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スポーツ・健康教育の推進
訪問国:カナダ 研修テーマ:スポーツ・健康教育の推進 所属名 千葉市立寒川小学校 氏 名 河 住 佳世子 1 はじめに 今回のカリキュラム改訂のポイントは、① カナダのスポーツ政策は、1960 年代から積極 的に推進されてきた。その背景には健康・体力 Thrive (元気を持って生き抜いていく力を養う) ②ever changing world (常に変化する世界に 水準の低下、 世界選手権や五輪の不振があった。 対応する力を養う)③promote(自分自身の健康 また、カナダには移民政策に伴う「国民統合」 や隣国アメリカとの違いを鮮明にするための や人生を切り開くだけでなく、周りの人の健康 を促進する力を養う)である。また、体育・健 「カナディアン・アイデンティティの確立」な A 活動的な生活○ B 身体的運動の能力 康教育は、○ どの課題があり、こういう課題を解決するため C 健康な生活の3つの要素からなり、これらが ○ の手段として「スポーツ」に特別な価値が見出 密接に関わりあい、フィジカルリテラシーが育 され、今日まで先進的なスポーツ政策が進めら つものであり、学校では、そのような授業が行 れてきた。 今回の訪問では、連邦政府によるスポーツ政 われることが期待されている。 3 学校訪問をして 策のもと、教育現場におけるスポーツ・健康教 育がどのように行われているのか視察し、千葉 今回の訪問では、各教育機関の他に6つの学 校を視察することができた。その中で、次の1 市の健康教育の推進のための方策のひとつとし 校について教育の特色をまとめる。 て生かしたいと考えた。 2 カナダの教育状況 カナダは 10 州および3準州からなる連邦国 (1)クリスト ザ キング カトリック セ カンダリ― スクール 生徒数 1,500 人のうち、400 人が体育科のコ 家であり、憲法上、保健や教育は州の管轄であ る。連邦政府に教育省はなく、体育・健康教育 ースを選択している。さらに特化したコース SHSM ( Specialist High Skills Major 分野で全国的に学校教育に関わっているのは、 民間組織のPHEカナダである。PHEカナダ Program)制度のスポーツ分野がある学校。 ①SHSM とは では、生涯にわたり健康な生活を送るための技 術や知識、態度の育成の基礎である「フィジカ 2006 年からオンタリオ州が実施している制 度。高校の卒業率を上げるため、在学中に専門 ルリテラシー」の習得が大切であるという考え 方を主張し、 プログラムの開発や教材を提供し、 体育や健康増進に関わっている教員を支援して 分野を学び、卒業後の進路選択を有利にする制 度。18 の分野(農業、芸術文化、航空、建築、 健康、園芸等)がある。学校側からこの制度を いる。カナダにおける体育・健康教育分野では、 「フィジカルリテラシー」という考え方がひと つのキーワードであり、PHEカナダでは「す べての人の健康増進のため、多角的な環境にお いて幅広い身体活動の能力があり、その運動を 取り入れたいという申請をして実施するため、 すべての学校にあるわけではない。 ②クリスト ザ キング カトリック セカ ンダリ― スクールの SHSM について スポーツ分野の SHSM 制度がある唯一の学校 自信を持って行えることとしている。 カリキュラムは各州で独自に作成されている。 訪問したオンタリオ州では、2010 年に改訂され た。改訂前の子どもは、ある一つのスポーツに 熱中し、好きなものだけにのめり込む傾向にあ った。しかし、生涯の身体活動を通じた健康維 持には、好き嫌いを超えた基本的な体育、身体 的な基本となるスキルを学ばせる必要があった。 である。SHSM のプログラムで卒業するには、① 学校で単位を取る。 (スポーツに関する仕事の現 場に行って2単位はとる。 )②標準的な応急手当 のコースをとる。③スポーツ関係の仕事で研修 を2~3時間行う。④卒業後働きたいところと 関係を作っていく。 (例えば大学のコースを受け る。)⑤認定される。 (卒業証書にどこで何をし たか等記載される)の5つの過程を経る。 1 のちに進路変更しスポーツ分野に進まなくても、 等の道具を使い、ゲームに成功するための戦略 SHSM のプログラムを終了したことに意味があ を身に付けていく。例えばどのような姿勢、相 るので、同様に就職等に有利となる。 手との位置関係、投げ方など基本のスキルを学 ③保健の授業 友達との問題をどう解決するか、麻薬、健全 な人間関係、喫煙等の内容で実施している。 ぶ。これがゲームを理解するということで、他 への応用ができる。 ④ヘルシーフードについて 保健の授業で、1回の食べる量、組み合わせ を学習する。カフェテリアの食べ物は School Food and Beverage Policy に基づいて健康 的なものにしている。 【ワークショップの様子】 4 研修成果の活用 近年のカナダの体育・保健教育の取組の背景 には、子どもの運動不足・肥満がある。カナダ の基準である1日 60 分の活動に満たない子ど もは 93%であり、多くの青少年がコンピュータ やテレビの前に座っている時間が長くなってい 【充実した施設(トレーニングルーム) 】 るという統計が出ている。カナダの民間組織で (2)ビル クローザー セカンダリ― スク ール は、この現状の解決策として、昔の遊びを積極 的に取り入れることを呼びかけている。これに 東京オリンピック銀メダリストのビル・クロ ーザー氏が発起人となって、2008 年設立された。 より、毎日の身体活動を増やし、将来たくさん の運動やスポーツに参加するための基本的な動 1,300 人の生徒すべてがスポーツ関係の仕事を 希望している。このような体育を専門とする学 作(身をかわす、跳ねる等)を身に付けること 校は、オンタリオ州で一つだけである。 体育のカリキュラムの目標はフィジカルリテ ラシーを身に付けさせることである。 ができ、フィジカルリテラシーを身に付けるこ この学校では、フィジカルリテラシーとは、 子どもたちに基本的な身体活動の技能やスポー ツの技能を習得させ、それによって将来競技ス ポーツや生涯スポーツに参加していくための手 段を与えることである。例えば、バスケットの 本でも、外で遊ぶ子どもは少なく、生活科等で 練習で、シュートの練習ばかりやっていても意 味がなく、他への応用ができない。ゲームを理 解する、ということが他のスポーツに応用がで き大切であるということである。 ○ワークショップ(体験型講習会) :フィジカ ルリテラシーを学ぶ授業 バスケットやサッカーのゲームをやるのでは なく、フラフープやペットボトル、ぬいぐるみ テラシーの考え方は、生涯、活動的で健康な生 とができると啓発しながら、テレビCMや学校 訪問など様々なキャンペーンを行っている。日 地域のお年寄りから昔遊びを体験する活動を取 り入れているが、運動不足という同じような課 題を抱えていることがわかる。カナダの教育機 関、民間組織が一体となって行うフィジカルリ 活を送るための方策として参考になる概念だと 考える。 これらのことからカナダの体育・健康教育分 野の取組は、 千葉市学校教育の課題解決に向け、 本校での休み時間の体力づくりや朝の体力づく りの展開に取り入れ活用し、また、研修会等で 本市に広く紹介し広めていきたいと考える。 2