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株式会社兼古製作所(新潟県三条市) 工具(ドライバー): ANEX ブランド ○ 自動車やミシンなどの搭載工具・付属工具の下請け企業(ドライバー)であった 同社が、デザイン性の重視により、自社商品を増やして、自社ブランド化に成功 した事例。単品のデザインのみではなく、企業ブランド全体にデザインを活用し ている。ブランド化の成功により、売上構成を劇的に変化させて(自社商品が5% から 90%に)、またそのことで利益率を向上させて、自立に成功した。同社は「グ ッドデザイン賞」を 19 年連続して受賞しており、品質面で他社とは圧倒的な差 を生みだすに至っている。 キーワード 効果的なデザイナー活用、自社主導の商品開発、統一ブランドの採用、グッドデザイン賞ロング ライフ賞を狙った商品開発、 1.デザイン開発の背景 <下請け構造> ○ 作業工具の分野では、戦前から創業する関西の工具メーカーが国内シェアを占めており、ブ ランドとしても広く認知されていた。戦後になって工具の分野に後発で参入した、新潟県三 条市周辺の工具メーカーの多くは、この関西の工具メーカーの下請や、輸出向け商品の市場、 或いは付属工具の市場等に活路を見出していた。 ○ 昭和 24 年に創業の同社も、下請けメーカーからの創業で、製造・販売する商品の多くは、 品質、ブランドの点において関西のメーカーに劣っていた。創業者は、同社商品を「クロー バーブランド」として製造・販売することとしたが、商品の大半がミシン等の付属品の工具 であったため、ブランド力によって競争力、イメージが高まることは無かった。いわゆる「無 名ブランド」であった。 ○ 創業から数十年間、外部のデザイナーに頼ることもなく、独自にブランド化を進めていなか った同社商品と、関西の有名メーカーの商品との違いは明確であった。 <新たな商品開発と販売戦略> ○ 昭和 50 年代、上記のような下請け構造が続く状況の中、同社は、自社の商品開発、そして 販売方法を含めての見直しを進めた。その際、まず商品の売れ筋をよく知る問屋に、当社の 商品を持ちこみ、自社製品の現状評価を依頼した。結果、何より商品自体に特徴があり、魅 力があることの重要性を再認識した。 ○ 次に販売先として、当時、小売の流通分野では、ホームセンターが急速に伸びていた時期と いうこと、そして消費財を主に扱うホームセンターは、新規参入者に対して比較的オープン で、かつ取り扱う工具の大半が素人向けの安価な工具であったことから、そこに同社商品が 参入する余地があると判断した。同社は、新たに製造・販売する商品の主要な販売先として ホームセンターをターゲットに定めて、下記のような戦略を通じて同市場への参入を進めた。 (なお、同社はホームセンターでの販売のタイミングと同時期に、新たなマーケットとして ギフト市場への参入も進めた。 ) ・カラーとパッケージの工夫: 自社の独自性を消費者にアピールするため、今までの工具とは 異なり、複数カラーの設定、パッケージ・デザインの工夫等に 配慮した。同じ商品であっても外観が違うだけで商品が受ける という経験が背景にあった。 ・戦略的な商品投入: ライバルメーカーの商品力が比較的弱い分野でシェアを確保することと し、ラチェットドライバーや、精密ドライバーの分野に積極的に商品を 投入した。 ・製造工程の内製化: 外部に頼らないということを自社の方針に掲げていた同社は、加工工程 の内製化率を高めることによりコスト削減を目指した。中でもプラスチ ック成型の技術を自社で持っていたことにより、商品開発力が高まっ た。 ○ 上記戦略を背景とする、ホームセンターでの商品販売を通じて、消費者のみならずバイヤー にも強いインパクトを与え、同社の商品の流通・販売量は徐々に拡大した。 図表 戦略的な商品投入に使われた商品例 ラチェットドライバー(RATCHET SCREWDRIVER) 精密ドライバー(PRECISION SCREWDRIVER) (資料)株式会社兼古製作所資料より 2.デザイン開発プロジェクト <新たなブランドの設立に向けて> ○ 同社がブラント力強化に向けてデザイン活用の重要性を認識したのは、昭和 50 年代前半、 ドイツ・ケルンで開催された国際見本市(ケルンメッセ)に参加した際の経験に遡る。 ○ 同メッセ名に出展していた欧州の工具メーカーの商品は、どれも「企業(コーポレート)の カラー」が明確にあった。商品を見るだけで、それが何処のメーカーの商品であるのかが分 かるぐらいに、個性的であったことに、同社は非常にショックを受けた。 ○ 当時の日本の工具メーカーには、このような企業の「カラー」にような個性が存在しておら ず、同社はその差が歴然にあることを痛感した。 ○ 当時の同社の「クローバーブランド」の商品は、付属工具が大半で、市場でのブランドイメ ージが低かったことから、同社は新たなブランドを設立すること(刷新すること)を考え検 討することとした。 <商品開発におけるデザイン活用> ○ 新ブランドの設立以前、同社の経営者(当時は専務取締役兼企画部長)自らが商品のデザイ ンを行っていた。そして、昭和 59 年 10 月には、 「ラチェットドライバー」が初めてグッド デザイン賞受賞商品に選定された。 図表 クローバーラチェットスターピー型 No.300 (資料)株式会社兼古製作所資料より ○ このグッドデザイン賞受賞以降、同社は全ての商品開発において積極的にデザインを活用す るとの方針と共に、新たなブランドの創設することを決定し、経営者自らが行うデザインに 加えて、新たに外部デザイナーとデザイン開発契約を締結することとした。 ○ この外部デザイナーと同社との初めてのコラボレーションを通じて誕生したのが同社の現ブ ランド ANEX である。以降、同社のドライバー関連商品は ANEX ブランドで統一された。 図表 同社のブランド名ロゴ (資料)株式会社兼古製作所資料より ○ しかし、当初にデザイン開発契約を締結したデザイナーとのデザイン開発は、自社よりむし ろデザイナー主導のものであった。デザイン開発契約の締結後の約 1 年間、同社とデザイナ ーとの共同開発プロジェクトが続いたものの、最終的には自社主導での商品のデザイン開発 を希望する同社と、個性を主張するデザイナーとの間の溝は埋まらず、契約関係は解消され た。 ○ 上記のようにデザイナーとの契約解消後、約 1 年間の間は自社での商品開発を続けていた。 そのような折、同社のグッドデザイン賞受賞商品を見たデザイン会社が、同社に対して、 「デ ザイン会社は黒子に徹して、企業の個性やカラー、考えを反映させる」との方針の基に商品 開発を行う提案を行った。それが契機となり、同社は再び、デザイナーとの商品開発を再開 した。 ○ この新たに契約したデザイン会社との間では、単品ごとに契約を締結して、商品デザインを 行うこととなった。以降、現在に至るまで、このような契約形態を通じてのデザイン開発を 行っている。また、実際のデザイン・プロジェクトでは、コストを極力削減するとの意図の 基、図面やメールを通じてのコミュニケーションを重視して、直接のミーティングの機会に ついては必要最低限とする方針とした。同社とデザイナーとの直接のミーティングの機会は、 プロジェクト全体を通じて約 3-4 回程度である。 (近年では、同社とデザイナーとの間でミー ティングを開催せず、電話、FAX での連絡により、デザイン開発プロジェクトを進める場合 もある。 ) ○ そのような取り組みの結果、1 プロジェクトのデザイン費用は、比較的安価な範囲に収まっ ている。 ○ デザイン開発を通じて得た同社の教訓は以下のとおりである。 ・主体は企業であってデザイナーではない: デザイナーに使われていては上手くいかない。企 業が実現したいこと、伝えたいことが先にあり、 それが重要である。 ・自社で対応できないところをデザイナーに: すべてをデザイン会社に任せてはいけない。デ ザインから販売まで全てをデザイン会社に任 せると費用が膨大になるし、またそれはリスク が大きい。自社で対応できない部分についての み外注化(デザイン活用)すべきである。 3.デザイン活用の成果 <売上高の伸びと下請けからの脱却> ○ デザインを活用した商品開発を通じて、同社商品は内外で高く評価されている。 ○ デザインを積極的な活用するようになってから以降は、毎年、売上高を伸ばしている。また、 かつて売上の 90%が搭載付属用としての商品の生産が占めていた。しかし現在はその比率は 売上の 10%を切り始めている。90%の商品について自社および OEM のブランドで製造・ 販売しており、同社は下請け構造を脱却する等、自立した経営を続けている。 ○ 同社経営者によると、 (現在のように)商品意開発にデザインを取り入れて、一般市場に参入 していなかったら、同社はおそらく、中国企業が生産する安価な商品に押されて、結果とし て消滅していた可能性が大きいとのことである。 <デザイン・アワードの獲得> ○ 昭和 59 年 10 月、同社のラチェットドライバーがググッドデザイン商品に選定され、それ以 降 19 年連続して、合計 40 点以上を超える作品がグッドデザイン賞を受賞している。以下は、 その内の代表的な作品(アネックス・インパクトドライバー/中小企業長官賞受賞)である。 図表 グッドデザイン賞受賞作品(一例) (資料)株式会社兼古製作所資料より 4.基礎データ等 株式会社 兼古製作所 本社: 新潟県三条市 創業: 昭和 29 年(設立) 昭和 24 年(創業) 売上: 1,350 百万円 従業員: 80 名 事業内容: 各種ねじ廻し、SCREW DRIVERS、その他の工具 デザイナー: 株式会社デザイン オフィス バックス 冨田昌人 出典:(財)国際経済交流財団の平成15年度「中小企業におけるデザインの成功事例の把 握と要因分析に係る調査研究」より。 なおこのサイトに掲載されている画像及び文章等の著作権は(財)国際経済交流財団 に帰属します。無許可転載・転用を禁止します。