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青森県ふるさと食品研究センター研究報告書 第5号 平成18年度

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青森県ふるさと食品研究センター研究報告書 第5号 平成18年度
青森県ふるさと食品研究センター
研究報告 第5号(2008)
サバ皮からのゼラチン抽出法と抽出されたゼラチンの特性
松 原 久
Utilization of mackerel (Scomber japonicus) skin
Hisashi MATSUBARA
キーワード:サバ(mackerel),皮(skin),コラーゲン(collagen),ゼラチン(gelatin)
サバは本県に水揚げされる主要な魚種であり、その加工品であるシメサバもまた重要な加工品の
ひとつとなっている。一般に、マサバを原料にシメサバを製造する場合に、皮は最終工程で除去さ
れ、副生物として排出される。その量は、推定で年間5トン程度と考えられるが、そのほとんどが
有効に利用されていないのが現状である。
これまで、サバ皮からのコラーゲン抽出方法と精製したサバ皮コラーゲンの特性について検討を
行ってきたが、本報告では、コラーゲンの熱変性物で広く業界で利用されているゼラチンについて、
サバ皮からの抽出法とその特性について報告する。
試 験 方 法
1.試 料
サバ皮は、平成17年8月八戸市内水産加工工場において、八戸沖漁獲冷凍サバを原料としたシ
メサバ製造時に排出されたもので、使用時まで−30℃で冷凍保管を行った。
2.分析方法
(1)一般成分
ア 水 分:105℃常圧加熱乾燥法により測定した。
イ 粗タンパク質:ケルダール法で分析した全窒素に係数6.25を乗じて算出した。
ウ 粗 灰 分:550℃直接灰化法で分析した。
エ 粗 脂 肪:ジエチルエーテルによるソックスレー法で分析した。
オ 粗 炭 水 化 物:100%から水分、粗タンパク質、粗灰分、粗脂肪を減じて算出した。
(2)タンパク質サブユニット組成
タンパク質サブユニット組成はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で分析
した。すなわち、試料に8M Urea2%SDS 2%2−メルカプトエタノール(Tris−mareate pH8.0)
(以後、タンパク質溶解液と呼ぶ)を加え、100℃で2分間加熱した後、25℃で1夜撹拌し、
Phalmacia社製PhastSystemTM で電気泳動、および染色を行った。泳動ゲルにはHomogeneous 7.5
を使用し、15℃で63AVh泳動した。染色は0.165%コマジーブリリアントブルーG30%メタ
ノール10%酢酸に泳動したゲルを50℃で16分浸漬し、脱色は30%メタノール10%酢酸溶液に50℃
5分間の浸漬を2回、続けて5%メタノール7.5%酢酸溶液に30℃10分間の浸漬を1回と30℃30
分間の浸漬を2回行い、ゲルの保護用として5%グリセリン10%酢酸溶液に50℃5分間浸し
た。定量は、ゲルをスキャナで読み取り、ATTOの解析ソフトDensitographで解析した。
(3)タンパク質濃度
タンパク質濃度はLowry法1)もしくはビウレット法によって分析した。
− 14 −
ア Lowry法
試料溶液1mLに試薬(2%Na2CO3−0.1N NaOH:0.5%CuSO4・5H2O−1%酒石酸ナトリウ
ム=50:1)5mLを加えて混合し、室温で10分放置した後、希釈FOLIN試薬0.5mLを加えて混
合し、室温で30分以上反応させ、波長500åの吸光度(OD500)を測定した。タンパク換算係数
はサバ皮精製コラーゲンから求めた1.0564を使用し、試料溶液のOD500からBlankのOD500を差し
引いた値にこれを乗じてタンパク質濃度(㎎/mL)とした。
イ ビウレット法
試料溶液1mLにビウレット試薬4mLを加え、約1時間反応させた後、波長560åの吸光度
(OD560)を測定した。タンパク換算係数はサバ皮精製コラーゲンから求めた20.67を使用し、試
(㎎/mL)とした。
料溶液のOD560からBlankのOD560を差し引いた値にこれを乗じてタンパク質濃度
(4)熱 分 析
熱分析計はセイコーインスツルメンツ株式会社製熱分析計DSC 6100を用いて、インジウムとガ
リウムにより補正した。試料はアルミニウム製カプセルに50㎎程度精秤して封入し、昇温速度
0.5℃/分で測定した。
結 果 と 考 察
1.ゼラチン調製方法の検討
(1)サバ皮コラーゲンからのゼラチン調製
コラーゲンを原料として、
M
5 ℃ 10℃ 20℃
未 ぺ 未 ぺ 未 ぺ
30 ℃ 35℃ 40℃ 50℃
未 ぺ 未 ぺ 未 ぺ 未 ぺ
0.1M酢酸溶液中で加熱により
ゼラチン化させる場合の温度
212k
170k
α1 鎖
条件について検討を行った。
116k
α2 鎖
コラーゲン溶液は、精製し
たサバ皮コラーゲン0 . 1 2 gに
76k
53k
31.8mLの0.1M酢酸を加え、5
℃で一夜攪拌・溶解して調製
した。この溶液を試験管に3mL
図1
コラーゲンのゼラチン化に及ぼす加熱温度 の影響
未:非ペプシン処理区、ぺ:ペプシン処理区
分注し、それぞれ5℃、10℃、20℃、30℃、35℃、40℃及び50℃で5分間加熱し、急冷した。コ
ラーゲンを構成するα鎖は、ゼラチン化するとペプシンによって分解される。そこで、各温度区
分を試験管2本に1mLずつ分け、一方には0.02g/mLのペプシン/0.1M酢酸溶液を1mL加え、他
方には対照区としてペプシン溶液の代わりに0.1M酢酸溶液1mLを加え、5℃で16時間反応させ
た後、電気泳動により調査を行った。その結果を図1に示した。
加熱温度が20℃以下の場合、ペプシン処理したα鎖はペプシン未処理の場合とほぼ同様の染色
強度であったが、30℃以上のペプシン処理区は、α鎖が消失して低分子側バンドがわずかに見ら
れる程度であった。従って、0.1M酢酸溶液に溶解させたコラーゲンは、30℃以上でゼラチン化す
ることが明らかになった。
この結果は、ここには示さなかったが、粘度を指標としたコラーゲンの変性温度とほぼ一致し
ていた。
(2)サバ皮からのコラーゲン直接調製
コラーゲンの精製過程を経てゼラチンを調製した場合、コスト等の点で問題があるため、サバ
皮から直接ゼラチンを調製する条件について検討した。
− 15 −
ア 加熱条件の検討
120
原料サバ皮は、魚臭が強く感じられた
115
ため、脱脂処理として、サバ皮52.97gを
200mLのアセトンで3回洗浄した後、5
110
染色強度率(%)
℃で乾燥を行い、12.72gの脱脂サバ皮を
得た。脱脂サバ皮1.2gに冷水98.8gを加
え、氷冷しながら、10,000×gで5分間
ホモジナイズを2回行った。ホモジネー
ト13gを試験管4本に分注し、40℃、
105
100
95
40℃
50℃
80℃
90℃
90
50℃、80℃及び90℃で加熱しながら、30
85
分、60分及び90分後にそれぞれ3mL採
80
取して急冷した。
0
20
40
60
80
加熱処理後のホモジネートは、2 5 ℃
加熱時間(min)
1 0 , 0 0 0 ×gで2 0 分間遠心分離し、上清
図2 ゼラチンに及ぼす加熱温度の影響
100
0.5mLを2mLのタンパク溶解液に加え、
表1 ゼラチンの特性に及ぼす脱脂処理の影響
100℃で2分加熱した。その後、25℃で
1夜攪拌し、電気泳動に供した。結果を
透過液特性
図2に示した。α鎖の染色強度は、未加
熱を100とした染色強度率で示した。
これを見ると、各区分とも変動がある
ものの、最も高い90℃加熱温度区分にお
いて、60分経過後α鎖の減少が認められ、
ゼラチンの熱分解が起こっているものと
匂い
味
歩留(%)
水分(%)
粗脂肪(%)
粗タンパク質(%)
粗灰分(%)
炭水化物(%)
未脱脂
脱脂
白濁、酢酸臭
魚臭、油滴
酢酸臭・魚臭
塩味
薄い白濁
無臭
無臭
無味
29.1
7.5
0.2
61.6
7.5
23.2
65.8
6.8
0.1
74.3
6.0
12.8
推測された。
以上のことをもとに、サバ皮ゼラチン
の直接抽出方法を図3にまとめた。
2.サバ皮ゼラチンゲルの性質
前述の工程によって得られた乾燥ゼラチンを試料としてゲルを調製し、一般成分、融点及び物性
について調べた。
(1)一般成分
乾燥ゼラチンの一般成分は、表1の脱脂区分に示した。JIS規格によると、ゼラチンは水分
16%以下、灰分2%以下、油脂分0.5%以下と規定されている。サバ皮ゼラチンは水分6.8%、灰
分6.0%、粗脂肪0.1%であることから、水分、粗脂肪で規格を満足したが、灰分が規定値より上
回っていたことから、原料とするサバ皮の水洗処理などを行う必要があると考えられた。
(2)融 点 ゲル化したゼラチンが融解する温度(融点)は、ゼラチンゲルを特徴付ける重要な指標である
ため、熱分析計でこれを測定した。
脱脂皮を原料に調製したゼラチンゲルの融点はJIS規格で決められている、10質量%で23℃で
あった。
(3)物 性
ゼラチンゲルの物性は、ゼラチンの特徴を示す重要な項目である。そこでJIS規格に定められ
た方法に従って、サバ皮ゼラチンのゲル物性を測定した。
− 16 −
すなわち、ゼリーカップ2)に乾燥ゼラ
冷凍サバ皮
チン7.5gを量り取り、105.0gの蒸留水
を加えてスターラーで攪拌しつつ室温
解
で3時間膨潤させ、65℃で25分間溶解
凍
し、この間蒸発して減少した重量を蒸
脱脂・乾燥
留水で元に戻した後、1 0 ℃で1 7 時間
脱脂は 4 倍量のアセトンで 3 回
洗浄し、10 ℃程度で送風乾燥あ
るいはシリカゲル乾燥する。
加水(120 倍量)
静置することにより、20/3質量%の
加熱温度が低いとゼラチン化
加熱(80℃ 20 分間) せず、高いと熱分解するので、
ゼラチンゲルを調製した。次にテクス
注意が必要。
チャアナライザーを用い、12.7㎜径円柱
プランジャーで、1㎜/secの押し込み
ホモジナイズ
ミキサーなどを使用し、粉砕す
る。
試験を行った。JIS規格2)で規定されて
いる4㎜侵入時の応力としてゼリー強
ろ
過
濃
縮
No.1 のろ紙で吸引ろ過する。
度を求めた。
その結果、脱脂サバ皮ゼラチンのゼ
60 ℃で 5 時間程度送風する。
リー強度は107gで、JIS規格のゼラチ
ン4種に相当した。
ゲル化
5℃で 1 夜保温してゲル化させる。
裁
断
太めのうどん状に裁断する。
乾
燥
ゲル同士接触しないように
20 ℃以下で 20 時間程度送
風乾燥する。
図3
サバゼラチンの製造工程
要 約
1.0.1M酢酸に溶解させたサバ皮コラーゲンをゼラチン化させる場合、加熱条件は30℃5分間∼
80℃20分間の範囲が適正であった。
2.サバ皮から水で直接ゼラチン抽出する場合、加熱条件は40℃30分間∼90℃30分間の範囲が適
当であり、適正な抽出液量は乾燥原料の約120倍程度であった。
3.サバ皮から水で直接ゼラチン抽出する場合、脱脂工程は調製したゼラチンゲルの匂い、味、
外観を改善する効果があった。
4.調製した脱脂サバ皮ゼラチンゲルの融点は、JIS規格に規定された10%(w/w)濃度での融
点は、23℃であった。調製した脱脂サバ皮ゼラチンゲルのゼリー強度は107gでありJIS規格
のゼラチン4種に相当した。
引 用 文 献
1)Lowry, O.H., Rosebrough, N.J., Farr, A.L. and Randall, R.J.. Protein measurement with Folin phenol
reagents. Biol. Chem. 1951;193:256−275.
2)日本工業規格(JIS) にかわ及びゼラチン(K 6503:2001)
− 17 −
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