...

石油製品備蓄に関する調査 - 石油エネルギー技術センター

by user

on
Category: Documents
202

views

Report

Comments

Transcript

石油製品備蓄に関する調査 - 石油エネルギー技術センター
石油製品備蓄に関する調査
一般財団法人石油エネルギー技術センター
技術企画部
上小澤 哲人、松原 三千郎、岡安 良宣
自動車・新燃料部
脇田 光明
調査情報部
糸井 正明、野本 研二
総務部
田畑 光紀
石油基盤技術研究所
柴原 伸郎、中野 義之、○上島 一仁
1.調査の目的
平成23年3月に発生した東日本大震災では、製油所・油槽所等の石油施設及び道路、鉄
道、港湾やタンクローリー等の物流施設が広範囲にわたって被災し、供給体制の構築に時
間を要したため、被災地等への迅速な石油供給に支障が生じた。こうした経緯を踏まえ、
政府は大規模災害時における被災地等への石油の供給体制を抜本的に強化するため、石油
の備蓄の確保等に関する法律(昭和50年法律第96号)の改正を行い、国家備蓄における石
油製品備蓄の増強に取り組んでいる。
これまでの石油備蓄法は主に原油の輸入途絶を念頭に置いたものであったため国家備
蓄の大部分は原油であった。一方、民間備蓄の多くは石油製品であったが、これらは主に
流通在庫として備蓄されており、随時製品の入れ替えが行われているため、我が国におい
ては大規模で長期間に渡る製品備蓄は実質的に殆んど実施されていない状況にある。
石油製品の備蓄においては、酸化等による製品品質の劣化を防ぐため、一定期間内に備
蓄している石油製品の入れ替えを行う必要があるが、入れ替えに当たっては市場への影響
等を考慮した方法で行う必要がある。
こうした石油製品備蓄の困難性を踏まえつつ、製品備蓄の運用方法を早期に確立してい
くためには、石油製品の長期貯蔵と品質の劣化に関する技術的知見を得ることが喫緊の課
題となっている。
そこで、石油製品の劣化に関する技術的知見の収集・分析等を行うことにより、国内に
おける石油製品の安定供給確保に資することを目的として本調査を実施した。
2.調査の内容
本調査は経済産業省資源エネルギー庁の委託を受け、平成24年度から26年度にかけて実
施したものであり、本調査の精度をより高めるため、石油業界関係者、学識経験者等の外
部有識者による委員会を開催し、技術調査の計画の立案及び結果の審議等を行った。
2.1
石油製品の長期保存に伴う品質劣化に関する技術調査
石油製品を長期貯蔵する場合に想定される劣化には、酸化による劣化、熱的な劣化、微
生物の作用による劣化が想定される。ただし、熱的な劣化は主として100℃以上の温度に
おいて起きる現象であり、通常の製品貯蔵においてほとんど発生することはない。微生物
の作用による劣化は外部から特殊な微生物(石油分解菌)が混入することによって引き起
こされるものであり、例えばフローティングルーフタンクにおける雨水の浸入等が主な混
入源とされているが、これは主として貯蔵装置や貯蔵条件に影響されるものであり、貯蔵
する石油製品の組成や性状に影響されるものではない。対策として殺菌剤による防止方法
があり、有効な殺菌剤が市販され使用されている。
一方、酸化による劣化は石油製品中の不安定成分が酸素分子との接触により酸化反応や
重合反応を起こして発生するものであるが、これは貯蔵する石油製品の本質的な性状に影
響されるものであり、常温においても進行する現象である。したがって、貯蔵する石油製
品をどのように選定し管理すればどの程度の期間まで貯蔵を延長することが可能となる
かについて理解するためには、貯蔵する石油製品の酸化による劣化のし易さを評価するこ
とが適切であると考えられる。
これらの知見により、本調査では以下に示すような考え方で貯蔵安定性試験を実施した。
(1)石油製品を長期貯蔵する場合に想定される劣化には、酸化劣化、熱劣化、微生物劣
化があるが、本試験では酸化劣化を評価した。
(2)石油製品を長期間(3年超~6年程度)保存した際にどのような品質劣化が発生す
るかについて貯蔵試験を実施して調べた。
(3)対象とする石油製品は、ガソリン、灯油、軽油、航空タービン燃料油、A重油の5油
種とした。
(4)試料マトリックスは、我が国の市販燃料の現状及び近い将来の品質レベルを想定し
て設定するとともに、酸化防止剤の添加効果を重点的に検討できるように設定した。
(5)貯蔵試験として、①43℃加速貯蔵試験(ASTM D4625準拠)及び②常温貯蔵試験を実
施した。①の加速貯蔵試験は常温貯蔵試験との相関が高いとされている方法であり、
43℃で13週間の貯蔵は常温での1年間貯蔵に相当するとされている。また、常温貯蔵
試験は加速貯蔵試験との対比を行うことで加速貯蔵試験の結果を検証することを目
的として実施した。
(6)品質の経時変化を確認するため、試験期間の途中段階において複数回の品質分析を
行った。品質分析を行う項目は、JIS等の公的な規格・基準と油種に応じた項目
の中から有効なものを選定した。
2.1.1
43℃加速貯蔵試験
恒温槽を使用して温度を43±1℃に保持し、その中で試料容器を貯蔵した。ガソリン及
び航空タービン燃料油(ガソリン形)では1.6Lステンレス製耐圧容器を使用し、灯油、軽
油、A重油、航空タービン燃料油(灯油形)では1Lガラス容器(硼珪酸塩ガラス製)を使
用した。ガラス容器については通気管を付けて大気開放とした。
例えば、78週(常温6年相当)貯蔵試験の場合、6.5週(常温半年相当)ごとの経時変化
を見るために、一つの試料について12本の同一サンプルを用意し、6.5週間ごとに1本ずつ
抜き取って品質確認試験に供した。
2.1.2
常温貯蔵試験
常温貯蔵試験は常温貯蔵試験(a)及び常温貯蔵試験(b)の2種類を実施した。常温貯蔵試
験(a)は試料を加速貯蔵試験と同一の試料容器に充填して屋内貯蔵場所に常温で保管する
ものであり、常温貯蔵試験(b)は試料を200L鋼鉄製ドラム容器に充填して屋内貯蔵場所に
常温で保管するものである。
3.調査の結果
3.1
石油製品の長期保存に伴う品質劣化に関する技術調査
3.1.1
43℃加速貯蔵試験
(1)ガソリン
酸化防止剤(BHT:ジブチルヒドロキシトルエン)を添加したガソリン試料では78週(常
温6年相当)貯蔵後においても劣化の兆候は見られなかった。BHT残存率は78週(常温6年
相当)貯蔵後に63%まで低下するものがあったが、それ以外は80%以上を維持している。
酸化防止剤を添加しない試料では、19.5週(常温1年半相当)貯蔵後に過酸化物価が検
出され、39週(常温3年相当)貯蔵後には5mg/kgとなったものがあった。一方、酸化防止
剤を添加しない試料には、78週(常温6年相当)貯蔵後においても、過酸化物価が検出さ
れないものがあった。この試料は市販ガソリンをそのまま使用したものではなく、オレフ
ィン量を増加させるため接触分解ガソリンを混合して調製したものである。調製基材とし
て使用した接触分解ガソリンにはFCC装置で酸化防止剤(アミン系、フェノール系)が添
加されているため、酸化防止剤の量が市販のものと若干異なるものである。
酸化防止剤を添加しない試料は酸化安定度(誘導期間法)が徐々に低下したが、その他
の性状においては酸化劣化の兆候は見られなかった。
図3.1.1
ガソリンの加速貯蔵試験結果(1)
図3.1.2
ガソリンの加速貯蔵試験結果(2)
(2)灯油
酸化防止剤を添加した試料では、78週(常温6年相当)貯蔵後においても劣化の兆候は
見られなかった。BHT残存率は90%以上を維持している。
酸化防止剤を添加しない試料では、3試料で19.5週(常温1.5年相当)貯蔵後において過
酸化物価が検出され、1試料で65週(常温5年相当)貯蔵後に過酸化物価が検出(2mg/kg)
された。
灯油試料の酸化劣化による色相の変化は小さく、セーボルト色はほとんど変化しなかっ
た。灯油の初期の酸化劣化の指標として色相変化を用いることは難しいと考えられる。
図3.1.3
灯油の加速貯蔵試験結果(1)
図3.1.4
灯油の加速貯蔵試験結果(2)
(3)軽油
酸化防止剤を添加した試料では、78週(常温6年相当)貯蔵後においても劣化の兆候は
見られない。BHT残存率は、測定値にばらつきがあるが、80%以上を維持している。
酸化防止剤を添加しない試料は19.5週(常温1.5年相当)貯蔵後において過酸化物価が
検出された。また、セーボルト色の低下、酸化生成物指数の増加、酸化安定度(PetroOXY
法)の減少、酸化安定度(ランシマット法)の減少が起きており、酸化劣化が著しく進行
したことを示している。
軽油試料は酸化劣化により色相の変化が起き、色相変化の程度は灯油の場合よりかなり
大きい。酸化防止剤を添加しない試料においては、セーボルト色が大きく低下する顕著な
色相変化が起きた。しかし、軽油については、市販品の段階でかなり着色しているものが
存在するため、貯蔵前試料の色相が不明の場合には、貯蔵後試料の色相分析結果だけから
劣化の程度を判断することは困難であると考えられる。
すべての軽油試料について、78週(常温6年相当)貯蔵後においても、目詰まり点(CFP
P)への悪影響は起きておらず、低温流動性向上剤の添加効果は維持されている。また、
低温流動性向上剤の使用により軽油の酸化安定性に悪影響を起こすことはない。
すべての軽油試料について、78週(常温6年相当)貯蔵後においても、潤滑性(HFRR)
への悪影響は起きておらず、潤滑性向上剤の添加効果は維持されている。また、潤滑性向
上剤の使用により軽油の酸化安定性に悪影響を起こすことはない。
図3.1.5
軽油の加速貯蔵試験結果(1)
図3.1.6
軽油の加速貯蔵試験結果(2)
図3.1.7
軽油の加速貯蔵試験結果(3)
(4)航空タービン燃料油
航空タービン燃料油においては、78週(常温6年相当)貯蔵後においても、酸化劣化は
起きていない。航空タービン燃料油は規格により所定量の酸化防止剤が添加されているが、
酸化防止剤が有効に作用しているものと考えられる。
JP-4試料については導電率の減少が起こり、19.5週(常温1.5年相当)貯蔵後に規格値
(150~600pS/m)を下回った。78週貯蔵後には50pS/mになった。この現象は、貯蔵試験に
使用した容器が小さい(1~1.6L)ため、試料容器に静電気防止剤が吸着されたことによ
るものと考えている。一方、3.1.2で述べるとおり、ドラム容器(200L)で貯蔵した常温
貯蔵試験(b)においては、22ヶ月貯蔵の導電率は180pS/mであり、貯蔵前試料の測定値(50
0pS/m)からかなり低下しているものの規格範囲内を保っている。実際に大容量タンクに
より貯蔵する場合においてどの程度の導電率の減少が起きるかについては、本検討では明
らかになっていない。大容量タンクにおいても導電率の減少が起きる場合には、静電気防
止剤を追添加する等の対応が必要となることも考えられる。
図3.1.8
航空タービン燃料油の加速貯蔵試験結果
(5)A重油
A重油試料の貯蔵試験において、6.5週(半年相当)貯蔵後においてすでに多量のセジ
メントが生成した。セジメント生成量はその後も増加したが26週程度で増加は止まりほぼ
一定量になった。セジメント生成量及び生成の傾向はBHT無添加試料と添加試料ではほぼ
同じであり、酸化防止剤の影響を受けていない。セジメント生成について検討した結果、
軽油引取税の対象から除外されるように添加した残炭基材が分離し析出したものと考え
られる。今回のA重油試料には残炭基材として残油を添加したものを選定しているが、残
油中のアスファルテンが貯蔵中にコロイド状態の安定性が崩れて分離析出したものと思
われる。セジメント量と添加された残炭基材のアスファルテン量はほぼ近い値であった。
図3.1.9
3.1.2
A重油の加速貯蔵試験結果
常温貯蔵試験
BHT 無添加のガソリン試料、灯油試料、軽油試料には、加速貯蔵試験において比較的短
期間で酸化劣化を起こすものがあったが、これらの試料についての常温貯蔵試験の結果
(22 ヶ月時点)と加速貯蔵試験の結果(26 週時点)もほぼ同様の傾向である。
・BHT 無添加のガソリン試料の酸化安定度(誘導期間法)が低下
・BHT 無添加の灯油試料の過酸化物価が増大
・BHT 無添加の軽油試料の過酸化物価が増大
BHT添加のガソリン試料、灯油試料、軽油試料については、22ヶ月時点では酸化劣化の
兆候はない。
A重油については、6ヶ月時点でセジメントが大量に発生しており、その後も増加して
いる。
航空タービン燃料油については、酸化劣化の兆候はない。JP-4の導電率について、貯蔵
前試料の測定値は500pS/mであったが、常温貯蔵試験(小容器)においては6ヶ月貯蔵後に
90pS/mに低下し、規格値(150~600pS/m)を下回った。22ヶ月貯蔵後には60pS/mとなった。
常温貯蔵試験(ドラム容器)においては、22ヶ月貯蔵後の導電率は180pS/mであり、貯蔵
前試料の測定値(500pS/m)からかなり低下しているものの規格の範囲内を保っている。
以上の結果より、常温貯蔵試験と加速貯蔵試験と結果はほほ整合しているため、加速貯
蔵試験から得られる試験結果の信頼性は高いものと考えられる。
図3.1.10
常温貯蔵試験結果
4.まとめ
4.1
石油製品の長期保存に伴う品質劣化に関する技術調査
4.1.1
ガソリン、灯油、軽油の長期保存
長期間の貯蔵を行う場合、適量の酸化防止剤を添加することにより、品質劣化をほとん
ど起こさずに、少なくとも 6 年間の製品貯蔵が可能である。
酸化防止剤の適切な添加量は、製品の種類及び貯蔵前の製品性状等により異なると考え
られるが、今回の試験においては、BHT 20mg/l 以上の添加で有効であった。
市販性状レベルの試料の中には、比較的短期間で酸化劣化を起こしたため、長期間の製
品貯蔵が不可能と判断されるものがあった。市販製品(ガソリン、灯油、軽油)の酸化安
定性には相当大きな相違があることが分かった。6年間程度の貯蔵においても大きく酸化
劣化が起きなかった試料もあったが、一方、2~3年以内の貯蔵により著しく酸化劣化が進
んだ試料もあった。
ガソリン、灯油、軽油が酸化劣化する場合には、最初にハイドロパーオキサイドが検出
され、次いで、酸化生成物の増加が検出され、その後、ガム分の増大、酸価の増大等が検
出される。これらの品質劣化に関連する性状変化は、燃料の酸化劣化が主として炭化水素
の自動酸化反応により進行することを示している。
4.1.2
航空タービン燃料油の長期保存
航空タービン燃料油は、品質規格を充足するために所定の添加剤(酸化防止剤、静電気
防止剤等)を添加して製品が製造されているが、現状の品質規格レベルの試料は 6 年間の
製品貯蔵を行っても酸化劣化が起こらない。
4.1.3
A重油の長期保存
6 ヶ月貯蔵後に残炭基材の分離析出によりセジメントが多量に発生した。残炭基材に含
まれるアスファルテンが分離、析出したものと考えられる。短期間の貯蔵において多量の
セジメントが発生することから、A重油は長期間の製品貯蔵には適さないと考えられる。
4.1.4
貯蔵時の品質モニタリング指標
燃料が酸化劣化する反応は、基本的にすべての油種においてほぼ類似であり、ハイドロ
パーオキサイドの生成により開始されると考えられる。したがって、貯蔵時のわずかな酸
化劣化を検出するものとしては、過酸化物価が最も鋭敏な指標となる。次いで、酸化生成
物指数、酸化安定度(誘導期間法:ガソリンの場合)が重要な指標となる。実在ガム、酸
価、銅板腐食は酸化劣化がある程度進行した場合になって検出される指標であるので、鋭
敏な指標とはならない。
なお、A重油については、酸化劣化が起こる以前の段階でセジメントが発生するため、
酸化劣化よりもセジメント発生の方が問題となる。
酸化防止剤(BHT)を添加した燃料の場合には、生成する微量のハイドロパーオキサイ
ドはBHTと反応するためBHT含有量は次第に減少する。したがって、BHT残存量が重要な指
標となると考えられ、BHT残存量の変化を測定することにより、酸化劣化が起きる以前の
段階において、燃料の品質変化をモニタリングすることが可能であると考えられる。
Fly UP