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硬さセンサを用いた虫歯検出器具 の構造
硬さセンサを用いた虫歯検出器具 の構造 トライボロジー研究室 1040095 市村 豊 1030155 森本 浩康 指導教員 竹内彰敏 1 目次 1.緒言………………………………………………………………………..3 2. う蝕とその診断 2.1 歯の構造とう蝕……………………………………………………..3 2.2 過去のう蝕診断方法………………………………………………..5 2.3 新しいう蝕診断方法………………………………………………..5 3.硬さセンサを用いた虫歯検出器具 3.1 原理と測定例……………………………………………………….10 3.2 歯槽膿漏用プローブ……………………………………………….14 3.3 平行平板…………………………………………………………….18 3.4 平行平板を用いた目標設定値…………………………………….20 3.5 解析結果…………………………………………………………….21 3.6 硬さセンサ型虫歯検出器具の触診部構造……………………….22 3.7 検出適応範囲……………………………………………………….23 4.結言………………………………………………………………………..24 5.参考文献…………………………………………………………………..25 6.付録 歯槽膿漏用PCIプローブのモデル化…………………………….26 バネを用いた構造…………………………………………………….28 てこの原理を用いた構造…………………………………………….29 平行平板型と単板型の比較………………………………………….30 3 次元測定と Pro/MECHANICA での解析 ……………………33 7.謝辞…………………………………………………………………………38 2 1.緒言 十年程以前はう蝕(虫歯)検出に探針(先端が鋭利な針状)という器具を歯面に接 触させその感触からう蝕を検出しようとする物が使用されていた。現在探針を 用いた診断は再石灰化層の破壊を招き「虫歯の拡大」に繋がることや「診断精 度の低さ」からWHOの決定で禁じられている。 その後、様々な手法を用いて無害・高精度を目的とするう蝕検出器具が開発 されている。「う蝕の進行とともにその部分の硬さが軟らかく変化する」とい うことから、硬さ測定を行うことでう蝕検出が可能になると考案され開発が現 在行われている。硬さセンサによる検出は探針と同様にセンサと歯面が直接触 である。そのため、「歯面を損傷させないような軽負荷時の操作性向上」と、 硬さ測定の再現性に影響を及ぼすであろう「直接触により発生する横滑り」と いう問題を解決する硬さセンサの構造について研究を行った。 2.う蝕とその診断 2.1 歯の構造とう蝕 歯の構造 歯は、歯冠「歯肉(歯ぐき)から出ている部分」と歯根「歯肉内部に埋ま っている部分」とに分かれ、歯冠表面は、エナメル質と呼ばれ人体で最も硬 く、何百万本という半透明のガラス繊維のようなエナメル小柱からできてい る。エナメル質下部の象牙質は歯の形をつくっており骨と同程度の硬さを持 っている。歯の中心部には歯髄(血管、リンパ管、神経繊維)があり、歯に栄養 を与えている。歯冠の下のピンク色をした粘膜を歯肉といい、歯を支えてい る骨(歯槽骨)を被って保護する役目をしている。 図1 歯の構造 3 う蝕とは う蝕は表層下脱灰から始まる。表層下脱灰は、歯表面に付着する歯垢細菌が食事 などで糖を得ることで酸を発生させ、その酸が歯の表層下を溶かし軽石のような 状態にしていくことである。その表層下脱灰により溶けた部分へ唾液中に含まれ るミネラルを沈着させることで修復を行うというものを再石灰化という。この表 層下脱灰と再石灰化は口腔内で常に起きており、このバランスが崩れ脱灰が進行 すればエナメル表層が崩落し治療を要するう蝕ができてしまう。 この表層下脱灰を早期に発見することができれば、その部分への再石灰化を促進 させることで脱灰の進行を防止し、治療を行わずに健全な状態へ戻すことが可能 になる。そのため、ごく初期の脱灰の発見が可能な診断法の重要性は非常に高い といえる。 図2 う蝕の可逆性 4 2.3 過去の診断方法 過去 10 年以前は、目視による「視診」と、先端が鋭利な針状の「探針」を使用 し視診では確認しずらい臼歯裂溝部分などに探針を押し当て引き抜くさいの「硬 さ」や「粘着度合い」から医師の経験で進行状態を判断する診断方法が行われて きた.しかし,この「探針」を用いた診断行為自体が再石灰化層の破壊を招き、 結果う蝕を作りだしてしまう可能性があるうえ、感覚的で精度の高い診断方法と は言えなかった。現在この「探針」を用いた診断は、WHO の決定で全世界的に 使用を禁じられ、学校などの集団歯科検診では「視診」のみで診断が行われてい る。 a b c 図3 a)探針 b)探針先端 c)視診で検出可能なう蝕部分 2.4 新しい診断法 以上のような背景から、歯科学の研究進展によって初期う蝕診断の重要性 とう蝕の程度を正確に評価できる技術が研究され始め、近年、様々なう蝕 診断装置が誕生し実用化されている。 5 (1)PCI プローブ 元来、歯周病診査用に使用されてきたもので、歯肉と接触させて使用する ため歯肉を傷つけないように針先端が球状になっている。WHOの決定に より針先端が鋭利な探針の使用が禁じられたため、探針の代用としてう蝕 検出に用いられることになった。 利点 構造が非常に簡便であり衛生的で扱いやすい。 問題点 球状の先端では細かい部分(歯間部、臼歯深裂溝部など)の診査ができ ず、さらにプローブを使用した場合と視診とでの診断精度もあまり差がな いことや直接触による歯面への影響等からあまり使用されていない。 図4 PCI PCI プローブ(歯槽膿漏診断用) プローブ(歯槽膿漏診断用) 6 (2)レーザー蛍光診断法(DIAGNOdent) 歯質の変化や経過を定量的に確認できる。主に視診では確認しずらい 臼歯裂溝部などのう蝕検出に効果がある。原理は歯質に対して 655nm の波長のレーザー光を照射し、う蝕部分が発する特異な波長の蛍光を光 ダイオードを用いたセンサーで検出するというもの。 利点は、歯質に対して非接触であり歯面に損傷を与える恐れや痛みなど も無いこと、容易な操作性で術者の習熟度によらない診断が可能である こと、装置構成が簡便かつコンパクトであることなどである。 注意点としては診査部分に歯石や歯垢、着色などが存在すると、う蝕が ない場合でも反応し、あたかもう蝕が存在するような数値を表示するこ とがあるため診査部位の清掃を行わなければならない。現時点ではすべ てのう蝕部を診断することはできない、特に歯間部う蝕ついては他の診 査法の方が信頼性が高い。 a b レーザー光線が極小の到遠経路を通 って反射する、裂溝域でも測定が可 能 図5 a)DAIAGNOdent a)DAIAGNOdent,b)裂溝部の測定 DAIAGNOdent,b)裂溝部の測定 7 (3)QLF 法 青色光(紫外線)を歯に照射すると表面下脱灰のない正常な歯は黄緑色の 蛍光発生するのに対し、エナメル質内のカルシウムが溶け始めている脱灰 部分は蛍光の発色が弱いため黒く見える、その黒さが濃いほど脱灰が進ん でいることを示している。診断に要する時間は数分間で済み、その画像解 析をすることで脱灰部分の面積と深さが把握できるといわれている。現在、 もっとも優れた診断法として開発が進んでいる。 その他の診断法 X線診断 X線写真による診査は、歯科において長い歴史があり、現在も隣接面う蝕の 重要な検出手段として用いられている。しかしすべてのう蝕を検出できるわ けではなく、臼歯エナメル質に限局された初期う蝕は検出できず、放射線被 爆の危険性も免れない。 a b 図6 a)歯・顎顔面用X線CT装置,b)歯のX線写真 a)歯・顎顔面用X線CT装置,b)歯のX線写真 8 電気伝導度測定法 歯の電気抵抗値は、状態によって異なる。健全エナメル質も健全象牙質も、 崩壊が進行し伝導性の高い媒体に置換されると絶縁性を失う。これが日本で 最初に開発された電気う蝕検出器の原理である。 電気伝導度測定は、視診では健全に見える裂溝部のう蝕検出に特に適してお り、最も初期う蝕において精度が高い診査が可能だが検出部位に液体成分が 付着していると、伝導度に影響を及ぼし正確な診査が行えない。 b a 図7 a)電気伝導度う蝕測定器,b)同プローブ先端 透過光診断法 歯に光を透過させてう蝕状態を診査する装置で主に歯間部う蝕に利用でき非 接触などの利点はあるが感度が低く初期う蝕診査はできない 現状で初期う蝕診断をメインに行える装置は「DAIAGNOdent」のみであり、医 院への普及が進んでいる。開発が進む「QLF 法」にも歯科業界ではかなり注目さ れてはいるが、現状では,新たな初期う蝕診断装置の研究は始まったばかりである。 9 3.硬さセンサ型う蝕検出 健全部分と表層下脱灰が起きている部分では硬さが異なり、脱灰が進行す るほど硬さが軟らかくなるため、その硬さ変化を測定できれば、表層下で進 行する初期う蝕の検出が可能になる。 3.1 原理と測定例 原理 ここで使用したセンサは、測定系の発振周波数が接触する相手材の剛性によっ て変化することを利用したものである。センサ部は図6中に示すように、駆動用 の圧電セラミックス素子(PZT)と振動を検出する PZT 製検出素子からなる。そ して検出素子の出力信号を増幅させた後に、位相補正回路を介して再び駆動用振 動子に強制帰還させることで、発振回路を構成している。 図 8 はう蝕測定システムの概略である。3次元の表面粗さ形状測定装置の一部 を改造し,粗さ測定と同時に硬さの違いを検出できるよう、粗さの測定子に上述の センサ機能を付与した構造とした。硬さセンサの発振周波数は硬さの他に測定子 にかかる荷重の影響を受けるため、粗さ計ピックアップ部の負荷用バネを取り外 して突起高さの違いによる測定荷重の変化を無くすようにしてある。 また発振周波数の変化Δfは接触面の剛性を反映するため、測定子先端のマク ロな接触点の個数や形状等によっても異なる恐れがあるが、ここで用いた測定子 の先端半径は 10μm と十分小さく、見かけ上は針先端と平面の1点での接触と 判断できる。これにより相手面との接触状態を歯表面の凹凸に関係なくほぼ一定 に保つことが可能となるため、Δf は主として場所場所での剛性の違いを表すこ とになり、周囲と異なる特性を持つう蝕部の位置と進行の程度に関する正確な情 報を得易くなる。 実験では、周波数変化Δf を f/v コンバータにより電圧変化に置き換え、3次 元表面粗さ形状測定装置に入力して画像化し、同じ位置の表面形状の測定結果と 比較検討を行った。周波数変化と表面形状データの入力の切り替えは、図8中の スイッチにより行っている。 10 f /v SW コンバータ Δf バンドパス フィルタ 3次元表面粗さ 形状測定装置 アンプ プローブ ピックアップ 0.3mm/s W0 =50mN 試験片 測定子 駆動素子 (PZT) 検出素子 (PZT) 図8 図8 う蝕測定システムの概略 先に述べたように、センサを接触させたときの発振周波数の変化Δfは、本来、 接触面の剛性に比例するものであり、塑性変形のし易さの尺度となる硬さには必 ずしも比例しない。そのためここでは、微小硬度計により測定した硬さとその材 料でのΔfの関係を予め求めておき、歯面測定時の周波数変化から硬さを推定し ている。 較正に用いた材料は、硬質ゴム,PMMA,アルミニューム,銅,鋼である。微 小硬度計で測定したユニバーサル硬度(HU)とΔfの関係を図9に示す。なお、 この場合の基準周波数にはセンサが触れない状態(非接触)での周波数 86kHz を 選び、それとの差を周波数変 高硬度ほど硬さ変化に対す る周波数変化が緩慢になるも のの、健康な歯のエナメル質 部の硬さが HU=3.5kN/mm2 程度であることから、脱灰に より軟質化した歯での硬さの 違いを周波数変化により十分 に検出できることがわかる。 1 発振周波数の変化 Δf,kHz 化Δfとした。 0.8 0.6 0.4 測定荷重=50mN 測定荷重= 測定子先端半径= 10 μm 0.2 非接触時発振周波数= 86 KHz 0 0 1 2 3 4 ユニバーサル硬度 HU, kN/mm2 図9 硬さと発振周波数の関係 歯表面のう蝕検出の試み まず抜歯した歯の表面に存在するう蝕を検出できる可能性を調べた。図 10(a) 中の細線は歯の表面形状を、太線は同じ位置で測定した硬さ HU を表したもので ある。エナメル質の歯冠部での硬さは 3∼3.5kN/mm2 程度と高いのに対し、象牙 11 質との境界にある歯根面 う蝕部では急激な低下を 示している。その後歯石 部で突発的に高い値が得 られているが、象牙質部 に至ると約 1kN/mm2 の ほぼ一定の値となる。 センサを 2 次元的に走 査して硬さの分布図を作 成すると同図(b)のように なる。先の 1 次元走査の 結果と同じく、エナメル 質,う蝕,象牙質,歯石, 象牙質部での硬さの違い が捉えられており、一段 と暗い歯根面う蝕の範囲 が良く分かる。なお、歯 冠部にあるう蝕も同様の 方法で検出可能である。 図10 歯表面のう蝕検出の例 歯表面下のう蝕検出の試み 表面下での脱 灰の程度を把握 することは、再 石灰化による再 生が期待できる 歯か、早期の処 置が必要な歯か の判断の際に重 要となる。ここ ではまず、実際 図11 シックネスゲージ下面の空洞の検出 の歯面下の脱灰を測定する前に、単純なモデル実験を行いその可能性を調べた。 用いたモデル試験片は、厚さ 0.04mm の鋼製のシックネスゲージを直径 0.5,1, 12 2,5 mm の穴をあけたアルミ板にシアノアクリレートにより接着したものである。 測定子荷重を 50mN と低くし、0.3mm/s の速度の下で 2 次元の走査を行って得 られた硬さ分布図を図11に示す。 ゲージの下が空洞になっている領域での硬さは急激に低下しており、センサは 表面のゲージ材だけではなく、空洞部分の影響を含めた薄板の剛性の違いを検出 していることが分かる。ここでは、このとき得られた周波数変化Δfも、便宜的 に硬さの指標と判 断し、これまでと 同様に図9の較正 曲線から硬さを推 定した。 このように表面 下の組成の違いも 含めた硬さの測定 が可能なことから、 次に再石灰化層の 下で進行する実際 のう蝕の検出を抜 歯歯について試み た。ここでは歯を 4つの領域に区切 図12 歯表面下のう蝕検出の例 り、0,2,3,4週の間乳酸ゲルに浸漬させて脱灰の程度を制御した試験片を 用いた。 図 12 はそれら4領域の境界付近での硬さ分布図である。0,2週ではほとんど 変化はないが、3週になると明らかに軟らかいと判断される暗い領域が多く現れ ており、それは4週目に至って検査範囲の全領域に広がっている。 同領域は白色化してはいるものの、表面は滑らかで図4のようなう蝕部は目視 できなかったが、表層下では著しいう蝕が発生していたと判断できる。 微小硬度計で測定した0週と4週部の硬さは約 3.9 kN/mm2,約 1.2 kN/mm2 で あった。 上記のような簡便な測定手法を用いることで、表層下脱灰の進行状態を定量 的に評価ができ、かつ数十mNの低い負荷での硬さ測定が可能であり、従来 の直探針診断で発生していたような表層下脱灰の破壊を起こす恐れは低く、 特に歯冠部ならびに歯根部表面にある脱灰の検出に効果があった。 13 3.2 歯槽膿漏用プローブ 硬さセンサでのう蝕検出は歯面と針先端を軽微な直接触で行う必要があるた め以下の問題解決が重要になってくる。それは歯面と針先端での接触時に発 生する横滑りの抑制と、数十mNという軽負荷を人間が容易にコントロール できる操作性である。そこで、口腔内使用に適した構造の参考として歯槽膿 漏診断用 PCI プローブ(図 13)を基にそれらの問題の解決を試みた。 板バネ部 負荷 固定 手持ち部 図13 歯槽膿漏診断用 PCI プローブ(板バネ付) プローブ(板バネ付) 歯槽膿漏診断用 PCI プローブ(板バネ付)の特徴と問題点 特徴 図 14 のように上下の歯面との接触などの口腔内使用に適しており、かつ板 バネ(長さ7mm、幅5mm、板厚0.2mm)が負荷に合わせて変形する ことで先端にある目盛から負荷量が把握できる。(1mm 変位で 50mN増加) 14 図14 歯槽膿漏用 PCI プローブの歯面への利用 問題点 1)歯面と針先端の接触時に生じる横滑り 先端半径 10μmの針を用いた場合の再石灰化層を破壊させない負荷量は 50mN 程度でなければならいという実測を結果から、図8に示すように、 手持ち部分の一点を上下方向のみに回転出来るように固定し、針先端と接 触面を垂直に接触させた状態から手持ち部に負荷を加え、その時に発生す る滑りを計測した(図 15)。150mN の負荷を加えた状態で発生する横滑り 量約 500μmから、負荷 50μm時には約 200μm 程度の横滑りが発生して いる事になり、200μmもの横滑りでは意図した検出部分とは異なる部分 15 の検出を行ってしまう恐れがある。そのため横滑り量を抑制できる構造が 必要である。 図15 歯面と針先端で発生する滑りの実験 16 2)人操作による検出精度への影響 この歯槽膿漏用プローブと電磁式はかりを用いて、人間の操作により目標 変位量を一定に保つことで一定負荷量を維持しようする実験をおこなった (図16)。その結果、手先で生じる手ぶれにより変位量を一定を保つことは 困難で常に上下に変動し、それに伴って負荷量も安定せずに±10mN 範囲 で変動し続ける。そのため、再石灰化層を破壊させない負荷量 50mN 時に ±10mN もの誤差が生じては誤差割合が大きいため検出精度に影響を与え る恐れがある。そこで、負荷による変位量を現在より大きくとれば変位誤 差を減少させ、それに伴い負荷誤差の割合も減少させることで検出精度へ の影響を低減させることができると考えられる。 160 負荷量 (mN) 140 120 100 図9 目標変位量に対する荷重誤差 80 60 基準値 40 20 負荷誤差 0 1 2 目標変位量 (mm) 3 図16 目標変位量に対する負荷誤差 上記の2つの問題を解決するために様々な構造が考案された(付録「バネ型 構造」「てこ型構造」を参照)。その中で簡便で優れた構造としては以下に述 べる平行平板を用いたものである。 17 3.3 平行平板 歯槽膿漏用プローブの板バネ部を平行平板(同形状の平板をある間隔で平行に 配置したもの)に置き換え、先端部にセンサを取り付けたのみという簡便な構 造であるため、歯槽膿漏用プローブ同様に口腔内で扱いやすく、細菌感染防 止のための滅菌処理なども容易である。この平行平板の効果については以下 に述べる。 板バネ部を変更 a)歯槽膿漏用プローブ 平行平板部 b)平行平板型センサ 図17 Pro/E による歯槽膿漏用プローブa) による歯槽膿漏用プローブa),平行平板型センサb) ,平行平板型センサb) 18 平行平板の効果 固定 負荷 図18 Pro/M を用いた平行平板の負荷による変形 効果 図18 は平行平板の負荷による変形の様子を Pro/Mech での解析結果を用い てその効果を簡略化したものである。保持側(手持ち部)を固定し先端側に負荷 を加えた場合、平行平板の 2 枚の薄板が負荷によって同様の変形を起こすこ とで先端側と保持側が平行を保ち、先端側での垂直な接触が維持されるため 針先端と歯面で生じていた横滑りを抑制することが出来る。 。 19 3.4 平行平板を用いた目標設定値 この平行平板構造を基に、これまでに述べてきた問題点である「歯面と針先端 の接触時に生じる横滑り」と「人操作による検出精度への影響」の解決と、口 腔内での使用に支障を引き起こさない平行平板部の寸法を求めるために、Pro/M による解析を行うために目標設定値と固定寸法を検討した。先端半径 10μmの 針を用いた場合の再石灰下層を破壊させない負荷量が 50mN 程度から、歯槽膿 漏用プローブで負荷量 50mN 時の横滑り量が 200μm発生していたものを 50μ m以内とすることで硬さ測定の再現性への影響を減少でき、同負荷 50mN 時の 変位量1mmを2倍の「2mm」とすることで人操作による検出精度への影響 も減少させることが出来る。これらを目標値と設定した。 固定寸法(図19)としては実際の板厚サンプルを基に変位量と剛性の関係が優 れた平行平板板厚を「0.05mm」 、板間隔hは間隔が長いほど横滑りが軽減でき るが口腔内使用で支障が出ない間隔として「8mm」 、薄板の接合幅dは「2m m」とし、これらの寸法を固定し、板幅b・板長Lを可変させ解析を行い上記 の目標値を満たす形状を考察した。 b 固定寸法 L 板厚 d 0.05mm 板間隔h 8mm 板接幅d 2mm 可変寸法 板長L 10∼30mm 板幅b 4∼8mm h 図19 平行平板の寸法 20 3.5 解析結果 板長 L と板幅bを検討し、図 20 に示すよ うな結果となった。図 21 はそれをグラフ化 したもので板長・板幅と負荷量の変更によ る変位量の変化を示している。負荷 50mN 時に目標変位量2mmに最も近い変位量で あったものはL=26mm、b=5mmの時 であり、その時の横滑り量は 0.07μmとな り横滑り量の目標値 50μmより大幅に小さ い値となった。 負荷 板幅b 変位量 板長 L 24mm 26mm 10mN 5mm 4mm 0.305 0.382 0.403 0.512 40mN 5mm 4mm 50mN 5mm 4mm 1.220 1.528 1.524 1.909 1.615 2.051 2.018 2.564 60mN 5mm 4mm 1.829 2.291 2.422 3.076 図20 板長 L と板幅b変更による板変位量 L24b5mm L24b4mm L26b5mm L26b4mm 3.500 変位量 mm 3.000 2.500 2.000 1.500 1.000 0.500 0.000 10 40 50 60 負荷量 mN 図21 板長 L と板幅bの荷重による変位量 21 3.6 硬さセンサ型虫歯検出器具の触診部構造 平行平板を用いた触診部構造は、先端部では口腔内でも狭い上下奥歯間でも使用可能 な縦幅で先端部重量 1g以下とし使用時の板変位量への影響も少なく、歯槽膿漏用プ ローブと同様に変位量マーカーを付け、平行平板部からバーを伸ばすことで変位量を 観察できる。手持ち部は長さ 100mmとし歯槽膿漏用プローブより太く持ちやすく、 その内部は外部振動の影響をセンサケーブルが受けないような材質で包み、歯槽膿漏 用と同様の傾斜角 170 度にすることで操作性を向上する。 図22 平行平板型硬さセンサ全体イメージ 22 3.7 診断適応範囲 通常う蝕が発生し易い部分は図23a)に示す臼歯の咬合面の溝である小窩 裂溝部、歯茎と歯表面の境である歯根部、歯と歯が隣接する歯間部などであ り、硬さセンサ型検出器でう蝕検出に適した部分は小窩裂溝部と歯根部など である。特に他の検出器具では検出が難しい歯根部の検出に大変有効な検出 方法といえる。逆に検出が難しい部分は歯間部や虫歯の成形修復処置後の金 属冠部周辺である(図23b)。それは検出対象部周辺に対象外の歯や金属冠 などがあると、それらの影響で正確な硬さデータを検出できないためである。 う蝕発生部位 検出適応範囲 小窩裂溝部 歯根部 小窩裂溝部 歯根部 検出難 範囲 歯間部 歯間部 金属冠処置部 a b 図23 a)う蝕が発生しやすい部位,b) )う蝕が発生しやすい部位,b)検出が難しい部位 23 4.結言 平行平板というシンプルな構造ではあるが歯面とセンサの接触で起きる横滑 りを大幅に減少させることができる。さらに微少負荷でも変位量が大きいた め人操作による負荷誤差を軽減することで硬さデータへの悪影響を減少でき、 かつ再石灰化層の破壊を伴わずに検出が可能になる。だが平行平板部のサイ ズは口腔内使用で、必ずしも支障がでないサイズとは言えず更なる小型化や 新構造が必要である。 現段階では試作まで至っていないため、上記のメリットを証明できていない が硬さセンサを用いた虫歯検出において平行平板は優れた構造であるといえ る。 図24 う蝕部への平行平板型硬さセンサ使用例 24 5.参考文献 1)竹内彰敏:硬さセンサを用いたう蝕(虫歯)の検出 2)小田豊:新編歯科理工学 第三版,学健書院 3)中央大学生産統合研究グループ:Pro/ENGINEER による CAD/CAE/CAM 入門生産統合演習 4 日間,中央大学出版 4)西村尚:ポイントを学ぶ材料力学,丸善株式会社 5)森岡俊夫:歯科用レーザー・ 21 世紀の展望パート1,クインテッセンス出 版 6)Adrian Lussi:新しい咬合面齲蝕検出法,歯科展望 vol95・No6 25 6.付録 歯槽膿漏用 PCI プローブのモデル化 硬さセンサ構造設計以前にまず参考となるモデルである歯槽膿漏用プローブを Pro/E を用いて作図し歯面接触時発生する滑りについて Pro/Mech で解析を行っ た。 図25 歯槽膿漏用プローブの Pro/E 図 26 負荷 50mN 拘束 上下方向のみ自由 歯面 材質:ステンレス 全固定 図26 歯槽膿漏用プローブの解析条件 変形前 変形後 図27 歯槽膿漏用プローブの解析結果(変形前と後) 歯槽膿漏用プローブの解析結果(変形前と後) 上記図26のような条件で解析を行った結果、図27に示すような変形 を起こし歯面と針先端で横滑りが生じているのが分かる。なおこの解析 結果での針先端で生じた横滑り量は約 0.6mmとなった。実際の横滑り量 は約 0.2mm 程度であることから、実際の摩擦力や材料特性が違なるため と思われる。 27 バネを用いた構造 バネ型先端部構造 a b 図28 a)バネ型全体イメージ、b)バネ部分 図28のバネ型は平行平板型以前に考案していた構造であり、歯面と針 先端での接触で発生する問題をバネによって解決しようとするものであ 28 る。だがこの構造は以下の点で平行平板より優れているとはいえない。 それは口腔内で使用するために先端部の小型化が必要であるが、この構 造では先端部に小さな部品が集中するため小型部品の加工や先端部の小 型化が難しくコストも多くなることや、滅菌処理などの衛生面でもこの ような構造では充分に行えない恐れがあるため、平行平板型の方が優れ ているといえる。 てこの原理を用いた構造 回転支点 負荷により針先端 縦方向回転のみ自由 が下がる 薄板 歯面 負荷 図29 てこ型構造 図29に示す構造は、高知工科大学知能機械システム工学科の長尾高明 教授に御考案して頂いた構造である。この構造は「てこの原理」を用い たもので、薄板に下方向から負荷を加えることで針先端側が下がり歯面 と接触し負荷を伝えるというものである。 この構造の利点は、先端部分のコンパクト化が容易であり、かつ薄板へ 負荷を伝えることで、負荷量の調整も容易であり、口腔内で大変扱いや すくなっている。さらに回転支点を薄板側へ移動させることで「てこの 原理」により歯面への負荷を小さくすることが出来るため、非常に軽微 な接触が可能になる。回転支点から針先端側では剛な構造であり変形が 起きにくいため、歯面と針先端で横滑りが発生しにくいといえる。 この構造は、歯槽膿漏用プローブを基にした平行平板型とは全く異なる 視点から考案された構造である。現段階では、この「てこ型」と「平行 平板型」のどちらが虫歯検出器具として優れた構造であるかは確認でき ていないため両構造の更なる研究が必要である。 29 平行平板型と単板型比較 負荷 歯面 図30 初期平行平板型構造 初期の平行平板型構造である。この平行平板型構造へ図30のように負荷を加 えることで平行平板の変形とその効果を確認するために用いた。その参考として から上部の平板を取り外し、単板型としたものと平行平板型との違いを確認した。 以下がその解析結果である。なお両解析ともに負荷量や拘束条件などは同じであ る。 平行平板型では接触後も滑りをほとんど起こさず垂直状態を保っているが、単 板型では大きく滑り傾きが生じている。 30 図26 平行平板型と単板型の変形の違い 図31 平行平板と単板の解析結果の違い 31 図27 平行平板型と単板型の変形の違い(板バネアップ) 平行平板型と単板型の変形の違い(板バネアップ) 長尾高明教授 図32 平行平板と単板の解析結果の違い(平板部アップ) 平行平板と単板の解析結果の違い(平板部アップ) 32 3 次元測定と Pro/ Pro/MECHANICA での解析 この解析で使用するモデルは実際の研究用の歯をモデルとしている。歯の歯茎 から出ているエナメル質の部分を測った物を元にしている。 歯のモデルに再石灰化層の下に脱灰(う蝕)部分を作ってある。その上からセ ンサーの先端部を模した物を接触させ荷重を加える事により再石灰化がどのよう な状態になっているか荷重を変えて解析を試みた。脱灰の形は船底のような形状 にしている。 <解析条件> 歯のモデル 横:10mm 縦:5.0mm 奥行き:10mm 脱灰 長さ:1.0mm 深さ:0.3mm センサー先端 横:0.2mm 縦:0.15mm 半径 R:10μm 再石灰化 厚さ: 10μm(応力&変位 2 つ検出) センサーにかける荷重:5g or 10gに指定両方検出 測定対象に硬さセンサーを接触させる センサー先端部は丸み(再石灰化を破壊・歯の損傷を防ぐ)を付けてなおかつ微 少なので多少凹凸な部分でも測定可能となっている。 測定対象(再石灰化後)の歯 センサー先端の拡大 33 解析結果 1 この解析は再石灰化の厚さを 10μm 与える荷重 5g としたもの下の画像はセン サーの先端と荷重を加えた歯(モデル)の断面図を示したもの 応力分布の解析結果 エナメル質の引張り強度約 70∼100N/mm*2 辺りこの解析結果状況での応力を 基にして最大応力 5.181e+01(約 51N/mm*2)という結果なった。この応力は許 容範囲なので再石灰化層は破壊されない事が推測できる。 解析結果 2 この解析は再石灰化の厚さ共に 1 と同じで 1 の荷重が 5g に対して 10g に変えた もの歯(モデル)に変化が 1 より大きくなり分かり易くなっている。 この解析結果の応力 8.948e+01(約 90N/mm*2)なので一応許容範囲ではある が破壊される可能性がある。実際の脱灰部分は空洞ではなく脱灰進行が進んでい る状態なので再石灰化層の許容範囲の硬度も僅かながら増加するので破壊は免れ る。しかし安全に測定するならば 5g での検出が最適だと結論づれられる。 35 変位図 解析 5g と 10g の結果を変位で表したもの 解析結果 1 での変位 5g の荷重を加えている再石 与える荷重: 与える荷重:5g 灰化層にはほぼ変化的なもの 再石灰化下層: 再石灰化下層:10μ 10μm は見られない 解析結果 2 での変位 10g の荷重を加えての場合だと 与える荷重: 与える荷重:10g 5g とは違い大きな変化が見られ 再石灰化下層: 再石灰化下層:10μ 10μm る。10g ではこの様な変化が起こ るので検出する時に破壊する可 能性が 36 解析に使用したエナメル質の材料表 37 7.謝辞 本研究を行うにあたり、東北大学大学院歯学研究科歯科学専攻の小関健 由教授には遠いところをわざわざ高知工科大学に来校して頂き、う蝕や う蝕検出器具の詳細についての貴重な講義を拝聴させて頂きました。高 知工科大学知能機械システム工学科の長尾高明教授にはう蝕検出器具の 構造について有益な助言を頂きました。指導教員である竹内彰敏助教授 にはモデルを構築する上での手法や参考文献など多大な御指導・御助言 をいただきました。様々な助言や協力で支えてくれたトライボロジー研 究室の方々。この場を借りて皆様に感謝の意を表します。 38