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委託調査成果報告書 - 九州産業技術センター
平成26年度 九州地域新産業戦略に基づく イノベーション創出事業 委託調査成果報告書 (要約のみ掲載) 平成27年3月 一般財団法人 九州産業技術センター この印刷物は、競輪の補助金を受けて製作したものです。 http://ringring-keirin.jp 目 次 1.腹腔鏡手術のための体腔内スコープレンズ洗浄装置の開発 ・・・・・・・・・・ 1 ・・・・・・・・・・・ 2 3.FSW(摩擦攪拌接合)によるマグネシウム合金接合技術開発 ・・・・・・・・・・・ 3 4.縦型スパイラル式連続真空乾燥技術の開発 4 2.低コスト高品質透明導電膜形成用大気圧成膜装置の開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5.分散剤を含まない金ナノ粒子分散水溶液を用いる金薄膜形成と 表面増強ラマン散乱分光分析チップへの応用 6.硬質フィルムの高品位スリッター切断技術の開発 ・・・・・・・・ 5 ・・・・・・・・・・・・・・ 6 成果報告書(要約版) 「腹腔鏡手術のための体腔内スコープレンズ洗浄装置の開発」 長崎大学医歯薬総合研究科 助教 高木克典 腫瘍外科 【はじめに】スコープの映像のみで手術する腹腔鏡手術では、温度差や血液、 脂肪付着によるレンズの曇りや汚れが手術の妨げとなる。確実に良好な視野を 確保し、安全、迅速に手術を施行するため、スコープを体外に取り出さず、腹 腔内でレンズを洗浄できる機器を開発するのが本研究の目的である。 【方法】我々は、当科所有の 3D プリンターで洗浄装置の試作、改良を繰り返し、 最高の洗浄能力を発揮できる形状を模索した。また、企業に金属での造形を依 頼し作成した。同時に安井株式会社の電磁式ピンチバルブの設計を依頼した。 【結果・考察】洗浄能力は問題ないが、3D プリンターで成型した洗浄装置は、 ポートから出し入れするため、肉薄(電機工具による研磨等を併用)に設計し ており、3D プリンターで使用できる最も剛性の強い ABS like 樹脂を使用して も強度不足で破損する可能性が判明した。強度を高めるためには金属での造形 が不可欠と判断し、ステンレスで試作したが、装着による変形が発生する可能 性があり、材料をチタンに変更し企業に試作を依頼した。チタン製でもやはり、 頻度は少ないものの、肉薄の影響で、洗浄装置自体が破損する可能性あり、材 料をばねの柔軟性を併せ持つ鋼へ変更した。鋼の場合は、人体への応用の点で 実績あるステンレスやチタンには劣るものの、安価で剛性・柔軟性に問題なく、 今後は同素材で成型していく方針となった。また、実際にポートからの出し入 れがストレスなく行える形状をさらに追求していく必要性も考えられた。 電磁式ピンチバルブの試作で、比較的小型のボックスで送水・送気の瞬時の 開閉が可能となっており、洗浄装置のシステムに容易に組み込むことができ、 有用であると考えられる。 【結論】 本調査終了時点で、硬性鏡洗浄装置は性能の面から申し分なく、強度の面から 金属製が妥当であることが判明した。また、ポートから出し入れにいまだ難あ り、滑り止め構造などの一工夫が必要である。電磁式ピンチバルブ開閉器は機 能。サイズ共に問題なく、同装置を洗浄システムに組み込むことが可能である。 -1- 成果報告書(要約版) 「低コスト高品質透明導電膜形成用 大気圧成膜装置の開発」 熊本大学 大学院自然科学研究科 情報電気電子工学科 中村 有水 1.背景・研究目的 透明導電膜は、太陽電池や有機 EL などの創エネ・省エネ素子だけでなく、タッチパネルや液晶ディス プレイなどの情報機器にも使用されている重要な要素であるが、通常スパッタ等の真空装置で形成され ている。最近、我々は大気圧で高均一成膜が可能な「高速回転式のミスト化学気相成長(ミスト CVD)装 置」を独自に開発し、次世代透明導電膜の材料である酸化亜鉛薄膜の単結晶を2インチ基板上に均一に 形成することに成功した。これまでミスト CVD では面積の広い単結晶薄膜の報告は無く、我々が初めて 成功し、特許を出願済みである。そこで、本研究では地元企業と共に、現時点で同装置において実用化 の障害となっている箇所を改良し製品化を目指す。具体的には、同装置で一部、金属部品を使用してい るが、酸系溶媒により腐食が生じるため、これを石英・ガラス・塩化ビニール等の耐腐食性材料に置き 換え、装置の耐腐食性を向上させる。また、改良した装置で成膜実験を行い、十分な品質を有する酸化 物薄膜が形成できるかを確認する。 2.「高速回転式ミスト CVD 装置」の概要 従来型のミスト CVD 装置では顕著な膜厚分布があるが、我々が開発した高速回転式ミスト CVD 装置で は、例えば 1000rpm で基板を高速回転することで、流体力学的な効果により、2インチ基板全面で膜厚・ 膜質の均一化が達成され、エピタキシー成長も実現されている。 3.本研究開発による装置の改良 現行の高速回転式ミスト CVD 装置では、以下の金属部品が使用されており、これを石英・ガラス・塩 化ビニール等の耐腐食性材料に置き換える。 (1) 反応炉から排気流量制御バルブまでの間の配管 (2) 排気流量制御バルブ この部品変更を行った結果、排気側のコンダクタンスが低下したため、改良前と同一の条件では薄膜 堆積速度が低下したが、供給側のガス流量を上げた結果、改良前と同等の堆積速度に戻った。また、X 線回折測定や電子後方散乱回折法(EBSD)により、2インチ基板全面でのエピタキシャル成長が確認 された。 4.装置の製品化に関する今後の方針 装置に関する基盤技術はほぼ完成したので、今後、研究開発用装置として製品化するため、企業と共 同で市販できる試作機を開発する予定である。 -2- 成果報告書(要約版) FSW によるマグネシウム合金接合技術開発 不二ライトメタル株式会社 研究開発・商品開発部 部長 井上 正士 【要約】 マグネシウム合金は様々な分野において、軽量化材料として注目が高まっている。近年積極的にマグネシウム合金の採用が進ん でいる分野として、スマートフォン、タブレットといった小型情報機器分野が挙げられる。このような小型情報機器分野に限らず、 自動車をはじめ、鉄道などの輸送分野においても、軽量化は省エネに直結する重要な要素であり、マグネシウム合金の適用に大き な期待が持たれている。しかし、マグネシウム合金は塑性加工性に劣り、押出加工による大型展伸部材の製造は難しく、大型の構 造物を製作するためには、材料同士の接合が不可欠である。ボルト・ナット、リベット等による締結は、マグネシウム合金素地と の電位差腐食を防止する対策が必要であり、TIG,MIG 溶接では、接合部の溶融によって、接合部の機械的特性が低下してしまう問 題がある。こうしたマグネシウム合金の接合における問題に対して、摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding : FSW)1)は有効な接合 方法であり、今後のマグネシウム製品の製造・普及に欠かせない技術である。 このような背景を受け、当社ではこれまでに各種マグネシウム合金の FSW による接合を行ってきた。本調査では、合金毎の接合 性を比較・評価するために、計 6 種のマグネシウム合金を用いて突合せ接合を行い、各々の接合適正範囲を求めた。 【本調査により得られた成果】 図 1 に本調査で得られたすべての合金系の接合適正範囲図を 示す。()内の数字は継手効率を示している。 本調査により、 各マグネシウム合金板材の FSW において、適正に接合が可能な 範囲がそれぞれ明らかとなった。 AZ 系合金、難燃性マグネシウム合金では、合金の主要成分が ほとんど同じことから、接合特性や撹拌部の組織、結晶配向、 接合欠陥の形成において、同様の傾向が示された。一方、 KUMADAI 耐熱マグネシウム合金では、適正接合範囲は狭いも のの、試験を実施した合金の中で、最も高い継手効率を示した。 図 1. 各種マグネシウム合金の接合適正範囲図 得られた接合範囲図より、全ての合金系に共通して適正な接合が可能な条件は、ツール回転数 1,000 ~ 2,000 rpm の範囲で接合 速度 100 mm/ min、またはツール回転数 2,000 rpm で接合速度 300 mm/ min であった。FSW の適用事例が最も多いアルミニウ ム合金の接合適正範囲と比較すると、マグネシウム合金の適正範囲は狭いが、いずれの合金においても問題なく接合が可能であっ た。 今回の調査で、現在流通している汎用合金から注目を集めている新規合金まで、計 6 種の合金系の FSW を実施し、比較すること ができた。これにより、合金毎に接合が可能な条件範囲が異なり、特に耐熱強度の高い合金で接合が難しいことがわかった。得ら れた知見は、実際に製品の接合を行う際、非常に有益な指標となる。実用化に向けて、品質評価法の確立や、接合メカニズムの解 明など、取り組むべき課題は多くあるが、今後も基礎データの蓄積と評価に努め、技術開発を進めていきたい。 -3- 成果報告書(要約版) 「縦型スパイラル式連続真空乾燥技術の開発」 株式会社ワコー 代表取締役社長 相浦 正文 1.究成果の概要 マイクロ波真空乾燥の高品質・省エネ技術はそのままに、ユーザー課題である乾燥ム ラと大量乾燥を、真空容器の小容量化とスパイラル連続搬送によるマイクロ波の高い利 用効率で解決し、さらなる省エネを実現できるスパイラル式連続真空乾燥技術を開発す る。 2.究実施計画と実績の差異 図1に試作装置を示す。図 2 に試作装置を用いて行った評価試験の結果を示す。当初 目標である消費電力について、現行マイクロ波 真空乾燥に比べて 1/2 を達成した。 ①最大熱効率 65.9%、総合熱効率 35%を達成した ことにより、サブ目標値の熱効率が、現行マイ クロ波真空乾燥機に比べて概ね 2 倍を達成し 図1 た。 試作装置 ②乾燥試験後の被乾燥物の水分量が平均 1.1%±0.6%を達成したことにより、サブ目標値 の乾燥時のバラツキについて、ほぼゼロを達成 した。 乾燥機内のスパイラル連続搬送により、マイ クロ波の高い利用効率を実現した。これによ り、現行マイクロ波真空乾燥では、乾燥処理量 300g に対して、 乾燥時間 150 分で消費電力 1kWh 図2 研究開発目標値と達成値 要するのに対して、開発したスパイラル式連続真空乾燥では、乾燥時間 60 分で消費電力 0.5kWh となり、目標値を達成した。 3.今後の事業化計画(共同研究の開始、大規模プロジェクトへの申請等も含む) 公益財団法人飯塚研究開発機構の助言を基に、福岡女子大学と西九州大学と実用化に 関する共同研究を開始する。共同研究に際して、福岡県内の川下企業との連携を図りな がら、連続マイクロ波乾燥システムの実用化を完成させ、川下企業への第1号機の納入 を目指す。 -4- 成果報告書(要約版) 「分散剤を含まない金ナノ粒子分散水溶液を用いる金薄膜形成と 表面増強ラマン散乱分光分析チップへの応用」 松田直樹(産総研九州センター) 表面増強ラマン散乱(surface-enhanced Raman scattering : SERS)は銀(Ag) 、金(Au)等 6 の表面に吸着した分子のラマン散乱光強度が 10 倍以上も増強される現象であり、主に極微量だ け界面に吸着した分子や生じる反応のその場観察に用いられているが SERS 基板の準備が困難で ある事等も SERS の普及を阻んでいる一因であリ SERS の専門家でなくとも簡単に測定可能で安 価な SERS 分光分析チップを開発することが本研究開発の目的である。 本研究を開始する前に、我々は高純度 Au 電極を用いる液中プラズマ法(SP)法で過酸化水溶 液中に AuNP を直接合成し濃縮することで、1%の程度の濃度の AuNP 分散水溶液を調製する技 術を世界に先駆けて開発した。この AuNP 分散水溶液は分散剤を添加しなくても4週間以上は AuNP が分散状態を保っている。また Au と H と O しか含まないため、形成した Au 薄膜も有機 分子等が含まれていない高純度な状態であり、極微量成分を対象とした SERS スペクトル測定を 行う場合に妨害物質からのスペクトルやハロゲン化物イオンの影響が観察されないという点で優 れている。Au 電極から調整した AuNP 分散水溶液を濃縮し、その後基板上で乾燥し形成した Au 薄膜から強い SERS スペクトルが測定可能な事は既に確認済みであった。本研究では SERS 基板 の実用化を目指し以下の検討を行った。 本研究で得られた成果の概要は以下のとおりである。 1)ロータリーエバポレータを用いることで AuNP 分散水溶液の濃縮時間の短縮に成功した。 2)ガラス基板表面にシランカップリング剤の自己組織化単分子(SAM)膜を形成させ疎水性にするこ とで綺麗な円形の Au 薄膜が形成できた。 3)実験を継続しても Au 薄膜で 632.8nm だけではなく 514.5nm の励起光でも p-アミノチオフェノール (PATP)の SAM 膜の SERS スペクトル測定を行うことができた。 4)5 カ月経過しても強い SERS スペクトル測定が行えた。 5)PATP 以外の分子からも強い SERS スペクトルが観察できた。 当初想定したとおり、AuNP から作成した薄膜が SERS 基板として有効であった。価格が安価 であれば十分に販売可能であるとの感触を得ることができた。現在のラマン分光散乱装置の精度 や仕様から見て直径 1mm 以下の Au 薄膜で十分な大きさである。我々の技術ではこの程度の大き さであれば小さくすることは用意で、10~100 円程度で製造できる。 今後の研究でどういう SP 条件で作製した AuNP や Au 薄膜がどの有機分子の SERS スペクト ル観察に適しているかが解明できることを期待している。実用化を考えると想定されるユーザー は大学、独立行政法人、企業等の研究者で、種々の分子が対象となると思われるため、なるべく 多種類の分子で SERS スペクトルが観察可能かどうかを確認したい。これらの観察データを集約 し、平成 27 年から AuNP 薄膜を「SERS 分光分析チップ」としてサンプル供給するとともに、 ユーザーニーズへの対応を行い実用的な分光分析チップを開発したい。 [1] “Surface-Enhanced Infrared and Raman Studies of Electrochemical Reduction of Self-Assembled Monolayers Formed from p-Nitrothiophenol at Silver”, N. Matsuda, K. Yoshii, K. Ataka, M. Osawa, T. Matsue, I. Uchida, Chem. Lett., 21, 1385 (1992). [2] “Charge Transfer Resonance Raman Process in Surface-Enhanced Raman Scattering from p-Aminothiophenol Adsorbed on Silver : Herzberg-Teller Contribution”, M. Osawa, N. Matsuda, K. Yoshii, I. Ucida, J. Phys. Chem., 98, 12702 (1994). [3] “Surface-assisted Photoinduced Reduction of p-Nitrothiophenol Self-Assembled Monolayer Adsorbed on a Smooth Silver Electrode”, N. Matsuda, T. Sawaguchi, M. Osawa, I. Uchida, Chem. Lett., 24, 145 (1995). [4] “Novel Synthesis Method of Precious Metal Nano-Particles with Solution Plasma Process”, N. Matsuda, T. Nakashima, IEICE Tech. Rep., 111, 23 (2012). [5] ”Potential structure of discharge plasma inside liquid directly measured by a Langmuir probe”, Q. Chen, T. Kaneko N. Matsuda, R. Hatakeyam, Appl. Phys. Lett., 102, 244105 (2013). [6] “Improvement of solvent affinity for graphene derivatives by solution plasma process”, S. Uchino, K. Sakaguchi, A. Ohtake, N. Takisawa, T. Nakashima, M. Era, N. Matsuda, Jpn. J. Appl. Phys., 53, 01AD05 (2014). [7] ”Synthesis of multiwall carbon nanotube-supported platinum catalysts by solution plasma processing for oxygen reduction in polymer electrolyte fuel cells”, N. Matsuda, T. Nakashima, T. Kato, H. Shiroishi, Electrochimica Acta, 146, 73 (2014). -5- 成果報告書(要約版) 「硬質フィルムの高品位スリッター切断技術の開発」 株式会社 ファインテック 技術開発部課長補佐 中村 城 【要約】 近年スマートフォンの爆発的な普及に合せ、構成部品であるタッチパネル等の高機能フィ ルムの採用が進んでいる。この様な中これまでのガラス板に代用する為には高機能フィルム の高品位化(高硬度・高透明性・薄型化等)を進めながら、フィルムの高生産性(自動化す る為の徐給材がロールで出来る)を活用し、生産コストを下げローコスト化が望まれている。 最終外形成型加工へは既にアプローチを掛けているが、今回はこの素材ロール加工に目を 向け、ロール加工でのクラックレス切断を実現すべく以下の取り組みを協力して実施した。 ①、②を株式会社ファインテック担当、③を株式会社ゴードーキコー担当、形状検査・加 工運動の荷重計測を長崎大学担当でそれぞれの取組課題を良く話し合い、目標を明確にして 課題解決の取り組みを進めた。 【結果と今後の対応】 ファインテックで、クラックレス切断が実現できている 刃先形状を丸刃に実現すべく同様の加工条件をベースに丸 刃を試作して切断を行ったが、結果的には100μm以下 のクラック幅で切断できた切断面は、円周上で60%達成 となった。刃先の形状も最小で R0.6μmで R0.1μmを達成 できず、同じ円周上でも R で 0.4μmもばらついている。 これらを解決する為に、非破壊で丸刃の刃先形状を観察 しながらの加工が不可欠でありこの計測と合わせて刃物の 加工条件出しを引き続き進める。また、フィルムの安定加 工に向けた切断装置の改善をゴドーキコー様にもお願いし、 クラックレスの丸刃切断に挑戦していく。 -6- 今回到達できた最終刃先写真