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全教員の研究内容詳細

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全教員の研究内容詳細
地殻上部における金属元素の濃集・拡散機構の解明と
鉱物資源探査と環境影響評価への応用
地球環境研究分野
教授
石山大三
我々の社会活動は、地球から鉄・銅・鉛・亜鉛・金・銀・レアメタル等を含む鉱物資源を採掘・精製して
得られたこれらの金属を利用して高機能な機械や機器を作り、それらを使い、営まれています。このような
社会活動や生活水準を維持するためには、地球の資源を有効に使うことが必要です。一方、鉱物資源を採掘
すると、採掘された岩石から有害元素が雨や地下水により溶解され河川に流出し、環境や健康に影響を与え、
大きな問題となることもあります。また、地下で鉱物資源を形成した熱水が地表に達した場合には、我々に
はその熱水は温泉水として利用されます。温泉水にも種々の元素が含まれている場合があり、その利用と環
境への影響評価も重要です。研究では、岩石-水反応を基礎にして、有効な資源探査法の開発と資源開発や
温泉活動に伴う金属元素の環境への影響評価を目指して、鉱物資源の生成機構の解明、鉱物資源探査法の開
発、鉱山廃水、温泉水、河川水についての金属元素の挙動の解明の研究を行っています。
key words 鉱物資源、探査、重金属、レアメタル、環境影響評価
鉱物資源探査の研究
鉱物資源探査の研究とその応用には大き
く分けて二つの取組みがあります。一つの取
組みは、資源探査法を確立するために、対象
とする鉱物資源の形成機構を解明する取組み
です。もう一つの取組みは、鉱物資源賦存有
望地域における、河川の泥や砂、あるいは植
物 の Cu, Pb, Zn, As, Hg, Au, Ag 等 の 元 素 濃
度や酸素などの同位体比を調べ、異常値を見
出す探査法開発の取組みです。
前 者 の 取 り 組 み で は 、最 初 に 鉱 床( 鉱 物 資
源の濃集体)の調査を行い、地質学的データ
を収集すると共に、研究室での試料の組織な
ど詳細な観察データと実験から鉱物学的デー
タ、岩石学的データ、地球化学的データ、同
位体比データの実験を取得します。これらの
データを総合的に検討し、鉱物資源形成のモ
デ ル 確 立 を 行 い ま す( 鉱 床 成 因 の 解 明 )。そ し
て、確立したモデルについて鉱物資源探査に
必 要 な 条 件 を ま と め 、他 地 域 へ の 応 用 を 試 み 、
モデルの有用性を検証します。
1,500 万 年 前 の 海 底 熱 水 鉱 床 で あ る 含 金 火
山性塊状硫化物鉱床の温川鉱床を形成した流
体の水素・酸素同位体比が図1に示されてい
ます。この結果からは、温川鉱床の金鉱化作
用をもたらした流体は、マグマから発生した
流体の可能性が考えられ、金の起源もマグマ
起源の可能性があります。金に富む火山性塊
状硫化物鉱床の探査を行う場合には、マグマ
図 1.含 金 温 川 海 底 熱 水 鉱 床 を 形 成 し た 流 体 の
特徴。金鉱化作用は、マグマ水に関連。
図 2.秋 田 県 馬 場 目・光 沢 鉱 床 周 辺 の 岩 石 の 酸
素同位体比分布。鉱床下位の鉱床近傍岩石
の酸素同位体比は低い。
図 3. セ ル ビ ア ボ ー ル 斑 岩 銅 鉱 床 周 辺 か ら ド ナ
ウ川までの水系と同鉱山露天掘りと廃さい。
活動と熱水活動が密接に関連していた地域を
探査対象地域として選定することが必要にな
ると思われます。
探査法開発の取組みの一例を示したのが
図 2 です。鉱床周辺の岩石の酸素同位体比の
分布を示しています。鉱床の周辺では、鉱床
を取り巻く岩石の酸素同位体比が周囲の岩石
に比べて低くなっています。このように酸素
同位体比が低くなっている岩石を見つけるこ
とができれば、その近くで鉱物資源を発見す
る可能性があります。
環境影響評価の研究
鉱山廃水や火山活動に伴う温泉水が河川
に流れ込むと有害元素による汚染の問題が発
生します。鉱物資源形成では、重金属やレア
メタル等の濃集機構の解明が重要でしたが、
環境汚染の解決のためには、汚染の現状認識
と有害元素の拡散機構の解明が必要になりま
す。地域にかかわる重金属やレアメタル等に
よる汚染問題や多国間にわたる環境汚染問題
を解決するために、地球化学的見地から研究
を行っています。
多国間にわたる環境汚染問題の研究例に
は、セルビア東部のボール斑岩銅鉱床の鉱山
廃水の研究があります。セルビア東部のボー
ル斑岩銅鉱床の鉱山廃水は、鉱山から河川に
流出し、その河川水はドナウ川まで流れてい
きます。ボール鉱山周辺には露天掘りや廃さ
い が あ り ま す( 図 3)。調 査 の 結 果 、廃 さ い か
らの汚染もありますが、操業中の製錬所から
の排水による汚染が主たる汚染の原因である
ことがわかりました。環境への影響軽減のた
めには、製錬所の排水設備の改善が必要であ
図 4.雄 物 川 河 川 水 中 の 珪 藻 の 化 学 組 成 の 特 徴 。
ること、その改善が行われれば、年間 3 億円
程度の利益が得られ、その資金で環境対策を
推進できる可能性を示し、それらをセルビア
政府へ提言としてまとめています。
地域にかかわる重金属やレアメタル等によ
る汚染問題の一例に、秋田県中央部を流れる
玉川-雄物川水系の河川水の研究があります。
玉川の上流部渋黒川に鉄・砒素・レアメタル
等を含む酸性温泉水が流入するために、玉川
上流部では河川水中の溶存成分濃度が高くな
ります。玉川ダム付近まで流れ下ると、中性
の pH の 河 川 水 が 合 流 す る こ と も あ り 、河 川 水
の pH が 中 性 に 近 づ き ま す 。 pH が 中 性 に 近 づ
くにつれて河川水中に含まれている温泉水由
来の砒素と鉄が懸濁物質に変化し、河川水の
色が黄色味を帯びた色に変わります。このよ
うな変化は、人工衛星からの画像でも確認で
きます。分析値からも、砒素・鉄・レアメタ
ルが懸濁物質として晶出し、河川水から除去
され水質が改善されます。レアメタルは、川
底に濃集し、将来の資源となる可能性もあり
ます。同様のことは、玉川-雄物川水系の下
流域でも観察できます。同水系の中流域では
鉱山地帯からの河川が本水系に合流します。
河川水の中には珪藻などの微生物が大量に存
在します。珪藻の化学組成を調べると銅や亜
鉛などの金属元素が珪藻から検出されます。
このことは、河川水中の金属元素が、珪藻な
どの微生物に固定され、河川水の水質が改善
されていることを示しています。このような
検討を行うことで、一つの水系に連なる多く
の人の生活と健康に関連する水資源の管理方
針と今後の利用計画をより適正なものにする
ことができます。
ケイ酸塩メルトの物理化学的性質の解明と
それらの地球資源学、材料⼯工学への応⽤用
准教授
菅原
透・技術専門職員 大平俊明
地球の岩石圏はおよそ7割が二酸化ケイ素から成り,酸化アルミニウム,酸化鉄,酸化カル
シウム,酸化ナトリウムなどを加えて約9割を占めます.地球の深部ではそれらの多成分の混
合物が融解してマグマが発生し,元素の再分配が生ずることで,鉄,銅,亜鉛,レアアース,
レアメタルなどの資源が濃集します.また,二酸化ケイ素の結晶である石英はガラス材料や半
導体材料としても利用されています.我々にとって有用な資源や原材料の多くは,岩石圏に豊
富に存在する二酸化ケイ素を主成分とする混合物が高温での化学反応を経ることで生成されて
いるのです.そのため,それらの高温下での特性を知ることはとても重要です.
当研究室では,高温で溶融状態にある多成分混合系のケイ酸塩(ケイ酸塩メルト)について
各種物性を測定し,その物理化学的性質について調べています.またそれらの知見を基礎にし
て,マグマの発生の仕組み,元素の分別と濃集機構,鉱石の製錬反応,ガラス製造プロセスに
ついての応用研究も行っています
Key words : 火山,マグマ,製錬スラグ,ガラス材料,高温物性,元素分配,熱量測定
マグマとスラグにおける元素の分配
ケイ酸塩メルトとそこで平衡共存する結晶
の間での元素のやりとりのことを元素の分配
と呼びます.加熱炉で合成実験を行ったのち
に試料の化学分析を行い,元素の分配挙動を
調べています.これまでに,斜長石における
Fe と Mg,カンラン石における Ni, Co, Ca,
ニッケル製錬スラグにおける Fe, Ni などの分
配挙動について調査し,島弧のマグマの酸化
還元状態,玄武岩質マグマが含む水の変遷に
ついての考察や,ニッケル製錬プロセスの解
Al2O3, B2O3, FeO, MgO, CaO, BaO, SrO,
Na2O, K2O などの多数の酸化物が成因や用途
に応じて様々な割合で含まれています.この
ような化学組成の複雑な多成分系ケイ酸塩メ
ルトについて,高温下(500∼1600℃)での
熱容量,エンタルピー,エントロピー,酸化
還元反応を熱量測定や電気化学測定に基づい
て明らかにし,熱力学量を変化させる支配要
因について調べています.また,コンピュー
タシミュレーション(MD 計算)により多成
分系ケイ酸塩メルトの構造を調べ,原子配置
明などを行ってきました.最近では放射性廃
棄物固化ガラスにおいて不純物として析出す
る白金族元素の分配についても研究を進めて
います.
多成分系ケイ酸塩メルトの物理化学
的性質
マグマ,製錬スラグ,工業用ガラス材料な
どは,いずれも SiO2 を主成分とし,他に TiO2,
図1.MD 計算による SiO2 -Al2O3-MgO
-CaO 系メルトの構造
や化学結合と上記物性との関係についても考
ガラスについて多数の物性値を入力する必要
察を行っています(図1).
があります.当研究室では模擬放射性廃棄物
このようにして得られた熱力学量は様々に
ガラスの熱容量と密度に重点を置き,室温か
応用することができます.例えば,前述した
ら 1300℃までの測定実験とその温度,組成
ケイ酸塩メルトと結晶の間の元素の分配やメ
依存性の定式化を目指した研究を行っていま
ルトにおける酸化還元反応を熱力学量と組み
す(図2).
合わせることで,マグマにおける元素の分別
1.8
き,温度や組成を変化させた場合の現象の予
測などに役立ちます.また,ガラス産業や鉄
鋼業では原料鉱石を溶かすために多量のエネ
ルギーを消費するとともに CO2 を排出してい
g
1.6
-1
Heat capacity / J K
抜き)の機構を理論的に定式化することがで
-1
と濃集の仕組みやガラス融液の清澄反応(泡
1.4
1.2
Bead (DSC)
KMOC-LS (DSC)
KMOC-HS (DSC)
Bead (Drop)
KMOC-LS (Drop)
1
ます.それらの工程で必要なエネルギーはケ
イ酸塩メルトの熱力学量を用いて計算するこ
KMOC-HS (Drop)
0.8
0
とができます.
500
1000
1500
Temperature / ºC
放射性廃棄物固化ガラスの⾼高温物性
原子力発電での使用済み燃料の処理で生じ
た廃液はガラスと混ぜて溶融固化後に地層処
図2.模擬放射性廃棄物固化ガラスの室温
から 1300℃までの比熱
⾼高温物性測定装置の開発
分されます.放射性廃棄物の固化ガラスは
ケイ酸塩メルトは 高温 の 融体 であるた
SiO2,B2O3,Na2O を主成分とし,他に 20
め,固体物質と比較して物性測定が困難で市
種類以上の核分裂生成物や副成分を含む複雑
販の測定装置はほとんどありません.そのた
な多成分系を構成しています.近年,ガラス
め,当研究室では目的の物性測定装置をそれ
溶融時の熱・物質移動のシミュレーション計
ぞれ独自に設計・製作して測定に利用してい
算の技術が飛躍的に進展し,ガラスの製造工
ます.測定検出器の開発や新しい測定手法の
程においては数値計算を併用して溶融炉の状
考案などについても重要な研究課題として取
態を把握することが一般的となりました.た
り組んでいます(図3).
だし,それらの計算においては高温下の溶融
図3.
落下型熱量計
Calvet 型高温熱量計
中温密度測定装置
元素の濃集プロセスと鉱床形成,
環境における元素の挙動
福山 繭子
Mayuko Fukuyama
地球上に存在する資源,そして現在の環境は,元素間の相互作用による結果であり,特に資源と環
境の視点では流体と金属元素の相互作用が大きな役割を果たします.そこで,様々な地球環境にお
ける元素挙動の解明を目指して研究を行っています.
研究紹介
流体の挙動を知るには
1
元素の濃集プロセスと鉱床の形成
鉱床とは資源として有用な元素の濃集場です.元素が
かつて日本には多くの鉱山が存在し,特にスカル
ン鉱床と呼ばれるタイプの鉱床は日本各地に存在
します.このスカルン鉱床の形成には流体と岩石の
化学反応が関与しています.その形成条件を知る
濃集するには水やメルトのような流体が大きな役割を果
には流体の挙動を理解する必要がありますが,スカ
たします.そこで,鉱床形成における流体と元素の挙動を
ルンが形成されるような地殻内部の流体は直接採
明らかにすることで,鉱床の形成場に制約を与えることが
できます.研究テーマの例として,(1)スカルン鉱床形成
に伴う流体挙動の解明,(2)海底熱水系における生物活
動による元素濃集の評価,(3)未利用資源の資源化等が
挙げられます.
取することができないため,一般的には岩石中に保
存された「流体の化石」とも言える流体包有物が研
究対象となります.しかし,流体包有物はいつ包有
されたのか,またその流体の岩石との反応の有無
を知ることはできません.そこで,岩石中に存在す
る「流体のトレーサー」と言える非平衡組織である
「反応帯」と呼ばれる岩石組織を用いて,流体の挙
動を研究しています.この「反応帯」は流体と岩石が
沈み込み帯における地殻の進化
反応する過程を保存しているため,この「反応帯」を
日本の位置するようなプレートの沈み込みを伴うプレー
用いることで,その岩石が形成されたときの流体の
ト境界部は,火山や地震が頻発する場となります.これら
化学組成・流体量・流体の移動速度を導出すること
の現象において,沈み込むプレートと地球内部(地殻内
部)に運搬される水の振舞いが大きな役割を果たしてい
ます.そのため,沈み込むプレート(岩石)の時間的・空間
的変化,そして沈み込み帯における水の役割を理解する
ことが課題となっています.研究例として,(1)蛇紋岩の
形成プロセス,(2)蛇紋岩体に胚胎される交代岩中のジル
コン U-Pb 年代・Hf 同位体分析による形成場の推定,
(3)岩石学的および同位体化学的研究による沈み込み
深部におけるヒスイ輝石岩の形成メカニズム等がありま
す.
ができます.
ノントラディショナルな金属元素の同位体組成
を利用した資源・環境に関する研究
岩石の年代を知るには
2
海外では 1990 年代後半にセクター型の ICP-MS が導入
岩石の年代測定は資源探査においてのみだけで
なく地球科学分野において基本的情報として必要
不可欠です.近年でジルコンを用いた U-Pb 年代測
されるようになり,それまでより金属元素の同位体組成を
定法が使われています.若い年代(< 0.5 Ma)の岩
極微量でも精密に測定することができるようになってきまし
石には U-Th 年代が有効です.Re-Os 年代測定は
た.この結果,これまで明らかな差がないと考えられていた
硫化鉱物の年代を測定できることから,この数年,
鉱床地域の年代測定に適用されています.
元素の同位体組成の違いが知られるようになってきまし
た.特にこの数年では,モリブデンや亜鉛,鉄のような金属
の同位体元素の分析手法が確立されてきています.金属
元素の同位体を用いる利点は,従来の酸素や炭素といっ
た軽元素の同位体より重いため,異なる要因による二次
的,三次的な影響を受けにくいことにあります.また元素種
により,分別する要因が異なるため,各元素の同位体組成
を使い分けることで,鉱床形成環境場の物理・化学的条
件,環境変遷要因を詳細に特定・制約することができま
す.しかし,まだ分析手法の確立されていない元素,また,
物理・化学的条件により分別要因が異なる元素も多いた
極 地研 究所 での S HRI MP によ るジ ル コン UPb 年 代測 定
め,同位体分別とその要因を明らかにする基礎的研究も
必要とされています.現在行っている研究例として,(1)地
質試料における銀同位体分析の確立,(2)金・銀鉱床形成
場における鉄・亜鉛・銀同位体組成変化と分別要因等があ
ります.
ノントラディショナルな金属元素の同位体比測定
3
極微量の金属元素の同位体比の精密測定は,最
初にクリーンルームでの元素抽出を行い,その後,
セクター型の ICP-MS で同位体比の測定を行いま
す.
元素の分別と惑星の進化,そして隕石衝突に
よる影響
地球を含め惑星は最初,未分化の状態から元素が分別
することで形成されました.初期地球の形成プロセスを研
究することは元素の分別を知る基礎的研究となります.し
かし,現在の地球には初期地球の情報が残されていない
ため,地球と同様に分化し初期状態で進化が止まった小
惑星のサンプル(隕石)が研究対象となります.研究例とし
て,「Hf-W 年代測定による HED 隕石に記録されたイベン
ト」があります.
同 位体 希釈 法に よる 元素 の抽 出
略歴
研究手法
2005 年
熊本大学大学院卒業(理学博士)
2005 年-2008 年 産業技術総合研究所
地質調査,岩石記載,鉱物・岩石の化学組成を用いた従
来の岩岩石学,非平衡の熱力学を用いたモデリング,そし
て同位体化学的手法を組み合わせた手法を用いていま
す.また,研究を遂行する上で,必要に応じて,産業技術
総合研究所,極地研究所,スタンフォード大学等の日本国
内外の大学・研究機関と共同研究を行っています.
専門技術者
2008 年-2012 年 中央研究院 地球科学研究所
博士後研究学者
2012 年-現在
秋田大学 テニュアトラック助教
連絡先
[email protected]
天然多孔質材料(珪藻土及びゼオライト)の高度利用化と
環境に優しい有害生物駆除剤並びに放射能除染技術の開発
地球環境研究分野
講師 村上英樹
技術専門員 菊地良栄
秋田県の主要鉱産資源である天然多孔質材料(珪藻土並びにゼオライト)の高度利用化や、環境に優しい
有害生物駆除剤の開発(主にヤマビルが対象)を中心に研究を進めています。また、この有害生物駆除剤の
技術を応用して、福島第一原子力発電所の事故により、環境中に放出されてしまった放射性セシウムやスト
ロンチウムの農作物への移行(汚染影響)を最小化する研究も開始しています。
珪藻土は植物プランクトン由来の多孔質物質で、その強力な吸水力や軽量特性を活かして、主に食品の濾
過助剤や工業製品の充填剤等として使われています。当研究室では、この珪藻土の更なる高度利用化を目標
として、原子力施設災害時用放射線遮蔽材や低放射化コンクリートを開発しています。この他では、廃棄物
の資源化を目指し、珪藻土食品濾過助剤の使用後に発生する廃ケークと、稲作で排出される籾殻を原料とし
て、太陽電池の原料にもなり、アルミ精錬過程で大量に消費されている金属シリコンの作製も行っています。
また、近年、秋田県を始めとする全国 31 府県で問題化しているヤマビルによる吸血被害対策の一環として、
リンゴ酸等の無害な有機酸を基材とした有害生物駆除剤を開発し、環境に負荷を与えない駆除方法を確立し
ました。本研究で得られた知見は放射性セシウムやストロンチウムの土壌からの抽出にも応用でき、この手
法を用いれば、作物の生育に必要な粘土や有機物を除去することなく、農地の除染を行うことができます。
更に、珪藻土、ゼオライトや有機酸を活用して、低農薬・低肥料農業の実現を目指した研究も行っています。
key words 珪藻土、ゼオライト、放射線遮蔽材、低放射化コンクリート、シリコン、ヤマビル駆除剤、除染
原子力施設災害時用放射線遮蔽材並びに低放
射化コンクリートの開発
1999 年 に 茨 城 県 の JCO で 臨 界 事 故 が 発 生 し 、
大量の中性子線が周辺地域に放射されました。
中 性 子 は 電 気 を 持 た な い の で 、遮 蔽 す る に は 、
直接、運動エネルギーを奪わなければなりま
せん。中性子とほぼ同じ質量を持つのは水素
で、水素に衝突させることでのみ中性子を止
めることができます。この水素を多く持つ物
質は水であり、水の壁を造るのには珪藻土の
様な吸水性物質が役に立ちます。珪藻土は、
そ の 体 積 の 60~ 70%ま で 吸 水 す る こ と が で き
ます。また、非常に軽いので、緊急時でも、
一度にたくさん運ぶことができ、迅速な対応
が可能です。珪藻土を土嚢にして、現場で積
み重ねて、遠隔から放水するだけで中性子遮
蔽壁を構築できます。また、原子力災害では
ガンマ線も発生しますが、この遮蔽も可能で
す。ガンマ線の場合は、できるだけ電子を多
く持つ物質(重たい物質)を水に溶かし込ま
せ、中性子線遮蔽の時と同様に珪藻土に吸収
させます。珪藻土は耐熱性や断熱性も高く、
中性子線やガンマ線
重金属(ジルコニウム)の
溶液を放水。
珪藻土の土嚢
放射線源
最初に、重金属(ジルコニウム)の溶液を作業場近
くに設置した珪藻土に染み込ませて、消防隊員や
作業員の安全を確保。珪藻土は、強力な吸水力を
持ち、その体積の70%程度まで溶液を保持できる。
放射線源の周りに珪藻土を積上げ、遠隔から重金属
(ジルコニウム)の溶液を放水して染み込ませる。珪藻
土は、軽いので、一度に大量に運べる。又、耐熱性や
断熱性にも優れている。
図 1.珪 藻 土 に よ る 原 子 力 施 設 災 害 時 の 放 射 線 遮
蔽実施例
珪藻土は、非常に軽いので、空中からの散布
や大量輸送が可能。土嚢の様な形態で現場に設
置した後に、遠隔から溶液化したジルコニウム
の様な重金属やカルシウムを吸水させて、中性
子線やガンマ線を遮蔽する。
火災を伴う事故でも放射線遮蔽が可能です。
中性子が引き起こすもう一つの問題として、
物質の放射化があります。これは、中性子を
照射された物質が放射能を持ってしまう現象
です。放射化を防ぐには中性子を吸収する物
質が必要で、安価で代表的なものがホウ酸で
す( ホ ウ 酸 に 含 ま れ る ホ ウ 素 が 中 性 子 を 吸 収 )。
従って、一般的な放射線遮蔽材であるコンク
リートにホウ酸を添加できれば、その放射化
を防げるのですが、ホウ酸は酸性なのでコン
ク リ ー ト の 固 化 を 阻 害 し ま す 。当 研 究 室 で は 、
ホウ酸を珪藻土の細孔に吸着させ、更にパラ
フィンを充填することで、この問題を解決し
ました。ホウ酸含有パラフィン充填珪藻土を
骨材にしてコンクリートを作製した所、通常
の コ ン ク リ ー ト の 80%の 強 度 を 得 る こ と が で
きました。現在は、骨材の形状の工夫や、ア
ラミドや炭素繊維を添加することで、高強度
化の達成や靱性の付与を目指しています。
図 2. 珪 藻 土 と ゼ オ ラ イ ト を 骨 材 に し た 軽 量 低 放
射 化 放 射 線 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト ( 板 の 厚 さ は 5cm)
珪藻土の細孔にホウ酸を吸着させて、放射化
の原因となる熱中性子を吸収させる。更にパラ
フィンを充填することにより、中性子遮蔽性能
や骨材強度を向上させている。
廃棄物からの金属シリコンの作製
食 品 産 業 で 使 用 さ れ た 珪 藻 土 は 、そ の ほ と
ん ど が 埋 め 立 て 処 分 さ れ て い ま す 。こ の 廃 棄
珪 藻 土 は 、細 粒 の 二 酸 化 珪 素 物 質 に 有 機 物 が
充 填 さ れ た 状 態 に な っ て い て 、加 熱 を し た 際
に 効 率 良 く 還 元 反 応 が 進 み 、従 来 の 方 法 よ り
少ない電力で金属シリコンを作製できます。
本金属シリコンは鉄やアルミニウム等の不
純物を含みますが、これらはシリコン結晶間
の隙間を充填する形で析出していますので、
粉砕と磁選を組み合わせれば除去が可能です。
高純度部分
的な問題になっているため、その駆除方法を
開発しました。これまでにもヤマビル駆除剤
は開発されていますが、主成分が低毒性の
DEET( 一 般 的 な 害 虫 忌 避 剤 ) で あ る た め 、 妊
婦や子供への影響が懸念され、水源地等では
散布できないのが課題でした。本研究では、
駆除剤を安全な有機酸にして、薬液の粘性を
調整することで、効率的なヤマビルの駆除を
可能としました。現在、秋田県井川町、五城
目町、群馬県中之条町等で実証試験を行い、
平 成 24 年 度 中 の 商 品 化 を 目 指 し て い ま す 。
図 4.リ ン ゴ 酸 と カ ラ ギ ー ナ ン か ら 作 製 し た ヤ マ
ビル駆除剤の散布の様子(秋田県井川町にて)
セシウム及びストロンチウム除染技術の開発
福島第一原子力発電所の事故で放出された
セシウムやストロンチウムの農作物への移行
を抑えるために、低コスト・低環境負荷での
除 染 技 術 の 開 発 を 進 め て い ま す 。具 体 的 に は 、
植物が根から分泌する根酸と同等の有機酸で
農地土壌を洗浄して、予め植物が吸収し易い
放射性元素を除去します。常温での除染効果
は 不 十 分 で す が( 表 1)、加 熱 を す れ ば リ ン ゴ
酸 で も 90%以 上 の セ シ ウ ム の 回 収 が 可 能 で す 。
表 1
乾燥させた各土壌・鉱物からのセシウム抽
出率(添加したセシウムの回収率)
水
酢酸
酒石酸
リンゴ酸
クエン酸
コハク酸
1
フマル酸
2
マロン酸
不純物の多い部分
図 3.使 用 済 み 珪 藻 土( 食 品 濾 過 助 剤 )と 籾 殻 を
原料にして作製した金属シリコン
アーク炉による金属シリコン製造の様子と坩
堝から取り出した金属シリコン結晶。
環境に優しい有害生物駆除剤の開発
秋田県の資源の活用と直接の関係はありま
せんが、ヤマビルは秋田県を始めとして全国
乳酸
単位は%
水田土
黒 土
鹿沼土
ゼオライト
19.8
19.4
19.1
22.2
22.8
29.8
28.9
25.5
29.2
18.5
27.8
58.0
50.5
46.7
52.7
41.6
48.0
53.9
30.7
66.3
95.3
95.7
98.2
85.0
98.1
98.0
98.4
7.8
―
―
―
―
―
―
―
―
1:コハク酸 濃 度 は 3wt.%
2:フマル酸 濃 度 は 0.3wt.%
これら以 外 の有 機 酸 濃 度 は 5wt.%
―:検 出 限 界 以 下
珪藻土の高度利用化(公開準備中の技術)
1.珪 藻 土 の 農 業 資 材 へ の 展 開( 低 農 薬 、低 肥
料農業の達成や塩害対策)
2. 低 メ ン テ ナ ン ス 屋 上 緑 化 シ ス テ ム の 開 発
3. 珪 藻 土 融 雪 剤 の 開 発
民俗知に学ぶ環境と資源の技術
――地域と人間の自立に向けたサブシステンス論の試み――
資源循環型地域社会形成研究分野
研究スタッフ: 准教授 福留 高明
地域社会(農山漁 村、とりわけ過疎化・高齢 化が進んでいる中山間地域) とそこに暮らす人間の自立 に向け
て 、先人たちの民俗 知に学びつつ、新たなサブ システンス技術を創出すると ともに、その環境資源論的 および
労働存在論的意義について研究をおこなっています。
key word
サブシステンス:自己自身の独自な存在、自立と自存、自らの《生》に主体的にかかわること、生存のミニマム、自
給的暮らし…などを意味する概念
サブシステンス資源・サブシステンス技術・サブシステンス労働:生存のミニマムのために最小限必要かつ十分な資
源、およびそれを利用するための技術と労働のことを意味し、それぞれ資本主義的市場経済システムにおける産業資源
・産業技術・産業労働に対置される
民俗知:先人たちがつちかってきた伝統的な暮らしのチエとワザ
身体的主体性:自らの生命を維持するために環境に主体的に働きかけるための身体的能力
サブシステンス資源&技術のデータベース化
上記農山漁村を研究対象として、資源調査や聞き
うとしても、共同体全員の同意が得られなければそ
れを行使することはできません(多数決原理の否定、
書き調査などのフィールドワークにより、かつて自
全員一致の原則)。このことは、入会地には、自然
給的暮らしの中で利用されてきた生活資源およびロ
破壊を引き起こすような乱開発に自ずと歯止めをか
ーカルな技術を掘り起こし、それらのデータベース
ける仕組みが内在していることを意味します。また、
づくりをおこなっています。
2)入会地では地元の者以外の立ち入りを原則とし
て禁じており、無制限なアクセスにより資源の乱獲
や枯渇を防ぐ役割を果たしています。3)入会地を
利用するに当たっては、採取時期や採取方法を厳し
く制限しており、このことが資源の再生産を保証す
るための知恵となっています。4)他者との競合の
回避、資源配分の公平性および社会的弱者の生存権
を保証するためのさまざまな約束ごとが取り決めら
れています。
入会山のトメヤマ慣行(男鹿半島真山郷集落)
環境資源管理における入会制度の社会的機能
江戸期にムラ共同体が入会地(いりあいち)として
対象樹木・本数の打ち合わせ
しるし入れ
利用していた共有林野は明治政府によってことごと
く強制収用され、用材・薪・刈敷肥・萱・山菜など
の採取地としてそこに依拠してきた人びとは生活の
基盤を失ってしまいました。今日においてはわずか
一部だけが「財産区有林野」というかたちで残され
くじ引き
伐採
萌芽更新
命脈を保っています。(所有権と処分権は自治体に
奪われ、地上権だけが地元の共同体に残された。)
新たなサブシステンス技術の創出
入会地には環境資源論的にみて注目すべき慣習的
循環型社会においては、屎尿・生活雑排水・生ゴ
ルール(入会制度)が備わっています。1)そのひ
ミのような汚物を、じゃまものとして処分するとい
とつが処分に関しての意志決定法です。たとえば、
う発想ではなく、有用な資源として利用するという
自治体が当該土地を公共事業で私企業等に売却しよ
発想がもとめられています。たとえば、日本全体で
毎日排泄される屎尿は、元素換算すると窒素700ト
基底にある論理構造に対照的な差がみとめられま
ン、リン60トン、カリウム270トンというかなりの
す。現代人の“もったいない”はどちらかといえば
資源量になります。もしこれらを完全に回収するこ
「使うのはもったいない」であるのに対し、先人た
とができれば、化学肥料はもちろん他の有機肥料す
ちのそれは「使わないのはもったいない」といえま
ら不用となるはずです。当研究室では、一般家庭で
す。たとえば、縄文期遺跡から出土する食物遺骸の
も設置可能な「ホーム自立型屎尿資源化システム」
驚くべき多様さは、縄文人が「すべての存在に分け
をめざした実験をおこなっています。福留(2006)
隔てのない平等の価値を認めよう」という姿勢(機
能平等主義)に立っていたことを物語ります。総じ
伝統的サブシステンス技術の労働存在論的意義
て、先人たちの思考論理から必然的に導かれる結論
人はなぜ釣りや山菜採りなどに興ずるのでしょう
は、「無価値と思われているものの中にこそすぐれ
か? 現代の分業化・専業化した労働の世界の中で
た有用性が潜在している可能性がある」というもの
は、《生》のトータリティや労働のトータリティを
であり、私たち現代人の資源観に再考を迫る内容を
充たすことはできません。すると、人間はそれを労
もっています。福留(2011)
働の外の世界で補おうとします。そのかたちこそが
釣りや山菜採りなのです。つまり、専業化社会・産
今も息づく先人たちの“もったいない”文化
(男鹿半島畠集落)
業労働が発展すればするほど、狩猟・採集や農耕と
いった人間の《生》にとってもっとも本源的な活動
が非労働領域の中に、釣り・山菜採りや日曜菜園と
いった余暇活動のかたちで拡がってゆく――すなわ
ヨロギ(漂着木
)とシメ(占有標)
ヨロギ(漂着木)とシメ(占有標)
集めたヨロギを背負って…
集めたヨロギを背負って…
貴重な燃料資源に…
貴重な燃料資源に…
他の寄りもの(網・ベジ・モクなど)や
芝草も海辺の集落では貴重な生活資源
ち、疑似労働体験による代償的充足が人びとの精神
の中に普遍化することになるのです。伝統的サブシ
ステンス技術のもつ意味をこのような観点からも見
直してみる必要があるのではないかと考えていま
す。福留(2007)
身体的主体性の回復
“ワーキングツーリズム”の提唱
《身体的主体性》とは、意識性に基づけられた主
日本経済はいま転換期を迎えています。中国など
体性(自我的主体性)に対しての、身体的能力とし
の台頭により、輸出産業は国際競争力を急速に失い
ての主体性――すなわち、自らの生命を維持するこ
つつあり、遠くない将来、完全失業率は30%に達す
とのために主体が環境自然に対して働きかける身体
る可能性があります。この雇用危機を回避するには、
的能力――のことをいいます。近代以降、自我的主
国民全体での平等なワークシェアリングしかありま
体性が強化され肥大化してきた一方で、すべての生
せん。すなわち、ミクロ経済において、7割は従来
きものたちがもっており、本来人間にも同等に備わ
通りの産業労働に従事しつつ、残りの3割について
っていたはずの《身体的主体性》は著しく弱化の一
はサブシステンス労働に求めるというやり方です。
途をたどってきました。失われつつある身体性を賦
このサブシステンス労働の舞台となるのが中山間
活させ、自然との根源的な結びつきの復活を図るの
地域などの過疎地です。そこには田畑・山林などの
みならず、今日の環境資源問題を考える上でも、環
環境資源が放置され眠ったままになっています。そ
境自然との互いの生死をかけたかかわり合いを避け
こでの半定住的暮らしは、自らの生活(3割自給)
られないサブシステンス労働の役割に注目していま
に資するためのみならず、中山間地域がかかえる諸
す。福留(2009)
問題(農林漁業および民俗知の継承者不在、耕作放
棄地、里山荒廃、国土保全上の公益的機能の低下)
先人たちの“もったいない”文化に学ぶ
を解決すべく、そこに再びいのちを吹き込む新たな
現代人と先人たちとの間で、資源観に何か違いが
担い手としての役割を果たすことが期待されます。
あるのでしょうか? 古くは縄文人にさかのぼり、
私は、このような農都間の新たな関係性を創出する
江戸期の百姓、北米先住民、あるいはつい半世紀ほ
ための仕掛けを「ワーキングツーリズム」(過疎地
ど前の戦前世代の人たちと現代人との資源文化論的
域への“出稼ぎ”ツアー)とよび、実現に向けた具
比較をおこなってみると、“もったいない”思考の
体的方策を提案しています。福留(2008)
ナノスケール磁気イメージング手法の開発と
先端磁性材料・磁気デバイスの評価に関する研究
生物・工学融合研究分野
研究スタッフ: 教授 齊藤
準
概要
先 端 磁 性 材 料・磁 気 デ バ イ ス 等 の 研 究 開 発 に 資 す る ナ ノ ス ケ ー ル で の 磁 気 特 性・磁 気 物 性 の 評
価 を 可 能 と す る 、走 査 型 プ ロ ー ブ 顕 微 鏡 を ベ ー ス と し た 新 規 な ナ ノ ス ケ ー ル 磁 気 イ メ ー ジ ン グ 手
法 の 開 発( 磁 場 セ ン サ ー で あ る 種 々 の 磁 性 探 針 の 開 発 も 含 む )及 び 、そ の 先 端 材 料・デ バ イ ス 評
価 へ の 応 用 に 係 わ る 研 究 を 、国 内 企 業 お よ び 国 内 外 の 教 育 研 究 機 関 と の 連 携 に よ り 実 施 し て い る 。
近 年 の 成 果 と し て 、従 来 は 困 難 で あ っ た 、1 )試 料 面 に 垂 直 方 向 と 面 内 方 向 の 磁 場 を 同 時 計 測 可
能 な 2 次 元 ベ ク ト ル 磁 場 検 出・磁 気 力 顕 微 鏡 、2 )広 帯 域 の 交 流 磁 場 の 強 度 と 極 性 を 同 時 計 測 可
能 な 交 流 磁 場 検 出・磁 気 力 顕 微 鏡 、3 )試 料 表 面 近 傍 で の 直 流 磁 場 の 強 度 と 方 向 を 同 時 計 測 可 能
な近接場・磁気力顕微鏡、の開発とその先端磁性材料・磁気デバイス評価への応用がある。
key words
ナノスケール磁気イメージング、磁気力顕微鏡、先端磁性材料、磁気ストレージデバイス
環境資源学に対する貢献
先 端 磁 性 材 料・磁 気 デ バ イ ス の 特 性 向 上 に 必 要 不 可 欠 な 希 土 類 元 素 や 貴 金 属 元 素 等 の 希 少 金 属
は 、地 域 的 偏 在 に よ り 近 年 、入 手 が 困 難 に な っ て き て い る 。本 研 究 は 、先 端 磁 性 材 料 ・磁 気 デ バ
イスの構造や機能性に希少金属が及ぼす効果を微視的スケールで明らかにできる計測技術を開
発 す る も の で あ り 、磁 性 材 料・磁 気 デ バ イ ス の 研 究 開 発 を 加 速 し 、ひ い て は 希 少 金 属 の 使 用 量 を
削減するものである。
以下では、上記の概要で述べた三つの計測手法について紹介する。
高機能材料を用いた高性能磁気記録デバイスに関する研究
―規則原子配列を有する高機能磁性体の高品位・低温形成―
生物・工学融合研究分野
研究スタッフ:
准教授
吉村
哲
次世代の磁気記録デバイスの記録再生素子やメモリ素子に用いることが有用な、新規な高機能磁性体の開
発およびその薄膜の高品位作製プロセスに関する検討を行っている。高スピン分極率・低飽和磁化・高磁気
緩和定数、などの物性を有し、本素子に求められる特性:小さなスピン注入磁化反転電流・大きな磁気共鳴
周波数、を実現し得る、L21 型規則構造を有する Fe2(Mn,Cr)Si フルホイスラー合金を開発し、その合金薄膜
の形成において、高周波プラズマを照射しながら成膜する手法を新たに用いたことで、高い L21 規則度の
Fe2(Mn,Cr)Si 薄膜を、生産プロセスに適用可能な温度で表面平坦に作製することに成功した。
key words 強磁性規則合金、VHF プラズマ照射、磁気記録デバイス
研究の目的
大容量記録・高速記録再生などの特長を有
す る ハ ー ド デ ィ ス ク ド ラ イ ブ( HDD)や 磁 気
ラ ン ダ ム ア ク セ ス メ モ リ( MRAM)は 、情 報
化社会の発展に大きく寄与している。これら
のデバイスには、今後も更なる高性能化が要
求されており、エネルギーアシスト記録方式
や磁化の電流駆動方式などの新たな機能を有
する素子を付与することが必須となっている。
これらの素子を実現するためには、高い機能
性を有する材料の開発、およびその高機能材
料薄膜の高品位合成プロセスの実現が必要不
可欠である。本研究では、3~4元素が規則
的に配列フルホイスラー合金に着目し、エネ
ルギーアシスト記録方式や磁化の電流駆動方
式に適した物性を有する合金を、エネルギー
バンド計算を行うことで新規に開発すること
を第一の目的、そしてそれを用いた素子用の
実用化を念頭に、生産プロセスに適合可能な
温度でフルホイスラー合金薄膜を高品位(高
規則化・表面平坦化)に合成する成膜プロセ
スを確立することを第二の目的とした。
主な成果
1)高機能フルホイスラー合金の開発
図1に、エネルギーバンド計算により得ら
れ た 、 L 2 1 構 造 を 有 す る Fe 2 (Mn 0.5 Cr 0.5 )Si フ
ルホイスラー合金の状態密度曲線を示す。点
線 は マ ジ ョ リ テ ィ ー で あ る “上 向 き ス ピ ン ”、
実 線 は マ イ ノ リ テ ィ ー で あ る “下 向 き ス ピ ン ”
の状態密度を、それぞれ示す。ここで、電気
伝導に寄与するエネルギーレベル:フェルミ
準 位 を 、 横 軸 の 0 と し て い る 。
Fe 2 (Mn 0.5 Cr 0.5 )Si 合 金 は 、 フ ェ ル ミ 準 位 に お
ける下向きスピンの状態密度が0であるので、
伝 導 電 子 の ス ピ ン 分 極 率 は ほ ぼ 100%と な る
と期待される。これは現在広く使用されてい
る Co 2 MnSi フ ル ホ イ ス ラ ー 合 金 の 場 合 と 同
様 で あ る 。 し か し な が ら 、 Fe 2 (Mn 0.5 Cr 0.5 )Si
合 金 の 場 合 は 、Co 2 MnSi 合 金 の 場 合 と 比 較 し
て、下向きスピンの状態密度のギャップのほ
ぼ中心にフェルミ準位が位置することから、
温度上昇に伴うスピン分極率の低下が抑制さ
れ る こ と が 期 待 さ れ る 。 さ ら に 、
Fe 2 (Mn 0.5 Cr 0.5 )Si 合 金 の 場 合 は 、Co 2 MnSi 合
金の場合と比較して、上向きスピンの状態密
度がフェルミ準位において極めて高いことか
ら、高い磁気緩和定数を有することが期待さ
れ る 。 ま た 、 Fe 2 (Mn 0.5 Cr 0.5 )Si 合 金 に お け る
Fig.1
Total density of states (DOS) for
Fe 2 (Mn 0 . 5 Cr 0 . 5 )Si with an L2 1 structure. The
Fermi level is shown by a vertical line, and the
dashed and solid curves represent the
majority-spin
and
minority-spin
band,
respectively.
2)フルホイスラー合金薄膜の高品位合成
Fe 2 (Mn,Cr)Si フ ル ホ イ ス ラ ー 薄 膜 は 、
MgO(100)単 結 晶 基 板 上 に 図 2 の 模 式 図 に 示
す積層膜作製用超高真空スパッタリング装置
を用いて室温で成膜した。本装置では成膜時
に 基 板 側 に VHF( 40.68 MHz)プ ラ ズ マ を 照
射する機構を備えており、成膜中における基
板表面の原子に、イオン衝撃によりエネルギ
ーを与えることが可能である。
図3に、種々の温度で熱処理された
Fe-Mn-Cr-Si 薄 膜 の 室 温 で の 飽 和 磁 化 に お け
る VHF プ ラ ズ マ 照 射 電 力 依 存 性 を 示 す 。 熱
酸 化 膜 付 き Si 基 板 上 に 成 膜 し た
Fe-Mn-Cr-Si 薄 膜 の 飽 和 磁 化 値 も 合 わ せ て 示
す。エネルギーバンド計算から見積もられる
L 2 1 -Fe 2 (Mn 0.6 Cr 0.4 )Si の 飽 和 磁 化 値 は 525
emu/cm 3 で あ り 、 全 く 規 則 化 し て い な い
Fe-Mn-Cr-Si 薄 膜 の 飽 和 磁 化 は 0 emu/cm 3 で
あ る 。 熱 酸 化 膜 付 き Si 基 板 上 に 成 膜 し た
Fe-Mn-Cr-Si 薄 膜 は 非 晶 質 で あ り 、 そ の 飽 和
磁 化 は 0 emu/cm 3 で あ っ た 。 MgO(100)単 結
晶 基 板 上 に 成 膜 し た Fe-Mn-Cr-Si 薄 膜 に お い
て 、VHF プ ラ ズ マ 照 射 を 行 わ な い 場 合 、熱 処
理 温 度 の 増 大 に 伴 い 、 飽 和 磁 化 が 180
emu/cm 3 か ら 480 emu/cm 3 へ と 増 大 し た 。一
方 で 、 成 膜 中 に VHF プ ラ ズ マ 照 射 を 施 し た
Fe-Mn-Cr-Si 薄 膜 に お い て は 、 10 W ま で の
40.68 MHz
Heater
120mm
Target
13.56 MHz
Plasma
~
~
10rpm
Substrate
Substrate
Heater
Sputtered
atoms
Ar+
Plasma
Target
Fig.2
Schematic images of UHV sputtering
chamber with DC, RF, and VHF plasma source
and VHF plasma irradiation process to the film
during RF sputter deposition.
600
3
Ms (emu/cm )
本曲線から計算される磁気モーメントの大き
さ は 2.49 μ B /f.u.で あ り 、見 込 ま れ る 飽 和 磁 化
は 500 emu/cm 3 と な り 、 Co 2 MnSi 合 金 の 半
分以下である。よって、高いスピン分極率か
つ低い飽和磁化、高い磁気緩和定数を有する
Fe 2 (Mn 0.5 Cr 0.5 )Si 合 金 は 、 小 さ な ス ピ ン 注 入
磁化反転電流、大きな磁気共鳴周波数、を満
足しなければならない次世代磁気記録デバイ
スの記録再生素子やメモリ素子に適した材料
であると言える。
400
200
0
0
L21 structure
Ta : 500 ℃
Ta : 400 ℃
Ta : 300 ℃
w/o Ta
w/o Ta (on Si substrate)
5
10
15
20
VHF bias power (W)
Fig.3
The dependence of the M s of
Fe 2 (Mn 0 . 6 Cr 0 . 4 )Si film on the VHF plasma
irradiation power (P bias ) with various thermal
treatment temperature (T a ) after deposition.
増大において、飽和磁化値が増大する傾向が
見 ら れ 、熱 処 理 温 度 が 300 ℃ の Fe-Mn-Cr-Si
薄 膜 に お い て は 、VHF プ ラ ズ マ 照 射 を 施 す こ
と に よ り 、 飽 和 磁 化 値 が 270 emu/cm 3 か ら
450 emu/cm 3 へ と 増 大 し た 。 こ の こ と は 、
VHF プ ラ ズ マ 照 射 成 膜 は 、低 い 熱 処 理 温 度 で
も規則化を促進させる働きがあることを意味
している。これは、規則化に必要なエネルギ
ーを、熱のみならず弱いイオン衝撃によって
も与えたためであると推察される。しかしな
が ら 、 更 な る VHF プ ラ ズ マ 照 射 電 力 の 増 大
においては、飽和磁化値が減少する傾向が見
られた。これは、高いイオン衝撃エネルギー
により、規則構造が破壊されたためであると
考えられる。以上のことから、適度な電力で
の VHF プ ラ ズ マ 照 射 成 膜 は 、 規 則 合 金 薄 膜
の低温規則化・表面平坦化に有効なプロセス
であること言える。
尚 、 本 手 法 は 、 L10 構 造 を 有 す る 高 磁 気 異
方 性 FePt 合 金 薄 膜 、 ペ ロ ブ ス カ イ ト 構 造 を
有する強磁性・強誘電の酸化物薄膜、ウルツ
鉱型構造を有する常誘電のアルミ窒化物薄膜、
などの高機能材料薄膜の低温・高品位合成に
も有用であることを確認しており、新しい高
性 能 電 子 デ バ イ ス・素 子 の 創 製 が 期 待 さ れ る 。
また本手法を、ナノスケールでの磁区構造観
察が可能な走査型プローブ顕微鏡用の、種々
の高機能磁性探針の開発にも展開している。
環境資源学に対する貢献
新規な高機能材料の開発、および生産プロ
セスに適用可能な温度での高品位薄膜形成、
が容易になると、希少元素の代替材料、およ
びそれを用いた高性能デバイス、の創製が可
能になり、資源問題の解決にも大きく寄与す
ることが期待される。
無機材料プロセッシング手法を用いた環境資源学への対応
- 環境保全・改善に役立つ新規機能材料の創製 -
環境調和型材料プロセス研究分野
(メンバー)教授
林
林グループ
滋生,技術職員
環境資源学における材料工学の役割
加賀谷
史
「環境浄化モジュール」の創製
材料工学は昨今,科学技術において,情報通
環境問題は昨今,様々に多様化・複雑化して
信・機械・生体・環境などとともに重要視され
いますが,排気・廃水中の有害物質による環境
ている分野の一つですが,その意味する所とは,
汚染は,極めてベーシックなものでありながら,
「物質を適切に空間内に配置することによっ
未だに後を絶たないのが現状です。
て,求められる性能を引き出すこと」に他なり
有害物質の除去による環境浄化には様々な
ません。マクロ~ミクロにわたる幅広いサイズ
手段がありますが,吸着剤の使用は,その代表
の領域において,様々な性質を有する物質を多
的なものの一つです。環境浄化に用いられる吸
様に配置し,また組み合わせることで,用途に
着剤は,できるだけ高効率で利用することが望
応じた諸性質を引き出すのが材料工学です。
ましいのですが,そのためには,吸着剤の「形
私たちのグループでは,環境資源学研究セン
態」が重要になってくると考えられます。吸着
ターの研究理念を背景とし,無機材料(セラミ
効率を一番に考えると,比表面積(単位重さあ
ックス)を対象として,材料作製プロセスにお
たりの表面積)が最も大きい「粉末」が良いの
いて用いられる様々な手法を用いて多様な「組
ですが,粉末を環境中に散布すれば,回収が難
織・形態」を作り出すことにより,環境の保全・
しく,新たな汚染源にもなってしまいます。反
改善に役立つ新たな機能を有する材料を創製
対に,大きな「ブロック(塊)」状のものを用
する研究を行っています(図 1)。特に,天然
いれば,取扱いは容易になりますが,表面しか
物質の機能を材料として有効に生かすことを
吸着作用を示さないため,高効率を望むことは
意識して,様々な検討を進めています。
難しくなってしまいます。
図1 研究の大方針
図 2 環境浄化モジュール概念図
こうしたことから,高効率な吸着剤としては,
とし,電気泳動堆積法によって,どのような条
比表面積が大きく,水や空気の流通性に優れた
件で有効に基材表面へ粉末の堆積を起こさせ
形状を有することが望ましいと考えられます。
ることができるか,また,堆積した粉末をどの
イメージとしては,比較的大きな多数の貫通孔
ように固定化すれば良いか,固定化した粉末に
が開いた一体型の吸着剤や,棒状や板状の形状
よる有害物質の吸着はどの様に起こるかとい
の吸着剤を,一定の間隔を開けて束ねた構造で
った点において,多角的に検討を行っています。
す。私たちは,こうした構造を有する吸着剤起
源の構造体を,「高効率物質吸着モジュール」
,
ジオポリマー法による天然ゼオライト粉末固
あるいは用途に応じて「環境浄化モジュール」
化体の作製
等と呼んでいます(図 2)。この様な構造体を
ジオポリマー法とは,アルカリ環境下での無
作製するためにはどのような工程が望ましい
機高分子の重合反応を利用して,原料粉末粒子
か,セラミックス作製プロセスに用いられる
を結合し,建材などに使用できる固化体を作る
様々な手法を対象として,研究を行っています。
手法です(図 4)。フランス人の化学エンジニ
ア Joseph Davidovits 博士によって提唱され,
電気泳動堆積(EPD)法による天然ゼオライト
同氏によって,エジプトのピラミッドがこの方
粉末の堆積と固定化
法によって作られた「人工石」から作られたと
電気泳動堆積法とは,液体中に分散した粉末
いう説が唱えられています。現代においても,
粒子に直流電界を加えて電気泳動させ,電極
比較的短時間で高強度材料が得られることや,
(基板)に膜状に堆積させる方法です(図 3)。
ポルトランドセメントと比べて,製造時の CO2
粉末原料を用いたセラミックス(無機材料)厚
の発生を大きく抑えることができるため,環境
膜の作製方法として,様々な応用を目指した研
に優しい建築材料して着目されています。
究が進められています。
工学分野においてユニークな存在であるジ
電極基板を支持体とし,吸着剤の粉末を表面
オポリマー法ですが,比較的低い温度(室温~
に堆積・固定化させることにより,環境浄化モ
50℃前後)で粉末固化体を作ることができる
ジュールにふさわしい形態の材料が作り出せ
ので,熱に弱いゼオライト粉末の固化体作製や,
ると期待できます。本研究では,秋田県産天然
基材への固定化に利用できるのではないかと
ゼオライト(クリノプチロライト)粉末を原料
考え,研究を進めています。
図 3 電気泳動堆積法概念図
図 4 ジオポリマー法概念図
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