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電子ビームを用いたマスクパターン製作技術
電子ビームを用いたマスクパターン製作技術 新世紀を拓く東芝の技術 18 高速・高精度マスクパターン描画技術が拓く次世代半導体デバイス 今日の情報社会を支えている基盤技 設計・CAD 術に半導体集積回路(LSI)の微細化技 技術ポイントです。これらの技術開発に 電子銃 電子ビームマスク描画装置 マスク 術があります。LSI製作プロセスのう コンデンサ レンズ マスクプロセス EB データ ちパターン焼付けの流れを示すと図1 成形偏向器 ウェーハ ターンは,まずマスクと呼ばれる基板 に形成されます。次にこのマスクを原 版として,ステッパと呼ばれる転写装 したがって,マスク上への回路パター ン形成には完全性が要求されることに 第二成形 アパーチャ(S2) 図1.設計データからウェーハパターン焼付けまでの流れ 設計データに基づいてマスク描 画装置によりマスクのパターンを形成し,マスクを原版としステッパを用いてウェーハ上に微細 パターンを形成します。 レーザ描画装置を用いる方法とがありま (a) 1994年 いられます。 量産開始時期(年) 1998 世代 250 nm 位置精度 寸法均一性 (b) 1999年 す。微細化をけん引する先端的マスクパ ターン形成には解像性に優れる前者が用 す。微細化が進むに従って描画時のショ (b)VSB描画方式 ット数は大幅に増大し,この結果描画時 間が非常に長くなると予想されます。 対物レンズ 対物主偏向器 (c) 2001年 44 40→25 量産開始時期(年) 1999 世代 180 nm 2000 2001 180 nm 2002 2003 2004 130 nm 2005 2006 2007 100 nm − 32 − − 26 − − 18 − 30→18 − − 20→13 − − 16→10 2000 2001 2002 130 nm 2003 2004 2005 100 nm 2006 2007 39 35 31 27 25 23 21 − − 寸法均一性 24 21 17 13 12 11 10 − − 1999 2000 2004 90 nm 2005 80 nm 2006 70 nm 2007 65 nm 位置精度 − − 27 24 21 19 17 15 14 寸法均一性 − − 10.4 9.2 8.0 7.2 6.4 5.6 4.2 2001 2002 2003 130 nm 115 nm 110 nm 考案し,研究を行っているのが“EB(電 子ビーム)マスクスキャン描画方式”で マスク 位置精度 量産開始時期(年) 世代 この問題を解消する方法の一つとして スキャンされる S1 アパーチャの像 表1.半導体ロードマップの中のマスクパターンに対する性能要求の推移 マスク上にパターンを形成する方法に は,電子ビーム描画装置を用いる方法と 降に対応する要素技術開発を進めていま 対物副偏向器 なり,マスクパターン形成技術はLSI 製作の鍵を握っていると言えます。 当社では,更に微細な70 nm世代以 S1アパーチャの像 (矩形ビーム発生) 置を用いてウェーハ上にパターンを縮 ンが基準となって回路が形成されます。 ■次世代の高速マスク描画技術 投影レンズ ウェーハプロセス ステッパ (転写) よって,100 nm世代までのマスク描画 が可能と考えています。 S2アパーチャ 第一成形 アパーチャ(S1) 検査,修正 のようになります。設計された回路パ 小転写します。つまり,マスクパター S1アパーチャの像 (三角ビーム発生) 1回目 2回目 す。図2(c)に示すように,同じパター ンの描画要素をあらかじめ決めておき, EBマスク上の 転写パターン この部分は転写によってパターンを描画 する方式です。この方式では,複数の転 (a)システムの構成 (c)EBマスクスキャン描画方式 写用開口を形成したEBマスクをS2アパ ーチャの位置に配置してあります。転写 図2.電子ビームマスク描画装置 VSB方式ではS1アパーチャ像とS2アパーチャ像との重な りを調節することにより,任意の寸法の矩形あるいは三角形のビームを発生させます。EBマ スクスキャン方式ではS1アパーチャ像をスキャンすることにより,大面積のパターンの転写を 行います。 用開口の選択範囲を広げるために,EB マスクはステージ機構を用いて移動可能 となっています。転写用開口上を電子ビ 当社では25年以上前から電子ビーム 描画技術の研究開発に取り組み,主にマ マスクのパターンはそのころから急激に 度を誇っています。99年版のロードマ S2アパーチャを通して矩形(くけい) や温度制御などの技術,また電子ビーム ームをスキャンしてマスク基板上にパタ スク描画への応用を行ってきました。そ 高精度化が要求されるようになりまし ップ(表1(b) )で示された性能を満足し, あるいは三角形に成形してマスク基板上 のドリフト低減技術や高精度の電子ビー ーンを転写することにより,転写パター の成果は社内で用いられてきましたが, た。94年版の半導体ロードマップの中 完全に要求精度をキャッチアップできた の所定の位置に集光し,これを高速で ム制御技術を開発し,安定化と高精度化 ンの大型化とVSB方式との併用が可能 1999年に電子ビームマスク描画装置と でマスクに要求された精度の一例を表1 と考えています。その後装置の改良を進 ON/OFFさせて任意のパターンを描画 を達成しました。これが第2の技術ポイ となります。この方式の採用により,大 (a)に示します。例えば,130 nm世代 め,2001年版のロードマップ(表1(c) ) します。この方式では,従来の丸ビーム ントです。また,描画プロセスとほかの 幅な描画時間の短縮ができると考えてい ここでは,当社と(株)ニューフレアテ は2004年に達成される予測で,パター の加速に完全に対応できました。同時に 方式に比べ高速描画が可能です。更に, プロセスとのインタフェースとなる搬送 ます。既に研究用のプロトタイプ機が完 クノロジーとが共同で開発した描画装置 ン寸法の均一性は13 nmが要求される 従来では困難とされた性能(赤や黄色で ビームの高速・高精度偏向を可能とする 系では,マスクにパーティクルが付着し 成して評価を進めています。 と次世代に向けた技術開発について紹介 ものの実現困難ということで20 nmが 示した)も技術的に可能になったことが 偏向アンプを開発しました。これらによ ないための様々な構造や機構を開発し, します。 目標でした。位置精度には26nmが要求 示されています。当社の技術がロードマ って高速描画が可能となったのが第1の これによりパターン上の欠陥の発生を低 において鍵となるマスクの製作に使用さ されていました。 ップを塗り替えたわけです。現在,先端 技術ポイントです。 減しました。 れる電子ビーム描画技術を提供し,世界 して外販を開始しました。 ■ロードマップのキャッチアップと加速 要求精度を達成し,かつ実用的な描画 ウェーハ上のパターン寸法が250 nm 速度を得るために,当社は様々なブレー 半導体の製作に使用されるマスクの多く がこの装置で描画されています。 次に,パターンの高精度化のために, 更に,描画データのデータ量の増大に マスク基板内部からの反射電子の影響に 対応した大規模データ処理回路技術,ノ よって寸法が変化する近接効果をリアル イズに対するロバスト性を高めた回路技 タイムで補正する技術,反射電子の装置 術や装置設置環境の精度への影響を抑え このように当社は,半導体素子の製作 の半導体産業の発展に貢献しています。 (1nm=100万分の1mm) 以下になると, クスルー技術を開発し実用化しました。 ステッパの解像限界でマスクパターンを 99年以降に市販された電子ビームマス 転写する必要性から,マスクパターンの ク描画装置((株)ニューフレアテクノロ 当社の電子ビームマスク描画装置及び 内での再反射を低減させる技術,重力ひ る耐環境技術,0.001℃以下の温度制 誤差が転写性能に大きく影響するように ジーから販売)は以下に述べるブレーク 可変成形ビーム(VSB)描画方式を図2 ずみ以外のひずみをまったく生じさせな 御が可能なステージ技術を開発し,長期 研究開発センター LSI基盤技術ラボラトリー主任研究員 なってきました(95年ころ) 。そのため, スルー技術を用いており,世界最高の精 (a) , (b)に示します。電子ビームをS1, いマスク保持技術,徹底したノイズ低減 安定化に対応させました。これが第3の 小笠原 宗博 68 ■高速・高精度パターン描画技術 東芝レビューVol.5 7No.10(2002) 電子ビームを用いたマスクパターン製作技術 研究開発センター LSI基盤技術ラボラトリー技監 東條 徹 69