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中国 2011 年 3 月
中国 2011 年 3 月 平成 22 年度産業技術調査事業(海外技術動向調査) カントリー・レポート <中国> I 産業技術政策の定点調査 ........................................................... 3 1.主要な経済指標 ................................................................. 3 2. 主要な科学技術指標 ............................................................ 3 3.イノベーション創出システムの特徴(強み・弱み).................................. 6 (1)概要 ........................................................................ 6 (2)イノベーション創出システムに存在する問題..................................... 8 4.政策の基本方針、計画 ........................................................... 9 5.産業技術政策関連組織図(公的研究機関等含む)とその役割分担 ..................... 12 6.政策決定体制とプロセス ........................................................ 12 7.政策実施体制とプロセス ........................................................ 13 8.科学技術関係予算(組織別、性格別) ............................................ 13 (1)財政再建による科学技術関係予算への影響(予算額の増減とその影響、産業界等の関係者 からの提言等) ................................................................ 15 (2)科学技術関係予算の編成作業のスケジュール、予算編成に携わる各省庁の役割. ..... 15 (3)政府の予算要求額の発表時に、政府全体の科学技術関係予算額の合計額が発表又は集計可 能かどうか。 .................................................................. 16 (4)科学技術関係予算の範囲 ..................................................... 16 9.研究開発資金の流れ ............................................................ 17 10.研究開発促進政策(大企業、中小企業、ベンチャー別の視点を含めて) .............. 17 (1)研究開発助成制度 ........................................................... 17 (2)研究開発促進税制 ........................................................... 18 (3)産学連携施策 ............................................................... 19 (4)人材政策 ................................................................... 20 11.分野別産業政策 ............................................................... 21 (1)環境・エネルギー ........................................................... 21 (2)バイオ医薬産業が高度発展期に突入 ........................................... 22 -1- 中国 2011 年 3 月 (3)「三網」融合を推進 ......................................................... 22 (4)戦略的新興産業計画 ......................................................... 22 -2- 中国 2011 年 3 月 I 産業技術政策の定点調査 1.主要な経済指標 (表 1) 指標 2008 年 名目 GDP(10 億元) 2009 年 2010 年 30,067.0 33,535.3 39,798.3 一人当たり GDP(元) 2,309 2,512 2,968 実質 GDP 成長率(%) 9.0 8.7 10.3 129,112 134,625 160,030 25,616 22,072 14,285 12,017 29,728 15,779 11,331 10,056 13,948 6.8346 6.8282 6.6515 消費者物価指数(前年比:%) 5.9 -0.7 3.3 失業率(%) 4.2 4.3 4.1 人口(千人) 1,328,020 1,334,740 1,341,000 47.5 60.6 72.6 鉱工業生産 輸出入総額(10 億ドル) 内訳:輸出(10 億ドル) 輸入(10 億ドル) 為替レート(対米ドル) 年末通貨残高(M2) (兆元) 出所: 国家統計局「国民経済と社会発展統計公報」 (2008、2009、2010 年版) 2. 主要な科学技術指標 (表 2)科学技術関連予算の推移 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 科学技術関連予算額(億元) 3,003.1 3,710.2 4,616.0 5802.1 前年比(%) 22.6% 23.5% 24.4% 25.7% 1.42 1.49 1.54 1.70% 占 GDP 比例 出所:「中国科学技術予算投入統計公報」 (2006 年~2009 年) (表 3)科学技術関連費用の支出状況 費用総額 政府予算に 占める割合 2006 3,003.1 2007 2008 支出費用額(億元)と比率 企業 政府 高等教育校 その他 4.20% 2135,71.1% 567,18.9% 277,9.2% 24,0.8% 3,710.2 4.25% 2682,72.3% 688,18.5% 315,8.5% 26,0.7% 4,616.0 4.12% 3382,73.3% 811, 17.6% 390,8.5% 33,0.7% -3- 中国 2011 年 3 月 2009 3.94%1 5,802.1 3776,65.1% 996,17.2% 468,8.1% 562,9.7% 出所:「中国科学技術予算投入統計公報」(2006 年~2009 年) (表 4)科学技術関連予算の分野別内訳(2009 年) 研究開発費 総額(万元) 合計 比率(%) 58,021,068 100 134,523 0.23 採掘業 1,702,767 2.93 製造業 35,712,795 61.55 341,552 0.59 1,351,240 2.33 106,345 0.18 1,575,173 2.71 10,780 0.02 452,081 0.78 11,386,905 19.63 25,465 0.04 4,515,354 7.78 衛生、社会保障と福祉業 689,819 1.19 文化、スポーツとアミューズメント業 16,271 0.03 農牧業、林業、漁業 電力、ガス、水生産供給業 建築業 運輸流通業、倉庫業と郵便業務 情報通信、コンピューターサービスとソフ トウェア業 金融業 リース業とビジネスサービス業 科学研究、技術サービス、地質調査業 水利、環境と公共施設管理業 教育 出所:「中国科学技術予算投入統計公報」(2006 年~2009 年) 中国研究開発費は主に製造業、科学研究/技術サービス/地質調査業、教育に投入されており、 これらの費用が総研究開発費に占める割合はそれぞれ 61.6%、19.6%、7.8%となっている。 (表 5) 基礎研究関係予算及び科学技術予算額に対する割合 総額 (億元) 基礎研究 (億元) 比率 応用研究 (億元) 比率 実験開発 (億元) 比率 2006 3,003.1 155.8 5.2% 489.0 16.3% 2358.4 78.5% 2007 3,710.2 174.5 4.7% 492.9 13.3% 3042.8 82.0% 2008 4,616.0 220.8 4.8% 575.2 12.5% 3820 82.8% 2009 5,802.1 270.3 4.7% 730.8 12.6% 4801.0 82.7% 出所:「中国科学技術予算投入統計公報」(2006 年~2009 年) 1 2009 年中国政府の研究開発費投資の年財政支出に占める比率が低下した理由は 2009 年の財政支出の増加率が研 究開発費増加率を上回ったからである。2009 年の前年比財政支出増加率は 24.82%であり、研究開発費前年比支 出増加率は 15.69%であった。 -4- 中国 2011 年 3 月 (表 6)全研究者数 全研究者数(万人) 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 150.1 173.4 196.4 318.4 出所:「中国科学技術予算投入統計公報」(2006 年~2009 年) (表 7-1)技術貿易(2009 年) 金額(億ドル) 6867.8 技術輸出(億ドル) 3769.3 技術輸入(億ドル) 3098.5 相手国(上位 3 か国)内はシェア(%) 香港 EU 米国 (23.55%) (21.30%) (20.03%) 台湾 韓国 日本 (16.23%) (15.79%) (12.22%) 出所:「中国ハイテク製品輸出入状況分析」 (2008 年~2009 年) (表 7-2)技術貿易(2008 年) 金額(億ドル) 7,574.3 技術輸出(億ドル) 4,156.1 技術輸入(億ドル) 3,418.2 相手国(上位 3 か国) ( )内はシェア(%) 香港 米国 EU (23.45) (18.75) (23.57) 台湾 韓国 日本 (17.14) (15.30) (13.56) 出所:「中国ハイテク製品輸出入状況分析」 (2008 年~2009 年) (表 8-1)工業所有権出願・登録件数(2009 年) 合計 特許 実用新案 意匠 商標 工業所有権出願件数(件) 976,686 314,573 310,771 351,342 830,500 工業所有権登録件数(件) 581,992 128,489 203,802 249,701 837.643 出所:特許状況データは国家知識産権局による。商標データは国家工商行政管理総局商標局による。 (表 8-2)工業所有権出願・登録件数(2008 年) 合計 特許 実用新案 意匠 商標 工業所有権出願件数(件) 828,328 289,838 225,586 312,904 698,119 工業所有権登録件数(件) 411,982 93,706 176,675 141,601 403,469 出所:特許状況データは国家知識産権局による。商標データは国家工商行政管理総局商標局による。 -5- 中国 2011 年 3 月 (表 8-3)工業所有権出願・登録件数(2007 年) 合計 特許 実用新案 意匠 商標 工業所有権出願件数(件) 694,153 245,161 181,324 167,668 707,948 工業所有権登録件数(件) 351,782 67,948 150,036 133,798 263,478 出所:特許状況データは国家知識産権局による。商標データは国家工商行政管理総局商標局による。 (表 9)起業数 起業数(万社) 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 862.9 963.97 971.46 1030.0 出所: 国家工商総局 3.イノベーション創出システムの特徴(強み・弱み) (1)概要 2004 年より中国の研究開発費支出は毎年 20%ずつ増加している。2009 年には 5802 億 1000 万 元にまで達し、国内総生産(GDP)の 1.7%を占めた。ただし先進国の 2.5-3.0%というレベルと比 べると、中国の研究開発費支出はまだ不足している。 中国は企業を主体とした、産業、学術機構、研究所を結ぶ技術イノベーションシステムを構築 中である。企業投資が研究開発費の最大の資金源であり、最近では、研究開発投資総額の 70%以 上を企業投資が占め、政府投資は 25%前後となっている。中国の各種企業研究開発費は 2005 年 には 1673 億 8000 万元、2006 年には 2134 億 5000 万元、2007 年には 2681 億 9000 万元となってお り、25%以上の年増加率を見せている。2009 年企業 R& D 支出は 3775 億 7000 万元に達し、R&D 支 出総額の 65.1%を占める。 ただし研究開発活動における政府の作用も大きい。政府は政府に所属する科学研究機構や高等 教育校に直接資金提供するだけでなく、重大科学技術専門プロジェクト、イノベーション基金、 支援計画などの各手段を通じて一部資金を企業に投入している。同時に企業も大学や研究開発機 構と協力し、資金を投入し、研究開発を委託している。 現在中国の独立した科学研究機構は主に政府からの資金支出を受けており、その数約 2000 あま りである。そのうち国家級のものは 500 前後で主に中国科学院と各部、委員会に属する研究科学 機構を含む。その他多くの科学研究機構は高等教育校または企業に属する。 中国科学院 国務院直属事業単位の中国科学院は、中国での科学技術分野における最高学術機構であり、中 国全土の自然科学と高度新技術の総合研究、発展の中心的役割を担っている。中国科学院には、5 つの学部(数理学部、化学部、生物学部、地学部、技術科学部) 、11 の分校、84 の研究院、1 つ の大学、2つの学院、4 つの文献情報センター、3 つの技術サポート機構と 2 つの報道出版機構が 含まれる。 -6- 中国 2011 年 3 月 高等教育校研究開発機構 多くの科学研究分野、特に自然科学基礎理論研究と人文科学分野において、高等教育校は研究 活動において重要な役割を担っている。多くの高等教育校はその他の研究機構や企業と協力関係 を結び、科学研究においてリソース力を発揮しており、共同研究開発の成果は企業を通じて実用 製品化、普及されている。 企業研究開発機構 中国科学技術研究開発体制の改革に従い、中国の科学技術研究の中核はすでに科学技術院や高 等教育校から企業へと変化を遂げており、すでに企業が科学研究技術イノベーションの主体とな っている。 政府 100%出資の研究開発 政府が 100%出資し支援する研究プロジェクトは主に基礎研究と公益にまつわる研究であり、 この種の研究は主に高等教育校もしくは政府所属の研究機構によって行われる。中国科学技術イ ノベーションの主体は企業ではあるが、その研究活動は一般的に製品または実用化市場と直接関 連するものである。企業の研究開発活動に対して、政府は科学研究開発支援プロジェクトを通じ て資金投入を行うが、通常企業にも 50%以上の自己資金投入を要請しており、完全に政府による 資金援助により企業が研究開発を行うという状況はほとんどない。ただし実際運用において、企 業がプロジェクト総額を虚偽報告し、故意に研究開発費を水増しすることにより、政府の資金投 入額を多く獲得し自己資金投入額を尐なくしようとする可能性もある。 国家ハイテク研究発展計画(略称 863 計画) 863 計画は実用化分野を主な対象とした先進的技術の支援計画である。863 計画には「先進的エ ネルギー技術分野」が含まれ、その中で更に細分化された研究開発の方向性が定められている。 また、それぞれの方向性においてもいくつかの研究項目が定められている。これらの研究期間は 2 年から 3 年となっている。元々、各研究項目の委託先機関は政府に所属する科学研究機構や高 等教育校が主であったが、国家建設における研究開発主体を企業とする戦略への転換に従い今で はより多くの研究項目が企業により受託されるようになった。これらの研究項目は科学技術部に より毎年定期的に公布され、各機構団体は自ら申請を行うこととなる。科学技術部は専門家を組 織し研究項目を受託したいと申し出た各機構団体の評価を行い、評価後、研究項目を受託する機 構団体と 863 プロジェクト管理弁公室は契約を締結、技術チェック指標を制定し、863 プロジェ クト管理弁公室はプロジェクトの実現状況について中間審査と最終審査を行う。 中国政府の研究開発資金投資と政府調達はおのおの比較的独立しており、これらの間に直接的 関連はない。 政府は国家行政管理機構であり、その主な職責はマーケットの規範化と技術進歩の促進である。 現状中国には政府が 100%出資し企業に研究開発させ、企業の研究成果やサービスを政府が調達 -7- 中国 2011 年 3 月 するというモデルはない。企業の研究開発に資金提供をする方法のみで(一般的に政府の資金投 入率は 50%を超えることはない)、企業の技術研究開発を推進し社会全体の向上を実現しようと している。 政府に所属する国家研究機構は国家研究開発資金の支援の下、技術課題研究を行っている。い くつかの研究機構は会社を設立、そこで研究開発の成果の実用化ならびに普及を行っている。中 国科学技術院は中国最大の科学研究機構であるが、所属する研究所は多くの会社を設立、そこで 技術研究成果の実用化をおこなっている。 中国はすでに高速工業化段階に突入し、中国の科学技術成長戦略も技術輸入と先進国の後追い 研究といったものから、独自イノベーションと技術輸入を組み合わせたものへと変化している。 独自イノベーション力を高めること、イノベーション型国家を建設することは、中国国家科学技 術成長戦略の中核である。 「国家中長期科学と技術の発展計画要綱(2006-2020 年)」 (略称「科 学技術発展要項」 )は、中国科学技術成長の基本となる枠組みであり、企業を主体とし、市場指向 の産業、大学と研究所を組み合わせた技術イノベーション創出システムを構築することとしてお り、産業技術のイノベーション能力向上のスピードアップは、中国イノベーションシステムの基 本原則となっている。 金融危機下で中国は一連の経済刺激策を制定。その一つが科学技術による経済刺激策である。 「科 学技術のサポートによる安定かつすばやい経済成長促進に関する意見」を発表、企業の独自イノ ベーション能力の向上を支援した。また「国家技術イノベーションプロジェクト総合実施方案」 を制定、国家レベルでの技術イノベーションプロジェクトを実施した。 (2)イノベーション創出システムに存在する問題 【弱み】 科学技術分野における中国の国際的競争力は弱く、世界第 20 位といった地位に甘んじている。 科学技術のイノベーション力、開発力、技術吸収力、普及力や実用化能力はすべて低いレベルに ある。国家経済を支えるような科学技術競争力をもつ大きな研究成果は尐ない。 中国の科学技術研究成果の実用化率も低く現状 25%ほどとなっている。また産業化されたもの は 5%に満たない。先進国の実用化率 80%に遠く及ばない結果となっている。 中国の教育費投資は不足しており、また教育レベルの地域による差は大きく、一般市民の文化レ ベル、科学技術知識レベルは低い。ここ数年、中国科学研究投資額は増加が続いているものの、 科学研究費不足は顕著である。2008 年の投資総額は 5802 億元で、GDP の 1.7%にしかすぎない。 アメリカの科学研究投資金額は GDP の 2.6%以上を占めており、ドイツは 3%、日本は 4%近くと 長い間世界一となっている。一人当たりの中国平均科学研究投資額は更に低く、2009 年の科学研 究人員一人当たり平均費用は 18 万 2200 元であった。研究開発の主体である企業が研究開発への 投入が尐なく、営業収入に占める割合はわずか 0.5%しかなく,大企業の場合は約 0.7%前後にと どまり、先進国の平均水準である 4-5%に比べればはるかに尐ない。中国の 99%の企業が特許を -8- 中国 2011 年 3 月 申請したことがなく、特許を持っている企業は企業全体の 0.03%にもなっていない。科学研究費 用の投資構造も合理的でなく、ハードウェアを重視し、人員への投入は尐ない。アメリカでは科 学研究経費投資額のうち人件費に 45%を占めているが中国では 23.5%に過ぎない。2 科学技術費の使用効率も低い。 中国の特許実用化率は 20%しかない。2003 年から 2009 年にか けて中国の特許取得数は年平均 26.1%の増加となっており、2010 年には中国の特許取得数は日本 とアメリカを超えると見られ、世界最大の特許保有国となる。ただし、中国の科学研究において の特許の実用化能力は不足しており、先進国のハイテク新技術の科学研究における特許実用化率 は 60%に達するにもかかわらず中国では 20%しかない。毎年の省部レベルの科学技術成果賞でも 10-15%ほどの特許実用化数しかなく、毎年 7 万の特許のうち実際に実用化されるのは 10%前後 しかない。 中国の科学研究人員構造はバランスを欠いている。人材は主に大都市、 科学研究院や公共サー ビス業に集中しており、農村や企業、現場では科学研究人員が不足している。60%の博士課程修 了者は高等教育校や科学研究院に入り、企業に入る博士は 20%にしかすぎない。中国はハイエン ドの科学研究人材が不足しており、現在 1 万人のハイエンド科学研究人材は 1.5 万の国家重要科 学研究プロジェクトを担当しなければならない。留学帰国人材の比率は毎年上昇しているものの、 博士課程修了者の占める比率は低下している。 現在中国において知的所有権の保護意識は弱く、中国でコア技術において独自知的所有権をも つ企業は、10000 社のうち約 3 社にすぎない。99%の企業は特許を申請しておらず、60%の企業 は独自の商標を持っていない。多くの企業は、製造はするが創造はせず、真似はするがイノベー ションはないので、技術的優位性を持っていない。中国は国情にあわせた知的所有権に関する初 期的な法律法規を設け、 「特許法」 「商標法」 「著作権法」 「コンピューターソフトウェア保護条例」 など一連の法律法規を公布実施したが、有効的に知的所有権を保護するしくみに欠けている。 4.政策の基本方針、計画 中国の製造業はその規模は大きいものの強みがなく、世界市場での産業バリューチェーンでは ローエンドの役割を担っている。研究開発、技術、特許、規格制定とブランディング、販売、サ ービスなどの高付加価値分野において弱く、規模の拡大と安い人件費に頼った薄利を得ているの が現状となっている。欧米のハイエンド産業と新興国のローエンド産業により中国の産業は板挟 みとなっており、中国は産業構造の調整とその地位向上を開始している。 中国は「4 つの転換」を通じて産業構造の調整を行っている。 1つ目の転換点は外需への過度な依存を減らし、輸出主導型から内需型産業への構造調整を行 うことである。つまり、国内市場の開拓と拡大を行うことである。2 つ目の転換点は生産投資方 式の変化である。現状の商品輸出を主とした取引から対外投資を主としたものへと転換させ、世 2 出所:中国人事科学研究院院長呉江が 2010 年 11 月 15 日に「新京報」にて発表した文章による。 -9- 中国 2011 年 3 月 界的な大企業グループの育成を行うことである。3 つ目の転換点は事業拡大方式の転換である。 事業拡大方式を大量のリソースを投下する方法から科学技術に沿った形での成長へと変化させよ うとしている。4 つ目の転換点は産業構造を技術集約と労働集約を組み合わせた方向へ向かうよ う業界指導することである。 高消費型、高汚染型産業を抑制し、ハイテク型産業と第三次産業を発展させることが未来にお ける中国の主な産業成長目標であり戦略でもある。 中国の経済成長は大量資源の投下と物的資源、エネルギーの大量消費に過度に依存しており、 資源と環境問題が日増しに深刻化している。エネルギー消費と環境汚染はひどく、中国の GDP 単 位当たりのエネルギー消費量はアメリカの 4.3 倍、日本の 11.5 倍となっている。現状、中国の 70%の河川水系は汚染されており、都市を流れる河川の 95%以上が重大な汚染をうけている。ま た、国土の 1/3 は酸性雤に覆われており、世界で汚染が最もひどい 20 の都市のうち中国は 16 を 占め、環境汚染による損失は GDP の約 10%となっている。 国務院は 2009 年 12 月 12 日、鄱陽湖生態経済区規画を国家級経済区規画として批准したことを 発表した。鄱陽湖生態経済区には三つの市、38 の県が含まれる。面積は 5.12 キロ平方メートル で、江西省全面積の 30%、人口の 50%、GDP の 60%を占めている。 鄱陽湖生態経済区は、次の三つの部分から成る。①湖体核心保護区(湖の部分)は、面積 5181 平方キロメートル(水深 22.48 メートル)のエリア。生態建設を強化し一切の開発・建設を禁止 する。②浜湖控制開発帯(湖岸開発制限ゾーン)は、湖体核心保護区境界線の外側 3 キロの環状 ゾーン。面積は約 3746 平方キロメートル。開発・建設を制限し、生態的隔離ゾーンを構築する。 ③高効集約開発区(集中開発区)は、鄱陽湖生態経済区内のその他の地域。面積は約 4.22 万平方 キロメートル。環境を保護しつつ経済発展を目指す。人口の集中と効率的開発を行う。発展を優 先させる 10 大産業は、LED、新エネルギー、バイオテクノロジー、航空工業、自動車・自動車部 品、金属、非金属、エコ農業、現代サービス業、文化産業となっている。 鄱陽湖が生態経済区に選ばれた理由として、中国の主な淡水湖の中で富栄養化がすすんでおら ず水質がよいこと、アジア最大の湿地で渡り鳥の生息地として生態的に重要な役割を果たしてい ること、鄱陽湖は下流地域に長江デルタ、珠江デルタがあり各都市への影響、貢献が大きいこと、 鄱陽湖生態経済区の建設によって江西省の経済発展のみならず中部地域の経済発展をも牽引させ たいとの意図があった。 この規画の批准は、デンマークのコペンハーゲンで第 15 回気候変動枠組条約締約国会議(COP15、 12 月 7~19 日)が開催されている最中であり、中国の環境保護への姿勢をアピールするかたちと なった。 中国の研究開発投資は不足しており、技術イノベーション能力は劣っている。中国の製造業規 模が世界に占める割合は 6%であるが、研究開発投資の割合は 0.3%となっている。ハイエンド人 材に乏しく、研究開発に従事する人員も比較的尐ない。労働者一万人ごとの研究開発に従事する 人員の割合はアメリカ、日本、韓国に遠く及ばない。企業の自主開発能力は弱く、イノベーショ -10- 中国 2011 年 3 月 ンの原動力はいまだ不足している。 例えば、現在の中国精油業界において、80%の技術設備は輸入に依存している。また、大型飛 行機、半導体と集積回路の専門設備、大型科学機器などの分野におけるチップは長く輸入に依存 しており、高度な数値制御製造システムの国産ブランドが国内市場に占める割合は 1.5%にしか 満たない。国産システムソフトウェア、基本ソフトウェアの市場シェアは 5%しかなく、バイオ 医薬の 95%以上がジェネリック薬品となっている。 中国製造業における付加価値増加率は 26.6%しかなく、アメリカ、日本、ドイツなどの先進国 に比べ、それぞれ、23 ポイント、22 ポイント、12 ポイント低くなっている3 。 中国における第三次産業は不足しており、農業や製造業を支えるには足りず、第三次産業の GDP に占める割合は非常に低い。2009 年中国第三次産業比率は 43%に満たず、中高レベル収入国家の 61%という水準よりもはるかに低いものであった。また、先進国の第三次産業が情報、コンサル、 科学技術、金融などの新興産業を主とするものであるにもかかわらず、中国では、飲食業、交通 輸送業などの伝統的サービス業の比重が大きい。通信、金融保険、情報コンサル、科学研究開発、 旅行、ニュース出版、ラジオテレビなどの新興サービス業のサービス産業における比重は小さく、 成長速度は遅い。 戦略性新興産業の成長に注力するため、2010 年年初、国家発展改革委員会、科学技術部、財政 部、工業情報部の4つの部門は共同で「育成のスピードアップを行う新興産業の決定について」 を発表、 「戦略性新興産業成長十二次五ヵ年計画」を制定した。戦略性新興産業として、省エネ環 境保護、新興情報産業、バイオ産業、新エネルギー、新エネルギー自動車、ハイエンド設備製造 業と新材料の 7 つの分野と 23 の重点目標を確定した。 省エネ環境保護分野では、効率性の高い省エネ技術、先進的環境保護、リサイクルが、新興情 報産業分野では次世代通信ネットワーク、物聯網(IOT)、三網融合(インターネット、テレビラジ オ網、電信網の融合) 、新型フラットパネル、高性能集積回路とハイエンドソフトウェアが重点目 標となった。また、バイオ産業分野では、バイオ薬品、バイオ農業、バイオ生産が、新エネルギ ー分野では核エネルギー、太陽エネルギー、風力発電、バイオエネルギーが主な目標となった。 また、新エネルギー自動車の発展方針はプラグインハイブリッドカーと純電気自動車に確定。ハ イエンド設備製造業分野では宇宙開発、海洋開発設備とハイエンドのインテリジェンス設備、新 材料分野では特殊な機能を有し高性能な化合物材料の二項目が重点目標となっている。 次期 5 か年計画に係る研究開発への取組みの内容 「第 12 次五カ年計画」期間(2011-2015 年) 、中国は R&D 投資を強化する方針を明確にしてい る。 「第 12 次五カ年計画」期間の末期には、R&D 投資の予算総額に対する比重が 2.2-2.3%となる 見込み。一方、 「2006-2020 国家中長期科学・技術発展計画概要」では、2020 年までに 2.5%到達 を目指しており、今後 10 年にわたり、中国による R&D 投資は引き続き拡大するだろう。 3 国務院発展研究センター・馬暁河が 2010 年 5 月 27 日に発表した「現在の我が国における産業構成調整の難題と 成長の最適化の方法」による。 -11- 中国 2011 年 3 月 「第 12 年五カ年計画」のうち科学技術にかかる発展計画は現在まだ策定中であり、2011 年 10 月末から 11 月初頭ごろには正式に発表される見込み。(「第 11 次五カ年計画」の科学技術発展計 画は 2006 年 10 月 31 日に公布されている) 5.産業技術政策関連組織図(公的研究機関等含む)とその役割分担 組織図は次のとおり。 (図 1) 国務院 政府主管機関 総合管理機関 各産業管理機関 中国科学院 外 国 公 財 商 中 国 工 科 環 交 鉄 水 農 衛 交 防 安 政 務 国 家 業 学 境 通 道 利 業 生 部 部 部 部 部 人 発 情 技 保 運 部 部 部 部 民 展 報 術 護 送 銀 改 化 部 部 部 行 革 部 委 員 会 出所:公開資料をもとに北京敏思才智顧問会社が整理 2008 年 3 月、中国政府は第六次機構調整方案を実施し、工業情報化部(略称工信部) 、交通運 輸部、人材資源と社会保障部、環境保護部、住居と都市地方建設部などの 6 つの新しい部門と委 員会を設立した。調整後、国務院弁公庁以外の国務院構成部門数は 27 となった。 産業技術政策に直接関連する政府部門には国家発展改革委員会、科学技術部、工業情報化部、 交通運輸部、農業部などの部門がある。国家発展改革委員会は重要な産業技術政策の制定と管理 を職責とする全体管理部門である。工業情報部は工業、生産業と情報化関連産業における政策制 定と各業界の管理を担当する。ただし、農業分野の産業技術政策については農業部によって計画 制定される。科学技術部は各産業分野における先行技術の発展方針を決定し、研究開発資金の投 入や各種重要技術特別プロジェクトなどを通じて、各産業での技術発展の指導を行っている。こ れ以外に、産業技術政策の実施支援とその徹底のために、国家発展改革委員会は産業技術政策の 全体管理部門として、通常財務部と共同で財政資金支援を実施。中国人民銀行とともに関連金融 政策の制定の実施も行っている。また適時人材資源と社会保障部と協調し関連産業技術政策にお ける人材サポート政策の制定も行う。 6.政策決定体制とプロセス 政府は関連産業政策の制定を通じて経済生産活動に関与を行っている。現状中国で産業政策を -12- 中国 2011 年 3 月 制定する主体は中央政府である。政策制定の過程において、政府機構は業界団体や業界での指導 的な立場に立つ企業や研究機構などの参与の下、各方面の利害を考慮し、各種意見を織り込んだ 上で、最終的に科学的で合理的な産業政策を制定している。 産業政策は総合性産業政策と業界性産業政策の二つに分けられる。総合性産業政策は一般的に 国家発展改革委員会により制定されるもので、その他の職能関連部門と産業管理部門の意見、専 門家の意見も参考にした上で、国務院への批准申請提出を行い、批准後公布施行がなされる。業 界性産業政策はその業界の管理部門によって提出または発議されるものであり、業界で企業や専 門家の意見を求めた上、国家発展改革委員会に提出される。批准と修正を経た後、再び国務院へ と提出されることになる。 中国の産業政策一般的に法律の形式で発布されるものは尐なく、主に「計画」「目録」「要綱」 「決定」 「通知」 「返答」といった公文書により公布される。例として 2009 年 6 月、財務部、科学 技術部、工業と情報部、国家発展改革委員会が共同に公布した「新エネルギー自動車個人購入補 助金試行地点の実施についての通知」や「国家産業政策指導目録」などが挙げられる。各地方級 政府部門も産業技術の発展に大きな影響力を有しており、その理由として、まず国有企業が多く の業界において主導的な立場を占めており、中央企業であれども地方企業であれどもこれらの国 営企業は、政府の直接管理を受けている事が挙げられる。また、政府の産業技術方針に合致した 企業や製品は、政府の科学研究資金や、税収面での優遇、財政援助、政府調達など一連の支援策 を享受できることも挙げられる。そのため、多くの企業は積極的に政府の産業政策指導に積極的 に対応しようとする。 7.政策実施体制とプロセス 中央政府は産業技術政策の主要制定者であり、地方政府と企業は産業技術政策の実施施行者で ある。中央政府の産業技術政策の多くは枠組みだけを示した物であり、主に発展原則やマクロな 指導意見が示されている。各地方政府はこの文書による指導の下、現地の状況に則した具体的な 実施細則を制定する。地方政府の産業技術政策実施細則は一般的に行政、財政、金融などの実施 策を、政府批准、税収、補助金、融資などの方策にて具体化、実行するものであり、これにより 現地企業による中央政府の産業政策の実施を推し進めている。 8.科学技術関係予算(組織別、性格別) 2009 年中国研究開発(研究開発)費総計は 5802 億元であり、前年に比べ 1186 億元の成長となり、 25.7%増となった。研究開発費比率(GDP 比)は 1.7%であり、前年の 1.54%に比較するとわずか ではあるが増加した。 (表 10)2009 科学技術経費支出の活動種別 -13- 中国 2011 年 3 月 活動種別 総経費支出 占有率 前年比増加率 基礎研究(100 万元) 27,030 4.7% 22.4% 応用研究(100 万元) 73,080 12.6% 27.1% 480,100 82.7% 25.7% 試験実用化(100 万元) 出所:「中国科学技術予算投入統計公報」 (~2008 年) (表 11)2009 科学技術経費支出対象種別 対象種別 各種企業(100 万元) 政府部門所属研究機関(100 万元) 経費支出 占有率 前年比増加率 377,570 65.1% 11.7% 99,590 17.2% 22.8% 8.1% 20.0% 高等教育校(100 万元) 46,820 出所:「中国科学技術予算投入統計公報」 (~2008 年) (表 12)科学技術経費投資比率(主営業収入比)が 1%を越える業界 順位 業界 投入比率 1 専門設備製造業 1.93% 2 医薬製造業 1.74% 3 設備製造業 1.59% 4 電気機器と機材製造業 1.5% 5 交通輸送設備製造業 1.44% 6 ゴム製造業 1.27% 7 通信設備、計算機、その他電子設備製造業 1.27% 8 測定器メーター、オフィス用機器製造業 1.22% 9 化学繊維製造業 出所:「中国科学技術予算投入統計公報」 (~2008 年) 1.06% 中国の科学技術投資の多元化、多チャネル化が形成されつつある。国家財政の科学技術への投 資誘導と関連政策によるサポートにより、企業が科学技術投資の主体となっており、企業の投資 額が全科学技術投資額の 70%を越えている。 2009 年中央財政における科学技術支出額は 1512 億万元であり、予算達成率は 103.5%、348 億 8 千万元の増加で 30%の成長となった。基礎研究応用研究の強化には 946 億 8 千万元が、科学技 術特別プロジェクトのスピードアップに 328 億元が支出された。また、10 の重点産業調整振興プ ランを実施し、4441 の技術改革プロジェクトを支援し企業の技術革新と独自開発を促進した。こ れには技術改革資金 200 億元が支出された。 2010 年の中央財政予算案では科学技術支出額が 1632 億 9 千万元となり、 120 億 8 千万元の増加、 8%の成長となった。科学技術特別プロジェクトには 301 億 9 千万元が支出される。また、基礎研 -14- 中国 2011 年 3 月 究、先進技術研究、社会公益研究と重要共通キーテクノロジー研究開発のサポートに 1101 億 2 千 万元が支出される。 (1)財政再建による科学技術関係予算への影響(予算額の増減とその影響、産業界等の関係者から の提言等) 中国の中央指導部は任期が 5 年で、続投は1期のみ可能である。現指導部は 2003 年に就任、2008 年から 2 期目に入っており、 任期は 2013 年までとなる。 中国の政権は一党で運営されているため、 政府の政策の連続性に優れ、指導部が交代しても通常は産業発展の路線が大きく変更されること はない。科学技術開発の分野について言えば、長期的に R&D 予算の不足が続いている。2009 年の R&D 予算は GDP のわずか 1.7%に留まり、予定目標の 2%に届かず、日・韓・欧・米などの先進国 の 3%程度に比べると、まだ大きな格差がある。 (2)科学技術関係予算の編成作業のスケジュール、予算編成に携わる各省庁の役割. 中国の政府予算は年度別に編成される。中央政府部門の場合、通常は毎年 6 月から次年度の予 算計画に着手する。予算の編成に当たっては、主に前年度の政府の予算執行状況や経済・社会の 発展計画、主要指標などが考慮される。財政部は中央の予算編成の統括部門であり、2010 年 6 月 初頭に「2011 年中央部門予算の編成に関する通知」を出し、2011 年度の予算編成について具体的 な規定を設けている。具体的なフローは次の通り。 (表 13)2011 年末の中国中央政府の予算編成スケジュールとフロー 時期 2010-6 初頭 作業内容 財政部が「2011 年中央部門予算の編成に関する通知」を発表 2010-7-31 まで 各中央部門が予算の概算要求を財政部へ提出(「一報」と呼ばれる) 2010-10-25 まで 財政部が国務院の審査により確定した中央予算草案を基に各部門への予 算振り分け案を作成し、各中央部門に予算枠を通達。 2010-12-10 まで 各中央部門は財政部から通達された予算枠に基づいて予算を再編成し、詳 細な予算案を提出( 「二上」と呼ばれる) 2010-12-31 まで 財政部が集まった中央予算案を国務院に提出、審査を受ける。 2011-1-15 まで 財政部が国務院から承認された中央予算案を全国人民代表大会常務委員 会予算工作委員会に提出。 2011-2-15 まで 財政部が中央予算案を全国人民代表大会才智経済委員会に提出。 2011-3-5 まで 全国人民代表大会の会議を開き、中央予算を審議し、中央予算案を承認。 財政部は全国人民代表大会が中央予算案を審議かつ可決してから 30 日以 内に、各中央部門に対し予算承認の回答を行う。各中央部門は財政部が当 該部門の予算承認の回答を行ってから 15 日以内に、各傘下部門の予算に ついて承認の回答を行う。 出所: 「国家中長期人材成長プラン要綱」(2010~2020 年) 各部門の主な任務は、中央予算の枠内において部門内の予算を編成するとともに、予算の通達 -15- 中国 2011 年 3 月 状況を基に部門内における予算執行状況を監理することである。 (3)政府の予算要求額の発表時に、政府全体の科学技術関係予算額の合計額が発表又は集計可能か どうか。 中国政府は現在、行政にかかる情報開示を進めつつある。2009 年、中国政府は初めて財政予算 を公開した。公開されたのは 4 つの表だが、2010 年には公開対象を 12 の表に拡大する。2010 年 3 月末、財政部はポータルサイトを通じて初めて一般向けに 2010 年中央財政予算データを公表し た。その後、国土資源部、財政部、住宅・都市農村建設部、科学技術部など 40 近くの中央部門が 2010 年の財政収支予算を公表した。向こう 3 年以内には、軍事などの機密事項を除き、中央各部 門の予算がすべて公開される予定。これにより、中央政府や各部・委員会(省庁に相当)の R&D 予算も明らかになる。 たとえば、2010 年に中央政府が科学技術事業に当てた予算は 1512 億 200 万元であり、各部門 が公開した予算から科学技術関連の予算を知ることができる。 (表 14)2010 年いくつかの政府部門の予算における科学技術関連予算額 部門 科学技術関連予算 部門 科学技術部 2,113.355.63 国家自然科学基金 工業情報化部 1,126,932.71 国家発展改革委員会 中国工程院 9,928.94 交通運輸部 84,255.27 水利部 131,192.49 国家中医薬管理局 農業部 单位:万元 科学技術関連予算 837,792.98 6,926.50 29,002.40 733,687,92 エネルギー局 200.00 出所: 政府公開資料をもとに北京敏思才智顧問会社が整理 (4)科学技術関係予算の範囲 中国の R&D 予算には、通常は人材育成・研修の費用は含まれない。中国政府は人材育成予算の 支出を単独で計上しており、主に教育部が管轄する。政府系の研究開発機関には 2 種類あり、一 つは「事業単位」に分類されるもので、経費は政府の財政支出でまかなわれる。中国科学院(科 学アカデミー)や中国工程院(工学アカデミー)や、部・委員会に属する一部の研究機関がこれ にあたる。もう一つが、 「企業」に分類されるもので、当初政府が設立した研究機関の大多数はす でに「企業」へ制度変更されている。この場合、運営経費や人件費を含め独立採算制を取る。 中国政府の R&D 予算は、主として申請されたテーマ研究プロジェクトに対する補助金の形で投 入される。R&D 機関や企業が研究テーマを申請し、国の科学研究予算からの支援を取得する形で ある。ただし、こうした研究費用は通常、用途が研発開発経費のみに限られており、研究開発に 携わる人材への給与に充てることはできない。 「国家科学技術経費管理方法」では、研究開発に携わる人員を 3 種類に分類している。つまり、 給与所得のある人員と、プロジェクトの実施過程で招聘された給与所得のない人員(たとえば在 学中の大学院生)と専門コンサルタントである。R&D プロジェクトの実施過程では、科学研究経 費を給与所得のない人員または課題研究チームで臨時に雇用した人員、専門コンサルタントへの -16- 中国 2011 年 3 月 報酬に充てることができ、人件費やコンサルタント料として計上することとなる。通常は、プロ ジェクト経費を給与所得者への報酬に充ててはならない。 9.研究開発資金の流れ (単位:100万元) 民間負担 261,099 企業等 大学等 非営利団体 総使用額 外国負担 政府負担 371,024 4,997 91,349 261,099 0% 10% 246,559 (91.9%) 12,871 (4.8%) 20% 企業等 268,194 (72.3%) 30% 4,148 (1.5%) 40% 50% 60% 3,510 (4.9%) 60,705 (85.1%) 公的研究機関 71,361 (19.2%) 70% 370 (0.5%) 80% 90% 11,030 (35.1%) 大学等 31,469 (8.5%) 17,773 (56.5%) 480 (1.5%) 100% 10.研究開発促進政策(大企業、中小企業、ベンチャー別の視点を含めて) (1)研究開発助成制度 国家は財政投資を通じて研究開発イノベーションを支援している。理論研究や基礎技術研究な どの基礎的研究は主に国家科学研究基金により資金の保障がなされている。国家財政もまた技術 研究投資を拡大しており、重点産業のコア技術やキーテクノロジー研究のための資金援助を行っ ている。国家科学研究資金の投資対象は主に政府所属の科学研究機関または高等教育校である。 これ以外にも、政府はまた国家科学技術特別プロジェクトの実施にあたりその資金を保障し、 -17- 中国 2011 年 3 月 業界における独自イノベーションの促進を行っている。 戦略性新興産業への税収面での支援のため、重点産業としてリストアップされた業界について は、税率優遇策を実施している。例えば、輸出時の関税払い戻し政策を実施しており、研究開発 費用は税の控除対象となる。 また、国家戦略性新興産業投資基金を設立し、産業成長のための資金援助を行っている。市場 普及支援の強化をしており、認定された科学研究成果には、用地の提供、利息補助、税収面での 優遇、市場プロモーションなどの支援策が提供される。また、政府資金による独自イノベーショ ン製品の優先的調達も行われている。 ベンチャーキャピタル、融資、株式上場などの金融方面でも新興産業の技術研究開発とイノベ ーションの支援がなされており、市場資金の戦略性新興産業への流入誘導も行われている。また、 関連企業の優先的株式上場、銀行による融資支援も行われている。 (2)研究開発促進税制 企業における技術研究開発の発展とイノベーションを奨励するために、中国政府は税収面で一 連の優遇政策を制定した。主な内容は以下の通り。 条件を満たした技術譲渡所得に関しては、企業所得税を免除または減額する。技術譲渡所得 の 500 万元を越えない部分については企業所得税を免除、500 万元を越える部分については 企業所得税を半額とする。 国家が重点的に支援すべきハイテク技術企業については、企業所得税を税率 15%にまで減額 する。 企業が新技術、新製品、新工程を開発した際に発生した研究開発費用は納税所得額決定時に 控除できる。 技術の進歩などの原因により企業固定資産の減価償却を早める必要がある場合、減価償却年 限の短縮または加速度償却を行うことができる。 ベンチャーキャピタル企業が国家による重点的支援、奨励対象となっている起業投資に従事 した場合は、投資額に応じた一定の比率を納税所得額より控除することができる。 (以上は「企業所得税法」とその実施条例から抜粋) ソフトウェア開発企業は増値税の徴収即時返還政策を実施する。 新しくソフトウェア開発企業を起業する場合、認定を受けた後、利益を得た年度より数え第 一年目、第二年目に関しては企業所得税を免除する。第三年目より第五年目までは企業所得 税を半減する。 国家プランにリストアップされた重点ソフトウェア開発企業が、免税優遇策を得られなかっ た場合、企業所得税率を 10%にまで減額する。 -18- 中国 2011 年 3 月 集積回路設計企業もソフトウェア企業と同じと見なし、ソフトウェア開発企業が享受できる 優遇政策を同じく享受できる。投資額が 80 億元を越える、または集積回路線幅が 0.25um よ りも細い集積回路を生産する企業については、企業所得税率を 15%にまで減額する。そのう ち、15 年以上の経営期間をもつ企業は、利益を得た年度より数え、第一年目から第五年目ま で企業所得税を免除し、第六年目から第十年目までの企業所得税を半減する。 (以上は財政部・国家税務総局「企業所得税の若干の優遇政策に関する通知」より) 企業や個人が技術譲渡、技術開発業務に従事し、また、それに関連する技術コンサル、技術 サービスから得た収入に関しては、営業税を免除する。 (財政部・国家税務総局「 『中共中央国務院による技術イノベーション、ハイテク発展、産業実 用化の実現に関する決定』の徹底実行に関する税収問題に関する通知」より) 科学研究機構、高等教育校による職務上の科学技術研究結果の実用化において、株もしくは 出資比率などのストックインセンティブを個人への奨励とした場合、暫定的に個人所得税を 徴収しない。 (以上は国家税務総局「科学技術成果の実用化に際しての個人所得税徴収暫定停止審査を取り消 すことに関する通知」より) (3)産学連携施策 産業技術イノベーション戦略連盟の設立は中国が実施した重要施策のうちのひとつである。 2009 年初旬、政府は「産業技術イノベーション戦略連盟設立に関する指導意見」、 「国家科学技術 計画による産業技術イノベーション戦略同盟サポートの暫定規定」、「産業技術イノベーション戦 略連盟の設立と発展に関する実施弁法(試行)」などの政策文書が発表された。これにより技術連 盟の設立が推進され、産学協同連盟の発展支援がなされている。 技術イノベーション連盟は、国家戦略産業と地域における重要産業における技術革新の必要性 に沿った、産業技術革新能力の向上を目標としたものである。企業を主体とした、産業技術イノ ベーションチェーンを形づくるもので、イノベーションのためのリソースを集積し、企業、大学、 科学研究機関やその他の機関が共同で技術イノベーション開発を行う協力組織である。 政府による支援のもと、現在全国で各種技術連盟は 100 以上が設立されている。例えば、鉄鋼 リサイクルプロセス連盟、数値制御工作機器高速精密化連盟、メモリ技術連盟、アブラナ加工連 盟などが挙げられる。これらは自動車、鉄鋼、電子情報、バイオ医薬、新エネルギー、現代農業 などの多くの産業をカバーしている。科学技術部は 36 の連盟を試行団体として選定し、産学研恊 働体制の仕組みづくりやそのモデル研究を行っている。 技術イノベーション連盟が協同で難題に取り組む事により、多くのコア技術キーテクノロジー が生み出され、業界の地位向上、コア競争力の向上がなされた。たとえば TD 連盟が開発した TD-SCDMA 技術規格は大規模商業化段階に入っており、中国が独自特許技術をもつ 3G 産業が形づ -19- 中国 2011 年 3 月 くられようとしている。炭坑開発利用連盟は、石炭採掘時に利用する大型油圧支柱の国産化を実 現、国外企業による技術封鎖を打破し、石炭採掘効率と安全レベルの向上を図る事ができた。 (4)人材政策 中国の科学研究人員の増加率は高いが、先進的または産業における高いレベルでのイノベーシ ョンに必要となるハイエンドな人材について深刻な不足が生じている。 2010 年 6 月、中国は「国家中長期人材成長プラン要綱(2010-2020 年)」を発表、イノベーショ ン型科学技術人材を数多く育成するために、産学研によるイノベーション人材の協同育成政策、 有能な人材が起業する際の支援政策、科学技術人員が研究やイノベーションに没頭できるように する政策、知的保有権の保護政策を実施した。また、複数の重要人材プロジェクトを実施する予 定である。これには、青年英才開発計画、優良教育人材育成プロジェクト、海外上層人材招聘計 画、専門技術人材知識更新計画、国家高レベル人材振興計画などが含まれる。 (表 15)中国の人材成長における主な指標 指標 単位 2008 年 2015 年 2020 年 万人 113,850 156,250 180,250 人年/万人 2.48 3.3 4.3 高レベル人材が技能労働者に占める割合 % 24.4 27 28 主要労働年齢人口中の高等教育学歴比 % 9.2 15 20 人的投資額が GDP に占める割合 % 10.75 13 15 人材貢献率 % 18.9 32 35 人材資源総数 一万労働人口ごとの研究開発人員数 注:人材貢献率データは区間年平均値である。2008 年のデータは 1978-2008 年の平均値、2015 年は 2008-2015 年の平均値、2020 年のデータは 2008-2020 年の平均値である。 出所: 中国国務院「国家中長期人材発展計画要綱」 (2010~2020 年) 留学生が主体である海外人材も中国上層人材における重要なリソースとなっている。国家重点 プロジェクト の責任者の 72%が「海帰」 (海外より帰国した人材の略称)であり、中国科学院の 院士の 81%と、工程院の院士の 54%が「海帰」である。最近、中国は海外人材の獲得戦略のスピ ードアップとさらなる開放を打ち出しており、大いに海外の優秀人材と英知を引き寄せている。 中国科学院の「百人計画」は最も重要な人材招聘策である。世界で毎年 100 人の科学技術研究 要員を招聘し、各領域の学問的リーダーへと育成するもので、中国科学院は将来の 5 年において、 1 万人近い優秀人材の招聘と育成を行う事を計画している。 高等教育校は中国のイノベーションシステムにおける重要な構成要素であり、また人材育成の 主要パスでもある。教育部は多くの海外人材招聘プロジェクトを実施している。例えば、 「211 プ ロジェクト」 「985 プロジェクト」といった高等教育校が費用を負担し海外の優秀留学人材を支援 するものがある。また、海外の優秀人材が帰国し仕事をすることを奨励し経済的サポートをする 「長江学者奨励計画」や、 「高等学校学科イノベーション人材引き入れ計画」(「111 計画」)を実 施した。 「春の日差し(暉)計画」は海外の優秀留学人材が短期帰国することをサポートするサー ビスであり、 「留学帰国人員科学研究スタートアップ基金」の経済的支援力も強化している。 -20- 中国 2011 年 3 月 1994 年に設立した「国家傑出青年科学基金」は優秀な若い学者が自然科学分野における基礎研 究を行うための経済的サポートを行っている。 中国は海外の人材を引き入れてはいるものの、育成した人材の流出も深刻である。中国科学技 術協会の 2008 年のデータによると、1985 年から 2008 年までに清華大学のハイテク専攻卒業生の 80%、北京大学では 76%がアメリカへ渡航している。OECD のデータによると、中国が失ったハイ エンド人材数は世界一位であり、 中国大陸の博士留学生が海外に留まる比率は 87%となっている。 11.分野別産業政策 (1)環境・エネルギー 2001 年より、中国は立て続けに環境保護とエネルギー節約関連政策を発表している。 (表 16) 発表年月 政策名称 2005-7 「国務院によるリサイクル可能経済の成長を加速させることに関する若干意見」 2006-8 「国務院による省エネ強化作業の決定」 2007-10 「エネルギー節約法」 2008-2 「水汚染防止対策法」 2008-8 「循環経済促進法」 2008-8 「公共機関省エネ条例」 2008-8 「民間建築省エネ条例」 2008-11 「国務院による石油節約、電力節約をさらに進めることについての通知」 2008-12 「省エネ二酸化炭素排出量削減総合作業方案」 2009-3 「廃棄電気電子製品廃品物回収処理管理条例」 2009-5 「高効率省エネ製品普及における財政補助の管理暫定方法」 2009-8 「環境影響評価条例」 2009-9 「船舶による海洋汚染を防ぐための管理条例」 2009-12 「再生可能エネルギー法」 出所: 公開資料をもとに北京敏思才智顧問会社が整理 2009 年中国政府は環境保護に 1151 億 8 千万元を支出しており、前年比 10.7%の成長となった。 そのうち、省エネ、 Co2 排出量削減については 567 億 5 千万元が支出された。2010 年の政府予算 では環境保護のために 1412 億 9 千万元を支出、261 億 1 千万元の増加となり、22.7%の成長とな った。 高機能省エネ製品と新エネルギー自動車を普及させ、再生可能エネルギー発展のスピードアッ プを図っている。また、金太陽プロジェクトの実施を推し進め、太陽エネルギー産業の成長の促 進も行っている。その他、バイオエネルギーや風力発電などの発展を促進、また天然林保護プロ ジェクトを施行、 「退耕還林」政策(過度に開発した耕地を林へと返す政策、林の持つ水や砂塵の 流出を防ぐ効果は耕地に比べ極めて高い)を堅持、草原における生態保護を推進し、農村の総合 環境整備と生態モデル建設を進めている。 省エネ製品については販売優遇政策が行われており、エアコン、冷蔵庫、フラットテレビ、冷 -21- 中国 2011 年 3 月 蔵庫、電動機器、照明器具、省エネ新エネルギー自動車などの 10 のカテゴリの製品については政 府による補助金が支給され、普及実用化を重点的に推し進めている。これにより、毎年 4000 億元 から 5000 億元の市場需要が生み出されており、高効率省エネ製品の市場シェアは 10~20 ポイン ト上昇している。市場シェア 30%以上で、毎年 750 億キロワットの電力を節約となり、7500 万ト ンの Co2 が削減できる。 (2)バイオ医薬産業が高度発展期に突入 中国のバイオ医薬産業は新興戦略性産業とされており、大きく発展がなされている。2008 年中 国バイオ医薬の生産高は 8666 億元となり、25.23%の前年比増加となった。中国バイオ薬品の研 究開発と産業実用化能力は大幅に向上した。 2007 年「バイオ産業発展第十一次五ヵ年計画」を発表、国家発展改革委員会、国家開発銀行は 「バイオ産業融資の推進についての意見通知」を制定、バイオ産業の融資面でのサポートを重点 的に行った。2009 年国務院は「バイオ産業の高速成長を促進するための若干の政策」を発表、国 家バイオ産業基地のインフラ建設、国家重大科学技術専門プロジェクト、バイオ技術イノベーシ ョンとバイオ産業実用化、ベンチャーキャピタル初期基金の設立などの措置を通じてバイオ産業 の成長を推し進めている。 2010 年 6 月、 「バイオ産業成長第十二次五ヵ年計画」が 8 ヶ月先だって国務院に報告されてお り、バイオ産業は「第十二次五ヵ年計画」期間(2011-2015)の発展の重点となる。 (3)「三網」融合を推進 2010 年初旬、国務院は電信網、ラジオテレビ網、インターネットの「三網」の融合のスピード アップを決定した。 「三網」融合の作業は二段階に分けて行われる。2010 年から 2012 年までは試 行段階であり、 「三網」融合試行方案を制定し、適切な競争が生じるよう業界勢力図の基本的決定 を行う。また 2013 年から 2015 年までを普及段階とし、 「三網」融合を全面的に支援し、一連のコ ア技術の確立がなされ、ブロードバンド通信網、デジタルテレビ網、次世代インターネットなど のネットワークキャパシティーを一段と向上させる予定である。 (4)戦略的新興産業計画 中国政府は 2010 年 9 月、 「戦略的新興産業の育成と発展の加速化に関する決定」を発表し、7 分野、23 の重点方針を今後の産業発展の重点に定めた。この7分野とは、省エネ・環境保護、次 世代情報産業、バイオ産業、新エネルギー、新エネルギー車、ハイエンド機械製造業、新素材で ある。 戦略的新興産業の発展目標は、2015 年までに戦略的新興産業が GDP 全体に占める割合を約 8% に、2020 年には約 15%へと高めることである。2010 年に戦略的新興産業が GDP の約 4%を占める と計算すると、2011~2015 年における戦略的新興産業の年平均成長率は 24.1%に、2016~2020 年は 21.3%に達する見込み。国民経済の基幹産業である次世代情報技術、省エネ・環境保護、バ イオ産業、ハイエンド機械製造業はこの成長率をさらに上回るとみられる。 -22-