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経験豊富なシニアマネージャー
日心第70回大会(2006) 管理職適性検査 HIPAS の開発(1) ―課題場面対処法質問紙の作成― ○高 木 浩 人 ・ 川 西 千 弘 (愛知学院大学心身科学部)(京都光華女子大学人間関係学部) Key words: 管理職適性検査 課題場面対処法 リーダー行動 【開発の背景】企業の環境がめまぐるしく変化し、競争が激 化するなか、リーダーの役割の重要性が益々高まっている。 とりわけリーダーのとる行動が重要であり、企業もリーダー として適切かつ迅速に行動できる人を発掘するとともに、そ の行動を的確に評価することに力点を置くようになってきた。 そのような目的のために、様々な管理職適性検査が開発さ れてきた。そのなかには質問紙法という形態を採るものも多 くある。質問紙法には実施の手軽さ等利点が多いが、回答者 の自らをよりよく見せようとする意図的歪曲をいかに防御す るかという問題がつきまとう。とくに管理職登用試験は、昇 進・昇格という個人の将来を大きく左右する場面で使用され るものであるため、この問題は深刻である。 この点を改善するため、我々は行動を測定する課題場面対 処法質問紙検査と、スキルを測定する従来型の質問紙検査か らなる管理職適性検査 HIPAS(三洋電機(株)商標登録)を開発 した。HIPAS ではこの両検査の関連についても詳細に検討さ れるが、本発表では課題場面対処法質問紙の開発過程につい て、スキルに関連する部分は割愛して紹介する。なお、スキ ル測定の質問紙については川西(2000)、川西・山内(2001)に詳 しい。課題場面対処法質問紙の開発において我々が参考にし たのが、Motowidlo, Dunnette, & Carter(1990) 、Motowidlo & Tippins(1993)である。 【Motowidlo らの研究の概要】Motowidlo ら(1990)はまず、 回答者にマネジメントの効率に関わる重要な出来事を記述さ せた。その結果 1,200 の記述が得られ、対人関係 42 場面、問 題解決 22 場面が得られた。次に 150 人のマネジャーに、これ ら 64 場面にどう対処するかを記述させ、 それに基づいて各場 面に 5~7 の対処方略の選択肢を作成した。続いて経験豊富な シニアマネジャーに、各々の対処方略の有効性について評価 を求め、Best 行動と Worst 行動を選出させた。 以上の手続きを経て開発されたシミュレーション(以下 S と略す)型検査を、マネジャー(転職者、生え抜き)等を対象に 実施した。実施に際しては、それぞれの課題場面で自分が最 も採りそうな対処方略、最も採りそうにない対処方略を選択 させた。そして、最も採りそうな対処方略が Best 行動であれ ば 1 点、Worst 行動であれば-1 点、どちらでもなければ 0 点、 最も採りそうにない対処方略が Worst 行動であれば 1 点、Best 行動であれば-1 点、どちらでもなければ 0 点を与えた。これ らを加算し、S 型検査の得点とした。 この検査の妥当性について検討するために、各人のパフォ ーマンス(上司の評価)、生え抜きのマネジャーについてはア セスメントセンター評価、等との関連が検討された。その結 果、これら諸評価と S 型検査の得点との間に多くの正の相関 が認めらた。Motowidlo ら(1990)は以上のような結果を受け て、S 方式は妥当性が高いと結論づけた。さらに Motowidlo ら(1993)では、Motowidlo ら(1990)の結果が再確認され、さ らにその適用範囲が拡大されている。 以上のように、課題場面による S 方式は、質問紙によって 実施するという形態でありながら、回答者の管理職適性を的 確に把握することを可能にさせるようである。したがって 我々は、行動を測定する課題場面対処法質問紙の作成過程に おいて、これらの研究を参考にすることとした。 【第1回予備調査】目的は課題場面を作成することであった。 参加者:様々な部署・職階から無作為に抽出選択された経験 豊かな管理職 36 名。 質問紙の構成:これまで業務を遂行する上で、重要な出来事や 問題となった事態を自由記述させ、いくつか質問を実施した。 また、必要な際はインタビューも行った。 結果:得られた課題解決場面に、開発者が様々な資料を参考 にして創作した課題解決場面を付け加え、66 場面を設定した。 【第2回予備調査】目的は選択肢となる対処方略の選択肢を 作成することであった。 参加者:様々な部署・職階から無作為に抽出選択された管理 職 347 名(第 1 回予備調査参加者以外)に質問紙を送付し、177 名から回答を得た。 質問紙の構成:設定された各場面でどのように行動するかをで きるだけ具体的かつ多数記述させ、場面の現実性についても尋 ねた。回答者一人あたり6場面ずつ回答を求めた。 結果:各場面に対しての回答数は 33~89 であった。内容に よって分類し、各場面について、できるだけ類似せず多様な対 処方略になるよう 5~6 の選択肢を抽出した。 【第3回予備調査】目的は、高業績者にテストを実施し、課 題場面対処方略の正解順位を作成することであった。 参加者:高業績者として、self-report 質問紙及び GM (General Manager)研修において好成績だった管理職 88 名。 質問紙の構成:各場面の 5~6 の選択肢について「自分が採り そうな行動」の順に順位をつけさせ、各選択肢に必要なスキル・ 能力についても尋ねた。回答者には 20 場面ずつ回答を求めた。 結果:各場面の選択肢の順位決定は、1 位:5 点~5 位:1 点と し、その合計得点を算出し、それを基に Best 行動と Worst 行動及 び各選択肢の順位を決定した。その際、選択肢を全ての場面に おいて 5 つとした。削除した選択肢は、得点が僅差であるものとし た。 また場面の選定では、特定の部署に偏らないこと、スキ ルとの関連等を考慮し、最終的に 25 場面を選定した。 【実施方法】課題場面対処法質問紙を実施する際、回答者は 各場面について「自分が最も採りそうな行動」(Best 行動)と、 「自分が最も採りそうにない行動」(Worst 行動)を選択する。 【採点方法】対処方略としての行動選択が高業績者とどの程 度一致しているかを測定するために、Best 行動と Worst 行動の 選択による得点化を行なう。Best 行動に選択したものが第 3 回 予備調査の 1 位の選択肢なら 4 点、2 位なら 3 点、3 位なら 2 点、4 位なら 1 点、5 位なら 0 点を与える(この合計値を以下 Best 得点と記す)。Worst 行動に選択したものが 5 位なら 4 点、4 位なら 3 点、3 位なら 2 点、2 位なら 1 点、1 位なら 0 点を与 える(この合計値を以下 Worst 得点と記す)。1 場面について獲 得しうる得点は 0~8 点、総合得点は 0~200 点になる。 以上の手続きを経て開発された管理職適性検査 HIPAS は、 2003 年度、2004 年度、2005 年度の三洋電機(株)管理職登用 試験において試験的に実施され、その妥当性について検討さ れた。その詳細な結果については、管理職適性検査 HIPAS の 開発(2)で紹介したい。(TAKAGI Hiroto・KAWANISHI Chihiro) 【引用文献】●川西千弘(2000)、川西千弘・山内加代子(2001) 神戸親和女子大学 『研究論叢』● Motowidlo,Dunnette, & Carter(1990)JAP●Motowidlo,& Tippins(1993)JOOP