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公営住宅における母子家庭の優先入居措置

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公営住宅における母子家庭の優先入居措置
平 成 13年 7 月 30日
総務省東北管区行政評価局
( 局 長 : 笹 岡 俊 夫 )
公営住宅における母子家庭の優先入居措置
(行政苦情救済推進会議の検討を踏まえたあっせん)
連絡先:総 務 省 東 北 管 区 行 政 評 価 局
(首席行政相談官:小沼孝則)
電
話:0 2 2 ( 2 6 2 ) 7 8 4 0
1 行政相談の受付等
⑴
行政相談の受付:山形行政評価事務所(平成13年3月2日)
⑵
関係行政機関名:山形県
⑶
実情把握年月
⑷
行政苦情救済推進会議開催年月日:平成13年6月28日
:平成13年5月∼6月
2 行政相談への申出要旨
私は、中学生の息子と2人暮らしの母子家庭であり、病弱で通院している。
現在、民間アパートに入居しているが、高額な家賃を負担しなければならないので、
県営住宅の入居を希望している。
平成12年4月と5月、通院にも都合のよい県営住宅に入居を申し込んだが、抽選の結
果、2回とも補欠で、結局入居できなかった。
入居者の選考に当たり、私のように母子家庭で生活が苦しい者に対しては、優先的に
入居できるような措置を講じてほしい。
3 当局による実情把握結果
⑴
公営住宅及び入居者の選考方法等に係る制度の概要
ア
公営住宅の目的等
公営住宅は、地方公共団体が住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃
貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与すること
を目的に設置している住宅である(公営住宅法(昭和26年法律第 193号)。以下
「法」という。)。
国は、事業主体(公営住宅の供給を行う地方公共団体。以下同じ。)が、公営住
1
宅の建設等をする場合には、予算の範囲内で公営住宅の建設等に要する費用の2分
の1を補助するものとされており(法第7条第1項、第2項)、現在、建設費につ
いては公営住宅建設費補助金が、運営費については家賃差額に対する補助として公
営住宅家賃対策等補助金が支出されている。
イ
入居者資格
公営住宅の入居者は、法第23条において、①現に同居し、又は同居しようとする
親族があること、②その者の収入が政令又は条例で定める一定の金額を超えないこ
と、③現に住宅に困窮していることが明らかであることのすべての条件を具備する
こととされている。
ウ
入居者の選考方法
入居者の選考は、法第25条において、「事業主体の長は、入居の申込みをした者
の数が入居させるべき公営住宅の戸数を超える場合においては、住宅に困窮する実
情を調査して、条例で定めるところにより、公正な方法で選考して、当該公営住宅
の入居者を決定しなければならない。」とされている。
また、旧建設省(現国土交通省、以下同じ。)では、平成8年度の法改正(注:
参照)に伴って条例の改正が必要となることから、新たに条例制定上参考となるべ
き「公営住宅管理標準条例(案)」(平成8年10月14日付け建設省住総発第 153号
住宅局長通達)を地方公共団体に示しているが、同条例(案)では、「知事(市
長)は、20歳未満の子を扶養している寡婦等については、知事(市長)が割当てを
した県(市)営住宅に優先的に選考して入居させることができる。」とされている
(第8条第4項)。
(注)平成8年度の法改正では、従前の第1種公営住宅(比較的収入の多い層を対
象に、主に都道府県が建築、管理)と第2種公営住宅(収入の少ない層を対象
に、主に市町村が建築、管理)の種別区分を廃止し、住宅困窮者に的確に住宅
を供給するとともに、家賃は入居者の収入、住宅の立地条件等の便益により算
定する等の制度改正が行われた。
エ
困窮度合に応じた入居者の選考の実施
旧建設省では、「公営住宅の管理の適正な執行について」(昭和46年4月5日付
け建設省住宅局長通知)等において、入居者の選考に当たっては、「各事業主体に
おいては、入居者の選考に関する条例、規則等を整備し、住宅困窮の態様につい
て、地域の実情に応じた基準を設けて、これに基づき困窮度の高いものから入居者
を選考することとして、一律抽選による選考のみに依存することのないよう努める
こと。」と指導してきた経緯がある。
また、母子家庭(注:参照)の取扱いについては、旧厚生省(現厚生労働省)と
旧建設省との協議により、住宅の困窮度が著しく高いものとして優先的に取り扱う
旨の通達が出されている(「公営住宅の入居者選考の際における母子家庭の取扱い
について」(昭和30年11月9日付け建設省住発 903号住宅局長通知))。
2
なお、母子及び寡婦福祉法(昭和39年法律第 129号)第18条では、「地方公共団
体は、公営住宅法による公営住宅の供給を行う場合には、母子家庭の福祉が増進さ
れるように特別の配慮をしなければならない。」とされている。
(注)母子家庭とは、20歳未満の子を扶養している寡婦世帯をいう。
⑵
山形県における入居者の選考方法及び母子家庭に対する優先入居措置状況
ア
入居者資格
県営住宅に入居することができる者は、①現に同居し、又は同居しようとする
親族があること、②その者の収入が、身体障害者等である場合は基準月収額が26
万8,000円、それ以外の場合(母子世帯等)は基準月収額が20万円を超えないこ
と、③現に住宅に困窮していることが明らかであることとされている(山形県県
営住宅条例(昭和37年3月30日付け山形県条例第23号。以下「山形県条例」とい
う。)第5条)。
イ
入居者の選考方法及び母子家庭に対する優先入居措置状況
山形県条例では、入居者の選考について、①住宅に困窮する実情を調査して、
適切な規模、設備又は間取りの県営住宅に入居させることができるよう配慮し、
住宅に困窮する度合いの高いものから順次入居者を決定しなければならない、②
住宅に困窮する度合いの相違を認め難いときは、公開抽選により入居者を決定す
るものとされている(第7条)。
しかし、実際の運用では、入居者の選考に当たり困窮順位を定め難いことや、
募集戸数が少ないため優先枠の確保が難しいとして、一律に公開抽選により入居
者を選考しており、母子家庭等に対する優先入居措置は講じていない。
⑶
東北管内の他県及び県庁所在市における母子家庭に対する優先入居措置状況
今回、当局において、東北管内の他県及び県庁所在市(合計11県市)について、
公営住宅の母子家庭に対する優先入居措置状況等について実情把握した結果は、次
のとおりである(資料1参照)。
ア
条例及び同施行規則上における母子家庭に対する優先入居措置の規定の有無
11県市の県(市)営住宅条例及び同施行規則における母子家庭に対する優先入
居措置状況をみると、10県市では、母子家庭に対する優先入居措置を講じること
ができる旨規定されている。
イ
実際に母子家庭に対する優先入居措置を講じている県市の状況
上記のとおり、条例及び同施行規則上、母子家庭に対する優先入居措置を講じ
る旨規定している10県市のうち、5県市では、実際上も、公営住宅への入居者選
考において、母子家庭に対する優先入居措置を講じている。
これらの県市における優先入居措置状況を調査したところ、①優先入居枠を設
ける、②複数の抽選機会を与える、③住宅困窮度を判定する際に、母子家庭であ
ることを判定要素に含めるなどの措置を講じている(資料2参照)。
3
なお、2市では、特定目的住宅(注:参照)として母子世帯向け住宅を設置
し、母子家庭を入居させているが、一般住宅の入居者選考においては、現在、母
子家庭に対する優先入居措置を講じていない(後述ウ参照)。
(注)公営住宅は、その用途に応じて、一般住宅と特定目的住宅の2つに分けら
れる。特定目的住宅とは、用途(入居者)を特定した住宅で、母子世帯向け
公営住宅、老人世帯向け公営住宅、身体障害者向け公営住宅等がある。
ウ
実際には母子家庭に対する優先入居措置を講じていない県市の状況
条例及び同施行規則上、母子家庭に対する優先入居措置を講じる旨規定してい
るが、実際上は、一般住宅の入居者選考において優先入居措置を講じていない5
県市から、その事由を聴取したところ、入居を希望する住宅困窮者が多い中で、
母子家庭を含めた優先入居措置を講じることは、公平性を欠き、一般の入居希望
者から理解が得にくい等の事由を挙げている。
また、条例及び同施行規則上も母子家庭に対する優先入居措置を講じる旨、定
めていない1県では、県営住宅へ入居を希望する資格者は、すべて住宅に困窮し
ているとして、優先入居措置は講じないで、申込み順に入居させている。
ただし、当該1県を含め、現在、一般住宅の入居者選考において、優先入居措
置を講じていない6県市のうち、2県では、母子家庭、高齢者、身体障害者等を
含めた優先入居措置の導入を検討中とのことであった。
4 行政苦情救済推進会議の意見
公営住宅の入居者については、住宅に困窮している人を対象にしているが、その中で
も、特に住宅困窮度の高い者に対し優先入居措置を講じることは、公営住宅の趣旨から
みて当然であり、母子家庭は一般的にはこれに該当すると考えられることから、何らか
の優先入居措置を考えるべきである。
優先入居措置としてどのような方法を導入するかは、他の地方公共団体で実施してい
る例をも参考にして、山形県の実情に応じた方法を講じることとしてはどうか。
5 当局によるあっせん
あっせん年月日
:平成13年7月30日
あっせん対象機関:山形県
(あっせん事項)
上記の当局による実情把握の結果及び行政苦情救済推進会議の意見を踏まえ、入居者
選考に当たり、母子家庭を含めて、住宅困窮度の高い世帯に対して、他県市の優先入居
措置方法をも参考にして、住宅困窮度合いに配慮した何らかの優先入居措置を講じるこ
とについて御検討願いたい。
6
その後の改善状況
(1) 山形県は、当局のあっせんを受けて、山形県営住宅管理事務取扱要領を改正し、平
4
成13年10月以降の募集分から次の措置を講じ、改善が図られた。
①
身体障害者・高齢者に配慮して設計した住宅の障害者・高齢者入居の優先
⇒
具体的には、入居申込者が60歳以上で、同居親族が60歳以上又は18歳未満の世
帯及び身体障害者世帯が入居を希望する場合は、優先して入居決定する。
②
母子世帯、生活保護世帯、多子世帯、精神・知的障害者世帯に対する当選確率の
優遇
⇒
具体的には、公開抽選とするが、各対象世帯の当選確率が、その他の応募者の
当選確率の2倍になるよう、抽選回数を2回にする等の方法により行う。
(2) 当局のあっせん及びこれを受けた山形県の措置について、優先措置を講じていない
6自治体に対し参考通知した結果、青森県、秋田市において、母子、高齢者等世帯に
ついて当選確率を2倍にするなどの措置が講じられた。
5
資料1
山形県以外の東北管内の他県及び県庁所在市における
公営住宅の母子家庭に対する優先入居措置状況
東北管区行政評価局
区
分
条例及び同施行規則
実際に優先入居措置を
現在、優先入居措置を
上、優先入居措置を講
講じている。
講じていないが、将来
じることができると規
導入を検討している。
定している。
A
県
○
○
−
B
県
×
×
○
C
県
○
○
−
D
県
○
×
○
E
県
○
○
−
F
市
○
○
−
G
市
○
○
−
H
市
○
×
×
I
市
○
×
×
J
市
○
×(注2)
×
K
市
○
×(注2)
×
5
2
計
10
(注)1
2
当局の調査結果による。
J市及びK市では、特定目的住宅として母子世帯向け住宅を設置(J
市3戸、K市32戸)しているが、一般住宅の入居者選考に当たり、母子
家庭に対する優先入居措置を講じていない。
6
資料2
母子家庭に対する優先入居措置の方法等
東北管区行政評価局
県市名
A
県
母子家庭に対する優先入居措置の方法等
母子家庭を含む優先割当世帯に対し、募集戸数が相当数(5戸以
上)ある場合、そのおおむね30∼40パーセントを優先割当戸数として
優先枠を設けている。
C
県
優先入居枠を設け、先に優先入居者の抽選を行い、この抽選に漏れ
た者は、希望すれば一般枠での再抽選の権利を与えている。
E
県
募集戸数のうち20パーセント以下の戸数を母子世帯向け住宅として
優先枠を設けて募集。優先枠の抽選に落選した母子世帯は、再度、一
般枠の抽選に参加でき、2回の抽選機会を与えている。
なお、この優先入居措置は、平成12年度に県営住宅への入居を希望
する県民から、「条例で規定しているように、母子家庭に優先入居措
置を講じてほしい」旨の要望があったことから、13年度より、講じて
いるものである。
F
市
母子(父子)世帯を含む優先入居措置世帯は、抽選の際に同一番号
の玉を更に1個入れることにより、当選確率が2倍になるよう措置し
ている。
なお、この優先入居措置は、平成11年度に市民からの要望等があっ
たことから、12年度より、講じているものである。
G
市
住宅困窮度を点数化しており、住宅困窮度を判定する際に、母子家
庭であることを判定要素に含めている。
選考委員会を年4回開催し、入居資格及び住宅困窮度を審査して優
先順位を付しておき、空きが生じた場合に優先順位の高い者から入居
させている。点数が同点の場合は、一般入居希望者より母子家庭等の
優先入居措置対象世帯を優先している。
(注)当局の調査結果による。
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