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社会の動きをつかむ! 新聞スクラップ 2011.7∼2011.10

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社会の動きをつかむ! 新聞スクラップ 2011.7∼2011.10
社会の動きをつかむ! 新聞スクラップ 2011.7∼2011.10
ヨーロッパ財政危機
▲
トピックス
●参照記事 揺れる統一通貨ユーロ (中日新聞2011.7.19)
●参照記事 リーマン・ショック3年 欧州 財政出動の後遺症 (読売新聞2011.9.16)
■授業での活用■
「世界史」でヨーロッパ史を扱うと、うんざりする生
徒が必ず出てくる。なにせ古代から20世紀まで、文化の
異なる多くの民族が混在し、いくつもの小国に分かれ、
延々と争い続けてきたのである。領土問題、宗教対立、
少数民族問題、経済の利害等、対立軸にも事欠かない。
そうした歴史を背負ったヨーロッパにおけるEU統合
と単一通貨ユーロの成立は、人類の未来に明るい希望を
もたらした。住民の経済活動の面で国境は事実上消滅し、
意識の面でもヨーロッパの一体化が進行した。同一の通
貨が多くの国々で流通し使われている現状は、もはやヨ
ーロッパで戦争は起きない、起こせないことを、日常生
活の中で明確に示していた。
これがヨーロッパ以外の地域へ拡大していけば、近代
の哲学者カントが著作『永久平和のために』で述べたよ
うな戦争のない世界が実現し、人類の最終的理想として
の世界共和国の樹立も夢ではないかもしれない。
だが、「揺れる統一通貨ユーロ」という新聞記事は、
その夢が打ち砕かれる危険性を示している。そこを生徒
に考えさせる授業を、
「現代社会」
「政治経済」
「地理」
「世
界史」等で展開したい。
生徒には新聞記事を見せる前に、EU統合とユーロ成
立の歴史的意義をプリント等で説明する。統合自体は中
学校で学習済みなので、成立過程や未来への期待を理解
させることが大切である。「世界史」なら、ヨーロッパ
史をある程度終えたあとに記事を読ませると効果的だ。
時事問題に関心の高い生徒がいれば、EUやユーロの
説明を始めた段階で「EUは今、危ないんじゃないか」
といった反応が返ってくる。その時点で記事を読ませ、
現状を理解させてから従来の状況を説明してもよい。
学習の苦手な生徒が多いクラスなら、新聞記事そのも
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のではなく、要約を使うとより多くの生徒が読んでくれ
る。難解な用語には説明を付けておく。
各国の財政危機が理解できたら、原因の追及である。
そこで「リーマン・ショック3年 欧州 財政出動の後
遺症」という新聞記事が必要になる。「金融危機を積極
的な財政出動などで急場をしのいできた」とは、「借金
した大金を使って乗り切った」と言い換えるとわかりや
すい。その莫大な借金が国家財政を脅かし、複数の国が
財政破綻の危機に直面したのである。
ギリシャやイタリアなどでは国債の金利が急騰し、そ
れでも引き受け手がいなくなりつつある。これも生徒に
は、
「家計が赤字で借金が必要なのに、今までの借金が
多過ぎてもう借りられない状態」と説明すればよい。
日本経済への影響も考えさせたい。教科書や資料集、
地図帳で、EU圏と日本の貿易額を調べさせれば、影響
の大きさが推測できる。金融機関や金融商品はより密接
なつながりがあり、債務危機の直撃を受けかねない。
そもそも日本自体が、1000兆円を超える借金を抱えた
債務国なのである。国債価格の暴落などの債務危機が、
日本で起きない保証はない。
社会を学ぶうえで大切なのは、一部ではなく全体を見
ることと、自分の立場に置き換えて考える姿勢である。
EU各国の債務危機が深刻化すると、全世界の経済にど
のような打撃を与えるか。日本はどうなるか。そこを幅
広く考えさせたい。そのうえで、近未来の世界も展望さ
せる。この危機を乗り越え人類の夢を実現するか、夢破
れて過去の歴史を繰り返すのか。ぜひ複数の生徒の意見
を発表させたい。ディスカッションが成立すれば理想的
であろう。
(千葉県立市川昴高等学校 教諭 星 野 景 一)
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