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小型地盤掘削ロボット(DigBot)の地盤調査への 適用

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小型地盤掘削ロボット(DigBot)の地盤調査への 適用
201211201 YOKOSHIMA - 1
小型地盤掘削ロボット(DigBot)の地盤調査への
適用に関する基礎研究
The basic study on the application of DigBot into soil sounding
横島
克樹
Katsuki YOKOSHIMA
(指導教員
松島
亘志)
“DigBot” is a palm-sized digging robot for monitoring the underground environment and for soil
investigation. The present study attempts to apply it into soil sounding. In order to examine its
drilling capacity, a series of sand box test has been performed using Toyoura standard sand with
various initial void ratios. It was confirmed that the drilling speed of DigBot increased with
increasing void ratio of the sand layer. Therefore, using the well-established relation between the
void ratio and the internal friction of Toyoura sand, the DigBot drilling speed can be converted into
the internal friction of the soil layer, and further converted into N-value, a standard ground strength
index in soil sounding test. The obtained conversion formula was well validated with the SWS
(Swedish Weight Sounding) tests. On the other hand, the proposed method hardly work either for
very dense sand layer or for natural soil layer in a field test, mainly because of the insufficient
driving force capacity of DigBot. Further improvement is needed for the application into such soils.
に、従来の手法では調査が困難な条件下(急傾斜地や
1 はじめに
地盤の情報を知る、ということは現代の我々の生活
と密な関係を持つ。地盤調査は構造物を建築する際、
その基礎を支える地盤の強度を知るために必要不可
欠である。その一般的な手法としては標準貫入試験[1]
やスウェーデン式サウンディング試験[2]が挙げられる。
これらの手法は評価方法が他国でも規格化されてい
ること、またそのデータが過去何十年と、様々な土地
において蓄積され比較・評価が容易であることから広
く用いられている。その反面、費用が数万~数十万と
高額なこと、その機器として百 kg 超の重量物を扱う
必要があり、規模が決して小さいものではないことな
どが問題点として挙げられる。
そこで本論文では、新たな地盤調査手法として、筑
波大学システム情報系川村研究室で開発された小型
地盤掘削ロボット DigBot[3]を利用する方法を提案する。
ここで目指しているのは、サイズとしては人一人が扱
える小型軽量、多少の操作を覚える程度で容易に扱え、
セッティングを行えばあとは自動で掘削による地盤
調査を行うような調査機器である。
DigBot による地盤調査が実現した場合、従来の手法
に比べてそのコストはより安価に抑えられ、また、か
かる労力も大きく削減できることが期待される。さら
十分なワークスペースが取れない場所など)において
の調査の可能性も広がる。その結果として、多様な物
性、広範囲の土地において強度以外も含めた様々な地
盤情報の収集・蓄積が可能となる。またそうして収集
した地盤情報の利用例として、地盤強度および地下水
の調査による地滑り災害の危険性の明確化など、より
詳細な災害対策が可能になることなどが挙げられる。
さらに、DigBot は第一の目的を地球上の地盤におい
ての掘削と情報収集としているが、宇宙開発において
の使用も視野に入れている。これまで、NASA を始め
とする世界各国の宇宙開発機関が月や火星の探査を
行ってきたが、探査機の多くは地表面からの情報収集
を主とし、地下の調査は不十分である。アポロ計画に
おいて人力による掘削(3m 程度といわれている)が行
われた例もある[4]が、現在の技術では長期的な有人探
査は困難である。月や火星の有人探査が厳しい現状で
は、自動的に掘削し地盤情報を収集する小型掘削ロボ
ットは有用であるといえる。
本研究では、これらの背景より現在開発を進めてい
る小型地盤掘削ロボット DigBot により模擬砂層や実
地盤の掘削を行い、DigBot 掘削特性と地盤の強度定数
との関係性、またその換算方法を検討することを目的
とする。
201211201 YOKOSHIMA - 2
2 小型地盤掘削ロボット DigBot
概要
2.1 既存の掘削ロボット研究
地盤を掘削するロボットの開発例は少なく、またそ
のほとんどは対象を月面の地盤(レゴリス)としている。
東北大学の水野ら[5]は図 1 に示したモグラ型掘削ロ
ボット「MOGURA2001」を開発した。これは月面(レ
ゴリス)を掘削し、センサを地下に設置することを目的
としていた。DOT 工法(シールドマシンを 2 基並べて
掘削を行う方法)を用い、レゴリスシミュラントを対
象とした掘削実験において最大沈下量 126mm を記録
図 2 DigBot 外観
した。理論的には 50cm 以上の掘削が予想できるとし
ている。サイズは全高 30cm、重量は 8.3kg 程である。
その他にもいくつかの開発例があるが、掘削能力の不
足等の問題より地盤調査に有用といえるものはまだ
存在していない。
図 3 二重反転ドリル
成功した。また、このビットは阿部ら[6]と林ら[3]によ
図 1 MOGURA2001
(参考文献[5]より抜粋)
る複数の試作品の製作と掘削試験により、ポリプロピ
レンペレットや豊浦標準砂に対して、最も推進能力の
高い形状が採用されている。
DigBot 開発の目標は「自由に地盤内を掘削し、その
2.2 小型地盤掘削ロボット DigBot
図 2 として本研究で現在開発を進めている DigBot
の全体図を示す。大まかな構造としては、モータが搭
載されている本体部と掘削機構であるドリルビット
から成る。
過程で地盤内の情報を収集するロボット」として開発
を進めているが、現在の DigBot は掘削機構の二重反
転ドリルのみを有し、その他の機構は搭載されていな
い。機能としては直線的な掘削を行うのみである。
表 1 の仕様に示したとおり、DigBot は全長 24cm
程度、600g 程度と小型軽量である。掘削の際にその自
DigBot では掘削機構として二重反転ドリルを採用
重による地盤への侵入を期待することは厳しく、その
している。これは DOT 工法において逆回転する 2 軸
ため掘削機構に加えて地盤中での推進力を得るため
を、遊星歯車機構を用いて同軸に配置した構造となっ
の推進機構が必要となる。
ている。その結果、断面積を大幅に削減し、掘削抵抗
を小さくすることと小型化に成功した。図 3 に示した
とおり、ドリルビットが上下で分かれていて、それぞ
れが逆方向へ回転する。その結果、上下ドリルで回転
反力が相殺され、反力による本体の回転を防ぐことに
201211201 YOKOSHIMA - 3
3 地盤調査と N 値
表 1 DigBot 諸元
本章では、地盤の強度定数である N 値、内部摩擦角
全長
240mm
本体径
30mm
全長
40mm
ピッチ
5mm
先端角
(先端ビット)
約 57°
全形状
ドリル形状
重量
∅、また豊浦標準砂に関して、内部摩擦角∅との関係性
が既往の研究によって示されている間隙比 e について
解説する。
3.1 地盤調査法と N 値、換算 N 値
標準間入試験は JIS 規格(日本工業規格)において
「JIS 1219 標準貫入試験方法」[1]で規準化された最も
一般的な地盤調査法である。本試験では予め掘削され
0.6kg
たボーリング坑を使用する。質量 63.5kg のハンマーを
maxon motor EC-4pole 22 323219
公称電圧
36V
定格出力
90W
最大連続トルク
43.7mNm
最大連続電流
2.16A
トルク定数
21.1mNm/A
最大効率
88%
最大許容回転数
25000rpm
760mm の高さから自由落下させボーリングロッド頭
部を打撃し、ボーリングロッド先端のサンプラーを
30cm 打ち込むのに要する打撃回数を測定する。その
モータ仕様
ギアヘッド
減速比
128:1
また、1 章において述べたような使用目的の用に足
るには、掘削中に地盤内において情報を収集する計測
機構も必要となる。掘削中の計測事項として現在想定
されるのは以下の事項であるが、現状の DigBot には
上記事項を計測するための具体的な機器は搭載され
ていない。
・線量(汚染濃度)計測
・水分量(含水率)計測
・地中の埋没物の探知
・その他
打撃回数は N 値と呼ばれ、地盤の強度を示す指標とし
て扱われている。
また、その他の一般的な地盤調査法としてスウェー
デン式サウンディング試験(Mesod for Swedish weight
sounding test, 以降、SWS と記述する。
)が挙げられる。
SWS は「JIS 1221 スウェーデン式サウンディング試験
方法」[3]により規準化された地盤調査法である。本試
験では先端にスクリュ―ポイントを取り付けたロッ
ドの、段階的なおもりの載苛(50N、150N、250N、500、
750N、1000N)と回転による沈下量を測定する。その
際の荷重とロッドの回転数から地盤強度の評価を行
う。標準間入試験と比べ比較的小規模・低予算で実施
できることから、戸建住宅等の建設の際の地盤調査法
として広く用いられている。
また、SWS においても、測定される荷重とロッドの
回転数の N 値への換算がこれまでに検討され、いくつ
かの関係式が提案されている。本論文では次章以降に
示す実験において、稲田によって提案された(3)式(れ
き・砂・砂質土の場合)と(4)式(粘土・粘性土の場合)
[7][8]を用いることとする。
𝑁 = 0.002𝑊𝑠𝑤 + 0.067𝑁𝑠𝑤
(3)
𝑁 = 0.003𝑊𝑠𝑤 + 0.050𝑁𝑠𝑤
(4)
今後、先に挙げた目標を達成するためには、ニーズ
ここで、N は N 値、𝑊𝑠𝑤 [kN]は荷重、𝑁𝑠𝑤 はロッドの
に合わせた計測機構の開発や方法の提案、また DigBot
貫入量 1m 当たりの半回転数であり、これは測定した
の形状変化(新たな機構の搭載等による)を考慮した
半回転数𝑁𝑎 を(4)式によってに換算したものである。
新たな掘削機構や推進機構の開発が重要課題として
100
𝑁
𝐿 𝑎
ここで、 𝐿は貫入量(cm)を表す。
挙げられる。
𝑁𝑠𝑤 =
(5)
201211201 YOKOSHIMA - 4
す。横軸が間隙比 e、縦軸が内部摩擦角∅を表し、各種
3.2 N 値と土の強度定数
せん断試験によるその関係性が示されている。間隙比
土の破壊(組成の崩壊)時のせん断応力と直応力関
e が小さくなるほど(土粒子が密に詰まるほど)内部
係性は(2)式によって表され、クーロンの破壊基準と呼
摩擦角∅が増加し、土粒子の強度が高くなる傾向が見
ばれている[9]。
て取れる。
𝜏𝑓 = 𝑐 + 𝜎𝑓 tan ∅
(6)
ここで、𝜎𝑓 と𝜏𝑓 はそれぞれ破壊時の直応力とせん断応
本研究では上記に示したN値と内部摩擦角∅、
間隙比
e と内部摩擦角∅の関係に着目し、砂地盤の強度の推定
を行う。
力、𝑐は粘着力、∅は内部摩擦角を示す。粘着力𝑐と内
部摩擦角∅は合わせて強度定数と呼ばれる。乾燥した
砂の場合、粘着力成分がなく拘束力が発生しないので
𝑐=0 となり、せん断応力は直応力と内部摩擦角∅によ
って決定される。
砂地盤のN値と内部摩擦角∅は既往の研究によって
関係性が検討され、各種関係式が提案されている。大
崎ら [10] によって(7)式、Peck ら [11] によって(8)式、
Dunham[12]によって(9)-①~③式が提案され、本論
文ではこれらを参考にする。
∅ = 15 + √20𝑁
(7)
∅ = 0.3𝑁 + 27
(8)
∅ = 15 + √12𝑁
(9)-①
(粒子丸・粒度一様)
∅ = 20 + √12𝑁
(9)-②
(粒子丸・粒度良,
粒子角・粒度一様)
∅ = 25 + √12𝑁
(粒子角・粒度良)
図 4 砂の内部摩擦角と N 値の関係
(参考文献[13]より抜粋)
(9)-③
図 4 に各種関係式を反映した砂質土のN値と内部摩
擦角∅との関係を示す[13]。全体的にN値が高く地盤強
度が大きくなるほど、内部摩擦角∅も増加する傾向が
見て取れる。図 4 において上記の(7)式は②、(8)式は
③、(9)-①~③式は④-1~3 に相当する。
また、豊浦標準砂に関して内部摩擦角∅と間隙比 e
の関係性も Pradhan ら[14]による各種のせん断試験によ
って検討されている。間隙比 e は(10)式[9]により定義さ
れる値で、土粒子に対する間隙の体積の比率(土粒子
の詰まり具合)を表す。
𝑉𝑉
𝑒=
𝑉𝑠
(10)
ここで、𝑉𝑉 は間隙の体積、𝑉𝑠 は土粒子の体積を表す。
値が小さいほど粒子が密に詰まっている状態を表し、
豊浦標準砂においては最大間隙比が約 1.0、最小間隙
比が約 0.6 とされている[15]。
図 5 に Pradhan らによって提案された関係性[16]を示
図 5 種々の試験による内部摩擦角の比較
(参考文献[16]より抜粋)
201211201 YOKOSHIMA - 5
4 模擬砂層掘削試験
まず始めに、模擬砂層を対象とした掘削を行った。
今回は豊浦標準砂を試料とし、DigBot による掘削と砂
の強度との関係性の評価を行う。
豊浦標準砂は過去の各種研究により強度評価がな
され、大まかにではあるが強度を数値として表せる点
から今回の掘削対象に選択した。また、粒度が揃った
で乾燥した粘性のない砂の地盤は、最も基礎的な地盤
とみなすことができ、その具体的な強度評価は今後の
開発において重要な指標になると考えられることも
理由の一つとして挙げられる。
図 7 DigBot 作動システム概要図
図 8 DigBot が進入していく様子
図 6 実験に使用した砂層
4.2 砂層への DigBot 掘削
現在、DigBot は有線で電力を供給する必要があり、
4.1 実験概要
本試験では外径 20cm、内径 19.2cm、長さ 102cm の
アクリル製の円筒を用いる。この円筒は台座に固定す
ることで底面を塞ぐことができ、そうして作成した半
径9.6cm、
高さ約1mの砂層を DigBot により掘削する。
この際、投入する豊浦標準砂の質量の調整を行って間
隙比(砂の詰まり具合)を変化させて、砂層の強度を
設定する。
(しかし、土圧の影響による深さ方向の間隙
比の変化が発生すると考えられるので、ここで設定す
るのはあくまで砂層全体の平均的な間隙比であるこ
とを断っておく。
)
また掘削後の回収のため後方にロッドを接続してい
る。また、DigBot の作動に必要な器材は電源装置、
maxon motor 社位置制御ユニット「EPOS2 50/5」
、その
操作用の PC の 3 つであり、図 8 に上記を右から順に
示す。図 7 にその接続例を示す。
供給する電力については、電圧は公称電圧である
36V 固定とし、掘削時の負荷に応じて電流値が上昇す
る仕様となっている。電流値の計測からトルクを算出
しての地盤強度の計測も可能であると考えられるが、
本機にはまだ電流値連続して記録保存する機構は搭
載されていないため、掘削速度において DigBot の掘
削特性を評価する。
201211201 YOKOSHIMA - 6
4.2.1 DigBot 掘削結果
図 9 に DigBot の掘削速度と砂層深さの関係を示す。
掘削速度v[cm/s]
速度の算出方法に関しては、本実験においては DigBot
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
0
が砂層に進入する時間を 10cm 刻みに計測し、砂層深
さ 10cm の層ごとの掘削速度を算出した。
(例えば、深
20
ら速度を算出し、それを中間の深さ 15cm における掘
削速度とする、といった具合である)
横軸は DigBot による掘削速度、縦軸は砂層の深さを
表し、算出した速度を変化させた平均間隙比ごとプロ
砂層深さ[cm]
さ 10cm から 20cm まで到達するのにかかった時間か
40
e=0.81
e=0.85
e=0.87
e=0.91
e=0.92
60
80
ットした。砂層深さが深くなるほど、また間隙比が小
100
さくなるほど、土圧の増加による抵抗の増加により掘
削速度が減少する傾向が確認できた。
図 9 砂層深さ 30cm 以上における掘削速度
また、図 10 に間隙比 e と砂層中部 40cm~70cm(図 9
中の 2 本の茶色直線の間)
の掘削速度点の関係を示す。
0.35
ここで砂層中部 40cm~70cm の速度点のみを取り上げ
たのは以下の理由による
圧蜜が無いため比較的間隙比が高くなること
と、ロッドの重量も含めた自重(約 2.5kg)の影
響により掘削速度が著しく大きくなる傾向が
見られる。
ⅱ)DigBot による掘削の際、表層は図 11 のよう
掘削速度v[cm/s]
ⅰ) 表層付近は砂層全体の中でも、体積による
0.30
0.25
e=0.81
e=0.85
e=0.87
e=0.91
e=0.92
――線形近似線
0.20
0.15
0.10
にロッドの周辺が陥没し、その直下では間隙
比の大きな変化が起きていると予想される。
ⅲ)定常な掘削を評価するためには、DigBot が
完全に砂層へ進入する約25cm以上の速度点の
0.80
0.82
0.84
0.86
0.88
0.90
0.92
平均間隙比e
図 10 間隙比𝑒と砂層中部の掘削速度𝑣の関係
評価が望ましい。
ⅳ)砂層底部は圧密により間隙比が低くなると
予想される。
以上の理由により、図 10 では砂層中部の速度点の
みを取り上げた。平均間隙比 e が低くなるほど(砂が
密に詰まるほど)速度が減少する傾向が見て取れ、線
形近似線もともに示した。この傾向より、DigBot の掘
削速度は地盤強度を測定する際の 1 つの指標となりう
ると考えられる。
4.2.2 DigBot の掘削限界
本実験においては、平均間隙比𝑒 = 0.81 の砂層の深
さ 68cm において DigBot の掘削限界を確認した。図 9
図 11 DigBot 掘削時の砂層表面
において速度点が少ないのはそのためである。ここで
言う掘削限界とは、
「モータの停止による掘削の限界」
を表す。前述したように供給する電力は電圧一定であ
しかしこの限界は、ギアヘッドの交換等により減衰
り、負荷に応じて電流値が上昇する。電流値が最大連
比を変更して、トルクを高くすることで解決できると
続電流値を超える状態が続くと、制御が働きモータが
考えられる。どれくらいの減衰比が必要となるのかは
停止し、それ以上の掘削が不可能となる。
今後の重要な課題となる。
201211201 YOKOSHIMA - 7
4.2.3 DigBot 掘削速度と換算地盤強度
(N 値)
の関係
表 2 図から得た間隙比 e と内部摩擦角∅の関係
図 10 より得られた間隙比と掘削速度𝑣の関係より、
間隙比 e
内部摩擦角∅[°]
0.9
30
0.85
30.5
0.80
32
0.75
33.5
本論文では(11)式の関係性を提案する。
𝑣 = 1.57𝑒 − 1.16
(11)
この(11)式の関係と 3.3 章で述べた地盤強度に関する
パラメータの関係性より、掘削速度𝑣と N 値の関係を
換算により推定する。ただし、その範囲は𝑣が正の値を
とる𝑒≧0.74 の範囲と図 5 の間隙比の範囲を合わせた
0.74≦𝑒≦0.90 の範囲とする。
まず、図 5 に示した関係より間隙比 e と内部摩擦角
∅の関係を表 2 のように読み取った。それと(11)式を合
わせて得られた掘削速度𝑣と内部摩擦角∅の関係を図
12 に示す。内部摩擦角∅が増加し地盤強度が上がるほ
34.0
ど掘削速度𝑣が減少する傾向が見て取れる。
33.5
33.0
また、それから表 2 で読み取った内部摩擦角∅に(7)
を適用させ、図 13 のような間隙比𝑒と N 値の関係が得
られた。ここからさらに横軸の間隙比𝑒を(11)式によっ
て掘削速度𝑣に換算することにより、
掘削速度𝑣と N 値
の関係性が得ることができると考えられる。
しかし、
関係式によって N 値のばらつきが大きく、
32.5
内部摩擦角φ
式~(9)-③式までの各種内部摩擦角∅と N 値の関係式
32.0
31.5
31.0
30.5
30.0
29.5
0.00
0.05
「間隙比𝑒 が小さくなるほど(密に詰まるほど)N 値
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
掘削速度v[cm/s]
(地盤強度)が高くなる」という傾向は見て取れるも
図 12 掘削速度𝑣と内部摩擦角∅の関係
のの、具体的な N 値を推定することは難しい。そこ
で、この砂層に SWS を適用して N 値の推定を行うこ
大崎ら
Peckら
Dunham①
Dunham②
Dunham③
SWS
ととした。
30
25
4.3 砂層への SWS 適用
た、
図 16 に実際に行った SWS の適用の一場面を示す。
ロッドに下から順に 50N(載荷用クランプ)
、100N の
20
換算N値
図 15 には本実験で使用した SWS の機器を示す。ま
15
10
重りが 2 つ、250 N の重りが載荷されている状態であ
る。合計 500N(約 51kg)載荷され、先端のロッド(全
長 20cm)が埋まっておらず、この砂層である程度強度
の高い地盤を作成できることが確認できる。
図 16 に試験結果を示す。砂層の平均間隙比が高く
なるほどロッドの進入が鈍くなり、また 2m の高さを
超えた SWS の機材の扱いは困難かつ危険であると判
断したため、平均間隙比 e = 0.81 の砂層中部までで試
験は打ち止めとした。
5
0
0.75
0.80
0.85
間隙比e
図 13 間隙比𝑒と換算 N 値の関係
0.90
201211201 YOKOSHIMA - 8
6
5
Dunham③
SWS
換算N値
4
3
2
1
0
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
掘削速度v[cm/s]
図 17 掘削速度𝑣と換算 N 値の関係
図 14 SWS 試験機器
4.4 換算 N 値と SWS による N 値の比較
4.2.1 章に述べた理由を踏まえ、また DigBot の掘削
速度との関係を考慮するため、ここでも図 16 におい
て砂層中部(2 本の直線の間)の N 値を参照する。平
均間隙比𝑒 = 0.91 の砂層中部では N 値は 0.6、𝑒 = 0.85
では N 値 2.5、𝑒 = 0.81 では N 値 6 弱と読み取れ、こ
れらの関係を図 13 に示した。その結果、Dunham の③
式を適用した換算 N 値と近い値を示すことが見て取
れた。
上記の比較を踏まえ、本実験では DigBot 掘削によ
り提案した(11)式と、図 13 中の間隙比𝑒 と Dunham の
図 15 砂層に対する SWS
③式(本論文中の(9)-③式)[12]を適用した換算 N 値の
関係を用いて、図 17 に本実験で得られた DigBot の掘
削速度𝑣と換算 N 値の関係を示した。また、合わせて
N値
0
1
2
3
4
5
6
0
SWS により得られた N 値も示した。
今回得られた図 17 の関係はあくまで本実験の条件
砂層深さ[cm]
20
下で得られた関係性であり、より詳細な関係性を得る
には、更なる試験の繰り返しや、DigBot の掘削能力を
40
向上による測定範囲の拡大、換算条件等の見直しが必
60
e=0.91
e=0.85
e=0.81
80
100
要となる。しかし、これまで記述してきたように地盤
強度を表すパラメータそれぞれの関係性に着目する
ことによって、大まかではあるが DigBot による地盤
強度(N 値)の推定が可能であることを示唆し、一例
を示した。今後、更なる検証を行う必要がある。
図 16 砂層に対する SWS 実施結果
201211201 YOKOSHIMA - 9
表 3 実験作業における DigBot と SWS の比較
DigBot
SWS
11.4 kg
145.4 kg
各種機材の接続
ロッドにスクリューポイント、
載荷用クランプ(50N)の取り付け
動作確認、モータのチューニング
ロッドを地盤に立てて、貫入量を計測
地盤掘削
100N の重り 2 つ、250N の重り 3 つを順に載荷、
それぞれ貫入量を計測
モータを逆回転しつつ引き抜き
ロッドを回転させ、半回転数と貫入量を計測
機材の総重量
行程
引き抜き
その他
手間など
1 回の掘削にかかる時間:5~10 分
重りの積み下ろしを繰り返し要する場合有り
5 実地盤掘削実験
続いて、現状の DigBot で実地盤に対しての掘削を
試験的に試みた。実験を行った場所は筑波大学工学系
学系 3H 棟付近の雑木林である。図 16 に現場写真を示
す。この地点周辺には筑波大学建設の際の廃材の混じ
らない、そのままの関東ローム層の地盤が広がるため、
この地点を実験地として選択した。
5.1 SWS 試験結果
図 19 に(4)式[7][8]を適用した SWS 試験結果を示す。
地盤深さ約 50cm 程度までは次第に地盤強度が増加し
N 値は 4 程度を記録した。その後は N 値が減少する傾
向が見られ、特に、約 75cm~145cm まではロッドの回
図 18 3H 棟付近の実験地周辺
転中に荷重のみで急激に貫入する軟弱層が確認でき
た。
N値
0
の「モータの停止」ではなく、
「ドリルの空転による推
進力不足」が原因である。
4
40
地盤深さ[cm]
った。しかしここでの掘削停止の原因は、砂層実験時
3
20
砂層掘削実験の結果より N 値 4 程度の地盤であれ
行ったところ、わずか 5cm 程度で掘削が止まってしま
2
0
5.2 DigBot 掘削結果
ば掘削が可能であると考えられるが、DigBot で掘削を
1
60
80
100
120
140
2.2 章に述べたように、現在の DigBot のドリル形状
は砂に特化した構造をしており、今後実地盤に対応し
た新たな形状を模索する必要があると考えられる。
図 19 3H 棟の地盤に対する SWS 試験結果
201211201 YOKOSHIMA - 10
表 4 DigBot 開発の課題と解決策
課題
考えられる解決策
モータの停止による掘削停止
モータ、ギアの選定により低電流(低速)
・高トルクでの作動
ビット形状(実地盤掘削時)
新たなビット形状の検討(より先鋭に)
SWS に似せた地盤進入
地盤物性(粒度・粘性など)
謝辞
推進機構
ヘビ型推進機構を検討(反力相殺、方向制御)
計測機構
ニーズに応じて開発、搭載
5.3 実地盤掘削のために考えられる改善点
砂層実験も含め、本研究を通して様々な課題が浮き
彫りとなった。課題と、考えられるその解決策をまと
めて表 4 に示す。今後、DigBot を地盤調査の用足るも
のにするためには、砂と土の物性の違いを克服できる
ような新たな機構の開発が必要である。
謝辞
本研究を進めるにあたり、松島先生にはお忙しい中
6 まとめ
実験方法の提案や論文の添削等、様々なご指導・助言
を頂き深く感謝しております。山本先生にはゼミにお
本研究では DigBot による模型砂層および実地盤の掘
いて貴重なご意見やご指摘を頂き、大変感謝しており
削試験と従来の SWS 試験の比較により、以下の結論
ます。また、川村先生には研究に関する知識を初め、
と今後の課題を得た。
様々なご意見やご指導を頂き深く感謝しております。
お忙しい中野外での実験にご協力してくださった
(1) DigBot による豊浦標準砂層の掘削実験を行い、
株式会社小松製作所および株式会社コマツレンタル
粒子の強度定数と関連を持つ間隙比(粒子の詰
の高橋様、菅野様、青木様、村上様、樋口様にもこの
まり具合)の変化によって、DigBot の掘削速度
場を借りて感謝の意を述べさせていただきます。
が変化することを確認した。この傾向より、
また、先輩方には研究で行き詰っているときに気に
DigBot の掘削速度を基にして地盤強度を推定
かけていただいたり、また様々な知識を教えていただ
できる可能性が示唆された。
くこともあったりなど、大変感謝しております。
(2) 間隙比から地盤強度を表す指標である N 値へ
また、同期の面々とは互いに励ましあい、時には実
の換算を行い、N 値による強度評価を試みたと
験にも協力し合い、研究を進める上で大いに力をもら
ころ、各種換算式によって大きなばらつきが生
いました。感謝しています。
じた。
SWS による強度評価も合わせて行ったと
ころ、Dunham が提案した(9)-③式[11]を用い
る換算が適切であるという結果を得た。
また、辛い時に支えてくれた家族にもこの場で感謝
の気持ちを述べたいと思います。
今回この論文を書き上げられたのも、ひとえに先生
(3) よく締め固められた砂層においては DigBot の
方、先輩方、同期、家族、周りの方々の支えがあって
掘削能力が足りず、換算式を得ることができな
こそだと思っております。改めて、深い感謝の意をこ
かった。
の場を借りて示させていただきます。本当にありがと
(4) N 値の大きさからは十分掘削可能であると考
えられた実地盤に対して、提案手法を試みたが、
砂地盤に特化した構造となっている現在の
DigBot ではほとんど掘削できなかった。今後、
様々な地盤の掘削に応用していくためには、物
性の違いを考慮した新たなる機機構の開発が
必要である。
うございました。
201211201 YOKOSHIMA - 11
参考
[1] 日本工業規格:
「JIS 1219 標準貫入試験方法」
[2] 日本工業規格:
「JIS 1221 スウェーデン式サウンデ
ィング試験方法」
[3] 林昌寛, 川村洋平, 加藤侑一, 宮地利幸, 村上和
利:地中環境モニタリング小型ロボット(DigBot)の
開発, 日本機械学会, ロボティクス・メカトロニクス
講演会講演概要集 2012
[4] Lunar and Planetary Institute / the moon / the samples /
tools / Collecting Moon Rocks :
<http://www.lpi.usra.edu/lunar/samples/apollo/tools/>
[5] 水野昇幸, 吉田和哉:月・惑星掘削探査ロボットの
プロトタイプ開発, 計測自動車制御学会東北支部, 第
199 回研究集会, 資料番号 199-3, 2001
[6] 阿部亮平, 水谷幸一:地盤および月面掘削用小型
ロボット DIGBOT の開発, 筑波大学大学院博士課程シ
ステム情報工学研究科修士論文
[7] 稲田倍穂:スウェーデン式サウンディング試験結
果の仕様について, 土と基礎, Vol.8, No.1, pp.13~18,
1960.
[8] 株式会社 東京篠原:
「スウェーデン式貫入試験器
SS-S-331 取扱説明書」
[9] 安田進, 山田恭夫, 片田敏行, :
「大学土木 土質力
学 改訂 2 版」, オーム社, 2014
[10] 北沢五郎, 竹山謙三郎, 鈴木好一, 大河原春雄,大
崎順彦, :東京地盤図, 技報堂, 1959.
[11] Terzaghi, K. and Peck, R.B.:Soil Mechanics in
Engineering Practice, John Wiley & sons, 1948
[12] Dunham, J.W.:Pile Foundation for Buildings, Proc.
ASCE, Soil Mech. and Found. Div., Vol.80, SM. 1, pp.1~21,
1954
[13] 地盤工学会 土質調査法改訂編集委員会:
「地盤調
査法」pp.201,1995
[14] Pradhan, T.B.S., Tatsuoka, F. and Horii, N.:Strength
and deformation characteristics of sand in torsional simple
shear, Soils and Foundations, vol.28, No.3, pp.131~148,
1988.
[15] 細野康代, 吉嶺充俊:
「豊浦砂の粒度分布」, 土木
工学会第 64 回年次学術講演会試料, 2009
[16] 地盤工学会「地盤工学ハンドブック」pp.84
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