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9 県内における伝染性気管支炎ウイルスの浸潤状況調査

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9 県内における伝染性気管支炎ウイルスの浸潤状況調査
9
県内における伝染性気管支炎ウイルスの浸潤状況調査
中央家畜保健衛生所
酒井
近年、全国的に伝染性気管支炎(IB)の発生
芳子・吉野
文彦
表−1 材料および方法(1)
が相次いでおり、九州・山口の各県においても
○抗原検索
IB 単独あるいは他の病原体との混合感染事例が
【材料】
気管スワブおよびクロアカスワブ 計19戸198検体
確認されている1)。本県においては、過去2年
間、発生は確認されなかったものの、平成 23 年
・鳥インフルエンザモニタリング検査用(H23.6月∼9月)
気管スワブおよびクロアカスワブ 18戸72検体
・IBワクチン未接種肉用鶏農場(A農場)(H23.4月∼6月)
気管スワブ 1戸126検体
度に、IB 疑い事例が1件確認されており、今後、
本症の発生増加が懸念される。本病の予防には
【方法】
遺伝子検査:IBV特異的遺伝子を検出するRT-PCR
ウイルス分離:発育鶏卵接種法
(尿膜腔内接種、3日間培養、2∼3代継代)
ワクチンが用いられているが、伝染性気管支炎
ウイルス(IBV)の抗原性は多様であり野外流行
株の抗原性に近似したワクチン株を選択する必
要がある。
(2)抗体検査
そこで今回、県下の IBV 野外株の浸潤状況な
材料は、平成 22 年 11 月∼23 年9月の鳥イン
らびにその血清タイプの把握を目的として県下
フルエンザモニタリング対象農場のうち、IB ワ
の養鶏場における抗原検索ならびに抗体調査を
クチン未接種農場の血清、採卵鶏 15 戸 150 検体、
実施した。
肉用鶏2戸 20 検体、および A 農場における平成
23 年6月の血清 10 検体の計 18 戸 180 検体とし
1
材料および方法
た。なお、県南地域については、全農家 IB ワク
(1) 抗原検索
チンが接種されているため検査対象外とした
平成 23 年6月∼9月の鳥インフルエンザモニ
(表−2、3)。
タリング検査用気管スワブおよびクロアカスワ
ブ 18 戸 72 検体、並びに IB ワクチン未接種の肉
用鶏農場(A 農場)における平成 23 年4月∼6
月の気管スワブ 126 検体、計 19 戸 198 検体を用
いて、IBV 特異的遺伝子を検出する RT-PCR なら
びに発育鶏卵接種によるウイルス分離を実施し
た。ウイルス分離は、尿膜腔内接種後、3日間
培養を2∼3代実施した(表−1)
。
- 35 -
表−2 材料および方法(2)
○抗体検査
【材料】
血清 計18戸180検体
・IBワクチン未接種農場17戸170検体
(採卵鶏15戸150検体、肉用鶏2戸20検体)
※鳥インフルエンザモニタリング対象農場(H22.11月∼H23.9月)
・A農場10検体(H23.6月)
※地域別内訳 県央地域
県北地域
県南地域
五島地域
壱岐地域
対馬地域
2戸20検体
1戸10検体
0戸
6戸60検体
4戸40検体
5戸50検体
表−3 抗体検査材料の概要
地域
中央
県北
五島
壱岐
対馬
農家No.
1(A農場)
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
飼養形態
肉用 ※
肉用 ※
採卵
採卵
肉用 ※
採卵
採卵
採卵
採卵
採卵
採卵
採卵
採卵
採卵
採卵
採卵
採卵
採卵
表ー4 IBV平均中和抗体価(血清型別)
日齢
検体数
56
497
399
231
238
203
70
168
210
469
546
385
574
651
539
399
245
385
10
10
10
10
10
10
10
10
10
10
10
10
10
10
10
10
10
10
農家No.
H120
練馬
L2
C78
1
4
5
9
13
14
16
18
32
256
32
256
256
128
512
512
64
512
32
512
512
256
512
512
64
1024
64
1024
1024
256
1024
1024
16
64
32
128
128
128
256
256
※上記以外の農家についてはすべて<2
※地鶏を含む
抗体検査方法は、鶏腎細胞を用いた血清希釈
法によるウイルス中和試験で、5日間培養後、
日齢別 IBV 平均抗体価については、150 日齢未
判定を実施した。供試ウイルス株には血清型の
満における各株に対する抗体価は L2および練
異なる、H120 株、練馬株、L2株および C78 株を
馬株に対し比較的高い抗体価を示した(図−1)。
用い、各ウイルス株に対する中和抗体価を測定
150∼365 日齢における抗体価は 150 日齢未満と
した。
比較して抗体価は大幅に上昇し、L2株に対して
特に高い抗体価を示した(図−2)
。365 日齢以
2
成績
上では、前述とほぼ同じ抗体価を示し、同様に L
抗原検索では、RT-PCR、ウイルス分離ともに
2株に対して特に高い抗体価を示した(図−3)。
すべて陰性であった。
(抗体価:2n)
抗体検査の結果、県下における野外の IBV 抗
体保有率は 44.4%であり、地域別の保有率は中
10
8
央家保管内 50%、県北家保管内0%、五島家保
6
管内 50%、壱岐家保管内 25%、対馬家保管内 60%
4
であった。また飼養形態別の保有率は、採卵鶏
で 40%、肉用鶏で 67%であった。さらに、各血
0
清型に対する平均中和抗体価は L2株、練馬株、
H120 株、C78 株の順に高く、306.3、162.3、
110.8、
56.6 であった。
16.5
2
H120
32.5
32.5
8.5
練馬
L2
C78
図ー1 IBV平均抗体価(日齢別:<150日齢)
表−4に抗体保有が確認されたものについて、
血清型別の抗体価を示す。いずれも同一材料か
らすべての株に対する抗体が確認され、L2株に
対する抗体価が最も高いことが確認された。ま
た、No.1および 14 については、練馬株に対し
ても L2株と同じ抗体価が確認された。
(抗体価:2n)
10
8
6
4
352.5
91.2
176.5
37.8
2
0
H120
練馬
L2
C78
図ー2 IBV平均抗体価(日齢別:150∼365日齢)
- 36 -
が確認されたことから、同一農場において複数
(抗体価:2n)
株が関与している可能性も否定できなかった。
10
近年、全国的にバリアントタイプに近縁な野
8
外株による IB の発生が報告されているが、今回
6
4
141.4
179.8
333.4
H120
練馬
L2
の調査からは、現在、本県においてバリアント
77.4
タイプである C78 株に近縁な野外株の大きな浸
2
0
潤はないものと推察された。しかしながら、IBV
C78
の抗原性は非常に多様であり、また、流行株の
病原性や鶏群の感受性、飼養環境等により発症
図ー3 IBV平均抗体価(日齢別:365日齢<)
に至る可能性も否定できないことから、野外株
の性状に関して今後さらに精査が必要と思われ
(抗体価:2n)
る。
10
8
6 128.6
188.3
参考文献
359.0
64.6
4
2
0
21.7
H120
32.3
練馬
43.0
L2
採卵鶏
肉用鶏
1)第 67 回九州・山口病性鑑定協議会資料
16.3
C78
図−4 IBV平均中和抗体価(飼養形態別)
さらに飼養形態別での抗体価は、採卵鶏、肉
用鶏ともに L2株に対して最も高い抗体価を示
した(図−4)。
3
まとめおよび考察
今回、抗原検索により IBV は検出されなかっ
たが、抗体検査から IBV 中和抗体の保有が確認
された。県下における野外株由来の抗体保有率
は 44.4%で、飼養形態別では、採卵鶏 40%、肉
用鶏で 67%あった。IBV 中和抗体価は L2株に対
する抗体価が最も高く、次いで練馬株、H120 株、
C78 株の順であった。
また、日齢の上昇に伴い、各血清タイプに対
する抗体価も上昇していることが確認された。
このことから、県下では広く IBV が浸潤して
いるが、いずれの対象農場でも目立った臨床症
状は確認されていないことから、不顕性感染の
可能性が考えられた。
特にコネチカットタイプである L2株に近縁、
あるいは L2株と血清学的交差性が高い野外株
が浸潤している可能性が示唆された。マサチュ
セッツタイプに対しても高い抗体価を示すもの
- 37 -
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