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2)リタ-バッグ等の実験条件下における海藻の分解過程の検証 現地

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2)リタ-バッグ等の実験条件下における海藻の分解過程の検証 現地
2)リタ-バッグ等の実験条件下における海藻の分解過程の検証
現地実験は,広島湾の屋代島北岸の厨子ヶ鼻(山口県周防大島郡)地先で行っ
た(図3)。目合い1mmのプランクトンネットでメッシュバッグ(20×17cm)を
作成し、1)空のメッシュバッグ(コントロール1)、2)人工基質(ポリプロ
ピレン製ロープ4m;約16g)を入れたもの(コントロール2)、3)-20℃で冷凍
し、解凍したガラモ(ノコギリモクの葉や気胞を有する主枝先端部)を28-32g入
れたもの、4)ガラモと同様の処理をした同量のアマモ(地上部)を入れたもの、
の4つの実験区を設定した。それぞれのメッシュバッグを網目6mmの玉ねぎ袋に
入れ、4kgのアンカーに結びつけて、2010年8月20日に、厨子ヶ鼻のガラモ場内(St.1,
水深1m)、アマモ場に近接した砂泥海底上(St.2, 水深1m)、そのおよそ50m沖
合の砂泥海底上(St.3, 水深12m)に設置した。1週間後(8月27日),2週間後(9
月3日)、3週間後(9月10日)、4週間後(9月17日)に、St.1~St.3から、4つの実
験区のメッシュバッグをそれぞれ4袋ずつ回収し、バッグ内の残存物を5%ホルマ
リン海水で保存した。
固定した残存物内の動物群については、全長30μm以上のものを可能な限り同定
して計数した。また、残存したガラモ・アマモについても出来得る限り回収し、
乾燥重量を求めた。なお,2011年2月28日時点で、分析は2週間後(9月3日)回収
のサンプルしか終了していない。したがって、以下に述べる結果・考察について
は、同サンプルの分析結果を受けた暫定的なものである。
図3.リターバッグの野外での設置場所
・アマモ由来分解物の同定用DNAバイオマーカー検出のためのPCRプライマーの
設計
環境中のDNAは細菌等が作るDNA分解酵素(制限酵素)により徐々に断片化され
てゆくことが知られている。そこで、分解物過程の生物のDNAを抽出し、それに
よる同定方法を開発する際には 300bpより短い遺伝子断片で検討する必要がある。
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そこで、本課題ではアマモ由来の分解物を検出するために国際的なDNAデータベ
ースでアマモの遺伝子情報を検索した。
図4.アマモ由来分解物を検出するためのPCRシステムの設計
その結果、図4に示す細胞核およびクロロプラストDNAによってアマモとその近
縁種との比較検討がされていたので、この二つの遺伝子領域を用いて、種特異的
な領域を検索した。最終的には、核DNA中の28SリボゾーマルRNAと18Sリボゾー
マルRNA の間にあるinternally transcribed spacer(以下ITSと略する)の前半部分
ITS-1(214bp)と後半部分のITS-2(263bp)領域で瀬戸内海に生息する唯一のア
マモの近縁種コアマモと識別ができるPCRプライマーを設計した。
また、クロロプラストDNAではアマモ種特異的PCRプライマーは設計できなか
ったが、この領域がアマモでは2455bpと長く、この中で300bp前後で塩基配列を解
析すると5~10個程度のアマモ特異的塩基置換を含む領域を含む6つセットの
PCRプライマーを設計した。設計したPCRプライマーについてはアマモ、コアマ
モから抽出したDNAを用いて設計通りの産物が得られるかどうかを検討した。ま
た、PCR条件、使用するDNAポリメレースの種類等を検討した。
・海底底泥試料からのDNAの抽出方法の検討
先の項で設計したPCRプライマーの効果やPCRの諸条件を設定したのち、実際の
野外試料から抽出したDNAを用いてアマモ由来分解物質の特定を行った。底泥コ
ア試料の採取は(1)-③と共同で図5の地点で行った。なお、中津干潟のコア試料は
昨年度採取したものを用い、その一部をDNA抽出用に使用した。なお、底泥試料
の取り扱いについては、PCRによるDNA分析技術は微量のコンタミネーションが
起こっても結果に影響がでるので、コア試料の採取等についても注意を払った。
この作業の具体的な方法は図6に示す。
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図5.DNAによるアマモ分解物分析技術の検証のための野外試料採集地点
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図6.野外でのコア試料の採取、試料の処理及びDNA抽出方法
まず、アマモ場内およびその周辺海域で直径5cmの塩ビパイプを用いて底泥の
コア試料を採取した。採集したコアは現場で表層から10cm毎に切り分け、その場
で凍結した。サンプルは実験室に持ち帰り、分析まで凍結した状態で保存した。
コア試料はコアサンプラーと接する部分は、アマモそのものや新鮮な分解物が多
い表層の巻き込みがある可能性が否定できないので、表層のコンタミネーション
を避けるために、DNA抽出用試料図6に示す解凍したコア試料の内部から採取し
た。なお、図6中に示す各サンプル採取時に使用したアルミやナイフは試料毎に
交換した。採取した試料は凍結乾燥を行い、0.05~0.15gを採取し、TissueLyser
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(Qiagen社)で粉砕し、DNeasy Plant Kit (Qiagen)を用いてDNAを抽出した。抽出
したDNAを用いて前項で検討した条件によりPCRを行い、本法が野外で採取した
底泥試料に適用できるかどうかを検討した。
・DNAバイオマーカーによる定量分析の試み
PCRは本来は定性的な分析方法であるが、本事業では炭素固定量を定量的に求
める必要があるので、底泥中のアマモ由来の難分解性物量を定量する必要がある。
様々な検証によりITS領域に設計したPCRプライマー(amaITS-M2)セットは種特
異性が高く、増幅断片が202bpと短く、かつ、反応性も良かったので、これを使用
して定量的PCRの適用を試みた。定量的PCRにはインターカレーター法(以下、
IC法とする)とTaqManプロ-ブ法(またはDual-labeled probe法:以下DLP法とす
る)があるが、今回はPCRプライマー(amaITS-M2)とサイバーグリーンを用い
たインタ-カレーター法を使用した。定量用の検量線はアマモDNAを用いてCycle
threshold法(以下、Ct法と略する)によって作成した。野外試料の定量分析は前
項で抽出したDNAを用いてIC法によって分析し、この検量線を用いてCt法により
算出した。
3.結果の概要
1)海草・海藻の分解物の堆積場所としての瀬戸内海深所(100m程度)他のコ
ア試料の採取のための予備調査
・海図上の深所でのコア試料採取
今回調査した山口県周防大島周辺海域の水深100m前後の深所の大部分は岩盤
やレキ場であり、KK採泥器ではコア試料を採取できなかった。一方、スミスマッ
キンタイヤー採泥器を使用すると海底堆積物を採集することができたが、小石等
が採取され難分解性物質の長期貯留場所にはならないのではないか、と考えられ
た。むしろ、島影にある数十メートル程度の水深の場所では軟泥が採取されるの
で、次年度以降は、(1)-①のモデルの計算結果等を参考にして採集場所を決めるべ
きであると考えられる。
・モデル計算結果検証のための野外試料の採取
大三島周辺海域でモデル検証のためのコアを採取したが、図2に示した今年実施
したコアの採取方法は労力を要するものであり、採集には時間がかかった。しか
し、今年度新たに開発したDNAバイオマーカーによる方法による堆積物中のアマ
モ由来の難分解性物質の特定ができる可能性がでてきたので、(1)-①のモデル計算
の検証のために、試料採取方法については効率の良い方法を検討する必要がある。
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水温 (℃)
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St. 1
St. 2
St. 3
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20
8/20
9/3
図7.実験期間中の水温
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9/17
2)リタ-バッグ等の実験条件下における海藻の分解過程の検証
実験期間中の水温は,St.1, St.2では24~28℃,St.3では22~26℃の間を変動した。
8月から9月初旬までは水深の浅いSt.1, St.2で,St.3より高い水温を示したが,9
月初旬以降は上下混合が進み,3地点の水温ともほぼ同じになった(図7)。
分解はガラモの方がアマモより早く進行し,アマモの草体は実験を終了した4週間
後もほぼ原形をとどめていたのに対し,ガラモは2週間後以降,藻体の崩壊が進み,
メッシュバッグからの脱落が観察された。4週間後には,St.1及び St.2のメッシュ
バッグ内のガラモはほぼ無くなっていた(図8)。設置後2週間が経過したメッシ
ュバッグ内には,総計で8門にわたる111種の動物が確認された。空のバッグであ
るコントロール1区では,St.1~St.3で20~23種,141~201個体/バッグが出現した。
人工基質を入れたコントロール2区では33~42種,572~651個体/バッグ,アマモ
区では41~47種,817~1295個体/バッグが、ガラモ区では29~36種,960~2022
個体/バッグが出現した。総じて出現種数はアマモ実験区で多い一方,個体数はガ
ラモ実験区で多く,空のバッグを用いたコントロール1区で種数,個体数とも少
なかった。ガラモ実験区の個体数を除いては,同一実験区内における地点間の差
異はほとんど無かったが,ガラモだけはSt.2,St.3で個体数がSt.1より有意に多か
った。
図8.リターバッグ内のアマモおよびガラモの状況
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図9.リターバッグ内に出現した各分類の個体数
(図中のガラモと表記しているのはノコギリモクを指す)
St.3における4実験区のバッグ内で計数された平均個体数を図9に示す。総個体数,
また環形動物,甲殻類個体数ともガラモ実験区で最も多く,アマモ実験区の2倍も
しくはそれ以上であった。個体数の多かった主な種について,各実験区での出現
個体数を図9に示す。環形動物のイトゴカイ,甲殻類のコノハエビ属の1種,フト
ヒゲソコエビ科の1種等で,ガラモ実験区で最も多く出現し,コントロール1,2
区で全く出現しなかった他,カイアシ類(ハルパクチクス目)もガラモ実験区で
突出して多く出現した。一方,アゴナガヨコエビのようにコントロール2区で,ガ
ラモ実験区と遜色ない個体数で出現した種もあった。
藻場においては,ガラモ・アマモの藻・草体よりも,その上で増殖する珪藻など
の付着藻類が餌料としてより重要であるとされている。しかし,本実験では,分
解途上のガラモ・アマモにイ集する動物の個体数が極めて多かった。また人工基
質のコントロール2区よりも多かったことから,これらの動物群は単なる付着基質
として枯死藻・草体を利用しているのではなく,分解しつつある藻体自体や,そ
こに形成される微生物群集に栄養源を依拠している可能性が考えられる。また,
動物群集形成の効果は,ガラモの方がアマモよりも高いことが示唆されたが,ガ
ラモの方がより分解が早く逸散も早いため,アマモの方がより長期にわたって動
物群集を支持することが出来るとも考えられる。
ガラモ場をはじめとする海藻藻場は,海草藻場と比較して流動が大きいため,
その一次生産のかなりの部分のfateは「系外流出」としてその意義が考慮されてい
ない。しかし,藻場外の生態系の視点からは,藻場から流出する一次生産は,系
外から系内に流入する資源ととらえることが出来,本結果は藻場由来の一次生産
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