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平成 21 年度 組織的な大学院教育改革推進プログラム採択事業 「ART
平成 21 年度 組織的な大学院教育改革推進プログラム採択事業 「ART プログラムによる医学研究者育成」 平成 21-23 年度 ユニット研究報告書 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 平成 21 年度選定 組織的な大学院教育革新推進プログラム ARTプログラムによる医学研究者育成 ~学部・卒後研修をシームレスにつなぐ早期大学院教育~ 大学院の早期教育と臨床研修との両立を目指す ART プログラム(Advanced Research Training program 先進医学修練プログラム)は、医学・ 医療分野の人材育成のプログラムです。 その特徴は ①早期大学院教育、②卒後臨床研修と大学院の両立、③大学院を学部教育や女性 支援と連結、④自然科学系との異分野融合、⑤若手をリーダーとする研究体制により人材育成す るなどです。岡山大学が厚生労働省との緊密な連絡を基に開発し、岡山大学において開始しまし た。平成 21 年度大学院教育改革プログラムに採択され、日本の医学研究者育成の National Standard となることを目指して推進しています。 医学・医療分野の人材育成の現状と問題点 日本における医学・医療の人材育成の特徴は研究と医療実践とが常に表裏一体となってきたこ とです。多くの医師たちは臨床研修の後、大学院において研究を経験します。これにより日本の 医師は単なる医療の実践者であるだけでなく Physician Scientist(研究医)の経験を積み、医学 と医療の進歩に貢献できる優れた資質を身につけることができました。この点が米国などと異な る日本の大きな特徴であり、優れた点です。この制度によって日本は医学研究者の広いすそ野を 持つことになり、素晴らしい研究成果をあげてきました。ところが、平成 16 年から始まった卒後 臨床研修の義務化と全国マッチングは大学から大規模な若手人材の流出を引き起こしました。そ の結果、医学系大学院は若手人材を失い、研究力の低下を招きました。このことは大学の医師派 遣機能の低下も誘発しました。これらの反省に基づき、平成 23 年度から制度の見直し、変更が実 施されました。 岡山大学はこの変更を先取りする形で、ART プログラムを掲げ医学研究の活性化と人材育成に 取り組んできました。 ARTプログラムの内容と学年進行 ARTプログラムでは卒後研修と同時に大学院博士課程を開始します。早期履修(Pre-ART) 、早 期修了、奨学金、女性支援制度を設け、臨床研修との両立や出産育児後もスムースに大学院復帰 できるようにしています。従来に比べ、学位取得までの期間を2〜3年短縮できます。ART大学院 生には授業料相当分の奨学金を大学独自に支給します。 1 図.ART プログラムの学年進行(従来の制度との比較) 成果と波及効果 過去 3 年間で 22 名が ART プログラムを利用して大学院に進学し、Pre-ART の医学部生はのべ 81 人に達しました。同時に岡山大学病院の研修希望者が約 3 倍になり、フルマッチを達成しまし た。また、ART セミナーを 28 回開催し、著名な研究者による最新の研究、ART 大学院生、Pre-ART 学生による研究成果が披露されました。さらに、国際シンポジウムを、平成 21 年度は直島・ベネ ッセアートサイトにて、22 年度は岡山後楽園・鶴鳴館にて、集大成となる 23 年度は牛窓・ホテ ルリマーニにて、いずれも成功裏に開催しました。助教、ポスドクをリーダーとし、数人の ART 大学院生からなるユニット研究制により機動的な研究推進と人材育成が実現しています。 岡山大学で開催したセミナー等だけでなく、国立大学医学部長会議にて文部科学省より岡山大 学 ART プログラムが医学研究者育成のモデルとして紹介されました。群馬大学、熊本大学など多 数の大学院 FD に招へいされ、ART プログラムによる人材育成について紹介しました。全国の大 学から多数の問い合わせがあり、多くの大学で ART プログラムの実施計画が進んでいるようです。 したがって、本プログラムは医学研究人材育成のモデルとして認められ、当初からの目的である National Standard になりつつあると考えています。 ART プログラム代表 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・教授 松井 秀樹 2 ARTプログラムによる医学研究者育成 ~ユニット型システムの活用~ ユニット研究の実践 ART プログラムでは研究を遂行するために、ユニット型システムを活用している。このシステ ムは、平成 19 年度採択の大学院教育改革プログラム「ユニット教育による国際保健実践人材育成」 によって確立されたシステムであり、ART プログラムではこの成果を全面的に取り入れ、その発 展型として大きな成果を挙げている。 特徴として、学生はユニット・リーダー(ポスドク、助教)と共に課題立案、研究遂行するこ とにより、実験企画力と研究の管理能力を身につける。さらにプロジェクト・スーパーバイザー (教授、准教授)が定期的にユニット・リーダーや大学院生と教育・研究の進展状況に関するミ ーティングを行い、指導助言する。また、毎年開催される ART シンポジウムによりプロジェクト の進行をチェックし共有している。大学院生に対しきめ細かい教育と研究指導が可能になるだけ でなく、研究リーダーとしての若手育成も実現できる。従来の教授・准教授を中心としたヒエラ ルヒーの中で教育を行うのではなく、若手教員やポスドクを中心とした屋根瓦方式の教育指導を 実施している。 図.ART プログラムの研究ユニット 図.ART プログラムによる人材育成と支援体制 3 ユニット研究報告 以下に示すように、平成 21 年度は 6 ユニット、平成 22 年度は 10 ユニット、平成 23 年度は 9 ユニットがユニット研究に取り組んだ。平成 21~23 年度全体を通して、計 25 ユニットの複数専 攻分野による研究が実施された。 平成 21 年度(6 ユニット) 分 野 ユニット・ リーダー プロジェクト・ スーパーバイザー 細胞生理学 森亜希子 松井秀樹 生化学 田邊賢司 竹居孝二 片岡仁美 四方賢一 槇野博史 がん化・ウィルス感染における細胞内輸送の分子 選別機構 糖尿病患者血液中単球の活性化状態解析とスタ チンの抗炎症効果の検討 松川昭博 松川昭博 炎症の病理学的・分子病理学的研究 システム生理学 片野坂友紀 成瀬恵治 異分野融合先端 研究コア 佐藤あやの 佐藤あやの 腎・免疫・内分 泌代謝内科学 病理学 (免疫病理) ユニット研究名 中性子捕捉療法に用いる新規腫瘍治療薬の開発 生体機械受容システムの生理的意義の解明と病 態発症への役割 進行性ミクローヌス、ラフォラ病原因遺伝子ラフ ォリン脱リン酸化酵素による細胞内輸送制御機 構の探索 平成 22 年度(10 ユニット) 分 野 ユニット・ リーダー プロジェクト・ スーパーバイザー 細胞生理学 森亜希子 松井秀樹 生化学 田邊賢司 竹居孝二 片岡仁美 四方賢一 槇野博史 がん化・ウィルス感染における細胞内輸送の分子 選別機構 糖尿病患者血液中単球の活性化状態解析とスタ チンの抗炎症効果の検討 松川昭博 松川昭博 炎症の病理学的・分子病理学的研究 システム生理学 片野坂友紀 成瀬恵治 異分野融合先端 研究コア 佐藤あやの 佐藤あやの 細胞生理学 松井秀樹 松井秀樹 細胞生理学 道上宏之 松井秀樹 細胞生理学 西木禎一 松井秀樹 脳内オキシトシンの新規作用の解明 腎・免疫・内分 泌代謝内科学 大塚文男 槇野博史 内分泌調節機構における成長因子の作用メカニ ズムに着目した基礎研究 腎・免疫・内分 泌代謝内科学 病理学 (免疫病理) ユニット研究名 中性子捕捉療法に用いる新規腫瘍治療薬の開発 生体機械受容システムの生理的意義の解明と病 態発症への役割 進行性ミクローヌス、ラフォラ病原因遺伝子ラフ ォリン脱リン酸化酵素のS-ニトロシル化修飾と 神経封入体形成におけるS-ニトロシル化の機能 解析 悪性脳腫瘍幹細胞の細胞遊走における微小管お よび関連タンパク質の関与についての解析 グリオーマ細胞に対する細胞膜透過型p53C末端 ペプチドの抗腫瘍効果の検討とそのメカニズム について 4 平成 23 年度(9 ユニット) 分 野 ユニット・ リーダー プロジェクト・ スーパーバイザー 細胞生理学 森亜希子 松井秀樹 生化学 田邊賢司 竹居孝二 片岡仁美 四方賢一 槇野博史 細胞のがん化・ウィルス感染における細胞内輸送 の分子選別機構 糖尿病患者血液中単球の活性化状態解析とスタ チンの抗炎症効果の検討 松川昭博 松川昭博 炎症の病理学的・分子病理学的研究 システム生理学 片野坂友紀 成瀬恵治 医用生命工学 佐藤あやの 佐藤あやの 細胞生理学 松井秀樹 松井秀樹 細胞生理学 道上宏之 松井秀樹 細胞生理学 西木禎一 松井秀樹 腎・免疫・内分 泌代謝内科学 病理学 (免疫病理) ユニット研究名 中性子捕捉療法に用いる新規腫瘍治療薬の開発 生体機械受容システムの生理的意義の解明と病 態発症への役割 iPS細胞を利用したがん幹細胞様細胞集団の誘 導法の確立 悪性脳腫瘍幹細胞の細胞遊走における微小管お よび関連タンパク質の関与についての解析 グリオーマ細胞に対する細胞膜透過型p53C末端 ペプチドの抗腫瘍効果の検討とそのメカニズム について 脳内オキシトシンの新規作用の解明 5 平成 21 年度 ユニット研究報告書 1 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・細胞生理学 スーパーバイザー ユニット・ リーダー 森亜希子 ユニット学生 細胞生理学・32422002・秋田直樹 ユニット研究名 中性子捕捉療法に用いる新規腫瘍治療薬の開発 ~中性子捕捉療法へ応用する高効率導入型ホウ素製剤の開発~ 松井秀樹 研究計画 【研究背景】 様々ながん治療法の中で、近年、放射線治療の進歩は目覚ましく、その重要性は高くな っている。特に、定位放射線治療では、医療機器の発達に伴い正確に腫瘍及び腫瘍辺縁 に照射することができ、周囲組織に影響を与えない治療が可能である。しかし、悪性脳 腫瘍などの浸潤性のがんは、腫瘍部/正常部の境界が不明瞭でイメージングが難しく、 全てのがん細胞を標的化し死滅させることは依然として不可能であり、局所再発の大き な要因とされており、現在の問題点である。 放射線治療の一種として、ドラックデリバリーシステム(DDS)を応用したホウ素中 性子捕捉療法(Boron neutron capture therapy; BNCT))が注目されている。BNCT は 、ホウ素製剤を予めがん細胞に取り込ませ、その後、中性子線を照射することによりホ ウ素(10B)から発生する高エネルギー線を利用してがん細胞のみを選択的に死滅させる 方法である。BNCT の成立には、いかに高効率に高濃度の 10B をがん細胞のみに選択的 に取り込ませるかが鍵となる。しかし、現在臨床研究で使用されているホウ素化合物 BPA 、BSH は目的がん細胞のみに薬物送達できるターゲティング能が低いため、 10B の細胞 内集積に限界がある。BNCT 向けのホウ素製剤としての条件を完全に満たす製剤は現在 のところ存在していない。 【研究目的および計画】 そこで本研究では、生体構成成分であるリン脂質を主成分とする脂質二分子膜からな り、 低毒性で DDS にも用いられている liposome を 10B を送達する Cargo として利用し、 この BNCT に応用する高効率導入型の新規ホウ素製剤の開発を行うことを目的とする。 さらに、この新規製剤が脳腫瘍などの難治がんに対する BNCT に有効である事を細胞レ ベル、および腫瘍モデルマウスを用いて実証する。 研究報告 1) 新規ターゲット型liposomeの設計・合成 本研究では、腫瘍部位に特徴的に発現している細胞表面抗原やレセプターを利用した腫 瘍特異的ターゲッティング型のホウ素キャリアとしての新規liposome製剤を設計・合成し 、腫瘍標的を試みる。これによりターゲットとしない正常組織へのダメージや副作用とい う問題点を解決する。ニッケル(Ni)を含む種々の脂質成分を混合し合成したliposomeに、 ホウ素のイオン集合体BSH (Na2B12H11SH)を内包させた。続いて、その表面の抗体結合部 位としてHis-tag付きのプロテインA結合モチーフ(ZZ)を修飾し、このZZ“モジュール構造” を利用しliposome表面にEGF受容体(EGFR)抗体を付加した抗体付加型immunoliposome を作製した。 ( 得ら れた成 果 等) 2) 培養腫瘍細胞を用いた新規ホウ素製剤の評価(in-vitro) EGFRを高発現した脳腫瘍細胞株U87ΔEGFRに合成したimmunoliposomeを投与した 結果、10Bが腫瘍特異的に細胞内へ導入されることを確認した。 3) マウス腫瘍モデル用いた新規ホウ素製剤の評価(in-vivo) U87ΔEGFR を マ ウ ス の 脳 に 移 植 し 作 製 し た マ ウ ス 脳 腫 瘍 モ デ ル に 、 合 成 し た immunoliposomeを投与した結果、10Bの腫瘍特異的集積を認めた。この腫瘍内の高濃度集 積は24時間継続し、ホウ素濃度は約30ppmであった。ホウ素デリバリーの腫瘍部/正常部 の比は10以上であった。 6 平成 21 年度 ユニット研究報告書 2 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・生化学 ユニット・ リーダー 田邊賢司 ユニット学生 生化学・06418029・小林由佳、生化学・06419036・清水大、生化学・06419028・菊 池達也、生化学・06419027・川本幸司、生化学・06420026・神原由衣、生化学・06421067 ・平田聖子 ユニット研究名 がん化・ウィルス感染における細胞内輸送の分子選別機構 研究計画 スーパーバイザー 竹居孝二 細胞は細胞内における物質の局在・輸送を緻密に制御し、栄養の代謝、シグナル伝達 の制御、免疫機構の維持を行っている(細胞内輸送)。その制御機構の破綻は様々な 疾患につながることから、その機構解明は疾患の治療・予防に欠かすことのできない ものである。本研究では、細胞のがん化やウィルスの感染機構を中心として、細胞内 輸送の分子機構解明を目的とする。本研究では3つのテーマに分類し研究を進める。 1)ヒト免疫不全ウィルス(HIV)のCD4分解機構 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)はT細胞に感染し、その機能を失わせることにより 免疫不全を引き起こす。感染したT細胞は細胞表面に発現しているCD4が分解され、 その機能を失い免疫不全となる。このCD4の分解はHIVがコードするNef遺伝子によ って誘導されることが知られており、細胞内輸送制御の異常が原因と考えられている 。そこで本研究ではCD4がどのように分解されるのか、その分子機構解明を目指す。 2)細胞内輸送によるシグナル伝達制御と細胞のがん化について 細胞ががん化する際にはシグナル伝達の異常が原因となることが知られており、一 方で細胞内膜輸送がシグナル伝達の制御を担っていることが知られている。そこで細 胞内膜輸送がシグナル伝達をどのように制御しているのか、がん化との関連に着目し てその分子メカニズムを明らかにする。 3)細胞内輸送関連遺伝子による細胞の浸潤、移動制御 細胞内膜輸送関連遺伝子が細胞骨格を制御することが明らかになってきている。細 胞骨格の制御はがん細胞が浸潤、転移する際に必要不可欠なものであり、その制御機 構解明が急務である。我々は細胞内膜輸送関連遺伝子がどのように細胞骨格を制御し ているのか、その分子メカニズム解明を目指す。 研究報告 各テーマについて以下の成果が得られた。 ( 得ら れた成 果 1)ヒト免疫不全ウィルス(HIV)の CD4 分解機構 等) Nef による CD4 分解機構として、従来考えられてきたエンドソーム系の分解機 構ではない事を示唆する結果が得られた。さらに CD4 の分解機構がオートフ ァジーを利用したものとされる証拠が得られ、その成果は第 32 回日本分子生 物学会大会で発表した。 2)細胞内輸送によるシグナル伝達制御と細胞のがん化について 肝細胞増殖因子(HGF)からのシグナル伝達制御に細胞内輸送が必要である。 我々は EHD3 というエンドソームに局在するタンパク質が、正常なシグナル伝 達に必要であることを新たに見出した。今後はその分子機構解明に取り組む。 3)細胞内輸送関連遺伝子による細胞の浸潤、移動制御 上皮成長因子(EGF)刺激による細胞骨格形成に EHD3 が関与していること を見出した。EHD3 の発現抑制下では、EGF 刺激によるアクチン細胞骨格の 再構成がおこらないことを見出し、更に細胞内に取り込まれた EGF がエンド ソームに到達する時間が長くなっていることを見出した。今後はそれらの関連 性についてさらなる解析を行っていく。 7 平成 21 年度 ユニット研究報告書 3 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・ 腎・免疫・内分泌代謝内科学 ユニット・ リーダー 片岡 仁美 ユニット学生 腎・免疫・内分泌代謝内科学 梶谷 展生 腎・免疫・内分泌代謝内科学 高塚 哲全 ユニット研究名 糖尿病患者血液中単球の活性化状態解析とスタチンの抗炎症効果の検討 研究計画 【背景】HMGCoA reductase inhibitor(スタチン)は、そのコレステロール低下作 スーパーバイザー 四方賢一 槇野博史 用のほかに抗炎症効果を含む多面的な作用を持つことが知られている。以下の実験を 行い、ヒトの生体内において糖尿病状態で単球の活性化がいかに惹起されるかを明ら かにし、スタチンの投与がヒトの生体内で単球に及ぼす影響を評価した。 【方法】 実験 1:脂質異常症と糖尿病性腎症(臨床病期 2-3 期)を伴う 2 型糖尿病患者 10 人と 健常対照人 5 人から採血を行い血清及び単球を分離し、以下の解析を行う。 1) 血清中の 炎症プロファイル(hsCRP, TNFα, IL-18) の測定を行う。 2) 分離した単球から RNA を抽出し,DNA マイクロアレイを行い単球の遺伝子発現 を解析する. 3) マイクロアレイで糖尿病群と対照群とで発現が増加/減尐する遺伝子を抽出し, Realtime RT-PCR にて発現を検討する。 実験 2:2 型糖尿病患者に対し 1 ヶ月間のピタバスタチン 1mg/日の投与後に採血を 行い、治療前後での変化について、上記 1)-3)の項目を解析する. 実験 3:THP-1 細胞を高糖濃度条件(15mM Glcose)で 72 時間培養し、炎症関連遺伝 子発現を解析する。THP-1 細胞におけるピタバスタチンの抗炎症作用を検討する。 研究報告 実験 1:糖尿病患者は健常人に比較し血清高感度 TNF-α 濃度 (糖尿病群 ( 得ら れた成 果 3.35±1.52 pg/ml, 健常群 0.78±0.10pg/ml, p<0.05)、血清 IL-18 濃度 (糖尿病群 等) 172.5±29.4pg/ml, 健常群 106.8±33.1pg/ml, p<0.05) は有意に高値であった。DNA マイクロアレイでは TNF-α 等炎症関連遺伝子の発現増加を認めた。Realtime RT-PCR では、糖尿病患者で TNF-α と IL-1β の遺伝子発現増加を認めた。 実験 2:ピタバスタチン投与後、LDL コレステロール及び尿中アルブミンは低下す る傾向を認めた。また血清高感度 TNF-α 及び IL-18 濃度は、いずれも低下傾向を認 めた。DNA マイクロアレイでは、スタチンの投与により炎症性サイトカイン、酸化 ストレスなどに関与する遺伝子群の発現低下を認めた。 8 平成 21 年度 ユニット研究報告書 4 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・ 病理学(免疫病理) ユニット・ リーダー 松川昭博 ユニット学生 大学院:孫翠明、曹辰 学部学生:小畠千晶(06418027)、高橋里沙(06418040)、内山美友紀(06418096) 、立田圭(06419045) ユニット研究名 炎症の病理学的・分子病理学的研究 研究計画 1. スーパーバイザー 松川昭博 炎症の病理学的解析 難治性炎症疾患のモデルとして敗血症あるいは劇症肝炎をマウスに誘発する。経 時的にマウスを屠殺し、血液、浸出液、臓器を採取する。これらのサンプルから 各種サイトカインの発現状況をRNA、タンパク両面から検索する。サイトカイン シグナル伝達因子の発現を定量し、これらの意義を知るために、遺伝子改変マウ スを用いた解析を行う。これにより、炎症発現を調節するシグナル伝達・抑制因 子の意義を確立する。研究成果の学会発表を目指す。 2. 剖検例を用いた難治性炎症疾患の病理学的解析 難治性炎症疾患の剖検例を元に、疾患の発症から経過を症候学、画像診断、治療 経過を通して学び、剖検肉眼診断、病理組織診断により、症例の全経過を把握し 、症例はなぜ死に至ったのか、を考察する。症例を通して何を学んだか明らかに する。珍しいケースに関して、可能であれば英語論文で報告するよう努力する。 研究報告 1. ( 得ら れた成 果 等) 炎症の病理学的解析 ① T 細胞依存性マウス劇症肝炎モデルを用いた研究から、IFNg依存性肝炎は SOCS3の過剰発現で抑制され、Spred2の消失で増悪することが判明した。こ れらは、T細胞フェノタイプの改変に基づくものであり、現在、詳細な解析を 行っている。Spred2に関して、ユニット大学院生・孫がImmunology2010(2010 年8月、神戸)で発表予定。 ② LPSを大量に投与するとマウスは敗血症性ショックを起こすが、微量のLPS 前投与でこの現象は消失する(LPSトレランス)。SOCS5が過剰に発現したマウ スでは、TNFa産生抑制が解除され、LPSトレランスが消失することを見いだ した。本内容は、ユニット学生・小畠が第98回日本病理学会で発表し(2009 年4月、京都) 、学生最優秀賞を受賞した。 2. 剖検例を用いた難治性炎症疾患の病理学的解析 von Recklinghausen病の合併症である動脈瘤の破裂治療後に感染症を併発し敗 血症で死亡した剖検例を通して、同疾患の病態を学び、本症例の死にいたった経 緯を病理学的に解析した。本症例は珍しいケースであり、ユニット学生・高橋/ 内山で症例報告(英語論文)の準備中である。 9 平成 21 年度 ユニット研究報告書 5 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・システム生理学 スーパーバイザー 成瀬恵治 ユニット・ リーダー 片野坂友紀 ユニット学生 医学部4年・06418008・岩崎慶一朗 医学部3年・06419096・相原百合 ユニット研究名 生体機械受容システムの生理的意義の解明と病態発症への役割 研究計画 研究目的: 生体内では至るところで、伸展や剪断応力といった物理的な機械刺激が生じ ている。細胞の機械受容システムを介して伝達されるこのような刺激は、単に生体にとっ て不利益なストレスではなく、発生過程や臓器機能発現に不可欠な生体情報であることが 次第に明らかになってきた。しかしながら、機械受容システムの分子的基盤は未だ解明さ れておらず、その生理的意義や病態発症における役割については、全く不明である。本研 究では、分子・細胞・生体を網羅する独自のマルチレベル評価法に基づくトランスレーシ ョナルリサーチを展開して、生体の機械受容システムの分子的基盤と、その生理的意義を 解明することを目的とする。 研究計画: これまでの我々の研究より、生体の機械受容チャネルは、伸展刺激の負荷さ れる肺胞上皮細胞、血圧や血流負荷にさらされる血管内皮および平滑筋、血行動態負荷の 生じる心臓、運動器である骨格筋、細胞自身が絶え間なく運動している神経の成長円錐な ど、体の各所で広く発現していることが明らかとなっている。これらの各組織において、 この機械受容チャネルをノックアウトしたマウスの形態的・生理的表現型解析を中心とし て、生体での機械受容システムの重要性と、このシステムにおける機械受容チャネルの意 義を明らかにする。これらの解析には、医工学器機を用いた生理機能測定が欠かせないた め、必要に応じてマウス用に小型化した計測器機を開発・使用するなど、独自の医工学的 解析法を駆使する。 また、生体の機械受容システムの分子的基盤を得るためには、機械受容チャネル複合体 の実体解明が不可欠であるが、一定の時間を要することが想像されるため初年度よりとり かかる。得られた結果を細胞レベルの再構築実験に持ち込み、機械受容機能を創発するた めの分子部品とその仕組みを分子レベルで解明する。 組織特異的メカノセンサー分子ノックアウトマウスの作製: 本年度は、メカノセンサー 研究報告 ( 得ら れた成 果 分子をターゲットとしたノックアウトマウスを作製した。対象とするメカノセンサー遺伝 子両端に loxP 配列を付加したノックインマウスを、組織特異的に cre リコンビナーゼを 等) 発現するマウスと亣配させることにより、特定の組織でのみ対象遺伝子が発現しないマウ スを得ることが出来た。現在、表現型解析に用いるマウスコロニーの形成をおこなってい る最中である。 体内のメカニカル環境を再現する in vitro 実験系の確立: 生体の機械受容システムを分 子レベルで解明するには、体内環境を再現するメカニカル刺激負荷装置の開発が不可欠で ある。そこで、本年度は、肺の膨張や血管内皮の伸展負荷を再現する伸展負荷パラメータ を最適化した。 心臓の新規メカノセンサー分子を対象とした薬物誘導型トランスジェニックマウスの開 発: 既に報告されている容積感受性分子の下流で働く Ca2+輸送体をターゲットとして、 薬物投与により発現時期を自在にコントロールすることができるトランスジェニックマ ウスを開発した。3 系統のポジティブマウスを得た後、発現量やコピー数を検討して、今 後の生理的意義や心不全発症メカニズムの解析に用いることの出来る系統を絞ることが できた。この結果、コピー数が 10 個で、薬物投与後に心筋細胞での発現量が 2 から 3 倍 上昇するトランスジェニックマウスをライン化することができた。来年度より、心肥大発 症時や心不全発症後の各タイミングにあわせた対象分子の発現をコントロールすること が可能となったため、心不全治療研究に役立てたいと考えている。 10 平成 21 年度 ユニット研究報告書 6 教育・専攻分野 異分野融合先端研究コア ユニット・ リーダー 佐藤あやの スーパーバイザー 佐藤あやの ユニット学生 ユニット研究名 研究計画 進行性ミクローヌス、ラフォラ病原因遺伝子ラフォリン脱リン酸化酵素による 細胞内輸送制御機構の探索 進行性ミオクローヌスてんかんであるラフォラ病は、比較的まれであるが、重症のて んかんである。これまでに、様々な変異が、原因遺伝子とされるLaforin (EPM2A OMIM#607566)、Malin (EPM2B OMIM#608072) に見つかっている。 Malinは、 E3 ubiquitin ligaseであり、Laforinは、脱リン酸化酵素である。これらのタンパク質 は、HSP70等と複合体を形成する。 Laforinノックアウトマウスは、ラフォラ病の表 現形を示さず、代わりにLaforin過剰発現トランスジェニックマウスが、ラフォラ病の 表現形を示す事が知られている。 このことから、正常細胞において、余剰のLaforin は、Malinを介したubiquitin-proteasome系 (UPS)により、速やかに分解されている ことが予想される。 Laforinは、タンパク質のチロシンリン酸、セリン/スレオニンリン酸、またグリコー ゲン等の多糖上のリン酸基を加水分解できると考えられているが、実際の基質は同定 されていない。 また、脱リン酸化が、病気とどのように関連するか、上述のUPSに関連するかも明ら かでない。 一方、細胞内輸送おいて重要な働きをするタンパク質に、その機能制御に関係するリ ン酸化が見つかっている。 しかしながら、これらのタンパク質の脱リン酸化の仕組 みは明らかでない。 そこで本研究では、正常細胞における脱リン酸化の意義を明らかにするため、 1) Laforinの脱リン酸化能と、UPS分解の関係 2) Laforinの細胞内基質の探索 3) Laforinによる、細胞内輸送制御タンパク質、p115, syntaxin 5, Sec31の脱リン酸化 を調べる。これらの結果を元に、Laforinの脱リン酸化能が、病態とどのように関わっ ているかを明らかにしたい。 ヒト Laforin 発現ベクターを構築し、ヒト子宮頚癌由来 HeLa 細胞で発現させたとこ 研究報告 ろ、細胞内輸送で重要な役割を果たす細胞内小器官ゴルジ体(下図、GM130)、およ ( 得ら れた成 果 び小胞体出口部位に異常が生じた。 等) このことは Laforin が、細胞内輸送に関与する事を強く示唆する。現在、脱リン酸化 能を持たない Laforin 変異体を作製し、この異常が Laforin の脱リン酸可能によるも のかを、調べている。 11 平成 22 年度 ユニット研究報告書 1 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・細胞生理学 ユニット・ リーダー 森亜希子 ユニット学生 細胞生理学・32422002・秋田直樹 ユニット研究名 中性子捕捉療法に用いる新規腫瘍治療薬の開発 ~中性子捕捉療法へ応用する高効率導入型ホウ素製剤の開発~ 研究計画 スーパーバイザー 松井秀樹 【研究背景および目的】 様々ながん治療法の中で、近年、放射線治療の進歩は目覚ましい。定位放射線治療では、 医療機器の発達に伴い正確に腫瘍及び腫瘍辺縁に照射することができ、周囲組織に影響 を与えない治療が可能である。しかし、悪性脳腫瘍などの浸潤性のがんでは正常部との 境界が不明瞭でイメージングが難しく、全てのがん細胞を標的化し死滅させることは依 然として不可能であり、局所再発の大きな要因とされている。放射線治療の一種として、 DDS を応用したホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が注目されている。BNCT は、ホウ素 製剤を予めがん細胞に取り込ませ、その後、中性子線を照射することでホウ素(10B)か ら発生する高エネルギー線を利用してがん細胞のみを選択的に死滅させる方法である。 そのためには、いかに高効率に高濃度の 10B をがん細胞のみに選択的に取り込ませるか が鍵となる。しかし、現在臨床研究で使用されているホウ素化合物 BPA、BSH は目的が ん細胞のみに薬物送達できるターゲティング能が低いため、10B の細胞内集積に限界があ る。そこで本研究では、低毒性で DDS にも用いられている liposome を 10B を送達する Cargo として利用し、BNCT に応用する高効率導入型の新規ホウ素製剤の開発を行い、 この新規ホウ素製剤の BNCT での有効性を実証していく。 【平成 22 年度計画】 平成 21 度は BSH を内包した抗体付加型 immunoliposome の合成に成功し、この immunoliposome が培養脳腫瘍細胞および同細胞を移植した腫瘍モデルマウスで、腫瘍 細胞に特異的に導入されることを確認した。本年 22 年度は、liposome の生体内動態・分 布をイメージングしながら治療を同時に行うことができる “セラノスティックス (Theranostics)”製剤の開発を目指し、昨年度合成した liposome の改良を行う。これに より、腫瘍へのターゲット能と生体内イメージングという 2 種の機能を有する新規ホウ 素製剤が開発できる。 研究報告 1) 新規ターゲット型liposomeの設計・合成(改良型) ( 得ら れた成 果 生体内使用での安全性を考慮し、ニッケル(Ni)を成分に含まないliposomeを設計した。 Niの代替としてliposome構成成分にマレイミド基を導入することで我々のliposomeの大 等) きな特徴であるZZ“モジュール構造”を保持し、あらゆる抗体のFc部分と結合できる設計 とした。また、ZZタンパクと発光タンパクluciferaseを融合し新たに合成した融合タンパ クを liposome表面に結合させることにより、liposomeの生体内分布をイメージングしな がら治療を同時に行うことが可能となる。このような改良型新規immunoliposomeの合成 を試みた。 2) 培養腫瘍細胞を用いた新規ホウ素製剤のイメージング(in-vitro) EGFR を 高 発 現 し た 脳 腫 瘍 細 胞 株 U87 Δ EGFR に 新 た に 合 成 し た 改 良 型 immunoliposomeを投与した後、基質を投与し発光させた。蛍光顕微鏡下での観察結果、 強い発光が検出され腫瘍細胞内への取り込みがイメージングできた。 3) マウス腫瘍モデル用いた新規ホウ素製剤の評価(in-vivo) U87 Δ EGFR を マ ウ ス 背 部 に 移 植 し 作 製 し た 胆 癌 モ デ ル マ ウ ス に 、 合 成 し た immunoliposomeを投与した。CCDカメラIVISを用いて発光を検出し、腫瘍への取り込み ををイメージングした。その結果、背部の腫瘍部位に明らかに強い発光シグナルが検出で き、腫瘍特異的なリポソームの集積が確認できた。2種類の機能を有するimmunoliposome はセラノスティックスの可能性を示唆した。 12 平成 22 年度 ユニット研究報告書 2 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・生化学 ユニット・ リーダー 田邊賢司 ユニット学生 生化学・3241008・白石沙耶、生化学・32421009・逸見祐次、生化学・32422008・森川 由章、生化学・06418029・小林由佳、生化学・06419036・清水大、生化学・06419028 ・菊池達也、生化学・06420026・神原由衣、生化学・06420019・長田有生、生化学・06421036 ・久保飛鳥 ユニット研究名 がん化・ウィルス感染における細胞内輸送の分子選別機構 研究計画 スーパーバイザー 竹居孝二 細胞は細胞内における物質の局在・輸送を緻密に制御し、栄養の代謝、シグナル伝達の制 御、免疫機構の維持を行っている(細胞内輸送)。その制御機構の破綻は様々な疾患につ ながることから、その機構解明は疾患の治療・予防に欠かすことのできないものである。 本研究では、細胞のがん化やウィルスの感染機構を中心として、細胞内輸送の分子機構解 明を目的とする。 1)ヒト免疫不全ウィルス(HIV)のCD4分解機構 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)はT細胞に感染し、そのCD4を分解することで免疫不全 をおこす。このCD4の分解はHIVがコードするNef遺伝子によって誘導されることが知ら れているが、その分子機構解明はわかっていない。我々はNefがオートファジーによって CD4を分解している証拠を得ており、その詳細な分子機構解明を目指す。 2)細胞内輸送によるシグナル伝達制御と細胞のがん化について 細胞内膜輸送がシグナル伝達の制御を担っていることが近年わかってきた。そこで我々 は細胞内膜輸送がシグナル伝達をどのように制御しているのか、がん化との関連に着目し てその分子メカニズムを明らかにする。我々が見出した肝細胞増殖因子のシグナル伝達に おけるEHD3の役割について、その分子機構解明を目指す。 3)細胞内輸送関連遺伝子による細胞の浸潤、移動制御 細胞内膜輸送関連遺伝子が細胞骨格を制御することが明らかになってきている。細胞骨 格の制御はがん細胞が浸潤、転移する際に必要不可欠なものであり、その制御機構解明が 急務である。我々はEHD3が上皮成長因子による細胞骨格再構成に関与していることを見 出した。今年度はさらに細胞移動能への影響等を詳細に解析する。 研究報告 各テーマについて以下の成果が得られた。 ( 得ら れた成 果 1) ヒト免疫不全ウィルス(HIV)の CD4分解機構 等) Nef 発現時に CD4 がオートファゴソームのマーカーである LC3 と共局在している事を 見出した。さらにオートファジーの阻害剤によって CD4 の分解が阻害されることを見 出した。本結果は、これまで未知のままだった Nef による CD4 分解の分子メカニズム を明らかにするものとして非常に重要なものである。 2) 細胞内輸送によるシグナル伝達制御と細胞のがん化について 肝細胞増殖因子(HGF)からのシグナル伝達制御に EHD3 というエンドソームに局在 するタンパク質が必要であることを新たに見出した。EHD3 発現抑制下では HGF から STAT3 へのシグナル伝達が十分に伝わらないことを見出した。今後はさらにその分子 機構解明に取り組む。 3) 細胞内輸送関連遺伝子による細胞の浸潤、移動制御 上皮成長因子(EGF)刺激による細胞骨格形成に EHD3 が関与していることを見出し た。EHD3 の発現抑制下では、EGF 刺激によるアクチン細胞骨格の再構成がおこらな いこと、更に細胞の移動能が顕著に減尐することを見出した。このことは EHD3 によ る細胞内輸送が細胞の移動に必要なこと、さらにはがん細胞の転移にも関与しているこ とを示唆するものである。今後はその関連性についてさらなる解析を行っていく。 13 平成 22 年度 ユニット研究報告書 3 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・ 腎・免疫・内分泌代謝内科学 ユニット・ リーダー 片岡 仁美 ユニット学生 腎・免疫・内分泌代謝内科学 梶谷 展生 腎・免疫・内分泌代謝内科学 高塚 哲全 ユニット研究名 糖尿病患者血液中単球の活性化状態解析とスタチンの抗炎症効果の検討 研究計画 【背景】昨年度の研究において、糖尿病性腎症を有する 2 型糖尿病患者において、末 スーパーバイザー 四方賢一 槇野博史 梢血単球はすでに活性化され、炎症性サイトカインなどの遺伝子発現が亢進している ことが明らかになった。また、ピタバスタチンにより、活性化した末梢血単球の遺伝 子プロファイルを改善させる可能性が示唆された。そこで今年度は、糖尿病性腎症患 者において、末梢血単球が活性化されるメカニズムを明らかにする目的で検討を行っ た。 【方法】 実験 1:THP-1 細胞を高糖濃度条件(15mM Glcose)で 72 時間培養し、炎症関連遺伝 子発現を解析する。THP-1 細胞におけるピタバスタチンの抗炎症作用を検討する。 実験 2: cDNA マイクロアレイのデータを用いて、末梢血単球の活性化に関与する と考えられる遺伝子について検討を行う。 研究報告 実験 1:高糖濃度刺激により THP-1 細胞における TNF-α、IL-1β 遺伝子発現が ( 得ら れた成 果 増加し、ピタバスタチン(1nM)により抑制され、高糖濃度条件下での培養により単球 等) の活性化が起こる事が示唆された。 実験 2:cDNA マイクロアレイの解析により、糖尿病性腎症を伴う 2 型糖尿病患者 では、IRE-1, GRP78, Selenoprotein S, Selenoprotein K などの小胞体ストレス関連 蛋白の遺伝子発現が増加している事が明らかになった。Realtime RT-PCR でも同様 の遺伝子発現の変化を認め、糖尿病患者の末梢血単球において、小胞体ストレスの存 在が示唆された。 14 平成 22 年度 ユニット研究報告書 4 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・ 病理学(免疫病理) ユニット・ リーダー 松川昭博 ユニット学生 大学院:曹辰、劉秋穎 学部学生:岡浩介(06420014)高須賀裕樹(06420045)高橋里沙(06418040)内山 美友紀(06418096) ユニット研究名 炎症の病理学的・分子病理学的研究 研究計画 1. 炎症の病理学的解析 スーパーバイザー 松川昭博 サイトカインシグナル伝達因子改変マウスに敗血症あるいは劇症肝炎をマウスに 誘発する。経時的にマウスを屠殺し、血液、浸出液、臓器を採取する。これらの サンプルから各種サイトカインの発現状況をRNA、タンパク両面から検索する。 これにより、炎症発現を調節するシグナル伝達因子の意義を確立する。研究成果 の学会発表を目指す。 2. 剖検例を用いた難治性炎症疾患の病理学的解析 難治性炎症疾患の剖検例を元に、疾患の発症から経過を症候学、画像診断、治療 経過を通して学び、剖検肉眼診断、病理組織診断により症例の全経過を把握し、 なぜ死に至ったのか、を考察する。珍しいケースに関して、可能であれば英語論 文で報告するよう努力する。 研究報告 1. 炎症の病理学的解析 ( 得ら れた成 果 ① ConA誘導肝炎は、IFNg依存性にSPRED2欠損マウスで増強されることが判 等) 明した。これは、CD8による高IFNg産生に基づくものである。ユニット大学 院生・曹が病理カンファレンス(2010.8) 、Immunology2010(2010.8)で発表。 現在、さらに詳細なメカニズムについて解析中で、劉がその成果を日本炎症再 生学会で発表予定(2011.6) ② CD4特異的にSOCS1が欠損したマウスは、IFNg産生が増強しConA誘導肝炎が 増悪することを見出した。本内容は、ユニット学生・岡が日本病理学会で発表 予定(2011年4月) 2. 剖検例を用いた難治性炎症疾患の病理学的解析 von Recklinghausen病の合併症である動脈瘤の破裂治療後に感染症を併発し敗 血症で死亡した剖検例をユニット学生・高橋/内山で症例報告(英語論文)の準 備中である。また、NEJのCPCレポートの抄読会に参加し、病態の理解を深めて いる。 15 平成 22 年度 ユニット研究報告書 5 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・システム生理学 ユニット・ リーダー 片野坂友紀 ユニット学生 医学部5年・06418008・岩崎慶一朗 ユニット研究名 生体機械受容システムの生理的意義の解明と病態発症への役割 ~遺伝子改変マウスを用いた新たな実験系の確立~ 研究計画 スーパーバイザー 成瀬恵治 研究目的 生体内では至るところで、伸展や剪断応力といった物理的な機械刺激が生じている。細 胞の機械受容システムを介して伝達されるこのような刺激は、単に生体にとって不利益な ストレスではなく、発生過程や臓器機能発現に不可欠な生体情報であることが次第に明ら かになってきた。しかしながら、機械受容システムの分子的基盤は未だ解明されておらず、 その生理的意義や病態発症における役割については、全く不明である。本研究では、分子・ 細胞・生体を網羅する独自のマルチレベル評価法に基づくトランスレーショナルリサーチ を展開して、生体の機械受容システムの分子的基盤と、その生理的意義を解明することを 目的とする。 平成22年度研究計画 これまでの研究から、我々の対象としているメカノセンサー分子は、様々な組織で広く 発現していることが明らかとなっている。これらの各組織において、この機械受容チャネ ルをノックアウトしたマウスの表現型解析から、生体での機械受容システムの重要性を明 らかにする。 具体的には、 (1) 昨年度から引き続いて行っている組織特異的コンディショナルノックアウトマウ ス・コロニーの確立を完成させる。 (2)組織形態の変化を明らかにする。 (3)これらのマウスより標的細胞の一次培養細胞を単離する。 (4)これらを用いた生理実験系を起ち上げ、これらのマウスを用いた病態誘導モデルを作 製し、病態発症におけるメカノセンサー分子の役割を明らかにするための準備をお こなう。 研究報告 組織特異的ノックアウトマウスの利用によるメカノセンサー分子の生理的役割の検討 ( 得ら れた成 果 本年度は、様々な組織において特異的にメカノセンサー分子がターゲットされるノック 等) アウトマウスのマウスコロニーの形成に成功した。現在は、これらのマウスを用いて、様々 な組織でのターゲット分子の生理的役割を検討しているところである。 心臓の新規メカノセンサー分子を対象とした薬物誘導型トランスジェニックマウスの利 用による心不全発症機構の解析 昨年度に開発した容積感受性分子の下流で働く Ca2+輸送体をターゲットとして、薬物投与 により発現時期を自在にコントロールすることができるトランスジェニックマウスを用 いて、この分子の心不全発症への役割を検討する実験を始めた。薬物投与からどの程度の 時間で、ターゲット分子がどの程度発現してくるかについて、ウエスタンブロッティング 法、免疫染色法を用いて検討した。この結果、薬物投与後、(1)約 6 から 8 時間後にターゲ ット分子が 2 倍以上に増加すること、(2)これらの分子のほとんどは機能部位である心筋細 胞形質膜へと運ばれること、(3)心筋細胞において、ターゲット分子の発現量の増加に伴っ て活性が上昇することが明らかとなった。このように、心肥大発症時や心不全発症後の各 タイミングにあわせて対象分子の発現をコントロールすることが可能となったため、現在 は心不全の重篤化への病態生理的役割を検討しているところである。 16 平成 22 年度 ユニット研究報告書 6 教育・専攻分野 異分野融合先端研究コア ユニット・ リーダー 佐藤あやの スーパーバイザー 佐藤あやの ユニット学生 ユニット研究名 研究計画 進行性ミクローヌス、ラフォラ病原因遺伝子ラフォリン脱リン酸化酵素のS-ニトロシ ル化修飾と神経封入体形成におけるS-ニトロシル化の機能解析 てんかんは、発症率が人口比1%前後と比較的多発な大脳ニューロン疾患であり、家族 性ミオクローヌスてんかんLafora(ラフォラ)病やナトリウムチャネル異常による家族 性のものと、遺伝的要因の尐ない孤発性に分類される。後者の原因の多くは不明であ り、その分子機構の解明と根本的な治療法の確立が早急に求められている。 近年、孤発性の脳神経疾患の原因として、酸化ストレスによって発生する一酸化窒素 (NO)が注目されている。申請者らは、Lafora病原タンパク質laforinが、NOによる化 学修飾を受ける事、NOによってLafora病に特徴的な神経封入体(Lafora体)の形成が増 進されることを初めて見出した。また今年の5月に、オートファジー阻害によって、 Lafora病が発症することを示唆する論文が発表された(Aguado et al., Hum Mol Genet 2010)。 本研究では、酸化ストレスによって生じたNOによるlaforinの化学修飾が、孤発性て んかんの原因になるという仮説を立て、laforinの化学修飾と神経封入体(Lafora体)形 成増進、オートファジー阻害の関係を明らかにすることを最終的な目的として、その 準備に必要とされる以下の実験を行う。 初めに、laforin上の、S-ニトロシル化、化学修飾部位を同定するため、予測されるSニトロシル化部位の点変異体 (C→S変異体)を作製する。得られた変異体を用いて、 S-ニトロシル化の有無を確認する。また、オートファジー研究を開始するため、オー トファジーのマーカーであるLC3-GFPの安定発現株を作製する。 研究報告 ( 得ら れた成 果 等) 17 平成 22 年度 ユニット研究報告書 7 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・細胞生理学 ユニット・ リーダー 松井秀樹 ユニット学生 細胞生理学・71421009・藤村篤史 ユニット研究名 悪性脳腫瘍幹細胞の細胞遊走における微小管および関連タンパク質の関与に ついての解析 研究計画 スーパーバイザー 松井秀樹 悪性脳腫瘍は集学的な治療をもっても未だに生命予後の著しく悪い腫瘍である。治 療の発展を拒む要素として、発生母地が脳という治療介入の制限される部位であると いうことと、術後再発のコントロールの難しさにある。特に後者については近年脳腫 瘍幹細胞(BTSC)として同定された細胞群が腫瘍辺縁に局在することから、再発母地 となる BTSC を手術では摘出しきれないという点が問題となっている。BTSC がな ぜ腫瘍辺縁に局在するのかという研究については近年徐々に明らかになりつつある が、それでもなおこれら BTSC をターゲットとした治療については戦略がたってお らず、その見通しは決して楽観的ではない。 我々の教室ではこれまでタンパク質導入法を用いた治療法を、腫瘍を含めた種々の 疾患をターゲットとして開発してきた経緯があるが、今回脳腫瘍のうち特に BTSC をターゲットとした治療戦略をたてて研究を進めていく。BTSC は自己複製能、腫瘍 発生能、高度な細胞遊走能などに特徴づけられるが、本研究では特に後者の遊走能に 関して研究計画をたてる。具体的には、BTSC の遊走を制御する因子の同定およびそ の抑制因子の開発などである。遊走能の調節において、アクチンや微小管などの細胞 骨格のネットワーク調節が重要であることが知られている。これらを制御する因子は これまでにも種々同定されてきたが、いまだ不明な点も多く、その詳細を探索するた めに BTSC における細胞骨格関連因子の同定を試みる。 研究報告 本年度の研究において、微小管およびアクチンなどの細胞骨格を調節する因子を同 ( 得ら れた成 果 定した。本タンパク質の発現は他の悪性脳腫瘍細胞株と比較して、BTSCにおいては 等) 低く維持されており、BTSCの特殊性と何らかの関連があるかもしれない。 さらに、これらの結果を受けて、本年度中に同定されたタンパク質を用いて細胞膜 透過型タンパク質を作成し、細胞における殺傷効果ならびに細胞遊走能への影響を考 察した。 18 平成 22 年度 ユニット研究報告書 8 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・細胞生理学 スーパーバイザー 松井秀樹 ユニット・ リーダー 道上宏之 ユニット学生 医学部医学科・06418012・畝田篤仁 ユニット研究名 グリオーマ細胞に対する細胞膜透過型p53C末端ペプチドの抗腫瘍効果の検討と そのメカニズムについて 研究計画 P53 の status がそれぞれことなるグリオーマ細胞である U251、U87、LNZ308 に たいする p53C 末端ペプチドの効果をまず vitro で評価する。 細胞殺傷がアポトーシス、ネクローシス、オートファジーのいずれかであるかを評価 する。 P53 の下流に存在するタンパクや mRNAの変化をウェスタンブロッティングや RT-PCR により調べる。 皮下腫瘍モデルヌードマウスを作成し、p53C 末端ペプチドの効果を評価する。 研究報告 グリオーマ細胞を用いたvitroでのp53C末端ペプチドによる腫瘍抑制効果がみられ ( 得ら れた成 果 た。 等) またp53C末端ペプチドによる細胞殺傷メカニズムはグリオーマにおいては従来いわ れていたアポトーシスではなくオートファジー細胞死であることがウェスタンブロ ッティングや蛍光蛋白付LC3マーカーを発現させた細胞の顕微鏡画像評価によりわ かった。 今後は既存の別の薬剤とのシナジー効果や、ヌードマウス皮下腫瘍モデルにおける検 討を行っていく予定である。 19 平成 22 年度 ユニット研究報告書 9 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・細胞生理学 スーパーバイザー 松井秀樹 ユニット・ リーダー 西木禎一 ユニット学生 医学部医学科・06419080・松崎光博 ユニット研究名 脳内オキシトシンの新規作用の解明 研究計画 ホスホジエステラーゼ阻害薬(シルデナフィル)や亣尾行動によって脳内オキシトシ ンの上昇が誘起されるメカニズムや、それらを利用しオキシトシンによる抗うつ作用 や抗不安作用が起こる分子メカニズムを解明する。 研究報告 ホスホジエステラーゼ阻害薬(シルデナフィル)や亣尾行動によって脳内オキシトシ ( 得ら れた成 果 ンの上昇が誘起されることを利用しオキシトシンによる抗うつ作用や抗不安作用が 等) 起こる分子メカニズムを解明した結果、亣尾行動による海馬におけるCREBのリン酸 化の増加を確認し、その増加がオキシトシン受容体ノックアウトマウスにおいて起こ らないことを示し、亣尾行動による抗うつ作用がオキシトシン受容体を介した海馬に おけるCREBのリン酸化の関与があることを示した。 また、ACTHを連日投与した治療抵抗性うつ病モデルオスラットにおいて、オキシト シンの有効性の有無を検討した。 20 平成 22 年度 ユニット研究報告書 10 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・ 腎・免疫・内分泌代謝内科学 ユニット・ リーダー 大塚文男 ユニット学生 病態制御科学・7122037 ・寺坂友博 ユニット研究名 内分泌調節機構における成長因子の作用メカニズムに着目した基礎研究 スーパーバイザー 槇野博史 内分泌系は視床下部・下垂体・下位内分泌腺から構成され、その全身に及ぼす作用はフィードバッ ク機構を介して巧みに制御されている。生殖内分泌系も視床下部→下垂体→卵巣・精巣というシス テムが成り立って機能しているが、各内分泌腺はさらに組織特異的な局所因子の作用を受け、フィ ードバックによる伝達シグナルを微調節してその恒常性を維持している。岡山大学病院内分泌セン ターの大塚らのグループでは、これまで組織・臓器別に留まっていた基礎研究を、多彩な機能を持 った BMP(bone morphogenetic protein)ファミリー分子群に着目することで、生殖内分泌系を全身 的に網羅してその制御機構の解明と臨床応用を目指した基礎研究を行っている。 私はこの内分泌研究に参加する予定である。概要を説明すると、卵巣における正常な卵胞成長は、 視床下部からのゴナドトロピン放出因子(GnRH)、下垂体からの卵胞刺激ホルモン(FSH)・黄体形 成ホルモン(LH)による卵巣への刺激と、卵巣から分泌される卵巣ステロイドホルモンによるフィー ドバック機構を介して制御されている。この内分泌系と協調的に、卵巣自体で産生される局所因子 が卵胞成長の調節に種々の段階で関与する。グループの大塚らは TGFβ superfamily に属する骨 形成蛋白:BMP システムの卵巣における発現とその生殖内分泌作用に着目して研究を行ってきた。 そして卵胞 BMP システムは卵母細胞・顆粒膜細胞・莢膜細胞において、FSH の刺激下に auto-/para-crine 作用で卵胞の正常な発育・ステロイド合成調節に非常に重要な役割を果たすこと を証明した (Endocrine Rev.25: 72, 2004)。さらに、BMP は卵巣での中核的な役割に加えて多面 的・全身的な内分泌作用をもつことが明らかになってきた。BMP 分子の生殖内分泌における意義 は、自然不妊となる雌ヒツジにみられる染色体異常(FecXI,FecXH)の責任遺伝子が bmp-15 である という発見から広く認識された。尐排卵動物であるのに自然多産となるヒツジ(FecB)においても BMPⅠ型受容体(alk-6)遺伝子変異が存在することから、卵巣 BMP システムの重要性が確認された (Reproduction 61: 323, 2003)。ヒトでは、BMP-15 プロ蛋白部位の変異によって高ゴナドトロピン 性卵巣不全(Am. J. Hum. Genet. 75: 106, 2004)や、原発性卵巣不全 (JCEM 91: 1976, 2006)を生 ずることが報告され、ヒトの卵巣不全およびゴナドトロピン分泌異常に BMP-15 が重要な役割を果 たすことが認識されるに至った。さらに興味深いことに、ヒト・ヒツジなどの尐排卵動物では卵胞 成長を通じて成熟 BMP-15 蛋白が恒常的に分泌されるが、齧歯類での分泌時期は限られている (PNAS 102: 5426, 2005; PNAS 103: 10678, 2006)。つまり、BMP-15 は、尐排卵動物の卵胞成熟・ 排卵プロセスを通じて必須であるともに、生物の排卵数(ovulation quota)の種差を決定する全く 新しい因子とも位置づけられる。この「視床下部—下垂体-卵巣」を包含して BMP の「生殖内分泌 系」における意義をより明確にし、全身・局所 BMP の測定による卵胞・卵母細胞機能の「非侵襲 的診断ツール」としての応用と、さらなる発展として、BMP を卵胞成長のインデューサーとして 利用する「創薬への可能性」に期待して本研究に従事したいと考えている。 初年度はまず、視床下部における Kisspeptin という新たな GnRH 分泌調節因子に着目して、種々 の BMP 分子との相互作用について培養細胞を用いた系から着手する予定である。 初年度の研究では、マウス視床下部 GnRH ニューロン細胞 GT1-7 を用いて、Estrogen・BMP 研究報告 および Kisspeptin による GnRH 分泌制御について検討した。Kisspeptin ニューロンは、GnRH ニ ( 得ら れた成 果 ューロンに投射し神経伝達を介して GnRH 分泌を調節している。我々は以前、GT1-7 細胞におい 等) て Estrogen receptor(ER)α/βおよび BMP 受容体・Smad1/5/8 経路の存在を確認し、BMP リガ ンドのうち、BMP-2, -4 は Estrogen を介した GnRH 制御に関与するが、BMP-6, -7 は GnRH の 分泌を直接促進することを報告した(J. Endocrinol. 203: 87, 2009)。GT1-7 細胞を Estrogen 処理す ると、GnRH mRNA レベルは減尐したが、BMP-2, -4 はこの feedback 機構に対して ERα/βの発 現を減弱することで抑制的に作用した。一方、Kisspeptin は GT1-7 細胞において GnRH の mRNA レベルを増加させたが、BMP-2, -4 は Kisspeptin により誘導された GnRH の発現を抑制した。さ らに、BMP-2, -4 は GT1-7 細胞に存在する Kisspeptin 受容体:GPR54 の発現レベルも減弱した。 このように、BMP システムがリガンド依存性に Estrogen および Kisspeptin 感受性を調節して GnRH 分泌を制御していることが明らかとなった。 研究計画 21 平成 23 年度 ユニット研究報告書 1 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・細胞生理学 ユニット・ リーダー 森亜希子 ユニット学生 細胞生理学・32422002・秋田直樹 ユニット研究名 中性子捕捉療法に用いる新規腫瘍治療薬の開発 ~中性子捕捉療法へ応用する高効率導入型ホウ素製剤の開発~ 研究計画 スーパーバイザー 松井秀樹 【研究背景および目的】 様々ながん治療法の中で、近年、放射線治療の進歩は目覚まし い。定位放射線治療では、医療機器の発達に伴い正確に腫瘍及び腫瘍辺縁に照射するこ とができ、周囲組織に影響を与えない治療が可能である。しかし、悪性脳腫瘍などの浸 潤性のがんでは正常部との境界が不明瞭でイメージングが難しく、全てのがん細胞を標 的化し死滅させることは依然として不可能であり、局所再発の大きな要因とされている。 放射線治療の一種として、DDS を応用したホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が注目され ている。BNCT は、ホウ素製剤を予めがん細胞に取り込ませ、その後、中性子線を照射 することでホウ素(10B)から発生する高エネルギー線を利用してがん細胞のみを選択的 に死滅させる方法である。そのためには、いかに高効率に高濃度の 10B をがん細胞のみ に選択的に取り込ませるかが鍵となる。しかし、現在臨床研究で使用されているホウ素 化合物 BPA、BSH は目的がん細胞のみに薬物送達できるターゲティング能が低いため、 10B の細胞内集積に限界がある。そこで本研究では、低毒性で DDS にも用いられている liposome を 10B を送達する Cargo として利用し、BNCT に応用する高効率導入型の新規 ホウ素製剤の開発を行い、この新規ホウ素製剤の BNCT での有効性を実証していく。 【平成 23 年度計画】 平成 21~22 年度に BSH を内包した抗体付加型 immunoliposome の合成に成功し、この新規 immunoliposome が培養脳腫瘍細胞および同細胞を移植した 腫瘍モデルマウスの両方で、腫瘍細胞に特異的に導入されることを確認している。23 年 度は、より高濃度で高効率に 10B を腫瘍細胞へと選択的に送達し、同時にその生体内動 態をイメージングできる immunoliposome のセラノスティックス製剤としての機能を実 証する。また、実際に中性子照射を行い、治療効果を実証していく予定である。この様 にして、新規ホウ素製剤による腫瘍特異的ホウ素デリバリーシステムの確立を目指す。 1) ターゲティング能とイメージング能を有するimmunoliposomeの合成 ( 得ら れた成 果 ホウ素化合物BSH(Na2B12H11SH)を内包したliposomeを調製し、その表面にプロテ インA結合モチーフ(ZZ)を有し発光タンパク(luciferase)と融合した融合タンパク質を介し 等) て抗EGFR抗体を結合させ、immunoliposomeを作製した。 研究報告 2) 培養腫瘍細胞を用いた新規ホウ素製剤のセラノスティックス製剤としての機能検証 EGFR を 高 発 現 し た 脳 腫 瘍 細 胞 株 U87 Δ EGFR に 、 種 々 の 濃 度 で 合 成 し た immunoliposomeを投与した。24時間経過後、基質を投与し発光させ、発光顕微鏡により イメージングを行い、更に発光強度を定量した。細胞内の 10B集積を誘導結合プラズマ発 光分光分析(ICP-AES)により検証した。その結果、作製したimmunoliposomeは腫瘍選択 的 に 10B を 送 達 し た 。 発 光 顕 微 鏡 を 用 い た Luciferase の イ メ ー ジ ン グ で は 、 immunoliposomeの投与量の増加に伴い強い発光シグナルが観察され、発光量が増加した 。一方、ICPによる10Bの定量でも、immunoliposome投与量の増加に伴い、腫瘍細胞内へ 送達された10Bは増加した。細胞内に取込まれたimmunoliposomeの発光量と10B量には相 関性(R2=0.94)があった。開発したimmunoliposomeの特徴は、標的腫瘍部位に応じて 抗体が選択できるZZモジュール構造と、表面の融合タンパク質による発光を利用して生体 内動態・分布をイメージングしながら治療できる点にある。本研究結果より、腫瘍へのタ ーゲティング、生体内動態のイメージング、BNCTによる治療、の3つを同時に行う「セ ラノスティックス」の可能性が示唆された。 3) immunoliposomeのBNCTにおける治療効果の検証 Immunoliposomeに実際に中性子照射を行い、BNCTにおける治療効果の検証を始めた ところである。 22 平成 23 年度 ユニット研究報告書 2 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・生化学 ユニット・ リーダー 田邊賢司 ユニット学生 生化学・32421009・逸見祐次、生化学・32422008・森川由章、生化学・06418029・小林 由佳、生化学・06420026・神原由衣、生化学・06420019・長田有生、生化学・06421036 ・久保飛鳥、生化学・06421082・三澤晶子 ユニット研究名 細胞のがん化・ウィルス感染における細胞内輸送の分子選別機構の解明 研究計画 スーパーバイザー 竹居孝二 細胞は細胞内における物質の局在・輸送を緻密に制御し、栄養の代謝、シグナル伝達の制御、 免疫機構の維持を行っている(細胞内輸送)。その制御機構の破綻は様々な疾患につながるこ とから、その機構解明は疾患の治療・予防に欠かすことのできないものである。本研究では、 細胞のがん化やウィルスの感染機構を中心として、細胞内輸送の分子機構解明を目的とする。 1)ヒト免疫不全ウィルス(HIV)のCD4分解機構 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)はT細胞に感染し、CD4を分解することで免疫不全をおこす。 このCD4の分解はHIVがコードするNef遺伝子によるが、その分子機構はわかっていない。我 々はNefがCD4の細胞内凝集をおこし、オートファジーによって分解されている可能性を考え 免疫電顕・変異体を用いた結合タンパク質の探索などからその詳細な分子機構解明を目指す。 2)細胞内輸送によるシグナル伝達制御と細胞のがん化について 細胞内膜輸送がシグナル伝達の制御を担っていることが近年わかってきた。そこで我々は細胞 内膜輸送がシグナル伝達をどのように制御しているのか、がん化との関連に着目してその分子 メカニズムを明らかにする。我々は、細胞内輸送を制御するEHD3が肝細胞増殖因子から転写 因子STAT3の活性化に至るシグナル伝達に重要な役割を果たしていることを見出した。本年度 はEHD3がシグナル伝達のどの段階に重要な役割を担っているのか、その分子機構解明を目指 す。 3)細胞内輸送関連遺伝子による細胞の浸潤、移動制御 細胞内膜輸送関連遺伝子が細胞骨格を制御することが明らかになってきている。細胞骨格の制 御はがん細胞が浸潤、転移する際に必要不可欠なものである。我々は上皮成長因子による細胞 骨格再構成にEHD3が関与していることを見出した。今年度はさらにシグナルカスケードの詳 細な解析を行い、細胞内輸送と細胞移動能のクロストークを詳細に解析する。 本年度、各プロジェクトの進行を通じて以下の成果を発表した(ユニット構成員に下線を付 研究報告 ( 得ら れた成 果 す)。現在も Pre-ART 学生を筆頭とする 2 報の論文を作成しており、研究者育成は順調に進め られている。 等) 【学術論文】 1. Suzuki M., Tanaka H., Tanimura A., Tanabe K., Oe N., et al., PLoS ONE (2012) 2. Tanabe K. and Takei K., Acta Medica Okayama (2012) 3. Takei K. and Tanabe K., Peripheral Neuropathy (2012) 4. Henmi Y., Tanabe K. and Takei K., PLoS ONE (2011) 5. Tanabe K., Henmi Y., et al., Commun. Integr. Biol. (2011) 6. Ishida N, Nakamura Y, Tanabe K, et al., Cell Struct Funct. (2011) 7. Ohashi E., Tanabe K., Henmi Y., Kobayashi Y. and Takei K. PLoS ONE (2011) 8. Mesaki K., Tanabe K., Obayashi M., Oe N. and Takei K. PLoS ONE (2011) 9. Funaki T., Kon S., Ronn RE., Henmi Y., Kobayashi Y., Watanabe T., Nakayama K., Tanabe K. and Satake M. Cell Struct. Funct. (2011) 10. Sakakura I., Tanabe K., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. (2011) 【学会発表等】 1. 田邊(口頭発表)新学術領域研究(細胞内ロジスティクス)班会議(2011 年 5 月,鳥羽) 2. 逸見,神原,田邊(全てポスター発表)第 63 回日本細胞生物学会(2011 年 6 月,札幌) 3. 田邊(招待講演)東北大学医学系 G-COE 拠点セミナー(2011 年 11 月,仙台) 逸見,神原,久保,三澤(全て口頭発表)ART/ITP 国際シンポジウム(2012 年 1 月,岡山) 23 平成 23 年度 ユニット研究報告書 3 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・ 腎・免疫・内分泌代謝内科学 ユニット・ リーダー 片岡 仁美 ユニット学生 腎・免疫・内分泌代謝内科学 梶谷 展生 ユニット研究名 糖尿病患者血液中単球の活性化状態解析とスタチンの抗炎症効果の検討 研究計画 【背景】昨年度の研究において、糖尿病性腎症を有する 2 型糖尿病患者において、末 スーパーバイザー 四方賢一 槇野博史 梢血単球はすでに活性化され、炎症性サイトカインなどの遺伝子発現が亢進している ことが明らかになった。また、ピタバスタチンにより、活性化した末梢血単球の遺伝 子プロファイルを改善させる可能性が示唆された。そこで今年度は、糖尿病性腎症患 者において、末梢血単球が活性化されるメカニズムを明らかにする目的で検討を行っ た。 【方法】 実験 1:THP-1 細胞を高糖濃度条件(15mM Glcose)で 72 時間培養し、炎症関連遺伝 子発現を解析する。THP-1 細胞におけるピタバスタチンの抗炎症作用を検討する。 実験 2: cDNA マイクロアレイのデータを用いて、末梢血単球の活性化に関与すると 考えられる遺伝子について検討を行う。 研究報告 HMGCoA reductase inhibitor(スタチン)は、そのコレステロール低下作用のほ ( 得ら れた成 果 かに抗炎症効果を含む多面的な作用を持つことが知られている。 等) 昨年度までの研究において、糖尿病性腎症を有する 2 型糖尿病患者では末梢血単球 は活性化状態にあることが明らかになり、ピタバスタチンは活性化した末梢血単球の 遺伝子プロファイルを改善する可能性が示唆された。また末梢血単球において、小胞 体膜蛋白である selenoprotein S、GRP78 の遺伝子発現が糖尿病患者で上昇してお り、ピタバスタチン投与により低下する傾向が認められ、2 型糖尿病患者の末梢血単 球では小胞体ストレスの存在が示唆された。培養単球細胞(THP-1)においても、高糖 濃度条件下で TNF-α遺伝子発現は増加したが、ピタバスタチン(1nM)投与によりそ の増加は抑制され、スタチンの効果はメバロン酸により拮抗された。Selonoprotein S についても同様の傾向が認められており、引き続き検討していく予定である。 以上の結果より、糖尿病性腎症を有する 2 型糖尿病患者において、末梢血単球の活 性化しており、そのメカニズムとして小胞体ストレスの関与が考えられた。スタチン は小胞体ストレスの軽減を介して末梢血単球の活性化を抑制し、糖尿病性血管合併症 の抑制に寄与する可能性が示唆された。 24 平成 23 年度 ユニット研究報告書 4 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・ 病理学(免疫病理) ユニット・ リーダー 松川昭博 ユニット学生 学部学生:岡浩介(06420014)高須賀裕樹(06420045)住居優一(6420044)松本 正樹(06421080) ユニット研究名 炎症の病理学的・分子病理学的研究 研究計画 1. 炎症の病理学的解析 スーパーバイザー 松川昭博 サイトカインシグナル伝達因子改変マウスに劇症肝炎をマウスに誘発する。経時 的にマウスを屠殺し、血液、浸出液、臓器を採取する。これらのサンプルから各 種サイトカインの発現状況をRNA、タンパク両面から検索する。これにより、炎 症発現を調節するシグナル伝達因子の意義を確立する。研究成果の学会発表を目 指す。 2. 病理学的解析 臨床症例を元に、疾患の発症から経過を症候学、画像診断、治療経過を通して学 び、剖検肉眼診断、病理組織診断により症例の全経過を把握し、なぜ死に至った のか、を考察する。珍しいケースに関して、可能であれば英語論文で報告するよ う努力する。 研究報告 1. 炎症の病理学的解析 ( 得ら れた成 果 CD4+T細胞特異的にSOCS1が欠損したマウス(SOCS1-cKOマウス)および野生 等) 型 (WT)マウスにConA (15mg/kg)を静注して肝炎を誘導した結果、SOCS1-cKO マウスでは肝逸脱酵素(ALT)の値はWTマウスにくらべて有意に高く、組織学的 にも肝傷害の程度はSOCS1-cKOでより重篤であった。ConA投与後の肝臓におけ るIFNgのmRNA発現レベルはSOCS1-cKOで低く、IFNg 依存性ケモカイン CXCL9/CXCL10は両者間で差がなかった。以上よりCD4+T細胞SOCS1は肝炎防 御に働くことが示唆された。SOCS1はIFNgのシグナル伝達因子STAT1を制御す るため、SOCS1の欠如はIFNgのシグナルを過剰に伝達して肝炎増悪に働くと予 想されるがが、現在、詳細なメカニズムを解析中である。本研究成果は、第100 回日本病理学会(平成23年5月)で学生ポスターとして発表した。 2. 病理学的解析 剖検例での検討に加えて、大腸癌切除標本を集め、癌の組織深達度、分化度と癌 周囲に集積するマクロファージのフェノタイプ解析を免疫組織化学的に解析し た。癌の深達度が進み、低分化であるほどM2タイプのマクロファージが集積す る傾向を見出した。本成果は、第101回日本病理学会(平成24年4月)で発表予 定であり、現在も研究継続中である。 25 平成 23 年度 ユニット研究報告書 5 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・システム生理学 ユニット・ リーダー 片野坂友紀 ユニット学生 医学部6年・06418008・岩崎慶一朗 ユニット研究名 生体機械受容システムの生理的意義の解明と病態発症への役割 ~遺伝子改変マウスを用いたメカノセンサーの生理的意義の解明~ 研究計画 スーパーバイザー 成瀬恵治 研究目的 生体内では至るところで、伸展や剪断応力といった物理的な機械刺激が生じている。細 胞の機械受容システムを介して伝達されるこのような刺激は、単に生体にとって不利益な ストレスではなく、発生過程や臓器機能発現に不可欠な生体情報であることが次第に明ら かになってきた。しかしながら、機械受容システムの分子的基盤は未だ解明されておらず、 その生理的意義や病態発症における役割については、全く不明である。本研究では、分子・ 細胞・生体を網羅する独自のマルチレベル評価法に基づくトランスレーショナルリサーチ を展開して、生体の機械受容システムの分子的基盤と、その生理的意義を解明することを 目的とする。 平成23年度研究計画 これまでの研究から、我々の対象としているメカノセンサー分子は、様々な組織で広く 発現していることが明らかとなっている。平成 22 年に引き続きこれらの各組織において、 この分子をノックアウトしたマウスの表現型解析から、生体での機械受容システムの重要 性を明らかにする。 具体的には、 (1) メカノセンサーノックアウトマウスの各組織より細胞を単離し、メカノセンサーの欠 如が細胞の分化・分裂・死という運命決定にどのように関わっているかを明らかにする。 (2) 単離細胞を用いて、各組織における細胞のメカノトランスダクション経路を明らかに する。 (3) 生理学実験により、機械感受性、機械負荷に対する耐性を測定する。 (4) メカニカルストレスがヒトの疾患に如何に関わっているかについて明らかにする。 研究報告 細胞の運命決定におけるメカノセンサーの意義 ( 得ら れた成 果 我々の体を構成する細胞は、常にメカニカルストレスに負荷された状態にあり、最近の 等) 研究から、未分化な細胞はその後の細胞の運命の決定にメカニカルストレスを利用してい ることが知られてきている。我々は、心筋細胞と基底膜の結合を調節する分子、あるいは 心筋細胞間の連絡を調節する分子を発現しないように細工したノックアウトマウスを利 用して、心筋細胞の分化・成熟におけるメカニカルストレスの重要性を検討した。この結 果、(1)心筋細胞の基底膜との結合の減弱は細胞運動能を増加させるために、筋収縮装 置であるサルコメア形成が遅延すること、(2)心筋細胞同士の連絡の減弱は、心筋細胞 の同調拍動に障害が生じて筋の成熟化を妨げること、が明らかとなった。このことは、心 筋細胞の動的環境が細胞運命を決定する大きな要因であることを意味しており、筋成熟化 におけるメカノセンサーの生理的意義が大きいことを示している。 臓器予備能力の成熟化におけるメカノセンサーの意義 さらに我々は、心筋細胞間の連絡が減弱したノックアウトマウスの心臓は重篤な心不全 になることを示した。分子レベルの解析により、心筋細胞へのメカニカルストレス入力か ら成長因子産出までの経路を明らかにし、心拍に伴いこの経路が常時動いていることが心 臓生理機能を支えていることを明らかにした。また、このメカノセンサーノックアウトマ ウスは、圧負荷による肥大応答を示さないことも明らかとなった。以上の結果は、すべて 原著論文として投稿予定である。 26 平成 23 年度 ユニット研究報告書 6 教育・専攻分野 大学院 自然科学研究科・医用生命工学講座 スーパーバイザー ユニット・ リーダー 佐藤あやの ユニット学生 機能分子化学専攻・51422312・松田修一 ユニット研究名 iPS細胞を利用したがん幹細胞様細胞集団の誘導法の確立 研究計画 岡山大学 自然科学研究科 妹尾昌治教授のグループとともに、我々は、これまでに、 マウス人工多能性幹細胞(マウスiPS細胞)に、マウス肺がん細胞株LLCの培養上清を添 加すると、そのiPSが造腫瘍能を持つ細胞に変化する事を見出した (PLoS One, Accepted)。移植後、形成した悪性腫瘍を取り出し分析したところ、この腫瘍には、未 分化マーカーNanogの発現を保持した細胞と、保持しない細胞が混在することが明ら かになった。Nanogを発現する細胞集団は、iPS細胞のように自己複製を行っている と考えられ、がん幹細胞様の性質を有することが示唆された。また、Nanogを発現し ない細胞集団は、繊維芽細胞様形態をとることから、分化が起きたと考えられる。 以上の研究背景から、本研究では、がん幹細胞様細胞集団の誘導方法を確立すること を目的として、誘導の条件検討と、得られたがん幹細胞様細胞集団の特徴解析を行う 。 1) 誘導に利用するがん細胞株の検討—LLC細胞株以外のがん細胞株でも誘導可能か、 また特定の成長因子等の添加によっても誘導可能かどうかを調べ、誘導の最適化を行 う。 2) 誘導に要する時間の検討—上述のがん幹細胞様細胞集団は、一ヶ月間誘導したもの であるが、より短時間で同様の誘導が可能かどうかを調べ、誘導の最適化を行う。 3) 遺伝子発現変化の解析-iPSからがん細胞への誘導過程において、がん抑制遺伝子 や、インターフェロン等の細胞表面受容体の発現変化が起こるかどうかを調べる。前 者は、p53やp21等、既知のがん抑制遺伝子のqPCRによって、後者は、妹尾研究室で 開発された、細胞表面タンパク質に特化したcDNAマイクロアレイを用いることによ って、解析する。 ルイス肺癌細胞(LLC)の培養上清により誘導された細胞(miPS-LLCcm)では、 in vivo 研究報告 ( 得ら れた成 果 等) 佐藤あやの で顕著な血管新生が見られた。そこで、miPS-CSC をがん幹細胞のモデル細胞として用い、 がん幹細胞の機能のうち、特に自己複製の維持機構および近年新たに発見された機能であ る血管内皮細胞への分化機構に着目して、解析を行った。 未分化マーカー遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, Nanog)の発現パターンは、miPS-CSC と miPS で異なっていた。血管内皮マーカー遺伝子(VEGFR2, VE-cadherin)の発現は、全ての miPS-CSC で上昇していた。しかしながら、miPS-LLCcm でのみ、BD マトリゲル TM 上 で血管様構造の形成が顕著に見られ、上述の in vivo の結果と一致した。また、この血管 形成能が VEGF に非依存的であったことから、VEGF による VEGFR2 の刺激は、CSC の血管内皮分化に直接的には作用していない可能性が示唆された。 正常な幹細胞である miPS が、がん細胞由来の遊離の因子により CSC 様の miPS-CSC に 変化していることから、この因子が、CSC の自己複製能の維持に関与している可能性が高 く、現在、その因子を特定しようとしている。 以上より、miPS-CSC は、自己複製能、多分化能、造腫瘍能、血管内皮分化能など過去に 報告された CSC の機能を有する、非常に有用な解析モデルであると言える。 なお、本研究は、自然科学研究科 妹尾昌治教授の研究グループと共同で行われたもので ある。 27 平成 23 年度 ユニット研究報告書 7 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・細胞生理学 ユニット・ リーダー 松井秀樹 ユニット学生 細胞生理学・71421009・藤村篤史 ユニット研究名 悪性脳腫瘍幹細胞の細胞遊走における微小管および関連タンパク質の関与に ついての解析 研究計画 スーパーバイザー 松井秀樹 悪性脳腫瘍は集学的な治療をもっても未だに生命予後の著しく悪い腫瘍である。治 療の発展を拒む要素として、発生母地が脳という治療介入の制限される部位であると いうことと、術後再発のコントロールの難しさにある。特に後者については脳腫瘍幹 細胞(BTSC)として近年同定された細胞群が腫瘍辺縁に局在することから、再発母地 となる BTSC を手術では摘出しきれないという点が問題となっている。BTSC がな ぜ腫瘍辺縁に局在するのかという研究については近年徐々に明らかになりつつある が、それでもなおこれら BTSC をターゲットとした治療については戦略がたってお らず、その見通しは決して楽観的ではない。 我々の教室ではこれまでタンパク質導入法を用いた治療法を、腫瘍を含めた種々の 疾患をターゲットとして開発してきた経緯があるが、今回脳腫瘍のうち特に BTSC をターゲットとした治療戦略をたてて研究を進めていく。BTSC は自己複製能、腫瘍 発生能、高度な細胞遊走能などに特徴づけられるが、本研究では特に後者の遊走能に 関して研究計画をたてる。具体的には、BTSC の遊走を制御する因子の同定およびそ の抑制因子の開発などである。前年度研究において、「遊走を制御する因子」は同定 されたため、本年度はそれらを応用して BTSC の遊走を制御する因子を開発するこ とを目標とする。 研究報告 本年度の研究においては、我々の研究ユニットは悪性脳腫瘍のヒト細胞株および ( 得ら れた成 果 BTSCに共通する「遊走制御因子」を同定、解析した。その結果、今回の研究で我々 等) の研究ユニットが同定したタンパク質は、当初の予想と反して、細胞遊走を促進する ことで結果として悪性脳腫瘍の浸潤を促進する因子であることが判明した。このタン パク質の発現制御については非常に興味深く、脳腫瘍において増悪因子として知られ る低酸素環境において強く発現誘導されることが判明した。 そのため、上記研究計画のように、細胞膜透過型に改変した同タンパク質は脳腫瘍 制御においては増悪因子としてふるまうことが予想されるため、治療方法の確立には 寄与しないと考えられる。本年度の研究結果は治療方法の確立には寄与しないもので はあったが、悪性脳腫瘍の浸潤メカニズムおよび低酸素環境がどのようにして悪性脳 腫瘍細胞の拡散を促進しているかという分子機構を、詳細に解析することができた。 本年度の研究結果は、現在論文投稿準備中である。 28 平成 23 年度 ユニット研究報告書 8 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・細胞生理学 ユニット・ リーダー 道上宏之 ユニット学生 医学部医学科・06418012・畝田篤仁 ユニット研究名 グリオーマ細胞に対する細胞膜透過型p53C末端ペプチドの抗腫瘍効果の検討と そのメカニズムについて 研究計画 スーパーバイザー 松井秀樹 P53 の status がそれぞれ異なるグリオーマ細胞である U251、U87、LNZ308 に 対する p53C 末端ペプチドの効果をまず vitro で評価する。細胞殺傷がアポトーシス、 ネクローシス、オートファジーのいずれかであるかを評価する。P53 の下流に存在す るタンパクや mRNA の変化をウェスタンブロッティングや RT-PCR により調べる。 皮下腫瘍モデルヌードマウスを作成し、p53C 末端ペプチドの効果を評価する。 昨年度の研究でグリオーマ細胞を用いた vitro での p53C 末端ペプチドによる腫瘍 抑制効果がみられた。また、p53C 末端ペプチドによる細胞殺傷メカニズムはグリオ ーマにおいては従来いわれていたアポトーシスではなくオートファジー細胞死であ ることがウェスタンブロッティングや蛍光蛋白付 LC3 マーカーを発現させた細胞の 顕微鏡画像評価によりわかった。 本年度は、既存の別の薬剤とのシナジー効果や、ヌードマウス皮下腫瘍モデルにお ける検討を行う。 研究報告 P53C 末端ペプチドと相乗効果を示す可能性のある薬剤として、いくつかのオート ( 得ら れた成 果 ファジー誘導剤と相乗効果を持つことが報告されているクロロキンが候補として考 等) えられた。そこで、グリオーマ細胞である U251、U87 に対して p53C 末端ペプチド とクロロキンとの併用による効果を調べたところ、それぞれの単独付加と比較して、 より強い細胞殺傷効果を示した。 またヌードマウスU87皮下腫瘍モデルにクロロキン、p53C末端ペプチドを投与し たところそれぞれにおいて腫瘍増殖抑制効果が認められ、併用においては最も強い腫 瘍増殖抑制効果がみられた。 29 平成 23 年度 ユニット研究報告書 9 教育・専攻分野 大学院 医歯薬学総合研究科・細胞生理学 スーパーバイザー 松井秀樹 ユニット・ リーダー 西木禎一 ユニット学生 医学部医学科・06419080・松崎光博 ユニット研究名 脳内オキシトシンの新規作用の解明 研究計画 ホスホジエステラーゼ阻害薬(シルデナフィル)や亣尾行動によって脳内オキシトシ ンの上昇が誘起されるメカニズムや、それらを利用しオキシトシンによる抗うつ作用 や抗不安作用が起こる分子メカニズムを解明する。 研究報告 性的機能不全治療薬であるシルデナフィルを投与するとオキシトシンの分泌を介し ( 得ら れた成 果 て、抗うつ効果を示すこと、また、オキシトシン受容体の下流シグナル経路にMAP 等) キナーゼカスケードやCREBのリン酸化が関与していることを指導教員と共に国際 誌(neuroscience 200, 13-18,2012)に発表した。 また、この研究成果を第63回日本生理学会中国四国地方会で講演し、第34回日本神 経科学大会や本学主催の先端医学研究のトレンド2012やARTシンポジウムでポスタ ー発表を行った。 30 31 平成 21 年度 組織的な大学院教育改革推進プログラム採択事業 「ART プログラムによる医学研究者育成」 平成 21-23 年度 開催セミナーおよびシンポジウム 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 平成 21 年度 開催セミナーおよびシンポジウム 第 1 回セミナー「先輩達や仲間の声を聞こう!」 (卒研センターならびに国際化プログラム ITP との合同開催) 日時:2009 年 6 月 5 日(金)18:00〜21:00 演者:岡山大学病院研修医/ART 大学院生 井筒 将斗 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 概要:H21 年度から岡山大学発の ART プログラムが日本で初めてスタートしたのを受け、 先輩達や仲間の声を聞き、学生・教員が情報交換するための ART セミナーを定期的に開催し ていく。 第2回セミナー 日時:2009 年 7 月 3 日(金)18:00〜21:00 演者:岡山大学病院研修医/ART 大学院生 泌尿器病態学・准教授 藤村 篤史 那須 保友 演題: 「研修医の立場から」(藤村 篤史) 「医師としての多様なキャリアパス。今から一緒に考えよう!」 (那須 保友) 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 第 3 回セミナー 日時:2009 年 9 月 4 日(金)18:00〜21:00 演者:岡山大学遺伝子・細胞治療センター 細胞生理学・教授 田澤 大 松井 秀樹 演題: 「外科医から遺伝子治療医へ 〜卒後 14 年間を振り返って〜」 (田澤 大) 「ART プログラム―大学院 GP に採択される」(松井 秀樹) 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 概要:これから医師を目指す医学生や研修医の方々の参考となるよう、田澤先生から、卒業 後に外科医からがん研究者、そして臨床研究者を目指すに至った 14 年間の経緯を語って頂い た。基礎研究と臨床研究の橋渡しの重要性や、遺伝子・細胞治療センターで取り組んでいる テロメライシンについてもお話し頂いた。 1 第 4 回セミナー(ITP との合同開催) 日時:2010 年 1 月 8 日(金)18:00〜21:00 演者:生化学・教授 竹居 孝二 免疫病理学・教授 松川 昭博 分子医化学・客員研究員/循環器内科学・医員 生体機能再生・再建学 医員 上川 滋 佐々木 剛 演題: 「岡大 ITP:成果と展望」 (竹居 孝二) 「ミシガン大学について」 (松川 昭博) 「虚血性心疾患における細胞外マトリックスの役割の検討」 (上川 滋) 「ミュンスター大学病院整形外科にて」 (佐々木 剛) 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 国際シンポジウム in 直島(医学研究インターンシップ MRI と ITP との合同開催) 日時:2010 年 2 月 13 日(土)〜14 日(日) 場所:ベネッセハウス パークホール(香川県香川郡直島町) プログラム: 2 平成 22 年度 開催セミナーおよびシンポジウム 第 1 回セミナー(ITP との合同開催) 日時:2010 年 6 月 4 日(金)18:00〜21:00 演者:大学院医歯薬学総合研究科・博士課程大学院生 岩室 雅也(消化器・肝臓内科学) 大学院医歯薬学総合研究科・博士課程大学院生 増本 年男(細胞生理学) 大学院医歯薬学総合研究科・博士課程大学院生 横山 裕介(整形外科学) 演題: 「iPS 細胞からの肝細胞分化誘導の現状とピッツバーグ大学での展望」 (岩室 雅也) 「神経伝達物質の開口放出に関わるタンパク質の FRET 法による相互作用」 (増本年男) 「ミュンスター大学への留学」 (横山 裕介) (座長:大学院医歯薬学総合研究科・博士課程大学院生 佐々木 剛(整形外科学)) 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 概要: 今年度 ITP の海外派遣予定の 3 人の若手研究者に、派遣前セミナーというテーマで、 各々の研究発表をして頂いた。学部生や ART 大学院生にとっては、近い将来の自らのキャリ アアップモデルとして聴いて頂けた。 第2回セミナー(ITP/異分野研究連携育成支援事業との合同開催) 日時:2010 年 7 月 2 日(金)18:00〜21:00 演者:名古屋大学・大学院医学系研究科・教授 曽我部 正博 (生化学分野・山田 浩 先生 招聘) 演題: 「メカノバイオロジーの誕生:細胞力覚のしくみと医学への展開」 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 概要:「メカノバイオロジーの誕生:細胞力覚のしくみと医学への展開」というタイトルで、 ご講演頂いた。最近、細胞の機械刺激感知・応答能(細胞力覚)が生命活動を支える根幹機 能であることが明らかになり、メカノバイオロジーという新融合領域が誕生した。本講演で は、細胞力覚の主役であるメカノセンサー(MS チャネルや細胞骨格)の生物物理学とその 生理学的役割、さらには医療や創薬への応用可能性についてご紹介頂いた。 第 3 回セミナー(第 7 回日本病理学会カンファレンスを支援する形で開催) 日時:2010 年 8 月 6 日(金)〜7 日(土) 演者および演題: 3 ➤岩倉洋一郎(東京大学医科学研究所) :免疫,骨代謝に於ける C 型レクチンの役割 ➤梅沢一夫(慶応義塾大学生命科学分野) :低分子シグナル伝達阻害剤の探索と病態解析・医薬開発への応用 ➤大島正伸(金沢大学がん研究所腫瘍遺伝学研究分野) :胃がん発生を促進する炎症反応の分子機序 ➤岡田保典(慶応義塾大学病理学) :メタロプロテアーゼ(MMP/ADAM)の病理学的研究: ADAM28 の癌細胞増殖・転移での役割を中心にして ➤柴田龍弘(国立がんセンター研究所病理部):ゲノム解読から見たウイルス性肝発がん ➤竹田潔(大阪大学大学院医学系研究科免疫制御学) :自然免疫系の活性制御と炎症性腸疾患 ➤仁木利郎(自治医科大学病理学) :癌と創傷治癒-浸潤先進部の研究から考えたこと ➤畠山昌則(東京大学大学院医学系研究科微生物学) :胃癌発症におけるヘリコバクター・ピロリの役割 ➤松川昭博(岡山大学大学院医歯薬学研究科病理) :炎症とサイトカインシグナル伝達 ➤森井英一(大阪大学大学院医学系研究科病理病態学) :炎症の腫瘍動態への影響について (免疫病理学分野・松川 昭博 教授主催) 場所:岡山コンベンションセンター 概要: 日本病理学会カンファレンスとのジョイントセミナーとして開催された。10 名の第 一線の招待講演者のレクチャーに加え、19 題のポスター演題があり、「炎症と免疫、癌」を メインテーマに活発な意見交換が行われた。ポスター内訳は、岡山大学から 7 題、川崎医科 大学から 3 題、広島大学と札幌医科大学から 2 題、九州大学、東京医科歯科大学、熊本大学、 福岡大学、広島鉄道病院、から各 1 題であった。 第 4 回セミナー(ITP との合同開催) 日時:2010 年 7 月 23 日(金)18:00 ~21:00 演者:エール大学・細胞生物学講座 佐伯 恭範 博士(岡山大学医学部 H16 年度卒業) 演題: 「線虫を用いた神経研究:電位依存性カルシウムチャンネルの局在機構」 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 概要:佐伯先生は、本学の H16 年度の卒業生であり、 学部 3 年次の医学研究インターンシ ップ 第1期生 として、ハーバード大学の Olsen 教授と本学の先輩である植木先生に指導を 受けた後、卒業まで細胞生理学教室で研究を続けられた。本学卒業後、医師免許取得されな がら、ロックフェラー大学大学院に進学し、Bargmann 教授研究室で、モデル生物である線 虫を用いた神経終末(シナプス)における電位依存性カルシウムチャンネルの局在機構の解 明に取り組んでこられた。今回は、神経回路形成を担う新規分子を発見しその機能を解明し た博士論文研究について、研究のプロセスや研究室の様子等も交えながら、学部生、修士大 学院生にもわかりやすくお話して頂いた。 4 第 5 回セミナー 日時:2010 年 9 月 10 日(金)18:00〜21:00 演者:岡山大学病院研修医/ART 大学院生 分子医薬品情報学・教授 大塚 智昭 綿矢 有佑 演題: 「FAQ~ART の疑問と不安を解消します~」 (大塚 智昭) 特別講義 「新しい抗マラリア薬開発への道のり」 (綿矢 有佑) 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 概要:大塚先生は医学科 6 年次から科目等履修生(Pre-ART 生)を経験され、現在の ART 大学院生と研修医を両立されている立場から話して頂いた。Pre-ART 生、ART 大学院生へ の登録を考えている学部生にとって、情報交換できる絶好の機会となった。特別講義として 綿矢先生には、最近の研究成果、特に抗マラリア剤の探索研究と応用に向けた取り組みにつ いてご講演頂き、学生のみなさんにとって大いに勉強になった。 第 6 回セミナー 日時:2010 年 9 月 29 日(水)16:30〜18:00 演者:自然科学研究機構生理学研究所・発達生理学研究系 ・生体恒常機能発達機構研究部門・教授 鍋倉 淳一 演題: 「in vivo 多光子顕微鏡によるミクログリアのシナプス監視」 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院講義室(基礎医学棟 2F) 概要:神経回路形成の制御機構の研究で世界的にご活躍の鍋倉淳一先生を生理学研究所から お招きした。先生のご研究の特徴は、二光子励起顕微鏡を用いた in vivo イメージングにある。 GFP が神経細胞に発現している遺伝子改変マウスを用いて麻酔下で行われているため、同じ 動物の同じ神経細胞を「生きている状態」で経時的に観察することができる。このような最 新技術を駆使され、大脳皮質の神経回路の発達や、障害後の神経回路およびグリアの長期的 でダイナミックな変化を観察されている。 第 7 回セミナー 日時:2010 年 11 月 25 日(木)18:45〜21:00 演者:ハーバード大学・公衆衛生大学院・教授 Dr. Ichiro Kawachi Department of Society, Human Development, and Health 演題:特別講演「Introduction to “Social” Epidemiology - Why Japanese people live so long? - 」 5 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 概要: 日本人の長寿は有名であり、この要因として、①遺伝子、②生活習慣、③医療体制、 ④社会的要因が考えられる。①~④に目を奪われがちであるが、実際には、これらだけでは 十分に説明できず、⑤社会的要因の重要性、が高まっている。特に保健分野では、個人介入 への限界の反省と相まって、集団へのアプローチという考え方が重要視されるようになって きている。このような視点で整理すると、①~④は人間個人に対してダウンストリーム(下 流)にある要因となるが、一方で、⑤はアップストリームファクターであることが分かる。 経済成長の期待しにくいわが国では、健康長寿を維持・達成する上で、すでに社会や地域に 存在している社会的要因、たとえば、 「地域力」のようなものに目を向け、活用していくこと は、今後いっそう重要になってくるものと思われる。 「上医は国をいやす」と言うが、これか らの保健医療職にとって、このようなマクロの視点は欠かすことのできないものとなること が考えられ、これに際し本講演は極めて良い機会となった。 第 8 回セミナー(L-ART 大学院生の募集セミナー) 日時:2010 年 12 月 22 日(水)10:00〜15:00 演者および演題: ➤医歯科学専攻長:松井秀樹 教授「L-ART で進む岡大医学修士のススメ」 ➤在学生: 「私が L-ART の医学修士を選んだ理由」 「研究もして内定ももらいました」 「L-ART は博士に進むサポートありです」 ➤各研究室による研究内容説明 ➤らんちたいむディスカッション L-ART の先輩たちと直接話ができる絶好のチャンス! 研究室の裏側、院試のアドバイス、就活の実情など ➤個別研究室見学 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 第 9 回セミナー(国際シンポジウム サテライトセミナーⅠ) 日時:2011 年 1 月 24 日(月)18:00 ~20:00 演者:パリ神経科学大学院 (ENP: École des Neurosciences Paris Île-de-France ) フランス国立衛生医学研究所 (INSERM) Fer à Moulin 研究所 Dr. Matthias Groszer 6 演題: 「Monogenetic neurodevelopmental disorders – molecular windows into complex neuropsychiatric syndromes」 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 概要:神経発達障害と精神神経疾患との関わりについてわかりやすく解説頂いた。医学研究 インターンシップの海外派遣先として協力いただいている ENP についてもご紹介頂いた。 第 10 回セミナー(国際シンポジウム サテライトセミナーⅡ) 日時:2011 年 1 月 28 日(金)17:00 ~19:00 演者:パリ神経科学大学院 (ENP: École des Neurosciences Paris Île-de-France ) パリ第6大学 (UPMC:L’Université Pierre et Marie Curie) フランス科学研究局 (CNRS: National Center for Scientific Research) Dr. Jean Mariani 演題: 「The nuclear receptor RORalpha: a critical actor in the neuron-astrocyte dialogue」 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 国際シンポジウム in 後楽園(MRI および ITP との合同開催) 日時:2011 年 1 月 29 日(土) 場所:後楽園(岡山県岡山市) プログラム: 7 第 11 回セミナー(国際シンポジウム サテライトセミナーⅢ) 日時:2011 年 1 月 31 日(月)18:00 ~20:00 演者:パリ神経科学大学院 (ENP: École des Neurosciences Paris Île-de-France ) パリ第7大学 (UPMC:Université Paris Diderot) フランス国立衛生医学研究所 (INSERM) ジャック・モノ研究所 Dr. Thierry Galli 演題: 「Of SNAREs and Rabs in membrane trafficking - the case of the VAMP7 pathway in axonal growth」 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 概要:細胞内膜輸送の分子機構について、SNARE タンパクと Rab タンパクの働きを中心に お話し頂いた。医学研究インターンシップの海外派遣先のためフリーディスカッションタイ ムも設定した。 8 平成 23 年度 開催セミナーおよびシンポジウム 第 1 回セミナー(L-ART 大学院生の募集セミナー) 日時:2011 年 5 月 20 日(金)14:00〜17:30 演者および演題: ➤医歯科学専攻学務委員:竹居 孝二 教授「L-ART へようこそ」 ➤在学生が紹介する L-ART 大学院生活 「私が L-ART の岡大修士を選んだ理由」 「L-ART での研究成果を学会で発表します」 「L-ART で博士に進学します」 ➤各ユニットリーダーによる研究内容説明 ➤個別研究室見学 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 第2回セミナー 日時:2011 年 5 月 25 日(水) 18:00~20:00 演者:東京大学 システム生物医学ラボラトリー・ 准教授 和田 洋一郎 演題: 「超高速シーケンサーが明らかにした転写に伴うダイナミックな染色体構造変化と 新たな転写装置の概念」 (神経ゲノム学分野・筒井 公子 教授招聘) 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 概要:慢性炎症刺激である TNF alpha (TNFα)が 500 以上の遺伝子を系統的に活性化し、そ の後、経時的に終息させることを見出した。この高次生命現象における経時的転写調節機序 を解析し、活性化 Pol II が遺伝子上を個別に進む“線形モデル”ではなく、組織化された Pol II が活性化された遺伝子群を取り込んで転写を行う “ファクトリー仮説”を支持する結果 を得た。今回、最新の技術が新しい知見をもたらすこと、そしてその結果に基づき、生物学 に新しいアイディアが生まれる実例として、現代版転写ファクトリー仮説を紹介して頂いた。 第 3 回セミナー 日時:2011 年 6 月 8 日(水) 18:00~20:00 演者:岡山大学・大学院自然科学研究科 ・機能分子化学専攻 医用生命工学講座 ・助教 9 北松瑞生 演題: 「水溶性ペプチド核酸が拓く創薬の未来」 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 概要:1991 年、Nielsen らによって開発されたペプチド核酸(PNA)は、天然の核酸と極めて 安定かつ塩基配列特異的に2重鎖を形成し、さらに生体内でヌクレアーゼやプロテアーゼに 対して安定であることから、核酸医薬として注目されている。しかし PNA には水溶性が低 いという欠点があり、これが創薬への応用を困難にしている。本講演では、このような難点 を克朋できるような水溶性の高い PNA の開発について、最近の結果も含めてお話しして頂 いた。 第 4 回セミナー(L-ART 大学院生の募集セミナー) 日時:2011 年 6 月 24 日(金)14:00〜17:30 演者および演題: ➤医歯科学専攻長:松井 秀樹 教授「L-ART へようこそ」 ➤在学生が紹介する L-ART 大学院生活 「私が L-ART の岡大修士を選んだ理由」 「L-ART での研究成果を学会で発表します」 「L-ART で博士に進学します」 ➤LAB TOUR ➤先輩と話そう! ➤個別研究室見学 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 第 5 回セミナー(第 38 回岡山脳研究セミナーとの共催) 日時:2011 年 6 月 25 日(土) 演者および演題: ➤「神経細胞におけるエンドサイトーシス関連タンパクによるアクチン細胞骨格制御」 山田 浩司(岡大・院・医歯薬・生化学) ➤「生体での機械感覚を受容する分子の同定~生体はメカニカルストレスをどのように利 用しているのか~」片野坂 友紀(岡大・院・医歯薬・システム生理学) ➤「抗体医薬による血管疾患治療と創薬プラットホーム構築」 西堀 正洋(岡大・院・医歯薬・薬理学) ➤「Role of inositol 5-phosphatases in the endocytic pathway」 中津 史(Yale Univ 医 細胞生物) 10 ➤「神経細胞の極性形成の仕組みを探る」 貝淵 弘三(名大・院・医・高等研究院・細胞情報薬理学) ➤「プリン作動性神経伝達における小胞型ヌクレオチドトランスポーターの意義」 宮地 孝明(岡大・院・医歯薬・ゲノム・生体膜機能生化学) ➤「ニトロソ化ストレスによる神経細胞死惹起」 上原 孝(岡大・院・医歯薬・薬効解析学) 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 第 6 回セミナー 日時:2011 年 7 月 6 日(水)18:00 ~19:00 演者:九州大学 生体防御医学研究所・ゲノム病態学分野・講師 丸本 朊稔 先生 演題: 「Development of a Novel Mouse Glioma Model Using Lentiviral Vectors」 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院第 1 講義室(基礎医学棟 2F) 概要:膠芽腫(以下 GBM)は、成人原発性脳腫瘍の中でも発生頻度が高く、かつ最も悪性 の腫瘍である。GBM 患者に対する標準的治療法での平均予後は1年余りであり、新規治療 法の開発は危急の課題である。GBM の治療法開発が進まないのは、その発生、進展の分子 メカニズムの理解が不足していることに加え、新規治療薬の開発に適した動物モデルが存在 しないことが大きな原因の一つであった。丸本先生らは最近、成体マウス大脳において細胞 種特異的かつ領域特異的に癌遺伝子を発現することのできる Cre リコンビナーゼ制御レンチ ウイルスベクターを開発し、このベクターを直接インジェクションすることにより、p53 ヘ テロ接合型 GFAP-Cre マウスの傍脳室領域及び海馬において星細胞特異的に H-Ras 及び AKT を同時に活性化させたところ、ヒト GBM と極めて類似する腫瘍が形成されることを報 告した。今回開発された新規マウス脳腫瘍モデルは脳腫瘍形成の分子機構並びに脳腫瘍幹細 胞の生物学的特性を明らかにするのに役立つと考えられ、さらには悪性脳腫瘍に対する新規 治療薬の開発に適した動物モデルとしても極めて有用なツールとなるものと期待される。本 セミナーでは上記新規脳腫瘍モデルを紹介するとともに、このモデルを用いて明らかとなっ た腫瘍細胞由来腫瘍血管内皮細胞形成機構についても紹介して頂いた。 第 7 回セミナー(Pre-ART 生グループ主催によるシンポジウム) 『The Mystery of Life〜もう一つのハーバード白熱教室〜』 日時:2011 年 8 月 17 日(水) 講師:米国ハーバード大学細胞生物学・教授 Bjorn R.Olsen(ビヨン・R・オルセン)博士 演者および演題: 11 ➤Lecture by Professor Bjorn R.Olsen 「How a student's interest in science developed into a life-long passion for discovery」 ➤ Presentation by medical students 「What students of Okayama Univ. have achieved in the Medical Research Internship so far」 ➤Lecture by Prof. Olsen 「Conversion of vascular endothelial cells to multipotent stem cells」 場所:岡山大学 国際交流会館 概要:今回は「もう一つのハーバード白熱教室」と題して、ハーバード大学分子生物学教授 オルセン博士をお招きし、「生命の神秘」についてご講演頂いた。一番の目玉は講演後の Discussion で、学生みなさんが考えていることや感じたことをわかち合い、講演全体を盛り 上げた。 第 8 回セミナー 日時:2011 年 8 月 31 日(水) 18:00~20:00 演者:熊本大学 大学院生命科学研究部・分子生理学分野・教授 富澤 一仁 演題: 「アジア人種型2型糖尿病発症の分子機構」 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 概要:欧米人とアジア人では、2 型糖尿病の病態が異なることが知られている。欧米人では、 インスリン抵抗性が顕著に見られるが、アジア人種では約半数の糖尿病患者ではインスリン 抵抗性がみられず、インスリン分泌が尐ないことに起因する糖尿病が多いと考えられている。 2007 年以降、2 型糖尿病患者のゲノムワイド関連解析が世界中で盛んに実施されており、糖 尿病発症と関連のある遺伝子多型が次々と明らかになっている。その一つとして Cdk5 regulatory subunit-associated 1 like 1(Cdkal1)が同定された。cdkal1 遺伝子に危険アレ ルを保有するヒトでは、インスリン分泌が悪く、また同危険アレルはアジア人種が多く保有 していることが明らかになった。これまで、Cdkal1 は生理機能が全く不明の分子であったが、 富澤先生らは tRNA 修飾酵素であることを突き止めた。本セミナーでは、アジア人種型 2 型 糖尿病発症の分子機構ついて最新の知見を紹介して頂いた。 第 9 回セミナー 日時:2011 年 9 月 21 日(水) 18:30〜20:00 演者:宮崎大学・医学部・内科学講座・神経呼吸内分泌代謝学分野・教授 中里 雅光 演題: 「基礎研究の成果を臨床応用に展開する橋渡し研究の進歩」 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 12 第 10 回セミナー(L-ART 大学院生の募集セミナー) 日時:2011 年 9 月 30 日(金)13:00〜17:30 演者および演題: ➤ART プログラム代表:松井 秀樹 教授「L-ART で進む岡大医学修士」 ➤在学生の体験談 「私が L-ART の岡大修士を選んだ理由」 「L-ART は博士に進むサポートありです」 ➤LAB TOUR ➤先輩と話そう! ➤個別研究室見学 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 第 11 回セミナー 日時:2011 年 10 月 12 日(水) 18:00~20:00 演者:熊本大学 大学院生命科学研究部・分子生理学分野・助教 魏 范研 演題: 「tRNA 修飾の生理機能及び病態との関わり」 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院セミナー室(基礎研究棟 1F) 概要:今回は、当研究科大学院出身の魏 范研先生をお招きした。魏先生は、博士課程在籍中、 「Cdk5-dependent regulation of glucose-stimulated insulin secretion.」のテーマで、 Nature Medicine に論文掲載され、岡山医学会賞(結城賞)も受賞されている。Yale 大学 医学部・分子精神学分野での HFSP 長期フェロー研究員を経て、現在は、第 8 回 ART セミ ナーでご講演くださった富澤一仁教授の研究室(熊本大学分子生理学分野)で助教として教 鞭を執る傍ら、新規糖尿病関連タンパク質 Cdkal1 の解析(J. Clin. Invest., 2011)をはじめ、 様々な研究に大変精力的に取り組まれている。今回は tRNA 修飾とその生理学的意義、さら には病態との関係について最近の知見を交えご講演頂いた。 国際シンポジウム in 牛窓(MRI および ITP との合同開催) 日時:2011 年 1 月 28 日(土)〜29 日(日) 場所:ホテルリマーニ(岡山県瀬戸内市牛窓町) 13 プログラム: 第 12 回セミナー(国際シンポジウム サテライトセミナーⅢ) 日時:2012 年 1 月 30 日(月)16:30~19:30 演者:パリ神経科学大学院 (ENP: École des Neurosciences Paris Île-de-France ) パリ第 6 大学 (UPMC) フランス国立衛生医学研究所 (INSERM) Dr. Patricia Gaspar, MD, PhD 演題: 「Genetic investigations on the organization of serotoninsystem: implications in anxiety disorders」 場所:岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 大学院講義室(基礎医学棟 2F) 概要:セミナ―の前後に、ART プログラムや Pre-ART 登録についての説明会も開いた。 ENP に関して、Gaspar 先生に直接質問できる Q&A タイムを設けた。 14 15 Proceedings MRI, ART & ITP International Symposium Hotel Limani, Ushimado January 28-29, 2012 本シンポジウムは、岡山大学医学部医学科3年次生の医学研究イン ターンシップ(MRI)プログラム、および、若手研究者の海外派遣 による国際人育成プログラム (ITP)と合同で開催いたしました。 ART プログラムに関するページのみ抜粋し、掲載しております。 PROGRAM Day 1 (January 28) 12:00 Opening Address 12:10 SESSION 1 Luncheon Seminar Yoshifumi Ninomiya (Director, MRI) Hideki Matsui (Director, ART ) Kohji Takei (Director, ITP) 13:00 Invited Lecture 1 Patricia Gaspar, M.D.,Ph.D. (Director, Ecole des Neurosciences de Paris-Ile de France) 14:10 SESSION 2 MRI 2011 Report Meeting ………………………… p.1-3 4 oral presentations (Chairperson: Yoshito Nishimura) 15:10 Coffee Break 15:30 SESSION 3 ART 2011 Report Meeting ………………………… p.4-9 5 oral presentations (Chairperson: Atsushi Fujimura) 17:00 Poster Session Odd Posters 17:00-17:25 Even Posters 17:25-17:50 MRI: 14 poster presentations ………………………………… p.10-17 ART: 13 poster presentations ………………………………… p.18-31 ITP: 18:00 8 poster presentations ………………………………… p.32-40 Special Session Brain x Music Pianist: Naoko Nakashima (Kurashiki Sakuyo University) 19:00 Reception Day 2 (January 29) 9:00 Invited Lecture 2 Dennis Bruemmer, M.D.,Ph.D. (Associate Professor, University of Kentucky) 10:00 SESSION 4 ITP 2011 Report Meeting ………………………… p.41-44 3 oral presentations (Chairperson: Toshio Masumoto) 11:00 Invited Lecture 3 Hideaki Nagase, Ph.D. (Professor, University of Oxford, The Kennedy Institute of Rheumatology) 12:00 Closing Address i ピアノ 演台 司会 Lectures, Oral Sessions 110席 ART MRI Poster Session ITP ドリンク& サンドウィッチ 受付 ART 7 6 5 4 6 5 7 4 8 9 10 MRI 3 2 1 11 12 13 7 6 5 4 3 2 1 8 9 10 11 12 13 14 15 3 8 ITP 2 1 Poster Session Layout ii Presentation Index Oral Session Presenting Author Oral # Title Page MRI-1 福本侑麻 Yuma FUKUMOTO 脊椎動物における外眼筋の形態研究 2 MRI-2 高路真由 Mayu KORO 皮膚感染症における表皮角化細胞の免疫学応答に関する研究 2 MRI-3 赤井弘明 Hiroaki AKAI ビーズを用いたオートファゴソーム膜の単離の試み 3 MRI-4 松岡勇斗 久保飛鳥 Yuto MATSUOKA 小脳オリゴデンドロサイトのダイナミックムーブメントの観察 3 Asuka KUBO がん原遺伝子 c-Met のシグナル伝達と細胞内輸送 5 Akiko MISAWA エンドソームにおけるカベオリンの輸送制御機構 6 ART-3 三澤晶子 神原由依 Yui KANBARA 7 ART-4 逸見祐次 Yuji HENMI HIV-1タンパク Nefによる CD4分解経路の検討 ダイナミン 2は微小管を介してアクチンコメットを制御する ART-5 藤村篤史 Atsushi FUJIMURA 9 ITP-1 斎藤太一 Taichi SAITO ITP-2 長谷井嬢 Jo HASEI ITP-3 髙橋索真 Sakuma TAKAHASHI CyclinG to the Edge: A Novel Role of Cyclin G2 in GBM Migration Antibodies against syndecan-4 reduce cartilage destruction and the progression after onset in RA-like disease of hTNF transgenic mice Cytotoxic effect of zoledronate on the osteosarcoma and chondrosarcoma cell lines Suppressed production of pro-inflammatory cytokines from macrophages after severe sepsis might be related with histone epigenetic changes ART-1 ART-2 8 42 43 44 Poster Session Poster # Presenting Author Title Page MRI-1 真鍋星 Sei MANABE 経鼻投与型インフルエンザワクチンにおける新規アジュバントの検討 11 MRI-2 吉村翔平 Shohei YOSHIMURA ADAM10 Expression is Regulated by Amyloid-Beta through JNK/AP-1 Pathway 11 MRI-3 赤井弘明 Hiroaki AKAI ビーズを用いたオートファゴソーム膜の単離の試み 12 MRI-4 山上圭 Kei YAMAGAMI Investigate the Role of RORα in Astrocyte-Microglial Crosstalk through the Soluble Factors 12 MRI-5 桑原正樹 Masaki KUWABARA Construction of conditional KO mouse 13 MRI-6 渡辺倫江 Clostridium perfringens Spore Germination 13 Society and Health 14 MRI-8 岩井なつき 花田沙穂 畑山一貴 Michie WATANABE Natsuki IWAI Saho HANADA Kazuki HATAKEYAMA Growth and expansion of neurological AVM in mice 14 MRI-9 田岡奈央子 Naoko TAOKA The Regulation of IGFBP3 by Tumor Microenvironment in ESCC 15 MRI-10 三村裕美 Yumi MIMURA 生殖器の組織学 15 MRI-11 藤井香菜江 Kanae FUJII Angiogenesis of Oocyte 16 MRI-12 石田光 Hikaru ISHIDA 緑内障と細胞死 16 MRI-13 羽田野裕 Yutaka HATANO マウス腸管におけるREIC/Dkk3の発現とその意義 17 MRI-14 猿渡和也 Kazuya SARUWATARI 電位依存性イオンチャネルの伸展刺激に対する反応について 17 ART-1 品岡玲 Akira SHINAOKA 19 ART-2 清水俊彦 Hiroaki SHIMIZU Subendothelial architecture of small blood vessel elastic fibers 頭蓋外浸潤性髄膜腫の免疫組織学的検討 Immunohistochemical analysis of extra cranial invasive meningioma ART-3 瀧内麻里 Mari TAKIUCHI せつ腫症におけるPanton-Valentine型ロイコシジン(PVL)の役割 21 ART-4 升田智也 癌患者血液中の癌関連線維芽細胞の検討 22 ART-5 山口哲志 山村裕理子 Tomoya MASUDA Satoshi YAMAGUCHI Yuriko YAMAMURA Identification of miRNAs, which are regulated in obesity and insulin resistance 23 ART-6 山本治慎 Haruchika YAMAMOTO マウス肺虚血モデルを用いての虚血再灌流障害に関与する因子の検討 24 ART-7 井川卓朗 Takuro IGAWA Cyclin D2 is overexpressed in proliferation centers of CLL/SLL 25 ART-8 菊池達也 Tatsuya KIKUCHI 26 ART-9 松崎光博 Mitsuhiro MATSUZAKI Phosphorylation of cortactin by PKC is a key factor for filopodia formation of growth cone Antidepressant effect of mating behavior and sildenafil through activation of an oxytocin signaling pathway ART-10 三澤晶子 Akiko MISAWA エンドソームにおけるカベオリンの輸送制御機構 28 ART-11 森亜希子 Akiko MORI ART-12 岡浩介 Kosuke OKA ART-13 佐藤あやの Ayano SATO ITP-1 斎藤太一 Taichi SAITO ITP-2 長谷井嬢 Jo HASEI ITP-3 入江浩一郎 Koichiro IRIE ITP-4 MRI-7 Development of tumor-targeting liposomal 10B delivery system with in-vivo imaging function for Boron Neutron Capture Therapy Concanavalin A肝炎におけるCD4+T細胞SOCS1の役割 20 27 29 30 31 Omer Faruk Hatipoglu iPS細胞を利用したがん幹細胞様細胞集団の誘導法の確立 Antibodies against syndecan-4 reduce cartilage destruction and the progression after onset in RA-like disease of hTNF transgenic mice Cytotoxic effect of zoledronate on the osteosarcoma and chondrosarcoma cell lines Combined Effects of Hydrogen Sulphide and Lipopolysaccharide on Osteoclast Differentiation in Rats ADAMTS1 inhibit angiogenesis by inducing apoptosis in endothelial cells ITP-5 井上円加 Madoka INOUE Effect of cyclic tensile strain on ACL cells cultured in three-dimensional scaffolds 37 ITP-6 長岡憲次郎 Kenjiro NAGAOKA Effects of N-glycosylation on human UGT2B7 functions 38 ITP-7 早野暁 Satoshi MIYAMOTO Roles of heparan sulfate modifications in dentinogeneis 39 ITP-8 宮本聡 Satoru HAYANO The role of cholecystokinin in the progression of diabetic nephropathy 40 33 34 35 36 iii Invited Lectures iv Invited Lecture 1 Day 1 (January 28) Serotonin system: investigating the singularities of a diffuse transmitter Patricia Gaspar, M.D., Ph.D. (Director, Ecole des Neurosciences de Paris-Ile de France) Invited Lecture 2 Day 2 (January 29) Telomeres are Telomerase in Obesity, Metabolism, and Atherosclerosis Dennis Bruemmer, M.D., Ph.D. (Associate Professor, University of Kentucky) Invited Lecture 3 Day 2 (January 29) How I started my research career: Encounters with my teachers Hideaki Nagase, Ph.D. (Professor, University of Oxford, The Kennedy Institute of Rheumatology) v Day 1 (January 28) ART 2011 Report Meeting ART プログラム 2011 報告会 =ORAL SESSION= 4 がん原遺伝子 c-Met のシグナル伝達と細胞内輸送 久保飛鳥 大学院医歯薬学総合研究科・生化学(Pre-ART・医学科 3 年) がん原遺伝子として知られているc-Met(肝細胞増殖因子受容体)は、リガンドである肝 細胞増殖因子hepatocyte growth factor(HGF)と結合することで活性化し、細胞内にシグ ナルを伝える。これらのシグナルは細胞の増殖や細胞の移動能の亢進などの作用をもつ一 方で、その異常は細胞のがん化を引き起こす。そのため、c-metからのシグナル伝達の制御 機構を明らかにすることは、がん化の抑制・阻害を目指す上でも重要である。c-Metからの シグナル伝達は、それ自身の分解によって終息することから、細胞内輸送がシグナル制御 の一端を担っていると考えられる。しかし、c-Metの輸送機構およびそのシグナル制御機構 はほとんどわかっていない。そこで、細胞内輸送を制御する因子としてEHDに着目し、EHD がc-Metからのシグナル制御に関わっているのかを明らかにすることを研究目的とした。 EHDには細胞内の異なる場所で機能する4つのアイソフォーム、EHD1〜4が存在する。 まず、EHD1〜4のうち、c-Metと共局在するアイソフォームとしてEHD1, 3, 4を同定した。 次に、それらのEHDをノックダウンしたときに、c−Metからのシグナル伝達に影響が出る のかを検証した。各siRNAをHeLa細胞に導入後、HGFを添加してから0’から240’までのリ ン酸化c-Met(活性型)を定量した。その結果、Controlと各EHDノックダウン細胞で有為 な差は見られなかった。そこで、より長期間でのc-Metのシグナル伝達への影響を観察する ため、長期のシグナル伝達との関与が知られている細胞移動への影響を観察した。その結 果、EHD1ノックダウン細胞で細胞移動能の顕著な低下が認められ、同時にc-Metとその下 流のシグナル伝達分子であるSTAT3, ERK1/2のリン酸化(活性化)が減尐していることが 分かった。このことから、EHD1はc-Metからのシグナル伝達制御に関与していること、特 に長期間でのシグナル伝達に影響を与えていることが明らかとなった。本結果は、HGF刺 激による短期・長期のシグナル伝達には異なる制御機構が存在することを示唆している。 5 エンドソームにおけるカベオリンの輸送制御機構 三澤晶子 大学院医歯薬学総合研究科・生化学(Pre-ART・医学科 3 年) カベオラは細胞膜上に存在する膜ドメインであり、細胞内輸送のキャリアとして細胞膜 とエンドソームの間を行き来すると考えられている。カベオラを介する輸送は、脂質の調 節や病原体の侵入などさまざまな生理作用に関わることが知られているが、その制御機構 は明らかになっていない。最近になって、カベオラの形成にシンダピンと呼ばれるタンパ ク質が重要な役割を果たしていることが報告された(Hansen et al., J Cell Sci. 2011)。一 方、シンダピンと結合する細胞内輸送の調節分子として EHD(Eps15-homology domain containing protein)が報告されている(Braun et al., Mol. Biol. Cell. 2005) 。EHD は脂 質膜をチューブ状にする機能を持っており、カベオラの細胞内輸送との関係が注目されて いるが、その関係は全くわかっていない。 そこで本研究では、カベオラの輸送制御因子として EHD に着目し、EHD とカベオラの 局在や、EHD 発現抑制によるカベオラ輸送の変化を検証した。EHD には EHD1~4 のアイ ソフォームが存在する。まず、GFP-EHD1~4 とカベオラの主要構成成分であるカベオリン の共局在を観察した。その結果、GFP-EHD2 と GFP-EHD4 で内在性のカベオリンとの共 局在がみられた。EHD2 は細胞膜で、EHD4 はエンドソームでの輸送を制御していると考 えられており、EHD2 と EHD4 が異なる場所でカベオラの輸送を制御している可能性が考 えられた。次に、EHD2 と EHD4 をノックダウンした HeLa 細胞でカベオリンの発現量を 調べたところ、EHD4 をノックダウンした細胞ではカベオリンが減尐していることがわか った。さらに、蛍光標識カベオリンを用いて Live Imaging で観察すると、EHD4 ノックダ ウン細胞では後期エンドソーム様の巨大構造物にカベオリンが局在し、活発に移動する様 子がみられた。この結果から、EHD4 ノックダウン細胞ではカベオラが分解経路に誘導さ れていると考えられ、EHD4 がカベオラのエンドソームから細胞膜へのリサイクルを制御 している可能性が示唆された。 6 HIV-1 タンパク Nef による CD4 分解経路の検討 神原由依 大学院医歯薬学総合研究科・生化学(Pre-ART・医学科 4 年) ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)は、CD4 陽性 T 細胞に感染し免疫不全を起こすが、そ れは HIV-1 がコードするタンパク質である Nef が、 T 細胞膜表面にある共受容体 CD4 をダ ウンレギュレーションしているためである。最近の研究により、Nef 発現時では細胞膜か らエンドサイトーシスされた CD4 は、最終的に後期エンドソームを介してリソソームで分 解されることが報告された。しかし、その分子メカニズムについては未だ明らかになって いない。 今回、我々は CD4 の分解経路が MVB ではなく他の未知の経路であることを見出した。 Nef を発現させた CD4 陽性の HeLa 細胞(T4)を用いて CD4 の細胞内局在を観察した。 その結果、CD4 は後期エンドソームを辿ることが知られる上皮成長因子とは一致せず、リ サイクル経路を辿るトランスフェリンと共局在がみられた。さらに、Nef 発現時では CD4 の凝集塊が認められ、その凝集塊はリサイクリングエンドソームのマーカーと一致した。 以上の結果から、Nef によって取り込まれた CD4 はいったんリサイクルエンドゾーム(RE) に凝集し、そこから何らかの経路で分解されていると考えられた。 次に、後期エンドソームを辿らない膜タンパク質の分解経路として知られるオートファ ジーの経路を検証した。その結果、Nef 発現下においてオートファゴソームのマーカーで ある LC3 と CD4 は一部共局在し、さらに、Autophagy の阻害剤を用いたときその割合が 増加した。しかし、Autophagy の阻害は CD4 分解を優位に阻害することはなく、別の分解 経路が存在している可能性が考えられた。 現在我々は、最近報告された新たな分解経路である Rab12 依存性の分解経路について CD4 輸送との関連を検証している。それらの経路を含め、現在考えられる可能性について 紹介する。 7 ダイナミン 2 は微小管を介してアクチンコメットを制御する 逸見祐次 大学院医歯薬学総合研究科・生化学(L-ART・博士課程 1 年) ダイナミン2はエンドサイトーシスの小胞切断を担うタンパク質として知られている。 一方、アクチン制御タンパクの一つコルタクチンと相互作用し、アクチン制御を担うこと が報告された。ダイナミン 2 は細菌感染や脂質リン酸化によって誘導されるアクチンコメ ットに局在することから、アクチンコメットのアクチン重合を制御していると考えられる が、その役割は未だにわかっていない。そこで本研究では、内在性ダイナミン 2 とコルタ クチンのアクチンコメット制御における役割を調べた。siRNA を用いて内在性ダイナミン 2 とコルタクチンそれぞれを発現抑制した HeLa 細胞で、リステリア菌感染により誘導され るアクチンコメットを観察した。アクチンコメットの形態と動態を観察した結果、コルタ クチン発現抑制細胞では影響がみられなかったが、ダイナミン 2 発現抑制細胞ではアクチ ンコメットの長さが短くなり、その速度も優位に減尐していた。これらの結果は、内在性 ダイナミン 2 がコルタクチンを介さずにアクチンコメットを制御する可能性を示唆してい る。ダイナミン2はコルタクチンを介してアクチンを制御すると考えられている事から、 アクチン重合とは異なる経路でアクチンコメットに関与すると考えられた。 最近の我々の研究で、ダイナミン 2 が微小管の動的不安定性を制御することが明らかに なった。リステリア菌はアクチンを重合して推進力を得る一方、前方の微小管を脱重合さ せて自身の進むスペースを確保している。そこで、微小管重合・脱重合阻害剤を用いて、 ダイナミン 2 発現抑制細胞におけるアクチンコメットへの影響を解析した。その結果、ア クチンコメットの長さ、速度共にコントロールとの有意差が認められなくなった。これら の結果はダイナミン2発現抑制細胞に見られる異常なアクチンコメットが微小管に依存し たものであることを示している。以上のことから、ダイナミン 2 は微小管を介してアクチ ンコメットを制御している可能性が考えられる。 8 CyclinG to the Edge: A Novel Role of Cyclin G2 in GBM Migration 藤村篤史 大学院医歯薬学総合研究科・細胞生理学(ART・博士課程3年) 低酸素状態など、細胞をとりまく微小環境は各種シグナル伝達やタンパク質発現の調節 を介して、細胞の遊走能に大きな影響を与えることが知られている。細胞遊走は発生や組 織構築などの生理学的現象において重要であるのみならず、癌の浸潤や転移などの病理学 的事象においても深く関与する現象である。前述のとおり低酸素状態が癌の浸潤を促進す ることは先行研究で明らかにされているが、その詳細な分子機構は依然として明確ではな かった。今回我々は、低酸素状態が誘導する Cyclin G2 タンパク質が細胞骨格の調節を介 して細胞遊走能を促進し、ヒト膠芽腫(GBM)の浸潤に関与することをつきとめた。 Cyclin G2 は PP2A と協働して細胞周期を抑制的に調節する非典型的 Cyclin であるが、 興味深いことに、これまでの研究で微小管と共局在することが知られている。これらの知 見に加えて我々はさらに、低酸素に応答して遊走している Glioma 細胞の先端で Cyclin G2 がアクチン線維と共局在し Ruffling Formation を促進していることを発見した。 Cyclin G2 は遊走先端において、Actin-bundling タンパク質である Cortactin とともに複合体を形成 しており、このチロシンリン酸化を促進することで遊走を促進することがわかった。 今回の我々の研究成果は、GBM における腫瘍細胞の拡散において細胞周期関連タンパク 質である Cyclin G2 が直接的に細胞骨格を制御し、細胞浸潤を促進しているという点で非 常に新しいものである。今後の研究展望としては、我々が明らかにした分子メカニズムを もとに、Cyclin G2 または Cortactin を標的とした薬剤を探索し、腫瘍細胞の浸潤を制御す ることで GBM の予後改善に寄与したいと考えている。 9 Day 1 (January 28) ART 2011 Report Meeting ART プログラム 2011 報告会 =POSTER SESSION= 18 ART-1 Subendothelial architecture of small blood vessel elastic fibers 品岡玲 大学院医歯薬学総合研究科・人体構成学(ART・博士課程 2 年) Blood vessels, except capillaries, have more or less elastic fibers or laminae, which produce resillience and flexibility and influence hemodynamics. The current study aims to reveal the three-dimensional architecture of elastic fibers in various blood vessel walls and their potential function. We have newly developed specimen preparation procedure for scanning electron microscopy of formic acid digested specimens after resin injection into blood vessels, and could successfully demonstrate the three-dimensional archtecture of elastic fibers in all types of blood vessels even in arterioles and venules. In such small vessels, the subendothelial elastic fibers laterally assemble into a sheet of mesh structure, whose long axis was parallel to longitudinal direction of the vessels regardless of vascular types. But the diameter of elastic fibers and the mesh density varies depending on the vessel type and the size. Larger vessels have higher density of the mesh and thicker elastic fibers than smaller ones, and arterioles have higher density of the mesh than venules. These results indicate that the three-dimensional architecture of elastic fibers is representing the hemodynamic state such as blood pressure. 19 ART-2 頭蓋外浸潤性髄膜腫の免疫組織学的検討 Immunohistochemical analysis of extra cranial invasive meningioma 清水俊彦 大学院医歯薬学総合研究科・脳神経外科学(ART・博士課程 2 年) 【はじめに】髄膜腫の多くは良性で脳実質の外側に発育し,浸潤性に増殖することは稀で あるが、一部には周辺組織に浸潤して再発を繰り返し、臨床的に悪性の経過を示すものが ある。最近当科で経験した浸潤性格の強い3症例を報告し、浸潤性格の尐ない通常の髄膜腫 4症例と免疫組織学的な比較検討を行ったので報告する。 【症例と結果】症例1:66 歳男性、主訴は動揺感。頭部CTにて右中頭蓋窩硬膜に広範に付着 する頭蓋内髄外腫瘍を認めた。頭部MRIにて、比較的均一な造影を示し、脳表との境界は 不明瞭で、側頭葉内に広範で著明な浮腫を伴っていた。頭蓋外にも蝶形骨洞、右側傍咽頭 から咀嚼筋間隙、中頭蓋窩への腫瘍の進展が見られた。開頭により中頭蓋窩の腫瘍を摘出 したが、肉眼的に、側頭筋、側頭骨への腫瘍浸潤、一部骨融解を認めた。また頭蓋内では、 腫瘍は脳表に強く癒着し、一部は境界不明瞭であった。病理学的には、 transitional meningioma(WHO:grade1)の像であり、悪性所見は認めなかった。 本症例に加えて、周囲組織への浸潤を示さず臨床的悪性度の低い髄膜腫4症例の手術組 織標本を、浸潤及び血管新生に関連しているとされるCYR61, MMP2, MMP9,SPARK 等で 免疫組織染色し、比較した。 CYR61は浸潤症例でのみ発現を認め、他の非浸潤性例では陰性だった。MMP2は全例で 染色を認めたが、浸潤症例で最も強い発現を認めた。MMP9およびSPARKは全症例で陰性 もしくは弱陽性で、浸潤性の有無と関連性がなかった。 【結語】病理学的に悪性所見が乏しいにも関わらず、頭蓋外へ浸潤性格が強く臨床的悪性 度の高い髄膜腫の3例を経験した。免疫染色にて、CYR61、MMP2の発現が高く、これら は髄膜腫の浸潤性との関連が示唆され、臨床的悪性度の指標のひとつとなりうると考えら れた。 20 ART-3 せつ腫症における Panton-Valentine 型ロイコシジン(PVL)の役割 瀧内麻里 大学院医歯薬学総合研究科・皮膚科学(ART・博士課程 1 年) 【背景】 Panton-Valentine 型ロイコジン(PVL)は黄色ブドウ球菌より産生され、白血球 に対してより高い特異性を示す毒素である。PVLは欧米では市中感染型MRSAに高率に陽 性であり、その強毒性マーカーとして注目されている。 この毒素はせつ(おでき)などの深在性皮膚感染症や壊死性肺炎などに高率に検出され、 疾患特異性がある。我々は本邦の皮膚感染症の疫学的検討によりせつ・せつ腫症・癰など 深在性皮膚感染症では PVL が高率に検出され、PVL 遺伝子陽性黄色ブドウ球菌によるせつ の特徴は基礎疾患のない若年者に多く、発赤が強く、多発しやすいことを明らかにした。 PVL をウサギの皮膚に接種すると、普通のロイコシジンよりも発赤の強いせつ類似の病変 を生じ、組織学的には好中球破壊と周囲の壊死像を認める。この動物実験と我々の臨床的 観察からは実際に病変部でも毒素が発現していることが予想されるが、この毒素の発現機 構は不明である。さらに PVL が好中球以外の炎症細胞、ケラチノサイトや血管内皮細胞に 及ぼす影響も不明である。また PVL 遺伝子はファージ変換が示されていて、感染を繰り返 すことにより水平伝播する特徴がある。つまり、非病原性(PVL 陰性)の株が病原性の株に 変換しうることになる。しかしながら伝播様式については臨床的にも不明なところが多い。 せつ腫症はおできが多発、再発する小児に多い感染症で PVL がその病態形成に深く関与 していることが予想される。 【目的】 PVL の発現機構と病態形成の解明 【研究予定】 1) PVL の発現制御因子を特定する。 2) PVL の単球、マクロファージ、ケラチノサイト、線維化細胞、血管内皮細胞や抗菌 ペプチドに与える影響について検討する。 3) PVL 変換ファージの多様性について疫学的調査により、PVL 非産生株の PVL 獲得 機構について明らかにする。 21 ART-4 癌患者血液中の癌関連線維芽細胞の検討 升田智也 大学院医歯薬学総合研究科・消化器外科学(ART・博士課程 1 年) 論文発表前のため、掲載しておりません。 22 ART-5 Identification of miRNAs, which are regulated in obesity and insulin resistance 山口哲志、山村裕理子 大学院医歯薬学総合研究科・腎・免疫・内分泌代謝内科学(ART・博士課程 1 年) Even though the biological function of miRNA is yet to be fully understood, it has been shown that the tissue levels of specific miRNAs correlate well with various biological and pathological processes. Recently, finding miRNA in the blood has suggested the potential for miRNA based blood biomarkers and therapeutic targets. To identify miRNAs that are regulated in obesity and insulin resistance, we performed miRNA profiling in plasma, liver and adipose tissues in mice with diet-induced obesity. Serum, liver, and adipose tissue samples were obtained from 20-week old C57BL/6J mice fed with normal chow and high fat high sucrose chow. Total RNAs were isolated from serum and tissues by using QIAamp Circulating Nucleic Acid Kit and miRNeasy Mini kit (Qiagen). Quality of total RNAs was confirmed by measuring the ratio of 28S/18S by Agilent 2100 Bioanalyzer. Then, total RNAs were subjected to Illumina TruSeq Small RNA Sample Preparation protocol, including 3’- and 5’- adapter ligation, reverse transcription, PCR amplification, and pooled gel purification to generate a library product. Sequencing was performed and the obtained data were mapped to mouse genome sequence and annotated (bowtie-0.12.7). In each group, the read numbers of known miRNAs were counted and compared. We have annotated various RNA species, such as miRNA, mRNA, piRNA and others and identified 15 miRNAs, which are highly up-regulated in adipose tissues. However, these miRNAs are not up-regulated in serum and liver tissues. These miRNA may be involved in the process of insulin resistance and inflammation in obesity and diabetes. 23 ART-6 マウス肺虚血モデルを用いての虚血再灌流障害に関与する因子の検討 山本治慎 大学院医歯薬学総合研究科・呼吸器・乳腺内分泌外科学(ART・博士課程 1 年) 終末期呼吸器疾患において肺移植は有効な手段であるが、問題点として高い周術期死亡率 に関わる primary graft dysfunction(PGD)があげられる。PGD には様々な要因が考えられ ているが、なかでも虚血再灌流障害は非常に重要な位置を占めると考えられている。 虚血再灌流障害の発生機序,要因は未だ明らかとはなっていないが、血管透過性亢進、白 血球・マクロファージの遊走などを認めることから,その本態は炎症と考えられている。 Jak および Stat は、多くのサイトカイン受容体機構における重要な構成要素で、増殖、生 存、分化及び病原体抵抗性を制御している。この経路において、サイトカインシグナル抑 制タンパク質 (SOCS) ファミリーメンバーは、同種もしくは異種のフィードバック調節を 介して、受容体のシグナル伝達を抑制しているとされている。 今回虚血再灌流障害における SOCS3の肺機能に対する影響について検討する。 方法として、マウス肺温虚血再灌流モデルを用いて行う。Sham 群、IRI 群(Wild/KO)に 分けて肺における虚血再灌流障害の程度を Wild Type マウスと、SOCS3 KO マウス とで組織標本および血ガス等を比較し、検証する。 ポスター発表では、研究背景、実験手技、今後の展望について発表する。 24 ART-7 Cyclin D2 is overexpressed in proliferation centers of CLL/SLL 井川卓朗 大学院医歯薬学総合研究科・病理学(腫 瘍 病 理 /第 二 病 理 )(Pre-ART・医学科 5 年) The D cyclins are important cell cycle regulatory proteins involved in the pathogenesis of some lymphomas. Cyclin D1 overexpression is a hallmark of mantle cell lymphoma, whereas cyclins D2 and D3 have not been shown to be closely associated with any particular subtype of lymphoma. In the present study, we found that cyclin D2 was specifically overexpressed in the proliferation centers (PC) of all cases of chronic lymphocytic leukemia ⁄ small lymphocytic lymphoma (CLL ⁄ SLL) examined (19 ⁄ 19). To examine the molecular mechanisms underlying this overexpression, we immunohistochemically examined the expression of nuclear factor (NF)-κB, p15, p16, p18, and p27 in the PC of six patients. Five cases showed upregulation of NF-κB expression, which is known to directly induce cyclin D2 by binding to the promoter region of CCND2. All six PC examined demonstrated downregulation of p27 expression. In contrast, upregulation of p15 expression was detected in five of six PC examined. This discrepancy suggests that unknown cell cycle regulatory mechanisms involving NF-κB-related pathways are also involved, because NF-κB upregulates cyclin D2 not only directly, but also indirectly through c-Myc, which is believed to downregulate both p27 and p15. In conclusion, cyclin D2 is overexpressed in the PC of CLL ⁄ SLL and this overexpression is due, in part, to the upregulation of NF-κB-related pathways. 25 ART-8 Phosphorylation of cortactin by PKC is a key factor for filopodia formation of growth cone 菊池達也 大学院医歯薬学総合研究科・生化学(Pre-ART・医学科 5 年) Cortactin, a F-actin binding protein, localizes at growth cone. However, the function of cortactin in growth cones is poorly understood. In this study, we demonstrate that phosphorylation of cortactin by PKC regulates neuronal growth cone filopodia. Treatment of SH-SY5Y with phorbol myristate acetate (PMA), a PKC activator, rapidly retracted the growth cone filopodia. Simultaneously, PMA treatment resulted in serine phosphorylation of cortactin. These effects were strongly inhibited by the pretreatment with GF109203X, a broad PKC inhibitor, or Go6976, an inhibitor for PKC and isozyme. By double immunofluorescence, cortactin and PKC were presented as bright dots arranged along growth cone filopodia, and they colocalized. Consistently, cortactin and PKC co-immunoprecipitatied in the presence of PMA. Cortactin was directly phosphorylated by PKC in vitro, and the phosphorylated cortactin showed reduced actin bundling activity by approximately 90%. The phosphorylation sites, S135, T145, S172, were determined by MALDI-MASS analysis. The expression of phosphorylation mimic mutant cortactin, in which all the phosphorylation sites were substituted with glutamate, resulted in mislocalization of cortactin, and defective formation of growth cone. These results strongly suggest that PKC phosphorylation of cortactin is crucial in growth cone formation. 26 ART-9 Antidepressant effect of mating behavior and sildenafil through activation of an oxytocin signaling pathway 松崎光博 大学院医歯薬学総合研究科・細胞生理学(Pre-ART・医学科 5 年) Oxytocin (OT) is an acknowledged hormone for uterine contraction during labor and milk ejection during lactation in mammals. OT acts as a neurotransmitter to regulate a diverse range of central nervous system (CNS) functions, including depression, anxiety and trust behavior. A recent study found that sexual activity and mating with a female induced the release of OT in the CNS of male rats. Moreover, a drug for the treatment of human with sexual dysfunction, sildenafil, induces enhancement of electrically evoked OT release from the posterior pituitary of mammals. Sildenafil is a selective inhibitor of the cyclic guanosine monophosphate-specific phosphodiesterase type 5 enzyme. In this study, we examined whether mating behavior and sildenafil had antidepressant effect through activation of OT signaling pathway. In the present study, we examined the effect of mating behavior on depression-related behavior in wild-type (WT) and OT receptor-deficient (OTR KO) male mice. The depression-related behavior was measured by forced swim test. The WT mice showed a reduction in depression-related behavior after mating behavior, but the OTR KO mice did not. Moreover, WT mice reduced depression-related behavior after dosage administration of sildenafil, but the OTR KO mice did not. Activation of the MAP kinase cascade and the subsequent increase in the phosphorylation of cAMP response element-binding protein (CREB) in the hippocampus has been proposed as common mediators of antidepressant efficacy. Sildenafil increased the phosphorylation of CREB in the hippocampus. The OTR antagonist inhibited sildenafil-induced CREB phosphorylation and sildenafil had no effect on CREB phosphorylation in OTR KO mice. These results suggest mating behavior and sildenafil to have antidepressant effect through activation of OT signaling pathway. 27 ART-10 エンドソームにおけるカベオリンの輸送制御機構 三澤晶子 大学院医歯薬学総合研究科・生化学(Pre-ART・医学科 3 年) カベオラは細胞膜上に存在する膜ドメインであり、細胞内輸送のキャリアとして細胞膜 とエンドソームの間を行き来すると考えられている。カベオラを介する輸送は、脂質の調 節や病原体の侵入などさまざまな生理作用に関わることが知られているが、その制御機構 は明らかになっていない。最近になって、カベオラの形成にシンダピンと呼ばれるタンパ ク質が重要な役割を果たしていることが報告された(Hansen et al., J Cell Sci. 2011)。一 方、シンダピンと結合する細胞内輸送の調節分子として EHD(Eps15-homology domain containing protein)が報告されている(Braun et al., Mol. Biol. Cell. 2005) 。EHD は脂 質膜をチューブ状にする機能を持っており、カベオラの細胞内輸送との関係が注目されて いるが、その関係は全くわかっていない。 そこで本研究では、カベオラの輸送制御因子として EHD に着目し、EHD とカベオラの 局在や、EHD 発現抑制によるカベオラ輸送の変化を検証した。EHD には EHD1~4 のアイ ソフォームが存在する。まず、GFP-EHD1~4 とカベオラの主要構成成分であるカベオリン の共局在を観察した。その結果、GFP-EHD2 と GFP-EHD4 で内在性のカベオリンとの共 局在がみられた。EHD2 は細胞膜で、EHD4 はエンドソームでの輸送を制御していると考 えられており、EHD2 と EHD4 が異なる場所でカベオラの輸送を制御している可能性が考 えられた。次に、EHD2 と EHD4 をノックダウンした HeLa 細胞でカベオリンの発現量を 調べたところ、EHD4 をノックダウンした細胞ではカベオリンが減尐していることがわか った。さらに、蛍光標識カベオリンを用いて Live Imaging で観察すると、EHD4 ノックダ ウン細胞では後期エンドソーム様の巨大構造物にカベオリンが局在し、活発に移動する様 子がみられた。この結果から、EHD4 ノックダウン細胞ではカベオラが分解経路に誘導さ れていると考えられ、EHD4 がカベオラのエンドソームから細胞膜へのリサイクルを制御 している可能性が示唆された。 28 ART-11 Development of tumor-targeting liposomal 10 B delivery system with in-vivo imaging function for Boron Neutron Capture Therapy 森 亜希子、Bin Feng、道上 宏之、秋田直樹、松井秀樹 大学院医歯薬学総合研究科・細胞生理学(ART ユニット) 【目的】放射線治療が発展した現在でも、悪性脳腫瘍等の浸潤性のがんでは手術等による 全摘出は難しく、腫瘍細胞が残存する。ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は細胞レベルで治療 が行えるため悪性脳腫瘍への新治療法として期待され、これまでの臨床研究で有効性が示 されている。しかし、治療効果の向上には、がん細胞へ選択的に且つ高効率にホウ素 10B を送達する必要がある。我々は、10B のキャリヤーとしてリポソームを用い、腫瘍部位に高 発現している抗原やレセプターを認識する抗体をその表面に結合し標的化を行うと同時 に、発光タンパクによりその挙動を観察できるイメージング能を付与した。標的能とイメ ージング能の 2 つの機能をもつ低毒性のイムノリポソームにより、BNCT で確実な治療効 果を上げる 10B 送達システムの構築を検討した。 【方法】ホウ素化合物 BSH(Na2B12H11SH)を内包したリポソームを調製し、その表面に プロテイン A 結合モチーフ(ZZ)を有し発光タンパク(luciferase)と融合した融合タンパク質 を介して抗 EGFR 抗体を結合させ、イムノリポソームを作製した。EGFR 高発現株である ヒト悪性脳腫瘍細胞株 U87deltaEGFR に種々の濃度のイムノリポソームを投与した。24 時間経過後、細胞内の 10B 集積を発光顕微鏡によるイメージング、および ICP-AES により 検証した。 【結果と考察】作製したイムノリポソームは腫瘍選択的に 10B を送達した。培養細胞での イメージングでは、イムノリポソームの投与量の増加に伴い強い発光シグナルが観察され、 発光量が増加した。一方、ICP による 腫瘍細胞内へ送達された 10B 10B の定量でも、リポソーム投与量の増加に伴い、 は増加した。細胞内に取込まれたイムノリポソームの発光量 と 10B 量には相関性(R2=0.94)があった。開発したイムノリポソームの特徴は、標的腫瘍 部位に応じて抗体が選択できる ZZ モジュール構造と、表面の融合タンパク質による発光を 利用して生体内動態・分布をイメージングしながら治療できる点にある。本研究結果より、 腫瘍へのターゲティング、生体内動態のイメージング、BNCT による治療、の 3 つを同時 に行う「セラノスティックス」の可能性が示唆された。 29 ART-12 Concanavalin A 肝炎における CD4+T 細胞 SOCS1 の役割 岡浩介、高須賀裕樹、伏見聡一郎、伊藤利洋、松川昭博 大学院医歯薬学総合研究科・病理学(免疫病理) (ART ユニット) 【はじめに】Concanavalin A(ConA)誘導肝炎は、Th1 サイトカイン Interferon-g (IFNg) 依存性に惹起される。サイトカインのシグナル伝達は SOCS(Suppressor of Cytokine Signaling)で負に制御される。今回、我々は、ConA 肝炎モデルを用いて CD4+T 細胞に発 現する SOCS1 の役割を検討した。 【方法】CD4+T 細胞特異的に SOCS1 が欠損したマウス(SOCS1-cKO マウス)および野 生型 (WT)マウスに ConA (15mg/kg)を静注して肝炎を誘導した。肝炎誘導後マウスを屠殺 し、生化学的および組織学的に肝傷害の程度を比較し、肝臓中の Th1 サイトカイン発現量 を Real-time PCR 法で定量した。 【結果】 SOCS1-cKO マウスでは肝逸脱酵素(ALT)の値は WT マウスにくらべて有意に高く、 組織学的にも肝傷害の程度は SOCS1-cKO でより重篤であった。ConA 投与後の肝臓におけ る IFNg の mRNA 発 現 レ ベ ル は SOCS1-cKO で 低 く 、 IFNg 依 存 性 ケ モ カ イ ン CXCL9/CXCL10 は両者間で差がなかった。 【まとめ】CD4+T 細胞 SOCS1 は肝炎防御に働くことが示唆された。SOCS1 は IFNg のシ グナル伝達因子 STAT1 を制御するため、SOCS1 の欠如は IFNg のシグナルを過剰に伝達 して肝炎増悪に働くと予想したが、肝臓での IFNg 発現量はむしろ減尐していた。 30 ART-13 iPS 細胞を利用したがん幹細胞様細胞集団の誘導法の確立 松田修一、佐藤あやの 大学院自然科学研究科・医用生命工学講座(ART ユニット) がん幹細胞(CSC)は、がん組織中にわずかに存在する小集団で、組織幹細胞のように自己 複製能、多分化能を有している。がんの発生、転移、再発への寄与が示唆されており、が ん根治に向けて、これを標的とした治療薬の開発が急がれている。しかし、がん組織にお ける存在割合の低さから確保が難しく、さらに安定な培養が困難であるため、解析が進ん でいないのが現状である。 我々は、マウス人工多能性幹細胞(miPS)に様々ながん細胞株の培養上清を添加すると、 がん幹細胞様の性質を持った安定培養可能な細胞(miPS-CSC)に変化することを発見した。 特にルイス肺癌細胞(LLC)の培養上清により誘導された細胞(miPS-LLCcm)では、in vivo で顕著な血管新生が見られた。本研究では、miPS-CSC をがん幹細胞のモデル細胞として 用い、がん幹細胞の機能のうち、特に自己複製の維持機構および近年新たに発見された機 能である血管内皮細胞への分化機構に着目して、解析を行った。 未分化マーカー遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, Nanog)の発現パターンは、miPS-CSC と miPS で異なっていた。血管内皮マーカー遺伝子(VEGFR2, VE-cadherin)の発現は、全て の miPS-CSC で上昇していた。しかしながら、miPS-LLCcm でのみ、BD マトリゲル TM 上で血管様構造の形成が顕著に見られ、上述の in vivo の結果と一致した。また、この血管 形成能が VEGF に非依存的であったことから、VEGF による VEGFR2 の刺激は、CSC の 血管内皮分化に直接的には作用していない可能性が示唆された。 正常な幹細胞である miPS が、がん細胞由来の遊離の因子により CSC 様の miPS-CSC に変化していることから、この因子が、CSC の自己複製能の維持に関与している可能性が 高く、現在、その因子を特定しようとしている。 以上より、miPS-CSC は、自己複製能、多分化能、造腫瘍能、血管内皮分化能など過去 に報告された CSC の機能を有する、非常に有用な解析モデルであると言える。 なお、本研究は、自然科学研究科 妹尾昌治教授の研究グループと共同で行われたもので ある。 31