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2016年度内容(暫定版) - 京都大学農学研究科森林水文学研究室

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2016年度内容(暫定版) - 京都大学農学研究科森林水文学研究室
1
2
FOREST HYDROLOGY
森林水文学
YOSHIKO KOSUGI 小杉緑子
1. 森林水文学とは
2. 地球規模の水循環
3. 水文学の基礎概念
4. エネルギーと水循環
5. 降水
6. 蒸発散
7. 雨水流動
8. 雨水流出
9. 緑のダムと森林水文学
10. 水質形成と森林水文学
11. ガス交換と森林水文学
12. 水文環境が規定する様々な森林生態系機能
13. すべてが連動する地球システム
水文学の定義
水の姿:雲、雨、雪、氷河、川、湖、泉、海・・・・
水の基本的な性質=( 循環する )
この過程で、自然界に物理的、化学的、生物的な作用を及ぼす
 自然界における水の循環:( 水文学的循環 hydrologic cycle )
 水循環を中心概念とする学問分野:( 水文学 hydrology )
狭義には:陸地の水のあり方、循環、分布、特質を自然科学的に研
究する学問分野
広義には:水資源の開発、水の適正な利用、水と環境との関係、水
文環境の管理など、人間と水との係わりあいに関する研究を含む
水文学:水に関する総合科学
1.森林水文学とは
3
水循環の概念の時代的な変遷
4
 古代:エジプト文明・メソポタミア文明の時代から、ナイル川やチグ
リス・ユーフラテス川の流量(水位)の変動や灌漑の経験的な知識
が積み重ねられてきた
 旧約聖書・ギリシャ・ローマ時代:「水循環」が意識される
(伝道の書)’All stream run to the sea, but the sea is not full; to
the place where the stream flow, there they flow again.’
(プラトン, BC428-348)「神秘に包まれた地下の貯水池タルタルスが、
泉や川に水を送っている。すべての川や海の水はこのタルタルスへ
戻ってくる。」
(アリストテレス, BC384-322)「川は地下の洞窟に発しており、その
源は(1)雨水の浸透、(2)地中で空気が変化してできた水、(3)地中
のいずこからか昇ってくる蒸気、の3つである。」
(大プリニウス, 23-79)「海水濾過説」(アリストテレスの(3)の源は海
である)
=逆向き水循環説のはじまり
水循環の概念の時代的な変遷
5
 中世:アリストテレス・大プリニウスの権威に寄りかかって2000年間
停滞
「海から蒸発した空気は山中の洞くつでひやされて水に変わる。海水
はまた地下の洞くつへ流入して陸の下まで運ばれ、その過程で塩分
が除去される。これらの水が泉や川の源であり、降水はその一部でし
かありえない。」
レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)も、デカルト(1596-1650)も、
海水濾過説を踏襲
→ このまま日本(江戸時代)にも伝わる
「二儀略説」(小林謙貞,1601-1683)(日本の天文書の古典)
「大河ハ海ヨリ出ルコト歴然ナリ」と記されている
水循環の概念の時代的な変遷
6
 水文学の夜明け:
パリシー(仏1514-1590) 降雨浸透説(=泉と川の源は雨だけである)
ペロー(仏1608-1680) セーヌ川源流の小流域で降水量を実測し、推
定流量の6倍もあることを示す。
マリオット(仏1620-1684) セーヌ川流域の河川流量を浮子で正確に
測定し、年間水収支を計算。流出量は降水量の1/5に過ぎないことを
示す。
ハーレー(英1656-1742) 地中海からの夏の日中の蒸発量を蒸発皿
による観測値から算定し、地中海に流入する主要9河川の日流量の3
倍もあることを示す。
水文学の歴史からわかること
( 観測が水文学の基礎である )
観測の労を惜しめば、賢者も真理に到達することはできない
水文学の定義
7
 ユネスコによる国際水文学10年計画(International Hydrological
Decade) 発足にあたっての、水文学の定義(1964年)
‘Hydrology is the science which deals with the waters of the earth,
their occurrence, circulation and distribution on the planet, their
physical and chemical properties and their interactions with the
physical and biological environment, including their responses to
human activity. Hydrology is a field which covers the entire history
of the cycle of water on the earth.’ (課題1.1:日本語に訳せ)
~1970年代 自然科学は細分化・専門化の時代
水圏科学ー海洋学
陸水学ー地下水学、湖沼学、河川学などへと細分化
 一方で、水文学は(学際科学 inter-disciplinary science)の方向へ
(水文学の研究領域に、水資源開発や水文環境の保全という、人類
にとって最重要の課題が含まれているから)
水文学の様々な分類
 扱う地域の広さで分類:
地球:「地球水文学」(global hydrology)
地球規模の水循環が対象。降水・蒸発・流出とならんで水蒸気の
水平輸送も扱う。
地域:「地域水文学」(regional hydrology)
hydrological region(水文地域:気候区程度の拡がりをもつ)での
水の移動を扱う。
流域:「流域水文学」(basin hydrology)
Drainage basin(流域)単位での水の移動を扱う。流出解析が中心
課題。
斜面:「斜面水文学」(hillslope hydrology)
接地気層および不飽和帯&飽和帯土壌での水の流れを扱う。実
測・理論の両面で非常に進歩している。
8
9
水文学の様々な分類
 基礎か応用かで分類:
基礎水文学:水循環の諸過程を定量的に理解することが目的。
水収支(water balance)、水循環に伴う物質収支などが中心課題。
応用水文学:
工学的水文学(engineering hydrology)
治水・利水などの工学施工上必要な水文量を調べる
森林水文学(forest hydrology)
森林が水循環に与える影響の実態把握と予測
農業水文学(agricultural hydrology)
農地が水循環に与える影響の実態把握と予測
都市水文学(urban hydrology)
都市が水循環に与える影響の実態把握と予測
10
 水の輸送過程で分類:
降水:「気象学」(meteorology)、「気候学」(climatology)
蒸発散:「接地気象学」(boundary-layer meteorology)、「植物生理
学」(plant physiology)
浸透:「土壌物理学」(soil physics)
地表流出:「地形学」(geomorphology)、「水理学」(hydraulics)
地下流出:「水文地質学」(hydrogeology)、「水理学」
 水の水体で分類:
 解析手法で分類:自然現象を予測するのにどのような手法によるか
確率過程水文学(stochastic hydrology)
決定論的水文学(deterministic hydrology)
水文学を学ぶにあたって
水文学の様々な分類
11
河川:「河川学」
湖沼:「湖沼学」
地下水:「地下水学」 (河川学、湖沼学、地下水学を併せて「陸水学」)
雪と氷:「雪氷学」、「氷河学」
海洋:「海洋学」
日本における森林水文学
12
 「水文学」の特徴:
 テーマ:森林は( 緑のダム )か?
例:「地下水学」と「地下水水文学」の違いは?
「地下水学」は純粋な水理学の領域を扱うのに対して、「地下水水文
学」は人間活動の影響や水法までを扱う広義の学問
森林が、洪水・土砂災害や、渇水に与える影響を明らかにするための
学問。短期~長期にわたる様々なタイムスケールでの水循環に与える
影響を扱う。 → 日本固有のニーズ
水文学は、総合的・学際的な方向を指向する
→ 森林水文学 : 水と森に関する総合科学
 水文学を学ぶにあたって:
「水文学を学ぶには、学部段階で水文学プロパー以外の関連学科の
いくつかを<深く>勉強することが望ましい」(ユネスコ、1972)
学際的(inter-disciplinary)な学問は、独立した学問(discipline)が
あって始めて成立する
1899年 東京帝国大学農学部林学科・「森林理水及砂防工学」研究
室の設立→ 愛知演習林白坂試験地(1930~)
1925年までに4大学7専門学校に森林理水・砂防工学研究室が誕生
平田徳太郎(@林業試験場):「森林水文学」の用語を最初に提唱
(1933年)、岡山県渇水の際に「森林はため池の水量維持のために有
益か有害か」の議論(平田・山本論争)
→ 竜の口試験地(岡山)・宝川試験地(群馬) (1937~)、釜淵試験地
(山形)・上川試験地(北海道)(1939~)における長期水文観測
日本における森林水文学は砂防学分野の研究者により推進
森林水文学の広がり
13
1960年代~1990年頃
全国の砂防学系研究室出身の研究者が降雨流出応答・土壌浸透・蒸発散などの
森林水文学の研究領域を開拓
→ 京都大学桐生試験地(1967~)
1990s ~現在まで
派生分野へと研究領域を拡大
降雨流出応答 => 「緑のダム」
土壌浸透 => 「水質浄化」
蒸発散 => 「温暖化緩和」「地球気候システムの安定」「気候緩和」「大気浄化」
に関わる機能を総合的に研究する方向へ
 ガス交換と森林水文学:
→( 生物環境物理学 Environmental Biophysics )
参考書
狭い意味では:森林における水循環や降雨流出過程について調べる研究領域
広い意味では:森と水に関わる様々な局面から、森林と環境との関わり合いや相
互作用について調べる広範囲な研究領域
現在社会をとりまく様々な環境問題に対する我々の行動哲学を確立するために、
森林の機能と役割を明らかにしていこうとする今日的な諸研究に、この「水文学
的視点」を組み込むことで、新しく有益な知見を得ることができる。
 水文環境が規定する森林生態系機能:
→( 生態水文学 Ecohydrology )
前半:森林水文学っぽい水文学の基礎
後半:森林水文学と関連する周辺の分野
教科書は?:ない
森林水文学 FOREST HYDROLOGY : より広い研究領域へ
森林における水循環は、同時に、エネルギー・炭素・窒素・およびその他の微量ガ
ス態物質や溶存態物質などの循環と、密接な関係がある。この関係における
「水」の影響力は大きく、「水文学的視点」が、森林と環境との相互作用を知り森
林の機能を読み解く上で、不可欠。
 水質形成と森林水文学:
→( 生物地球化学 Biogeochemistory )
この講義の「森林水文学」は?
今日の森林水文学
14
15
参考書
16
17
地球上の水の量
18
2.地球規模の水循環
Trenberth et al, 2007, J. Hydrometeor, 8, 758-769
19
地球上の水の量
20
 地球の表層5kmにおける最も多い物質は水であり、その総量はお
よそ( 14億 )km3
 地球の水の97.5%は( 海水 )が占めており、淡水は2.5%程度に
過ぎない
地球上の水の量
 淡水の70%程度が( 氷河 )・( 永久雪氷 )で、凍っている
 淡水の30%程度が( 地下水 )・( 土壌水分 )などで、一部が人
間に利用される
 淡水のうち( 湖 )・( 河川水 )の占める割合は0.3%に過ぎな
いが、人間はおもにこの水を利用して生活している
http://www.grida.no/publications/vg/water2/page/3217.aspx
 降水のもととなる( 大気中の水蒸気 )は全水量の0.0009%程度
地球の水循環
21
地球の水循環
22
 陸地には、113,000 km3/yearの( 降水 )がある
 このうち73,000 km3/yearは( 蒸発散 )によって大気中に戻さ
れる
 ( 降水 )から( 蒸発散 )を差し引いた残りの40,000 km3/year
が河川・湖・土壌・地下水などを涵養しつつ、最終的に海への
( 流出水 )となる
地球上の水は極めて偏在している。水循環で重要な役割を果たし
ている湖沼水・河川水・土壌水・地下水の一部・水蒸気は量的には
ごくわずかである。
Trenberth et al, 2007, J. Hydrometeor, 8, 758-769
世界の水収支
23
Fig. 1. The long-term (1950–2000) annual average P/annual average ETp ratio is shown. Assuming that precipitation is the only
source of water, areas whereGlobal distribution of he ratio of this ratio is >1.0 are described as energy-limited (as ETa is limited
by energy, not water) and areas where the ratio is <1.0 are termed water-limited (ETa is limited by water, not energy).
McVicar et al., 2012, Journal of Hydrology 416–417
 地域によって( 降水量 )、( 可能蒸発散量 )がともに大きく異なる
世界の水収支
Fig. 8 Global distribution of average annual runoff. Fekete et al., 2002, Global Biogeochemical Cycles 16
 地域によって( 流出量 )も大きく異なる
→ 水資源管理や水循環への理解が重要に
24
世界の水利用の実態
25
世界の水利用の実態
26
 世界の水需要:約3,800 km3/yr
(2000)で、100年間でほぼ10倍
に増加
 陸地に降る降水量
( 113,000 ) km3/yr の約1/30
 陸地から海への流出量
( 40,000 ) km3/yrの約1/10
水不足はなぜ起こるのか?
 水資源賦存量 =(降水量ー蒸
発散量)×面積
(これを人口で割ると、右図に)
(さらに、水資源賦存量のすべてが
使える水ではなく、水貯留能力や、
水質も問題になってくる) http://www.grida.no/publications/vg/water2/page/3238.aspx
http://www.grida.no/publications/vg/water2/page/3229.aspx
水不足は、水の分配の空間的・時間的不均衡によって起こる
世界の水利用の実態
27
 全世界の水需要のうち、70%近くが( 農業用水 )、20%程度が
( 工業用水 )、10%程度が( 生活用水 )である。
「水循環」は多くの国々にとっての大問題
28
水を消費するとは、どういうことか?
 工業用水・生活用水の場合
生物の体の一部に → 汚水として排出されるか、蒸発して大気中へ
汚水として排出される → 浄水過程を経て最終的には海へ
 農業用水の場合
植物が蒸散したり、耕作地や水路から蒸発したりして、大気中へ
汚水として排出される → 浄水過程を経て最終的には海へ
つまり、
 水を消費する = ( 汚れる ) or ( 蒸発する )
 水の総量は減らず、蒸発過程を経て、降水として絶えず新しい水が
再生されている
 水資源問題で重要なのは、水循環過程の持続性と、水質の維持
2004年のアラル海(実線は1850年の海岸線)
1989年(左)および2008年(右)のアラル海
アラル海の縮小:ソ連の政策による綿花栽培のための灌漑が招いた
「20世紀最大の環境破壊」
→( 水循環 )に対する科学的な理解が必要だった
安易なイメージに頼った「自然改造」は、深刻な環境問題を引き起こす
29
参考:インドの場合
日本の水資源
30
降水量( 1718 mm )
一人当たりの水資源量は世界
平均の1/4
http://www.grida.no/publications/et/ep4
 急峻な地形+都市化の進展により、
水貯留能力が低く、( 洪水 )や
( 渇水 )が起こりやすい
32
水資源に恵まれた日本の、世界の中での課題は? 31
課題2.1:森林は水循環にどのような影響を与えていると思いますか。
思いつくことを2項目以上挙げよ。(なるべく抽象的ではなく科学的な観
点で因果関係を述べてください)
環境省HP
 間接的に世界の水資源( バーチャルウォーター )を大量消費
→地球規模での水資源問題とも無関係ではいられない
流域スケールの水循環を詳細に明らかにし持続可能な管理を行うとと
もに、全球スケールでの水循環についても影響評価が必須
課題2.2:永久雪氷がすべて融けたら、海面は何m上昇するか
(氷(水換算体積26,350,000 km3)はすべて陸地にあり、融けた後は
海上に敷き詰めると考え、地球の半径6,500km、地表面の7割が海と
して計算する。)
(26,350,000 / (0.7×4×3.14×6,5002))×103 = 70.9 (m)
33
34
水循環
水文学の中心概念
( 水循環
)
Hydrologic cycle
water cycle
3.水文学の基礎概念
(水循環概念図 榧根「水文学」P16)
水収支式
36
35
 流出量 =[ 降水量
] - [ 蒸発散量
] - [ 貯留変化量 ]
Runoff = Precipitation - Evapotranspiration - storage
precipitarion evapotranspiration
水収支式・もうすこし詳しく
 1.流出量runoff = 降水量precipitation - 蒸発散量evapotranspiration 貯留変化量storage
 2.蒸発散量 = [ 遮断蒸発量
evaporation of intercepted rainfall] +
[ 蒸散量
transpiration] + [ 土壌面蒸発量
evaporation from soil]
 3.遮断蒸発量 = 遮断降雨量 interception = [ 林外雨量 precipitation]
– [ 樹冠通過雨量
throughfall] – [ 樹幹流量
stemflow]
evaporation precipitariontranspiration
storage
runoff
様々な量水堰での流出量観測の例
through fall
stem
flow
 流域のサイズや流出特性に合った( 量水堰 )の選択が重要
runoff
storage
37
水文学の扱うスケール
水文調査の基本:
( 降水量 )( 蒸発散量 )( 流出量 )( 涵養量 )などの
( 流束 フラックス flux )を測定し、水文システムの入出力や貯留量
を明らかにすること
=( 水収支 water balance )の把握
フラックス : 単位時間あたりに単位面積を通過する流体、放射エネルギー、粒子等の流束
水文学の基本的な自然地域単位: ( 流域 )
水の流束の単位:( 水高 )に換算してmmで表す
課題3.1:世界の陸地には平均して一年に113,000km3の降水がある。
また海には373,000km3の降水がある。それぞれ水高に換算すると何
mmにあたるか。地球の半径6,500km、地表面の7割が海として計算
せよ。
Watershed, Catchment, Drainage basin, River basin
A.
水文学の基本的な時間単位:
(暦年 calendar year ):1/1-12/31のこと
(水年 water year ):水文現象の時間的変化の少ない季節を境に取る
陸地
(373,000) / (0.7×4×3.14×6,5002)×106 = 1,004 (mm)
39
大気中の水蒸気の含有量には、様々な表現方法が使われる
[hPa]):湿潤空気中の水蒸気の分圧
[hPa]):ある温度の空
(飽和水蒸気圧 saturated vapor pressure,
気が含むことのできる最大の水蒸気量
6.1078 10
.
.
この式のTの単位は℃
(相対湿度 relative humidity, ,
,
100
%]):
⁄
Saturated vapor pressure (hPa)
(水蒸気圧 vapor pressure,
120
80
40
20
0
10 20 30 40 50
飽和水蒸気圧曲線
):ある水蒸気圧の空気が相対湿度100%になる
,
乾燥空気密度、水蒸気密度の求め方
理想気体の状態方程式 ideal gas law
:圧力[Pa]、 :体積[m3]、 :モル数[mol]、 :気体定数8.314[J mol-1
K-1]、 :温度[K]
(Pa=N m-2 J=N m)
密度[kg m−3]はn/V [mol m−3]×分子量M [kg mol−1]なので、
M ⁄
乾燥空気の密度 [kg m−3]についての式: 水蒸気の密度 [kg m−3]についての式: M ⁄
60
Temperature (degC)
(大気飽差 vapor pressure deficit,
40
100
図①
(露点 dew point,
温度
(113,000) / (0.3×4×3.14×6,5002)×106 = 710 (mm)
海
→より大きなスケール・より小さなスケールへ段階的・螺旋的に進歩
現象の理解に最も適した空間的・時間的スケールの選択が重要
水蒸気含有量の表し方
38
流束(フラックス)の単位
hPa]):
乾燥空気の分子量 : 0.028966 kg mol-1、水蒸気の分子量 :
0.018016 kg mol-1なので、分子量の比 ⁄ は0.622
ただし、eやPは[Pa]か[hPa]か単位に注意

分子量をかけない( モル密度 )[mol m−3]の単位もよく使われる。
水蒸気含有量の表し方つづき
(モル混合比
⁄
41
[ppt, mmol mol-1]):
Pは大気圧つまり湿潤空気の圧力[hPa]
⁄
 水の蒸発にはエネルギー(= 気化潜熱 )が必要
 エネルギー(潜熱)フラックス、水量(蒸発散量)、 H2Oモルフラック
スの相互関係
 E W m -2  ___ E kg kg m -2 s -1  mm s -1  ___ E mol mol m -2 s -1 
0.622 ⁄
specific humisdity, ): 単位湿潤空気質量あたりの水蒸気
(比湿
の質量で、水蒸気密度 を湿潤空気密度 で割った数。
42
H2O concentration,
(混合比 mixing ratio, ): 単位乾燥空気質量あたりの水蒸気の質
量で、水蒸気密度 を乾燥空気密度 で割った数。
⁄
蒸発散の単位:潜熱フラックス、蒸発散量
0.622 ⁄
0.378
  2500000  2400 T ___ 1mol  18g
:気化潜熱(J kg-1), T:気温(℃)
0.622 /
[kg m-3]):単位体積空気中の水
(絶対湿度 absolute humidity,
蒸気の質量で、(水蒸気密度
vapor density )とも呼ばれる。
0.622 ⁄
0.378
0.2167 /
43
土壌水の表し方
地表面より下にある水を地中水subsurface waterという。
地中水はさらに、地下水面water tableより上の部位①( 土壌水帯 )
にある( 土壌水 soil water )と、下の部位②( 地下水帯 )に
ある( 地下水 groundwater )とに分けられる。
地下水面直上の水で飽和した部位③ ( 毛管水縁 capillary fringe )
を除いた部位を④( 不飽和帯
unsaturated zone )、地下水帯と飽
和毛管水帯を合わせたものを⑤( 飽和帯 saturated zone )と呼ぶ。
土壌水の表し方
44
土は通常( 固相 )( 液相 )( 気相 )の三相からなる。
100(%)
( 間隙率 porosity )= ⁄
( 間隙比 void ratio )= ⁄
100(%)
( 体積含水率
volumetric water content )= ⁄
100(%)
⁄
( 含水比
gravimetric water content )=
100(%)
degree of saturation )= ⁄
100(%)
( 飽和度
体積
重量
空気
水
④
③
⑤
①
土粒子
②
(杉田・田中編「水文科学」P134)
(杉田・田中編「水文科学」P135)
貯留量と水の滞留時間
45
水の滞留時間
46
システムによる平均滞留時間と滞留時間分布関数との関係
水の滞留時間を求めることで貯留量や涵養量を知ることができる
hydrologic residence time ):水分子が水
( 水文学的滞留時間
循環の過程で特定の水文システム中を通過するのに要する時間
( 平均滞留時間 mean residence time ):
=( 貯留量 storage )/( 流束 flux )
拡散流システム:流入したばかりの若い水よりもある程度年齢の
古い水のほうが流出しやすく、水はシステム内を適度な混合を繰
り返しつつ通過する。(入口と出口が離れて適当な流速を持つ湖)
ピストン流システム:1平均滞留時間で水は100%入れ替わる。
(涵養域と流出域が離れている被圧帯水層)
完全混合システム:1平均滞留時間で63%の水が入れ替わり、
99%入れ替わるには平均滞留時間の4.6倍必要。(完全に混合し
ている浅い湖、樹冠に貯留された水の遮断蒸発、無数の支流で
養われている湖、etc)
(システムによる平均滞留時間と滞留時間
分布関数との関係 榧根「水文学」P28)
様々な水の平均滞留時間
47
ショートカットシステム:年齢の若い水が古い水よりも流出しやす
いシステム。1平均滞留時間で大部分の水が入れ替わるが、全て
入れ替わるには長い時間が必要。(大気中の水蒸気、etc)
水循環に関する重要語句
課題3.2:水循環の各パーツに該当する英単語を、覚えよう
水の平均滞留時間 http://www.grida.no/publications/vg/water2/page/3216.aspx
蒸発
蒸散
蒸発散
降水
遮断
樹冠通過雨
樹幹流
土壌水
不飽和帯
地下水
飽和帯
貯留
流出
地下水流出
表面流出
Evaporation
Transpiration
Evapotranspiration
Precipitation
Interception
Throughfall
Stem flow
Soil water
Unsaturated zone
Groundwater
Saturated zone
Storage
Runoff
Groundwater runoff
Surface runoff
48
49
50
放射環境
水循環のエネルギー源は( 太陽 )からの( 放射エネルギー )
大気―地球システム内のすべての物理的過程に必要なエネルギーの
99.97%は太陽から供給される
プランク関数 Planck’s function
放射エネルギーの波長ごとの強度を表す関数
4.エネルギーと水循環
積分すると― (ステファン・ボルツマンの法則 Stefan-Boltzmann law )
表面温度 [K]の物体から射出される放射 [W m-2]は の4乗に比例
は射出率、はステファン・ボルツマン定数(5.67*10-8 [W m-2 K-4])
微分すると― ( ヴィーンの変位則
Wien’s displacement law
)
2897.769⁄
[m]: 放射の強度が最大となる波長
地球の表面での放射エネルギー
51
←大気中のガスによる吸収
オゾンによる紫外線吸収
温室効果ガスによる赤外線吸収
←太陽(K=6000)からは短波放射が入る
52
放射収支
 ( 放射収支
) radiation balance
Sd
Rn = Sd – Su + Ld – Lu
Ld
Rn : ( 純放射・正味放射 ) net radiation
Sd : ( 下向き短波放射・日射 )
Su
Lu
downward shortwave (solar) radiation
Su : ( 上向き短波放射
)
upward shortwave radiation
←地球(K=290)からは長波放射
が出る
Ld : ( 下向き長波放射 )
Lu :( 上向き長波放射 )
8-14mm ‘大気の窓’
紫外線10-380nm
可視光線380-770nm
赤外線770nm-1mm
upward longwave radiation
⁄
400-700nm光合成有効放射
(Dingman「Physical Hydrology」P53)
4成分放射計
downward longwave radiation
:( アルベド )
Unit W m-2
エネルギー収支
地球のエネルギー収支
53
54
 ( エネルギー収支 ) energy balance
Rn = H +  E + G + S + P
Unit W m-2
Rn: ( 純放射・正味放射 ) Net Radiation
H : ( 顕熱フラックス
) Sensible Heat Flux
E : ( 潜熱フラックス ) Latent Heat Flux
G : ( 地中熱流量 ) Soil Heat Flux
S : ( 地表面から測定高までの貯熱量変化 ) Physical Storage Flux
P : ( 光合成による化学エネルギへの変換 ) Photosynthesis energy
渦相関法(6.へ)
Su
Sd
熱流板
H
地表面状態の違いは、
エネルギー収支の違いを生み、
エネルギー収支の違いが環境
の違いを作り出す
Lu
Ld
課題4.1 放射収支、エネルギー収支につい
て説明せよ。
惑星温度と地球環境
lE
Trenberth et al. 2009
 潜熱フラックス
55
(= 蒸発散 )が水循環の駆動力
 ( 惑星温度 ) Planetary temperature
 地球と月の地表面におけるエネルギー収支の比較
Tplanetary=(L/)1/4
地球
大気あり => H
(ステファン・ボルツマンの法則より)
地球の惑星温度と、地表面温度をそれぞれ求めると―
(= 1,= 5.67*10-8 [W m-2 K-4]とする。Lは前ページの地球から宇宙
への長波放射、ないし地表面における上向き長波放射)
Tplanetary = ( 255K (-18C) )
Tlandsurface = ( 289K (16C) )
56
エネルギー収支の重要性
水あり => E
月
大気なし => no H
Ld (温室効果)
Rn = H +  E + G
T = 16 C
水なし => no E
no Ld
Rn = G
Daytime : T = 130 C
地球は宇宙からは寒そうに見える!
しかし、水蒸気などの温室効果のために、実際の地球の地表面温度
はもっと高くなる。
夜間 : T = -170 C
エネルギー収支は地球環境を理解する上で最も重要な概念
大気循環・エネルギー循環・水循環と植生
The atmospheric circulation
放射収支の例
57
58
(杉田・田中編「水文科学」P27)つくばの草原の例
大気循環
↓
水蒸気・潜熱・顕熱の輸送
↓
熱環境の平準化
↓
気候の決定
↓
植生の決定
↓
 植生によって水循環にどのよう
な影響が?(=森林水文学)
(NASA illustration)
様々な地表面におけるアルベド ・射出率
59
様々な地表面における上向き短波放射
 森林はアルベドが低くSuが小さい
表 2.1 主な地表面の射出率とアルベド.オーク(1981),近藤
(2000),Brutsaert (2008)などによる.
地表面の種類
射出率
裸地(有機物の多い土壌面)
(鉱物質の砂質土)
草地
森林
雪面(古い雪~新雪)
水面(小天頂角~大天頂角)
0.95~0.97
0.97~0.98
0.97~0.98
0.96~0.99
0.82~0.99
0.92~0.99

アルベド
水田
s
0.05~0.35
0.15~0.3
0.05~0.25
0.4~0.95
0.03-0.1~0.1-1.0
草原
アスファルト面
芝地
アカマツ林
(杉田・田中編「水文科学」P27)
(杉田・田中編「水文科学」P28)
60
様々な地表面における上向き長波放射
61
様々な地表面における純放射(正味放射)
62
 森林は他の地表面に比べてRnが大きくなる
 森林は表面温度が低くLuが小さい
草原
アスファルト面
水田
アカマツ林
芝地
草原
芝地
水田
アカマツ林
アスファルト面
(杉田・田中編「水文科学」P28)
様々な地表面における潜熱フラックス
 森林は蒸発散λEが大きい
(杉田・田中編「水文科学」P29)
63
様々な地表面における顕熱フラックス・地中熱流量
 森林はHも大きい
64
 森林はGが小さい
水田
アカマツ林
草原
芝地
アスファルト面
(杉田・田中編「水文科学」P35)
(杉田・田中編「水文科学」P35)
65
66
降水の発生プロセス
( 降水 precipitation ):大気から地表への水分供給現象を総称
雨の場合( 降雨 rainfall )、雪の場合( 降雪 snowfall )
 降水発生の過程:
①気流による水蒸気輸送
 ( 可降水量 )(単位底面積の気柱に含まれる水蒸気の総量)だけ
では降水量に足らないことが多く、降水の継続には他所からの気流
による水蒸気の輸送と供給が必要。
↓
②気団の上昇による水蒸気の凝結
 ( 対流性降水 ):積雲・積乱雲や積乱雲群を生む熱的対流が原因
 ( 前線性降水 ):温暖前線や寒冷前線が原因
 ( 低気圧性降水 ):低気圧が原因。
 ( 地形性降水 ):地形による強制的な上昇気流が原因
↓
③降水粒子の成長→④降水
5.降水
降水システムの階層構造
67
地球規模の降水量変動
68
 降水量の地理的差異:
 赤道付近:( 熱帯内収束帯 ITCZ )
での上昇気流のため降雨が頻発
 緯度20-30°付近:( ハドレー循環 )
による下降気流のため高気圧となり降
水量は少ない
 緯度40-60°付近:フェレル循環&極
循環による亜寒帯低圧帯のため多雨
に
 ( 降水システム ):降水
をもたらす対流・攪乱シス
テム
マクロスケール(>2000km)
( 低気圧 )( 前線 )
↓
メソスケール(200-2000km)
(雲クラスター)
↓
メソスケール(20-200km)
(線状対流系 積乱雲群 )
↓
メソスケール(2-20km)
(降水セル
積乱雲 )
(杉田・田中編「水文科学」P61)
(杉田・田中編「水文科学」P63)
地球規模の降水量変動
69
70
降水量の観測
 大気・海洋相互作用:
 ( エルニーニョ・南方振動・ENSO )
熱帯太平洋域だけでなく、アジアモン
スーン、亜熱帯高気圧、偏西風、温帯
低気圧活動等にも影響
 地上観測
( 転倒ます型雨量計 )
通常は口径20cm、1転倒0.5mm
転倒ます残り分の誤差や
捕捉率の問題に注意
 大気・陸面相互作用:
 (積雪 )(植生 ) (土壌水分 )
が重要な要素
 面積降水量の推定
 算術平均法
 ティーセン法
 等降水量線法
 雨量-高度法
例) ユーラシア大陸の冬の積雪面積と夏の
インドの降水量に負の相関とか、アマゾン森林
伐採やサヘルの砂漠化による降水量の減少
(数値シミュレーション)とか
 降水のリモートセンシング
( レーダー雨量計 )
アメダスによる地上観測データで
補正→レーダー・アメダス解析雨量
 降水再循環
 ( 降水再循環率 ):右図
高:チベット高原・北半球高緯度特にシベリア(夏)・
地中海北岸(夏)・アフリカ・南米中東部
低:乾燥・半乾燥地
雪の場合
71
 降水形態の判別
( 気温 )と( 湿度 )の関係で決まる
(湿球温度が0℃以下で雪)
 積雪水量
積雪を水量に換算するには、( 雪の密度 )に関する情報が必要
Hw: 積雪水量、s:積雪層の全層平均密度、Hs:積雪深
雪の密度は、新雪で0.07-0.15g cm-3、融雪水を多く含む雪で0.45-0.5g cm-3
 積雪量の測定
小規模な雪:ヒーター付転倒ます型雨量計
一般的には:積雪計(超音波式、光電式)
(杉田・田中編「水文科学」P70,71)
(杉田・田中編「水文科学」P67,69)
降水量の評価法
72
( ハイエトグラフ ):降水量の時間変化を
表すグラフ
( 降雨強度 ):単位時間当たりの降雨量
10分雨量、時間雨量、日雨量など
 ( T年確率雨量 ):
T年に一度の発生頻度の降雨量
長年の雨量データをもとに経験的に確率分布
を仮定することで、最大1時間雨量、最大日雨
量などの発生確率を求める。砂防計画などで
使われる。
確率紙による確率分布のあてはめ
(プロッティング・ポジション公式、よく使うのはワイブル式)
1/
x
1
x : ○○ 年分のデータから求めた降水量の極値
x : 超過確率
i:データ値の大きいほうから数えたx の順位
(「森林・林業実務必携」P110)
(椎葉他「例題で学ぶ水文学」P17)
73
74
物質の輸送の基本法則
 物質の拡散輸送に関するフィックの法則
‘Under steady state, the flux goes from regions of high concentration to
regions of low concentration, with a magnitude that is proportional to the
concentration gradient.’ (フィックの第一法則 Fick's First Law of Diffusion)
( フラックス ) = ( 拡散係数 ) × ( 濃度勾配 )
flux = diffusion coefficient ×concentration gradient
6.蒸発散
: 物質jのフラックス [kg m-2 s-1], Dj: 物質jの拡散係数[m2 s-1] ,
m−3],z: 距離 [m]
6.1物理的な基礎・植生面の捉え方
2点間のFとして、オームの法則のアナロジー ⁄
↓
Δ
Δ
gj: 物質jの輸送に対するコンダクタンス [m
75
 熱の輸送に関するフーリエの法則
‘The rate of heat transfer is proportional to the temperature gradient
present in a solid.’ (フーリエの法則 Fourier's Law)
( フラックス ) = ( 拡散係数 ) × ( 温度勾配 )
flux = diffusion coefficient ×temperature gradient
H: 顕熱フラックス[J m-2 s-1], k: 熱伝導率[J m-1 s-1 K-1]
T: 温度 [K], z: 距離 [m], DH: 熱拡散係数[m2 s-1],cp: 空気の定圧比熱[J kg-1 K-1],
:空気密度[kg m−3]
2点間のFとして、オームの法則のアナロジー ⁄
↓
Δ
Δ
1⁄ を使う
Δ
T: 温度差[K] , : 距離差 [m]
gH: 熱輸送に対するコンダクタンス [m s-1], rH: 熱輸送に対する抵抗 [s m-1]
Joseph Fourier (1768-1830)
1⁄ を使う
Δ
 j:物質jの密度差 [kg m-3] , : 距離差 [m]
熱の輸送の基本法則
:物質jの密度[kg
s-1],
Adolf Eugen Fick (1829-1901)
rj: 物質jの輸送に対する抵抗 [s m-1]
76
水蒸気圧から水蒸気密度への変換
 比湿 ×湿潤空気密度
0.622 ⁄
0.378
*ほとんどの水文学系の教科書ではP - 0.378e = Pと近似し,の計算とちぐはぐに
⁄
⁄
0.378
 混合比 ×乾燥空気密度
0.622 ⁄
⁄
 基準大気圧での混合比 ×基準大気圧での乾燥空気密度
0.622 ⁄
⁄
 空気密度を経ずに直接水蒸気圧eから水蒸気密度 へ
⁄
*eは[Pa]
0.002167 /
世の中にはいろんな流派の教科書があるので注意が必要
⁄
77
潜熱フラックスの式
 蒸発散 ( E ) および 潜熱フラックス ( E )
顕熱フラックスの式
 顕熱フラックス ( H )
(from Fick’s law for mass transfer)
(from Fourier’s law for heat conduction)
Δ
=
: 蒸発散 [kg m-2 s-1],
密度 [kg m-3]
: 水蒸気輸送に対する全コンダクタンス[m s-1],
:湿潤空気密度[kg
和水蒸気圧 [hPa]
↓
0.378
m−3],P:
大気圧[hPa], e: 水蒸気圧[hPa],
: 温度Ts での飽
0.378 ⁄ 0.622
: 乾湿計定数 [hPa
K-1]
:水の気化潜熱[J
拡散係数を「バルク係数」と風速
の掛け算にとると「バルク式」に
1
: 水蒸気
↓
0.622/
78
C
H: 顕熱フラックス[W m-2], gH: 顕熱輸送に対する全コンダクタンス[m s-1], :湿潤空
気密度[kg m−3], cp: 空気の定圧比熱 [J kg-1 K-1],
Ts: 蒸発面の表面温度[K], Ta:気温[K]
 , cp
0.378
⁄
[kg m-3]
Md = 0.028966 [kg mol-1], R = 8.314[J mol-1 K-1]
kg-1],
cp:空気の定圧比熱 [J
kg-1
K-1]
2500000
2400
[J kg-1]
0.378 ⁄ 0.622
拡散係数を「バルク係数」と風速
の掛け算にとると「バルク式」に
通風乾湿計
 ( 通風乾湿計 ) psychrometer
水を含んだガーゼ等が感部に巻き付けられた
湿球温度計と、その周辺の気温を測る乾球温度
計、通風装置によって構成され、湿球温度と乾球
温度から水蒸気圧や相対湿度を測定する装置。
右写真は、乾湿球温度計にガラス製温度計を
用いるアスマン通風乾湿計。精度が高く、携帯が
でき、野外でも使用できる。
e  es (Twet )  0.66(Tdry  Twet )
e: 水蒸気圧(hPa)
es(T):温度Tにおける飽和水蒸気圧(hPa)
課題6.1: 通風乾湿計の原理を説明せよ。
79
1
0.84
(Pa=N m-2 J=N m)
*Tの単位は℃
0.66 (20℃のとき)
[hPa K-1]
m:混合比,cpd:乾燥空気の定圧比熱1005 [J
kg−1 K−1]
通風乾湿計の原理
 通風乾湿計の原理
潜熱・顕熱フラックス式とエネルギー収支式(G以下を無視)を連立
1
1
通風乾湿計では―
←濡れた面からの蒸発を仮定
0 ←放射を遮るカバーと強制通風のファンの効果
これらの仮定から、次の式が成り立つ
1
つまり、水蒸気圧の計算式は次式となる
は( 乾湿計定数 )で0.66(hPa K-1)
(eをhPa単位で計算する場合)
通風乾湿計ではTaは( 乾球温度 )、Tsは( 湿球温度 )
80
81
完全湿面からの蒸発
地球規模での蒸発散量の推定
 ( ペンマン式 )Penman Equation (1948)
 ( 可能蒸発散量 )Potential Evaporation
↓(通常、表面温度Tsの情報は得にくいので・・)
1
1
[気温データのみを使った推定]
Thornthwaite Eq., Hamon Eq.
[より詳細な気象データをつかった推定]
Penman Eq.
∆
←濡れた面からの蒸発を仮定
Saturated vapor pressure
( Penman linearization )
1
↓(Penmanの近似を使ってTsを消去すると・・)
/
Δ
Δ
完全湿面からの( 可能蒸発散
82
Slope=
es(Ts)
es(Ta)
Ta Ts
Temperature
http://www-cger.nies.go.jp/grid-j/gridtxt/pet.html
)potential evaporation rate が得られる
 様々な地表面からの実蒸発散量:エネルギー収支の中身が関係
83
エネルギー収支と蒸発散
 群落コンダクタンス/群落抵抗の概念の導入 (by J. Monteith)
 様々な地表面のエネルギー収支
( 砂漠 )
( 森林 )
84
濡れた面と乾いた面からの蒸発の違い
H
( 水田 )
FLUX (W m-2)
Ta
Ts
ra
E
[wet surface]
rH = rW = ra = 1/ga
e
[dry canopy]
ra=1/ga
rH = ra = 1/ga
es(Ts)
rW = ra + rc = 1/ga+1/gc= (ga+ gc)/ga gc
E
H
Ta
ra
Ts
stomata
wet surface
Desert : Vehrencamp 1953, Coniferous forest : Mcnaughton & Black 1973, Paddy field : Yabuki 1957
(文字ら編「農学・生態学のための気象環境学」P70)
 蒸発散(=潜熱フラックスE )がエネルギー収支の中でどの程度
を占めるかを決める要因
 気候帯、土地被覆、植生、降水量、気温、etc・・・メカニズムは?
Howard Penman 1909-1984
ra: aerodynamic
resistance
( 空気力学的抵抗 )
rc: canopy (surface) resistance
( 群落抵抗 )
ga: aerodynamic conductance
( 空気力学的コンダクタンス )
gc: canopy (surface) conductance
( 群落コンダクタンス )
e
ra=1/ga
rc=1/gc
es(Ts)
dry canopy
John Monteith 1929-2012
85
植生面からの蒸発
∆
 ( ペンマン=モンティ―ス式 )Penman-Monteith Equation (1965)
[Penman Equation for potential evaporation rate]
Δ
(1)
(2)
(3)
/
Δ
(4)
(Tsを消去するための準備)
((2)(3)(4)をペンマン近似の潜熱フラックスの式(1)に代入)
[Penman-Monteith Equation for dry canopy]
∆
(Eで整理)
/
Δ
Δ
86
ペンマン=モンティ―ス式を実際に導出してみる
1
⁄
1
課題6.2:PM式を導出せよ。
 の求め方(-30~100℃の範囲)
6.1078 2500 2.4
0.4615 273.15
∆
(両辺に
∆
⁄ を掛ける)
⁄
10
.
∆
/
Δ
.
Δ
1
⁄
88
87
Penman-Monteith式による森林からの蒸発散評価
空気力学的コンダクタンス vs 群落コンダクタンス
 ( ビッグリーフ )モデル
乾いた樹冠
[Dry Canopy]
( 蒸散 )
E
H
ra
Ts
stomata
濡れた樹冠
[Wet Canopy]
( 遮断蒸発 )
H
Ta
ea
ra=1/ga
rc=1/gc
es(Ts)
dry canopy
Penman-Monteith 式
Ta
Ts
ra
Ta
ra
Ts
ea
ra=1/ga
es(Ts)
rc=0, Penman 式
E
H
E
wet canopy
Wet canopy
 草地や畑地・水田など
 森林
stomata
ea
ra=1/ga
rc=1/gc
es(Ts)
dry canopy ga: 50 – 1000 mm s-1
gc: 1 – 20 mm s-1
ga: 5 – 100 mm s-1
gc: 1 – 40 mm s-1
拡散係数を決める要因は
( ほぼgc のみ )
拡散係数を決める要因は
( gc と ga の両方 )
 森林は草地に比べてgaが大きいので、遮断蒸発が非常に大きくなる。蒸散につい
てはどちらが多いかは植生によるので一概には言えない。
89
90
流域水収支法
 ( 流域水収支法 )による蒸発散量の算定
蒸発散量=損失量= ( 降水量 )-( 流出量 )-貯留変化量
6.蒸発散
6.2 流域/群落/生態系スケールでの蒸発散とその測定法
実測水収支の一例
(Kondo, 1999)
降水量の少ないところでは降水量と強い相関、多いところでは気候の影響あり
通常、流域毎に1年ないし1水年での水収支を計算する
問題点として、時間解像度が粗い、流出量観測の精度、貯留変化量が1年で0と
なっていない場合の誤差、深層浸透分が損失量に含まれている可能性、霧滴蒸発
の成分をカウントできていない可能性、などが挙げられる。
91
短期水収支法
 ( 短期水収支法 )による蒸発散量の算定
 基底流出段階で流量が等しいとき、流域貯留量も等しいと仮定し、流出量が等
しい2時点を水収支期間の起点・終点として、この期間の貯留変化量を0として、
水収支から蒸発散量を算定する方法。
E   pt dt   qt dt
t2
t2
t1
t1
ここでp(t)は降雨強度、q(t)は流出強度
t1,t2は水収支期間の起点と終点で、この両時刻に
おいて流域貯留量は等しくなくてはいけない。
t1,t2の決定方法
1.先行する2日間に降雨がなく当日も無降雨であ
る日を水収支の起点、終点の候補とする。
2.この候補間で、日流出量の差が日流出量の2%
以内である日の組をt1,t2とする。
3.この組のうち、期間が8日以内のもの、60日以
上のものを除く
(鈴木1985 「短期水収支法による森林流域からの蒸発散量推定」日林誌67)
微気象学的手法
92
微気象学的手法
 1.( ボーエン比法 )Bowen ratio–energy balance (BREB) method
2高度の比湿・温度とエネルギー収支の観測から潜熱・顕熱フラッ
クスを計算
 2.( プロファイル法 ) Profile method
2高度の比湿・温度・風速の観測から潜熱・顕熱フラックスを計算
 3.( バルク法 ) Bulk method
地表面の比湿・温度と1高度の比湿・温度・風速の観測から潜熱・
顕熱フラックスを計算
 4.( 渦相関法 ) Eddy covariance method
鉛直風速と温度・比湿の共分散から潜熱・顕熱フラックスを計算
4を直接法と呼ぶこともある。森林群落では昔は1、今は4の方法がほ
とんど。
93
ボーエン比法
実際の大気中の物質輸送プロセス
94
 大気中の物質は大気の流れ(1項)と分子拡散(2項)により移動する
 ( ボーエン比法 )Bowen ratio–energy balance (BREB) method
=
⁄ 1
Δ
Δ
分子拡散項は、Fickの法則により表現できる
0.378
0.622
Δ
Δ
Δ
Δ
H
Ta1
Ta2
E
 大気の流れに伴う成分は瞬間値を集計する必要がある
平均と偏差の成分に分けて集計
ea1
rH = rW
ea2
w:風速の鉛直成分, v:水蒸気密度
最初の式に導入すると
Boundary layer
: ( ボーエン比 ) Bowen ratio
時間平均すると ′と ′が0になるので
vegetation
IS Bowen, 1926, The ratio of heat losses by conduction and by evaporation from any water surface,
Phys. Rev., 27, 779-787
 問題点:「スカラー間の相似性」(rH=rw)を仮定しているが、不均一な地表面では
成り立たないことも
95
渦相関法
 ( 渦相関法 )Eddy covariance (EC) method
 鉛直風速が下向きのときH2O濃度が高く、
鉛直風速が上向きのときH2O濃度が低ければ、
HO2は下向きに輸送される(H2O吸収=凝結)
⁄
1項目( 移流 ) 2項目:( 乱流拡散 ) 3項目( 分子拡散 )
 特別なケースを除いて1項目、3項目が無視できる ⇒渦相関法
 2項目は乱流拡散項だがFickの法則で表現 ⇒バルク式、PM式など
96
渦相関法
 渦相関法の測定:植生面上で、風速・気温・水蒸気密度・二酸化炭
素密度などの乱流による変動成分の瞬間値を、高速(1/10秒間隔程
度)で観測し、平均化時間(通常30分程度)毎に( 共分散 )を集計
し、運動量・顕熱・潜熱・二酸化炭素フラックス等を直接算定する。
鉛直風速が下向きのときH2O濃度が低く、
鉛直風速が上向きのときH2O濃度が高ければ、
H2Oは上向きに輸送される( H2O放出=蒸発散)
H2O molecule , v [kg m-3]
Vertical wind, w [m s-1]
(杉田・田中編「水文科学」P91)
( 超音波風速温度計 ) ( 赤外線ガスアナライザー )
For x, y, z wind and T at 10Hz For v and c at 10Hz
97
渦相関法
 渦相関法の( インバランス )問題
Flux measured with EC =
Total Flux =
+
98
渦相関法
 ( フラックスネット ):渦相関法による観測網
+
課題6.3:渦相関法とはどのような方法か説明せよ(原理、必要な設備
や装置と測定項目、何が測れるか、優れた点と問題点)。
99
100
蒸発散の3つの成分
 森林における蒸発散は大きく3つの成分に分けて考える必要がある
1.(
2.(
3.(
蒸散
樹冠遮断蒸発
土壌面蒸発
) Transpiration
) Evaporation of intercepted rainfall
) Evaporation from soil
Evapotranspiration = Transpiration + Evaporation of intercepted rainfall + Evaporation from soil
6.蒸発散
6.3 3つの成分とその測定法
‘Evapotranspiration’
Precipitation
Transpiration
of intercepted rainfall
Evaporation
The process by which water
Evaporation
is transferred from the land to from soil
the atmosphere by
evaporation from the soil and
Through fall
Stem
other surfaces and by
transpiration from plants.
(Oxford dictionary)
Runoff
flow
storage
蒸散の仕組み
個葉ガス交換の測定
101
蒸散は葉の( 気孔 )を介しておこり、植物は( 気孔の開閉 )に
よって蒸散量を制御している。
「群落コンダクタンス」は、この制御を反映する数値
蒸散を維持するためには、( 根系からの吸水 )と
それを賄うための( 土壌水分 )が必要。
[Advantage]
Leaf-scale gas exchange  気孔のふるまい
 光合成とのリンク
 ガス交換の制御要因を知る
測定方式
 ( 閉鎖循環型チャンバー法 )
閉鎖したチャンバー内に葉を挟んで空気
を循環し、水蒸気や二酸化炭素の濃度変
化から蒸発散や光合成速度を算定する
土壌から植物体を通して
大気中へと水が移動する経路
をひとつのシステムとして捉え
る考え方を( SPAC )という。
soil-plant-atmosphere continuum
 ( 定常型チャンバー法 )
解放したチャンバーに葉を挟んで空気を
一定流量で送り込み、入り口と出口、ない
し葉を含むラインと含まないラインの濃度
差から蒸散速度や光合成速度を算定する
蒸散は気孔の開閉を通して、
植物の( 光合成活動 )とも
密接に連動している。
(増田編「絵とき植物生理学入門」)
103
樹液流速の測定
[Advantage]
 単木スケールの蒸散速度
 蒸散への移り変わりのタイミング
 群落スケール蒸散量へのスケールアップ
Sap flow
1
測定方式
 ( ヒートパルス法
3
 ( グラニエ法
水ポテンシャルの測定
Plant water potential
1
) (1)
Heat pulse method
(Swanson & Whitfield 1981J. Exp. Botany)
2
2
 ( 幹(茎)熱収支法 ) (3)
Stem heat balance method
(Sakuratani 1981 J. Agric. Meteorol.)
3
104
1
[Advantage]
 植物の水分状態
 圧力-含水率関係
 SPAC 水輸送
(Soil-Plant-Atmosphere Continuum)
測定方式
 ( プレッシャーチャンバー )(1)
) (2)
Thermal dissipation probe method
(Granier 1987 Tree Physiol.)
102
(Scholander et al 1964 Proc Na Aca Sci USA)
 ( サイクロメーター ) (2)
 幹サイクロメーター Stem Psychrometer (3)
樹冠遮断および遮断蒸発
105
水収支法による樹冠遮断の測定
( 樹冠通過雨 )
106
( 樹幹流 )
(森北出版「森林水文学」P18,19)
(杉田・田中編「水文科学」P104)
 遮断蒸発量 =( 遮断降雨量(遮断損失量)
interception loss)
= ( 林外雨量 precipitation)- ( 樹冠通過雨量
throughfall)
- ( 樹幹流量 stemflow)
( 林内雨量 ) = 樹冠通過雨量 + 樹幹流量
樹冠遮断の決定要因
107
微気象学的手法による遮断蒸発の測定
108
 今後遮断蒸発のメカニズムも明らかにしていくためには、水収支法
だけでなく、微気象学的手法による遮断蒸発の評価も必要
=降雨中および降雨直後の群落上フラックス測定
 遮断蒸発の測定法:
エネルギー収支-渦相関法:降雨中顕熱フラックスデータだけを使う
エンクローズドパス型ガスアナライザーによる渦相関法
( ⇒直線関係神話はほんとうか?
どう説明されるのか?)
70-80% 10%以下 10-30%
Iida et al 2005によるアカマツ・
シラカシ混交林の樹冠遮断
(杉田・田中編「水文科学」P105,113)
 これまで樹冠遮断は林外雨量との直線関係で説明されてきた
実際測るとそうだったことが大きな理由だが・・→ほんとうにこれでOK?メカニズムは?
 葉の表は濡れても裏は
濡れにくく、降雨直後に
遮断蒸発と光合成が同時
に起こっている可能性あり
(⇒生態学的な意義は?)
遮断蒸発~蒸散過程への遷移の測定
Leaf wetness
109
110
森林樹冠での霧滴遮断 Fog interception
 森林樹冠が霧を補足する現象
 ( 樹雨 )=補足された霧が樹冠通過雨の
一部として滴下する現象
[Advantage]
 遮断蒸発から蒸散への移り変わり
 降雨中・降雨直後のガス交換
→森林が降雨量を増加させる?雲霧林など
測定方式
 ( 濡れセンサー )
 補足された霧が遮断蒸発にも影響
 葉上ではなく空中に霧滴の状態で貯留し、遮断蒸発するかも?
→実態把握が必要
森林林床でのリター遮断 Litter interception
 リター層が降雨を遮断する現象
 樹冠遮断に比べて量は少ないが、土壌層への水分供給、物質循
環や林野火災などに影響する。 次項の土壌面蒸発として捉えることも。
土壌面蒸発
111
土壌面蒸発は、蒸散と同様、自由水面からの蒸発とは異なり、
( 土壌水分 )に強く依存する。
土壌が乾燥すると、土壌水が気化する深度が表層から深くなってい
き、土壌表面には( 乾砂層 )が形成される。地中で気化した水蒸
気は土壌間隙中を分子拡散によって輸送されるため、乱流拡散によ
る水蒸気輸送よりも千倍近くも遅くなって蒸発速度が律速される。
定式:( バルク式 )による定式化・解析など
ここで、θは土壌体積含水率、βは土壌水分の影響を表す指標で、
0-1の値をとりθが小さくなるほど小さい値となる
土壌面蒸発の測定
測定方式
 ( ライシメーター法 ) Lysimeter
[Advantage]
 土壌面蒸発
 雪面蒸発
 作物・草地からの蒸発散
 単木蒸散など
112
113
雨水流動経路・古典的基礎
114
地表面に達した降水は通常、土壌中に(浸潤(浸透)infiltration )し、
土壌中を下方へ移動(= 降下浸透 percolation )する。
土壌が地表面で吸収できる水分量(= 浸透能 infiltration capacity )
を上回った分は( ホートン地表流、浸潤余剰地表流 Hortonian
overland flow, infiltration excess overland flow ) として流下する。
森林土壌は浸透能が高くホートン地表流は発生しないとされている
浸潤後、土壌中を傾斜に沿って側方へ移動する土壌水の流れ
(= 側方浸透流 throughflow )が発生する。
地形面と地下水面が一致する場所で、地下水流や側方浸透流は
(浸漏 seapage )し、地表河川に流入する。
7.雨水流動
(榧根「水文学」P155)
土壌水に働く力
(榧根「水文学」P141)
115
土壌水の分類
( 吸着水 ):土粒子表面に強く吸着されている水
( 毛管水 capillary water):土粒子の隙間に表面張
力と毛管力で保持されている水
( 重力水 ):間隙を満たしており重力で容易に排水される水
土壌水に働く力:エネルギーポテンシャル
( 水理ポテンシャル )=( 全ポテンシャル )-( 浸透ポテンシャル )
=( 重力ポテンシャル )+( 圧力ポテンシャル )
圧力ポテンシャルは大気圧を基準とし、地下水帯では正の値だが、
吸着力や毛管力によって地下水面より上に水が保持されている土壌
水帯では負の値となり、( マトリックポテンシャル )と呼ばれる。
位置エネルギーである重力ポテンシャルは
と表せる。水の単位体
積重量 あたりのエネルギーを考え長さの単位(= 水頭 )で表現
すると便利
( 水理水頭 hydraulic head)=( 重力水頭 )+( 圧力水頭 pressure head)
土層内の水理水頭、重力水頭、圧力水頭、
体積含水率の鉛直分布
116
↑ウェッテイングフロント
↑セロフラックス面
=重力水頭
水の動きがない静水平衡状態では―
(小杉1999、水利科学No.250)
 ( 水理水頭 )の勾配は0に
 地下水面から離れるにつれ大きな吸引力を持つ小さな間隙にしか水が保持でき
なくなるので( 体積含水率 )が下がる。含水率は土壌孔隙径分布により決まる。
 ( 圧力水頭 )はψ=-zとなるまで低下
 蒸発時・降雨時には―
 ( ゼロフラックス面 )より上で、上向きの水の動き
 ( ウェッテイングフロント )が下降しつつ、下向きの水の動き
土壌の保水性と水分特性曲線
117
( 水分特性曲線 ):土壌の含水量と圧力水頭との関係を表す曲線
圧力水頭
ダルシーの法則
118
多孔体中の水は水理水頭の高い方から低い方へ向かって流れ、
その大きさは水理水頭の勾配に比例する
(= ダルシーの法則 Darcy’s law ) Darcy,1856
(森北出版「森林水文学」P43)
鉛直一次元で表現すると―
pF2は
ψ=-100cm
1
:圧力水頭、q:流量、K:( 透水係数
hydraulic conductivity )
飽和の場合、Kは( 飽和透水係数 )
不飽和の場合、Kは( 不飽和透水係数 )とよばれ、圧力水頭 の
低下とともに低下する の関数となる。
体積含水率
(「森林・林業実務必携」P115)
 水分特性曲線は、土壌の孔隙径分布によって決まる
 土壌構造が発達して孔隙径分布が広いほど水分特性曲線は緩やかになる
119
リチャーズ式
土壌水帯の場合-
不飽和透水係数Kは圧力水頭の関数となる。
(大きな孔隙から順次排水されていき、次第に不飽和透水係数が減少するため)
流量qによって含水率と圧力水頭が変化する。
(雨水の浸透qによって土層内に水が蓄えられ、 やが時間的に変化するため)
ダルシーの法則と土層内の水収支式を組み合わせると、土壌水帯
中の水の流れを表現するための(リチャーズ式 Richards equation )
Richards, 1931 を得る。
土層内の水収支は―
t:時間、 :体積含水率
ダルシーの法則と組み合わせると―
(鉛直一次元の場合)

保水性(関係)と透水性(K関係)
リチャーズ式を使うためには保水性(関係)と透水性(K関係)
の関数が必要で、これまでに多くの経験式が提案されている
(Brooks & Corey 1964; van Genuchten 1980の水分特性曲線関数など)
CもKも孔隙構造に依存するため、孔隙構造をモデル化した関数
(= 対数正規分布モデル )(Kosugi 1996)を使うと、孔隙構造の
変化が土壌の保水性・透水性にもたらす変化を評価できる。
 森林土壌は孔隙径分布が広い。大孔隙では雨水のすみやかな浸透と排水が行わ
れる一方、孔隙径が小さくなるにつれて雨水の移動速度が低下して一時的に雨水
を貯留する。このため、高い透水性と保水性を発揮できる。
課題7.1:リチャーズ式に
ついて説明せよ。
は水分特性曲線の傾きで、( 比水分容量C )と呼ばれる。
リチャーズ式の微分の部分を差分近似することで、数値計算できる。
120
(森北出版「森林水文学」P52)
土壌の保水性評価-古典的な方法の問題点
121
孔隙解析:土壌孔隙をpF値で階級分けし、( 水分特性曲線 )を用
いて各階級に属する孔隙量を求める方法。毛管粗孔隙の量が雨水
貯留能力の指標として使われる。
(森北出版「森林水文学」P43)
流出に関与しない水
降雨後一旦貯留される水=保水力
降雨後すぐ排水される水
 問題点1
降雨後すぐに排水される水の圧力水頭ψ
は地下水面からの距離で決まり(P116)、
ψ>-63cmの境界に根拠はない。
 問題点2
土壌中の水の動きやすさ(=透水性)は、
圧力水頭ψの関数である不飽和透水係数
Kで定義され(P119)、同じψでも土壌の孔
隙分布によって大きく異なる。 ψ=-500cm
を境界にして決まるわけではない。
 問題点3
土壌はダムのように一定の容量で一旦す
べての水をためるわけではないので、土壌
中の貯水量は降雨条件に応じて変化する。
→リチャーズ式で解析する必要あり
雨水流動経路・森林水文学的側面
123
 森林斜面では水文学的な基盤面(透水係数が10-5㎝ s-1のオーダー
以下の難透水層とそれより上の層との境目)上で飽和側方流が発
生し、直接流出の重要な成分となる。
飽和
側方流
(塚本編「森林水文学」P126)
リチャーズ式に従う鉛直不飽和浸透流
122
土壌水帯中の降下浸透は
( 不飽和浸透流 )とも呼
ばれ、基本的にリチャーズ
式で表現できる。このような
土壌基質中の均一な流れを
( マトリックス流 ) という。
これに対し、不均一な土壌
中の一部の領域を選択的に
流れる流れを( 選択流 )
preferential flowという。
(森北出版「森林水文学」P55)
雨水流動経路・森林水文学的側面
124
水文学的な基盤面上において降下浸透しきれなくなった水で土壌が
飽和すれば( 飽和側方流 saturated throughflow)が発生する。
飽和側方流の頻発する難透水層直上では水みちが形成され、飽和
側方浸透流より流速がはやい( パイプ流 pipe flow)が発生する。
上記の飽和領域に接する不飽和領域や、無降雨時には蒸発散作用
により斜面表層近くにも、斜面方向成分を持つ不飽和の流れが出現
し、これを( 不飽和側方流 )という。
斜面下端の地形面と地下水面が一致する場所で飽和側方流が地表
に出ると(復帰流、飽和(余剰)地表流 return flow, saturation excess
overland flow)となり、川に流入する。
飽和地表流の発生域を( ソースエリア )とよび、この領域が降雨プ
ロセスの進行により拡大・縮小し流出成分に影響をあたえるという考
えをvariable source area conceptという。これに対して、地下水帯
の体積の拡大・縮小が流出成分の変動に対して重要であるという考
えをvariable source volume conceptという。
急な森林斜面流域では飽和地表流のエリアが拡大せず地中流であ
る飽和側方流が直接洪水流となる。
125
雨水流動経路・森林水文学的側面
水文学的な基盤面上や谷底堆積地上の滞留時間の短い地下水:土
壌層の不飽和鉛直浸透により涵養され、飽和側方流として比較的早
く渓流に流出する。 (B・D’)
近年、「水文学的な基盤面」を通過して基岩内を( 基岩浸透 )した
地下水の、流出成分への寄与がこれまで考えられていたよりも多く、
また早いタイミングで起こることがわかってきた。(D・D’?)
山体深部の滞留時間の長い地下水:( 深部浸透 )によって涵養さ
れ、移動速度が極めて遅く斜面の水循環過程に寄与しない。(C?)
不圧地下水
(杉田・田中編「水文科学」P160)
圧力水頭・含水率の測定
圧力水頭の測定
 ( テンシオメータ )法
体積含水率の測定
 ( ADR )法・ ( TDR )法
(誘電率を利用)
水分特性曲線の測定
 ( 加圧板法 )(A)
 ( 水頭法 )(B)
 ( 砂柱法 )(C)
127
(二重管式)
 散水型浸透計
調査区画に人工降雨を降らせて  森林土壌の不均一性を評価するため
には、大型不攪乱サンプルを用いた
( 地表流 )を測定する
計測が必要
土層厚・地下水位・流出量の測定
土層厚の測定
 貫入式土壌硬度計
地下水位の測定
 観測井戸を設置し水位計で水位を測定
流出量の測定
 ( 三角堰 )などの量水堰で水位を測る(a)
 ( パーシャル・フリューム )(b)
 ( 転倒ます式雨量計 )で直接流量を測る
ポーラスカップ
(C)
(B)
(A)
126
 浸透能は降雨開始時に最大値(= 初期浸透能 )を示し、降雨の
継続に伴って低下し、一定値(= 最終浸透能 )となる。最終浸透
能は( 飽和透水係数 )とほぼ等しい。
浸透能の測定
透水係数の測定
 冠水型浸透計
 ( 変水位法 )
(杉田・田中「水文科学」P124)
 ( 定水位法 )
(単管式)
被圧地下水
(塚本編「森林水文学」P164)
浸透能・透水係数の測定
(杉田・田中編「水文科学」P185)
128
129
ハイドログラフ
130
( ハイドログラフ Hydrograph):流出量の時間変化を表すグラフ
 流域はハイエトグラフからハイドロ
グラフへの変換システム
 どのように変換されるかを知ること
は流域内部の水循環プロセスを知
ることとであり、水文学の中心課題
8.雨水流出
 変換システムは( 地質 )( 地形 )
( 土壌 )( 気候 )( 植生 )など
により異なる
(杉田・田中編「水文科学」P168)
流況曲線
131
( 流況曲線 discharge duration curve):日流量(mm d-1)一年間分を
高い流量から順に並べたグラフ。年最大流量、豊水流量(95日流
量)、平水流量(185日流量)、低水流量(275日流量)、渇水流量
(355日流量)、年最小流量を用いて各河川の流出特性を比べる。
 流況は( 地質 )
の影響を大きく受
ける
流出水の成分分離
ハイドログラフ上で分離:降雨に対する応答の早い流出成分を
( 直接流出 direct runoff)、遅いものを( 基底流出 base flow)という。
降雨のうち直接流出に寄与する分を( 有効降雨 )という。
流出成分を流下してくる場で分離:( 表面流 surface flow)・
( 中間流 subsurface flow)・( 地下水流 groundwater flow)ともいう。
水質トレーサーをつかって分離:( 新しい水 )・( 古い水 )
 古い水をさらに土壌水・地下水に、あるいは成分を不飽和土壌水・土壌中の地下
水・基盤岩地下水などに分けることも
 花崗岩流域・第四
紀火山岩類は流
出量の平準化能
力が大きい
(杉田・田中編「水文科学」P188)
 古生層流域は豊
水流量以下が他
に比べて小さく、
貯留能が低い
132
(「森林・林業実務必携」P118,119)
流出予測モデル
133
流出モデル:与えられた条件から降雨流出ハイドログラフを予測する
( 集中型モデル ):流域を単一のモデル単位として概念的に扱う
 合理式 rational formula
 単位図法unit graph method(Sherman1932)
 貯留関数法 storage function method (木村1975)
 タンクモデル tank model(菅原・勝山1957、菅原1972,1979)
 水循環(HYCY)モデル hydrological cycle model(福島・鈴木1986 )
 TOPMODEL(Beven & kirkby 1979)(分布モデルと集中モデルの中間型)
( 分布型モデル ):流域を分割して各部分ごとに計算を行いその
組み合わせとして流出の推定を行う
 キネマティックウェーブ法kinematic wave(末石1955)
 ブロック集合モデル
 三次元飽和不飽和浸透計算
流出予測モデル:タンクモデル
流出予測モデル:合理式・単位図法
134
( 合理式 rational formula):与えられた流域において、ハイエトグ
ラフからピーク流出量のみを予測する。線形応答を仮定
1
1
3.6
3.6
Q:ピーク流出量(m3/s)、re:洪水到達時間内の平均有効降雨強度、r:洪水到達時間
内の平均降雨強度(mm/h)、 f:ピーク流出係数、 A:流域面積(km2)
 洪水到着時間が短いほど有効降雨強度re が大きくなるので両者の間の関係式(洪
水到達時間式)が導かれる。パラメータr,fの大小で流域の洪水緩和機能を比較で
きる。施設設計に使われる。
 ピーク流出量しか予測できない。大流域には適用できない。
( 単位図法 unit graph method):基本単位の有効降雨に対して
単位ハイドログラフを仮定し、各時刻での有効降雨に比例したハイド
ログラフを足し合わせることで流出量を予測する。線形応答を仮定
単位図の考え方
(塚本編「森林水文学」P181)
 アメリカなどの平坦な大流域では使える
が、日本のような山地小流域では地形
が急峻なので洪水流出がはやく非線形
性が強くあらわれるため、適用しにくい。
流出予測モデル:貯留関数法
135
136
( 貯留関数法 storage function method):有効降雨reから流出量qへ
の変換に貯留量Sを媒介変数として導入する。(木村1975)
( タンクモデル tank model)(菅原・勝山1957, 菅原
1972,1979他)
非線形応答を仮定
通常数段の上下に連結した仮想タンクを想定し、一
段目に降雨を与える。それぞれのタンクの下端から
は一定速度スピードの浸透がおこり、横面から設定
した貯留高を超えると一定スピードで流出がおこる
 貯留量の増大とともに流出量が
増大する非線形応答を表現でき
る。我が国では実務レベルでよく
使われている。

貯留量Sや定数に直接の物理的
は遅れ時間、kは定数、べき定数pは0.5程度
意味はない。長期流出には使え
ない。
S⁄
横穴高さで遅れ時間、複数横穴で非線形性を表現
*
 使いやすく汎用性があり、短期流出から長期流出まで広く使
われ、再現性がよい。
 タンクの構成はハイドログラフの成分分離をもとにしており、
流域の実際の場を直接表すものではない。パラメータは流域
毎に実際の観測データをもとに決める必要があり、またその
意味は不明瞭。そのため、伐採の影響予測などはできない。
(小杉2004砂防学会誌)
(運動式・貯留関数)
(連続式)
流出予測モデル:HYCYモデル
137
( 水循環(HYCY)モデル hydrological cycle model)(福島・鈴木1986):
水循環の各要素毎の区分をより明確にしたタンクモデルに、貯留関
数の考え方を組み合わせたモデルで、上下で太さの違うタンクからの
流出量は貯留関数によって非線形に変化する。
流出予測モデル:キネマティックウェーブ法
( 雨水流法・キネマティックウェーブ法 kinematic wave)(末石1955他)
流域をいくつかの斜面と流路に分割し、それぞれについて雨水の移動
を 水路での水の移動に見立てて水理学的に計算し下に流すモデル。
 山地小流域での森林水文
学の知見をベースにタンク
モデルと貯留関数法を組み
合わせてアレンジしたもの。
短期流出から長期流出ま
で非常に良好に再現できる。
 各タンクは水循環の各要素
と対応しているが、流域内
の個々の場を明確に特定し
たものではない。パラメータ
は流域毎に実際の観測
データをもとに決める必要
があり、またその物理的意
(福嶌・鈴木1986,京都大学農学部付属演習林報告57) 味は不明瞭。
流出予測モデル:ブロック集合モデル
⁄
 比較的計算しやすく、分布型モデルなので地形の
影響を議論できる。崩壊場所の予測などに使える。
⁄
sin ⁄
cos
(運動式)
(連続式)
*hは水深、べき定数mはマニング式より
5/3となり貯留関数のp=0.6に相当
(塚本編「森林水文学」P186)
 土木工学の立場からのモデルで、斜面からの直接
流出をすべて地表流とみなし、中間流と地表流を
区別しないところが特徴。各セグメントからの運動
式&連続式の形はほぼ貯留関数法と対応する。
 飽和不飽和流れを考慮した改良型モデルもある
(立川ら2004、右図)が、パラメータの物理的意味
は不明瞭。
139
( ブロック集合モデル ):(日野ら1989の呼称)
流域を正方形メッシュに分割し各メッシュに一定の土層厚を持つブロッ
クを仮定しまず各ブロックの水位を求める。ブロック間の水移動は透水
係数に動水勾配をかけて求めるが、この際圧力水頭勾配を無視して
地形データから得られる重力水頭勾配のみを用いる。
各時間ステップでブロックの水収支を集計する。
138
(池淵・椎葉他「エース水文学」P196)
流出予測モデル:飽和不飽和浸透流解析
140
 ( 飽和不飽和浸透流解析 ):
土壌断面(鉛直一次元)、横断斜面(二次元)、実斜面・流域(三次元)などの
スケールで地中の各地点における保水性・透水性に関する物理量および境
界条件を与え、リチャーズ式により水の飽和・不飽和浸透流を算定する。
 「緑のダム」機能における森林
土壌の役割を物理的に定量評
価できる唯一の方法
観測値
 計算が大変。現実斜面に適用するためには、
土壌特性の空間分布の把握や選択流の定式
化が必要。
計算値
B
C
(小杉2004砂防学会誌)
無降雨時の観測値・計算値の比較
(正岡直也、博士論文)
近年、高密度で計測したψ
分布情報をもとに、三次元
浸透計算の再現性をみるこ
とで、透水性などの測りにく
い水文特性の空間分布を推
定する試みもされている。
141
「緑のダム」機能ー森林VS裸地の例
142
森林が洪水を緩和し水資源を貯留する働き(= 水源涵養機能 )は、
通常のダムと対比して「緑のダム」機能とも呼ばれる。
Day
DayofofYear
Year
降雨強度
降雨強度
-1
(mm day
(mm
day -1))
00
00
30
30
60
60
90
90
120
120
150
150
180
180
210
210
240
240
270
270
300
300
330
330
360
360
50
50
9.緑のダムと森林水文学
年
年降水量
降水量1602
1602mm
mm
100
100
裸地流域 裸地流域 年
年流出量
流出量1103
1103mm
mm
森林
森林流域 流域 年
年流出量
流出量714
714mm
mm
100
100
←森林流域は総流出量が少ない
←森林流域は総流出量が少ない
=蒸発散の影響
=蒸発散の影響
( 蒸発散 )による損失
流出強度
流出強度-1
-1
(mm
(mm day
day ))
( 洪水緩和 )機能
10
10
11
↑森林流域は降雨時のピークが小さい
↑森林流域は降雨時のピークが小さい
0.1
0.1
00
30
30
60
60
90
90
120
120
(Unpublished
(Unpublisheddata
datafrom
fromK.Kosugi)
K.Kosugi)
150
150
180
180
210
210
240
240
(滋賀県の隣接する花崗岩山地(裸地谷流域・川向流域)での一年間観測)
緑のダム機能を調べる古典的な方法
( 対照流域法 ):地形・地質・植生
などの類似した2つの流域で流出量
を測定・比較する方法。通常、ある
程度記録が蓄積した後に一方の森
林を伐採し、流出量などの変化を調
べる。
143
270
270
300
300
330
330
360
360
↑森林流域は無降雨時に流出量が多い
( 水資源貯留 )機能
緑のダム機能を調べることの難しさ
緑のダム機能を調べるのが難
しい理由
144
母岩が堆積岩の森林流域
流出に関係する森林以外の
因子が多い
特に( 地質 )の違いにより流
出特性は大きく異なる
地下部(土壌層)の影響を評
価するのが難しい
伐採試験では地上部(樹木)
の影響しか評価できない
母岩が火山砕屑物の森林流域
蒸発散の3つの成分を分離
するのが難しい
(太田「森林飽和」P192)
(太田・服部監修「地球環境時代の水と森」P55)
ポイント1:緑のダム機能は即座に発揮される145
ポイント2:緑のダム機能増強は時間がかかる
146
 長年の植生の成長により平水~低水流量までは平準化の効果が
増強される。水源涵養機能の増強には長期間を要する。
白坂試験地
1930年代
マツ林
(100m3/ha以下)
~
1980年代
広葉樹混交林
(270m3/ha)
←裸地流域
←植栽直後
の森林流域
成長した森林
はむしろ水を
より多く消費し、
渇水時の緩和
機能はない
(太田「森林飽和」P166,184)
裸地に土地改良を伴う植栽を行うと、
即座に水源涵養機能が発揮される
立ち上がり、逓減ともにゆるやかになる
ポイント3:森林は蒸発散により水を消費する 147
針葉樹
広葉樹
森林を伐採すると
蒸散量は
( 減る )
遮断蒸発量は
( 減る )
土壌面蒸発量は
( 増える )
 流出量は?
( 増える )
但し条件によっては差が
見えないことも。3つの成
分がどう増減するか定量
化することが重要。
植生の減少割合と流出量の関係
世界中の流域試験結果より
(塚本「森林水文学」P257)
(太田「森林飽和」P196)
ダムか森林か
流況解析法:必要な日流量(利用量)
を流況曲線の縦軸にとると、斜線Wd
の部分が水不足日数に
148
 「緑のダム」効果が十分か
どうかは、必要な水の量
による。
(雨の少ない瀬戸内地方の例)
実線:森林
縦軸:水不足率
破線:コンクリート被覆流域 横軸:水利用率
数字は流域下端
の想定ダム容量
竜の口試験地
水利用率5%程度の場合
森林の効果で水不足率は
10%程度に軽減する。また総
雨量の0.1%程度の小規模な
貯水池の併設により水不足
率がほぼ0%になる。
水利用率10%以上の場合
総雨量の1%貯水容量のダム
があれば、森林よりコンク
リート被覆流域の方が有利。
浸透能
149
洪水緩和機能は、地表流が発生するかどうかがまず重要なポイント
となる。森林流域では( 浸透能 )が高く、( ホートン地表流 )が発
生しないで、地面に達したほとんどの水が一旦地中に浸透する。
(塚本編「森林水文学」P128)
森林でもホートン地表流が発生する?
150
近年、戦後の拡大造林期以降に植栽され手入れされずに放置され
ている( ヒノキ林 )等で、浸透能が依然高いにもかかわらず、地表
流の発生と土壌侵食が報告されだしている。
地表流の発生に関係している因子として下記が考えられている。
( クラスト ):表層土が雨滴衝撃によって破壊もしくは再分配されて
形成される目詰まりの層。
ヒノキ林が密生すると下層植生が失われ、またヒノキのみの場合リターの細分化&
消失速度が速いためリター層が失われ、土壌表面が直接雨滴の衝撃にさらされる
( はっ水性 ):土粒子が水をはじく性質。土壌中の有機物に由来し、
有機炭素の含有量や有機物の構造・組成、土粒子の配列、菌糸など
の影響をうける。
地表流の発生には、浸透能だけでなく( 地表被覆 )の状態が重要。
下層植生やリター層の有無が重要で、施業方法の他に、食害や、長年の森林利用に
よる劣化なども影響する
森林の浸透能は森林の種類によらず、十分大きい。
森林の大きい浸透能を支えているのは、高い透水性を持つ
( A0層およびA層 )である。
森林の孔隙分布と保水性・透水性
荒廃ヒノキ林などの斜面の一部で地表流がみられることと、斜面全
域で発生することとは区別が必要。河川に流出する時点ではホート
ン地表流の寄与がはっきりみられなかったことも報告されている。
151
森林土壌は( 孔隙径分布 )が広く、高い保水性・透水性を持つ
森林土壌発達に伴い( 団粒状構造 )が発達し( メジアン孔隙径 )
が大きくなる。団粒状土壌では降雨の浸透波形がより緩やかになる。
バイパス流
森林土壌には、土壌動物の巣穴、樹木根の枯死跡や土壌との境界、
亀裂などの( 粗孔隙 マクロポア )が存在し、これを通過する選択
流(= バイパス流 )が発生する。
バイパス流は飽和条件でのみ起こると考えられていたが、不飽和の
条件でも起こることが最近明らかになってきた。( 土壌の撥水性 )
が原因と考えられている。
 このヒノキ林では、土壌に浸透
した水が表層部の孔隙に蓄え
られず、バイパス流によって一
気に下層に伝わっている。この
ような流れは、リチャーズ式に
基づくマトリックス流のシミュ
レーションでは再現できない。
 バイパス流は森林流域におい
て予想よりも迅速な流出応答が
起こることの一因となっている。
(森北出版「森林水文学」
P50, P53)
152
(森北出版「森林水文学」P56)
(森北出版「森林水文学」P56)
153
パイプ流
154
基岩浸透
( パイプ流 )は、飽和側方流による流出に大きく寄与し、表層崩壊
の発生にも密接にかかわっている。
基盤面を通過して浸透する雨水(= 基岩浸透 )成分は、これまで
考えられていたよりも多く、しかも早いタイミングで流出する
 森林土壌ではマクロポア(粗孔隙)が様々な原因により発達しているが、谷底や斜
面脚部においてこのマクロポア中を地中水が通過するたびに側壁が侵食(パイピ
ング)され、パイプが発達する。このパイプを通って流れる飽和側方流の成分をパ
イプ流という。(バイパス流とは区別される)
 森林水文学の従来の考え方「土層内を鉛直浸透した雨水が水文学的基盤面上に
飽和帯を形成し、飽和側方流となってDarcy則に従って斜面方向に流下する」では
説明しきれない事例
 流出量の10%~50%を超える例が多く報告されている。
(杉田・田中編「水文科学」P180)
 パイプ流は、森林流域において予想よりも迅速な流出応答が起こることの一因と
なっている。
パイプの流出への寄与は、先行降雨や降雨の規模による。
 パイプ流は一定以上の湿潤条件にならないと発生しない
パイプの斜面安定への影響は、その存在場所による。
 パイプが斜面の下流端までつながっている場合:雨水がパイプを経由して速やか
に排出され、斜面が安定する。
 パイプの下流側出口が斜面土層内に存在する場合:出口付近の土層の地下水位
が大きく上昇し、パイプが存在しない場合よりもかえって斜面が不安定になる。
155
蒸発散
LAI
年蒸発散量
 ( 気候 )と( 群落構造 )で蒸発散量が概ね決まる
156
森林の推移に伴う蒸発散量の変化
1940天然林皆伐
後放置→二次林に
森林が変化しても蒸発散量が安定
的な例も
 蒸発散量は
370mm減少
 23年後も80mm減
少したまま
Kosugi and Katsuyama 2007 JH
桐生水文試験地(滋賀県、花崗岩山地)1972-2004
1972-1981
4
3
2
1
↑ Baldocchi and Ryu 2012
Forest Hydrology and Biogeochemistory
左:EC蒸発散量は降水量・放射量の影
響をうける
右:雨・蒸発比が植生のLAIを規定
←Yan et al 2012 RSE
群落コンダクタンスのLAI依存や、蒸発
散量の土壌水分依存を仮定し、19タ
ワーサイトの渦相関法による実測値と
比較・検証したPM式ベースのモデルで、
気象データとリモセン植生データを使っ
て全球蒸発散量を推定したもの。
 再び370mm減少
広葉樹林を皆伐し、
最終的にマツ林に
 皆伐すると300m
弱減少
 マツ林になると
250mm増加
Coweeta試験地の結果
Swark and Crossley
1988, 塚本編「森林水
文学」P252,254
Evapotranspiration (mm/day)
年降水量
0
-1
アカマツ・ヒノキ混交林(樹高<11m程度)
1982-1988
4
3
2
1
0
-1
ヒノキ若齢林
1989-1994
4
3
2
1
0
-1
Evapotranspiration (mm/day)
降水量/平衡蒸発散量
1963二次林を再
度皆伐
残留アカマツの松枯れ期
1995-2004
4
3
2
1
0
-1
ヒノキ壮齢林(樹高<18m程度)
1/1
2/1
3/1
4/1
5/1
6/1
7/1
DATE
8/1
9/1
10/1
11/1
12/1
1/1
蒸散
群落コンダクタンス
157
蒸発散全体を( 蒸散 )( 遮断蒸発 )( 土壌面蒸発 )の3つの成
分に分けて考える必要がある。
最大群落コンダクタンスはー
LAIとの関係も見られるが、それよりも個葉の最大気
孔コンダクタンスと非常に高い相関(×3の関係)
樹高が高くなると小さくなる
(針葉樹) Komatsu 2003 HP
Kelliher et al 1995 AFM
LAI
5
時々刻々の群落コンダクタンスはー
飽差との関係は普遍的にみられる
Kosugi et al 2013 Eco Res
遮断蒸発・土壌面蒸発
159
遮断率の森林による差:( 気候 )・( 降雨パターン )・( 樹種 )・
( 群落構造 )などが関係する。
熱帯林では降水量の10-20%(蔵地・田中2003)
日本のスギ・ヒノキ林では10-30%(田中ほか2005)
イギリスの観測例の平均では35%(Calder 1990)
亜寒帯針葉樹林では29%,36%(Toda and Ohta 2005)
30
Jan-Mar
Apr-Jun
Jul-Sep
Oct-Dec
4
E (mm day-1)
光合成活性に応じて季節変化する
樹高
最大気孔コンダクタンス
Midday gc (m s-1)
森林が存在するような湿潤な地域では、一般に気候の影響は非常
に大きく、植物による調整幅は比較的狭い。
最大群落コンダクタンス
 蒸散の決定要因を解析する際は、( 飽差 )や( 放射 )によるドライブ力の違い
と、Penman=Monteith式中の( 群落コンダクタンス )として表現可能な植物葉の
量や気孔反応の違いに分けて考える必要がある。
最大群落コンダクタンス
 それぞれメカニズムが異なるため
蒸散の森林による差:( 気候 )・( 群落構造 )のほか( 樹種 )・
( 樹齢 )・( 立地 )・( 土壌水分 )などが関係する。
158
3
2
20
gc declined in
winter and spring.
10
1
0
0
5
10
15
0
20
0
5
Daily mean VPD (hPa)
飽差
10
15
20
「緑のダム」研究:現状と今後の展望
160
。
初期の研究:降水-流出応答のデータのみを使った解析
 水収支観測だけでなく、微気象学的観測や蒸発メカニズムについても研究が必要
現状:森林内部でおこっている個々の要因をひとつづつ取り上げて
森林の影響を解析できるようになり、より詳細なメカニズムが分かっ
てきている。
土壌面蒸発の森林による差:気候のほか( 群落構造 )・( リター )
の量と水分状態などが関係する。
全蒸発散量の5-20%程度
(降水量の10%以下)
今後:森林のどの要素がどう変わることで水循環のどの部分にどの
ような影響を与えるのかを、1)メカニズムに基づいて、2)システム全
体の応答として定量的に示していく必要あり。
 流出応答を再現するだけが目的ではなく、森林が水循環に与える影響を定量評価
していくことが重要
(塚本編「森林水文学」P95)
161
水循環と物質循環
162
水は物質を溶解しやすく、また水循環とともに物質を運搬する。この
ため、水循環は単なる水の輸送だけでなく、物質の輸送や貯留
(= 物質循環 matter cycle)も担っている。
10.水質形成と森林水文学
(杉田・田中編「水文科学」P198)
水質の項目
基本的な水質項目
( 水温 )( pH )( 電気伝導度EC )( 酸化還元電位ORP )
自然界の主要な陽イオン:( Na+ )( K+ )( Ca2+ )( Mg2+ )
自然界の主要な陰イオン:( HCO3- )( Cl- ) ( SO42- )
炭素循環(C)に関連した水質項目
粒状有機態炭素POC:粒状のリターやその分解物
( 溶存有機態炭素DOC ):溶存した有機物態の炭素
溶存無機態炭素DIC:( CO2 ) + ( HCO3− ) + ( CO32− )
二酸化炭素&炭酸
重炭酸イオン
炭酸イオン
DOC動態に関係する重要な金属イオン:( Al ) ( Fe )
窒素循環(N)に関連した水質項目
( 溶存有機態窒素DON ):溶存した有機物態の窒素
溶存無機態窒素DIN:( NO3- ) + ( NH4+ )
硝酸イオン
水質の表し方
163
水質の単位:
体積濃度
( mg L-1 )
モル体積濃度 mol ( mmol L-1 ) 体積濃度を原子量or分子量で割る
当量濃度
( me L-1 ) モル体積濃度に価数を掛ける
ある水サンプルにおいて、陽イオンの総量と陰イオンの総量はほぼ
等しいはず
ダイヤグラム表示
( ヘキサダイヤグラム )
等、様々考案されている
アンモニウムイオン
その他の重要な水質項目
( P ):重要な栄養塩のひとつ
( SiO2 ):風化の指標、水質トレーサーとしても使われる
164
(杉田・田中編「水文科学」P201)
降雨(林外雨):凝結核の組成による
 沿岸地域- Na+やCl-やMg2+を多く溶存し、海水に近い組成
 都市近郊-SOX・NOX起源のSO42-やNO3-を溶存し( 酸性雨 )に
 栄養塩類(N, K, P, Ca, Mgなど)の若干の供給源
 自然状態の降雨は大気中のCO2を溶解していてpH=5.6程度
CO2(溶存) + H2O ⇔ H2CO3 ⇔ H+ + HCO3- ⇔ 2H+ + CO32林内雨:
( 湿性沈着 )
 樹冠は窒素降下物起源の
NO3- NH4+を吸収する。
 乾性沈着物質SO42-やNO3などが降雨時に洗脱する。
 樹木からKなどが溶脱する。
( 乾性沈着の洗脱 ) 洗脱・溶脱により、溶存元素濃度
は林外雨の2-4倍に
 樹冠には酸緩衝作用がある。
( 樹木の吸収 )
(森北出版「森林水文学」P202)
( 樹木からの溶脱 )
樹木から溶脱したイオン(K+,
Mg2+, Ca2+)とH+が交換するため
水質の形成・土壌水~地下水
水質の形成・土壌水~地下水
165
( 微生物 )の活動:
リター・腐植物質の分解による供給
溶存有機物(DOC,DON)の分解と無機化
好気的か嫌気的かによって異なる過程が進行
好気呼吸
NH4+の硝化
酸素の消費とともに還元的に
↓
NO3-の脱窒
↓
鉄・マンガンの還元
SO42-の還元
メタン生成
風化によって、Na+・Ca2+・Mg2+ などの陽イオン、重炭酸イオン 、ケイ酸、粘土鉱
物(2次鉱物)が生成する。
Na+・Ca2+・Mg2+ などの陽イオンは粘土鉱物などに吸着しているが、
吸着の強さの順で水中の陽イオンと入れ替わる(= イオン交換 )
吸着の強さ順 H+ > Ca2+ > Mg2+ > K+ > Na+
H+は土壌に吸着しやすいので、土壌水・地下水中の酸は緩衝され、土壌のほう
は酸性化する。
交換可能なイオンがなくなるとH+が溶脱し水の酸性化を引き起こす。
交換可能なイオンの量=( 酸緩衝能 )*地質・気候によって異なる
 陽イオン(カチオン)と陰イオン(アニオン)の総量はバランスを保つ。
好気呼吸
NO3-の脱窒
マンガン・鉄の還元
SO42-の還元
メタン生成
Stigliani (1988)
森林の酸緩衝機能
167
土壌・岩石や鉱物との反応(= 風化 ):
土壌呼吸により、土壌中のCO2濃度は大気の10-100倍に
土壌水がCO2を溶解 CO2 + H2O ⇔ H2CO3 ⇔ H+ + HCO3CO2を多く含む水と鉱物との反応が進み鉱物が溶解する
例えばNa長石が風化すると―
2NaAlSi3O8 + 2H2CO3 + 9H2O →
2Na+ + 2HCO3- + 4H4SiO4 + AlSi2O5(OH)4
166
( 植物 )の活動:
根系による吸収(NO3-, NH4+, K+, P, Mg2+, Ca2+, SO42-, Na+)
根系からの滲出(DOC, NO3-, NH4+, K+, P, Mg2+, Ca2+, SO42-, Na+)
還元的← 酸化還元電位 →酸化的
水質の形成・降雨~林内雨
林外雨~林内雨
 大気CO2起源の弱酸
HCO3-を溶解(平衡pH=5.6)
 酸性降下物起源の強酸
SO42-やNO3-を溶解
(大田編「森林の再発見」P197, Ohte et al 1999)
(pH=4程度にまで低下)
 溶脱イオンとH+が交換
 土壌水~地下水
 ( 土壌呼吸 )でCO2上昇
 ( 風化 )の進行
 ( イオン交換 )によりH+
が土壌に吸着
(深部でpH=5.5前後に上昇)
 湧水~渓流水
 CO2が( 脱気 )
168
(pH=6.5前後に上昇)
課題10.1森林が渓流水の酸性度を低下させるメカニズムについて説明せよ
森林のDOC動態
169
林内雨・リター層のDOC
リター・腐植の分解で増加
土壌水中のDOC
土壌表層で大幅に減少
( 微生物分解 )
Al、Feなどの金属イオンと
( 有機錯体 )を形成して
共沈
土壌表面に( 吸着 )
170
( 窒素固定 )
( 窒素降下物 ) ( 脱窒 )
N2
NH4+, NO3-供給
N2O, N2放出
( 無機化 )
NH4+
地下水・渓流水にはわずか
しか含まれない
NO3( 硝化 )
Al濃度
Al濃度
森林の窒素動態
pH
DOC濃度
Kawasaki et al 2005)
森林における窒素飽和
171
( 窒素飽和 ): 過多になった
NO3-やNH4+が系外へ流出する現
象
流出水と水質
172
降雨時の流出特性
流出量が多くなる(直接流出成分が多くなる)と濃度が高くなるもの:
( DOC )( NO3- )など
NH4+は硝化されやすく土壌吸着されやすい
ので動きにくいが、NO3-は土壌水中に存在
しやすいので容易に流出してしまう。
表層土壌水中で濃度が高いから
流出量が多くなる(直接流出成分が多くなる)と濃度が低くなるもの:
( HCO3-(DIC) ) ( Na+ ) ( SiO2 )など
 多くの森林で、無機態窒素を生態
系内に留め、流出量を減らす作
用があるが、都市近郊などの流
入量が多い場所で流出量が流入
量を超える場合がある。(右図)
地下水中で濃度が高いから
長期的の流出特性
流出する元素総量(=負荷量 )は流出量に比例して大きくなる
 流出量は内部の生物化学過程だ
けでなく、物理的な水文過程の影
響を強く受ける。
日本などの夏雨地域では、成長期で植物が
多く利用するにもかかわらず、雨の多い夏
に流出が多くなる。
(大田編「森林の再発見」P206)
多雨地域では、渓流水質および渓流への負荷量は、内部の濃度形
成要因だけでなく、水文過程(流出経路や降水量など)の影響を強く
受ける。
(大田編「森林の再発見」P207)
水質を使ったハイドログラフの成分分離
173
水文トレーサーとしての水同位体
174
( 安定同位体 stable isotope):時間が経過しても質量が変化した
り別の元素に変ったりしない同位体(同じ元素だが質量が異なる原子)
( 端成分混合解析 EMMA, end-member mixing
analysis):複数の端成分とトレーサーによって
流出水における各端成分の割合を求める方法
酸素O:16Oと17O と18O(16O = 99.63%, 17O = 0.0375%, 18O = 0.1995%)
水素H:1H(軽水素)と2H(重水素) (1H = 99.985%, H = 0.015%)
→流出水の起源をいくつか仮定することで、ハイドログラフ
の成分分離を行うことができる。
 適切な端成分とトレーサーを選ぶことが大事!
( 同位体分別 isotope fractionation):軽い同位体のほうが蒸発・
融解が起きやすく、重い同位体のほうが凝結・凍結しやすいため、相
変化の過程で同位体の比率が変わる。
降水の同位体比には時空間分布・変動
があり、水の動きの指標として使える。
( 同位体比 )の表し方:
標準物質からの千分偏差値(‰)
の標準物質は標準平均海水SMOW
R=18O/16O または R=2H/1H
 Rsample 
1 1000
 Rstandard 
 18O,  2H  
(杉田・田中編「水文科学」P180)
降水の同位体分別
http://serc.carleton.edu/microbelife/research_methods/environ_sampling/stableisotopes.html
水同位体の利用例
175
降水の同位体比を決める5つの要因
( 温度効果 ):気温が低いほど小さくなる。
( 緯度効果 ):緯度が高いほど小さくなる。
( 降水量効果 ):降水量が多くなるほど同位体比は小さくなる。ま
た降り始めが一番大きく、次第に小さくなる。
( 内陸効果 ):気団が海岸から内陸へ行くほど小さくなる。
( 高度効果 ):地形性降雨の場合、降り始めの低標高で大きく、気
団が高標高へ向かうほど小さくなる。
176
システム内の水の動きを推定
滞留時間の推定
吸水場所の推定など
(下図は植物は主に土壌水を利用し、渓流
水は主に地下水で涵養されていることを示
している)
降雨の水同位体にはっきりした季節
変化がある場合、その振幅がどのよ
うに遅れ平準化されるかによって、
滞留時間が推定できる。
( 天水線 meteoric water line):
気温が下がり、緯度が上がるとともに
同位体比がこの線上に沿って小さくなる
D
O
世界の天水線はa=8, b=10
個々のデータについて切片を求める場合
D 8
O
切片のことをd値(d-excess)と呼ぶ
( δ-ダイアグラム ) (杉田・田中編「水文科学」P212)
a:地下水,b:河川水,c:植物木部水,d:土壌水
(Evarist et al 2015, Nature)
(大田編「森林の再発見」P191)
177
178
水循環とガス交換
 森林は大気との間で( ガス交換 )を行っている。このうち量が最
も多いのが蒸発散過程である。
蒸発散(H2O)
光合成・呼吸(CO2 )
CH4・N2Oなどの温室効果ガス
生物起源揮発性有機炭素(BVOC)
など、様々なガス態物質が森林と大気の間でやり取りされる。
蒸散と光合成は、ともに植物葉の( 気孔 )を介し、連動して行わ
れるので、統合的な視点で見る必要がある。
11.ガス交換と森林水文学
O2
O2
O2
O2 O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
H2O
O2
O2
O2
O2
O2
H2O
O2
O2
O2 O2
O
2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O
2
O
2
O2
O2
O2 O2 O2
O2
O2 O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
H2O
O
2
O
2
O2
O2 O2
O2 O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2 O2 H2O O2 H2O
O2
O2
O2 H2O
H2OH2O H2O
H2O
O2 O2
H2O
H2O
O2
H2O
H2O
H2O
H2O
H2O
H2O
O2
O2
H2O
O2
H2O
O2
O2
O2
O2
H2O H2O
O2
H2O
O2 H2O
O2
課題11.1 蒸散速度と光合成速度はどの
ようにして決まるか、ガス交換の式を
O2
Big-leaf conceptと個葉過程の関係
Big Leafモデル:群落全体を一枚の
葉と見立て、この仮想葉の振る舞いを
森林全体の振る舞いとする。生態系フ
ラックスデータから直接森林の挙動の
特性を抽出するのに適す。個葉の情報
とどう関係するのかはブラックボックス。
多層モデル:個葉スケールでのガス交換過程を積み上げ
て群落全体のガス交換を表現。個々のプロセスの影響を解析
するのに適す。過去の俯瞰や未来の予測にも利用できる。
個葉ガス交換の基礎
179
群落コンダクタンス:群落全体を一枚の葉( Big-leaf )と見立て、こ
の仮想葉における気孔の開き具合を表す指標。
( 気孔コンダクタンス ):実際の葉の気孔の開き具合を表す指標。
O2
180
LI6400, 光合成・蒸散速度測定装置
E
A
g bw g sw
Wi  W a 
g bw  g sw
g bc g sc
ci  c a 
g bc  g sc
W a Ca
g aboundary layer
H2O
flux
g s stomata
Wi
CO2
flux
Ci
intercellular space
gi
Cc
mesophyll
 チャンバー法で、光合成速度A、蒸散速度E、大気CO2濃度ca、大気
水蒸気モル分圧Wa&葉温での飽和水蒸気モル分圧Wi(湿度、気温、
葉温から算定できる)を測定する。チャンバー内の風の動きは一定
にしているので葉面境界層コンダクタンスgbw&gbcは一定である。こ
れらから、( 気孔コンダクタンス gsw, gsc )( 細胞間隙CO2濃度 ci)
が算定できる。
課題11.1 蒸散速度と光合成速度の決定要因について、それぞれ説明せよ
気孔コンダクタンスの決定要因
181
 気孔は( 光 )を受けて開く。その開度は、( 飽差 )、( 温度 )、
( 土壌水分 )、( CO2濃度 )などの信号を受けて調整される。
→( Jarvis型 )気孔コンダクタンスモデル
 ( 気孔開度 )、( 光合成速度 )、( 細胞間隙CO2濃度 )の3者
の関係は、通常絶妙なバランスに保たれている。
→( Ball型 )気孔コンダクタンスモデル
1.光(光合成有効放射)→孔辺細胞の葉緑体で
ATP生産→?→K+(カリウムイオン)の交換(葉温と
細胞間隙CO2濃度によりK+交換の調整) →孔辺細
胞膨圧増加→気孔開口
2.飽差の増加→表皮細胞の膨圧変化→?→孔辺
細胞膨圧低下→気孔閉鎖
3.土壌水分の低下→( ABA(アブシジン酸) )生
産→?→孔辺細胞膨圧低下→気孔閉鎖
4.飽差の増加・蒸散の増加、土壌水分の低下→葉
内水分低下→?→孔辺細胞膨圧低下→気孔閉鎖
 ( Ball型気孔コンダクタンスモデル )
 特徴:光合成速度と気孔コンダクタンスが、広範囲の環境条件下で安定した関係
性をもつというガス交換速度の測定から得られた知見をもとに、気孔コンダクタン
スを光合成速度・二酸化炭素濃度および湿度の関数とした応答型モデル。
 長所:安定したパラメータの決定を行うことができる。
 短所:気孔開閉の植物生理学的メカニズムとの関連が不明瞭。とくに弱光域で
の気孔の振る舞いを十分に表現できない(最小コンダクタンスを過大評価する)。
gsw  m
A
hs  gswmin
Cs
h:Relative humidity (%), A:Net assimilation
rate (mol m-2 s-1), Cs:CO2 concentration at
leaf surface (mol mol-1), m,gsmin:Parameters
Leuning (1995)
g sc  a1
A
182
 ( Jarvis型気孔コンダクタンスモデル )
 特徴:様々な環境要因と気孔コンダクタンスとの独立した関係を掛け合わせて気
孔コンダクタンスを予測するモデル。
 長所:気孔が光を主信号として開き、飽差・温度・土壌水分・二酸化炭素濃度など
の要因がその開度を調整するという、植物生理学的な知見にもっとも合致する。
 短所:多数にのぼるパラメータをフィールドでのデータを使って同時に最適化する
のが困難でパラメータの比較がしにくい。
g sw  g sw max f Q, T , D, C a ...
Jarvis (1976)
 f1 Q  f 2 D  f 3 T  f 4 C a  f 5  s ...
Lohammer et al (1980)他
g sw max Q
g sw max f1 Q  
Q  g sw max a
―Jarvis x Lohammer
f 2 ( D )  1 1  D / D0 
f 2 ( D )  1  D / D0
Th To


  Th  T  To Tl 
 


  Th  To 



( C a  360)
 T  Tl
f 3 T   
 To  Tl
f 4 C a   1
Q:PAR (mol m-2 s-1), T:Leaf temperature (C)
D:Vapor pressure deficit (hPa)
Ca:Air CO2 concentration (mol mol-1)
gsw:Stomatal conductance (mol m-2 s-1)
a,gsmax,Th,To,Tl, D0,c1 :parameters
1  c1 (C a  360) ( C a  360)
光合成と蒸散の関係
183
気孔コンダクタンスモデル
Ball (1987)
気孔コンダクタンスモデル
184
 個葉ガス交換は( 気孔コンダクタンス )( 光合成速度 )
( 細胞間隙二酸化炭素濃度 )の3者の関係で決まる。
細胞間隙CO2濃度は需要と供給の兼ね合いで決まる
Asimilation rate
(mol m-2 s-1)
30
需要=光合成のA-ciカーブ
供給=気孔コンダクタンス
slope=total conductance
15
1
C s    1  D
D0 
 g sc min
A:Net assimilation rate (mol m-2 s-1), Cs:CO2
concentration at leaf surface (mol mol-1), :CO2
compensation point (mol mol-1), D:Vapor pressure
deficit(hPa), a1 gscminD0: Parameters
180
360
540
ambient or intercellular CO2 concentration (Ca, Ci)(ppm)
ci
細胞間隙二酸化炭素濃度
ca
葉面上の二酸化炭素濃度
720
 純光合成速度=( 炭酸同化速度 )ー( 光呼吸 )ー( 暗呼吸 )
 炭酸同化速度は、Wj,Wcのうち遅い方に律速される。
Farquhar(1980)モデル
A  Vc 1  0.5   Rd
Vc  minW j , Wc 
明反応:電子伝達系
光呼吸:PCO回路
二酸化炭素放出
0.5CO 2
0.5  O 2
光吸収
Light
電子伝達系
(1+)O 2
PCO
cycle
PGA
O2
2PGA
RuP2 carboxylaseoxygenase
Wc
CO 2
(1+ )RuP 2
4+4
electron
+
0.5NH4
Fd- =0.5NADPH transport
0.5PGA
2+2
NADPH
2+2
+
NADP
(2+1.5)PGA

p *  
  Rd
A  Vc 1 


p
c
c 

p *   p O  2
60
40
20
0
0
10
Wj
PCR
cycle
30
40
温度依存式
    exp 1  298 Tl .k    H a 298 R
25
5

R d  R d 25  exp 1  298 Tl .k    H a 298 R 5 
光合成反応の模式図(Redrawn from Farquhar, 1980)
187
188
光合成のモデリング
 光が不十分なとき:Wjによる律速
 光が十分なとき:Wcによる律速
p c c 
p c c   K c 1  p O  / K o 
20
leaf temperature (degC)
光合成のモデリング
W c  Vc max
80
カルビン回路 V c
ブドウ糖生成
(1-0.5)(CH 2O)
100
暗反応:カルビン回路
二酸化炭素吸収
186
 光呼吸によって放出されるCO2の割合0.5は、 *(光呼吸以外の
呼吸を除いた場合のCO2補償点)とCc(葉肉細胞内CO2濃度)の比
と定義される。 *は酸素濃度p(O)とルビスコ定数 によって決まる。
の挙動はC3植物ではほぼ同じとされており、温度によって決まる
定数と考えられている。
0.5  p *  / p cc 
J
Gly
PGIA
光合成のモデリング
185
* (ppm)
光合成の決定要因
Wj 
Wc
Jは電子伝達速度。1個のNADPHを作る
J
J

2 2  2  4  8 p *  p C c  のに2個の電子が必要で、一個のCO2を
同化するのに2+2のNADPHが必要。

 J 2   J max 

( Vcmax ):最大炭酸同化速度
葉のルビスコ量と活性によって決まる
(「みかけのVcmax」はこの限りではない)
Vcmaxの低下
J max 
 (1  f )
2
 (1  f )

Q  J  J max
Q  0 J(電子伝達速度)の式
2

J max25  exp 1  298 Tl . k    H a 298 R  (
1  exp  STl . k   H d  RT l . k 
Jmax ):最大電子伝達速度
温度依存式
K c  K c 25  exp 1  298 Tl .k    H a 298 R 5 
Ccの低下
p(cc)
Wj
Jによって上下する
K o  K o 25  exp 1  298 Tl .k    H a 298 R 5 
V cmax 
V cmax25  exp 1  298 Tl . k    H a 298 R 
1  exp  STl . k   H d  RT l .k 
-2 -1
Electron Transport rate (mol m s )
140
slope =  (1-f)
100
80
convexity = 
60
40
20
0
Cc
max = J max
120
0
500
1000
PAR (mol m
1500
-2
-1
s )
2000
ガス交換パラメータの挙動
落葉広葉樹の光合成はVcmax25の季節
変化を考慮しないと再現できない。
常緑・落葉広葉樹ともに、展葉期・落葉期
のVcmaxが温度依存関数より小さい。
Kosugi & Matsuo Tree Physiol 2006
Kosugi et al, Plant, Cell and Environ 2003
Vcmax25
189
190
個葉から群落へのスケーリング
( 多層モデル ):群落を多層に区切って各層でのフラックスを積み
上げることで群落上のフラックスを再現する。
群落内での様々な素過程(乱流拡散、放射伝達、エネルギーの再分配、個葉による
蒸散・光合成活動、土壌呼吸、土壌面蒸発など)がどのように積み上がって群落全体
のフラックスを決めているのかを説明できる。
Vcmax25の季節変化
Month
長・短波放射 降雨
Vcmax25、Jmax25, Rd25, LMA,葉面積当たり窒素量は相互に相関する。全層で最大の光
合成を得つつ最下層も生存可能になるような鉛直分布となる。Kosugi et al, J Plant Res 2012
気温
CO2濃度
湿度
風速
Vcmax減衰を変えたときの各層光合成量の変化
ガス交換関連パラメータの鉛直分布
長・短波反射 顕熱・潜熱・CO2フラックス
顕熱交換
遮断蒸発
蒸散
光合成
地中熱
流量
林内雨
土壌呼吸
林床面蒸発
P ( z  dz )
Wa Ca
boundary layer
U dry
U wet
Ldry
Lwet
H2O
flux
stomata
Wi
CO2
flux
Ci
Cc
intercellular space
mesophyll
P (z )
H
林分構造を
変化させて、
蒸発散量の
推移を推定し
てみる
0.1
LAD
Rd25
Vcmax25
20
2
-3
0.0
25
0.3
Total LAI=2.5
10
0.2
LAD
Rd25
Vcmax25
20
15
0.1
0.0
25
0.3
20
15
10
0
0
0
10
20
30
40
1
2
3
4
-2
2
0.3
0.0
25
20
10
20
30
40
0
10
20
30
40
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4
-2
Vcmax25 , Rd25 (mol m s )
-1
Vcmax25 , Rd25 (mol m s )
-3
0.2
0.3
Total LAI=5.0
15
10
5
0
-1
0.1
LAD
Rd25
Vcmax25
Total LAI=4.0
10
5
192
LAD (m m )
0.2
15
5
0
0.1
LAD
Rd25
Vcmax25
Total LAI=3.0
5
0
-3
LAD (m m )
LAD (m m )
0.2
Height (m)
サブモデル相関:
●放射伝達モデル(樹冠上放射環境推定モデル+放射減衰モデル
(出力)各層の日射・長波・PAR(直達散乱↓散乱↑)、日向日陰の葉の割合
↓↑
●乱流輸送クロージャーモデル
(出力)各層の風速・温度・湿度・二酸化炭素濃度
↓
●各層の顕熱・潜熱・二酸化炭素フラックス推定モデル
(フラックスの式+エネルギー収支式)
(出力)各層の顕熱・潜熱・二酸化炭素フラックス・表面温度
↓↑
(乾いた葉)
(濡れた葉)
(土壌面)
●光合成蒸散モデル
●遮断蒸発モデル
●土壌呼吸モデル
(気孔コンダクタンスモデル
光合成モデル)
2
LAD (m2 m-3)
0.0
25
Height (m)
入力環境変数:植生上の風速・気温・湿度・日射↓・長波放射↓・二酸化炭素濃度・
雨量・地中熱流量(10分~1時間間隔の時系列データ)
多層モデルを使った解析・桐生水文試験地の例
Height (m)
191
Height (m)
多層モデルの構造
-2
0
0
10
20
30
0
1
2
3
40
4
-2
-1
-1
Vcmax25 , Rd25 (mol m s )
Vcmax25 , Rd25 (mol m s )
Stage I HT:5m LAI:2.5 Stage II HT:10m LAI:3.0 Stage III HT:13m LAI:4.0 Stage IV HT:18m LAI:5.0
植生の変化にもか 1970s
かわらず蒸発散量
が平準化し漸増に
とどまることは、ほ 1970s
ぼ説明可能。
1980s
1990s
樹高の低い若齢期
に気孔開度が若干 2000s
大きかったことを加
味するとさらに適合。
1980s
1990s
2000s
Evapotranspiration (metdata:2006)
m=constant(5)
Evapotranspiration (metdata:2006)
m=changing
蒸散 土壌面蒸発 遮断蒸発
若齢期の気孔開度を大きくすると―
HT5m LAI2.5
m=5.0
m=6.0
HT10m LAI3.0
m=5.0
m=5.0
HT14m LAI4.0
m=5.0
m=5.0
HT18m LAI5.0
m=5.0
m=5.0
Simulated
蒸散
Transpiration
土壌面蒸発
E from soil
0
遮
断蒸発
E intercept
水収支蒸発散
observed
200
400
mm year-1
600
800 0
200
400
mm year-1
600
800
193
高木の生存戦略と水文環境
1500
E,
E,
E,
E,
-1
E (mm year )
1400
←雨
←蒸発散
500
0
2003/1
2004/1
2005/1
2006/1
2007/1
2008/1
2009/1
2010/1
2011/1
Rainfall - Evapotranspiration (assuming MAX storage water of whole soil column)
 Storage water of 0-0.5 m soil
50
-50
↑0‐50cm層の水量変化
←土層全体の水量変化
-100
-150
2003/1
2004/1
2005/1
2006/1
2007/1
2008/1
2009/1
2010/1
2011/1
e
VSWC
gc10:10-15:00
g c 1 0 :0 0 -1 5 :0 0 (m o l m -2 s -1 )
Kosugi et al, 2012 JFR
0
0.45
15
0.40
0.35
10
0.30
2003/1
2004/1
2005/1
2006/1
2007/1
2008/1
2009/1
2010/1
2011/1
2012/1
5
10
4400
4600
4800
1400
R n-G-S (MJ m--2 year -1)
1600
1800
2000
2200
2400
Rainfall (mm year -1)
飽差が大きい時は潜熱に制動かかる
気孔閉鎖による蒸散制御
蒸発散量は放射量の
15
みで決まるのではなく、
10
使える水の量(降水
量)、エネルギー量(放
5
射量)、気孔の開閉な
0
H
lE
どによって、巧みに調
lE
整された結果、蒸発散
-5
25
0
5
10
15
量と放射量との関係が
 e (hPa)
Kosugi et al, 2012 JFR
決まっている。
0
0
5
10
15
20
-1
不均一な気孔開閉と光合成
196
もし植物が不均一に気孔を閉じたらどうなるかー
気孔の半分がほとんど閉じていて、半分が開いている場合
Asimilation rate
(mol m-2 s-1)
( 等圧葉 )
A-ciカーブ↓
←維管束
平均光合成速度のライン
( 異圧葉 )
←維管束鞘延長部
ambient or intercellular CO2 concentration (Ca,
Ci)(ppm)
平均ciのライン
0.50
20
 e (h P a )
(mm)
0
4200
-1
5
195
どのような年でも平準
化された蒸発散量を維
持するシステムを支え
ているのは-
 乾燥時には深層か
2012/1
らの吸水
 土壌や大気の乾燥
に合わせた群落コン
ダクタンス調整(=
気孔開閉)による蒸
散量の制御
2012/1
V S W C (m 3 m -3 )
(mm)
1000
1000
-2
-2
10
-2
1500
1100
lE (MJ m day )
-1
H, lE (MJ m day )
15
Rn-G-S (MJ m- day )
2000
1200
放射依存だが放射増加分は
顕熱により多く配分される
-5
高木の生存戦略と水文環境
Method 1'
Method 1
Method 2
Method 3
1300
半島マレーシア熱帯雨林
(パソ)での蒸発散観測
12.水文環境が規定する様々な
森林生態系機能
194
気孔が閉じている場所のci
ca
気孔が開いている場所のci
異圧葉で不均一な気孔閉鎖がおこった場合、実際には気孔閉鎖によってCO2が不
足し光合成速度が低下するが、見かけ上は、光合成能力(Vcmax)が落ちたようにみえ
る(=見かけのVcmaxが低下する)。
異圧葉は温暖・乾燥地域に多い。どのような意義があるかは、解明されていない。
不均一な気孔開閉と光合成
半島マレーシア熱帯雨林では、
高温・強放射・高飽差環境下の
高木で、不均一な気孔閉鎖を伴
う光合成低下がみられる。安定
的な水供給のための調整機能と
考えられる。
↔
中低木
↔
地球の炭素循環に対し、生態系の光合成と呼吸のバランスが潜在的に大きな影響
力を持っている。生態系呼吸は、水文環境の影響を大きく受ける。特に泥炭林
↑
湛水下では分解が
進まず炭素が蓄積
している。排水する
と生態系呼吸が増
える。
フタバガキ科高木:葉柄に貯水?
Kamakura et al 2015 TP
生態系呼吸の時空間変動と水文環境
Observed (wet)
Observed (<0.30)
Q10 model
0.20
Arrhenius model
Lloyd & Taylor model
G34
Observed (<0.18)
200
半島マレーシア熱帯雨林(パソ)では、土壌呼吸が空間的には湿潤な場所で小さく、
時間的には乾燥期に小さい。
土壌呼吸の空間変動と
土壌水分の関係
土壌呼吸の時間変動と
土壌水分の関係
0.15
リター含水比
0.05
0.00
0.30
G27
G5
Observed (<0.10)
0.25
Observed (<0.12)
0.20
0.15
0.10
0.05
0.00
0
5
10
15
20
Soil temperature (℃)
Ataka et al, 2015 JAM
降雨中、土壌呼吸が低下することがある。
25
30 0
5
地温
三谷ら 日本森林学会誌 2006
10
15
20
25
雨
↓
土壌呼吸
0.10
土壌呼吸
Soil respiration rate (mgCO2m -2s-1)
2
-2 -1
土壌呼吸
Soil respiration rate (mgCO m s )
G1
0.25
生態系呼吸の時空間変動と水文環境
リター分解呼吸
好気的環境下の森林土壌では土壌呼吸
は概ね地温の関数となるが、土壌乾燥時
には低下がみられる。
http://earthobservatory.nasa.gov/Features/
199
生態系呼吸は水文環境の影響を強く受け リター分解呼吸はリター含水比と高い正
るが、関係は複雑である。
の相関がある。
0.30
198
 生態系呼吸 = ( 独立栄養呼吸 ) + ( 従属栄養呼吸 )
根呼吸・幹呼吸・葉呼吸など
分解呼吸
林床木
電子伝達速度 みかけのVcmax 葉温 気孔コンダクタンス 光合成
高木N heimiiの気孔閉鎖の様子
高木
生態系呼吸の時空間変動と水文環境
197
30
土壌水分
Soil temperature (℃)
Sakabe et al, 2015 JGR
Kosugi et al, 2007 AFM
一斉開花と水文環境との関係
201
一斉開花と水文環境との関係
202
一斉開花時にも平準化機能が働き、生態系フラックスは非常に安定的
熱帯雨林の一斉開花
トリガーとして、降雨パターンと土壌水分が大きく影響している可能性あり
 (好気条件下)メタン資化性菌Methanotrophによる( メタン酸化 )
 (嫌気条件下)メタン生成菌Methanogenによる( メタン生成 )
メタン酸化=吸収
少雨年
メタン還元(生成)=放出
酢酸etc.
CO₂
森林湿地でのメタン放出:少雨年は少な
い。また多雨年も好気的環境が生じるた
めに、通常年よりも少なくなる。
CH₄
通常年
H₂
自然生態系のCH4放出源・吸収源
↓湿地からの放出
多雨年
森林土壌によるメタン吸収:地温よりも土
壌水分の影響が大(土壌呼吸と異なる)
地温
土壌呼吸
←土壌での吸収
204
メタン吸収
 メタンは強力な温室効果ガスで、地球温暖化への寄与は32%(IPCC,2013)
 森林は主要なCH4吸収源だが、湿地域を含む森林では局所的にCH4を放出
水文環境が規定するメタンフラックス
土壌呼吸
203
メタン吸収
水文環境が規定するメタンフラックス
http://www.globalcarbonproject.org/methanebudget/
13/presentation.htm
Itoh et al, JGR 2007
Sakabe et al, JGR 2015
土壌水分
様々な森林のメタンフラックス
アラスカ・クロトウヒ林
(北方湿地林)
弱い放出源
富士北麓・カラマツ林
(例温帯落葉樹林)
吸収源
206
205
桐生・ヒノキ林(暖温帯針
葉樹林・内部に湿地)
放出~吸収をスイッチング
13.すべてが連動する地球システム
Iwata et al, AFM 2015
Ueyama et al, AFM 2013
真瀬・水田:強い放出源
Iwata et al, BLM 2014
Sakabe et al, TAC 2012
すべてが連動する地球システム
スケーリング
207
 日射エネルギーをもとに、地球の表面で( エネルギーの分配 )がおこる
↓
 ( 蒸発散 )(=潜熱フラックス)がおこり、水循環の駆動力となるとともに、
( 温室効果 )により地球の気候を安定させる
↓
 ( 大気の大循環 )により、水蒸気・熱の再分配
↓
 陸上の各地域で特有の( 気候 )がきまる
↓
 気候に見合った( 植生 )の成立
↓
植生の影響
 流域スケールの水循環:蒸発散特性の変化や土壌形成などによる浸透特性の変
化が流出特性を変化させる
 広域スケールの水循環:植生から蒸発散がおこり、水循環や温熱環境が変化
 地形への影響:土砂移動・風化・侵食過程に影響を及ぼす
 生態系スケールの物質循環:水循環と連動し、光合成による炭素循環がおこり、
さらに炭素循環と連動して、窒素循環やその他の物質循環の様相が変わる
 全球スケールの気候システム:植生のガス交換によって大気中の二酸化炭素や
メタンの量が温室効果に影響
208
植物生理学
←←植物生理生態学→→
細胞・組織
←←←植物気象学→→→
個葉
葉群・個体
生態学
土壌学
群落
生態系
小流域
過去(45億年のスケールで)
↑↓
古生物学、古気象学
現在
↑↓
GCM,未来予測
未来
←水文学→
地域 ←気象学
大流域
全球
量水堰
アルバート・アインシュタイン
「すべては可能な限り単純にするべきである。しかし単純にしすぎてはいけない。」
“Everything should be made as simple as possible, but not simpler.”
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