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7.基調講演 「今国民に求められる課題について」~高齢者や買い物弱者問題の提言~ 駒木 伸比古 氏 愛知大学地域政策学部 助教 皆さん、こんにちは。ただ今ご紹介にあずかりました、愛知大学の駒木と申します。本日はこのよう な素晴らしいフォーラムにお招きいただくとともに、発表の機会を与えていただきありがとうございま した。また準備に当たっていただいた方々、そして皆様に感謝申し上げます。 先ほどご紹介いただいたように、岩間信之先生を中心に活動しているフードデザート研究グループの 代表として、今回私が発表させていただきます。発表内容は、「地方圏におけるフードデザート問題の 現状と解決に向けた課題」です。スライドをたくさん作り過ぎたので、もしかしたら早口になってしま うかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 まずは自己紹介ですが、私の専門は地理学です。地理学とはどういう学問なのかと思う方もいると思 いますが、簡単に言えば、地図を使って考えるという学問になります。いろいろなことを、地図を使っ て考える、ということです。もっと言えば、場所や空間、地域などの意味や意義を考えていくというこ とです。ちょうど長官から消費者問題は地域問題だというお話がありましたけれども、地域を考えてい く際に、地理学はベースにとなる学問のひとつであります。 では早速、フードデザートとは?ということです。 “デザート”と聞いて、やはりスイーツの方を思 い浮かべる方が多いとと思います。しかし、今回の“デザート”は英語で書くと「desert」ということ で、S が 1 つのデザート、つまり砂漠という意味の“デザート”です。これは何かというと、スーパー の郊外進出によって都心部の生鮮食料品店が衰退した、1970 年から 1990 年ぐらいのイギリスにおいて 発生した問題です。 イギリスは日本と似たような小売構造の状況にあり、移民問題など、所得格差が大きいという現状に あります。そういった状況において、 「フードデザート」という問題が発生した、ということです。こ れが何をもたらすかというと、深刻な病気の増加や社会的不和など、最近暴動の話がありましたけれど も、そういった問題を招くというふうに言われています。 これはイギリスの問題ですが、では日本ではどうなのかと見ていきましょう。日本では地方都市中心 部に居住する高齢者が買い物をしにくくなっているという状況があります。例えばこちらは高齢者につ いて示したデータですが、1950 年、今から 60 年ぐらい前ですと、20 人に 1 人が高齢者だったのが、2010 年になりますと 23%、今度 4 人は 1 人が高齢者になっています。21%を超えると超高齢社会といわれて いますので、日本も超高齢社会になったということです。さらに高齢者率が増加するということは、高 齢者人口は増加していくということであります。 もうひとつは、中小小売店舗の減少と大型店の郊外進出という、小売流通構造の変化ということがあ ります。例えばこちらの中小小売店―八百屋さんとかそういったものですが―は、1991 年、20 年ぐら い前と比べると、ほとんど半分に減っている一方で、スーパーやショッピングセンターなどの大型店の 方は、20 年前に比べて増えているという状況にあります。 データで見てみると、例えば経産省は、買い物難民は 600 万人いると推定しています。また、生鮮食 料品店までの距離が 500 メートル以上で、自動車を持っていない人口の推計値なのですが、こちらは全 国で 910 万人、そのうち高齢者は 350 万人と試算されています。特に注目したいのは地方圏で、3 大都 市圏に比べて、かなり高齢者の割合が高くなっています。さらに地方圏といってもその中でも都市と農 村がありますので、おそらく農村部だと高齢化率がものすごく跳ね上がっているというような、100% に近いような集落もあると思われます。 なお、“デザート”の意味ですが、辞書で引くと基本的には砂漠という単語が出てきます。しかし、 もう少し意味を見ていくと、実は砂漠という意味だけではなくて、なくなるとか、取り残されていくと いう意味があることがわかります。つまり、 「食の砂漠」というだけではなくて、 「食に対する機会が奪 われている」とい意味で、フードデザート問題というのがあるわけです。 ですので、フードデザート問題とは何かというと、社会的排除問題―Social exclusion ともいいます ―にその本質があります。つまり買い物弱者、買い物難民とはイコールではなくて、さらにその先にあ る問題というのが「フードデザート問題」ということになります。 その定義ですが、2 つありまして、1 つは、自宅から生鮮食料品店への買い物利便性が極端に悪い、 近くに店がないということです。もう 1 つは社会的弱者で、今はそれに高齢者が該当するとしています が、将来的には、子育て世代や低所得の方なども、おそらく該当するようになると思います。そういっ た方々が集住し、2 つの条件が重なるときに、このフードデザート問題、つまり弱者の排除というのが 起きるということです。 ではこうなると何が起こるかというと、健康被害の可能性があります。例えば栄養失調まではいかな いけれども低栄養などになり、その影響で肺炎などのリスクが上昇してしまったり、老化の早期化や生 活の自立度低下などが起きてしまったりするといわれています。 最近は高齢者をめぐる低栄養問題についてもメディアなどでかなり放送されています。視聴された方 もいるかもしれませんが、例えば NHK の『ためしてガッテン』もとりあげていて、高齢者の低栄養問題 についてかなり注目されるようになってきました。そこでは、ここにも挙げた肉や魚などの 10 品目の 摂取状況が、こういった栄養状況を簡易に測定できるとされています。 今回、皆さんにアンケートをしたかったのですが、時間的に余裕がないので、配付資料の中にアンケ ート用紙を入れさせていただいています。もしお時間があれば、それで自分の栄養状況がどれぐらいか というのをチェックしていただければと思います。 この調査方法では、 毎日 4 品目以上食べる必要があるといわれています。 そして 3 品目以下の場合は、 低栄養に陥るリスクが高まる可能性があるといわれています。全国平均は 5~6 ということです。ただ、 5~6 とありますが、年齢によってもかなり違っていまして、私が実際にやると、2 や 1 とかそういった 数字しか出ませんし、あとは授業で学生にもやってもらっているのですが、やはりほとんどの学生は 3 以下になっています。ですので、基本的にはこれは 4 以上食べる必要があるというふうにとらえてもら えれば良いと思います。 一応もう一度まとめます。フードデザート問題とは何か、ということですが、買い物弱者も含めた大 きな概念です。あとは、店舗がないことがフードデザートというわけではなく、例えばアメリカなどで はフードデザート問題は健康問題として扱われています。近くに、例えばジャンクフードのような店が あっても、栄養的には良くないということで、こういった点も注意するところだと思います。そして、 絶えず変化する都市構造、それには中心市街地の衰退などがあると思いますが、そういった都市構造の 変化と、社会的弱者の増加の中で生まれた社会のひずみということになるかと思います。 あと、フードデザートの定量的な特定は難しいのですが、ただ近くに店がなくても、金銭的余裕があ ったりサポートしてくれたりするような状況、つまりコミュニティのあるなしでも問題の深刻度はかな り変化していきます。ただし、全国的にこういった問題が発生していることはたぶん間違いないと思っ ています。 このような視点で、我々グループはフードデザート問題について調査・研究をしています。これが、 その概念を簡単に示した図です。地理的な要因と、社会的な要因、身体的な要因、この 3 つが重なった ところで、FDs、フードデザートが発生するということになります。 あとはフードデザートの起こっている場所の特定に関してもいろいろやっていて、私とグループメン バーの田中耕市先生とで「フードデザートマップ」というのを作っています。これは赤いところの方が フードデザートの発生する可能性が高いことを示す、ハザードマップのようなものなのです。 さて、ここまでは「フードデザートとは何か?」という話だったのですが、次からは具体的な事例紹 介をしていきたいと思います。1 つ目は、北関東の A 市の事例です。 A 市は、東京から電車でだいたい 2 時間ぐらいのところ、人口が 30 万人弱ぐらいです。城下町起源の都 市で、中心市街地にはかなり多くの高齢者の方が住んでいます。高齢化率が 2005 年、今から 10 年弱前 で 25%なので、今は 30%ぐらいになっていると思います。こういったところでは、城下町起源である こともあって、道路が非常に入り組んでいます。そのためなかなか自動車交通には適していなくて、し ょっちゅう渋滞が起きています。さらに歩道がなかなか整備されてないので、高齢者にとって買い物が しづらいというふうな場所も多々あります。 あと注目したいのは、中心市街地における店舗の閉鎖です。こちらは先ほどのフードデザートマップ で、赤いところほど高齢者が困っている可能性が高いということです。バツを付けたものがここ 15 年 ぐらいでなくなってしまった店舗なのですが、かなり赤いところにそういった店舗があることがわかり ます。つまり、店舗が閉鎖されてしまった場所で、高齢者がかなり困っている状態にありそうだ、とい うことが、フードデザートマップから分かるということです。 あとは、郊外にショッピングセンターができ、その反動で市街地内のスーパーが減っているというこ ともあって、高齢者の方が困っている現状にあります。駅前にもスーパーがあったのですが、それもな くなってしまいました。これは A 市に限らず、地方都市どこでも見られるような状況だと思います。 フードデザートの問題の当事者というのは、3 つのパターンに類別されます。1 つは、近隣に買い物 ができる店がなくなる場合、です。もう 1 つは、社会からの孤立です。そして 3 つ目は、経済的な問題 です。 A 市の高齢者に、買い物についてアンケートをしてみました。結果をみると、世帯構成については 75% が高齢者世帯、かつ独り暮らしは 44%とかなり多くなっています。また自動車を持っていないケースも 多いです。中心市街地ですので、なかなか車を持っておらず、4 分の 3 ぐらいの人が持っていないです。 自宅から店舗までの距離は、店舗からだいたい 1.5km が多くなっています。しかし片道ですので、往復 すると 3km の距離になってしまうということになります。交通手段は、ほとんどが徒歩です。買い物頻 度については、1 週間に 2 回ぐらいしか行かないということで、買い物に行く楽しみとかそういったの が難しいという状況にあるということが分かります。 またアンケートだけではなく、実際にお宅にお邪魔してお話を伺ったりもしました。そういったとこ ろで聞いた困ったことをまとめてみたのが、このスライドになります。食品スーパー近くにがないので、 ドラッグストアなどそういった店で買い物をしなければならないことや、商店街には意外と行っていな いことや、もしくは近くに生鮮食料品店があるけれども、品ぞろえが悪いのでわざわざ遠くまで行かな くてはならないことなど、そういった事例がありました。 もう 1 つは生活環境についてですが、やはりコミュニティの問題がたくさん出てきています。これは A 市の上空の写真なのですが、建物がかなり歯抜けになっています。こういった駐車場の部分には昔は 家が建っていたのですが、そこから人がいなくなって、このように駐車場になってしまいました。その ため、どんどんコミュニティがなくなってしまっています。あとは、子どもとは一緒に住めない状況に あったり、おすそわけや、買い出し、送迎など、昔はあったサポートが受けられなくなったりというこ とがあります。 A 市でも食生活アンケートを実際に高齢者の方々にお願いしたのですが、3.8 という結果になりまし た。3 を一応超えているので、ぎりぎり低栄養の問題はクリアできるのかなということなのですが、全 国平均に比べると低いと言えます。子どもなどが買い物に行ってくれたり、買い物頻度を高めたりする ことができれば、こういった低栄養の状況はクリアできるということが、データ、統計からも一応分か るということになります。 また、先ほどの食の多様性とコミュニティの関係です。実際に、店が近いからそうなのかということ ももちろんあると思うのですが、やはり大きかったのはコミュニティの問題です。例えばこれは、中心 市街地の D 地区と E 地区、2 つ比べてみたものです。D 地区の方は、駅前で、人の入れ替わりが激しく、 公民館活動などコミュニティ活動が少ないところです。もう 1 つの E 地区は、フードデザートマップで は赤い地域なのですが、わりと昔からの住宅地で、結構、人が集まりやすい地区です。この 2 つの地区 の多様性指数を比べると、コミュニティが希薄な D 地区は 3.2、コミュニティが強い E 地区は 4.2 とい うことで、かなり歴然とした差が出ています。 D 地区は人の移り変わりが激しくて、コミュニティ活動とかもやってはいるのですがなかなか難しく て、社会から孤立している方もいます。E 地区の方は、結構地域の方が携わっていろいろコミュニティ 活動などをしていて、引きこもりがちな方も出てきています。こういった地域活動の違いというものが、 食の多様性、つまり栄養問題にも実は結び付いているということが、データからも分かります。こうい った地域のつながりやコミュニティの活動というのも、高齢者の栄養状態にも大きな影響を与えている ということをここでは指摘したいと思います。 このスライドは、配食サービスの当時の問題です。当時の配食サービスというのは、基本的に配食す るだけだったのですが、そういった状況では利用しない人が多かったので、今の配食サービスは変わっ てきています。当時もやっぱりただ配るだけの配食サービスだと、なかなか使ってくれないというよう なことが、当時の調査では分かっています。 さて、ここまでは地方都市の事例だったのですが、次は農山村地域におけるフードデザート問題をお 話ししたいと思います。こちらは同じく北関東の H 市というところの B 地区というところです。が中心 市街地からこういった山を越えていかなくてはならない地域です。高齢化率はかなり高く、地区全体で 3 割超え、半分以上は高齢者だというところも多い、いわゆる山間地域の地域です。 こういった地域も、もともとは実は結構暮らしやすい地域でした。例えば 1980 年代ぐらいまでですと、 お子さんの世代は市内にいて週末には来てくれる、そしていろいろサポートを受けられることもあって、 自然がたくさんあって非常に暮らしやすい、そういった理想的な地域でした。 しかし、2009 年現在の状況になると、過疎化や農業の衰退とか顕在していて、高齢者世帯の生活環境 がかなり悪化してしまっています。1 つは少子高齢化と農業の衰退、もう 1 つは地方経済の冷え込みな どがあります。子ども世代はもともと市街地の方に住んでいてそこで働いていたのが、企業の経営統合 などがあって遠方に移転してしまいました。そのため、子どものサポートを受けられなくなって、生活 も困難になってしまったのです。 さらに生活環境の悪化もあります。食料品店がなくなってしまったり、バス路線の減少やタクシーが 廃業してしまったり、病院など医療機関がなくなってしまったりということで、暮らしていくのにかな り厳しい状況になってしまっています。 ここでも、食生活など関してアンケートをしました。山間地域なので野菜とかは結構食べてはいるの ですが、動物性タンパク質などが不足している可能性が高くなっています。 また、地区間の格差もありまして、同じような山間地域内でも、比較的まだ交通の便がいい地区です と、それなりに食糧事情がよかったりするのですが、本当に山の中になってしまうと、どうしても孤立 してしまってなかなか食料品の入手は困難になっています。しかも子どもも遠くにいてサポートがなか なか受けられないということで、こういった山間地域の中でも、地区間の格差も出てしまっているとい うことがあります。 地域の取り組みに関してもいろいろやっていて、例えばデマンド交通もやっています。助け合いタク シーB 号というのがありまして、これを 2008 年から実験運行して、NPO 法人「助け合い B」を立ち上げ てやっていますが、事業の採算性や運行上の問題点などがあって、なかなかうまくいってないというこ とが現状です。 あとは移動式スーパーについて、例えば周辺の市町村の商店が、トラックなどを仕立てて移動販売に 来ているのですが、主要な道路の近くまえしか来ないので、さきほどのような孤立集落の人たちは使う 事ができません。また採算面で問題が大きいので、いつまで続けられるのか困難だという状況にありま す。 以上 2 つの事例が、地方都市および地方の山間地域でのフードデザート現状です。では、フードデザ ート問題への対策に向けて、今はどういったことをやっているのか、そして対策にあたってはどういう ふうな要素が必要なのかをまとめてみました。中心商店街の維持や青空マーケット、宅配サービスなど も指摘されているのですが、店が増えるだけではなかなか問題は解決しません。引きこもってしまうと、 たとえその辺に店があっても利用しません。 もう 1 つは、食に対する興味関心です。最近、食育が注目されていますが、そういった意識がないと 停滞してしまいます。海外の失敗事例で、これは過去のイギリスの事例なのですが、政府が政策的にフ ードデザートエリアにショッピングセンターなどを建てたりしたのですが、状況は結局全然変わってな いという報告があります。こういったハード面とソフト面とのバランスが必要です。もちろんハード面 も必要ですが、要するにソフト面も変えていかないとなかなか解決が難しいということです。 また、採算性と持続性確保の問題もあります。どうしても客単価が高齢者の方だと低くなってしまう ので、なかなかビジネスの対象にはなりにくいというのがあります。 さらに、モータリゼーションなどへの痛烈な批判はあるのですが、地域の構造が変わってしまうと、 中心市街地の衰退や郊外化などが起こってしまうのはある意味必然のことです。もちろん中心市街地の 維持というのは重要で、例えばヨーロッパなどの事例から最近は日本でもコンパクトシティという概念 が注目されていますが、新しい市街地の在り方、活用方法を考えていく必要があると思っています。 こうした状況を踏まえて求められる対応というのを考えたとき、やはり重要なのは、今回のフォーラ ムのテーマに「絆」とありますように、人と人とのつながり、孤独を避けるということが必要だという ことです。あともう 1 つは、採算性や持続性、汎用性など、そういったものがあるような対策の実施が 必要だということです。一部の方に依存していてはだめで、地域みんなでこういったものに対して後押 しする体制、そういったことが必要になると思います。 このスライドは東京都の C 団地でのアンケートの結果なのですが、基本的にはやはり、昔の村落的交 流や都市的交流が必要であることがわかります。このようにあいさつや物の貸し借り、仕事に関する情 報のやりとりなど、こういったものがないと交流なしになり、低栄養になってしまうということを示し た図になります。 最後に、事例をいくつか紹介していきます。基本的に 3 つのグループに分けられることになります。 共に食べる「共食型」 、 「配達型」、 「アクセス改善型」の 3 つがあります。本発表では、その 3 つの事例 を紹介したいと思います。 1 つ目は、稲城市の「支え合う会みのり」です。これはもともと食事、もしくは高齢、老後を考える 勉強会として始まった活動です。それが 2000 年に NPO 法人化して、最近では行政の支援も受けていま す。ボランティアのスタッフは基本的に高齢者です。内容としては、食事中心の高齢者支援ということ で、会食会を開いたり、配食サービスをしたり、たまり場、つまり高齢者同士お話しする場を提供した りしています。 こちらは写真で、駅前にある事務所を構えています。3 階では炊事場、厨房になっていて、このよう な感じで食事やお弁当を作っていて、配達しています。2 階ではたまり場として、食事をとりながら、 読み合わせをしたり、情報交換したり、最近の自分の状況をお話ししたりとかしています。また、他の 調査でもそうだったのですが、男性の方がどうしても食に対する意識が低いということがありますので、 「メンズクッキング」という形で、男性の方にも一緒に食事を作りながら、そういった食に対する意識 を持ってもらうような取り組みも行っています。 みのりの会の活動を分析した結果なのですが、利用者の 6 割以上が実は 70 歳以上の独居または高齢 者世帯ということで、かなり高齢の方、つまり後期高齢者の方も結構利用されています。また、参加期 間が 5 年以上ずっと利用している方が 6 割以上、さらに毎回参加者は 9 割弱ということで、かなり継続 性が強くなっています。1 回参加して終わりではなくて、何回も参加することでつながりが非常に強く なっていることが分かるかと思います。 あと、みのりの会の持続条件、なぜうまくいっているのかということなのです。ボランティア活動に おける一般的な問題点は、人的な資源や資金の不足、労働時間の負担、キーパーソンに依存しすぎてし まう、そういったものがあります。みのりの会については、ボランティアの属性について見ると、かな り高齢者の方もボランティアで参加されています。全 141 人中、ほとんど高齢者の方です。 あとは、行政の補助は極力抑えて、会員間のコネクションや民間の助成とかを利用しています。つま り今ある良好な運営状況というのと、高齢者同士の互いに支え合うような精神を持って、 「みのりの会」 というのは活動していることが言えるかと思います。ここがポイントだと思います。 次に 2 件目なのですが、今度は都市における買い物の店舗の例です。ひたちなか市の「くらし共同館 なかよし」というところです。ひたちなか市の旧勝田市というところなのですが、中心市街地から少し 離れたような団地です。昔は結構この団地にも店があったのですが、2000 年代に入って、団地の中の店 がどんどんなくなってしまいました。 もともとこの団地にも生協の店舗があったのですが、閉鎖してしまいました。そこで、その閉鎖した 店舗をどういうふうにしようかということで、住民の中で話し合いを持ちました。そこでやはり店が必 要だということで、住民主体となって始めた店です。そして、かつてそこで働いていた方、つまりノウ ハウを持った方も一緒になって、こういった店舗をつくったという経緯があります。 店を始める前にボランティアを募ると 56 名の応募があったり、試験的に販売をするとかなり売上が あったりということで、NPO 法人の立ち上げに踏み切ったということです。あともう 1 つ重要なことは、 販売だけではなくて、交流の場としての機能もあることです。先ほどの例もそうなのですが、やはりこ こがポイントです。食料品の販売とかだけではなくて、喫茶店とかレストランとかをスタッフの方がや っています。またいろいろな習い事や、スタッフの交流の場、自分が趣味で作ったものを展示する場と、 そういった場も設けています。 利用実績もかなり高くて、年間 5 万人ぐらいは利用されています。さらにスタッフも登録は 100 名い て、1 日だいたい 20 名ぐらいはフルで活動しています。スタッフは、リーダーの方は元生協の役員の方 なのですが、実際スタッフで働いているのは、60 歳の女性の方が中心で、その方々が主になってやって います。収支は黒字なのですが、利益はほとんどないのですが、基本的にはほとんどボランティアなの で、黒字で収まっているということになります。 実際に店舗の中をみると、食料品だけではなく生活用品やお総菜もあります。あとは奥の方で見てい ただくと、こういった感じで、作品を展示しているのが見えるかと思います。これは、スタッフもしく はここで活動している方の作品です。つまり、ただ買い物の場所というだけではなくて、交流の場とし てもやっていることが特徴です。このようにいろいろな教室や催し物があり、また地元の方が得意なお 惣菜を売っていて、いろいろ変化をつけています。 「なかよし」の成功要因としては、まず地元人材を活用していることがあります。さらにその方たち のやりがいになっていることもポイントです。あともう 1 つは、そういったのを支え合う社会の仕組み があることです。例えばいろいろな寄付があります。あとは地元企業とも協力しながらいろいろやって います。つまり地域の資源、人材とか社会組織、企業、産業、そういったものをお互いにメリットがあ る形で利用しているので、うまくいっているということになります。 最後は、アクセス改善型、いわゆる移動販売の話です。こちらはかなり有名な例なので、もうご存じ の方も多いかと思うのですが、鳥取の「あいきょう」です。こちらも生協経営の店舗なくなってしまっ て、そこで始まった事業です。設立は 1990 年で、現在、県や町から見守り協定のような事業も委託し てやっています。 経営についてのポイントとしては、従業員は地元から採用していることです。つまり、地元のことを よく知っている方が経営にかかわっていることです。これが実際に写真なのですが、こういった形で仕 入れ等のノウハウを活かしたり、トラックを使って販売したりしています。 実際の買い物の場所の様子です。こういった形で高齢者の方が実際に選んで買えるということで、か なり好評であり、しかも井戸端会議の場所、情報交換の場になっています。さらに山間部も回り、商品 を持っていってあげたりもしています。 「あいきょう」の成功要因なのですが、1 つは効率的な配送システムです。移動店舗だけでなく固定 店も経営していて、うまく商品の管理をしています。あともう 1 つは、地域への密着度が高いというこ とです。地元雇用にあるように、買い物をする消費者と販売員の方との心理的な距離が非常に近い、そ ういったところがこの成功要因になっているかと思います。 以上、かなり駆け足になってしまいましたが、最後のまとめです。 「フードデザート問題」を紹介し ましたが、本質は弱者の排除問題で、買い物弱者や買い物難民というだけではなく、もう少し一歩進ん だ議論があるということを知っていただければと思います。あとは、地方都市や山間地域、そういった 地域だけではなくて、実は大都市の中心にもこういた問題が起こり得る可能性が高いことがあります。 例えば団地などにもみられ、日本全国に広がっているということです。 対策のポイントとしては、5 つをここでは書きました。地域住民との結び付き、営利ではない目的の 設定、採算性のある程度確保、ボランティア組織の運営、もしくはこういった販売のノウハウを持って いる小売・流通企業との協力、そういったものが対策を考えるポイントとなります。そしてこういうポ イントを地域の特徴に合わせてどのように組み合わせればいいのかということを、皆様それぞれが考え ていくことによって、フードデザート問題、もしくは買い物弱者、買い物対策ができるのではないかと 思っております。 すみません、駆け足になりましたが、以上になります。ご清聴ありがとうございました。