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藤田 次郎 - 医薬ジャーナル社
序 このほど,医薬ジャーナル社から, 「ジェネラリストのための肺炎画像診断のコツと診療の手 引き」という単行本を刊行した。この本は,2008 年に,同社から刊行した「肺炎の画像診断と 最新の診療」の改訂版である。初版が好評であったこともあり,広い読者層を対象とするとと もに,より実践的な内容にするよう意識して再編集した。また光沢紙を使用することにより, 画像はより鮮明になっている。内容を通読していただければすぐにお分かりだと思うが,わが 国の肺炎の画像診断と診療の集大成である。 肺炎は普遍的な感染症である。それだけに肺炎の診療にはお国柄が反映される。近年,英国 の医療を「悲惨な医療(多くの医師,および患者が海外に流出)」と呼び,米国の医療を「残酷 な医療(約 4,500 万人が無保険) 」と呼ぶ。これは何れの国においても医療費削減の結果である。 振り返ってわが国を見ると,国民皆保険制度により,これまでは世界最高水準の医療を実現し てきた。しかし超高齢社会の到来とともに,肺炎の臨床像が大きく変貌しつつあることも事実 である。 私は,肺炎の診断と治療に際して,この肺炎の起炎病原体は何だろうという根本的な疑問を 大切にしたいと思う。そのために様々な手法(細菌学的検査,迅速診断,および画像診断等) を用い,起炎病原体を明らかにし,さらにその結果を画像所見にフィードバックする。このよ うなアプローチを否定すれば,臨床の醍醐味は薄れるであろう。さらに起炎病原体を同定して 初めて,狭域の抗菌薬を選択できるのである。 さて肺炎の診断に画像所見は重要ではないのだろうか。わが国で伊藤春海名誉教授により開 発された high resolution CT(HRCT)は,その優れた画像解像度により,胸部画像診断学に おける一大革命をもたらした。この手法の臨床応用により,わが国独自の胸部画像診断学が進 歩したともいえる。これを肺炎に応用すれば,起炎病原体の推定に有用なことは容易に想像で きる。さらに病理学的裏づけがあれば,鬼に金棒である。この改訂版では,伊藤春海名誉教授 に改訂をお願いし,また新たに「肺炎の免疫と病態」を追加している。なお故松島敏春名誉教 授の原稿については,僭越ながら私が改訂させていただいた。 本書においては,肺炎の画像診断と治療に関して,日本の第一人者の先生方に執筆を承諾し ていただいた。米国の古きよき時代の医療と,わが国の世界最高の画像診断技術の結びついた 本書は必ずや読者の皆様に満足いただけるものと確信している。 2016 年6月 藤田 次郎 推薦のことば この度,医薬ジャーナル社から藤田次郎教授(琉球大学大学院医学研究科感染症・呼吸器・ 消化器内科学)が編集した「ジェネラリストのための肺炎画像診断のコツと診療の手引き」とい う単行本が上梓された。この本は以前に出版された「肺炎の画像診断と最新の診療」 の8年ぶり の改訂版であり,初版の際の推薦のことばを以下に引用させていただく。 「筆者は書評を依頼された関係で,ゲラ刷りの段階からその全ての章に目を通すこととなっ た。読み終わるのに実に約1カ月を要した。そして全編を飾るその内容の豊富さと力強さに圧 倒された。この本の執筆を担当している方々の顔ぶれの凄さにまず驚かされた。日本の一流所 の肺感染症研究者名が並べられ,それぞれの長年の研究成果とその臨床応用が余す所なく臨床 家に分かりやすく解説され,しかも最先端の知識が鏤められていたからである。 (中略) さて,この教科書の内容であるが,多くの執筆者が異口同音に記述していることであるが, 画像はあくまでも実物ではなく,単なる影であり,肺感染症は病原微生物と宿主との関係で生 まれる病態であって,肺の画像のみからその病気を推定するということは,到底不可能である ということである。 肺感染症の病原微生物は,その多くは経気道的に肺組織に達し,何れかの機序により病態を 作り出す。したがって,肺感染症という病態を知るには肺の局所解剖を熟知し,病原微生物の 詳細を知ることが要求される。それに加えて,その病原微生物が侵入する宿主のもつ免疫状態 を基礎知識として理解することである。そのためにこそ,肺感染症の理解のための専門家が呼 吸器臨床医,放射線科医,病理医,免疫学者などの広い分野に及ぶのである。 なかでも,剖検肺の伸展固定肺から出発してその肉眼的観察,薄切片の画像,顕微鏡的病理 像などを詳細に記述して今日の CT や HRCT 開発の先駆けとなった伊藤春海名誉教授の病態解 明の仕方は実に圧巻である。概して各執筆者のそれぞれの肺感染症に関する研究成果はどれも 瞠目すべきものであり,この教科書に目を通すだけで肺感染症の大部分が分かる仕組みに出来 上がっていると感じるのは,私一人だけではないと思う。 願わくば,この教科書の中に免疫学者による感染防御機構の解説と種々の画像診断法の利点 と欠点,適用法などの纏めがあれば臨床家達にとってより分かりやすく,より役に立つものに なったと思う。 しかし,この一冊に目を通せば肺感染症の大部分が理解できるので,医療従事者全ての人々 に推薦できる良書である。」 さて改訂版の編集に注目すると,初版の優れた内容を残しながら,初版の「推薦のことば」 で私がリクエストした「肺炎の免疫と病態」の項目が追加されている。さらに高齢化社会の到来 とともに肺炎の臨床像が変化していることにも十分留意されている。特筆すべきことは紙質が 良くなったことにより,画像がより鮮明になったことである。ありふれた疾患である肺炎を対 象に,広く臨床医に使用されることを意識して改訂された良書である。多くの先生方に目を通 してもらいたいと願っている。 2016 年6月 宮城征四郎