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表紙~要約(PDF/192KB)
本報告書は、平成 15 年度独立行政法人国際協力機構客員研究員に委嘱した研究成果をと りまとめたものです。本報告書に示されている様々な見解・提言等は必ずしも国際協力機構 の統一的な公式見解ではありません。 なお、本報告書に記載されている内容は、国際協力機構の許可無く転載できません。 発行:独立行政法人国際協力機構 国際協力総合研修所 調査研究グループ 〒 162 − 8433 東京都新宿区市谷本村町 10 − 5 FAX : 03 − 3269 − 2185 E-mail: [email protected] 目 次 要 約…………………………………………………………………………………………………… i 1. 1 2. 3. 貧困緩和とマイクロファイナンス ……………………………………………………………… 1−1 貧困緩和に期待されるマイクロファイナンスの役割 ………………………………… 1 1−2 実施諸形態 ………………………………………………………………………………… 2 1−3 マイクロファイナンスが貧困緩和に与えたインパクト ……………………………… 3 1−4 マイクロファイナンスをめぐって展開されてきた議論 ……………………………… 4 1−5 マイクロファイナンスの新傾向 ………………………………………………………… 6 1−6 国際機関のマイクロファイナンス支援 ………………………………………………… 8 JICA のマイクロファイナンスへの取り組みにおける特徴 ………………………………… 12 2−1 JICA の制度的特徴に起因する国際的潮流との違い …………………………………… 12 2−2 JICA の貸付事業の実施制度 ……………………………………………………………… 14 JICA プロジェクトの事例研究 ………………………………………………………………… 16 3−1 事例研究の視点 …………………………………………………………………………… 16 3−2 事例概要 …………………………………………………………………………………… 17 3−3 JICA プロジェクトにおけるマイクロファイナンスの位置づけ ……………………… 19 3−4 実施体制別に見るパフォーマンス ……………………………………………………… 22 3−5 各事例の特徴と問題点 …………………………………………………………………… 23 3−5−1 ヨルダン・ハシェミット王国家族計画・ WID プロジェクト………………… 23 3−5−2 マレーシア国サバ州農村女性地位向上計画実証調査 ………………………… 26 3−5−3 ザンビア国ルサカ市未計画居住区住環境改善計画調査 ……………………… 27 3−5−4 タンザニア国コースト州貧困農家小規模園芸開発計画実証調査 …………… 30 3−5−5 ガーナ灌漑小規模農業振興計画 ………………………………………………… 34 3−5−6 マリ国セグー地方南部砂漠化防止計画調査 …………………………………… 35 3−5−7 フィリピン国セブ州地方活性化計画 …………………………………………… 37 3−5−8 ボリビア国小規模農家向け優良種子普及計画 ………………………………… 38 3−5−9 ザンビア国ルサカ市プライマリー・ヘルス・ケアプロジェクト …………… 39 3 − 5 − 10 フィリピン国家族計画・母子保健プロジェクト(フェーズ I ・ II)………… 40 3−6 農業信用の事例比較:タンザニアとガーナの事例の教訓 …………………………… 41 3−7 プロジェクト目標にどれだけ貢献したか ……………………………………………… 44 3−8 事例分析のまとめ ………………………………………………………………………… 44 4. 青年海外協力隊(JOCV)・専門家によるマイクロファイナンスへの関与 ………………… 47 4−1 4−1−1 ニカラグア ………………………………………………………………………… 47 4−1−2 スリランカ ………………………………………………………………………… 47 4−1−3 ジブチ ……………………………………………………………………………… 49 4−1−4 ネパール …………………………………………………………………………… 50 4−1−5 ボリビア …………………………………………………………………………… 50 4−2 5. JOCV の事例 ……………………………………………………………………………… 47 専門家派遣の事例 ………………………………………………………………………… 50 JICA の今後の取り組みについての提言 ……………………………………………………… 51 5−1 マイクロファイナンス支援方針について ……………………………………………… 51 5−2 マイクロファイナンス実施上の留意事項 ……………………………………………… 52 5−3 JICA の制度に関わる事項 ………………………………………………………………… 56 別添資料 1.JICA プロジェクトにおけるマイクロファイナンス支援一覧 ………………………………… 59 2.JOCV のマイクロファイナンス関連活動 ……………………………………………………… 60 3.プロジェクト概要表 ……………………………………………………………………………… 66 4.補論「マイクロファイナンスとソーシャル・キャピタル」…………………………………… 92 5.MF と社会基金:貧困削減重視型プロジェクトおよび複合セクター型プロジェクトに おけるマイクロファイナンス(MF)実施ガイドライン(抄訳)…………………………… 96 参考文献………………………………………………………………………………………………… 99 表目次 表1−1 援助機関の支援内容 ……………………………………………………………………… 9 表3−1 分析対象事例 ……………………………………………………………………………… 18 表3−2 融資実施主体別にみるパフォーマンス ………………………………………………… 23 表3−3 ヨルダンの事例:実績詳細 ……………………………………………………………… 25 表3−4 ザンビア国ルサカ市住環境事例:ステイクホルダーの役割と責任 ………………… 29 表3−5 タンザニアとガーナの事例比較 ………………………………………………………… 41 表5−1 マイクロクレジット(融資)に適した条件 …………………………………………… 52 表5−2 地域社会の特質に合わせたマイクロファイナンスの制度と支援方法 ……………… 55 図目次 図1−1 貧困削減におけるマイクロファイナンス商品の役割 ………………………………… 8 図2−1 Livelihood Assets とマイクロファイナンス …………………………………………… 13 図2−2 回転資金システムの流れ(第 1 段階) ………………………………………………… 15 図2−3 回転資金システムの流れ(第 2 段階以降) …………………………………………… 15 図3−1 ヨルダンの事例:実施体制 ……………………………………………………………… 24 図3−2 マレーシアの事例:実施体制 …………………………………………………………… 27 図3−3 ザンビア国ルサカ市住環境事例:実施体制 …………………………………………… 28 図3−4 タンザニアの事例:実施体制 パイロット・プロジェクト(第 2 段階) ………… 31 図3−5 タンザニアの事例:実施体制 パイロット・プロジェクト(第 3 段階) ………… 31 図3−6 タンザニアの事例:実施体制 修正マスタープラン(第 1 段階) ………………… 32 図3−7 マリの事例:実施体制 …………………………………………………………………… 36 図3−8 ボリビアの事例:回転資金の流れ ……………………………………………………… 39 図4−1 スリランカの事例:各機関の役割 ……………………………………………………… 48 図4−2 スリランカの事例:貯蓄貸付グループのスキーム …………………………………… 48 図4−3 ジブチの事例:実施体制 ………………………………………………………………… 49 図5−1 JICA のプロジェクトとマイクロファイナンス ……………………………………… 53 要 約 貧困削減が国際開発の大きな課題となっている。マイクロファイナンスは、この課題への取 り組みに必要不可欠なアプローチの一つとして数えられている。 マイクロファイナンスとは、貧困層や低所得層が利用しやすい小口の信用貸付や貯蓄などの 金融サービスを通じて、彼らの生計手段である零細事業の運営・拡大に必要な資金を提供した り、様々なリスクへの対応手段を提供するものである。 その基本的使命は貧困削減であり、社会開発にも役割を果たしうるが、「金融」という手法で あるがゆえに、現金貸付スキームのない国際協力機構(Japan International Cooperation Agency : JICA)では、これまで積極的に取り組まれてこなかった。しかし実際には、プロジェクト現場 のニーズから様々な形で試みが進んでいる。平成 10 年度からは「回転資金システム」の制度が 認められ、住民組織や関係各機関を運営主体として、住民に物品の信用売りや料金の徴収等を 行い、回収した物品や現金を再度活動に当てるという方法が実施できるようになった。これら の取り組みの問題点や教訓を洗い出し、今後も増加するであろう貧困削減分野のプロジェクト に反映し、効果的な実施を図ることが求められている。本研究では、JICA や青年海外協力隊 (Japan Overseas Cooperation Volunteers : JOCV)がこれまで実施したプロジェクトにおけるマイ クロファイナンスの事例を分析し、今後の取り組みに向けた提言を行う。 第 1 章では、マイクロファイナンスの貧困緩和と開発援助における位置づけを確認し、その 取り組みについての世界的動向をレビューする。 マイクロファイナンスの貧困緩和へのインパクト調査は、マイクロファイナンスの影響のみ を抽出して測定することは困難であるために包括的な調査が十分とは言えない。しかし、受益 者数がきわめて多く、実施機関・組織実績も数十年にわたる持続性を示しているため、マイク ロファイナンスは概ね効果があるという認識が開発諸団体の間で普及している。 他方、マイクロファイナンスは主として個別自営業を支援するうえで効果的だが、最貧困世 帯の場合、識字能力や世帯内労働力の不足など様々なハンディのためにマイクロファイナンス の効果は現れにくいとの認識が定着しつつある。この他のマイクロファイナンスのインパクト として、女性を主たる対象とする場合、世帯生活水準の向上や女性の家庭内地位の変化、子ど もの就学率の改善などが報告されている。 これまでにマイクロファイナンスをめぐって展開された議論は以下の通りである。 ・ 「貯蓄」か「融資」か:当初は小口の無担保融資のみが重視されがちだったが、少額でも 利用できる安全な預貯金制度のニーズが認識されるようになり、今日ではマイクロファイ ナンスに欠かせないサービスとなっている。 ・ 「市場利子率」か「低利優遇利子率」か:当初は低利融資が当然との考え方が多かったが、 今日では制度の持続性に対する認識の普及に伴い、市場利子率が採用されるようになって いる。 i ・ 「金融システムの確立」か「貧困層への貸付」か:「金融システムアプローチ」とは、低 所得層の実態に合わせて、彼らが利用しやすい貯蓄や貸付サービスの提供を行い、持続的 な制度の確立を重視するものである。「貧困貸付アプローチ」は、基本的に外部資金に依存 しながら外部機関が貧困層や貧しい女性たちに資金を提供できればよしとする考えである。 今日では、融資だけではなく貯蓄も含めた多様な金融サービスが貧困層にとっても必要で あるという認識が高まり、 「貧困貸付アプローチ」を積極的にとる機関は多くはない。 ・ 「最小アプローチ」か「統合的アプローチ」か:零細事業や所得創出活動への融資を提供 する際に、金融サービスのみを行うのが「最小アプローチ」であり、技術やマーケティン グなどの支援を含めて行うのが「統合的アプローチ」である。対象とする層や地域の条件 によってアプローチは異なる。 最近の新たな傾向としては、金融・非金融諸機関がサービスに柔軟に取り組めるようにする ための法的環境づくり、一般の金融商品(リース、保険、国際送金)をマイクロファイナンス に取り込む動きがある。国際開発諸機関のマイクロファイナンス支援としては、資金提供のみ ならず、制度作りのための技術支援や情報発信など様々な方法での取り組みが行われている。 第 2 章では、JICA のマイクロファイナンスへの取り組みの特徴について述べる。まず、JICA には現金貸付スキームがないため、資金貸付競争に巻き込まれず、従ってマイクロファイナン ス機関の能力育成を支援する切迫したニーズもなかった。 また、JICA のこれまでのプロジェクトは、農業や医療など各セクターの専門家による専門技 術の移転が中心だったため、援助対象国・地域の社会経済構造や市場への配慮が必ずしも十分 ではなかった。更に、近年数多く実施されるようになった貧困削減プロジェクトや調査におい ても、市場や金融があまり重視されていない。 第 3 章では、JICA の技術協力プロジェクトや開発調査のパイロット・プロジェクトを対象と して事例研究を行う。事例研究の視点は、①プロジェクト目標にどれだけ貢献したか、②マイ クロファイナンスとしてのパフォーマンスはどうだったか(返済率や、利用者数、持続性など) を検証する。JICA の事業では、プロジェクトのコンポーネントにマイクロファイナンスが取り 入れられているため、①が重要となるが、一方でこれまで②の視点での工夫や努力が必ずしも 十分ではなかった。しかし、いかなるプロジェクト目標のためであっても、「融資」と「贈与」 の混同を防いで活動を成立させるためには、返済率を確保する設計でなければならず、これを 軽視してはプロジェクト全体の成果の持続性を損ねることになる。そこで、本章では、まず JICA の各プロジェクトにおけるマイクロファイナンスの位置づけを分類してニーズを把握した のち、②の点に着目し、これらに影響を与えた実施体制や課題を分析する。 JICA の各プロジェクトにおけるマイクロファイナンスの位置づけは以下の 3 種類に分類でき る。すなわち、①農業プロジェクト等に必要な資機材の投入を円滑化するための手段、②女性 ii と開発(Women in Development : WID)や保健プロジェクト等において女性のエンパワメント や組織化を行うための手段、③地域開発に必要なコンポーネントとして金融制度確立を目指し ているものである。それぞれのプロジェクトの中でマイクロファイナンスの位置づけを明確化 し、その位置づけに応じて設計・実施すること、過去の同様の取り組みからの教訓を反映する ことが重要である。 各事例のマイクロファイナンスのパフォーマンスについては、主に実施体制とデザインに着 目して分析した。一般的に、マイクロファイナンスの実施主体(資金管理者)には、①マイク ロファイナンス特化金融機関(銀行型、信用組合型)、②農村・住民組織の中に組み込まれたマ イクロファイナンス機関(農村開発の一環、村銀行、農協・漁協の金融部門)、③低所得層や女 性だけをターゲットとした所得向上プログラムの一環としての融資プログラム(政府機関や非 政府組織(Non-Governmental Organization : NGO)が実施)、④既存の銀行や在来金融(講組織 など)とのリンクなどがある。一般的に言って、③の実施主体の場合、低い返済率に留まる場 合が少なくない。理由として、もともと社会的目標に重点があって返済率をさほど重視しない こと、融資担当者が持続的にコミットするインセンティブが弱いことなどが挙げられる。 JICA の事例においても、社会的目標をミッションとする組織や政府機関が実施するプログラ ムの返済状況が芳しくない一方で、住民組織主体である事例の返済率は高かった。ただし、住 民組織であれば常にうまく成功するわけではなく、その社会に合わせた方法で組織の育成に関 与し、住民のオーナーシップが明確となる運営形態をとったものが高い返済率を達成すること ができた。 事例分析から得られた結論は以下の通りである。 ・ プロジェクト目標への貢献: JICA の様々なプロジェクト目標に対しても、マイクロファ イナンスは貢献できる可能性がある。しかし、目標や条件に合わせた導入のタイミングや 実施方法で行うことが肝要である。 ・ 持続的な金融制度作りの可能性: JICA の制度的制約からあまり実施されてこなかった、 地域開発の一環としての持続的な金融制度作りは、実施可能である。 ・ 実施主体の選定と支援の重要性:プロジェクトの一部として、マイクロファイナンスを 実施する場合には、実施主体の能力や今後の展開方針が、プロジェクト成果の持続性に決 定的な影響を及ぼす。 ・ 技術研修との組み合わせ:収入創出活動への技術研修も、ターゲットグループの底上げ には役割を果たす。課題として、かかる費用に対して受益者数が少ないこと、成果も研修 受講者に限定されることなどが挙げられる。 ・ 機材供与の問題点:品質にばらつきのある家畜などを一括して調達するよりも、受益者 自らが選んで購入する方が問題が生じにくい。 ・ マイクロファイナンス専門家の欠如:プロジェクト関係者の理解不足から失敗した例が あることは否めない。支援する側に、実施主体を選定する能力、返済を確保する設計を見 iii 抜く能力などが必要である。 ・ プロジェクト・デザイン・マトリックス(Project Design Matrix : PDM)との関係:返済 率は、マイクロファイナンスを支援する機関にとって最低限意識すべき目標なので、PDM には記載すべきである。 第 4 章では、JOCV と専門家派遣の事例を取り上げた。JOCV は貸付に投入できる予算を持ち 合わせないため、図らずもマイクロファイナンスの制度作り支援が活動の中心となっている。 各隊員の報告書の中には、活動プロセスや実績の詳細が記載され、問題分析の質も高いものが あり、これらから得られる教訓は貴重である。 第 5 章では、JICA の今後の取り組みについて、以下の提言を行った。 1.マイクロファイナンス支援方針について ・ 貧困緩和に必要なコンポーネントとしてマイクロファイナンスの位置づけを明確化する。 ・ JICA の制度的特徴を生かしたキャパシティ・ビルディング支援を行う。 ・ 長期的視点に立った地域社会開発プロジェクトを設計する。 2.マイクロファイナンス実施上の留意事項 ・ 地域的条件に合わせてマイクロファイナンス導入の是非を判断する。 ・ 回転資金システムであっても長期的な制度作りを目指して導入する。 ・ 地域の Financial Landscape を把握する。 ・ 地域社会に根ざした金融制度を重視する。 ・ 住民組織を育成する。 3.JICA の制度に関わる事項 ・ 「はじめに機材ありき」を見直す。 ・ 実施目的ごとのガイドラインや基本マニュアルを作成する。 ・ マイクロファイナンス制度育成のための支援を行う。 ・ 専門的コンサルタントを投入する。 ・ マイクロファイナンス専門チームを設置する。 iv