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ブック 1.indb - 東京成徳大学・東京成徳短期大学

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ブック 1.indb - 東京成徳大学・東京成徳短期大学
大学生の日常的なポジティブイベントの構成要素
−大学生は SNS よりも直接的なコミュニケーションに幸せを感じる−
本 多 麻 子 *
The Components of Daily Uplifts for University Students: Students feel happier with direct
communication than with social networking
Asako HONDA
Abstract
7KLVVWXG\LQYHVWLJDWHGERWKWKHFRPSRQHQWVDQGPRGLÀFDWLRQRIGDLO\XSOLIWVIRUXQLYHUVLW\VWXGHQWVE\
collecting descriptions of positive events in their daily lives. 206 participants gave a weekly description about
“events within the last 24 hours or the last few days that have caused a happy feeling,” they then continued
reporting these experiences for 15 weeks. The freely described data of each investigation was analyzed by text
mining with the “KH Coder” software. The results showed that an increase in the frequency of the terms of
“friends,” and “meet,” “delicious,” and “meal,” and “sleep,” and that there were robust co-occurrence relations
between those terms. The results also showed that an increase in the frequency of the terms of “reports,” and
´H[DPLQDWLRQVµ´VHPLQDUVµ´VWXG\µDQG´ÀQLVKµDQGWKDWWKHUHZHUHUREXVWFRRFFXUUHQFHUHODWLRQVEHWZHHQ
those terms when an exam time approaches. A high frequency of “friends” and “meal” was observed in all
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the components of daily uplifts for university students are comprised of the interpersonal relations with friends
and the physiological needs for eating and sleeping, and that students feel happy with direct communication
more than social networking.
Keywords: daily uplifts, free description, text mining
*
Asako HONDA 健康・スポーツ心理学科(Department of Health and Sport Psychology)
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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 23 号(2016)
ポジティブ心理学とは,人間が最大限に機能するための科学的研究であり,個人や社会を繁栄させ
る要因を見いだし,それらの促進をめざすものである(Seligman & Csikszentmihalyi, 2000)。セリ
グマンが 1998 年にポジティブ心理学を提唱して以来,ポジティブ心理学は急速に発展してきた。ポ
ジティブ心理学は,幸福感,フロー,強み,知恵,創造性,精神的健康,ポジティブな集団や組織の
特徴などに対して実証的研究を提供することを目標とする(Boniwell, 2012)
。近年,Seligman(2011)
はウェルビーイング理論を提唱し,ウェルビーイングの 5 つの測定可能な要素として,ポジティブ感
情(positive emotion)
,エンゲージメント(engagement)
,関係性(relationships),意義(meaning)
,
達成(achievement)を指摘し,PERMA と名付けたうえ,これらの 5 要素がウェルビーイングに寄
与すると主張した。
たとえば怒りや不安などのネガティブ感情は,自己に脅威をもたらすと予測される刺激に対して
優先的に注意を向け,闘争あるいは逃走反応(fight or flight response)のように攻撃や逃避といっ
た特定の行動を誘発する。ネガティブ感情が特定の刺激に対して注意を喚起し,行動の選択肢を狭
めることは人類の進化の過程を振り返れば適応的であり,それゆえ,淘汰されずに現代においても
観察される現象である。しかしながら,不安や抑うつなどのネガティブ感情は長期化した場合,心身
の健康に悪影響を及ぼし,疾患の発症や悪化をもたらす。一方,ポジティブ感情は嬉しい,楽しい,
リラックスしたなどの一過性の気分や状態にとどまるものではない。拡張−形成理論(broaden-andbuild theory)によると,ポジティブ感情は単に気分が良いだけではなく,心理的,身体的,社会的
資源を拡張することにより,思考や行動の選択肢を拡張し,身体的,知的,社会的な個人資源を作り
上げる(Fredrickson, 2001, 2009)。ネガティブ感情が思考や行動の幅を狭めるのに対し,ポジティ
ブ感情はそれらの幅を広げて,様々な思考や行動に注意を向けさせる。また,ポジティブ感情には,
ネガティブ感情がもたらす心身への影響を速やかに元に戻す効果(undoing effect)があることから
(Fredrickson & Levenson, 1998),レジリエンス(resilience)を高め,繁栄をもたらす上昇スパイラ
ルにつながり,さらには心的外傷後成長(posttraumatic growth)に至ることもある(Fredrickson,
2009)。また,Fredrickson(2009)は,ネガティブ感情を含むネガティビティにも意義を見出し,ポ
ジティブ感情を含むポジティビティとネガティビティの比率には 3:1 という転換点があると報告した。
ポジティビティはネガティビティの 3 倍を超えた場合に上昇スパイラルをもたらし,3:1 の転換点を
下回る場合,下降スパイラルをもたらす。したがって,ポジティビティのみならず,ネガティビティ
もまたウェルビーイングにとって必要である。
Lazarus(1984)のストレス理論では,人生において稀にしか経験しないような重大なイベント(life
event)よりもむしろ,日常生活で頻繁に繰り返し経験されるささいなイベントが心身の健康に及ぼ
す影響を重視する。Lazarus(1984)によると,日常的でささいなイベントには「健康を脅かすと評
価された日常生活の経験と状況」と定義されるデイリーハッスルズ(daily hassles)と,
「健康にとっ
てポジティプあるいは好ましいと評価された日常生活の経験と状況」と定義されるデイリーアップリ
フツ(daily uplifts)の 2 種類がある。Kanner, Coyne, Scaefer, & Lazarus(1981)はデイリーハッ
スルズ尺度とデイリーアップリフツ尺度を用いて,デイリーハッスルズ,デイリーアップリフツおよ
び健康の関連を検討した。その結果,デイリーハッスルズ尺度は不安や抑うつなどのストレスに関連
104
大学生の日常的なポジティブイベントの構成要素−大学生はSNSよりも直接的なコミュニケーションに幸せを感じる−
した問題を社会的再適応尺度(Holmes & Rahe, 1967)よりも正確に予測すること,またデイリーアッ
プリフツはストレスに対してポジティブな効果をもつと示唆された。Fredrickson(2009)は日常生
活で頻繁に経験される 10 のポジティブ感情を報告した。10 のポジティブ感情とは,喜び(joy),感
謝(gratitude)
,安らぎ(serenity)
,興味(interest)
,希望(hope)
,誇り(pride)
,愉快(amusement)
,
鼓舞(inspiration)
,畏敬(awe)
,愛(love)である。デイリーアップリフツの定義を考慮すると,
デイリーアップリフツと 10 のポジティブ感情には関連があり,部分的に共通あるいは重複する可能
性があると推測される。
細田・三浦(2011)は大学生を対象としてデイリーアップリフツ尺度を作成し,信頼性と妥当性を
検討した。その結果,大学生のデイリーアップリフツは「身近な他者とのかかわりに関するポジティ
ブな出来事」,
「私生活に関するポジティブな出来事」
,
「友達・外出に関するポジティブな出来事」
,
「恋
愛に関するポジティブな出来事」
,
「サークル・アルバイトに関するポジティブな出来事」の 5 因子か
ら構成されることが明らかとなった。また,
外山・桜井
(1999)は大学生を対象としてささいでポジティ
ブな出来事のもつストレス反応の軽減効果を検討するために,日常的出来事尺度を作成した。その結
果,デイリーアップリフツについて「自己に関するポジティブな出来事」と「対人関係に関するポジ
ティブな出来事」の 2 因子を得た。さらにデイリーアップリフツには認知的・行動的なストレス反応
の軽減効果に加えて,より重篤な身体的ストレス反応の軽減効果もあると判明した。小林・豊田・沢
宮(2002)は日常的な出来事に着目したうえで楽観性が心理的ストレスに与える影響を検討した。そ
の結果,ポジティブな出来事を多く経験した場合,楽観的な原因帰属様式をもつようになり,ストレ
ス反応の表出が軽減すると示唆された。白石・永井(2013)は大学生を対象として日常的なポジティ
ブあるいはネガティブな出来事を把握するために自由記述式の調査を 2 回実施した。その結果,調査
時期やポジティブあるいはネガティブな出来事を問わず,対人関係,自己に関すること,経済的な状
況に関する内容が多かった。また,2011 年 3 月 11 日に生じた東日本大震災後に実施された 2 回目の
調査ではポジティブな出来事の種類が増加したことから,厳しい状況のなか,特に他者とのつながり
の再認識や自己のポジティブな側面への気づきが促進された可能性が示唆された。この結果は,ポジ
ティブ感情と心的外傷後成長の関連を示唆するものであり,非常に興味深いものである。
先行研究を概観すると,大学生のデイリーアップリフツについて検討されてきたものの,1 回ある
いは 2 回など比較的少ない調査回数の研究や,質問紙による調査研究が多く,自由記述によってデー
タを収集した場合でもテキストマイニングを行った研究はほとんどない。ポジティブ心理学において
非常によく知られた「3 つのよいこと(three good things)
」と呼ばれる介入研究がある(Seligman,
Steen, Park, & Peterson, 2005)
。1 週間,毎晩寝る前に 1 日を振り返り,よかった出来事を 3 つ思い
だし,書きとめさせる。このエクササイズを行った結果,6 ヵ月に渡って幸福感が増加し,抑うつが
軽減されると判明した。大学生のデイリーアップリフツに関する先行研究や「3 つのよいこと」エク
ササイズ(Seligman et al., 2005)を参考として,本研究では日常的なポジティブイベントを継続的
に収集することによって,大学生における日常生活でのポジティブイベントの構成要素を明らかとす
る。週 1 回のポジティブイベントの自由記述を 15 週間継続することによってデータを得た後,テキ
ストマイニングの手法を用いて日常的なポジティブイベントの構成要素を解明し,時間の経過に伴う
ポジティブイベントの変容についても検討する。日常的なポジティブイベントの性差にも着目する。
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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 23 号(2016)
大学生を対象とした先行研究を考慮すると,日常的なポジティブイベントとして友人などの対人関係
に関する内容が得られると予想される。
方法
調査対象者と調査期間 首都圏にある 2 つの私立大学に在学する大学生 206 名
(男性 135 名,
女性 71 名。平均年齢 19.2 ± 1.3
歳。2 年生 157 名,3 年生 43 名,4 年生 6 名)を対象として,2013 年 4 月から 7 月に調査を実施した。
調査手続き 調査実施者が担当する 3 つの講義科目のそれぞれにおいて,講義の最後に毎回実施するリアクショ
ンペーパーに「24 時間以内(あるいはこの数日)で happy だったできごと」という項目を設けて,
自由記述を求めた。第 1 回目の講義から第 15 回目の講義まで,合計 15 回の調査を実施した。本研究
は調査実施者が指導する卒業研究の一部であること,データは統計的処理をするため,個人は特定さ
れないことを伝えたうえで調査を行った。
分析方法 テキストマイニング用の無償のソフトウェアである KH Coder(樋口 , 2004, 2012)を用いた。KH
Coder 1では内容分析(content analysis)に基づき,テキストマイニングの技術を用いた自由記述の
計量テキスト分析を実施できる。具体的には,KH Coder によって「抽出語リスト」と「頻出語リス
ト」を得て,どのような語句が多く出現していたのかを検討した。その後,共起関係からの探索とし
て,多変量解析によって一緒に出現することの多いグループや同じ語句を含む文書のグループをまと
めて,データ中に含まれるコンセプトを検討した。さらにコーディング処理によって,たとえば親,
母,父,お母さん,お父さん,兄,姉,弟,妹などの語句は「家族」というコンセプトを表すことか
ら,
これらの語句をまとめて「家族」と数え上げた。本研究では第 1 回目調査から第 15 回目調査まで,
全対象者および性別の自由記述データについて,調査回ごとにテキストマイニングを行い,共起関係
からの探索として出現した語句のクラスター分析を行い,類似性の指標である Jaccard 係数を用いて
共起ネットワークを求めた(樋口 , 2004, 2012)。共起ネットワークによって,ある特定の語句が他の
どの語句と同時に用いられているかを図示することができる。出現頻度の高い語句について Ƶ 2 検定
を行い,出現数を比較した。性別,調査回別の出現数を求めた後,性別の出現数について,スピアマ
ンの順位相関係数を求めた。
結果
全対象者
第 1 回目調査のクラスター分析と共起ネットワークの結果を図 1 に示した。クラスター分析の結果
より,「学校」
,「始まる」
,
「久しぶり」,
「会える」,また「友達」
,
「行く」
,
「おいしい」
,「食べる」
,
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大学生の日常的なポジティブイベントの構成要素−大学生はSNSよりも直接的なコミュニケーションに幸せを感じる−
さらに「試合」,「勝つ」などがクラスターを形成した。共起ネットワークでは出現頻度の高い語句が
大きな円で描かれ,共起関係の強い語句は太い線で結ばれる。本研究では Jaccard 係数 0.2 以上の共
起関係に着目した。したがって,「友達」,
「アルバイト」
,「食べる」
,「行く」などの出現頻度が高い
といえる。また,
「友達」−「行く」
「学校」−「始まる」
,
「久々」−「会う」
,
「試合」−「勝つ」
,
「ケーキ」
,
−「食べる」などの関連が強いことが明らかとなった。同様に,
第 2 回目から第 7 回目調査の結果から,
「友達」,
「行く」,
「会う」,
「おいしい」
,
「食べる」,
「たくさん」
,
「寝る」,
「アルバイト」などの語句
の出現頻度が高く,共起関係も強かった。上記の結果に加えて,第 8 回目と第 9 回目調査の結果では,
「サッカー」,「日本」
,
「代表」
,
「勝つ」などの語句の出現頻度が高く,共起関係も強かった。第 10 回
目から第 12 回目調査の結果もまた,第 2 回目から第 7 回目調査の結果と同様であった。第 13 回目か
ら第 15 回目調査の結果では,
「友達」
,
「行く」,
「会う」
,
「おいしい」
,「食べる」
,「寝る」などの語句
に加えて,「レポート」
,
「終わる」,
「テスト」
,
「勉強」などの語句が出現し,これらの語句の共起関
係が強かった。第 15 回目調査のクラスター分析と共起ネットワークの結果を図 2 に示した。
クラスター
分析の結果から,「夏休み」
,
「予定」
,
「海」
,
「友達」
,
「遊ぶ」
,また「レポート」
,「ゼミ」
,
「終わる」
,
さらに「テスト」,
「勉強」などの語句がクラスターを形成した。共起ネットワークの結果から,
「友達」
−「飲む」−「行く」−「遊ぶ」
,
「レポート」−「終わる」
,
「テスト」−「勉強」などの語句の共起
関係が強かった。
表 1 に各調査における各語句の出現数と代表値を示した。これらの語句はコーディング処理済みで
あるため,たとえば「友達」は友達,友人,先輩,後輩などの語句を含み,
「食事」は食事,ごちそう,
ごはん,食べる,飲む,酒,ケーキ,スイーツ,カフェなどの語句を含む。平均出現数が 2.0 回以上
の 11 の語句について Ƶ 2 検定を行った結果,
出現数の偏りは有意であり( Ƶ 2(10)= 61.7, p < .01)
「友
,
達」と「食事」の出現数が多かった。
性別
性別および調査回別にクラスター分析を行い,共起ネットワークを求めた。その結果,全対象者に
ついて分析した場合とほぼ同様の結果が得られた。すなわち,
男女ともに全 15 回の調査を通して,
「友
達」
,
「行く」,
「会う」
,
「食べる」などの出現頻度が高く,これらの語句の共起関係も強かった。また,
「寝る」,「アルバイト」などの出現頻度も高かった。定期試験が近づいてきた第 13 回目から第 15 回
目調査では,「レポート」
,
「テスト」
,
「ゼミ」
,
「終わる」
,
「勉強」などの語句がクラスターを形成し,
これらの語句の共起喚起が強かった。男性において,
第 8 回目と第 9 回目調査の結果から,
「サッカー」
,
「日本」,
「代表」
「出場」
,
「決定」などの語句の出現頻度が高く,
,
共起関係も強かった。女性において,
「食
事」に関する語句の内容が「ランチ」
,
「カフェ」
,
「ケーキ」,
「パン」
,
「アイスクリーム」
,
「おいしい」
,
「食べる」
など具体的かつ詳細であった。表 2 と表 3 に各調査における各語句の性別の出現数を示した。
スピアマンの順位相関係数を求めた結果, Ư =. 822 であった( p < .01)。したがって,出現頻度の高
い語句の順位には男女間で高い相関があること,
「友達」と「食事」の出現数が男女ともに最も高く,
次いで「アルバイト」や「部活」の出現数も高いことが明らかとなった。
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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 23 号(2016)
図 1 第 1 回調査におけるクラスター分析
(上)と共起ネットワーク(下)
図 2 第 15 回調査におけるクラスター分析
(上)と共起ネットワーク(下)
表 1 各調査における各語句の出現数と代表値(全対象者)
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大学生の日常的なポジティブイベントの構成要素−大学生はSNSよりも直接的なコミュニケーションに幸せを感じる−
表 2 各調査における各語句の出現数と代表値(男性)
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表 3 各調査における各語句の出現数と代表値(女性)
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考察
本研究では大学生を対象として週 1 回の日常的なポジティブイベントの自由記述を 15 週間に渡っ
て収集することにより,日常的なポジティブイベントの構成要素の解明とそれらの変容を検討した。
本研究の結果,全 15 回の調査を通して,「友達」
,「行く」,
「会う」
,「おいしい」
,
「食べる」
,
「たくさ
ん」,「寝る」,
「アルバイト」などの出現頻度が高く,これらの語句の共起関係も強かった。性別の分
析の結果から,出現頻度の高い語句の順位には男女間で高い相関が認められた。
全対象者について,第 1 回目調査の結果から,
「学校」,
「始まる」
,
「友達」
,
「久しぶり」
,
「会える」,
「行
く」,
「おいしい」,
「食べる」
,
「アルバイト」などの出現頻度が高かった。春休みを終えて,新年度が
始まった時期の調査であることから,授業が始まり,久しぶりに友達に会った,友達と出かけた,お
いしいものを食べたなどがポジティブなイベントであったと考えられる。第 2 回目調査以降の結果も
また,「友達」
,
「行く」,
「会う」
,
「おいしい」,
「食べる」
,
「たくさん」,「寝る」,「アルバイト」など
の語句の出現頻度が高く,共起関係も強かった。したがって,友達と会う,出かける,食事(に行く)
,
睡眠,アルバイトなどが大学生の日常的なポジティブイベントであると考えられる。さらに,学期末
の定期試験が近づいてくると,「レポート」
,
「終わる」,「テスト」
,
「勉強」などの語句が出現し,こ
れらの語句の共起関係が強かった。特に講義の最終回である第 15 回目調査の結果から,
「夏休み」
「予
,
109
東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 23 号(2016)
定」
,「海」,「友達」,
「遊ぶ」
,
「レポート」
,「ゼミ」
,「終わる」
,
「テスト」
,
「勉強」などの出現頻度が
高く,共起関係も強かった。これらの結果は,レポート課題やテスト勉強が終わる,夏休みに海に行
く予定がある,友達と遊ぶなど,夏季休業目前の時期における特徴的なポジティブイベントであると
解釈できる。本研究の結果は,大学生の日常的なポジティブイベントとして,
「自己に関するポジティ
ブな出来事」と「対人関係に関するポジティブな出来事」の 2 因子(外山・桜井 , 1999)や,「身近
な他者とのかかわりに関するポジティブな出来事」
,「私生活に関するポジティブな出来事」
,「友達・
外出に関するポジティブな出来事」
,「恋愛に関するポジティブな出来事」
,
「サークル・アルバイトに
関するポジティブな出来事」の 5 因子(細田・三浦 , 2011)を報告した先行研究の結果と一致すると
いえる。また,Fredrickson(2009)の指摘した 10 のポジティブ感情(喜び,感謝,安らぎ,興味,
希望,誇り,愉快,鼓舞,畏敬,愛)のうち,喜び,感謝,安らぎ,興味,愉快,愛などに相当する
ものと考えられる。また,
本研究の第 8 回目と第 9 回目調査の結果では,
「サッカー」
「日本」
,
「代表」,
,
「勝
つ」
などの語句の出現頻度が高く,
これらの語句の共起関係も強かった。当該調査は,
2014 年 FIFA ワー
ルドカップ出場に向けてアジア地区予選大会の開催期間中,日本代表チームが本大会出場を決めた時
期に実施された。したがって,サッカー日本代表チームが FIFA ワールドカップ予選大会を勝ち抜き,
本大会への出場決定をポジティブなイベントして報告したものと解釈できる。10 のポジティブ感情
(Fredrickson, 2009)と対照すると,喜び,興味,希望,誇り,鼓舞などに相当するポジティブイベ
ントであるといえるだろう。また,全 15 回の調査を通して,
「試合」
,「勝つ」の語句の出現頻度も比
較的高く,共起関係も強かった。本研究の対象者は心理学あるいはスポーツ・健康科学系の学科や専
攻に所属しており,部活動やサークル等でスポーツを実施している学生が顕著であった。そのために,
自分が出場したスポーツの試合での勝利をポジティブなイベントとして報告したものと推測される。
性別の分析結果は,全対象者の分析結果とほぼ一致した。男女ともに全 15 回の調査を通して,「友
達」
,
「行く」,
「会う」,
「食べる」などの出現頻度が高く,共起関係も強かった。
「寝る」
,
「アルバイト」
などの出現頻度も高かった。定期試験の近い時期の調査では,「レポート」,「ゼミ」,
「終わる」,
「テ
スト」
,「勉強」などの語句の出現頻度が高く,共起関係も強かった。さらに,性別の順位相関の結果
から,出現頻度の高い語句の順位には男女間で高い相関があると判明した。
「友達」と「食事」の出
現数が男女ともに最も高く,次いで「アルバイト」
,「部活」
,
「寝る」の出現数も高かった。したがっ
て,日常的なポジティブイベントは男女で類似しており,具体的内容は,友達に関すること,食事や
睡眠などの生理的欲求,アルバイト,部活動などが多いといえる。性別の特徴がみられた結果は以下
「出場」,
「決
の通りである。男性の第 8 回目と第 9 回目調査の結果から,
「サッカー」,
「日本」
,
「代表」
,
定」などの語句の出現頻度が高く,共起関係も強かった。この結果は全対象者の結果からも得られた
が,男性において顕著であったことから,主に男性が日本代表チームの FIFA ワールドカップ本大
会出場をポジティブイベントとして報告したために,全対象者の結果にも反映されたものと考えられ
る。女性の調査結果を概観すると,
「食事」に関する語句は「ランチ」
「カフェ」
,
「ケーキ」
,
「パン」
,
「ア
,
イスクリーム」,
「おいしい」
,
「食べる」など具体的な内容であり,食行動に対する興味・関心の高さ
や好みが反映された結果であると推測される。
本研究の結果から,スマートフォン,携帯電話,E メール,SNS,LINE,Facebook などの語句を
含む「携帯」の出現頻度は,出現頻度の高い方から数えて全対象者および男性では 14 番目,女性で
110
大学生の日常的なポジティブイベントの構成要素−大学生はSNSよりも直接的なコミュニケーションに幸せを感じる−
は 11 番目であった。青少年のインターネット利用環境実体調査(内閣府 , 2014)によると,高校生
のスマートフォン・従来型携帯電話の所有率は,2010 年度調査時に 97.1 %,2011 年度調査時に 95.6
% であった。本研究は 2013 年に実施され,対象者の 97 % 以上が大学 2 年生と 3 年生であることを
考慮すると,対象者の 95 % 以上がスマートフォンあるいは従来型携帯電話を所有していると推測さ
れる。これらの結果を考え合わせると,大学生において必須ともいえるスマートフォンや SNS など
を介した間接的なコミュニケーションよりも,実際に友達と会う,出かける,食事をするなどの直接
的なコミュニケーションを大学生は日常的なポジティブイベントとして認識していることが示唆され
た。ウェルビーイングに寄与する 5 つの要素として,ポジティブ感情,エンゲージメント,関係性,
意義,達成を指摘したウェルビーイング理論(Seligman, 2011)を考慮すると,友達との直接的な関
わりが日常的なポジティブイベントの中心的内容であることは,大学生のウェルビーイングに寄与す
るものといえる。
本研究の結果から,友人を中心とした人間関係,食事や睡眠などの生理的欲求,アルバイトに関連
した内容が大学生の日常的なポジティブイベントの中心的かつ調査時期を問わず共通するものである
と判明した。日常的なポジティブイベントの内容は男女間でほぼ一致することも明らかとなった。本
研究ではポジティブイベントに関連した記憶の再生に基づいて自由記述を求めたことから,間接的な
コミュニケーションよりも直接的なコミュニケーションによる記憶がより再生されやすかった可能性
が残るものの,本研究の結果から,友人関係のなかでも間接的なコミュニケーションよりも,直接的
なコミュニケーションをよりポジティブな出来事として重視することも明らかとなった。悲観主義者
と比較して,楽観主義者は健康で長生きをし,学業,仕事,スポーツなどのあらゆるパフォーマンス
が高いこと(Seligman, 1990)
,ウェルビーイング理論(Seligman, 2011)
,ポジティブな出来事の経
験が楽観的な原因帰属様式をもたらし,ストレス反応の軽減につながること(小林他,2002; 外山・
桜井 , 1999)などを考慮すると,今後の研究では,日常的なポジティブイベントの継続的記述が楽観・
悲観などの認知スタイルに及ぼす影響の検討、また心身の健康の維持と増進,およびウェルビーイン
グの増加をもたらすのかを検討する必要がある。具体的には,ポジティブイベントの継続的記述と,
学習性の楽観主義(learned optimism, Seligman, 1990),ウェルビーイングの 5 要素,主観的幸福感,
満足感,抑うつ傾向,ストレス反応などとの関連を検討する必要があるだろう。
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注 1 KH Coder については下記の web ページ参照
<http://khc.sourceforge.net/>(2015 年 11 月 12 日)
謝辞
本実験の実施にあたり,藤木 淳氏(平成 26 年 3 月 東京成徳大学応用心理学部卒業)の協力を得たこと
に深く感謝いたします。
112
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