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第5回 有料老人ホームとサ高住の違い

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第5回 有料老人ホームとサ高住の違い
矢田 尚子
Yata Naoko 日本大学法学部准教授
専門は、民法、住宅法。中央建築士審査会、よこはま多世代・地域交流型
住宅整備・運営事業者選定等委員会等の委員を務める。著書に、『集合住宅・
第
5
回
住宅金融の危機管理(トラブル相談Q&A)』
(ぎょうせい・2009)等がある。
有料老人ホームとサ高住の違い ⑶
はじめに
分となって提供されます。これに対し、一般的
多くの有料老人ホームやサービス付き高齢者
賃貸借契約、第二サービスは生活支援サービス
向け住宅(以下、サ高住)では、
「要介護になっ
契約* 2 というように、入居者自らがサービスを
ても安心」ということを売りにしています。し
組み合わせ、事業者と契約を結ぶことで、実質
かし、実際には、生活支援や介護等のサービス
的には、一体的なサービス提供がなされます。
の提供が受けられると言いながらも、入居時に
ただし、サ高住によっては、第一、第二のサー
説明を受けた費用とは別に上乗せ分として高額
ビス提供を行う事業者が、必ずしも同一とは限
な月額費用が請求された、あるいは、建物内に
りません。このことは、例えば、食事等のサー
併設された訪問介護等のサービスを利用したの
ビスの提供中になんらかの事故が発生しても、
に、介護事故が起きても事業者は責任を認めな
サ高住の運営事業者には直接の責任は問えず、
いといった苦情は珍しくありません。
基本的には入居者が契約を結んだサービス提供
なサ高住は、第一サービスについては普通建物
そこで、今回は、入居後のトラブル防止の観
事業者に対して責任追及するほかないことを意
点から、有料老人ホームとサ高住
(両者)
の契約
味しています。もっとも、サ高住等の運営事業
形態の違いが生み出す問題を中心にみていきま
者が、食事等のサービスを他社に委託して提供
す(比較表参照* 1)。
することも考えられます。この場合は、運営事
業者が運営上の全責任を負うことになります。
両者の特徴と主な契約形態
介護サービスの提供方法と
提供責任
住宅名称に違いはあっても、両者では次の3
つのサービスが提供されています。第一が、バ
リアフリー化された建物設備の提供、第二が食
両者では、第一、第二のサービスに加え、さ
事や見守り(状況把握)
といった生活支援サービ
らに第三の介護サービスの提供もなされていま
スの提供、第三が介護
(介護保険)
サービスの提
す。その際、注意すべき点は、介護サービスに
供です。そして、これら3つのサービスが複合
は、介護保険対象内のサービスと保険対象外の
的に契約で結び付き、提供されることで入居者
サービスがあるということです。したがって、
の居住の安心が図られることになります。
まずは、介護保険対象内となるサービスはどの
有料老人ホームであれば、一般に入居契約を
範囲かを、介護保険契約書等で確認しなければ
結ぶことで、第一、第二のサービスが一体不可
*2 サ高住では、生活支援等のサービスのうち、見守りおよび生活
相談サービスは必須サービスとなっている。また、食事提供に
ついては、特に定めもないため、生活支援サービス契約の中に
含めず、別途食事提供契約を結ぶこともよく見受けられる。
*1 ウェブ版
「国民生活」12 月号 第3回
「高齢者向け住まいを考える」
http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201512_05.pdf
2016.2
国民生活
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なりません。そのうえで、各運営事業者が独自
的な義務もありません。したがって、
「住宅型」
に自由に設定する介護保険対象外サービスにつ
有料老人ホーム、一般的なサ高住の運営事業者
いて、いずれの主体が、どの範囲まで、いくら
がいう
「要介護になっても安心」
という売り文句
でサービスの提供を行う契約になっているの
には、法的な裏付けはないといえます。
か、しっかりと理解しておく必要があります。
さらに、
要介護度が上がると、
必要な介護サー
しかし、実際には、介護サービスの内容や方
ビスも増えて限度額内では到底収まらない、あ
法、料金が公的基準により規定される介護保険
るいはそもそも保険対象ではないサービスが必
対象内のサービスであっても、サービスの内容
要になります。このとき、
「介護付き」
有料老人
を理解することは容易ではありません。特に、
ホーム等をはるかに上回る自己負担が生じ、退
両者では、介護サービスの提供方法として、
「特
去せざるを得ないケースも少なくないので、と
定施設入居者生活介護」と「区分支給限度額」と
りわけ注意が必要です。なお、一部ではあるも
いう 2 つの方式があります*3。
のの、同一建物内に併設された系列の訪問介護
「特定施設入居者生活介護」
方式は、特定の指
等の利用を入居者に強要する事業者がいます
定を受けた「介護付き」有料老人ホーム
(および
(囲い込み)
。
「区分支給限度額」
方式の最大の利
一部のサ高住)の事業者が、すべての入居者に
点が、入居者自身が自由に事業者やサービスを
対し直接自己の責任の下、当該ホームの介護・
選択できることにある点からすれば、これは介
看護職員らによって上記第三の介護サービスの
護保険法違反の行為といえます。
提供まで一体的に一律の包括報酬で行えるとい
おわりに
うものです。これに対し、
「区分支給限度額」
方
式とは、在宅介護と同様に入居者が要介護度別
結局のところ、住み替え先を選ぶうえで注目
に設定された支給限度額の範囲内で外部の訪問
し比較すべきことは、提供されるサービスの内
介護・看護等の事業者を自由に選んで契約し、
容や質が十分か、同時に、それに見合った適切な
サービスの提供を受けるものです。このときの
価格設定がなされているかを確認することです。
事業者報酬は、利用分のみの出来高払いとなり、
さらに、サービス提供時に問題が生じたときの
この方式を採用しているのが、
「住宅型」
有料老
責任体制が明瞭かつ十分かどうかも重要です。
人ホームと一般的なサ高住です。要するに、こ
なお、それらを調べるに当たっては、良いことば
れらは第三の介護サービスを直接提供していな
かりが書かれているパンフレットのみでは不十
いのです。
分です。やはり契約締結前に得られる最も重要
な情報源となるのは、重要事項説明書や契約書
個別に契約を結ぶ場合の留意点
なので、
それらの確認は大事な作業といえます。
ちなみに、見学時の印象の良さだけ、逆に、
典型的なサ高住等では、同一建物内に、系列
の介護事業者が運営する訪問・通所介護を併設
見学には行かずに価格のみで入居をほぼ決めて
し、一見すると、サ高住等の事業者が統括して
しまっている場合があります。このとき、薄々
運営しているかのようにみえますが、
実際には、
はサービス内容や責任体制等に問題があること
介護事故が生じても直接の契約当事者ではない
を理解しつつも、目をつぶってしまうことがあ
サ高住等の事業者はその責任を負いません。そ
ります。確かに印象や価格は住み替えの重要な
のうえ、たとえ併設事業者の運営が悪化し、サ
決め手ではあります。しかし、容易に収集でき
高住から撤退しても、サ高住等の事業者には、
る情報を生かさず、自己の主観に頼り過ぎるこ
基本的には別の新たな介護事業者を見つける法
とは禁物です。次回以降は、
契約書等を用いて、
*3 前掲注*1に同じ。
そのみるべきポイントを解説していきます。
2016.2
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