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新たな経営管理基盤としての管理会計 - Nomura Research Institute

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新たな経営管理基盤としての管理会計 - Nomura Research Institute
3
コンサルタントが語る
新たな経営管理基盤としての管理会計
化により意思決定や戦略目標達成度のモニタ
これまでの管理会計は制度会計を中心と
リングを支援することに加え、環境変化を察知
して拡張もしくは派生させる形で構築するこ
現在の企業には、各組織体の自律性向上と全体最適化の両立に向けて、組織学習や
するアンテナとして新たな戦略創発のための
とが多かった。しかし、本来の役割や目的が
戦略創発を促進させる経営管理が必要となってきている。そのためには、
コミュニケーション
気付きを組織構成員に与えるという役割が、
異なるということを考えると、会計もしくは貨幣
基盤である管理会計制度に関して、制度会計の呪縛を完全に取り払い、経営管理への有
管理会計制度に求められる。さらに、組織内
的表現という同一性から制度会計とのある種
効性に即した形に再構築することが重要である。経営者はマネジメントの意思を管理会計
の垂直・水平の相互コミュニケーションによる組
の交わりは持ちながらも企業の内部管理用に
に埋め込み、経営のメッセージとして企業全体に伝達し、全社の共通言語として活用する
織学習を促進する基盤となるという役割も期
独自に最適化した形で構築する方が自然で
という意識統一を図っていくことが必要となる。
待される。
ある。
こういった管理会計の役割の拡大に対応
上
級
コ
ン
サ
ル
タ
ン
ト
図1
期においては、
そのような内部ロスも業容拡大
するには、外部の会計制度に縛られず、
目的
の中で吸収され、
グループ全体の価値の増大
に適合した有効な体系や制度を追求していく
は可能であった。しかし、需要が拡大期から
ことがより求められる。ところが、
日本では、外
安定期へと移行した時期以降、
そのような内
部の会計制度(特に、税務)対応中心に作成
日本経済の長期低迷と資本市場のグロー
部ロスが一挙に顕在化し、極度に自律性を高
された会計情報を内部管理にも共用している
バル化の進展に加え、
法制度の整備の後押し
める管理の限界が見え始めている。
企業が多い。本来の目的が異なるにもかかわ
により、
日本の企業グループでは組織再編が
最近では、
自律的行動と全体最適のバラン
らず、同一の情報を無理に利用しているがゆ
積極的に行われている。合併・買収などによる
スを再度見直し、両者を両立させようという方
えに、管理会計に期待する役割を十分に果し
組織統合、
分社化・分権化の組み合わせにより、
向への変革が見られる。現在のように不確実
ていないという状況が往々にして見られる。例
収益性の高い事業への経営資源の選択と集
性が高い事業環境下では、
このような自律性
えば以下のようなものが挙げられる。
中、効率化を行い、企業グループの価値増大
による迅速性と全体最適を両立させていくた
● 組織中心とした情報体系になっており、
商
を図っている。また、会計制度も連結重視、
キ
めの適切なコントロールが必要である。
トップ
品や顧客といった切り口で費用・収益の
ャッシュフロー重視という変化に加え、減損会
ダウン的に決められた戦略を下位者に計画通
関係が正確に把握できず、
資源配分の適
計の導入や四半期開示も要請され、
より選択
り実施させるための伝統的な統制システムに
正化・効率化につながらない。
と集中を推し進め、
より収益性を重視した迅速
加え、逆に戦略の変更の示唆や創発を促進
● 組織ごとの本来の役割や成果と会計情
な経営が求められるようになってきている。
するような双方向・対話型でのコントロールが
報の対応関係が明確でなく、
モチベーショ
新たな経営管理基盤としての管理会計制
これらの環境の変化は経営管理方式に大
必要となる。
ン向上につながらない。
度を構築する上で、
まず重要となるのは可視
きな影響を及ぼしている。これまで、事業環境
● 配賦計算を前提とした体系であるため、
化の対象となる単位の設定である。経営管理
変化への迅速かつ適切な対応を目指し、
自律
収益・費用の動きと利益の関係の実態を
上は、経営の横軸と縦軸のかけあわせ(マトリ
示しておらず、誤った行動を誘発する可
クス)で企業活動をとらえていくことが必要に
能性がある。
なる。
● 物量情報との関係が明確でなく、活動へ
経営の横軸とは「事業(Business Unit:
のフィードバックがかからない。
BU )」のことである。企業内に存在する複数
経営管理は統制から双方向・
対話型へ
サ
ー
ビ
ス
事
業
コ
ン
サ
長ル
テ
澤ィ
ン
育グ
一
範部
管理会計と制度会計の関係
性を強化する形で事業部制、
カンパニー制へ
の移行が推進されてきた。しかし、個々の組
制度会計情報は経営管理には
不十分
織体の個別最適行動は、全体最適の視点で
はロスを発生する可能性がある。需要の拡大
このような経営管理の下では、経営の可視
12 コンサルタントが語る-3
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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[多くの管理会計]
管理会計
制度会計
(図1挿入)
制度会計を中心として拡張・派生
[本来の管理会計]
管理会計
制度会計
制度会計と交わり持ちつつも独自の体系
経営を横軸
(事業)
と
縦軸
(機能)
のマトリクスでとらえる
コンサルタントが語る-3 13
3
コンサルタントが語る
事業の収益性や資源配分をとらえ、事業収益
の組織はその上にマッピングすることで表現
いく。設定されたKPIは、
戦略的に重視したり、
様のことは社内に会計情報を積極的に開示し、
の極大化を図る視点である。事業はさらに、
される。BU×FUで定義される各ユニットのミッ
変革・強化しようとしている活動やプロセスを
経営参画意識を高めることで自律性的行動の
商品・サービスや顧客に細分化される。
ションとそれに基づく責任・権限を明らかにし
示すことになる。そのため、KPIのモニタリング
促進を目指すオープンブック・マネジメントにお
もう一 方の 縦 軸とは「 機 能( F u n c t i o n
ておき、
それを組織に紐付ける。それによって、
が戦略遂行度合いのモニタリングになるととも
いても重視されている。
Unit : FU)
」のことである。事業ごとのバリュー
組織のミッションや責任・権限も明らかになり、
に、KPIの設定とその検証が組織学習と新た
チェーン内に存在する機能を全社的に束ねて、
自律性の向上につながる。
な戦略の創発につながる。
最適化を図る視点である。
活動プロセスの可視化を行う上では、制度
このBU×FUのマトリクスで定義されるもの
会計上は許容されていない直接原価計算や
を管理単位(ユニット)
とすることで、機能及び
事業全体での状況を把握することができ、縦
原因と結果の関係を表現し、
活動プロセスを可視化
横の軸での資源配分の最適化や効率化を図
計の技法を導入することが有用である。また、
管理会計はその組織をどのようにマネジメン
予定・予測情報や非財務的な情報を組み合
トするかを反映するものであり、経営管理その
新たな管理会計制度を構築する上で次に
わせて構造化していくことも必要となる。これ
ものということができる。その制度自体がトップ
相互関係を知ることができる。この2軸で表現
必要となるのが活動プロセスの可視化である。
らの測定・計算技法の適用範囲と詳細化の
マネージメントのメッセージとなって企業内に伝
される企業活動全体の相互関係を可視化し
活動の可視化という意味では財務指標だ
レベルは、可視化すべき対象や目的、重要性
搬し、
構成員が意識するようになる。そのため、
ておくことが、機能・事業間でのコミュニケーシ
けでなく、
非財務指標の導入・分解も必要であ
に応じて検討する。
経営トップは意思を込めた管理会計制度の
ョンの誘発と促進にもつながる。
る。財務的な指標は活動の最終結果を示すも
構築とともに、
それを常時利用していくという姿
経営を可視化するための管理会計の情報
のである。結果としての財務指標を向上する
勢が求められる。
はこのBU×FUを基本に組み立てることが有
ためには、
その要因となる活動に直接的に紐
用である。組織は環境によって変化するが、
付いた非財務的な指標へ展開し、
マネジメント
BU×FUの構造は普遍的に存在するため、経
していくことが必要となる。
経営の可視化の思想を埋め込んだ管理会
基準にマネジメントする。制度会計は外部報
営管理上の基本的な情報となりうる。実態上
活動に紐付く非財務指標として、収益・費
計情報を社内の共通言語として活用していく
告用につくるものとして経理部門で管理し、
問
用の分解構造の一部としてとらえられる物量
には、教育によって管理会計のリテラシーを高
題があったら報告しろ。」
という意思を示して、
情報がある。さらには、財務指標の直接的な
めることも重要である。道具としての管理会計
その形で運用されている。制度会計が内部管
分解構造にはないが、将来的に財務指標に
制度を整備してもそれを理解できなければ、
使
理には役に立っていないという意識が強く、有
影響を及ぼす活動プロセスを可視化するため
いこなすことはできない。言語を知らなければ、
効性を追及した管理会計制度を別途構築し
の非財務指標の管理も重要になっている。こ
コミュニケーションも進まない。
て活用している例である。
れにより、短期的業績に加え、中長期的業績
現在のように権限委譲と組織学習を効果的
選択と集中を進め、迅速に効率性と収益性
の継続的な向上につながる視点を担保する。
に進め、
環境変化への対応を迅速化するには、
を向上させることが要求される現在、制度会
経営レベルでは、
プロセスを表現する情報
そのアンテナとなる情報を理解し、読み解ける
計の呪縛から離れ、経営管理・意思決定への
のうち収益への影響が大きく、管理上重要と
力が必須である。京セラでは、
アメーバー経営
活用という本来の役割にたちもどり、管理会計
なるものを重要業績指標(Key Performance
を進めるために、
その管理会計情報を理解す
を有効な制度へと再構築する必要がある。
Indicator ; KPI)
として設定・モニタリングして
るためのリテラシー教育に力を入れている。同
管理
BU2
ABC(Activity Based Costing)
など管理会
ることができる。また、各事業の中の機能間の
経営の横軸(BU)と縦軸(FU)
BU1
管理会計は経営トップの
メッセージ
研究
開発
BU
調達
管理会計を社内の共通言語に
弊社がコンサルティングを行ったある企業で
は、経営トップが「内部はすべて管理会計を
図2
生産
UNIT
FU
営業
物流
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