすり抜けるような 「ニッチ」
な手法が作家のスタイルになっているようにも思えます。 不動産業界では、 アートについて、 どのように考えていますか?
Y : 不動産業界にいる方々は、 一部の例外を除いて、 基本的にアート自体に興味をもっていないと思います。 ただ、 現
実的な話として、 アート自体よりも、 アートがもっている集客のポテンシャルには注目が集まる可能性はあります。 今回の
展示会場となった 「空室」 は、 珍しいわけではなく、 都心部だけでも常に数千件ほどあるなかのごく一部分です。 ビルの
運営では、 常に維持費がかかる一方で、 借り手がなければ賃料が入らないという仕組みになっていますので、 借り手を少
しでもを早く見つけることが大切です。 空室が多い分、 オフィスの内覧会もかなりの数が開催されていますので、 アート作
品を置くことで、 少しでも多くの方々に関心をもっていただければと考えています。
■新しいオルタナティブ ・ スペース/やくよけ/コミュニティ形成
K : 作家としては、 「空室」 を新しいオルタナティブ ・ スペースとして、 現在のアートを見直す機会にしたいと思います。
あらためて考えてみると、 「空室」 は現在の日本の象徴であるともいえるでしょう。 日本の社会そのものが激しい変化に直
面し、 実体をもたないように感じることがあります。 「空室」 という流動的な空間にアート作品を置くことで、 何か新しい 「集
い」 の場を残すことができるのではないか、 そしてそのことがこれからの日本の社会について考えることに繋がれば、 と思
います。 参加メンバーは同世代で、 さまざまなバックグランドをもっているので、 同時代の空気を共有しつつも、 多角的な
視点から展示を構成できていると思います。 展示をご覧になって、 ご感想はいかがですか?
O : 「ヤドカリトーキョー」 の展示を見ましたが、 「空室」 という空間にアート作品を巧妙に馴染ませていくという印象を受け
ました。 日常的な空間にアート作品がそのまま置くということは、 美術館やギャラリーでは得られない試みです。 また、 厳
格な展示制約や開催期間を守るためには、 作家としての反射神経のよさが求められるという側面もあります。 ところで、 私
自身、 アパート経営を一時期していたことがあり、 その 「空室」 を作家にアトリエの代わりに提供していました。 そのときに
気がついたのですが、 いわゆる 「わけあり」 の部屋でも、 作家に展示をしてもらうと、 人が集まってきますから、 アート作
品の展示は 「やくよけ」 のようなことにもなるのかもしれません。
Y : 最近シェア ・ ハウスやコーポラティブ ・ ハウスといったコミュニティを重視した物件が増えており、 「ヤドカリトーキョー」
のようなイベントもビルのコミュニティ形成において重要なリソースになっていくかもしれません。 アート作品を室内や窓際に
置くだけで、 会話が生まれ、 内覧客からさまざまな要望を聞くことができます。 更に、 室内の距離感がわかりやすくなるた
め、 具体的な活用シーンが浮かび、 自然と愛着をもっていただけるようです。 過去の展示を振り返っても、 集客力は抜
群に上がるという実感があります。 設営や撤去には徹底して細心の注意を払っていますから、 一人でも多くのオーナーか
ら理解を得られればと思います。 これからどのような展開を考えていますか?
K : 今後は、 より社会と密接に結びついた展示活動を行いたいと考えています。 作家たちだけのなかで完結させるのでは
なく、 より広くリアクションが得られるような企画を考えていくつもりです。 そのためには、 プロジェクトマネージャーやキュレー
ターなど、 コンセプトに一貫性をもたせたうえで、 展示活動を展開できる方々にも参加していただきたいと思います。
Y : 最近では少しずつですが、 「ヤドカリトーキョー」 というプロジェクトに関心をもってくださるオーナーも増えてきたように
思います。 不動産の紹介者としては、 アート作品の力を借りて、 より高い集客力や成約率を目指していきたいと思います。
そのためにも、 いろいろな方に参加していただいて、 さまざまな方向に輪が広がっていけばよいですね。
収録 : 2012 年 10 月 22 日
編集 : Art-Phil
O JUN
1956 年、 東京都生まれ。 2009 年より東京芸術大学准教授。 主にギャラリーや美術館、 あるいはノンプロフィットな場所に
て個展、 グループ展で行っている。 また近年は、 さまざまなギャラリーや美術館などで展覧会のキュレーションを行う。 http://www.ne.jp/asahi/o/jun/
門田光雅
1980 年、 静岡県生まれ。 画家。 2002 年、 東京造形大学絵画専攻卒業後、 同大学で3年間助手として勤務。 2007 年
にセゾン現代美術館にて学芸員のインターンとして勤務する。 都内複数のアートスペースの立ち上げや運営に携わる機会
を得て、 画業と平行して現代の作家活動の新しい視点と可能性を模索している。 http://www.mitsumasakadota.com
山田武男
1980 年、 神奈川県生まれ。 不動産コンサルティング会社、 ㈱バリューレイズ執行役員。 2004 年に東京農業大学造園科
学科卒業後、 不良債権再生会社にて不動産再生事業に携わる。 ホテル運営会社にてビルイン型のホテル企画 ・ 開発の
担当執行役員を経て、 2010 年より現職。
■「かすみ荘」 ――緊急事態における “希望の星座” はどこに?
「霞ヶ関」、マスメディアを賑やかせてやまないこの固有名詞は、どこか均質で冴えた輝きをもって私たちの目に映る。
官庁の堅牢な建物群と監視員が占める区画において、 その行政権力の圧倒的な強固さがどこか私たちを構えさせる
からかもしれない。 展示会場となるグローリアビル (6F ・ 9F) は、 内閣総理大臣官邸、 内閣府、 財務省、 文部科
学省、 特許庁に隣接し、 その向こうには国会議事堂、 外務省、 経済産業省を眺める。 わずか 5 日間という会期で
展開される 「かすみ荘」 で感じられたのは、 どのようなものだろうか。
展示会場 6F、会場内に足を踏み入れるよりもまえに、私たちは無機質に反復される声を聴くことになる。「ドラマシリー
ズ “無人/島” シーズン1―エピソード2 “別名にて保存” [ 日本語吹き替え版 ] 」 (前野智彦) である。 給湯室で
展開されるこのドラマは、 人と島、 あるいは大地と海をめぐる関係性を、 形而上学的な眼差しとともに照射する。 あ
たかも、 現在が非常事態宣言のただなかにあることを警告しているかのように。 その一方で、 「しずんだ湖」 ・
「untitled」 (平丸陽子) では、 自然災害の暴力性を静かな物語として捉え直しているようである。 首都高速道路を
見下ろすかたちで展示される 「風船 (白)」 (荻野僚介) と写真作品 「_room」 (土田祐介) は、 日常風景のはかな
さをどこか非現実的でシュールな印象をもって描き出している。 その対の窓辺で展開される 「二者択一の練習」 (門
田光雅) が、 非日常的な喧騒と静謐の間でせめぎあう日常風景のダイナミズムを、 抽象的なマチエール (物質性)
の配置/構成によって表現しているとしたらどうだろうか。
心なしか広く感じられるエレベーターで9F に上り、 最初に目にすることになる光景は、 「zone (Icaros)」 他 (小島
章義)、 「Phantasma―エヂンバラ」 (村上 郁)、 「funcrowd」 (数見亮平)、 というどこかアイロニーを孕んだ夢のよう
な情景だろう。 6F と 9F の対照的な展示内容は、 「無題」 (安田 豊) にみられるように、 日常風景の平穏さというも
のが必ずしも当然のものではないと感じさせてくれる。 また、 「八羽の鳥のさえずり」 他 (村上 綾) においては、 空
と大地のあいだで揺れる自由への憧れが冷静な眼差しとともに表現されていたように思う。 そして、 両階を橋渡しす
るかたちで展示される 「Letter of the stars」 (渡辺 望) とともに、 私たちは深く静かな闇にひそむ “希望の星座”
のようなものを見出すことになるのかもしれない。 誰かから託された手紙を受けとった私たちは、 展示会場の外に広
がる官庁街の向こうにいる、 また別の誰かへと手紙を出すことになる。 あたかも、 夜、 ところどころで消灯した窓枠の
暗い深淵にそっと光をともすかのように。
おそらく別館 「ぷらり霞ヶ関」 の室内をまばゆいばかりのビデオ ・ インスタレーションで照らす 「かがやき」 (町野三
佐紀) もまた、 このような視覚体験の印象をある種の確信へと導いてくれるだろう。 速度をもって車道を行き交うヘッ
ドライトのように、 私たちの心の一つひとつはそれぞれのリズムで輝きを放っている。 日本の行政権力の中枢をなす
官庁街において、 不動産の紹介者とアーティストとの時間を重ねた対話から奇跡的に実現された 「かすみ荘」 ととも
に、 今このとき、 私たちはどのような “希望の星座” を思い描くことができるだろうか。
提供 : Art-Phil
Art-Phil
クリエイション ・ ユニット。 “アート発のカルチャー誌” としてブックレット 「Repli (ルプリ)」 の発行を中心に活動。
アート、 哲学、 社会の視点から、 多様なコミュニケーション一般のあり方を探求している。
http://www.art-phil.com
「 ヤドカリトーキョー 」
ヤドカリトーキョーは、2012 年 1 月、日本橋にある築 50 年のオフィスビルを展示会場したことをきっかけに発足しました。
主に東京にある募集中の空室を利用し、 ヤドカリ ( 宿借り ) 方式で展示を行います。
東京都心では、 東京駅周辺など主要駅を中心に、 オフィスビルの新規供給が続いており、 一見すると空室率の改
善が見られるようです。 しかしその一方で、 中小規模のビル、 とくに築 15 年超のビルの空室は著しく増加しており、
長引く不況の影響から新規テナントの総数も減少傾向にあり、 都心部にも関わらず、 こうした中小ビルの需要は減退し
ております。 この事態に中小ビルのオーナーは、 ビルへの設備投資や不動産仲介業者への働きかけを続けています
が、 縮小するマーケットに処方箋はなく、 数年間空室が続くビルも多くみられます。
一方、 現代アートの世界では、 国際的に活躍する現代アートの代表的作家、 村上隆氏のフィギュアがルーヴル美
術館に展示され、 同作家の作品がオークションで高騰した値段により取引が行われるなど話題となりました。 しかし、
日本の現代アートは、 ギャラリーや美術館、 全国各地で開かれているトリエンナーレ等の展示の機会がありながら、
日本のアートマーケットの未成熟な状況から、 多くの作品が取引される状況には程遠い状況です。 こうした状況に、
現代の若手作家たちは、 グループ展への参加やギャラリー関係者への接触の機会を増やすなどの努力を続けていま
すが、 国内のアートマーケットが大きく成長することはなく、 別の仕事をしながら作品制作 ・ 展示を続けています。
ヤドカリトーキョーはこうした 2 つの業界の若手が集い、 始まったイベントです。 内覧のないビルに入居はなく、 展示
のない作品に日は当たりません。 中小ビルの空室に人を呼びたい不動産会社の社員と、 作品を展示し、 多くの人に
見てもらいたい若手作家のベクトルが一致しました。
一見するとすれ違うことすらなさそうな両者の絶妙なバランスによるアート展として、この 「かすみ荘」 は開催されました。
発行人 : ヤドカリトーキョー
問合せ先 : 株式会社バリューレイズ内 / 担当山田
東京都港区赤坂 5-4-16 シナリオ会館 7F
TEL : 03-3568-3426
MAIL : [email protected] (山田)
発行日 : 2013 年1月 25 日
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