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組織犯罪集団の概念および特徴

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組織犯罪集団の概念および特徴
組織犯罪集団の概念および特徴(2〉(何・野村・張) 313
資 料
組織犯罪集団の概念および特徴(2)
訳
共
松稔凌
村
何野張
乗
問題提起
中国における黒社会組織の概念および特徴
主要国の「組織犯罪集団」の概念および特徴(以上前号)
四五山ハ
国連の組織犯罪集団の概念および特徴
「国連国際組織犯罪条約」(パレルモ条約)
組織犯罪集団の概念および特徴の精密化
四 国連の組織犯罪集団の概念および特徴
国連は,組織犯罪集団の概念および特徴に関する研究を非常に長い歳月にわ
たって行ってきた。この間,一連の会議が開かれ,若干の文書が制定された
が,その最重要なものとして,次の会議および文書が挙げられる。
(一) スードルの組織犯罪問題国際討論会
スードルの組織犯罪問題国際討論会が1991年10月21日∼25日に開催され,15
の国家,国連事務局,国連所属のヘルシンキ犯罪防止研究所,国際警察組織お
よびシカゴ大学国際刑事司法事務所の主要な司法官・専門家が,この会議に参
加した。組織犯罪集団の概念について,会議では次のような基本的見解が提出
された。
1 組織犯罪の変化および形式には,一定の共通点があるが,国家によって
差異がある。犯罪集団の形成は,諸国の社会・経済・法律など諸要素の影響を
314 比較法学37巻2号
受け,現在なお,統一的な組織犯罪の定義は確定されていない。しかし,一般
の理解によれば,組織犯罪(、、は,持続的に存在する犯罪実体により構成される
大規模な集団であり,利益獲得のために暴力・恐喝・贈賄・大規模窃盗などの
不法手段により設立された反社会システムである。組織犯罪の普遍的定義は,
「不法な手段による収益取得を通じて結集したすべての個人的集団である」。
2 組織犯罪は,若干の類型に分類されうる。①伝統的またはマフィア的な
疑似血縁型であって,常に非常に厳密な階級・内部規則・規律制裁・行動基準
を定めて多種多様の不法活動を行う類型である。②組織構成員が一定の犯罪を
職業的に行うために結集した類型である。職業犯罪者組織は,その構造が流動
的で非常に不安定な点で,伝統的・厳密な犯罪集団と異なる。また,種族・文
化・歴史の連帯関係により分類される組織犯罪集団も存在し,これらは,同じ
国籍の者と連帯して,国際的ネットワークを形成している。
3 組織犯罪集団の多くは,一定の地盤を占拠するが,多種多様の犯罪に参
与するものもある。組織犯罪集団のほとんどは,その形成に多重的特徴があ
る。比較的高い社会的柔軟性を有する組織犯罪は,その特徴として,活動形式
を各国の刑事司法政策と取締体制に応じて迅速に変動させる。一部の組織犯罪
の首領は,残酷な手段を使用し,超人的能力を持つ。これは本物の職業犯罪で
あり,社会に大きな脅威を与える。
4 組織犯罪は,社会・政治・経済に負の影響を及ぼす。政治面では,各政
党,地方行政当局を含む政府機関に浸透して影響を与え,政治家や公務員に賄
賂を提供する。多くの国の報告書によれば,それらの警察や軍人の多くが麻薬
密売者に買収されたとのことである。また,一部の国家では,政府公務員・裁
判官・市長・司法官が暗殺され,世界の人々を驚かせた。組織犯罪による経済
的損失を推算することができないが,貨物価値で計算すれば,麻薬不法取引は
世界第二の大工業となり,組織犯罪集団の収入は多くの国家のGDPに相当す
ると推測されている。
組織犯罪集団に関する以上の分析は妥当である。組織犯罪集団は,持続的に
存在する犯罪実体により構成され,利益を獲得するための大規模な集団であっ
て,巨額の経済収益を持ち,一定の地盤を占拠し,政府公務員を暗殺し,賄賂
によって,各政党・政府機関に浸透して影響を与え,暴力・恐喝・贈賄・大規
模窃盗などの不法手段により設立された反社会システムであると解されてい
(24)私見によれば,これこそが組織犯罪集団と解されるべきである。
組織犯罪集団の概念および特徴(2)(何・野村・張) 315
る。これらの特徴は,主に伝統的で巨大な組織犯罪集団の状況を反映するが,
中小組織犯罪集団の特徴は反映しない点で,問題がある。
(二) 「犯罪予防および刑事司法委員会」の見解
犯罪予防および刑事司法委員会の第2回会議文書E/CN。15/1993/3「事務総
長報告書:組織犯罪活動の全社会に対する影響」は,国際社会における組織犯
罪集団の統一概念の確立に悲観的であり,「普遍的に受け入れられる明確な組
織犯罪の概念を確定するすべての努力が失敗した。実際に,関係する資料・文
書は,多様な定義を提出したが,いずれも普遍的に受け入れられなかった」と
述べ,「組織犯罪集団」の統一定義の作成をあきらめ,その特徴を分析する方
法を提起した。
そこでは,次に掲げる組織犯罪活動の諸特徴がこの犯罪現象の性質解明に役
立つと強調されている。
①組織犯罪集団は,犯罪者あるいは犯罪集団の連合体であり,合法または不
法な物品や労務の提供を通じて経済的利益を獲得する。
②組織犯罪集団は,綿密に計画された犯罪活動に参与し,不法な行為を画
策・実行し,または不法な方法で合法的な目標を追求するとき,各階層の関係
を仲介する。一部の構成員のみで固定的な構造を構成することもあり,その役
割分担は非常に明確である。
③組織犯罪集団は,顧客に不法な物品や労務を提供することにより市場を独
占する。
④組織犯罪集団は,明確に不法な活動や労務に限らず,合法的な経営の支配
やコンピュータの操作を通じて資金洗浄などの知能的活動を行い,多様な分野
に浸透する。
⑤組織犯罪集団は,恐喝・暴力・賄賂の手段で,不法な物品や労務提供の独
占を通じて経済的利益を確保するとともに,合法企業に浸透し,政府公務員を
買収する。したがって,犯罪組織が合法な経営活動を行う場合,常に不法活動
のためにあらゆる暴力や恐喝の手段も使用される。
以上5つの特徴とスードル国際討論会の分析とを比べて見れば,両者には多
くの共通点があり,特に重要なのは,「犯罪組織が合法な経営活動を行う場合,
常に不法活動のためにあらゆる暴力や恐喝の手段も使用される」点である。し
かし,一部の表現は正確性に欠け,例えば,「不法な物品や労務の提供」との
表現は,特に殺人・強姦・傷害・強盗・略取などの暴力犯罪を含む組織犯罪集
316 比較法学37巻2号
団の全犯罪活動を総括できない。また,組織犯罪集団の組織構造に関する表現
も,明確性に欠ける。
勿論,この報告書は,組織犯罪集団の根本的性質に関わる論点も提出してい
る。すなわち,「特殊な事情としては,組織犯罪は一党独裁や独裁政体の国に
発生することが多く,それらの統治者とその部下が共同して悪事を働き,犯罪
組織を結集するために,国家権力が巨額の利益を獲得しようとする上層部の少
数人に利用されている」と指摘された。これは,代表的・影響力のある見解で
あり,西側の多くの学者がこの見解を支持している。この見解によれば,一部
の国家政権や政府が組織犯罪集団,これらの活動が組織犯罪,これらの国家が
犯罪国家と呼ばれる。数年前,筆者は,アメリカの友人から送られた雑誌で次
のような記述を読んだ。「1994年6月,アメリカの下院議員トム・ラントズ
(Tom Lantos)は,ロシア組織犯罪の調査会議を主催したとき,「これまで,
ソビエト政府は巨大な犯罪集団であったが,それも不思議なことではなく,そ
の特殊な犯罪集団が消滅すれば,他の犯罪集団が多種多様の活動によりそれに
代替する」と述べた。… モスクワの最も有名な匪徒の一人であるオタリ・
カマトリスーヴィリ(Otari Kvantrishvili)(25)は,これらの者による大規模な
犯罪活動はその国家と比べて氷山の一角にすぎないと認め,記者インタビュー
で,「私がマフィアの教父といわれているが,レーニンこそがマフィアの真正
の創立者であり,レーニンがこのような犯罪国家を樹立した」と答えた(26)。犯
罪の本質に触れているにもかかわらず,このような極端な結論を出したことは
遺憾である。この問題については後述する。
(三) 「国際組織犯罪閣僚会議」の見解
国際組織犯罪閣僚会議の背景文書E/CONF.88/2「世界各地の国際組織犯罪
の問題と危険性」は,まず,長期にわたり「組織犯罪」の用語が議論されてい
るが,同一問題について各方面から異なる分析が行われているので,幾つかの
条件を満たした上でこの統一用語を考えるべきである,と指摘している。これ
らの条件は,次のものである。
①犯罪組織の構成員は,犯罪活動に比較的継続して参与する者であるが,こ
れらの者は,常に不法な物品や労務の提供,窃盗や詐欺などの不法手段により
(25) モスクワ組織犯罪の首脳。
(26)J・マイカル・オーラ「組織犯罪とロシア国家一米ロ協力に対する挑戦」民
主化(ソビエト崩壊後の民主化雑誌)1994年2巻3号365頁。
組織犯罪集団の概念および特徴(2)(何・野村・張) 317
合法な物品を獲得する企業犯罪に参与する。組織犯罪集団の独特の原動力は
「自己の市場地盤の保持・拡大」という基本的考慮である。
②組織犯罪集団の活動は,不法な物品や労務を提供するために,高度な協力
体制・組織構造・企業管理技能,高度の専門性・調整能力を必要とする。ま
た,司法要員の買収,政治機関への浸透のために暴力と賄賂の手段も必要とす
る。暴力と賄賂は,組織犯罪集団の自己防衛,紛争解決および円滑な不法商業
活動を実現する策略である。この文書は,「暴力と賄賂が当然のように使用さ
れることは,周知のところである。彼らは暴力を手段として商業取引の相手方
を威嚇・排除し,国際的な犯罪組織活動を禁圧しようとする政府機関や法執行
機構も,これを黙認している。また,暴力は,内部の秩序や規律を維持する手
段の一つである」と指摘している。
③犯罪組織の規模・構造・結束力について,文書には多様な見解がある。な
かには,組織犯罪は大規模で厳密な階級性組織であり,その構造は伝統的な会
社構造に相当する,との見解もある。これに対して,組織犯罪集団の構造は,
主たる部分で厳密さに欠け,柔軟性および高度の応変性を持ち,それは正規の
会社構造よりも,むしろ地域社会の社会交換網から形成される,という見解も
ある。このような犯罪集団は,通常規模が小さく,組織構造が不安定で,強い
投機性を持つ。この文書は,犯罪集団の特徴の分析に際して,小組織と大組
織,正規構造と非正規構造との区別よりも,その規模を問わず,未定型のネッ
トワーク組織から官僚構造に至る発達の分析が重要であると指摘している。ま
た,組織犯罪集団の連続性と変動性も,考慮されねばならない。一つの犯罪集
団が二つ以上の特徴を持ち,一面から見れば正規の厳密な等級を有する構造が
存在するが,他面から見れば非定型で柔軟性を有するネットワークであること
もある。
④組織構造の規模と程度は,犯罪集団を認定する二つの主要な根拠である。
⑤犯罪活動の範囲について,専業化の程度が高く,主に売春や麻薬販売など
一種の活動を行う犯罪集団もあれば,クレジットカード詐欺や金融詐欺など広
範囲な犯罪活動を行う犯罪集団もある。
以上の分析は,精彩な見解を提供している。例えば,「暴力と賄賂は,組織
犯罪集団の自己防衛,紛争解決および円滑な不法商業活動を実現する策略であ
る」,「彼らは暴力を手段として商業取引の相手方を威嚇・排除し,国際的な犯
罪組織活動を禁圧しようとする政府機関や法執行機構も,これを黙認してい
る。また,暴力は,内部の秩序や規律を維持する手段の一つである」,「犯罪集
318 比較法学37巻2号
団の特徴の分析に際して,小組織と大組織,正規構造と非正規構造との区別よ
りも,その規模を問わず,未定型のネットワーク組織から官僚構造に至る発展
の分析が重要である」などは,非常に意味深い。
(四) 「国際組織犯罪に関する世界閣僚会議背景文書」の見解
国際組織犯罪に関する世界閣僚会議の背景文書E/CONF.88/5「地域および
国際各レベルで国際組織犯罪を防止し抑制する適当な方式および基準」は,組
織犯罪集団の特徴を特別な論題としていないが,組織犯罪集団に関する2つの
論点に注目すべきである。特に組織犯罪集団の「生来的権力」という論点は,
組織犯罪集団の最も本質的な部分に触れている。
①人員も資産も,組織犯罪集団の組織構造の主要な部分である。
②組織犯罪集団の存在自体が一種の脅威である。組織犯罪集団は,その結成
以降あらゆる機会を利用して犯罪活動を行うとともに,その組織犯罪集団を発
展させるが,その際,生来的な権力を最大限行使して,組織犯罪集団自体を一
体化させる。
(五) ナポリ政治宣言と国際組織犯罪の規制に関する全世界行動
計画
1994年11月21日∼23日に,イタリアのナポリで国連国際組織犯罪に関する世
界閣僚会議が開かれ,139の国連加盟国,2の非加盟国,41の政府問組織と非
政府組織,および国連所属機構の代表者がそれに参加した。同会議では,全体
委員会の提起した「ナポリ政治宣言および国際組織犯罪の規制に関する全世界
行動計画」(1994年12月23日に国連総会第49/159号決議で批准)が全会一致で
採択された。この「全世界行動計画」は,国際組織犯罪の特徴について次のよ
うに論述している。
「以下の特徴は,国際組織犯罪現象の法律的定義または全面的定義ではない
が,その典型的な特徴である。犯罪活動を行うために集団を結成すること,犯
罪集団の首領が当該集団を支配・統制して階級関係または個人関係を形成する
こと,暴力・恐喝・賄賂などの手段により利益獲得または地域・市場占拠の目
的を達成すること,犯罪活動の遂行または合法的企業への進出のために不法収
益を資金洗浄すること,新たな活動領域または国境外まで拡大する潜在的な可
能性を模索して,他の国際組織犯罪集団と連携すること」。
国際組織犯罪集団に関する以上の特徴は,確かに典型的なものである。基本
組織犯罪集団の概念および特徴(2)(何・野村・張) 319
的には,強力で大規模な国際組織犯罪集団の組織化の程度およびその活動の特
徴が反映されている。これらの点は,1997年国連組織犯罪対策条約草案および
24の国の意見書でも強調されている。しかし,一般の組織犯罪集団は,必ずし
もこれらの全特徴を持つとはいえない。
(六) 「国連経済および社会理事会犯罪防止と刑事司法委員会」
の見解
国連経済および社会理事会犯罪防止と刑事司法委員会の第5回会議文書「ナ
ポリ政治宣言および国際組織犯罪を打撃する全世界行動計画の執行状況」は,
「国際組織犯罪について,普遍的に受け入れられる統一定義は下されなかった
が,この犯罪活動の主たる特徴については共通の認識に到達した」としてい
る。例えば,カタールは,組織犯罪とは「持続的に存在する個人的集団であ
り,犯罪行為・暴力・賄賂を手段として財産および支配権を取得するものであ
る」とし,犯罪組織の活動は持続的な性質を持ち,一時的に結成された集団と
異なり,威嚇手段の一種である暴力は,告発者・証人による法執行機構への情
報提供を効果的に阻止することができ,また,犯罪組織は賄賂の手段を利用す
る,と指摘している。利益および支配権の取得は,組織犯罪の基本的目標と認
められている。組織犯罪の主たる特徴について,カタールは,組織犯罪のピラ
ミッド構造および役割分担,内部の忠節や行動準則,勢力配分制度を利用して
競争や衝突を回避し,紛争を解決することを特に強調している。モロッコは,
組織犯罪とは「利潤取得の目的で暴力・脅迫・賄賂の手段による犯罪活動を行
うために,あらゆる形式で結成された集団をいう」と定義している。
ここでは,「犯罪行為・暴力・賄賂を手段として財産および支配権を取得す
る」こと,「利益および支配権の取得」が「組織犯罪の基本的目標」であるこ
と,「勢力配分制度を利用して競争や衝突を回避し,紛争を解決すること」に
注目しなければならない。
五 「国連国際組織犯罪条約」(パレルモ条約)
早くも1980年代に国際組織犯罪条約を制定する構想が提唱されていたが,
「国連国際組織犯罪条約」(パレルモ条約)は,長期にわたる準備と4年の作業
を経て制定された。
1996年12月12日の国連総会第51/120号決議は,犯罪予防と刑事司法委員会に
320 比較法学37巻2号
よる国連国際組織犯罪条約の起草を優先事項として取り上げることを要請し
た。1997年12月12日の総会では,同委員会および経済と社会理事会の提案に基
づいて,第52/85号決議により同委員会に所属する政府間専門家委員会の設置
を決議した。同専門家委員会は,国際組織犯罪条約および補足の3議定書を起
草した。1999年1月19日から2000年10月27日にかけて,専門家委員会は,11回
の会議を開いて国際組織犯罪条約草案および各議定書を起草し,国連総会は,
第55回会議でこれらを採択した。1999年12月17日,総会の第54/129号決議で
は,国連国際組織犯罪条約(パレルモ条約)および各議定書に署名するため
に,イタリァを条約署名式典会議の開催国とする提案が採択された。総会は,
すべての国家に対し,高級の政府関係者を会議に出席させるよう要請した。
2000年12月12日∼15日,国連国際組織犯罪条約(パレルモ条約)および各議定
書に関する署名会議がイタリアのパレルモで開催された。中国もこの会議に出
席し,同条約に署名した。
「国連国際組織犯罪条約」2条(a)は,組織犯罪集団とは,「一定期問に存
続する3人以上の者からなる系統的集団であって,直接又は間接に資金その他
の物資上の利益を獲得するため,重大な犯罪又は本条約の規定に従って定める
犯罪を一又は二以上犯す目的で協力して行動する集団である」,と規定する。
この概念は,組織犯罪集団の次の特徴を指摘している。
(1) 組織犯罪集団は,3人以上の多数人からなる組織構造の集団でなけれ
ばならない。
この特徴は,組織犯罪集団の規模および組織化の程度に関わる。組織の規模
について,最低でも3人が必要であるが,最上限は理論的には無制限であり,
3人以上ならば何人でもよい。この特徴は,あらゆる組織犯罪集団を包括す
る。組織化の程度については,「組織構造」を有することが要求される。条約
2条(c)によれば,「組織構造を有する集団」とは,一つの犯罪を直ちに実行
するため随意に結成された集団ではないとはいえ,固定的な構成員の役割を確
定することも,構成員の連続性または完壁な組織構造も要求されないことを意
味する。これも,組織構造を有する犯罪集団の全てに含まれる特徴である。
(2) 組織犯罪集団は,重大な犯罪または本条約に定める犯罪の一個または
数個を行うために共同して行動する集団である。
この特徴は,組織犯罪集団の活動内容に関わる。この基本的要点は,組織犯
罪集団が一個または数個の犯罪を実行するために一体となって行動する集団で
あると強調する。集団を結成する目的は,犯罪の実行である。条約2条(b)
組織犯罪集団の概念および特徴(2)(何・野村・張) 321
は,「重大な犯罪」とは,最長4年以上の自由剥奪刑に処し得る犯罪を構成す
る行為をいう,と規定する。条約3条(a)は,「本条約に従って定められる犯
罪」とは,条約5条,6条,8条および23条に定める犯罪をいう,と規定す
る。具体的には,組織犯罪集団の犯罪活動に参与する行為,組織犯罪集団の重
大犯罪の実行を組織・指揮・協力・教唆・蓄助・謀議するなどの組織犯罪集団
への参加行為(条約5条),資金洗浄罪(同6条),贈賄罪・収賄罪など汚職行
為に関する犯罪行為(同8条),主に条約に規定する刑事訴訟において暴力・
脅迫・恐喝を行い,一定の利益供与に関する承諾・提案・提供を通じて虚偽の
証言を提供し,証言・証拠提出の妨害を勧誘するなどの司法妨害罪(同23条)
である。これらの犯罪行為を規定した主な理由は,「パレルモ条約」の適用範
囲を明らかにして,締約国にその義務を履行させるためである。
(3) 組織犯罪集団は,資金その他の物質的利益を直接・間接に獲得する目
的で結成された集団である。この特徴は,組織犯罪集団の目的に関するもので
あり,組織犯罪集団を政治目的のテロ組織その他の政治的犯罪集団から区別す
る重要な基準である。
(4) 組織犯罪集団は,一定期間にわたって存続する集団である。この特徴
は,組織犯罪集団の存在の時間的存続性に関するものであり,組織犯罪集団が
一時的に結成された集団ではないことを説明する。しかし,ここでは「長期
性」,「持続的な存在」,「持続的または永久的存在」,「職業性」などの表現は使
用されず,「一定時問にわたって」という広い概念が使用されている。おそら
く,この広い表現によれば,実際に存続する各種の組織犯罪集団の状況を反映
しうるであろう。
要するに,このパレルモ条約の概念は,組織犯罪集団の最低限度に基づいて
定立された概念である。20年前から組織犯罪集団が急速に発展し,世界中の諸
国に存在している。各国の社会・政治・経済の状況および文化・伝統の差異に
応じて,その組織犯罪集団の発展経緯も異なる。イタリア,アメリカ,ロシァ
各国のマフィア,日本の暴力団のように,大規模で,組織構造が厳密な組織犯
罪集団もあるし,ジャマイカ,ナイジェリア,エストニアなどの国のように,
小規模で組織構造が厳密でない組織犯罪集団もある。この概念は,諸国の異な
る状況に適合し,国際社会で普遍的に受け入れられる概念を形成するために,
世界各国の組織犯罪集団の最も一般的な特徴のみを表現したものと考えられ
る。この指導思想は妥当であろう。しかし,この概念は,組織犯罪集団を具体
的に認定する際に不可欠な最も本質的な特徴を無視している。すなわち,組織
322 比較法学37巻2号
犯罪集団の暴力性が軽視されたために,多くの非暴力的な犯罪集団(例えば,
組織構造の厳密な横領集団,窃盗集団)が組織犯罪集団に含められてしまい,
組織犯罪集団の犯罪が拡大されるおそれがある。
以上のように,中国の黒社会組織の概念および国際社会の組織犯罪集団の概
念に対する分析を通じて,次のことが明らかになった。理論および法律におい
て,組織犯罪集団の概念は多方面から定義されるが,いずれもその本質的な属
性と特徴を全面的かつ正確に表現していない。したがって,正確・精密な概念
を定立するために,さらなる検討が必要である。
六 組織犯罪集団の概念および特徴の精密化
ここまでは,中国大陸および香港・マカオ・台湾の黒社会組織,諸国家の
「組織犯罪集団」,国連関係文書における組織犯罪集団について,その概念と特
徴を検討し,多様な見解をまとめた。組織犯罪集団に関する研究は,すでに豊
富な成果を収めているが,現在の任務としては,複雑な事情を明確にし,問題
の本質に触れる科学的結論を下すことが求められている。この目的を実現する
には,抽象的で科学的な法則および方法を用いて組織組織集団の本質を認識し
なければならない。
組織犯罪集団の本質は何か。この問題については,その根幹から考察しなけ
ればならない。前述のように,社会は上等社会・上流社会と下等社会・下流社
会とに分けられるが,上等社会とは,伝統的・遵法的な市民の社会をいい,下
等社会とは,犯罪者社会あるいは組織犯罪社会をいう。これら二種類の社会
は,異なる性質を有する。上等社会は,国家によって保護される伝統的・合法
的な社会であり,組織犯罪社会は,犯罪者や犯罪組織が支配する不法な社会で
あって,公開的・合法的な社会に抵抗する社会である。
社会とは何か。これは複雑な問題である。今日なお,社会という用語につい
ては,学者の見解が分かれている。「社会と人間との関係」という基本的出発
点から,社会とは社会化される人類であり,「社会自体,すなわち社会関係に
おける人問自身である」(27)と考える者がいる。中国の学者は,これに基づいて
「社会とは,一定の物質生産活動を基礎として相互連絡する人間の総体であ
る」(,8〉と認識する。他方,社会は人間の社会関係であるとして,「社会とは,
(27)マルクス・エンゲルス全集第46巻(下巻)226頁。
(28) 趙家祥主編・歴史唯物弁証主義原理(北京大学出版社,1992年)69頁。
組織犯罪集団の概念および特徴(2)(何・野村・張) 323
人問の連絡および関係として人々が相互に交流した産物であって,社会関係の
総体である」(2g)と認識する社会学者もいる。アメリカの著名な社会学者ダーフ
ィト・ポープナー(David Popenoe)教授は,「社会とは,相互に認め合い,
団結感,集団的目標を有する人間の集合である。それだけでなく,社会とは,
さらに広範囲な,地域を基礎に人類の基本的需要を満たす社会構造の集合体で
ある」(3・)と指摘している。同教授によれば,社会構造(social institution)と
は,社会の基本的需要を満たす社会構造における比較的安定した諸要素であ
り,例えば,家庭,経済的構造,政治的構造などがそれにあたる。したがっ
て,同教授の提唱した概念では,社会は人間の集合であること,そして人間が
社会関係の集合であることが強調されている。実際には,この二つの見解が一
体化される。私見によれば,社会とは,特定の人間群とその相互間の比較的安
定的な社会関係によって構成される集合体である。
公開的・合法的な社会という集合体は,国家により暴力で設立され保護され
るものである。今日なお,あらゆる社会形態は,自己存在のために,少なくと
も一部では暴力を必要とする。この組織形式を有する暴力が国家と呼ばれる。
国家の定義については,論者によって多様な定義がある。しかし,「国家の
定義の内容は多様なので,その定義づけは困難である」(31)。したがって,一般
的に,国家は人口・領土・政府・主権の四つの要素からなると認識されるが,
国家の本質を明らかにする見解は少ない。
ホッブズが1651年に完成させた国家論の大作「リヴァイアサン(Leviathan)」
では,「聖書」における力強い巨獣(Leviathan)の名前を借りて,強力な国家
が比喩されている。ホッブズは,「国家は人々への授権に基づいて,授権を受
ける権力および力を使用して,その威嚇力を通じて人々の意志を集めて,対内
的には平和を図り,対外的には協力し合って外敵に抵抗することができる。国
家の本質は,その自身に存在する」(32)と論じた。マックス・ヴェーバー(Max
Weber)は,著名な国家の定義を提唱し,国家とは「領土内で,物質的武力
を合法的かつ独占的に使用することに成功した形式である」として,国家の暴
力性を特に強調する。この定義では,ホッブズ,マキャヴェリと同じように,
(29) 鄭杭生主編・社会学概論新修(中国人民大学出版社,1994年)69頁。
(30) ダーフィト・ポープナー(David Popenoe)著・李強他訳「社会学」(第10
版)(中国人民大学出版社,1999年)102頁。
(31) ケルゼン・法と国家の一般理論(中国大百科全書出版社,1996年)203頁。
(32) ホッブズ・リヴァイアサン(Leviathan)(商務印書館,1985年)132頁。
324 比較法学37巻2号
政治の分野で武力が第一であるという見解が堅持されている(33)。そして,ヴェ
ーバーは,「当然ながら,武力は国家の正常な唯一の手段ではなく一この点
を論じる者がいないが しかし,武力は国家に特有のものである」と指摘す
る。勿論,国家は,説得・誘導・その他の権利方式を使用する。ヴェーバー
は,国家の特性が武力使用の独占にあることを強調するにすぎないが,国家は
組織的な暴力であると考えるべきである。
国家は,組織的な暴力の一種である。古代の階級社会から現代の文明社会ま
で,組織的暴力を持たない国家の存在は不可能であることが歴史により証明さ
れた。この点について,国家という組織的暴力は,社会が一定の段階に発展し
ていく必然的な産物であり,社会が若干の対立勢力に分裂してから,その社会
の秩序を維持するために,一定程度社会を超越する権力がなければ,社会の存
在が不可能となる。
同様に,合法的な社会において公開・合法的な社会に対立する組織犯罪集団
も,組織的暴力を維持しなければその成立や存在が不可能である。組織犯罪集
団こそ,このような組織的な暴力である。組織犯罪集団はこのような組織的暴
力により公開・合法的な社会において活動し,特定の人間の社会関係によって
構成される組織犯罪集団という総合体である。組織犯罪集団の内部において
は,確立された合法的な社会と異なる行動規律および秩序が遵守されなければ
ならない。このような行動の慣習は,合法的社会と異なるイデオロギーおよび
犯罪副次文化により維持される。組織犯罪集団の勢力範囲は,ある犯罪集団と
他の犯罪集団との勢力範囲により区分される。この境界線は,無形的,変動的
なことが多く,組織犯罪集団勢力の増加や減少に伴い変動・拡大・縮小する。
しかし,ある特定の状況において,組織犯罪集団にも明確な境界がある。この
特殊状況とは,組織犯罪集団勢力が既にある地域で絶対的な支配力を確立して
いる状況である。例えば,イタリアのシシリア島のある地域が歴史上イタリア
のマフィアに統治されたように(34》,中国雲南省の山林地域には,黒社会組織に
より絶対的に統治され,黒社会の統治する独立王国も存在する。このような
(33) プラトンの「理想国」では,「正義は強者の利益である」とされる。
(34) 1880年∼1920年「マフィア王国」統治時代で,全シシリア,特にマフィアの
三角地帯においては,マフィアに統治された社会があった。シシリアの伝説に
よれば,「シシリアには三つの政府,すなわちローマ政府,地方政府およびマ
フィアがある。マフィアに絶対に服従しなければならず,そうしなければ死
ぬ」とされていた。マフィアは国家の中の国家になっていた。
組織犯罪集団の概念および特徴(2)(何・野村・張) 325
「独立王国」は,合法的な社会の内部に存続する国内の国家となった。
すべての組織犯罪集団について,その大小,その境界の有形・無形を問わ
ず,合法的な社会の内部に存在する国内国家であることが,事実により証明さ
れている。このような国内国家が存在できる原因は,組織犯罪集団が組織的暴
力で維持されるからである。同様に,公開・合法的な社会も,国家の組織的暴
力によりその存在が維持される。したがって,組織的暴力は,すべての組織犯
罪集団の本質であり,すべての組織犯罪集団の最も根本的属性および特徴でも
ある。すなわち,①合法的な社会あるいは上流社会,②不法な社会あるいは組
織犯罪集団の社会という,性質の異なる二つの社会が存在する。両者のいずれ
も組織的暴力により維持されている。合法的な社会を維持する組織的暴力は国
家と称されるが,組織犯罪集団の社会を維持する組織的暴力は組織犯罪集団と
呼ばれる。合法的社会は,特定の人間およびその人間の比較的安定した社会関
係により構成される統一的・巨大な集合体である。これに対して,組織犯罪集
団は,合法的な社会の内部に存在する特定の人問およびその人間の比較的安定
した社会関係により構成される分散・多規模・小型の集合体である。
国家および組織犯罪集団の本質は,組織的暴力にあるが,この二種類の組織
的暴力には根本的区別がある点に注意しなければならない。この区別は,組織
的暴力の規模・程度・範囲のみならず,合法か不法かという点にある。国家は
合法的な組織的暴力であるのに対して,組織犯罪集団は不法な組織的暴力であ
る。合法的な組織的暴力については,その存在自体が合法的でなければなら
ず,暴力の行使も合法性を有し,法律の制約を受けねばならない。これに対し
て,不法な組織的暴力の存在は,それ自体が不法であり,かつ,その暴力の行
使も不法であり,法律の制約を受けないので,悪事を恣意に働くことができ
る。このことは,組織犯罪集団が強力な国家暴力に抵抗できる根本的な要因と
なる。前者により設立・維持される社会は合法的社会であるのに対して,後者
により設立・維持される社会は不法な社会あるいは組織犯罪集団である点で,
合法か不法かが決せられる。黄金の三角地帯を支配していた国際麻薬犯罪者の
王坤沙は,3万人以上の武装部隊を設立し,対空ミサイルを含む先端兵器を持
ち,ビルマ政府軍からの精良の武器設備を持って,1987年に結集された「24P
民族革命政府」を1993年に禅国と改称した。1980年代に全盛とななったアメリ
カの麻薬密売集団は,毎年麻薬密売で30億ドルの収益を獲得し,飛行機十数
機,精密なレーダーなどの先端設備,8千人の軍隊集団を持ち,アメリカ警察
やコロンビア政府軍に公然と抵抗した。これは不法な組織暴力であり,合法性
326 比較法学37巻2号
に欠ける。これは組織犯罪集団であり,国家ではない。これに統治された社会
は,組織犯罪集団の社会であるが,合法社会ではない。これに対して,合法に
存在する国家は,一党独裁や独裁政体体制の国家もあるにせよ,その軍隊,警
察などの組織による暴力は合法であり,合法な主権国家である。いつでも如何
なる状況でも,このような国家を組織犯罪集団と称することはできず,その行
為も組織犯罪とされず,この国家が犯罪国家とされないと考えられる。
上述した1993年国連犯罪防止および刑事司法委員会の第2回会議文書は,
「組織犯罪の特徴の一つとして,一党独裁あるいは独裁体制の国家に常に発生
する」と結論づけるが,この結論は正当でない。これは,合法な組織的暴力と
非合法な組織的暴力の本質を混同し,組織犯罪集団と組織犯罪の性質を誤解し
ている。すなわち,この結論は,一党独裁あるいは独裁体制の国家と組織犯罪
集団との共通点のみを認識しているが,特に,最も自由で最も民主的な共和国
と自称する国家を含むすべての国家と組織犯罪集団との共通点を無視してい
る。この共通点は,両者とも組織的暴力である。
組織的暴力とは,組織の形式を持つ暴力である。これは組織と暴力との結合
であり,組織と暴力との統一体である。国家によって多種多様の組織的暴力,
多種多様な国体や政体,多種多様の君主制と共和制が見られ,組織的暴力によ
り巨大・精密な国家機関が結成されることにより,組織的暴力は,国家統治の
道具となる。国家は組織と暴力との完壁な結合である。組織の力がなければ,
国家は一日でも存続しえない。そして,あらゆる国家は,最も民主的な国家,
最も自由な共和国であっても,国家や統治階級の根本的利益に関わる事件があ
れば,特に国家存亡の時期には,最も野蛮で残酷な暴力で自己の統治を必死に
維持しなければならない。これに対して,組織犯罪集団は,多種多様の組織的
暴力を持つ分散・零細・粗末な犯罪集団であり,その規模・程度・範囲・水
準・力などの面では国家機関に遠く及ばない。この二種類の組織的暴力には大
きな差異があるが,組織と暴力との結合体という点では,両者とも社会を超越
する権力,すなわち合法な社会における国家権力と組織犯罪集団の社会におけ
る不法な権力を形成した。一般的に,暴力と組織との結合が完壁であればある
ほど,それにより形成された権力も強力となり,暴力を直接に使用する可能性
も少なくなる。この点は,国家も組織犯罪集団も同じである。したがって,国
家が必要な場合に暴力を使用するように,比較的強力な組織犯罪集団も同じく
必要な場合に暴力を使用する。この暴力は計画的に行使されるが,通常の場合
は使用する必要がないし,時・場所を間わずに使用する必要もない。強力な組
組織犯罪集団の概念および特徴(2)(何・野村・張) 327
織犯罪集団も強力な国家も,暴力を頻繁に使用しない場合があるが,常に組織
的暴力という強力な威嚇力を保持している。
組織犯罪集団が,時・場所を問わずに暴力を使用しないため,組織犯罪の表
面のみを認識して,組織的暴力という本質と特徴を認識しない者もいる。した
がって,組織犯罪集団を定義する際に,組織的暴力という特徴に特に注意しな
ければならない。
組織犯罪集団の本質が組織的暴力であるとの点については,主に3つの重要
性がある。①合法社会に抵抗して,合法社会の内部に異質の勢力である組織犯
罪集団勢力を形成すること,②組織犯罪集団を超越する不法な権力を形成し,
この権力の行使を確保すること,③組織犯罪集団の勢力範囲を維持・拡大し
て,その無形な境界を形成することである。こらら3つの重要性の中核は,
「不法な権力」の形成および確立にある。
権力の概念は多様されるが,統一的に定義されていない概念である。権力と
は他人を目的的に支配する力であると考えられる。ここでは,社会学の意味で
「権力」という概念がよく使用される。「社会学者は,権力という用語を個人と
団体を支配し,または他人の行為に影響を与える能力と解するが,他人が同意
するかを間わない」(,5)。「社会学者は,権力の使用環境に基づいて権力を二種
類に分ける。社会が普遍的に受け入れる形式で使用する権力は,合法的権力と
呼ばれ,社会の認可を受けていない権力は,不法な権力と言われる」(36)。組織
犯罪集団の権力は,不法な権力であり,組織犯罪集団とその首領が他人の行為
を支配し,またはそれに影響を与える能力である。組織犯罪集団の不法な権力
は,その強力な組織的暴力を後盾とするものであり,これに服従しなければ組
織的暴力の報復や懲罰を受ける恐れがある。ある学者が指摘したように,権力
は「影響力の特殊な形態であり,これに服従しない者に重大な損失を与えう
る」(3,)。「懲罰による威嚇は,権力と一般の影響力との相違点であり,権力こ
そが懲罰の威嚇を持つ特殊形態の影響力であって,すなわち,所定の政策を遵
守しない者には厳重な剥奪を与えるとの威嚇を利用して他人に影響を及ぼす過
程である」(38)。不法な権力の形成と存在は,人々を組織犯罪集団とその構成員
(35) ダーフィト・前掲注(30)241頁。
(36) ダーフィト・前掲注(30)483頁。
(37)B・ダール・当代政治分析(フランス語1973年版)53頁。
(38) ロウスウェイル・カイフラン・権力と社会(ニューヨーク1950年英語版)74
頁。
328 比較法学37巻2号
の意思に人々を服従させうる。上述した国際組織犯罪に関する世界閣僚会議の
背景資料E/CONF。88/5が指摘したように,「組織犯罪集団の存在自体が威嚇の
一種である。犯罪活動を行うための組織犯罪集団が結成された後,その犯罪組
織を可能な限り発展させ,生来的な権力を行使し,組織犯罪集団のシステムを
形成する」。「生来的な権力」とは何か。全ての組織犯罪集団の本質は組織的暴
力であるので,一種の権力を形成させることが必要である。実際に,組織犯罪
集団の不法な権力が国家主権の社会に対する実際の規制に対立することによ
り,その存在自体が国家権力に対する重大な挑戦となる。国際組織犯罪集団の
場合,その存在自身体が国家権力だけでなく国家の主権に対する重大な挑戦で
あり,他国の領土に侵入して不法な権力を形成し,同国の領土に対する実際の
規制に抵抗するからである。
組織的暴力は,組織の形式を有する暴力であり,暴力と組織を一体化させる
ものである。この暴力は組織の存在を前提・基礎とする。暴力と金銭が世界を
支配する2つの力量であるとよく言われるが,実際には,組織という第三の力
量も存在する。組織も世界を支配する力量である。古代ローマでは,武器を持
つ強力な数人の格闘家は,横暴な主人の観賞用の奴隷にすぎなかった。しかし
ながら,組織された剣奴は,奴隷制度の基盤を揺がす偉大なスパルタクスの乱
を起こした。一つの組織があれば世界を制圧しうる,と組織的力量を誇張して
述べることがある。ホッブズの比喩する巨大なリヴァイアサン(Leviathan)
という国家が市民を統治する力量になった理由は,まず巨大で精密な組織を持
つからである。
組織犯罪集団も,まず組織的力量の一種であり,集合体の力量である。組織
は組織犯罪集団の本質的属性および特徴であり,これにより,組織犯罪集団と
一般共同犯罪・一般犯罪集団とが区別される。組織犯罪集団の概念は,この特
徴を軽視すると不十分となる。組織犯罪集団の実力は,その組織の規模や厳密
性の程度によって決定される。組織の参加者が多いほど組織化の程度も高く,
その力量も強くなる。したがって,いかなる組織犯罪集団も,自己拡張の本能
を持ち,その規模を発展させる欲望がある。
中国には「黒社会性組織」が存在するが,これは黒社会組織の初期発展段階
にあり,その規模は小さく,結成の段階で3人∼5人しかいない。現在,中国
大陸で検挙された最大の黒社会性組織でさえ,100人あまりである。これに対
して,黒社会組織は,規模が大きく,人数が多い。台湾の三大黒社会組織のう
ち,竹連箒は約600人,四海蓄は約500人,天道盟は約400人と推測されている。
組織犯罪集団の概念および特徴(2)(何・野村・張) 329
勿論,小規模のものも存在する。例えば,台湾膨湖県を支配する車頭常は31人
にすぎず,新竹県には飛沙幕・三光蓄・十三神鷹などの常派の勢力範囲がある
が,構成員は134人しかいない。日本の三大暴力団,すなわち山口組・稲川
会・住吉会は,全盛期にはその構成員総数が10万人に達していた。比較的小規
模の幣派は,例えば,親和会・三代目山野会は各70人あまり,三代目浅野組・
三代目大州会は各120人あまりである。
組織化の程度については,各黒社会組織の厳密性の程度が異なるので,内部
の組織構造形式も多種多様である。組織犯罪集団には多種多様な形態があるの
で,一部の地域の組織犯罪集団は,厳密な階級構造を基礎に設立され,厳密な
組織規律構造を有するが,別の地域では,その組織構造が緩やかで,柔軟性お
よび高度の応変性を持つ。しかし,いかなる組織犯罪集団も,その所在環境や
情勢に応じて変動しつつあるので,これらを一種の統一的模式に帰結させるこ
とは妥当でない。したがって,複雑で変動的な組織犯罪集団の組織構造は,単
一の組織構造と認められず(例えば,ピラミッド階級構造),統一的な組織構
造や組織形式も定められていない(例えば,マカオ法律の規定によれば謀議で
あれば足りる)。組織犯罪集団の組織的構造・規模・形式は,その国や地区の
特徴に応じて変化することに注意しなければならない。20年前から,香港の三
合会は,香港政府の取締を回避するために,組織化の程度がますます緩やかに
なり,組織構造・入会儀式・入会手続が簡略化され,組織規模も小型の方向に
推移しつつある。これに対して,日本では,暴力団対策法を施行した結果,比
較的弱い組織が解体した後に強力な集団に吸収されて犯罪組織の大連盟にな
り,日本の三大暴力団の規模が拡充された。
しかし,組織だけでは何もできない。組織犯罪集団は自己の存続を図るため
に,組織と暴力とを結合すればこそ,国家という組織的暴力に抵抗することが
できる。組織と暴力は,組織犯罪集団の最も基本的な二要素である。すなわ
ち,最も小規模の組織犯罪集団でも暴力を持たなければならない。組織犯罪集
団は単なる組織ではなく,単純な暴力でもないし,その両者の統一体である。
暴力と組織とが一体化され,組織犯罪集団の不可分の一部になる。組織犯罪集
団は,暴力を基礎に設立される。その内部では,暴力により規律が執行され,
組織の団結と統一が維持される。対外的には,暴力により組織の威嚇力を強化
し,組織の生存と発展を保護するとともに,暴力を自己の目的を実現する手段
とする。いかなる組織犯罪集団も,組織と暴力との統一体である。
組織的暴力と非組織的暴力とは,区別されなければならない。孤立する犯罪
330 比較法学37巻2号
者の暴力は,組織的暴力ではなく,共同犯罪や一般犯罪集団が暴力を使用した
としても,これは組織的暴力ではない。組織的暴力は,組織犯罪集団の全体の
暴力であり,これは組織に従属し,組織による統一的な支配・指揮の下で使用
される人的・物的・財政的な支援を,このような組織的暴力は特徴とする。そ
の存在自体が強力な威嚇力であり,組織犯罪集団の力量の表現である。暴力の
組織形態は多種多様であるが,大規模または巨大な組織犯罪集団は,一般的に
専門の暴力機構や暴力部隊を所有し,さらには国家が暴力機構や武装勢力を持
つように,専門的武装勢力あるいは軍隊を所有する場合もある。小規模の組織
犯罪集団は,組織と暴力とを一体化した専門的な暴力組織を有しないのが一般
的である。その暴力は,人力と武器装備からなる。組織犯罪集団は,人員を拡
充するとともに,武器装備も充実させる。レベルの低い小規模の組織犯罪集団
は,一般には簡単で原始的な武器装備を有するが,大規模の組織犯罪集団は,
先端の武器装備を有する。台湾の「法務部長」である屡正豪は,「現在,台湾
地方で黒社会の持つ武装力は3師団の軍力に相当する,と推測する者もいる」
と述べた(3g)。タイの坤沙集団,コロンビアのマエィ麻薬密売集団は,正規の武
器装備を持ち,国家の武装に公然と対抗しうる。暴力は,組織犯罪集団勢力の
基本的なものである。
組織的暴力は,一定の目的のために役割を果たす。組織犯罪集団は,あくま
でも社会の不平等の産物である。組織犯罪集団の構成員は,主に下層社会の出
身者であり,その経済的・政治的・社会的地位が低い。社会学者によれば,人
生の三大欲求は財産・権力・声望といわれるが,その構成員には必要な財産や
収入がなく,権力や声望もないため,強烈な欲求・希望を持ちその失望の現状
を変えようとするが,自己の労働と合法的な手段でその目的を実現しようとは
しない。したがって,彼らは組織犯罪集団,組織的暴力を自己の目的実現の道
具として選び,まず金銭と財産を追求する。拝金主義の商品経済社会におい
て,金と財産は人生の最大の欲求であり,他の欲求の基礎だからである。彼ら
が組織犯罪集団を設立しこれに参加する目的は,合法的社会を覆すことなく,
一連の犯罪活動を通じて金銭や不法な経済的利益を取得し,その一部を自分の
ために浪費し,残りを組織犯罪集団の維持・発展に使用させ,さらに組織犯罪
集団の発展に伴って大きな経済利益を獲得することができ,自己の強烈な金銭
欲求や社会的地位を向上させようとする。金銭や不法な利益を得るために,彼
(39) 台湾「自立晩報」第1版1997年4月2日。
組織犯罪集団の概念および特徴(2)(何・野村・張) 331
らは最も野蛮で悪賢い手段を使用することや,最も重大で卑劣な犯行に及ぶこ
とも躊躇せず,一種または多種の犯罪活動を行う。組織犯罪集団の犯罪活動
は,「不法な商品や不法な労務」に限定する犯罪学者もいるが,これは妥当で
はない。利益を獲得すればこそ,彼らはいかなる犯罪も行うことができ,空前
の新しい犯行を行う場合もある。これらの犯罪は,組織犯罪集団により行われ
るほか,あらゆる者が行いうるので,犯罪活動の範囲や種類から組織犯罪集団
の本質を分析しても無駄である。組織犯罪集団の犯罪も,最大の利潤を追求
し,利益が大きくなるほど欲求に対する刺激力も大きくなるので,麻薬密売な
どの巨額な利益を得る犯罪が第一の目標となる。巨額な利益を獲得するため
に,組織犯罪集団は,その発展段階であらゆる手段を行使して不法収益を獲得
し,犯罪者の私欲と犯罪組織の経済実力を満足させる。麻薬・賭博・風俗犯・
密輸・恐喝・詐欺・窃盗・強盗・略取など利得犯罪活動を行うほか,その重要
な手段の一つとして合法的な経済に介入する。犯罪活動から得た巨額な資金を
合法的な企業に投資し,そこから得た利益をさらにより大規模な麻薬密輸など
の犯罪活動に投入する。「組織犯罪集団に内在する傾向として,必要に応じて,
暴力を手段としてその勢力を拡大させ,独占の局面を形成する」(、。)。「彼らは
暴力を手段として商業取引の相手方を威嚇し,国際犯罪組織を禁圧しようとす
る政府機関および司法要員も,これを黙認している」(41)。したがって,組織犯
罪集団が合法的な経済に介入することにより,この経済活動には合法と不法と
の両面があるが,その活動の本質が犯罪的経済活動であるという点は,組織犯
罪集団の本性によって決定される。したがって,犯罪により取得した資金その
他の経済的利益も,組織犯罪集団の本質的属性と特徴の一つとなる。提唱され
た組織犯罪集団定義の多くは,この特徴も指摘している。
金銭の獲得は,組織犯罪集団を設立する主たる目的だけでなく,その組織の
存在・発展の経済的基盤となる。国際組織犯罪に関する世界閣僚会議の背景文
書E/CONF.88/5「地域および国際の国際組織犯罪予防と規制の適当な方式お
よび基準」は,「人員も資産も組織犯罪集団の組織構造の主たる部分である」
と指摘している。「暴力団は,ヒト・カネ・モノを主たる構成要素とする組織
である」と日本の学者も述べている(・2)。この見解は,ある程度妥当であろう。
(40) 国連経済および社会理事会犯罪予防と刑事司法委員会第二次会議文書
E/CNl5/1993/3「事務総長報告書:組織犯罪活動の全社会に対する影響」。
(41) 国際組織犯罪に関する世界閣僚会議背景文書E/CONF,88/2「世界各地国際
犯罪の問題および危険性」。
332 比較法学37巻2号
カネとは財産,金銭のことであり,モノとは武器装備のことである。カネは人
と物の経済的基盤である。いかなる組織犯罪集団も,組織的暴力を設立し発展
させるために,資金で構成員を養い,武器装備を購入しなければならない。強
力な組織犯罪集団は,もとより豊富な経済的実力で維持されなければならな
い。最小の組織犯罪集団でも,経済力の支持がなければ存在しえない。資金と
経済的利益は,組織犯罪集団にとって生死に関わる利益であり,組織犯罪集団
の構成員の結集,継続の確保,組織の拡大,勢力の拡張のために不可欠であ
る。したがって,一定の経済的実力も組織犯罪集団の特徴の一つである。
組織犯罪集団は,金銭だけでなく,権力も追求する。権力は,人生の三大欲
求の一つであり,権力を持てば巨額な利益を獲得できるからである。また,財
産によってさらに大きな権力を取得しうる。組織犯罪集団の一連の活動の中
で,財産と権力とは複雑で微妙な関係にある。イタリァ大統領スカルファロ
(Oscar.LuogL Scalfaro)は,国際組織犯罪に関する世界閣僚会議の開幕式で,
「経済力および権力に対する欲望は,国際組織犯罪の特徴であり,これが社会
に危険性を与える」と指摘している(、3)。組織犯罪集団の設立自体が一種の権力
であり,不法な権力である。組織犯罪集団の勢力範囲の確立および拡大は組織
犯罪集団の首領の権力に対する欲望をある程度満足させる。組織犯罪集団の首
領の多くは,強烈な権力欲を持っている。芦屯段氏集団の段洪宝は,「法とは
何か,実力があれば足りる。芦屯で私こそが父であり,私こそが法律である」
と言った。これは権力欲および心理の表現である。組織犯罪集団の首領は,黒
社会の勢力範囲で権力を持つだけでなく,その組織内部の構成員に対しても権
力を持つ。「ナポリ政治宣言および国際組織犯罪規制に関する全世界行動計画」
は,国際組織犯罪集団の特徴の一つとして,「犯罪集団の首領自身が権力であ
る。勿論,組織犯罪集団の構成員は,反社会勢力範囲内で当地の住民に対して
も一定の権力を持っている。したがって,権力の追求も,組織犯罪集団の特徴
である」と指摘している。
しかし,組織犯罪集団の勢力範囲内における権力は,そもそも不法な権力で
あるが,合法的な権力も追求の目標とされている。この合法的な権力は,組織
犯罪集団の存在および発展を庇護することができ,合法的な経済への介入を通
じて組織犯罪集団のために更に巨額な経済的利益を提供しうるし,また,合法
(42) 大谷実・刑事政策学(中国語版)(法律出版社,2000年)364頁。
(43) 1994年ナポリ国境を越える組織犯罪問題閣僚会議文書E/CONF.88/L.3「国
境を越える組織犯罪閣僚会議を採択する報告書」。
組織犯罪集団の概念および特徴(2)(何・野村・張) 333
な社会における政治的地位を高めることができるからである。したがって,組
織犯罪集団の勢力が強くなると,合法的な政治に進入し,政治的権力を直接ま
たは間接的に取得することになる。今日の台湾では,黒社会組織は,政治分野
に積極的に進入し,台湾では地方の村長・村民代表から「中央」・「立法委
員」・「国大代表」に至るまで黒社会構成員の姿が見られている。台湾の「法務
部長」の摩正豪は,1996年ll月16日に「立法院」で,台湾では黒社会と関係が
ある省・市の「人民代表」がその総数の4分の1を占め,中央の「人民代表」
ではその総数の10%∼20数%を占める。中でも,「立法委員」・「国大代表」
500名の中央「人民代表」のうち25∼50人が黒社会と関係し,県・市の「人民
代表」850数名のうち286人に黒社会との何らかの関係がある。イタリアでは,
合法的な政治に進入することが,100年来マフィアの策略として一貫されてい
る。本質から見れば,マフィアの歴史は,マフィアの首領と政治家とが相互に
結託した歴史であるといわれている。世界諸国において,強大な組織犯罪集団
の政治分野への介入が一般化している。
組織犯罪集団が合法的政治に介入する策略は,常に金銭と暴力を使用する。
金銭は買収や賄賂のために使用されるが,暴力は威嚇や殺害のために使用され
る。金銭は,政府公務員を買収し,公務員に組織犯罪集団の庇護を提供させ,
暴力は,威嚇や暗殺に使用されて公務員に恐怖感を与え,屈服させる。アメリ
カのアラバニス教授は,組織犯罪集団の定義に際して,組織犯罪集団は「暴
力・脅迫の使用,市場の独占,公務員の買収を通じて自己の存続を維持する」
と指摘している。国際組織犯罪に関する世界閣僚会議の背景文書E/CONE88/2
「世界各地国際組織犯罪の間題および危険性」も,組織犯罪集団は「暴力や賄
賂をもって法執行者を含む公務員を取り込み,政治機関に進出する」と強調し
ている。暴力と賄賂は,組織犯罪集団の合法的政治に介入する二種類の手段で
ある。
強大な組織犯罪集団であればこそ金銭と暴力を使用して合法的政治分野に介
入するという特徴に対する認識は,いまだ不十分であるが,事実上,あらゆる
組織犯罪集団が,その大小を間わず,必要性と可能性があればこの二種類の策
略を交互に使用する。前述した中国の警察首脳機関により提出された7件の典
型的事件のうち,4件の黒社会性組織が金銭・賄賂などの手段で公務員を買収
していたほか,貴陽市の黒社会性組織は,公安機関に公然と抵抗し,威嚇して
いた。湖南省郡陽市の「中国鴇雄会」という犯罪集団は,警察官1名を殺害し
た後,「鴇雄会」の名義で「警察官1名を処刑した」との布告を公然と市街に
334 比較法学37巻2号
掲示していた。
政治権力の取得は,莫大な財産を取得する前提であるが,経済的地位の向上
と経済的実力の強化は,政治権力の拡大に有利な条件を提供する。しかし,政
治権力の取得も経済的実力の増加も,組織的暴力により実現され,権力と財産
を取得するために,組織犯罪集団は暴力を躊躇なく使用して自己の敵や競争相
手を消滅させ,さらに味方同士攻撃し合うこともある。
組織犯罪集団が合法な権力および合法的な経済に介入することは,その勢力
範囲が合法的社会内部の深部に浸透していることを意味する。その結果,「組
織犯罪集団の社会と合法な社会との境界が混同されるようになった」(、4)。
合法か不法かを問わず,全ての権力には,その適用範囲がある。国家権力の
適用範囲は,その国の領土であるが,組織犯罪集団権力の適用範囲は,組織犯
罪集団の勢力範囲(地域)である。いかなる組織犯罪集団も,自己の勢力範囲
を最大限拡大する。したがって,スードルで開かれた組織犯罪問題国際討論会
は,「組織犯罪集団の多くは,広い地域を支配している」と指摘している。「ナ
ポリ政治宣言および国際組織犯罪規制に関する全世界行動計画」,「国連国際組
織犯罪条約草案」1条,および1998年2月にポーランドのワルシャワで開かれ
た政府間専門家委員会の国際組織犯罪条約改正案のいずれも,暴力・恐喝・贈
賄などの手段で「地域・国内外領土や市場」を支配することが組織犯罪集団の
特徴の一つであると指摘している・
組織犯罪集団が権力を追求する主たる目的は,その安定的・排他的な活動範
囲と勢力範囲を確立するためである。この勢力範囲は,行政区画や自然地域に
限るだけでなく,交通運輸線の一部地域,都市の一部地域,特定の業界に限ら
れる場合もある。この範囲内で,組織犯罪集団同士が同種の活動を相互に排斥
し合い,組織犯罪集団間の闘争・吸収合併・連携・協議などの方式により統合
される場合もある。勢力範囲は,組織犯罪集団の権力の大小を示す表徴の一つ
であり,勢力範囲(地盤)から得た権力と権力の保護を通じて最大の経済的・
政治的利益を獲得することができ,検挙・逮捕・処罰を最大限回避することも
できる。組織犯罪集団の勢力範囲内で,組織犯罪集団は,その不法な権力を恣
意的に行使し,用心棒代の強要,高利の貸付,工事請負の強要,そしてその勢
力を借りて強姦,殺人,傷害などを行う。組織犯罪集団の首領による部下の支
配でも,同じく不法な権力が使用される。勢力範囲は,組織犯罪集団の存在と
(44)Mike Maguire等編著・オックス犯罪学手冊(牛津大学出版社,1997年英語
版)824頁。
組織犯罪集団の概念および特徴(2)(何・野村・張) 335
発展の基本および生命線であり,一定の勢力範囲がなければ組織犯罪集団は存
続しえない。したがって,組織犯罪集団の間には,しばしば勢力範囲をめぐる
必死の争奪戦が行われる。
以上のように,すべての組織犯罪集団には,次のような特徴がある。①一定
の組織構造を有すること,②組織的暴力を使用すること,③合法的経済や政治
に介入して金銭・物質的利益,権力を獲得すること,④一定の経済的実力を持
つこと,⑤排他的勢力範囲を確立すること,である。これら5つの特徴のう
ち,組織的暴力は,根本的な特徴であり,組織犯罪集団の本質である。この本
質を理解しなければ,組織犯罪集団を正確に理解しえず,組織犯罪集団と他の
犯罪とを区別することもできない。
以上の研究と分析は,組織犯罪集団について科学的定義を下すための基本的
要素である。筆者は,「パレルモ条約」によって各締約国が受け入れる組織犯
罪集団の定義が下されたことを考慮しつつ,世界の組織犯罪集団の概念を統一
化するために,同条約の定義に必要な補充を加えたうえで,次の概念を提唱す
る。すなわち,組織犯罪集団とは,3人以上の多数人によって結成され,一定
期間にわたって存在し,一個または数個の犯罪を行って,または合法的経済や
政治分野に介入して金銭,物質的利益または権力を獲得するために一体的に行
動し,一定の経済的実力および勢力範囲を持ち,組織的構造を有する暴力的集
団をいう。
この定義は,金銭・物質的利益・権力の獲得があらゆる組織犯罪集団の目的
であり,その手段として,一個または数個の犯罪を行うこと,または合法的経
済や政治分野に介入することを指摘している。そのうち,一個または数個の犯
行の実行は,あらゆる組織犯罪集団が自己の目的の実現に使用する最も基本的
な手段である。合法的経済または政治分野への介入は,しばしば使用される手
段であり,必ずしも使用される不可欠な手段ではないが,強大な組織犯罪集団
は,常にこの手段を使用する。戦後,特に昨今の組織犯罪集団の発展傾向から
見れば,この手段を組織犯罪集団が頻繁に使用するために,組織犯罪集団勢力
の危険性と脅威が高まっている。「政治分野への介入」とは,暴力や金銭で政
治に直接または間接的な影響を与えることをいう。「権力の獲得」は,不法な
権力と合法的な権力の双方の獲得を含む。「暴力的集団」とは,その集団の本
質が組織的暴力であることを意味する。この定義における他の内容は,上述の
「パレルモ条約」の概念で説明した通りであり,ここで再論しない。
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