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No.39 - 岩手看護短期大学
Library News No.39 Feb. Feb. 10 / 2013 岩手看護短期大学図書館 愛の言葉 : 『ささやかな愛は巨額の施しよりもはるかに価値がある』 (ラスキン) Aequanimitas 蔵書ライブラリー “ウィリアム・オスラー博士の『 平 静 の心 』” “ウィリアム・オスラー” ―― 学生の皆さまはもちろん、医療関係者であれば、一度は内科医で医学者でもある彼の名を耳にするでしょ う。1904 年、米国ジョンズ・ホプキンス大学医学部教授であったウィリアム・オスラー博士(1849-1919 Canada)は、医学生、看護師、医療従事者 に対した講演(18 回)をまとめ、『Aequanimitas (平静の心)』を出版しました。その後、第 2 版、第 3 版と改訂・増補版の講演集が上梓されまし た。日野原重明氏は、この 18 回の講演集の中から15篇を選択し、さらに英国オックスフォードで亡くなるまで行った講演の3篇を併せ、全18篇 を『平静の心』として訳しています。当館では、これを所蔵(490.4/O)しておりますので、ご紹介します。 ウィリアム・オスラー博士の声価は、『オスラーの伝記』(ハーベイ・クッシング/脳外科医, 1924 出版)により「臨床医として、研究者として、教 育者として、また人道主義者として生きたオスラーの姿が世界の人々に知られ、オスラーの講演集は、医師、看護婦、学生の必須の読み物と なった」(p.ⅵ)と日野原氏は述べています。また、オスラー博士の講演およびその読み物は「当時の医学生、看護婦、医師の心に強烈なイン スピレーションを与え、医療の世界における専門医の生き方を示す、いわば聖書のような福音を当時の医療職者や学生にもたらし、一般人ま でがこれを愛読」(p.ⅴ)するものとし、今日の医療教育機関でもカリキュラム等に組まれるほど、支持される哲理です。 21 世紀になり、米国の医学教育や看護教育が著しく発展した 背景には、オスラーほか、新進の医学者や医学教育者が、ジョン ズ・ホプキンス大学医学部で新しい医学教育および看護教育を始 めたことによる。1891 年、ジョンズ・ホプキンス病院付属看護 学校の第1期生の卒業式でオスラー博士の講演「医師と看護婦」 が行われた。彼は、当時 41 歳。(p.19 要約) この講演は、宗教的な思想を多く含むため、抜粋・引用して以 下に紹介する。なお、用語は原本どおりとする。 (*のみ、補足説明) 講 演 “医師と看護婦” 看護婦の歴史的役割 ソロモンの紛失した書の一冊に感動的な情景が描かれている。 それは、祖母になって間もないエバが、幼い孫のエノクの病床に 付き添い、身を屈めて、苦痛を和らげ落ち着かせる術をマーラに 教えている姿である。苦しむ者の命ある「一日一日をつなぐ輪」 (*テニスンの詩による)となる女性、そのために学校で厳しい訓練を 受けてきた女性は、後の世において、幼いエノクにとってのマー ラ役、傷ついたランスロットにとってのエレーヌ役を果たしてき た。(*ランスロットとエレーヌについては『アーサー王』からの取材による) 確かに古代の人々にも、敵を許す、非道な仕打ちに耐える、同 胞愛を持つ、などといった意識に目覚めた人は多くいたことであ ろう。しかし、 「愛」の精神が具体的な形で認識できたのは、 「私 の隣人とは誰のことですか」という永遠に心にとどむべき問いに 対するサマリア人の行為から得られたと言える。この問いに対す る答 ――永遠に心に留むべき答えこそ、後の世の人々の態度を 変えたのである。 労働の分業化に伴い、文明は未開の状態から脱皮していったが、 それと同時に、医師と看護婦という職業が分化してきた。彼らは、 人類が行う絶え間ない戦いの有用な脇役としての役割を担った のであった。人類の歴史は、人間の情熱と野心、人間の弱さと虚 栄心の陰惨な記録であり、さらには野蛮な非人間性の記録でもあ る。 看護婦という職業が、ナイチンゲール ―彼女の名は永遠に誉 むべきかな― の指揮下に、その近代的地位を獲得したのは、人 類がこうした戦いという狂気の発作に見舞われていた時のこと であった。それ以前には、看護婦という職業は不安定で、その職 能は明確に想定されていなかったのである。 この大宇宙において、一人の人間は一つの小単位か、あるいは 小宇宙であると言えるが、われわれ一人一人は先祖の鎖に固く縛 られていて、薄弱な意思、強い欲望、気質、頭脳などといった遺 産を先祖代々から受け継いでいる。そして、人生というレースの 途中で、痛ましくも障害に出遭い、脱落する者は多い。そのため、 立ち直るにせよ、死を迎えるにせよ、そういう人達には避難所が 必要となる。過去の行動が厳しく追及されず、できうる限りの愛 と平和と休息が与えられるところ、すなわち病院という避難場所 が必要とされるのは言うまでもないことであろう。 われわれは…、兄弟である人間をやさしく看護ることを学ぶ。 判断を下したり、あれこれ問い質したりせずに、誰にも等しく神 の館(*病院全般をさす)に相応しい親身なもてなしをする。 (pp.21-24) み た ま も だ 自然の法則を大衆に教える役 …われわれ医療に携わる者の務めは、今こそ疫病の法則と人間 を取り巻く外敵を探し出し、この自然の法則がどう作用するかを 一般大衆 ――概して呑み込みが遅く、諸般の事情に疎い人達で あるが―― に教え、この世に生き続け、繁栄してゆけるように 援助することであり、この任務は極めて意義深く、今後ますます 重要さを増すものと思われる。(p.26) 看護婦に与えられる神の祝福 …幸せな人生、そう、皆さんの人生は幸せなものとなるであろ う。あなた方は多忙で、有用な人間なのだから。魂を満たしてく れる職業に没頭するところにこそ幸福は存在する、という幸福の 奥義を授けられたのであるから。さらに言い換えるならば、われ われの存在は、「人生から」何かを与えられるためにあるのでは なく、自らができることを「人生に」与えるためにあるのだ、と いう人生の奥義を授けられたからには。 最後に、われわれはどういう人間であるかをはっきり認識して ほしいと思う。有用な人間ではあるが、われわれはあくまで闘い の補助要員である。芝居でいえば脇役だが、役者の登場・退場に はなくてはならない役であり、時おり舞台でとちったりする気取 り屋の役者の援助する役を演ずるのだ。(p.27) (つづく : 次回は講演「本と人」) 【バレンタインデー特別編】 医療総合サイト 医療総合サイト メディカルオンライン(トライアル)導入について =人間“愛”= ~ 感情のベクトルを考える ~ バレンタインデーに因んで、人間“愛”に関する話題にしようと思う。 愛には、恋愛、友愛、家族愛、師弟愛などのように、 「○○愛」と色々 な姿かたちがあって、この複雑で多種多様な愛のなかに私たちは生きて いる。この感情は、もはや人間の宿命。切り離すことは不可能である。 だから、“愛”をどう表現するか(表象)ということが、劇芸術・文芸 の世界では一つの評価ポイントとなるのだが、詰まるところ、愛の概念 自体はいつの時代においても普遍的だ。 一般的に西欧的な愛の感情として「アガペー」 (無償愛) 、 「エロス」 (性 愛) 、 「ストルゲー」 (家族愛) 、 「フィーリア」 (隣人愛)の 4 種類がある。 しかし、愛の劇化が図られた場合は、もっと体系的な意味で「アガペー」 と「エロス」と「タナトス」と 3 つ概念に分かれる。 「タナトス」とはギ リシャ神話に登場する《死》の神の名に由来し、すなわち、攻撃性や死 への欲動(デストルドー)を表す。これが“愛”の感情と並列する理由 を説明するのはなかなか容易ではないが、 「エロス」という感情が常に 《死》と隣り合わせだから、と言い換えればわかりやすいだろうか。こ の方式の例として、代表的な作品に『サロメ』 (オスカー・ワイルド)な どがあげられる。具体的な内容は割愛するが、あらすじは以下のとおり。 ヘロデ王の義理の娘サロメは、キリストの親戚にあたる預言者ヨカナ ーン(洗礼者ヨハネ)に恋をする。しかし、彼はひどく彼女を蔑み嫌う。 ある時、ヘロデ王はサロメの上手な踊りの褒美として、欲しいものを聞 く。サロメは「ヨカナーンの首」と返答する。ヘロデ王は躊躇するもの の、約束を曲げることができずに、言われるままに処刑して首を渡す。 褒美のヨカナーンの首をもらった彼女は、嬉しそうにヨカナーンを“見 て” 、そしてその口元に接吻する、というもの。 彼女の“見る”行為が、求愛を意味し「エロス」的感情となる。彼は 死んでいるのだから、彼女の想いに応えることはない。それでも彼女は 満足する。所有欲や征服欲から生じる、欲求を満たすための自己中心的 な愛。残虐的で、すなわちこれが「エロス」と並ぶ「タナトス」である。 現代でいうところの、エスカレートしたストーカー行為や性犯罪事件に 似通うと思う。 『蛇にピアス』 (金原ひとみ)などもその傾向が強い。 さて、周知のとおり「アガペー」という用語は、キリスト教( 『聖書』 ) の出典とするのが一般的だが、要は〈無償の愛〉という精神性の強い感 情である。この解釈には宗教性や文化性を伴うので、明言は避けるけれ ども、神聖さを保つが故に身を滅ぼす感情の「タナトス」もある。十字 軍のジハード(聖戦)、文芸作品だと『ハムレット』 (シェイクスピア)のオ フィーリアの行動、日本だと『忠臣蔵』などが思いつきであげられるか。 “愛”の考え方やパターンは無限にあるが、 「アガペー」 「エロス」 「タ ナトス」の三位は、いずれも欠くことのできない感情のベクトルであり、 その中で人間はバランスをとっていると考える。そもそも人生で“愛” を感じる瞬間は、生命のはじまり(誕生時)とおわり(死亡時) 、そして 求愛時ではなかろうか。基本的には生命の営みと同じである。 人間を語るとき、特に日本人ならば「愛と死」の奥深さを知っておき たい。現代の闘病記ならず、古典文学作品にはその題材をとりあげた物 語が数多く残されている。また、 「生と死」は医療従事者にとっては常に 隣り合わせだが、多くの患者にとって必要なのは「愛と生」である。 人の生という狭間に入ってサポートする人、すなわち看護学生の皆さ まにとって、今回の記事が本学の建学の精神「人間愛」とは何かを考え るきっかけになれば幸いである。私にとっても難しい課題で、いつかこ の答えが見つかるかもしれないし、あるいは一生かかっても分からない かもしれない。 ―― ただ、愛は人間にとって永遠のテーマである。(KM) うざ禰文庫から―― 恋歌・哀傷歌 うきながら人をばえしも忘れねば かつうらみつつ猶ぞ恋しき (『新古今和歌集』1362 典拠「伊勢物語」p.283) (日本語訳)ひどい(つらい)人だとは思うが忘れられないのです。恨めしくおもい一方で、 やはり恋しいのです。 いもうとの身まかりにける時によみける 小野のたかむらの朝臣 なく涙雨とふらなん わたりがは水まさりなばかへりくるがに 新年度より導入する予定の標記データベースですが、先行して 2 月 1 日より、無料トライアルを実施しております。(~3 月 31 日までの 2 ヶ月間) このサイト「メディカルオンライン」の最大特徴は、文献情報の検索の みならず、アブストラクトや全文の閲覧が可能という点にあり、今後も 高いレベルで調査法の有益性に期待ができるシステムであることで す。アブストラクトや全文を閲覧するには、図書館(または、学内の情報 端末)にて各自でダウンロードをしてください。 トライアル期間中のダウンロードは無料・無制限でご利用頂けますの で、おおいに活用していただければと思います。 新年度より、ダウンロード件数等の利用を制限しますので、次年度卒 業研究を控えている学生の皆さまには、早めに先行文献のダウンロー ドをお薦めします。 そのほかの魅力としては、商品の比較もできる「くすり」や「医療機器・ 医療サービス」などのデータベースに、MY ページ機能や自分と関わり のあるテーマのアラートメールも登録することができます。まずは利 用してみてください! サイトの利活用方法やご不明な点については、当館スタッフまでお 問い合わせください。 URL: http://www.medicalonline.jp/ 利用ガイドブック: http://www.medicalonline.jp/img/mol_manual.pdf ■ 図書館 図書館インフォメーション ■ 行人の瞳のちらと浮く 春一番 (原 コウ子) 国家試験まで、あともう少しの辛抱です。 頑張ってください。図書館スタッフ一同、応援しています。 看 護 学 ● 1 月の図書貸出冊数 ● 医 学 一 般 書 団体貸出 計 助産学専攻 4 40 16 0 0 0 4 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 4 44 16 0 1 計 60 5 0 0 65 1年 2年 3年 地域看護学専攻 卒業年次の皆さまへ 本のご返却をお願いします 看護科 3 年生、専攻科地域看護学専攻および助産学専攻の皆さま は、2 月末までに借り受けた資料全てのご返却をお願いします。 紛失・破損の場合は、お早めにスタッフまでご相談ください。 【編集後記】今冬から毛糸のレッグウォーマーを着用するようになり、腹痛がおさま りました。日中の冷えは注意を要するということですね。(y) チョコレートパワーで国家試験に打ち勝ってくださいね!(KM) * 【Library News 枠内】小池文庫所蔵 人生の言葉シリーズ 「愛の言葉」編集部[編]『人生の言葉』 p.150 日本ブックエース, 2009. (『古今和歌集』829 p.265) (日本語訳)〔恋しい人が亡くなった時によんだ歌〕私の涙があの世で雨となって降って欲 しい。三途の川の水が増して、 (死出の道に)渡ることができなくて戻ってくるだろうから 。 三途の川…現世とあの世を分ける伝説上の川のこと。死人はその川を渡ってあの世に行く と信じられている。 Library News No.39 (Feb.10/2013) 岩手看護短期大学図書館 図書館スタッフ編集 (毎月 10 日発行) 〒020‐0151 岩手郡滝沢村大釜字千が窪 14-1 phone : 019-687-3864 / fax : 019-687-3894 e-mail : [email protected] web site : http://www.iwate-nurse.ac.jp/library/