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一時的に減速も、底堅く推移するわが国経済-存在感高まる

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一時的に減速も、底堅く推移するわが国経済-存在感高まる
Research Report
http://www.jri.co.jp
≪2015~2016年度日本経済見通し≫
2015年7月2日
No.2015-003
一時的に減速も、底堅く推移するわが国経済
― 存在感高まる非製造業、成長力底上げの起点に ―
調査部 マクロ経済研究センター
《要 点》
◆ わが国景気は、緩やかな持ち直しが続くものの、在庫の積み上がりに伴う調整圧力が
重石となり、力強さを欠く状況。消費増税に伴う下押し圧力がほぼ一巡する一方、中
長期的な構造変化が景気に影響を与えると考えられるなか、自律拡大メカニズムを強
め、持続可能な成長軌道を確保できるかが焦点に。
◆ 外需について、財輸出は、輸出シェアの低迷や世界貿易量の伸び悩みなどから、力強
い拡大は期待しづらく、海外景気の緩やかな回復ペースに見合ったかたちでの増加と
なる見込み。もっとも、インバウンド消費の拡大などサービス輸出は引き続き増加が
期待。
◆ 家計においては、引退世帯の消費回復の遅れや自動車販売の低迷が当面個人消費の重
石に。もっとも、これらが一巡すれば、所得雇用環境の改善が現役世帯の消費に対し
てプラスに作用するとみられるほか、引退世帯においても、年金の増額や保有世帯が
多い株式資産などの含み益拡大に伴う資産効果などが下支えし、先行き回復傾向が続
く見込み。ただし、人口動態面からみたマクロの個人消費への下押し圧力が高まる兆
しもみられることから、力強い回復は期待しにくい状況。
◆ 企業においては、製造業で国内生産の能力増強投資減少を背景に設備投資が伸び悩
み。先行きは内需の緩やかな持ち直しにより非製造業を中心とした設備投資の持ち直
しが続く見込み。非製造業の設備投資は、製造業の生産拡大を通じて新たな投資需要
を喚起する面もあるものの、力強く拡大するには、企業が中長期的な需要拡大や収益
環境の改善に確信を持てる状況が整う必要。国内設備投資の拡大が緩やかにとどまる
なか、大幅に回復している企業の利益の多くは、海外投資に向かう公算。国内投資で
は研究開発のシェアが高まっているものの、設備投資拡大には効率の改善が肝要。
◆ 以上の結果、2015年度は、在庫調整一巡後は自律拡大メカニズムの作用により、民需
を中心に持ち直しの動きが徐々に強まり、+1%台半ばの成長に。2016年度は、海外
経済の成長鈍化などから年央にかけ景気がやや減速し、+1%前半の成長となる見通
し。わが国では、需要構造が大きく変化しており、この変化に対応すべく供給側の構
造改革を進め、成長力底上げにつなげることが不可欠。わが国経済における非製造業
の相対的プレゼンスの高まりを踏まえると、成長力の底上げには、同分野における設
備投資促進による生産性向上がカギに。
日本総研
Research Report
<
目
次
>
1.現状
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
(1)景気は緩やかな回復基調が持続
(2)在庫調整が当面景気を下押し
2.外需
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
シェア低下と世界の貿易量減速が財輸出の重石
3.家計
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
(1)消費増税後の消費回復は緩慢
(2)賃金増が消費にプラスの一方、人口動態面での下押しも
4.企業
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(1)国内設備投資は非製造業が中心に
(2)収益改善の大部分は海外投資へ
5.供給面
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
国内での人手不足は依然解消されず
6.物価
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
消費者物価は再び騰勢回復へ
7.総括
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
(1)自律拡大の強まりとともに景気は緩やかに回復
(2)中国経済失速、原油急騰、金融市場の混乱がリスク
(3)需要構造の変化に対応した供給側の構造改革が不可欠
本件に関するご照会は、調査部・マクロ経済研究センター下記担当者宛にお願いいたします。
<<総括>> 副主任研究員
主任研究員
研究員
研究員
研究員
研究員
下田
小方
村瀬
菊地
嘉田
奥井
裕介
尚子
拓人
秀朗
直記
貴大
(
(
(
(
(
(
Tel:
Tel:
Tel:
Tel:
Tel:
Tel:
03-6833-0914
03-6833-0478
03-6833-6096
03-6833-6228
03-6833-9061
03-6833-3711
Mail:
Mail:
Mail:
Mail:
Mail:
Mail:
[email protected][email protected][email protected][email protected][email protected][email protected] )
日本総研
Research Report
現状 景気は緩やかながら総じて回復基調が持続
(1)わが国景気は、昨年4月の消費増税後の落ち込みから総じて回復傾向が持続。2015年1~3
月期の実質GDP成長率は、前期比年率+3.9%と2四半期連続のプラス(図表1-1)。消費
増税に伴う駆け込み需要の反動減などで落ち込んだ個人消費が緩やかに持ち直しているほ
か、設備投資も増勢が加速。
(2)需要項目別にみると、企業部門では、良好な収益環境が持続。1~3月期の経常利益は、
リーマン・ショック前の2007年以来の水準まで回復(図表1-2)。企業収益の回復に加え
て、低金利が続くなど良好な投資環境が整うなか、徐々に企業が設備投資に踏み出す動きが
顕在化。
(3)家計部門では所得雇用環境が改善。消費活動を左右する雇用・賃金それぞれの環境をみる
と、雇用者数の増加基調が続くほか、賃金も本年の春闘では、良好な企業収益や人手不足を
背景に昨年を上回る賃上げを実現した企業が増加するなど、改善傾向が持続(図表1-3)。
(4)一方、外需では実質輸出が一進一退の状況(図表1-4)。円安が一定程度輸出を下支えして
いるとみられるものの、中国をはじめとした新興国の景気減速や、米国の設備投資の減速傾
向が重石。
(%)
12
(図表1-1)実質GDP成長率(前期比年率)
(図表1-2)経常利益と実質設備投資(季調値)
(兆円)
80
30
75
6
実質設備投資(左目盛)
24
70
(兆円)
0
18
65
60
▲6
▲12
個人消費
住宅投資
設備投資
民間在庫
公的部門
純輸出
12
55
6
50
経常利益(全産業、右目盛)
実質GDP
▲18
2012
13
14
15
(年/期)
(資料)内閣府「四半期GDP速報」
(注1)純輸出=輸出-輸入
(注2)公的部門=政府最終消費支出+公共投資+公的在庫品増加
45
0
14 15
(年/期)
(資料)財務省「法人企業統計」、内閣府「四半期GDP速報」
(注)経常利益は金融・保険業を除く。
2005 06
(図表1-3)春闘賃上げ率
(%)
2.5
08
09
10
11
12
13
(図表1-4)実質輸出(季調値)
(2007年=100)
140
定期昇給
ベア
所定内賃金
2.0
07
世界
中国+香港<24>
中国+香港除くアジア<30>
米国<19>
EU<10>
120
1.5
100
1.0
80
0.5
60
0.0
2005 06
07
08
09
10
11
12
13
14
15*
(年度)
(資料)中央労働委員会、連合を基に日本総研作成
(注1)調査対象は資本金5億円以上、労働者1000人以上の380社。
(注2)2015年度(*)は、連合速報値を参考に前年度実績値を延長した
見込み値。
40
2007
15
(年/月)
(資料)財務省「貿易統計」、 日本銀行「輸出物価指数」を基に日本総研
作成
(注)<>は2014年度のシェア。
-1-
08
09
10
11
12
日本総研
13
14
Research Report
現状 在庫調整圧力の残存が当面景気を下押し
(1)このように、わが国景気は緩やかに持ち直す一方、一部で弱い動きも。個人消費では、小売
業販売額などで、消費増税後の落ち込みからの回復が依然鈍い状況(図表2-1)。
(2)消費の持ち直しが緩慢なペースにとどまるなか、最終消費に最も近い小売業の在庫は、足許
で過大超の状態(図表2-2)。とりわけ、大型小売店では足許で手持額が増加するなど、流
通段階における川下の在庫調整圧力は残存。
(3)川下での過剰在庫は、川上の企業部門においても在庫調整をもたらすことに。鉱工業の在庫
循環をみると足許では「意図せざる在庫積み上がり」局面にあり、こうした一連の在庫調整
が当面景気を下押しする見込み(図表2-3)。
(4)以上のように、わが国景気は、良好な企業収益や所得雇用環境の改善など「景気の自律拡大
メカニズム」の作用を背景に、緩やかな回復傾向が持続する一方、家計部門、企業部門など
の一部で弱い動きもみられ、回復ペースは力強さを欠く状況。ちなみに、過去の主な景気回
復局面と現在を比較すると、個人消費や、設備投資の持ち直しは緩慢なペースとなってお
り、消費増税のほか中長期的な構造変化が影響している可能性(図表2-4)。
(5)今後は、この自律拡大メカニズムの強まりとともに、景気が持続的な成長軌道を確保できる
かが焦点に。そこで以下では、2015年度から2016年度の景気について、中長期的な構造変化
の影響などを踏まえ展望するとともに、わが国経済における課題を考察。
(図表2-2)小売業の商品在庫判断BSI
(図表2-1)小売業販売額指数(季調値)
(%ポイント)
4
(2010年=100)
125
120
115
小売業計
2
百貨店
0
110
過大
▲4
105
▲6
100
▲8
95
▲10
▲12
90
▲14
85
▲16
2012
80
2013
14
15
(年/月)
(資料)経済産業省「商業動態統計」
13
(図表2-3)鉱工業在庫循環図
(兆円)
2012年
10~12月期
(
、 )
% ▲5
▲10
在庫積み増し
0
9
在庫調整
5
6
(年/期)
第12循環
(1994年Q2~)
住宅
公的部門
民間在庫
純輸出
設備投資
個人消費
GDP
第16循環
(2012年Q4~
15年Q1まで)
3
13年
10~12月期
0
意図せざる在庫減
▲15
0
5
▲15
▲10
▲5
(資料)経済産業省「鉱工業指数」
(注1)2012年第2四半期~2015年第1四半期。
(注2)直近(白抜き)は2015年5月実績値。
15
(図表2-4)景気回復局面での実質GDP推移
意図せざる在庫積み上がり
10
14
(資料)財務省「法人企業景気予測調査」
(注)在庫判断BSI=期末時点での「不足」-「過大」
15
在
庫
前
年
比
見通し
中小企業
不足
▲2
スーパー
大企業
▲3
10
15
(出荷前年比、%)
第14循環
(2002年Q1~)
0
4
8 0
4
8 0
4
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」を基に日本総研作成
(注1)開差は積上げから除いている。
(注2)各循環開始期の実質GDPベース実額を0とした。
(注3)各循環開始期から10期目までを抜粋。
-2-
日本総研
8
(期)
Research Report
外需 シェア低下と世界の貿易量減速が財輸出の重石に
(1)外需について、わが国輸出は、アベノミクス以降の円安にもかかわらず伸び悩み。背景に
は、①世界貿易に占めるわが国輸出のシェア低下(図表3-1)、②世界の貿易量自体の伸び
の減速(図表3-2)、が指摘可能。
(2)アベノミクス始動に伴う円安により、輸出シェアの低下に歯止めがかかったものの、これま
でのところシェア拡大までには至らず。背景には、外貨建て輸出価格を引き下げず利益確保
を優先する輸出企業の経営戦略の変化。加えて、中国をはじめとした新興国景気の減速を受
けた世界的な実質民間投資の伸び鈍化が、資本財に競争力を持つわが国輸出の重石に(図表
3-3)。
(3)先行きは、シェアの面からみると、既に国内生産の高付加価値品へのシフトが進展している
ことを勘案すれば、輸出価格を引き下げてシェア拡大を図る戦略への回帰の広がりは期待し
難い状況。世界の貿易量の面からみると、サプライチェーンの再構築がある程度進んだ状況
下、リーマンショック以前のように世界の実質GDP成長率を大きく上回る伸びは期待薄。
以上を勘案すれば、わが国の財輸出は、海外景気の緩やかな回復ペースに見合ったかたちで
の増加となる見込み。
(4)一方、外国人観光客の増加を受けたインバウンド需要の拡大など、サービス輸出のわが国経
済に与える影響力は拡大(図表3-4)。アジア諸国などの所得増加や政策面でのサポートか
ら、引き続きインバウンド需要の拡大に伴うサービス輸出の増加は期待可能。
(図表3-1)世界実質貿易量と
日本実質輸出(季調値)
(%)
10
(%)
5.8
5
5.6
0
5.4
(%)
15
(図表3-2)世界実質GDP成長率と
貿易量(前年比)
IMF
見通し
10
5
▲5
5.2
▲10
5.0
▲15
4.8
0
▲5
世界実質GDP成長率
日本輸出(3ヵ月移動平均3ヵ月前比)
世界貿易(3ヵ月移動平均3ヵ月前比)
日本輸出シェア(右目盛)
4.6
▲10
4.4
15
(年/月)
(資料)オランダ経済政策分析局(CPB)"World Trade Monitor"
▲15
▲20
▲25
2010
11
12
13
14
(図表3-3)世界実質民間投資と
わが国の実質輸出(前年比)
(%)
15
(%)
45
世界貿易数量(前年比)
1980
85
30
5
15
0
0
▲5
世界実質民間投資
1991
94
97
00
03
06
09
12
(資料)IMF"World Economic Outlook, April 2015"、日本銀行
00
05
10
15
(年)
(図表3-4)サービス受取割合と
訪日外国人旅行者数
(%)
28
(万人)
450
訪日外国人旅行者数(右目盛)
400
サービス受取/財輸出
24
350
22
300
20
250
18
200
16
150
14
100
▲15
12
50
▲30
10
1996
日本実質輸出(右目盛)
▲10
95
(資料)IMF"World Economic Outlook, April 2015"
26
10
90
(年)
98
00
02
04
06
08
10
12
(資料)財務省「国際収支統計」、日本政府観光局(JNTO)
(注)それぞれ、季節調整値は日本総研作成。
-3-
日本総研
0
14
(年/期)
Research Report
家計 消費増税後の消費回復は緩慢
(1)内需に目を向けると、2014年度入り後、個人消費の回復ペースは緩慢。財別にみると、耐久
財消費に消費増税前の駆け込み需要の反動減が顕在化(図表4-1)。物価上昇に伴う購買力
の低下を背景に、非耐久財やサービス消費の回復にも鈍さ。
(2)世帯別に消費動向をみると、2014年度入り以降バラツキが看取。勤労者世帯では、2014年度
に所得が改善したものの、実質消費は減少(図表4-2)。物価上昇に加え、2013年度に、消
費増税前の駆け込み需要と、アベノミクス始動後の株高やマインド改善を背景とした消費上
振れの反動による消費性向の低下が実質消費を下押し。もっとも、足許では、所得改善の持
続と物価の騰勢鈍化によりプラス転化。先行きは、所得環境に応じた推移に復帰していく見
込み。
(3)一方、引退世帯では、国民年金給付額が特例水準の解消に伴い2013年度の前年比▲1.0%の
削減に続き、2014年度も同▲0.7%となるなか、物価上昇と相俟って実質購買力は大幅に低
下(図表4-3)。消費水準を維持しようとする「ラチェット効果」により消費性向は上昇し
たものの、実質消費の落ち込み回避には至らず。2015年度は国民年金給付額が同+0.9%増
加するものの、これまでの反動による消費性向の低下が消費の回復を遅らせる公算。
(4)こうした状況下、足許では、乗用車販売の低迷も消費下振れ要因に(図表4-4)。2015年入
り後、2014年末にかけての販促活動強化の反動減が顕在化したことに加え、4月以降は、軽
自動車税増税も下押しに作用。
(図表4-2)世帯消費支出変化の内訳(前年比)
(図表4-1)世帯当たり消費支出
14
12
10
8
(%)
6
4
2
0
▲2
▲4
▲6
▲8
▲10
105
(2010年=100)
名目(右目盛)
(%)
6
【引退世帯】
4
100
2
95
実質(右目盛)
【勤労者世帯】
0
90
▲2
85
耐久財
半耐久財
非耐久財
サービス
実質前年比(左目盛)
2013
2014
2015
(資料)総務省「家計調査報告」、「消費者物価指数」
(注1)財別実質前年比は、各財別消費者物価で実質化。
(注2)二人以上世帯。
(注3)2015年4~6月期は4~5月。
80
▲6
75
▲8
2013
(年/期)
(図表4-3)年金世帯の実質購買力(前年比)
物価
名目
14
15/4~5
(年度)
(月)
13
14
15/4~5
(年度) (月)
(資料)総務省「家計調査報告」、「消費者物価指数」
(注1)二人以上世帯。引退世帯は世帯主が60歳以上で無職。
(注2)消費者物価(持家の帰属家賃を除く総合)で実質化。
(図表4-4)乗用車販売台数(季調値)
(%)
1
物価
消費性向
可処分所得
実質消費
名目消費
▲4
実質
60
0
軽乗用車
普通車
販売台数(右目盛)
(万台)
小型車
前年比(左目盛)
550
(%)
50
▲1
500
40
▲2
30
▲3
20
▲4
10
450
400
0
▲5
2011
12
15
▲10
350
(年度)
▲20
(資料)厚生労働省「平成27年度の年金額改定について」、総務省「消
費者物価指数」を基に日本総研作成
▲30
300
2013
14
15
(注1)名目は老齢基礎年金。2013年度(*)の引き下げは10月。
(年/月)
(注2)物価は、消費者物価(持家の帰属家賃を除く総合)。2015 年度は
(資料)日本自動車販売協会連合会、全国軽自動車協会連合会を
日本総研の予測。
基に日本総研作成
13(*)
14
-4-
日本総研
Research Report
家計 賃金増が消費にプラスの一方、人口動態面から下押し圧力も
(1)前頁を踏まえると、引退世帯の消費回復の遅れや軽自動車税増税の影響が、当面重石となる
ものの、個人消費は総じて所得環境に応じた推移に復帰していく見込み。実際の家計の所得
環境は改善傾向。人手不足感が強まるなか、一人当たり賃金や雇用者数は総じて緩やかな増
加が持続。さらに、消費税率引き上げの直接の影響剥落と原油価格下落の影響顕在化によ
り、物価の騰勢が鈍化するなか、2015年度入り後、実質雇用者報酬は前年比プラスに転化
(図表5-1)。
(2)企業側からみると、企業が円安コストの転嫁を実現するなか、経常利益は改善が持続(図表
5-2)。こうしたなか、2014年度入り以降、売上高人件費率が横ばいとなるなど、人件費は
概ね売上高の増加に見合うペースで拡大。賃金引き上げは政府の要請に応えた形ながら、マ
クロでみれば収益の裏付けを伴っており、さらに人手不足も依然根強いことを踏まえれば、
所得雇用環境は改善が続くと見込まれ、勤労者世帯の消費は底堅さを増していく公算。
(3)一方、引退世帯は、所得改善効果が勤労者世帯と比べ遅れるものの、年金給付額が16年ぶり
に増加するほか、家計の株・株式投信資産の7割強を世帯主60歳以上世帯が保有しているこ
とから、企業収益の好調持続による株高が消費に資産効果をもたらす可能性(図表5-3)。
(4)以上から、個人消費は回復傾向が続く見込み。もっとも、足許では、人口減少や単身世帯の
増加ペース鈍化などをはじめとする人口動態面からみたマクロの個人消費に対する下押し圧
力が本格化する兆しもあり、力強い回復は期待しにくい状況(図表5-4)。
(図表5-1)実質雇用者報酬(前年比)
(%)
3
物価
雇用者数
一人当たり名目賃金
実質雇用者報酬
(%)
その他
価格変動
営業外損益
人件費
経常利益(対売上高比)
5
4
3
2
1
0
▲1
▲2
▲3
▲4
▲5
見通し
2
(図表5-2)経常利益変動(対売上高比)の
要因分解
1
0
▲1
▲2
▲3
2012
▲4
2013
14
15
16
(年/期)
(資料)内閣府「国民経済計算」などを基に日本総研作成
(図表5-3)株価と家計部門の
株式評価益(前年差) 試算
評価損益前年同期差(左目盛)
日経平均株価(右目盛)
120
15
(年/期)
(資料)財務省「法人企業統計季報」、内閣府「国民経済計算」、総務省
「消費者物価指数」を基に日本総研作成
(注)価格変動は、消費者物価(持家の帰属家賃除く、消費増税の影響
を除く)を基に算出。
(%)
(円)
2.5
20,000
2.0
100
(兆円)
1.5
15,000
80
14
(図表5-4)個人消費の内訳(年平均増加率)
その他所得効果等
人口増減(C)
単身世帯増加(B)
年齢別構成変化(A)
人口動態効果計(A+B+C)
個人消費実績
予測
(人口動態効果)
1.0
60
0.5
10,000
40
13
0.0
20
5,000
0
▲0.5
▲1.0
▲20
1995~99
0
2012
13
14
15
16
(年/期)
(資料)日本銀行「資金循環統計」、日経NEEDSを基に日本総研作成
(注)予測は、日本総研の名目GDP予測と、日経平均株価が20,500円
で横ばい推移の前提に基づく。
2000~04
05~09
10~14
15~19
(年)
(資料)総務省、国立社会保障・人口問題研究所を基に日本総研作成
(注)年齢階層別、単身・二人以上世帯別の世帯数と世帯支出の変化か
ら算出。予測は、2014年の世帯別支出に国立社会保障・人口問題
研究所の「日本の世帯数の将来推計」の世帯数を乗じて算出。
-5-
日本総研
Research Report
企業 国内設備投資は非製造業を中心とした構図が続く見込み
(1)企業部門について、最近の設備投資の動向を業種別にみると、アベノミクス始動後の個人消
費の回復などを背景に、サービス業などの非製造業は底堅く推移(図表6-1)。一方、リー
マン・ショック以前の景気拡大局面と比べ、製造業は伸び悩みが鮮明。
(2)製造業の設備投資が低迷する背景に、生産能力増強投資の減少を指摘可能(図表6-2)。足
許では、過度な円高の是正を受け海外生産を国内へ移管する動きがみられるものの、海外需
要の多様化などを背景に需要地に近い地域で生産を行う「地産地消」の考え方が広がるな
か、生産移管は一部の国内向け製品に限られ、国内の生産能力を増強する動きは限定的。
リーマン・ショック以前にみられたような投資の盛り上がりは期待し難い状況。
(3)こうしたなか、先行きも、内需の緩やかな持ち直しを背景に、国内投資は非製造業を中心と
した構図が続く公算。ちなみに、非製造業の設備投資を形態別にみると、トラックなどの輸
送機械や医療機器といった機械投資が一定のシェアを占めており、非製造業の設備投資の増
加は、製造業の生産拡大を通じ、新たな投資需要を促す可能性も(図表6-3)。
(4)もっとも、足許の企業収益の改善や生産活動の拡大は、非製造業の設備投資の追い風にはな
るものの、それだけで設備投資が力強さを増していくとみるのは早計。非製造業の設備投資
は、製造業と比べ短期的な収益環境や生産活動の変化に左右されにくい傾向(図表6-4)。
非製造業を中心に設備投資が力強い増勢を回復するには、企業が中長期的な需要拡大や収益
環境の改善に確信を持てる状況が整う必要。
(図表6-1)景気拡大期における
実質設備投資の増加率(年率)
(%)
6
4
(図表6-2)製造業の投資動機
製造業
卸・小売業
サービス業
運輸・通信業
その他
全産業
(%)
100
能力増強
維持・補修
合理化・省力化
その他
80
60
2
40
0
20
▲2
2002Q1~2008Q1 2009Q1~2012Q1 2012Q4~2014Q4
(資料)内閣府「民間企業資本ストック」を基に日本総研作成
(注)同じ四半期の計数を比較するため、景気の谷と景気の山が同一
四半期でない場合は、景気の山に達する直前の同一四半期の計
数を用いて伸び率を算出。
0
2004 05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
(年度)
(資料)政策投資銀行「2013・2014・2015年度設備投資計画調査」
(注)2014年度は計画。
(図表6-4)生産活動およびキャッシュフローと
設備投資の相関
(相関係数)
(図表6-3)一時的な非製造業の設備投資の
増加が中長期的な設備投資水準に与える影響
(億円)
1,200
非製造業
0.4
製造業
1,000
製造業
非製造業
0.3
800
0.2
600
400
0.1
200
0.0
生産活動
0
1
2
3
4
5
6
7
8
(四半期後)
(資料)内閣府「民間企業資本ストック」を基に日本総研作成
(注)非製造業の実質新設投資額、製造業の実質新設投資額からなる
構造VARモデルのインパルス応答関数を基に、非製造業の実質
新設投資額を1000億円押し上げるようなショックの影響を算出。
推計に使用したデータは1994年Q1~2014Q4。
キャッシュフロー
(資料)内閣府、経済産業省、財務省を基に日本総研作成
(注1)生産活動は製造業が製造工業生産指数、非製造業が第3次産
業活動指数と民間企業資本ストックの新設設備投資額の相関係
数。キャッシュフローは、法人企業統計季報の(経常利益/2+減
価償却費)と新設設備投資額の相関係数。
(注2)1995年Q1から2014年Q4までの対数前期差を使用し、0期から4期
までのなかで、もっとも相関が高いラグ次数を選択。 -6-
日本総研
Research Report
企業 企業収益改善の大部分は海外投資へ向かう公算
(1)先行きの国内設備投資の拡大が緩やかにとどまるとみられるなか、国内設備投資に代わる企
業利益の使途を考察。
(2)企業収益の改善に伴い、配当が増加しているものの、アベノミクス始動後の当期純利益の大
幅増加に伴い、両者の差額は大幅に拡大(図表7-1)。一方、企業のバランスシートをみる
と、有価証券等の投資資産が大幅に増加するかたちで利益剰余金が積み上がっており、配当
として使用されなかった資金の多くが、国内企業への出資や海外企業の買収などに使用され
たことを示唆(図表7-2)。
(3)企業の海外M&A意欲は、円安下で海外投資が割高になったにもかかわらず、足許まで引き
続き旺盛(図表7-3)。新興国を中心とした海外需要を取り込むため、先行きも企業は利益
の多くの部分を海外投資に振り向ける公算大。
(4)一方、国内投資は、生産設備よりも研究開発向けのシェアが拡大しており、今後も研究開発
投資が中心となる見込み(同図表7-3)。もっとも、わが国の研究開発投資の効率性は必ず
しも高くないのが現状。わが国の研究開発投資がGDPに占める割合は3.65%とOECD加
盟国中イスラエル、韓国に次いで高水準(2012年度)であるものの、他国に比べ実質設備投
資の増加への波及が限定的(図表7-4)。研究開発効率を向上させることができれば、設備
投資の拡大につながる可能性も。
(図表7-2)企業のバランスシートの変化
(2009年1~3月期対比)
(兆円)
(図表7-1)法人企業の当期純利益と配当
予測
(兆円)
40
その他
固定資産増減
負債圧縮
投資(有価証券等)
現・預金
利益剰余金
150
配当
35
当期純利益
100
30
25
50
20
0
15
10
▲50
5
0
2005
06
07
08
09
(資料)財務省「法人企業統計」
(注)2014年度は季報を基に予測。
10
11
12
13
14
(年度)
▲100
2009
10
11
12
13
14
15
(年/期)
(資料)財務省「法人企業統計」
(図表7-4)日米のR&D支出と実質設備投資
(1995~2012年度)
(図表7-3)日本企業による海外M&A金額と
(兆円) 国内研究開発費/設備投資額比率
(%)
40
38
36
34
32
30
28
見込み
26
海外M&A金額(暦年)
24
研究開発費/設備投資
22
額比率(年度、右目盛)
20
2001
03
05
07
09
11
13
15
(年、年度)
(資料)レコフ「MARR」、総務省「科学技術研究調査」、財務省「法人企
業統計」を基に日本総研作成
(注1)2015年は1~5月の前年比を基に算出。
(注2)設備投資はソフトウェア除く。
15
(
実質設備投資前年比、%)
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
10
5
日本
米国
0
▲5
▲10
▲15
▲20
▲25
▲15
▲10
0
5
▲5
(R&D支出前年比、%)
10
(資料)総務省「科学技術研究調査」、内閣府「国民経済計算」、OECD
"Main Science and Technology Indicators"、BEAを基に日本総
研作成
(注)米国の実質設備投資は知的財産生産物を除く。実線は日本、破線
は米国の線形近似。
-7-
日本総研
Research Report
供給 国内での人手不足は依然解消されず
(1)このように、需要面では様々な需要構造の変化がみられるなか、緩やかな持ち直しが見込ま
れる一方、供給側に目を向けると、アベノミクス始動後に顕在化して以降依然解消していな
い人手不足が、持続的な景気拡大の懸念要因として残存。
(2)人手不足の背景のひとつに「労働供給の減少」を指摘可能。労働力人口は1990年代後半を
ピークに減少基調(図表8-1)。こうした状況下、アベノミクス始動後の景気回復に伴い求
人数が増加し、有効求人倍率は2015年5月が1.19と23年2ヵ月ぶりの高水準に。
(3)このところの人手不足は、「労働需要の偏在」も大きく影響。失業率と欠員率の関係を表す
UV曲線をみると、足許で労働需給は引き続き改善傾向にあるものの、景気動向に左右され
ない構造的失業率は高止まりが続いており、雇用のミスマッチが根強く残っている状況(図
表8-2)。業種別に雇用の過不足をみると、製造業では雇用不足感が限定的な一方、非製造
業では運輸や宿泊・飲食サービスなどで人手不足感が強まるなど、労働需要にバラツキ(図
表8-3)。非製造業の労働生産性が低迷し、賃金も相対的に低水準にとどまっていることな
どがこれら業種で人手不足をもたらしている状況(図表8-4)。
(4)こうした非製造業を中心とした人手不足による供給面からの制約は、小売業などでの出店戦
略見直しや店舗縮小、労務単価上昇に伴う建設投資下振れを招来し、国内投資の中心となり
つつある同業の設備投資の抑制要因に。また、潜在成長率の低下により、わが国の中長期的
な景気拡大の足かせとなる恐れ。
(図表8-1)労働力人口と有効求人倍率(季調値)
(万人)
労働力人口(左目盛)
有効求人倍率(右目盛)
6,800
(倍)
1.6
(図表8-2)UV曲線
(雇用失業率、%)
7
6
1.4
構造的失業率低
5
6,700
1.2
6,600
4
1.0
6,500
3
1970年代
1980年代
1990年代
2000年代
2010年代
労働需給悪化
2
0.8
1
6,400
労働需給改善
0.6
6,300
0.4
6,200
0.2
1990 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14
(年/期)
(資料)総務省「労働力調査」、厚生労働省「一般職業紹介状況」
0
0
1
2
3
4
5
6
7
(欠員率、%)
(資料)総務省、厚生労働省などを基に日本総研作成
(注1)雇用失業率=完全失業者数/(完全失業者数+雇用者数)
(注2)欠員率=(有効求人数-就職件数)/(有効求人数-就職件数
+雇用者数)
(注3)白抜きの○印は直近の2015年1~3月期実績値。
(図表8-3)日銀短観業種別雇用人員判断DI
(%ポイント)
【製造業】
20
(図表8-4)労働生産性
アベノミクス始動直前
直近
10
【非製造業】
0
▲10
(1995年度=100)
130
125
製造業
120
非製造業
115
▲20
110
▲30
▲40
105
不足
宿泊・
飲食サービス
対個人サービス
対事業サービス
情報通信
運輸・
郵便
不動産・
物品賃貸
卸・
小売
建設
輸送機械
電気機械
一般機械
鉄鋼
石油・
石炭製品
化学
▲50
構造的失業率高
(資料)日本銀行「短観」
(注)アベノミクス始動直前は2012年12月調査。直近は2015年3月調査。
100
95
90
85
1995
00
05
10
(資料)内閣府、財務省を基に日本総研作成
(注)労働生産性=(付加価値/GDPデフレーター)/従業員数
-8-
日本総研
(年度)
Research Report
物価 消費者物価は再び騰勢を回復する見込み
(1)物価面についてみると、最近のCPIの前年比でみた騰勢鈍化は、原油価格の下落を受けた
エネルギー価格の下振れが主因。足許では、原油価格の大幅な下落には歯止めがかかりつつ
あるものの、電気・ガス料金の算定に用いられる液化天然ガスの輸入価格が原油価格にラグ
を伴う形で下落(※)しており、当面、物価は伸び悩みが続く見込み(図表9-1)。
(2)一方、エネルギー価格を除けば、物価は総じてプラス基調を維持。CPIと相関が高い雇用
者の時間当たり賃金も上昇傾向が続いており、CPIが再び持続的なマイナスに陥る可能性
は小さいと判断(図表9-2)。雇用や賃金の改善傾向が続くなか、先行きも内需の緩やかな
持ち直しが物価押し上げに作用するとみられることから、原油安の影響が一巡するにつれ
て、消費者物価は再び騰勢が強まる公算。
(3)もっとも、「2%での持続的な物価の安定」という日銀の目標達成には、需給環境の改善に
伴う物価の押し上げだけでなく、インフレ期待の上昇を通じ、需給バランスと物価の関係を
表すフィリップス・カーブが上方へとシフトしていくことが不可欠。家計や企業のインフレ
期待は、足許で上昇傾向が一服しており、フィリップス・カーブの上方シフトも依然として
限定的(図表9-3、9-4)。インフレ期待は、実際の物価上昇率から受ける影響も大きいとみ
られることから、インフレ期待の一段の上昇には物価上昇ペースの再加速が確認される必要
があり、2%の物価目標の達成には時間を要する見込み。
(※)日本向け液化天然ガスの価格は、大部分が原油価格に連動する形の契約となっている。
(図表9-1)原油・天然ガス価格と電気・ガス代
(2012年=100)
原油価格(ドバイ、円建
て換算、左目盛)
液化天然ガス価格(円
建て輸入価格、左目盛)
CPI(電気・ガス代、右目
盛)
175
150
125
(2012年=100)
130
(%)
7
(図表9-2)CPIと時間当たり賃金(前年比)
CPI(食料・エネルギー除く総合)
6
時間当たり賃金(後方12ヵ月移動平均)
5
120
時差相関係数(賃金8ヵ月先行):0.77
4
3
110
100
2
1
100
75
90
0
▲1
▲2
50
80
▲3
1985
88
91
94
97
00
03
06
09
12
15
(年/月)
70
15
(年/月)
(資料)日本銀行、日本経済新聞社、総務省を基に日本総研作成
(資料)総務省、厚生労働省を基に日本総研作成
(注1)時間当たり賃金=現金給与総額指数/総実労働時間指数。
(注2)時差相関係数は、CPIと時間当たり賃金の単純前年比をもとに算
出。0~12ヵ月のなかで、最も相関が高いラグ次数を選択。
(図表9-3)フィリップス・カーブ
(図表9-4)CPIと家計のインフレ予想
25
2007
08
09
10
11
12
13
14
<CPI(食料・エネルギー除く総合)、前年比、%>
3
2
(%)
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
▲0.5
▲1.0
▲1.5
▲2.0
▲2.5
2000
2015年1月~3月
(消費増税の影響除く)
1
0
1983Q1~1995Q4
1996Q1~2012Q4
2013Q1~2015Q1
▲1
▲2
▲10
▲8
▲6
▲4
▲2
0
2
4
6
8
<GDPギャップ(3四半期先行)、%>
(資料)総務省、内閣府などを基に日本総研作成
家計のインフレ予想(今後5年間)
家計のインフレ予想(今後1年間)
コアCPI(前年比)
02
04
06
08
10
12
14
(年/期)
(資料)総務省、日本銀行を基に日本総研作成
(注1)家計のインフレ予想は、「生活意識に関するアンケート調査」を用
い、修正カールソン・パーキン法により推計。同調査は、2013年6
月より消費税率引き上げの影響を除くベースで調査。
(注2)コアCPIは、消費税率引き上げの影響を除くベース。 -9-
日本総研
Research Report
総括 自律拡大の強まりとともに景気は緩やかに回復
(1)以上の分析を踏まえてわが国経済を展望すると、足許では、自動車販売をはじめとする一部
個人消費の弱い動きを背景に、在庫調整圧力が残存。当面、在庫調整に伴う下振れ圧力が景
気の重石となる見込み(図表10-1)。
(2)もっとも、「景気の自律拡大メカニズム」そのものは崩れておらず。先行きも、①企業収益
が堅調なほか、低金利が続くなど投資拡大に向けた環境が引き続き良好なこと、②所得雇用
環境も、企業の収益増加や人手不足などを背景に、雇用の増勢が続くほか、賃金は春闘での
賃上げや夏季賞与の増加をはじめ夏場以降も改善基調が続くこと、などを背景に、自律拡大
メカニズムは徐々に強まる見通し。
(3)ただし、公共投資は頭打ちとなり輸出も力強い拡大が期待しにくいほか、人手不足に伴う供
給面からの制約も景気の抑制要因となり、景気回復は総じて緩やかなペースとなる見通し。
(4)こうしたもとで、2015年度は、在庫調整の一巡とともに年度後半にかけて景気は底堅さを増
す見込み。一方、2016年度は、景気の自律拡大メカニズムが引き続き作用するものの、①中
国をはじめとする海外経済の成長鈍化が輸出を下押し、②円安などを背景とする物価の騰勢
の強まりを通じた実質所得の伸び悩みが個人消費の増勢鈍化に作用、などにより、年度半ば
にかけて成長率はやや減速する見込み。もっとも、年度末にかけては2017年4月に予定され
ている消費税率10%への引き上げに伴い、個人消費や住宅投資などで駆け込み需要が発生し
景気を押し上げる見込み。
(5)以上の結果、2015年度は前半は伸び悩むものの、後半に国内民需を中心に持ち直しの動きが
徐々に強まるほか、うるう年要因も加わり+1%台半ばのプラス成長となる見通し。2016年
度は消費増税前の駆け込み需要もあり、国内民需が拡大する一方、海外景気の減速などで外
需が財輸出を中心に弱い動きとなることから、成長率は+1%台前半に減速する見通し。
(6)物価は、原油価格の低位水準での推移を背景とするエネルギー価格の下振れが下押しに作用
し、消費者物価は当面伸び悩みが続く見込み。もっとも、賃金・雇用の改善傾向が続くな
か、先行きは内需の緩やかな持ち直しや、円安に伴う物価上昇圧力が押し上げに作用し、
2015年後半以降消費者物価は再び騰勢が強まる見通し。
(図表10-1)わが国経済および物価などの見通し
(前期比年率、%、%ポイント)
2015年
実質GDP
1~3
4~6
(実績)
(予測)
2016年
7~9
10~12
1~3
4~6
2017年
7~9
10~12
1~3
2014年度 2015年度 2016年度
(実績)
(予測)
3.9
0.8
1.4
1.7
2.0
0.4
1.1
1.1
2.2
▲ 0.9
1.5
個人消費
1.5
1.0
1.2
1.2
2.2
▲ 0.4
0.8
1.3
5.9
▲ 3.1
1.3
1.2
住宅投資
7.0
3.7
3.5
3.3
3.0
2.8
2.8
4.2
5.5
▲ 11.7
1.5
3.3
設備投資
11.0
在庫投資
(寄与度)
( 2.2)
0.0
(▲ 1.2)
0.9
(▲ 0.5)
3.9
3.6
( 0.0)
( 0.0)
3.4
( 0.0)
3.2
( 0.5)
3.0
( 0.2)
3.2
(▲ 0.8)
0.4
( 0.5)
3.0
(▲ 0.3)
1.3
3.2
( 0.0)
政府消費
0.3
0.4
0.4
0.4
0.4
0.5
0.6
0.6
0.6
0.4
0.5
0.5
公共投資
▲ 5.9
2.7
1.3
▲ 0.8
0.0
0.0
▲ 0.5
▲ 1.0
▲ 1.2
2.0
0.0
▲ 0.4
( 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
公的在庫
(寄与度)
( 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
( 0.0)
輸出
9.9
3.9
4.8
5.1
4.3
3.3
2.8
2.8
2.8
8.0
6.6
3.6
輸入
12.2
2.4
4.2
5.6
5.3
5.2
6.0
6.0
8.9
3.7
5.7
5.7
国内民需
(寄与度)
( 4.8)
( 0.5)
( 1.0)
( 1.9)
( 2.2)
( 0.5)
( 1.9)
( 1.9)
( 3.8)
(▲ 1.7)
( 1.3)
官公需
(寄与度)
(▲ 0.2)
( 0.2)
( 0.3)
( 0.1)
( 0.1)
( 0.1)
( 0.1)
( 0.1)
( 0.1)
( 0.2)
( 0.1)
( 1.8)
( 0.1)
純輸出
(寄与度)
(▲ 0.7)
( 0.1)
( 0.1)
(▲ 0.2)
(▲ 0.3)
(▲ 0.3)
(▲ 0.9)
(▲ 0.9)
(▲ 1.6)
( 0.6)
( 0.1)
(▲ 0.6)
(前年同期比、%)
名目GDP
2.5
2.5
3.6
3.1
1.6
1.7
1.8
1.7
1.8
1.6
2.7
1.8
GDPデフレーター
3.4
1.5
1.7
1.4
0.1
0.3
0.5
0.6
0.6
2.5
1.1
0.5
(除く生鮮)
2.1
0.1
0.3
0.6
1.0
1.3
1.2
1.3
1.4
2.8
0.5
1.3
(除く生鮮、消費税)
0.1
0.0
0.3
0.6
1.0
1.3
1.2
1.3
1.4
0.8
0.5
1.3
消費者物価指数
完全失業率(%)
円ドル相場(円/ドル)
原油輸入価格(ドル/バレル)
3.5
3.4
3.4
3.4
3.4
3.4
3.4
3.4
3.4
3.5
3.4
3.4
119
121
123
124
123
123
123
123
123
110
123
123
56
61
66
67
69
69
70
70
71
91
66
70
(資料)内閣府、総務省などを基に日本総研作成
(注)2017年4月に消費税率引き上げ(8%→10%)が実施されると想定。
- 10 -
日本総研
Research Report
総括 リスクは中国経済失速、原油急騰、金融市場の混乱の3点
(1)外的ショックによる景気下振れリスクとして、3点を指摘可能。第1に、「中国経済の失
速」。中国では不動産開発投資や製造業の固定資産投資の伸び鈍化などを背景に景気が減
速。同国のOECD景気先行指数も2014年入り後の低下に歯止めがかからず(図表11-1)。
中国とわが国の経済面でのつながりをみると、輸出は、全体の水準が伸び悩むなか、中国向
けシェアは2割弱に低下(図表11-2)。一方、海外現地法人売上高は、企業の地産地消重視
の姿勢を背景に全体の水準が高まっているものの、中国での売り上げはなお米国を下回る状
況。以上を踏まえると、中国経済の減速がソフトランディングにとどまれば、わが国輸出や
企業収益は下振れるものの、マイナス影響は限られる見通し。もっとも、急減速の事態とな
れば、これら直接的な影響に加えて、対中直接投資を通じて同国への依存を強めるわが国以
外の国・地域の景気悪化などを通じた「間接的・2次的影響」も相俟って、大きなマイナス
影響として作用する恐れ。
(2)第2に、「原油価格の急騰」。原油価格は足許低水準で推移しているものの、中東や北アフ
リカ、ロシアを巡る地政学リスクの増大が価格急上昇をもたらす恐れ。原油価格の上昇は企
業・家計の負担増を通じて、企業収益の下振れ、設備投資や個人消費の失速を招来。ちなみ
に、家計の負担は、自動車や暖房などエネルギー依存度が高い地方の方が大きく、回復が相
対的に遅いと指摘される地方の景気持ち直しが一段と遅れる恐れも(図表11-3)。
(3)第3に、「国際金融市場の不安定化」。ギリシャでは債務問題を巡る不透明感が増大し、長
期金利は再び上昇基調(図表11-4)。仮に事態が行き詰れば、金利上昇圧力が欧州の他の重
債務国に波及するほか、世界的な金融市場の混乱を招く恐れ。
(図表11-1)中国のOECD景気先行指数とGDP
(%)
中国GDP(前年比、右目盛)
OECD景気先行指数(中国、左目盛) 16
(長期平均=100)
106
(図表11-2)輸出と海外現地法人売上高に占める
米国と中国の割合
(%)
70
中国
104
14
102
12
100
10
98
8
96
6
94
4
20
92
2
10
0
0
60
米国
その他
50
40
90
2000
02
04
06
08
10
12
(資料)OECD、IMFなどを基に日本総研作成。
(円)
14
(年、年/月)
(図表11-3)燃料費10%上昇に伴う
家計負担(試算)
14,000
12,000
東京
30
輸出(通関ベース)
海外現地法人売上高
(資料)財務省「貿易統計」、経済産業省「海外事業活動基本調査」
(図表11-4)欧州主要国の10年債対独スプレッド
(%ポイント)
35
ギリシャ
30
ポルトガル
除く東京
スペイン
25
イタリア
10,000
20
フランス
8,000
15
6,000
10
4,000
5
2,000
0
2010
0
電気代
ガソリン代
(資料)総務省「家計調査」などを基に日本総研作成
灯油代
11
12
13
(資料)Bloomberg L.P.
(注)月末値。直近は2015年6月30日実績値。
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日本総研
14
15
(年/月)
Research Report
総括 需要構造の変化に対応した供給側の構造改革が不可欠
(1)前頁で指摘した外的ショックによるリスク発生が避けられれば、わが国景気は、企業収益の
増加が投資増・賃金雇用増へ波及するといった「自律拡大メカニズム」の作用により、四半
期でみておおむね前期比年率+1%台半ばを挟んでの底堅い成長が続くとみられ、バブル崩
壊以降長期にわたって続いた景気低迷から抜け出す動きは徐々に明確化する見通し。
(2)一方、わが国企業は、①対内的には少子高齢化の進展、②対外的には新興国の生産拠点から
販売拠点へのシフトなど、需要構造の大きな変化に直面。こうした変化に対して事業構造・
供給体制の変革を進めなければ、潜在需要を顕在化することができず、経済成長率は頭打ち
になっていく恐れ。持続的な成長を達成するには、需要構造の変化に対応する供給側の構造
改革を進め、わが国の成長力底上げにつなげることが不可欠。より具体的には、
①海外での現地生産が拡大するなか、国内での企業活動は、新製品・サービスの研究・
開発などが中心に。研究開発投資に対する減税や事業創造支援などを通じたサポート
を強化し、研究開発を新たな需要の創出につなげることが重要。
②訪日外国人観光客の取り込みを通じたインバウンド消費の拡大は、わが国にとって新
たな景気押し上げ要因に。ビザ発給要件の緩和や宿泊施設転用など規制緩和を通じて
受け入れ態勢を拡大する必要。外国人観光客が日本のモノ・サービスに惹かれれば、
海外現地法人での需要拡大につながる面も。
③高齢化はわが国だけでなく今後世界的に広がる社会的課題。高齢化問題で世界の先頭
を走るわが国は、ニーズに対応したモノ・サービスの開発が国内需要の拡大だけでな
く、将来海外需要の獲得に結び付く可能性。高齢者をサポートするケアサービスや先
端医療技術の実用化、およびそれらの海外輸出を促す規制緩和や税制面での支援を。
(3)わが国経済における非製造業の相対的プレゼンスの高まりを踏まえると、成長力を底上げす
るには、同分野における設備投資促進による生産性向上がカギ。前述の分析にあるように、
例えば、ITなどを用いた代替的投資は人手不足の解消につながるほか、投資が製造業の生
産拡大を通じて製造業自身の設備投資にも波及する見込み。さらに、生産性の向上は労働力
不足への対応となるとともに、相対的に水準が低いとされる非製造業の賃金の上昇をもたら
し、経済の好循環メカニズムを強化する効果。
(4)わが国にとっては、成長戦略を進めて成長力を強化すると同時に、財政再建を進めることが
不可欠。成長力の回復により金利上昇圧力が高まる局面では、財政に不安があれば金利急騰
のリスクも。そうした状況に対し、政府は足許で景気の回復傾向が続き、税収も増加してい
ることなどを踏まえ、いわゆる「骨太の方針」のなかで、2018年度に基礎的財政収支(プラ
イマリー・バランス)の対名目GDP比の目標値を、▲1%程度まで縮小すると設定。
(5)本方針は「経済再生なくして財政再建なし」を基本にしており、それ自体は妥当な考え方。
もっとも、目標達成における前提として「経済成長による税収増」に頼る面が大きく、財政
再建に向けた具体的な道筋は不透明。ちなみに、小泉政権時にみられたプライマリー・バラ
ンス改善は、景気動向によって変動する「循環的財政収支」より、それらの影響を除いた
「構造的財政収支」の削減の寄与が大き
(図表12-1)循環的・構造的財政収支の推移
く、それは公共投資をはじめとした歳出
(一般政府、対名目GDP比)
削減の効果。当面、景気回復に伴う税収
(%)
構造的財政収支
循環的財政収支
増が財政健全化に期待できる面はあるに
2
財政収支
しても、中長期的な財政再建に向けて
0
▲2
は、昨秋に延期が決定された消費税率10
▲4
%への引き上げを着実に実施するほか、
▲6
①消費税の「逆進性」に配慮した所得税
▲8
や資産税などの見直し、②PPPなど民 ▲10
間活力による公的部門の業務効率化、③ ▲12
1994 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14
「低負担・高福祉」の色彩が強い社会保
(年度)
障の収支バランス是正、をはじめとした (資料)内閣府などを基に日本総研作成
歳入・歳出構造改革の具体像をできる限 (注1)構造的財政収支は、内閣府「平成25年度年次経済財政報告」
などを参考に試算。
り早く明示することが重要。
(注2)2014年度の財政収支は、日本総研推計。
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日本総研
Research Report
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