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検討項目Ⅳ Ⅳ賃貸借(第8・9・10回) * 課題項目(Ⅳ) * 課題判例(Ⅳ

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検討項目Ⅳ Ⅳ賃貸借(第8・9・10回) * 課題項目(Ⅳ) * 課題判例(Ⅳ
2012年度後期
対話型演習・契約法Ⅱ(検討項目Ⅳ)
山田誠一
検討項目Ⅳ
Ⅳ賃貸借(第8・9・10回)
* 課題項目(Ⅳ)
* 課題判例(Ⅳ(13件))
[1] 賃貸借契約の概観
(1) A と B が、ある契約をした。その契約が賃貸借契約であると判断するためには、どのような事情
が必要か。
(2) 賃貸借契約が成立した場合に、賃貸人が負う義務は何か。賃貸借契約の目的物が、不動産
だった場合、動産だった場合、賃貸人はどのような義務を負うか。
(3) 賃貸借契約が成立した時点で Z が所有する物を、A が賃貸人となり、B が賃借人となる賃貸借
契約の目的とした場合、その物についての A と B との法律関係はどのようなものか。
(4) 賃貸借契約が成立した場合に、賃貸借目的物に物理的な瑕疵があった場合、賃貸人と賃借
人の間の法律関係は、どのようなものか。
(5) 賃貸借契約が成立した場合に、賃借人が負う義務は何か。賃貸借契約が成立し、しかし、賃
貸人が賃借人に目的物の引き渡しをしていないとき、賃借人は賃貸人に対して、どのような義
務を負うか。賃貸借契約が成立し、賃貸人が賃借人に目的物の引き渡しをしたとき、賃借人
は賃貸人に対して、どのような義務を負うか。
(6) 賃貸借契約が成立した場合において、目的物が滅失した場合、賃貸人と賃借人の間の法律
関係は、どのようなものか。目的物の滅失が①賃貸人の帰責事由による場合、②賃借人の帰
責事由による場合、③賃貸人の帰責事由にもよらず、賃借人の帰責事由にもよらない場合、
それぞれにおいて、どのようなものか。
[2] 賃貸借契約における当事者の交替(その1)(賃貸人側)
(7) A が所有する動産について、AB 間で賃貸借契約が成立し、A が B にその動産を引き渡した
後、A が C に対してその動産を売却した場合、①C は、B に対して、その動産について、所有
権にもとづいて引渡しを求めることができるか、できると考える場合、C は動産物権変動の対
抗要件を備えずに、引き渡しを求めることができるか、②C が B に対して、その動産の引渡し
を求めることができると考える場合において、B が C に対してその動産を引き渡したとき、B と A
との法律関係はどのようなものか。
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(8) A が所有する土地について、AB 間で賃貸借契約が成立し、A が B にその土地を引き渡した
後、A が C に対してその土地を売却した場合、①C は、B に対して、その不動産について、所
有権にもとづいて引渡しを求めることができるか、できると考える場合、C は不動産物権変動
の対抗要件を備えずに、引き渡しを求めることができるか、②C が B に対して、その土地の引
渡しを求めることができると考える場合において、B が C に対してその土地を引き渡したとき、
B と A との法律関係はどのようなものか。
(9) A が所有する土地について、AB 間で賃貸借契約が成立し、B の賃借権の設定登記が行なわ
れ、A が B にその土地を引き渡した後、A が C に対してその土地を売却した場合、C は、B に
対して、その土地について、所有権にもとづいて引渡しを求めることができるか。
(10) A が所有する土地について、AB 間で賃貸借契約が成立し、B の賃借権の設定登記が行なわ
れた場合において、Z がその土地を占有しているとき、B は Z に対して、その土地について、
賃借権にもとづいて明渡しを求めることができるか。
* 【判決16】最判昭和39年8月28日民集18巻7号1354頁(賃貸人の地位の移転①)[課題判
例(1)](教材183頁)について((11)から(19)まで)
〈本判決を検討する趣旨〉
* 不動産の賃貸借契約において、賃貸借の目的不動産を、賃貸人が第三者に譲渡した場合の
賃貸借契約の帰趨について、深く理解する。
〈検討のポイント〉
* 事実の概要は、第2審判決の理由にもとづく。
〈事実の概要〉
(1) 昭和32年12月1日、控訴人(原告、被上告人)は、被控訴人(被告、上告人)との間で、本件
建物(佐賀市、木造瓦葺2階建て店舗兼居宅1棟、建坪13坪)について、賃料1カ月7000円
として、賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結した。
(2) 昭和33年5月以降、同34年9月まで、被控訴人は、賃料11万9000円(17カ月分)を延滞し
た。
(3) 昭和34年10月5日、控訴人は、被控訴人に対して、延滞賃料を催告の日から5日以内に支
払うよう催告し、不払いのときは本件賃貸借契約を解除する旨の条件付解除の意思表示を行
ない、その催告と解除の意思表示は、翌6日に被控訴人に到達し、被控訴人は、上記期間内
に支払をしなかった。
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〈訴訟の経緯〉
(4) 原告が、被告に対して、原告に本件建物を明け渡すよう求めて訴えを提起した(訴訟費用に
関する訴え、および、仮執行宣言の求めは省略する)。
(5) 第1審判決は、原告の請求を棄却した(請求を棄却した理由は、不明である)。原告が控訴し
た。
(6) 控訴審において、被控訴人は、控訴人が、昭和34年9月28日に、本件建物を、訴外中島繁
次に、代金210万円で売り渡しているため、控訴人の被控訴人に対する本件明渡し請求権は
認められないと主張した。
(7) 第2審判決は、第1審判決を取り消し、被控訴人に対して、控訴人に本件建物を明け渡すよう
命じた。被控訴人が上告した。
(8) 本判決は、原判決を破棄し、事件を、原審裁判所に差し戻した。
〈参考〉
(借家法1条)
1 建物ノ賃貸借ハ其ノ登記ナキモ建物ノ引渡アリタルトキハ爾後其建物ニ付物権ヲ取得シタル
者ニ対シ其ノ効力ヲ生ス
2 以下(略)
(11) 原告は、被告に対して、本件建物を明け渡すよう求めているが、その理由は何か。売買契約
にもとづき買主が売主に対して求めるものか、賃貸借契約にもとづき賃借人が賃貸人に対し
て求めるものか、賃貸借契約の終了にもとづく目的物返還請求権としての明渡請求か、所有
権にもとづく物権的請求権としての明渡請求か、その他のものか。
(12) 原告は、どのような理由で賃貸借契約が終了したと主張しているか。
(13) 賃貸借契約の終了にもとづく目的物返還請求権としての明渡請求において、賃貸人が目的
物の所有権を有していることが必要か。
(14) 賃貸借契約を賃借人の賃料不払いを理由として解除しようとする場合、その解除の意思表示
をする者は、①賃貸借目的物の所有者でなければならないか、②解除しようとする賃貸借契
約の賃貸人でなければならないか。
(15) 一般に、双務契約上の地位の移転は、どのようにして行なわれるか。売買契約の売主の地位
についてはどうか、同じく買主の地位についてはどうか。契約の相手方の同意・承諾は必要
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か。
(16) 賃貸借契約上の賃貸人の地位の移転は、どのようにして行なわれるか、同じく、賃借人の地
位の移転はどのようにして行なわれるか。契約の相手方の同意・承諾は必要か。
(17) 賃貸目的物の所有権を賃貸人が第三者に譲渡した場合において、その賃貸借の賃借権が
対抗力のあるものであったとき、譲受人が賃貸人の地位を承継していないとすると、どのような
法律関係となるか。
(18) 本判決は、賃貸目的物の所有権を賃貸人が第三者に譲渡した場合において、その賃貸借の
賃借権が対抗力のあるものであったとき、譲受人が賃貸人の地位を承継するかどうかについ
て、どのような見解を示したか。本判決がいう特段の事情とはどのようなものをいうと考えられる
か。
(19) 本判決の見解からは、賃貸目的物の所有権を賃貸人が第三者に譲渡した場合において、そ
の賃貸借の賃借権が対抗力のないものであったとき、譲受人が賃貸人の地位を承継するか
どうかについて、どのような考え方を導くことができると考えられか。
* 【判決17】最判昭和49年3月19日民集28巻2号325頁(賃貸人の地位の移転②)[課題判例
(2)](教材190頁)について((20)から(25)まで)
〈本判決を検討する趣旨〉
* 不動産の賃貸借契約において、賃貸借の目的不動産を、賃貸人が第三者に譲渡した場合、
譲受人が、賃貸借の目的不動産の譲渡を賃借人に対抗することの可否について、深く理解す
る。
〈検討のポイント〉
* 第1審判決が2つあるが、民集333頁のものは、被告前田ハツであり、民集334頁のものは、
被告野田治である。前田、野田ともに控訴し、2つの事件は第2審で併合されているが、野田
のみが上告したため、本判決は、被告野田の事件のみを対象としたものである。
* 事実の概要は、本判決の理由で、原判決に言及している箇所にもとづく。ただし、仮処分命令
と仮処分登記については、第2審判決の理由(344頁)と事実(338頁)にもとづく。
〈事実の概要〉
(1) 訴外小場勘一は、昭和25年4月、原審控訴人前田ハツ(被告)から本件土地(大阪市西区所
在、宅地、23坪6合8勺)を購入した。訴外小場と、前田ハツとの間では、その所有権移転登
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記をしなかった。
(2) 昭和29年3月、小場勘一と、被上告人(原告、被控訴人)の間で、本件土地の売買契約が成
立し、訴外小場、前田ハツ、被上告人の3者間に、前田ハツから被上告人に対して、直接所有
権移転登記をする旨の合意が成立した。
(3) 昭和29年9月12日、本件土地について、登記義務者前田ハツ、登記権利者被上告人とする
所有権移転請求権保全仮登記(本件仮登記)が行なわれた。
(4) 上告人(被告、控訴人)は、本件土地上に、本件建物2棟(いずれも、木造瓦葺2階建店舗)の
うち1棟である甲を所有していたが、昭和27年7月4日、本件建物のうちもう1棟である乙を、そ
の所有者から購入するとともに、当時の本件土地の所有者訴外小場との間で、建物所有を目
的として、本件土地の賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結し、同月5日、本件建物のうち乙
について、所有権移転登記を行なった。
(5) 昭和38年3月15日、被上告人は、前田ハツに対して、本件土地について、処分を禁止する旨
の仮処分命令を得て、同日、その仮処分の登記を行なった。
(6) 被上告人は、上告人に対して、昭和46年6月15日到達の書面をもって、昭和29年から9月1
4日以降同46年5月末日までの賃料を、4日以内に支払うよう催告したが、上告人が支払わな
かったため、同年6月21日到達の書面をもって、上告人に対して、本件賃貸借契約を解除す
る旨の意思表示を行なった。
〈訴訟の経緯〉
(7) 原告が被告前田ハツに対して、本件土地について、本件仮登記にもとづく本登記手続をする
よう求めて、訴えを提起した(訴訟費用に関する訴えは省略する)。第1審判決は、請求を認容
した。
(8) 原告が被告野田治に対して、①本件土地について、本件仮登記にもとづく本登記手続をする
ことに承諾するよう求めるとともに、②本件土地についての本登記完了と同時に、本件建物を
収去するよう求めて訴えを提起した(訴訟費用に関する訴えは省略する)。第1審判決は、請
求を認容した。
(9) 被告前田ハツ、被告野田治が控訴した。第2審判決は、控訴人らの控訴を棄却した。控訴人
野田治が上告した。
(10) 本判決は、上告人に対して本件土地についての本登記完了と同時に、本件建物を収去する
よう求める部分(上記の(8)中の②)に関する原判決を破棄し、その破棄した部分を、原審裁判
所に差し戻した。
(20) 原告は、被告野田治に対して、本件建物を収去するよう求めているが、その理由は何か。賃
貸借契約にもとづき賃貸人が賃借人に対して求めるものか、賃貸借契約の終了にもとづく目
的物返還請求権としての収去請求か、所有権にもとづく物権的請求権としての収去請求か、
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その他のものか。
(21) 原告は、被告野田治に対して、本件建物を収去するよう求めているが、所有権にもとづく物権
的請求権としての収去請求か認められるためには、本件賃貸借契約についてどのような判断
が行なわれる必要があるか。
(22) 第2審判決は、被告野田治に対して、本件土地についての本登記完了と同時に、本件建物
を収去するよう求める部分(上記、訴訟の経緯(8)中の②)に関する訴えを認容した第1審判決
に対する控訴を棄却したが、原告による本件賃貸借契約の解除について、どのように判断し
たか。
(23) 本判決は、被告野田治に対して本件土地についての本登記完了と同時に、本件建物を収去
するよう求める部分(上記、訴訟の経緯(8)中の②)に関する原判決を破棄したが、原告による
本件賃貸借契約の解除について、どのように判断したか。
(24) 本判決は、賃貸目的物の所有権を賃貸人が第三者に譲渡した場合において、その賃貸借の
賃借権が対抗力のあるものであったとき、賃貸目的物の譲渡を賃借人に対抗するために所有
権移転登記が必要かどうかについて、どのような見解を示したか。
(25) 本判決の見解からは、賃貸目的物の所有権を賃貸人が第三者に譲渡した場合において、そ
の賃貸借の賃借権が対抗力のないものであったとき、賃貸目的物の譲渡を賃借人に対抗す
るために所有権移転登記が必要かどうかについて、どのような考え方を導くことができると考え
られか。
(以上、第8回)
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[3] 敷金に関する問題
(26) A と B が、○年○月○日、A が所有する土地(本件土地)について、期間を10年とし、賃料を
月額20万円として、賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結し、直ちに、A は B に、本件土地を、
引き渡した。同時に、A と B は、敷金を100万円とする敷金契約を締結し、B は A に100万円
を支払った。10年後、本件賃貸借契約が終了し、本件賃貸借契約が終了した後1カ月が経
過した日に、B は A に本件土地を明け渡した。敷金に関する A と B の法律関係はどのようなも
のか。
(27) A と B が、○年○月○日、A が所有する建物(本件建物)について、期間を2年とし、賃料を月
額30万円として、賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結し、直ちに、A は B に、本件建物を、
引き渡した。同時に、A と B は、敷金を300万円とする敷金契約を締結し、B は A に300万円
を支払った。2年後、本件賃貸借契約が更新されず終了し、本件賃貸借契約が終了した後1
カ月が経過した日に、B は A に本件建物を明け渡した。B が本件建物を占有している間に、
本件建物は損傷していて、その損傷は B の帰責事由によるものである場合、敷金に関する A
と B の法律関係はどのようなものか。
(28) A と B が、○年○月○日、A が所有する建物(本件建物)について、期間を2年とし、賃料を月
額30万円とし、賃料は、1回目は直ちに、2回目からは毎月分を前月末までに支払うこととし
て、賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結し、直ちに、A は B に、本件建物を、引き渡した。同
時に、A と B は、敷金を300万円とする敷金契約を締結し、B は A に300万円を支払った。B
は、賃料を12回、契約内容通り支払ったが、13回目分から18回目分まで6カ月分の賃料を
支払わなかった。A は、13回目分の履行期の1週間後、B に未払い賃料の支払いを催告し、
その後も毎月 B に未払い賃料の支払いを催告した結果、合わせて6回の催告をした上で、本
件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。A の解除の意思表示の前に、B は、敷金返還
請求権を自働債権とし、6カ月分の未払い賃料債務を受働債権として、相殺する旨の意思表
示をした。A と B の法律関係はどのようなものか。
(29) A と B が、2009年10月1日、A が所有する建物(本件建物)について、期間を2年とし、賃料
を月額30万円とし、賃料は、1回目は直ちに、2回目からは毎月分を前月末までに支払うこと
として、賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結し、直ちに、A は B に、本件建物を、引き渡した。
同時に、A と B は、敷金を300万円とする敷金契約を締結し、B は A に300万円を支払った。
B は、賃料を18回、契約内容通り支払ったが、19回目分から24回目分まで6カ月分の賃料を
支払わなかった。2011年9月30日、本件賃貸借契約が更新されず終了し、直ちに、B は A
に本件建物を明け渡した。ところが、2011年3月10日、B の債権者である C が、B を債権者と
し A を債務者とする敷金返還請求権を差押え、差押命令が、同月11日に、A に送達されてい
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た。敷金についての、A と C の法律関係はどのようなものか(A は、敷金の返還として、誰にい
くら、支払わなければならないか)。
* 【判決18】最判昭和49年9月2日民集28巻6号1152頁(賃借家屋明渡債務と敷金返還債務
との同時履行)[課題判例(3)](教材202頁)について((30)から(33)まで)
〈本判決を検討する趣旨〉
* 建物賃貸借終了時の賃貸借目的建物の明渡しと、敷金返還債務の関係について、深く理解
する。
〈検討のポイント〉
* 原告の被告有限会社中島商事に対する訴えは省略する。
* 被控訴人(被告八谷守)の第2審段階における造作買取請求権および有益費償還請求権に
もとづく留置権または同時履行の抗弁権の主張(抗弁)は省略する。
* 事実の概要は、第2審判決の理由による。
* 不動産任意競売とは、民事執行法上の担保不動産競売(担保権の実行としての競売)に相当
する。
* 短期賃貸借制度は、かつて、民法上の制度であり、抵当権が実行された不動産について、抵
当権者に対抗できない賃借権があった場合におけるその不動産の買受人と賃借人との間の
法律関係を規律するものであったが、現在は廃止された。
〈事実の概要〉
① 控訴人(原告、被上告人)は、不動産任意競売により、本件不動産(家屋、鉄骨鉄筋コンクリー
ト造4階店舗兼居宅)を競落し、昭和45年10月16日、競落代金の支払を完了してその所有
権を取得し、その所有権移転登記を受けた。
② 被控訴人(被告、上告人)は、本件不動産の1階の一部、および、3階の全部を占有している
(被控訴人の占有している部分を、本件建物部分という)。被控訴人の本件建物部分の占有
は、昭和46年8月31日まで、短期賃貸借にもとづくものであった。
〈訴訟の経緯〉
③ 原告が、被告に対して、本件建物部分の明渡しを求めて訴えを提起した(訴訟費用に関する
訴え、および、仮執行宣言についての求めは省略する)。
④ 第1審判決は、原告の請求を棄却した。原告が控訴した。
⑤ 第2審において、被控訴人は、同人は、昭和44年9月1日頃、本件建物部分について、当時
の本件不動産の所有者である訴外三谷清秀との間で賃貸借契約を締結し、債権額800万円
の敷金返還請求権を有していて、その債権の弁済を受けるまで、本件不動産を留置し、また、
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本件不動産の明渡し債務と敷金返還請求権とは同時履行の関係にあるから、その債権の弁
済を受けるまで、本件不動産の明渡しを拒絶すると主張した(抗弁)。
⑥ 第2審判決は、第1審判決中、被控訴人関係部分を取り消し、被控訴人の請求を認容した。
⑦ 控訴人が上告した。
⑧ 本判決は、上告を棄却した。
(30) 原告は、被告八谷守に対して、本件建物部分の明渡しを求めているが、その理由は何か。賃
貸借契約にもとづく賃借人の賃貸人に対する引渡請求か、賃貸借契約終了にもとづく賃貸人
の賃借人に対する明渡請求か、所有権にもとづく物権的請求権としての引渡請求か、その他
の理由にもとづくものか。
(31) 第2審において、被控訴人(被告)は、抗弁として、敷金返還請求権について主張をしている
が、仮に、敷金返還請求権によって、控訴人(原告)の請求を拒めるとすると、どのような法律
構成が成り立たなければならないか。第2審判決は、原告の請求について、どのような判断を
したか(本件建物部分の明渡しを命じたか、命じなかったか)。第2審判決は、敷金返還請求
権によって、控訴人(原告)の請求を拒めると判断したか、そうではないか。第2審判決は、被
控訴人の控訴人に対する敷金返還請求権の存否と存在するとした場合の金額について判断
した上で、敷金返還請求権によって、控訴人の請求を拒めるかどうかについて判断したのか、
そうではなく、被控訴人の控訴人に対する敷金返還請求権の存否と存在するとした場合の金
額について判断せずに、敷金返還請求権によって、控訴人の請求を拒めるかどうかについて
判断したのか。
(32) 本判決は、原告の請求について、どのような判断をしたか(本件建物部分の明渡しを命じたか、
命じなかったか)。本判決は、敷金返還請求権によって、原告の請求を拒めると判断したか、
そうではないか。本判決は、被控訴人の控訴人に対する敷金返還請求権の存否と存在すると
した場合の金額について判断した上で、敷金返還請求権によって、控訴人の請求を拒めるか
どうかについて判断したのか、そうではなく、被控訴人の控訴人に対する敷金返還請求権の
存否と存在するとした場合の金額について判断せずに、敷金返還請求権によって、控訴人の
請求を拒めるかどうかについて判断したのか。
(33) 本判決は、敷金返還義務はいつ成立するとの見解を示したか。本判決は、そのような見解を
とる理由として、どのようなことを述べているか。本判決の見解は、賃貸借契約が期間満了に
よって終了した場合と、賃貸借契約が解除(解約)によって終了した場合とで、区別している
か。
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* 【判決19】最判平成14年3月28日民集56巻3号689頁(敷金の賃料債権への充当と賃料債
権の消滅)[課題判例(8)](教材211頁)について((34)から(37)まで)
〈本判決を検討する趣旨〉
* 敷金契約が付随する賃貸借契約における敷金と賃料の関係について、深く理解する。
* あわせて、抵当権が設定されている不動産について賃貸借契約の目的となっている場合にお
ける抵当権者による賃料債権への物上代位についても、深く理解する。
* そのうえで、敷金についての賃料債権を有する賃貸人・抵当不動産の所有者と、抵当権者と
の優劣関係について、深く理解する。
〈検討のポイント〉
* 事実の概要は、第2審判決の事実及び理由中の「第三 事案の概要」、「二、前提となる事実」
等による。
* 本件では、抵当権者が、抵当権が設定されている不動産についての転貸賃料債権に対してし
た、抵当権にもとづく物上代位権の行使としての差押えにもとづき、転借人に支払を求めてい
るが、原則として、抵当権にもとづく物上代位権は、転貸賃料債権には、及ばないとする最高
裁決定(最決平成12年4月14日民集54巻4号1552頁)があり、物上代位権の行使としての
差押えを行なった差押命令(平成10年6月29日に第三債務者に送達されている)は、その後
の上記最高裁決定に、抵触する可能性があることに注意をしなければならない。
〈事実の概要〉
① 訴外ワールド・ベルが所有する本件建物(鉄骨鉄筋コンクリート造地下1階地上10階建て)
に、昭和59年2月15日、被控訴人(原告、上告人)のために、根抵当権(本件根抵当権)が設
定された。
② ワールド・ベルは、本件建物を、訴外ベル・アンド・ウイングとの間で、賃貸し、ベル・アンド・ウイ
ングは、本件建物の一部(本件建物部分という)を、控訴人(被告、被上告人)との間で、転貸
借(本件賃貸借契約という)をし、控訴人に引き渡した。本件賃貸借契約には、ベル・アンド・ウ
イングまたは控訴人は、本件賃貸借契約の解約を申し入れることができ、その場合は、解約申
し入れの後6カ月が経過したときに終了する旨、および、保証金を1000万円とする旨の約定
があり、控訴人はベル・アンド・ウイングに保証金1000万円(本件保証金)を預け渡した。
③ 本件賃貸借契約は、期間を当初平成5年9月1日から同7年8月31日までとする約定があった
が、同年9月1日から同9年8月31日まで、同年9月1日から同11年8月31日までと、順次合意
により更新され、賃料は、当初の金額から変更され、1カ月90万0743円であった。
④ 控訴人は、平成10年3月30日、ベル・アンド・ウイングに対して、同年9月30日をもって、本件
賃貸借契約を解約する旨を通知し、同日限り本件建物部分から退去した。
⑤ 控訴人は、平成10年10月8日、ベル・アンド・ウイングに対して、本件保証金の返還請求権を
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自働債権とし、同年4月分から8月分までの賃料債権を受働債権として相殺する意思表示をし
た。
⑥ 被控訴人が、本件根抵当権にもとづき、本件建物部分を控訴人に転貸しているベル・アンド・
ウイングが控訴人に対して有している賃料債権(本件賃料債権)について、物上代位にもとづ
く差押えを申し立て、差押命令送達の日以降弁済期が到来するものから、4億6000万円に満
つるまでの部分について差し押さえる旨の差押命令を得、平成6月29日、同差押命令が控訴
人に送達された。
⑦ 本件賃料債権については、差押競合が生じている。
〈訴訟の経緯〉
⑧ 原告は、被告に対して、270万2229円の支払いを求めた(附帯金に関する訴え、訴訟費用に
関する訴え、および、仮執行宣言の求めは、省略する)。
⑨ 第1審判決は、原告の請求を認容した。被告が控訴した。
⑩ 第2審では、被控訴人が、請求を、180万1486円の支払いを求めることに縮減したところ、第
2審判決は、第1審判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却した。
⑪ 被控訴人が上告した。
⑫ 本判決は、上告を棄却した。
(34) 一般に、抵当権者は、抵当不動産が賃貸借契約の目的となっている場合、抵当不動産所有
者が賃借人に対して有する賃料債権について、なんらかの権利行使をすることができるか。
その権利行使は、どのような場合に、どのような手続を踏んで、することができるか。このような
抵当権者が有する権利は、抵当不動産所有者が、抵当権の被担保債権の債務者で抵当権
を設定した者であるか、物上保証人として抵当権を設定した者であるか、抵当不動産の第三
取得者であるかによって異なるものとなるか。
(35) 原告は、被告に対して、270万円2229円の支払いを求めたが、その理由は何か。270万22
29円は、誰の誰に対する債権で、その債権は、売買代金債権か、貸付金債権か、賃貸借契
約にもとづく賃料債権か、賃貸借契約に付随する敷金契約にもとづく敷金返還請求権か、そ
の他の理由にもとづくものか。
(36) 本判決は、原告の請求を認めたか、あるいは、認めなかったか。本判決は、敷金返還請求権
は何時成立するとの見解に立つか。本判決は、賃貸借契約が終了し、その目的物が賃借人
から賃貸人に明け渡された場合において、賃借人が未払い賃料債務を負っているとき、その
賃料債務の帰趨はどのようになり、また、成立した敷金返還請求権の金額はどのようにして決
まるとの見解に立つか。
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対話型演習・契約法Ⅱ(検討項目Ⅳ)
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(37) 本判決の見解は、未払い賃料債務と敷金返還請求権とを相殺するとする考え方と、同じか異
なるか。異なるならば、どのように異なるか。本判決は、抵当不動産の所有者が、抵当不動産
を目的とした賃貸借契約にもとづいて有する賃料債権という財産について、抵当権者と、抵当
不動産を目的とした賃貸借契約の賃借人で、その賃貸借契約に付随する敷金契約にもとづ
く敷金返還請求を有している者とのいずれが優先して、権利行使をすることができるかという
問題について、どのような解決を与えたものと理解することができるか。
* 【関連】最判昭和53年12月22日民集32巻9号1768頁(土地賃借権の移転と敷金の承継)
[課題判例(9)]について
【授業では取り上げない】
(発展問題)
(38) 敷金(賃料の10カ月分に相当する金額)が賃借人から賃貸人に支払われている不動産賃貸
借契約が継続中に、賃貸借の目的不動産が第三者に譲渡され、賃貸借契約上の賃貸人の
地位もその第三者(賃貸借の目的不動産の譲受人)に移転した場合において、賃貸人の地
位の移転の時点で、賃借人が地位の移転がある前の賃貸人(旧賃貸人)に対して負う賃料債
務について、6カ月分未払いがあったとき、地位の移転があった後の賃貸人(新賃貸人)と賃
借人との間の法律関係はどのようなものか(賃借人は、新賃貸人に対して、賃貸人の地位の
移転の時点で未払いであった賃料債務を負うか、敷金に関する法律関係はどのようなもの
か)。
(39) 敷金(賃料の10カ月分に相当する金額)が賃借人から賃貸人に支払われている不動産賃貸
借契約が継続中に、賃貸人の承諾を得て、賃借権が第三者に譲渡され、賃貸借契約上の賃
借人の地位がその第三者に移転した場合において、賃借人の地位の移転の時点で、地位の
移転がある前の賃借人(旧賃借人)が賃貸人に対して負う賃料債務について、6カ月分未払
いがあったとき、賃貸人と地位の移転があった後の賃借人(新賃借人)との間の法律関係はど
のようなものか(新賃借人は、賃貸人に対して、賃貸人の地位の移転の時点で未払いであっ
た賃料債務を負うか、敷金に関する法律関係はどのようなものか)。
(以上、第9回)
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[4] 賃貸借契約における当事者の交替(その2)(賃借人側)
(40) 賃貸人の承諾を得ずに、賃借権が譲渡された場合、賃貸人と賃借権の譲受人との間の法律
関係はどのようなものか。
(41) 賃貸人の承諾を得て、賃借権が譲渡された場合、賃貸人と賃借権の譲受人との間の法律関
係はどのようなものか。
(42) 賃借人が死亡し、賃借権が相続によって賃借人の相続人に移転した場合、賃貸人と賃借人
の相続人との間の法律関係はどのようなものか。
(43) 賃貸人の承諾を得ずに、転貸借契約が締結された場合、賃貸人と転借人との間の法律関係
はどのようなものか。その場合における賃貸人と賃借人(転貸人)との間の法律関係はどのよう
なものか。
(44) 賃貸人の承諾を得て、転貸借契約が締結された場合、賃貸人と転借人との間の法律関係は
どのようなものか。その場合における賃貸人と賃借人(転貸人)との間の法律関係はどのような
ものか。
(45) 賃貸人の承諾を得て、期間を3年とする転貸借契約が締結された場合において、その6カ月
後、賃貸人が、賃貸人の賃借人に対する将来1年分の賃料債権を、第三者に譲渡したとき、
その賃料債権の譲受人と、転借人との間の法律関係はどのようなものか。
(46) 建物所有目的で土地の賃貸借契約が締結され、土地の賃借人が建物を建築所有し、土地の
賃貸人の承諾を得ずに、建物の賃貸借契約が締結された場合、土地の賃貸人と建物の賃借
人との法律関係はどのようなものか。
* 【判決20】最判平成8年10月14日民集50巻9号2431頁(信頼関係破壊の法理)[課題判例
(10)](教材231頁)について((47)から(51)まで)
〈本判決を検討する趣旨〉
* 賃貸人の承諾を必要とする賃借権の譲渡はどのようなものかを、深く理解する。
〈検討のポイント〉
* 本判決理由中に、第2審の確定した事実関係の概要が挙げられていて、事実の概要は、それ
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による。
* 原告・被控訴人・被上告人は、有限会社山崎重機と、有限会社山崎興業の2社であるが、有
限会社山崎興業については、省略する。
* 高橋秋男の補助参加については、省略する。
〈事実の概要〉
(1) 本件土地は、訴外滝戸政夫が所有していて、昭和45年、上告人(被告・控訴人)は、滝戸政
夫との間で、本件土地について、建物所有を目的とする本件賃貸借契約を締結した。上告人
は、本件土地上に、本件建物を建築所有し、本件土地を占有している。
(2) 昭和60年、滝戸政夫が死亡し、その子である訴外滝戸宏巳が、本件土地を相続した。
(3) 滝戸宏巳は、本件土地について、被上告人(原告・被控訴人)との間で、売買契約を締結し
た。
(4) 上告人は、貨物自動車運送事業を目的とする有限会社であり、設立以来、高橋秋男が経営を
行ない、上告人の持分は、すべて、高橋秋男とその家族が所有し、上告人の役員には、高橋
秋男とその親族が就いていた。
(5) 平成3年9月20日、高橋秋男とその家族は、その所有する上告人の持分全部を訴外堀繁夫
に売り渡し、同日付で、上告人の役員全員が退任し、堀繁夫が、その代表取締役に、堀繁夫
の家族が、その他の役員に就いた。堀繁夫は、この上告人の持分全部の取得以前より、個人
で運送業を営んでおり、上告人の持分全部の取得と、代表取締役への就任以降、上告人は、
本件土地建物を使用し、従前と同様の運送業を営んでいる。
(6) 平成4年8月25日、被上告人は、上告人に対して、賃借権の無断譲渡を理由として、本件賃
貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
〈訴訟の経緯〉
(7) 被上告人(原告)が、上告人(被告)に対して、本件建物収去本件土地明渡しを求めて訴えを
提起した(平成3年12月4か以降、本件土地明渡し済みまでの月額20万1750円の支払いの
求めについては、省略する)(訴訟費用に関する訴えは省略する)。
(8) 第1審判決は、原告の請求を認容した。被告が控訴した。
(9) 第2審判決は、控訴を棄却した。控訴人が上告した。
(10) 本判決は、原判決を破棄し、事件を、高等裁判所に差し戻した。
(47) 被上告人の上告人に対する本件建物収去本件土地明渡し請求の理由は何か。所有権にもと
づく物権的返還請求権か、占有権にもとづく占有回収の訴えか、その他のものか。
(48) 所有権にもとづく物権的返還請求権が成立するための要件は何か。原告によると、原告の所
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有権は、どのように主張され、被告の占有は、どのように主張されているか。
(49) ある不動産について、原告に所有権が認められ、被告に占有が認められながら、原告の被告
に対する物権的返還請求権にもとづく、その不動産の引渡しを求める訴えが棄却されることと
なる場合は、あるか。もし、あるとすると、例えば、どのような場合が考えられるか。
(50) 本判決は、賃借人が有限会社であって、その所有と経営の全部が、移転した場合、賃貸人と
賃借人との法律関係はどのようなものであるとの見解を示したか。
(51) 本判決は、賃貸人が、賃借人が同一の有限会社であって変更はないものの、その所有と経
営が大規模に変更する場合には、賃貸人の承諾を要するとしたい場合には、どのような方策
があるとの見解を示しているか。
* 【判決21】最判平成9年2月25日民集51巻2号398頁(債務不履行による賃貸借契約の解除
と承諾がある転貸借の帰趨)[課題判例(11)](教材243頁)について((52)から(55)まで)
〈本判決を検討する趣旨〉
* 承諾のある転貸借が行なわれている場合において、原賃貸借契約が賃借人の債務不履行を
理由として、賃貸人により解除されたとき、転貸借契約がいつ履行不能となるかについて、理
解を深める。
〈検討のポイント〉
* 本判決の理由中に、原審の適法に確定した事実関係が引用されていて、事実の概要は、そ
れによる。
* 上告人コマスポーツ株式会社に関しては、省略する。
* 反訴は省略する。
〈事実の概要〉
(1) 本件建物は、訴外有限会社田中一商事(訴外会社)が所有し、訴外会社とキング株式会社
(原告・反訴被告、被控訴人、被上告人)との間で、本件建物について、本件賃貸借契約が締
結され、訴外会社の承諾を得て、被上告人とキングスイミング株式会社(被告・反訴原告、控
訴人、上告人)との間で、本件建物について、転貸借契約が締結された。
(2) 被上告人が、訴外会社に昭和61年5月分以降の賃料の支払を怠ったため、訴外会社は、昭
和62年1月31日までに未払賃料を支払うよう催告をするととともに、同日までに支払のないと
きは賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。同日までに被上告人は未払賃料を支払わ
なかったため、本件賃貸借契約は、同日限り、解除により終了した。
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(3) 昭和62年2月25日、訴外会社は、被上告人と上告人に対して、本件建物の明渡しを求めて
訴訟を提起した(前記訴訟)。平成3年6月12日、前期訴訟は、本件建物の明渡請求を認容
する判決が言い渡され、それが確定した(確定判決)。訴外会社は、平成3年10月15日、確
定判決にもとづく強制執行により、上告人から本件建物の明渡しを受けた。
(4) 上告人は、昭和63年12月1日以降、被上告人に対して、本件建物の転賃料の支払をなかっ
た。
〈訴訟の経緯〉
(5) 被上告人(原告)が、上告人(被告)に対して、1億3110万円の支払を求めて訴えを提起した
(遅延損害金についての求めは省略する)。
(6) 第1審判決は、被告に対して、原告に9076万2500円を支払うよう命じた(一部認容判決)。
(7) 被告が控訴した。第2審判決は、第1審判決を変更し、被告に対して、原告に5360万9218円
を支払うよう命じた(第1審判決の認容額を減額した一部認容判決)。控訴人が上告した。
(8) 本判決は、原判決の上告人敗訴部分を破棄し、第1審判決を取り消し、被上告人の請求を棄
却した。
(52) 原告は、被告に対して、1億3110万円の支払を求めているが、その理由は何か。賃料の支
払いか、支払った賃料相当額の不当利得返還か、債務不履行にもとづく損害賠償か、不法
行為にもとづく損害賠償か、その他の理由か。
(53) 本判決は、原告の請求を棄却した。本判決は、①賃料債権は発生しなかったと判断したのか、
それとも、②賃料債権は発生したがその後消滅したと判断したのか。①と判断したとすると、賃
料債権が発生しなかったのは、賃貸借契約が終了したと判断したのか、賃貸借契約は終了し
ていないが賃料債権が発生しないと判断したのか、②賃料債権は、何が理由で消滅したと判
断したのか。
(54) 本判決は、転貸借契約が終了したと判断したが、転貸借契約は解除によって終了したのか、
期間満了によって終了したのか、その他の理由によって終了したのか。
(55) 本判決の見解に立つと、誰のどのような利益が守られることになると考えられるか。
* 【参考】【判決22】最判昭和41年1月27日民集20巻1号136頁(612条2項による解除の制限
における背信行為と認めるに足りない特段の事情)[課題判例(12)](教材260頁)について
(56) 賃借権の無断譲渡、または、無断転貸借があった場合、背信行為にあたらない特段の事情
(または、信頼関係を破壊しない特段の事情)が問題となるが、この事情の主張立証責任は、
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賃貸人が負うのか、賃借人・賃借権譲受人・転借人側が負うのか。
[5] 賃貸借契約の終了
【授業では取り上げない】
[6] 借地借家法の規律
【授業では取り上げない】
[7] 【補論】不動産賃貸借における賃料債権の譲渡と賃貸目的不動産の譲渡(最判平成10年3月
24日民集52巻2号399頁)(判決は、各自入手してください)
(57) 期間を3年とする不動産賃貸借契約が締結された場合において、その6カ月後、賃貸人が、
賃貸人の賃借人に対する将来1年分の賃料債権を、第三者に譲渡したとき、その賃料債権の
譲受人と、賃借人との間の法律関係はどのようなものか。
(58) (57)の場合において、賃借人が、賃料債権の譲受人に対して、譲渡された分の賃料を支払わ
なかった場合、賃料債権の譲受人と賃貸人との間の法律関係はどのようなものか。
(59) (57)の場合において、賃料債権が譲渡された3カ月後に、不動産賃貸借契約が、①賃借人の
債務不履行を理由に解除された場合、②賃貸人と賃借人の合意により解除された場合、その
賃料債権の譲受人と、賃借人との間の法律関係はどのようなものか。また、賃料債権の譲受
人と賃貸人との間の法律関係はどのようなものか。
(60) (57)の場合において、賃料債権が譲渡された3カ月後に、賃貸目的不動産が、第三者に譲渡
された場合、①賃貸目的不動産を譲受人と、賃借人との間の法律関係はどのようなものか、
②その賃料債権の譲受人と、賃借人との間の法律関係はどのようなものか、③賃貸目的不動
産の譲受人と、賃料債権の譲受人との間の法律関係はどのようなものか。
[8] 使用貸借
【授業では取り上げない】
[9] 消費貸借
【授業では取り上げない】
(以上、第10回)
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