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「医務官レポート(2016年10月号)」を追加しました

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「医務官レポート(2016年10月号)」を追加しました
Botswana Medical Information
2016 年 10 月
【医療トピックス】
○人畜共通感染症 炭疽について
2016 年 10 月中旬の時点で、隣国ザンビア東部の Chama 郡にて人の炭疽が発生していま
す。原因は炭疽で死亡したカバに接触したためと考えられています。動物の炭疽に関して
は、ボツワナでも 2015 年の異なる時期に、Chobe 自然公園で計 3 頭のアフリカ象が炭疽で
死亡したことが、国際獣疫事務局(OIE)に報告されています。
1)炭疽とは
炭疽は炭疽菌(Bacillus anthracis)によって生じる、人と動物双方に感染する病気(人
畜共通感染症)です。炭疽菌は生物兵器としてテロに使われたこともあり、様々な報道で
見聞きされたことがあるかもしれません。世界的に発生がみられ、特に隣国ザンビアは全
土に炭疽菌が分布しているとされています。日本では 1995 年以降、人での発生は報告され
ていません。動物では、2000 年に宮崎県で牛の炭疽の発生が報告されています。統計の無
い国も多いため推定ですが、世界では人の炭疽患者が年間 2 万人、動物の炭疽が 100 万頭
に達するとされています。
が ほう
炭疽菌は、栄養が不足し温度条件が発育に適しない、動物や人の体外では芽胞という形
態を取ります。この芽胞は熱、乾燥、紫外線、化学物質(消毒薬)に対する抵抗力が強く、
土壌中で長期間生存します。自然環境中では、炭疽菌は芽胞で存在すると考えてください。
この芽胞が人や動物の体内に入ると、芽胞の形態をやめ、急速に増殖し、炭疽を引き起こ
します。この感染した動物の血液や体液、死体などに炭疽菌が多数存在し、土壌を再度汚
染し、炭疽菌の汚染地帯を拡大していきます。人から人に感染することはあまりないとさ
れています。
2)症状
炭疽に感染すると、感染経路により、皮膚炭疽、腸炭疽、肺炭疽を発症します。自然に
感染した炭疽のうち、95%以上が皮膚炭疽の病型を取り、肺炭疽はほとんど生じないといわ
れています。皮膚炭疽になった人のうちの 5%、肺炭疽の患者の 60~70%で、炭疽菌が神経
系に達することがあり、髄膜炭疽と呼ばれ、この場合、ほぼ 100%が死亡します。
①皮膚炭疽
皮膚についたキズなどから炭疽菌の芽胞が体内に入ると(経皮感染)
、皮膚炭疽という病
型を取ります。損傷の無い皮膚からは炭疽菌が侵入する可能性は低いとされています。芽
胞が侵入すると、その部位に皮膚の変化(水疱ができ、それが崩壊し黒っぽい痂皮を形成)
が生じます。そのまま自然に治癒する人が多いのですが、リンパ節が腫れ、全身に菌がま
わると重症になります。未治療の場合の死亡率は 10~20%といわれています。
②腸炭疽:
感染した動物の肉を食べると、腸に感染し(特に盲腸)
、激しい腹痛と血性下痢を引き起
こします。死亡率は 25~50%といわれています。
③肺炭疽:
自然状態では、人の肺炭疽はおこりにくいとされています。1979 年、旧ソ連の軍施設か
ら飛散した芽胞によって、60 名以上が死亡したことがあります。人の肺炭疽の報告は、こ
れ以前には 30 例ほどしかないといわれています。その理由として、炭疽菌は比較的大きな
細菌で肺まで入りにくいことと、人は草食動物と比べ炭疽菌に抵抗力があることがいわれ
ています。感染すると風邪のような症状から始まり、肺炎を起こし、未治療の場合、死亡
率は 90%以上とされています。
3)治療
発症前であれば、抗菌薬による治療が効果的といわれています。発症後も効果の持続す
る抗菌薬が用いられます。
4)予防
①死んだ動物にむやみに触れない。炭疽菌に汚染された、販売されている革製品から感染
することもある。
②土壌が汚染されている地域では、土で汚れた傷口から感染する可能性があるため、ケガ
をしないように注意する。
③炭疽菌に汚染されている可能性がある肉は食べない。
日本でも過去に、自分たちで解体した肉を食べて、炭疽を集団発生した事例がありまし
た。現在、日本で流通している食肉は、ほとんどがきちんと処理されたものですので安心
です。ボツワナも食肉の管理は行われており、通常は大丈夫だと思われます。しかし野生
動物の肉を食べるときは注意が必要です。信頼できる店を利用してください。今回のザン
ビアの事例も、ザンビア当局は現地住民に、死んだカバや水牛の肉を食べないように指導
しているとのことです。
文責:平 昭嘉(在ボツワナ日本国大使館医務官)
【新聞報道】
2016 年 10 月 14 日
Daily News
○農業省副大臣が条虫症対策として駆虫薬内服を推奨
むこう
じょうちゅう
Botswana Meat Commission が買い取った牛の 10%に無鈎条虫のシストが見られること
から、農水省副大臣は農家や牧場関係者が駆虫薬を内服することを推奨した。条虫症対策
として、今までは農場にトイレを設置することが行われてきたが、目に見える成果は上げ
られなかった。また野外にある人の排泄物を土に埋めることも無益だった。駆虫薬のコス
トは 1 人当たり 30 プラで、効果が唯一期待できる方法だと、副大臣は述べた。
※「無鈎条虫症」に関しては 2015 年 12 月分の当レポートを参照してください。
2016 年 10 月 14 日 Mmegi
○ボツワナで 1960 年代に実施された風土病性トレポネーマ症対策:世界初の大規模ペニシ
リン投与
(今年はボツワナ独立 50 周年に当たり、独立前後の出来事が注目されており、その一環と
して、次のような記事があった。)
1960 年代に WHO と UNICEF、ボツワナ政府の協力で行われたペニシリンの集団投与で、
それまでボツワナ全土で蔓延していた風土病性トレポネーマが根絶できた。これは世界で
初めての国民全員に対する大規模なペニシリンの集団投与が、ボツワナで行われたことを
意味している。
※風土病性トレポネーマは、アジア・アフリカ・南米・太平洋地域などの熱帯雨林地域の、
子供に多くみられる病気です。命に関わる病気ではありませんが、治療しないと皮膚に腫
れ物や瘤ができ外観が損なわれ、また鼻や足の変形が生じ身体機能に影響を与えることが
あります。1952 年から 1964 年にかけて 46 カ国で行われたキャンペーンで、95%以上発生
数が減少しましたが、1990 年以降、制圧プログラムの終了に伴い、多くの国で制圧状況の
報告が途絶え、現状の把握ができなくなっています。現在はアジスロマイシンという抗生
剤を内服して根治できることがわかり、注射より実施が容易なため、根絶しやすい病気と
考えられています。WHO では、現在流行している 13 カ国に対し支援を進めるとともに、
以前はこの病気が存在していた 73 カ国に対し、発生の有無の調査を進める予定です。
2016 年 10 月 17 日
Daily News
○私立ボカモソ病院の開胸心臓手術チーム
今年 8 月に、ボツワナの私立病院では初めて、私立ボカモソ病院に開胸心臓手術チーム
が組織され、今までで 5 例の手術が施行され、成功した。ボツワナ政府はモーリシャスと
協定を結び、心臓手術チームを派遣してもらっているため、ボツワナ出身者以外の医療ス
タッフがチームに参加しており、同病院の心臓手術チームのボツワナ出身者の割合は 80%
となっている。将来的にはこの割合を 100%にすることを目指している。病院長は、ボツワ
ナで入手できない機器の調達や労働許可証の入手など、幾多の困難がここまで来るのにあ
ったと述べた。
2016 年 10 月 19 日 Mmegi
○閉山する鉱山の HIV 感染労働者の今後
ボツワナ鉱山労働者組合(BMWU)は、閉山する二つの鉱山 BCL と Tati Nickel Mining
Company (TNMC) において、抗レトロウイルス療法(ARVs)を受けている労働者への支
援が無いことを訴えた。BMWU が鉱山を経営する会社に対応を求めても、ただ時間が過ぎ
るだけであったため、マシシ副大統領に書簡を送ることを検討している。ARVs を必要とす
る BCL の労働者は、これまで全額無料で受けることができた。しかし閉山後は料金を払え
ないために、内服を断念する可能性がある。また通常行われる離職者向けのカウンセリン
グが行われていないため、将来を悲観して自暴自棄になる労働者が出ることを BMWU は心
配している。
2016 年 10 月 20 日 Mmegi
○皮膚科の専門的指導・治療を求めるアルビノ患者
公的病院での専門的な皮膚科の対応が欠如していることを、アルビノ患者団体が訴えた。
ただでさえ少ない公的病院の皮膚科専門医が、頻繁に交代するため、一貫した継続性のあ
るケアを受けることができない現状がある。
※アルビノ患者は、生まれつきメラニン色素を作るのが困難なため、皮膚や毛の色が白色
調、目の色が青~灰色調になっています。正式には眼皮膚白皮症(先天性白皮症)と呼ば
れ、遺伝性疾患で、20 種類の原因遺伝子が判明しています。紫外線に弱いため、中高年以
降に皮膚癌を発症するリスクが高く、定期的な皮膚科受診が必要になります。また眼皮膚
白皮症の中には、遺伝子型によっては致命的な合併症を生じる疾患群が含まれています。
文責:平 昭嘉(在ボツワナ日本国大使館医務官)
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