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第7回

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第7回
弁護士&税理士は見た!
フツウのお宅の 相続事件簿
税理士
内田 麻由子・弁護士 武内 優宏
(今月の担当 内田 麻由子)
第7回
家族名義の預金も相続に関係する?
東京都内に住む桜井幸子さん(75 歳)は、結婚以来ずっと専業主婦として、夫の義男さん(78 歳)を支え、2 人の
息子を育て、家計をやりくりしてきたしっかりものの妻。趣味と実益を兼ねた株式投資歴は 40 年のベテランだ。仕事
一筋だった義男さんが定年退職してからは、夫婦で毎年旅行することを楽しみにしていて、昨年は金婚式の記念に夫
婦でヨーロッパ旅行をした。ところが帰国後しばらくして義
男さんにガンがみつかり、医師に余命 6 ヶ月と宣告される。
父
義男さんは、最期は自宅で家族に看取られて亡くなり、長男
義男
の達也さんは、弟の直也さんと共に、母の幸子さんを助けて
桜井家
78歳で死亡
葬儀を執り行った。葬儀から 3 ヶ月後、相続のことが心配に
長男
二男
なった達也さん。ちょうど相続セミナーの案内をみつけたの
達也
48歳
直也
45歳
で、参加してみることに……。
母
幸子
75歳
=被相続人
=相続人
都内で開催された相続セミナーの講演を終えると、一
ては、亡くなった日現在の残高証明書を確認するのに加
番前の席で熱心に聴いていた男性が「先日亡くなった父の
えて、過去 5 年分ほどの大きな入出金も通帳などで確認
相続のことでご相談したいのですが……」と話しかけて
することになるからです。
きました。
達也さん「父の生前に引き出した 1,000 万円と、亡くな
数日後、達也さんと母親の幸子さんが事務所へ相談に
ってから支払った葬儀費用やお墓の購入費用は、相続の
いらっしゃいました。亡くなった義男さんの経歴に続い
際にどのような扱いになるのですか?」
て、財産の状況を伺うと、義男さん名義の財産は東京都
内田「まず 1,000 万円については、手許現金として相続
内の自宅土地・家屋のほかに、預金が 400 万円ほどとの
財産に含める必要があります。その上で、葬儀費用 200
ことです。
万円については、相続財産から控除できます。お墓や仏
壇は非課税財産ですので、亡くなる前に購入したのなら
● 亡くなる前に預金を引き出したら?
ば相続税がかからないのですが、亡くなった後に買った
「お父様のご経歴に比べて、預金が少なすぎますね」と
ということですので、残念ながら相続財産から差し引く
聞くと、達也さんが、
「実は、父が亡くなる前に 1,000
ことはできません」
万円を引き出して実家の金庫に保管していたのです。そ
のうち葬儀費用に 200 万円と、お墓の購入費用として
● 妻名義の預金は相続に関係ない?
300 万円を使いました」とのこと。
内田「幸子さん名義の財産はどのくらいありますか?」
本人が亡くなると預金口座は凍結されて入出金ができ
幸子さん「株式と投資信託が約 4,000 万円あります」
なくなってしまいます。相続財産は相続人全員の共有財
内田「幸子さんは、結婚以来ずっと専業主婦で収入はあり
産ですので、遺産分割が決まるまでは、相続人のうち誰
ませんでしたね。幸子さんの親から贈与や相続でもらっ
か一人が勝手に預金を引き出すことは原則としてできま
た財産はありますか?」
せん。そうであれば、亡くなる前に引き出してしまえと
幸子さん「ありません。両親の財産は実家を継いだ兄がす
思うかもしれませんが、亡くなる前に銀行からあまり多
べて相続しました。4,000 万円は、主人のお給料と退職
額の現金を引き出すと、かえって相続財産を把握するの
金をこれまでコツコツと運用してきたものです」
が煩雑になってしまうのです。なぜなら、預貯金につい
内田「それでは、幸子さん名義の財産についても、実質的
(掲載した事例は事実をもとに脚色したフィクションです)
110 弁護士&税理士は見た!フツウのお宅の相続事件簿
スタッフアドバイザー 2013.7
には義男さんの財産として相続財産に含めて考える必要
達也さん「えー、お母さん、本当なの?」
がありますね」
達也さんは驚いた様子です。相続対策のつもりもあって
幸子さん「えっ、そうなのですか?!夫名義の財産だけが
子供名義で預金していたと幸子さんは言いますが、残念
相続税の対象になるのかと思っていました」
ながら、あげた“つもり”では贈与にはならないのです。
相続財産については、誰の名義になっているかにかか
あげる人ともらう人がお互いに、
“あげますよ”“もらいま
わらず、実質的に誰の財産であるかで判断します。税務
すよ”ということを確認してはじめて贈与になります。
調査で申告漏れとなるのが多いのは、家族名義の金融資
通帳と印鑑を幸子さんが持っていて、お子さんたちがそ
産(名義預金といいます)です。相続税の申告をした人す
の預金の存在すら知らなかったということですと、贈与
べてに税務調査が来るわけではありませんが、調査があ
したことにはならないのです。
る場合には、税務署は、亡くなった本人名義の資産はも
幸子さん「それでは子供たち名義の預金のどうなのるので
ちろんのこと、相続人名義の資産についても事前に綿密
すか?」
に調べてから調査に来ます。相続税の申告をしていない
内田「お子さん名義の預金 1,000 万円についても、実質
場合でも、申告が必要と思われるケースでは税務調査を
的には義男さんの財産として相続財産に含めて考える必
することもあります。
要がありますね」
● 子供名義にしておけば贈与になる?
● 正しい贈与と申告を
内田「達也さんは、これまでにお父様やお母様から贈与を
預貯金の名義や生前贈与について勘違いをしていたた
受けたことはありますか?」
めに、相続税の申告をしなくてもよいと思い込んでしま
達也さん「これまで父や母から贈与を受けたことはありま
ったり、申告後の税務調査で申告漏れを指摘され、相続
せん。贈与税の申告をしたこともないです」
税が追加でかかってしまったという話を聞きます。名義
幸子さん「あの、実は……達也と直也には内緒で、2 人の
を変えただけでは相続対策にはならないのです。正しく
名義で預金してきたものが合わせて 1,000 万円ほどある
生前贈与して、必要な場合には贈与税の申告・納税をす
のです。息子たちが困ったときに使えばよいと思って、
ることが大切です。
少しずつ貯めてきたものです。通帳と印鑑は私が持って
また、相続税の申告を依頼する税理士には、過去の贈
います」
与の状況についても正確に伝えましょう。
身近 な 相続対策
贈与で相続対策するには?
●贈与の証拠を残すこと
場合には、多少贈与税を払ってでも、基礎控除額年間
贈与した事実を客観的に証明できる証拠を残すことが
110 万円を超えて贈与しておくことで、将来の相続税が
大切です。具体的には次のようなことに注意しましょう。
大幅に軽減される場合があります。
① 贈与の都度、贈与契約書を作る。
② 現金ではなく振り込みで贈与する。
●生活費等の贈与は非課税
③ 通帳と印鑑は財産をもらう人が管理する。
扶養義務者のある者に必要な都度、生活費又は教育費
④ 基礎控除額 110 万円を超えて贈与を受けた場合には、
に充てるために贈与した財産のうち通常必要と認められ
贈与税の申告・納税をする。
るものについては、贈与税がかかりません。
●贈与税を払ってでも贈与したほうがトクになる場合も
●お墓や仏壇は生前に購入した方がトク
生前贈与は、早く始めて、時間をかけて少しずつ贈与
お墓や仏壇は非課税財産ですので、相続税がかかりま
することで、少ない税負担で多くの財産を子や孫へ移転
せん。生前に購入しておけば、その分だけ相続財産を減
できます。相続税が高い税率でかかるほどの財産がある
らすことができます。
2013.7 スタッフアドバイザー
弁護士&税理士は見た!フツウのお宅の相続事件簿 111
<相続税申告の要否>(事例より)
「小規模宅地の評価減の特例」の適用を受けることによ
1)正味遺産額
り相続税はかかりませんが、相続税の申告はする必要が
自宅土地
あります。
5,000 万円
自宅家屋
300 万円
義男名義の預金
400 万円
手許現金
1,000 万円
幸子名義の株式・投資信託
4,000 万円
達也・直也名義の預金
1,000 万円
△ 200 万円
葬式費用
小 計
1 億 1,500 万円 …①
△ 4,000 万円 (※)
小規模宅地の評価減
差 引
7,500 万円 …②
※自宅土地(200 ㎡、妻・幸子が相続)
、5,000 万円× 80%= 4,000 万円
2)基礎控除額
5,000 万円+ 1,000 万円× 3 人= 8,000 万円
3)相続税申告の要否判定
小規模宅地の評価減の特例を適用
1 億 1,500 万円(①)>基礎控除 8,000 万円 ∴相続税の申告が必要
7,500 万円(②)≦基礎控除 8,000 万円 ∴相続税はかからない
武内弁護士のコメント……………………………………………
<葬儀費用は相続財産から出るの?>
本文にあるように葬儀費用は相続税の計算をする際は相
続財産から控除できますが、葬儀費用を立て替えた人が、
葬儀費用から香典を引いた実質負担額を相続財産から優先
的に受け取れるとは限らないのです。法的には、葬儀費用
は被相続人が亡くなった後に発生した債務なので、遺産分
割とは無関係です。ここは、民法と税法が異なる部分で誤
解されやすい点です。もし、相続人の一人がかたくなに葬
儀費用を相続財産で負担することを拒否した場合、葬儀費
用を立替えた人が損をしてしまいます。喪主を引き受けて
損をするという事態を避けるためにも、葬儀費用くらいは
すぐに支払えるように現金で保管しておくか、葬儀費用分
は生命保険に加入しておいた方がよいでしょう。
たい!
おさえておき
相続基礎知識
生前に贈与する際の2 つの制度について確認しましょう。
の贈与であっても、相続時精算課税制度により贈与し
●暦年課税制度
た財産を含めて相続税を計算します。すでに納付した
1 年間に贈与を受けた財産の価額の合計額が、贈与税
贈与税があれば相続税から控除し、控除しきれない場
の基礎控除額 110 万円を超える場合には、その超える部
合には還付されます。なお、
相続財産に加算するのは「贈
分の金額に対して 10%∼ 50%の贈与税がかかります。1
与時の価額」です。つまり、相続時に価額が下がって
月 1 日から 12 月 31 日までに贈与を受けた財産について、
いれば不利になり、価額が上がっていれば有利になり
翌年 3 月 15 日までに贈与税の申告と納税をします。
ます。
なお、相続開始前 3 年以内に贈与を受けた財産につい
この制度は、贈与者ごと、かつ、受贈者ごとに選択
ては相続財産に含めて相続税を計算し、すでに納付し
することができます。たとえば、
た贈与税があれば相続税から差し引きます。
①父から長男への贈与は相続時精算課税制度を選択
●相続時精算課税制度
②母から長男への贈与は暦年課税制度
65 歳以上の父母から 20 歳以上の子(代襲相続人であ
③父・母から二男への贈与は暦年課税制度
る孫を含む)への贈与については、累計で 2,500 万円ま
……ということも可能です。
では、贈与した時に贈与税がかからないという制度で
この制度の適用を受ける場合には、制度を選択する
す。累計 2,500 万円を超える部分の金額に対しては、一
旨の届出書を税務署へ提出する必要があります。ただし、
律 20%の贈与税がかかります。
一度この制度を選択すると暦年課税制度には戻れませ
ただし、将来相続が発生した時には、たとえ何年前
んので注意が必要です。
【注】本稿は 2013 年 5 月 1 日現在の税制に基づいています。今後の税制改正により制度が変わる可能性があります。実際の運用に際しては税理士等の専門家
にご相談ください。
112 弁護士&税理士は見た!フツウのお宅の相続事件簿
スタッフアドバイザー 2013.7
【平成 25 年度税制改正(贈与税編)】
す(現行は 65 歳以上)。
平成 25 年度税制改正法案が成立し、相続税については
大増税、贈与税はおおむね減税です。今月は本編で贈与
税について取り上げましたので、ここでも贈与税の改正
についてポイントを解説します。
基礎控除額 110 万円の「暦年課税制度」については、20
歳以上の者が親や祖父母などの直系尊属から贈与を受け
た場合の税率構造を緩和します。
また、最高税率は 50%から 55%に引き上げられ、税率
構造は 10%∼ 55%の 8 段階となります。
10%
15%
20%
30%
40%
50%
控除額
―
10 万円
25 万円
65 万円
125 万円
225 万円
① 20 歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合
課税価格(基礎控除後)
税率
10%
15%
20%
30%
40%
45%
50%
55%
控除額
―
10 万円
30 万円
90 万円
190 万円
265 万円
415 万円
640 万円
② 上記以外の場合
課税価格(基礎控除後)
200 万円以下
300 万円以下
400 万円以下
600 万円以下
1,000 万円以下
1,500 万円以下
3,000 万円以下
3,000 万円超
円までの金額について贈与税を非課税とします。
教育資金とは、幼稚園、保育所、小中学校、高等学校、
大学、大学院等に支払われる入学金や授業料などです。
学習塾や習い事の月謝などについては 500 万円を限度と
します。
非課税となるのは、平成 25 年 4 月から平成 27 年 12 月ま
して支出されるのは平成 28 年以降でもかまいません。こ
の適用を受けるには教育資金の支払いに充当したことを
証する書類を金融機関に提出する必要があります。
なお、受贈者が 30 歳になったときに残額があれば、そ
の残額については贈与税がかかりますので注意が必要です。
4.改正の時期
【改正後】贈与税速算表
200 万円以下
400 万円以下
600 万円以下
1,000 万円以下
1,500 万円以下
3,000 万円以下
4,500 万円以下
4,500 万円超
母や曾祖父母などの直系尊属が、信託銀行等の金融機関
での間に信託等されたものに限ります。実際に教育費と
【現行】贈与税速算表
税率
30 歳未満の孫やひ孫の教育資金に充てるために、祖父
に資金を信託等した場合には、受贈者 1 人につき 1,500 万
1.暦年課税制度の税率構造が変わります(減税・増税)
課税価格(基礎控除後)
200 万円以下
300 万円以下
400 万円以下
600 万円以下
1,000 万円以下
1,000 万円超
3.教育資金を一括贈与するときの非課税制度が創設(減税)
(1)上記 1.および 2.の改正は、平成 27 年 1 月 1 日以後
に贈与により取得する財産に係る贈与税について適
用します。
(2)上記 3.の改正は、平成 25 年 4 月 1 日から平成 27 年
12 月 31 日までに贈与により取得する財産に係る贈与
税について適用します。
ひとことコメント
長寿化に伴い「老々介護」のみならず「老々相続」と
税率
10%
15%
20%
30%
40%
45%
50%
55%
控除額
―
10 万円
25 万円
65 万円
125 万円
175 万円
250 万円
400 万円
なっています。50 ~ 70 代の子が 80 ~ 90 代の親から
財産を相続しても、将来の社会保障や病気・介護への
不安から多くの高齢者はお金を使わずに貯蓄します。
日本の個人金融資産 1,500 兆円のうち約 6 割を 60 歳以
上の世代が保有していて、そこで「老々相続」が繰り返
されているわけです。今回の贈与税改正をひとことで
言えば「孫への投資促進税制」です。若い世代への資産
移転を促し消費を活性化させる狙いがあります。考え
2.相続時精算課税制度の対象者が拡充されます(減税)
てみれば、現在 60 代の人が 80 ~ 90 代になり介護が
累計 2,500 万円まで贈与税がかからない「相続時精算課
必要になったときには、子供はすでに 50 ~ 70 代で自
税制度」については、財産をもらう人の範囲に 20 歳以上
分自身の健康維持で精いっぱい。今のうちからかわい
の孫を追加します(現行は 20 歳以上の推定相続人である
子のみ)
。
また、贈与する人の年齢要件を 60 歳以上に引き下げま
2013.7 スタッフアドバイザー
い孫に投資して、いい教育を受けて立派な社会人にな
ってもらい、将来、孫に大事にしてもらうのが一番確
実といえるかもしれませんね。
弁護士&税理士は見た!フツウのお宅の相続事件簿 113
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